説明

光学フィルム、その製造方法、光学フィルムを用いた偏光板、及び表示装置

【課題】添加剤等のブリードアウトの発生を防ぎ、生産性を向上させ、剥離性のばらつきによるシワ、ツレの発生や、リタデーションのばらつきなど、品質の低下を招くことのない液晶表示装置(LCD)の偏光板用保護フィルム等に利用可能な光学フィルムの提供。
【解決手段】溶融流延製膜法による光学フィルムの製造方法は、流延冷却固化ゾーンAと、延伸ゾーンBと、巻取りゾーンCとを備え、流延膜(ウェブ)10を、雰囲気温度の異なるゾーンを順次通過させる際、雰囲気温度の異なるゾーン同士の間のゾーン間移行部21のうちのいずれか1つのゾーン間移行部、またはすべてのゾーン間移行部に、紫外線照射装置11および/または常圧プラズマ装置12を設置し、ゾーン間移行部を移行するウェブに、紫外線照射および/または常圧プラズマ照射による高エネルギー処理を施す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶表示装置(LCD)に用いられる偏光板用保護フィルム、位相差フィルム、視野角拡大フィルム、プラズマディスプレイに用いられる反射防止フィルムなどの各種機能フィルム等に利用可能な光学フィルムの製造方法、光学フィルム、偏光板、及び表示装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶表示装置は、その画質の向上や高精細化技術の向上により、テレビや大型モニターに使用されるようになってきており、特に、これら液晶表示装置の大型化や、効率生産によるコストダウンなどの要望が液晶表示装置の材料にも強くなり、光学フィルムの広幅化が求められている。
【0003】
また、近年では、液晶TVの急激な伸びに対応すべく、光学フィルムの需要も急激に伸びており、生産性向上が強く求められている。
【0004】
光学フィルムの製造方法には、大別して溶融流延製膜法と溶液流延製膜法とがある。前者は、ポリマーを加熱溶融して、溶融物を支持体上に流延して冷却固化し、その後、支持体から剥離して、さらに必要に応じて延伸して、フィルムを作製する方法である。後者は、ポリマーを溶媒に溶かして、その溶液(ドープ)を支持体上に流延し、温風、温水などで溶媒を蒸発させた後、支持体から剥離し、さらに必要に応じて延伸して、フィルムを作製する方法である。
【0005】
溶液流延製膜法が大量の溶剤を使用するのに対し、溶融流延製膜法では溶媒を使用しないことから生産性の向上が期待できるが、テンターや縦延伸ロールなどによる延伸を高温条件で行う際、ウェブ表面に添加剤、例えば、可塑剤や紫外線吸収剤、リタデーション制御剤、剥離性向上剤、酸化防止剤、熱分解抑制剤など、が染み出る(ブリードアウト)という問題が起こりやすい。
【0006】
これは、溶液流延製膜法では、支持体上で乾燥されるときに、樹脂の分子鎖が配向してからみ、添加剤もそこにしっかりと固定されるが、溶融流延製膜法では、高圧となった流延ダイから、大気圧下で溶融物が支持体上に流延される際の圧開放によって、ミクロで樹脂の分子鎖が膨潤するようになって、分子鎖の絡み合いが疎な状態となり、かつ、分子鎖もランダムな状態のため、添加剤がウェブの内部で拡散しやすい状態にあると考えられる。そのため、高温な状態で、さらに延伸が加わったときに、内部から搾り出されるようにして、添加剤がブリードアウトしやすくなっているものと考えられる。
【0007】
このように、ウェブ表面に添加剤がブリードアウトすると、搬送ロールに添加剤が付着して汚染し、そこから次々と、後続のウェブに転写が広がり、斑点状のムラや凹凸となって、フィルム品質の劣化を招くという欠点がある。
【0008】
このように、搬送ロール等が汚れると、清掃のため生産を中断して、汚れの発生箇所とその下流の搬送ロールを清掃をするとともに、生産停止する前に製造した光学フィルム製品についても、どのロットから添加剤のコンデンスによる表面汚染が始まって、光学フィルムの製品として使えないレベルか、どうかを、巻きフィルムをいちいち繰り出して確認し、フィルムの表面汚染部分を切除するなどの対応が必要となり、工場稼働率を大きく低下させるため、ロールを汚さない技術の開発は非常に重要であった。
【0009】
上記の問題は、添加剤を多く含む材料において、顕著であり、特に、熱分解の影響を受けやすい樹脂では、製膜時の熱劣化を防ぐため、非常に多くの添加剤が入れられるため、この問題も大きい。
【0010】
このようなロール汚れの対応技術として、下記の特許文献1〜3には、つぎのような方法が提案されている。
【0011】
特許文献1には、樹脂被覆(ラミネート)紙の製造方法及び装置であって、特に、溶融樹脂を被覆する工程を含むラミネータ装置において、冷却ロールに付着する低分子成分を除去する冷却ロールの清掃方法が開示されており、清掃方法として、高出力のレーザー光源、あるいは、フレームバーナーの火炎を使用して、冷却ロールの表面にエネルギーを印加する方法が記載されている。
【0012】
また、特許文献2には、フィルムの製造に用いられるロール表面に紫外線を照射してロール表面の付着物を除去する方法が開示されている。
【0013】
さらに、特許文献3には、熱可塑性樹脂フィルムの製膜工程で発生するフィルム表面傷を低減するとともに、冷却ロールに付着した汚れの清掃のために、走行するフィルムが接触する冷却ロールにプラズマを照射することにより、冷却ロールに付着した有機物を除去する方法が開示されている。
【特許文献1】特開2002−240125号公報
【特許文献2】特開2003−89142号公報
【特許文献3】特開2001−62911号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、上記特許文献1〜3に記載の方法は、いずれもロールを清掃するものであり、このような従来の清掃方法によりその表面が清浄な状態となされたロールであっても、つぎに、添加剤のブリードアウトにより表面が汚染されたウェブが搬送されてくれば、添加剤がロールに付着するとともに、そのときの搬送張力でウェブがロールに押し付けられるため、添加剤のブリードアウトの模様がウェブ表面に微少な凹凸をつくって、それがウェブ表面に模様となって現れてしまうため、根本的な解決には至っていないという問題があった。
【0015】
このように、ウェブの表面に添加剤のブリードアウトが発生すると、その量が多い場合には、一目でその模様がわかって、光学フィルム製品としては使えなくなる。また、目視観察ではわからない非常に軽微なものであっても、フィルム(ウェブ)を巻取る際に、フィルムが滑りにくく、引っかかるような状態になって、巻きフィルムに部分的な変形を招いたり、巻きフィルムの保管時にも、フィルム同士の貼付きを起こしやすい。さらに、添加剤のブリードアウトなどによるフィルムのよれた部分は、汚れていないフィルム部分と比較して、リタデーション値に差が生じるとともに、ヘイズが上昇し、あるいはまたクロスニコル状態での透過率(CNT)が上昇し、それによって液晶パネルにしたときのコントラスト低下など招く。さらに、光学フィルムの表面に、反射防止層、表面硬化層などを塗布するときに、濡れ性が周辺のフィルム部分と異なることにより、ハジキ故障が発生したり、あるいは塗布層がムラになったりしやすい。
【0016】
本発明の目的は、溶融流延製膜法による光学フィルムの製造方法において、添加剤等のブリードアウトの発生を防ぎ、生産性を向上させることにある。
【0017】
また、本発明の目的は、剥離性のばらつきによるシワ、ツレの発生や、リタデーションのばらつきなど、品質の低下を招くことのない光学フィルムを製造することで、偏光板用保護フィルム等の広幅化および高品質化の要求に応えることができる光学フィルム、その製造方法、光学フィルムを用いた偏光板、及び表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、溶融流延製膜法により、熱可塑性樹脂及び添加剤を含む溶融物を、流延冷却固化ゾーンにおいて流延ダイから金属支持体上に流延して、流延膜(ウェブ)を冷却固化し、ウェブを金属支持体から剥離し、剥離されたウェブ(フィルム)を延伸ゾーンにおいて延伸した後、巻取りゾーンにおいてフィルムを巻き取る光学フィルムの製造方法において、ウェブを、雰囲気温度の異なるゾーンを順次通過させる際、流延冷却固化ゾーンと延伸ゾーンとの間、および延伸ゾーンと巻取りゾーンとの間の、ウェブが移行するゾーン間移行部のうちのいずれか1つのゾーン間移行部、またはすべてのゾーン間移行部に、高エネルギー照射処理装置を設置して、ゾーン間移行部を移行するウェブに高エネルギー照射処理を施すことを特徴としている。
【0019】
請求項2の発明は、請求項1に記載の光学フィルムの製造方法であって、延伸ゾーンにおいて、ウェブを、そのMD方向(搬送方向)もしくは幅手方向(TD方向)、またはその両方に、逐次もしくは同時に延伸し、該延伸ゾーン内の最も高い雰囲気温度が、ウェブに含まれる熱可塑性樹脂のガラス転移温度(Tg)−50℃から、Tg+80℃の範囲であることを特徴としている。
【0020】
請求項3の発明は、請求項1または2に記載の光学フィルムの製造方法であって、高エネルギー照射処理装置が、紫外線照射装置および/または常圧プラズマ照射装置であることを特徴としている。
【0021】
請求項4の発明は、請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載の光学フィルムの製造方法であって、熱可塑性樹脂が、セルロースエステル系樹脂であることを特徴としている。
【0022】
請求項5の光学フィルムの発明は、請求項1〜4のうちのいずれか一項に記載の光学フィルムの製造方法により製造されたことを特徴としている。
【0023】
請求項6の偏光板の発明は、請求項5に記載の光学フィルムを、少なくとも一方の面に有することを特徴としている。
【0024】
請求項7の表示装置の発明は、請求項6に記載の偏光板を用いることを特徴としている。
【発明の効果】
【0025】
請求項1の発明は、溶融流延製膜法により、熱可塑性樹脂及び添加剤を含む溶融物を、流延冷却固化ゾーンにおいて流延ダイから金属支持体上に流延して、流延膜(ウェブ)を冷却固化し、ウェブを金属支持体から剥離し、剥離されたウェブ(フィルム)を延伸ゾーンにおいて延伸した後、巻取りゾーンにおいてフィルムを巻き取る光学フィルムの製造方法において、ウェブを、雰囲気温度の異なるゾーンを順次通過させる際、流延冷却固化ゾーンと延伸ゾーンとの間、および延伸ゾーンと巻取りゾーンとの間の、ウェブが移行するゾーン間移行部のうちのいずれか1つのゾーン間移行部、またはすべてのゾーン間移行部に、紫外線照射装置および/または常圧プラズマ照射装置などよりなる高エネルギー照射処理装置を設置して、ゾーン間移行部を移行するウェブに、紫外線照射および/または常圧プラズマ照射などよりなる高エネルギー照射処理を施すもので、請求項1の発明によれば、ウェブの表面を積極的に改質して、添加剤のブリードアウトを防ぐことができる。また、ウェブの表面改質により、従来は、搬送ロールが滑ってしまって、ウェブに擦り傷を作ってしまうような条件、例えば、膜厚40μm以下の薄膜フィルムを搬送速度50m/min以上で製造するような条件などでも、ウェブのロール滑りを抑えることができるという効果を奏する。
【0026】
そして、本発明によれば、このようにウェブのグリップ力が高まることで、例えば、縦延伸ロールによるMD方向(搬送方向)の延伸でも、ウェブ幅手方向(TD方向)の収縮を抑えることができ、より幅の広い製品を作ることが可能になるとともに、シワやツレの発生を防ぐこともできるという効果を奏する。
【0027】
さらに、幅収縮の抑制により、従来、必要なリタデーション値を得るために、延伸ゾーンのテンターで高い延伸率で延伸せざるを得なかった位相差フィルムでは、リタデーションが、金属支持体からの剥離以降、製品になるまでのフィルムのMD方向(搬送方向)と幅手方向(TD方向)のトータルの伸縮率で決まるため、延伸ゾーンのテンター前で幅収縮したときには、その分をも補うテンターによる幅手方向の延伸が必要になるため、ウェブの破断等のトラブルが発生しやすかったが、本発明によれば、ウェブの幅収縮の抑制によって延伸ゾーンのテンターでの延伸率を下げることができ、破断のリスクも回避できる。それによって、ウェブのヘイズも下げることができ、偏光板にしたときの表示パネルのコントラストを上げることができるという効果を奏する。
【0028】
請求項2の発明は、請求項1に記載の光学フィルムの製造方法であって、延伸ゾーンにおいて、ウェブを、そのMD方向(搬送方向)もしくは幅手方向(TD方向)、またはその両方に、逐次もしくは同時に延伸し、該延伸ゾーン内の最も高い雰囲気温度が、ウェブに含まれる熱可塑性樹脂のガラス転移温度(Tg)−50℃から、Tg+80℃の範囲であるものである。請求項2の発明によれば、延伸ゾーンの前後両側、またはいずれか一側に、紫外線照射装置および/または常圧プラズマ照射装置などよりなる高エネルギー照射処理装置を設置して、ゾーン間移行部を移行するウェブに、紫外線照射および/または常圧プラズマ照射などよりなる高エネルギー照射処理を施すことによって、ウェブ表面を積極的に改質して、添加剤のブリードアウトを防ぐことができる。また、ウェブの表面改質により、ウェブのロール滑りを抑えることができるという効果を奏する。
【0029】
本発明の以上の効果によって、偏光板用保護フィルム等としての光学フィルムの薄膜化、広幅化、及び高品質化の要求に応えることができ、かつ生産性の高い光学フィルムの製造方法、該方法によって製造された高品質の光学フィルム、この光学フィルムを用いた偏光板、及び表示装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
つぎに、本発明の実施の形態を、図面を参照して説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0031】
図1は、本発明における溶液流延製膜法による光学フィルムの製造方法を実施する装置の第1実施形態を示すフローシートである。
【0032】
本発明による光学フィルムの製造方法は、溶融流延製膜法により、熱可塑性樹脂及び添加剤を含む溶融物を、流延冷却固化ゾーン(A)において流延ダイ(4)から第1冷却ロールよりなる金属支持体(5)上に流延して、流延膜(ウェブ)を冷却固化し、ウェブ(10)を金属支持体(5)から剥離し、剥離されたウェブ(フィルム)(10)を延伸ゾーン(B)において延伸した後、巻取りゾーン(C)においてフィルムを巻き取る光学フィルムの製造方法において、ウェブ(10)を、雰囲気温度の異なるゾーンを順次通過させる際、流延冷却固化ゾーン(A)と延伸ゾーン(B)との間のウェブ(10)が移行するゾーン間移行部(21)、および延伸ゾーン(B)と巻取りゾーン(C)との間の、ウェブ(10)が移行するゾーン間移行部(22)のうちのいずれか1つのゾーン間移行部、またはすべてのゾーン間移行部に、紫外線照射装置(11)および/または常圧プラズマ照射装置(12)などよりなる高エネルギー照射処理装置を設置して、ゾーン間移行部を移行するウェブ(10)に高エネルギー照射処理を施すものである。
【0033】
図1に示す第1実施形態では、流延冷却固化ゾーン(A)と延伸ゾーン(B)との間のゾーン間移行部(21)に、紫外線照射装置(11)および/または常圧プラズマ照射装置(12)よりなる高エネルギー照射処理装置を設置して、ゾーン間移行部(21)を移行するウェブ(10)に、紫外線照射および/または常圧プラズマ照射よりなる高エネルギー照射処理を施している。
【0034】
図2は、本発明における溶液流延製膜法による光学フィルムの製造方法を実施する装置の第2実施形態を示すフローシートで、この第2実施形態では、延伸ゾーン(B)と巻取りゾーン(C)との間のゾーン間移行部(22)に、紫外線照射装置(11)および/または常圧プラズマ照射装置(12)よりなる高エネルギー照射処理装置を設置して、ゾーン間移行部を移行するウェブ(10)に、紫外線照射および/または常圧プラズマ照射よりなる高エネルギー照射処理を施している。
【0035】
図3は、本発明における溶液流延製膜法による光学フィルムの製造方法を実施する装置の第3実施形態を示すフローシートで、この第3実施形態では、流延冷却固化ゾーン(A)と延伸ゾーン(B)との間、および延伸ゾーン(B)と巻取りゾーン(C)との間において、ウェブ(10)が移行するすべてのゾーン間移行部(21)(22)に、紫外線照射装置(11)および/または常圧プラズマ照射装置(12)よりなる高エネルギー照射処理装置を設置して、ゾーン間移行部を移行するウェブ(10)に、紫外線照射および/または常圧プラズマ照射よりなる高エネルギー照射処理を施している。
【0036】
ウェブ(10)が移行するゾーン間移行部(21)(22)においては、例えば図4に示すように、エキシマ紫外線照射装置(11)は、ウェブ(10)の上下両側に配置される場合と、図5に示すように、ウェブ(10)の上側にのみ配置される場合とがある。
【0037】
また、図6に示すように、常圧プラズマ照射装置(12)は、ウェブ(10)の上下両側に配置される場合と、図7に示すように、ウェブ(10)の上側にのみ配置される場合とがある。これらについては、後述する。
【0038】
本発明の光学フィルムの製造方法によれば、ウェブ(10)表面を積極的に改質して、添加剤のブリードアウトを防ぐものである。また、ウェブ(10)の表面改質により、ウェブ(10)のロール滑りを抑えることができる。また、改質とともに、ウェブ(10)から揮発した添加剤蒸気などを、二酸化炭素や水などに分解するものである。
【0039】
本実施形態においては、セルロース樹脂等の樹脂を含むフィルム材料を混合して樹脂混合物を得た後、押出し機1を用いて、流延冷却固化ゾーン(A)の流延ダイ(4)から第1冷却ロール(金属支持体)(5)上に溶融押し出し、第1冷却ロール(5)に外接させるとともに、タッチロール(6)によりフィルム状溶融物を第1冷却ロール(5)表面に所定の圧力で押圧する。さらに、第2冷却ロール(7)、及び第3冷却ロール(8)の合計3本の冷却ロールに順に外接させて冷却固化し、剥離ロール(9)によって剥離する。剥離されたウェブ(10)は、延伸ゾーン(B)のテンターによりウェブの両端部を把持して幅手方向に延伸した後、巻取りゾーン(C)において巻き取られる。
【0040】
本実施形態においては、流延冷却固化ゾーン(A)の第1冷却ロール(5)の温度を、樹脂混合物のガラス転移温度(Tg)以下、添加剤の融点以上に設定する。
【0041】
また、本実施形態の光学フィルムの製造方法においては、第1冷却ロール(5)の周速度(S1)と第2冷却ロール(7)の周速度(S2)の比(S2/S1)を、1.001〜1.05に設定する。
【0042】
タッチロール(6)は、フィルムに対して第1冷却ロール(5)の反対側より第1冷却ロール(5)の方向にフィルムを挟圧する目的の回転体である。
【0043】
タッチロール(6)の表面は金属であることが好ましく、厚みは1mmから10mmである。好ましくは2mm〜6mmである。タッチロール(6)の表面は、クロムメッキなどの処理が施されており、面粗さとしては0.2S以下が好ましい。ロール表面が平滑であるほど、得られるフィルムの表面も平滑にできる。
【0044】
タッチロール(6)の表面の金属の材質は、平滑で、適度な弾性があり、耐久性があることが求められる。炭素鋼、ステンレス、チタン、電鋳法で製造されたニッケルなどが好ましく用いることができる。さらにその表面の硬度をあげたり、樹脂との剥離性を改良するため、ハードクロムメッキや、ニッケルメッキ、非晶質クロムメッキなどや、セラミック溶射等の表面処理を施すことが好ましい。表面加工した表面はさらに研磨し、上述した表面粗さとすることが好ましい。
【0045】
タッチロール(6)は、金属製外筒と内筒との2重構造になっており、その間に冷却流体を流せるように空間を有する二重筒の構成である。
【0046】
内筒は、炭素鋼、ステンレス、アルミニウム、チタンなどの軽量で剛性のある金属製内筒であることが好ましい。内筒に剛性をもたせることで、ロールの回転ぶれを抑えることができる。内筒の肉厚は、外筒の2〜10倍とすることで十分な剛性が得られる。内筒にはさらにシリコーン、フッ素ゴムなどの樹脂製弾性材料が被覆されていてもよい。
【0047】
冷却流体を流す空間の構造は、ロール表面の温度を均一に制御できるものであればよく、例えば幅手方向に行きと戻りが交互に流れるようにしたり、スパイラル状に流れるようにすることでロール表面の温度分布の小さい温度制御ができる。冷却流体は、特に制限はなく、使用する温度域に合わせて、水やオイルを使用できる。
【0048】
本実施形態において、第2回転体であるタッチロール(6)は、中央部の外径が両端部の外径よりも大きい太鼓型に設定される。タッチロールは、その両端部を加圧手段でフィルムに押圧するのが一般的であるが、この場合、タッチロールが撓むため、端部にいくほど強く押圧されてしまう現象がある。ロールを太鼓型にすることで高度に均一な押圧が可能となる。
【0049】
第2回転体であるタッチロール(6)の直径は、200mmから500mmの範囲であることが好ましい。タッチロール(6)の有効幅は、挟圧するフィルム幅よりも広い必要がある。タッチロール(6)の中央部の半径と端部の半径との差(以下、クラウニング量と呼ぶ)により、フィルムの中央部に発生するスジなどのむらを防止することができる。クラウニング量は、50〜300μmの範囲が好ましい。
【0050】
第1冷却ロール(5)とタッチロール(6)とは、フィルムを挟圧するように、フィルムの平面に対して反対側の位置に設置する。第1冷却ロール(5)とタッチロール(6)とは、フィルムと面で接触しても、線で接触してもかまわない。
【0051】
本実施形態による光学フィルムの製造方法において、溶融押し出しの条件は、他のポリエステルなどの熱可塑性樹脂に用いられる条件と同様にして行なうことができる。材料は予め乾燥させておくことが好ましい。真空または減圧乾燥機や除湿熱風乾燥機などで水分を1000ppm以下、好ましくは200ppm以下に乾燥させることが望ましい。
【0052】
図1に示すように、例えば熱風や真空または減圧下で乾燥したセルロースエステル系樹脂を押出し機(1)を用いて、押し出し温度200〜300℃程度で溶融し、リーフディスクタイプのフィルター(2)などで濾過し、異物を除去する。なお、供給ホッパー(図示略)から押出し機(1)へ導入する際は、真空下または減圧下や不活性ガス雰囲気下にして、酸化分解等を防止することが好ましい。
【0053】
可塑剤などの添加剤を予め混合しない場合は、押出し機の途中で練り込んでもよい。均一に添加するために、スタチックミキサー(3)などの混合装置を用いることが好ましい。
【0054】
セルロース樹脂等の樹脂と、その他必要により添加される安定化剤等の添加剤は、溶融する前に混合しておくことが好ましい。混合は、混合機等により行なってもよく、また、前記したようにセルロース樹脂等の樹脂調製過程において混合してもよい。混合機を使用する場合は、V型混合機、円錐スクリュー型混合機、水平円筒型混合機等、一般的な混合機を用いることができる。
【0055】
上記のようにフィルム構成材料を混合した後に、その混合物を押出し機1を用いて直接溶融して製膜するようにしてもよいが、一旦、フィルム構成材料をペレット化した後、該ペレットを押出し機1で溶融して製膜するようにしてもよい。また、フィルム構成材料が、融点の異なる複数の材料を含む場合には、融点の低い材料のみが溶融する温度で一旦、いわゆるおこし状の半溶融物を作製し、半溶融物を押出し機1に投入して製膜することも可能である。フィルム構成材料に熱分解しやすい材料が含まれる場合には、溶融回数を減らす目的で、ペレットを作製せずに直接製膜する方法や、上記のようなおこし状の半溶融物を作ってから製膜する方法が好ましい。
【0056】
押出し機(1)は、市場で入手可能な種々の押出し機を使用可能であるが、溶融混練押出し機が好ましく、単軸押出し機でも2軸押出し機でも良い。フィルム構成材料からペレットを作製せずに、直接製膜を行なう場合、適当な混練度が必要であるため2軸押出し機を用いることが好ましいが、単軸押出し機でも、スクリューの形状をマドック型、ユニメルト型、ダルメージ等の混練型のスクリューに変更することにより、適度の混練が得られるので、使用可能である。フィルム構成材料として、一旦、ペレットやおこし状の半溶融物を使用する場合は、単軸押出し機でも2軸押出し機でも使用可能である。
【0057】
押出し機(1)内および押し出した後の冷却工程は、窒素ガス等の不活性ガスで置換するか、あるいは減圧することにより、酸素の濃度を下げることが好ましい。
【0058】
押出し機(1)内のフィルム構成材料の溶融温度は、フィルム構成材料の粘度や吐出量、製造するシートの厚み等によって好ましい条件が異なるが、一般的には、フィルム(樹脂混合物)のガラス転移温度Tgに対して、Tg以上、Tg+100℃以下、好ましくはTg+10℃以上、Tg+90℃以下である。
【0059】
押出し時の溶融粘度は、10〜100000ポイズ、好ましくは100〜10000ポイズである。また、押出し機(1)内でのフィルム構成材料の滞留時間は短い方が好ましく、5分以内、好ましくは3分以内、より好ましくは2分以内である。滞留時間は、押出し機(1)の種類、押し出す条件にも左右されるが、材料の供給量やL/D、スクリュー回転数、スクリューの溝の深さ等を調整することにより短縮することが可能である。
【0060】
押出し機(1)のスクリューの形状や回転数等は、フィルム構成材料の粘度や吐出量等により適宜選択される。本実施形態において押出し機(1)でのせん断速度は、1/秒〜10000/秒、好ましくは5/秒〜1000/秒、より好ましくは10/秒〜100/秒である。押出し機(1)としては、一般的にプラスチック成形機として市販されている押出し機を使用することができる。
【0061】
押出し機(1)から押し出されたフィルム構成材料は、流延ダイ(4)に送られ、流延ダイ(4)からフィルム状に押し出される。
【0062】
押出し機(1)から吐出される溶融物は、流延ダイ(4)に供給される。流延ダイ(4)はシートやフィルムを製造するために用いられるものであれば特に限定はされない。流延ダイ(4)の材質としては、ハードクロム、炭化クロム、窒化クロム、炭化チタン、炭窒化チタン、窒化チタン、超鋼、セラミック(タングステンカーバイド、酸化アルミ、酸化クロム)などを溶射もしくはメッキし、表面加工としてバフ、#1000番手以降の砥石を用いるラッピング、#1000番手以上のダイヤモンド砥石を用いる平面切削(切削方向は樹脂の流れ方向に垂直な方向)、電解研磨、電解複合研磨などの加工を施したものなどがあげられる。
【0063】
流延ダイ(4)のリップ部の好ましい材質は、流延ダイ(4)と同様である。またリップ部の表面精度は0.5S以下が好ましく、0.2S以下がより好ましい。
【0064】
本実施形態においては、溶融させた樹脂混合物を押し出し機にとりつけた流延ダイ(4)からフィルム状樹脂に押し出し、押し出されたフィルム状樹脂を少なくとも2つの回転体に密着させて成形して引き取る工程を有する。
【0065】
本発明による光学フィルムは、上記の光学フィルムの製造方法で製造されたものであり、フィルムの厚みは、30〜200μmが好ましい。
【0066】
タッチロール(6)は押圧手段により、フィルムを第1冷却ロール(5)に押し付けることが好ましい。このときのタッチロール(6)がフィルムを押し付ける線圧は、油圧ピストン等によって調整でき、好ましくは0.1〜100N/mm、より好ましくは1〜50N/mmである。
【0067】
また第1冷却ロール(5)、もしくはタッチロール(6)はフィルムとの接着の均一性を高めるためにロールの両端の直径を細くしたり、フレキシブルなロール面を持たせることもできる。
【0068】
流延ダイ(4)の開口部(リップ)から第1冷却ロール(5)までの部分を70kPa以下に減圧させると、上記のダイラインの矯正効果がより大きく発現する。好ましくは減圧は50kPa以上70kPa以下である。流延ダイ(4)のリップから第1冷却ロール(5)までの部分の圧力を70kPa以下に保つ方法としては、特に制限はないが、流延ダイ(4)からロール周辺を耐圧部材で覆い、減圧するなどの方法がある。このとき、吸引装置は、装置自体が昇華物の付着場所にならないようヒーターで加熱するなどの処置を施すことが好ましい。吸引圧が小さすぎると昇華物を効果的に吸引できないため、適当な吸引圧とする必要がある。
【0069】
本実施形態において、Tダイ(4)から溶融状態のフィルム状のセルロースエステル系樹脂を、第1冷却ロール(5)、第2冷却ロール(7)、及び第3冷却ロール(8)に順次密着させて搬送しながら冷却固化させ、セルロースエステル系樹脂のウェブ(10)を得る。
【0070】
図1に示す本発明の実施形態では、第3冷却ロール(8)から剥離ロール9によって剥離した冷却固化されたウェブ(10)は、延伸ゾーン(B)で延伸する。この延伸により、フィルム中の分子が配向される。
【0071】
流延ダイ4から押し出されたフィルム(樹脂混合物)を冷却する装置は、ロールに限定されるものではなく、ドラムやベルトなどでもよい。
【0072】
前述の冷却ロールから剥離されたフィルムは、延伸ゾーン(B)で、1つまたは複数のロール群及び/又は赤外線ヒーター等の加熱装置を介して長手方向に一段または多段縦延伸することが好ましい。このとき、本発明のフィルムのガラス転移温度をTgとすると、Tg−50℃からTg+80℃の範囲で加熱して搬送方向に延伸することが好ましい。
【0073】
つぎに、搬送方向に延伸されたフィルムを、Tg−50℃からTg+80℃の温度範囲内で横延伸し、次いで熱固定することが好ましい。
【0074】
延伸ゾーン(B)は横延伸でもよく、その場合、2つ以上に分割された延伸領域で温度差を1〜50℃の範囲で順次昇温しながら横延伸すると幅方向の厚さ及び光学的な分布が低減でき好ましい。
【0075】
フィルム構成材料によってTgが異なるが、Tgはフィルムを構成する材料種及び構成する材料の比率を異ならしめることにより制御できる。光学フィルムとして位相差フィルムを作製する場合、Tgは120℃以上、好ましくは135℃以上とすることが好ましい。液晶表示装置においては、画像の表示状態において、装置自身の温度上昇、例えば光源由来の温度上昇によって該フィルムの温度環境が変化する。このとき該フィルムの使用環境温度よりも該フィルムのTgが低いと、延伸によってフィルム内部に固定された分子の配向状態に由来するリタデーション値及びフィルムとしての寸法形状に大きな変化を与えることとなる。該フィルムのTgが高過ぎると、フィルム構成材料をフィルム化するとき温度が高くなるために加熱するエネルギー消費が高くなり、またフィルム化するときの材料自身の分解、それによる着色が生じることがあり、従って、Tgは250℃以下が好ましい。
【0076】
また延伸工程には公知の熱固定処理、冷却、緩和処理を行なってもよく、目的とする光学フィルムに要求される特性を有するように適宜調整すればよい。
【0077】
位相差フィルムを製造する場合には、液晶表示装置の視野角拡大のために必要な機能と物性を付与するために、上記延伸工程、熱固定処理は適宜選択して行なわれる。すなわち、光学フィルムとして位相差フィルムを製造し、さらに偏光板保護フィルムの機能を複合させる場合、屈折率制御をおこなう必要が生じるが、その屈折率制御は延伸操作により行なうことが可能であり、また延伸操作が好ましい方法である。以下、その延伸方法について説明する。
【0078】
位相差フィルムの延伸工程において、セルロース樹脂の1方向に1.0〜3.0倍及びフィルム面内にそれと直交する方向に1.01〜3.5倍延伸することで、必要とされるリタデーションRo及びRtを制御することができる。ここで、Roとは、面内リタデーションを示し、面内の長手方向(MD)の屈折率と幅方向(TD)の屈折率との差に厚みを乗じたもの、Rtとは、厚み方向リタデーションを示し、面内の屈折率〔長手方向(MD)と幅方向(TD)の平均〕と厚み方向の屈折率との差に厚みを乗じたものである。
【0079】
延伸は、例えばフィルムの長手方向(流延・搬送する方向)及びそれとフィルム面内で直交する方向、すなわち、幅手方向に対して、逐次または同時に行なうことができる。このとき少なくとも1方向に対しての延伸倍率が小さ過ぎると十分な位相差が得られず、大き過ぎると延伸が困難となりフィルム破断が発生してしまう場合がある。
【0080】
互いに直交する2軸方向に延伸することは、フィルムの屈折率nx、ny、nzを所定の範囲に入れるために有効な方法である。ここで、nxとは長手(MD)方向の屈折率、nyとは幅手(TD)方向の屈折率、nzとは厚み方向の屈折率である。
【0081】
例えば溶融流延方向に延伸した場合、幅方向の収縮が大き過ぎると、nzの値が大きくなり過ぎてしまう。この場合、フィルムの幅収縮を抑制、あるいは幅方向にも延伸することで改善できる。幅方向に延伸する場合、幅方向で屈折率に分布が生じることがある。この分布は、テンター法を用いた場合に現れることがあり、フィルムを幅方向に延伸したことで、フィルム中央部に収縮力が発生し、端部は固定されていることにより生じる現象で、いわゆるボーイング現象と呼ばれるものと考えられる。この場合でも、流延方向に延伸することで、ボーイング現象を抑制でき、幅方向の位相差の分布を少なくできる。
【0082】
互いに直行する2軸方向に延伸することにより、得られるフィルムの膜厚変動が減少できる。位相差フィルムの膜厚変動が大き過ぎると位相差のムラとなり、液晶ディスプレイに用いたとき着色等のムラが問題となることがある。
【0083】
セルロース樹脂フィルムの膜厚変動は、±3%、さらに±1%の範囲とすることが好ましい。以上のような目的において、互いに直交する2軸方向に延伸する方法は有効であり、互いに直交する2軸方向の延伸倍率は、それぞれ最終的には流延方向に1.0〜3.0倍、幅方向に1.01〜3.5倍の範囲とすることが好ましく、流延方向に1.01〜2.5倍、幅方向に1.05〜3.0倍に範囲で行なうことが必要とされるリタデーション値を得るために、より好ましい。
【0084】
上記のような延伸ゾーン(B)によるウェブ(10)の延伸後、得られたウェブ(フィルム)の端部をスリッターにより製品となる幅にスリットして裁ち落とした後、エンボスリング及びバックロールよりなるナール加工装置によりナール加工(エンボッシング加工)をフィルム両端部に施し、巻取りゾーン(B)において巻き取ることにより、光学フィルム(元巻き)中の貼り付きや、すり傷の発生を防止する。ナール加工の方法は、凸凹のパターンを側面に有する金属リングを加熱や加圧により加工することができる。なお、フィルム両端部のクリップの把持部分は通常、変形しており、フィルム製品として使用できないので、切除されて、原料として再利用される。
【0085】
図4は、エキシマ紫外線照射装置の原理を説明するための説明図である。
【0086】
なお、図4は、エキシマ紫外線照射装置(11)を、ウェブ(10)の上下両側にに設置した場合を示すものである。同図において、(u)はエキシマ紫外線ランプ、(r)は反射板、(p)はパージガス、(d)はエキシマ紫外線ランプ(u)からウェブ(10)までの間隙である。
【0087】
本実施の形態においては、種々の紫外線照射装置を用いることができるが、特に、波長が250nm以下が好ましい。このような紫外線照射下では、パージガス(p)に含まれる酸素は活性酸素やオゾンを生成し、紫外線とともに、添加剤の揮発蒸気を二酸化炭素や水などに分解するとともに、ウェブ(10)表面を改質するものである。
【0088】
また、紫外線ランプ(u)とウェブ(10)との間隙(d)は、近すぎると、ウェブのカールなどで紫外線ランプ装置と接触してウェブに擦り傷をつくってしまい、離しすぎると、紫外線光が酸素に吸収されて添加剤の揮発蒸気の分解やウェブ表面の改質が十分できなくなるため、1〜20mm程度が好ましく、さらには、2〜15mmがより好ましい。また、紫外線照射装置(11)の近くに排気装置を設け、分解ガスの排気を行うのが望ましい。
【0089】
なお、図5に示すように、エキシマ紫外線照射装置(11)は、これウェブ(10)の上側にのみ設置する場合もある。
【0090】
(常圧プラズマの説明)
図6、図7は、常圧プラズマ照射装置(12)の構造を説明するための説明図である。
【0091】
一般に、常圧プラズマ照射装置(12)には、対向する電極間に、高周波電圧を印加して放電させることにより、反応性ガスをプラズマ状態とし、これによって、ウェブの添加剤揮発蒸気を二酸化炭素や水などに分解するとともに、ウェブ表面を改質するものである。
【0092】
常圧プラズマの方式は、大きくは2つに分けられ、1つはダイレクト方式やプラナー方式と呼ばれるもので、被処理体をはさむように対向配置された電極間に高周波電力を加えて、供給ガスをプラズマ化するものである。もう1つの方式は、リモート方式やダウンストリーム方式と呼ばれるもので、反応性ガスを高周波電圧が加えられた電極の間を通して導入しプラズマ化するものである。前記のいずれの方式も、本発明に使うことができる。
【0093】
図6は、上記のダイレクト方式やプラナー方式と呼ばれるタイプの常圧プラズマ装置を示すものである。また図7は、上記のリモート方式やダウンストリーム方式と呼ばれるタイプの常圧プラズマ装置を示すものである。
【0094】
図6と図7において、(a)、(b)は常圧プラズマ照射装置(12)の対向電極、(g)は反応性ガス、(d)はプラズマ噴射スリットからウェブ(10)表面までの間隙である。
【0095】
図6、図7における常圧プラズマ照射装置(12)の簡単な構造として、高周波電圧が加えられた対向電極(a)、(b)間に、反応性ガス(g)を導入、通過させてプラズマ化し、ウェブ(10)表面に噴射供給し、表面処理膜を形成する。
【0096】
本実施の形態においては、このようなハイパワーの電圧を印加して、均一なグロー放電状態を保つことができる電極を常圧プラズマ照射装置(12)に採用する必要がある。
【0097】
このような電極としては、金属母材上に誘電体を被覆したものであることが好ましい。少なくとも対向する印加電極とアース電極の片側に誘電体を被覆すること、さらに好ましくは、対向する印加電極とアース電極の両方に誘電体を被覆することである。誘電体としては、比誘電率が6〜45の無機物であることが好ましく、このような誘電体としては、アルミナ、窒化珪素等のセラミックス、あるいは、ケイ酸塩系ガラス、ホウ酸塩系ガラス等のガラスライニング材等が挙げられる。
【0098】
また、透明フィルム基材であるセルロースエステルフィルムを、電極間に載置あるいは電極間を搬送してプラズマに晒す場合には、透明フィルム基材を片方の電極に接して搬送できるロール電極仕様にするだけでなく、さらに、誘電体表面を研磨仕上げし、電極の表面粗さRmax(JIS B 0601に規定)を10μm以下にすることで、誘電体の厚み、及び電極間のギャップを一定に保つことができ、放電状態を安定化できること、さらに熱収縮差や残留応力による歪やひび割れを無くし、かつポーラスで無い高精度の無機誘電体を被覆することで、大きく耐久性を向上させることができるため好ましい。
【0099】
また、プラズマの噴射供給を行う吹出しスリットとウェブ(10)表面との間隙(d)は、近すぎるとウェブのカールなどで常圧プラズマ照射装置(12)と接触してウェブに擦り傷をつくってしまい、反対に、離しすぎるとプラズマのラジカルが十分届かず、添加剤の揮発蒸気分解やウェブ表面の改質が十分できないため、1〜30mmが好ましく、さらには、2〜20mmがより好ましい。
【0100】
また、原料ガス(g)には、窒素や酸素、アルゴン、ヘリウムなど種々のものが利用可能であるが、環境面、排気の後処理、ランニングコストの観点から、窒素が好ましい。さらには、窒素に微量の酸素を混合するとより好ましい。酸素の混合比率は、原料ガスの体積に対して5体積%以下が望ましい。
【0101】
また、常圧プラズマの原料ガス風量は、プラズマ幅1m当たり、20〜5000L/minが望ましい。さらには、40〜2500L/minがより好ましい。また、常圧プラズマ照射装置(12)の近くに排気装置を設けて、分解ガスの排気を行うのが望ましい。
【0102】
本発明の光学フィルムの製造方法に用いる熱可塑性樹脂は、溶融流延製膜法により製膜可能であれば特に限定されない。例えば、セルロースエステル、ポリカーボネート、脂環式構造含有ポリマー、ポリビニルアルコール、ポリアミド、ポリイミド、ポリエステルなどが挙げられる。中でも光弾性係数が小さいことから、セルロースエステルや脂環式構造含有ポリマーが好ましく、特に吸水率の小さいことから脂環式構造含有ポリマーが好ましい。
【0103】
セルロースエステルとしては、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート及びセルロースアセテートプロピオネートブチレートが好ましい。上記セルロースエステルのアセチル基の置換度は、少なくとも1.5以上であることが、得られるフィルムの寸法安定性に優れるので好ましい。セルロースエステルのアシル基の置換度の測定方法としては、ASTMのD−817−91に準じて実施することができる。セルロースエステルの分子量は、数平均分子量として50,000〜300,000、とくに60,000〜200,000であることが、得られるフィルムの機械的強度が強くできるので好ましい。
【0104】
脂環式構造含有ポリマーとは、繰り返し単位中に、脂環式構造を有するポリマーであり、脂環式構造は主鎖、側鎖のいずれにあってもよい。脂環式構造としては、シクロアルカン構造、シクロアルケン構造などが挙げられるが、熱安定性に優れることからシクロアルカン構造が好ましい。
【0105】
脂環式構造含有ポリマーは、ノルボルネン環構造を有するモノマー、モノ環状オレフィン、環状共役ジエン、ビニル芳香族化合物及びビニル脂環式炭化水素化合物等を含むモノマーを、メタセシス開環重合や付加重合などの公知の重合方法で重合し、必要に応じて炭素−炭素不飽和結合を水素添加することにより得ることができる。
【0106】
本発明に用いる脂環式構造含有ポリマーは、シクロヘキサン溶液(ポリマーが溶解しない場合はトルエン溶液)のゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーで測定したポリイソプレンまたはポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)が、25,000〜50,000であることが好ましく、30,000〜45,000であることがさらに好ましい。分子量分布(Mw/Mn)は、1.2〜3.5であることが好ましく、さらに1.5〜3.0であることが好ましい。また、ガラス転移温度(Tg)は、80〜170℃であることが好ましい。脂環式構造含有ポリマーの特性を上記の範囲にすることで、良好な耐熱性と成形加工性とを得ることができる。
【0107】
ポリエステルは、特に限定されるものではないが、ジカルボン酸成分とジオール成分を主要な構成成分とすることが好ましい。
【0108】
主要な構成成分のジカルボン酸成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルスルホンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ジフェニルエタンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェニルチオエーテルジカルボン酸、ジフェニルケトンジカルボン酸、フェニルインダンジカルボン酸などを挙げることができる。また、ジオール成分としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビスフェノールフルオレンジヒドロキシエチルエーテル、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ハイドロキノン、シクロヘキサンジオールなどを挙げることができる。
【0109】
これらを主要な構成成分とするポリエステルの中でも透明性、機械的強度、寸法安定性などの点から、ジカルボン酸成分として、テレフタル酸及び/または2,6−ナフタレンジカルボン酸、ジオール成分として、エチレングリコール及び/または1,4−シクロヘキサンジメタノールを主要な構成成分とするポリエステルが好ましい。中でも、ポリエチレンテレフタレートまたはポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートを主要な構成成分とするポリエステルや、テレフタル酸と2,6−ナフタレンジカルボン酸とエチレングリコールからなる共重合ポリエステル、およびこれらのポリエステルの二種以上の混合物を主要な構成成分とするポリエステルが好ましい。ポリエステルに対してポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートが70重量%以上含有していると、透明性、機械的強度、寸法安定性などに高度に優れたポリエステルフィルムが得られる。
【0110】
本発明のポリエステルフィルムを構成するポリエステルは、本発明の効果を阻害しない範囲であれば、さらに他の共重合成分が共重合されていても良いし、他のポリエステルが混合されていても良い。これらの例としては、先に挙げたジカルボン酸成分やジオール成分、またはそれらから成るポリエステルを挙げることができる。
【0111】
また、本発明のポリエステルフィルムの耐熱性を向上する目的では、ビスフェノール系化合物、ナフタレン環またはシクロヘキサン環を有する化合物を共重合することができる。これらの共重合割合としては、ポリエステルを構成する二官能性ジカルボン酸を基準として、1〜20モル%が好ましい。
【0112】
また、相溶性のあるポリマーを2種類以上ブレンドして、それらを、後で述べる溶融混錬を行っても良い。
【0113】
以下、特に、セルロースエステルを例に詳細説明するが、本発明はこれにより限定されるものではない。
【0114】
セルロースエステルを溶融流延法により製膜する場合、通常、セルロースセステルはその製造の過程でアルキルカルボン酸、硫酸等の酸がセルロースエステル中に残留しているため、高温条件となる溶融流延法で製膜すると着色や粘度低下を生ずるため、ヘイズ、透過率、リタデーション等の光学物性や機械特性が劣化するため、事前に酸を50ppm以下に除去することが望ましい。
【0115】
本発明における溶融流延とは、溶媒を用いずセルロースエステルを流動性を示す温度まで加熱溶融し、その後、流動性のセルロースエステルを流延することを溶融流延として定義する。加熱溶融する成形法はさらに詳細には溶融押出成形法、プレス成形法、インフレーション法、射出成形法、ブロー成形法、延伸成形法などに分類できる。これらの中で、機械的強度及び表面精度などに優れる光学フィルムを得るためには、溶融押出し法が優れている。ここでフィルム構成材料が加熱されて、その流動性を発現させた後、流延ダイから回転駆動金属製エンドレスベルトまたは回転駆動金属製ドラム(金属支持体)上に流延し製膜することが、溶融流延製膜法として本発明のセルロースエステルフィルムの製造方法に含まれる。
【0116】
(セルロースエステル)
本発明に係るセルロースエステルは、脂肪酸アシル基、置換もしくは無置換の芳香族アシル基の中から少なくともいずれかの構造を含む、セルロースの前記単独または混合酸エステルである。
【0117】
芳香族アシル基において、芳香族環がベンゼン環であるとき、ベンゼン環の置換基の例としてハロゲン原子、シアノ、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基、アシル基、カルボンアミド基、スルホンアミド基、ウレイド基、アラルキル基、ニトロ、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基、カルバモイル基、スルファモイル基、アシルオキシ基、アルケニル基、アルキニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、アルキルオキシスルホニル基、アリールオキシスルホニル基、アルキルスルホニルオキシ基及びアリールオキシスルホニル基、−S−R、−NH−CO−OR、−PH−R、−P(−R) 、−PH−O−R、−P(−R)(−O−R)、−P(−O−R) 、−PH(=O)−R−P(=O)(−R) 、−PH(=O)−O−R、−P(=O)(−R)(−O−R)、−P(=O)(−O−R) 、−O−PH(=O)−R、−O−P(=O)(−R) −O−PH(=O)−O−R、−O−P(=O)(−R)(−O−R)、−O−P(=O)(−O−R) 、−NH−PH(=O)−R、−NH−P(=O)(−R)(−O−R)、−NH−P(=O)(−O−R) 、−SiH −R、−SiH(−R) 、−Si(−R) 、−O−SiH −R、−O−SiH(−R) 、及び−O−Si(−R) が含まれる。上記Rは脂肪族基、芳香族基またはヘテロ環基である。置換基の数は、1個〜五個であることが好ましく、1個〜4個であることがより好ましく、1個〜3個であることがさらに好ましく、1個または2個であることが最も好ましい。置換基としては、ハロゲン原子、シアノ、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基、アシル基、カルボンアミド基、スルホンアミド基及びウレイド基が好ましく、ハロゲン原子、シアノ、アルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシル基及びカルボンアミド基がより好ましく、ハロゲン原子、シアノ、アルキル基、アルコキシ基及びアリールオキシ基がさらに好ましく、ハロゲン原子、アルキル基及びアルコキシ基が最も好ましい。
【0118】
上記ハロゲン原子には、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が含まれる。上記アルキル基は、環状構造あるいは分岐を有していてもよい。アルキル基の炭素原子数は、1〜20であることが好ましく、1〜12であることがより好ましく、1〜6であることがさらに好ましく、1〜4であることが最も好ましい。アルキル基の例には、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、t−ブチル、ヘキシル、シクロヘキシル、オクチル及び2−エチルヘキシルが含まれる。上記アルコキシ基は、環状構造あるいは分岐を有していてもよい。アルコキシ基の炭素原子数は、1〜20であることが好ましく、1〜12であることがより好ましく、1〜6であることがさらに好ましく、1〜4であることが最も好ましい。アルコキシ基は、さらに別のアルコキシ基で置換されていてもよい。アルコキシ基の例には、メトキシ、エトキシ、2−メトキシエトキシ、2−メトキシ−2−エトキシエトキシ、ブチルオキシ、ヘキシルオキシ及びオクチルオキシが含まれる。
【0119】
上記アリール基の炭素原子数は、6〜20であることが好ましく、6〜12であることがさらに好ましい。アリール基の例には、フェニル及びナフチルが含まれる。上記アリールオキシ基の炭素原子数は、6〜20であることが好ましく、6〜12であることがさらに好ましい。アリールオキシ基の例には、フェノキシ及びナフトキシが含まれる。上記アシル基の炭素原子数は、1〜20であることが好ましく、1〜12であることがさらに好ましい。アシル基の例には、ホルミル、アセチル及びベンゾイルが含まれる。上記カルボンアミド基の炭素原子数は、1〜20であることが好ましく、1〜12であることがさらに好ましい。カルボンアミド基の例には、アセトアミド及びベンズアミドが含まれる。上記スルホンアミド基の炭素原子数は、1〜20であることが好ましく、1〜12であることがさらに好ましい。スルホンアミド基の例には、メタンスルホンアミド、ベンゼンスルホンアミド及びp−トルエンスルホンアミドが含まれる。上記ウレイド基の炭素原子数は、1〜20であることが好ましく、1〜12であることがさらに好ましい。ウレイド基の例には、(無置換)ウレイドが含まれる。
【0120】
上記アラルキル基の炭素原子数は、7〜20であることが好ましく、7〜12であることがさらに好ましい。アラルキル基の例には、ベンジル、フェネチル及びナフチルメチルが含まれる。上記アルコキシカルボニル基の炭素原子数は、1〜20であることが好ましく、2〜12であることがさらに好ましい。アルコキシカルボニル基の例には、メトキシカルボニルが含まれる。上記アリールオキシカルボニル基の炭素原子数は、7〜20であることが好ましく、7〜12であることがさらに好ましい。アリールオキシカルボニル基の例には、フェノキシカルボニルが含まれる。上記アラルキルオキシカルボニル基の炭素原子数は、8〜20であることが好ましく、8〜12であることがさらに好ましい。アラルキルオキシカルボニル基の例には、ベンジルオキシカルボニルが含まれる。上記カルバモイル基の炭素原子数は、1〜20であることが好ましく、1〜12であることがさらに好ましい。カルバモイル基の例には、(無置換)カルバモイル及びN−メチルカルバモイルが含まれる。上記スルファモイル基の炭素原子数は、20以下であることが好ましく、12以下であることがさらに好ましい。スルファモイル基の例には、(無置換)スルファモイル及びN−メチルスルファモイルが含まれる。上記アシルオキシ基の炭素原子数は、1〜20であることが好ましく、2〜12であることがさらに好ましい。アシルオキシ基の例には、アセトキシ及びベンゾイルオキシが含まれる。
【0121】
上記アルケニル基の炭素原子数は、2〜20であることが好ましく、2〜12であることがさらに好ましい。アルケニル基の例には、ビニル、アリル及びイソプロペニルが含まれる。上記アルキニル基の炭素原子数は、2〜20であることが好ましく、2〜12であることがさらに好ましい。アルキニル基の例には、チエニルが含まれる。上記アルキルスルホニル基の炭素原子数は、1〜20であることが好ましく、1〜12であることがさらに好ましい。上記アリールスルホニル基の炭素原子数は、6〜20であることが好ましく、6〜12であることがさらに好ましい。上記アルキルオキシスルホニル基の炭素原子数は、1〜20であることが好ましく、1〜12であることがさらに好ましい。上記アリールオキシスルホニル基の炭素原子数は、6〜20であることが好ましく、6〜12であることがさらに好ましい。上記アルキルスルホニルオキシ基の炭素原子数は、1〜20であることが好ましく、1〜12であることがさらに好ましい。上記アリールオキシスルホニル基の炭素原子数は、6〜20であることが好ましく、6〜12であることがさらに好ましい。
【0122】
本発明に係るセルロースエステルにおいて、セルロースの水酸基部分の水素原子が脂肪族アシル基との脂肪酸エステルであるとき、脂肪族アシル基は炭素原子数が2〜20で、具体的にはアセチル、プロピオニル、ブチリル、イソブチリル、バレリル、ピバロイル、ヘキサノイル、オクタノイル、ラウロイル、ステアロイル等が挙げられる。
【0123】
本発明において前記脂肪族アシル基とは、さらに置換基を有するものも包含する意味であり、置換基としては上述の芳香族アシル基において、芳香族環がベンゼン環であるとき、ベンゼン環の置換基として例示したものが挙げられる。
【0124】
また、上記セルロースエステルのエステル化された置換基が芳香環であるとき、芳香族環に置換する置換基Xの数は0または1〜5個であり、好ましくは1〜3個で、特に好ましいのは1または2個である。さらに芳香族環に置換する置換基の数が2個以上の時、互いに同じでも異なっていてもよいが、また、互いに連結して縮合多環化合物(例えば、ナフタレン、インデン、インダン、フェナントレン、キノリン、イソキノリン、クロメン、クロマン、フタラジン、アクリジン、インドール、インドリンなど)を形成してもよい。
【0125】
上記セルロースエステルにおいて置換もしくは無置換の脂肪族アシル基、置換もしくは無置換の芳香族アシル基の少なくともいずれか1種選択された構造を有する構造を有することが本発明に係るセルロースエステルに用いる構造として用いられ、これらは、セルロースの単独または混合酸エステルでもよく、2種以上のセルロースエステルを混合して用いてもよい。
【0126】
本発明に係るセルロースエステルとしては、セルロースアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートフタレート及びセルロースフタレートから選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0127】
混合脂肪酸エステルの置換度として、さらに好ましいセルロースアセテートプロピオネートやセルロースアセテートブチレートの低級脂肪酸エステルは炭素原子数2〜4のアシル基を置換基として有し、アセチル基の置換度をXとし、プロピオニル基またはブチリル基の置換度をYとした時、下記式(I)及び(II)を同時に満たすセルロースエステルを含むセルロース樹脂である。尚、アセチル基の置換度と他のアシル基の置換度は、ASTM−D817−96により求めたものである。
【0128】
式(I) 2.5≦X+Y≦2.9
式(II) 0.1≦X≦2.0
この内特にセルロースアセテートプロピオネートが好ましく用いられ、中でも1.0≦X≦2.5であり、0.5≦Y≦2.5であることが好ましい。アシル基の置換度の異なるセルロ−スエステルをブレンドして、光学フィルム全体として上記範囲に入っていてもよい。上記アシル基で置換されていない部分は通常水酸基として存在しているのものである。これらは公知の方法で合成することができる。アセチル基の置換度の測定方法はASTM−D817−96に準じて測定することができる。
【0129】
本発明の光学フィルムに使用するセルロースエステルの数平均分子量は、60000〜300000の範囲が、得られるフィルムの機械的強度が強く好ましい。さらに70000〜200000が好ましい。
【0130】
さらに、本発明で用いられるセルロースエステルは、重量平均分子量Mw/数平均分子量Mn比が1.5〜5.5のものが好ましく用いられ、特に好ましくは2.0〜5.0であり、さらに好ましくは2.5〜5.0であり、さらに好ましくは3.0〜5.0のセルロースエステルが好ましく用いられる。
【0131】
重量平均分子量の測定方法は下記方法によることができる。
【0132】
(分子量測定方法)
分子量の測定は、高速液体クロマトグラフィー〔ゲル浸透クロマトグラフ(GPC)〕を用いて測定する。
【0133】
測定条件は以下の通りである。
【0134】
装 置:HLC−8220 GPC(東ソー製)
カラム:TSK−SUPER HM−M(φ6.0mm×150mm)
TSK−GuardcolumnH−H(φ4.6mm×35mm)
溶 媒:テトラヒドロフラン
流 速:0.6ml/min
温 度:40℃
試料濃度:0.1質量%
校正曲線:標準ポリスチレンSTK standard ポリスチレン(東ソー株式会社製)Mw=1000000〜500迄の13サンプルによる校正曲線を使用した。13サンプルは、ほぼ等間隔に用いる。
【0135】
本発明で用いられるセルロースエステルの原料セルロースは、木材パルプでも綿花リンターでもよく、木材パルプは針葉樹でも広葉樹でもよいが、針葉樹の方がより好ましい。製膜の際の剥離性の点からは綿花リンターが好ましく用いられる。これらから作られたセルロースエステルは適宜混合して、あるいは単独で使用することができる。
【0136】
例えば、綿花リンター由来セルロースエステル:木材パルプ(針葉樹)由来セルロースエステル:木材パルプ(広葉樹)由来セルロースエステルの比率が100:0:0、90:10:0、85:15:0、50:50:0、20:80:0、10:90:0、0:100:0、0:0:100、80:10:10、85:0:15、40:30:30で用いることができる。
【0137】
また、セルロース樹脂の極限粘度は、1.5〜1.75g/cmが好ましく、さらに1.53〜1.63の範囲が好ましい。
【0138】
また、本発明で用いられるセルロースエステルはフィルムにした時の輝点異物が少ないものであることが好ましい。輝点異物とは、2枚の偏光板を直交に配置し(クロスニコル)、この間にセルロースエステルフィルムを配置して、一方の面から光源の光を当てて、もう一方の面からセルロースエステルフィルムを観察した時に、光源の光が漏れて見える点のことである。このとき評価に用いる偏光板は輝点異物がない保護フィルムで構成されたものであることが望ましく、偏光子の保護にガラス板を使用したものが好ましく用いられる。輝点異物はセルロースエステルに含まれる未酢化若しくは低酢化度のセルロースがその原因の1つと考えられ、輝点異物の少ないセルロースエステルを用いる(置換度の分散の小さいセルロースエステルを用いる)ことと、溶融したセルロースエステルを濾過すること、あるいはセルロースエステルの合成後期の過程や沈殿物を得る過程の少なくともいずれかにおいて、一度溶液状態として同様に濾過工程を経由して輝点異物を除去することもできる。溶融樹脂は粘度が高いため、後者の方法のほうが効率がよい。
【0139】
フィルム膜厚が薄くなるほど単位面積当たりの輝点異物数は少なくなり、フィルムに含まれるセルロースエステルの含有量が少なくなるほど輝点異物は少なくなる傾向があるが、輝点異物は、輝点の直径0.01mm以上が200個/cm以下であることが好ましく、さらに100個/cm以下であることが好ましく、50個/cm以下であることが好ましく、30個/cm以下であることが好ましく、10個/cm以下であることが好ましいが、皆無であることが最も好ましい。また、0.005〜0.01mm以下の輝点についても200個/cm以下であることが好ましく、さらに100個/cm以下であることが好ましく、50個/cm以下であることが好ましく、30個/cm以下であることが好ましく、10個/cm以下であることが好ましいが、皆無であることが最も好ましい。
【0140】
輝点異物を溶融濾過によって除去する場合、セルロースエステルを単独で溶融させたものを濾過するよりも可塑剤、劣化防止剤、酸化防止剤等を添加混合した組成物を濾過することが輝点異物の除去効率が高く好ましい。もちろん、セルロースエステルの合成の際に溶媒に溶解させて濾過により低減させてもよい。紫外線吸収剤、その他の添加物も適宜混合したものを濾過することができる。濾過はセルロースエステルを含む溶融物の粘度が10000P以下で濾過されるこが好ましく、さらに好ましくは5000P以下が好ましく、1000P以下であることがさらに好ましく、500P以下であることがさらに好ましい。濾材としては、ガラス繊維、セルロース繊維、濾紙、四フッ化エチレン樹脂などの弗素樹脂等の従来公知のものが好ましく用いられるが、特にセラミックス、金属等が好ましく用いられる。絶対濾過精度としては50μm以下のものが好ましく用いられ、30μm以下のものがさらに好ましく、10μm以下のものがさらに好ましく、5μm以下のものがさらに好ましく用いられる。これらは適宜組み合わせて使用することもできる。濾材はサーフェースタイプでもデプスタイプでも用いることができるが、デプスタイプの方が比較的目詰まりしにくく好ましく用いられる。
【0141】
(添加剤)
本発明の光学フィルムは、添加剤としては、有機酸と3価以上のアルコールが縮合した構造を有するエステル系可塑剤、多価アルコールと1価のカルボン酸からなるエステル系可塑剤、多価カルボン酸と1価のアルコールからなるエステル系可塑剤の少なくとも1種の可塑剤、フェノール系酸化防止剤、ヒンダードアミン光安定剤、リン系安定剤、イオウ系安定剤から選択される少なくとも1種の安定剤を含んでいることが好ましく、さらにこの他に過酸化物分解剤、ラジカル捕捉剤、金属不活性化剤、紫外線吸収剤、マット剤、染料、顔料、さらには前記以外の可塑剤、ヒンダードフェノール酸化防止剤以外の酸化防止剤などを含んでも構わない。
【0142】
フィルム組成物の酸化防止、分解して発生した酸の捕捉、光または熱によるラジカル種起因の分解反応を抑制または禁止する等、解明できていない分解反応を含めて、着色や分子量低下に代表される変質や材料の分解による揮発成分の生成を抑制するために、また透湿性、易滑性といった機能を付与するために添加剤を用いる。
【0143】
一方、フィルム組成物を加熱溶融すると分解反応が著しくなり、この分解反応によって着色や分子量低下に由来した該構成材料の強度劣化を伴うことがある。またフィルム組成物の分解反応によって、好ましくない揮発成分の発生も併発することもある。
【0144】
フィルム組成物を加熱溶融するとき、上述の添加剤が存在することは、材料の劣化や分解に基づく強度の劣化を抑制すること、または材料固有の強度を維持できる観点で優れており、本発明の光学フィルムを製造できる観点から上述の添加剤が存在することが必要である。
【0145】
また、上述の添加剤の存在は加熱溶融時において可視光領域の着色物の生成を抑制すること、または揮発成分がフィルム中に混入することによって生じる透過率やヘイズ値といった光学フィルムとして好ましくない性能を抑制または消滅できる点で優れている。
【0146】
本発明において液晶表示画像の表示画像は、本発明の構成で光学フィルムを用いるとき1%を超えると影響を与えるため、好ましくはヘイズ値は1%未満、より好ましくは0.5%未満である。
【0147】
フィルム製造時、リターデーションを付与する工程において、該フィルム組成物の強度の劣化を抑制すること、または材料固有の強度を維持できることにある。フィルム組成物が著しい劣化によって脆くなると、該延伸工程において破断が生じやすくなり、リターデーション値の制御ができなくなることがあるためである。
【0148】
上述のフィルム組成物の保存あるいは製膜工程において、空気中の酸素による劣化反応が併発することがある。この場合、上記添加剤の安定化作用とともに、空気中の酸素濃度を低減させる効果を用いることも本発明を具現化する上で好ましい。これは、公知の技術として不活性ガスとして窒素やアルゴンの使用、減圧〜真空による脱気操作、及び密閉環境下による操作が挙げられ、これら3者の内少なくとも1つの方法を上記添加剤と併用することが好ましい。フィルム組成物が空気中の酸素と接触する確率を低減することにより、該材料の劣化が抑制でき、本発明の目的のためには好ましい。
【0149】
本発明の光学フィルムは偏光板保護フィルムとして活用するため、本発明の偏光板及び偏光板を構成する偏光子に対して経時保存性を向上させる観点から、フィルム組成物中に上述の添加剤が存在することが好ましい。
【0150】
本発明の偏光板を用いた液晶表示装置は、本発明の光学フィルムに上述の添加剤が存在することにより、上記変質や劣化が抑制されて光学フィルムの経時保存性が向上できるとともに、光学フィルムに付与された光学的な補償設計が長期に亘って安定化し液晶表示装置の表示品質が向上する。
【0151】
(酸化防止剤)
本発明において、酸化防止剤は、樹脂に発生したラジカルを不活性化する、あるいは樹脂に発生したラジカルに酸素が付加したことが起因の樹脂の劣化を抑制する化合物であれば制限なく用いることができるが、中でも有用な酸化防止剤としては、フェノール系化合物、ヒンダードアミン系化合物、リン系化合物、イオウ系化合物、耐熱加工安定剤、酸素スカベンジャー等が挙げられ、これらの中でも、特にフェノール系化合物、ヒンダードアミン系化合物、リン系化合物が好ましい。これらの化合物を配合することにより、透明性、耐熱性等を低下させることなく、溶融成型時の熱や熱酸化劣化等による成形体の着色や強度低下を防止できる。これらの酸化防止剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0152】
フェノール系化合物は既知の化合物であり、例えば、米国特許第4,839,405号明細書の第12〜14欄に記載されており、2,6−ジアルキルフェノール誘導体化合物が含まれる。このような化合物のうち好ましい化合物として、下記一般式(A)で表される化合物が好ましい。
【化1】

【0153】
式中、R11、R12、R13、R14及びR15は置換基を表す。置換基としては、水素原子、ハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子等)、アルキル基(例えばメチル基、エチル基、イソプロピル基、ヒドロキシエチル基、メトキシメチル基、トリフルオロメチル基、t−ブチル基等)、シクロアルキル基(例えばシクロペンチル基、シクロヘキシル基等)、アラルキル基(例えばベンジル基、2−フェネチル基等)、アリール基(例えばフェニル基、ナフチル基、p−トリル基、p−クロロフェニル基等)、アルコキシ基(例えばメトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基等)、アリールオキシ基(例えばフェノキシ基等)、シアノ基、アシルアミノ基(例えばアセチルアミノ基、プロピオニルアミノ基等)、アルキルチオ基(例えばメチルチオ基、エチルチオ基、ブチルチオ基等)、アリールチオ基(例えばフェニルチオ基等)、スルホニルアミノ基(例えばメタンスルホニルアミノ基、ベンゼンスルホニルアミノ基等)、ウレイド基(例えば3−メチルウレイド基、3,3−ジメチルウレイド基、1,3−ジメチルウレイド基等)、スルファモイルアミノ基(ジメチルスルファモイルアミノ基等)、カルバモイル基(例えばメチルカルバモイル基、エチルカルバモイル基、ジメチルカルバモイル基等)、スルファモイル基(例えばエチルスルファモイル基、ジメチルスルファモイル基等)、アルコキシカルボニル基(例えばメトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等)、アリールオキシカルボニル基(例えばフェノキシカルボニル基等)、スルホニル基(例えばメタンスルホニル基、ブタンスルホニル基、フェニルスルホニル基等)、アシル基(例えばアセチル基、プロパノイル基、ブチロイル基等)、アミノ基(メチルアミノ基、エチルアミノ基、ジメチルアミノ基等)、シアノ基、ヒドロキシ基、ニトロ基、ニトロソ基、アミンオキシド基(例えばピリジン−オキシド基)、イミド基(例えばフタルイミド基等)、ジスルフィド基(例えばベンゼンジスルフィド基、ベンゾチアゾリル−2−ジスルフィド基等)、カルボキシル基、スルホ基、ヘテロ環基(例えば、ピロール基、ピロリジル基、ピラゾリル基、イミダゾリル基、ピリジル基、ベンズイミダゾリル基、ベンズチアゾリル基、ベンズオキサゾリル基等)等が挙げらる。これらの置換基はさらに置換されても良い。また、R11は水素原子、R12、R16はt−ブチル基であるフェノール系化合物が好ましい。フェノール系化合物の具体例としては、n−オクタデシル3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート、n−オクタデシル3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)−アセテート、n−オクタデシル3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンゾエート、n−ヘキシル3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニルベンゾエート、n−ドデシル3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニルベンゾエート、ネオ−ドデシル3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ドデシルβ(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、エチルα−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルフェニル)イソブチレート、オクタデシルα−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルフェニル)イソブチレート、オクタデシルα−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2−(n−オクチルチオ)エチル3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ベンゾエート、2−(n−オクチルチオ)エチル3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−フェニルアセテート、2−(n−オクタデシルチオ)エチル3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニルアセテート、2−(n−オクタデシルチオ)エチル3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ベンゾエート、2−(2−ヒドロキシエチルチオ)エチル3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンゾエート、ジエチルグリコールビス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−フェニル)プロピオネート、2−(n−オクタデシルチオ)エチル3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ステアルアミドN,N−ビス−[エチレン3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、n−ブチルイミノN,N−ビス−[エチレン3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2−(2−ステアロイルオキシエチルチオ)エチル3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンゾエート、2−(2−ステアロイルオキシエチルチオ)エチル7−(3−メチル−5−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)ヘプタノエート、1,2−プロピレングリコールビス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、エチレングリコールビス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ネオペンチルグリコールビス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、エチレングリコールビス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニルアセテート)、グリセリン−l−n−オクタデカノエート−2,3−ビス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニルアセテート)、ペンタエリトリトール−テトラキス−[3−(3′,5′−ジ−t−ブチル−4′−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,1,1−トリメチロールエタン−トリス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ソルビトールヘキサ−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2−ヒドロキシエチル7−(3−メチル−5−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2−ステアロイルオキシエチル7−(3−メチル−5−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)ヘプタノエート、1,6−n−ヘキサンジオール−ビス[(3′,5′−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ペンタエリトリトール−テトラキス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシヒドロシンナメート)が含まれる。上記タイプのフェノール化合物は、例えば、Ciba Specialty Chemicalsから、“Irganox1076”及び“Irganox1010”という商品名で市販されている。
【0154】
本発明において、ヒンダードアミン系化合物としては、下記一般式(B)で表される化合物が好ましい。
【化2】

【0155】
式中、R21、R22、R23、R24、R25、R26及びR27は置換基を表す。置換基とは前記一般式(A)記載と同義の基を示す。R24は水素原子、メチル基、R27は水素原子、R22、R23、R25、R26はメチル基が好ましい。
【0156】
ヒンダードアミン系化合物の具体例としては、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)スクシネート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(N−オクトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(N−ベンジルオキシ−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(N−シクロヘキシルオキシ−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)2−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−2−ブチルマロネート、ビス(1−アクロイル−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)2,2−ビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−2−ブチルマロネート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)デカンジオエート、2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジルメタクリレート、4−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]−1−[2−(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ)エチル]−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、2−メチル−2−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)アミノ−N−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)プロピオンアミド、テトラキス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、テトラキス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート等が挙げられる。また、高分子タイプの化合物でも良く、具体例としては、N,N',N'',N'''−テトラキス−[4,6−ビス−〔ブチル−(N−メチル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)アミノ〕−トリアジン−2−イル]−4,7−ジアザデカン−1,10−ジアミン、ジブチルアミンと1,3,5−トリアジン・N,N’−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)−1,6−ヘキサメチレンジアミンとN−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)ブチルアミンとの重縮合物、ジブチルアミンと1,3,5−トリアジンとN,N'−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)ブチルアミンとの重縮合物、ポリ〔{(1,1,3,3−テトラメチルブチル)アミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル}{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}ヘキサメチレン{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}〕、1,6−ヘキサンジアミン−N,N'−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)とモルフォリン−2,4,6−トリクロロ−1,3,5−トリアジンとの重縮合物、ポリ[(6−モルフォリノ−s−トリアジン−2,4−ジイル)〔(2,2,6,6,−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ〕−ヘキサメチレン〔(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ〕]などの、ピペリジン環がトリアジン骨格を介して複数結合した高分子量HALS;コハク酸ジメチルと4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジンエタノールとの重合物、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸と1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジノールと3,9−ビス(2−ヒドロキシ−1,1−ジメチルエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカンとの混合エステル化物などの、ピペリジン環がエステル結合を介して結合した化合物などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらの中でも、ジブチルアミンと1,3,5−トリアジンとN,N'−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)ブチルアミンとの重縮合物、ポリ〔{(1,1,3,3−テトラメチルブチル)アミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル}{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}ヘキサメチレン{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}〕、コハク酸ジメチルと4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジンエタノールとの重合物などで、数平均分子量(Mn)が2,000〜5,000のものが好ましい。
【0157】
上記タイプのヒンダードフェノール化合物は、例えば、Ciba Specialty Chemicalsから、“Tinuvin144”及び“Tinuvin770”、旭電化工業株式会社から“ADK STAB LA−52”という商品名で市販されている。
【0158】
本発明において、リン系化合物としては、下記一般式(C−1)、(C−2)、(C−3)で表される部分構造を分子内に有する化合物が好ましい。
【化3】

【化4】

【化5】

【0159】
式中、Ph及びPh'はフェニレン基を表し、該フェニレン基の水素原子はフェニル基、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数5〜8のシクロアルキル基、炭素数6〜12のアルキルシクロアルキル基または炭素数7〜12のアラルキル基で置換されていてもよい。Ph及びPh'は互いに同一でもよく、異なってもよい。Xは単結合、硫黄原子または−CHR−基を表す。Rは水素原子、炭素数1〜8のアルキル基または炭素数5〜8のシクロアルキル基を表す。Ph及びPh'はフェニル基またはビフェニル基を表し、該フェニル基またはビフェニル基の水素原子は炭素数1〜8のアルキル基、炭素数5〜8のシクロアルキル基、炭素数6〜12のアルキルシクロアルキル基または炭素数7〜12のアラルキル基で置換されていてもよい。Ph及びPh'は互いに同一でもよく、異なってもよい。Phはフェニル基またはビフェニル基を表し、該フェニル基またはビフェニル基の水素原子は炭素数1〜8のアルキル基、炭素数5〜8のシクロアルキル基、炭素数6〜12のアルキルシクロアルキル基または炭素数7〜12のアラルキル基で置換されていてもよい。またこれらは前記一般式(A)記載と同義の置換基により置換されても良い。
【0160】
リン系化合物の具体例としては、トリフェニルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、フェニルジイソデシルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(ジノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、10−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイド、6−[3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロポキシ]−2,4,8,10−テトラ−t−ブチルジベンズ[d,f][1.3.2]ジオキサホスフェピンなどのモノホスファイト系化合物;4,4′−ブチリデン−ビス(3−メチル−6−t−ブチルフェニル−ジ−トリデシルホスファイト)、4,4′−イソプロピリデン−ビス(フェニル−ジ−アルキル(C12〜C15)ホスファイト)などのジホスファイト系化合物などが挙げられる。上記タイプのリン系化合物は、例えば、住友化学工業株式会社から、“SumilizerGP”、旭電化工業株式会社から、“ADK STAB PEP−24G”及び“ADK STAB PEP−36”という商品名で市販されている。
【0161】
本発明において、イオウ系化合物としては、下記一般式(D)で表される化合物が好ましい。
【化6】

【0162】
式中、R31及びR32は置換基を表す。置換基とは前記一般式(A)記載と同義の基を示す。R31及びR32はアルキル基が好ましい。
【0163】
イオウ系化合物の具体例としては、ジラウリル3,3−チオジプロピオネート、ジミリスチル3,3′−チオジプロピピオネート、ジステアリル3,3−チオジプロピオネート、ラウリルステアリル3,3−チオジプロピオネート、ペンタエリスリトール−テトラキス(β−ラウリル−チオ−プロピオネート)、3,9−ビス(2−ドデシルチオエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカンなどが挙げられる。上記タイプのイオウ系化合物は、例えば、住友化学工業株式会社から、“Sumilezer TPL-R”、及び“Sumilezer TP-D”という商品名で市販されている。
【0164】
酸化防止剤の添加量は、セルロースエステル100質量部に対して、通常0.01〜25質量部、好ましくは0.05〜10質量部、さらに好ましくは0.1〜3質量部である。
【0165】
酸化防止剤は、前述のセルロース樹脂同様に、製造時から持ち越される、あるいは保存中に発生する残留酸、無機塩、有機低分子等の不純物を除去する事が好ましく、より好ましくは純度99%以上である。残留酸、及び水としては、0.01〜100ppmであることが好ましく、樹脂を溶融流延製膜する上で、熱劣化を抑制でき、製膜安定性、フィルムの光学物性、機械物性が向上する。
【0166】
(可塑剤)
本発明においては、可塑剤として、下記一般式(1)で表される有機酸と3価以上のアルコールが縮合した構造を有するエステル化合物を、可塑剤として1〜25質量%含有することが好ましい。1質量%よりも少ないと可塑剤を添加する効果が認められず、25質量%よりも多いとブリードアウトが発生しやすくなり、フィルムの経時安定性が低下するために好ましくない。より好ましくは上記可塑剤を3〜20質量%含有する光学フィルムであり、さらに好ましくは5〜15質量%含有する光学フィルムである。
【化7】

【0167】
可塑剤とは、一般的には高分子中に添加することによって脆弱性を改良したり、柔軟性を付与したりする効果のある添加剤であるが、本発明においては、セルロースエステル単独での溶融温度よりも溶融温度を低下させるため、また同じ加熱温度においてセルロース樹脂単独よりも可塑剤を含むフィルム組成物の溶融粘度を低下させるために、可塑剤を添加する。また、セルロースエステルの親水性を改善し、光学フィルムの透湿度改善するためにも添加されるため透湿防止剤としての機能を有する。
【0168】
ここで、フィルム組成物の溶融温度とは、該材料が加熱され流動性が発現された状態の温度を意味する。セルロースエステルを溶融流動させるためには、少なくともガラス転移温度よりも高い温度に加熱する必要がある。ガラス転移温度以上においては、熱量の吸収により弾性率あるいは粘度が低下し、流動性が発現される。しかしセルロースエステルでは高温下では溶融と同時に熱分解によってセルロースエステルの分子量の低下が発生し、得られるフィルムの力学特性等に悪影響を及ぼすことがあるため、なるべく低い温度でセルロースエステルを溶融させる必要がある。フィルム組成物の溶融温度を低下させるためには、セルロースエステルのガラス転移温度よりも低い融点またはガラス転移温度をもつ可塑剤を添加することで達成することができる。本発明に用いられる、前記一般式(1)で表される有機酸と多価アルコールが縮合した構造を有する多価アルコールエステル系可塑剤は、セルロースエステルの溶融温度を低下させ、溶融製膜プロセスや製造後にも揮発性が小さく工程適性が良好であり、かつ得られる光学フィルムの光学特性・寸法安定性・平面性が良好となる点で優れている。
【0169】
前記一般式(1)において、R〜Rは水素原子またはシクロアルキル基、アラルキル基、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アシル基、カルボニルオキシ基、オキシカルボニル基、オキシカルボニルオキシ基を表し、これらはさらに置換基を有していて良く、R〜Rのうち、少なくともいずれかは1つは水素原子ではない。Lは2価の連結基を表し、置換または無置換のアルキレン基、酸素原子、または直接結合を表す。
【0170】
〜Rで表されるシクロアルキル基としては、同様に炭素数3〜8のシクロアルキル基が好ましく、具体的にはシクロプロピル、シクロペンチル、シクロヘキシル等の基である。これらの基は置換されていてもよく、好ましい置換基としては、ハロゲン原子、例えば、塩素原子、臭素原子、フッ素原子等、ヒドロキシル基、アルキル基、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アラルキル基(このフェニル基にはアルキル基またはハロゲン原子等によってさらに置換されていてもよい)、ビニル基、アリル基等のアルケニル基、フェニル基(このフェニル基にはアルキル基またはハロゲン原子等によってさらに置換されていてもよい)、フェノキシ基(このフェニル基にはアルキル基またはハロゲン原子等によってさらに置換されていてもよい)、アセチル基、プロピオニル基等の炭素数2〜8のアシル基、またアセチルオキシ基、プロピオニルオキシ基等の炭素数2〜8の無置換のカルボニルオキシ基等が挙げられる。
【0171】
〜Rで表されるアラルキル基としては、ベンジル基、フェネチル基、γ−フェニルプロピル基等の基を表し、また、これらの基は置換されていてもよく、好ましい置換基としては、前記のシクロアルキル基に置換してもよい基を同様に挙げることができる。
【0172】
〜Rで表されるアルコキシ基としては、炭素数1〜8のアルコキシ基が挙げられ、具体的には、メトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、n−ブトキシ、n−オクチルオキシ、イソプロポキシ、イソブトキシ、2−エチルヘキシルオキシ、もしくはt−ブトキシ等の各アルコキシ基である。また、これらの基は置換されていてもよく、好ましい置換基としては、ハロゲン原子、例えば、塩素原子、臭素原子、フッ素原子等、ヒドロキシル基、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アラルキル基(このフェニル基にはアルキル基またはハロゲン原子等を置換していてもよい)、アルケニル基、フェニル基(このフェニル基にはアルキル基またはハロゲン原子等によってさらに置換されていてもよい)、アリールオキシ基〔例えばフェノキシ基(このフェニル基にはアルキル基またはハロゲン原子等によってさらに置換されていてもよい)〕、アセチル基、プロピオニル基等のアシル基が、またアセチルオキシ基、プロピオニルオキシ基等の炭素数2〜8の無置換のアシルオキシ基、またベンゾイルオキシ基等のアリールカルボニルオキシ基が挙げられる。
【0173】
〜Rで表されるシクロアルコキシ基としては、無置換のシクロアルコキシ基としては炭素数1〜8のシクロアルコキシ基が挙げられ、具体的には、シクロプロピルオキシ、シクロペンチルオキシ、シクロヘキシルオキシ等の基が挙げられる。また、これらの基は置換されていてもよく、好ましい置換基としては、前記のシクロアルキル基に置換してもよい基を同様に挙げることができる。
【0174】
〜Rで表されるアリールオキシ基としては、フェノキシ基が挙げられるが、このフェニル基にはアルキル基またはハロゲン原子等前記シクロアルキル基に置換してもよい基として挙げられた置換基で置換されていてもよい。
【0175】
〜Rで表されるアラルキルオキシ基としては、ベンジルオキシ基、フェネチルオキシ基等が挙げられ、これらの置換基はさらに置換されていてもよく、好ましい置換基としては、前記のシクロアルキル基に置換してもよい基を同様に挙げることができる。
【0176】
〜Rで表されるアシル基としては、アセチル基、プロピオニル基等の炭素数2〜8の無置換のアシル基が挙げられ(アシル基の炭化水素基としては、アルキル、アルケニル、アルキニル基を含む。)、これらの置換基はさらに置換されていてもよく、好ましい置換基としては、前記のシクロアルキル基に置換してもよい基を同様に挙げることができる。
【0177】
〜Rで表されるカルボニルオキシ基としては、アセチルオキシ基、プロピオニルオキシ基等の炭素数2〜8の無置換のアシルオキシ基(アシル基の炭化水素基としては、アルキル、アルケニル、アルキニル基を含む)、またベンゾイルオキシ基等のアリールカルボニルオキシ基が挙げられるが、これらの基はさらに前記シクロアルキル基に置換してもよい基と同様の基により置換されていてもよい。
【0178】
〜Rで表されるオキシカルボニル基としては、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロピルオキシカルボニル基等のアルコキシカルボニル基、またフェノキシカルボニル基等のアリールオキシカルボニル基を表す。これらの置換基はさらに置換されていてもよく、好ましい置換基としては、前記のシクロアルキル基に置換してもよい基を同様に挙げることができる。
【0179】
また、R〜Rで表されるオキシカルボニルオキシ基としては、メトキシカルボニルオキシ基等の炭素数1〜8のアルコキシカルボニルオキシ基を表し、これらの置換基はさらに置換されていてもよく、好ましい置換基としては、前記のシクロアルキル基に置換してもよい基を同様に挙げることができる。
【0180】
また、これらR〜Rのうち、少なくともいずれかは1つは水素原子ではない。なおR〜Rのうちのいずれか同士で互いに連結し、環構造を形成していても良い。
【0181】
また、Lで表される連結基としては、置換または無置換のアルキレン基、酸素原子、または直接結合を表すが、アルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基等の基であり、これらの基は、さらに前記のR〜Rで表される基に置換してもよい基としてあげられた基で置換されていてもよい。
【0182】
中でも、Lで表される連結基として特に好ましいのは直接結合であり芳香族カルボン酸である。
【0183】
またこれら本発明において可塑剤となるエステル化合物を構成する、前記一般式(1)で表される有機酸としては、少なくともRまたはRに前記アルコキシ基、アシル基、オキシカルボニル基、カルボニルオキシ基、オキシカルボニルオキシ基を有するものが好ましい。また複数の置換基を有する化合物も好ましい。
【0184】
なお本発明においては3価以上のアルコールの水酸基を置換する有機酸は単一種であっても複数種であってもよい。
【0185】
本発明において、前記一般式(1)で表される有機酸と反応して多価アルコールエステル化合物を形成する3価以上のアルコール化合物としては、好ましくは3〜20価の脂肪族多価アルコールであり、本発明において3価以上のアルコールは下記の一般式(3)で表されるものが好ましい。
【0186】
R′−(OH)m …(3)
式中、R′はm価の有機基、mは3以上の正の整数、OH基はアルコール性水酸基を表す。特に好ましいのは、mとしては3または4の多価アルコールである。
【0187】
好ましい多価アルコールの例としては、例えば以下のようなものを挙げることができるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0188】
アドニトール、アラビトール、1,2,4−ブタントリオール、1,2,3−ヘキサントリオール、1,2,6−ヘキサントリオール、グリセリン、ジグリセリン、エリスリトール、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、ガラクチトール、グルコース、セロビオース、イノシトール、マンニトール、3−メチルペンタン−1,3,5−トリオール、ピナコール、ソルビトール、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、キシリトール等を挙げることができる。特に、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールが好ましい。
【0189】
一般式(1)で表される有機酸と3価以上の多価アルコールのエステルは、公知の方法により合成できる。実施例に代表的合成例を示したが、前記一般式(1)で表される有機酸と、多価アルコールを例えば、酸の存在下縮合させエステル化する方法、また、有機酸を予め酸クロライドあるいは酸無水物としておき、多価アルコールと反応させる方法、有機酸のフェニルエステルと多価アルコールを反応させる方法等があり、目的とするエステル化合物により、適宜、収率のよい方法を選択することが好ましい。
【0190】
一般式(1)で表される有機酸と3価以上の多価アルコールのエステルからなる可塑剤としては、下記一般式(2)で表される化合物が好ましい。
【化8】

【0191】
前記一般式(2)において、R〜R20は水素原子またはシクロアルキル基、アラルキル基、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アシル基、カルボニルオキシ基、オキシカルボニル基、オキシカルボニルオキシ基を表し、これらはさらに置換基を有していて良い。R〜R10のうち、少なくともいずれか1つは水素原子ではなく、R11〜R15のうち、少なくともいずれか1つは水素原子ではなく、R16〜R20のうち、少なくともいずれか1つは水素原子ではない。また、R21はアルキル基を表す。
【0192】
〜R21のシクロアルキル基、アラルキル基、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アシル基、カルボニルオキシ基、オキシカルボニル基、オキシカルボニルオキシ基については、前記R〜Rと同様の基が挙げられる。
【0193】
この様にして得られる多価アルコールエステルの分子量には特に制限はないが、300〜1500であることが好ましく、400〜1000であることがさらに好ましい。分子量が大きい方が揮発し難くなるため好ましく、透湿性、セルロースエステルとの相溶性の点では小さい方が好ましい。
【0194】
以下に、本発明に係わる多価アルコールエステルの具体的化合物を例示する。
【化9】

【化10】

【化11】

【化12】

【化13】

【化14】

【化15】

【化16】

【化17】

【化18】

【化19】

【化20】

【化21】

【化22】

【0195】
本発明の光学フィルムは、他の可塑剤と併用してもよい。
【0196】
本発明に好ましい可塑剤である前記一般式(1)で表される有機酸と3価以上の多価アルコールからなるエステル化合物は、セルロースエステルに対する相溶性が高く、高添加率で添加することができる特徴があるため、他の可塑剤や添加剤を併用してもブリードアウトを発生することがなく、必要に応じて他種の可塑剤や添加剤を容易に併用することができる。
【0197】
なお他の可塑剤を併用する際には、前記一般式(1)で表される可塑剤が、可塑剤全体の少なくとも50質量%以上含有されることが好ましい。より好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上含有されることが好ましい。このような範囲で用いれば、他の可塑剤との併用によっても、溶融流延時のセルロールエステルフィルムの平面性を向上させることができるという、一定の効果を得ることができる。
【0198】
好ましい他の可塑剤として下記の可塑剤が挙げられる。
【0199】
(多価アルコールと1価のカルボン酸からなるエステル系可塑剤、多価カルボン酸と1価のアルコールからなるエステル系可塑剤)
多価アルコールと1価のカルボン酸からなるエステル系可塑剤、多価カルボン酸と1価のアルコールからなるエステル系可塑剤はセルロースエステルと親和性が高く好ましい。
【0200】
多価アルコールエステル系の一つであるエチレングリコールエステル系の可塑剤:具体的には、エチレングリコールジアセテート、エチレングリコールジブチレート等のエチレングリコールアルキルエステル系の可塑剤、エチレングリコールジシクロプロピルカルボキシレート、エチレングリコールジシクロヘキルカルボキシレート等のエチレングリコールシクロアルキルエステル系の可塑剤、エチレングリコールジベンゾエート、エチレングリコールジ4−メチルベンゾエート等のエチレングリコールアリールエステル系の可塑剤が挙げられる。これらアルキレート基、シクロアルキレート基、アリレート基は、同一でもあっても異なっていてもよく、さらに置換されていてもよい。またアルキレート基、シクロアルキレート基、アリレート基のミックスでもよく、またこれら置換基同志が共有結合で結合していてもよい。さらにエチレングリコール部も置換されていてもよく、エチレングリコールエステルの部分構造が、ポリマーの一部、あるいは規則的にペンダントされていてもよく、また酸化防止剤、酸掃去剤、紫外線吸収剤等の添加剤の分子構造の一部に導入されていてもよい。
【0201】
多価アルコールエステル系の一つであるグリセリンエステル系の可塑剤:具体的にはトリアセチン、トリブチリン、グリセリンジアセテートカプリレート、グリセリンオレートプロピオネート等のグリセリンアルキルエステル、グリセリントリシクロプロピルカルボキシレート、グリセリントリシクロヘキシルカルボキシレート等のグリセリンシクロアルキルエステル、グリセリントリベンゾエート、グリセリン4−メチルベンゾエート等のグリセリンアリールエステル、ジグリセリンテトラアセチレート、ジグリセリンテトラプロピオネート、ジグリセリンアセテートトリカプリレート、ジグリセリンテトララウレート、等のジグリセリンアルキルエステル、ジグリセリンテトラシクロブチルカルボキシレート、ジグリセリンテトラシクロペンチルカルボキシレート等のジグリセリンシクロアルキルエステル、ジグリセリンテトラベンゾエート、ジグリセリン3−メチルベンゾエート等のジグリセリンアリールエステル等が挙げられる。これらアルキレート基、シクロアルキルカルボキシレート基、アリレート基は同一でもあっても異なっていてもよく、さらに置換されていてもよい。またアルキレート基、シクロアルキルカルボキシレート基、アリレート基のミックスでもよく、またこれら置換基同志が共有結合で結合していてもよい。さらにグリセリン、ジグリセリン部も置換されていてもよく、グリセリンエステル、ジグリセリンエステルの部分構造がポリマーの一部、あるいは規則的にペンダントされていてもよく、また酸化防止剤、酸掃去剤、紫外線吸収剤等の添加剤の分子構造の一部に導入されていてもよい。
【0202】
その他の多価アルコールエステル系の可塑剤としては、具体的には特開2003−12823号公報の段落30〜33記載の多価アルコールエステル系可塑剤が挙げられる。
【0203】
これらアルキレート基、シクロアルキルカルボキシレート基、アリレート基は、同一でもあっても異なっていてもよく、さらに置換されていてもよい。またアルキレート基、シクロアルキルカルボキシレート基、アリレート基のミックスでもよく、またこれら置換基同志が共有結合で結合していてもよい。さらに多価アルコール部も置換されていてもよく、多価アルコールの部分構造が、ポリマーの一部、あるいは規則的にペンダントされていてもよく、また酸化防止剤、酸掃去剤、紫外線吸収剤等の添加剤の分子構造の一部に導入されていてもよい。
【0204】
上記多価アルコールと1価のカルボン酸からなるエステル系可塑剤の中では、アルキル多価アルコールアリールエステルが好ましく、具体的には上記のエチレングリコールジベンゾエート、グリセリントリベンゾエート、ジグリセリンテトラベンゾエート、特開2003−12823号公報の段落32記載例示化合物16が挙げられる。
【0205】
多価カルボン酸エステル系の一つであるジカルボン酸エステル系の可塑剤:具体的には、ジドデシルマロネート(C1)、ジオクチルアジペート(C4)、ジブチルセバケート(C8)等のアルキルジカルボン酸アルキルエステル系の可塑剤、ジシクロペンチルサクシネート、ジシクロヘキシルアジーペート等のアルキルジカルボン酸シクロアルキルエステル系の可塑剤、ジフェニルサクシネート、ジ4−メチルフェニルグルタレート等のアルキルジカルボン酸アリールエステル系の可塑剤、ジヘキシル−1,4−シクロヘキサンジカルボキシレート、ジデシルビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3−ジカルボキシレート等のシクロアルキルジカルボン酸アルキルエステル系の可塑剤、ジシクロヘキシル−1,2−シクロブタンジカルボキシレート、ジシクロプロピル−1,2−シクロヘキシルジカルボキシレート等のシクロアルキルジカルボン酸シクロアルキルエステル系の可塑剤、ジフェニル−1,1−シクロプロピルジカルボキシレート、ジ2−ナフチル−1,4−シクロヘキサンジカルボキシレート等のシクロアルキルジカルボン酸アリールエステル系の可塑剤、ジエチルフタレート、ジメチルフタレート、ジオクチルフタレート、ジブチルフタレート、ジ−2−エチルヘキシルフタレート等のアリールジカルボン酸アルキルエステル系の可塑剤、ジシクロプロピルフタレート、ジシクロヘキシルフタレート等のアリールジカルボン酸シクロアルキルエステル系の可塑剤、ジフェニルフタレート、ジ4−メチルフェニルフタレート等のアリールジカルボン酸アリールエステル系の可塑剤が挙げられる。これらアルコキシ基、シクロアルコキシ基は、同一でもあっても異なっていてもよく、また一置換でもよく、これらの置換基はさらに置換されていてもよい。アルキル基、シクロアルキル基はミックスでもよく、またこれら置換基同志が共有結合で結合していてもよい。さらにフタル酸の芳香環も置換されていてよく、ダイマー、トリマー、テトラマー等の多量体でもよい。またフタル酸エステルの部分構造が、ポリマーの一部、あるいは規則的にポリマーへペンダントされていてもよく、酸化防止剤、酸掃去剤、紫外線吸収剤等の添加剤の分子構造の一部に導入されていてもよい。
【0206】
その他の多価カルボン酸エステル系の可塑剤としては、具体的にはトリドデシルトリカルバレート、トリブチル−meso−ブタン−1,2,3,4−テトラカルボキシレート等のアルキル多価カルボン酸アルキルエステル系の可塑剤、トリシクロヘキシルトリカルバレート、トリシクロプロピル−2−ヒドロキシ−1,2,3−プロパントリカルボキシレート等のアルキル多価カルボン酸シクロアルキルエステル系の可塑剤、トリフェニル2−ヒドロキシ−1,2,3−プロパントリカルボキシレート、テトラ3−メチルフェニルテトラヒドロフラン−2,3,4,5−テトラカルボキシレート等のアルキル多価カルボン酸アリールエステル系の可塑剤、テトラヘキシル−1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボキシレート、テトラブチル−1,2,3,4−シクロペンタンテトラカルボキシレート等のシクロアルキル多価カルボン酸アルキルエステル系の可塑剤、テトラシクロプロピル−1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボキシレート、トリシクロヘキシル−1,3,5−シクロヘキシルトリカルボキシレート等のシクロアルキル多価カルボン酸シクロアルキルエステル系の可塑剤、トリフェニル−1,3,5−シクロヘキシルトリカルボキシレート、ヘキサ4−メチルフェニル−1,2,3,4,5,6−シクロヘキシルヘキサカルボキシレート等のシクロアルキル多価カルボン酸アリールエステル系の可塑剤、トリドデシルベンゼン−1,2,4−トリカルボキシレート、テトラオクチルベンゼン−1,2,4,5−テトラカルボキシレート等のアリール多価カルボン酸アルキルエステル系の可塑剤、トリシクロペンチルベンゼン−1,3,5−トリカルボキシレート、テトラシクロヘキシルベンゼン−1,2,3,5−テトラカルボキシレート等のアリール多価カルボン酸シクロアルキルエステル系の可塑剤トリフェニルベンゼン−1,3,5−テトラカルトキシレート、ヘキサ4−メチルフェニルベンゼン−1,2,3,4,5,6−ヘキサカルボキシレート等のアリール多価カルボン酸アリールエステル系の可塑剤が挙げられる。これらアルコキシ基、シクロアルコキシ基は、同一でもあっても異なっていてもよく、また1置換でもよく、これらの置換基はさらに置換されていてもよい。アルキル基、シクロアルキル基はミックスでもよく、またこれら置換基同志が共有結合で結合していてもよい。さらにフタル酸の芳香環も置換されていてよく、ダイマー、トリマー、テトラマー等の多量体でもよい。またフタル酸エステルの部分構造がポリマーの一部、あるいは規則的にポリマーへペンダントされていてもよく、酸化防止剤、酸掃去剤、紫外線吸収剤等の添加剤の分子構造の一部に導入されていてもよい。
【0207】
上記多価カルボン酸と1価のアルコールからなるエステル系可塑剤の中では、ジアルキルカルボン酸アルキルエステルが好ましく、具体的には上記のジオクチルアジペート、トリデシルトリカルバレートが挙げられる。
【0208】
(その他の可塑剤)
本発明に用いられるその他の可塑剤としては、さらにリン酸エステル系可塑剤、ポリマー可塑剤等が挙げられる。
【0209】
リン酸エステル系の可塑剤:具体的には、トリアセチルホスフェート、トリブチルホスフェート等のリン酸アルキルエステル、トリシクロベンチルホスフェート、シクロヘキシルホスフェート等のリン酸シクロアルキルエステル、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルフェニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、ジフェニルビフェニルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリナフチルホスフェート、トリキシリルオスフェート、トリスオルト−ビフェニルホスフェート等のリン酸アリールエステルが挙げられる。これらの置換基は同一でもあっても異なっていてもよく、さらに置換されていてもよい。またアルキル基、シクロアルキル基、アリール基のミックスでもよく、また置換基同志が共有結合で結合していてもよい。
【0210】
またエチレンビス(ジメチルホスフェート)、ブチレンビス(ジエチルホスフェート)等のアルキレンビス(ジアルキルホスフェート)、エチレンビス(ジフェニルホスフェート)、プロピレンビス(ジナフチルホスフェート)等のアルキレンビス(ジアリールホスフェート)、フェニレンビス(ジブチルホスフェート)、ビフェニレンビス(ジオクチルホスフェート)等のアリーレンビス(ジアルキルホスフェート)、フェニレンビス(ジフェニルホスフェート)、ナフチレンビス(ジトルイルホスフェート)等のアリーレンビス(ジアリールホスフェート)等のリン酸エステルが挙げられる。これらの置換基は同一でもあっても異なっていてもよく、さらに置換されていてもよい。またアルキル基、シクロアルキル基、アリール基のミックスでもよく、また置換基同志が共有結合で結合していてもよい。
【0211】
さらにリン酸エステルの部分構造が、ポリマーの一部、あるいは規則的にペンダントされていてもよく、また酸化防止剤、酸掃去剤、紫外線吸収剤等の添加剤の分子構造の一部に導入されていてもよい。上記化合物の中では、リン酸アリールエステル、アリーレンビス(ジアリールホスフェート)が好ましく、具体的にはトリフェニルホスフェート、フェニレンビス(ジフェニルホスフェート)が好ましい。
【0212】
ポリマー可塑剤:具体的には、脂肪族炭化水素系ポリマー、脂環式炭化水素系ポリマー、ポリアクリル酸エチル、ポリメタクリル酸メチル等のアクリル系ポリマー、ポリビニルイソブチルエーテル、ポリN−ビニルピロリドン等のビニル系ポリマー、ポリスチレン、ポリ4−ヒドロキシスチレン等のスチレン系ポリマー、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド等のポリエーテル、ポリアミド、ポリウレタン、ポリウレア等が挙げられる。数平均分子量は1,000〜500,000程度が好ましく、特に好ましくは、5000〜200000である。1000以下では揮発性に問題が生じ、500000を超えると可塑化能力が低下し、セルロースエステルフィルムの機械的性質に悪影響を及ぼす。これらポリマー可塑剤は1種の繰り返し単位からなる単独重合体でも、複数の繰り返し構造体を有する共重合体でもよい。また、上記ポリマーを2種以上併用して用いてもよい。
【0213】
なお本発明の光学フィルムは、着色すると光学用途として影響を与えるため、好ましくは黄色度(イエローインデックス、YI)が3.0以下、より好ましくは1.0以下である。黄色度はJIS−K7103に基づいて測定することができる。
【0214】
可塑剤は、前述のセルロースエステル同様に、製造時から持ち越される、あるいは保存中に発生する残留酸、無機塩、有機低分子等の不純物を除去する事が好ましく、より好ましくは純度99%以上である。残留酸、及び水としては、0.01〜100ppmであることが好ましく、セルロース樹脂を溶融製膜する上で、熱劣化を抑制でき、製膜安定性、フィルムの光学物性、機械物性が向上する。
【0215】
(溶融製膜時に使用する酸化防止剤)
セルロースエステルは、溶融製膜が行われるような高温環境下では熱だけでなく酸素によっても分解が促進されるため、本発明の光学フィルムにおいては安定化剤として酸化防止剤を含有することが好ましい。
【0216】
本発明において有用な酸化防止剤としては、酸素による溶融成形材料の劣化を抑制する化合物であれば制限なく用いることができるが、中でも有用な酸化防止剤としては、フェノール系化合物、ヒンダードアミン系化合物、リン系化合物、イオウ系化合物、耐熱加工安定剤、酸素スカベンジャー等が挙げられ、これらの中でも、特にフェノール系化合物、ヒンダードアミン系化合物、リン系化合物が好ましい。これらの化合物は、(セルロースエステルの洗浄に使用する酸化防止剤)で説明した化合物と同義である。これらの化合物を配合することにより、透明性、耐熱性等を低下させることなく、溶融成型時の熱や熱酸化劣化等による成形体の着色や強度低下を防止できる。これらの酸化防止剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0217】
酸化防止剤の添加量は、セルロースエステル100質量部に対して、通常0.01〜10質量部、好ましくは0.05〜5質量部、さらに好ましくは0.1〜3質量部である。
【0218】
(酸掃去剤)
酸掃去剤とは製造時から持ち込まれるセルロースエステル中に残留する酸(プロトン酸)をトラップする役割を担う剤である。また、セルロースエステルを溶融するとポリマー中の水分と熱により側鎖の加水分解が促進し、CAPならば酢酸やプロピオン酸が生成する。酸と化学的に結合できればよく、エポキシ、3級アミン、エーテル構造等を有する化合物が挙げられるが、これに限定されるものでない。
【0219】
具体的には、米国特許第4,137,201号明細書に記載されている酸掃去剤としてのエポキシ化合物を含んでなるのが好ましい。このような酸掃去剤としてのエポキシ化合物は当該技術分野において既知であり、種々のポリグリコールのジグリシジルエーテル、特にポリグリコール1モル当たりに約8〜40モルのエチレンオキシドなどの縮合によって誘導されるポリグリコール、グリセロールのジグリシジルエーテルなど、金属エポキシ化合物(例えば、塩化ビニルポリマー組成物において、及び塩化ビニルポリマー組成物と共に、従来から利用されているもの)、エポキシ化エーテル縮合生成物、ビスフェノールAのジグリシジルエーテル(即ち、4,4′−ジヒドロキシジフェニルジメチルメタン)、エポキシ化不飽和脂肪酸エステル(特に、2〜22この炭素原子の脂肪酸の4〜2個程度の炭素原子のアルキルのエステル(例えば、ブチルエポキシステアレート)など)、及び種々のエポキシ化長鎖脂肪酸トリグリセリドなど(例えば、エポキシ化大豆油などの組成物によって代表され、例示され得る、エポキシ化植物油及び他の不飽和天然油(これらは時としてエポキシ化天然グリセリドまたは不飽和脂肪酸と称され、これらの脂肪酸は一般に12〜22個の炭素原子を含有している))が含まれる。特に好ましいのは、市販のエポキシ基含有エポキシド樹脂化合物 EPON 815c、及び一般式(4)の他のエポキシ化エーテルオリゴマー縮合生成物である。
【化23】

【0220】
上式中、nは0〜12に等しい。用いることができるさらに可能な酸掃去剤としては、特開平5−194788号公報の段落87〜105に記載されているものが含まれる。
【0221】
酸掃去剤は、前述のセルロース樹脂同様に、製造時から持ち越される、あるいは保存中に発生する残留酸、無機塩、有機低分子等の不純物を除去する事が好ましく、より好ましくは純度99%以上である。残留酸、及び水としては、0.01〜100ppmであることが好ましく、セルロース樹脂を溶融製膜する上で、熱劣化を抑制でき、製膜安定性、フィルムの光学物性、機械物性が向上する。
【0222】
なお酸掃去剤は酸捕捉剤、酸捕獲剤、酸キャッチャー等と称されることもあるが、本発明においてはこれらの呼称による差異なく用いることができる。
【0223】
(紫外線吸収剤)
紫外線吸収剤としては、偏光子や表示装置の紫外線に対する劣化防止の観点から、波長370nm以下の紫外線の吸収能に優れており、且つ液晶表示性の観点から、波長400nm以上の可視光の吸収が少ないものが好ましい。例えば、オキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シアノアクリレート系化合物、ニッケル錯塩系化合物等を挙げることができるが、ベンゾフェノン系化合物や着色の少ないベンゾトリアゾール系化合物が好ましい。また、紫外線吸収剤の構造は、紫外線吸収能を有する部位が一分子中に複数存在している二量体、三量体、四量体等の多量体でも良く、特開平10−182621号公報、同8−337574号公報記載の紫外線吸収剤、特開平6−148430号公報記載の高分子紫外線吸収剤を用いてもよい。
【0224】
有用なベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤の具体例として、2−(2′−ヒドロキシ−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′,5′−ジ−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′−tert−ブチル−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′,5′−ジ−tert−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′−(3″,4″,5″,6″−テトラヒドロフタルイミドメチル)−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2−メチレンビス(4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール)、2−(2′−ヒドロキシ−3′−tert−ブチル−5′−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−6−(直鎖及び側鎖ドデシル)−4−メチルフェノール、オクチル−3−〔3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−(クロロ−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェニル〕プロピオネートと2−エチルヘキシル−3−〔3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−(5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェニル〕プロピオネートの混合物等を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0225】
また、市販品として、チヌビン(TINUVIN)109、チヌビン(TINUVIN)171、チヌビン(TINUVIN)360(いずれもチバ−スペシャルティ−ケミカルズ社製)を用いることもできる。
【0226】
ベンゾフェノン系化合物の具体例として、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2,2′−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−5−スルホベンゾフェノン、ビス(2−メトキシ−4−ヒドロキシ−5−ベンゾイルフェニルメタン)等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0227】
本発明においては、紫外線吸収剤は0.1〜20質量%添加することが好ましく、さらに0.5〜10質量%添加することが好ましく、さらに1〜5質量%添加することが好ましい。これらは2種以上を併用してもよい。
【0228】
(粘度低下剤)
本発明において、溶融粘度を低減する目的として、水素結合性溶媒を添加する事ができる。水素結合性溶媒とは、J.N.イスラエルアチビリ著、「分子間力と表面力」(近藤保、大島広行訳、マグロウヒル出版、1991年)に記載されるように、電気的に陰性な原子(酸素、窒素、フッ素、塩素)と電気的に陰性な原子と共有結合した水素原子間に生ずる、水素原子媒介「結合」を生ずることができるような有機溶媒、すなわち、結合モーメントが大きく、かつ水素を含む結合、例えば、O−H(酸素水素結合)、N−H(窒素水素結合)、F−H(フッ素水素結合)を含むことで近接した分子同士が配列できるような有機溶媒をいう。これらは、セルロース樹脂の分子間水素結合よりもセルロースとの間で強い水素結合を形成する能力を有するもので、本発明で行う溶融流延法においては、用いるセルロース樹脂単独のガラス転移温度よりも、水素結合性溶媒の添加によりセルロース樹脂組成物の溶融温度を低下する事ができる、または同じ溶融温度においてセルロース樹脂よりも水素結合性溶媒を含むセルロース樹脂組成物の溶融粘度を低下する事ができる。
【0229】
水素結合性溶媒としては、例えば、アルコール類:例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、t−ブタノール、2−エチルヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ノナノール、ドデカノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ヘキシレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、ヘキシルセロソルブ、グリセリン等、ケトン類:アセトン、メチルエチルケトン等、カルボン酸類:例えば蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸等、エーテル類:例えば、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等、ピロリドン類:例えば、N−メチルピロリドン等、アミン類:例えば、トリメチルアミン、ピリジン等、等を例示することができる。これら水素結合性溶媒は、単独で、又は2種以上混合して用いることができる。これらのうちでも、アルコール、ケトン、エーテル類が好ましく、特にメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、オクタノール、ドデカノール、エチレングリコール、グリセリン、アセトン、テトラヒドロフランが好ましい。さらに、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、エチレングリコール、グリセリン、アセトン、テトラヒドロフランのような水溶性溶媒が特に好ましい。ここで水溶性とは、水100gに対する溶解度が10g以上のものをいう。
【0230】
(リターデーション制御剤)
本発明の光学フィルムにおいて配向膜を形成して液晶層を設け、光学フィルムと液晶層由来のリターデーションを複合化して光学補償能を付与した偏光板加工を行ってもよい。リターデーションを制御するために添加する化合物は、欧州特許第911,656A2号明細書に記載されているような、二つ以上の芳香族環を有する芳香族化合物をリターデーション制御剤として使用することもできる。また2種類以上の芳香族化合物を併用してもよい。該芳香族化合物の芳香族環には、芳香族炭化水素環に加えて、芳香族性ヘテロ環を含む。芳香族性ヘテロ環であることが特に好ましく、芳香族性ヘテロ環は一般に不飽和ヘテロ環である。中でも1,3,5−トリアジン環を有する化合物が特に好ましい。
【0231】
(マット剤)
本発明の光学フィルムには、滑り性を付与するためにマット剤等の微粒子を添加することができ、微粒子としては、無機化合物の微粒子または有機化合物の微粒子が挙げられる。マット剤はできるだけ微粒子のものが好ましく、微粒子としては、例えば、二酸化ケイ素、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、カオリン、タルク、焼成ケイ酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、リン酸カルシウム等の無機微粒子や架橋高分子微粒子を挙げることができる。中でも、二酸化ケイ素がフィルムのヘイズを低くできるので好ましい。二酸化ケイ素のような微粒子は有機物により表面処理されている場合が多いが、このようなものはフィルムのヘイズを低下できるため好ましい。
【0232】
表面処理で好ましい有機物としては、ハロシラン類、アルコキシシラン類、シラザン、シロキサンなどが挙げられる。微粒子の平均粒径が大きい方が滑り性効果は大きく、反対に平均粒径の小さい方は透明性に優れる。また、微粒子の二次粒子の平均粒径は0.05〜1.0μmの範囲である。好ましい微粒子の二次粒子の平均粒径は5〜50nmが好ましく、さらに好ましくは7〜14nmである。これらの微粒子は光学フィルム中では、光学フィルム表面に0.01〜1.0μmの凹凸を生成させるために好ましく用いられる。本発明におけるマット剤の添加量は、セルロースエステルフィルム1m当たり0.01〜10gが好ましい。
【0233】
二酸化ケイ素の微粒子としては、日本アエロジル株式会社製のアエロジル(AEROSIL)200、200V、300、R972、R972V、R974、R202、R812、OX50、TT600等を挙げることができ、好ましくはアエロジル200V、R972、R972V、R974、R202、R812である。これらの微粒子は2種以上併用してもよい。2種以上併用する場合、任意の割合で混合して使用することができる。この場合、平均粒径や材質の異なる微粒子、例えば、アエロジル200VとR972Vを質量比で0.1:99.9〜99.9:0.1の範囲で使用できる。
【0234】
この他、フィルムの機械強度を高めたり寸法変化を抑制するために、タルクやグラスファイバーを加えたり、難燃性を高めるために水酸化アルミニウムや水酸化マグネシウムなどの無機系などの粒子を添加しても良い。また、これら添加剤の形状は、球状、板状、針状、棒状等、糸状など、どのような形状のものでも良い。
【0235】
上記の添加として用いられるフィルム中の微粒子の存在は、別の目的として、フィルムの強度向上のために用いることもできる。また、フィルム中の上記微粒子の存在は、本発明の光学フィルムを構成するセルロースエステル自身の配向性を向上することも可能である。
【0236】
(高分子材料)
本発明の光学フィルムはセルロースエステル以外の高分子材料やオリゴマーを適宜選択して混合してもよい。前述の高分子材料やオリゴマーはセルロースエステルと相溶性に優れるものが好ましく、フィルムにしたときの透過率が80%以上、さらに好ましくは90%以上、さらに好ましくは92%以上であることが好ましい。セルロースエステル以外の高分子材料やオリゴマーの少なくとも1種以上を混合する目的は、加熱溶融時の粘度制御やフィルム加工後のフィルム物性を向上するために行う意味を含んでいる。この場合は、上述のその他添加剤として含むことができる。
【0237】
(偏光板)
本発明の光学フィルムを少なくとも一方の面に有する偏光板は、電界による液晶の配向の変化を可視化させる重要な役割を、充分に果たすことができる。
【0238】
偏光板は一般的な方法で作製することができる。アルカリ鹸化処理した本発明のセルロ−スエステルフィルムは、ポリビニルアルコール系フィルムをヨウ素溶液中に浸漬延伸して作製した偏光子の少なくとも一方の面に、完全鹸化型ポリビニルアルコール水溶液を用いて貼り合わせることが好ましい。もう一方の面にも本発明のセルロ−スエステルフィルムを用いても、別の偏光板保護フィルムを用いてもよい。本発明のセルロ−スエステルフィルムに対して、もう一方の面に用いられる偏光板保護フィルムは市販のセルロースエステルフィルムを用いることができる。例えば、市販のセルロースエステルフィルムとして、KC8UX2M、KC4UX、KC5UX、KC4UY、KC8UY、KC12UR、KC8UY−HA、KC8UX−RHA(以上、コニカミノルタオプト株式会社製)等が好ましく用いられる。あるいは、セルロースエステルフィルム以外の環状オレフィン樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル、ポリカーボネート等のフィルムをもう一方の面の偏光板保護フィルムとして用いてもよい。この場合は、ケン化適性が低いため、適当な接着層を介して偏光板に接着加工することが好ましい。
【0239】
本発明の偏光板は、本発明のセルロ−スエステルフィルムを偏光子の少なくとも片側に偏光板保護フィルムとして使用したものである。その際、該セルロ−スエステルフィルムの遅相軸が偏光子の吸収軸に実質的に平行または直交するように配置されていることが好ましい。
【0240】
この偏光板が、横電界スイッチングモード型である液晶セルを挟んで配置される一方の偏光板として、本発明のセルロースエステルフィルム(特に好ましくは前述のセルロースエステルフィルムA)が液晶表示セル側に配置されることが好ましい。
【0241】
本発明の偏光板に好ましく用いられる偏光子としては、ポリビニルアルコール系偏光フィルムが挙げられ、これはポリビニルアルコール系フィルムにヨウ素を染色させたものと二色性染料を染色させたものがある。ポリビニルアルコール系フィルムとしては、エチレンで変性された変性ポリビニルアルコール系フィルムが好ましく用いられる。偏光子は、ポリビニルアルコール水溶液を製膜し、これを一軸延伸させて染色するか、染色した後一軸延伸してから、好ましくはホウ素化合物で耐久性処理を行ったものが用いられている。
【0242】
偏光子の膜厚は5〜40μm、好ましくは5〜30μmであり、特に好ましくは5〜20μmである。該偏光子の面上に、本発明のセルロ−スエステルフィルムの片面を貼り合わせて偏光板を形成する。好ましくは完全鹸化ポリビニルアルコール等を主成分とする水系の接着剤によって貼り合わせる。また、セルロースエステルフィルム以外の樹脂フィルムの場合は、適当な粘着層を介して偏光板に接着加工することができる。
【0243】
偏光子は一軸方向(通常は長手方向)に延伸されているため、偏光板を高温高湿の環境下に置くと延伸方向(通常は長手方向)は縮み、延伸に対して直交する方向(通常は幅手方向)には伸びる。偏光板保護フィルムの膜厚が薄くなるほど偏光板の伸縮率は大きくなり、特に偏光子の延伸方向の収縮量が大きい。通常、偏光子の延伸方向は偏光板保護フィルムの流延方向(MD方向)と貼り合わせるため、偏光板保護フィルムを薄膜化する場合は、特に流延方向の伸縮率を抑えることが重要である。本発明のセルロ−スエステルフィルムは寸法安定に優れるため、このような偏光板保護フィルムとして好適に使用される。
【0244】
偏光板は、さらに該偏光板の一方の面にプロテクトフィルムを、反対面にセパレートフィルムを貼合して構成することができる。プロテクトフィルム及びセパレートフィルムは偏光板出荷時、製品検査時等において偏光板を保護する目的で用いられる。
【0245】
(液晶表示装置)
本発明の光学フィルムが用いられた偏光板を液晶表示装置に組み込むことによって、種々の視認性に優れた液晶表示装置を作製することができる。本発明の光学フィルムは反射型、透過型、半透過型LCDあるいはTN型、STN型、OCB型、HAN型、VA型(PVA型、MVA型)、IPS型等の各種駆動方式のLCDで好ましく用いられる。特に画面が30型以上、特に30型〜54型の大画面の表示装置では、画面周辺部での白抜けなどもなく、その効果が長期間維持され、MVA型液晶表示装置では顕著な効果が認められる。特に、色むら、ぎらつきや波打ちムラが少なく、長時間の鑑賞でも目が疲れないという効果があった。 このように、本発明の偏光板を、液晶セルの少なくとも一方の面に有する表示装置は、表示品質が非常に優れているという効果を奏する。
【実施例】
【0246】
以下、実施例により本実施の形態をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0247】
実施例1〜3
(樹脂混合物)
セルロースアセテートプロピオネート 89重量%
(アセチル基置換度1.4、プロピオニル基置換度1.35、
数平均分子量60000)
トリメチロールプロパントリベンゾエート 9重量%
(可塑剤、融点85℃)
酸化防止剤 0.25重量%
(商品名−IRGANOX XP 420/FD、
チバスペシャルティケミカルズ社製)
紫外線吸収剤 1.6重量%
(商品名−TINUVIN 928、チバスペシャルティ
ケミカルズ社製、融点115℃)
マット剤(シリカ微粒子) 0.15重量%
(商品名−シーホスターKEP−30:日本触媒株式会社製、
平均粒径0.3μm)
なお、セルロースアセテートプロピオネートのアセチル基、プロピオニル基、ブチリル基等のアシル基の置換度の測定は、ASTM−D817−96に規定の方法に準じて測定した。
【0248】
(セルロースエステルフィルムの作製)
上記の材料をV型混合機で30分混合した後、ストランドダイを取り付けた2軸押出し機を用いて窒素雰囲気下で230℃で溶融させ、長さ4mm、直径3mmの円筒形のペレットを作製した(図示略)。得られたペレットの、示差走査熱量計(DSC)測定によるガラス転移温度(Tg)は、135℃であった。
【0249】
なお、DSC測定は、サンプルは、試料約10mgをパンチで打ち抜き、アルミパンに入れてふたをしてクリンプして作製した。これを、温度条件30〜250℃まで窒素中で、10℃/minで昇温し、20℃/minで冷却、再度同条件で250℃まで昇温したときの転移点を、ガラス転移温度(Tg)として記載した。
【0250】
上記ペレットを温度100℃で5時間乾燥させ、含水率100ppmとした。
【0251】
つぎに、図1に示す単軸押出し機(1)に、上記ペレットを供給して、Tダイよりなる流延ダイ(4)により製膜を行なった。
【0252】
単軸押出し機(1)は、スクリュー径90mm、およびL/D=30であり、押出し量が140kg/hとなるようにスクリューの回転数を調整した。材料供給口付近より窒素ガスを封入して、押出し機(1)内を窒素雰囲気に保った。押出し機(1)および流延ダイ(4)は、それぞれ温度を240℃に設定した。流延ダイ(4)はコートハンガータイプで、幅が1900mm、内壁にハードクロムメッキを施しており、面粗度0.1Sの鏡面に仕上げられている。流延ダイ(4)のリップ間隙は2mmに設定した。
【0253】
図1に示す流延冷却固化ゾーン(A)において、流延ダイ(4)から出たウェブ(10)を、ロール面長2400mmのハードクロムメッキ鏡面の第1冷却ロール(5)上に落下させ、同時に100℃に温度調整されたロール面長2400mmのタッチロール(6)によりフィルムを押圧した。
【0254】
このとき、第1冷却ロール(5)の表面温度を、樹脂のガラス転移温度(Tg=135℃)以下、添加剤の融点(可塑剤の融点85℃、及び紫外線吸収剤の融点115℃)以上である120℃に設定した。また、タッチロール(6)は、5N/mmの線圧でフィルムを押圧した。
第1冷却ロール(5)とタッチロール(6)に押圧されたウェブ(10)は、引き続いて、次の第2冷却ロール(7)、第3冷却ロール(8)に順次、外接させて冷却固化し、剥離ロール(9)によって剥離する。
ここで、第1冷却ロール(5)の周速度(S1)と、第2冷却ロール(7)の周速度(S2)の比(S2/S1)を、1.002とした。
本実施例においては、雰囲気温度の異なる流延冷却固化ゾーン(A)と延伸ゾーン(B)との間のウェブ(10)が移行するゾーン間移行部(21)に、紫外線照射装置(11)よりなる高エネルギー照射処理装置を設置して、ゾーン間移行部(21)を移行するウェブ(10)に、紫外線照射処理を施した。
図4に示すように、紫外線照射装置(11)は、ウェブ(10)の上下両側に配置されており、紫外線照射装置(11)として、放射照度40mW/cm の、Xe で波長172nmのエキシマUV(EUV)ランプが入ったエキシマ紫外線照射装置(11)を使用した。そして、エキシマUVランプの石英ガラス(q)の表面からウェブ(10)までの間隙(d)を5mmに設定した。また、ウェブ(10)の搬送速度は、エキシマ紫外線照射装置(11)の石英ガラスパネル間で紫外線が照射される時間を0.2secとなるように、ウェブ(10)を搬送し、製膜中、紫外線は連続して照射した。これにより、ウェブ(10)表面を積極的に改質して、添加剤のブリードアウトを防ぐようにした。
続いて、延伸ゾーン(B)で、ウェブ(10)の両端部を把持して幅手方向に延伸した。延伸ゾーン(B)の雰囲気温度を、実施例1では90℃に、実施例2では150℃に、実施例3では210℃に、それぞれ設定して実施した。
つぎに、延伸後の各セルロースアセテートプロピオネートフィルムのエッジをスリッター(図示略)でスリットして、雰囲気温度25℃の巻取りゾーン(C)で、最終的に膜厚40μm、幅2000mmのセルロースアセテートプロピオネートフィルムを巻き取った。この条件にて、3日間連続して製膜を行った。
なお、得られたセルロースアセテートプロピオネートフィルムのガラス転移温度(Tg)を、上記の原料ペレットの場合と同様に測定したところ、135℃であった。
実施例4〜6
本発明の方法により、上記実施例1〜3の場合と同様に、セルロースアセテートプロピオネートフィルムを製造するが、上記実施例1〜3の場合と異なる点は、図2に示すように、雰囲気温度の異なる延伸ゾーン(B)と巻取りゾーン(C)との間のウェブ(10)が移行するゾーン間移行部(22)に、紫外線照射装置(11)よりなる高エネルギー照射処理装置を設置して、ゾーン間移行部(22)を移行するウェブ(10)に、紫外線照射処理を施した点にある。
【0255】
紫外線照射装置(11)としては、上記実施例1〜3の場合と同様に、図4に示すウェブ(10)の上下両側に配置したタイプのエキシマ紫外線照射装置(11)を使用した。
【0256】
そして、延伸ゾーン(B)の雰囲気温度を、実施例4では90℃に、実施例5では150℃に、実施例6では210℃に、それぞれ設定して実施した。
【0257】
実施例7〜9
本発明の方法により、上記実施例1〜3の場合と同様に、セルロースアセテートプロピオネートフィルムを製造するが、上記実施例1〜3の場合と異なる点は、図3に示すように、雰囲気温度の異なる流延冷却固化ゾーン(A)と延伸ゾーン(B)との間のゾーン間移行部(21)、および延伸ゾーン(B)と巻取りゾーン(C)との間のゾーン間移行部(22)の両方に、紫外線照射装置(11)よりなる高エネルギー照射処理装置を設置して、ゾーン間移行部(22)を移行するウェブ(10)に、紫外線照射処理を施した点にある。
【0258】
紫外線照射装置(11)としては、上記実施例1〜3の場合と同様に、図4に示すウェブ(10)の上下両側に配置したタイプのエキシマ紫外線照射装置(11)を使用した。
【0259】
そして、延伸ゾーン(B)の雰囲気温度を、実施例7では90℃に、実施例8では150℃に、実施例9では210℃に、それぞれ設定して実施した。
【0260】
実施例10〜12
本発明の方法により、上記実施例1〜3の場合と同様に、セルロースアセテートプロピオネートフィルムを製造するが、上記実施例1〜3の場合と異なる点は、紫外線照射装置(11)として、図5に示すウェブ(10)の上側のみに配置したタイプの紫外線照射装置(11)を使用した点にある。
【0261】
そして、延伸ゾーン(B)の雰囲気温度を、実施例10では90℃に、実施11では150℃に、実施例12では210℃に、それぞれ設定して実施した。
【0262】
実施例13〜15
本発明の方法により、上記実施例4〜6の場合と同様に、セルロースアセテートプロピオネートフィルムを製造するが、上記実施例4〜6の場合と異なる点は、紫外線照射装置(11)として、図5に示すウェブ(10)の上側のみに配置したタイプの紫外線照射装置(11)を使用した点にある。
【0263】
そして、延伸ゾーン(B)の雰囲気温度を、実施例13では90℃に、実施14では150℃に、実施例15では210℃に、それぞれ設定して実施した。
【0264】
実施例16〜18
本発明の方法により、上記実施例7〜9の場合と同様に、セルロースアセテートプロピオネートフィルムを製造するが、上記実施例7〜9の場合と異なる点は、紫外線照射装置(11)として、図5に示すウェブ(10)の上側のみに配置したタイプの紫外線照射装置(11)を使用した点にある。
【0265】
そして、延伸ゾーン(B)の雰囲気温度を、実施例16では90℃に、実施17では150℃に、実施例18では210℃に、それぞれ設定して実施した。
【0266】
実施例19〜21
本発明の方法により、上記実施例1〜3の場合と同様に、セルロースアセテートプロピオネートフィルムを製造するが、上記実施例1〜3の場合と異なる点は、高エネルギー照射装置として、図6に示すダイレクトあるいはプラナー方式と呼ばれる常圧プラズマ照射装置(12)を使用した点にある。なお、常圧プラズマ照射装置(12)は、ウェブ(10)の上下両側に設置されている。
【0267】
ここで、常圧プラズマ装置(12)のプラズマのガス吹き出し口とウェブ(10)との間隔(d)を5mmとし、反応ガスは窒素のみで、使用量は照射幅1m当たり0.5m /minとした。このときの気圧は、1.0気圧とした。
【0268】
ウェブ(10)を、雰囲気温度の異なる流延冷却固化ゾーン(A)と延伸ゾーン(B)との間のゾーン間移行部(21)において搬送しながら、常圧プラズマ照射処理をした。
【0269】
このとき、ウェブ(10)への、プラズマガスの照射時間を0.1secとなるようウェブ(10)を搬送し、製膜中、プラズマ吹き出しガスを連続で照射した。
【0270】
なお、ここで言うプラズマ照射時間とは、プラズマ吹き出しガスに含まれるラジカルと、ウェブ(10)との厳密な接触時間が測定が困難なため、ここでは、ウェブ(10)の表面上のある点が、プラズマ吹き出しスリット間隙(h)の下を、その間隙分移動する時間を照射時間とした。例えば、吹き出しスリット間隙(h)が2mmで、ウェブ(10)の移動速度が2mm/secの場合、プラズマ照射時間は1secとなる。
【0271】
そして、延伸ゾーン(B)の雰囲気温度を、実施例19では90℃に、実施20では150℃に、実施例21では210℃に、それぞれ設定して実施した。
【0272】
実施例22〜24
本発明の方法により、上記実施例19〜21の場合と同様に、セルロースアセテートプロピオネートフィルムを製造するが、上記実施例19〜21の場合と異なる点は、図2に示すように、雰囲気温度の異なる延伸ゾーン(B)と巻取りゾーン(C)との間のウェブ(10)が移行するゾーン間移行部(22)に、常圧プラズマ照射装置(12)よりなる高エネルギー照射処理装置を設置して、ゾーン間移行部(22)を移行するウェブ(10)に、常圧プラズマ照射処理を施した点にある。
【0273】
常圧プラズマ照射装置(12)としては、上記実施例19〜21の場合と同様に、図6に示すダイレクトあるいはプラナー方式と呼ばれる常圧プラズマ照射装置(12)を使用した。なお、常圧プラズマ照射装置(12)は、ウェブ(10)の上下両側に設置されている。
【0274】
そして、延伸ゾーン(B)の雰囲気温度を、実施例22では90℃に、実施例23では150℃に、実施例24では210℃に、それぞれ設定して実施した。
【0275】
実施例25〜27
本発明の方法により、上記実施例19〜21の場合と同様に、セルロースアセテートプロピオネートフィルムを製造するが、上記実施例19〜21の場合と異なる点は、雰囲気温度の異なる流延冷却固化ゾーン(A)と延伸ゾーン(B)との間のゾーン間移行部(21)、および延伸ゾーン(B)と巻取りゾーン(C)との間のゾーン間移行部(22)の両方に、常圧プラズマ照射装置(12)よりなる高エネルギー照射処理装置を設置して、ゾーン間移行部(22)を移行するウェブ(10)に、常圧プラズマ照射照射処理を施した点にある。
【0276】
常圧プラズマ照射装置(12)としては、上記実施例19〜21の場合と同様に、図6に示すダイレクトあるいはプラナー方式と呼ばれる常圧プラズマ照射装置(12)を使用した。なお、常圧プラズマ照射装置(12)は、ウェブ(10)の上下両側に設置されている。
【0277】
そして、延伸ゾーン(B)の雰囲気温度を、実施例25では90℃に、実施例26では150℃に、実施例27では210℃に、それぞれ設定して実施した。
【0278】
実施例28〜30
本発明の方法により、上記実施例19〜21の場合と同様に、セルロースアセテートプロピオネートフィルムを製造するが、上記実施例19〜21の場合と異なる点は、リモートあるいはダウンフロー方式と呼ばれる、図7に示す常圧プラズマ照射装置(12)よりなる高エネルギー照射処理装置を、雰囲気温度の異なる流延冷却固化ゾーン(A)と延伸ゾーン(B)との間のゾーン間移行部(21)に設置して、ゾーン間移行部(21)を移行するウェブ(10)に、常圧プラズマ照射を施した点にある。
【0279】
高エネルギー照射装置としては、図7に示すウェブ(10)の上側のみに配置されたリモートあるいはダウンフロー方式と呼ばれる、常圧プラズマ照射装置(12)を使用した。
【0280】
ここで、常圧プラズマ装置(12)のプラズマのガス吹き出し口とウェブ(10)との間隔(d)を5mmとし、反応ガスは窒素のみで、使用量は照射幅1m当たり0.5m /minとした。このときの気圧は、1.0気圧とした。ウェブ(10)を、雰囲気温度の異なる流延冷却固化ゾーン(A)と延伸ゾーン(B)との間のゾーン間移行部(21)において搬送しながら、常圧プラズマ照射処理をした。
【0281】
このとき、ウェブ(10)への、プラズマガスの照射時間を0.002secとなるようウェブ(10)を搬送し、製膜中、プラズマ吹き出しガスを連続で照射した。
【0282】
なお、ここで言うプラズマ照射時間とは、プラズマ吹き出しガスに含まれるラジカルと、ウェブ(10)との厳密な接触時間が測定が困難なため、ここでは、ウェブ(10)の表面上のある点が、プラズマ吹き出しスリット(h)の下を、その間隙分移動する時間を照射時間とした。例えば、吹き出しスリット(h)の間隙が2mmで、ウェブ(10)の移動速度が2mm/secの場合、プラズマ照射時間は1secとなる。
【0283】
そして、延伸ゾーン(B)の雰囲気温度を、実施例28では90℃に、実施例29では150℃に、実施例30では210℃に、それぞれ設定して実施した。
【0284】
実施例31〜32
本発明の方法により、上記実施例28〜30の場合と同様に、セルロースアセテートプロピオネートフィルムを製造するが、上記実施例28〜30の場合と異なる点は、図2に示すように、雰囲気温度の異なる延伸ゾーン(B)と巻取りゾーン(C)との間のウェブ(10)が移行するゾーン間移行部(22)に、常圧プラズマ照射装置(12)よりなる高エネルギー照射処理装置を設置して、ゾーン間移行部(22)を移行するウェブ(10)に、常圧プラズマ照射処理を施した点にある。
【0285】
常圧プラズマ照射装置(12)としては、上記実施例28〜30の場合と同様に、図7に示すウェブ(10)の上側のみに配置されたリモートあるいはダウンフロー方式と呼ばれる、常圧プラズマ照射装置(12)を使用した。
【0286】
そして、延伸ゾーン(B)の雰囲気温度を、実施例31では90℃に、実施例32では150℃に、実施例33では210℃に、それぞれ設定して実施した。
【0287】
実施例34〜36
本発明の方法により、上記実施例28〜30の場合と同様に、セルロースアセテートプロピオネートフィルムを製造するが、上記実施例28〜30の場合と異なる点は、雰囲気温度の異なる流延冷却固化ゾーン(A)と延伸ゾーン(B)との間のゾーン間移行部(21)、および延伸ゾーン(B)と巻取りゾーン(C)との間のゾーン間移行部(22)の両方に、常圧プラズマ照射装置(12)よりなる高エネルギー照射処理装置を設置して、ゾーン間移行部(22)を移行するウェブ(10)に、常圧プラズマ照射処理を施した点にある。
【0288】
常圧プラズマ照射装置(12)としては、上記実施例28〜30の場合と同様に、図7に示すウェブ(10)の上側のみに配置されたリモートあるいはダウンフロー方式と呼ばれる、常圧プラズマ照射装置(12)を使用した。
【0289】
そして、延伸ゾーン(B)の雰囲気温度を、実施例34では90℃に、実施例35では150℃に、実施例36では210℃に、それぞれ設定して実施した。
【0290】
比較例1〜3
溶融流延製膜装置において、ウェブを、雰囲気温度の異なるゾーンを順次通過させる際、流延冷却固化ゾーンと延伸ゾーンとの間、および延伸ゾーンと巻取りゾーンとの間の、ウェブが移行するゾーン間移行部のいずれにも、紫外線照射装置あるいは常圧プラズマ装置よりなる高エネルギー照射処理装置を設置せずに、セルロースアセテートプロピオネートフィルムの製膜を、実施例1〜3の場合と同じ材料をを用いて行った。
【0291】
なお、延伸ゾーン(B)の雰囲気温度を、比較例1では90℃に、比較例2では150℃に、比較例3では210℃に、それぞれ設定して実施した。
【0292】
比較例4〜6
図8に示すように、従来の溶融流延製膜装置の流延冷却固化ゾーン(A)の最後尾のウェブ(30)を搬送する搬送ロール(31)、および延伸ゾーン(B)の先頭の搬送ロール(31)とに、それぞれ紫外線照射装置を設置した。
【0293】
紫外線照射装置としては、放射照度40mW/cmの、Xeで、波長172nmのエキシマUVランプが入ったものを使用した。紫外線照射装置の石英ガラスと搬送ロール(31)表面との間隙(d)は、5mmにした。
【0294】
なお、延伸ゾーン(B)の雰囲気温度を、比較例4では90℃に、比較例5では150℃に、比較例6では210℃に、それぞれ設定して実施した。
【0295】
比較例7〜9
図9に示すように、従来の溶融流延製膜装置の流延冷却固化ゾーン(A)の最後尾のウェブ(30)を搬送する搬送ロール(31)、および延伸ゾーン(B)の先頭の搬送ロール(31)とに、それぞれ常圧プラズマ照射装置を設置した。
【0296】
常圧プラズマ照射装置は、反応ガスは窒素のみで、使用量は照射幅1m当たり0.5m /minとした。このときの気圧は、1.0気圧とした。プラズマ吹き出しスリットと搬送ロール(31)表面との間隔を5mmにした。
【0297】
なお、延伸ゾーン(B)の雰囲気温度を、比較例7では90℃に、比較例8では150℃に、比較例9では210℃に、それぞれ設定して実施した。
【0298】
つぎに実施例1〜36および比較例1〜9で作製したセルロースアセテートプロピオネートフィルムを偏光板用保護フィルムとして用いて、下記の方法によって各種の偏光板を作製し、それらの評価を行った。
【0299】
(偏光膜の作製)
厚さ120μmの長尺のポリビニルアルコールフィルムを、一軸延伸(温度110℃、延伸倍率5倍)した。これをヨウ素0.075g、ヨウ化カリウム5g、水100gの比率からなる水溶液に60秒間浸漬し、次いでヨウ化カリウム6g、ホウ酸7.5g、水100gの比率からなる68℃の水溶液に浸漬した。これを水洗、乾燥し長尺の偏光膜を得た。
【0300】
(偏光板の作製)
ついで、下記工程1〜5に従って、上記偏光膜と、実施例1〜36および比較例1〜9で作製したセルロースアセテートプロピオネートフィルムとを貼り合わせて偏光板を作製した。
【0301】
工程1:実施例1〜36および比較例1〜9で作製した長尺のセルロースアセテートプロピオネートフィルムを、2mol/Lの水酸化ナトリウム溶液に、温度50℃で、90秒間浸漬し、ついで水洗、乾燥させた。
【0302】
一方、市販の長尺のセルロースエステルフィルムを2mol/Lの水酸化ナトリウム溶液に、温度50℃で、90秒間浸漬し、ついで水洗、乾燥させた。
【0303】
工程2:上記の長尺の偏光膜を、固形分2質量%のポリビニルアルコール接着剤槽中に1〜2秒間浸漬した。
【0304】
工程3:工程2で偏光膜に付着した過剰の接着剤を軽く取り除き、それを工程1でアルカリ処理した実施例1〜36および比較例1〜9の長尺のセルロースアセテートプロピオネートフィルムと、市販の長尺のセルロースエステルフィルムとで挟み込んで、積層配置した。
【0305】
工程4:2つの回転するローラにて20〜30N/cm の圧力で約、2m/minの速度で、これらのフィルムを張り合わせた。このとき気泡が入らないように注意して実施した。
【0306】
工程5:80℃の乾燥機中にて、工程4で作製したフィルム試料を2分間乾燥処理し、偏光板を作製した。
【0307】
(液晶表示パネルの作製)
市販の液晶表示パネル(NEC製カラー液晶ディスプレイ、MultiSync、LCD1525J、型名LA−1529HM)の最表面の偏光板を注意深く剥離し、上述した実施例1〜3および比較例1〜3の偏光板を、偏光方向を合わせて張り付けて、液晶表示パネルを作製した。
【0308】
上述した実施例1〜36および比較例1〜9に示した光学フィルムの評価を、下に示す方法で行った。
【0309】
製膜で得られた光学フィルムは、目視によるブリードアウト汚れの観察評価と、クロスニコル透過率のばらつきを、またその光学フィルムを保護フィルムとして用いた偏光板の目視によるムラの観察を行った。得られた結果を下記の表1に示した。
【0310】
(ブリードアウト汚れの観察評価)
黒い羅紗布を貼った、平らな評価台の上にフィルムを広げ、グリーンランプを斜めから照射して、フィルム表面に白っぽい、もしくは液状っぽく見えるブリードアウトの汚れ模様を目視で観察した。
【0311】
◎:ブリードアウトの汚れ模様は皆無
○:かすかにブリードアウトの汚れ模様らしきものが見える部分あるが、
製品として影響が全くないレベル
△:ブリードアウト汚れの模様と、その部分に微少な変形が確認できる
×:一目でそれとわかるブリードアウト汚れの模様およびその部分の変形が
多数見られる、製品としては、使用できないレベル
[クロスニコル透過率(CNT)の測定]
日本分光社製の偏光フィルム測定装置(VAP−7070)を用い、測定波長600nmにて、フィルムの幅手方向に50mm間隔で、また長手方向に300mm区間で50mm間隔でクロスニコル透過率(CNT)を測定し、全データの平均値と、最も乖離した値との差を、ここでは、クロスニコル透過率(CNT)のばらつき幅(×10−5%)とした。
【0312】
このクロスニコル透過率(CNT)のばらつき幅は、フィルムのリタデーション値の指標となり、ばらつき幅が小さいほど、フィルムのリタデーション値も低くなる。
【0313】
(偏光板の目視評価)
上記のようにして作製した各液晶表示パネルについて、複数の評価者で目視にて、正面および斜めから見たときの白っぽく見える色ムラを観察して、偏光板の評価とした。
【0314】
○:どの評価者も、色ムラが全く見えず
△:評価者によってかすかに色ムラが見える場合があるが、
製品としては使えるレベル
×:多くの評価者で、色ムラが確認でき、製品としては使用できないレベル
なお、色ムラの評価と併せて、偏光板を20枚作製した後の、偏光板作製工程1のアルカリ鹸化処理液の汚れ具合も観察した。
【表1】

【0315】
上記表1の結果から明らかなように、本発明の実施例1〜36に示すように、ウェブ(10)を、雰囲気温度の異なるゾーンを順次通過させる際、流延冷却固化ゾーン(A)と延伸ゾーン(B)との間のウェブ(10)が移行するゾーン間移行部(21)、および延伸ゾーン(B)と巻取りゾーン(C)との間の、ウェブ(10)が移行するゾーン間移行部(22)のうちのいずれか1つのゾーン間移行部、またはすべてのゾーン間移行部に、紫外線照射装置(11)または常圧プラズマ照射装置(12)よりなる高エネルギー照射処理装置を設置して、ゾーン間移行部を移行するウェブ(10)に高エネルギー照射処理を施すことにより、フィルム表面に添加剤等のブリードアウトの発生は見られず、またクロスニコル透過率(CNT)のばらつきも小さく、偏光板に加工した後でも、白っぽく見える色ムラが確認されなかったことから、フィルムの連続製膜が可能となり、生産性を大幅に上げることができた。
【0316】
特に、雰囲気温度の異なる流延冷却固化ゾーン(A)と延伸ゾーン(B)との間のウェブ(10)が移行するゾーン間移行部(21)に、紫外線照射装置(11)または常圧プラズマ照射装置(12)よりなる高エネルギー照射処理装置を設置して、ゾーン間移行部(21)を移行するウェブ(10)に、高エネルギー照射処理を施した場合には、表面改質効果があるためか、添加剤がブリードアウトしにくくなる効果が認められた。
【0317】
一方、比較例1〜9では、製品として使えないレベルのブリードアウトや、白っぽく見える色ムラが見られたため、生産を停止して、2日程度の清掃作業を入れざるを得ず、生産性はかなり低いものとなった。
【0318】
以上のように、本発明によれば、溶融流延製膜法による光学フィルムとしてのセルロースアセテートプロピオネートフィルムの製造方法において、添加剤等のブリードアウトの発生を防ぎ、生産性を向上させることができた。また、ウェブ(10)の剥離性のばらつきによるシワ、ツレの発生や、リタデーションのばらつきなど、品質の低下を招くことのないセルロースアセテートプロピオネートフィルムを製造することで、偏光板用保護フィルム等の広幅化および高品質化の要求に応えることができるものであった。
【0319】
なお、本発明に係る光学フィルムの製造方法、光学フィルム、偏光板及び表示装置を構成する各構成の細部構成および細部動作に関しては、本発明の趣旨を逸脱することのない範囲で適宜変更可能である。
【図面の簡単な説明】
【0320】
【図1】本発明における溶液流延製膜法による光学フィルムの製造方法を実施する装置の第1実施形態を示すフローシートである。
【図2】本発明における溶液流延製膜法による光学フィルムの製造方法を実施する装置の第2実施形態を示すフローシートである。
【図3】本発明における溶液流延製膜法による光学フィルムの製造方法を実施する装置の第3実施形態を示すフローシートである。
【図4】本発明の光学フィルムの製造方法において使用するエキシマ紫外線照射装置の原理を説明するための説明図で、エキシマ紫外線照射装置がウェブの上下両側に配置されている。
【図5】本発明の光学フィルムの製造方法において使用するいま1つのエキシマ紫外線照射装置の原理を説明するための説明図で、エキシマ紫外線照射装置がウェブの上側にのみ配置されている。
【図6】本発明の光学フィルムの製造方法において使用する常圧プラズマ照射装置の原理を説明するための説明図で、常圧プラズマ装置がウェブの上下両側に配置されている。
【図7】本発明の光学フィルムの製造方法において使用するいま1つの常圧プラズマ装置の原理を説明するための説明図で、常圧プラズマ装置がウェブの上側にのみ配置されている。
【図8】従来の光学フィルムの製造方法を実施する装置の要部拡大側面図で、ロールに対してエキシマ紫外線照射装置が設置されている。
【図9】従来の光学フィルムの製造方法を実施するいま1つの装置の要部拡大側面図で、ロールに対して常圧プラズマ照射装置が設置されている。
【符号の説明】
【0321】
1:押出し機
2:フィルター
3:スタチックミキサー
4:流延ダイ
5:第1冷却ロール
6:タッチロール
7:第2冷却ロール
8:第3冷却ロール
9:剥離ロール
10:ウェブ(フィルム)
11:エキシマUV装置(紫外線照射装置)
12:常圧プラズマ照射装置
13:巻取りフィルム
A:流延冷却固化ゾーン
B:延伸ゾーン
C:巻取りゾーン
21:ゾーン間移行部
22:ゾーン間移行部
a,b:電極
g:反応ガス
d:表面処理装置とフィルムとの間隙
h:プラズマガス吹き出しスリット間隙
p:パージガス
r:反射板
u:紫外線ランプ
q:石英ガラス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融流延製膜法により、熱可塑性樹脂及び添加剤を含む溶融物を、流延冷却固化ゾーンにおいて流延ダイから金属支持体上に流延して、流延膜(ウェブ)を冷却固化し、ウェブを金属支持体から剥離し、剥離されたウェブ(フィルム)を延伸ゾーンにおいて延伸した後、巻取りゾーンにおいてフィルムを巻き取る光学フィルムの製造方法において、ウェブを、雰囲気温度の異なるゾーンを順次通過させる際、流延冷却固化ゾーンと延伸ゾーンとの間、および延伸ゾーンと巻取りゾーンとの間の、ウェブが移行するゾーン間移行部のうちのいずれか1つのゾーン間移行部、またはすべてのゾーン間移行部に、高エネルギー照射処理装置を設置して、ゾーン間移行部を移行するウェブに高エネルギー照射処理を施すことを特徴とする、光学フィルムの製造方法。
【請求項2】
延伸ゾーンにおいて、ウェブを、そのMD方向(搬送方向)もしくは幅手方向(TD方向)、またはその両方に、逐次もしくは同時に延伸し、該延伸ゾーン内の最も高い雰囲気温度が、ウェブに含まれる熱可塑性樹脂のガラス転移温度(Tg)−50℃から、Tg+80℃の範囲であることを特徴とする、請求項1に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項3】
高エネルギー照射処理装置が、紫外線照射装置および/または常圧プラズマ照射装置であることを特徴とする請求項1または2に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項4】
熱可塑性樹脂が、セルロースエステル系樹脂であることを特徴とする、請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のうちのいずれか一項に記載の光学フィルムの製造方法により製造されたことを特徴とする、光学フィルム。
【請求項6】
請求項5に記載の光学フィルムを、少なくとも一方の面に有することを特徴とする偏光板。
【請求項7】
請求項6に記載の偏光板を用いることを特徴とする、表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−234060(P2009−234060A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−83510(P2008−83510)
【出願日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【出願人】(303000408)コニカミノルタオプト株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】