説明

光学分割法

【課題】一度に大量に、効率よくエナンチオマーを分離することができる、新規の光学分割法を提供する。
【解決手段】キラルらせん主鎖構造を有するポリフェニルアセチレン誘導体を第一の溶媒に溶解した第一の溶液と、ラセミ体を第二の溶媒に溶解した第二の溶液とを混合し、ラセミ体の一方のエナンチオマーのみ選択的にポリフェニルアセチレン誘導体に吸着させて沈殿させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラセミ体の光学分割法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のラセミ体の光学分割法としては、キラルポリマーをカラムに充填し、このカラムにラセミ体の溶液を通して保持時間の差を利用してエナンチオマーを分割する方法が最も広く用いられている。しかし、この方法はバッチ式であり、一度に大量の分離を行うことが困難であった。
【0003】
また、ラセミ体の溶液に光学分割剤を添加して、エナンチオマー間の溶解度差を利用して再結晶する方法も知られているが、操作に時間がかかり、効率が悪かった。
【特許文献1】特開平11−349494号公報
【特許文献2】特開2006−232726号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本発明は、一度に大量に、効率よくエナンチオマーを分離することができる、新規の光学分割法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために鋭意検討した結果、キラルらせん主鎖構造を有するポリフェニルアセチレン誘導体のテトラヒドロフラン溶液中にメタノールを添加した際に、キラルらせん主鎖構造が維持されたままポリフェニルアセチレン誘導体が沈殿することを見出した。さらに、このテトラヒドロフラン溶液に添加するメタノールにラセミ体を溶解させておくと、選択的に一方のエナンチオマーのみを吸着してポリフェニルアセチレン誘導体が沈殿することを見出し、本発明に想到した。
【0006】
すなわち、本発明の光学分割法は、キラルらせん主鎖構造を有するポリフェニルアセチレン誘導体を第一の溶媒に溶解した第一の溶液と、ラセミ体を第二の溶媒に溶解した第二の溶液とを混合し、前記ラセミ体の一方のエナンチオマーのみ選択的に前記ポリフェニルアセチレン誘導体に吸着させて沈殿させることを特徴とする。
【0007】
また、前記ポリフェニルアセチレン誘導体は、
【化3】

又は
【化4】

で表されるものであることを特徴とする。
【0008】
さらに、前記第一の溶媒はテトラヒドロフランであり、前記第二の溶媒はメタノールであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、一度に大量に、効率よくエナンチオマーを分離することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の光学分割法は、キラルらせん主鎖構造を有するポリフェニルアセチレン誘導体を第一の溶媒に溶解した第一の溶液と、ラセミ体を第二の溶媒に溶解した第二の溶液とを混合し、前記ラセミ体の一方のエナンチオマーのみ選択的に前記ポリフェニルアセチレン誘導体に吸着させて沈殿させるものである。
【0011】
本発明で用いるキラルらせん主鎖構造を有するポリフェニルアセチレン誘導体は、フェニルアセチレン誘導体モノマーを公知のキラル触媒系で重合することで得られる。このポリフェニルアセチレン誘導体としては、例えば、
【化5】

で表されるポリ(DoDHPA)、又は
【化6】

で表されるポリ(PSPA)などを用いることができるが、これらに限定されず、フェニル基上に種々の置換基を有するものを用いることができる。
【0012】
同様に、本発明で用いられるポリフェニルアセチレン誘導体の原料となるフェニルアセチレン誘導体モノマーとしては、フェニル基上に種々の置換基を有するものを用いることができる。
【0013】
本発明で用いられる第一の溶媒は、ポリフェニルアセチレン誘導体を溶解できるものであって、ポリフェニルアセチレン誘導体のモノマー換算で0.1mM以上溶解できるものが好適に用いられる。さらに好ましくは、0.5mM以上溶解できるものが用いられる。例えば、テトラヒドロフラン(THF)などを用いることができる。
【0014】
また、第二の溶媒としては、第一の溶媒と任意の混合比で均一に混合でき、ポリフェニルアセチレン誘導体をほとんど溶解せず、かつ、光学分割の対象となるラセミ体を溶解できるものが好適に用いられる。例えば、メタノールなどを用いることができる。
【0015】
そして、本発明の光学分割法によれば、第一の溶液と第二の溶液を混合したときにポリフェニルアセチレン誘導体が析出し、析出する際に選択的に一方のエナンチオマーのみを吸着して沈殿する。このように、ポリフェニルアセチレン誘導体が析出するまでは系が均一であり、ポリフェニルアセチレン誘導体が析出するまでのポリフェニルアセチレン誘導体とラセミ体は液相中で相互作用する。この相互作用は、固相−液相間での相互作用よりも強く、その結果、効率的に、かつ、高い選択性で光学分割を行うことができる。
【0016】
なお、従来の光学分割剤のキラル認識能を確認するための吸着実験は、固相−液相間の相互作用を観察するものであり、上記のように本発明の光学分割法とは異なるものである。
【0017】
以下、具体的な実施例に基づいて、本発明について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施例によって制限されるものではない。
【実施例1】
【0018】
ポリフェニルアセチレン誘導体として、ポリ(DoDHPA)、又はポリ(PSPA)を用い、
【化7】

に示すフェニルアラニン、
【化8】

に示すチロシン、
【化9】

に示すカルビノキサミンのマレイン酸塩、
【化10】

に示すヒドロキシジンの塩酸塩、
【化11】

に示すフラバノン、
【化12】

に示すトリメブチン、
【化13】

に示すシクロペントレート、
【化14】

に示す2,2’−ジメトキシ−1,1’−ビナフチル(BINOMe)、
【化15】

に示すトランス−スチルベンオキシド(TSO)について、それぞれのラセミ体の吸着沈殿による分離を行った。
【0019】
ポリフェニルアセチレン誘導体(モノマー換算で2.60μmol)のTHF溶液3ml(モノマー換算で0.865mM)と、ラセミ体(0.16μmol)のメタノール溶液1mlを混合した。なお、混合後のラセミ体のモル濃度は、ポリフェニルアセチレン誘導体のモノマー換算量(モノマーユニット)に対して、モノマーユニット/ラセミ体=16/1となっている。
【0020】
12時間静置後、所定量(2ml又は1ml)の上澄み液を採取し、濃縮、乾燥後、高速液体クトマトグラフィー(HPLC)用の溶離液で溶解し、さらに濾過してからHPLC装置を用いてエナンチオマー量を定量した。その結果を以下に示す。
【0021】
【表1】

【0022】
ここで、上澄み液中のα値は、HPLCのピーク面積から求めた2種類のエナンチオマーの比であり、ピーク面積の大きい方(主要なエナンチオマー)の値を小さい方の値で割った値である。また、吸着物のα値は、上澄み液中のα値から計算した値である。立体配置(D又はL、R又はS)、旋光性(+又は−)、主要なエナンチオマーの溶出の順番(1st又は2nd)を括弧内に示す。また、ポリ(DoDHPA)の比旋光度[α]20=−216.7°、ポリ(PSPA)の比旋光度[α]20=−98.4°である。
【0023】
上澄み液中のα値の結果より、チロシンに対して最も高い選択性が見られ、カルビノキサミン、ヒドロキシジン、シクロペントレートに対しても高い選択性が確認された。吸着物のα値の結果より、チロシン、ヒドロキシジン、シクロペントレートのほかに、トリメブチン、BINOMeに対して高い選択性が確認された。
【0024】
[比較例]
比較例として、従来の光学分割剤のキラル認識能を確認するための吸着実験と同様な方法により、エナンチオマーの選択性を確認した。
【0025】
溶媒に溶解していないポリ(DoDHPA)(モノマー換算で2.60μmol)とフェニルアラニンのラセミ体(0.16μmol)を4mlのメタノールへ加えて撹拌した。12時間静置後、上記実施例と同様にしてエナンチオマー量を定量した。その結果を以下に示す。
【0026】
【表2】

【0027】
実施例と比較して、上澄み液中のα値、吸着量が低く、本発明の光学分割法が優れた方法であることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キラルらせん主鎖構造を有するポリフェニルアセチレン誘導体を第一の溶媒に溶解した第一の溶液と、ラセミ体を第二の溶媒に溶解した第二の溶液とを混合し、前記ラセミ体の一方のエナンチオマーのみ選択的に前記ポリフェニルアセチレン誘導体に吸着させて沈殿させることを特徴とする光学分割法。
【請求項2】
前記ポリフェニルアセチレン誘導体は、
【化1】

又は
【化2】

で表されるものであることを特徴とする請求項1記載の光学分割法。
【請求項3】
前記第一の溶媒はテトラヒドロフランであり、前記第二の溶媒はメタノールであることを特徴とする請求項1又は2記載の光学分割法。

【公開番号】特開2008−273898(P2008−273898A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−121411(P2007−121411)
【出願日】平成19年5月2日(2007.5.2)
【出願人】(304027279)国立大学法人 新潟大学 (310)
【Fターム(参考)】