説明

光学ガラス部材のマーク形成方法、マーク付き光学ガラス部材の製造方法及びマーク付き光学ガラス部材

【課題】透光性の高いガラス粒子を光学ガラス部材表面に十分に融着させてマークを形成することにより、光学ガラス部材に適切なマークを形成する。
【解決手段】光学ガラス部材のマーク形成方法であって、光学ガラス部材を用意することと、ガラス粒子及び可燃物質を含む被膜を光学ガラス部材の表面に形成することと、被膜の所定の領域にレーザ光を照射することで、ガラス粒子を光学ガラス部材の表面に融着させるとともに、可燃物質を燃焼させて被膜から消失させることを含む光学ガラス部材のマーク形成方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学ガラス部材のマーク形成方法、マーク付き光学ガラス部材の製造方法及びマーク付き光学ガラス部材に関する。
【背景技術】
【0002】
製品管理や意匠の目的で、ガラス部材上へマークを施すことがある。マークを形成する方法としては、スキャニングレーザによるダイレクトマーキングなどが広く用いられる。ここで、ダイレクトマーキングとは、マーク対象の部材の表面にレーザビームを走査して、レーザアブレーションさせることで当該部材にマークを施すことである。
【0003】
ダイレクトマーキング以外に次のようなマーク形成方法が知られている。金属粉体及び/又は無機顔料を着色源としてペースト中に混練した着色ペーストをガラス面に塗布する。着色ペーストが塗布されたガラス面を所定パターンでレーザ走査することで、ペーストが硬化したパターンを形成する。次いで、未硬化の着色ペーストを有機溶剤に溶解させて除去した後、焼成することで、焼成パターンをガラス表面上に形成させる(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−351746号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ペーストの焼付けによるマーク形成方法では、レーザによりペーストを十分に加熱してガラス部材表面に融着する必要があるので、ペーストとしてレーザ光を吸収する物質を用いる必要がある。
【0006】
ところで、光学ガラス部材にマークを形成する場合、形成されたマークによる光の散乱や反射を小さく抑える必要がある。散乱や反射が大きいと、たとえマークが光学有効径外に形成されていたとしても、フレアやゴーストなどが発生することがあるからである。
【0007】
フレアやゴースト等を抑制するためには、透光性の高いマークを形成することが考えられる。そのような透光性の高いマークを形成する方法としては、ガラス粒子をレーザにより融着させてマークを形成することが考えられる。しかし、その方法を実現するには次のような問題がある。ガラス粒子を融着させるには、ペースト中のガラス粒子にレーザ光を吸収させて溶融させる必要がある。しかし、そもそもガラスは透光性が高いので、レーザ光を十分に吸収しない。その結果、ガラス粒子の光学ガラス部材への融着は不十分となり、光学ガラス部材に適切なマークを形成できない。
【0008】
そこで、本発明の態様は、透光性の高いガラス粒子を光学ガラス部材表面に十分に融着させてマークを形成することにより、光学ガラス部材に適切なマークを形成することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の態様に従えば、光学ガラス部材のマーク形成方法であって、前記光学ガラス部材を用意することと、ガラス粒子及び可燃物質を含む被膜を前記光学ガラス部材の表面に形成することと、前記被膜の所定の領域にレーザ光を照射することで、前記ガラス粒子を前記光学ガラス部材の表面に融着させるとともに、前記可燃物質を燃焼させて前記被膜から消失させることを含む光学ガラス部材のマーク形成方法が提供される。
【0010】
本態様に従えば、レーザ光を照射することによって、被膜中に気泡を形成し得る。
【0011】
本発明の第2の態様に従えば、第1の態様の光学ガラス部材のマーク形成方法を含む光学ガラス部材の製造方法が提供される。
【0012】
本発明の第3の態様に従えば、第1の態様の光学ガラス部材のマーク形成方法によりマークが形成された光学ガラス部材、又は、第2の態様の光学ガラス部材の製造方法により製造された光学ガラス部材が提供される。
【0013】
本態様に従えば、光学ガラス部材は、その表面に、視認可能な気泡を含有するガラスからなるマークを有する光学ガラス部材であっても良い。
【発明の効果】
【0014】
本発明の第1および第2の態様によれば、被膜中に可燃物質を含むことにより、ガラス粒子の光学ガラス部材への融着が促進され、ガラスからなる良好なマーク(ガラス粒子の融着物)を光学ガラス部材上に形成することができる。本発明の第3の態様によれば、透光性の高いガラス粒子でマークが形成されるので、マークは光学ガラス部材の光学性能に影響(フレア、ゴースト等)を与えない。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第1の実施形態における光学ガラス部材のマーク形成方法を示す模式図である。
【図2】本発明の第1の実施形態における光学ガラス部材のマーク形成方法を示すフローチャートである。
【図3】本発明の第1の実施形態における気泡を含むマークを示す模式図である。
【図4】実施例2〜5で形成したマークの光学顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。
【0017】
本発明の第1の実施形態として、光学ガラス部材にマークを形成する方法、およびマーク付き光学ガラス部材の製造方法について、図1及び図2を参照しながら説明する。
【0018】
まず、図1(a)に示すように、光学ガラス部材1を用意する(ステップS1)。ガラス粒子21および後述する可燃物質22をバインダおよび溶媒からなる媒体に分散させた分散物(被膜材料)を調製する。この分散物を光学ガラス部材1上に塗布し、乾燥させることにより揮発成分を除去して、図1(b)に示すような被膜2を形成する(ステップS2)。
【0019】
次いで、図1(c)に示すように、被膜2に、レーザ光源10によりレーザ光11を所定パターンで照射し、被膜2に含まれるガラス粒子21を光学ガラス部材1に融着(溶融および固着)させる(ステップS3)。被膜2が融着した部分が、光学ガラス部材1上のマーク3となる。このとき、被膜中に含まれる可燃物質22は、レーザ光を吸収することにより、加熱され燃焼することで、被膜から消失する。この結果、形成されたマーク3には、可燃物質22は残留しない。
【0020】
マーク3を形成した後、図1(d)に示すように、水洗等により未融着の被膜2を除去する(ステップS4)。
【0021】
以上のようなステップを経て、光学ガラス部材1上にマーク3(ガラス粒子21の融着物)が形成された光学部材100(マーク3付き光学ガラス部材1)が得られる。
【0022】
[可燃物質]
本実施形態において用いる可燃物質22は、照射されたレーザ光を吸収することで加熱されて燃焼する物質であり、そのような物質は、燃焼により被膜2から消失する。尚、被膜2から消失するとは、燃焼により可燃物22が別の物質に変化、気化等して、別の物質として被膜中に残る場合も含む。被膜2に可燃物質22を含有することで、レーザ光のエネルギーを効率的に熱エネルギーに変換でき、被膜2の温度を上昇させる。その結果、ガラス粒子21の溶融が促進され、ガラス粒子21は十分な量および強度で光学ガラス部材1に融着し、マーク3を形成する。本実施形態では、可燃物質22を用いることにより、レーザ光の吸収が小さいガラス粒子を光学ガラス部材に良好に融着できる。よって、そのようなガラス粒子からなる透光性の高いマークを光学ガラス部材に形成することが可能となった。
【0023】
可燃物質22は、レーザ光の波長付近に吸収を有する必要があるので、可視光域において透明ではない場合がある。しかし、可燃物質22は、レーザ光の照射により、燃焼して消失する。よって、可燃物質22は、マーク3に残留しないので、光学ガラス部材1の光学特性に影響を与えない。可燃物質22として、例えば、カーボンブラックが挙げられる。カーボンブラックは黒色であるが、500℃程度から酸化(燃焼)して二酸化炭素となるため、レーザ光照射により消失する。よって、カーボンブラックは、マーク3内部に残留せず、光学ガラス部材1の光学特性に影響を与えない。
【0024】
可燃物質22は、意図的に分散物(被膜材料)に添加され、その結果として被膜中に含有される物質である。したがって、例えば、ガラス粒子21中に含まれる不純物は含まない。
【0025】
可燃物質22は、その燃焼温度がガラス粒子21のガラス転移温度よりも低いことが好ましい。ガラス粒子21は、ガラス転移温度以上に加熱されて光学ガラス部材1に融着する。可燃物質22の燃焼温度がガラス粒子21のガラス転移温度よりも低ければ、ガラス粒子21の融着時に、可燃物質22は確実に燃焼、消失するからである。可燃物質22の具体的な物質としては、カーボンブラック以外に、アニリンブラック、アセチレンブラック等が挙げられる。これらの物質は、黒色であるため、可視光域を含め広い波長域に渡って光吸収率が高く、レーザ光を効率良く吸収する。
【0026】
本実施形態では、可燃物質22が燃焼する燃焼反応に伴い、被膜2の内部で二酸化炭素または水(水蒸気)等の気体が発生する。図3に示すように、この気体が気泡4としてマーク3の内部に残存していても良い。気泡4は、光の散乱により可視化するのでマークの視認性を向上させることができる。残存する気泡は、視認できる程度の寸法であり、例えば、その直径は、約1〜10μmであることが、適度な視認性を与える点で好ましい。
【0027】
本発明者の実験によると、気泡4は、レーザ光11の走査速度を比較的高くすることにより被膜2内に生成し、マーク3に残存し易くなる。そして、気泡の視認性は気泡量に比例し、気泡量はレーザ光11の走査速度が高い程、増加する。レーザ光11の走査速度が低いと、ガラス粒子21が溶融している時間が長いため、その間に可燃物質22から発生した気体は被膜2の外部に排出されると考えられる。一方、レーザ光11の走査速度が高いと、ガラス粒子21が溶融している時間が短く、可燃物質22から発生した気体が被膜2の外部に放出されないうちに、ガラス粒子21が固化すると考えられる。このように、マーク3内の気泡4による視認性(気泡量)は、レーザ光11の走査速度により制御することができる。
【0028】
[ガラス粒子]
本実施形態で用いるガラス粒子21は、ガラスを粉砕して作製することができる。粒径は1μm程度であることが好ましい。また、ガラス粒子21は、その組成、ガラス転移温度および熱膨張率が光学ガラス部材1と同等又は類似していることが好ましい。組成、ガラス転移温度および熱膨張率が同等であると、互いに固着しやすいからである。
【0029】
本実施形態のガラス粒子21は、通常の透明なガラスのみならず、色ガラス、紫外線カットガラス、蛍光ガラス等であっても、光学ガラス部材1への融着を促進することができる。マークの不可視性を高める観点からは、ガラス粒子21と光学ガラス部材1との屈折率差の絶対値が、例えば、波長587.56nmにおいて0.1以下の材料を用いることが好ましい。ガラス粒子21と光学ガラス部材1との屈折率差をこのような範囲とすることで、可視波長域全体にわたって界面の反射が十分に小さくなるので、可視光下においてマークを目立たないものとすることができる。すなわち、光学部材の光学性能へのマークの影響を小さいものとすることができる。尚、マークを更に目立たないものとするためには、ガラス粒子21と光学ガラス部材1との屈折率差の絶対値を上記波長において、0.05以下(更には、0.02以下)とすることが好ましい。
【0030】
ガラス粒子21と光学ガラス部材1との屈折率差の絶対値を0.1以下にした場合、可視光の界面での反射が非常に小さくなるため、肉眼によりマーク3の存在を殆ど認識出来なくなるが、例えば、上述のマーク3の内部に気泡4を残留させる場合、気泡4によりマーク3を視認することができる。また、ガラス粒子21に紫外線カットガラス、蛍光ガラスを用いて、後述する紫外線を照射してマーク3を読出す方法を用いる場合も、肉眼(可視光域)によりマーク3が認識されなくても、マーク3の読出しには影響は無い。
【0031】
マーク3の内部に気泡4を残留させる場合、更に、ガラス粒子21は、光学ガラス部材1と同一種類のガラスから形成されることが好ましい。同一種類のガラスであれば、より視認性を有さなくなり、かつ融着しやすく、レーザ照射後の冷却の際にクラックの発生を防止することができる。
【0032】
本実施形態におけるガラス粒子21には、紫外線カットガラスを用いることができる。この場合、マーク3は紫外線照射により読取ることができ、可視光域では認識できなくても良い。その結果、可視光域での光の散乱や反射を小さく抑えられ、フレアやゴーストなどの発生を抑制することができる。ガラス粒子21に紫外線カットガラスを用いた場合、マーク3は紫外線を吸収するため、紫外線照射時にマーク部分のみが暗く認識される。したがって、マーク3を影文字のようにして読出すことができる。
【0033】
また、本実施形態におけるガラス粒子21には、蛍光ガラスを用いることができる。上述のように、マーク3は紫外線の照射により読取ることができ、可視光域では認識できなくても良い。その結果、光の散乱や反射を小さく抑えられ、フレアやゴーストなどの発生を抑制することができる。ガラス粒子21に蛍光ガラスを用いた場合、マーク3は紫外線照射により発光することで認識される。
【0034】
更に、ガラス粒子21に紫外線カットガラス又は、蛍光ガラスを用いたマーク3において、内部に気泡4を残留させることで可視域における視認性を生じさせることも可能である。可視域でマークが全く視認出来ないと不便が生じることもあるからである。
【0035】
ガラス粒子21に用いる具体的な材料としては、市販の各種光学ガラスが挙げられる。
【0036】
また、ガラス粒子21に用いる紫外線カットガラスとしては、紫外光を吸収するものであれば特に制限無く用いることができるが、その吸収端波長が365nm〜436nmであることが好ましい。このような吸収波長を有する紫外線カットガラスを用いることでマークの読出しが容易になる。また、吸収短波長が436nm以上であると、可視光を吸収するようになるため、光学部材の使用領域においてもマークが目立つようになる傾向がある。市販の紫外線カットガラスとしては、例えば、HOYA社製FF8、M−FD60などが挙げられる。
【0037】
ガラス粒子21に用いる蛍光ガラスは、430〜650nmの可視光領域の照射では蛍光を発せず、430nm以下の紫外光の照射により蛍光を発するものが好ましい。通常、光学部材は可視光領域で使用するため、この領域の光の照射で蛍光を発するものは光学部材の光学性能を低下させるからである。蛍光ガラスは、Pr、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy、Er、YbおよびSbなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を含有する蛍光ガラスから形成されることが好ましい。このような元素は、紫外線の照射により強い蛍光を発するため、マークの読出しが容易となる。市販の蛍光ガラスとしては、(株)住田光学ガラス製のルミラス−G9、ルミラス−Bなどが挙げられる。
【0038】
[分散物(被膜材料)]
分散物(被膜材料)は、上述のように、ガラス粒子21および可燃物質22を、バインダおよび溶媒を含む媒体内に分散させたものである。バインダおよび溶媒は、水で洗浄できるものが好ましい。上述の未融着の被膜2を除去する工程(図2のステップS4)を水洗浄で実施できるからである。バインダとしては、水溶性高分子である、デンプン、ゼラチン、セルロース誘導体(ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシルメチルセルロース、メチルセルロース、等)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、ポリエチレンオキシド等が挙げられる。中でも、PVA、ヒドロキシエチルセルロースは、通常700℃以上で燃焼し、消失するのでレーザ照射後に残渣として残らないため、好適である。溶媒としては、水又は、メタノール、エタノール等のアルコール類が挙げられる。溶媒に水を用いる場合、メタノール、エタノール等のアルコールを添加すると、ガラス粒子21および可燃物質22の分散性の向上および消泡の効果が得られるので好ましい。
【0039】
分散物(被膜材料)の合計重量に対する、ガラス粒子21の含有量は、70〜85重量%であることが好ましく、80〜85重量%であることが更に好ましい。可燃物質22の含有量は、5〜15重量%であることが好ましく、8〜10重量%であることが更に好ましい。バインダポリマーの含有量は、5〜15重量%であることが好ましく、8〜10重量%であることが更に好ましい。
【0040】
[塗布方法]
分散物(被膜材料)の光学ガラス部材1上への塗布方法に特に制限は無いが、例えば、エアブラシによる噴霧、筆およびスタンプなどを用いた塗布、ディップコーティング、スピンコーティングが挙げられる。また、塗布は、乾燥後の厚み、すなわち被膜の厚みが、5〜50μm、更には5〜20μmであることが好ましい。被膜の厚みが50μmより大きいと、レーザ光による融着が困難になる傾向があり、5μmより小さいと、マークが読みだしにくくなる傾向がある。
【0041】
[光学ガラス部材]
本実施形態に用いる光学ガラス部材1は、本実施形態の効果を発揮する限りにおいて如何なる光学ガラスを用いた光学素子にも適応できる。このような光学素子としては、回折格子、フレネルレンズなどの回折光学素子、フライアイレンズなどが挙げられる。
【0042】
光学ガラス部材1を形成するガラス材料としては、例えば、ホウ珪酸系ガラス、ホウ酸ランタン系ガラスおよびフッ化物リン酸系ガラスなど、光学ガラスとして市販されている材料を使用することができる。具体的には、ショット社製BK7、HOYA社製LAC8、FCD1及びFC5などが挙げられる。
【0043】
[レーザ光の照射]
被膜の溶融および固着に用いられるレーザ光としては、例えばYAGレーザ、YVOレーザ、COレーザが挙げられる。レーザを照射する波長は、YAGレーザ、YVOレーザの基本波長(1064nm)、第二高調波(532nm)、第三高調波(355nm)が好ましい。
【0044】
レーザ光の照射は、大気雰囲気又は酸素雰囲気等、酸素を含有する雰囲気で行うことが好ましい。可燃物質の燃焼を効率的に行うためである。
【0045】
尚、レーザ光11を被膜2上に照射した領域が最終的なマーク3の形状となる。レーザ光11の走査をバーコード形状、文字形状とすることにより、マーク3の形状をバーコード形状、文字形状とすることもできる。また、ドット状の文字を形成することもでき、この場合、融着ガラス部位を最小限にすることができ、スループットを向上できるので好ましい。
【0046】
本発明の第2の実施形態は、上述の第1の実施形態によりマーク3が形成された、マーク3付き光学ガラス部材1(光学部材100)である。光学部材100には、十分な量および強度で融着したガラスからなるマーク3が形成されている。ガラスからなるマーク3は、可視光域における透光性が高く、可視光域で使用されることの多い光学部材100の光学性能(フレア、ゴースト等)に影響を与えにくい。また、製造過程で用いる可燃物質22はマーク3内に残存しておらず、可燃物質22が光学部材100の光学特性に影響を与えることはない。
【0047】
本実施形態の光学部材100は、更に、ガラスからなるマーク3の中に気泡4を含有していても良い。気泡4は、可視光を散乱させ視認性を有し、それ自体がマークとして機能する。また、マーク3の位置が可視光域で視認できないと不便な場合もあり、その場合に気泡4が、マーク位置の目印として機能することもできる。
【実施例1】
【0048】
[分散物(被膜材料)の調製]
原料ガラスとして光ガラス株式会社製P−LASFH11Sを用意した。原料ガラスをジョークラッシャーにより数十ミクロン程度に粗粉砕し、更に、遊星ボールミルにより微粉砕した。遊星ボールミル条件は、ジルコニアボールは6φ、分散媒は水、回転数は自転477rpm、公転206rpm、粉砕時間は3hとした。その後、130℃で1h乾燥させ、粒径が1μm以下のガラス粒子を得た。ガラス粒子1gに、可燃物質としてカーボンブラック(東海カーボン;#8500)0.1gを加え、乳鉢により乾式混合した。この混合粉末に、バインダおよび溶媒としてのヒドロキシルエチルセルロース(HEC)0.1gを添加して、それらを混合して分散物(被膜材料)を得た。
【0049】
[光学ガラス部材上へのマークの形成]
光学ガラス部材として、ランタンフリント系光学ガラスからなる光学レンズを用意した。分散物(被膜材料)をスポンジ綿棒で光学レンズに塗布した後、自然乾燥し、厚み10μmの被膜を光学レンズ上に形成した。
【0050】
次に、大気中(酸素を含有する雰囲気)において、光学レンズ上に形成された被膜に、レーザ光を被膜に対して相対移動(走査)させることで、所定のマークパターンで照射した。レーザ光の照射により、ガラス粒子は光学レンズ上に融着し、同時にカーボンブラックは消失した。レーザ光の照射は、YVOレーザの第二高調波を光源とするレーザマーカー(ミヤチテクノス社製、ML−9001A、波長532nm)を用いて行った。マークパターンは、光学レンズの外周から1mmの位置に縦1mm×横0.5mmのT字の文字として描いた。レーザ光源は、電流15A、でCW発振させ、約50μmのスポットサイズ、0.38Wのパワーで照射した。被膜に対するレーザ光の走査速度は、1mm/sであった。
【0051】
レーザ光による走査後、被膜の一部が固着した光学レンズを水槽に入れ、超音波洗浄機で洗浄した後、純水で水洗した。洗浄後、光学レンズを乾燥させた。こうして、レーザ走査部のみに、ガラスからなるマークが形成された光学レンズを得た。
【0052】
本実施例で用いたカーボンブラックの燃焼温度は約500℃、ガラス粒子のガラス転移温度は約567℃であり、カーボンブラックの燃焼温度の方が、ガラス粒子のガラス転移温度より低かった。また、587.56nmにおける光学レンズ及びガラス粒子の屈折率は、それぞれ1.743、1.774であり、それらの屈折率差の絶対値は、0.03であった。なお、ガラス転移温度は、示差熱分析装置(DTA)を用いて昇温速度3℃/分で測定した値である。
【0053】
[マークの観察、評価]
光学レンズに形成したマークを光学顕微鏡により観察した。被膜に含有されていたガラス粒子は、光学レンズ表面に適切に融着していることが確認された。また、マークは、集光灯などの強い光を当てることで明瞭にT字を視認できた。尚、マーク内に気泡等の空隙は存在しなかった。
【0054】
形成されたマークは無色透明であり、マーク中にカーボンブラック(黒色)は観察されなかった。マーク部分のラマンスペクトル測定を行ったところ、カーボンブラック由来のピーク(1350cm−1、1600cm−1)は認められなかった。
【0055】
以上の結果から、レーザ光を被膜に照射した際、カーボンブラックがレーザ光を良く吸収するので、カーボンブラックを含む被膜は温度上昇し、ガラス粒子の融着を促進させたことがわかる。また、マーク中にカーボンブラックは、残留していないことが確認できた。
【実施例2】
【0056】
[分散物(被膜材料)の調製]
原料ガラスとしてランタンフリント系光学ガラスを用意した。原料ガラスをジョークラッシャーにより数十ミクロン程度に粗粉砕し、更に、遊星ボールミルにより微粉砕した。遊星ボールミル条件は、ジルコニアボールは6φ、分散媒は水、回転数は自転447rpm、公転206rpm、粉砕時間は3hとした。その後、130℃で1h乾燥させ、粒径が1μm以下のガラス粒子を得た。粉砕されたガラス粒子と1gと、可燃物質としてカーボンブラック(東海カーボン;#8500)0.1gを乳鉢により乾式混合した。この混合粉末にバインダとして、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)0.1gを添加し、更に混合した。
【0057】
この混合物に、溶媒として水4g、メタノール1g(和光純薬)を添加してスラリーを調製した。このスラリーを遊星ボールミルにより自転・公転2000rpmで1min撹拌することにより、スラリー中の分散質の分散性を向上させた。最後に、このスラリー中の気泡を除去するため、スラリーをろ紙で濾し、分散物(被膜材料)を得た。
【0058】
[光学ガラス部材上へのマークの形成]
光学ガラス部材として、被覆材料用原料ガラスと同一のランタンフリント系光学ガラスからなる光学レンズを用意した。調製した分散物(被膜材料)を、実施例1と同一の方法で光学レンズ上に塗布した後、乾燥させ、厚み約30μm程度の被膜を光学レンズ上に形成した。
【0059】
次に、大気中(酸素を含有する雰囲気)において、光学レンズ上に形成された被膜に、レーザ光を被膜に対して相対移動(走査)させることで、所定のマークパターンで照射した。レーザ光の照射により、ガラス粒子は光学レンズ上に融着し、同時にカーボンブラックは消失した。レーザ光の照射は、YVOレーザの第二高調波を光源とするレーザマーカー(ミヤチテクノス社製、ML−9001A、波長530nm)を用いて行った。マークパターンは、光学レンズの外周から1mmの位置に縦1mm×横0.5mmのT字の文字として描いた。レーザ光源は、電流19AでCW発振させ、約50μmのスポットサイズ、0.63Wのパワーで照射した。被膜に対するレーザ光の走査速度は、1.0mm/sであった。
【0060】
レーザ光による走査後、被膜の一部が固着した光学レンズを水槽に入れ、超音波洗浄機で洗浄した後、純水で水洗した。洗浄後、光学レンズを乾燥させた。こうして、レーザ走査部のみに、ガラスからなるマークが形成された光学レンズを得た。
【0061】
本実施例で用いたカーボンブラックの燃焼温度は約500℃、ガラス粒子のガラス転移温度は約560℃であり、カーボンブラックの燃焼温度の方が、ガラス粒子のガラス転移温度より低かった。また、587.56nmにおける光学レンズ及びガラス粒子の屈折率はどちらも1.743であった。なお、ガラス転移温度は、示差熱分析装置(DTA)を用いて昇温速度3℃/分で測定した値である。
【実施例3】
【0062】
被膜に対するレーザ光のレーザ走査速度を2.0mm/sとした以外は、実施例2と同様の方法で、ガラスからなるマークが形成された光学レンズを得た。
【実施例4】
【0063】
被膜に対するレーザ光のレーザ走査速度を5.0mm/sとした以外は、実施例2と同様の方法で、ガラスからなるマークが形成された光学レンズを得た。
【実施例5】
【0064】
被膜に対するレーザ光のレーザ走査速度を10.0mm/sとした以外は、実施例2と同様の方法で、ガラスからなるマークが形成された光学レンズを得た。
【0065】
[実施例2〜5のマークの観察、評価]
実施例2〜5において、光学レンズ上に形成したマークを光学顕微鏡で観察した。観察結果の光学顕微鏡写真を図4(a)〜(d)に示す。実施例2〜5のいずれのマークも、実施例1と同様に、ガラス粒子が光学レンズに適切に融着して、T字のマークを形成していることがわかった。
【0066】
また、実施例3〜5のマークには、気泡が形成されていることが分かった。気泡からの光の散乱、反射によってマークは一層明瞭に視認できた。また、実施例3〜5で形成されたマーク中の気泡の量は、実施例5が最も多く、続いて実施例4が多く、次に実施例3が多く、実施例1及び実施例2ではほとんど気泡が認められなかった。気泡の量が多いほど、気泡からの散乱光が増加するので、マークの視認性も実施例5が最も高く、続いて実施例4が高く、次に実施例3が高く、最も視認性が低かったのは実施例1及び実施例2であった。このことから、レーザ走査速度が速くなるに従い、気泡の量が増加し、視認性が向上することが分かる。
【0067】
更に、マークの内部には、被膜に含有されていたカーボンブラック(黒色)は観察されなかった。マーク部分のラマンスペクトル測定を行ったところ、カーボンブラック由来のピーク(1350cm−1、1600cm−1)は認められなかった。
【0068】
以上の結果から、実施例2〜5においても、レーザ光を被膜に照射した際、カーボンブラックがレーザ光を良く吸収するので、カーボンブラックを含む被膜が温度上昇し、ガラス粒子の融着を促進させたことがわかる。また、マーク中にカーボンブラックは、残留していないことが確認できた。
【0069】
更に、実施例3〜5は実施例1及び2と異なり、マーク内に気泡が形成されていた。これは、カーボンブラックがレーザ光の吸収により燃焼し、その結果発生した二酸化炭素がマーク内に気泡として残留したと考えられる。レーザ走査速度が高い程、気泡量が増加するのは、レーザ走査速度が速いとガラス粒子の溶融している時間が短く、二酸化炭素が被膜の外部に放出される前に、ガラス粒子が固化するためと考えられる。よって、レーザ走査速度をコントロールすることにより、マークの視認性を容易に制御できることがわかった。
【0070】
[比較例1]
カーボンブラックを添加しなかった以外は、実施例1と同様の方法で、ガラスからなるマークが形成された光学レンズを得た。
【0071】
[マークの観察、評価]
光学レンズ上に形成したマークを光学顕微鏡により観察した。本比較例において形成したマークは、実施例1と比較して、融着しているガラス粒子の量が少なく、明確なT字を形成していなかった。よって、本比較例のマークは、集光灯などの強い光を当てても、明瞭に視認することが出来なかった。
【0072】
以上の結果から、カーボンブラックを用いなかった本比較例は、被膜のレーザ光の吸収量が少なく、ガラス粒子の光学レンズへ融着が不十分で、十分なマークが形成できなかったと考えられる。
【実施例6】
【0073】
マークパターンを複数のドットからなるデータコードとし、更に、被膜へ照射するレーザ光をパルス化して発振・走査した以外は、実施例2と同様の方法で、ガラスからなるマークが形成された光学レンズを得た。レーザ光のパルス化は、レーザーシャッターシステムを用いて行い、シャッター開閉時間は50msであった。
【0074】
[マークの観察、評価]
光学レンズに形成したマークを光学顕微鏡により観察した。マークは、実施例2のように連続した形状ではなく、複数のドットが連なった断続的な形状であった。ガラス粒子は光学レンズに適切に融着されていた。また、マークの内部には気泡が形成されており、気泡による光の散乱、反射によって、明瞭にマークを視認できた。マークの内部には、被膜に含有されていたカーボンブラック(黒色)は観察されず、マーク部分のラマンスペクトル測定を行ったところ、カーボンブラック由来のピーク(1350cm−1、1600cm−1)は認められなかった。
【0075】
本実施例で形成したマークをデータコードリーダ(Cognex社製In−Sight5403)で読取ったこところ、データコードとして十分に読みとることが出来た。
【0076】
以上の結果から、ドット状のマークであっても実施例1〜5と同様に、レーザ光を被膜に照射した際、カーボンブラックがレーザ光を良く吸収するので、カーボンブラックを含む被膜が温度上昇し、ガラス粒子の融着を促進させたことが分かった。また、マーク中にカーボンブラックは、残留していないことが確認できた。更に、本実施例のマーク内には、気泡が形成されていた。これは、カーボンブラックがレーザ光の吸収により燃焼し、その結果発生した二酸化炭素がマーク内に気泡として残留したと考えられる。
【0077】
尚、本実施例1〜6においては、被膜にレーザを照射した後、光学レンズ(光学ガラス部材)を洗浄し、未融着の被膜を光学レンズの表面から除去しているが、条件によっては、洗浄工程は不要である。例えば、ガラスプリフォーム上の被膜をマークのパターンとして形成し、形成した被膜全てをガラスプリフォーム上に融着させる場合には、レーザを照射した後の光学レンズの洗浄は不要である。
【符号の説明】
【0078】
1 光学ガラス部材
2 被膜
3 マーク
4 気泡

10 レーザ光源
11 レーザ光

21 ガラス粒子
22 可燃物質

100 光学部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学ガラス部材のマーク形成方法であって、
前記光学ガラス部材を用意することと、
ガラス粒子及び可燃物質を含む被膜を前記光学ガラス部材の表面に形成することと、
前記被膜の所定の領域にレーザ光を照射することで、前記ガラス粒子を前記光学ガラス部材の表面に融着させるとともに、前記可燃物質を燃焼させて前記被膜から消失させることを含む光学ガラス部材のマーク形成方法。
【請求項2】
光学ガラス部材のマーク形成方法であって、
前記光学ガラス部材を用意することと、
ガラス粒子及び可燃物質を含む被膜を前記光学ガラス部材の表面に形成することと、
前記被膜の所定の領域にレーザ光を照射することで、前記ガラス粒子を前記光学ガラス部材の表面に融着させるとともに、前記可燃物質を燃焼させて、前記被膜中に気泡を形成することを含む光学ガラス部材のマーク形成方法。
【請求項3】
前記可燃物質は、その燃焼温度が、前記ガラス粒子のガラス転移温度よりも低い請求項1または2記載の光学ガラス部材のマーク形成方法。
【請求項4】
前記可燃物質が、カーボンブラックである請求項1から3のいずれか一項に記載の光学ガラス部材のマーク形成方法。
【請求項5】
波長587.56nmにおける、前記光学ガラス部材と前記ガラス粒子との屈折率差の絶対値が、0.1以下である請求項2〜4のいずれか一項に記載の光学ガラス部材のマーク形成方法。
【請求項6】
前記光学ガラス部材と前記ガラス粒子が、同一種類のガラスから形成される請求項2に記載の光学ガラス部材のマーク形成方法。
【請求項7】
前記レーザ光の照射が、酸素を含有する雰囲気内で行われる請求項1〜6のいずれか一項に記載の光学ガラス部材のマーク形成方法。
【請求項8】
前記レーザ光の照射の後に、更に、
融着していないガラス粒子を含む被膜を前記光学ガラス部材の表面から除去することを含む請求項1〜7のいずれか一項に記載の光学ガラス部材のマーク形成方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の光学ガラス部材のマーク形成方法を含む光学ガラス部材の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜8いずれか一項に記載の光学ガラス部材のマーク形成方法によりマークが形成された光学ガラス部材。
【請求項11】
請求項9に記載の製造方法により製造された光学ガラス部材。
【請求項12】
表面にガラスからなるマークが形成された光学ガラス部材であって、該マーク中に視認可能な気泡を含有する光学ガラス部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−83786(P2011−83786A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−236778(P2009−236778)
【出願日】平成21年10月14日(2009.10.14)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】