説明

光学体およびその製造方法

【課題】特定波長帯の光を選択的に指向反射するのに対して、特定波長帯域以外の光を透過することができる光学体を提供する。
【解決手段】光学体は、凹凸面を有する第1の光学層と、第1の光学層の凹凸面上に形成された波長選択反射層と、波長選択反射層が形成された凹凸面上に、該凹凸面を埋めるように形成された第2の光学層とを備える。波長選択反射層は、金属層と、金属層上に形成された、金属酸化物を主成分とする保護層と、保護層上に形成された、酸化亜鉛以外の金属酸化物を主成分とする高屈折率層とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学体およびその製造方法に関する。詳しくは、特定波長帯の光を選択的に指向反射するのに対して、特定波長帯以外の光を透過する光学体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高層ビル、住居などの建築用ガラスや車窓ガラスに太陽光の一部を吸収、または反射させる層が設けられるケースが増加している。これは地球温暖化防止を目的とした省エネルギー対策のひとつであり、太陽から注がれる光エネルギーが窓から屋内に入り、屋内温度が上昇することによりかかる冷房設備の負荷を軽減することを目的としている。太陽光から注がれる光エネルギーは、波長380〜780nmの可視領域と780〜2100nmの近赤外領域とが大きな比率を占めている。このうち後者波長域における窓の透過率は、人間の視認性と無関係であるため、高透明性かつ高熱遮蔽性を有する窓としての性能を左右する重要な要素となる。
【0003】
可視領域の透明性を維持しながら近赤外線を遮蔽する方法としては、近赤外領域に高い反射率を有する層を窓ガラスに設ける方法がある。例えば特許文献1には、酸化物層、金属層、誘電物質層からなる積層構造膜が記載されている。反射層として積層構造膜を採用することにより、高可視光透過性、低放射性、高い熱線反射性および好ましい反射外観といった種々の特性を、光学体に与えることが可能とされる。
【0004】
しかしながら、このような反射層は平面状の窓ガラスに設けられるため、入射した太陽光を正反射させることしかできない。このため、上空から照射されて正反射された光は、屋外の別な建物や地面に到達し、吸収されて熱に変わり周囲の気温を上昇させる。これにより、このような反射層が窓全体に貼られたビルの周辺では、局所的な温度上昇が起こり都市部ではヒートアイランドが増長されたり、反射光の照射面のみ芝生が生長しないなどの問題が生じている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4066101号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明の目的は、特定波長帯の光を選択的に指向反射するのに対して、特定波長帯以外の光を透過することができる光学体およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の課題を解決するために、第1の発明は、
凹凸面を有する第1の光学層と、
第1の光学層の凹凸面上に形成された波長選択反射層と、
波長選択反射層が形成された凹凸面上に、該凹凸面を埋めるように形成された第2の光学層と
を備え、
波長選択反射層は、
金属層と、
金属層上に形成された、金属酸化物を主成分とする保護層と、
保護層上に形成された、酸化亜鉛以外の金属酸化物を主成分とする高屈折率層と
を備え、
波長選択反射層が、特定波長帯の光を選択的に指向反射するのに対して、特定波長帯以外の光を透過する光学体である。
【0008】
第2の発明は、
第1の光学層の凹凸面上に波長選択反射層を形成する工程と、
波長選択反射層が形成された凹凸面上に、該凹凸を埋めるようにして第2の光学層を形成する工程と
を備え、
波長選択反射層の形成工程は、
金属層を形成する工程と、
金属酸化物を主成分とする保護層を、金属層上に形成する工程と、
酸化亜鉛以外の金属酸化物を主成分とする高屈折率層を、保護層上に形成する工程と
を備え、
波長選択反射層が、特定波長帯の光を選択的に指向反射するのに対して、特定波長帯以外の光を透過する光学体の製造方法である。
【0009】
本発明では、特定波長帯の光を指向反射し、所定の空間に入り込むのを排除し、特定波長帯以外の光を所定の空間に取り込むことができる。また、正反射以外のある特定の方向への反射を有し、かつ、反射光強度を、指向性を持たない拡散反射強度よりも十分に強くすることができる。
【発明の効果】
【0010】
以上説明したように、本発明によれば、特定波長帯の光を選択的に指向反射するのに対して、特定波長帯以外の光を透過することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1Aは、本発明者らが提案する光学体の第1の構成例を説明するための断面図である。図1Bは、クラックの発生による波長選択反射層の劣化を説明するための断面図である。図1Cは、酸素欠損ムラによる波長選択反射層の劣化を説明するための断面図である。
【図2】図2Aは、本発明者らが提案する光学体の第2の構成例を説明するための断面図である。図2Bは、クラックの発生による波長選択反射層の劣化を説明するための断面図である。図2Cは、酸素欠損ムラによる波長選択反射層の劣化を説明するための断面図である。
【図3】図3Aは、本発明の第1の実施形態に係る光学フィルムの一構成例を示す断面図である。図3Bは、本発明の第1の実施形態に係る光学フィルムを被着体に貼り合わせた例を示す断面図である。
【図4】図4は、光学フィルムに対して入射する入射光と、光学フィルムにより反射された反射光との関係を示す斜視図である。
【図5】図5A〜図5Cは、第1の光学層に形成された構造体の形状例を示す斜視図である。
【図6】図6Aは、第1の光学層に形成された構造体の形状例を示す斜視図である。図6Bは、図6Aに示す構造体が形成された第1の光学層を備える光学フィルムの一構成例を示す断面図である。
【図7】図7は、本発明の第1の実施形態に係る光学フィルムの波長選択反射層の一構成例を示す断面図である。
【図8】図8A、図8Bは、光学フィルムの機能の一例を説明するための断面図である。
【図9】図9A、図9Bは、光学フィルムの機能の一例を説明するための断面図である。
【図10】図10Aは、光学フィルムの機能の一例を説明するための断面図である。図10Bは、光学フィルムの機能の一例を説明するための平面図である。
【図11】図11は、本発明の第1の実施形態に係る光学フィルムを製造するための製造装置の一構成例を示す概略図である。
【図12】図12A〜図12Cは、本発明の第1の実施形態に係る光学フィルムの製造方法の一例を説明するための工程図である。
【図13】図13A〜図13Cは、本発明の第1の実施形態に係る光学フィルムの製造方法の一例を説明するための工程図である。
【図14】図14A〜図14Cは、本発明の第1の実施形態に係る光学フィルムの製造方法の一例を説明するための工程図である。
【図15】図15Aは、本発明の第1の実施形態の第1の変形例を示す断面図である。図15Bは、本発明の第1の実施形態の第2の変形例を示す断面図である。
【図16】図16Aは、本発明の第2の実施形態に係る光学フィルムにおける第1の光学層の第1の構成例を示す斜視図である。図16Bは、本発明の第2の実施形態に係る光学フィルムにおける第1の光学層の第2の構成例を示す斜視図である。
【図17】図17Aは、本発明の第2の実施形態に係る光学フィルムにおける第1の光学層の第3の構成例を示す平面図である。図17Bは、図17Aに示した第1の光学層のB−B線に沿った断面図である。図17Cは、図17Aに示した第1の光学層のC−C線に沿った断面図である。
【図18】図18Aは、本発明の第2の実施形態に係る光学フィルムにおける第1の光学層の第4の構成例を示す平面図である。図18Bは、図18Aに示した第1の光学層のB−B線に沿った断面図である。図18Cは、図18Aに示した第1の光学層のC−C線に沿った断面図である。
【図19】図19Aは、本発明の第2の実施形態に係る光学フィルムにおける第1の光学層の第5の構成例を示す平面図である。図19Bは、図19Aに示した第1の光学層のB−B線に沿った断面図である。
【図20】図20Aは、本発明の第3の実施形態に係る光学フィルムの第1の構成例を示す断面図である。図20Bは、本発明の第3の実施形態に係る光学フィルムの第2の構成例を示す断面図である。図20Cは、本発明の第3の実施形態に係る光学フィルムの第3の構成例を示す断面図である。
【図21】図21Aは、実施例1〜8および比較例1〜5の光学フィルムを作製するための金型原盤の形状を示す平面図である。図21B、図21Cは、図21Aに示した金型原盤のB−B線に沿った断面図である。
【図22】図22は、波長選択反射層の膜厚を説明するための断面図である。
【図23】図23Aは、実施例1の光学フィルムの波長選択反射層の観察結果を示す上面図である。図23Bは、比較例1の光学フィルムの波長選択反射層の観察結果を示す上面図である。
【図24】図24Aは、実施例1および比較例1の光学フィルムの透過特性を示すグラフである。図24Bは、実施例1および比較例1の光学フィルムの反射特性を示すグラフである。
【図25】図25Aは、比較例2の光学フィルムの波長選択反射層の観察結果を示す上面図である。図25Bは、実施例2の光学フィルムの波長選択反射層の観察結果を示す上面図である。
【図26】図26Aは、実施例1および比較例2の光学フィルムの透過特性を示すグラフである。図26Bは、実施例1および比較例2の光学フィルムの反射特性を示すグラフである。
【図27】図27Aは、実施例1、実施例2および比較例3の光学フィルムの透過特性を示すグラフである。図27Bは、実施例1、実施例2および比較例3の光学フィルムの反射特性を示すグラフである。
【図28】図28Aは、実施例1、比較例3および比較例4の光学フィルムの透過特性を示すグラフである。図28Bは、実施例1、比較例3および比較例4の光学フィルムの反射特性を示すグラフである。
【図29】図29Aは、実施例1、実施例2および比較例5の光学フィルムの透過特性を示すグラフである。図29Bは、実施例1、実施例2および比較例5の光学フィルムの反射特性を示すグラフである。
【図30】図30Aは、実施例1および実施例3の光学フィルムの透過特性を示すグラフである。図30Bは、実施例1および実施例3の光学フィルムの反射特性を示すグラフである。
【図31】図31Aは、実施例1および実施例6の光学フィルムの透過特性を示すグラフである。図31Bは、実施例1および実施例6の光学フィルムの反射特性を示すグラフである。
【図32】図32Aは、実施例1、実施例7および実施例8の光学フィルムの透過特性を示すグラフである。図32Bは、実施例1、実施例7および実施例8の光学フィルムの反射特性を示すグラフである。
【図33】図33は、実施例7の光学フィルムのオージェ電子分光法による解析結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明者らは、従来技術が有する上述の課題を解決すべく、鋭意検討を行った。その結果、凹凸面を有する第1の光学層と、第1の光学層の凹凸面上に形成された波長選択反射層と、波長選択反射層が形成された凹凸面上に、該凹凸面を埋めるように形成された第2の光学層とを備える光学体を発明するに至った。この光学体では、その入射面に入射した光のうち、特定波長帯の光を指向反射するのに対して、特定波長帯以外の光を透過することができる。
【0013】
図1Aは、本発明者らが提案する光学体の第1の構成例を説明するための断面図である。図1Aに示すように、この光学体は、第1の光学層4の凹凸面上に、波長選択反射層130が形成された構成を有している。波長選択反射層130は、第1の光学層4の凹凸面上に形成された金属層132と、金属層132上に形成された高屈折率層131とを備えている。
【0014】
図2Aは、本発明者らが提案する光学体の第2の構成例を説明するための断面図である。図2Aに示すように、この光学体は、第1の光学層4の凹凸面上に、波長選択反射層130が形成された構成を有している。波長選択反射層130は、第1の光学層4の凹凸面上に形成された高屈折率層131と、高屈折率層131上に形成された金属層132と、金属層132上に形成された高屈折率層131とを備えている。
【0015】
上記第1および第2の構成例の光学体において、高屈折率層131の材料として酸化亜鉛系(例えば、酸化亜鉛(ZnO)、ガリウム(Ga)およびアルミニウム(Al)を添加した酸化亜鉛(以下「GAZO」と称する。)など)を用いた場合、膜応力の影響により凹凸面の凸形状頂部、および/または斜面部にクラックが生じやすい。クラックが生じた場合には、そこからの水分やエアーの進入が容易となり、波長選択反射層130に含まれる金属層132の劣化が生じ、反射機能が低下してしまう(図1B、図2B参照)。
【0016】
従来より平板上の選択反射膜においては、金属層の上に2nm程度のTiなどの薄い金属層を製膜し、その上層に酸素導入下で高屈折率層を製膜する事で、薄い金属層が酸化して保護層として機能し、金属層の酸化劣化を抑制する手法がとられている。しかしながら、本発明者らが、この方法を構造上の製膜に適用しようと検討を重ねたところ、性能を満足する保護金属層の最適厚みが存在しない事が分かった。この理由は、凹凸形状上での波長選択反射層130の膜厚は、シャドーイングなどの影響により、頂部の膜厚が底部の膜厚よりも2倍程度厚くなっているためであると考えられる。保護金属層が薄いと底部の膜厚の薄い部分で十分な保護機能を発揮せず金属層132が酸化劣化し、逆に保護金属層が厚いと、頂部の保護層133の膜厚が厚い部分での酸素欠損ムラが生じやすく、光の吸収による分光特性の劣化が発生することを見出すに至った(図1Cおよび図2Cに示した領域Xを参照)。
【0017】
そこで、本発明者らは、クラックの発生を抑制でき、かつ、分光特性の低下を抑制すべく、鋭意検討を行った。その結果、高屈折率層131の材料として酸化亜鉛以外の金属酸化物を主成分とする材料(低応力材料)を使用し、かつ、波長選択反射層130の保護層133を酸化金属材料に変更し、更に保護層133の製膜条件を調整することを見出すに至った。
【0018】
本発明の実施形態について図面を参照しながら以下の順序で説明する。
1.第1の実施形態(構造体を1次元配列した例)
2.第2の実施形態(構造体を2次元配列した例)
3.第3の実施形態(光学フィルムに光散乱体を設けた例)
4.第4の実施形態(光学フィルムに、自己洗浄効果層を設けた例)
【0019】
<1.第1の実施形態>
[光学フィルムの構成]
図3Aは、本発明の第1の実施形態に係る光学フィルムの一構成例を示す断面図である。図3Bは、本発明の第1の実施形態に係る光学フィルムを被着体に貼り合わせた例を示す断面図である。光学体としての光学フィルム1は、いわゆる指向反射性能を有する光学フィルムである。図3Aに示すように、この光学フィルム1は、凹凸形状の界面を内部に有する光学層2と、この光学層2の界面に設けられた波長選択反射層3とを備える。光学層2は、凹凸形状の第1の面を有する第1の光学層(形状樹脂層とも称する。)4と、凹凸形状の第2の面を有する第2の光学層(包埋樹脂層とも称する)5とを備える。光学層内部の界面は、対向配置された凹凸形状の第1の面と第2の面とにより形成されている。具体的には、光学フィルム1は、凹凸面を有する第1の光学層4と、第1の光学層4の凹凸面上に形成された波長選択反射層3と、波長選択反射層3が形成された凹凸面を埋めるように、波長選択反射層3上に形成された第2の光学層5とを備える。光学フィルム1は、太陽光などの光が入射する入射面S1と、この入射面S1より入射した光のうち、光学フィルム1を透過した光が出射される出射面S2とを有する。
【0020】
光学フィルム1が、必要に応じて、光学層2の出射面S2に第1の基材4aをさらに備えるようにしてもよい。また、光学フィルム1が、必要に応じて、光学層2の入射面S1に第2の基材5aをさらに備えるようにしてもよい。なお、このように第1の基材4a、および/または第2の基材5aを光学フィルム1に備える場合には、第1の基材4a、および/または第2の基材5aを光学フィルム1に備えた状態において、以下に示す透明性、および透過色などの光学特性を満たすことが好ましい。
【0021】
光学フィルム1が、必要に応じて接合層6をさらに備えるようにしてもよい。この接合層6は、光学フィルム1の入射面S1および出射面S2のうち、窓材10に貼り合わされる面に形成される。この接合層6を介して、光学フィルム1は被着体である窓材10の屋内側または屋外側に貼り合わされる。接合層6としては、例えば、接着剤を主成分とする接着層(例えば、UV硬化型樹脂、2液混合型樹脂)、または粘着剤を主成分とする粘着層(例えば、PSA(Pressure Sensitive Adhesive))を用いることができる。接合層6が粘着層である場合、接合層6上に形成された剥離層7をさらに備えることが好ましい。このような構成にすることで、剥離層7を剥離するだけで、接合層6を介して窓材10などの被着体に対して光学フィルム1を容易に貼り合わせることができるからである。
【0022】
光学フィルム1が、第2の基材5aと、接合層6および/または第2の光学層5の接合性を向上させる観点から、第2の基材5aと、接合層6および/または第2の光学層5との間に、プライマー層(図示せず)をさらに備えるようにしてもよい。また、同様の箇所の接合性を向上させる観点から、該プライマー層に代えて、または該プライマー層と共に、公知の物理的前処理を施すことが好ましい。公知の物理的前処理としては、例えば、プラズマ処理、コロナ処理などが挙げられる。
【0023】
光学フィルム1が、窓材10などの被着体に貼り合わされる入射面S1または出射面S2上、またはその面と波長選択反射層3との間に、バリア層(図示せず)をさらに備えるようにしてもよい。このようにバリア層を備えることで、入射面S1または出射面S2から波長選択反射層3への水分の拡散を低減し、波長選択反射層3に含まれる金属などの劣化を抑制することができる。したがって、光学フィルム1の耐久性を向上させることができる。
【0024】
光学フィルム1は、表面に耐擦傷性などを付与する観点から、ハードコート層8をさらに備えるようにしてもよい。このハードコート層8は、光学フィルム1の入射面S1および出射面S2のうち、窓材10などの被着体に貼り合わされる面とは反対側の面に形成することが好ましい。
【0025】
光学フィルム1は、光学フィルム1を窓材10などの被着体に容易に貼り合わせ可能にする観点からすると、可撓性を有することが好ましい。ここで、フィルムにはシートが含まれるものとする。すなわち、光学フィルム1には光学シートも含まれものとする。
【0026】
光学フィルム1は、透明性を有している。透明性としては、後述する透過像鮮明度の範囲を有するものであることが好ましい。第1の光学層4と第2の光学層5との屈折率差が、好ましくは0.010以下、より好ましくは0.008以下、さらに好ましくは0.005以下である。屈折率差が0.010を超えると、透過像がぼけて見える傾向がある。0.008を超え0.010以下の範囲であると、外の明るさにも依存するが日常生活には問題がない。0.005を超え0.008以下の範囲であると、光源のように非常に明るい物体のみ回折パターンが気になるが、外の景色を鮮明に見ることができる。0.005以下であれば、回折パターンは殆ど気にならない。第1の光学層4および第2の光学層5のうち、窓材10などと貼り合わせる側となる光学層は、粘着剤を主成分としてもよい。このような構成とすることで、粘着材を主成分とする第1の光学層4、または第2の光学層5により光学フィルム1を窓材10などに貼り合わせることができる。なお、このような構成にする場合、粘着剤の屈折率差が上記範囲内であることが好ましい。
【0027】
第1の光学層4と第2の光学層5とは、屈折率などの光学特性が同じであることが好ましい。より具体的には、第1の光学層4と第2の光学層5とが、可視領域において透明性を有する同一材料からなることが好ましい。第1の光学層4と第2の光学層5とを同一材料により構成することで、両者の屈折率が等しくなるので、可視光の透明性を向上させることができる。ただし、同一材料を出発源としても、成膜工程における硬化条件などにより最終的に生成する層の屈折率が異なることがあるので、注意が必要である。これに対して、第1の光学層4と第2の光学層5とを異なる材料により構成すると、両者の屈折率が異なるので、波長選択反射層3を境界として光が屈折し、透過像がぼやける傾向がある。特に、遠くの電灯など点光源に近い物を観察すると回折パターンが顕著に観察される傾向がある。なお、屈折率の値を調整するために、第1の光学層4および/または第2の光学層5に添加剤を混入させてもよい。
【0028】
第1の光学層4と第2の光学層5は、可視領域において透明性を有することが好ましい。ここで、透明性の定義には2種類の意味があり、光の吸収がないことと、光の散乱がないことである。一般的に透明と言った場合に前者だけを指すことがあるが、第1の実施形態に係る光学フィルム1では両者を備えることが好ましい。現在利用されている再帰反射体は、道路標識や夜間作業者の衣服など、その表示反射光を視認することを目的としているため、例えば散乱性を有していても、下地反射体と密着していれば、その反射光を視認することができる。例えば、画像表示装置の前面に、防眩性の付与を目的として散乱性を有するアンチグレア処理をしても、画像は視認できるのと同一の原理である。しかしながら、第1の実施形態に係る光学フィルム1は、指向反射する特定の波長以外の光を透過する点に特徴を有しており、この透過波長の光を主に透過する透過体に接着し、その透過光を観察するため、光の散乱がないことが好ましい。但し、その用途によっては、第2の光学層5に意図的に散乱性を持たせることも可能である。
【0029】
光学フィルム1は、好ましくは、透過した特定波長以外の光に対して主に透過性を有する剛体、例えば、窓材10に粘着剤などを介して貼り合わせて使用される。窓材10としては、高層ビルや住宅などの建築用窓材、車両用の窓材などが挙げられる。建築用窓材に光学フィルム1を適用する場合、特に東〜南〜西向きの間のいずれかの向き(例えば南東〜南西向き)に配置された窓材10に光学フィルム1を適用することが好ましい。このような位置の窓材10に適用することで、より効果的に熱線を反射することができるからである。光学フィルム1は、単層の窓ガラスのみならず、複層ガラスなどの特殊なガラスにも用いることができる。また、窓材10は、ガラスからなるものに限定されるものではなく、透明性を有する高分子材料からなるものを用いてもよい。光学層2が、可視領域において透明性を有することが好ましい。このように透明性を有することで、光学フィルム1を窓ガラスなどの窓材10に貼り合せた場合、可視光を透過し、太陽光による採光を確保することができるからである。また、貼り合わせる面としてはガラスの内面のみならず、外面にも使用することができる。
【0030】
また、光学フィルム1は他の熱線カットフィルムと併用して用いることができ、例えば空気と光学フィルム1との界面(すなわち、光学フィルム1の最表面)に光吸収塗膜を設けることもできる。また、光学フィルム1は、ハードコート層、紫外線カット層、表面反射防止層などとも併用して用いることができる。これらの機能層を併用する場合、これらの機能層を光学フィルム1と空気との間の界面に設けることが好ましい。ただし、紫外線カット層については、光学フィルム1よりも太陽側に配置する必要があるため、特に光学フィルム1を室内の窓ガラス面に内貼り用として用いる場合には、該窓ガラス面と光学フィルム1の間に紫外線カット層を設けることが望ましい。この場合、窓ガラス面と光学フィルム1の間の接合層中に、紫外線吸収剤を練りこんでおいてもよい。
【0031】
また、光学フィルム1の用途に応じて、光学フィルム1に対して着色を施し、意匠性を付与するようにしてもよい。このように意匠性を付与する場合、透明性を損なわない範囲で光学層2が特定の波長帯の光のみ吸収する構成とすることが好ましい。
【0032】
図4は、光学フィルム1に対して入射する入射光と、光学フィルム1により反射された反射光との関係を示す斜視図である。光学フィルム1は、光Lが入射する入射面S1を有する。光学フィルム1は、入射角(θ、φ)で入射面S1に入射した光Lのうち、特定波長帯の光L1を選択的に正反射(−θ、φ+180°)以外の方向に指向反射するのに対して、特定波長帯以外の光L2を透過する。また、光学フィルム1は、上記特定波長帯以外の光に対して透明性を有する。透明性としては、後述する透過像鮮明度の範囲を有するものであることが好ましい。但し、θ:入射面S1に対する垂線l1と、入射光Lまたは反射光L1とのなす角である。φ:入射面S1内の特定の直線l2と、入射光Lまたは反射光L1を入射面S1に射影した成分とのなす角である。ここで、入射面内の特定の直線l2とは、入射角(θ、φ)を固定し、光学フィルム1の入射面S1に対する垂線l1を軸として光学フィルム1を回転したときに、φ方向への反射強度が最大になる軸である。但し、反射強度が最大となる軸(方向)が複数ある場合、そのうちの1つを直線l2として選択するものとする。なお、垂線l1を基準にして時計回りに回転した角度θを「+θ」とし、反時計回りに回転した角度θを「−θ」とする。直線l2を基準にして時計回りに回転した角度φを「+φ」とし、反時計回りに回転した角度φを「−φ」とする。
【0033】
選択的に指向反射する特定の波長帯の光、および透過させる特定の光は、光学フィルム1の用途により異なる。例えば、窓材10に対して光学フィルム1を適用する場合、選択的に指向反射する特定の波長帯の光は近赤外光であり、透過させる特定の波長帯の光は可視光であることが好ましい。具体的には、選択的に指向反射する特定の波長帯の光が、主に波長帯域780nm〜2100nmの近赤外線であることが好ましい。近赤外線を反射することで、光学体をガラス窓などの窓材に貼り合わせた場合に、建物内の温度上昇を抑制することができる。したがって、冷房負荷を軽減し、省エネルギー化を図ることができる。ここで、指向反射とは、正反射以外のある特定の方向への反射を有し、かつ、その強度が指向性を持たない拡散反射強度よりも十分に強いことを意味する。ここで、反射するとは、特定の波長帯域、例えば近赤外域における反射率が好ましくは30%以上、より好ましくは50%以上、更に好ましくは80%以上であることを示す。透過するとは、特定の波長帯域、例えば可視光域における透過率が好ましくは30%以上、より好ましくは50%以上、更に好ましくは70%以上であることを示す。
【0034】
光学フィルム1において、指向反射する方向φoが−90°以上、90°以下であることが好ましい。光学フィルム1を窓材10に貼った場合、上空から入射する光のうち、特定波長帯の光を上空方向に戻すことができるからである。周辺に高い建物がない場合にはこの範囲の光学フィルム1が有用である。また、指向反射する方向が(θ、−φ)近傍であることが好ましい。近傍とは、好ましく(θ、−φ)から5度以内、より好ましくは3度以内であり、さらに好ましくは2度以内の範囲内のずれのことをいう。この範囲にすることで、光学フィルム1を窓材10に貼った場合、同程度の高さが立ち並ぶ建物の上空から入射する光のうち、特定波長帯の光を他の建物の上空に効率良く戻すことができるからである。このような指向反射を実現するためには、例えば球面や双曲面の一部や三角錐、四角錐、円錐などの3次元構造体を用いることが好ましい。(θ、φ)方向(−90°<φ<90°)から入射した光は、その形状に基づいて(θo、φo)方向(0°<θo<90°、−90°<φo<90°)に反射させることができる。または、一方向に伸びた柱状体にすることが好ましい。(θ、φ)方向(−90°<φ<90°)から入射した光は、柱状体の傾斜角に基づいて(θo、−φ)方向(0°<θo<90°)に反射させることができる。
【0035】
光学フィルム1において、特定波長帯の光の指向反射が、再帰反射近傍方向、すなわち、入射角(θ、φ)で入射面S1に入射した光に対する、特定波長帯の光の反射方向が、(θ、φ)近傍であることが好ましい。光学フィルム1を窓材10に貼った場合、上空から入射する光のうち、特定波長帯の光を上空に戻すことができるからである。ここで近傍とは5度以内が好ましく、より好ましくは3度以内であり、さらに好ましくは2度以内である。この範囲にすることで、光学フィルム1を窓材10に貼った場合、上空から入射する光のうち、特定波長帯の光を上空に効率良く戻すことができるからである。また、赤外線センサーや赤外線撮像のように、赤外光照射部と受光部が隣接している場合は、再帰反射方向は入射方向と等しくなければならないが、本発明のように特定の方向からセンシングする必要がない場合は、厳密に同一方向とする必要はない。
【0036】
光学フィルム1において、透過性を持つ波長帯に対する透過像鮮明度に関し、0.5mmの光学くしを用いたときの値が、好ましくは50以上、より好ましくは60以上、さらに好ましくは75以上である。透過像鮮明度の値が50未満であると、透過像がぼけて見える傾向がある。50以上60未満であると、外の明るさにも依存するが日常生活には問題がない。60以上75未満であると、光源のように非常に明るい物体のみ回折パターンが気になるが、外の景色を鮮明に見ることができる。75以上であれば、回折パターンは殆ど気にならない。更に0.125mm、0.5mm、1.0mm、2.0mmの光学くしを用いて測定した透過像鮮明度の値の合計値が、好ましくは230以上、より好ましくは270以上、さらに好ましくは350以上である。透過像鮮明度の合計値が230未満であると、透過像がぼけて見える傾向がある。230以上270未満であると、外の明るさにも依存するが日常生活には問題がない。270以上350未満であると、光源のように非常に明るい物体のみ回折パターンが気になるが、外の景色を鮮明に見ることができる。350以上であれば、回折パターンは殆ど気にならない。ここで、透過像鮮明度の値は、スガ試験機製ICM−1Tを用いて、JIS K7105に準じて測定したものである。ただし、透過させたい波長がD65光源波長と異なる場合は、透過したい波長のフィルターを用いて校正した後に測定することが好ましい。
【0037】
光学フィルム1において、透過性を持つ波長帯に対するヘイズが、好ましくは6%以下、より好ましくは4%以下、さらに好ましくは2%以下である。ヘイズが6%を超えると、透過光が散乱され、曇って見えるためである。ここで、ヘイズは、村上色彩製HM−150を用いて、JIS K7136で規定される測定方法により測定したものである。ただし、透過させたい波長がD65光源波長と異なる場合は、透過したい波長のフィルターを用いて校正した後に測定することが好ましい。光学フィルム1の入射面S1、好ましくは入射面S1および出射面S2は、透過像鮮明度を低下させない程度の平滑性を有する。具体的には、入射面S1および出射面S2の算術平均粗さRaは、好ましくは0.08μm以下、より好ましくは0.06μm以下、さらに好ましくは0.04μm以下である。なお、上記算術平均粗さRaは、入射面の表面粗さを測定し、2次元断面曲線から粗さ曲線を取得し、粗さパラメータとして算出したものである。なお、測定条件はJIS B0601:2001に準拠している。以下に測定装置および測定条件を示す。
測定装置:全自動微細形状測定機 サーフコーダーET4000A(株式会社小坂研究所)
λc=0.8mm、評価長さ4mm、カットオフ×5倍
データサンプリング間隔0.5μm
【0038】
光学フィルム1の透過色はなるべくニュートラルに近く、色付きがあるとしても涼しい印象を与える青、青緑、緑色などの薄い色調が好ましい。このような色調を得る観点からすると、入射面S1から入射し、光学層2および波長選択反射層3を透過し、出射面S2から出射される透過光および反射光の色度座標x、yは、例えばD65光源の照射に対しては、好ましくは0.20<x<0.35かつ0.20<y<0.40、より好ましくは、0.25<x<0.32かつ0.25<y<0.37、更に好ましくは0.30<x<0.32かつ0.30<y<0.35の範囲を満たすのが望ましい。更に、色調が赤みを帯びないためには、好ましくはy>x−0.02、より好ましくはy>xの関係を満たすのが望ましい。また、反射色調が入射角度によって変化すると、例えばビルの窓に適用された場合に、場所によって色調が異なったり、歩くと色が変化して見えるため好ましくない。このような色調の変化を抑制する観点からすると、0°以上60°以下の入射角度θで入射面S1または出射面S2から入射し、光学層2および波長選択反射層3により反射された正反射光の色座標xの差の絶対値、および色座標yの差の絶対値が、光学フィルム1の両主面のいずれにおいても、好ましくは0.05以下、より好ましくは0.03以下、さらに好ましくは0.01以下である。このような反射光に対する色座標x、yに関する数値範囲の限定は、入射面S1、および出射面S2の両方の面において満たされることが望ましい。
【0039】
以下、光学フィルム1を構成する第1の光学層4、第2の光学層5、および波長選択反射層3について順次説明する。
【0040】
(第1の光学層、第2の光学層)
第1の光学層4は、例えば、波長選択反射層3を支持し、かつ保護するためのものである。第1の光学層4は、光学フィルム1に可撓性を付与する観点から、例えば、樹脂を主成分とする層からなる。第1の光学層4の両主面のうち、例えば、一方の面は平滑面であり、他方の面は凹凸面(第1の面)である。波長選択反射層3は該凹凸面上に形成される。
【0041】
第2の光学層5は、波長選択反射層3が形成された第1の光学層4の第1の面(凹凸面)を包埋することにより、波長選択反射層3を保護するためのものである。第2の光学層5は、光学フィルム1に可撓性を付与する観点から、例えば、樹脂を主成分とする層からなる。第2の光学層5の両主面のうち、例えば、一方の面は平滑面であり、他方の面は凹凸面(第2の面)である。第1の光学層4の凹凸面と第2の光学層5の凹凸面とは、互いに凹凸を反転した関係にある。
【0042】
第1の光学層4の凹凸面は、例えば、1次元配列された複数の構造体4cにより形成されている。第2の光学層5の凹凸面は、例えば、1次元配列された複数の構造体5cにより形成されている(図5、図6参照)。第1の光学層4の構造体4cと第2の光学層5の構造体5cとは、凹凸が反転している点のみが異なるので、以下では第1の光学層4の構造体4cについて説明する。
【0043】
光学フィルム1において、構造体4cのピッチPは、例えば、5μm以上5mm以下、好ましくは30μm以上5mm以下、より好ましくは10μm以上250μm未満、さらに好ましくは20μm以上200μm以下である。構造体4cのピッチが5μm未満であると、構造体4cの形状を所望のものとすることが難しい上、波長選択反射層3の波長選択特性は一般的には急峻にすることが困難であるため、透過波長の一部を反射することがある。このような反射が起こると回折が生じて高次の反射まで視認されるため、透明性が悪く感じられる傾向がある。また、構造体4cのピッチが5mmを超えると、指向反射に必要な構造体4cの形状を考慮した場合、必要な膜厚が厚くなりフレキシブル性が失われ、光学フィルム1を窓材10などの剛体に貼りあわせることが困難になる。また、凹部のピッチを250μm未満にすることにより、さらにフレキシブル性が増し、ロール・ツー・ロールでの製造が容易となり、バッチ生産が不要となる。窓などの建材に本発明の光学素子を適用するためには、数m程度の長さが必要であり、バッチ生産よりもロール・ツー・ロールでの製造が適している。
【0044】
また、第1の光学層4の表面に形成される構造体4cの形状は1種類に限定されるものではなく、複数種類の形状の構造体4cを第1の光学層4の表面に形成するようにしてもよい。複数種類の形状の構造体4cを表面に設ける場合、複数種類の形状の構造体4cからなる所定のパターンが周期的に繰り返されるようにしてもよい。また、所望とする特性によっては、複数種類の構造体4cがランダム(非周期的)に形成されるようにしてもよい。
【0045】
図5A〜図5Cは、第1の光学層に形成された構造体の形状例を示す斜視図である。構造体4cは、一方向に延在された柱状の凹部であり、この柱状の構造体4cが一方向に向かって一次元配列されている。波長選択反射層3はこの構造体4c上に成膜させるため、波長選択反射層3の形状は、構造体4cの表面形状と同様の形状を有することになる。
【0046】
構造体4cの形状としては、例えば、図5Aに示すプリズム形状、図5Bに示す、プリズム間の谷部に丸みを付与した形状、図5Cに示すレンチキュラー形状、またはこれらの反転形状を挙げることができる。ここで、レンチキュラー形状とは、凸部の稜線に垂直な断面形状が円弧状もしくはほぼ円弧状、楕円弧状もしくはほぼ楕円弧、または放物線状もしくはほぼ放物線状の一部となっているものをいう。したがって、シリンドリカル形状もレンチキュラー形状に含まれる。なお、稜線部分にはRがあっても良く、好ましくは曲率半径Rと構造体4cのピッチPの比R/Pが7%以下、より好ましくは5%以下、さらに好ましくは3%以下が好ましい。また、構造体4cの形状は、図5A〜図5Cに示した形状、またはこれらの反転形状に限定されるものではなく、トロイダル形状、双曲柱状、楕円柱状、多角柱状、自由曲面状としてもよい。また、プリズム形状、およびレンチキュラー形状の頂部を多角形状(例えば五角形状)の形状としてもよい。構造体4cをプリズム形状とする場合、プリズム形状の構造体4cの傾斜角度θは、例えば45°である。構造体4cは、窓材10に適用した場合に、上空から入射した光を反射して上空に多く戻す観点からは、傾斜角が45°以上傾斜した平面または曲面を有することが好ましい。このような形状にすることで、入射光はほぼ1回の反射で上空へ戻るため、波長選択反射層3の反射率がそれ程高く無くとも効率的に上空方向へ入射光を反射できると共に、波長選択反射層3における光の吸収を低減できるからである。
【0047】
また、図6Aに示すように、構造体4cの形状を、光学フィルム1の入射面S1または出射面S2に垂直な垂線l1に対して非対称な形状としてもよい。この場合、構造体4cの主軸lmが、垂線l1を基準にして構造体4cの配列方向aに傾くことになる。ここで、構造体4cの主軸lmとは、構造体断面の底辺の中点と構造体の頂点とを通る直線を意味する。地面に対して略垂直に配置された窓材10に光学フィルム1を貼る場合には、図6Bに示すように、構造体4cの主軸lmが、垂線l1を基準にして窓材10の下方(地面側)に傾いていることが好ましい。一般に窓を介した熱の流入が多いのは昼過ぎ頃の時間帯であり、太陽の高度が45°より高いことが多いため、上記形状を採用することで、これら高角度から入射する光を効率的に上方に反射できるからである。図6Aおよび図6Bでは、プリズム形状の構造体4cを垂線l1に対して非対称な形状とした例が示されている。なお、プリズム形状以外の構造体4cを垂線l1に対して非対称な形状としてもよい。例えば、コーナーキューブ体を垂線l1に対して非対称な形状としてもよい。
【0048】
第1の光学層4が、100℃での貯蔵弾性率の低下が少なく、25℃と100℃とでの貯蔵弾性率が著しく異ならない樹脂を主成分としていることが好ましい。具体的には、25℃での貯蔵弾性率が3×109Pa以下であり、100℃での貯蔵弾性率が3×107Pa以上である樹脂を含んでいることが好ましい。なお、第1の光学層4は、1種類の樹脂で構成されているのが好ましいが、2種類以上の樹脂を含んでいてもよい。また、必要に応じて、添加剤が混入されていてもよい。
【0049】
このように100℃での貯蔵弾性率の低下が少なく、25℃と100℃とでの貯蔵弾性率が著しく異ならない樹脂を主成分としていると、熱、または熱と加圧とを伴うプロセスが第1の光学層4の凹凸面(第1の面)を形成後に存在する場合でも、設計した界面形状をほぼ保つことができる。これに対して、100℃での貯蔵弾性率の低下が大きく、25℃と100℃とでの貯蔵弾性率が著しく異なる樹脂を主成分としていると、設計した界面形状からの変形が大きくなり、光学フィルム1にカールが生じたりする。
【0050】
ここで、熱を伴うプロセスには、アニール処理などのように直接的に光学フィルム1またはその構成部材に対して熱を加えるようなプロセスのみならず、薄膜の成膜時、および樹脂組成物の硬化時などに、成膜面が局所的に温度上昇して間接的に薄膜や樹脂組成物などに対して熱を加えるようなプロセスや、エネルギー線照射により金型の温度が上昇し、間接的に光学フィルムに熱を加えるようなプロセスも含まれる。また、上述した貯蔵弾性率の数値範囲を限定することにより得られる効果は、樹脂の種類に特に限定されず、熱可塑性樹脂、熱硬化型樹脂、およびエネルギー線照射型樹脂のいずれでも得ることができる。
【0051】
第1の光学層4の貯蔵弾性率は、例えば以下のようにして確認することができる。第1の光学層4の表面が露出している場合には、その露出面の貯蔵弾性率を微小硬度計を用いて測定することにより確認することができる。また、第1の光学層4の表面に第1の基材4aなどが形成されている場合には、第1の基材4aなどを剥離して、第1の光学層4の表面を露出させた後、その露出面の貯蔵弾性率を微小硬度計を用いて測定することにより確認することができる。
【0052】
高温下での弾性率の低下を抑制する方法としては、例えば、熱可塑性樹脂にあっては、側鎖の長さおよび種類などを調整する方法が挙げられ、熱硬化型樹脂、およびエネルギー線照射型樹脂にあっては、架橋点の量および架橋材の分子構造などを調整する方法が挙げられる。但し、このような構造変更によって樹脂材料そのものに求められる特性が損なわれないようにすることが好ましい。例えば、架橋剤の種類によっては室温付近での弾性率が高くなり、脆くなってしまったり、収縮が大きくなりフィルムが湾曲したり、カールしたりすることがあるので、架橋剤の種類を所望とする特性に応じて適宜選択することが好ましい。
【0053】
第1の光学層4が、結晶性高分子材料を主成分として含んでいる場合には、ガラス転移点が、製造プロセス中の最高温度より大きく、製造プロセス中の最高温度下での貯蔵弾性率の低下が少ない樹脂を主成分としていることが好ましい。これに対して、ガラス転移点が、室温25℃以上、製造プロセス中の最高温度以下の範囲内にあり、製造プロセス中の最高温度下での貯蔵弾性率の低下が大きい樹脂を用いると、製造プロセス中に、設計した理想的な界面形状を保持することが困難になる。
【0054】
第1の光学層4が、非晶性高分子材料を主成分として含んでいる場合には、融点が、製造プロセス中の最高温度より大きく、製造プロセス中の最高温度下での貯蔵弾性率の低下が少ない樹脂を主成分としていることが好ましい。これに対して、融点が、室温25℃以上、製造プロセス中の最高温度以下の範囲内にあり、製造プロセス中の最高温度下での貯蔵弾性率の低下が大きい樹脂を用いると、製造プロセス中に、設計した理想的な界面形状を保持することが困難になる。
【0055】
ここで、製造プロセス中の最高温度とは、製造プロセス中における第1の光学層4の凹凸面(第1の面)の最高温度を意味している。上述した貯蔵弾性率の数値範囲、およびガラス転移点の温度範囲は、第2の光学層5も満たしていることが好ましい。
【0056】
すなわち、第1の光学層4、および第2の光学層5の少なくとも一方が、25℃での貯蔵弾性率が3×109Pa以下である樹脂を含んでいることが好ましい。室温25℃において光学フィルム1に可撓性を付与することができるので、ロール・ツー・ロールでの光学フィルム1の製造が可能となるからである。
【0057】
第1の基材4a、および第2の基材5aは、例えば、透明性を有している。基材の形状としては、光学フィルム1に可撓性を付与する観点から、フィルム状を有することが好ましいが、特にこの形状に限定されるものではない。第1の基材4a、および第2の基材5aの材料としては、例えば、公知の高分子材料を用いることができる。公知の高分子材料としては、例えば、トリアセチルセルロース(TAC)、ポリエステル(TPEE)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリイミド(PI)、ポリアミド(PA)、アラミド、ポリエチレン(PE)、ポリアクリレート、ポリエーテルスルフォン、ポリスルフォン、ポリプロピレン(PP)、ジアセチルセルロース、ポリ塩化ビニル、アクリル樹脂(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、エポキシ樹脂、尿素樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂などが挙げられるが、特にこれらの材料に限定されるものではない。第1の基材4a、および第2の基材5aの厚さは、生産性の観点から38〜100μmであることが好ましいが、この範囲に特に限定されるものではない。第1の基材4a、および第2の基材5aは、エネルギー線透過性を有することが好ましい。これにより、後述するように、第1の基材4a、または第2の基材5aと波長選択反射層3との間に介在させたエネルギー線硬化型樹脂に対して、第1の基材4a、または第2の基材5a側からエネルギー線を照射し、エネルギー線硬化型樹脂を硬化させることができるからである。
【0058】
第1の光学層4、および第2の光学層5は、例えば、透明性を有する。第1の光学層4、および第2の光学層5は、例えば、樹脂組成物を硬化することにより得られる。樹脂組成物としては、製造の容易性の観点からすると、光または電子線などにより硬化するエネルギー線硬化型樹脂、または熱により硬化する熱硬化型樹脂を用いることが好ましい。エネルギー線硬化型樹脂としては、光により硬化する感光性樹脂組成物が好ましく、紫外線により硬化する紫外線硬化型樹脂組成物が最も好ましい。樹脂組成物は、第1の光学層4、または第2の光学層5と波長選択反射層3との密着性を向上させる観点から、リン酸を含有する化合物、コハク酸を含有する化合物、ブチロラクトンを含有する化合物をさらに含有することが好ましい。リン酸を含有する化合物としては、例えばリン酸を含有する(メタ)アクリレート、好ましくはリン酸を官能基に有する(メタ)アクリルモノマーまたはオリゴマーを用いることができる。コハク酸を含有する化合物としては、例えば、コハク酸を含有する(メタ)アクリレート、好ましくはコハク酸を官能基に有する(メタ)アクリルモノマーまたはオリゴマーを用いることができる。ブチロラクトンを含有する化合物としては、例えば、ブチロラクトンを含有する(メタ)アクリレート、好ましくはブチロラクトンを官能基に有する(メタ)アクリルモノマーまたはオリゴマーを用いることができる。
【0059】
紫外線硬化型樹脂組成物は、例えば、(メタ)アクリレートと、光重合開始剤とを含有している。また、紫外線硬化型樹脂組成物が、必要に応じて、光安定剤、難燃剤、レベリング剤および酸化防止剤などをさらに含有するようにしてもよい。
【0060】
アクリレートとしては、2個以上の(メタ)アクリロイル基を有するモノマーおよび/またはオリゴマーを用いることが好ましい。このモノマーおよび/またはオリゴマーとしては、例えば、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、ポリオール(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレート、メラミン(メタ)アクリレートなどを用いることができる。ここで、(メタ)アクリロイル基とは、アクリロイル基およびメタアクリロイル基のいずれかを意味するものである。ここで、オリゴマーとは、分子量500以上60000以下の分子をいう。
【0061】
光重合開始剤としては、公知の材料から適宜選択したものを使用できる。公知の材料としては、例えば、ベンゾフェノン誘導体、アセトフェノン誘導体、アントラキノン誘導体などを単独で、または併用して用いることができる。重合開始剤の配合量は、固形分中0.1質量%以上10質量%以下であることが好ましい。0.1質量%未満であると、光硬化性が低下し、実質的に工業生産に適さない。一方、10質量%を超えると、照射光量が小さい場合に、塗膜に臭気が残る傾向にある。ここで、固形分とは、硬化後のハードコート層を構成する全ての成分をいう。具体的には例えば、アクリレート、および光重合開始剤などを固形分という。
【0062】
樹脂はエネルギー線照射や熱などによって構造を転写できるものが好ましく、ビニル系樹脂、エポキシ系樹脂などの熱硬化性または電離線硬化性樹脂、またはポリカーボネート、アクリレートなどの熱可塑性樹脂など、上述の屈折率の要求を満たすものであればどのような種類の樹脂を使用しても良い。
【0063】
硬化収縮を低減するために、オリゴマーを添加してもよい。硬化剤としてポリイソシアネートなどを含んでもよい。また、第1の光学層4、および第2の光学層5との密着性を考慮して水酸基やカルボキシル基、リン酸基を有するような単量体、多価アルコール類、カルボン酸、シラン、アルミ、チタンなどのカップリング剤や各種キレート剤などを添加しても良い。
【0064】
樹脂組成物が、架橋剤をさらに含んでいることが好ましい。この架橋剤としては、環状の架橋剤を用いることが特に好ましい。架橋剤を用いることで、室温での貯蔵弾性率を大きく変化させることなく、樹脂を耐熱化することができるからである。なお、室温での貯蔵弾性率が大きく変化すると、光学フィルム1が脆くなり、ロール・ツー・ロール工程などによる光学フィルム1の作製が困難となる。環状の架橋剤としては、例えば、ジオキサングリコールジアクリレート、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート、トリシクロデカンジメタノールジメタクリレート、エチレンオキシド変性イソシアヌル酸ジアクリレート、エチレンオキシド変性イソシアヌル酸トリアクリレート、カプロラクトン変性トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレートなどを挙げることができる。
【0065】
第1の基材4a、または第2の基材5aは、第1の光学層4、または第2の光学層5より水蒸気透過率が低いことが好ましい。例えば、第1の光学層4をウレタンアクリレートのようなエネルギー線硬化型樹脂で形成する場合には、第1の基材4aを第1の光学層4より水蒸気透過率が低く、かつ、エネルギー線透過性を有するポリエチレンテレフタレート(PET)などの樹脂により形成することが好ましい。これにより、入射面S1または出射面S2から波長選択反射層3への水分の拡散を低減し、波長選択反射層3に含まれる金属などの劣化を抑制することができる。したがって、光学フィルム1の耐久性を向上させることができる。なお、厚み75μmのPETの水蒸気透過率は、10g/m2/day(40℃、90%RH)程度である。
【0066】
第1の光学層4および第2の光学層5の少なくとも一方が、極性の高い官能基を含み、その含有量が第1の光学層4と第2の光学層5とで異なることが好ましい。第1の光学層4と第2の光学層5との両方が、リン酸化合物(例えば、リン酸エステル)を含み、第1の光学層4と第2の光学層5とにおける上記リン酸化合物の含有量が異なることが好ましい。リン酸化合物の含有量は、第1の光学層4と第2の光学層5とにおいて、好ましくは2倍以上、より好ましくは5倍以上、さらに好ましくは10倍以上異なることが好ましい。
【0067】
第1の光学層4、および第2の光学層5の少なくとも一方が、リン酸化合物を含む場合、波長選択反射層3は、リン酸化合物を含む第1の光学層4または第2の光学層5と接する面に、酸化物もしくは窒化物、酸窒化物を含むことが好ましい。波長選択反射層3は、リン酸化合物を含む第1の光学層4または第2の光学層5と接する面に、酸化亜鉛または酸化ニオブを含む層を有することが特に好ましい。これらの光学層と波長選択反射層3との密着性が向上するためである。
【0068】
第1の光学層4、および第2の光学層5の少なくとも一方が、光学フィルム1や窓材10などに意匠性を付与する観点からすると、可視領域における特定の波長の光を吸収する特性を有することが好ましい。樹脂中に分散させる顔料は、有機系顔料および無機系顔料のいずれであってもよいが、特に顔料自体の耐候性が高い無機系顔料とすることが好ましい。具体的には、ジルコングレー(Co、NiドープZrSiO4)、プラセオジムイエロー(PrドープZrSiO4)、クロムチタンイエロー(Cr、SbドープTiO2またはCr、WドープTiO2)、クロムグリーン(Cr23など)、ピーコックブルー((CoZn)O(AlCr)23)、ビクトリアグリーン((Al、Cr)23)、紺青(CoO・Al23・SiO2)、バナジウムジルコニウム青(VドープZrSiO4)、クロム錫ピンク(CrドープCaO・SnO2・SiO2)、陶試紅(MnドープAl23)、サーモンピンク(FeドープZrSiO4)などの無機顔料、アゾ系顔料やフタロシアニン系顔料などの有機顔料が挙げられる。
【0069】
(波長選択反射層)
波長選択反射層3は、特定波長帯の光を選択的に指向反射するのに対して、特定波長帯以外の光を透過する機能を有する波長選択反射層であることが好ましい。これにより、窓材などの被着体に光学フィルム1を貼り合わせた場合に、特定波長帯の光を指向反射し、所定の空間に入り込むのを排除し、特定波長帯以外の光を所定の空間に取り込むことできるからである。
【0070】
図7Aは、波長選択反射層3の一構成例を示す断面図である。図7Aに示すように、波長選択反射層3は、金属層32、保護層33、高屈折率層31が、第1の光学層4の凹凸面上に順次積層された積層構造を有している。また、必要に応じて、上記積層構造を2層以上積層して波長選択反射層3を形成するようにしてもよい。このように2層以上積層することで、波長選択性を高める事ができる。
【0071】
図7Bは、波長選択反射層3の他の構成例を示す断面図である。図7Bに示すように、波長選択反射層3が、第1の光学層4の凹凸面と金属層32との間に、高屈折率層31をさらに備えるようにしてもよい。このように高屈折率層31をさらに備えることで、可視光の反射を更に抑制する事ができる。
【0072】
高屈折率層31の屈折率は、1.7以上2.6以下の範囲内であることが好ましい。より好ましくは1.8以上2.6以下、更に好ましくは1.9以上2.6以下である。これにより、クラックが発生しない程度の薄い膜で可視光領域での反射防止が実現できるからである。ここで、屈折率は、波長550nmにおけるものである。高屈折率層31は、例えば、金属酸化物を主成分とする層である。金属酸化物としては、層の応力を緩和し、クラックの発生を抑制する観点からすると、酸化亜鉛以外の金属酸化物を用いることが好ましい。特に、酸化ニオブ(例えば、五酸化ニオブ)、酸化タンタル(例えば、五酸化タンタル)、および酸化チタンからなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。高屈折率層31の膜厚は、好ましくは10nm以上120nm以下、より好ましくは10nm以上100nm以下、さらに好ましくは10nm以上80nm以下である。膜厚が10nm未満であると、可視光が反射しやすくなる傾向がある。一方、膜厚が120nmを超えると、透過率の低下やクラックが発生しやすくなる傾向がある。
【0073】
金属層32としては、例えば、赤外領域において反射率の高い金属材料を用いることができる。このような金属材料としては、例えば、Au、Ag、Cu、Al、Ni、Cr、Ti、Pd、Co、Si、Ta、W、Mo、Geなどの単体、またはこれらの単体を2種以上含む合金を主成分とする。そして、実用性の面を考慮すると、これらのうちのAg系、Cu系、Al系、Si系またはGe系の材料が好ましい。また、金属層32の材料として合金を用いる場合には、金属層32は、AlCu、AlTi、AlCr、AlCo、AlNdCu、AlMgSi、AgPdCu、AgPdTi、AgCuTi、AgPdCa、AgPdMg、AgPdFe、AgNdCu、AgBi、AgまたはSiBなどを主成分とすることが好ましい。また、金属層32の腐食を抑えるために、金属層32に対してTi、Ndなどの材料を添加することが好ましい。特に、金属層32の材料としてAgを用いる場合には、上記材料を添加することが好ましい。また、金属層32の膜厚は、好ましくは6nm以上30nm以下、より好ましくは7nm以上25nm以下、さらに好ましくは8nm以上20nm以下である。膜厚が6nm未満であると、金属層32の金属がアイランド状や粒状になることにより反射機能の低下する傾向がある。一方、膜厚が30nmを超えると、透過率が低下する傾向がある。
【0074】
保護層33は、高屈折率層31の形成工程において金属層32の劣化を抑制する保護層である。保護層33としては、例えば、少なくともZnの酸化物を含む酸化金属を主成分とするZnO系酸化物である。ZnO系酸化物としては、例えば、酸化亜鉛(ZnO)、ガリウム(Ga)およびアルミニウム(Al)をドープした酸化亜鉛(GAZO)、アルミニウム(Al)をドープした酸化亜鉛(AZO)、およびガリウム(Ga)をドープした酸化亜鉛(GZO)からなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることができる。保護層33の膜厚は、好ましくは3nm以上30nm以下、より好ましくは4nm以上20nm以下、さらに好ましくは5nm以上15nm以下である。膜厚が3nm未満であると、高屈折率層31を形成する工程において金属層32が劣化する傾向がある。一方、膜厚が30nmを超えると、クラックが生じやすくなる傾向がある。この層は、上記のようにアルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)などのドーパントを含有していても良い。金属酸化物層である高屈折率層31をスパッタリング法等で形成する場合に、膜質や平滑性が向上するからである。
【0075】
(光学フィルムの機能)
図8A、図8Bは、光学フィルムの機能の一例を説明するための断面図である。ここでは、例として、構造体の形状が傾斜角45°のプリズム形状である場合を例として説明する。図8Aに示すように、この光学フィルム1に入射した太陽光のうち近赤外線L1の一部は、入射した方向と同程度の上空方向に指向反射するのに対して、可視光L2は光学フィルム1を透過する。
【0076】
また、図8Bに示すように、光学フィルム1に入射し、波長選択反射層3の反射層面で反射された光は、入射角度に応じた割合で、上空反射する成分LAと、上空反射しない成分LBとに分離する。そして、上空反射しない成分LBは、第2の光学層5と空気との界面で全反射した後、最終的に入射方向とは異なる方向に反射する。
【0077】
光の入射角度をα、第1の光学層4の屈折率をn、波長選択反射層3の反射率をRとすると、全入射成分に対する上空反射成分LAの割合xは以下の式(1)で表される。
x=(sin(45−α')+cos(45−α’)/tan(45+α'))/(sin(45−α')+cos(45−α'))×R2 ・・・(1)
但し、α'=sin-1(sinα/n)
【0078】
上空反射しない成分LBの割合が多くなると、入射光が上空反射する割合が減少する。上空反射の割合を向上させるためには、波長選択反射層3の形状、すなわち、第1の光学層4の構造体4cの形状を工夫することが有効である。例えば、上空反射の割合を向上させるためには、構造体4cの形状は、図5Cに示すレンチキュラー形状、または図6に示す非対称な形状とすることが好ましい。このような形状にすることで、入射光と全く同じ方向に光を反射することはできなくても、建築用窓材などの上方向から入射した光を上方向に反射させる割合を多くすることが可能である。図5Cおよび図6Aに示す二つの形状は、図9Aおよび図9Bに示すように、波長選択反射層3による入射光の反射回数が1回で済むため、図8に示すような2回(もしくは3回以上)反射させる形状よりも、最終的な反射成分を多くすることが可能である。例えば、2回反射を利用する場合、波長選択反射層3のある波長に対する反射率を80%とすると、上空反射率は理論的には64%となるが、1回反射で済めば上空反射率は80%となる。
【0079】
図10は、柱状の構造体4cの稜線l3と、入射光Lおよび反射光L1との関係を示す。光学フィルム1は、入射角(θ、φ)で入射面S1に入射した光Lのうち、特定波長帯の光L1を選択的に(θo、−φ)の方向(0°<θo<90°)に指向反射するのに対して、特定波長帯以外の光L2を透過することが好ましい。このような関係を満たすことで、特定波長帯の光を上空方向に反射できるからである。但し、θ:入射面S1に対する垂線l1と、入射光Lまたは反射光L1とのなす角である。φ:入射面S1内において柱状の構造体4cの稜線l3と直交する直線とl2と、入射光Lまたは反射光L1を入射面S1に射影した成分とのなす角である。なお、垂線l1を基準にして時計回りに回転した角度θを「+θ」とし、反時計回りに回転した角度θを「−θ」とする。直線l2を基準にして時計回りに回転した角度φを「+φ」とし、反時計回りに回転した角度φを「−φ」とする。
【0080】
[光学フィルムの製造装置]
図11は、本発明の第1の実施形態に係る光学フィルムを製造するための製造装置の一構成例を示す概略図である。図11に示すように、この製造装置は、ラミネートロール41、42、ガイドロール43、塗布装置45、および照射装置46を備える。
【0081】
ラミネートロール41、42は、反射層付き光学層9と、第2の基材5aとをニップできるように配置されている。ここで、反射層付き光学層9は、第1の光学層4の一主面上に波長選択反射層3を成膜したものである。なお、反射層付き光学層9として、第1の光学層4の波長選択反射層3が成膜された面と反対側の他主面上に第1の基材4aが形成されていてもよい。この例では、第1の光学層4の一主面上に波長選択反射層3が成膜され、他主面上に第1の基材4aが形成された場合が示されている。ガイドロール43は、帯状の光学フィルム1を搬送できるように、この製造装置内の搬送路に配置されている。ラミネートロール41、42およびガイドロール43の材質は特に限定されるものではなく、所望とするロール特性に応じてステンレスなどの金属、ゴム、シリコーンなどを適宜選択して用いることができる。
【0082】
塗布装置45は、例えば、コーターなどの塗布手段を備える装置を用いることができる。コーターとしては、例えば、塗布する樹脂組成物の物性などを考慮して、グラビア、ワイヤバー、およびダイなどのコーターを適宜使用することができる。照射装置46は、例えば、電子線、紫外線、可視光線、またはガンマ線などの電離線を照射する照射装置である。この例では、照射装置46として紫外線を照射するUVランプを用いた場合が図示されている。
【0083】
[光学フィルムの製造方法]
以下、図11〜図14を参照して、本発明の第1の実施形態に係る光学フィルムの製造方法の一例について説明する。なお、以下に示す製造プロセスの一部または全部は、生産性を考慮して、図11に示すようなロール・ツー・ロールにより行われることが好ましい。但し、金型の作製工程は除くものとする。
【0084】
まず、図12Aに示すように、例えばバイト加工またはレーザー加工などにより、構造体4cと同一の凹凸形状の金型21、またはその金型21の反転形状を有する金型(レプリカ)を形成する。次に、図12Bに示すように、例えば溶融押し出し法または転写法などを用いて、上記金型の凹凸形状をフィルム状の樹脂材料に転写する。転写法としては、型にエネルギー線硬化型樹脂を流し込み、エネルギー線を照射して硬化させる方法、樹脂に熱や圧力を加え、形状を転写する方法、または樹脂フィルムをロールから供給し、熱を加えながら型の形状を転写する方法(ラミネート転写法)などが挙げられる。これにより、図12Cに示すように、一主面に構造体4cを有する第1の光学層4が形成される。
【0085】
また、図12Cに示すように、第1の基材4a上に、第1の光学層4を形成するようにしてもよい。この場合には、例えば、フィルム状の第1の基材4aをロールから供給し、該基材上にエネルギー線硬化型樹脂を塗布した後に型に押し当て、型の形状を転写し、エネルギー線を照射して樹脂を硬化させる方法が用いられる。なお、樹脂は、架橋剤をさらに含んでいることが好ましい。室温での貯蔵弾性率を大きく変化させることなく、樹脂を耐熱化することができるからである。
【0086】
次に、図13Aに示すように、第1の光学層4の一主面上に波長選択反射層3を成膜する。波長選択反射層3の成膜方法としては、例えば、スパッタリング法、蒸着法、CVD(Chemical Vapor Deposition)法、などが挙げられる。
【0087】
まず、一主面に構造体4cを有する第1の光学層4を、例えば、五酸化ニオブなどの金属の酸化物を主成分とするターゲットが備えられた真空チャンバ内に搬送する。次に、真空チャンバ内にプロセスガスを導入しながら、ターゲットをスパッタリングして、第1の光学層4の一主面(凹凸面)上に、高屈折率層31を形成する。
【0088】
次に、高屈折率層31が一主面に形成された第1の光学層4を、例えば、赤外領域において反射率の高い金属材料を主成分とするターゲットが備えられた真空チャンバ内に搬送する。次に、真空チャンバ内にプロセスガスを導入しながら、ターゲットをスパッタリングして、高屈折率層31上に金属層32を形成する。
【0089】
次に、金属層32が一主面に形成された第1の光学層4を、例えば、ZnO系酸化物を主成分とするターゲットが備えられた真空チャンバ内に搬送する。次に、真空チャンバ内に、プロセスガス(不活性ガス)を導入しながら、ターゲットをスパッタリングして、金属層32上に保護層33を形成する。上述したように、ZnO系酸化物を主成分とするターゲットを、Arなどの不活性ガスを用いてスパッタリングすることで、下地となる金属層32の劣化を抑制することができる。
【0090】
次に、保護層33が一主面に形成された第1の光学層4を、例えば、五酸化ニオブなどの金属の酸化物を主成分とするターゲットが備えられた真空チャンバ内に搬送する。次に、真空チャンバ内にプロセスガスを導入しながら、ターゲットをスパッタリングして、保護層33上に、高屈折率層31を形成する。以上により、目的とする波長選択反射層3が形成される。
【0091】
次に、必要に応じて、金属層32、保護層33、および高屈折率層31を2回以上繰り返し積層するようにしてもよい。この場合、波長選択反射層3は、金属層32、保護層33、高屈折率層31を繰り返し単位として、2単位以上積層されることになる。
【0092】
次に、図13Bに示すように、必要に応じて、波長選択反射層3に対してアニール処理310を施す。アニール処理の温度は、例えば100℃以上250℃以下の範囲内である。次に、図13Cに示すように、未硬化状態の樹脂22を波長選択反射層3上に塗布する。樹脂22としては、例えば、エネルギー線硬化型樹脂、または熱硬化型樹脂などを用いることができる。エネルギー線硬化型樹脂としては、紫外線硬化樹脂が好ましい。次に、図14Aのように、樹脂22上に第2の基材5aを被せることにより、積層体を形成する。次に、図14Bに示すように、例えばエネルギー線照射(または加熱)320により樹脂22を硬化させるとともに、積層体に対して圧力330を加える。エネルギー線としては、例えば、電子線、紫外線、可視光線、ガンマ線、電子線などを用いることができ、生産設備の観点から、紫外線が好ましい。積算照射量は、樹脂の硬化特性、樹脂や基材の黄変抑制などを考慮して適宜選択することが好ましい。積層体に加える圧力は、0.01MPa以上1MPa以下の範囲内であることが好ましい。0.01MPa未満であると、フィルムの走行性に問題が生じる。一方、1MPaを超えると、ニップロールとして金属ロールを用いる必要があり、圧力ムラが生じ易く好ましくない。以上により、図14Cに示すように、波長選択反射層3上に第2の光学層5が形成され、光学フィルム1が得られる。
【0093】
ここで、図11に示す製造装置を用いて、光学フィルム1の形成方法について具体的に説明する。まず、図示しない基材供給ロールから第2の基材5aを送出し、送出された第2の基材5aは、塗布装置45の下を通過する。次に、塗布装置45の下を通過する第2の基材5a状に、塗布装置45により電離線硬化樹脂44を塗布する。次に、電離線硬化樹脂44が塗布された第2の基材5aをラミネートロールに向けて搬送する。一方、図示しない光学層供給ロールから反射層付き光学層9を送出し、ラミネートロール41、42に向けて搬送する。
【0094】
次に、第2の基材5aと反射層付き光学層9との間に気泡が入らないように、搬入された第2の基材5aと反射層付き光学層9とをラミネートロール41、42により挟み合わせ、第2の基材5aに対して反射層付き光学層9をラミネートする。次に、反射層付き光学層9によりラミネートされた第2の基材5aを、ラミネートロール41の外周面に沿わせながら搬送するとともに、照射装置46により第2の基材5a側から電離線硬化樹脂44に電離線を照射し、電離線硬化樹脂44を硬化させる。これにより、第2の基材5aと反射層付き光学層9とが電離線硬化樹脂44を介して貼り合わされ、目的とする長尺の光学フィルム1が作製される。次に、作製された帯状の光学フィルム1を図示しない巻き取りロールにより巻き取る。これにより、帯状の光学フィルム1が巻回された原反が得られる。
【0095】
硬化した第1の光学層4は、上述の第2の光学層形成時のプロセス温度をt℃としたときに、(t−20)℃における貯蔵弾性率が3×107Pa以上であることが好ましい。ここで、プロセス温度tとは、例えば、ラミネートロール41の加熱温度である。第1の光学層4は、例えば、第1の基材4a上に設けられ、第1の基材4aを介してラミネートロール41に沿うように搬送されるため、実際に第1の光学層4にかかる温度は、経験的に(t−20)℃程度であることが分かっている。したがって、第1の光学層4の(t−20)℃における貯蔵弾性率を3×107Pa以上にすることにより、熱、または熱と加圧とにより光学層内部の界面の凹凸形状が変形することを抑制することができる。
【0096】
また、第1の光学層4は、25℃での貯蔵弾性率が3×109Pa以下であることが好ましい。これにより、室温において可撓性を光学フィルムに付与することができる。したがって、ロール・ツー・ロールなどの製造工程により光学フィルム1を作製することが可能となる。
【0097】
なお、プロセス温度tは、光学層または基材の使用樹脂の耐熱性を考慮すると、200℃以下であることが好ましい。ただし、耐熱性の高い樹脂を用いることにより、プロセス温度tを200℃以上に設定することも可能である。
【0098】
上述したように、第1の実施形態に係る光学フィルム1によれば、波長選択反射層3は、金属層32、保護層33、高屈折率層31をこの順序で第1の光学層4の凹凸面上に順次積層した構成を有している。高屈折率層31は、酸化亜鉛以外の金属酸化物を主成分としている。したがって、層の応力を緩和し、クラックの発生を抑制することができる。
また、金属酸化物を主成分とするターゲットを用いて、スパッタリング法により保護層33を形成した場合には、下地となる金属層32の劣化を抑制することができる。
【0099】
<変形例>
以下、上記実施形態の変形例について説明する。
【0100】
[第1の変形例]
図15Aは、本発明の第1の実施形態の第1の変形例を示す断面図である。図15Aに示すように、この第1の変形例に係る光学フィルム1は、凹凸形状の入射面S1を有している。この入射面S1の凹凸形状と、第1の光学層4の凹凸形状とは、例えば、両者の凹凸形状が対応するように形成されており、両者が有する凸部の頂部と凹部の最下部との位置が一致している。入射面S1の凹凸形状は、第1の光学層4の凹凸形状よりもなだらかであることが好ましい。
【0101】
[第2の変形例]
図15Bは、本発明の第1の実施形態の第2の変形例を示す断面図である。図15Bに示すように、この第2の変形例に係る光学フィルム1では、波長選択反射層3が形成された第1の光学層4の凹凸面のうちの凸形状頂部の位置が、第1の光学層4の入射面S1とほぼ同一の高さとなるように形成されている。
【0102】
<2.第2の実施形態>
図16〜図19は、本発明の第2の実施形態に係る光学フィルムの構造体の構成例を示す断面図である。第2の実施形態において、第1の実施形態と対応する箇所には同一の符号を付す。第2の実施形態は、第1の光学層4の一主面にて構造体4cが2次元配列されている点において、第1の実施形態とは異なっている。
【0103】
図16A、および図16Bに示すように、第1の光学層4の一主面には、例えば、柱状の構造体(柱状体)4cを直交配列することにより形成されている。具体的には、第1の方向に向かって配列された第1の構造体4cと、上記第1の方向とは直交する第2の方向に向かって配列された第2の構造体4cとが、互いの側面を貫通するように配列されている。柱状の構造体4cは、例えば、プリズム形状(図12A)、レンチキュラー形状(図12B)などの柱状を有する凸部または凹部である。
【0104】
また、第1の光学層4の一主面に、例えば、球面状やコーナーキューブ状などの形状を有する構造体4cを最稠密充填状態で2次元配列することにより正方稠密アレイ、デルタ稠密アレイ、六方稠密アレイなどの稠密アレイを形成するようにしてもよい。正方稠密アレイは、例えば図17A〜図17Cに示すように、四角形状(例えば正方形状)の底面を有する構造体4cを正方稠密状に配列させたものである。六方稠密アレイは、例えば図18A〜図18Cに示すように、六方形状の底面を有する構造体4cを六方稠密状に配列させたものである。デルタ稠密アレイは、例えば図19A〜図19Bに示すように、三角形状の底面を有する構造体4c(例えば三角錐)を最稠密充填状態で配列させたものである。
【0105】
構造体4cは、例えば、コーナーキューブ状、半球状、半楕円球状、プリズム状、自由曲面状、多角形状、円錐形状、多角錐状、円錐台形状、放物面状などの凸部または凹部である。構造体4cの底面は、例えば、円形状、楕円形状、または三角形状、四角形状、六角形状もしくは八角形状などの多角形状を有している。また、構造体4cのピッチP1、P2は、所望とする光学特性に応じて適宜選択することが好ましい。また、光学フィルム1の入射面に対して垂直な垂線に対して、構造体4cの主軸を傾ける場合、構造体4cの2次元配列のうちの少なくとも一方の配列方向に構造体4cの主軸を傾けるようにすることが好ましい。地面に対して略垂直に配置された窓材に光学フィルム1を貼る場合には、構造体4cの主軸が、垂線を基準にして窓材の下方(地面側)に傾いていることが好ましい。
【0106】
構造体4cがコーナーキューブ形状の場合、稜線Rが大きい場合は、主軸を上空に向けて傾けた方が良く、下方反射を抑制するという目的においては、主軸を地面側に向けて傾いている方が好ましい。太陽光線は、フィルムに対して斜めから入射するため、構造の奥まで光が入射しにくく、入射側の形状が重要となる。すなわち、稜線部分のRが大きい場合は、再帰反射光が減少してしまうため、主軸を上空に向けて傾けることでこの現象を抑制することができる。また、コーナーキューブ体では、反射面で3回反射することで再帰反射を実現するが、一部の光が2回反射により再帰反射以外の方向に漏れる。コーナーキューブの主軸を地面側に向けて傾けることで、この漏れ光を上空方向に多く戻すことができる。このように、形状や目的に応じて主軸をどちらの方向に傾けても良い。
【0107】
<3.第3の実施形態>
第3の実施形態は、特定波長の光を指向反射するのに対して、特定波長以外の光を散乱させる点において、第1の実施形態とは異なっている。光学フィルム1は、入射光を散乱する光散乱体を備えている。この散乱体は、例えば、光学層2の表面、光学層2の内部、および波長選択反射層3と光学層2との間のうち、少なくとも1箇所に設けられている。光散乱体は、好ましくは、波長選択反射層3と第1の光学層4との間、第1の光学層4の内部、および第1の光学層4の表面のうちの少なくとも一箇所に設けられている。光学フィルム1を窓材などの支持体に貼り合わせる場合、室内側および室外側のどちらにも適用可能である。光学フィルム1を室外側に対して貼り合わせる場合、波長選択反射層3と窓材などの支持体との間にのみ、特定波長以外の光を散乱させる光散乱体を設けることが好ましい。波長選択反射層3と入射面との間に光散乱体が存在すると、指向反射特性が失われてしまうからである。また、室内側に光学フィルム1を貼り合せる場合には、その貼り合わせ面とは反対側の出射面と、波長選択反射層3との間に光散乱体を設けることが好ましい。
【0108】
図20Aは、本発明の第3の実施形態に係る光学フィルム1の第1の構成例を示す断面図である。図20Aに示すように、第1の光学層4は、樹脂と微粒子11とを含んでいる。微粒子11は、第1の光学層4の主構成材料である樹脂とは異なる屈折率を有している。微粒子11としては、例えば有機微粒子および無機微粒子の少なくとも1種を用いることができる。また、微粒子11としては、中空微粒子を用いてもよい。微粒子11としては、例えば、シリカ、アルミナなどの無機微粒子、またはスチレン、アクリルやそれらの共重合体などの有機微粒子が挙げられるが、シリカ微粒子が特に好ましい。
【0109】
図20Bは、本発明の第3の実施形態に係る光学フィルム1の第2の構成例を示す断面図である。図20Bに示すように、光学フィルム1は、第1の光学層4の表面に光拡散層12をさらに備えている。光拡散層12は、例えば、樹脂と微粒子とを含んでいる。微粒子としては、上記実施形態と同様のものを用いることができる。
【0110】
図20Cは、本発明の第3の実施形態に係る光学フィルム1の第3の構成例を示す断面図である。図20Cに示すように、光学フィルム1は、波長選択反射層3と第1の光学層4との間に光拡散層12をさらに備えている。光拡散層12は、例えば、樹脂と微粒子とを含んでいる。微粒子としては、第1の例と同様のものを用いることができる。
【0111】
第3の実施形態によれば、赤外線などの特定波長帯の光を指向反射し、可視光などの特定波長対以外の光を散乱させることができる。したがって、光学フィルム1を曇らせて、光学フィルム1に対して意匠性を付与することができる。
【0112】
<4.第4の実施形態>
本実施の形態では、光学フィルム1の入射面上に、洗浄効果を発現する自己洗浄効果層をさらに備えている(図示せず)。自己洗浄効果層は、例えば、光触媒を含んでいる。光触媒としては、例えば、TiO2を用いることができる。
【0113】
上述したように、光学フィルム1は特定波長帯の光を部分的に反射する点に特徴を有している。光学フィルム1を屋外や汚れの多い部屋などで使用する際には、表面に付着した汚れにより光が散乱され指向反射特性が失われてしまうため、表面が常に光学的に透明であることが好ましい。そのため、表面が撥水性や親水性などに優れ、表面が自動的に洗浄効果を発現することが好ましい。
【0114】
本実施形態によれば、光学フィルム1の入射面上に自己洗浄効果層を形成しているので、撥水性や親水性などを入射面に付与することができる。したがって、入射面に対する汚れなどの付着を抑制し、指向反射特性の低減を抑制できる。
【実施例】
【0115】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0116】
(実施例1)
まず、図21A〜図21Cに示す微細三角錐形状を有するNi−P製金型ロールをバイトによる切削加工により作製した。次に、厚み75umのPETフィルム(東洋紡製、A4300)上にウレタンアクリレート樹脂(東亞合成製、アロニックス、硬化後屈折率1.533)を塗布し、金型ロールに密着させた状態でPETフィルム側からUV光を照射して樹脂を硬化させた後、樹脂とPETとの積層体を金型ロールから剥離した。これにより、三角錐形状が付与された樹脂層(以下、形状樹脂層と称する。)がPETフィルム上に形成された。次に、金型ロールにより三角錐形状が成形された成形面に対し、波長選択反射層を表1に示す膜厚構成にしてスパッタリング法により製膜を行った。保護層には、ZnOにGa23とAl23をドープしたGAZO=Ga23:0.57/Al23:0.31/ZnO:99.12at%の酸化物ターゲットを用い、スパッタガスをアルゴンガス100%とし、直流パルススパッタ法にて製膜した。金属層には、Ag/Nd/Cu=99.0/0.4/0.6at%の合金ターゲットを用い、スパッタガスをアルゴンガス100%とし、直流スパッタ法にて製膜した。高屈折率層には、Nb25セラミックターゲットを用い、スパッタガスをアルゴンガスにアルゴンガス量に対して20%の酸素ガスを導入した混合ガス雰囲気とし、直流パルススパッタ法にて製膜した。なお、各光学くしを用いて測定した透過像鮮明度は、0.125mm=68、0.5mm=83、1.0mm=91、2.0mm=97、トータル=339であった。これにより、目的とする光学フィルムが得られた。なお、透過像鮮明度に関しては、後述する他の実施例についても実施例1と同等の透明性を有していた。
【0117】
(実施例2)
波長選択反射層を表1に示す膜厚構成にした以外は、実施例1と同様にして光学フィルムを得た。
【0118】
(実施例3)
波長選択反射層を表1に示す膜厚構成にした以外は、実施例1と同様にして光学フィルムを得た。
【0119】
(実施例4)
波長選択反射層を表1に示す膜厚構成にした以外は、実施例1と同様にして光学フィルムを得た。なお、金属層の製膜には、Ag/Bi=99.0/1.0at%の合金ターゲットを用いた。
【0120】
(実施例5)
波長選択反射層を表1に示す膜厚構成にした以外は、実施例1と同様にして光学フィルムを得た。なお、金属層の製膜には、Ag/Pd/Cu=99.0/0.4/0.6at%の合金ターゲットを用いた。
【0121】
(実施例6)
波長選択反射層を表1に示す膜厚構成にした以外は、実施例1と同様にして光学フィルムを得た。なお、高屈折率層の製膜には、Taの金属ターゲットを用い、スパッタガスをアルゴンガスとアルゴンガス量に対し18%の酸素ガスを導入した混合ガス雰囲気とし、直流パルススパッタ法にて製膜した。
【0122】
(実施例7)
波長選択反射層を表1に示す膜厚構成にした以外は、実施例1と同様にして光学フィルムを得た。
【0123】
(実施例8)
波長選択反射層を表1に示す膜厚構成にした以外は、実施例1と同様にして光学フィルムを得た。
【0124】
(比較例1)
波長選択反射層を表1に示す膜厚構成にした以外は、実施例1と同様にして光学フィルムを得た。
【0125】
(比較例2)
波長選択反射層を表1に示す膜厚構成にした以外は、実施例1と同様にして光学フィルムを得た。なお、高屈折率層の製膜には、ZnOターゲットを用い、スパッタガスをアルゴンガス100%とし、直流パルススパッタ法にて製膜した。
【0126】
(比較例3)
波長選択反射層を表1に示す膜厚構成にした以外は、実施例1と同様にして光学フィルムを得た。
【0127】
(比較例4)
波長選択反射層を表1に示す膜厚構成にした以外は、実施例1と同様にして光学フィルムを得た。なお、保護層の製膜には、Taの金属ターゲットを用い、スパッタガスをアルゴンガス100%とし、直流スパッタ法にて製膜した。
【0128】
(比較例5)
波長選択反射層を表1に示す膜厚構成にした以外は、実施例1と同様にして光学フィルムを得た。なお、保護層の製膜には、Taの金属ターゲットを用い、スパッタガスをアルゴンガス100%とし、直流スパッタ法にて製膜した。
【0129】
上述のようにして得られた実施例、および比較例に係る光学フィルムのクラック、分光特性、および金属層の酸化判断を、以下のようにして行った。
【0130】
(クラック評価)
まず、光学顕微鏡(OLYMPUS製、MX61L)を用いて、倍率500倍で凹凸形状上の波長選択反射層を観察し、隣接する2つの三角錐形状間の稜線(以下、検査基準稜線と称する)にクラックおよび剥がれ発生状態があるかを確認した。光学顕微鏡での判断が難しい場合は、分析電子顕微鏡(Philips製、SEM−EDS XL30FEG+EDAX)を用いて、倍率500倍で凹凸形状上の波長選択反射層を観察した。そして、上記光学顕微鏡の場合と同様に、稜線クラックおよび剥がれの発生状態を確認した。これの観察結果の一部を図23A(実施例1)、図23B(比較例1)、図25A(比較例2)、図25B(実施例2)に示す。
【0131】
次に、検査基準稜線の長さをRi、検査基準稜線のうち稜線クラックおよび剥がれの発生している部分の長さをRcとしたときに、以下の式(2)で決められるyを稜線クラックおよび剥がれの割合とし、以下の基準により稜線クラックおよび剥がれの発生状態を判断した。その結果を表1に示す。
y(%)=Rc/Ri×100 ・・・(2)
A:稜線クラックおよび剥がれが検査基準稜線の10%未満
B:稜線クラックおよび剥がれが検査基準稜線の10%以上30未満
C:稜線クラックおよび剥がれが検査基準稜線の30%以上
【0132】
(分光特性評価)
まず、分光光度計(島津製作所製、SolidSpec−3700DUV)を用いて、測定波長領域300〜2600nmの透過率、および反射率を測定した。その結果を図26A〜図32Bに示す。次に、金属層の劣化(酸化)の状態を、波長1200nmの反射率の値を用いて、以下の基準により判断した。その結果を表1に示す。なお、反射率の測定については、光源からの光を形状樹脂層側から入射させ、積分球による測定を行った。
A:反射率35%以上
B:反射率30%以上35%未満
C:反射率30%未満
【0133】
但し、反射率の低下が、クラックによる金属層の劣化によるものではないと推測される場合、AES装置(Auger Electron Spectroscopy:AES)(ULVAC製、FE−AES PHI−7100)を用いて、金属層の劣化状態を評価した。その結果を図33(実施例7)に示す。
【0134】
【表1】

【0135】
なお、表1中において、波長選択反射層を凹凸面上に形成する実施例1〜8および比較例1〜5における各層の平均膜厚は、以下のようにして測定した。すなわち、実施例1〜8および比較例1〜5において形状樹脂層上に波長選択反射層を製膜したときと同一条件において、波長選択反射層を平滑なフィルム上に製膜し、FIBで断面をカットしたサンプルの各層の膜厚をTEMを用いて測定し、その測定値に基づき平均膜厚を求めた。なお、このようにして測定した平均膜厚は、形状樹脂層の三角錐を形成する三角形の斜辺の中点を通るn2方向の平均膜厚t2と一致することを確認している(図22参照)。このように測定した平均膜厚と平均膜厚t2が一致する三角錐上の位置を規定するのは、形状樹脂層の三角錐上に形成された波長選択反射層の平均膜厚を測定すると、図22に示すように、その平均膜厚は三角錐を形成する三角形上の位置により異なるからである。但し、図22中、n1方向、n2方向は以下の方向を示す。
n1方向:PETフィルムに付与されたプリズム形状の傾斜面に対して垂直な方向
n2方向:PETフィルムの主面に対して垂直な方向(PETフィルムの厚さ方向)
【0136】
表1、図23、図24から以下のことがわかる。
比較例1では、高屈折率層をZnO系材料としており、三角錐形状稜線および斜面部でのクラックの発生が多い。この影響により、金属層の劣化が促進され、反射機能が低下している。これに対し、高屈折率層にNb25などを使用した場合は、クラックの発生は少ない。このことから、高屈折率層はZnO系材料のみとするよりも、Nb25などの材料を使用することが好ましい。
【0137】
表1、図25、図26、図27から以下のことがわかる。
比較例2では、保護層がないことから、高屈折率層の反応性スパッタの際、金属層の劣化が見られる。この影響により分光特性が劣化している。
【0138】
また、比較例3では、保護層を薄くしていることから、高屈折率層の反応性スパッタの際、金属層の劣化が見られる。この影響により分光特性が低下している。実施例2では、保護層を厚くしているが、実施例1の基本構成品との分光特性差はない。これらの構成でのクラックは、実施例1同様に見られない。このことから、保護層は必須であり、また形状上の保護層としては3nm以上30nm以下が好ましい。凸形状頂部の膜厚は、底部の膜厚の2倍程度である事から、底部でも十分なバリア性を有するためにも、保護層は3nm以上の膜厚であることが好ましい。
【0139】
表1、図28、図29から以下のことがわかる。
比較例4では、保護層としてTaを使用し、膜厚を2nmと薄くしている。結果、形状上ではバリア性が不足しており、高屈折率層の反応性スパッタの際、金属層の劣化が見られる。この影響により分光特性が劣化している。比較例5では、比較例4同様に保護層となるTaを使用し、膜厚を10nmと厚くしている。結果、Taの膜厚が厚いことによる酸素欠損ムラの影響により、吸収による分光特性の劣化が大きく生じている。これらの構成でのクラックは、部分的に弱いレベルでの発生が見られる。このことから、形状上での金属層においては、保護層としてTa等の金属ではなく、ZnO系のZnO、GAZO、AZO、GZOなどの酸化金属を3nm以上30nm以下とすることが好ましい。
【0140】
表1、図30から以下のことがわかる。
実施例3では、金属層であるAgNdCuの膜厚を厚くしていることから、透過率の低下が見られるが、クラックの発生および金属層の劣化はなく、反射率は問題ない。このことから、金属層の膜厚は6〜30nmとするのが好ましい。
【0141】
表1から以下のことがわかる。
実施例4、5では、金属層はAgNdCu、AgPdCu、AgBiでの特性差が見られないことから、これらのAg合金を使用することが可能である。
【0142】
表1、図31から以下のことがわかる。
実施例6では、高屈折率層材料は五酸化ニオブ、五酸化タンタルの分光特性に差はなく、クラックの発生も見られない。このことから、五酸化ニオブや五酸化タンタルの物性に近い、例えば酸化チタンを使用することも可能である。
【0143】
表1、図32、図33から以下のことがわかる。
実施例7では、高屈折率層と保護層の膜厚を厚くしている。これらの膜厚を厚くすることにより、透過率のピーク波長および反射率の立上り波長が長波長側にシフトしており、金属層の劣化判断である反射率1200nmの値が低下している。この現象は、シミュレーションからも容易に推測が可能であり、クラックの発生も見られないことから、反射率1200nmの値の低下は、クラックの発生に起因する金属層の劣化によるものではないと推測される。金属層の劣化確認を、AES装置(ULVAC製FE−AES PHI−7100)を用いて行った。図33は、実施例7のオージェ電子分光法による解析結果を示す図である(測定の都合上あらわれるCについてのデータは除いてある)。図33に示すように、金属層の劣化がある場合にあらわれるAgの強度の低下や、Oの増加は見られない。すなわち、実施例1と同様な結果が得られ、反射率1200nmの値の低下は、金属層の劣化によるものではないことを確認した。また、実施例8では、高屈折率層と保護層の膜厚を薄くしている。透過率の低下が若干見られるが、クラックの発生および金属層の劣化はなく、反射率は問題ない。これらのことから、高屈折率層を10〜120nm、保護層を3〜30nmにて組み合わせることが可能である。
【0144】
以上、この発明の実施形態について具体的に説明したが、この発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、この発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。
【0145】
例えば、上述の実施形態において挙げた構成、方法、形状、材料および数値などはあくまでも例に過ぎず、必要に応じてこれと異なる構成、方法、形状、材料および数値などを用いてもよい。
【0146】
また、上述の実施形態の各構成は、この発明の主旨を逸脱しない限り、互いに組み合わせることが可能である。
【0147】
また、上述の実施形態では、指向反射性能を有する光学フィルムに対して本発明を適用した例について説明したが、本発明はこの例に限定されるものではなく、凹凸形状の界面を有する光学フィルムであれば本発明を適用可能である。このような光学フィルムとしては、例えば、ウィンドウフィルム、ディスプレイフィルム、プロジェクタースクリーン、光学フィルタ、太陽電池などが挙げられる。
【0148】
また、上述の実施形態では、指向反射性能を有する光学フィルムを例として、界面の凹凸形状のピッチの数値範囲について説明したが、界面の凹凸形状のピッチの数値範囲はこの例に限定されるものではない。例えば、所謂ナノインプリントにより転写される数μm程度のピッチから、数十μm程度のピッチまでの凹凸形状に対しても、本発明は適用可能である。
【0149】
また、上述の実施形態では、フィルム状の光学体を例として説明したが、これに限られず、例えば板状などの他の形状の光学体に対しても適用可能である。
【0150】
また、上述の実施形態では、本発明に係る光学体(指向反射体)を窓材などに適用する場合を例として説明したが、本発明に係る光学体は、例えば、建築物や車両等の外装部材および内装部材として、あらゆる用途に適用することができる。
【0151】
例えば、ブラインドやロールカーテンなどに適用することができる。光学体が適用されたブラインドまたはロールカーテンとしては、例えば、光学体自体により構成されたブラインドまたはロールカーテン、光学体が貼り合わされた透明基材などにより構成されたブラインドまたはロールカーテンなどが挙げられる。このようなブラインドまたはロールカーテンを室内の窓付近に設置することで、例えば、赤外線だけを屋外に指向反射し、可視光線を室内に取り入れることができる。したがって、ブラインドやロールカーテンを設置した場合にも、室内照明の必要性が低減される。また、ブラインドやロールカーテンによる散乱反射もないため、周囲の温度上昇も抑えることができる。また、冬季など熱線反射の必要性が低いときには、ブラインドやロールカーテンを上げておけばよく、状況に応じて熱線反射機能を容易に使い分けることができる、という利点もある。これに対して、赤外線を遮蔽するための従来のブラインドやロールカーテンなどでは、赤外線反射塗料などが塗られており、白、グレー、またはクリーム色などの外観を呈しているため、赤外線を遮断しようとすると可視光線も同時に遮断され、室内照明が必要となる。
【0152】
また、同様に障子のような形態を採用することも可能である。また、本発明の光学体を壁に貼り付けて使用してもよい。
【0153】
また、図示しないが、対向する2枚のガラスの間に光学体が挟持された合わせガラスとすることもできる。この場合、各ガラスと光学体の間には光学層が設けられており、熱圧着等を施すことにより光学層が接着層として機能し、上記合わせガラスを作製することができる。このような光学層としては、例えば、ポリビニルブチラール(PVB)を用いることができる。光学層は、合わせガラスが破損した場合に備え、飛散防止機能も有していることが好ましい。この合わせガラスを車載用窓として用いることにより、光学体によって熱線を反射できるため、車内が急激に暑くなることを防止することができる。この合わせガラスは、車両、電車、航空機、船舶等のあらゆる輸送手段、テーマパークでの乗り物等に広く用いることができ、用途に応じて2枚のガラスは湾曲していてもよい。この場合、光学体は、ガラスの湾曲に対し追従性を有し、湾曲しても一定の指向反射性、透過性を有していることが好ましい。合わせガラスは、全体としてある程度の透明性を有する必要があるため、光学層に用いられる材質(例えば樹脂)と、光学体に含まれる樹脂とは、屈折率が同じまたは近似していることが好ましい。一方、光学層を省略して、光学体に含まれる樹脂がガラスとの接着層を兼ねるようにしてもよい。この場合には、接着時の熱圧着工程等において、樹脂の形状ができるだけ崩れないような樹脂を用いるのが好ましい。対向する2つの基材はガラスに限定されず、一方または両方が、樹脂フィルム、シートまたはプレート等であってもよい。例えば、軽量かつ強固でフレキシブル性を有するエンジニアリングプラスチックや強化プラスチック等を採用し得る。なお、合わせガラスの用途は車載用途に限定されない。
【0154】
なお、上述の実施形態では、凹凸面を埋めるように第2の光学層を形成し、波長選択層を第2の光学層により覆う構成について説明したが、第2の光学層の形成を省略し、波長選択反射層が露出した構成としてもよい。
【符号の説明】
【0155】
1 光学フィルム
2 光学層
3 波長選択反射層
4 第1の光学層
4a 第1の基材
5 第2の光学層
5a 第2の基材
6 接合層
7 剥離層
8 ハードコート層
9 反射層付き光学層
S1 入射面
S2 出射面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
凹凸面を有する第1の光学層と、
上記第1の光学層の凹凸面上に形成された波長選択反射層と、
上記波長選択反射層が形成された上記凹凸面上に、該凹凸面を埋めるように形成された第2の光学層と
を備え、
上記波長選択反射層は、
金属層と、
上記金属層上に形成された、金属酸化物を主成分とする保護層と、
上記保護層上に形成された、酸化亜鉛以外の金属酸化物を主成分とする高屈折率層と
を備え、
上記波長選択反射層が、特定波長帯の光を選択的に指向反射するのに対して、上記特定波長帯以外の光を透過する光学体。
【請求項2】
入射角(θ、φ)(但し、θ:上記入射面に対する垂線と、上記入射面に入射する入射光または上記入射面から出射される反射光とのなす角、φ:上記入射面内の特定の直線と、上記入射光または上記反射光を上記入射面に射影した成分とのなす角)で上記入射面に入射した光のうち、特定波長帯の光を正反射(−θ、φ+180°)以外の方向に選択的に指向反射するのに対して、上記特定波長帯以外の光を透過すると共に、上記特定波長帯以外の光に対して透明性を有する請求項1記載の光学体。
【請求項3】
上記高屈折率層は、酸化ニオブ、酸化タンタル、および酸化チタンからなる群より選ばれる少なくとも1種を含んでいる請求項1記載の光学体。
【請求項4】
上記保護層が、少なくとも酸化亜鉛を含む金属酸化物を主成分として含んでいる請求項1記載の光学体。
【請求項5】
上記保護層が、酸化亜鉛(ZnO)、GaおよびAlをドープした酸化亜鉛(GAZO)、Alをドープした酸化亜鉛(AZO)、並びにGaをドープした酸化亜鉛(GZO)からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属酸化物を含んでいる請求項4記載の光学体。
【請求項6】
上記金属層が、Au、Ag、Cu、Al、Ni、Cr、Ti、Pd、Co、Si、Ta、W、Mo、およびGeからなる群より選ばれる少なくとも1種を含んでいる請求項1記載の光学体。
【請求項7】
上記保護層の膜厚が、3nm以上30nm以下である請求項1記載の光学体。
【請求項8】
上記高屈折率層の膜厚が、10nm以上120nm以下である請求項1記載の光学体。
【請求項9】
上記金属層の膜厚が、6nm以上30nm以下である請求項1記載の光学体。
【請求項10】
上記第1の光学層の凹凸面は、1次元配列、または2次元配列された複数の構造体により形成されている請求項1記載の光学体。
【請求項11】
上記構造体が、プリズム形状、レンチキュラー形状、半球状、またはコーナーキューブ状である請求項10記載の光学体。
【請求項12】
上記波長選択反射層が、上記金属層、上記保護層、上記高屈折率層を繰り返し単位として、2単位以上積層された請求項1記載の光学体。
【請求項13】
上記第1の光学層の凹凸面と、上記波長選択反射層のうち上記金属層との間に、他の高屈折率層を備えた請求項1乃至12のいずれか1項に記載の光学体。
【請求項14】
上記他の高屈折率層は、酸化ニオブ、酸化タンタル、および酸化チタンからなる群より選ばれる少なくとも1種を含んでいる請求項13記載の光学体
【請求項15】
第1の光学層の凹凸面上に波長選択反射層を形成する工程と、
上記波長選択反射層が形成された上記凹凸面上に、該凹凸を埋めるようにして第2の光学層を形成する工程と
を備え、
上記波長選択反射層の形成工程は、
金属層を形成する工程と、
金属酸化物を主成分とする保護層を、上記金属層上に形成する工程と、
酸化亜鉛以外の金属酸化物を主成分とする高屈折率層を、上記保護層上に形成する工程と
を備え、
上記波長選択反射層が、特定波長帯の光を選択的に指向反射するのに対して、上記特定波長帯以外の光を透過する光学体の製造方法。
【請求項16】
上記保護層の形成工程では、上記金属酸化物を主成分とするターゲットを用いて、スパッタリング法により上記保護層を形成する請求項15の光学体の製造方法。
【請求項17】
上記保護層の形成工程では、プロセスガスとして不活性ガスのみを用いて、スパッタリング法により上記保護層を形成する請求項15または16に記載の光学体の製造方法。
【請求項18】
上記高屈折率層は、酸化ニオブ、酸化タンタル、および酸化チタンからなる群より選ばれる少なくとも1種を含んでいる請求項15記載の光学体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図24】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図23】
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【図25】
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【公開番号】特開2011−175249(P2011−175249A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−11095(P2011−11095)
【出願日】平成23年1月21日(2011.1.21)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】