説明

光学フィルタの製造方法及びこれを用いた光学フィルタ並びに光量調整装置

【課題】本発明は光の波長の違いによって反射率が変化することがなく均一な光透過率で多段階に濃度調整することが可能な光学フィルタを簡単な方法で安価に製造することの可能な光学フィルタの製造方法及びこれを用いた光学フィルタを提供する。
【解決手段】真空蒸着室(槽)内の所定位置に蒸着素材を収納したるつぼ(素材収納部)と基材プレートとを対向配置し、基材プレートに第1のマスク板を該基材プレートとマスク板とを略々平行で所定間隔の空間を形成して第1の蒸着処理を施し、次いで上記マスク板と異なるマスキング領域を有する第2のマスク板を上記基材プレートとの間に略々平行で所定間隔の空間を形成して第2の蒸着処理を施し、上記基材プレート上に複数の厚さの異なる皮膜層を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチック材料その他の光透過性の基体プレート上に光学特性を有する皮膜を形成した光学フィルタの製造方法及びこれを用いた各種光学機器用の光学フィルタ或いは光量調整装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般にカメラ装置、プロジェクタ装置、リヤプロジェクションTVその他の光学機器に使用される光学フィルタは、機器の発光部或いは撮像管などの受光部に組み込まれ特定の波長の光をカットするフィルタとして広く知られている。そしてこの光学フィルタはプラスチック或いはガラスなどの透明プレート上に光学特性を有する皮膜を蒸着加工などで形成している。例えばカメラ装置の撮像部に組み込まれているNDフィルタ(ニュートラルデンシティフィルタ)はプラスチックシート上にクロメル膜、二酸化ケイ素膜(SiO2)を蒸着処理して皮膜を形成している。
【0003】
そこでスチールカメラ、ビデオカメラなどの撮像レンズ系に光量調整用の絞り装置を組み込んだ際に、小絞り時に光量調整羽根のハンチング現象や光の回折現象によって解像度が低下する問題があり、この現象による影響を防止する為NDフィルタを羽根先端部に設けて小絞り時にはこのフィルタを介して撮像光を取り込むようにしている。最近特にカメラ装置の高解像度化や小型化が進むに伴いフィルタ全面が一様な光透過率のフィルタでは絞り開口内にフィルタが進入する際、急激な光量の変化によって回折現象を完全に防止できない問題が生ずる。
【0004】
そこで例えば、特許文献1には光の透過率を数段階に調節することが可能なフィルタが提案されている。このフィルタは図7にその断面図を示すが階段状に薄膜を形成して撮影光路に臨ませる位置によって濃度を段階的に調節する薄膜構造を採っている。図7において透明基板100の上に透明誘電体層110をSiO2、TiO2、Nb25等の材料で形成し、この透明誘電体層110の上に光吸収体層120をTiNx、NbNx、AlNx等の低級窒化物で形成し、順次交互に積層形成している。そして光吸収体層120は階段状に厚さが異なるように形成され、図示a−aの透過率と図示b−bの透過率では後者が大きくなり、以下同様にc−c、d−d、e−eの順に透過率が大きくなるように層形成している。
【0005】
かゝる複数の透過率を薄膜形成する際に図7のものが階段状に形成しているのに対し、図8に示すように傾斜して徐々に(無段階で)層形成することが同文献に開示されている。図8において透明基板100の上に透明誘電層110、その上に光吸収体層120を形成する際にこの光吸収体層120を傾斜させて一端は厚く他端は薄くなるように層形成している。この光吸収体層120の厚さによって光の透過率が徐々に変化するグラデーションフィルタが知られている。
【特許文献1】特開2003−322709号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の光学フィルタでは次の問題が生ずる。図7に示す層断面を階段状に形成した薄膜フィルタでは厚さの異なる境界層に段差端面F1〜F4が必然的に形成され、この段差端面部で光の透過量が急激に変化するため光の回折が起こり、この回折の影響により画像が呆けることがある。また図8に示す層断面を傾斜した薄膜で形成したフィルタでは、その傾斜を持った多層膜の影響により少なくとも赤色波長領域側での分光透過率の平坦性が崩れ易く、その影響で赤みを帯びた画像となる問題があった。
【0007】
そこで本発明は光の波長の違いによって反射率が変化することがなく均一な光透過率で多段階に濃度調整することが可能であり、同時に薄膜形状によって光の干渉を起こすことのない光学フィルタを簡単な方法で安定して安価に製造することの可能な光学フィルタの製造方法及びこれを用いた光学フィルタの提供をその主な課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は上記課題を解決するために、以下の構成を採用したものである。透光性材料から成る基材プレートに光学特性を有する蒸着膜を形成する光学フィルタの製造方法であって、真空蒸着室(槽)内の所定位置に蒸着素材を収納したるつぼ(素材収納部)と基材プレートとを対向配置し、基材プレートに第1のマスク板を該基材プレートとマスク板とを略々平行で所定間隔の空間を形成して第1の蒸着処理を施し、次いで上記マスク板と異なるマスキング領域を有する第2のマスク板を上記基材プレートとの間に略々平行で所定間隔の空間を形成して第2の蒸着処理を施し、上記基材プレート上に複数の厚さの異なる皮膜層を形成する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、プラスチックシートから成る基材プレートと、板毎に順次大きさが異なる適宜な開口を有する複数枚のマスク板を用いて、真空蒸着室内の適宜位置に前記基材プレートと、この基材プレートの蒸着面に対しほぼ平行でしかも所定の間隔を隔て前記複数のマスク板の内、最も大きな開口を有するマスク板より蒸着工程毎に順次交換支持し、その基材プレート表面に真空蒸着法により蒸着膜を形成することで、その蒸着膜が基材プレート表面上に階段状に上下に積層された膜層を形成した複数の領域に分かれ、それぞれの領域は均一な光透過率を有するとともに、それぞれの領域は異なる光透過率を有し、その各領域の側端部が下層の膜層平面に掛け光透過率が順次増大変化するグラデーション領域を形成して成ることによって、多段階濃度フィルタで有りながら、その多段階濃度の領域間の一部がグラデーションフィルタとすることで、そのグラデーション部分で多少反射を受け赤みを帯びるものの、フィルタ全体として多段階濃度の均一な光透過率を得ることが出来、しかも回折現象による画像斑が生じ難い光学フィルタを提供することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、添付図面に基づいて本発明に係る光学フィルタ(NDフィルタ)及びその製造方法の実施形態を詳細に説明する。ここで、図1は基材プレート(基材プレート)に積層された蒸着膜の構造を示す断面図、図2は真空蒸着装置の概要図、図3(a)乃至図3(d)は蒸着製造工程での固定治具に対する基材プレートとマスク板との位置関係を示す斜視図である。
【0011】
まず本発明に係わる光学フィルタは図1(a)にその全体断面を、図1(b)に拡大断面を示すように、透光性材料例えばプラスチックフィルム(シート)で基材プレート(基材プレート)11を設け、この基材プレート11上に透明誘電体膜と光吸収体膜とを交互に積層状に形成し、最表面を撥水性皮膜CXでコーティングする。透明誘電体膜(以下誘電体層と云う)13は二酸化ケイ素(SiO2)などで形成し、光吸収体膜(以下光吸収体層と云う)12はNi、Cr、Tiなどの金属膜或いは金属酸化膜で形成する。図示のものはニッケル90%、クロム10%のクロメル合金で光吸収体層12を形成している。図1(b)に示すようにプラスチックシートで形成した基材プレート11にクロメル合金で光吸収体層12を、その上に二酸化ケイ素で誘電体層13を順次交互に積層構造に重ねて構成し、膜厚さt1,t2,t3で段階状に形成する。この各膜厚さt1,t2,t3は全て均一な分光特性形成され、光透過率はT1<T2<T3でT1、2及びT3の膜層が平坦な部分は均一の透過率に形成される。
【0012】
従って、複数の濃度(図示のものは3段階)で例えば図示T1部は透過率5%、T2部は20%、T3部は30%のように濃度を3段階に選択できることとなる。そして図示T1部とT2部及びT2部とT3部との境界はT1部の厚さt1から徐々に薄くしてT2部の厚さt2と一致させ、T2部とT3部の境界も同様に膜厚を徐々に減少させる。つまり階段状に均一厚さで厚さの異なる複数の膜面を形成し、境界は大きい厚さの面から隣接する小さい厚さの面に徐々に膜厚を減少させる。
【0013】
以上図1(a)に示すように、本発明の基体となる基材プレート11は、その厚さが約25〜200μmの範囲であり、好ましくは50〜100μmの範囲である。25μm以下では薄すぎて剛性が不足し、蒸着材料が脆い材料の誘電体材料を含むため、基材プレート11の屈曲によって蒸着膜が剥がれ易くなるからである。一方、200μm以上の厚さになると、濁度が増して光の散乱が多くなり、フィルタとして用いた時に光学系内でフレアの原因となるからである。
【0014】
また、本発明の注目すべき点は、基材プレート11の材料としてノルボルネン系樹脂又はノルボルネン系樹脂を含む材料を用いていることである。ノルボルネン系樹脂は、熱収縮率が極めて低い上に光学フィルタの用途に適した90%以上の光透過率と、ヘイズ値が0.5%以下の濁度を有している。さらに、ノルボルネン系樹脂は、ガラス転移温度が120℃以上であり、真空蒸着装置内での基材プレート11の加熱温度より高いので、その点でもシート表面のシワの発生を有効に防止することができる。
【0015】
しかも、ノルボルネン系樹脂又はノルボルネン系樹脂を含む材料の中でキャスティング加工によりシート状に成形された材料を基材プレート11に選ぶことで、成形時に材料自体にストレスが加えられることが無いので、例えば従来使用のPET(ポリエチレンテレフタレート)又はPEN(ポリエチレンナフタレート)材の様に引抜き加工による異方性特性を持つことが無く、複屈折を起こし難く、その結果この光学フィルタ(NDフィルタ)を用いた光量調整装置を装備した光学機器としては画像ボケや画像斑の無い鮮明な画像を捉えることが出来る。
【0016】
さらに、本発明の注目すべき点は、図1(a)に示したように、本発明の光学フィルタ(NDフィルタ;以下同様)10が、基材プレート11の表面に光吸収体層12と誘電体層13とを交互に積層し、その最上層の上に硬質のフッ化マグネシウム膜(MgF2)14、最後に蒸着層全体を撥水性皮膜CXでコーティング処理していることである。
【0017】
そして、光吸収体層12はニッケル90%、クロム10%の合金(クロメル)を蒸着材料とするもので、光吸収特性を備えた有色の蒸着膜として形成されるが、特に酸化されにくい性質を有しているので、真空蒸着工程で長時間高温にさらされる場合や、後述するように一連の蒸着工程の中で、基材プレート11を何回も外気にさらすような場合にも膜の酸化を受けにくく、光学特性に悪影響を及ぼさない。
【0018】
これらの蒸着膜は、真空蒸着法によって形成されるが、それぞれの膜厚は概ね0.5〜1.0μm程度が好ましい。光透過率は膜厚や積層数によって調整することができる。なお、前記クロメル以外にもニッケルとクロムとの合金からクロメルと同じような特性を備えた蒸着膜を形成することができる。特に、ニッケルの比率が90%以上の合金を使用することが望ましい。尚、蒸着膜を上述の真空蒸着法以外のイオンプレーティング法あるいはスパッタリング法によって形成しても良い。
【0019】
また、誘電体層13は反射防止機能を備えており、前記光吸収体層12と交互に積層されることで可視波長域での反射を確実に防止できる。また、最上面に蒸着されるフッ化マグネシウム膜14によりフィルタ表面を保護している。更に、撥水性皮膜CXは、上述したようにニッケル−クロム合金を蒸着材料として成る蒸着膜は酸化に強い材料ではあるが、過酷な環境下の中では徐々に酸化の影響を受け経時変化することがあり、このコーティング処理することによって酸化を極力抑えることが出来る。この撥水性皮膜CXは、フッ素系樹脂、シリコーン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂等の有機系樹脂化合物、若しくはそれらの樹脂成分を含む共重合体から成る有機系樹脂化合物を蒸着し形成している。
【0020】
次に上述の光学フィルタの製造方法について説明する。
本発明は基材プレート11に光吸収体層12と誘電体層13とを真空蒸着で形成する。図2に示す真空蒸着装置15は真空ポンプ16に接続された蒸着槽17を備えている。蒸着槽17の上部の空間には半球状の回転台18が設けられ、この回転台18の表面に被蒸着体19が設置される。回転台18の上方には被蒸着体19を加熱するためのヒータ20が配設されている。一方、蒸着槽17内の底面には蒸着材料が収容されたるつぼ21と、その近傍に電子銃22とが備えられている。るつぼ21の上面には4個の凹所が設けられ、これら凹所に蒸着材料であるクロメル23、二酸化ケイ素24、フッ化マグネシウム25がそれぞれ顆粒状で収容されている。
【0021】
前記回転台18に設置される被蒸着体19は、図3(a)乃至図3(d)で示すように、回転台18の表面に直接固定される平板状の固定治具26と、この固定治具26と略同じ大きさに形成された前記基材プレート11と、この基材プレート11を前記固定治具26との間で所定の適宜間隔Lを隔てられ、保持した状態で挟み込むマスク板27(27a、27b、27c、27d)とで構成される。固定治具26には対向する2箇所の隅部にボルト28が立設される。一方、基材プレート11及びマスク板27には前記ボルト28に対応した位置に位置決め用の挿通孔29,30がそれぞれ設けられている。マスク板27には一枚の基材プレート11から光学フィルタを多数個取りできるように、光学フィルタの形状に加工し得る形状の開口エリア31が縦横方向に多数設けられている。
【0022】
この固定治具26の上に基材プレート11及びマスク板27の順に載置し、ボルト28にナット(図示せず)を締め付けることでマスク板27が基材プレート11に対し所定の適宜間隔Lを隔てられ保持した状態で固定される。このように、マスク板27を基材プレート11に対し所定の適宜間隔Lを隔てられ保持した状態で固定させることで、開口エリア31の周縁での蒸着膜が外側に拡散し、この拡散によって蒸着膜の側端部以外は均一な光透過率を有するとともに、その側端部は各蒸着平面に掛け光透過率が順次減少変化するグラデーション領域を形成して成ることによって、多段階濃度フィルタで有りながら、その多段階濃度の領域間の一部がグラデーションフィルタとすることで、そのグラデーション部分で多少反射を受け赤みを帯びるものの、フィルタ全体として多段階濃度の均一な光透過率を得ることが出来、しかも回折現象による画像斑が生じ難い光学フィルタを得ることが出来る。
【0023】
以上、図1で説明した光学フィルタを真空蒸着で誘電体層13と光吸収体層12とを形成する際に、本発明は基材プレート11とマスク板27との間に所定の間隔の空間を形成して蒸着処理を行なうことを特徴とし、これを図9に基づいて説明する。
【0024】
図9(a)は通常の蒸着方法で用いられる基材プレート11とマスク板27との関係を示し、両者は完全に密着した状態である。このように基材プレート11とマスク板27が密着した状態では基材プレート上に均一な薄膜nが形成される。図7に示す従来の階段状の薄膜を形成する際には図9(a)のように基材プレートとマスク板とを密着させて製作する。
【0025】
本発明は図9(b)に示すように基材プレート11とマスク板27との間に略々平行で所定間隔Lの空間を形成する。すると光吸収体層12、誘電体層13を構成する膜材料はるつぼ21から基材プレート11に向かって分子レベルの微粒子が飛散しプレート表面に付着する。このとき所定間隔Lの空間によって略均一な厚さの膜面m1とマスキング領域の近傍では徐々に厚さが減少し、傾斜した境界膜面m2が形成される。これによって図1(b)に示すグラデーション層が形成される。
【0026】
この基材プレート11とマスク板27との間隔Lと、図1(b)に示すグラデーション領域Gとの関係を図10に示す。膜厚が300ナノメートル(300×10-9m)のとき間隔Lを0.5mmとした場合G=0.4mm、以下同様にL=1.0mmのときG=0.8mm,L=2.0mmのときG=1.3mm,L=3.0mmのときG=1.8mmのグラデーション領域が形成される。
【0027】
上記のようにして準備した被蒸着体19を前記回転台18にセットしたのち蒸着槽17内を密閉し、真空ポンプ16によって真空引きを行なう。このとき同時にヒータ20によって内部温度を上げていき、被蒸着体19の基材プレート11を約120℃に加熱制御する。蒸着槽17内部の真空度が所定のレベルに到達したら、電子銃22から発した電子ビーム32によって蒸着材料であるクロメル23と二酸化ケイ素24を交互に加熱融解して被蒸着体19に蒸着する。そして、図3(a)乃至図3(c)で示す順序でマスク板27を取替えながら蒸着を繰り返した後、図3(d)で示す様にマスク板27を取替えフッ化マグネシウム25を加熱融解して蒸着する。被蒸着体19に位置決めされた基材プレート11にはマスク板27の開口エリア31を通した領域だけに上記の蒸着材料が図1に示したような順序で積層される。最後に被蒸着体19に撥水性コーティング材CXをコーティング処理する。
【0028】
次に上述の方法で基材プレート11に蒸着膜を形成する工程を以下に詳述する。
本発明の光学フィルタはプラスチックシートの片面に薄膜を形成する場合と、両面それぞれに薄膜を形成する場合があり、順次説明する。
【0029】
[基板プレート11の片面に蒸着膜を形成する工程]
(1)蒸着槽内に装着する固定治具26に基材プレート11を固定する。固定治具26に基材プレート11を装着し、図10に示すように間隔Lを隔て第1のマスク板27aを取り付ける。このマスク板27aは開口エリア31aが最大のマスク板を使用する。この固定治具(以下被蒸着体19で総称する)を複数準備する。
(2)以下被蒸着体19を蒸着槽17の回転台18に所定数セットする。
(3)第1の蒸着膜の形成。
クロメル23を収納したるつぼ21を蒸着位置にセットして蒸着を実行し、クロメル膜(光吸収体層)12を形成する。次いで二酸化ケイ素24を収納したるつぼ21を蒸着位置にセットし蒸着処理を実行し、二酸化ケイ素膜(誘電体層)13を形成する。
被蒸着体19を蒸着槽17の回転台18から取り出した後、第2のマスク板27bを固定治具26に取り付ける。尚、この第2のマスク板27bは第2の開口エリア31bを有するマスク板を使用する。
(4)第2蒸着層の蒸着開始。
クロメル23を収納したるつぼ21を蒸着位置にセットして蒸着を実行し、クロメル膜(光吸収体層)12を形成する。次いで二酸化ケイ素24を収納したるつぼ21を蒸着位置にセットし蒸着処理を実行し、二酸化ケイ素膜(誘電体層)13を形成する。
被蒸着体19を蒸着槽17の回転台18から取り出した後、第3のマスク板27cと交換し固定治具26に取り付ける。尚、この第3のマスク板27cは第3の開口エリア31cを有するマスク板を使用する。
(5)第3蒸着層の蒸着開始。
クロメル23を収納したるつぼ21を蒸着位置にセットして蒸着を実行し、クロメル膜(光吸収体層)12を形成する。次いで二酸化ケイ素24を収納したるつぼ21を蒸着位置にセットし蒸着処理を実行し、二酸化ケイ素膜(誘電体層)13を形成する。
(6)コーティング層蒸着。
被蒸着体19を蒸着槽17の回転台18から取り出し第1のマスク板27aと交換後再度セットする。るつぼ21を移動しフッ化マグネシウム25を蒸着位置にセットして蒸着を実行し、フッ化マグネシウム膜14を形成する。次いで、るつぼ21を移動し撥水性コーティングCXを蒸着位置にセットして蒸着を実行し、撥水性被膜を形成する。
(7)被蒸着体19を蒸着槽17の回転台18から取り出す。
(8)フィルタ外形の形成。
被蒸着体19をプレス型で所定形状に内抜き加工する。
(9)絞り装置組立。
光学フィルタ10を第1絞り羽根42に貼り付け、第1絞り羽根42を第2絞り羽根43の後にベース部材40に取り付け、絞り装置39を組み立てる。このとき真空ポンプ16、ヒータ20、電子銃22の作動制御は蒸着時間等で最適な時間で起動する。
【0030】
[基板プレート11の両面に蒸着膜を形成する工程]
(1)蒸着槽内に装着する固定治具26に基材プレート11を固定する。固定治具26に基材プレート11を装着し、図10に示すように間隔Lを隔て第1のマスク板27aを取り付ける。このマスク板27aは開口エリア31aが最大のマスク板を使用する。この固定治具(以下被蒸着体19で総称する)を複数準備する。
(2)以下被蒸着体19を蒸着槽17の回転台18に所定数セットする。
(3)第1の蒸着膜の形成。
クロメル23を収納したるつぼ21を蒸着位置にセットして蒸着を実行し、クロメル膜(光吸収体層)12を形成する。次いで二酸化ケイ素24を収納したるつぼ21を蒸着位置にセットし蒸着処理を実行し、二酸化ケイ素膜(誘電体層)13を形成する。
(4)被蒸着体19を蒸着槽17の回転台18から取り出した後、基材プレート11の取付面を反転し、第2のマスク板27bと交換の後、再度固定治具26に取付ける。尚、この第2のマスク板27bは第2の開口エリア31bを有するマスク板を使用する。
(5)第2蒸着層の蒸着開始。
クロメル23を収納したるつぼ21を蒸着位置にセットして蒸着を実行し、クロメル膜(光吸収体層)12を形成する。次いで二酸化ケイ素24を収納したるつぼ21を蒸着位置にセットし蒸着処理を実行し、二酸化ケイ素膜(誘電体層)13を形成する。
(6)被蒸着体19を蒸着槽17の回転台18から取り出した後、基材プレート11の取付面を反転し、第3のマスク板27cと交換の後、再度固定治具26に取り付ける。尚、この第3のマスク板27cは第3の開口エリア31cを有するマスク板を使用する。
(7)第3蒸着層の蒸着開始。
クロメル23を収納したるつぼ21を蒸着位置にセットして蒸着を実行し、クロメル膜(光吸収体層)12を形成する。次いで二酸化ケイ素24を収納したるつぼ21を蒸着位置にセットし蒸着処理を実行し、二酸化ケイ素膜(誘電体層)13を形成する。その後基材プレート11の取付面を反転する。
(8)コーティング層蒸着。
被蒸着体19を蒸着槽17の回転台18から取り出し第1のマスク板27aと交換後再度セットする。るつぼ21を移動しフッ化マグネシウム25を蒸着位置にセットして蒸着を実行し、フッ化マグネシウム膜14を形成する。
(9)次いで、るつぼ21を移動し撥水性コーティングCXを蒸着位置にセットして蒸着を実行し、撥水性被膜を形成する。
(10)被蒸着体19を蒸着槽17の回転台18から取り出し基材プレート11の取付面を反転後、マスク板27aを再度セットする。るつぼ21を移動しフッ化マグネシウム25を蒸着位置にセットして蒸着を実行し、フッ化マグネシウム膜14を形成する。
(11)次いで、るつぼ21を移動し撥水性コーティングCXを蒸着位置にセットして蒸着を実行し、撥水性被膜を形成する。
(12)被蒸着体19を蒸着槽17の回転台18から取り出す。
(13)フィルタ外形の形成。
被蒸着体19をプレス型で所定形状に内抜き加工する。
(14)絞り装置組立。
光学フィルタ10を第1絞り羽根42に貼り付け、第1絞り羽根42を第2絞り羽根43の後にベース部材40に取り付け、絞り装置39を組み立てる。このとき真空ポンプ16、ヒータ20、電子銃22の作動制御は蒸着時間等で最適な時間で起動する。
【0031】
図4は上記のようにして得られた光学フィルタ10の光学特性を示したものであり、縦軸が光の透過率をパーセント表示で示し、横軸が光学フィルタ10の蒸着膜の断面との関係を示すグラフである。図4によれば、光の透過率がほぼ0%、30%、60%の3段階の濃度フィルタが得られると共に、各幕層の領域部分は光透過率が順次減少変化するグラデーション領域を形成している。
【0032】
図5は光透過率の異なる3つの領域を備えた光学フィルタが多数形成された基材プレート11を示したものである。図5に示したように、蒸着膜が形成された部分を図示の様にプレス加工により打ち抜くと同時に切り分け2枚の光学フィルタ10(10a、10b)が完成する。この光学フィルタ10には図4で示す様に光透過率の異なる3つの領域T1,T2,T3と基板プレート11及び各領域間の部分は光透過率が順次減少変化するグラデーション領域G1,G2,G3を形成することと成る。
【0033】
これは例えば図3(a)乃至図3(c)で示すような3種類のマスク板27a,27b,27cを使用し、しかもそれらマスク板27a,27b,27cをそれぞれ予め設定した間隔で基材プレート11から離し固定治具26に固定することで形成することで出来る。即ち、第1のマスク板27aには3つの領域T1,T2,T3に対応する開口エリア31aが設けられ、第2のマスク板27bには第2領域T2及び第3領域T1に対応する開口エリア31bが設けられ、第3のマスク板27cには第3領域T1に対応する開口エリア31cが設けられている。
【0034】
そして、第1のマスク板27aを用いた第1回目の蒸着工程で全体領域T1,T2,T3を蒸着し、第2のマスク板27bを用いた第2回目の蒸着工程で第2および第3領域T2,T1を蒸着し、第3のマスク板27cを用いた第3回目の蒸着工程で第3領域T1のみを蒸着することで、それぞれの領域の蒸着膜の積層数が異なり、結果的に光透過率が段階的に異なる複数の領域を形成することができることになる。尚、この蒸着工程に於いてマスク板27a,27b,27cをそれぞれ予め設定した間隔で基材プレート11から離すことで、その隙間の間に蒸着膜が拡散し光透過率が順次減少変化するグラデーション領域G1,G2,G3を形成する。
【0035】
上記のように、光透過率が段階的に異なる領域を有する光学フィルタを製造する場合には、上述した三種類のマスク板27a,27b,27cを蒸着工程の途中で交換する必要があり、その都度蒸着槽17を開けて被蒸着体19を外部に取り出してマスク板を交換するため外気に触れることになるが、上述したように、光吸収体層12は酸化されにくい性質を備えているので、蒸着膜は酸化作用をほとんど受けることがない。そのために、光学フィルタの光学特性にもほとんど影響を及ぼすことがなく、図4に示したのと同じような特性を示す。
【0036】
図6は、上述の光学フィルタ10が組み込まれた絞り装置の一例を示したものであり、小型のビデオカメラやデジタルカメラ等に搭載される露光調整用の絞り装置について説明する。この絞り装置は、ベース部材40、アーム41、第1絞り羽根42、第2絞り羽根43、一対のマグネット44、駆動コイルと制動コイルからなる励磁用の電導コイル45、駆動コイルと制動コイルを外部装置と電気的に接続するための電極端子46、その他マグネットの移動位置を捕らえ絞りの開口量を検知するための磁気センサ(図示せず)等で構成され、前記ベース部材40の底面中央部には露光孔47が設けられ、左右両側には前記絞り羽根42,43のスライドをガイドするガイドピン48が数箇所に設けられている。
【0037】
前記第1絞り羽根42及び第2絞り羽根43にはガイドピン48が挿入されるガイドされる長溝49と、前記露光孔47と略同一形状の絞り開口エリア50とが形成されている。そして、この絞り開口エリア50の一部と被さるように、本発明の光学フィルタ10がスライド可能に配設されている。そして、前記第1絞り羽根42及び第2絞り羽根43を互いにスライド移動させることによって露光孔47を通過する光量を調整できると共に、小絞りの際には前記光学フィルタ10を露光孔47側にスライドさせることで露光孔47の光透過率を微調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1(a)】本発明に係るNDフィルタの構造を示す断面図であり、全体断面図を示す。
【図1(b)】本発明に係るNDフィルタの構造を示す断面図であり、拡大断面図を示す。
【図2】本発明のNDフィルタを製造するための真空蒸着装置の概要図である。
【図3(a)】固定治具に対する基材プレートとマスク板との位置関係を示す斜視図である。
【図3(b)】固定治具に対する基材プレートとマスク板との位置関係を示す斜視図である。
【図3(c)】固定治具に対する基材プレートとマスク板との位置関係を示す斜視図である。
【図3(d)】固定治具に対する基材プレートとマスク板との位置関係を示す斜視図である。
【図4】本発明に係る光学フィルタの光学特性を示しグラフである。
【図5】光透過率の異なる領域を備えた光学フィルタと、この光学フィルタが多数形成された基材プレートを示す斜視図である。
【図6】本発明に係る光学フィルタを組み込んだ絞り装置の一実施例を示す斜視図である。
【図7】従来の光学フィルタの構成を示す断面図である。
【図8】図7と異なる従来の光学フィルタの構成を示す断面図である。
【図9】光学フィルタの蒸着方法を示す説明図であり、(a)は通常の基材プレートとマスク板との関係を示し、(b)は本発明に係わる基材プレートとマスク板との関係を示す。
【図10】基材プレートとマスク板との間隔Lの関係を示す説明図である。
【符号の説明】
【0039】
10 光学フィルタ(NDフィルタ)
11 基材プレート
12 光吸収体膜(光吸収体層)
13 透明誘電体膜(誘電体層)
14 フッ化マグネシウム膜
CX 撥水性皮膜
15 真空蒸着装置
17 蒸着槽
19 被蒸着体
26 固定治具
27 マスク板(27a,27b,27c,27d)
31 開口エリア

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透光性材料から成る基材プレートに光学特性を有する蒸着膜を形成する光学フィルタの製造方法であって、
真空蒸着室(槽)内の所定位置に蒸着素材を収納したるつぼ(素材収納部)と基材プレートとを対向配置し、
基材プレートに第1のマスク板を該基材プレートとマスク板とを略々平行で所定間隔の空間を形成して第1の蒸着処理を施し、次いで上記マスク板と異なるマスキング領域を有する第2のマスク板を上記基材プレートとの間に略々平行で所定間隔の空間を形成して第2の蒸着処理を施し、上記基材プレート上に複数の厚さの異なる皮膜層を形成することを特徴とする光学フィルタの製造方法。
【請求項2】
前記第1、第2の蒸着処理における基材プレートとマスク板との間に形成する略々平行で所定間隔の空間は、マスク板のマスキング領域の端縁部分に光透過率が徐々に変化するグラデーション域を形成する距離に設定されていることを特徴とする請求項1に記載の光学フィルタの製造方法。
【請求項3】
前記第1のマスク板と第2のマスク板とはそれぞれに形成するマスキング領域が前記基材プレートに段階的に光透過率の異なる複数の皮膜層を形成するように構成され、この各皮膜層は均一の厚さで均一の光透過率を有し、各皮膜層の境界は光透過率が徐々に変化するグラデーション層が形成されることを特徴とする請求項1又は2に記載の光学フィルタの製造方法。
【請求項4】
透光性材料から成る基材プレートと、
この基材プレート表面に形成された蒸着膜と、から構成され、
上記蒸着膜は段階的に光透過率の異なる複数の皮膜層で形成され、
この各皮膜層は略均一の厚さで均一の光透過率を有し、
隣接する皮膜層との境界とは光透過率が徐々に変化するグラデーション層で連ねられていることを特徴とする光学フィルタ。
【請求項5】
前記グラデーション層は、前記基材プレート表面に蒸着膜層を形成する際に基材プレートとマスク板との間に略々平行で所定間隔の空間を形成して真空蒸着処理を施すことによって形成されることを特徴とする請求項4に記載の光学フィルタ。
【請求項6】
前記基材プレートはノルボルネン系の樹脂材料がキャスティング加工でシート状に成形されてなる請求項4に記載の光学フィルタ。
【請求項7】
露出開口を有する地板と、
この地板に移動自在に支持され前記露出開口を開閉し光量を調整する光量調整手段と、
この光量調整手段と共に前記露出開口に対し進退するNDフィルタとを備えた光量調整装置において、
前記NDフィルタは、プラスチックシートから成る基材プレートと、この基材プレート表面に形成された蒸着材料とから成り、
前記蒸着材料は前記基材プレート表面上に階段状に上下に積層された膜層に形成され複数の領域に分かれ、
それぞれの領域は均一な光透過率を有するとともに、それぞれの領域は異なる光透過率を有する蒸着膜であって、
この各蒸着膜の側端面は各蒸着平面に掛け光透過率が順次減少変化するグラデーション領域を形成して成ることを特徴とする光量調整装置。

【図1(a)】
image rotate

【図1(b)】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3(a)】
image rotate

【図3(b)】
image rotate

【図3(c)】
image rotate

【図3(d)】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2006−227432(P2006−227432A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−43014(P2005−43014)
【出願日】平成17年2月18日(2005.2.18)
【出願人】(000231589)ニスカ株式会社 (568)
【Fターム(参考)】