説明

光学機器及び光量調節装置

【課題】NDフィルタによる画質劣化を回避できる光学機器を提供する。
【解決手段】光学機器は、開口の大きさが変更可能な絞り9a,9bと、該絞りの開口に対して移動可能なNDフィルタ9fと、該NDフィルタを駆動するアクチュエータ9cと、該アクチュエータを制御する制御手段37とを有する。NDフィルタは、上記絞りを絞った状態での開口の全体を覆うことが可能な大きさを有する領域を備え、制御手段は、該領域が上記絞った状態での開口に対して退避する第1の位置と、該領域が上記絞った状態での開口の全体を覆う第2の位置との間で、NDフィルタが常に停止することなく移動するようアクチュエータを制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絞り機構とNDフィルタを備えたビデオカメラやデジタルカメラの光学機器に関する。
【背景技術】
【0002】
光学機器に搭載される光量調節装置は、複数の絞り羽根を用いて絞り開口の面積を変化させることによって、撮像素子に到達する光量を調節し、適正な露光量を得る。
【0003】
また、光量調節装置では、いわゆる小絞り回折による光学性能の劣化を防止するため、絞り開口の面積がある小絞り開口以下とならないようにするとともに、小絞り開口を覆うNDフィルタを用いて高輝度被写体を撮影する場合の光量を適正に設定している。
【特許文献1】特開2002−55374号公報(段落0019〜0020等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のNDフィルタを備えた光量調節装置では、NDフィルタが小絞り開口の一部のみを覆う状態、いわゆる半掛かり状態となるようにNDフィルタの位置が制御される場合がある。
【0005】
このような半掛かり状態では、NDフィルタの先端部と小絞り開口の縁部とによって囲まれた、該小絞り開口より小さな開口(素通し開口)が形成されるため、この小さな開口によって小絞り回折が生じるおそれがある。したがって、NDフィルタを設けても、小絞り回折による画質劣化を十分に回避することができない。
【0006】
また、NDフィルタは、透明なプラスチック基板上に透過率を低下させるための膜が蒸着されることで製作されるが、半掛かり状態では透過波面に該基板の厚み分の段差(光路長差)が発生し、これによる画質劣化が発生する。
【0007】
さらに、光学機器の小型化のために、開放絞り開口が設定されている状態においても、NDフィルタの水平直線状の先端部が該開放絞り開口内に入り込む位置に保持される場合がある。この場合、開放絞りからある程度絞り込むまでは、NDフィルタの先端部が絞り開口内に存在する。
【0008】
ところで、従来のCCDセンサを撮像素子として用いる場合に、例えば撮影画面内に高輝度の点光源状の被写体が存在すると、上下方向のスミアと、絞り羽根における絞り開口を形成する直線部分の傾斜角度方向への回折による光芒とが発生する。このようなスミアや光芒は、CMOSセンサ等のスミアレスなセンサを撮像素子として用いることで発生を抑えることができる。
【0009】
しかしながら、前述したように、NDフィルタの水平直線状の先端部が絞り開口内に入り込んでいると、スミアレスな撮像素子を用いた場合でさえも、該先端部での回折の影響によって上下方向に光芒が発生し、画質が劣化してしまう。
【0010】
本発明は、NDフィルタによる画質劣化を確実に回避できるようにした光学機器を提供することを目的の1つとしている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一側面としての光学機器は、開口の大きさが変更可能な絞りと、該絞りの開口に対して移動可能なNDフィルタと、該NDフィルタを駆動するアクチュエータと、該アクチュエータを制御する制御手段とを有する。そして、NDフィルタは、上記絞りを絞った状態での開口の全体を覆うことが可能な大きさを有する領域を備え、制御手段は、該領域が上記絞った状態での開口に対して退避する第1の位置と、該領域が上記絞った状態での開口の全体を覆う第2の位置との間で、NDフィルタが常に停止することなく移動するようアクチュエータを制御することを特徴とする。
【0012】
また、本発明の他の側面としての光学機器は、開口の大きさを変更可能な絞りと、 該絞りの開口に対して移動可能なNDフィルタと、該NDフィルタを駆動するアクチュエータと、該アクチュエータを制御する制御手段とを有する。ここで、NDフィルタは、透過率が75%以上の第1の領域と該第1の領域よりも透過率が低い第2の領域とを有し、該第1の領域は絞りを絞った状態での開口の全体を覆うことが可能な大きさを有する。そして、制御手段は、絞りの開口が第1の開口である状態で、第1の領域が第1の開口に対して退避する第1の位置と、第1の領域が第1の開口の全体を覆う第2の位置との間でNDフィルタを停止することなく移動させるようアクチュエータを制御することを特徴とする。
【0013】
また、本発明の他の側面としての光量調節装置は、開口の大きさを変更可能な絞りと、該絞りの開口に対して移動可能なNDフィルタとを有する。そして、絞りの開口の全体を覆うためのNDフィルタの移動方向を第1の方向とし、NDフィルタの光入射出面に平行で第1の方向に直交する方向を第2の方向とするとき、NDフィルタの第1の方向での先端は、第2の方向に延びる直線形状とは異なる形状に形成されていることを特徴とする。
【0014】
さらに、本発明の他の側面としての光量調節装置は、開口の大きさを変更可能な絞りと、該開口に対して移動可能なNDフィルタとを有する。そして、絞りの開口の全体を覆うためのNDフィルタの移動方向を第1の方向とし、開口を通過した光により形成される光学像を電気信号に変換する撮像素子の走査線方向に平行な方向を第2の方向とするとき、NDフィルタの第1の方向での先端は、第2の方向に延びる直線形状とは異なる形状に形成されていることを特徴とする。
【0015】
なお、上記光量調節装置を備えた光学機器も、本発明の他の側面を構成する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、NDフィルタが第1の開口の一部のみを覆う状態(半掛かり状態)が生じないようにNDフィルタを動作させることができる。したがって、半掛かり状態に伴う画質劣化を確実に回避することができる。
【0017】
また、本発明によれば、第2の領域を開口に対して挿入及び退避させる際に、第1の領域によって第1の開口を覆っておくことができ、NDフィルタの厚み分の光路長差による画質劣化を回避することができる。
【0018】
さらに、本発明によれば、NDフィルタの先端が第2の方向(例えば、撮像素子の走査線の方向)に延びる直線形状とは異なる形状に形成されているので、NDフィルタが単純な水平直線状の先端形状を有する場合等に発生し易い上下方向での光芒の発生を抑えることができる。したがって、光量調節装置、ひいては光学機器の小型化を図りつつ、不自然な光芒の発生による画質劣化を回避することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施例について図面を参照しながら説明する。
【実施例1】
【0020】
図1及び図2には、本発明の実施例1であるビデオカメラ(光学機器)のレンズ鏡筒部の構成を示している。
【0021】
該レンズ鏡筒部内には、被写体側から順に、凸凹凸凸の4つのレンズユニットにより構成された撮影光学系としての変倍光学系が内蔵されている。なお、以下の説明において、被写体側を前側、撮像素子側を後側という場合がある。
【0022】
これらの図において、被写体側(図の左側)から順に、L1は固定の第1レンズユニット、L2は光軸方向に移動して変倍を行う第2レンズユニットである。L3は光軸直交方向に移動して像触れ補正を行う第3レンズユニット、L4は光軸方向に移動してフォーカシングを行う第4レンズユニットである。
【0023】
1aは第1レンズユニットL1を保持する前玉鏡筒、1bは前玉鏡筒1aが固定される固定鏡筒である。
【0024】
2は第2レンズユニットL2を保持する第2移動枠、3は第3レンズユニットL3を光軸直交方向に移動可能に保持するシフトユニットである。
【0025】
4は第4レンズユニットL4を保持する第4移動枠、5はCCDセンサやCMOSセンサの絞り開口を通過した光により形成される光学像を電気信号に変換する撮像素子15(図2参照)が取り付けられる後部鏡筒である。
【0026】
固定鏡筒1bと後部鏡筒5との間には、2本のガイドバー6,7が固定されている。第2移動枠2に設けられたスリーブ部2dは、ガイドバー6に移動可能に係合して光軸方向にガイドされる。また、第2移動枠2に設けられたU溝部2eは、ガイドバー7に移動可 能に係合し、第2移動枠2のガイドバー6を中心とした回転を阻止している。
【0027】
また、第4移動枠4に設けられたスリーブ部4dは、ガイドバー7に移動可能に係合して光軸方向にガイドされる。また、第4移動枠4に設けられたU溝部4eは、ガイドバー6に移動可能に係合し、第4移動枠4のガイドバー7を中心とした回転を阻止している。
【0028】
シフトユニット3は後部鏡筒5に対して位置決めされた上で、後部鏡筒5と固定鏡筒1bとの間に挟み込まれて保持されている。
【0029】
9は撮影光学系に入射して絞り開口を通過した光により形成される光学像を電気信号に変換する撮像素子Cに到達する光量を調節する光量調節ユニット(光量調節装置)である。絞り開口の大きさを変更可能な光量調節ユニット9は、図2に示す2枚の絞り羽根9aを、ステッピングモータにより構成される絞りモータ9bの駆動力によって光軸直交方向に移動させることで、絞り開口径を変化させる。また、光量調節ユニット9には、NDフィルタが絞り羽根9aとは独立して光路に対して進退できるように設けられている。このNDフィルタについては後述する。光量調節ユニット9は、不図示のビスによって前方からシフトユニット3に固定される。
【0030】
固定鏡筒1bは後部鏡筒5に位置決めされ、かつ前述したようにシフトユニット3を後部鏡筒5との間に挟み込み、3本のビス(図示せず)によってシフトユニット3とともに後部鏡筒5に後方からビス止めされる。前玉鏡筒1a、固定鏡筒1b及び後部鏡筒5によって鏡筒本体が構成される。
【0031】
4a,4b,4cは第4レンズユニットL4(第4移動枠4)を光軸方向に移動させるフォーカス駆動ユニットであり、コイル4a、ドライブマグネット4b及び磁束を閉じるためのヨーク4cとにより構成されている。
【0032】
コイル4aに電流を流すと、マグネット4bとコイル4a間に磁力線の相互反発によるローレンツ力が発生し、第4移動枠4とともに第4レンズユニットL4が光軸方向に駆動される。また、第4移動枠4は、光軸方向に多極着磁された不図示のセンサマグネットを保持している。
【0033】
そして、センサマグネットの移動による磁力線の変化を読み取るMRセンサ12が後部鏡筒5に固定されている。これにより、第4移動枠4(第4レンズユニットL4)の位置が検出される。
【0034】
10は第2レンズユニットL2を光軸方向に移動させるズームモータであり、ステッピングモータにより構成されている。ズームモータ10の出力軸の前端部は、横長U字形状の保持板10aの前側に形成された軸受け部によって回転自在に保持されている。また、該出力軸の後端部近辺は、保持板10aの後側に形成された軸受け部により回転自在に保持されている。ズームモータ10の出力軸にはリードスクリューが形成されており、このリードスクリューには、第2移動枠2に取り付けられたラック2aが噛み合っている。
このため、ズームモータ10が回転すると、リードスクリューとラック2aとの噛合い作用によって第2移動枠2が光軸方向に駆動される。また、ねじりコイルバネ2bは、第2移動枠2とガイドバー6,7、第2移動枠2とラック2a、及びラック2aとリードスクリューをそれぞれ片寄せして、これらの間のがたつきを防止している。
【0035】
11はフォトインタラプタからなるズームリセットスイッチである。ズームリセットスイッチ11は、第2移動枠2に形成された遮光部2cの移動を光学的に検出して電気信号を出力する。これにより、後述する制御回路(コントローラ)としてのCPUは、第2移動枠2(第2レンズユニットL2)が基準位置に位置しているか否かを判別することができる。ズームリセットスイッチ11は、基板を介してビスにより前玉鏡筒1に固定されている。
【0036】
図3には、本実施例のビデオカメラにおける電気的構成を示している。この図において、図1及び図2にて説明したレンズ鏡筒部の構成要素については、これらの図中の符号と同符号を付して説明に代える。
【0037】
37は本ビデオカメラの制御を司るCPUである。38はカメラ信号処理回路であり、撮像素子15の出力に対して所定の増幅やガンマ補正などを施す。これらの所定の処理を受けた映像信号は、AEゲート39及びAFゲート40に送られる。AEゲート39及びAFゲート40ではそれぞれ、露出決定及びピント合わせのために最適な信号の取り出し範囲が全画面領域から設定される。各ゲートの大きさは可変であってもよいし、各ゲートが複数設けられてもよい。
【0038】
41はAF(オートフォーカス)のためのAF信号を生成するAF信号処理回路であり、映像信号の高周波成分に基づいて、コントラストAFのためのAF評価値信号を生成する。42は撮影者によって操作されるズームスイッチ、43はズームトラッキングメモリである。ズームトラッキングメモリ43は、変倍に際して被写体距離と第2レンズユニットL2の位置に応じてセットすべき第4レンズユニットL4の位置情報を記憶している。なお、ズームトラッキングメモリとしてCPU37内のメモリを使用してもよい。
【0039】
例えば、撮影者によりズームスイッチ42が操作されると、CPU37は、ズームモータ10を駆動する。これとともに、第2レンズユニットL2の位置と被写体距離とに応じてズームトラッキングメモリ43から読み出した位置に対して第4レンズユニットL4の位置が一致するようにフォーカス駆動ユニット(コイル4a)の通電を制御する。
【0040】
また、AF動作では、CPU37は、AF信号処理回路41からのAF評価値信号がピーク(最大)となるようにフォーカス駆動ユニットの通電を制御する。
【0041】
さらに、適正露出を得るために、CPU37は、AEゲート40を通過したY信号の出力の平均値に基づいてアクチュエータである絞りモータ9bを制御する。これにより、絞り開口径をコントロールする。36は光量調節ユニット9に設けられた絞りエンコーダであり、絞り羽根の位置、すなわち絞り開口径を検出する。
【0042】
次に、図4を用いて光量調節ユニット9について詳しく説明する。絞り開口の大きさを変更可能な光量調節ユニット9は、固定絞り開口9gが形成された絞り地板9hと、2枚の絞り羽根9a1,9a2と、絞りモータ9bの出力軸及び絞り羽根9a1,9a2に連結された駆動レバー9a3とを有する。絞りモータ9bの作動により、2枚の絞り羽根9a1,9a2が互いに反対方向に駆動され、両絞り羽根9a1,9a2によって形成される絞り開口の大きさ(径)が変化する。このような光量調節ユニット9は、いわゆるギロチン型の絞りとも称される。
【0043】
また、光量調節ユニット9は、透明部付きグラデーションNDフィルタ9fを備えている。NDフィルタ9fは、ND保持板9eに取り付けられている。9cはNDフィルタ9f(ND保持板9e)を絞り羽根9aとは独立に光路に対して進退駆動するためのアクチュエータであるNDモータである。NDモータ9cの出力軸には、ND駆動アーム9dが連結されており、さらにND駆動アーム9dは、ND保持板9eに連結されている。このため、アクチュエータであるNDモータ9cの作動によってNDフィルタ9fが絞り開口面と平行に駆動される。
【0044】
透明部付きグラデーションNDフィルタ9fは、光路への挿入方向での先端側から順に、透明部9f3、グラデーション濃度部9f2及び最高濃度部9f1を有する。本実施例では、透明部9f3が請求項にいう第1の領域に、グラデーション濃度部9f2及び最高濃度部9f1が第1の領域より透過率の低い第2の領域に相当する。
【0045】
このNDフィルタ9fは、無色透明なプラスチック基板のうち先端部分を除いてグラデーション濃度部9f2と最高濃度部9f1を蒸着膜によって形成したものである。蒸着膜が形成されていない先端部分が透明部9f3となる。なお、ここにいう「無色透明」とは、完全な無色透明だけでなく、透明部9f3が光路に対して進退した場合に撮影画像に色変化や輝度変化が生じていないと見なせる程度の状態を含む意味である。具体的には、透過率が100〜75%、望ましくは100〜87.5%の範囲内で設定するとよい。言い換えると、「透明部9f3が請求項にいう第1の領域に相当する」と前述したが、透明部9f3の領域とグラデーション濃度部9f2の一部の領域を含めて透過率が75%以上となっていれば、その領域が第1の領域に相当する。
【0046】
透明部9f3は、後述するように、F4.0に対応する絞り開口の全体を覆うことができる大きさに設定されている。
【0047】
また、最高濃度部9f1は、例えばND1.0の濃度に設定されている。透明部9f3と最高濃度部9f1との間に、最高濃度部9f1に向かって濃度が徐々に濃くなる(透過率が低くなる)グラデーション濃度部9f2を設けることで、絞り開口内で濃度段差が生じ、MTFが劣化することを防止できる。グラデーション濃度部9f2における隣接する濃度領域間の濃度差は、輝度の急激な変化を防止するため、ND0.3以下に設定されている。
【0048】
透明部9f3の表面とグラデーション濃度部9f2の最低濃度の蒸着膜表面間の厚み段差、グラデーション濃度部9f2及び最高濃度部9f1における各濃度の蒸着膜表面間の厚み段差は、撮像素子15が感度を有する最低波長の1/3以下とするとよい。これにより、厚み段差によるMTFの劣化を防止できる。
【0049】
なお、プラスチック基板は、光を透過させるための穴のような段差部を有さない単純な平板形状を有する1枚の板として形成されている。
【0050】
次に、光量調節ユニット9の制御方法について、図5及び図6を用いて説明する。図5は、光量調節ユニット9の透過光量(Tナンバー)とレンズ鏡筒部のMTF(modulation transfer function:変調伝達関数)との関係を表している。
【0051】
光量調節ユニット9を透過する光量は、2枚の絞り羽根9a1,9a2で形成される概ねひし形の形状を有する絞り開口の面積を変えることと、NDフィルタ9fの挿入状態を変えることとの組み合わせで制御される。図6は、光量調節ユニット9の透過光量を減少させていくように絞り開口とNDフィルタ9fの挿入状態を制御した様子(光軸方向視の様子)をポジションA02〜I02の順番に示している。図6中のポジションA02,B02,…,I02は、図5のグラフ上での同じ符号が付された状態に対応する。以下の説明において、2枚の絞り羽根9a1,9a2は、絞り羽根9aとまとめて示す。
【0052】
光量調節ユニット9の透過光量を減少させるには、まず絞り開口の面積を小さくする(図5中の領域a02)。次に、NDフィルタ9fを挿入していく(図5中の領域b02)。そして、NDフィルタ9fを全挿入した(絞り開口の全体を覆った)後は、再び、絞り開口の面積を小さくしていく(図5中の領域c02)。
【0053】
ポジションA02は、絞り羽根9aが開放絞り開口となる固定絞り開口9gよりも外側に退避した開放状態を示す。この開放状態では、NDフィルタ9fの透明部9f3の一部が開放絞り開口の一部に掛かっている。ただし、NDフィルタ9fが完全に開放絞り開口の外側に退避するようにしてもよい。
【0054】
次に、絞り羽根9aをF2.0に対応するポジションB02に向けて駆動する。これにより、光量は低下し、MTFの値は増加する。さらに、F2.8に対応するポジションC02及びF4.0に対応するポジションD02まで駆動する間に、光量は低下し、MTFは徐々に低下する。
【0055】
その後、絞り開口がF4.0に対応する開口面積(第1の絞り開口)に固定された状態で、NDフィルタ9fの挿入駆動が開始される。ポジションE02は、NDフィルタ9fの挿入方向先端9f4がF4.0の絞り開口に掛かる直前の状態(第1の状態)を示している。
【0056】
ポジションF02は、NDフィルタ9fの挿入完了後、透明部9f3によってF4.0の絞り開口の全体が覆われた状態(第2の状態)を示している。ポジションE02からポジションF02まではNDフィルタ9fは常に停止しない。すなわち、NDフィルタ9fの先端9f4がF4.0の絞り開口の内側に対応する位置で常に停止することはない。図5において、ポジションE02からポジションF02までを結んだ点線矢印は、ポジションE02からポジションF02までNDフィルタ9fが常に停止せずに移動するように制御されることを意味する。このポジションE02からポジションF02までのNDフィルタ9fの挿入動作は、光量調節とは関係なく行われる。したがって、光量はほとんど低下しない。また、後述するように、MTFもほとんど変化しない。
【0057】
透明部9f3の挿入方向長さは、透明部9f3によって全体が覆われるF4.0の絞り開口の同方向の長さに対応した(等しい又はそれよりも若干長い)長さである。
【0058】
必要以上に透明部9f3が長いと、NDフィルタ9fが大型化し、これを備えた光量調節ユニット9やビデオカメラの小型化を妨げるからである。
【0059】
また、逆に9f3の挿入方向長さは、前述のように挿入した場合に撮影画像に色変化や輝度変化が生じていないと見なせる程度の状態であれば、F4の絞り開口の同方向長さより短くてもよい。なお、NDフィルタ9f全体の挿入方向長さL9fは、開放絞り開口径φD9に対応する長さに設定されている。
【0060】
ポジションE02からポジションF02まで、NDフィルタ9fはなるべく高速、例えば、アクチュエータであるNDモータ9cによって駆動され得るNDフィルタ9fの最高速度で駆動されることが望ましい。ただし、ビデオカメラにおける絞り開口を通過した光により形成される光学像を電気信号に変換する撮像素子15からの画像取り込み速度(1フィールド画像を取り込むのに要する時間:例えば、60フィールド/秒)に比べて著しく遅くなければよい。すなわち、MTFの劣化が目立たない程度の速度であればよい。
【0061】
即ち、NDフィルタ9fのポジションE02とポジションF02との間での移動は、1/2秒以下の速度であることが好ましい。
【0062】
更に好ましくは、NDフィルタ9fのポジションE02とポジションF02(又はポジションF02とポジションE02との間での移動)との間での移動は、15フィールド画像を取り込むのに要する時間である1/4秒以下の速度であることが好ましい。
【0063】
このようにNDフィルタ9fの先端9f4がF4.0の絞り開口内に常に停止しないように制御した場合でも、F4.0の絞り開口の全体が透明部9f3で覆われるため、カメラシステムとしては急激な輝度変化(輝度ショック)を生じない。カメラシステムとして急激な輝度変化として認識されないのであれば、透明部9f3の透過率は100%より低くてもよい。
【0064】
さらに、カメラシステムとして急激な輝度変化として認識されないのであれば、F4.0の絞り開口全体を透明部9f3だけで覆わずに、グラデーション濃度部9f2の一部がF4.0の絞り開口内に掛かってもよい。この場合、透明部9f3とグラデーション濃度部9f2の一部が第1の領域に相当し、グラデーション濃度部9f2の他の部分と最高濃度部9f1とが第1の領域より透過率の低い第2の領域に相当する。
【0065】
但し、カメラシステムとしてMTFの劣化の抑制できる範囲内であれば、NDフィルタ9fのポジションE02とポジションF02との間での移動が、一瞬停止する形態をってもよい。
【0066】
その後、NDフィルタ9fは、最高濃度部9f1とグラデーション濃度部9f2とによってF4.0の絞り開口の全体を覆う位置まで駆動される(ポジションG02)。続いて、NDフィルタ9fは停止した状態で、再度絞り開口の面積が小さくされることで透過光量が減少する(ポジションH02,I02)。ポジションG02からポジションI02にかけて、小絞り回折の影響によってMTFが劣化する。
【0067】
ここで、NDフィルタ9fの先端9f4が絞り開口(F4.0)内で常に停止することなく移動するように制御するための具体的な方法について、図7及び図8を用いて説明する。
【0068】
NDモータ9cの内部には、図7に示すように、駆動用マグネット9c1が配置され、そのマグネット9c1は、ND駆動アーム9dと結合されている。ND保持板9eに取り付けられたNDフィルタ9fは、マグネット9c1が回転することによって移動する。
【0069】
マグネット9c1の回転角を検出するために、該マグネット9c1のN極とS極の着磁境界の近傍に磁気センサ9c2が配置されている。磁気センサ9c2としては、ホール素子等を用いることができる。
【0070】
マグネット9c1の回転角と磁気センサ9c2の出力値はほぼリニアな関係となるため、図8に示すように、NDフィルタ9fの位置と磁気センサ9c2出力もリニアな関係となる。
【0071】
絞り羽根9aが形成するF4.0の絞り開口に対して、NDフィルタ9fの先端9f4が掛かる直前であるポジションE02での磁気センサ9c2の出力をM%とする。また、F4.0の絞り開口をNDフィルタ9fの全体が透明部9f3(又は透明部9f3とグラデーション濃度部9f2の一部)によって覆われるポジションF02での磁気センサ9c2の出力をN(>M)%とする。この場合、F4.0の絞り開口内でNDフィルタ9fの先端9f4が常に停止することなくNDフィルタ9fを移動させる制御とは、磁気センサ9c2の出力Aが、M%<A<N%となる領域は不使用領域とする制御である。実際にはNDフィルタ9fの取り付け誤差等によって磁気センサ9c2の出力とNDフィルタ9fの位置との関係が変動するため、マージンαを考慮して、(M−α)%<A<(N+α)%の領域を不使用領域とすることがより好ましい。
【0072】
図9には、従来の光量調節ユニットの透過光量とレンズ鏡筒部のMTFとの関係を表している。また、図10には、従来の光量調節ユニットの透過光量を減少させていくように絞り開口とNDフィルタの挿入状態を制御した様子をポジションA02〜L02の順番に示している。図10中の動作ポジションA02,B02,…,L02は、図9のグラフ上での同じ符号が付された状態に対応する。図10に示すNDフィルタには、透明部は設けられておらず、先端からグラデーション濃度部及び最高濃度部が設けられている。
【0073】
開放状態のポジションA01からF2.0のポジションB01に向けて絞り開口を小さくしていくることで、MTFの値は増加する。さらに、F2.8のポジションC01及びF4.0のポジションD01まで絞り開口を小さくしていくと、MTFは徐々に下がっていく(図9中の領域a01)。
【0074】
F4.0の絞り開口に対してNDフィルタの先端が掛かる直前のポジションE01から該絞り開口に対してNDフィルタが挿入されていくことで、光量が減少する(図9中の領域b01)。NDフィルタの先端がF4.0の絞り開口内に掛かっているポジションF01〜H01では、NDフィルタの先端と絞り開口の縁部とに囲まれた小さな素通し開口での回折やNDフィルタの基板の厚みに相当する光路長差によって、MTFの劣化が生じる。
【0075】
具体的には、ポジションE01からMTFの劣化が始まり、NDフィルタの先端が絞り開口の中心(撮影光学系の光軸中心)を通過するポジションG01においてMTFの劣化が最大となる。そして、NDフィルタがF4.0の絞り開口全体を覆うポジションI01までMTFが劣化した状態が継続する。次に、ポジションJ01でF4.0の絞り開口全体が最高濃度部で覆われた状態となった後、ポジションK01,L01(図9中の領域b01)で再び絞り開口を小さくしていく。この間、小絞り回折の影響によってMTFが劣化する。
【0076】
許容されるMTFの劣化は、撮像素子の画素ピッチによって変わるが、仮に本ビデオカメラにおいて許容されるMTFの値が40%であるとする。この場合、従来の光量調節ユニットの構成及び制御方法では、ポジションF01〜ポジションH01及びポジションK01以降において、映像の劣化が認識されてしまう。
【0077】
これに対し、本実施例の光量調節ユニットの構成及び制御方法では、ポジションH02まで映像の劣化が認識されない。
【0078】
また、従来のNDフィルタには、透明部が設けられていないため、仮にNDフィルタの先端を絞り開口内に常に停止させないようにポジションE01〜I01まで高速に駆動した場合でも、グラデーション濃度部での光量の減衰が生じて急激な輝度変化が目立つ。
【0079】
つまり、本実施例では、NDフィルタ9fの先端側に透明部9f3を設け、開放絞り開口より小さい絞られている状態の絞り開口内でNDフィルタの先端が常に停止しないようにNDフィルタ9f(NDモータ9c)を移動させる制御を行う。これにより、急激な輝度変化を生じさせることなくMTFの劣化を抑えることができる。
【0080】
なお、本実施例では、絞り開口をF4.0に対応する大きさとした後にNDフィルタ9fを挿入駆動する場合について説明したが、絞り開口を他の絞り値(例えば、F5.6)に対応する大きさとした後にNDフィルタを挿入駆動するようにしてもよい。回折による画質劣化が許容される範囲でできるだけ又は最も絞り開口の小さいF値でNDフィルタを挿入することで、NDフィルタの面積を小さくすることができ、光量調節ユニット及びこれを搭載するビデオカメラの小型化に有効である。具体的には、前述したように撮像素子の画素ピッチによっても変わるが、一般的には、MTFの値がビデオカメラの最高解像周波数の30%を下限としてそれ以上のMTF値に対応するF値になったときにNDフィルタを挿入することが好ましい。次に、図11を用いて、本実施例における光量調節ユニットの制御シーケンスについて説明する。図11のフローチャートは、CPU37がコンピュータプログラムにしたがって実行する被写体の明るさ変化に応じた光量フィードバック制御のシーケンスを示す。図11において、「Y」はYes、「N」はNoを表す。また、「S」はステップを示す。
【0081】
まず、ステップ902において、CPU37は、図3に示したAEゲート40からのY信号出力の平均値(測光値)に基づいて、現在の被写体の明るさに対して最適な露出状態か否かを判断する。
【0082】
次に、ステップ903では、CPU37は、NDフィルタ9fが退避位置(図6に示すポジションA02〜D02での位置)にあるか否かを判断する。NDフィルタ9fが退避位置にある場合は、絞り羽根9aの駆動のみで露出を制御するため、ステップ904において露出オーバーかアンダーかを判断する。露出オーバーの場合は、ステップ905で絞り羽根9aをクローズ方向へ移動させるよう絞りモータ9bを制御した後、再度ステップ902で最適露出か否かを判断する。ステップ904において露出アンダーの場合は、ステップ906で絞り羽根9aをオープン方向に移動させるよう絞りモータ9bを制御した後、ステップ902で最適露出か否かを判断する。
【0083】
ステップ903において、NDフィルタ9fが退避位置にない場合は、ステップ907において、NDフィルタ9fが全覆い位置(図6に示すポジションG02〜I02での位置)にあるか否かを判断する。全覆い位置にある場合も、絞りの開閉動作によって露出制御を行うため、ステップ908で露出オーバーかアンダーかを判断する。露出オーバーの場合はステップ909において絞り羽根9aをクローズ方向に、露出アンダーの場合はステップ910において絞り羽根9aをオープン方向に移動させるよう絞りモータ9bを制御する。その後、再びステップ902において、最適露出か否かを判断する。
【0084】
ステップ907において、NDフィルタ9fが全覆い位置にない場合は、ステップ911において露出オーバーかアンダーかを判断する。露出オーバーの場合は、ステップ912において、NDフィルタ9fを覆い方向(挿入方向)に移動させるようNDモータ9cを制御する。このとき、F4.0の絞り開口内でNDフィルタ9fの先端9f4を常に停止させない制御を行うため、ステップ913でNDフィルタ9aの先端9f4がF4.0の絞り開口に掛かる直前の状態(挿入方向での半掛かり直前状態)か否かを判断する。この状態は、図6に示すポジションE02に相当する。挿入方向の半掛かり直前状態であれば、ステップ914において、高速で図6に示すポジションF02までNDフィルタ9fを常に停止させずに移動させるようNDモータ9cを制御する。
【0085】
一方、ステップ911において露出アンダーである場合には、ステップ915においてNDフィルタ9fを退避方向に移動させるようNDモータ9cを制御する。このとき、F4.0の絞り開口内でNDフィルタ9fの先端9f4を常に停止させないように制御を行うため、ステップ916でNDフィルタ9aの先端9f4がF4.0の絞り開口に掛かる直前の状態(退避方向での半掛かり直前状態)か否かを判断する。この状態は、図6に示すポジションF02に相当する。退避方向での半掛かり直前状態であれば、ステップ917において、高速で図6に示すポジションE02までNDフィルタ9fを常に停止させずに移動させるようNDモータ9cを制御する。
【実施例2】
【0086】
実施例1に示したビデオカメラにおいて、被写体の明るさが変化した場合の光量調節ユニットの制御方法について、実施例2として説明する。
【0087】
前述したように、光量調節ユニット9を用いて被写体の明るさに対応した露出制御を行う場合、光量調節ユニット9を透過する光量を、絞り開口の面積を変えることと、NDフィルタ9fの挿入状態を変えることとの組み合わせで制御する。このとき、例えば図5及び図6において、被写体がF4.0の絞り開口を設定したときに適正露出となる明るさである場合に以下のような問題が生じるおそれがある。すなわち、被写体の明るさがF4.0に対応する明るさから僅かに暗くなったり僅かに明るくなったりすることを繰り返すと、NDフィルタ9fの高速での挿入と退避とが繰り返され、いわゆるハンチング現象が発生する。
【0088】
そこで、本実施例では、NDフィルタ9fを挿入するときの被写体の明るさ(測光値)と、退避させるときの被写体の明るさ(測光値)とを異ならせる。これにより、上述したようなハンチング現象の発生を回避することができる。
【0089】
ただし、単純に絞り開口の大きさをF4.0に固定した状態で、NDフィルタ9fの挿入時における被写体の明るさと、退避時における被写体の明るさとを異ならせただけでは、被写体の明るさに対する最適な露出が得られない。
【0090】
そこで、本実施例では、NDフィルタ9fを挿入するときの絞り開口の大きさと、退避させるときの絞り開口の大きさとを異ならせることによって、被写体の明るさに対する最適露出を得るようにしている。以下、その制御方法について、図12及び図13を用いて説明する。
【0091】
図12及び図13には、被写体の明るさが変化した場合の絞り開口の大きさの変化と、NDフィルタ9fの挿入、退避状態との関係を示す。図12における実線矢印は、被写体が暗い側から明るい側へ変化したときの絞り羽根9aとNDフィルタ9fの制御方法を示している。また、破線の矢印は、被写体が明るい側から暗い側へ変化した場合の絞り羽根9aとNDフィルタ9fの制御方法を示している。
【0092】
被写体が暗い側から明るい側に変化した場合、F5.6までは最初に絞り開口を小さくすることで適正露出の制御を行う(図13中のポジションA03〜E03)。その後は、F5.6に対応する絞り開口内でNDフィルタ9fの先端9f4が常に停止しないように、すなわち半掛かり状態とならないように、高速でNDフィルタ9fを挿入する(ポジションF03)。さらに、その後は、NDフィルタ9fを濃度が濃くなる方向に移動させて最適露出制御を行う。
【0093】
F5.6の絞り開口の全体が最高濃度部9f1とグラデーション濃度部9f2とによって覆われる全覆い位置にNDフィルタ9fが移動した後(ポジションG03)は、再び絞り開口を小さくして露出制御を行う(ポジションH03)。
【0094】
逆に、被写体が明るい側から暗い側に変化した場合は、ポジションH03の状態から、NDフィルタ9fの透明部9f3がF5.6の絞り開口を覆うポジションJ03までは、先に説明したポジションF03からポジションH03までとは逆の動作を行う。その後、さらに被写体が暗くなった場合には、NDフィルタ9fを退避方向に移動させずに、まず絞り開口を大きくすることで最適露出を確保する。そして、F4.0まで絞り開口を大きくしても(ポジションK03)、まだ最適露出が得られない場合には、NDフィルタ9fを退避させる(ポジションL03)。このときも、F4.0の絞り開口内でNDフィルタ9fの先端9f4が常に停止しないように、高速でNDフィルタ9fを退避させる。
【0095】
このように本実施例では、NDフィルタ9fの挿入時における被写体の明るさ(第1の測光値)と退避時における被写体の明るさ(第2の測光値)とを異ならせる。しかも、NDフィルタ9fの透明部9f3により絞り開口の全体が覆われた状態(透明部挿入状態)で被写体の明るさが第1の測光値と第2の測光値との間で変化した場合は、絞り開口の大きさを変更する。これにより、NDフィルタ9fの挿入と退避とが繰り返されるハンチング現象を回避することができる。
【0096】
なお、本実施例では、NDフィルタ9fを挿入するときの絞り開口をF5.6とし、退避させるときの絞り開口をF4.0とした場合について説明したが、これらを異ならせればそのF値は任意に選択することができる。
【実施例3】
【0097】
実施例2で説明したNDフィルタ9fのハンチング現象を回避するために、実施例2以外の方法を採用することもできる。
【0098】
具体的には、透明部挿入状態で被写体の明るさが第1の測光値と第2の測光値との間で変化した場合に、撮像素子15の電子シャッタ制御におけるシャッタスピードを変更することで、ハンチング現象を回避しつつ適正露出を得てもよい。
【0099】
例えば、NDフィルタ9fを挿入するときの被写体の明るさ(第1の測光値)と絞り開口(F5.6)に応じた電子シャッタスピードを1/250秒と設定する。また、NDフィルタ9fを退避させるときの被写体の明るさ(第2の測光値)と絞り開口(F4.0)に応じた電子シャッタスピードを1/125秒とする。そして、透明部挿入状態において測光値が第1の測光値と第2の測光値との間で変化した場合は、NDフィルタ9fを退避させずに電子シャッタスピードを1/250秒と1/125秒との間で変更する。これにより、ハンチング現象を回避しつつ適正露出を得ることができる。
【0100】
また、実施例2による絞り開口の変更によるハンチング現象の回避方法と本実施例による電子シャッタスピードの変更による方法とを組み合わせて用いてもよい。
【実施例4】
【0101】
以下、本発明の実施例4としての光量調節ユニット9(光量調節装置)の制御方法について、図14を用いて説明する。図14は、本実施例における光量調節ユニット9(光量調節装置)の透過光量(Tナンバー)とレンズ鏡筒部のMTFとの関係を表している。本実施例では、NDフィルタ9fを挿入及び退避させる絞り開口を、F5.6に対応する絞り開口としている。図14は、本実施例において、光量調節ユニット9の透過光量を減少させていくように絞り開口とNDフィルタ9fの挿入状態を制御した様子をポジションA〜Iの順番に示している。ポジションAは開放状態であり、ポジションAからF5.6に対応するポジションEまでは絞り開口の面積を小さくすることで光量を低下させる。この間のMTFは、ポジションAから一旦増加した後、減少する。この間で最もMTFが低下するポジションEでのMTF値は40%であり、画質劣化は認識されず、通常使用では問題はない。
【0102】
ここで、ポジションEでは、絞り羽根9aの駆動を止め、次にNDフィルタ9fの透明部9f3を光量制御とは関係なく短時間で挿入する。これにより、実施例1でも説明したように、従来NDフィルタの厚み段差(光路長差)に起因するMTFの劣化が問題となっていたポジション間において、MTFの劣化を回避できる。また、該ポジション間でフラットなMTF値を確保することができる。
【0103】
ポジションFでは、ポジションEからNDフィルタ9fの挿入が進み、グラデーション濃度部9f2がF5.6の絞り開口の中間位置まで挿入されている。この状態では、透明部9f3が該中間位置よりも先の領域をすべて覆っている。このため、NDフィルタ9fの厚み段差によるMTFの劣化を回避できる。
【0104】
さらにNDフィルタ9fの挿入が進んだポジションGからHでも、グラデーション濃度部9f2や最高濃度部9f1での濃度段差によるMTFの劣化が生じないので、画質劣化のない状態でNDフィルタ9fによる光量制御を行うことができる。
【0105】
このように、開放状態であるポジションAから最高濃度部9f1によってF5.6の絞り開口の全体が覆われるポジションHまで、問題となるMTFの劣化(40%若しくは30%を下回るような劣化)を生じさせることなく光量制御を行うことができる。
【実施例5】
【0106】
図15には、本発明の実施例5である光量調整ユニットの概略構成を示す。なお、本実施例における光量調節ユニットのうち絞り機構の構成は実施例1と同じであるが、NDフィルタの形状が実施例1とは異なる。
【0107】
また、図16には、本実施例の光量調節ユニットの各動作ポジションでの状態を示す。動作ポジションA02〜I02での状態は基本的には実施例1と同様である。但し、実施例1とのNDフィルタの形状の違いによって、ポジションA02及びB02においてNDフィルタの先端領域により覆われる絞り開口の部分が実施例1と異なる。光量調節ユニットの制御方法については、実施例1と同じである。
【0108】
図15及び図16において、9f′は透明部付きグラデーションNDフィルタである。NDフィルタ9f′は、実施例1と同様に、光路への挿入方向での先端側から順に、透明部9f3、グラデーション濃度部9f2及び最高濃度部9f1を有する。本実施例でも、透明部9f3が請求項にいう第1の領域に、グラデーション濃度部9f2及び最高濃度部9f1が第1の領域より透過率の低い第2の領域に相当する。
【0109】
図15において、Dは開放絞り開口(固定絞り開口)である。S1は開放絞り時に2枚の絞り羽根によって形成される開口形状を示す。
【0110】
この絞り羽根によって形成される開口は、絞り開口の中心(光軸)に対して上下左右に対称な形状を有し、S11,S12で示す直線部分とS13で示す円弧部分とで構成されている。直線部分S11,S12は、2枚の絞り羽根を絞り込んだときに、図16に示すように多角形状(菱形形状)の開口を形成するために設けられており、絞り開口の中心を通る垂直面Vに対して互いに等しい角度傾斜している。また、直線部分S11,S12は、絞り開口の中心を通る水平面Hに対しても互いに等しい角度傾斜している。
【0111】
一方、NDフィルタ9f′の透明部9f3のうち光路への挿入方向(第1の方向)での先端は、実施例1〜4とは異なり、該NDフィルタ9f′の光入射出面に平行で挿入方向に直交する方向(第2の方向)に延びる直線形状とは異なる形状に形成されている。具体的には、第2の方向における中心側部分が、両端側部分よりも該挿入方向に突出した、いわゆる山形状を有する。また、第2の方向は、図1及び図3に示した撮像素子15の走査線の方向に平行な方向ということもできる。
【0112】
N11,N12は、該先端を形成する直線部分であり、絞り開口の中心を通る垂直面V対して互いに等しい角度傾斜している。また、絞り開口の中心を通る水平面Hに対しても互いに等しい角度傾斜している。直線部分N11,N12が上記垂直面上で交わる頂点部分は、該先端のうち最も挿入方向に突出している。図15に示すように、NDフィルタ9f′の先端のうち該頂点部分を含む中心側部分は開放絞り開口Dに対向する領域(光路)内に位置し、両端側部分が開放絞り開口Dに対して退避する。なお、該頂点部分を小さな曲率半径の曲線で構成し、両直線部分N1,N2の交点に角ができないようにしてもよい。
【0113】
また、直線部分N11,N12は、絞り羽根の直線部分S11,S12とで菱形形状を形成する。つまり、直線部分S11,S12がなす角度と直線部分N11,N12がなす角度とが同一に設定されている。言い換えれば、NDフィルタ9f′の先端の直線部分N11,N12が第2の方向(水平面H)に対してなす角度は、絞り羽根の直線部分S11,S12が第2の方向に対してなす角度と同一である。このことは、図16のポジションF02に示すように、水平面Hに対して傾斜した開口縁を有する菱形の絞り開口が形成される場合に、NDフィルタ9f′の先端は、この開口縁の傾斜角度と同一の傾斜角度を有する形状に形成されていることに相当する。
【0114】
ここにいう「同一」とは、差が0°から10°の範囲をいう。本実施例では、直線部分S11,S12がなす角度と直線部分N11,N12がなす角度とを共に120°に設定している。
【0115】
ここで、撮影画面内に高輝度の点光源状の被写体が存在する場合、絞り羽根における直線部分S11,S12の傾斜角度方向での回折による光芒と、NDフィルタ9f′の直線部分N11,N12の傾斜角度方向での光芒とが発生する。しかし、本実施例においては、両光芒の発生方向が同一で、かつ水平方向以外の方向となる。
【0116】
したがって、実施例1から4に示したようなNDフィルタ9fの先端が水平直線形状を有する場合に発生し易い上下方向への光芒を防ぐことができる。本実施例でも、光芒は発生するが、その方向は絞り羽根の直線部分の傾斜方向に沿った方向であり、撮影画像中での光芒の発生状態として自然に見える。
【0117】
すなわち、本実施例によれば、CMOSセンサ等のスミアレスの撮像素子を使用しているにもかかわらず、上下方向に光芒が発生して、スミア画像のような不自然な画像が撮影されてしまうことを回避することができる。
【0118】
なお、本実施例では、NDフィルタの先端形状を2本の直線を組み合わせて山形状に形成した場合ついて説明したが、該先端形状を円弧形状としたり、直線と円弧との組み合わせた形状としたりしてもよい。
【0119】
以上、本発明の好ましい実施例について説明したが、本発明はこれらの実施例に限定されないことはいうまでもなく、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。
【0120】
例えば、上記各実施例ではレンズ一体型ビデオカメラについて説明したが、本発明は、レンズ一体型デジタルスチルカメラや交換レンズ等の他の光学機器にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0121】
【図1】本発明の実施例1であるビデオカメラのレンズ鏡筒部の構成を示す分解斜視図。
【図2】実施例1のレンズ鏡筒部の構成を示す断面図。
【図3】実施例1のビデオカメラの電気的構成を示すブロック図。
【図4】実施例1の光量調節ユニットの分解斜視図。
【図5】実施例1の光量調節ユニットによる光量調節とMTFとの関係を示すグラフ。
【図6】実施例1の光量調節ユニットの各動作ポジションでの状態を示す正面図。
【図7】実施例1の光量調節ユニットにおけるNDフィルタの位置検出方法を示す正面図。
【図8】実施例1のNDフィルタの位置と磁気センサ出力との関係を示すグラフ。
【図9】従来の光量調節ユニットによる光量調節とMTFとの関係を示すグラフ。
【図10】従来の光量調節ユニットの各動作ポジションでの状態を示す正面図。
【図11】実施例1のビデオカメラにおける光量調節ユニットの制御シーケンスを示すフローチャート。
【図12】本発明の実施例2であるビデオカメラにおける光量調節ユニットの制御方法を示す動作チャート。
【図13】図12の各動作ポジションでの光量調節ユニットの状態を示す正面図。
【図14】本発明の実施例4の光量調節ユニットによる光量調節とMTFとの関係を示すグラフ。
【図15】本発明の実施例5の光量調節ユニットの概略構成を示す正面図。
【図16】実施例5の光量調節ユニットの各動作ポジションでの状態を示す正面図。
【符号の説明】
【0122】
1a 前玉鏡筒
1b 固定鏡筒
2 第2移動枠
3 シフトユニット
4 第4移動枠
5 後部鏡筒
6,7 ガイドバー
9 光量調節ユニット
9b 絞りモータ
9a,9a1,9a1 絞り羽根
9c NDモータ
9e ND保持板
9f,9f′ NDフィルタ
9f1 最高濃度部
9f2 グラデーション濃度部
9f3 透明部
10 ズームモータ
11 ズームリセットスイッチ
12 MRセンサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口の大きさが変更可能な絞りと、
該絞りの開口に対して移動可能なNDフィルタと、
該NDフィルタを駆動するアクチュエータと、
該アクチュエータを制御する制御手段とを有し、
前記NDフィルタは、前記絞りを絞った状態での前記開口の全体を覆うことが可能な大きさを有する領域を備え、、
前記制御手段は、前記領域が前記絞った状態での前記開口に対して退避する第1の位置と前記領域が前記絞った状態での前記開口の全体を覆う第2の位置との間で、前記NDフィルタが常に停止することなく移動するよう前記アクチュエータを制御することを特徴とする光学機器。
【請求項2】
前記領域は、透過率が75%以上の領域であることを特徴とする請求項1に記載の光学機器。
【請求項3】
前記領域は、透過率が75%以上の領域と、該透過率75%の領域と前記NDフィルタの移動方向に隣り合っており、透過率が75%よりも小さい領域とを含むことを特徴とする請求項1に記載の光学機器。
【請求項4】
前記制御手段は、第1の測光値に応じて前記NDフィルタを前記第1の位置から前記第2の位置に移動させ、前記第1の測光値とは異なる第2の測光値に応じて前記NDフィルタを前記第2の位置から前記第1の位置に移動させるよう前記アクチュエータを制御することを特徴とする請求項1から3のいずれか1つに記載の光学機器。
【請求項5】
前記制御手段は、前記NDフィルタが前記第2の位置にある状態で測光値が前記第1の測光値と前記第2の測光値との間で変化したときに、前記開口の大きさを変化させるよう前記絞りを制御することを特徴とする請求項4に記載の光学機器。
【請求項6】
前記制御手段は、前記NDフィルタの前記第2の位置にある状態で測光値が前記第1の測光値と前記第2の測光値との間で変化したときに、撮影に用いる撮像素子の電子シャッタ速度を変更する制御を行うことを特徴とする請求項1から4のいずれか1つに記載の光学機器。
【請求項7】
開口の大きさを変更可能な絞りと、
該絞りの開口に対して移動可能なNDフィルタと、
該NDフィルタを駆動するアクチュエータと、
該アクチュエータを制御する制御手段とを有し、
前記NDフィルタは、透過率が75%以上の第1の領域と該第1の領域よりも透過率が低い第2の領域とを有し、該第1の領域は前記絞りを絞った状態での前記開口の全体を覆うことが可能な大きさを有し、
前記制御手段は、前記開口が前記第1の開口である状態で、前記第1の領域が前記第1の開口に対して退避する第1の位置と、前記第1の領域が前記第1の開口の全体を覆う第2の位置との間で前記NDフィルタを停止することなく移動させるよう前記アクチュエータを制御することを特徴とする光学機器。
【請求項8】
前記第1の開口は、該光学機器の最高解像周波数において、MTF値が30%となる開口よりも面積が大きい開口であることを特徴とする請求項1から7のいずれか1つに記載の光学機器。
【請求項9】
前記NDフィルタの前記第1の位置と前記第2の位置との間での移動は、1/2秒以下の速度で行われることを特徴とする請求項1から8のいずれか1つに記載の光学機器。
【請求項10】
開口の大きさを変更可能な絞りと、
該絞りの開口に対して移動可能なNDフィルタとを有し、
前記開口の全体を覆うための前記NDフィルタの移動方向を第1の方向とし、前記NDフィルタの光入射出面に平行で前記第1の方向に直交する方向を第2の方向とするとき、
前記NDフィルタの前記第1の方向での先端は、前記第2の方向に延びる直線形状とは異なる形状に形成されていることを特徴とする光量調節装置。
【請求項11】
開口の大きさを変更可能な絞りと、
該絞りの開口に対して移動可能なNDフィルタとを有し、
前記絞りの開口の全体を覆うための前記NDフィルタの移動方向を第1の方向とし、前記絞りの開口を通過した光により形成される光学像を電気信号に変換する撮像素子の走査線方向に平行な方向を第2の方向とするとき、
前記NDフィルタの前記第1の方向での先端は、前記第2の方向に延びる直線形状とは異なる形状に形成されていることを特徴とする光量調節装置。
【請求項12】
前記NDフィルタの前記第1の方向での先端は、前記第2の方向での両端側の部分よりも中心側の部分が前記第1の方向に突出した形状を有することを特徴とする請求項10又は11に記載の光量調節装置。
【請求項13】
前記絞り機構により、前記第2の方向に対して傾斜した開口縁を有する多角形状の開口が形成され、
前記NDフィルタの前記第1の方向での先端は、前記開口縁の傾斜角度と同一の傾斜角度を有する形状に形成されていることを特徴とする請求項10から12のいずれか1つに記載の光量調節装置。
【請求項14】
前記開口が開放状態において、前記NDフィルタの前記第1の方向での先端のうち一部分が該開口に対向する領域に位置し、他の部分が前記開口に対して退避することを特徴とする請求項10から13のいずれか1つに記載の光量調節装置。
【請求項15】
請求項10から14のいずれか1つに記載の光量調節装置を有することを特徴とする光学機器。
【請求項16】
前記NDフィルタを駆動するアクチュエータを制御する制御手段を有し、
前記NDフィルタは、前記絞りを絞った状態での前記開口の全体を覆うことが可能な大きさを有する第1の領域を備え、
前記制御手段は、前記第1の領域が前記絞った状態での前記開口に対して退避する第1の位置と前記第1の領域が前記絞った状態での前記開口の全体を覆う第2の位置との間で前記NDフィルタが常に停止することなく移動するよう前記アクチュエータを制御することを特徴とする請求項15に記載の光学機器。
【請求項17】
前記NDフィルタを駆動するアクチュエータを制御する制御手段を有し、
前記NDフィルタは、無色透明で前記先端を含む第1の領域と該第1の領域よりも透過率が低い第2の領域とを有し、該第1の領域は開放絞り開口より小さい第1の開口の全体を覆うことが可能な大きさを有し、
前記制御手段は、前記開口が前記第1の開口である状態で、前記第1の領域が前記第1の開口に対して退避する第1の位置と、前記第1の領域が前記第1の開口の全体を覆う第2の位置との間で前記NDフィルタを常に停止することなく移動させるよう前記アクチュエータを制御することを特徴とする請求項15に記載の光学機器。
【請求項18】
前記第1の領域は、無色透明な領域であることを特徴とする請求項1から9のいずれか1つに記載の光学機器。
【請求項19】
前記絞り機構を駆動する第1のアクチュエータと、
前記NDフィルタを駆動する第2のアクチュエータとを有することを特徴とする請求項1から9及び15から18のいずれか1つに記載の光学機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2008−3408(P2008−3408A)
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−174415(P2006−174415)
【出願日】平成18年6月23日(2006.6.23)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】