説明

光学機器用遮光部材

【課題】艶消し性を有しつつ、遮光性、摺動性等の遮光膜の物性を保持した光学機器用遮光部材を提供する。
【解決手段】本発明の光学機器用遮光部材1は、合成樹脂フィルムからなる基材2と、当該基材2の少なくとも片面に形成された遮光膜3とから構成されてなる。当該遮光膜3は、バインダー樹脂及びカーボンブラック31、粒子状の滑剤32、及び微粒子33を含有し、滑剤32の平均粒径が微粒子33の平均粒径よりも大きいものとする。遮光膜3中のカーボンブラックと滑剤の含有率がともに5〜20重量%である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高性能一眼レフカメラ、コンパクトカメラ、ビデオカメラ、携帯電話、プロジェクタ等の光学機器のシャッター、絞り部材として好適に用いられる遮光部材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高性能一眼レフカメラ、コンパクトカメラ、ビデオカメラ等に対する小型化、軽量化の要求により、金属材料により形成されていた光学機器のシャッター、絞り部材がプラスチック材料へと代わりつつある。
【0003】
このようなプラスチック材料の絞りとしては、基材フィルムにカーボンブラック、滑剤、微粒子を含有する遮光膜を設けた遮光性フィルムが知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−274218号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述のような遮光性フィルムでは、遮光膜中に艶消し性を付与させるため多量の微粒子を含有させなければならず、遮光膜中のカーボンブラック及び滑剤の含有率が低下し、結果として、遮光性、摺動性等が十分に発揮されないという問題を生じていた。
【0006】
上述の問題を解決するために、艶消し性を有しつつ、遮光性、摺動性等の遮光膜の物性を保持した遮光部材が切望されていた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上述の課題を解決すべく鋭意研究した結果、微粒子の平均粒径よりも大きい平均粒径を持つ滑剤を用いることで、微粒子の配合量が少量にも関わらず艶消し性を付与させることができることを見出した。
【0008】
即ち、理由は定かではないが、微粒子の平均粒径よりも大きな平均粒径を持つ滑剤を用いることにより、微粒子の配合量が少量で艶消し性が得られる結果、遮光膜中のカーボンブラック、滑剤の含有率を増加させることができ、遮光性、摺動性等の遮光膜の物性を保持し得ることを見出し、本発明に至ったものである。なお、微粒子の配合量が少量でも充分な艶消し効果が得られるのは、滑剤により形成された表面の凹凸上に微粒子により微細な凹凸が形成され、その結果、入射光の反射をより少なくできることによる。
【0009】
本発明の光学機器用遮光部材は、合成樹脂フィルムからなる基材と、前記基材の少なくとも片面に形成された遮光膜とからなり、前記遮光膜は、バインダー樹脂、カーボンブラック、粒子状の滑剤、及び微粒子を含有し、前記遮光膜中のカーボンブラックと滑剤の含有率がともに5〜20重量%であり、前記滑剤の平均粒径が、前記微粒子の平均粒径よりも大きいことを特徴とするものである。
【0010】
上記発明において、滑剤の平均粒径と前記微粒子の平均粒径の差が0.5μm以上であることが好ましい。滑剤の平均粒径が3〜20μmの範囲であり、微粒子の平均粒径が1〜10μmの範囲であることが好ましい。遮光膜中における微粒子の含有率が、遮光膜中3重量%以下であることが好ましい。
【0011】
上記発明において、遮光膜中における微粒子の含有率は1〜10重量%の範囲であることが好ましい。より好ましくは、遮光膜中におけるカーボンブラック、滑剤および微粒子の含有率が、それぞれ10〜20重量%、10〜20重量%、1〜5重量%の範囲である。微粒子はシリカであり、好ましくは吸油量250(g/100g)以上のシリカを含む。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、遮光膜中に含有させる滑剤としてその平均粒径が微粒子の平均粒径より大きいものを採用することにより、滑剤の機能が発揮できる状態で遮光膜表面形状の凹凸を複雑にすることができ、微粒子の含有量が少量であっても、より優れた艶消し性が実現できる。その結果、遮光膜中のカーボンブラック、滑剤の含有率を増加させることができるため(ともに5重量%以上)、艶消し性を有しつつ、遮光性、摺動性等の遮光膜の物性を保持した光学機器用遮光部材が得られる。従って、このような光学機器用遮光部材は、高性能一眼レフカメラ、コンパクトカメラ、ビデオカメラ、携帯電話、プロジェクタ等に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の光学機器用遮光部材の一実施の形態を示す図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の光学機器用遮光部材の実施の形態ついて説明する。
本発明の光学機器用遮光部材1は、図1に示すように合成樹脂フィルムからなる基材2と、少なくとも片面に形成された遮光膜3とからなり、遮光膜3は、バインダー樹脂及びカーボンブラック31、粒子状の滑剤32、及び微粒子33を含有し、遮光膜3中のカーボンブラックと滑剤の含有率がともに5〜20重量%であり、滑剤32の平均粒径が微粒子33の平均粒径よりも大きいものである。
【0015】
本発明の光学機器用遮光部材として用いられる基材には、ポリエステルフィルム、ポリイミドフィルム、ポリスチレンフィルム、ポリカーボネートフィルム等の合成樹脂フィルムが挙げられるが、その中でもポリエステルフィルムが好適に用いられ、延伸加工、特に二軸延伸加工されたポリエステルフィルムが機械的強度、寸法安定性に優れる点で特に好ましい。また、基材は透明なものはもちろん、発泡ポリエステルフィルムや、カーボンブラック等の黒色顔料や他の顔料を含有させた合成樹脂フィルムを使用することもできる。この場合、上述の基材は、それぞれの用途により適切なものを選択することができる。例えば、遮光部材として使用する際に、部材断面の合成樹脂フィルム部分においてレンズ等で集光された光が反射し悪影響を及ぼすため、高い遮光性が必要な場合には、カーボンブラック等の黒色顔料含有の合成樹脂フィルムを使用することができ、他の場合においては、透明若しくは発泡した合成樹脂フィルムを使用することができる。
【0016】
本発明においては、遮光膜自体で遮光部材としての充分な遮光性が得られることから、合成樹脂フィルムに黒色顔料を含有させる場合には、合成樹脂フィルムが目視で黒色に見える程度、即ち光学濃度が3程度となるように含有すれば良い。したがって、従来のように合成樹脂フィルム中に基材としての物性が損なわれる限界まで黒色顔料を含有させるものではないため、合成樹脂フィルムの物性を変化させることなく、安価に得ることができる。
【0017】
基材の厚みは、用いる用途により異なるが、軽量性・遮光部材としての強度・剛性等の観点から、一般的に25μm〜250μmとすることが好ましい。
【0018】
また、基材には、遮光膜との接着性を向上させる観点から、必要に応じアンカー処理またはコロナ処理を行うこともできる。
【0019】
次に、本発明の光学機器用遮光部材として用いられる基材の少なくとも片面に形成される遮光膜は、バインダー樹脂、カーボンブラック、粒子状の滑剤、微粒子を含有し、遮光膜中のカーボンブラックと滑剤の含有率がともに5〜20重量%であり、滑剤の平均粒径が微粒子の平均粒径よりも大きいものである。
【0020】
遮光膜に含有されるバインダー樹脂としては、ポリ(メタ)アクリル酸系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリビニルブチラール樹脂、セルロース系樹脂、ポリスチレン/ポリブタジエン樹脂、ポリウレタン樹脂、アルキド樹脂、アクリル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシエステル樹脂、エポキシ樹脂、エポキシアクリレート系樹脂、ウレタンアクリレート系樹脂、ポリエステルアクリレート系樹脂、ポリエーテルアクリレート系樹脂、フェノール系樹脂、メラミン系樹脂、尿素系樹脂、ジアリルフタレート系樹脂等の熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂が挙げられ、これらの1種又は2種以上を混合して用いることもできる。
【0021】
バインダー樹脂の含有率は、遮光膜中50重量%〜80重量%が好ましく、55重量%〜75重量%とすることがより好ましい。遮光膜中50重量%以上とすることにより、基材と遮光膜との接着性が低下するのを防止することができ、80重量%以下とすることにより、遮光性、摺動性、艶消し性等の遮光膜の物性が低下するのを防止することができる。
【0022】
次に、遮光膜に含有されるカーボンブラックは、バインダー樹脂を黒色に着色させ遮光性を付与させると共に、導電性を付与させて静電気による帯電を防止させるためのものである。
【0023】
カーボンブラックの平均粒径は、充分な遮光性を得るため1μm以下が好ましく、0.5μm以下とすることがより好ましい。
【0024】
カーボンブラックの含有率は、遮光膜中5重量%〜20重量%であり、好ましくは10重量%〜20重量%とする。遮光膜中5重量%以上とすることにより、遮光性及び導電性が低下するのを防止することができ、20重量%以下とすることにより、接着性や耐擦傷性が向上し、また塗膜強度の低下およびコスト高となるのを防止することができる。
【0025】
次に、遮光膜に含有される粒子状の滑剤は、遮光部材の表面の摺動性を向上させ、絞り部材などに加工した際、作動時の摩擦抵抗を小さくすると共に、表面の耐擦傷性を向上させるためのものである。このようなものとしては、固体状のものであれば有機系、無機系いずれのものも用いることができ、例えば、ポリエチレンワックス、パラフィンワックス等の炭化水素系滑剤、ステアリン酸、12−ヒドロキシステアリン酸等の脂肪酸系滑剤、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド等のアミド系滑剤、ステアリン酸モノグリセリド等のエステル系滑剤、アルコール系滑剤、金属石鹸、滑石、二硫化モリブデン等の固体潤滑剤、シリコーン樹脂粒子、ポリテトラフッ化エチレンワックス等のフッ素樹脂粒子、架橋ポリメチルメタクリレート粒子、架橋ポリスチレン粒子等が挙げられるが、特に有機系のものが好ましく用いられる。また、これらの1種又は2種以上を混合して用いることもできる。
【0026】
滑剤の平均粒径は、3μm〜20μmが好ましく、5μm〜10μmとすることがより好ましい。このような範囲とすることにより、表面に適切な凹凸が形成され、摺動性が得られるからである。
【0027】
また、図1に示すように滑剤32の平均粒径は、微粒子33の平均粒径よりも大きくすることが好ましく、より好ましくは両者の差が0.5μm以上である。滑剤32の平均粒径を微粒子33の平均粒径よりも大きくすることにより、滑剤により形成された表面の凹凸上に、微粒子により微細な凹凸が形成されることから、入射光の反射をより少なくして充分な艶消し性を得ることができ、かつ摺動性をも得ることができるからである。
【0028】
滑剤の含有率は、遮光膜中5重量%〜20重量%であり、好ましくは10重量%〜20重量%とする。遮光膜中5重量%以上とすることにより、表面に適切な凹凸が形成され摺動性を得ることができ、20重量%以下とすることにより、カーボンブラックの相対的含有量を高くすることができ、遮光性及び導電性が低下するのを防止することができる。
【0029】
次に、遮光膜に含有される微粒子は、表面に微細な凹凸を形成させることで入射光の反射を少なくし表面の光沢度(鏡面光沢度)を低下させ、遮光部材とした際の艶消し性を向上させるためのものである。
【0030】
微粒子は、遮光部材とした際の表面の艶消し性を付与させるために不可欠であるが、遮光膜に含有できる割合には次のような制限がある。まず樹脂とそれ以外の成分の割合を変えることなく微粒子の含有率を増加させた場合、それに応じてカーボンブラック、滑剤等の含有率が低下するため、遮光部材としての遮光性、摺動性等の物性の低下をもたらす。また、遮光性等の物性を保持させるため、遮光膜中のカーボンブラック、滑剤の含有率は維持しつつ、バインダー樹脂の含有率を低下させ微粒子の含有率を増加させた場合には、基材と遮光膜との接着性に欠け、耐擦傷性が劣化する。即ち、十分な艶消し性を与える量の微粒子を遮光膜中に含有させた場合には、遮光性、摺動性等の物性を保持することができないか、耐擦傷性が劣ることになる。
【0031】
本発明においては、従来の遮光部材で艶消剤として用いられている微粒子とは異なり特定の微粒子、即ち吸油量250(g/100g)以上の微粒子、好ましくは吸油量300(g/100g)以上の微粒子を用いることができる。こうした特定の微粒子を用いると、少量で表面の艶消し性が得られ、遮光膜中のカーボンブラック、滑剤等の含有率を増加させることが可能となる。その結果、遮光膜に艶消し性を有しつつ、遮光膜による遮光性、摺動性等の物性を十分に発揮し得る。
なお本明細書において、吸油量は、ISO787/V−1968に準拠したもので、微粒子100gにアマニ油を湿潤混合して固いペースト状にするのに必要な油の量(g)である。
【0032】
このような特定の微粒子としては、架橋アクリルビーズなどの有機系、シリカ、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、酸化チタンなどの無機系いずれのものも用いることができるが無機系のものが好ましく、その中でも、微粒子の分散性・低コスト等の観点からシリカを用いることが好ましい。また、これらの1種又は2種以上を混合して用いることもできる。
【0033】
微粒子の平均粒径は、1μm〜10μmが好ましく、1μm〜6μmとすることがより好ましい。このような範囲とすることにより、遮光部材の表面に微細な凹凸が形成され、艶消し性が得られるからである。
【0034】
微粒子の含有率は、遮光膜中1重量%〜10重量%が好ましく、1重量%〜5重量%とすることがより好ましい。遮光膜中1重量%以上とすることにより、表面の光沢度(鏡面光沢度)が増加して艶消し性が低下するのを防止することができ、10重量%以下とすることにより、遮光部材の摺動による微粒子の脱落が生じたり、摺動性の低下を招くことを防止することができる。
【0035】
特に高い遮光性や摺動性が求められる場合には、微粒子の含有率は、上述の範囲からさらに遮光膜中3重量%以下とすることが好ましい。本発明において用いる微粒子は、前述のように少量でも高い艶消し性を得ることができるので、3重量%以下とすることにより、十分な艶消し性が得られ、しかも相対的にカーボンブラック、滑剤の含有率を増加させることが可能となり、遮光性、摺動性等の物性を向上させることができる。
【0036】
本発明の遮光膜は、本発明の機能を損なわない場合であれば、難燃剤、抗菌剤、防カビ剤、酸化防止剤、可塑剤、レベリング剤、流動調整剤、消泡剤、分散剤等の種々の添加剤を含有させることができる。
【0037】
遮光膜の厚みは、5μm〜30μmが好ましく、5μm〜20μmとすることがより好ましい。5μm以上とすることにより、遮光膜にピンホール等が生ずるのを防止することができ、充分な遮光性を得ることができる。また、30μm以下とすることにより、遮光膜に割れが生ずることを防止することができる。
【0038】
本発明の光学機器用遮光部材は、上述のような合成樹脂フィルムからなる基材の片面または両面に、上述のようなバインダー樹脂、カーボンブラック、粒子状の滑剤及び特定の微粒子を含む遮光膜用塗布液をディップコート、ロールコート、バーコート、ダイコート、ブレードコート、エアナイフコート等の従来公知の塗布方法により塗布し、乾燥させた後、必要に応じて加熱・加圧等することにより得ることができる。塗布液の溶媒は、水や有機溶剤、水と有機溶剤との混合物等を用いることができる。
【0039】
以上のように、本発明の光学機器用遮光部材は、上述のような合成樹脂フィルムからなる基材の少なくとも片面に、上述のように構成された遮光膜を有することから、艶消し性を有しつつ、遮光性、摺動性等の遮光膜の物性を保持したものであるため、高性能一眼レフカメラ、コンパクトカメラ、ビデオカメラ、携帯電話、プロジェクタ等の光学機器のシャッター、絞り部材として好適に用いることができる。
【実施例】
【0040】
以下、実施例により本発明を更に説明する。なお、「部」、「%」は特に示さない限り、重量基準とする。
【0041】
1.光学機器用遮光部材の作製
[実験例1〜8]
基材として厚み50μmの黒色ポリエチレンテレフタレートフィルム(ルミラーX30:東レ社)を使用し、その両面に下記処方の遮光膜用塗布液(a)〜(h)をそれぞれバーコート法により乾燥時の厚みがそれぞれ10μmとなるように塗布し、乾燥を行って遮光膜A〜Hを形成し、実験例1〜8の光学機器用遮光部材を作製した。なお、下記処方の遮光膜用塗布液(a)〜(h)のアクリルポリオール等の含有量(部)を表1に示す。また、形成した遮光膜A〜Hのアクリルポリオール等の含有率(%)を表2に示す。
【0042】
<遮光膜用塗布液(a)〜(h)の処方>
・アクリルポリオール(固形分50%) (表1記載の部)
(アクリディックA804:大日本インキ化学工業社)
・イソシアネート(固形分75%) (表1記載の部)
(バーノックDN980:大日本インキ化学工業社)
・カーボンブラック (表1記載の部)
(バルカンXC−72:キャボット社)
・滑剤 (表1記載の部)
(平均粒径8.5μm) (セリダスト3620:ヘキスト社)
・微粒子(シリカ) (表1記載の微粒子及び部)
・メチルエチルケトン 60部
・トルエン 40部
【0043】
【表1】

微粒子P:TS100:デグサ社、吸油量390(g/100g)、平均粒径4μm
微粒子Q:AZ−200:東ソー・シリカ社、吸油量330(g/100g)、平均粒径2.4μm
微粒子R:TK900:デグサ社、吸油量90(g/100g)、平均粒径8μm
微粒子S:サイリシア730:富士シリシア化学社、吸油量95(g/100g)、平均粒径4μm
【0044】
【表2】

【0045】
2.評価
以上のようにして実験例1〜8で得られた光学機器用遮光部材について、下記の方法で物性の評価をした。それぞれの結果を表3に示す。ただし、下記(1)遮光性の評価については、厚み50μmの透明ポリエチレンテレフタレートフィルム(ルミラーT60:東レ社)の片面に、上記実験例1〜8の処方の遮光膜A〜Hを厚み10μmに形成したサンプルを用いて行った。
【0046】
(1)遮光性の評価
上記実験例1〜8のサンプルを、JIS K7651:1988に基づき光学濃度計(TD−904:グレタグマクベス社)を用いて光学濃度を測定し、4.0を超え、測定不能領域の濃度のものを「○」とし、4.0以下のものを「×」とした。なお、測定はUVフィルターを用いた。
【0047】
(2)摺動性の評価
実験例1〜8で得られた光学機器用遮光部材を、JIS K7125:1999に基づき荷重200(g)、速度100(mm/min)の条件で静摩擦係数(μs)、動摩擦係数(μk)を測定した。静摩擦係数(μs)が0.35以下のものを「○」、0.35以上のものを「×」とした。また、動摩擦係数(μk)が0.30以下のものを「○」、0.30以上のものを「×」とした。なお、遮光膜が削れ測定不能となったものを「−」とした。
【0048】
(3)艶消し性の評価
実験例1〜8で得られた光学機器用遮光部材の表面の光沢度(鏡面光沢度)(%)を、JIS Z8741:1997に基づきを測定した。
【0049】
(4)導電性の評価
実験例1〜8で得られた光学機器用遮光部材の表面抵抗率(Ω)を、JIS K6911:1995に基づき測定した。表面抵抗率が1.0×10Ω未満のものを「○」、1.0×10Ω以上1.0×10Ω未満のものを「△」、1.0×10Ω以上ものを「×」とした。
【0050】
(5)接着性の評価
実験例1〜8で得られた光学機器用遮光部材を、JIS K5400:1990における碁盤目テープ法に基づき測定した。碁盤目部分の面績が5%以上剥離したものを「×」、5%未満のものを「○」とした。
【0051】
(6)耐擦傷性の評価
実験例1〜8で得られた光学機器用遮光部材をカメラの絞り部材として用い、100万回動作させて塗膜面の擦傷、剥がれの有無を調べ、擦傷、剥がれのないものを「○」とし、擦傷、剥がれの認められたものを「×」とした。
【0052】
【表3】

【0053】
表3の結果からも明らかなように、実験例1、2で得られた光学機器用遮光部材は、基材の両面にバインダー樹脂、カーボンブラック、粒子状の滑剤及び微粒子、即ち微粒子の平均粒径よりも大きい平均粒径を持つ滑剤を含有させた遮光膜を形成し、かつ遮光膜中のカーボンブラックと滑剤の含有率が適切なものであるため、少量の微粒子で艶消し性が得られる結果、艶消し性を有しつつ、遮光性、摺動性等の遮光膜の物性を保持しており、光学機器用遮光部材としての物性に優れたものとなった。
【0054】
実験例3、4で得られた光学機器用遮光部材は、遮光膜中に微粒子を実験例1、2で用いたものとを同じ含有率で含有させたものであり、実験例1、2の光学機器用遮光部材に比べ、艶消し性に劣るものとなった。
【0055】
また、実験例5、6で得られた光学機器用遮光部材は、遮光膜中に艶消し性を付与させるために微粒子を多量に含有させたものであるため、遮光膜中のカーボンブラック及び滑剤の含有率が低下し、実験例1、2の光学機器用遮光部材に比べ、遮光性、摺動性、導電性に劣るものとなった。さらに、滑剤の含有率が低いことから表面に適切な凹凸が形成されず、また、カーボンブラックの含有率についても低かったことから、結果として、艶消し性を付与させることを目的として微粒子の含有量を多くしたにも関わらず実験例1、2に比べ艶消し性にも劣るものとなった。
【0056】
また、実験例7、8で得られた光学機器用遮光部材は、遮光性等の物性を保持させるために、遮光膜中のカーボンブラック、滑剤の含有率は維持しつつ、バインダー樹脂の含有率を低下させて微粒子を多量に含有させたものであり、艶消し性を有しつつ、遮光性に優れていることが確認できた。
【符号の説明】
【0057】
1・・・・・・・光学機器用遮光部材
2・・・・・・・基材
3・・・・・・・遮光膜
31・・・・・・バインダー樹脂及びカーボンブラック
32・・・・・・滑剤
33・・・・・・微粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂フィルムからなる基材と、前記基材の少なくとも片面に形成された遮光膜とからなり、前記遮光膜は、バインダー樹脂、カーボンブラック、粒子状の滑剤、及び微粒子を含有し、前記遮光膜中におけるカーボンブラックおよび滑剤の含有率が、それぞれ5〜20重量%、5〜20重量%であり、前記滑剤の平均粒径が、前記微粒子の平均粒径よりも大きいことを特徴とする光学機器用遮光部材。
【請求項2】
前記滑剤の平均粒径と前記微粒子の平均粒径の差が、0.5μm以上であることを特徴とする請求項1記載の光学機器用遮光部材。
【請求項3】
前記滑剤の平均粒径が3〜20μmの範囲であり、前記微粒子の平均粒径が1〜10μmの範囲であることを特徴とする請求項1又は2記載の光学機器用遮光部材。
【請求項4】
前記遮光膜中における前記微粒子の含有率が、遮光膜中3重量%以下であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項記載の光学機器用遮光部材。
【請求項5】
前記遮光膜中における微粒子の含有率が、1〜10重量%の範囲であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項記載の光学機器用遮光部材。
【請求項6】
前記遮光膜中におけるカーボンブラック、滑剤および微粒子の含有率が、それぞれ10〜20重量%、10〜20重量%、1〜5重量%の範囲であることを特徴とする請求項5記載の光学機器用遮光部材。
【請求項7】
前記微粒子が、シリカであることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の光学機器用遮光部材。

【図1】
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【公開番号】特開2009−271547(P2009−271547A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−185688(P2009−185688)
【出願日】平成21年8月10日(2009.8.10)
【分割の表示】特願2006−531624(P2006−531624)の分割
【原出願日】平成17年8月8日(2005.8.8)
【出願人】(000125978)株式会社きもと (167)
【Fターム(参考)】