説明

光学ガラスの製造方法、プレス成形用ガラス素材、プレス成形用ガラス素材の製造方法および光学素子の製造方法

【課題】
フツリン酸ガラスからなる光学ガラスを熔融法で作製する場合に、ガラス中への白金又は白金合金異物の混入を低減することができる光学ガラスの製造方法を提供する。
【解決手段】
リン酸塩原料およびフッ化物原料を用いたフツリン酸ガラスからなる光学ガラスの製造方法であって、リン酸塩原料を、非金属製容器で熔融して、リン酸塩ガラスを得る第1の工程と、得られたリン酸塩ガラスを熔融物のまま又は該熔融物を固化した後、フッ化物原料とともに白金又は白金合金製の容器で熔融する第2の工程とを含むことを特徴とする光学ガラスの製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学ガラスの製造方法、プレス成形用ガラス素材、プレス成形用ガラス素材の製造方法および光学素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フツリン酸ガラスは、低分散のガラスとして非常に有用であり、例えば、銅イオン等を導入したフツリン酸ガラスが、近赤外線吸収ガラスとして広く用いられている。
【0003】
上記フツリン酸ガラスからなる光学ガラスの製造方法としては、リン酸塩原料およびフッ化物原料を加熱、熔解して得たガラスを熔融状態で清澄、均質化する方法が知られており(以下、熔融法という)、ガラスを多量に生産する場合に有効な方法として知られている。
【0004】
上記熔融法において、ガラス原料の熔解およびガラスの清澄、均質化処理は、超高温状態にある熔融ガラスに不純物が熔け込まないように通常耐侵食性を有する白金又は白金合金製の坩堝内で行われる。
【0005】
しかしながら、フツリン酸ガラスは極めて強い侵食性を有することから、白金又は白金合金製の坩堝を用いても、坩堝を侵食して、その構成成分をガラス中に取り込んでしまう。ガラス中に混入した白金又は白金合金は、異物として析出し、光の散乱源となって光学ガラスとしての品質を低下させてしまう(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2002−128528号公報(第2頁右欄下から4行〜第3頁左欄上から2行)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような事情のもとで、フツリン酸ガラスからなる光学ガラスを熔融法で作製する場合に、ガラス中への異物の混入を低減することができる光学ガラスの製造方法を提供することを第1の目的とし、上記方法により作製された光学ガラスからなるプレス成形用ガラス素材を提供することを第2の目的とし、上記方法により作製された光学ガラスからプレス成形用ガラス素材および光学素子をそれぞれ製造する方法を提供することを第3および第4の目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者が、リン酸塩原料およびフッ化物原料を用いて熔融法でフツリン酸ガラスを作製したときに、フツリン酸ガラス中に異物が混入するメカニズムを検討した結果、以下の(a)〜(b)の知見を得るに至った。
(a)上記リン酸塩原料が熔解してガラス化する際に、白金又は白金合金製坩堝を侵食して、白金又は白金合金をガラス中に取り込んでしまう。
(b)リン酸塩原料による侵食を防止するために、白金又は白金合金製坩堝に代えてシリカ坩堝を用いてみると、今度はフッ化物原料によりシリカ坩堝が侵食されて、坩堝からのシリカがガラス中に取り込まれてしまい、屈折率などのガラスの光学特性が所望の値から大きくずれてしまう。
【0008】
上記知見を基に、本発明者がさらに検討したところ、先ず、リン酸塩原料を、シリカ坩堝等の非金属製容器で熔融してリン酸塩ガラスを得、次いで得られたリン酸塩ガラスを熔
融物のまま又は該熔融物を固化した後、フッ化物原料とともに白金又は白金合金製の容器で熔融することにより、シリカ坩堝のフッ化物原料による侵食が防止されて、得られる光学ガラスに所望の光学特性を付与できるだけでなく、フツリン酸ガラス中への白金また白金合金の混入が低減されて、その異物としての析出量を低減することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、
(1)リン酸塩原料およびフッ化物原料を用いたフツリン酸ガラスからなる光学ガラスの製造方法であって、
リン酸塩原料を、非金属製容器で熔融して、リン酸塩ガラスを得る第1の工程と、得られたリン酸塩ガラスを熔融物のまま又は該熔融物を固化した後、フッ化物原料とともに白金又は白金合金製の容器で熔融する第2の工程とを含むことを特徴とする光学ガラスの製造方法、
(2)上記(1)に記載の方法により得られた光学ガラスからなることを特徴とするプレス成形用ガラス素材、
(3)精密プレス成形用プリフォームである上記(2)に記載のプレス成形用ガラス素材、
(4)上記(1)に記載の方法により得られた光学ガラスからなる熔融ガラスを流出させて、熔融ガラス塊を分離し、該熔融ガラス塊が冷却する過程で精密プレス成形用プリフォームに成形することを特徴とするプレス成形用ガラス素材の製造方法、
(5)上記(1)に記載の方法により得られた光学ガラスからなる熔融ガラスを鋳型に鋳込んでガラス成形体を作製した後、該ガラス成形体を機械加工することを特徴とするプレス成形用ガラス素材の製造方法、
(6)上記(3)に記載のプレス成形用ガラス素材又は上記(4)に記載の方法により得られたプレス成形用ガラス素材を精密プレス成形することを特徴とする光学素子の製造方法、
(7)上記(2)または(3)に記載のプレス成形用ガラス素材又は上記(4)または(5)に記載の方法により得られたプレス成形用ガラス素材をプレス成形して光学素子ブランクを作製し、該ブランクを研削、研磨することを特徴とする光学素子の製造方法、
(8)上記(1)に記載の方法により得られた光学ガラスからなるガラス成形体を研削、研磨する工程を含むことを特徴とする光学素子の製造方法、および
(9)上記(1)に記載の方法により得られた光学ガラスからなる熔融ガラスを流出させ、プレス成形することにより、光学素子ブランクを作製し、次いで該ブランクを研削、研磨することを特徴とする光学素子の製造方法
を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、リン酸塩原料およびフッ化物原料を用いてフツリン酸ガラスからなる光学ガラスを熔融法で作製する場合に、光学ガラスに所望の光学特性を付与できるだけでなく、ガラス中への白金又は白金合金異物の混入を低減することができる光学ガラスの製造方法を提供することができる。また本発明によれば、上記方法により作製された光学ガラスからなるプレス成形用ガラス素材を提供することができ、さらに上記方法により作製された光学ガラスからプレス成形用ガラス素材および光学素子をそれぞれ製造する方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
〔光学ガラスの製造方法〕
先ず、本発明の光学ガラスの製造方法について説明する。
本発明の光学ガラスの製造方法は、リン酸塩原料およびフッ化物原料を用いたフツリン酸ガラスからなる光学ガラスの製造方法であって、
リン酸塩原料を、非金属製容器で熔融して、リン酸塩ガラスを得る第1の工程と、得られたリン酸塩ガラスを熔融物のまま又は該熔融物を固化した後、フッ化物原料とともに白金又は白金合金製の容器で熔融する第2の工程とを含むことを特徴とする。
【0012】
本発明において、リン酸塩原料とは、ガラスの製造過程でAl(PO、Ba(PO、Ca(PO、Sr(PO等の各種金属リン酸塩を形成し得るものを意味し、上記各リン酸塩そのものや、HPO、P等と、アルカリ金属、アルカリ土類金属等の酸化物等との反応生成物を含む。また、本発明において、フッ化物原料とは、AlF、MgF、CaF、SrF等のフッ化物や、これ等フッ化物の混合物を意味する。これらのガラス原料は、得ようとするガラス組成に応じて適宜選択することができる。
【0013】
リン酸塩原料を熔融する非金属製容器としては、シリカ、アルミナ、グラファイト、炭化ケイ素、ガラス化カーボン等から選ばれる1種以上からなる容器が好ましい。
【0014】
本発明の方法において、第1の工程は、リン酸塩原料を、上記の非金属製容器中で熔融して、リン酸塩ガラスを得る工程である。熔融時の加熱温度は900〜1300℃が好ましく、900〜1200℃がより好ましい。加熱時間は、30〜240分が好ましく、60〜180分がより好ましい。また、雰囲気は非酸化性雰囲気であることが好ましく、非酸化性雰囲気としては、窒素雰囲気、アルゴン等の希ガス雰囲気、真空雰囲気等を挙げることができる。溶融時の雰囲気を非酸化性雰囲気とすることにより、耐火性の低い材料からなる容器を使用することが可能となる。
【0015】
上記リン酸塩原料の熔融は、少なくとも原料が熔解してガラス化するまで行う。さらに加熱を続けてガラスの均質化処理を行ってもよいが、後述する白金又は白金合金製の容器でもガラスの均質化処理等を行うことを考慮すると、原料がガラス化した時点で加熱処理を終了することが好ましい。
【0016】
上述したように、フッ化物原料は、非金属製容器であるシリカからなる容器を侵食するが、本発明においては、非金属製容器でリン酸塩原料のみを熔融させるため、シリカ製容器の構成成分がガラス中に取り込まれることを防止し、又は低減することが可能になる。
【0017】
本発明の方法において、第2の工程は、得られたリン酸塩ガラスを熔融物のまま又は該熔融物を固化した後、フッ化物原料とともに白金又は白金合金製の容器で熔融する工程である。
【0018】
上記第2の工程における熔融は、非金属製容器と白金又は白金合金製の容器とをパイプで接続することによって、非金属製容器で作製したリン酸塩ガラスを白金又は白金合金製の容器内にそのまま流出させたのちに、行ってもよく、非金属製容器で作製したリン酸塩ガラスを一旦冷却、固化して得られたガラス体を再加熱後、白金又は白金合金製の容器内で行ってもよい。
【0019】
容器を構成する白金合金としては、白金・ジルコニア合金、白金・金合金、白金・イリジウム合金、白金・ロジウム合金等を挙げることができる。
【0020】
第2の工程における熔融温度は800〜1200℃が好ましく、900〜1100℃がより好ましい。高温のガラスは雰囲気中の水分と反応しやすく、この反応によりガラスの品質が低下するので、熔融時の雰囲気は乾燥雰囲気とすることが好ましい。乾燥雰囲気中の水分量は露点−30℃以下相当が望ましく、ガスの種類は窒素、アルゴンなどの不活性ガスを挙げることができる。
また、熔融処理とともに攪拌処理を行って、ガラスを均質化することが好ましい。
【0021】
上述したように、リン酸塩原料は、ガラス化する際に白金又は白金合金製の容器を侵食するが、本発明においては、非金属製容器でリン酸塩原料を熔融させ、ガラス化した後に、白金又は白金合金製の容器で熔融しているため、白金又は白金合金製の容器の構成成分がガラス中に混入することを防止し、又は低減することが可能になる。
【0022】
次に、本発明の方法で得られるフツリン酸ガラスからなる光学ガラスについて説明する。
フツリン酸ガラスからなる光学ガラスの好ましい第1の態様(以下、光学ガラスIという)としては、カチオン%表示で、P5+ 5〜50%、Al3+ 0.1〜40%、Mg2+ 0〜20%、Ca2+ 0〜25%、Sr2+ 0〜30%、Ba2+ 0〜30%、Li 0〜30%、Na 0〜10%、K 0〜10%、Y3+ 0〜10%、La3+ 0〜5%、Gd3+ 0〜5%を含有する光学ガラスを挙げることができる。
【0023】
上記光学ガラスIにおいて、アニオン成分FとO2−の配分は、FとO2−の合計量に対するFの含有量のモル比F/(F+O2−)が0.25〜0.95の範囲であることが好ましい。アニオン成分の量を上記のように設定することにより、ガラスに低分散特性を付与することができる。
【0024】
上記光学ガラスIによれば、屈折率の値ndが1.40000〜1.60000、アッベ数(νd)が67以上の光学特性を実現することができる。なお、アッベ数(νd)の上限については特に限定されないが、100以下を目安にすることがガラスを安定に製造する面から好ましい。
【0025】
上記光学ガラスIにおいて、2価カチオン成分(R2+)としてCa2+、Sr2+およびBa2+のうちの2種以上を含むものが好ましい。
【0026】
また、上記光学ガラスIは、2価カチオン成分(R2+)であるMg2+、Ca2+、Sr2+およびBa2+の合計含有量が1%以上であるものが好ましく、Mg2+、Ca2+、Sr2+およびBa2+の含有量がそれぞれ1%以上であるのがより好ましい。
【0027】
以下、上記光学ガラスIの組成について詳説するが、各カチオン成分の含有割合(%)は、モル比をベースにしたカチオン%を意味し、各アニオン成分の含有割合(%)もモル比をベースにしたアニオン%を意味する。
【0028】
5+はガラスのネットワークフォーマーとして重要なカチオン成分であり、5%未満ではガラスの安定性が低下し、50%超ではP5+は酸化物原料で導入する必要があるため酸素比率が大きくなり目標とする光学特性を満たさない。したがって、その量を5%〜50%とし、より好ましくは5%〜40%とし、特に好ましくは5%〜35%とする。なお、P5+の導入にあたっては、PClを使用することは、白金を侵食しまた揮発も激しいため安定な製造の妨げになるため適当でなく、リン酸塩として導入することが好ましい。
【0029】
Al3+はフツリン酸塩ガラスの安定性を向上させる成分であり、0.1%未満では安定性が低下し、また40%超ではガラス転移温度(Tg)及び液相温度(LT)が大きく上昇するため、成形温度が上昇し成形時の表面揮発による脈理が強く生じ、均質なガラス成形体、特にプレス成形用プリフォームを得ることができなくなる。したがって、その量を0.1%〜40%とし、より好ましくは5%〜40%とし、特に好ましくは10%〜3
5%とする。
【0030】
2価カチオン成分(R2+)であるMg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+の導入はガラスの安定性の向上に寄与する。ただし、過剰の導入により、ガラスとしての安定性が低下するので、Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+を次の範囲にすることが好ましい。
【0031】
まず、Mg2+の好ましい含有量は0〜20%、より好ましくは1〜20%、さらに好ましくは5〜15%、特に好ましくは5〜10%とする。Ca2+の好ましい含有量は0〜25%、より好ましくは1〜25%、さらに好ましくは5〜20%、特に好ましくは5〜16%とする。Sr2+の好ましい含有量は0〜30%、より好ましくは1〜30%、さらに好ましくは5〜25%、特に好ましくは10〜20%とする。Ba2+の好ましい含有量は0〜30%、より好ましくは1〜30%、さらに好ましくは1〜25%、より一層好ましくは5〜25%、特に好ましくは8〜25%とする。
【0032】
Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+を、それぞれを単独で導入するよりも2種以上を導入することが好ましく、Ca2+、Sr2+およびBa2+のうちの2種以上導入することがより好ましい。2価カチオン成分(R2+)の導入効果をより高める上から、Mg2+、Ca2+、Sr2+およびBa2+の合計含有量を1%以上とすることが好ましい。またそれぞれの上限値を超えて導入すると安定性は急激に低下する。Ca2+、Sr2+は比較的多量に導入できるがMg2+、Ba2+は多量の導入は特に安定性を低下させる。しかしBa2+は低分散を保ちつつ高屈折率を実現できる成分であるため安定性を損なわない範囲で多く導入するのが好ましい。
【0033】
Liは安定性を損なわずにガラス転移温度(Tg)を下げる成分であるが、しかし、30%超ではガラスの耐久性を損ない同時に加工性も低下する。したがって、その量を0〜30%とする。好ましい範囲は0〜25%、より好ましい範囲は0〜20%である。
【0034】
ただし、精密プレス成形用途など、特にガラス転移温度をより低下させたい場合は、Liの量を2〜30%にすることが好ましく、5〜25%にすることがより好ましく、5〜20%にすることがさらに好ましい。
【0035】
Na、KはそれぞれLiと同様にガラス転移温度(Tg)を低下させる効果があるが同時に熱膨張率をLiに比べてより大きくする傾向がある。またNaF、KFは水に対する溶解度がLiFに比べて非常に大きいことから耐水性の悪化ももたらすため、Na、Kの量をそれぞれ0〜10%とする。Na、Kともに好ましい範囲は0〜5%であり、導入しないのがより好ましい。
【0036】
3+、La3+、Gd3+はガラスの安定性、耐久性を向上させ、屈折率を上昇させる効果があるが、5%超では安定性が逆に悪化し、ガラス転移温度(Tg)も大きく上昇するため、その量を0〜5%とする。好ましい範囲は0〜3%である。
【0037】
なお、高品質な光学ガラスを安定して製造する上から、P5+、Al3+、Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+、LiおよびY3+、La3+、Gd3+の合計量をカチオン%で95%超とすることが好ましく、98%超とすることがより好ましく、99%超とすることがさらに好ましく、100%とすることがより一層好ましい。
【0038】
上記光学ガラスIは、上記したカチオン成分以外にTi、Zr、Znなどのランタノイドなどをカチオン成分や、Bなどのカチオン成分を本発明の目的を損なわない範囲で含有することができる。
【0039】
アニオン成分の割合は、所望の光学特性を実現しつつ、優れた安定性を有する光学ガラスを得るために、FとO2−の合計量に対するFの含有量のモル比F/(F+O2−)を0.25〜0.95とする。
【0040】
なお、上記光学ガラスIは、精密プレス成形によって光学素子を作るためのガラスとしても、研削、研磨により光学素子を作るためのガラスとしても、優れたガラスである。
【0041】
フツリン酸ガラスからなる光学ガラスの好ましい第2の態様(以下、光学ガラスIIという)は、Cu2+を含むフツリン酸ガラスからなるものであり、このガラスは近赤外線吸収ガラスとして機能する。光学ガラスIIは、特にCCDやCMOSなどの半導体撮像素子の色補正用フィルタとして好適であり、前記用途に使用する場合は、Cu2+の含有量を0.5〜13カチオン%とすることが望ましい。
【0042】
光学ガラスIIの特に好ましい組成は、カチオン%表示で、P5+ 11〜45%、Al3+ 0〜29%、Li、NaおよびKを合計で0〜43%、Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+およびZn2+を合計で14〜50%、Cu2+ 0.5〜13%を含み、さらにアニオニック%表示で、F 17〜80%を含むものである。
【0043】
上記組成においてアニオン成分の残量はすべてO2−とすることが好ましい。
以下、上記光学ガラスIIの組成について詳説するが、上記光学ガラスIの組成の説明と同様に、各カチオン成分の含有割合(%)は、モル比をベースにしたカチオン%を意味するものであり、各アニオン成分の含有割合(%)もモル比をベースにしたアニオン%を意味するものである。
【0044】
上記組成において、P5+はフツリン酸ガラスの基本成分であり、Cu2+の赤外域の吸収をもたらす重要な成分である。P5+の含有量が11%未満では色が悪化して緑色を帯び、逆に45%を超えると耐候性、耐失透性が悪化する。したがって、P5+の含有量は11〜45%とすることが好ましく、20〜45%とすることがより好ましく、23〜40%とすることがさらに好ましい。
【0045】
Al3+はフツリン酸ガラスの耐失透性と耐熱性、耐熱衝撃性、機械的強度、化学的耐久性を向上させる成分である。ただし、29%を越えると近赤外吸収特性が悪化する。したがって、Al3+の含有量を0〜29%とすることが好ましく、1〜29%とすることがより好ましく1〜25%とすることがさらに好ましく、2〜23%とすることがより一層好ましい。
【0046】
Li、NaおよびKはガラスの熔融性、耐失透性を改善させ、可視光域の透過率を向上する成分であるが、合計量で43%を超えると、ガラスの耐久性、加工性が悪化する。したがって、Li、NaおよびKの合計含有量を0〜43%とすることが好ましく、0〜40%とすることがより好ましく、0〜36%とすることがさらに好ましい。
【0047】
アルカリ成分の中でもLiは上記作用に優れており、Liの量を15〜30%とすることがより好ましく、20〜30%とすることがさらに好ましい。
【0048】
Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+およびZn2+はガラスの耐失透性、耐久性、加工性を向上させる有用な成分であるが、過剰導入により耐失透性が低下するので、Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+およびZn2+の合計量を14〜50%にすることが好ましく、20〜40%にすることがより好ましい。
【0049】
Mg2+含有量の好ましい範囲は0.1〜10%、より好ましい範囲は1〜8%である。Ca2+含有量の好ましい範囲は0.1〜20%、より好ましい範囲は3〜15である。Sr2+含有量の好ましい範囲は0.1〜20%、より好ましい範囲は1〜15%である。Ba2+含有量の好ましい範囲は0.1〜20%、より好ましい範囲は1〜15%、さらに好ましい範囲は1〜10である。
【0050】
Cu2+は近赤外光吸収特性の担い手である。その量が0.5%未満では近赤外吸収が小さく、逆に13%を越えると耐失透性が悪化する。したがって、Cu2+の含有量は0.5〜13%が好ましく、0.5〜10%がより好ましく、0.5〜5%がさらに好ましく、1〜5%がより一層好ましい。
【0051】
は光学ガラスIIにおいてガラスの融点を下げ、耐候性を向上させる重要なアニオン成分である。光学ガラスIIはFを含有することによって、ガラスの熔融温度を下げ、Cu2+の還元を抑え、所要の光学特性を得ることができる。Fの含有量は、17%未満では耐候性が悪化し、逆に80%を越えるとO2−の含有量が減少するため1価のCuによる400nm付近の着色を生じる。従ってFの含有量を17〜80とすることが好ましい。上記特性を一層向上させる上から、Fの量を25〜55%にすることがより好ましく、30〜50%にすることがさらに好ましい。
【0052】
2−は光学ガラスIIにおいて重要なアニオン成分であり、全アニオン成分のFを除く残部全量をO2−成分で構成することが好ましい。したがって、O2−の好ましい量は上記Fの好ましい量を100%から差し引いた範囲となる。O2−が少な過ぎると2価のCu2+が還元され1価のCuとなるため短波長域、特に400nm付近の吸収が大きくなってしまい、緑色を呈するようになる。逆に過剰になるとガラスの粘度が高く、熔融温度が高くなるため透過率が悪化する。
なお、Pb、Asは有害性が強いから、使用しないことが望ましい。
【0053】
光学ガラスIIの好ましい透過率特性は、波長500〜700nmの分光透過率において透過率50%を示す波長が615nmである厚さに換算し、波長400〜1200nmの分光透過率が下記のような特性を示すものである。
【0054】
波長400nmで78%以上、好ましくは80%以上、波長500nmで85%以上、好ましくは88%以上、波長600nmで51%以上、好ましくは55%以上、波長700nmで12%以下、好ましくは11%以下、波長800nmで5%以下、好ましくは3%以下、波長900nmで5%以下、好ましくは3%以下、波長1000nmで7%以下、好ましくは6%以下、波長1100nmで12%以下、好ましくは11%以下、波長1200nmで23%以下、好ましくは22%以下である。
【0055】
即ち、波長700〜1200nmの近赤外線の吸収は大きく、波長400〜600nmの可視光線の吸収は小さい。ここで、透過率とは互いに平行かつ光学研磨した2つの平面を有するガラス試料を想定し、前記平面の一方に垂直に光を入射したとき、前記平面の他方から出射した光の強度を、前記入射光の試料入射前における強度で割った値であり、外部透過率とも呼ばれる。
【0056】
光学ガラスIIは、このような特性によりCCDやCMOSなどの半導体撮像素子の色補正を良好に行うことができる。
【0057】
〔プレス成形用ガラス素材〕
本発明のプレス成形用ガラス素材は、本発明の光学ガラスの製造方法により得られた光学ガラスからなることを特徴とするものである。
【0058】
フツリン酸ガラスからなる光学ガラスは、他の一般的な光学ガラスと比較し、磨耗度が大きく、熱膨張係数も大きいという性質を有しており、このような性質は、研磨加工にとって好ましくない。磨耗度が大きいと、加工精度が低下したり、研磨時の傷がガラス表面に残留しやすい。また、研磨は切削液をガラスにかけながら行うが、研磨によって温度上昇したガラスに切削液をかけたり、超音波洗浄時に温度上昇した洗浄液に表面に研磨による傷が存在するガラスを投入すると、ガラスが大きな温度変化に晒され、熱膨張係数が大きいフツリン酸ガラスでは熱衝撃によってガラスが破損するという問題がおきやすい。したがって、プレス成形用ガラス素材は、研磨によらない方法で製造することが望ましい。このような観点から、プレス成形用ガラス素材は、精密プレス成形用プリフォームであることが好ましい。ここで精密プレス成形用プリフォームとは、プレス成形品の重量と等しい重量のガラスを、精密プレス成形に適した形状に予め成形したものを意味する。
【0059】
精密プレス成形用プリフォームとしては、その全表面が熔融状態のガラスが固化して形成されたものであることが好ましく、プリフォームの全表面を熔融状態のガラスを固化して形成される面とすることにより、プリフォームを洗浄したり、精密プレス成形に先立って加熱する際のプリフォームの破損を防止、低減することができる。
【0060】
〔プレス成形用ガラス素材の製造方法〕
次に、プレス成形用ガラス素材の製造方法について説明する。
本発明のプレス成形用ガラス素材の製造方法における、第1の態様(以下、ガラス素材の製法Iという)は、本発明の光学ガラスの製造方法により得られた光学ガラスからなる熔融ガラスを流出させて、熔融ガラス塊を分離し、該熔融ガラス塊が冷却する過程で精密プレス成形用プリフォームに成形することを特徴とするものである。
【0061】
以下、ガラス素材の製法Iを好ましい具体例に基づいて説明する。
熔融ガラスは所定温度に加熱した白金製あるいは白金合金製のパイプから一定流量で連続して流出させる。流出した熔融ガラスからプリフォーム1個分の重量を有する熔融ガラス塊を分離する。熔融ガラス塊の分離にあたっては、切断痕が残らないように、切断刃の使用を避けることが望ましく、例えば、パイプの流出口から熔融ガラスを滴下させたり、流出する熔融ガラス流先端を支持体により支持し、目的重量の熔融ガラス塊が分離できるタイミングで支持体を急降下して熔融ガラスの表面張力を利用して熔融ガラス流先端から熔融ガラス塊を分離する方法を用いることが好ましい。
【0062】
分離した熔融ガラス塊はプリフォーム成形型の凹部上においてガラスが冷却する過程で所望形状に成形される。その際、プリフォーム表面にシワができたり、カン割れと呼ばれるガラスの冷却過程における破損を防止するため、凹部上でガラス塊に上向きの風圧を加え浮上させた状態で成形することが好ましい。その際、ガラス塊表面にガスを吹き付けて上記表面の冷却を促進することは、脈理の発生を低減、防止する上から好ましい。
【0063】
プリフォームに外力を加えても変形しない温度域にまでガラスの温度が低下してから、プリフォームをプリフォーム成形型から取り出して、徐冷する。
【0064】
なお、ガラス表面からのガラス成分の揮発を低減するため、ガラス流出およびプリフォーム成形を、乾燥雰囲気中(乾燥窒素雰囲気、乾燥空気雰囲気、窒素と酸素の乾燥混合ガス雰囲気など)で行うことが好ましい。
【0065】
ガラス素材の製法Iにおいては、高品質でかつ重量精度の高いプリフォームを作製することができ、精密プレス成形用のプリフォームの製造方法として好適である。
【0066】
本発明のプレス成形用ガラス素材の製造方法における、第2の態様(以下、ガラス素材の製法IIという)は、本発明の光学ガラスの製造方法により得られた光学ガラスからなる熔融ガラスを鋳型に鋳込んでガラス成形体を作製した後、該ガラス成形体を機械加工することを特徴とするものである。
【0067】
ガラス素材の製法IIにおける好ましい具体例としては、まず、熔融ガラスを連続してパイプから流出し、パイプ下方に配置した鋳型に流し込む。鋳型には、平坦な底部と底部を三方から囲む側壁を備え、一方の側面が開口したものを使用する。開口側面および底部を両側から挟む側壁部は互いに平行に対向し、底面の中央がパイプの鉛直下方に位置するように、また底面が水平になるように鋳型を配置、固定して鋳型内に流し込まれる熔融ガラスを側壁で囲まれた領域内に均一な厚みになるように広げ、冷却後に鋳型側面の開口部から一定の速度で水平方向にガラスを引き出す。引き出したガラス成形体はアニール炉内へと送られ、アニールされる。このようにして一定の幅と厚みを有し、表面の脈理を低減、抑制した板状ガラス成形体を得る。
【0068】
次に、板状ガラス成形体を切断あるいは割断してカットピースと呼ばれる複数のガラス片に分割し、これらガラス片を研削、研磨して目的重量のプレス成形用プリフォームに仕上げる。
【0069】
また別の好ましい具体例としては、次のようなものがある。
円柱状の貫通孔を有する鋳型を貫通孔の中心軸が鉛直方向を向くようにパイプの鉛直下方に配置、固定する。このとき、貫通孔の中心軸がパイプの鉛直下方に位置するよう鋳型を配置することが好ましい。そして、パイプから鋳型貫通孔内に熔融ガラスを一定流量で流し込んで貫通孔内にガラスを充填し、固化したガラスを貫通孔の下端開口部から一定速度で鉛直下方に引き出し、徐冷して、円柱棒状のガラス成形体を得る。このようにして得られたガラス成形体をアニールした後、円柱棒状の中心軸に対して垂直な方向から切断あるいは割断して複数のガラス片を得る。次にガラス片を研削、研磨して所望重量のプレス成形用プリフォームに仕上げる。これらの方法においても、熔融ガラスの流出、成形を前述同様、乾燥雰囲気中で行うことが好ましい。さらにこれらの方法においても、ガスを成形中のガラス表面に吹き付けて冷却を促進することが脈理の低減、防止を行う上で効果的である。
【0070】
〔光学素子の製造方法〕
次に、本発明の光学素子の製造方法について説明する。
本発明の光学素子の製造方法の第1の態様(以下、光学素子の製法Iという)は、精密プレス成形用プリフォームとしての本発明のプレス成形用ガラス素材又はガラス素材の製法Iにより得られたプレス成形用ガラス素材を精密プレス成形することを特徴とするものである。
【0071】
上記精密プレス成形はモールドオプティクス成形とも呼ばれ、当該技術分野において周知の方法である。精密プレス成形によればプレス成形型の成形面を精密にガラスに転写することにより、プレス成形によって光学機能面を形成することができ、光学機能面を仕上げるために研削や研磨などの機械加工を加える必要がない。
【0072】
したがって、本発明の光学素子の製法Iは、レンズ、レンズアレイ、回折格子、プリズムなどの光学素子の製造に好適であり、特に非球面レンズを高い生産性のもとに製造する方法として適している。
【0073】
本発明の光学素子の製法Iによれば、プリフォームを構成するガラスの転移温度(Tg)がいずれも低いために、プレス成形温度を低くすることができ、プレス成形型の成形面
へのダメージが軽減され、成形型の寿命を延ばすことができる。またプリフォームを構成するガラスが高い安定性を有するので、再加熱、プレス工程においてもガラスの失透を効果的に防止することができる。さらに、ガラスの熔解から最終製品を得る一連の工程を高い生産性のもとに行うことができる。
【0074】
精密プレス成形に使用するプレス成形型としては公知のもの、例えば炭化珪素、ジルコニア、アルミナなどの耐熱性セラミックスの型材の成形面に離型膜を設けたものを使用することができるが、中でも炭化珪素製のプレス成形型が好ましく、離型膜としては炭素含有膜などを使用することができる。耐久性、コストの面から特にカーボン膜が好ましい。
【0075】
精密プレス成形では、プレス成形型の成形面を良好な状態に保つため成形時の雰囲気を非酸化性ガスにすることが望ましい。非酸化性ガスとしては窒素、窒素と水素の混合ガスなどが好ましい。
【0076】
本発明の光学素子の製法Iにおける好ましい態様としては、プレス成形型にガラス素材を導入して両者を一緒に加熱し、精密プレス成形する態様や、予熱したプレス成形型に、別途加熱したガラス素材を導入し、精密プレス成形する態様を挙げることができる。
【0077】
精密プレス成形された光学素子はプレス成形型より取り出され、必要に応じて徐冷される。
【0078】
本発明の光学素子の製造方法の第2の態様(以下、光学素子の製法IIという)は、上述の本発明のプレス成形用ガラス素材又は上述のガラス素材の製法IIにより得られたプレス成形用ガラス素材をプレス成形して光学素子ブランクを作製し、該ブランクを研削、研磨することを特徴とするものである。
【0079】
上記ガラス素材の重量は、得ようとする光学素子1個分の重量に、研削、研磨して除去する重量を加えた重量とすることが好ましく、研削、研磨方法としては、従来公知の方法を用いることができる。
【0080】
本発明の光学素子の製造方法の第3の態様(以下、光学素子の製法IIIという)は、上述の本発明の光学ガラスの製造方法により得られた光学ガラスからなるガラス成形体を研削、研磨する工程を含むことを特徴とするものである。
【0081】
光学素子の製法IIIの具体的態様としては、例えば、熔融ガラスを流出させてガラス成形体を成形し、アニールした後に切断、研削、研磨等の機械加工を施して光学素子を製造する方法が挙げられる。例えば、上述した円柱棒状のガラス成形体を円柱軸に対して垂直方向からスライス加工し、得られた円柱状のガラスに研削、研磨加工を施して各種レンズなどの光学素子を作製することができる。
【0082】
本発明の光学素子の製造方法の第4の態様(以下、光学素子の製法IVという)は、上述の本発明の光学ガラスの製造方法により得られた光学ガラスからなる熔融ガラスを流出させ、プレス成形することにより、光学素子ブランクを作製し、次いで該ブランクを研削、研磨することを特徴とするものである。
【0083】
上記光学素子ブランクの重量は、得ようとする光学素子1個分の重量に、研削、研磨して除去する重量を加えた重量とすることが好ましく、研削、研磨方法としては、従来公知の方法を用いることができる。
【0084】
上記各製法で得られた光学素子がレンズなどである場合には、必要に応じて表面に、反
射防止膜を形成したり、近赤外光反射膜をコートしてもよい。
【実施例】
【0085】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
実施例1(光学ガラスIの製造例)
表1および表2に示すNo.1〜11の組成を有するガラスとなるように各成分に対応する原料を秤量し、十分混合した。この際、リン酸塩原料とフッ化物原料が混じり合わないように、2つの原料群に分けて調合した。
上記リン酸塩原料を含む調合原料をシリカ坩堝に入れて1200℃で攪拌しながら1時間熔解を行った後急冷、粉砕して、カレットを得た。この熔解工程ではシリカ坩堝内に窒素ガスを連続して供給し、雰囲気を非酸化性雰囲気に保った。
【0086】
次にこのカレット10kgを蓋で密閉された白金製坩堝に投入し、同時にフッ化物を含む調合原料を15kg投入して900℃に加熱し、攪拌して、熔融した。次いで、白金製坩堝中に十分な乾燥ガスを導入して乾燥雰囲気を保ちつつ1100℃、2時間かけて熔融ガラスを清澄した。乾燥ガスの種類としては、窒素などの不活性ガス、不活性ガスと酸素の混合ガス、酸素などを例示することができる。
【0087】
清澄後、ガラスの温度を清澄時の温度よりも低い850℃まで下げた後、坩堝底部に接続したパイプから熔融ガラスを流出させ、鋳型に鋳込んでガラスブロックに成形した。
なお、上記シリカ製坩堝、白金製坩堝に導入したガスはフィルターを通して清浄化したのち、外部に排出した。
【0088】
得られた各ガラスブロックに光線を入射させ、ガラス中の前記光線の光路を横から観察したところ、白金異物による光散乱はほとんど認められず、ガラスブロック内への白金異物混入を防止できることを確認した。得られた複数のガラスブロックから任意に1つ選択して、撮影した写真を図2に示す(図2におけるガラスブロックの白い斑点は、ガラス表面に付着した埃によるものである)。
【0089】
また、得られた光学ガラスNo.1〜11について、屈折率(nd)、アッべ数(νd)およびガラス転移温度(Tg)を、以下のようにして測定した。測定結果を表1〜2に示す。
【0090】
(1)屈折率(nd)およびアッべ数(νd)
徐冷降温速度を−30℃/時にして得られた光学ガラスについて測定した。
(2)ガラス転移温度(Tg)
ガラス転移温度(Tg)は理学電機株式会社の熱機械分析装置により昇温速度を4℃/分にして測定した。
【0091】
【表1】

【0092】
【表2】

実施例2(光学ガラスIIの製造例)
表3に示すNo.12〜13の組成を有するガラスとなるように各成分に対応する原料を秤量し、十分混合した。この際、リン酸塩原料とフッ化物原料が混じり合わないように
、2つの原料群に分けて調合した。
次いで、実施例1と同様の方法により、光学ガラスNo.12〜13を作製した。得られた各光学ガラスに光線を入射させ、ガラス中の前記光線の光路を横から観察したところ、白金異物による光散乱はほとんど認められず、ガラスブロック内への白金異物混入を防止できることを確認した。
【0093】
得られた光学ガラスNo.12〜13について、屈折率(nd)、アッべ数(νd)およびガラス転移温度(Tg)を、実施例1と同様にして測定し、また、代表的な波長における透過率を測定した。結果を表3に示す。
【0094】
上記透過率は、波長615nmにおいて透過率が50%になる厚みでの値である。光学ガラスNo.12では前記厚みは1.0mmであり、光学ガラスNo.13では前記厚みは0.45mmである。なお、透過率の測定は、平板形状で対向する面を互いに平行に光学研磨した試料を用いて分光光度計で測定した。
【0095】
【表3】

比較例1(光学ガラスの製造比較例)
表1および表2に示すNo.1〜11の組成を有するガラスとなるように各成分に対応する原料を秤量し、十分混合した。この際、リン酸塩原料とフッ化物原料とを分けず、両者を混合して試料を調合した。
上記各調合原料25kgを蓋で密閉された白金製坩堝に投入し、1200℃で1時間加熱して、原料を熔解した。次いで、白金製坩堝中に十分な乾燥ガスを導入して乾燥雰囲気を保ちつつ攪拌しながら900℃で1時間かけて熔融ガラスを清澄した。
清澄後、ガラスの温度を清澄時の温度よりも低い850℃まで下げた後、坩堝底部に接続したパイプから熔融ガラスを流出させ、鋳型に鋳込んでガラスブロックに成形した。
なお、白金製坩堝に導入したガスはフィルターを通して清浄化したのち、外部に排出し
た。
【0096】
得られた各光学ガラスからなるガラスブロックに光線を入射させ、ガラス中の前記光線の光路を横から観察したところ、白金異物による光散乱で光路が明瞭に観察され、ガラスブロック中に多数の白金異物が混入していることが確認された。得られた複数のガラスブロックから任意に1つ選択して、撮影した写真を図3に示す。
【0097】
実施例3 (ガラス素材の製法Iによるレンズプリフォームの製造例)
実施例1で得た、光学ガラスNo.1〜11からなる各熔融ガラスを、ガラスが失透することなく、安定した流出が可能な温度域に温度調整された白金製のパイプから一定の流量で流出させ、滴下又は支持体を用いて熔融ガラス流先端を支持した後、支持体を急降下してガラス塊を分離する方法にて目的とするプリフォームの重量の熔融ガラス塊を分離した。次いで、得られた各熔融ガラス塊をガス噴出口を底部に有する受け型に受け、ガス噴出口からガスを噴出してガラス塊を浮上しながら成形し、光学ガラスNo.1〜11からなる精密プレス成形用レンズプリフォームを作製した。プリフォームの形状は、熔融ガラスの分離間隔を調整、設定することにより、球状や扁平球状とした。得られた各プリフォームの重量は設定値に精密に一致しており、いずれも全表面が滑らかで、熔融状態のガラスが固化して形成された面となっていた。
次いでプリフォームの内部を観察したところ、いずれも脈理が認められなかった。
【0098】
実施例4(ガラス素材の製法IIによるレンズプリフォームの製造例)
実施例1で得た、光学ガラスNo.1〜11からなる各熔融ガラスを、ガラスが失透することなく、安定した流出が可能な温度域に温度調整された白金製のパイプから鋳型に一定の流量で流出させることによって鋳込み、ガラス表面に乾燥ガスを吹き付けて冷却を促進しながら板状ガラスに成形した。この場合も、板状ガラスの表面には脈理は見られなかった。アニール処理後、得られた各板状ガラスを切断して得たガラス片の表面を研削、研磨して、いずれも全表面が滑らかな精密プレス成形用レンズプリフォームを得た。
【0099】
実施例5 (光学素子の製法Iによる各種レンズの製造例)
実施例3および実施例4で得られた各プリフォームを、図1に示すプレス装置を用いて精密プレス成形して各種レンズを得た。具体的にはプリフォーム4を、上型1、下型2および胴型3からなるプレス成形型の下型2と上型1の間に設置した後、石英管11内を窒素雰囲気としてヒーター12に通電して石英管11内を加熱した。プレス成形型内部の温度を、成形されるガラスが10〜1010dPa・sの粘度を示す温度に設定し、同温度を維持しつつ、押し棒13を降下させて上型1を押して成形型内にセットされたプリフォームをプレスした。プレスの圧力は8MPa、プレス時間は30秒とした。プレスの後、プレスの圧力を解除し、プレス成形されたガラス成形品を下型2及び上型1と接触させたままの状態で前記ガラスの粘度が1012dPa・s以上になる温度まで徐冷し、次いで室温まで急冷して各種レンズを成形型から取り出した。
【0100】
なお、図1において、参照数字9は支持棒、参照数字10は下型、胴型ホルダー、参照数字14は熱電対である。また、図1に示す上型1、下型2等の成形面形状は、得られるレンズ形状に応じて適宜変更した。
【0101】
上記方法により、凹メニスカスレンズ、凸メニスカスレンズ、両凹レンズ、両凸レンズ、平凸レンズ、平凹レンズなどの各種形状のレンズを作製した。得られたレンズは、それぞれ極めて高い面精度を有するものであった。上記各種レンズには、必要に応じて反射防止膜を設けた。
【0102】
実施例6(光学素子の製法IIによる各種レンズの製造例)
実施例1で得た、光学ガラスNo.1〜11からなる各熔融ガラスを、鋳型に鋳込んで板状ガラスに成形した。得られた板状ガラスをアニールした後、賽の目状に複数のガラス片に切断し、バレル研磨して表面を粗面化するとともにガラス片を所望の重量にして、ガラス素材とした。
次に、上記ガラス素材の全面に窒化ホウ素などの粉末離型剤を塗布し、大気中で加熱、軟化するとともに、プレス成形して各種レンズ形状に近似した形状を有するレンズブランクを作製した。得られたレンズブランクをアニールした後、研削、研磨して、光学ガラスNo.1〜11からなる各種レンズを作製した。
上記方法により、凹メニスカスレンズ、凸メニスカスレンズ、両凹レンズ、両凸レンズ、平凸レンズ、平凹レンズなどの各種形状のレンズを作製した。上記各種レンズには、必要に応じて反射防止膜を設けた。
【0103】
実施例7 (光学素子の製法IIIによる各種レンズの製造例)
実施例1で得た、光学ガラスNo.1〜11からなる各熔融ガラスをパイプから連続して鋳型に流し込み、乾燥窒素雰囲気中で板状ガラスに成形し、徐冷した。次いでガラス内部を観察したところ、脈理は認められなかった。
この板状ガラスを、所要の大きさに切断し、研削、研磨して、光学ガラスNo.1〜11からなる各種レンズを作製した。
上記方法により、凹メニスカスレンズ、凸メニスカスレンズ、両凹レンズ、両凸レンズ、平凸レンズ、平凹レンズなどの各種形状のレンズを作製した。上記各種レンズには、必要に応じて反射防止膜を設けた。
【0104】
実施例8 (光学素子の製法IIIによる近赤外線吸収フィルターの製造例)
実施例2で得た、光学ガラスNo.12〜13からなる各熔融ガラスをパイプから連続して鋳型に流し込み、乾燥窒素雰囲気中でガラスブロックに成形し、徐冷した。次いでガラス内部を観察したところ、脈理は認められなかった。
上記各ガラスブロックをスライスし、表面を研削、研磨して薄板状に加工し、近赤外線吸収フィルターを作製した。
【0105】
実施例9 (光学素子の製法IVによる各種レンズの製造例)
実施例1で得た、光学ガラスNo.1〜11からなる各熔融ガラスを白金製パイプから連続して流出させて、パイプ下方に待機するプレス下型上で受け、熔融ガラス流を切断し、所要量の熔融ガラス塊を得た。熔融ガラス塊を載せた下型をパイプ下方から退避させ、下型に対向する上型を用いて上記熔融ガラス塊をプレス成形し、レンズブランクを得た。
これ等一連の工程を複数個の下型を用いることにより、順次繰り返し行い、複数のレンズブランクを得た。
各レンズブランクをアニールした後、研削、研磨して、光学ガラスNo.1〜11からなる各種レンズを得た。
上記方法により、凹メニスカスレンズ、凸メニスカスレンズ、両凹レンズ、両凸レンズ、平凸レンズ、平凹レンズなどの各種形状のレンズを作製した。上記各種レンズには、必要に応じて反射防止膜を設けた。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明によれば、フツリン酸ガラスからなる光学ガラスを熔融法で作製したときに、光学ガラスに所望の光学特性を付与できるだけでなく、ガラス中への白金又は白金合金異物の混入を低減することができる光学ガラスの製造方法を提供することができる。また本発明によれば、上記方法により作製された光学ガラスからなるプレス成形用ガラス素材を提供することができ、さらに上記方法により作製された光学ガラスからプレス成形用ガラス素材および光学素子をそれぞれ製造する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】本発明の実施例で用いた精密プレス成形装置の概略図である。
【図2】本発明の実施例で得られたガラスブロックを示す写真である。
【図3】本発明の比較例で得られたガラスブロックを示す写真である。
【符号の説明】
【0108】
1・・・上型
2・・・下型
3・・・胴型
4・・・プリフォーム
9・・・支持棒
10・・・下型、胴型ホルダー
11・・・石英管
12・・・ヒーター
13・・・押し棒
14・・・熱電対

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸塩原料およびフッ化物原料を用いたフツリン酸ガラスからなる光学ガラスの製造方法であって、
リン酸塩原料を、非金属製容器で熔融して、リン酸塩ガラスを得る第1の工程と、得られたリン酸塩ガラスを熔融物のまま又は該熔融物を固化した後、フッ化物原料とともに白金又は白金合金製の容器で熔融する第2の工程とを含むことを特徴とする光学ガラスの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法により得られた光学ガラスからなることを特徴とするプレス成形用ガラス素材。
【請求項3】
精密プレス成形用プリフォームである請求項2に記載のプレス成形用ガラス素材。
【請求項4】
請求項1に記載の方法により得られた光学ガラスからなる熔融ガラスを流出させて、熔融ガラス塊を分離し、該熔融ガラス塊が冷却する過程で精密プレス成形用プリフォームに成形することを特徴とするプレス成形用ガラス素材の製造方法。
【請求項5】
請求項1に記載の方法により得られた光学ガラスからなる熔融ガラスを鋳型に鋳込んでガラス成形体を作製した後、該ガラス成形体を機械加工することを特徴とするプレス成形用ガラス素材の製造方法。
【請求項6】
請求項3に記載のプレス成形用ガラス素材又は請求項4に記載の方法により得られたプレス成形用ガラス素材を精密プレス成形することを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項7】
請求項2または3に記載のプレス成形用ガラス素材又は請求項4または5に記載の方法により得られたプレス成形用ガラス素材をプレス成形して光学素子ブランクを作製し、該ブランクを研削、研磨することを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項8】
請求項1に記載の方法により得られた光学ガラスからなるガラス成形体を研削、研磨する工程を含むことを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項9】
請求項1に記載の方法により得られた光学ガラスからなる熔融ガラスを流出させ、プレス成形することにより、光学素子ブランクを作製し、次いで該ブランクを研削、研磨することを特徴とする光学素子の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2008−81383(P2008−81383A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−266729(P2006−266729)
【出願日】平成18年9月29日(2006.9.29)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】