説明

光学フィルムの製造方法、光学フィルムの製造装置、光学フィルム、偏光板及び表示装置

【課題】固化防止液をドープ流出口の両端部に流下する際、減圧室への固化防止液の飛散を抑制し、流延膜への付着が無く、また、ドープ流出口両端部への皮張りを抑制した、平面性の良い表面を有する光学フィルムの製造方法及び該製造方法を用いて製造した光学フィルム、該光学フィルムを用いた偏光板、表示装置を提供することを目的としている。
【解決手段】ドープ流出口の長手方向両端部に、樹脂を溶解する液体を供給する供給工程を有し、供給工程は、複数の開口部を有する供給部材の該複数の開口部から前記液体を流下して供給することを特徴とする光学フィルムの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学フィルムの製造方法、光学フィルムの製造装置、光学フィルム、偏光板及び表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車搭載用の液晶ディスプレイ、大型液晶テレビのディスプレイ、携帯電話、ノートパソコン等の普及から液晶表示装置の需要が増えてきている。液晶表示装置は、従来のCRT表示装置に比べて、省スペース、省エネルギーであることからモニターとして広く使用されている。さらにTV用としても普及が進んできている。このような液晶表示装置には、光学フィルムが使用され、その需要が急増してきている。
【0003】
ところで、液晶表示装置に用いられる光学フィルムとして、例えば偏光板の偏光フィルムは、延伸ポリビニルアルコールフィルムから成る偏光子の片面または両面にセルロースエステルフィルムが保護膜として積層されている。
【0004】
このような光学フィルムでは、光学的な欠陥がなく、平滑な表面であることが要求される。特に、モニターやTVの大型化や高精細化が進み、これらの要求品質は、ますます厳しくなってきている。
【0005】
光学フィルムの製造方法に溶液流延製膜法がある。この方法は、樹脂を溶媒に溶かして、その溶液(ドープ)を流延ダイのドープ流出口から支持体上に流延し、支持体上で所定量の溶媒を蒸発させた後、支持体から剥離し、さらに必要に応じて延伸して、フィルムを作製する方法である。この方法では、生産性を上げるために支持体の移動速度を速くすると、ドープ流出口から支持体上に流延されるドープの膜(流延膜ともいう。)と支持体との密着性が悪くなり、支持体上に届くまでのドープ膜がバタツキ、平面性の悪いフィルムができるという問題に対処するため、ドープ流出口の支持体表面の移動方向上流側に減圧室を設け、ドープ膜を支持体に密着させる方法が一般に用いられている。
【0006】
しかしながら、この溶液流延製膜法では、樹脂溶液は、ドープ流出口から流出すると直ぐに溶媒の蒸発が始まり、特にドープ流出口の両端部で、減圧室による風の流れのためによく蒸発し、ドープ流出口の両端部付近に「皮張り」が発生するという問題がある。この皮張りは、ドープ流出口両端部にドープ中の樹脂成分がツララ状に成長したもので、ドープ流出口からのドープの流れを乱し、平面性の良い膜の形成を阻害する。この皮張りが発生した場合は、流延速度を減速し、皮張りを除去しなければならず、生産性を著しく低下させる原因となっていた。
【0007】
このような問題を解決するために、原料樹脂を溶解する液体(固化防止液とも呼ぶ。)をドープ流出口の両端部に滴下することで、ドープ流出口の両端部付近の皮張りの発生を防止する方法が知られている(特許文献1参照)。
【0008】
しかし、ドープ流出口の支持体移動方向上流側には、ドープ流出口から流出される流延膜が、支持体表面に密着するように減圧室が設けられているため、この減圧室に固化防止液が吸い込まれ、吸い込まれた固化防止液が減圧室内で飛散し、飛散した固化防止液が、減圧室の両端部ではないところで支持体上に落下して、流延膜に混入する。この混入によって、流延膜の表面が変形し、作製したフィルム表面に丸又は楕円状の変形模様が発生するという問題が発生した。
【0009】
このような問題に対して、特許文献1においては、減圧室に固化防止液の飛散を防止する飛散防止部材を設け、飛散防止部材に付着した固化防止液を桶に溜め、溜まった液をパイプで回収する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2007−276458号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1の方法では、飛散防止部材で固化防止液を十分に防止することができず、フィルム表面の変形模様を問題のないレベルまで無くすことができなかった。また、固化防止液の滴下量を少なくして減圧室への飛散を抑制すると、ドープ流出口の両端部への皮張りが発生し問題となった。
【0012】
よって、本発明は固化防止液をドープ流出口の両端部に流下する際、減圧室への固化防止液の飛散を抑制し、流延膜への付着が無く、また、ドープ流出口両端部への皮張りを抑制した、平面性の良い表面を有する光学フィルムの製造方法及び製造装置、該製造方法を用いて製造した光学フィルム、該光学フィルムを用いた偏光板、表示装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決するために、本発明は以下の特徴を有するものである。
【0014】
1.樹脂と溶媒とを含んだドープを、流延ダイのドープ流出口から、支持体上に流延する流延工程と、前記ドープ流出口から前記支持体上に流延する流延膜が、前記支持体に密着するように、前記ドープ流出口の前記支持体の表面の移動方向上流側の気圧を大気圧よりも低い状態に保持する減圧工程と、前記樹脂を溶解する液体を前記ドープ流出口の両端部に供給する供給工程とを有する光学フィルムの製造方法において、
前記供給工程は、前記ドープ流出口の両端部のそれぞれに対応して配置された複数の開口部を有する供給部材の該複数の開口部から前記液体を流下して供給することを特徴とする光学フィルムの製造方法。
【0015】
2.前記供給工程は、
前記複数の開口部を有する供給部材をその先端部に配置したノズルの該先端部を
前記ドープ流出口の長手方向両端部の近傍に配置し、
前記複数の開口部から前記液体を流下して供給することを特徴とする前記1に記載の光学フィルムの製造方法。
【0016】
3.前記流延ダイの一部が前記複数の開口部を有する供給部材であって、
前記供給工程は、
前記供給部材の前記複数の開口部から前記液体を流下して、前記ドープ流出口の端部に供給することを特徴とする前記1に記載の光学フィルムの製造方法。
【0017】
4.前記複数の開口部の開口径が、0.001〜0.5mmの範囲であることを特徴とする前記1から3の何れか1項に記載の光学フィルムの製造方法。
【0018】
5.前記複数の開口部の占める面積が、1〜100mmであることを特徴とする前記1から4の何れか1項に記載の光学フィルムの製造方法。
【0019】
6.前記供給部材が、多孔質素材からなり、該多孔質素材の孔から前記液体を流下して前記ドープ流出口の端部に供給することを特徴とする前記1から5の何れか1項に記載の光学フィルムの製造方法。
【0020】
7.樹脂と溶媒とを含んだドープを、流延ダイのドープ流出口から、支持体上に流延する手段と、前記ドープ流出口から前記支持体上に流延する流延膜が、前記支持体に密着するように、前記ドープ流出口の前記支持体の表面の移動方向上流側の気圧を大気圧よりも低い状態に保持する減圧室と、前記樹脂を溶解する液体を前記ドープ流出口の両端部に供給する供給手段とを有する光学フィルムの製造装置において、
前記供給手段は、前記ドープ流出口の両端部のそれぞれに対応して配置され、複数の開口部を有し、該複数の開口部から前記液体を流下して供給する供給部材であることを特徴とする光学フィルムの製造装置。
【0021】
8.前記1から6の何れか1項に記載の光学フィルムの製造方法により製造されたことを特徴とする光学フィルム。
【0022】
9.前記8に記載の光学フィルムを、少なくとも一方の面に有することを特徴とする偏光板。
【0023】
10.前記9に記載の偏光板を用いることを特徴とする表示装置。
【発明の効果】
【0024】
本発明の光学フィルムの製造方法によれば、ドープ流出口の長手方向両端部に、樹脂を溶解する液体を供給する供給工程を有し、供給工程は、複数の開口部を有する供給部材の該複数の開口部から前記液体を流下して供給している。このようにすることで、固化防止液をドープ流出口の両端部に供給する際、減圧室への固化防止液の飛散を抑制し、流延膜への付着が無く、また、ドープ流出口両端部への皮張りを抑制でき、平面性の良い表面を有する光学フィルムの製造方法及び製造装置、該製造方法を用いて製造した光学フィルム、該光学フィルムを用いた偏光板、表示装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の光学フィルムの製造方法を示す概略図である。
【図2】本発明の光学フィルムの製造方法におけるドープの流延工程を示す概略図である。
【図3】本発明の光学フィルムの製造方法における支持体側から見た流延ダイと減圧室、固化防止液の供給ノズルの配置状況を示す。
【図4】本発明に係る流延ダイの側面図と側板の断面を示す概略図である。
【図5】本発明の実施例で用いた供給ノズルと流延ダイの配置を示す概略図である。
【図6】本発明の実施例で用いた供給部材を配置した側板と流延膜との位置を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
次に、本発明の実施の形態を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0027】
図1は、本発明の光学フィルムの製造方法における流延工程から巻き取り工程までのフローの一例を示す概略図である。樹脂原料を溶媒に溶解したドープ(樹脂溶液)を流延ダイ1から支持体2上に流延し(流延工程)、支持体2上に流延された流延膜3は、支持体2上で所定の濃度に乾燥された後、剥離ロール4により支持体2から剥離される(剥離工程)。その後初期乾燥装置13で乾燥された後(初期乾燥工程)、延伸装置14で延伸され、更に後乾燥装置15で乾燥し(後乾燥工程)、巻き取り装置18で巻きとられる(巻き取り工程)。
【0028】
図2(a)は、支持体2上に流延ダイ1によりドープを流延する流延工程の拡大図である。
【0029】
本発明の光学フィルムの製造方法は、流延工程において、樹脂と溶媒とを含んだドープを、流延ダイ1のドープ流出口1aから、移動する支持体2上に流延して、流延膜3を形成する工程において、ドープ流出口1aの両端部でドープが固化して皮張りを発生するのを防止するために、液貯蔵槽32に貯蔵された、樹脂を溶解する液体(固化防止液)33をドープ流出口1aの両端部に供給する供給工程を有し、また、支持体2上で流延膜3がばたついたりしないように支持体2に流延膜3を密着させるために、ドープ流出口1aの支持体2の移動方向上流側を減圧状態に保持する減圧室10を設け減圧する減圧工程を有し、この供給工程が、流量調整機構(ポンプ又はバルブ等)31と供給ノズル30を用いて、供給ノズル30の先端部に配置した、複数の開口部を有する供給部材34の該複数の開口部から前記液体を流下してドープ流出口1aの両端部に供給することを特徴とする。
【0030】
図2(b)は供給部材34を出口側からみた模式図である。供給部材34の出口側には、複数の開口部341があり、各開口部341からドープが含有する樹脂を溶解する液体が流出し、ドープ流出口の端部に前記液体を供給する。また、供給部材34は、細いノズルを多数本組み合わせた形状にしてもよい。
【0031】
固化防止液33は、樹脂を溶解する液体であればよいが、好ましくは、ドープに用いたものと同じであれば、ドープとの混合が容易に起こり、より均一に混合されるので好ましい。
【0032】
図3は、支持体2側から見た流延ダイ1と減圧室10、固化防止液の供給ノズル30の配置状況を示す概略図である。供給ノズル30の先端に配置された複数の開口部を有する供給部材34の該複数の開口部から流下される固化防止液33は、流延ダイ1のドープ流出口1aの幅方向両端部に供給される。減圧室10は、ドープ流出口1aの支持体の表面の移動方向上流側に配置されている。減圧室10の気圧は、減圧ポンプ102と配管103を吸引口101に接続し、吸引することにより減圧されている。この減圧により、流延膜3は支持体2の表面に密着され製膜される。
【0033】
このように複数の開口部を有する供給部材34の該複数の開口部からドープに含まれる樹脂を溶解する液体(固化防止液)33を流下してドープ流出口1aの両端部に供給することにより、ドープ流出口両端部への皮張りを抑制することができると共に、減圧室への固化防止液の飛散を抑制することができる。これは、従来のように供給ノズルの先端が1つの開口部を有し、その開口部から固化防止液をドープ流出口付近の流延ダイの表面に吐出する方法では、流延ダイの表面に固化防止液が液滴状になってスムーズに流れず、上流側の減圧室に飛散しやすくなっていた。また、飛散しないように滴下液量を少なくすると、ドープ流出口両端部への皮張りを抑制することできなかった。これに対して、本発明の複数の開口部を有する供給部材34から流下される固化防止液は、必要な液量を複数の開口部から流下させるために、流下直後に流延ダイの表面に付着させることで、液滴状にならず、流延ダイの表面になじんだ液膜状にすることができる。このように固化防止液を液膜状で流下してドープ流出口の端部に供給できるので、減圧室10への飛散を防止できるとともに、皮張りを十分に抑制することができる。
【0034】
また、流延ダイ1の一部が複数の開口部を有する供給部材であって、供給部材の複数の開口部から固化防止液を流出し、ドープ流出口1aの長手方向両端部に供給するようにしても良い。
【0035】
図4(a)は、流延ダイ1の側面図を示す。流延ダイ1は、ドープ流出口1aの支持体の表面の移動方向上流側及び下流側の壁を構成するダイ中央部12と、ドープ流出口1aの長手方向の壁を構成する側板11とを有している。図4(b)は、図4(a)のA−A断面で切断した側板11の断面図である。側板11には、その一部に供給部材34を用いている。固化防止液が固化防止液供給口35を通して供給部材34に供給され、供給部材34は、複数の開口部から固化防止液を流下し、流延膜3の幅方向両端部に供給している。
【0036】
このように流延ダイ1の一部を供給部材34で構成し、供給部材34の複数の開口部から固化防止液をドープ流出口1aの両端部に供給することで、固化防止液が浸みだした状態で、流延ダイ1の表面に供給され、流延ダイ1の表面を膜状に流下して、ドープ流出口1aの端部に供給することができるので、減圧室10への飛散をより防止でき、皮張りも十分に抑制することができる。また、流延ダイ1の一部に供給部材を配置することで、ドープ流出口の近傍に正確に固化防止液を供給することができるため固化防止液の蒸発を抑制し規定量の溶媒を供給できるのに加え、蒸発によるダイス表面の冷却も抑制でき水分の結露による固化防止液の流下阻害を防止できる。
【0037】
また、複数の開口部を有する供給部材34の固化防止液が吐出される開口部の大きさは、開口径が、0.001〜0.5mmの範囲であることが好ましい。開口径をこの範囲にすることで、吐出するための圧力を過度に大きくする必要がなく、かつ、吐出された固化防止液が、流延ダイ1の表面を液膜状に流下しやすくなり、液滴の飛散が抑制されやすくなる。開口径は、供給部材34のそれぞれの開口部の開口面積から円相当の直径を算出した値である。
【0038】
また、供給ノズル30の先端に配置された供給部材34の複数の開口部の占める面積(供給面積とも呼ぶ)は、1〜100mmが好ましい。この範囲にすることで、ドープ流出口両端部の皮張り抑制できると共に、減圧室への固化防止液の混入を効果的に防止することができる。1mm未満では固化防止液の供給量が少なく流量を多くすると液滴になり飛散するため好ましくない。100mmを越えると吐出した液が蒸発してしまい水分の結露が発生するため好ましくない。
【0039】
供給ノズル30の先端に配置した複数の開口部を有する供給部材34としては、固化防止液に対して溶解されない多孔質素材が好ましく、金属やセラミックなどがより好ましい。
【0040】
多孔質素材の形状としては、メッシュ状のフィルターや、メッシュ状のフィルターを積層したもの、スポンジ状の連通口を有するフィルター等を用いることができる。
【0041】
例えば金属からなる連通口を有する多孔質体としては、ステンレス鋼(SUS316L、SUS630、SUS310Mo、SUS410L、SUS630、SUS420J2、SUS440C)、チタン及びチタン合金(Ti−6A1−4V)、銅及び銅合金、ニッケル、低合金鋼(SCM415)、アルミニウム等の金属粉末とバインダから構成される原料に気孔形成材を添加し、成形、脱脂(気孔形成材を除去して多孔質体にする。)、焼結により作成された連通口を有する金属製多孔質材料を用いることができる。
【0042】
つぎに、本発明の光学フィルム製造方法について、図1を用いてさらに詳しく説明する。
【0043】
本発明の溶液流延製膜法を用いた光学フィルムの製造方法による実施形態としては、ドープ調製工程、流延工程、剥離工程、乾燥工程、および巻取り工程を具備するものである。
【0044】
すなわち、本実施形態の溶液流延製膜法による光学フィルムの製造方法は、樹脂フィルム原料を溶媒に溶解したドープ(樹脂溶液)を、流延ダイから、例えば幅1.8m以上の回転駆動金属製エンドレスベルト(ベルト支持体)上に流延し、その後ベルト支持体上から剥離した流延膜(フィルム)を乾燥させた後、巻き取り、光学フィルムを製造する方法である。各工程について説明する。
【0045】
[ドープ調製工程]
本発明において、樹脂フィルム原料としては、セルロースエステルが好ましく用いられ、樹脂フィルム原料としてセルロースエステルを用いた場合、溶媒としてはメチレンクロライドとアルコールの混合溶媒が好ましく用いられる。
【0046】
その他、ドープ中に添加される添加剤としては、可塑剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、染料、マット剤等がある。本発明において、これらの添加剤はセルロースエステル溶液の調製の際に添加してもよいし、マット剤等の分散液の調製の際に添加してもよい。
【0047】
以下に、光学フィルムの樹脂がセルロースエステルである場合の例を示すが、本発明はこれに限定されるわけではない。
【0048】
まず、セルロースエステルの溶解は、溶解釜中での撹拌溶解方法、加熱溶解方法、超音波溶解方法等の手段が通常用いられ、加圧下で、溶媒の常圧での沸点以上でかつ溶媒が沸騰しない範囲の温度で加熱し、攪拌しながら溶解する方法が、ゲルやママコと呼ばれる塊状未溶解物の発生を防止するため、より好ましい。また、特開平9−95538号公報記載の冷却溶解方法、あるいはまた特開平11−21379号公報記載の高圧下で溶解する方法なども用いてもよい。
【0049】
セルロースエステルを貧溶媒と混合して湿潤、あるいは膨潤させた後、さらに良溶媒と混合して溶解する方法も好ましく用いられる。このとき、セルロースエステルを貧溶媒と混合して湿潤あるいは膨潤させる装置と、良溶媒と混合して溶解する装置を別々に分けても良い。
【0050】
セルロースエステルの溶解に用いる加圧容器の種類は、特に問うところではなく、所定の圧力に耐えることができ、加圧下で加熱、攪拌ができればよい。加圧容器には、その他、圧力計、温度計などの計器類を適宜配設する。加圧は窒素ガスなどの不活性気体を圧入する方法や、加熱による溶媒の蒸気圧の上昇によって行ってもよい。加熱は外部から行うことが好ましく、例えばジャケットタイプのものは温度コントロールが容易で好ましい。
【0051】
溶媒を添加しての加熱温度は、使用する溶媒の沸点以上で、2種類以上の混合溶媒の場合は、沸点が低い方の溶媒の沸点以上の温度に加温しかつ該溶媒が沸騰しない範囲の温度が好ましい。加熱温度が高すぎると、必要とされる圧力が大きくなり、生産性が悪くなる。好ましい加熱温度の範囲は20〜120℃であり、30〜100℃が、より好ましく、40〜80℃の範囲がさらに好ましい。また圧力は、設定温度で、溶媒が沸騰しないように調整される。
【0052】
セルロースエステルの溶解後は、冷却しながら容器から取り出すか、または容器からポンプ等で抜き出して、熱交換器などで冷却し、得られた樹脂のドープを製膜に供するが、このときの冷却温度は、常温まで冷却してもよい。
【0053】
原料セルロースエステルと溶媒の混合物は、撹拌機を有する溶解装置で溶解し、このとき、撹拌翼の周速は少なくとも0.5m/秒以上で、かつ30分以上撹拌して溶解することが好ましい。
【0054】
本発明において、セルロースエステルドープは、これを濾過することによって、異物、特に液晶画像表示装置において、画像と認識し間違う異物は、これを除去しなければならない。
【0055】
濾過に使用する濾材は、絶対濾過精度が小さい方が好ましいが、絶対濾過精度が小さすぎると、濾過材の目詰まりが発生しやすく、濾材の交換を頻繁に行わなければならず、生産性を低下させるという問題点ある。
【0056】
このため、セルロースエステルドープに使用する濾材は、絶対濾過精度0.008mm以下のものが好ましく、0.001〜0.008mmの範囲が、より好ましく、0.003〜0.006mmの範囲の濾材がさらに好ましい。
【0057】
濾材の材質には、特に制限はなく、通常の濾材を使用することができるが、ポリプロピレン、テフロン(登録商標)等のプラスチック繊維製の濾材やステンレス繊維等の金属製の濾材が繊維の脱落等がなく好ましい。
【0058】
セルロースエステルドープの濾過は通常の方法で行うことができるが、溶媒の常圧での沸点以上でかつ溶媒が沸騰しない範囲の温度で加圧下加熱しながら濾過する方法が、濾過材前後の差圧(以下、濾圧とすることがある)の上昇が小さく、好ましい。
【0059】
好ましい温度範囲は45〜120℃であり、45〜70℃が、より好ましく、45〜55℃の範囲であることがさらに好ましい。
【0060】
濾圧は、3500kPa以下であることが好ましく、3000kPa以下が、より好ましく、2500kPa以下であることがさらに好ましい。なお、濾圧は、濾過流量と濾過面積を適宜選択することで、コントロールできる。
【0061】
[流延工程]
まず、流延工程は、溶解釜で調整されたドープを、導管によって流延ダイ1に送液し、無限に移送する例えば回転駆動ステンレス鋼製エンドレスベルトよりなる支持体2上の流延位置に、流延ダイ1からドープを流延する工程である。
【0062】
流延ダイ1としては、ドープ流出口1aのスリット形状を調製でき、膜厚を均一にしやすい加圧ダイが好ましい。
【0063】
流延ダイ1のドープ流出口1aと支持体2表面との間隙は、0.2〜10mmの間隙を取って設置されるのが好ましく、さらに0.5〜5mmの間隙が、より好ましい。
【0064】
流延ダイ1のスリットのギャップは0.05〜1.5mmが好ましく、0.15〜1.0mmが、より好ましい。
【0065】
つぎに、支持体2について説明する。
【0066】
支持体2の表面粗さRaは、0.0001〜1μmであり、0.0003〜0.1μmが、より好ましく、0.0005〜0.05μmがさらに好ましい。
【0067】
支持体2として回転駆動エンドレスベルトを具備する図示の製膜装置では、該ベルト支持体2は一対のドラム19およびその中間に配置されかつエンドレスベルト支持体2の上部移行部及び下部移行部をそれぞれ裏側より支えている複数のロール(図示略)より構成される。この複数のロールはサポートロールと呼ばれ、隣り合うサポートロール同士の間の距離が0mより大きく、5m以下の範囲内、好ましくは1〜5m、より好ましくは2〜5mである。
【0068】
また、回転駆動エンドレスベルト支持体2の両端巻回部のドラム19の一方、もしくは両方に、ベルト支持体2に張力を付与する駆動装置が設けられ、これによってベルト支持体2は張力が掛けられて張った状態で使用される。
【0069】
支持体2としてエンドレスベルトを用いる場合には、製膜時のベルト温度は、一般的な温度範囲0℃〜溶媒の沸点未満の温度で流延することができ、さらには5℃〜溶媒沸点−5℃の範囲が、より好ましい。このとき、周囲の雰囲気湿度は露点以上に制御する必要がある。
【0070】
また、本発明においては、流延ダイ1のドープ流出口1aの幅方向両端部にドープ中の樹脂が付着して、皮張りを発生するのを防止するために、ドープに用いた樹脂を溶解する液体(固化防止液)をドープ流出口1aの両端部に供給する供給工程を有している。この供給工程は、複数の開口部を有する供給部材の該複数の開口部から固化防止液を流下して供給する。図1では、供給ノズル3を用いて、その先端部に供給部材を配置し、供給部材の複数の開口部から固化防止液を供給するようにしている。図1に示した固化防止液の貯蔵タンクから供給口までに使用する部材は溶剤により溶出する成分が無いものが好ましい。例えば、ガラス、ステンレス、セラミックなど無機物質による部材が好適に用いられる。また異物などの流出を抑制する為に途中にフィルターを設けても構わない。このとき用いる濾材も溶出を抑制するために金属製が好ましい。溶出成分や異物を抑制することで固化防止液の流下をスムーズに行うことができる。このようにして供給される固化防止液は不揮発成分を含まないのが安定した流下を得るためには好ましい。また固化防止液を一定流量で供給する為に貯蔵タンクから供給口の間に流量調整機構を設ける。流量調整機構はバルブの開度+自由落下、ポンプによる流量制御などがある。自由落下の場合は貯蔵タンクの液面を一定に保つ機能が必要である。ポンプを用いる場合は小流量を精度良く制御できるポンプが好ましい。例えば精密ギヤポンプ、ダイヤフラムポンプ、プランジャーポンプ、マグネットポンプなどが用いられる。先端部の供給部材については、すでに詳述しているのでここでの説明は、省く。
【0071】
また、ドープ流出口1aの支持体2の表面の移動方向上流側を減圧状態に保持する減圧室10を設けている。減圧室10は、支持体2の搬送速度が10m/分以上では、流延ダイ1のドープ流出口1aから出てくる流延膜3に減圧を掛けてエア混入や、フィルム幅手方向に横段状のスジをつくる原因となる流延リボンのばたつきを抑制するために設けているが、減圧室10を設けたために、ドープに用いた樹脂を溶解する液体(固化防止液)を減圧室10に飛散しやすくなる。
【0072】
固化防止液が減圧室に飛散した場合は、直接支持体上に落下したり、減圧室の内壁に付着し、その一部が支持体表面に落下してその模様がフィルムに転写し品質故障を招くが、本発明では、複数の開口部を有する供給部材34の該複数の開口部から固化防止液をドープ流出口の端部に供給するようにしているので、余分な固化防止液の供給を抑え、減圧室10への飛散を抑制でき、減圧室内壁に付着した固化防止液が支持体上に付着して、作成したフィルム表面に丸又は楕円状の変形模様が発生することを抑制することができる。
【0073】
固化防止液としては、ドープに用いた樹脂を溶解するものであれば、特に限定するものではないが、ドープに使用した溶媒を用いるのが好ましく、より好ましくは、ドープと同じ溶媒組成のものを用いるのが良い。ドープと同じ組成の溶媒を用いることにより、流延膜3に流下しても、膜面での溶媒蒸発速度が均一になり、より均一な流延膜を形成することができる。
【0074】
セルロース誘導体に対して良好な溶解性を有する有機溶媒の例としては、アセトン、メチルエチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノンなどのケトン類、テトラヒドロフラン(THF)、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、1,2−ジメトキシエタンなどのエーテル類、蟻酸メチル、蟻酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸アミル、γ−ブチロラクトン等のエステル類の他、メチルセロソルブ、ジメチルイミダゾリノン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、アセトニトリル、ジメチルスルフォキシド、スルホラン、ニトロエタン、塩化メチレン、アセト酢酸メチルなどが挙げられるが、1,3−ジオキソラン、THF、メチルエチルケトン、アセトン、酢酸メチル及び塩化メチレンが好ましい。上記有機溶媒の他に、1〜40質量%の炭素原子数1〜4のアルコールを含有させることが好ましい。上記アルコールは、固化防止液を流延膜に流延した後、溶媒が蒸発し始めてアルコールの比率が多くなることで、ウェブをゲル化させ、ウェブを丈夫にして、金属支持体から流延膜を剥離することを容易にするゲル化溶媒として用いることができる。炭素原子数1〜4のアルコールとしては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、iso−プロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテルを挙げることができる。これらのうち、ドープの安定性に優れ、沸点も比較的低く、乾燥性も良く、かつ毒性がないことなどからエタノールが好ましい。これらの有機溶媒は、単独ではセルロース誘導体に対して溶解性を有しておらず、貧溶媒という。
【0075】
減圧室の気圧は、大気圧よりも10〜1500Pa減圧するのが好ましい。
【0076】
減圧室の下部端面と、支持体2表面との間隙は、0.1〜5mmの範囲が吸引風量が大きくなり過ぎず、それにより、流延ダイ1のドープ流出口端部のドープ乾燥皮膜(皮張り)の発生がより抑制されるため望ましい。
【0077】
支持体2上へドープを流延する際は、原料樹脂の溶解に用いた溶媒の沸点未満、混合溶媒では最も沸点の低い溶媒の沸点未満の温度に制御するのが好ましい。
【0078】
支持体2としてエンドレスベルトを用いる方式においては、支持体2上では、流延膜3が支持体2から剥離可能な膜強度となるまで乾燥固化させるため、流延膜3中の残留溶媒量が、固形分100質量%に対して、150質量%以下まで乾燥させるのが好ましく、より好ましくは、80〜120質量%である。また、支持体2から流延膜3を剥離するときの流延膜温度は、0〜30℃が好ましい。また、流延膜3は、支持体2からの剥離直後に、支持体2密着面側からの溶媒蒸発で温度が一旦急速に下がり、雰囲気中の水蒸気や溶媒蒸気など揮発性成分がコンデンスしやすいため、剥離時の流延膜温度は5〜30℃がさらに好ましい。
【0079】
エンドレスベルト支持体2上に流延されたドープにより形成されたドープ膜(流延膜)は、支持体2上で加熱され、支持体2から流延膜が剥離可能になるまで溶媒を蒸発させる。溶媒を蒸発させるには、流延膜側から風を吹かせる方法、支持体2の裏面から液体により伝熱させる方法、輻射熱により表裏から伝熱する方法等がある。
【0080】
[剥離工程]
支持体2にエンドレスベルトを用いる方式においては、支持体2と流延膜3を剥離する際の剥離張力は、流延膜幅1m当たりの張力として、剥離の際に流延膜3にシワが入りやすいため、剥離できる最低張力〜200Nで剥離することが好ましく、さらに好ましくは、最低張力〜150Nで剥離することである。
【0081】
[乾燥工程]
支持体2にエンドレスベルトを用いる方式においては、剥離後の流延膜3は初期乾燥装置13に導入する。初期乾燥装置13内では、側面から見て千鳥配置せられた複数の搬送ロール17によって流延膜3が搬送させられ、その間に流延膜3は初期乾燥装置13の底の前寄り部分から吹込まれ、初期乾燥装置13の天井の後寄り部分から排出せられる温風26によって乾燥される。
【0082】
使用するロールの直径は50〜300mmが好ましく、100〜200mmがより好ましい。
【0083】
その後、後乾燥装置15で後乾燥する。後乾燥装置15内では、側面から見て千鳥配置せられた複数の搬送ロール17によって流延膜3が搬送させられ、その間に流延膜3が乾燥せられるものである。また、後乾燥装置15でのフィルム搬送張力は、ドープの物性、剥離時及びフィルム搬送工程での残留溶媒量、後乾燥装置15での温度等に影響を受けるが、流延膜幅1m当たりの張力として、30〜250Nが好ましく、50〜150Nがさらに好ましい。80〜120Nが最も好ましい。
【0084】
なお、流延膜3(またはフィルム)を乾燥させる手段は、特に制限なく、一般的に熱風、赤外線、加熱ロール、マイクロ波等で行う。簡便さの点から熱風で乾燥するのが好ましく、例えば後乾燥装置15の底の前寄り部分から吹込まれ、後乾燥装置15の天井の後寄り部分から排出せられる温風25によって乾燥される。乾燥温度は40〜160℃が好ましく、50〜160℃が平面性、寸法安定性を良くするためさらに好ましい。
【0085】
これら流延から後乾燥までの工程は、空気雰囲気下でもよいし、窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気下でもよい。この場合、乾燥雰囲気を溶媒の爆発限界濃度を考慮して実施することは勿論のことである。
【0086】
次に、エンボス工程、除電工程を設けることができる。
【0087】
後乾燥工程後の流延膜3の両側縁部に設けるエンボスについて説明する。後乾燥工程を終えた樹脂フィルムに対し、巻取工程に導入する前段において、エンボス加工装置60によりフィルムにエンボスを形成する加工が行われる。
【0088】
ここで、エンボスの高さは、フィルム膜厚Tの0.05〜0.3倍の範囲、幅は、フィルム幅Lの0.005〜0.02倍の範囲に設定する。例えばフィルム膜厚40μm、フィルム幅100cmであるとき、エンボス31の高さは2〜12μm、幅は5〜30mmに設定する。エンボスは、フィルムの両面に形成してもよい。
【0089】
巻取前及び巻取部直後に除電器を設置し、フィルムを除電するのが好ましい。
【0090】
除電器は、元巻を再繰り出しした際の帯電電位が±2kV以下となるように、巻取時に除電装置あるいは強制帯電装置により逆電位を与える構成で行うことができるが、強制帯電電位が、1〜150Hzで正負交互に変換される除電器により除電する構成とすることもできる。
【0091】
また、上記の除電器に代えて、イオン風を発生させるイオナイザーや除電バーを利用することができる。ここで、イオナイザー除電は、エンボス加工装置から搬送ロールを経て巻き取られていくフィルムに向けてイオン風を吹き付けることによって行われる。イオン風は、除電器により発生される。除電器としては、公知のものを制限なく用いることができる。
【0092】
製膜巻取り時の除電は、元巻を再繰出しして機能性膜塗工する際、帯電電位が±2kV以上あると塗布ムラを誘発するためであり、特に薄膜、高速化を追求した場合、再繰り出し時のフィルム剥離帯電が高くなるため、製膜時除電は必須となる。
【0093】
[巻き取り工程]
乾燥が終了した流延膜3は、フィルムとして巻取り装置18によって巻き取られる。光学フィルムの元巻を得る工程である。乾燥を終了するフィルム20の残留溶媒量は、0.5質量%以下、好ましくは0.1質量%以下とすることにより寸法安定性の良好なフィルムを得ることができる。
【0094】
フィルムの巻き取り方法は、一般に使用されているワインダーを用いればよく、定トルク法、定テンション法、テーパーテンション法、内部応力一定のプログラムテンションコントロール法等の張力をコントロールする方法があり、それらを使い分ければよい。
【0095】
巻取りコア(巻芯)への、フィルムの接合は、両面接着テープでも、片面接着テープでもどちらでも良い。
【0096】
本発明の製造方法により製造された光学フィルムの膜厚は、使用目的によって異なるが、液晶表示装置の薄型化とフィルム強度の観点から、仕上がりフィルムとして10〜150μmの範囲に調整するのが好ましく、さらに20〜100μmの範囲の範囲に調整するのがより好ましく、特に25〜80μmの範囲の範囲に調整するのが好ましい。
【0097】
次に、本発明の製造方法により作製されたセルロースエステルフィルムは、偏光板および表示装置に用いることができる。
【0098】
本発明における偏光板は、本発明により製造された光学フィルムよりなる偏光板用保護フィルムを、少なくとも一方の面に有するものである。
【0099】
そして、本発明において、液晶表示装置は、上記の偏光板を、液晶セルの少なくとも一方の面に有するものである。
【0100】
つぎに、これらの偏光板、および該偏光板を用いた液晶表示装置について説明する。
【0101】
偏光板は一般的な方法で作製することができる。アルカリ鹸化処理した本発明によるセルロースエステルフィルムは、ポリビニルアルコール系フィルムをヨウ素溶液中に浸漬延伸して作製した偏光子の少なくとも一方の面に、完全鹸化型ポリビニルアルコール水溶液を用いて貼り合わせることが好ましい。もう一方の面にも本発明によるセルロースエステルフィルムを用いても、別の偏光板用保護フィルムを用いてもよい。本発明によるセルロースエステルフィルムに対して、もう一方の面に用いられる偏光板用保護フィルムは市販のセルロースエステルフィルムを用いることができる。例えば、市販のセルロースエステルフィルムとして、KC8UX2M、KC4UX、KC5UX、KC4UY、KC8UY、KC12UR、KC8UY−HA、KC8UX−RHA、KC8UX−RHA−N(以上、コニカミノルタオプト株式会社製)等が好ましく用いられる。あるいは、セルロースエステルフィルム以外の環状オレフィン樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル、ポリカーボネート等のフィルムをもう一方の面の偏光板用保護フィルムとして用いてもよい。この場合は、ケン化適性が低いため、適当な接着層を介して偏光板に接着加工することが好ましい。
【0102】
本発明の偏光板は、本発明によるセルロースエステルフィルムを偏光子の少なくとも片側に偏光板用保護フィルムとして使用したものである。その際、該セルロースエステルフィルムの遅相軸が偏光子の吸収軸に実質的に平行または直交するように配置されていることが好ましい。
【0103】
この偏光板が、横電界スイッチングモード型である液晶セルを挟んで配置される一方の偏光板として、本発明によるセルロースエステルフィルムが液晶表示セル側に配置されることが好ましい。
【0104】
偏光板に好ましく用いられる偏光子としては、ポリビニルアルコール系偏光フィルムが挙げられ、これはポリビニルアルコール系フィルムにヨウ素を染色させたものと二色性染料を染色させたものがある。ポリビニルアルコール系フィルムとしては、エチレンで変性された変性ポリビニルアルコール系フィルムが好ましく用いられる。偏光子は、ポリビニルアルコール水溶液を製膜し、これを一軸延伸させて染色するか、染色した後一軸延伸してから、好ましくはホウ素化合物で耐久性処理を行ったものが用いられている。
【0105】
偏光子の膜厚は5〜40μm、好ましくは5〜30μmであり、特に好ましくは5〜20μmである。該偏光子の面上に、本発明によるセルロースエステルフィルムの片面を貼り合わせて偏光板を形成する。好ましくは完全鹸化ポリビニルアルコール等を主成分とする水系の接着剤によって貼り合わせる。また、セルロースエステルフィルム以外の樹脂フィルムの場合は、適当な粘着層を介して偏光板に接着加工することができる。
【0106】
偏光子は一軸方向(通常は長手方向)に延伸されているため、偏光板を高温高湿の環境下に置くと、延伸方向(通常は長手方向)は縮み、延伸に対して直交する方向(通常は幅手方向)には伸びる。偏光板用保護フィルムの膜厚が薄くなるほど偏光板の伸縮率は大きくなり、特に偏光子の延伸方向の収縮量が大きい。通常、偏光子の延伸方向は偏光板用保護フィルムの流延方向(MD方向)と貼り合わせるため、偏光板用保護フィルムを薄膜化する場合は、特に流延方向の伸縮率を抑えることが重要である。本発明によるセルロースエステルフィルムは、表面にムラが無く平滑性に優れるため、このような偏光板用保護フィルムとして好適に使用される。
【0107】
偏光板は、さらに該偏光板の一方の面にプロテクトフィルムを、反対面にセパレートフィルムを貼合して構成することができる。プロテクトフィルム及びセパレートフィルムは偏光板出荷時、製品検査時等において偏光板を保護する目的で用いられる。
(液晶表示装置)
本発明により作製された光学フィルムが用いられた偏光板を液晶表示装置に組み込むことによって、種々の視認性に優れた液晶表示装置を作製することができる。
【0108】
ここで、液晶表示装置は、一般に、光反射板、バックライト、導光板、光拡散板に隣接して、偏光板すなわち偏光散乱異方性を有する偏光板保護フィルム/二色性物質による光吸収作用を利用した二色性偏光フィルム/偏光板保護フィルムの構成、及び液晶表示パネル、視認側偏光板の順に積層された構成をとることが好ましい。
【0109】
本発明により作製された光学フィルムは、反射型、透過型、半透過型LCDあるいはTN型、STN型、OCB型、HAN型、VA型(PVA型、MVA型)、IPS型等の各種駆動方式のLCDで好ましく用いられ、色むら、ぎらつきや波打ちムラが少なく、長時間の鑑賞でも目が疲れないという効果があった。
【0110】
このように、本発明により作製された光学フィルムを用いた偏光板を、液晶セルの少なくとも一方の面に有する液晶表示装置は、表示品質が非常に優れているものである。
【実施例】
【0111】
以下、本発明を用いた光学フィルムの製造方法により実施した例を示すが、本発明はこれにより限定されるものではない。
(実施例1〜19)
(溶液流延製膜のドープ調製)
下記の素材を密閉容器に投入し、加熱し、撹拌しながら、完全に溶解、濾過し、ドープを調製した。なお、二酸化珪素微粒子(アエロジルR972V)は、エタノールに分散した後添加した。
【0112】
(ドープ組成)
セルローストリアセテート 100質量部
(Mn=148000、Mw=310000、Mw/Mn=2.1)
トリフェニルホスフェート 8質量部
エチルフタリルエチルグリコレート 2質量部
メチレンクロライド 440質量部
エタノール 40質量部
チヌビン109(チバ・ジャパン(株)製) 0.5質量部
チヌビン171(チバ・ジャパン(株)製) 0.5質量部
アエロジル972V(日本アエロジル株式会社製) 0.2質量部
上記のドープ組成1の材料を、密閉容器に投入し、加熱し、撹拌しながら、完全に溶解し、濾過した。濾過は、フィルタープレスによる濾過の後、金属焼結フィルター(捕捉粒子径=10ミクロン)を通過させた。
【0113】
(光学フィルムの作製)
上記のドープを用いて、以下のようにして、光学フィルムを作製した。フィルムの製膜は、図1に示す製造装置で行った。まず、濾過したドープをコートハンガーダイよりなる流延ダイより、SUS316製でかつ超鏡面に研磨したエンドレスベルトからなる金属支持体上にフィルム状に流延した。
【0114】
固化防止液としては、メチレンクロライドを、ドープ流出口の両端部から流延膜に流下するようにした。固化防止液の液温は、25℃とした。
【0115】
供給部材34としては、SUS316Lの粉末をバインダと気孔形成材とで混練りし、成形工程、脱脂工程(気孔形成材を除去して多孔質体にする。)、焼結工程を経て得た連通口を有する金属製多孔質素材を用いた。図5に供給ノズル30を用いた場合の流延ダイ1と供給ノズル30及び供給部材34の配置の拡大図を示す。また、図6に流延ダイ1の側板11の端部に配置した供給部材34を用いた場合の流延ダイ1と流延ダイ1の側板11に配置した供給部材34の配置の拡大図を示す。図5の供給ノズル30を用いた場合は、その先端部分には円形の開口部(内径d)があり、その開口部に供給部材34を配置している。供給部材の34の出口側を流延ダイ1のドープ流出口1aの近傍に配置し、供給部材34の複数の開口部から固化防止液が吐出すると直ぐに流延ダイ1の表面に液膜を形成して流下し、ドープ流出口1aの端部に供給するように近接して配置している。供給部材34と流延ダイ1のドープ流出口1aとの供給距離をL、供給部材34の供給面積(出口側の複数の開口部の占める面積=(d/2)×π×開口率)をS、多孔質素材の開口径(供給面積Sを開口部の個数で割った面積の円相当の直径)をd1とする。また、図6の側板の一部に供給部材34を用いた場合は、供給部材34から吐出する出口の形状は1辺がhの正四角形のものを用いた。この場合、供給面積Sはh×h×開口率として算出した。また、供給部材34からドープ流出口端部に供給する供給流量をWとした。それぞれの値を変化させて、表1に示す実施例1から19の光学フィルムを製造する製造条件とした。
【0116】
ドープ流出口の支持体2の表面の移動方向上流側の減圧室は、大気圧よりも500Pa低い値に減圧した。尚、減圧は、減圧ポンプ102と配管103を接続し、減圧度を制御した。
【0117】
支持体としては、金属ベルトを用い、支持体上に流延された流延膜を、剥離ロールで剥離後、ロール搬送しながら90℃の初期の乾燥ゾーンで乾燥させ、その後、125℃の後期の乾燥ゾーンで乾燥を終了させて、膜厚40μm、フィルム幅2000mmで、48時間連続で製膜して、巻き取り、各実施例のセルローストリアセテートフィルムを製造した。
(比較例1)
比較例1としては、実施例3における供給部材34を用いずに、供給ノズル30の先端の開口部をそのまま用いた他は、実施例3と同様に作製した。
(比較例2)
比較例2としては、実施例15における供給部材34を用いずに、供給部材34のあった部分を開口部として用いた他は、実施例15と同様に作製した。
【0118】
上記のようにして得られた実施例1〜19及び比較例1、2の光学フィルムの評価を以下のようした。
(ドープ流出口両端部の皮張りの評価)
光学フィルムの製造中、目視により皮張りを観察し、皮張りが発生した場合、装置を停止し、皮張りを除去した後、再度製造を続け、実際に製品を製造した48時間の間での皮張り発生回数を評価した。皮張り発生回数が5回未満であれば、生産性として問題ないレベルで、3回以下がより好ましい。5回を越えると生産性が落ち、製造条件としては採用できないレベルである。
(フィルム表面の変形模様の評価)
巻き取り直前のフィルムの表面の変形模様を検出装置で光学的に検出し、実際に製品を製造した48時間の間で直径1000μm以上の変形模様の検出個数を24時間当たりの個数で比較した。10個未満であれば、製品として問題なく、5個以下がより好ましい。10個以上になると製品として問題のあるレベルである。
【0119】
評価結果を表1に示す。
【0120】
【表1】

【0121】
表1の結果から、実施例1〜19と比較例1、2を比べると、複数の開口部を有する供給部材を用い、ドープ流出口の両端部から流出する流延膜に固化防止液を供給することにより、ドープ流出口両端部での皮張りが抑制され、かつ、固化防止液が減圧室に飛散し、減圧室内面から支持体に落下することで生じる変形模様の発生も抑制された光学フィルムを製造できることが判る。また、実施例1〜19を比較すると、供給部材の開口部の開口径は、0.001〜0.5mmが好ましいこと、及び、供給部材の供給面積としては、1〜100mmが好ましいことが判る。
(偏光板の作製)
以下に記載の方法に従い、実施例1〜19及び比較例1、2の光学フィルムをアルカリケン化処理した後、それぞれ偏光板を作製した。
〈アルカリケン化処理〉
ケン化工程:2モル/L NaOH 50℃ 90秒
水洗工程 :水 30℃ 45秒
中和工程 :10質量% HCl 30℃ 45秒
水洗工程 :水 30℃ 45秒
上記条件で各試料を、ケン化、水洗、中和、水洗の順に行い、次いで80℃で乾燥を行った。
【0122】
厚さ120μmのポリビニルアルコールフィルムを、沃素1kg、ホウ酸4kgを含む水溶液100kgに浸漬し、50℃で6倍に延伸して偏光膜を作製した。この偏光膜の片面に実施例1〜19及び比較例1、2の光学フィルムを、反対面にコニカミノルタタックKC8UCR(コニカミノルタオプト(株)製)を上記アルカリケン化処理を行った後、完全ケン化型ポリビニルアルコール5質量%水溶液を粘着剤として各々貼り合わせて偏光板を作製した。
(液晶表示装置としての特性評価)
SONY製40型ディスプレイKLV−40V1000の視認側の偏光板を剥がし、上記で作製した各々の偏光板を液晶セルのサイズに合わせて偏光板の偏光軸が元と変わらないように互いに直交するように貼り付け、40型TFT型カラー液晶ディスプレイを作製し、光学フィルムの偏光板としての特性を評価した。
【0123】
本発明の実施例1〜19の光学フィルムを用いた偏光板を搭載した液晶表示装置は、比較例1、2の光学フィルムを用いた偏光板を搭載した液晶表示装置に対して、色ムラや波うちムラなどの表示ムラが無く、優れた表示性を示した。これにより、本発明の偏光板が液晶ディスプレイ等の画像表示装置用の偏光板として優れていることが確認された。
【符号の説明】
【0124】
1 流延ダイ
1a ドープ流出口
2 支持体
3 流延膜
4 剥離ロール
17 搬送ロール
10 減圧室
11 側板
12 ダイ中央部
13 初期乾燥装置
15 後乾燥装置
18 巻取り装置
30 供給ノズル
31 流量調整機構
32 液貯蔵槽
33 固化防止液
34 供給部材
341 開口部
35 固化防止液供給口
70 遮蔽板
101 吸引口
20 フィルム
60 エンボス加工装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂と溶媒とを含んだドープを、流延ダイのドープ流出口から、支持体上に流延する流延工程と、前記ドープ流出口から前記支持体上に流延する流延膜が、前記支持体に密着するように、前記ドープ流出口の前記支持体の表面の移動方向上流側の気圧を大気圧よりも低い状態に保持する減圧工程と、前記樹脂を溶解する液体を前記ドープ流出口の両端部に供給する供給工程とを有する光学フィルムの製造方法において、
前記供給工程は、前記ドープ流出口の両端部のそれぞれに対応して配置された複数の開口部を有する供給部材の該複数の開口部から前記液体を流下して供給することを特徴とする光学フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記供給工程は、
前記複数の開口部を有する供給部材をその先端部に配置したノズルの該先端部を
前記ドープ流出口の長手方向両端部の近傍に配置し、
前記複数の開口部から前記液体を流下して供給することを特徴とする請求項1に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記流延ダイの一部が前記複数の開口部を有する供給部材であって、
前記供給工程は、
前記供給部材の前記複数の開口部から前記液体を流下して、前記ドープ流出口の端部に供給することを特徴とする請求項1に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記複数の開口部の開口径が、0.001〜0.5mmの範囲であることを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記複数の開口部の占める面積が、1〜100mmであることを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項6】
前記供給部材が、多孔質素材からなり、該多孔質素材の孔から前記液体を流下して前記ドープ流出口の端部に供給することを特徴とする請求項1から5の何れか1項に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項7】
樹脂と溶媒とを含んだドープを、流延ダイのドープ流出口から、支持体上に流延する手段と、前記ドープ流出口から前記支持体上に流延する流延膜が、前記支持体に密着するように、前記ドープ流出口の前記支持体の表面の移動方向上流側の気圧を大気圧よりも低い状態に保持する減圧室と、前記樹脂を溶解する液体を前記ドープ流出口の両端部に供給する供給手段とを有する光学フィルムの製造装置において、
前記供給手段は、前記ドープ流出口の両端部のそれぞれに対応して配置され、複数の開口部を有し、該複数の開口部から前記液体を流下して供給する供給部材であることを特徴とする光学フィルムの製造装置。
【請求項8】
請求項1から6の何れか1項に記載の光学フィルムの製造方法により製造されたことを特徴とする光学フィルム。
【請求項9】
請求項8に記載の光学フィルムを、少なくとも一方の面に有することを特徴とする偏光板。
【請求項10】
請求項9に記載の偏光板を用いることを特徴とする表示装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2011−93106(P2011−93106A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−246315(P2009−246315)
【出願日】平成21年10月27日(2009.10.27)
【出願人】(303000408)コニカミノルタオプト株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】