説明

光学フィルム及び光学フィルムの製造方法

【課題】光学用フィルム部材として適当な強靭性を有する光学フィルムを提供する。
【解決手段】本発明に係る光学フィルム1は、熱可塑性エラストマー樹脂を50重量%以上含む第1の層2と、第1の層2の第1の表面2aに積層されており、非晶性樹脂を50重量%以上含む第2の層3と、第1の層2の第2の表面2bに積層されており、非晶性樹脂を50重量%以上含む第3の層4とを備える。第1の層2に含まれている上記熱可塑性エラストマー樹脂は、メタクリル酸エステル単量体と、アクリル酸エステル単量体とを重合して得られる(メタ)アクリル酸エステル樹脂である。第2の層3及び第3の層4に含まれている上記非晶性樹脂はそれぞれ、メタクリル酸エステル単量体を重合して得られるメタクリル酸エステル樹脂である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、表示画像を高品位にするために、液晶表示装置などに用いられる光学フィルム、並びに該光学フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶表示装置(Liquid Crystal Display:以下、LCDと記載することがある)は、車両積載機器及び携帯情報機器等として広く用いられている。LCDでは、液晶分子が封入されており、かつ電極が組み込まれている液晶セルに、位相差フィルム及び偏光板が貼り合わされている。LCDでは、偏光板を介して見るディスプレイの画像品位を高めるために、多様な機能を有する光学フィルムが用いられる。光学フィルムには、透明性及び光学補償性に優れているだけでなく、用途に応じて種々の光学特性に優れていることも要求されている。
【0003】
従来、LCDに用いられる偏光板として、偏光子の両面に、保護フィルムが接着剤により接着されている偏光板が知られている。上記偏光子として、延伸配向したポリビニルアルコールフィルムにヨウ素又は二色染料を吸着させた偏光子が用いられている。上記接着剤として、ポリビニルアルコール系及びポリエーテル系等の水系接着剤等が用いられている。上記保護フィルムとして、光学等方性を有するフィルムが用いられている。該フィルムの材料として、複屈折率が小さいトリアセチルセルロース(以下、TACと記載する)が一般的に用いられている。
【0004】
しかし、ポリビニルアルコールフィルムを用いた偏光子とTACフィルムとを貼り合わせた偏光板では、以下のような問題点がある。
【0005】
TACフィルムの耐熱性及び耐湿性は充分でない。このため、偏光子とTACフィルムとが剥離したり、TACの加水分解により透明性が低下して偏光板の偏光度などの性能が低下したりするという欠点がある。従って、短期間でLCDの表示品位が低下することがある。また、TACの吸水率は高いので、高温多湿環境下において偏光度の低下、及び変色による透過率の低下が起こる。さらに、高温環境下でポリビニルアルコールの配向緩和が起きて、TACフィルムに応力が加わったときに大きな複屈折が生じて偏光度が低下することにより、LCDに表示むら及びコントラストの低下が生じることがある。
【0006】
そこで、新規な上記保護フィルムの開発が行われている。下記の特許文献1では、上記保護フィルムとして、(メタ)アクリル系樹脂フィルムが提案されている。更に、特許文献1では、(メタ)アクリル系樹脂フィルムを、粘着剤層を介して偏光子に積層した複合シートが提案されている。この複合シートは、偏光板として用いることができる。
【0007】
また、LCDを製造する際に、偏光板は液晶セルに貼り合わされる。この貼り合わせの際に気泡又は異物が巻き込まれたり、偏光板自体に欠陥があったりすることがある。そこで、液晶セルに偏光板を貼り合わせた後に検査を行い、欠陥がある場合には偏光板を剥がして高価な液晶セルが再利用されている。すなわち、リワーク工程が行われている。このような再利用を可能にするためには、剥離時に偏光板を容易に剥離できることが必要である。しかし、比較的脆い保護フィルム又は位相差補償フィルムを用いると、剥離時にフィルムが破断しやすいために、リワーク性に劣るという問題がある。
【0008】
フィルムが比較的破断し難いフィルムとして、下記の特許文献2では、側鎖に置換又は非置換イミド基を有する熱可塑性樹脂と、側鎖に置換又は非置換フェニル基とニトリル基とを有する熱可塑性樹脂とを用いた偏光子保護フィルムが提案されている。ここでは、イソブチレン−置換マレイミド系共重合体を用いたフィルムは、可撓性が乏しく裂けやすいという欠点を有するが、アクリロニトリル−スチレン系共重合体をブレンドすることにより、フィルムの機械的特性が向上することが記載されている。
【0009】
一方で、液晶が本来有する、複屈折性に起因する光学的な歪み並びに視覚方向により表示が着色するなどの視野角依存性を解消するために、上記光学フィルムとして、光学異方性を応用した光学フィルムが広く用いられている。
【0010】
IPS(In−Plane Switching)方式及びOCB(Optically Compensated Bend)方式のLCDでは、液晶分子がパネル基板と水平又は傾斜配向した構造をとる。このため、上記光学フィルムとして、屈折率楕円体がパネル法線方向に長軸を有し、固有複屈折が負値である負位相差補償フィルムが好適に用いられている。この負位相差補償フィルムの材料には、分子主鎖の配向方向と直交する方向に屈折率が増大する性質が要求される。負の固有複屈折を示す熱可塑性樹脂材料として、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂又はフルオレン系樹脂が用いられている。光線透過率及び光学的特性を高めることができるので、アクリル系樹脂は、一般に光学部材として多様な用途に利用されている。これらの樹脂により得られた基材フィルムを延伸することにより、優れた光学異方性が発現し、上記負位相差補償フィルムとしての利用が可能となる。
【0011】
上記熱可塑性樹脂材料のうちアクリル系樹脂を延伸して得られるフィルムは、偏光板保護機能と負位相差補償機能との双方を有する多機能フィルム部材として、高い利用価値がある。アクリル系樹脂フィルムを延伸して得られるフィルムは、特にパネル構成部材数の低減などによるダウンサイジング及びコスト削減の点でも、有利である。しかしながら、アクリル系樹脂などの負の固有複屈折を示す熱可塑性樹脂材料は、分子側鎖に官能基を有する。このため、負の固有屈折率を示す熱可塑性樹脂を用いたフィルムでは、特に延伸後に、延伸方向と直交する方向の機械的強度が低いことがある。
【0012】
一方で、上記位相差補償フィルムでは、LCDに搭載された後も安定した補償性能を発揮し、画像品位を維持可能であることが求められる。特にパネル内でのバックライト光などの高温暴露下においても位相差が変化せず、実質的に初期値を維持可能であることが求められる。すなわち、耐久性が光学補償性能の中で重要な要素の1つに位置付けられている。しかしながら、延伸配向した樹脂分子の一般的挙動として、加熱環境下では分子配向緩和により、光学異方性を初期値のままで維持することは困難である。結果として位相差の経時変化によって、LCDの稼働に伴い表示画像の劣化が進行して、LCDの商品価値が大きく低下することがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2009−205135号公報
【特許文献2】特開2001−343529号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
特許文献1に記載の(メタ)アクリル系樹脂フィルムでは、光学フィルムの生産及び品質管理において光学用フィルム部材として適当な強靭性を有さないことがある。例えば、偏光子に光学フィルムを貼り合わせたり、偏光板を液晶セルから剥離したりする際に、(メタ)アクリル系樹脂フィルムが破断することがある。
【0015】
特許文献2に記載のように、イソブチレン−置換マレイミド系共重合体とアクリロニトリル−スチレン系共重合体とをブレンドして用いた光学フィルムの機械的特性は、ある程度高くなる。しかしながら、特許文献2に記載のフィルムでも、依然として割れやすくかつ脆いため、フィルム成形の過程などで破断しやすく、安定して搬送できないことがある。また、特許文献2に記載のフィルムを偏光子に貼り合わせる際にも、光学フィルムが破断することが多く、更にリワーク工程においても、フィルムが破断することがある。
【0016】
また、従来の光学フィルムでは、高温下での光学補償性能の劣化を抑制できないことがある。例えば、パネル内でのバックライト光などで、光学フィルムが高温下に晒されると光学補償性能が大きく低下することがある。このため、LCDの表示画像を長期間にわたって高品位に保つことができないことがある。
【0017】
本発明の目的は、光学フィルムの生産及び品質管理において光学用フィルム部材として適当な強靭性を有する光学フィルム、並びに該光学フィルムの製造方法を提供することである。
【0018】
本発明の限定的な目的は、光学フィルムの生産及び品質管理において光学用フィルム部材として適当な強靭性を有するだけでなく、光学補償部材として適当な正面レターデーションを有し、更に、高温下での光学補償性能の劣化を抑制できるために耐久性が高く、液晶表示装置の表示画像を長期間にわたって高品位に保つことを可能とする光学フィルム、並びに該光学フィルムの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の広い局面によれば、熱可塑性エラストマー樹脂を50重量%以上含む第1の層と、上記第1の層の第1の表面に積層されており、非晶性樹脂を50重量%以上含む第2の層と、上記第1の層の第1の表面とは反対の第2の表面に積層されており、非晶性樹脂を50重量%以上含む第3の層とを備え、上記第1の層に含まれている上記熱可塑性エラストマー樹脂が、メタクリル酸エステル単量体と、アクリル酸エステル単量体とを重合して得られる(メタ)アクリル酸エステル樹脂であり、上記第2の層及び上記第3の層に含まれている上記非晶性樹脂がそれぞれ、メタクリル酸エステル単量体を重合して得られるメタクリル酸エステル樹脂である、光学フィルムが提供される。
【0020】
本発明に係る光学フィルムのある特定の局面では、上記第1の層の厚みと上記第2の層の厚みとの比(上記第1の層の厚み:上記第2の層の厚み)が、1:5〜5:1であり、上記第1の層の厚みと上記第3の層の厚みとの比(上記第1の層の厚み:上記第3の層の厚み)が、1:5〜5:1である。
【0021】
本発明に係る光学フィルムの他の特定の局面では、該光学フィルムは、長手方向及び幅方向の内の少なくとも一方向に加熱延伸され、かつ延伸後に熱処理されている。
【0022】
本発明に係る光学フィルムのさらに他の特定の局面では、23℃での引張強力が、光学フィルムの厚み1mm相当で5N以上である。
【0023】
本発明に係る光学フィルムのさらに他の特定の局面では、23℃での引張弾性率が100MPa以上、2000MPa以下である。
【0024】
本発明に係る光学フィルムの別の特定の局面では、85℃の熱風で1000時間処理した後の下記式(1)で定義される正面レターデーションR0(nm)の変化率が、熱風処理前の初期値に対して−2%以上、+2%以下である。
【0025】
R0(nm)=(nx−ny)×d ・・・式(1)
nx:光学フィルム面内の最大屈折率
ny:光学フィルム面内のnx方向と直交する方向の屈折率
d:光学フィルムの平均厚み(nm)
【0026】
本発明に係る光学フィルムのさらに別の特定の局面では、上記第1の層に含まれている上記熱可塑性エラストマー樹脂の200℃及び荷重98Nでのメルトフローレートが、30g/10分以下であり、上記第2の層及び上記第3の層に含まれている上記非晶性樹脂の200℃及び荷重98Nでのメルトフローレートがそれぞれ、20g/10分以下であり、上記第1の層に含まれている上記熱可塑性エラストマー樹脂の上記メルトフローレートと、上記第2の層に含まれている上記非晶性樹脂の上記メルトフローレートとの差の絶対値が10g/10分以下であり、上記第1の層に含まれている上記熱可塑性エラストマー樹脂の上記メルトフローレートと、上記第3の層に含まれている上記非晶性樹脂の上記メルトフローレートとの差の絶対値が10g/10分以下である。
【0027】
また、本発明の広い局面によれば、熱可塑性エラストマー樹脂を50重量%以上含む第1の層の第1の表面に、非晶性樹脂を50重量%以上含む第2の層を積層する工程と、上記第1の層の上記第1の表面とは反対の第2の表面に、非晶性樹脂を50重量%以上含む第3の層を積層する工程とを備え、上記第1の層に含まれる上記熱可塑性エラストマー樹脂として、メタクリル酸エステル単量体と、アクリル酸エステル単量体とを重合して得られる(メタ)アクリル酸エステル樹脂を用い、上記第2の層及び上記第3の層に含まれる上記非晶性樹脂としてそれぞれ、メタクリル酸エステル単量体を重合して得られるメタクリル酸エステル樹脂を用いる、光学フィルムの製造方法が提供される。
【0028】
本発明に係る光学フィルムの製造方法のある特定の局面では、上記第1の層の上記第1の表面に上記第2の層が積層され、かつ上記第1の層の上記第2の表面に上記第3の層が積層された光学フィルムを、長手方向及び幅方向の内の少なくとも一方向に加熱延伸する工程と、延伸後に熱処理する工程とがさらに備えられる。
【発明の効果】
【0029】
本発明における光学フィルムは、熱可塑性エラストマー樹脂を50重量%以上含む第1の層と、非晶性樹脂を50重量%以上含む第2,第3の層とを備えており、上記熱可塑性エラストマー樹脂が、メタクリル酸エステル単量体とアクリル酸エステル単量体とを重合して得られる(メタ)アクリル酸エステル樹脂であり、上記非晶性樹脂が、メタクリル酸エステル単量体を重合して得られるメタクリル酸エステル樹脂であるので、光学フィルムの生産及び品質管理において光学用フィルム部材として適当な強靭性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る光学フィルムを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、図面を参照しつつ、本発明の具体的な実施形態及び実施例を説明することにより本発明を明らかにする。
【0032】
図1に、本発明の一実施形態に係る光学フィルムを断面図で示す。
【0033】
図1に示す光学フィルム1は、第1の層2と、第1の層2の第1の表面2a(一方の表面)に積層された第2の層3と、第1の層2の第1の表面2aとは反対の第2の表面2b(他方の表面)に積層された第3の層4とを備える。光学フィルム1は、第1〜第3の層2〜4が積層された光学積層フィルムである。
【0034】
第1の層2は、熱可塑性エラストマー樹脂を主成分として含み、熱可塑性エラストマー樹脂を50重量%以上含む。第2,第3の層3,4はそれぞれ、非晶性樹脂を主成分として含み、非晶性樹脂を50重量%以上含む。第1の層2に含まれている上記熱可塑性エラストマー樹脂は、メタクリル酸エステル単量体と、アクリル酸エステル単量体とを重合して得られる(メタ)アクリル酸エステル樹脂である。第2の層3及び第3の層4に含まれている上記非晶性樹脂はそれぞれ、メタクリル酸エステル単量体を重合して得られるメタクリル酸エステル樹脂である。上記(メタ)アクリルは、アクリルとメタクリルとを意味する。
【0035】
光学フィルム1は第1の層2と第2の層3と第3の層4とを備える。光学フィルム1は、熱可塑性エラストマー樹脂を含む第1の層2を中間層として、その両表面に、非晶性樹脂を含む第2の層と第3の層とが外層として積層されている積層構造を有し、少なくとも3つの層を備える。
【0036】
本願発明者らは、上記構成の採用によって、光学フィルムの生産及び品質管理において光学用フィルム部材として適当な強靭性を有する光学フィルムとなることを見出した。特定の異種モノマーを重合させて得られる(メタ)アクリル酸エステル樹脂である熱可塑性エラストマー樹脂と、特定のモノマーを重合させて得られるメタクリル酸エステル樹脂である非晶性樹脂を積層し、成膜することにより得られたフィルムでは、アクリル樹脂本来の特性を大きく損なうことなく、アクリル樹脂の弱点である強靭性が大きく改善される。この結果、偏光子が湾曲しても光学フィルムが高い接着性を保持して剥離し難くなり、更に引張変形に追従するだけの十分な弾性率を光学フィルムが有するようになる。
【0037】
また、本発明に係る光学フィルムが高い強靭性を有することで、偏光板を液晶セルから剥離する際のリワーク性を高めることができる。すなわち、光学フィルムが脆性破断又は伸長することなく、光学フィルムの剥離作業を容易に実施することができる。更に、本発明における光学フィルムを用いた液晶表示装置では、液晶物質の複屈折を補償して表示むらを解消できる。さらに、液晶表示装置のコントラストを良好にし、かつ視野角特性を高くすることができ、液晶表示装置の画像表示を長期間にわたって安定させることができる。
【0038】
さらに、本発明に係る光学フィルムは、光学補償部材として適当な正面レターデーションを有し、更に高温下での光学補償性能の劣化を抑制できるために耐久性が高く、液晶表示装置の表示画像を長期間にわたって高品位に保つことを可能とする。特に、上記光学フィルムを少なくとも一方向に加熱延伸することで、光学補償部材として適当な正面レターデーションを得ることが容易であり、該正面レターデーションの高温下での経時変化が極めて低くなる。
【0039】
上記第1の層の厚みと上記第2の層の厚みとの比(上記第1の層の厚み:上記第2の層の厚み)が、1:5〜5:1であり、上記第1の層の厚みと上記第3の層の厚みとの比(上記第1の層の厚み:上記第3の層の厚み)が、1:5〜5:1であることが好ましい。言い換えれば、上記第1の層の厚みの上記第2の層の厚みに対する厚み比(上記第1の層の厚み/上記第2の層の厚み)が0.2以上、5以下であり、上記第1の層の厚みの上記第3の層の厚みに対する厚み比(上記第1の層の厚み/上記第3の層の厚み)が、0.2以上、5以下であることが好ましい。上記第1の層の厚さの上記第2,第3の層の厚さに対する厚み比が上記下限以上であって第1の層が適度な厚さを有すると、光学フィルムが脆化し難く、より一層良好な強靭性が得られ、更に上記正面レターデーションR0の経時的な変化率が小さくなる。さらに、上記第1の層の厚さの上記第2,第3の層の厚さに対する厚み比が上記上限以下及び上記下限以上であると、光学フィルムの破断強度等の機械的特性がより一層高くなり、フィルム成膜時の廻り込み現象によるフィルム外観の悪化が生じ難くなり、搬送性が損なわれ難くなる。
【0040】
次に、上記第1〜第3の層に含まれている各成分の詳細を説明する。
【0041】
(熱可塑性エラストマー樹脂)
上記第1の層に含まれている上記熱可塑性エラストマー樹脂は、例えば、ハードセグメントとソフトセグメントとを有する重合体であり、常温(23℃)で柔軟性を有する高分子材料である。光学フィルムの可撓性、光学特性及び接着性を良好にするために、上記熱可塑性エラストマー樹脂として、メタクリル酸エステル単量体と、アクリル酸エステル単量体とを重合して得られる(メタ)アクリル酸エステル樹脂が用いられる。上記熱可塑性エラストマー樹脂は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0042】
上記(メタ)アクリル酸エステル樹脂は、上記ソフトセグメントがアクリル酸エステル単量体より選ばれ、ハードセグメントがメタクリル酸エステル単量体より選ばれ、これらの単量体を共重合させることにより得られる。また、上記(メタ)アクリル酸エステル樹脂は、ハードセグメントを構成するメタクリル酸エステル単量体と、ソフトセグメントを構成するアクリル酸エステル単量体とが、ブロック共重合された重合体であることが好ましい。
【0043】
上記アクリル酸エステル単量体は、具体的には、メタクリル基又はメタクリル基の誘導基を分子側鎖に有さないアクリル酸エステル単量体であることが好ましく、下記式(11)で表される単量体であることが好ましい。
【0044】
CH=C(H)COOR1 ・・・式(11)
【0045】
上記式(11)中、R1は、脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、ハロゲン原子を含む炭化水素基、アミン構造を含む炭化水素基及びエーテル構造を含む炭化水素基からなる群から選択される1価の基を示す。
【0046】
上記アクリル酸エステル単量体は特に限定されない。上記アクリル酸エステル単量体としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸sec−ブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸イソアミル、アクリル酸n−へキシル、アクリル酸シクロへキシル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸n−オクチル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸n−トリデシル、アクリル酸ミリスチル、アクリル酸セチル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸アリル、アクリル酸ビニル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸フェニル、アクリル酸2−ナフチル、アクリル酸2,4,6−トリクロロフェニル、アクリル酸2,4,6−トリブロモフェニル、アクリル酸イソボルニル、アクリル酸2−メトキシエチル、アクリル酸2−エトキシエチル、アクリル酸ジエチレングリコールモノメチルエーテル、アクリル酸ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、アクリル酸ポリプロピレングリコールモノメチルエーテル、アクリル酸テトラヒドロフルオリル、アクリル酸2,3−ジブロモプロピル、アクリル酸2−クロロエチル、アクリル酸2,2,2−トリフルオロエチル、アクリル酸ヘキサフルオロイソプロピル、アクリル酸グリシジル、アクリル酸3−トリメトキシシリルプロピル、アクリル酸2−ジエチルアミノエチル、アクリル酸2−ジメチルアミノエチル、アクリル酸t−ブチルアミノエチル、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシブチルアクリレート、PEG#200ジアクリレート、PEG#400ジアクリレート、及びPEG#600ジアクリレート等が挙げられる。上記アクリル酸エステル単量体は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。光学フィルムの接着性、強靭性、光学物性及び耐久性をより一層良好にする観点からは、上記アクリル酸エステル単量体は、アクリル酸ブチルであることがより好ましい。
【0047】
上記メタクリル酸エステル単量体としては、具体的には、メタクリル基又はメタクリル基の誘導基を分子側鎖に有する単量体であることが好ましく、下記式(12)で表される単量体であることが好ましい。
【0048】
CH=C(CH)COOR2 ・・・式(12)
【0049】
上記式(12)中、R2は、脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、ハロゲン原子を含む炭化水素基、アミン構造を含む炭化水素基及びエーテル構造を含む炭化水素基からなる群から選択される1価の基を示す。
【0050】
上記メタクリル酸エステル単量体は特に限定されない。上記メタクリル酸エステル単量体としては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸sec−ブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸イソアミル、メタクリル酸n−へキシル、メタクリル酸シクロへキシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸n−オクチル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸n−トリデシル、メタクリル酸ミリスチル、メタクリル酸セチル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸アリル、メタクリル酸ビニル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸2−ナフチル、メタクリル酸2,4,6−トリクロロフェニル、メタクリル酸2,4,6−トリブロモフェニル、メタクリル酸イソボルニル、メタクリル酸2−メトキシエチル、メタクリル酸2−エトキシエチル、メタクリル酸ジエチレングリコールモノメチルエーテル、メタクリル酸ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、メタクリル酸ポリプロピレングリコールモノメチルエーテル、メタクリル酸テトラヒドロフルオリル、メタクリル酸2,3−ジブロモプロピル、メタクリル酸2−クロロエチル、メタクリル酸2,2,2−トリフルオロエチル、メタクリル酸ヘキサフルオロイソプロピル、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸3−トリメトキシシリルプロピル、メタクリル酸2−ジエチルアミノエチル、メタクリル酸2−ジメチルアミノエチル、メタクリル酸t−ブチルアミノエチル、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、2−ヒドロキシブチルメタクリレート、メタクリル酸、2−メタクリロイルオキシエチルコハク酸、2−メタクリロイルオキシエイチルヘキサヒドロフタル酸、ネオペンチルジメタクリレート、ジメチロルトリシクロデカンジメタクリレート、二官能エポキシメタクリレート、カプロラクトン変性メタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサメタクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールプロパンテトラメタクリレート、メタクリロニトリル、メタクリルアミド、ジメチルメタクリルアミド、メタクリル酸ジエチルアミノエチル、PEG#200ジメタクリレート、PEG#400ジメタクリレート、PEG#600ジメタクリレート、及び多官能ウレタンメタクリレート等が挙げられる。上記メタクリル酸エステル単量体は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。光学フィルムの接着性、強靭性、光学物性及び耐久性をより一層高める観点からは、上記メタクリル酸エステル単量体は、メタクリル酸メチルであることがより好ましい。
【0051】
上記熱可塑性エラストマー樹脂を得るために用いる単量体全体100モル%中、上記メタクリル酸エステル単量体の使用量は好ましくは50モル%以上、好ましくは99モル%以下である。
【0052】
上記第1の層に含まれている上記熱可塑性エラストマー樹脂は、上記メタクリル酸エステル単量体20モル%以上、80モル%以下と、上記アクリル酸エステル単量体20モル%以上、80モル%以下とを重合することにより得られる(メタ)アクリル酸エステル樹脂であることが好ましい。また、上記熱可塑性エラストマー樹脂は、エポキシ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、アミノ基、酸無水物基又はオキサゾリン基等の官能基によって変性されていてもよい。
【0053】
上記熱可塑性エラストマー樹脂を得る際に、上記メタクリル酸エステル単量体又は上記アクリル酸エステル単量体と共重合可能なラジカル重合性単量体を用いてもよい。例えば、極性基を有するビニル単量体を用いてもよい。上記ラジカル重合性単量体としては、無水マレイン酸及びスチレン等が挙げられる。上記ラジカル重合性単量体は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0054】
種々の方法で架橋変性させることにより、上記熱可塑性エラストマー樹脂の耐摩耗性及び耐熱性を高めることができる。架橋方法は特に限定されない。架橋方法としては、メタクリル酸エステル単量体及びアクリル酸エステル単量体に架橋助剤を添加して、重合する方法等が挙げられる。
【0055】
上記架橋助剤は特に限定されない。上記架橋助剤としては、過酸化ベンゾイルなどのラジカル発生剤、並びにジビニルベンゼン、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート及び1,2,4−ベンゼントリカルボン酸トリアリルエステル等の多官能性モノマー等が挙げられる。上記架橋助剤は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0056】
上記熱可塑性エラストマー樹脂である上記(メタ)アクリル酸エステル樹脂の重合方法として、公知のラジカル重合方法を用いることができ、例えば塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法及び乳化重合法の内のいずれも選択可能である。
【0057】
上記熱可塑性エラストマー樹脂の分子量は、特に溶融粘度に影響し、重量な要素である。フィルム成膜性及び延伸性、並びに光学フィルムとしての品位を高める観点からは、上記熱可塑性エラストマー樹脂の重量平均分子量は、好ましくは10000以上、より好ましくは20000以上、好ましくは500000以下、より好ましくは100000以下である。
【0058】
なお、上記熱可塑性エラストマー樹脂及び後述する非晶性樹脂における上記重量平均分子量は、テトラヒドロフラン溶媒を用いて、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって測定されたポリスチレン換算分子量を示す。
【0059】
上記第1の層は、上記熱可塑性エラストマー樹脂を主成分とし、上記熱可塑性エラストマー樹脂を50重量%以上含む重合体組成物層である。上記第1の層100重量%中、上記熱可塑性エラストマー樹脂の含有量は、好ましくは50重量%以上、100重量%以下、好ましくは99重量%以下、より好ましくは95重量%以下である。上記第1の層の全量が上記熱可塑性エラストマー樹脂であってもよい。上記熱可塑性エラストマー樹脂の含有量が少なすぎると、光学フィルムの接着性及び柔軟性などが低下し、また上記正面レターデーションR0の経時的な変化率が大きくなり、更にダイスウェル又は溶融樹脂の流動特性により成膜不良が生じやすくなる。さらに、フィルム化する際のダイスウェルによる成膜不良又は幅方向のフィルム厚み不良が生じやすくなる。
【0060】
(非晶性樹脂)
上記第2,第3の層に含まれている上記非晶性樹脂として、透明性、耐熱性及び液晶とのマッチング性が高く、固有複屈折が低く、光弾性係数が小さく光学部材として適当な特性を具備し、実質的に結晶性を有さない樹脂が好適に用いられる。このような性質を示すことなどから、上記非晶性樹脂として、メタクリル酸エステル単量体を重合して得られるメタクリル酸エステル樹脂が用いられる。上記非晶性樹脂は、一般に光学用途フィルムの構成樹脂に用いられている。上記非晶性樹脂は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。上記メタクリル酸エステル樹脂を得るためのメタクリル酸エステル単量体は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。また、上記第2の層に含まれている上記非晶性樹脂と、上記第3の層に含まれている上記非晶性樹脂とは、同一であってもよく、異なっていてもよい。光学フィルムを容易に得る観点からは、上記第2の層に含まれている上記非晶性樹脂と、上記第3の層に含まれている上記非晶性樹脂とは、同一であることが好ましい。
【0061】
上記非晶性樹脂である上記メタクリル酸エステル樹脂を得るための上記メタクリル酸エステル単量体としては、上記第1の層に含まれている上記熱可塑性エラストマー樹脂である上記メタクリル酸エステル樹脂を得るためのメタクリル酸エステル単量体とした挙げた単量体が挙げられる。光学フィルムの接着性、強靭性、光学物性及び耐久性を良好にする観点からは、上記メタクリル酸エステル単量体は、メタクリル酸メチルであることがより好ましい。
【0062】
上記非晶性樹脂を得るために用いる単量体全体100モル%中、上記メタクリル酸エステル単量体の使用量は好ましくは50モル%以上である。また、上記メタクリル酸エステル樹脂は、エポキシ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、アミノ基、酸無水物基又はオキサゾリン基等の官能基によって変性されていてもよい。
【0063】
上記メタクリル酸エステル樹脂を得る際に、上記メタクリル酸エステル単量体とともに、該メタクリル酸エステル単量体と共重合可能なラジカル重合性単量体を用いてもよい。例えば、極性基を有するビニル単量体を用いてもよい。上記ラジカル重合性単量体としては、無水マレイン酸及びスチレン等が挙げられる。上記ラジカル重合性単量体は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0064】
種々の方法で架橋変性させることにより、上記非晶性樹脂の耐摩耗性及び耐熱性を高めることができる。架橋方法としては、メタクリル酸エステル単量体に架橋助剤を添加して、重合する方法等が挙げられる。使用可能な架橋助剤は、上記(メタ)アクリル酸エステル樹脂の場合と同様であり、特に限定されない。
【0065】
上記メタクリル酸エステル樹脂の重合方法として、公知のラジカル重合方法を用いることができ、例えば塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法及び乳化重合法の内のいずれも選択可能である。
【0066】
上記非晶性樹脂のガラス転移温度は、光学フィルムの光学特性及び耐久性に影響を与える重要な要素である。液晶表示装置に用いられた光学フィルムが曝される熱環境を考慮すると、上記非晶性樹脂のガラス転移温度は、好ましくは80℃以上、より好ましくは100℃以上である。上記非晶性樹脂のガラス転移温度の上限は特に限定されない。上記非晶性樹脂のガラス転移温度は300℃以下であってもよく、200℃以下であってもよい。なお、ガラス転移温度Tgは示差走査熱量計(TA Instruments社製、商品名「DSC2920 Modulated DSC」)を用い、以下の温度プログラム条件において測定される最終昇温時のガラス転移温度である。
【0067】
温度プログラム条件:
室温(23℃)から50℃まで10℃/分で昇温して、50℃で5分間保持する。次に、50℃から200℃まで10℃/分で昇温して、200℃で5分間保持する。その後、200℃から−50℃まで10℃/分で降温して、−50℃で5分間保持する。次に、−50℃から200℃まで10℃/分で昇温して、200℃で5分間保持する。
【0068】
上記非晶性樹脂の分子量は、特に溶融粘度に対して影響し、重要な要素である。フィルム成膜性及び延伸性、並びに光学フィルムとしての品位を高める観点からは、上記非晶性樹脂の重量平均分子量は、好ましくは10000以上、より好ましくは50000以上、好ましくは1000000以下、より好ましくは500000以下である。
【0069】
上記非晶性樹脂の光弾性係数は、好ましくは2.0×10−11Pa−1以下、より好ましくは1.0×10−11Pa−1以下である。偏光板の収縮応力、偏光子等に対する貼り合わせ時の歪み、液晶表示装置への組み込み時の歪みによる応力等の種々の外力が光学フィルムにかかり、光学フィルムの内部に応力が発生する。高温高湿環境下では、偏光板の収縮応力は大きい。上記光弾性係数とは、下記式(21)により定義され、光学フィルムの内部に発生した応力に対する複屈折の変化を表す値である。
【0070】
C=Δn/σ ・・・式(21)
C:光弾性係数(Pa−1
Δn:発現複屈折
σ:フィルム内部応力(Pa)
【0071】
上記光弾性係数が小さいほど、外力による複屈折率の変化量が小さくなる。上記光弾性係数が上記上限以下であると、外力による変形により光学性能が大きく変化し難くなり、光学用途により一層好適な光学フィルムが得られる。
【0072】
上記第2の層及び上記第3の層はそれぞれ、上記非晶性樹脂を主成分とし、上記非晶性樹脂を50重量%以上含む重合体組成物層である。上記第2の層100重量%及び上記第3の層100重量%中、上記非晶性樹脂の含有量は、好ましくは50重量%以上、100重量%以下、好ましくは99重量%以下、より好ましくは95重量%以下である。上記第2の層の全量が上記非晶性樹脂であってもよく、上記第3の層の全量が上記非晶性樹脂であってもよい。上記非晶性樹脂の含有量が少なすぎると、光学フィルムの機械特性、透明性及び耐熱性が低下しやすくなり、またダイスウェル又は溶融樹脂の流動特性によるフィルム成膜不良が生じやすくなる。
【0073】
フィルム成形性及び延伸性、並びに光学フィルムとしての品位を高める観点からは、上記第1の層に含まれている上記熱可塑性エラストマー樹脂の200℃及び荷重98Nでのメルトフローレート(以下、MFRと記載することがある)は、好ましくは30g/10分以下、より好ましくは25g/10分以下、好ましくは10g/10分以上である。
【0074】
フィルム成形性及び延伸性、並びに光学フィルムとしての品位を高める観点からは、上記第2の層及び上記第3の層に含まれている上記非晶性樹脂の200℃及び荷重98Nでのメルトフローレートはそれぞれ、20g/10分以下、より好ましくは15g/10分以下、好ましくは5g/10分以上である。
【0075】
さらに、フィルム成形性及び延伸性、並びに光学フィルムとしての品位を高める観点からは、上記第1の層に含まれている上記熱可塑性エラストマー樹脂の上記MFRは、上記第2の層に含まれている上記非晶性樹脂の上記MFRよりも大きいことが好ましく、また上記第1の層に含まれている上記熱可塑性エラストマー樹脂の上記MFRと、上記第2の層に含まれている上記非晶性樹脂の上記MFRとの差の絶対値が10g/10分以下であることが好ましい。さらに、フィルム成形性及び延伸性、並びに光学フィルムとしての品位を高める観点からは、上記第1の層に含まれている上記熱可塑性エラストマー樹脂の上記MFRは、上記第3の層に含まれている上記非晶性樹脂の上記MFRよりも大きいことが好ましく、また上記第1の層に含まれている上記熱可塑性エラストマー樹脂の上記MFRと、上記第3の層に含まれている上記非晶性樹脂の上記MFRとの差の絶対値が10g/10分以下であることが好ましい。
【0076】
上記MFRは、JIS K6760で規定されたプラストメータを用い、JIS K7120に規定された測定方法に従って測定される。
【0077】
上記第1の層に含まれている上記熱可塑性エラストマー樹脂と、上記第2の層に含まれている上記非晶性樹脂と屈折率の差の絶対値は、好ましくは0.2以下、より好ましくは0.1以下、更に好ましくは0.05以下、特に好ましくは0.03以下である。上記第1の層に含まれている上記熱可塑性エラストマー樹脂と、上記第3の層に含まれている上記非晶性樹脂と屈折率の差の絶対値は、好ましくは0.2以下、より好ましくは0.1以下、更に好ましくは0.05以下、特に好ましくは0.03以下である。上記屈折率の差の絶対値が上記上限以下であると、光学フィルムの透明性又は残留位相差等がより一層良好になり、光学的な歪み等が生じ難くなる。
【0078】
(他の成分)
上記第1〜第3の層を得るために、各層には、本発明の目的を阻害しない範囲で必要に応じて、酸化防止剤、紫外線吸収剤、滑剤又は帯電防止剤等を添加してもよい。
【0079】
上記酸化防止剤としては、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、2−(1−メチルシクロヘキシル)−4,6−ジメチルフェノール、2,2−メチレン−ビス−(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)及びトリス(ジ−ノニルフェニルホスファイト)等が挙げられる。上記紫外線吸収剤としては、p−t−ブチルフェニルサリシレート、2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシ−ベンゾフェノン及び2−(2’−ジヒドロキシ−4’−m−オクトキシフェニル)ベンゾトリアゾール等が挙げられる。上記滑剤としては、パラフィンフェノス及び硬化油等が挙げられる。上記帯電防止剤としては、ステアロアジトプロピルジメチル−β−ヒドロキシエチルアンモニウムトレート等が挙げられる。
【0080】
(光学フィルムの製造方法)
本発明に係る光学フィルムの製造方法は、上記第1の層の第1の表面に上記第2の層を積層する工程と、上記第1の層の第2の表面に上記第3の層を積層する工程とを備える。第2の層を積層する工程と、第3の層を積層する工程とは、同時に行われてもよく、別々に行われてもよい。
【0081】
本発明に係る光学フィルムの製造方法は、上記第1の層の上記第1の表面に上記第2の層が積層され、かつ上記第1の層の上記第2の表面に上記第3の層が積層された光学フィルム(延伸前フィルム)を、長手方向及び幅方向の内の少なくとも一方向に加熱延伸する工程(加熱延伸工程)と、延伸後に熱処理する工程(熱処理工程)とをさらに備えることが好ましい。本発明に係る光学フィルムは、長手方向及び幅方向の内の少なくとも一方向に加熱延伸され、かつ延伸後に熱処理されていることが好ましい。これによって、光学フィルムにより一層良好な強靭性を付与して、更に光学フィルムにより一層良好な正面レターデーションを付与することができる。
【0082】
第1〜第3の層を積層したフィルムを成膜する方法は特に限定されず、従来公知の任意の成形法を使用可能である。例えば原料樹脂を押出機に供給して溶融混練し、押出機の先端に取り付けられた金型からフィルム状に押し出した後、静電印荷キャスト法、タッチロール法又はエアーナイフキャスト法により、冷却した回転ドラム上で冷却固化し、長尺状のフィルムに成膜する溶融押出法が挙げられる。上記溶融押出法の一つとして、例えばフィルムを成形する場合、ダイのリップ開口部は細長い形状とする必要があるので、フラットダイ(Tダイ)成形法が用いられる。このTダイには、樹脂流入部及びマニホールドが設けられ、マニホールドは樹脂流入部よりも幅方向に長く、樹脂流入部に接続されている。樹脂流入部から供給された樹脂はマニホールド内で幅方向に拡大するように流れた後、ダイ先端のリップ開口部から吐出される。
【0083】
一方で、第1〜第3の層を積層したフィルムを成膜する溶融押出方法として、複数の樹脂を個別の成形機より溶融状態にして押し出して金型に導入し、金型内外で溶融状態のまま積層する共押出法が汎用されている。共押出により積層フィルムを成形する場合には、押出された樹脂を積層するタイミングによって、フィードブロック方式及びマルチマニホールド方式などの数種類の方式に大別される。
【0084】
上記フィードブロック方式は、樹脂流入部で2種類以上の樹脂を積層状態としてマニホールドに供給し、マニホールド内で積層状態を維持しながら幅方向を拡大させて、ダイリップ開口部から積層状態で吐出する方式である。上記フィードブロック方式では、積層される樹脂ごとにマニホールドを設ける必要が無いので、他の方式に比べてフラットダイの構造を簡単にすることが可能である。従って、上記フィードブロック方式は、操業性及びメンテナンス性に優れている。
【0085】
上記フィードブロック方式を用いてフィルムを成膜する場合には、溶融成形時の流動性が異なる樹脂を複合成形するため、樹脂の溶融流動特性に対応して、成膜上の技術的課題が顕在化しやすい。例えば、粘度が異なる樹脂を互いに積層する場合には、樹脂を合流し積層する際の溶融剪断速度及び伸長応力の差、及び積層界面における樹脂の弾性回復等により、フローマークと呼ばれる木目調の外観不良が発生することがある。更に、それが原因で積層フィルムの厚み分布が不均一になるなどして、外観品位及び厚み分布を目的のレベルにすることが困難となる。また、積層する樹脂の粘度差が大きい場合には、ダイ内の樹脂流路であるマニホールドにおいては、幅方向への流動特性が異なるため、低粘度の樹脂が積層後の樹脂フィルム端部を占有したり、高粘度樹脂の裏側に廻り込んだりするなどして、フィルム外観及び厚み均一性を悪化させる減少(廻り込み現象)が発生する。この廻り込み現象は、外観不良及び厚み不良などのフィルム品質を低下させるだけでなく、フィルム裂断の原因となることからフィルム搬送の障害となり、操業性及び製品収率の低下などの原因となる。
【0086】
上記マルチマニホールド方式は、それぞれの樹脂に対して樹脂流入部及びマニホールドを設け、各層の樹脂が幅方向に拡がった状態で、ダイリップ開口部手前で積層する方式である。上記マルチマニホールド方式では、各層の樹脂が合流積層する前に、個別にマニホールド内を幅方向へ流動し拡幅した後に積層される。このため、上記マルチマニホールド方式では、フィードブロック方式において生じやすいフィルム厚み分布の幅方向における不均一化及び廻り込み現象を防いて、厚み分布を目的のレベルにすることができ、樹脂流動特性の影響を抑えることが可能である。しかしながら、マルチマニホールド方式のTダイは内部流路構造が比較的複雑であるため、初期設備費が過大となりメンテナンスも煩雑となるなどの問題がある。
【0087】
また、他の方式として、それぞれの樹脂に対して樹脂流入部及びマニホールドを設け、各層の樹脂が幅方向に拡がった状態でダイリップ開口部より吐出させ、その後に積層するマルチスロットダイ方式がある。
【0088】
以上のように、第1〜第3の層を積層したフィルムを成膜する際には、樹脂の種類、樹脂の組成、各層の厚み、各層の厚み比、フィルム幅、成形環境及び操業性等を考慮して、適宜その設備仕様、手法及び条件を選択し、かつ制御することが好ましい。
【0089】
上記Tダイ押出し成形法等で熱可塑性エラストマー樹脂を用いて第1の層を予め押出成形した後、上記第1の層の第1,第2の表面に第2の層及び第3の層となる非晶性樹脂を塗布、乾燥させる方法によっても、光学フィルムを製造することが可能である。但し、このような方法によると工程が複雑であり、成膜作業が煩雑となりまた製造コストも高くなるので、上記溶融押出法が好ましい。
【0090】
なお、得られる積層フィルムである光学フィルムは、一般的には、実質的に無配向の非晶性樹脂フィルムである。上記フィルムは実質的に無配向であることが好ましく、すなわち上記フィルムのフィルム面内方向及びフィルム厚み方向のレターデーション値がゼロに近いことが好ましい。より具体的には、フィルム面内方向のレターデーション値は好ましくは20nm以下、より好ましくは10nm以下である。
【0091】
例えば、上記第1〜第3の層が積層された光学フィルム(延伸前フィルム)を、テンター等により長手方向及び幅方向の少なくとも一方向に加熱延伸した後、熱処理することにより、光学フィルムを得ることが好ましい。
【0092】
上記光学フィルムを延伸する際には、上記フィルムを加熱しながら延伸することが好ましい。上記光学フィルムを延伸する際には、長手方向に縦一軸延伸してもよく、幅方向に横一軸延伸してもよく、長手方向と幅方向とに二軸延伸してもよい。上記光学フィルムを延伸する際には、予熱工程と、加熱延伸工程と、熱処理工程と、冷却工程とが行われることが好ましい。
【0093】
長手方向に縦一軸延伸する場合に、延伸方法として、従来公知の方法を採用できる。縦一軸延伸方法としては、ロール間延伸法及びクリップテンター法等が挙げられる。操作性を高め、設備費を低くする観点からは、ロール間延伸法がより好ましい。ロール間延伸法は、上流側設置ロールを低速度、下流側設置ロールを高速度として、異なる回転速度で回転される複数のロールが長手方向に任意の間隔で配置されており、ロールの間隙を介して加熱下でフィルムを搬送することで、ロール速度差に応じてフィルムを延伸する手法である。ロールの配置距離により事実上定義される延伸距離がフィルム幅よりも短いと、長手方向への分子配向は不十分となる。上記延伸距離が長すぎると、フィルムの折れ、フィルムのしわ、加熱炉パーツ等への接触傷等が発生しやすくなる。上記延伸距離は、フィルムの走行性に応じて適宣設定できる。ロールに対するフィルムの保持力を高め、グリップをよくし、更に加熱延伸工程における応力の影響を前後の工程に波及させないことを目的として、上記ロールは、ニップ機構を備えることが好ましい。
【0094】
幅方向に横一軸延伸する場合には、延伸方法として、従来公知の任意のテンター延伸法を採用できる。横一軸延伸方法及び同時二軸延伸方法としては、例えば、無配向フィルムの幅方向の両端部をテンタークリップで把持し、テンタークリップの幅方向の間隔を次第に離間させ、フィルムを幅方向に拡幅し、延伸する方法が挙げられる。さらに、上記幅方向延伸手法に加え、パンタグラフ構造、スクリュー構造又はリニアモータ方式によるクリップリンク機構を利用して、長手方向に互いに隣接するクリップを次第に離間させ、フィルムを長手方向に延伸する方法がある。
【0095】
二軸延伸法としては、長手方向又は幅方向に延伸した後、前段の延伸方向と直交する方向に延伸する逐次二軸延伸法、並びに長手方向及び幅方向に同時に延伸する同時二軸延伸法が挙げられる。二軸延伸法は、光学補償性能及び生産性を考慮して、適宣選択できる。設備費を低くし、かつ操作性及び光学補償性能を高める観点からは、逐次二軸延伸法が好ましい。なお、逐次二軸延伸法における長手方向への延伸法は、上記縦一軸延伸法を利用し、幅方向への延伸法は、上記横一軸延伸法を利用することが可能である。フィルム面内物性の等方性を高める観点からは、同時二軸延伸が好ましい。
【0096】
長手方向及び幅方向への二軸延伸方法としては、横一軸延伸方法と同様に、従来公知のテンター延伸法を採用できる。例えば、無配向フィルムの幅方向の両端部をテンタークリップで把持し、長手方向に互いに隣接するクリップを次第に離間させ、長手方向にフィルムを伸張し、更にレール幅の間隔を次第に離間させることにより、幅方向に拡幅し、長手及び幅方向を同時に延伸する方法が挙げられる。このような延伸を実施するためには、パンタグラフ構造、スクリュー構造又はリニアモータ方式によるクリップリンク機構を備える延伸機を利用することが好ましい。更に、長手方向及び幅方向への弛緩処理を効果的に実施するためには、パンタグラフ式クリップリンク機構を有する延伸機が好適に用いられる。
【0097】
上記光学フィルムを延伸する際には、各工程における光学フィルムの加熱法としては、熱ロール接触加熱法、並びにエアーフローティング加熱方式を利用した空気対流加熱法等が挙げられる。これらのフィルム加熱法を併用してもよい。フィルム加熱法は、延伸形態に応じて適宣選択される。
【0098】
上記予熱工程は、フィルムを延伸可能なフィルム温度まで加熱する工程である。上記予熱工程は、特にテンタークリップ方式の延伸形態において発生する分子配向の湾曲パターン(いわゆるボーイング)を低減し、配向を揃えるための機能を担う。上記予熱工程では、無配向の光学フィルムを延伸変形可能な温度付近まで加熱する。従って、予熱工程における予熱温度は、光学フィルムを構成する樹脂(好ましくは非晶性樹脂)のガラス転移温度をTg(℃)としたとき、好ましくは(Tg−30)℃以上、好ましくは(Tg+30)℃以下である。予熱工程における上記フィルムの温度は、次工程となる加熱延伸工程でのフィルム温度と等しい温度以上であることが更に好ましく、例えば、加熱延伸工程における延伸温度付近まで加熱する。予熱温度が上記下限以上であると、次の加熱延伸工程において延伸応力が過度に大きくならず、フィルムが切断し難くなる。予熱温度が上記上限以下であると、フィルム延伸応力が十分に得られ、延伸変形が均一になり、延伸による分子配向効果が十分に得られる。
【0099】
上記加熱延伸工程は、上記無配向フィルムを加熱しながら、フィルムの長手方向及び幅方向に延伸することにより、実質的に無配向であったフィルムの樹脂分子を特定方向に配向させる役割を有する。これにより、延伸による分子配向によってフィルムとしての機械特性及び接着性を付与し、更に光学異方性を有する光学補償フィルムとしての機能を発現させる。
【0100】
実質的に無配向であるフィルムの延伸性は、フィルムを構成する樹脂のガラス転移温度により決定される。すなわち、上記無配向フィルムを、フィルムを構成する樹脂のガラス転移温度以上で塑性変形させることにより、樹脂分子を特定の方向に配向し、延伸効果により機能を向上させ、発現した物性の異方性をフィルム品質として利用する。上記加熱延伸工程における加熱延伸温度は、光学フィルムを構成する樹脂(好ましくは非晶性樹脂)のガラス転移温度をTg(℃)としたとき、好ましくは(Tg−20)℃以上、好ましくは(Tg+30)℃以下である。さらに、加熱延伸温度が上記下限以上及び上記上限以下であると、フィルムの変形が無配向フィルムの厚み極小部で選択的に進行することがないため、原反の厚み不良の影響を受けにくい延伸を実施することが可能となる。
【0101】
上記延伸温度が上記上限以下であると、延伸応力が十分に得られ、かつ延伸変形が均一になり、延伸による分子配向効果を十分に得ることができ、更に配向緩和が優先せずに、所望の光学物性、強靭性及び接着性が得られる。上記延伸温度が上記下限以上であると、延伸むらが生じ難くなり、不均一な変形が生じ難くなり、厚みを均一にすることができ、光学フィルムとしての商品価値が向上する。更に、上記延伸温度が上記下限以上であると、延伸終了後に過大な残留応力が生じ難くなり、特に加熱時の光学特性の経時劣化が抑制され、液晶表示装置の画像表示が高品位になる。
【0102】
上記加熱延伸工程における長手方向及び幅方向の延伸倍率は、分子配向の度合いに影響し、延伸効果を量的に制御する役割を有する。上記延伸倍率は、光学フィルムの光学特性、強靭性及び接着性を得るために適宜決定できる。上記延伸倍率は、好ましくは1.10倍以上、より好ましくは1.50倍以上、好ましくは6.00倍以下、より好ましくは5.00倍以下である。延伸倍率が上記下限以上であると、所望の分子配向効果が容易に得られる。延伸倍率が上記上限以下であると、過大な延伸応力が生じ難く、延伸時にフィルムが切断し難くなる。延伸倍率が上記上限以下であると、テンター式延伸機を利用した場合には、テンタークリップがはずれ難くなり、延伸工程におけるフィルム走行安定性が良好になる。
【0103】
また、上記加熱延伸工程における延伸歪み速度は好ましくは50%/分以上、好ましくは100%/分以上、好ましくは2000%/分以下である。上記歪み速度が上記下限以上であると、延伸による分子配向に追従した配向緩和が生じ難く、十分な分子配向効果が容易に得られる。上記歪み速度が上記上限以下であると、フィルムが切断し難くなり、テンタークリップがはずれ難くなる。また、高い歪み速度で延伸することにより、特にテンタークリップ方式による延伸では、クリップレール開き角度を大きく取り、延伸ゾーンの炉長を極力短くすることができる。
【0104】
上記加熱延伸工程における加熱延伸開始から終了までの延伸時間は、好ましくは10秒以上、より好ましくは20秒以上、好ましくは100秒以下、より好ましくは60秒以下である。上記延伸時間が上記上限以下であると、加熱による配向緩和が生じ難くなり、延伸による分子配向効果が容易に得られる。上記延伸時間が上記下限以上であると、顕著なボーイング現象が生じ難く、分子配向が均一になり、フィルム特性がより一層良好になる。さらに、上記延伸時間が上記下限以上であると、延伸応力が適度になり、延伸時にフィルムが切断し難くなり、テンタークリップがはずれ難くなり、延伸工程におけるフィルム走行安定性が良好になる。
【0105】
上記熱処理工程は、延伸終了後にフィルムに残留する歪みを除去又は低減し、アニール処理するための工程である。上記熱処理工程により分子配向は固定され、光学特性の経時劣化が抑えられ、フィルムの寸法安定性、強靭性及び接着性が高くなる。このため、上記熱処理工程は、延伸により得られたフィルム品質を更に強化する役割を有する。またテンター式延伸を用いる場合には、分子配向のボーイングを低減し、配向を均一に揃えることができる。従って、フィルム物性の異方性を低減又は調整し、光学特性、機械特性、寸法安定性及び厚みを揃えることができる。
【0106】
上記熱処理工程における加熱温度は、光学フィルムを構成する樹脂(好ましくは非晶性樹脂)のガラス転移温度をTg(℃)としたとき、好ましくは(Tg−100)℃以上、好ましくは(Tg)℃以下である。更に、熱処理工程における上記熱処理温度の上限は、加熱延伸工程における加熱延伸温度よりも低いことが好ましい。上記熱処理工程における加熱温度が上記下限以上及び上記上限以下であると、分子配向精度を高めることが可能となり、光学特性、機械特性、寸法安定性及び厚みなどの物性が向上する。上記熱処理工程における加熱温度が上記上限以下であると、延伸により得られた分子配向が緩和し難くなり、特に光学異方性及び機械強度が低下し難くなる。上記加熱温度が上記下限以上であると、アニール効果が十分に得られる。
【0107】
上記熱処理工程における加熱時間は、主に連続生産性に基づいて決定されるフィルム走行速度に応じて適宣設定できる。上記熱処理工程における加熱時間は、好ましくは5秒以上、より好ましくは10秒以上、好ましくは60秒以下、より好ましくは30秒以下である。加熱延伸の後の熱処理工程における加熱時間が上記下限以上及び上記上限以下であると、ボーイング現象を抑制し、分子配向精度を高めることが可能となる。上記加熱時間が上記下限以上であると、十分なアニール効果が得られ、結果としてフィルム流れの下流側に配向がせり出し難くなり、逆ボーイングを助長し難くなる。上記加熱時間が上記上限以下であると、フィルム流れの上流側に配向がせり出し難くなり、正ボーイングを助長し難くなる。このため、主にフィルムの光学特性及び寸法安定性が良好になり、液晶表示装置の表示画像の品位が向上し、光学フィルムとしての商品価値が高くなる。
【0108】
上記冷却工程は、フィルムを急冷することにより、フィルムに形成された分子配向を最終的に固定し、室温でのフィルム形状を安定させ、次工程のフィルム巻取作業を円滑にするための工程である。上記光学フィルムを構成する樹脂(好ましくは非晶性樹脂)のガラス転移温度をTg(℃)としたとき、上記冷却工程における冷却温度は、好ましくは(Tg−100)℃以上、好ましくは(Tg−20)℃以下である。
【0109】
(光学フィルムの他の詳細)
上記光学フィルムの強靭性は、引裂強力により示される。上記リワーク性において、光学フィルムを偏光子から剥離する際、フィルムが破断せずにパネル本体より剥離されるためには、上記光学フィルムの23℃での上記引裂強力は、光学フィルムの厚み1mm相当で、5N以上であることが好ましい。なお上記引裂強力の測定方法は、JIS K7128−1記載の引裂強さ試験方法(トラウザー法)に準拠する。
【0110】
上記光学フィルムの剛性は、引張弾性率により示される。偏光子等に対する貼り合わせ工程でフィルム搬送を安定させ、更にリワーク工程でのフィルム破断を防止するためには、フィルムが適度な弾性を有することが好ましい。従って、上記光学フィルムの23℃での引張弾性率は好ましくは100MPa以上、より好ましくは500MPa以上、好ましくは2000MPa以下、より好ましくは1500MPa以下である。
【0111】
上記光学フィルムの下記式(1)で定義される正面レターデーションR0(nm)は、好ましくは20nm以上、好ましくは300nm以下である。
【0112】
R0(nm)=(nx−ny)×d ・・・式(1)
nx:光学フィルム面内の最大屈折率
ny:光学フィルム面内のnx方向と直交する方向の屈折率
d:光学フィルムの平均厚み(nm)
【0113】
上記正面レターデーションR0が上記下限以上及び上記上限以下であると、光学フィルムを液晶表示装置に組み込むと、画像表示を安定して高品位にすることができる。正面レターデーションR0の値が上記下限未満である又は上記上限を超えると、液晶を通過する際の複屈折を補償しきれず、光学フィルムとしての商品価値が低下することがある。
【0114】
本発明に係る光学フィルムは、該フィルムを80℃の熱風で1000時間処理した後の、上記式(1)で定義される正面レターデーションR0の変化率が、熱風処理前の初期値に対して−2%以上、+2%以下であることが好ましい。R0の変化率は、下記式(5)で定義される。上記正面レターデーションR0の変化率は、耐久性の指標である。
【0115】
η0(%)=(R0[1000]−R0[0])/R0[0]×100・・・式(5)
η0:正面レターデーション値R0の変化率
R0[0]:無処理のフィルムのR0(nm)
R0[1000]:80℃の熱風で1000時間処理した後のR0(nm)
【0116】
すなわち、85℃で1000時間熱処理後のR0が、無処理フィルムのR0に対して±2%の変化に抑えられることにより、光学フィルムを用いた液晶表示装置では、広視野角及び高コントラストなどを維持して、安定した高品位の画像表示を長期間にわたって保持することができる。なお、耐久性評価の加熱温度を85℃としたのは、液晶表示装置に光学フィルムを組み込むと、パネル装備のバックライト光に光学フィルムが常時露光され、このとき光学フィルムが80℃程度に加熱昇温されるためである。
【0117】
上記光学フィルムの幅方向に対する分子主鎖配向角θ(°)は、好ましくは−0.5°以上、好ましくは+0.5°以下である。分子主鎖配向角θが上記下限以上及び上記上限以下であると、分子主鎖が均一に配向して光軸が安定するので、液晶表示装置に光学フィルムを組み込むと、表示むらがなく、安定した表示画像が得られる。
【0118】
上記光学フィルムの平均厚みは特に制限されない。光学フィルムの平均厚みは好ましくは20μm以上、より好ましくは40μm以上、好ましくは200μm以下、より好ましくは100μm以下である。光学フィルムの平均厚みが上記下限以上及び上記上限以下であると、所定の複屈折発現性を損わず、かつ一定の機械的強度を有し、さらに液晶表示装置に組み込まれる際に重視される部材の軽量化を進めることができる。また、光学フィルムを光学補償フィルムとして好適に使用できる。なお、上記光学フィルム平均厚みの測定方法は以下の通りである。
【0119】
光学フィルム幅方向を基準軸とし、その基準軸に対して長手方向50mm、幅方向は全幅で帯状フィルム片を採取する。フィルム厚さ測定器(セイコーEM社製、商品名「Millitron1240」を用いて、フィルム片の幅方向に平行に10mm間隔で測定し、測定値の総平均を算出し、フィルムの平均厚み(μm)とする。
【0120】
光学フィルムのヘイズ値は好ましくは8%以下、より好ましくは5%以下、更に好ましくは3%以下、特に好ましくは1%以下である。上記ヘイズ値が上記上限以下であると、光学フィルムの用途に用いた場合に、光洩れ等が生じ難くなる。
【0121】
コロナ処理、プラズマ処理、紫外線照射、各種薬品処理等の表面活性処理が、光学フィルムの表面に施されていてもよい。さらに、光学フィルムの表面に、塗布加工又は蒸着による各種の機能コーティング、ラミネート等を行うことにより諸性能を付加し、利用価値を更に向上させてもよい。
【0122】
上記光学フィルムは、液晶表示装置の部品として好適に用いられる。上記光学フィルムは、単独で用いられてもよく、偏光板と積層されて複合偏光板として用いられてもよく、偏光板の液晶セル側の保護フィルムのかわりに光学フィルムを用いて、偏光板として用いられてもよい。液晶表示装置の薄型化及び製造効率を向上させることができることから、偏光板の液晶セル側の保護フィルムのかわりに光学フィルムを用いて、偏光板として用いることが好ましい。光学フィルムは、好ましくは接着剤により他の部材と積層される。
【0123】
複合偏光板は、上記光学フィルムと、該光学フィルムの一方の表面側に配置された偏光板とを備える。該光学フィルムは接着剤層を有し、該光学フィルムは接着剤層側から偏光板に積層されていることが好ましい。上記光学フィルムと上記偏光板とは一体化されていることが好ましい。上記偏光板が接着剤層を有し、該偏光板が接着剤層側から光学フィルムに積層されていてもよい。
【0124】
液晶表示装置は、液晶セルを構成している一対の基板と、該一対の基板の少なくとも一方の外表面に積層された上記複合偏光板とを備える。
【0125】
偏光板は、上記光学フィルムと、該光学フィルムの一方の表面側に配置された偏光子とを備える。該光学フィルムは接着剤層を有し、該光学フィルムは接着剤層側から偏光子に積層されていることが好ましい。上記光学フィルムと上記偏光子とは一体化されていることが好ましい。上記偏光子が上記接着剤層を有し、該偏光子が接着剤層側から光学フィルムに積層されていてもよい。
【0126】
また、液晶表示装置は、液晶セルを構成している一対の基板と、該一対の基板の少なくとも一方の外表面に積層された上記偏光板とを備える。
【0127】
以下、本発明の実施例について説明する。本発明は、下記の実施例に限定されない。
【0128】
(フィルム製造例1)
第1の層を形成するために、MFRが14.3g/10分(測定条件:温度200℃、荷重98N、以下同様)である(メタ)アクリル酸エステル樹脂(A)(メタクリル酸メチル成分含有量75モル%、アクリル酸ブチル成分含有量25モル%、重量平均分子量:39,000)を用意した。
【0129】
また、第2,第3の層を形成するために、MFRが11.5g/10分であるメタクリル酸エステル樹脂(B)(メチルメタクリレート成分含有量55モル%、スチレン成分含有量30モル%、マレイン酸成分含有量15モル%、Tg:115℃、重量平均分子量:120,000)を用意した。
【0130】
上記(メタ)アクリル酸エステル樹脂(A)100重量部を、シリンダー径40mmの単軸押出機I(フルフライト型スクリュー、L/D=28、圧縮比2.5)に供給し、シリンダー温度210℃で溶融混練した。この溶融混練と同時に、上記メタクリル酸エステル樹脂(B)100重量部を、短軸押出機Iに併設したシリンダー径35mmの単軸押出機II(フルフライト型スクリュー、L/D=35、圧縮比2.3)に供給し、シリンダー温度240℃で溶融混練した。各々フィードパイプを介して溶融樹脂を固定ベイン式フィードブロック(以下適宜「FB」と称す)に輸送し、上記樹脂(A)を含む第1の層を中間層とし、該中間層の両側の表面に上記樹脂(B)を含む第2,第3の層を外層を積層するように、FB内で両樹脂を合流させた。その後、ストレート型マニホールドを備えたTダイに導入して拡幅し、Tダイ出口部からクロムメッキロール上に、引取速度10m/分で溶融押出し、冷却固化させてシート状に連続成膜して、幅が1500mmかつ幅方向における平均厚みが100μmである積層樹脂フィルム(1)を製造した。得られた積層樹脂フィルム(1)における厚み比(第2の層の厚み:第1の層の厚み:第3の層の厚み)は、2.1:1:2.1であった。
【0131】
(フィルム製造例2)
第1の層を形成するために、MFRが19.8g/10分である(メタ)アクリル酸エステル樹脂(C)(メタクリル酸メチル成分含有量75モル%、アクリル酸イソブチル成分含有量25モル%、重量平均分子量:33,000)を用意した。
【0132】
上記第1の層を構成する樹脂の種類を、(メタ)アクリル酸エステル樹脂(A)から、(メタ)アクリル酸エステル樹脂(C)に変更したこと以外は、製造例1と同様にして積層樹脂フィルム(2)を製造した。得られた積層樹脂フィルム(2)における厚み比(第2の層の厚み:第1の層の厚み:第3の層の厚み)は、2.1:1:2.1であった。
【0133】
(フィルム製造例3)
第1の層を形成するために、MFRが20.7g/10分である(メタ)アクリル酸エステル樹脂(D)(メタクリル酸メチル成分含有量75モル%、アクリル酸ブチル成分含有量25モル%、重量平均分子量:25,000)を用意した。
【0134】
上記第1の層を構成する樹脂の種類を、(メタ)アクリル酸エステル樹脂(A)から、(メタ)アクリル酸エステル樹脂(D)に変更したこと以外は、製造例1と同様にして積層樹脂フィルム(3)を製造した。得られた積層樹脂フィルム(3)における厚み比(第2の層の厚み:第1の層の厚み:第3の層の厚み)は、2:1:2.2であった。
【0135】
(フィルム製造例4〜6)
上記厚み比を下記の表1に示すように変更したこと以外は製造例1と同様にして、積層樹脂フィルム(4)〜(6)を製造した。
【0136】
(フィルム製造例7)
第1の層を形成するために、MFRが31.0g/10分である(メタ)アクリル酸エステル樹脂(E)(メタクリル酸メチル成分含有量75モル%、アクリル酸ブチル成分含有量25モル%、重量平均分子量:9,000)を用意した。
【0137】
上記第1の層を構成する樹脂の種類を、(メタ)アクリル酸エステル樹脂(A)から、(メタ)アクリル酸エステル樹脂(E)に変更したこと以外は、製造例1と同様にして積層樹脂フィルム(7)を製造した。得られた積層樹脂フィルム(7)における厚み比(第2の層の厚み:第1の層の厚み:第3の層の厚み)は、2.3:1:2.1であった。
【0138】
(フィルム製造例8)
上記第1の層を構成する樹脂の種類を、(メタ)アクリル酸エステル樹脂(A)から、メタクリル酸エステル樹脂(B)に変更したこと以外は、製造例1と同様にして積層樹脂フィルム(8)を製造した。得られた積層樹脂フィルム(8)における厚み比(第2の層の厚み:第1の層の厚み:第3の層の厚み)は、2:1:2.2であった。
【0139】
(実施例1〜4)
上記製造例1〜4によって得られた下記の表1に示す種類の積層樹脂フィルムを連続的に巻き出し、予熱ゾーン、延伸ゾーン、熱処理ゾーン及び冷却ゾーンを有するロール式延伸機に、予熱ゾーン入口においてフィルム搬送速度10m/分で供給した。該積層樹脂フィルムを予熱ゾーンで125℃に加温した後、延伸ゾーンの前後に配置された、フィルム流れ方向の上流側ニップロールと下流側ニップロールに回転速度比を付け、下流側ロール速度の上流側ロール速度に対する回転速度比を2.4として延伸倍率とし、歪み速度300%/分で、延伸ゾーンで長手方向に118℃で加熱延伸した。その後、直ちに、続く熱処理ゾーンにおいて105℃でアニール処理し、更に冷却ゾーンで80℃に冷却して配向固定した。フィルム端部の一部をフィルム中心から左右対称に設置したシェア刃でスリットして除去し、巻取速度20m/分及び巻取張力100N/mで塩化ビニル樹脂製コアにロール状に巻き取り、長手方向に一軸延伸された光学フィルムを得た。
【0140】
得られた光学フィルムの幅は、両端部を除いて1000mm、幅方向の平均厚みは、両端部30mm幅の部分を除いて、65μmであった。
【0141】
(実施例5)
上記製造例1によって得られた積層樹脂フィルム(1)を連続的に巻き出し、予熱ゾーン、延伸ゾーン、熱処理ゾーン及び冷却ゾーンを有する横一軸テンター延伸機に供給した。積層樹脂フィルム(1)の端部をテンタークリップで把持し、予熱ゾーンでフィルムを130℃に加温した後、続く延伸ゾーンに搬送し、延伸倍率2.0倍及び歪み速度300%/分で、幅方向に123℃で加熱延伸した。その後、直ちに、続く熱処理ゾーンにおいて108℃アニール処理し、更に冷却ゾーンで80℃に冷却して配向固定した。続く延伸機出口において、フィルム端部をクリップ把持より解放した。その後、スリット工程でクリップ掴み痕の残存するフィルム端部を、フィルム中心から左右対称に設置したシェア刃でスリットして除去し、巻取張力100N/mで塩化ビニル樹脂製コアにロール状に巻き取り、光学フィルムを得た。得られた光学フィルムの幅は、テンタークリップ掴み痕を含む両端部を除いて1400mmであり、幅方向の平均厚みは、48μmであった。
【0142】
(実施例6)
上記製造例5によって得られた積層樹脂フィルム(5)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、光学フィルムを得た。得られた光学フィルムの幅は、両端部を除いて1000mm、幅方向の平均厚みは、両端部30mm幅の部分を除いて、65μmであった。なお、実施例6では、下記の外観評価方法で、フィルム表面にフローマークが確認された。
【0143】
(参考例1)
上記製造例6によって得られた積層樹脂フィルム(6)を連続的に巻き出し、実施例1と同様にして、予熱ゾーン、延伸ゾーン、熱処理ゾーン及び冷却ゾーンを有するロール式延伸機に、予熱ゾーン入口においてフィルム搬送速度10m/分で供給した。しかし、フィルム端部が起点となり裂けて、延伸機内にフィルムを搬送して供給することが不可能となり、延伸フィルムを得ることができなかった。積層樹脂フィルム(6)を下記の外観評価方法で目視観察したところ、フローマークが確認された。積層樹脂フィルム(6)の端部断面を、下記の外観評価方法で確認したところ、層数は一つであり、廻り込み現象が発生していることが確認された。
【0144】
(参考例2)
上記製造例7によって得られた積層樹脂フィルム(7)を連続的に巻き出し、実施例1と同様にして、予熱ゾーン、延伸ゾーン、熱処理ゾーン及び冷却ゾーンを有するロール式延伸機に、予熱ゾーン入口においてフィルム搬送速度10m/分で供給した。しかし、参考例1と同様にフィルム端部が起点となり裂けて、延伸機内にフィルムを搬送して供給することが不可能となり、延伸フィルムを得ることができなかった。積層樹脂フィルム(7)を下記の外観評価方法で目視観察したところ、フローマークが確認された。積層樹脂フィルム(7)の端部断面を、下記の外観評価方法で確認したところ、層数は一つであり、参考例1と同様に、廻り込み現象が発生していることが確認された。
【0145】
(比較例1)
上記製造例8によって得られた積層樹脂フィルム(8)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、光学フィルムを得た。得られた光学フィルムの幅は、両端部を除いて1000mm、幅方向の平均厚みは、両端部30mm幅の部分を除いて、65μmであった。
【0146】
(評価)
得られた光学フィルムの厚み比、外観、引裂強力、引張弾性率及び正面レターデーション値R0、R0の加熱経時変化を評価した。各評価項目の評価方法は、以下の通りである。
【0147】
[光学フィルムの厚み比の評価方法]
上記光学フィルムの幅方向中央部分を、鋭利なレザー刃で長手方向に平行に切断し、フィルム断面を露出させた。該フィルム断面をデジタルマイクロスコープ(キーエンス社製VHX−200)で目視で観察しながら、マイクロゲージにより断面における各層の厚みを測定した。
【0148】
[光学フィルムの外観評価方法]
上記光学フィルムの外観を目視で観察し、フィルム表面歪みとして現れるフローマークの有無を確認した。またフィルム端部より10mm中央部寄りの位置で、上記厚み比の評価方法と同様の手法でフィルム断面を観察した。フィルム断面が単層と確認された場合は、廻り込み発生有、フィルム断面に所定の層数が確認された場合は、廻り込み発生無と判定した。更に、フローマーク及び廻り込みの発生状況を、以下の基準に準拠してまとめて段階判定した。
【0149】
○:外観不良なし
△:廻り込み、フローマークの何れか片方による外観不良発生
×:廻り込み、フローマーク両方による外観不良発生
【0150】
[光学フィルムの引裂強力の評価方法]
JIS K7128−1記載の引裂強さ試験方法(トラウザー法)に準拠して、光学フィルムの引裂強力を測定した。なお測定は、上記光学フィルムの長手方向及び幅方向に実施した。また測定は、温度23℃、相対湿度50%RHの環境条件下で実施した。下記の表1に、光学フィルムの厚み1mm相当での引裂強力の値を示した。
【0151】
[光学フィルムの引張弾性率の評価方法]
JIS K7127及びJIS K7161記載の引張試験方法に準拠して、光学フィルムの引張弾性率を測定した。なお測定は、温度23℃、相対湿度50%RHの環境条件下で実施した。
【0152】
[光学フィルムの正面レターデーション値R0の測定方法]
自動複屈折測定装置(王子計測機器社製、商品名「KOBRA−WR」)を用いて測定光の波長を550nmとして、光学フィルムの長手方向に直交する軸を基準軸とし、光学フィルムを幅方向に50mm間隔で、光学フィルムの正面レターデーション値R0を測定した。測定値の総平均値を算出し、フィルムの正面レターデーション値R0とした。
【0153】
[光学フィルムの熱風処理方法、及び加熱経時変化の評価方法]
光学フィルムを40mm×40mmの正方形に切り出し、上記の手順で正面レターデーション値を測定し、測定値をR0[0]とした。続いてフィルム片を無塵紙で、実質的に無負荷で軽く挟み、85℃に保温した乾燥熱風式オーブン内に1000時間放置し、フィルムを加熱処理した。熱風処理後に、上記と同様にフィルム片の正面レターデーション値を測定し、測定値をR0[1000]とした。正面レターデーションR0の変化率を、上記式(5)で算出した。
【0154】
結果を下記の表1に示す。
【0155】
【表1】

【符号の説明】
【0156】
1…光学フィルム
2…第1の層
2a…第1の表面
2b…第2の表面
3…第2の層
4…第3の層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性エラストマー樹脂を50重量%以上含む第1の層と、
前記第1の層の第1の表面に積層されており、非晶性樹脂を50重量%以上含む第2の層と、
前記第1の層の第1の表面とは反対の第2の表面に積層されており、非晶性樹脂を50重量%以上含む第3の層とを備え、
前記第1の層に含まれている前記熱可塑性エラストマー樹脂が、メタクリル酸エステル単量体と、アクリル酸エステル単量体とを重合して得られる(メタ)アクリル酸エステル樹脂であり、
前記第2の層及び前記第3の層に含まれている前記非晶性樹脂がそれぞれ、メタクリル酸エステル単量体を重合して得られるメタクリル酸エステル樹脂である、光学フィルム。
【請求項2】
前記第1の層の厚みと前記第2の層の厚みとの比(前記第1の層の厚み:前記第2の層の厚み)が、1:5〜5:1であり、
前記第1の層の厚みと前記第3の層の厚みとの比(前記第1の層の厚み:前記第3の層の厚み)が、1:5〜5:1である、請求項1に記載の光学フィルム。
【請求項3】
長手方向及び幅方向の内の少なくとも一方向に加熱延伸され、かつ延伸後に熱処理されている、請求項1又は2に記載の光学フィルム。
【請求項4】
23℃での引張強力が、光学フィルムの厚み1mm相当で5N以上である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の光学フィルム。
【請求項5】
23℃での引張弾性率が100MPa以上、2000MPa以下である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の光学フィルム。
【請求項6】
85℃の熱風で1000時間処理した後の下記式(1)で定義される正面レターデーションR0(nm)の変化率が、熱風処理前の初期値に対して−2%以上、+2%以下である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の光学フィルム。
R0(nm)=(nx−ny)×d ・・・式(1)
nx:光学フィルム面内の最大屈折率
ny:光学フィルム面内のnx方向と直交する方向の屈折率
d:光学フィルムの平均厚み(nm)
【請求項7】
前記第1の層に含まれている前記熱可塑性エラストマー樹脂の200℃及び荷重98Nでのメルトフローレートが、30g/10分以下であり、
前記第2の層及び前記第3の層に含まれている前記非晶性樹脂の200℃及び荷重98Nでのメルトフローレートがそれぞれ、20g/10分以下であり、
前記第1の層に含まれている前記熱可塑性エラストマー樹脂の前記メルトフローレートと、前記第2の層に含まれている前記非晶性樹脂の前記メルトフローレートとの差の絶対値が10g/10分以下であり、
前記第1の層に含まれている前記熱可塑性エラストマー樹脂の前記メルトフローレートと、前記第3の層に含まれている前記非晶性樹脂の前記メルトフローレートとの差の絶対値が10g/10分以下である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の光学フィルム。
【請求項8】
熱可塑性エラストマー樹脂を50重量%以上含む第1の層の第1の表面に、非晶性樹脂を50重量%以上含む第2の層を積層する工程と、
前記第1の層の前記第1の表面とは反対の第2の表面に、非晶性樹脂を50重量%以上含む第3の層を積層する工程とを備え、
前記第1の層に含まれる前記熱可塑性エラストマー樹脂として、メタクリル酸エステル単量体と、アクリル酸エステル単量体とを重合して得られる(メタ)アクリル酸エステル樹脂を用い、
前記第2の層及び前記第3の層に含まれる前記非晶性樹脂としてそれぞれ、メタクリル酸エステル単量体を重合して得られるメタクリル酸エステル樹脂を用いる、光学フィルムの製造方法。
【請求項9】
前記第1の層の前記第1の表面に前記第2の層が積層され、かつ前記第1の層の前記第2の表面に前記第3の層が積層された光学フィルムを、長手方向及び幅方向の内の少なくとも一方向に加熱延伸する工程と、
延伸後に熱処理する工程とをさらに備える、請求項8に記載の光学フィルムの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−173486(P2012−173486A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−34881(P2011−34881)
【出願日】平成23年2月21日(2011.2.21)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】