説明

光学フィルムならびにそれを用いた偏光板および液晶表示装置

【課題】性能の向上した偏光板、表示品位の向上した液晶表示装置を提供するための光学異方性の小さな光学フィルムを提供する。
【解決手段】重量平均分子量が300,000以上であるセルロースアシレート、および、重量平均分子量が1,000以上である、膜厚方向のレタデーションを低下させる化合物を含有する光学フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学フィルムならびにそれを用いた偏光板および液晶表示装置に関し、詳しくは、光学的等方性に優れ、膜厚を薄くしても、面状および強度に優れた光学フィルムおよびそれを用いた偏光板および液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、セルロースアシレートフィルムはその強靭性と難燃性から写真用支持体や各種光学材料に用いられてきた。特に、近年は液晶表示装置用の光学透明フィルムとして多く用いられている。セルロースアシレートフィルムは、光学的に透明性が高いことと、光学的に等方性が高いことから、液晶表示装置のように偏光を取り扱う装置用の光学材料として優れており、これまで偏光子の保護フィルムや、斜め方向からの見た表示を良化(視野角補償)できる光学補償フィルムの支持体として用いられてきた。
【0003】
液晶表示装置用の部材のひとつである偏光板には偏光子の少なくとも片側に偏光子の保護フィルムが貼合によって形成されている。一般的な偏光子は延伸されたポリビニルアルコール(PVA)系フィルムをヨウ素または二色性色素で染色することにより得られる。
多くの場合、偏光子の保護フィルムとしてはPVAに対して直接貼り合わせることができる、セルロースアシレートフィルム、なかでもトリアセチルセルロースフィルムが用いられている。この偏光子の保護フィルムは、光学的等方性に優れることが重要であり、偏光子の保護フィルムの光学特性が偏光板の特性を大きく左右する。
【0004】
最近の液晶表示装置においては、視野角特性の改善がより強く要求されるようになっており、偏光子の保護フィルムや光学補償フィルムの支持体などの光学透明フィルムは、より光学的に等方性であることが求められている。光学的に等方性であるとは、光学フィルムの複屈折と厚みの積で表されるレタデーション値が小さいことが重要である。とりわけ、斜め方向からの表示良化のためには、面内のレタデーション(Re)だけでなく、膜厚方向のレタデーション(Rth)を小さくする必要がある。具体的には光学透明フィルムの光学特性を評価した際に、フィルム正面から測定したReが小さく、角度を変えて測定してもそのReが変化しないことが要求される。
【0005】
これまでに、正面のReを小さくしたセルロースアシレートフィルムはあったが、角度によるRe変化が小さい、すなわちRthが小さいセルロースアシレートフィルムは作製が難しかった。そこでセルロースアシレートフィルムの代わりにポリカーボネート系フィルムや熱可塑性シクロオレフィンフィルムを用いて、Reの角度変化の小さい光学透明フィルムの提案がされている(例えば、特許文献1,2,製品としてはZEONOR(日本ゼオン社製)や、ARTON(JSR社製)など)。しかし、これらの光学透明フィルムは、偏光子の保護フィルムとして使用する場合、フィルムが疎水的なためにPVAとの貼合性に問題がある。またフィルム面内全体の光学特性が不均一である問題も残っている。
【0006】
この解決法として、PVAへの貼合適正に優れるセルロースアシレートフィルムを、より光学的異方性を低下させて改良することが強く望まれている。具体的には、セルロースアシレートフィルムの正面のReをほぼゼロとし、またレタデーションの角度変化も小さい、すなわちRthもほぼゼロとした、光学的に等方性である光学透明フィルムである。
【0007】
このような光学的に、より等方性であるセルロースアシレートフィルムの製造方法として、可塑剤を使用する技術が開示されている。セルロースアシレートフィルムの製造において、一般的に製膜性能を良化するため可塑剤と呼ばれる化合物が添加される。可塑剤の種類としては、リン酸トリフェニル、リン酸ビフェニルジフェニルのようなリン酸トリエステル、フタル酸エステル類などがあり、これら可塑剤の中には、セルロースアシレートフィルムの光学的異方性を低下させる効果を有するものが知られており、例えば、特定の脂肪酸エステル類が開示されている(例えば、特許文献3参照)。しかしながら、これらの化合物を用いたセルロースアシレートフィルムの光学的異方性を低下させる効果は十分とはいえない。
【0008】
これに対し、特許文献4において、ある特定の添加剤を使用することにより、より光学的に等方性であるセルロースアシレートフィルムを製造する技術が開示されている。また、特許文献5および6には、セルロースアシレートフィルムが有する光学異方性を相殺する傾向の光学異方性を示す有機物質が添加された低光学異方性のセルロースアシレートフィルムが開示されているが、光学特性の波長依存性が大きく、さらに光学異方性を低下させるためにポリマー添加量を多くすると柔軟性を損なったり裁断時にクラックが発生したり、相溶性が不十分でヘイズが大きくなるという問題があった。
また、ディスプレイの薄型化のために、使用されている種々の部材の薄膜化が検討されており、偏光板保護フィルムの膜厚も薄いものが望まれるようになっている。光学特性の異方性は光路長に依存しているため、膜厚を小さくすることは、ディスプレイの薄型化だけでなく、同時にフィルムの光学異方性を小さくすることができる。なお、最近の液晶表示装置においては、表示色味の改善も要求されるようになっている。そのため偏光子の保護フィルムや光学補償フィルムの支持体などの光学透明フィルムは、波長400〜800nmの可視領域でReやRthを小さくするだけでなく、波長によるReやRthの変化、すなわち波長分散を小さくする必要がある。
【0009】
【特許文献1】特開2001−318233号公報
【特許文献2】特開2002−328233号公報
【特許文献3】特開2001−247717号公報
【特許文献4】特開2006−030937号公報
【特許文献5】特開2005−105139号公報
【特許文献6】特開2005−105140号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記のように、膜厚を薄くすると、フィルムの脆性が悪化する傾向にあり、製造や加工時などのフィルム取り扱い、ハンドリングにおいて皺が発生したり、クニックが入ったり、裁断時にエッジが欠けたりすることがあり、性能上、得率上種々の問題を生じることが多かった。特に、上記レタデーションを低下させる添加剤をセルロースアシレートフィルムに添加すると、フィルムの膜厚を薄くした際の当該問題が生じ易く、得られるセルロースアシレートフィルムに段ムラが生じ得る、または、引裂き強度が低下する等の傾向がより見られる。そのため、光学的等方性(特にRth)に優れ、膜厚を薄くしても、面状および強度に優れたセルロースアシレートフィルムが望まれていた。
【0011】
そこで本発明の目的は、光学的等方性を有し、膜厚を薄くしても、面状および引裂き強度に優れる光学フィルム、および、それを用いた偏光板および液晶表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、セルロースアシレートの重量平均分子量、および、膜厚方向のレタデーション(Rth)を低下させる化合物の重量平均分子量をある特定の値以上とすることにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
即ち、本発明は以下の各構成を備えてなるものである。
1.重量平均分子量が300,000以上であるセルロースアシレート、および、重量平均分子量が1,000以上である、膜厚方向のレタデーションを低下させる化合物を含有する光学フィルム。
2.前記セルロースアシレートの重量平均分子量が300,000〜500,000である1に記載の光学フィルム。
3.前記膜厚方向のレタデーションを低下させる化合物の重量平均分子量が3,000〜10,000である1または2に記載の光学フィルム。
4.前記膜厚方向のレタデーションを低下させる化合物が、ポリメチルメタクリレートである1〜3のうちいずれか一項に記載の光学フィルム。
5.膜厚が30〜60μmである1〜4のうちいずれか一項に記載の光学フィルム。
6.波長630nmにおける面内のレタデーション値が0nm以上20nm以下、波長630nmにおける膜厚方向のレタデーション値が−20nm以上20nm以下である1〜5のうちいずれか一項に記載の光学フィルム。
7.波長480nmと630nmにおける膜厚方向のレタデーション値が下記式の関係である1〜6のうちいずれか一項に記載の光学フィルム。
|Rth(630)−Rth(480)|≦20
8.1〜7のいずれか一項に記載の光学フィルムを、偏光子の保護フィルムとして有する偏光板。
9.8に記載の偏光板を用いた液晶表示装置。
【発明の効果】
【0014】
本発明の光学フィルムは、光学的等方性を有し、膜厚を薄くしても、面状および引裂き強度に優れたものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明について更に詳細に説明する。
本発明の光学フィルムは、特定の重量平均分子量を有するセルロースアシレート、および、特定の重量平均分子量を有する、膜厚方向のレタデーションを低下させる化合物を含有してなるフィルム(セルロースアシレートフィルム)からなる。
以下、まずセルロースアシレートフィルムの構成成分について説明する。
【0016】
[セルロースアシレート]
本発明に用いられるセルロースアシレートの原料綿は発明協会公開技法2001−1745等で公知の木材パルプや綿リンターなどのセルロース原料を用いることができる。また、セルロースアシレートは、木材化学180〜190頁(共立出版、右田他、1968年)等に記載の方法で合成することができる。
薄膜に伴う問題に対し鋭意検討した結果、セルロースアシレートの分子量を大きくすることより解決できることを見出した。
本発明に用いられるセルロースアシレートが有する前記の特定の重量平均分子量は好ましくは、(300,000)〜(500,000)、より好ましくは、(330,000)〜(400,000)である。重量平均分子量が300,000未満であると、膜が脆くなりハンドリング不良になる。重量平均分子量は、溶解性が良好で、ドープの粘度が大きくなりすぎないという観点から500,000以下が好ましい。これらの重量平均分子量は、通常のGPC測定によって求めた値であり、測定はメチレンジクロライドに溶解し、PMMA換算した値である。
該セルロースアシレートのアシル基は特に制限は無いが、炭素数2〜4のものが好ましく、アセチル基、プロピオニル基を用いることが好ましく、特にアセチル基が好ましい。全アシル基の置換度は2.8乃至3.0が好ましく、2.8乃至2.95がさらに好ましい。全アシル基がアセチル基であるセルロースアセテートを用いる場合にはアセチル置換度が2.8乃至2.95が好ましく、2.5乃至2.95がさらに好ましい。また、Re、Rthのばらつきが発生しにくいという観点から、6位のアシル基の置換度は0.9以上が好ましく用いられる。置換度2.8以上では光学異方性が発現しにくく、置換度2.95以下では溶解性が良好であり、製造しやすいという観点から好ましい。なお、本発明におけるアシル基の置換度はASTM D817に従って算出した値を採用する。
セルロースアシレートフィルム中のCa、Fe、およびMg含有量を、特開平12-313766号に記載されている範囲とすることも好ましい。
【0017】
[膜厚方向のレタデーションを低下させる化合物]
本発明において上記セルロースアシレートと共に用いられる膜厚方向のレタデーションを低下させる化合物は、セルロースアシレートの光学異方性、特にRthを減少させる傾向の光学異方性を示す化合物である。該膜厚方向のレタデーションを低下させる化合物は、セルロースアシレートが発現する光学異方性を減少させる、即ちセロビオース骨格に対して平行に配向し、自らの分子軸と垂直方向の屈折率が大きいという性質を有する化合物である。
膜厚方向のレタデーションを低下させる化合物としては、上記の性質を有していれば特に限定はされないが、セルロースアシレートと親和性が高い負の固有複屈折を有する高分子化合物が好ましく用いられる。
【0018】
具体的には、セルロースアシレートのアシル基の光学異方性に対抗するエステル基を有する化合物が好ましく、好ましい例としては、アクリル酸系重合体、メタアクリル酸系重合体、これらの共重合体などが挙げられる。アクリル酸系重合体、メタアクリル酸系重合体としては、アクリル酸あるいはメタアクリル酸のメチルエステル、アクリル酸あるいはメタアクリル酸のエチルエステル、アクリル酸あるいはメタアクリル酸のフェニルエステル、アクリル酸あるいはメタアクリル酸のベンジルエステルなどの単独重合体または共重合体が挙げられる。アクリル酸系重合体、メタクリル酸系重合体はセルロースアシレートと屈折率の値が近いので好ましい。中でも特にポリメチルメタクリレート(PMMA)が好ましく用いられる。
これらの他に、セルロースアシレートと相溶するポリエステルポリウレタンオリゴマー、ポリエステルオリゴマーなども好ましく用いられる。
前記膜厚方向のレタデーションを低下させる化合物の重量平均分子量は、分子量が小さくなると流延後の乾燥時の揮散量が増加するため、1,000以上である必要があり、好ましくは2,000〜20,000、より好ましくは、3,000〜15,000である。上限を前記範囲とすることにより、ブリードアウトを避けることを抑制することができる。なお、重量平均分子量はGPCで求めたPMMA換算の重量平均分子量の値である。
上記の重量平均分子量を有する膜厚方向のレタデーションを低下させる化合物は、連鎖移動しやすいトルエンやイソプロピルアルコール(IPA)などの溶媒中での重合、βメルカプトプロピオン酸やチオグリセリンなどのチオールなどの連鎖移動剤の存在下での重合、モノマー/重合開始剤比が小さい状態での重合、またこれらの複合条件下での重合により得ることができる。
縮合系ポリマーの場合は、二塩基酸と二価アルコール量と一塩基酸あるいは一価アルコールの仕込比を変更させて作製することができる。
膜厚方向のレタデーションを低下させる化合物の添加量は、セルロースアシレート100質量部に対して、相分離や泣出しなどを起こさず均一性を維持する点、およびフィルムの物性を悪化させない点から5〜30質量部が好ましく、10〜25質量部がさらに好ましい。
【0019】
[波長分散調整剤]
上記膜厚方向のレタデーションを低下させる化合物を用いることによりフィルムのRthを小さくすることが出来るが、セルロースアシレートのRthは波長により変化し、長波長側と短波長側の値が大きく異なる場合があり、波長480nmと630nmとのRth値が下記式の関係であることが好ましい。
|Rth(630)−Rth(480)|≦20
このような式(3)の関係を満足するために波長分散調整剤を用いるのが好ましい。光学特性の波長分散を変化させる波長分散調整剤としては、ベンゾトリアゾール、ベンゾフェノン、シアノアクリレート、トリアジン骨格を主体とする化合物が好ましく、各種置換基で置換されても良い。以下に好ましい例を示すが、これらに限定されない。下記構造式中、Rは有機置換基、R’はH、OHあるいは有機置換基を示す。有機置換基としては炭素数1〜12のアルキル基、アリール基などが挙げられる。これらの化合物は200〜400nmの紫外領域に吸収があることが好ましく、可視領域には吸収が無いことが好ましい。
【0020】
【化1】

【0021】
【化2】

【0022】
【化3】

【0023】
【化4】

【0024】
化合物1の例としては、2−(2−ヒドロキシ−5−t−オクチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−3−t−ブチル−5−メチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ペンチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2−ヒドロキシ−3−(3,4,5,6,テトラヒドロフタルアミド−メチル)−5−メチルフェニル]ベンゾトリアゾール、ベンゼンプロパン酸−3−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−5−(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシとC7−9の側鎖及び直鎖アルキルエステル、2−(2−ヒドロキシ−3,5−ビス(1−メチル−1−フェニルエチル)フェニル)−2H−ベンゾトリアゾールなどが挙げられる。
化合物2の例としては、2−ヒドロキシ−4−n−ヘクトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−n−オクトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−ベンジルオキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジメチトキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4−メチトキシベンゾフェノン、などが挙げられる。
化合物3の例としては、エチル−2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリレート、(2−エチルヘキシル)−2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリレート、デシル−2−シアノ−3−(5−メトキシ−フェニル)アクリレートなどが挙げられる。
化合物4の例としては、2,4−ビス「2−ヒドロキシ−4−ブトキシフェニル」−6−(2,4−ジブトキシフェニル)−1,3−5−トリアジン、2−(2,4−ジヒドロキシフェニル)−4,6−ビス−(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン、2−(2−ヒドロキシ−4−ブトキシフェニル)−4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジンなどが挙げられる。
その他の化合物としては、フェニルサリシレート、トリルサリシレートなどのサリチル酸エステル、(2,4−ジ−t−ブチル)フェニル−(4−ヒドロキシ、3,5−ジ−t−ブチル)ベンゾエートなどのエステルなどが挙げられる。
ベンゾフェノン系、エステル系がより好ましい。
波長分散調整剤の配合割合は、セルロースアシレート100質量部に対して好ましくは0.1〜30質量部、より好ましくは0.2〜10質量部、さらに好ましくは0.5〜2質量部である。可視部の着色や|Rth(630)−Rth(480)|の値の観点から、添加量は上記範囲が好ましい。
【0025】
[可塑剤]
本発明には必要に応じて更に可塑効果のある可塑剤を添加することも出来る。可塑剤の具体例としては、リン酸エステル、カルボン酸エステル、アミド、エーテル、ウレタンなどの官能基を有する化合物が好ましい。これらの好ましい化合物の例としては以下のものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
リン酸エステルとしては、トリフェニルホスフェート、ビフェニルジフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリブチルホスフェート、レゾルシノールビスジフェニルフォスフェート、1,3-フェニレンビスジキシレニルフォスフェート、ビスフェノールAビスジフェニルフォスフェートなどを挙げることが出来る。
カルボン酸エステルとしては、トリメチロールプロパントリベンゾエート、トリメチロールプロパントリシクロヘキシルカルボキシレート、ペンタエリスリトールテトラブチレート、グリセリントリブチレート、トリアセチン、トリブチリン、トリプロピオニンなどの多価アルコールのカルボン酸エステルやコハク酸ジブチル、アジピン酸ジフェニル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジアリール、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジ-2-メトキシエチル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジ−2−エチルヘキシルフタレート、トリメリット酸トリメチル、ピロメリット酸テトラエチルなどの飽和、不飽和多価カルボン酸エステル、メチルメタクリレートやエチルアクリレートのオリゴマーなどを挙げることができる。
またオキシ酸のエステルとして、クエン酸トリエチル、クエン酸アセチル・トリエチル、酒石酸ジブチル、ジアセチル酒石酸ジブチル、ブチルフタリルブチルグリコレート、エチルフタリルエチルグリコレート、メチルフタリルエチルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレートなどのグリコール酸、サリチル酸、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸などのオキシ酸のエステルを挙げることが出来る。
アミドとしては、N-フェニル-ベンゼンカルボンアミド,N-フェニル-p-トルエンスルホンアミド、N-エチルトルエンスルホンアミドなどのカルボン酸アミドやスルホン酸アミドを挙げることが出来る。
その他、p-トルエンスルホン酸o-クレジルなどのようなスルホン酸エステル、トルエンジイソシアネートとエタノールやヘキシルアルコールなどのアルコールとの反応によるウレタンなどを挙げることが出来る。
ビスフェノールAのグリシジルエーテルなどのようなエーテルオリゴマーや、トルエンジイソシアネートと2価のアルコールと1価のアルコール混合物との反応によるウレタンオリゴマーなどの低分子量のオリゴマーも好ましい例として挙げられる。
その他、トリチルアルコールなども好ましい例として挙げられる。
これらの可塑剤の添加量は、セルロースアシレート100質量部に対して、1〜30質量部が好ましく、5〜15質量部がさらに好ましい。
【0026】
以下、本発明の光学フィルムの一実施形態について説明し、さらに本発明の偏光板、液晶表示装置の一実施形態について順次説明する。
【0027】
〔光学フィルム〕
本発明の光学フィルムは、上記セルロースアシレートと上記膜厚方向のレタデーションを低下させる化合物とを含むセルロースアシレートフィルムからなるフィルムであり、主として偏光子の保護膜、光学補償フィルムの支持体として好適に用いられる。
【0028】
偏光子の保護膜としては、透明性、低光学異方性、適度な剛性といった物性が求められる。そのため、本発明の光学フィルムの透過率は80%以上が好ましく、90%以上であることがさらに好ましい。ヘイズは2.0%以下であることが好ましく、1.0%以下であることがさらに好ましい。屈折率は1.4乃至1.7であることが好ましい。
本発明の光学フィルムのガラス転移温度は100℃以上200℃未満であることが好ましく、より好ましくは、120℃以上180℃未満である。
【0029】
本発明のセルロースアシレートフィルムは、特にIPS方式の液晶表示装置に使用することが好ましく、斜めから見たときの、光源側の偏光板を通過した偏光の方向と前方の偏光板の吸収軸の方向がずれることによる光漏れ、視野角色味変化を小さくするため、また、本発明のセルロースアシレートフィルムは、余計な異方性を生じず、複屈折を持つ光学異方性層を併用すると光学異方性層の光学性能のみを発現するために、本発明の光学フィルムのレタデーション値は、波長630nmにおけるReが、0〜20nmである点から好ましく、0〜10nmであるのが更に好ましい。また、波長630nmにおけるRthが−20〜20nmであるのが好ましく、−10〜10nmであるのが更に好ましい。
【0030】
本発明の光学フィルムは、ソルベントキャスト法により製造することが好ましい。Re、Rthのばらつきを低減する観点から、セルロースアシレート、膜厚方向のレタデーションを低下させる化合物、その他の添加物を有機溶媒に溶解してなるセルロースアシレート溶液の固形分濃度は16質量%乃至30質量%が好ましく、18質量%乃至26質量%であることが望ましい。用いられる有機溶媒は特に限定されないが、塩素系溶剤、アルコール類、ケトン類、エステル類を混合したものが好ましく用いられる。塩素系溶剤としては、メチレンジクロライド、クロロホルムが好ましい。アルコール類としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、エステル類としては酢酸メチル、ケトン類としては、アセトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノンが特に好ましく用いられる。
【0031】
セルロースアシレート溶液を調製するために、室温下でタンク中の溶剤を撹拌しながら上記セルロースアシレートを添加することで膨潤をまず行う。膨潤時間は10分以上であると不溶解物が残存しないため好ましい。また、溶剤の温度は0から40℃が好ましい。膨潤速度が低下せず、不溶解物が残存しないため0℃以上が好ましく、膨潤が急激に起こらず、中心部分が十分膨潤するため40℃以下好ましい。セルロースアシレートの溶解法は、冷却溶解法、高温溶解法のいずれか、あるいは両方を用いても良い。冷却溶解法、高温溶解法に関する具体的な方法は、発明協会公開技法2001−1745等に記載されている公知の方法を用いることができる。上記で得られたセルロースアシレート溶液は場合により、低い濃度で溶解した後に濃縮手段を用いて最適な濃度に濃縮する方法で調製することも好ましく行うことができる。
【0032】
セルロースアシレート溶液(ドープ)の調製工程において用途に応じた他の添加剤を加えることができる。それらの添加剤は、酸化防止剤、過酸化物分解剤、ラジカル禁止剤、金属不活性化剤、酸捕獲剤、ヒンダードアミンなどの劣化防止剤、更には剥離剤、マット剤(金属酸化物微粒子)等である。
【0033】
本発明の光学フィルムを製膜する方法及び設備は、従来セルローストリアセテートフィルム製造に供する溶液流延製膜方法及び溶液流延製膜装置が用いられる。溶解タンクから調製されたドープ(セルロースアシレート溶液)をストックタンクで一旦貯蔵し、ドープに含まれている泡を脱泡して最終調製をする。ドープをドープ排出口から、高精度に定量送液できる加圧型定量ギヤポンプを通して加圧型ダイに送り、ドープを加圧型ダイの口金(スリット)からエンドレスに走行している流延部の金属支持体(バンドやドラム)の上に均一に流延させ、生乾きのドープ膜(ウェブとも呼ぶ)を金属支持体から剥離する。得られるウェブの両端をクリップやピンテンターで幅保持しながらテンターで搬送して乾燥し、続いて乾燥装置のロール群で搬送し乾燥を終了して巻き取り機で所定の長さに巻き取る。テンターとロール群の乾燥装置との組み合わせ、それぞれの温度およびそれぞれ時点の残留溶剤量はその目的により変化させることが出来る。
【0034】
本発明では所望のReにするために、テンターの出口の幅をテンター入口より拡張してフィルムを延伸することが出来る。延伸倍率は所望のReによって異なるが1.0乃至1.3倍が好ましく1.0乃至1.25倍がさらに好ましい。延伸時のフィルムの残留溶剤量は2質量%乃至35質量%が好ましく、2質量%乃至30質量%がさらに好ましい。残留溶剤量は、ツレシワが発生せず、フィルムが破断することがない点で2質量%以上が好ましく、延伸の効果が十分あり、Reの調整が可能である点で30質量%以下が好ましい。また、Reを調整するために搬送時のテンションをハンドリングに問題のない範囲で調整しても良い。
【0035】
本発明では、膜厚のばらつきを低減して光学異方性のばらつきを小さくするために、セルロースアシレート溶液を、金属支持体としての平滑なバンド上或いはドラム上に流延することが好ましく行われるが、複数のセルロースアシレート液を共流延しても良い。
【0036】
本発明の光学フィルムの製造に係わる金属支持体上におけるドープの乾燥は、30乃至250℃で行うことが好ましく、40乃至180℃がさらに好ましく、40乃至140℃で行うことが最も好ましい。
【0037】
本発明の光学フィルムの出来上がり(乾燥後)の膜厚は、30〜60μmの範囲であることが好ましく、更に40〜60μmの範囲が好ましい。フィルムを所望の厚さにするためには、ドープの固形分濃度、ダイの口金のスリット間隙、ダイからの押し出し流量、圧力、金属支持体速度等の制御により調節することが出来る。
【0038】
フィルムの引裂き強度は、JIS K 7128に準じたエルメンドルフ引裂試験機を用いて測定出来、小さいと裂け易く、大きいと硬く脆くなり、0.1N以上が好ましく、0.15N以上がより好ましい。引裂き強度は膜厚に関係し、膜厚あたりの好ましい値としては0.002N/μm以上が好ましい。
【0039】
〔偏光板〕
本発明の偏光板は、上述の本発明の光学フィルムを偏光子の保護フィルムとして有する。
すなわち、本発明の光学フィルムは偏光板の保護フィルムとして用いることができる。一般的な偏光板は、偏光子およびその両側に配置された二枚の透明保護フィルムからなる。少なくとも一方の保護フィルムとして、本発明の光学フィルムを用いることができる。他方の保護フィルムは、通常のセルロースアセテートフィルムを用いてもよい。偏光子には、ヨウ素系偏光子、二色性染料を用いる染料系偏光子やポリエン系偏光子がある。ヨウ素系偏光子および染料系偏光子は、一般にポリビニルアルコール系フィルムを用いて製造する。本発明の光学フィルムを偏光板保護フィルムとして用いる場合、偏光板の作製方法は特に限定されず、一般的な方法で作製することができる。得られたセルロースアシレートフィルムあるいは通常のセルロースアセテートフィルムをアルカリ処理し、ポリビニルアルコールフィルムをヨウ素溶液中に浸漬延伸して作製した偏光子の両面あるいは片面ずつに完全ケン化ポリビニルアルコール水溶液を用いて貼り合わせる方法がある。アルカリ処理の代わりに特開平6−94915号公報、特開平6−118232号公報に記載されているような易接着加工を施してもよい。保護フィルム処理面と偏光子を貼り合わせるのに使用される接着剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール等のポリビニルアルコール系接着剤や、ブチルアクリレート等のビニル系ラテックス等が挙げられる。
本発明の光学フィルムの偏光子への貼り合せ方は、偏光子の吸収軸と本発明の光学フィルムの長手方向に貼り合せることが連続的に生産することが出来、好ましい。
【0040】
(光学補償フィルム)
さらに、本発明の光学フィルムは、光学補償フィルムの支持体として用いることもでき、本発明の光学フィルムの片面に光学補償層を設けることにより光学補償フィルムを作製することができる。光学補償層は、必要に応じて配向層を設け、配設することが好ましい。
配向層は、有機化合物(好ましくはポリマー)のラビング処理、無機化合物の斜方蒸着、マイクログループを有する層の形成のような手段で設けることができる。さらに電場の付与、磁場の付与あるいは光照射により配向機能が生じる配向層も知られているが、ポリマーのラビング処理により形成する配向層が特に好ましい。ラビング処理はポリマー層の表面を紙や布で一定方向に数回こすることにより好ましく実施される。偏光子の吸収軸方向とラビング方向は実質的に平行であることが好ましい。配向層に使用するポリマーの種類は、ポリイミド、ポリビニルアルコール、特開平9−152509号公報に記載された重合性基を有するポリマー等を好ましく使用することができる。配向層の厚さは0.01〜5μmであることが好ましく、0.05〜2μmであることがさらに好ましい。
光学異方性層は液晶性化合物を含有していることが好ましい。本発明に使用される液晶性化合物はディスコティック液晶性化合物や棒状液晶性化合物であることが特に好ましい。
【0041】
(ディスコティック液晶性化合物)
本発明に使用可能なディスコティック液晶性化合物の例には、様々な文献(C.Destrade et al.,Mol.Crysr.Liq.Cryst.,vol.71,page 111(1981);日本化学会編、季刊化学総説、No.22、液晶の化学、第5章、第10章第2節(1994);B.Kohne et al.,Angew.Chem.Soc.Chem.Comm.,page 1794(1985);J.Zhang et al.,J.Am.Chem.Soc.,vol.116,page 2655(1994))に記載の化合物が含まれる。ディスコティック液晶分子は、トリフェニレン誘導体のように円盤状のコア部を有し、そこから放射状に側鎖が伸びた構造を有している。また、経時安定性を付与するため、熱、光等で反応する基をさらに導入することも好ましく行われる。上記ディスコティック液晶の好ましい例は特開平8−50206号公報に記載されている。
【0042】
ディスコティック液晶分子は、配向層付近ではラビング方向にプレチルト角を持ってほぼフィルム平面に平行に配向しており、反対の空気面側ではディスコティック液晶分子が面に垂直に近い形で立って配向している。ディスコティック液晶層全体としては、ハイブリッド配向を取っており、この層構造によってTNモードのTFT−LCDの視野角拡大を実現することができる。
【0043】
(棒状液晶性化合物)
本発明において、使用可能な棒状液晶性化合物の例には、アゾメチン類、アゾキシ類、シアノビフェニル類、シアノフェニルエステル類、安息香酸エステル類、シクロヘキサンカルボン酸フェニルエステル類、シアノフェニルシクロヘキサン類、シアノ置換フェニルピリミジン類、アルコキシ置換フェニルピリミジン類、フェニルジオキサン類、トラン類およびアルケニルシクロヘキシルベンゾニトリル類が含まれる。以上のような低分子液晶性化合物だけではなく、高分子液晶性化合物も用いることができる。
【0044】
上記光学異方性層は、一般に液晶化合物及び他の化合物(更に、例えば重合性モノマー、光重合開始剤)を溶剤に溶解した溶液を配向層上に塗布し、乾燥し、次いでネマティック相形成温度まで加熱した後、UV光の照射等により重合させ、さらに冷却することにより得られる。
【0045】
また、光学異方性層は、非液晶性化合物を溶媒中に溶解させ、支持体上に塗布し、加熱乾燥させて作製した非液晶性ポリマー層でも良い。この場合、非液晶性化合物は例えば、耐熱性、耐薬品性、透明性に優れ、剛性にも富むことから、ポリアミド、ポリイミド、ポリエステル、ポリエーテルケトン、ポリアリールエーテルケトン、ポリアミドイミド、ポリエステルイミド等のポリマーを用いることができる。これらのポリマーは、いずれか一種類を単独で使用してもよいし、例えば、ポリアリールエーテルケトンとポリアミドとの混合物のように、異なる官能基を持つ2種以上の混合物として使用してもよい。このようなポリマーの中でも、高透明性、高配向性、高延伸性であることから、ポリイミドが好ましい。また、支持体としては、TACフィルムが好ましい。
また、非液晶層と支持体の積層体を、1.05倍にテンター横軸延伸し、支持体側を偏光子に貼合することも好ましい。
さらには、光学異方性層は、選択反射の波長域が350nm以下であるコレステリック液晶の配向固化層であっても良い。コレステリック液晶としては、例えば特開平3−67219号公報や特開平3−140921号公報、特開平5−61039号公報や特開平6−186534号公報、特開平9−133810号公報などに記載された、前記の選択反射特性を示す適宜なものを用いうる。配向固化層の安定性等の点より好ましく用いうるものは、例えばコレステリック液晶ポリマーやカイラル剤配合のネマティック液晶ポリマー、光や熱等による重合処理で斯かる液晶ポリマーを形成する化合物などからなるコレステリック液晶層を形成しうるものである。
この場合の光学異方性層は、例えば支持基材上にコレステリック液晶をコーティングする方法などにより形成することができる。その場合、位相差の制御等を目的に必要に応じて、同種又は異種のコレステリック液晶を重ね塗りする方式なども採ることができる。コーティング処理には、例えばグラビア方式やダイ方式、ディッピング方式などの適宜な方式を採ることができる。
前記において光学異方性層の形成に際しては、液晶を配向させるための手段が採られる。その配向手段については特に限定はなく、液晶化合物を配向させうる適宜な手段を採ることができる。その例としては、配向膜上に液晶をコーティングして配向させる方式があげられる。またその配向膜としては、ポリマー等の有機化合物からなるラビング処理膜や無機化合物の斜方蒸着膜、マイクログルーブを有する膜、あるいはω−トリコサン酸やジオクタデシルメチルアンモニウムクロライド、ステアリル酸メチルの如き有機化合物のラングミュア・ブロジェット法によるLB膜を累積させた膜などがあげられる。さらに光の照射で配向機能が生じる配向膜などもあげられる。一方、延伸フィルム上に液晶をコーティングして配向させる方式(特開平3−9325号公報)、電場や磁場等の印加下に液晶を配向させる方式などもなどもあげられる。なお液晶の配向状態は、可及的に均一であることが好ましく、またその配向状態で固定された固化層であることが好ましい。
これらの光学補償フィルムを、光学補償層を設けた側の反対側に偏光子を設けた上記の偏光板保護フィルムの片面とすることも可能である。
【0046】
〔液晶表示装置〕
本発明の液晶表示装置は、上述の本発明の偏光板を用いたものである。
作製した本発明の偏光板は、液晶表示装置の液晶セルに粘着剤などを介して張り合わせて用いられる。本発明の光学フィルムは、偏光板の液晶セル側の保護フィルムとして配置されていることが好ましい。
液晶セルの両側あるいは片側に用いることが出来、それぞれ光学特性の異なる組み合わせで用いることも可能である。
光学異方性の小さな本発明の光学フィルムは、特にIPSモードの液晶セルに好ましく用いられ、液晶セルの両側に設置されることが好ましい。また、光学補償層を設けたセルロースアシレートフィルムはVAモードやOCBモードに好ましく用いられる。
本発明の偏光板及び液晶表示装置について図1を参照して説明する。
ここで、図1は、本発明の偏光板及び液晶表示装置の1実施形態を示す分解斜視図である。
図1に示す液晶表示装置1は、上側偏光板10、液晶セル20及び下側偏光板30からなる。上側偏光板10は、保護膜H1、偏光子P1及び保護膜A1を積層してなり、液晶セル20は、位相差フィルムA L1、液晶層L2及び位相差フィルムB L3を積層してなる。また、下側偏光板30は、保護膜A2、偏光子P2及び保護膜H2を積層してなる。そして、本実施形態においては、上側偏光板10及び下側偏光板30は、それぞれ保護膜A1,A2として本発明の光学フィルムを用いてなる本発明の偏光板である。
また、図示しないが、バックライト光源(不図示)を配置してある。
【実施例】
【0047】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、試薬、物質量とその割合、操作等は本発明の趣旨から逸脱しない限り適宜変更することができる。従って、本発明の範囲は以下の具体例に制限されるものではない。
【0048】
(セルロースアセテート溶液の調製)
アセチル置換時の触媒量、反応濃度、反応温度、反応時間等の条件を変化させることで表1に示すようなアセチル置換度、重量平均分子量を変化させたセルロースアセテートを作製した。得られたセルロースアセテートを用い、下記の組成物をミキシングタンクに投入し、攪拌して各成分を溶解し、セルロースアセテート溶液を調製した。
【0049】
(セルロースアセテート溶液組成)
セルロースアセテート 100.0質量部
メチレンクロライド(第1溶媒) 400.0質量部
メタノール(第2溶媒) 60.0質量部
【0050】
膜厚方向のレタデーションを低下させる化合物、波長分散調整剤などについては下記表1に示すものを表1に示す添加量になるように調整し、ミキシングタンクに投入し、攪拌して、各成分を溶解したものを上記セルロースアセテート溶液に混合し、それをさらに固形分濃度が20質量%になるように調整したものをドープとした。
【0051】
(セルロースアセテートドープを用いた透明フィルムの作製)
上記セルロースアセテートドープを濾過後、バンド流延機を用いて流延した。残留溶剤量30%でフィルムをバンドから剥離し、テンター延伸、140℃で残留溶剤量が0.2質量%以下になるように乾燥させ、冷却、巻き取り、表1に示す本発明の比較例、実施例の試料を作製した。
【0052】
【表1】

【0053】
測定に使用したGPCに関する条件は以下に示す。
溶媒;クロロホルム
溶解濃度;1mg/ml
装置;東ソー HLC−8220GPC
【0054】
Mw,Mnは上記の測定から求められる値で,それぞれ重量平均分子量,数平均分子量を表す。
【0055】
表1中の波長分散調整剤としては、下記構造の化合物を用いた。
【0056】
【化5】

【0057】
【化6】

【0058】
また、表中、TPPはトリフェニルホスフェート、BDPはビフェニルジフェニルホスフェートを示す。
【0059】
(1−6)評価と結果
得られたフィルムについて下記の各試験を行った。その結果を表2に示す。
(1)フィルムの面状
作製したフィルムの長さ方向、巾方向の段ムラを目視で観察した。
○;ムラが殆ど観察されない
△;不周期的なムラが観察される
×;周期的にムラが観察される
【0060】
(2)フィルムの粗さ
フジノンレーザー干渉計F601を用いて、作製したフィルムの60mmφの面積の厚みムラを測定した二乗平均粗さの値を面状の評価値とした。
【0061】
(3)フィルムの光学特性
本明細書において、Re(λ)、Rth(λ)は各々、波長λにおける面内のレタデーションおよび膜厚方向のレタデーションを表す。Re(λ)はKOBRA 21ADHまたはWR(王子計測機器(株)製)において波長λnmの光をフィルム法線方向に入射させて測定される。
測定されるフィルムが1軸または2軸の屈折率楕円体で表されるものである場合には、以下の方法によりRth(λ)は算出される。
Rth(λ)は前記Re(λ)を、面内の遅相軸(KOBRA 21ADHまたはWRにより判断される)を傾斜軸(回転軸)として(遅相軸がない場合にはフィルム面内の任意の方向を回転軸とする)のフィルム法線方向に対して法線方向から片側50度まで10度ステップで各々その傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて全部で6点測定し、その測定されたレタデーション値と平均屈折率の仮定値及び入力された膜厚値を基にKOBRA 21ADHまたはWRが算出する。
上記において、法線方向から面内の遅相軸を回転軸として、ある傾斜角度にレタデーションの値がゼロとなる方向をもつフィルムの場合には、その傾斜角度より大きい傾斜角度でのレタデーション値はその符号を負に変更した後、KOBRA 21ADHまたはWRが算出する。
尚、遅相軸を傾斜軸(回転軸)として(遅相軸がない場合にはフィルム面内の任意の方向を回転軸とする)、任意の傾斜した2方向からレタデーション値を測定し、その値と平均屈折率の仮定値及び入力された膜厚値を基に、以下の式(2)及び式(3)よりRthを算出することもできる。
【0062】
【数1】

【0063】
注記:
上記のRe(θ)は法線方向から角度θ傾斜した方向におけるレタデーション値をあらわす。
式(1)におけるnxは面内における遅相軸方向の屈折率を表し、nyは面内においてnxに直交する方向の屈折率を表し、nzはnx及びnyに直交する方向の屈折率を表す。dはフィルムの膜厚を表す。
Rth=((nx+ny)/2−nz)×d ―――式(3)
測定されるフィルムが1軸や2軸の屈折率楕円体で表現できないもの、いわゆる光学軸(optic axis)がないフィルムの場合には、以下の方法によりRth(λ)は算出される。
Rth(λ)は前記Re(λ)を、面内の遅相軸(KOBRA 21ADHまたはWRにより判断される)を傾斜軸(回転軸)としてフィルム法線方向に対して−50度から+50度まで10度ステップで各々その傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて11点測定し、その測定されたレタデーション値と平均屈折率の仮定値及び入力された膜厚値を基にKOBRA 21ADHまたはWRが算出する。
上記の測定において、平均屈折率の仮定値はポリマーハンドブック(JOHN WILEY&SONS,INC)、各種光学フィルムのカタログの値を使用することができる。平均屈折率の値が既知でないものについてはアッベ屈折計で測定することができる。主な光学フィルムの平均屈折率の値を以下に例示する:セルロースアセテート(1.48)、シクロオレフィンポリマー(1.52)、ポリカーボネート(1.59)、ポリメチルメタクリレート(1.49)、ポリスチレン(1.59)である。これら平均屈折率の仮定値と膜厚を入力することで、KOBRA 21ADHまたはWRはnx、ny、nzを算出する。この算出されたnx,ny,nzよりNz=(nx−nz)/(nx−ny)が更に算出される。ΔRthは下記式で定義される。
ΔRth=|Rth(630)−Rth(480)| ――式(4)
【0064】
(3)フィルムのガラス転移温度(Tg)
フィルム試料5mm×30mmを、25℃60%RHで2時間以上調湿した後に動的粘弾性測定装置(DVA−225(アイティー計測制御株式会社製))で、つかみ間距離20mm、昇温速度2℃/分、周波数1Hzで測定した時の動的貯蔵弾性率の温度依存性曲線における低温度側から高温度側に延長した直線と動的貯蔵弾性率が急激に低下した後の直線部分の勾配として接線との交点の温度をガラス転移温度として求めた。
(4)フィルムのヘイズ
ヘイズの測定は、本発明のセルロースアセテートフィルムを、25℃60%RHでヘイズメーター(HGM−2DP、スガ試験機)を用いてJIS K−6714に従って測定した。
(5)引裂き強度の測定
JIS K 7128に準じたエルメンドルフ引裂試験機を用いて測定した。測定雰囲気は25℃60%RHである。
(6)破断伸度の測定
引っ張り試験機を用いて、巾1cmで測定試料長1cmの試料を1000%/minの速度で伸張し、破断点を求めた。測定雰囲気は25℃60%RHである。
【0065】
【表2】

【0066】
表2に示すように、本発明の光学フィルムは、フィルムの面状が良好で、かつ、Tgが高すぎずかつ低すぎず、引裂き強度が大きく、破断伸度も大きく、取り扱い性も良好(脆くなくしなやか)であることがわかる。
【0067】
前記試料3、7、10を保護膜として用いて図1に示す偏光板、液晶表示装置を、下記の作製の欄に記載の方法に従って作製した。上側偏光板及び下側偏光板の保護膜A1、A2として得られた試料を用いた。
【0068】
<保護フィルム H1、2>
市販のセルロースアセテートフィルム(フジタックTD80UF、富士フイルム(株)製)を保護フィルムH1、2とした。
<偏光フィルム>
延伸したポリビニルアルコールフィルムにヨウ素を吸着させた偏光フィルムを製作し、採用した。
【0069】
(偏光板の作製)
前記各透明フィルム試料3、7、10を、1.5規定の水酸化ナトリウム水溶液に、40℃で2分間浸漬し、室温の水洗浴槽中で洗浄し、30℃で0.1規定の硫酸を用いて中和した。再度、室温の水洗浴槽中で洗浄し、さらに100℃の温風で乾燥した。
続いて、厚さ80μmのロール状ポリビニルアルコールフィルムをヨウ素水溶液中で連続して5倍に延伸し、乾燥して厚さ20μmの偏光膜を、ポリビニルアルコール(クラレ製PVA−117H)3%水溶液を接着剤として、前記のアルカリケン化した透明フィルム試料と保護フィルムとで偏光膜を間にして貼り合わせ、偏光板を作製した。
<IPSモード液晶セルの作製>
一枚のガラス基板上に、隣接する電極間の距離が20μmとなるように電極を配設し、その上にポリイミド膜を配向膜として設け、ラビング処理を行なった。別に用意した一枚のガラス基板の一方の表面にポリイミド膜を設け、ラビング処理を行なって配向膜とした。二枚のガラス基板を、配向膜同士を対向させて、基板の間隔(ギャップ;d1)を3.9μmとし、二枚のガラス基板のラビング方向が平行となるようにして重ねて貼り合わせ、次いで屈折率異方性(Δn)が0.0769および誘電率異方性(Δε)が正の4.5であるネマティック液晶組成物を封入した。液晶層のd1・Δnの値は300nmであった。
【0070】
(液晶表示装置)
作製した偏光板を、IPSモード液晶セルの両側に本発明の光学フィルムが液晶セル側に配置されるように粘着剤で積層した。視認側の偏光板は電圧無印加時に液晶セル内の液晶組成物の異常光屈折率方向と偏光板の吸収軸が直交するように積層した。またバックライト側の偏光板の吸収軸は視認側の偏光板の吸収軸と直行するように配置した。
【0071】
(評価)
このIPSパネルの黒表示の斜め45°方向での漏れ光と、色味の変化を観察した。保護膜A1に前記試料3、7を用いた表示装置は、通常のフジタックTD80UF偏光板および保護膜A1に前記試料10を用いた表示装置に比較して漏れ光が小さいこと、斜めから見たときの色味の変化が小さいことが一目で確認できた。これは保護フィルムのReとRth値が小さいことによる効果である。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明の光学フィルムを用いた偏光板及び液晶表示装置の好ましい1実施形態を模式的に示す分解斜視図である。
【符号の説明】
【0073】
H1、H2 保護膜
P1、P2 偏光子
A1、A2 保護膜
L1 位相差フィルムA
L2 液晶層
L3 位相差フィルムB
10 上側偏光板
20 液晶セル
30 下側偏光板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量平均分子量が300,000以上であるセルロースアシレート、および、重量平均分子量が1,000以上である、膜厚方向のレタデーションを低下させる化合物を含有する光学フィルム。
【請求項2】
前記セルロースアシレートの重量平均分子量が300,000〜500,000である請求項1に記載の光学フィルム。
【請求項3】
前記膜厚方向のレタデーションを低下させる化合物の重量平均分子量が3,000〜10,000である請求項1または2に記載の光学フィルム。
【請求項4】
前記膜厚方向のレタデーションを低下させる化合物が、ポリメチルメタクリレートである請求項1〜3のうちいずれか一項に記載の光学フィルム。
【請求項5】
膜厚が30〜60μmである請求項1〜4のうちいずれか一項に記載の光学フィルム。
【請求項6】
波長630nmにおける面内のレタデーション値が0nm以上20nm以下、波長630nmにおける膜厚方向のレタデーション値が−20nm以上20nm以下である請求項1〜5のうちいずれか一項に記載の光学フィルム。
【請求項7】
波長480nmと630nmにおける膜厚方向のレタデーション値が下記式の関係である請求項1〜6のうちいずれか一項に記載の光学フィルム。
|Rth(630)−Rth(480)|≦20
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の光学フィルムを、偏光子の保護フィルムとして有する偏光板。
【請求項9】
請求項8に記載の偏光板を用いた液晶表示装置。

【図1】
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【公開番号】特開2008−299104(P2008−299104A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−145339(P2007−145339)
【出願日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】