説明

光学活性アクリルアミド及びその製造方法、重合体及びその製造方法、並びに、クロマトグラフィー用光学異性体分離剤

【課題】新規な光学活性アクリルアミド及びその製造方法、重合体及びその製造方法、並びに、クロマトグラフィー用光学異性体分離剤を提供すること。
【解決手段】式(1)で表される光学活性(メタ)アクリルアミド及びその製造方法、式(3)で表されるモノマー単位を50重量%以上有することを特徴とする重合体及びその製造方法、前記重合体を含むクロマトグラフィー用光学異性体分離剤。式中、R1は水素原子又はメチル基を表し、R2は水素原子又は炭化水素基を表し、R3は一価の置換基を表し、R4はハロゲン原子、アルキル基又はアルコキシ基を表し、nは0〜15の整数を表し、*は不斉炭素原子であることを表す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、立体的に嵩高く、不斉炭素原子を有する新規な光学活性アクリルアミド及びその製造方法、重合体及びその製造方法、並びに、クロマトグラフィー用光学異性体分離剤に関する。
【背景技術】
【0002】
アダマンチル基含有ポリマーは優れた結晶性及び親油性、耐熱性を有するため、平板印刷、フォトレジスト、光学材料への用途展開も図られている。
しかしながら、報告されているポリマーに利用されているアダマンタン誘導体はいずれもラセミ体が利用されており、光学活性体を利用したアダマンチル基含有高分子は報告されていない。これは光学活性アダマンタン誘導体の製造例が少なく、また、製造方法が極めて非効率であることに起因している。
【0003】
【特許文献1】特開2006−213851号公報
【特許文献2】特開2006−053487号公報
【特許文献3】特開2002−169290号公報
【特許文献4】特開2003−313147号公報
【非特許文献1】Journal of Chromatography,vol.431,343〜352(1988)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、新規な光学活性アクリルアミド及びその製造方法、重合体及びその製造方法、並びに、クロマトグラフィー用光学異性体分離剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題は、以下の手段<1>、<3>、<4>、<6>及び<7>により解決された。好ましい実施態様である<2>及び<5>と共に以下に記載する。
<1> 式(1)で表される光学活性(メタ)アクリルアミド、
【0006】
【化1】

(式(1)中、R1は水素原子又はメチル基を表し、R2は水素原子又は炭化水素基を表し、R3は一価の置換基を表し、R4はハロゲン原子、アルキル基又はアルコキシ基を表し、nは0〜15の整数を表し、*は不斉炭素原子であることを表す。)
<2> R2が水素原子又はベンジル基であり、R3がメチル基である上記<1>記載の光学活性(メタ)アクリルアミド、
<3> 式(2)で表される光学活性アミン化合物と(メタ)アクリル酸ハライド化合物又は無水(メタ)アクリル酸化合物とを準備する工程、及び、式(2)で表される光学活性アミン化合物と(メタ)アクリル酸ハライド化合物又は無水(メタ)アクリル酸化合物と反応させる工程を含む上記<1>又は<2>記載の光学活性(メタ)アクリルアミドの製造方法、
【0007】
【化2】

(式(2)中、R2は水素原子又は炭化水素基を表し、R3は一価の置換基を表し、R4はハロゲン原子、アルキル基又はアルコキシ基を表し、nは0〜15の整数を表し、*は不斉炭素原子であることを表す。)
<4> 式(3)で表されるモノマー単位を50重量%以上有することを特徴とする重合体、
【0008】
【化3】

(式(3)中、R1は水素原子又はメチル基を表し、R2は水素原子又は炭化水素基を表し、R3は一価の置換基を表し、R4はハロゲン原子、アルキル基又はアルコキシ基を表し、nは0〜15の整数を表し、*は不斉炭素原子であることを表す。)
<5> R2が水素原子又はベンジル基であり、R3がメチル基である上記<4>記載の重合体、
<6> 上記<4>又は<5>記載の重合体を含むクロマトグラフィー用光学異性体分離剤、
<7> 式(1)で表される光学活性(メタ)アクリルアミドを準備する工程、及び、前記式(1)で表される光学活性(メタ)アクリルアミドを単独重合又は共重合する工程を含む上記<4>又は<5>記載の重合体の製造方法。
【0009】
【化4】

(式(1)中、R1は水素原子又はメチル基を表し、R2は水素原子又は炭化水素基を表し、R3は一価の置換基を表し、R4はハロゲン原子、アルキル基又はアルコキシ基を表し、nは0〜15の整数を表し、*は不斉炭素原子であることを表す。)
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、新規な光学活性アクリルアミド及びその製造方法、重合体及びその製造方法、並びに、クロマトグラフィー用光学異性体分離剤を提供することができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0012】
(光学活性(メタ)アクリルアミド)
本発明の光学活性(メタ)アクリルアミドは、下記式(1)で表される光学活性(メタ)アクリルアミドである。
なお、本発明において、「(メタ)アクリル」は、アクリル及び/又はメタアクリルを表す。
【0013】
【化5】

(式(1)中、R1は水素原子又はメチル基を表し、R2は水素原子又は炭化水素基を表し、R3は一価の置換基を表し、R4はハロゲン原子、アルキル基又はアルコキシ基を表し、nは0〜15の整数を表し、*は不斉炭素原子であることを表す。)
【0014】
前記式(1)で表される光学活性(メタ)アクリルアミドは、不斉炭素原子を有する化合物である。
前記式(1)のR2における炭化水素基としては、アルキル基、アリール基、及び、アラルキル基が例示できる。前記アルキル基は、直鎖状であっても、分岐を有していても、環構造を有していてもよい。
前記式(1)におけるR2は、水素原子又は炭素数1〜30の炭化水素基であることが好ましく、水素原子又は炭素数1〜20の炭化水素基であることがより好ましく、水素原子又は炭素数1〜10の炭化水素基であることがさらに好ましく、水素原子又はベンジル基であることが特に好ましい。
前記式(1)のR3における一価の置換基は、R3が結合する炭素原子が不斉炭素原子となるような基であればよい。
前記一価の置換基としては、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、アラルキル基、並びに、これらの基の炭素原子と窒素原子、酸素原子及び/又は硫黄原子とを1個以上置換した基が例示でき、これらの中でも、アルキル基であることが好ましい。前記アルキル基は、直鎖状であっても、分岐を有していても、環構造を有していてもよい。
また、前記一価の置換基は、炭素数が1〜30の基であることが好ましく、炭素数1〜18の基であることがより好ましく、炭素数1〜9の基であることがさらに好ましく、メチル基であることが特に好ましい。
前記式(1)におけるR4は、アダマンチル基上の任意の位置で置換している基を表し、ハロゲン原子、アルキル基又はアルコキシ基を表し、フッ素原子、塩素原子、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜8のアルコキシ基であることが好ましい。
また、前記式(1)において、R4が2以上ある場合、すなわち、nが2以上である場合、2以上存在するR4はそれぞれ同じであっても、異なっていてもよい。また、n=0である場合は、式(1)中にR4がないことを表す。
前記式(1)におけるnは、0〜15の整数を表し、0〜12であることが好ましく、0〜3であることがより好ましく、0であることがさらに好ましい。
これらの中でも、式(1)で表される光学活性(メタ)アクリルアミドは、R2が水素原子又はベンジル基、かつ、R3がメチル基であることが好ましく、R2が水素原子又はベンジル基、R3がメチル基、かつ、nが0であることがより好ましい。
【0015】
また、本発明の光学活性(メタ)アクリルアミドとして具体的には、下記(M−1)〜(M−8)で表される化合物であることが好ましい。なお、下記化合物中、Phはフェニル基を表し、PhCH2はベンジル基を表す。
【0016】
【化6】

【0017】
本発明の光学活性(メタ)アクリルアミドは、光学活性体であり、かつ嵩高いアダマンチル骨格を有することから高い立体規則性を持ち主鎖が一方巻きの螺旋構造を有する重合体を得ることができると考えられる。また、アダマンタン骨格は、遠紫外光に対する透明性やエッチング耐性、耐水性、耐熱性等様々な点で優れる。これらの点より、本発明の光学活性(メタ)アクリルアミドは、フォトレジスト材料、化粧料、並びに、光学ディスク、光学レンズ、液晶パネル、光ガード、シート、フィルム、光ファイバー、コネクター及び蒸着プラスチック反射鏡ディスプレー等の光学部品の構造材料又は機能材料の原料として好適に用いることができる。
【0018】
本発明の光学活性(メタ)アクリルアミドの製造方法は、特に制限はなく、光学活性体として合成しても、ラセミ体から分割してもよいが、式(2)で表される光学活性アミン化合物と(メタ)アクリル酸ハライド化合物又は無水(メタ)アクリル酸化合物とを準備する工程、及び、式(2)で表される光学活性アミン化合物と(メタ)アクリル酸ハライド化合物又は無水(メタ)アクリル酸化合物と反応させる工程を含むことが好ましい。上記方法であれば、工業的に経済性を持った光学活性(メタ)アクリルアミドの製造方法を提供できる。
【0019】
【化7】

(式(2)中、R2は水素原子又は炭化水素基を表し、R3は一価の置換基を表し、R4はハロゲン原子、アルキル基又はアルコキシ基を表し、nは0〜15の整数を表し、*は不斉炭素原子であることを表す。)
【0020】
式(2)におけるR2、R3、R4及びnは、式(1)におけるR2、R3、R4及びnと同義であり、好ましい範囲も同様である。
式(2)で表される光学活性アミン化合物のアミド化剤としては、(メタ)アクリル酸ハライド化合物又は無水(メタ)アクリル酸化合物であることが好ましく、(メタ)アクリル酸ハライド化合物であることがより好ましい。
前記(メタ)アクリル酸ハライド化合物としては、(メタ)アクリル酸クロライドであることが好ましい。
前記無水(メタ)アクリル酸化合物としては、無水(メタ)アクリル酸や、アクリル酸とメタクリル酸の混合酸無水物、(メタ)アクリル酸と他の酸の混合酸無水物が例示できるが、無水(メタ)アクリル酸であることが好ましい。
【0021】
式(2)で表される光学活性アミン化合物とアミド化剤との反応は、溶媒の存在下での行うことが好ましい。
溶媒は、アミド化反応中に重合反応を誘発せず、反応試薬に対して不活性であるならばどのような溶媒でも使用可能である。具体的には、ヘキサンなどの炭化水素類、ジクロロメタンなどのハロゲン化アルキル類、t−ブチルメチルエーテルなどのエーテル類を好適に使用することができる。溶媒は、1種単独で用いても、2種以上を任意の割合で混合して用いてもよい。
また、式(2)で表される光学活性アミン化合物とアミド化剤との反応では、塩基を用いることが好ましい。
塩基は、酸塩化物と反応せず、アダマンチルアミンより塩基性が強ければどのようなものでも利用可能であり、第三級脂肪族アミンであることが好ましく、トリエチルアミンであることがより好ましい。
前記反応における反応温度は、特に制限はないが、−20〜30℃で反応を行うことが好ましく、また、反応時に生じる発熱の影響を防ぐため、反応容器に氷浴や恒温漕等の温度調整手段を設けておくことが好ましい。
【0022】
前記式(2)で表される光学活性アミン化合物の製造方法としては、式(2)で表されるアミン化合物と光学活性酸性分割剤とを10:1〜1:10のモル比で反応させてジアステレオマー塩を形成する工程(以下、「形成工程」ともいう。)、得られたジアステレオマー塩の少なくとも一部を析出させ分離し精製ジアステレオマー塩を得る工程(以下、「分離工程」ともいう。)、及び、精製ジアステレオマー塩よりアダマンチル基を有する式(2)で表される光学活性アミン化合物又はその塩を得る工程(以下、「単離工程」ともいう。)を含む製造方法であることが好ましい。
上記方法において原料として使用する式(2)で表されるアミン化合物は、ラセミ体であっても、任意の比率の鏡像異性体混合物であってもよく、鏡像体過剰率(光学純度、enantiomeric excess、e.e.)が0%以上100%未満である、式(2)で表されるアミン化合物を用いることができる。
【0023】
前記光学活性酸性分割剤は、光学活性を有する酸性光学分割剤、すなわち、1以上の不斉中心及び酸性官能基を有する光学活性化合物であり、かつ前記式(2)で表されるアミン化合物に対し光学分割剤として作用する化合物であれば、特に制限はない。
前記光学活性酸性分割剤は、光学分割能及び収率の点から、光学純度の高いものであることが好ましく、鏡像体過剰率が90%e.e.以上であることがより好ましく、95%e.e.以上であることがさらに好ましく、99%e.e.以上であることが特に好ましい。
前記酸性官能基は、アミンと反応してプロトンを供与し塩を形成することができる酸性官能基であればよく、カルボキシ基、スルホ基又はリン酸基であることが好ましい。
また、前記光学活性酸性分割剤が分子内に有する酸性官能基の数は、1又は2であることが好ましい。
【0024】
前記光学活性酸性分割剤としては、光学分割能の観点から、酸性官能基の結合する炭素原子(酸性官能基のα位)が不斉中心である化合物が好ましく、下記式(A)又は式(B)であることがより好ましい。
【0025】
【化8】

(式(A)又は式(B)中、Raは炭素数1〜10のアルキル基又は水酸基を表し、Rbはフェニル基、ベンジル基、フェノキシ基又はナフチル基を表し、Rc、Rd及びReはそれぞれ独立に酸性官能基を表し、Rf及びRgはそれぞれ独立に、フェニル基、フェノキシ基、ベンジル基、ベンゾイルオキシ基、炭素数1〜10のアルキル基又は水酸基を表し、*は不斉炭素原子であることを表す。)
【0026】
式(A)におけるRaは、置換基を有していてもよい炭素数1〜10の直鎖状、分岐状若しくは環状アルキル基、又は、水酸基を表し、メチル基又は水酸基であることが好ましい。
式(A)におけるRbは、置換基を有していてもよい、フェニル基、ベンジル基、フェノキシ基、又は、ナフチル基を表し、置換基を有していてもよい、フェニル基、フェノキシ基、又は、ナフチル基であることが好ましい。
式(A)又は式(B)におけるRc、Rd及びReはそれぞれ独立に酸性官能基を表し、カルボキシ基、スルホ基又はリン酸基であることが好ましい。
式(B)におけるRf及びRgはそれぞれ独立に、置換基を有していてもよい、フェニル基、フェノキシ基、ベンジル基、ベンゾイルオキシ基、炭素数1〜10の直鎖状、分岐状若しくは環状アルキル基、又は、水酸基を表し、ベンゾイルオキシ基又は水酸基であることが好ましい。また、式(B)におけるRf及びRgは、光学分割能やジアステレオマー塩の結晶性の観点から、同一の基であることが好ましい。
式(A)又は式(B)におけるRa、Rb、Rf及びRg中に有していてもよい置換基としては、式(2)で表されるアミン化合物と光学活性酸性分割剤とのジアステレオマー塩形成を阻害しない基であれば特に制限はなく、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、アルコキシ基、ジアルキルアミノ基、アシル基、アシロキシ基等が例示できる。また、可能であれば前記置換基が更に置換されていてもよい。
【0027】
また、前記光学活性酸性分割剤として具体的には、光学分割能及び光学活性体の入手容易性から、R−2−フェノキシプロピオン酸、S−2−フェノキシプロピオン酸、R−イブプロフェン、S−イブプロフェン、R−ケトプロフェン、S−ケトプロフェン、R−2−フェニルプロピオン酸、S−2−フェニルプロピオン酸、R−2−(2−ナフチル)グリコール酸、S−2−(2−ナフチル)グリコール酸、R,R−酒石酸、S,S−酒石酸、R,R−ジベンゾイル酒石酸又はS,S−ジベンゾイル酒石酸であることが好ましく、R−2−フェノキシプロピオン酸又はS−2−フェノキシプロピオン酸であることが特に好ましい。
【0028】
前記ジアステレオマー塩としては、前記式(2)で示されるアミンと前記式(A)又は(B)で表される化合物とからなるジアステレオマー塩であることが好ましい。
【0029】
前記形成工程における式(2)で表されるアミン化合物と光学活性酸性分割剤とのモル混合比は10:1〜1:10であり、光学活性酸性分割剤に対する式(2)で表されるアミン化合物のモル比((式(2)で表されるアミン化合物のモル量)/(光学活性酸性分割剤のモル量))をX、光学活性酸性分割剤が分子内に有する酸性官能基の数をYとした場合、0.5Y≦X≦2Yであることが好ましく、0.8Y≦X≦1.2Yであることがより好ましく、X=Yであることがさらに好ましい。具体的には、酸性官能基を1つ有する光学活性酸性分割剤1モル当量に対しては式(2)で表されるアミン化合物を1モル当量用いることが特に好ましく、また、酸性官能基を2つ有する光学活性酸性分割剤1モル当量に対しては式(2)で表されるアミン化合物を2モル当量用いることが特に好ましい。
【0030】
前記形成工程におけるジアステレオマー塩の調製は、無溶媒の条件でも可能ではあるが、溶媒を用いて行うことが好ましい。
前記形成工程において用いることができる溶媒は、光学活性酸性分割剤及び式(2)で表されるアミン化合物を溶解させることができる溶媒であれば、特に制限はない。
【0031】
前記分離工程における分離手段としては、前記形成工程により得られたジアステレオマー塩の少なくとも一部を析出させ、分離する手段であれば、特に制限はない。
前記分離工程におけるジアステレオマー塩の精製は、溶媒を用いて行うことが好ましい。
前記分離工程において用いることができる溶媒は、アダマンチル基を有する光学活性アミン及び光学活性酸性分割剤からなるジアステレオマー塩のうち、1つのジアステレオマー塩を難溶性のジアステレオマー塩として析出させる溶媒であることが好ましく、さらに他のジアステレオマー塩を溶解しうる溶媒がより好ましい。
【0032】
前記形成工程と前記分離工程とは同時に行っても、逐次行ってもよい。また、形成工程後、一旦ジアステレオマー塩混合物として単離し、分離工程に用いてもよい。
また、操作の簡便性から、前記形成工程及び前記分離工程において同一の溶媒を用いることが好ましい。
前記形成工程及び前記分離工程において用いることができる溶媒は、その使用量にも依存するが、分離操作の簡便性から、光学活性酸性分割剤及び式(2)で表されるアミン化合物を溶解させると同時に、式(2)で表される光学活性アミン化合物及び光学活性酸性分割剤からなるジアステレオマー塩のうち、1つのジアステレオマー塩を難溶性のジアステレオマー塩として析出させる溶媒であることが好ましく、さらに他のジアステレオマー塩を溶解しうる溶媒がより好ましい。
【0033】
前記形成工程及び/又は前記分離工程において用いることができる溶媒として具体的には、メタノール、エタノール等のアルコール系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル系溶媒、アセトン、4−メチル−2−ペンタノン等のケトン類、クロロホルム、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタンなどのハロゲン系溶媒、ヘキサン、トルエン等の炭化水素類、ジエチルエーテル、t−ブチルメチルエーテル、1,4−ジオキサンなどのエーテル系溶媒、及び、水などが例示できる。これらの溶媒は、1種単独で用いても、2種以上を任意の割合で混合し用いてもよい。
【0034】
前記形成工程における溶媒の使用量は、アダマンチル基を有するアミンに対して1〜50重量倍の範囲であることが好ましい。
また、前記分離工程における溶媒の使用量は、使用するジアステレオマー塩に対して1〜50重量倍の範囲であることが好ましい。
【0035】
前記形成工程における光学活性酸性分割剤とアダマンチル基を有するアミンとの反応温度は、特に制限はないが、溶媒を用いた場合、溶媒の融点〜沸点の範囲であることが好ましい。
また、前記分離工程における溶媒の温度は、特に制限はないが、溶媒の融点〜沸点の範囲であることが好ましい。
具体的には例えば、アセトンを使用した場合、光学活性酸性分割剤と式(2)で表されるアミン化合物との混合物を40〜50℃で含アセトン溶媒に加熱溶解後、0〜30℃まで冷却して、析出した固体を分離することにより精製ジアステレオマー塩を得る方法等が挙げられる。
【0036】
前記分離工程では、析出した固体として精製ジアステレオマー塩を得てもよく、析出した固体を除いた溶液から析出した固体とは異なる異性体である精製ジアステレオマー塩を得てもよく、また、析出した固体及び該固体を除いた溶液からそれぞれ精製ジアステレオマー塩を得てもよい。
また、所望の光学純度に応じ、前記分離工程で得られた精製ジアステレオマー塩に対し、さらに分離工程を1回以上繰り返したり、再結晶や再沈殿等の分離手段を1回以上行い、精製ジアステレオマー塩をさらに精製してもよい。
【0037】
前記単離工程における単離手段としては、精製ジアステレオマー塩よりアダマンチル基を有する光学活性アミン又はその塩を得ることができる手段であれば、特に制限はなく、公知の手段を応用して用いることができるが、精製ジアステレオマー塩に有機溶媒及びアルカリ水溶液を添加した後、分液し、式(2)で表される光学活性アミン化合物又はその塩を得る手段が好ましく例示できる。また、上記手段において有機溶媒及びアルカリ水溶液の添加は、同時であっても、逐次であってもよく、また、有機溶媒、アルカリ水溶液のどちらを先に添加してもよい。これらの溶媒は、1種単独で用いても、2種以上を任意の割合で混合し用いてもよい。
前記単離工程に用いることができる有機溶媒は、水と界面を形成し、かつ式(2)で表される光学活性アミン化合物及び光学活性酸性分割剤に対して不活性ならば、どのような溶媒でも使用可能である。具体例としては、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル系溶媒、4−メチル−2−ペンタノン等のケトン類、クロロホルム、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン化アルキル類、トルエン、ヘキサン等の炭化水素類、t−ブチルメチルエーテル等のエーテル系溶媒が好ましく例示できる。
前記単離工程に用いることができるアルカリ水溶液は、精製ジアステレオマー塩を式(2)で表される光学活性アミン化合物と光学活性酸性分割剤とに解離することができる塩基性水溶液であれば、特に制限はなく、アルカリ金属水酸化物の水溶液であることが好ましく、水酸化ナトリウム水溶液であることがより好ましい。
前記単離工程におけるアルカリ水溶液の使用量は、精製ジアステレオマー塩のモル当量に対し、1〜100倍モル当量であることが好ましく、2〜10倍モル当量であることがより好ましい。
【0038】
式(2)で表される光学活性アミン化合物は、塩として得てもよく、塩のまま使用しても、塩を公知の方法により除去し塩を形成していないフリーの式(2)で表される光学活性アミン化合物としてもよい。
また、所望の光学純度の式(2)で表される光学活性アミン化合物を得るため、前記形成工程、分離工程及び単離工程を任意の回数繰り返して行ってもよい。
前記製造方法により得られた式(2)で表される光学活性アミン化合物は、所望の光学純度に応じ、再結晶や再沈殿等の分離手段をさらに行い、さらに精製してもよい。
【0039】
(重合体)
本発明の重合体は、式(3)で表されるモノマー単位のみからなる単独重合体、又は、式(3)で表されるモノマー単位を50重量%以上有する共重合体であることを特徴とする。
【0040】
【化9】

(式(3)中、R1は水素原子又はメチル基を表し、R2は水素原子又は炭化水素基を表し、R3は一価の置換基を表し、R4はハロゲン原子、アルキル基又はアルコキシ基を表し、nは0〜15の整数を表し、*は不斉炭素原子であることを表す。)
【0041】
式(3)におけるR1、R2、R3、R4及びnは、式(1)におけるR1、R2、R3、R4及びnと同義であり、好ましい範囲も同様である。
これらの中でも、式(3)で表されるモノマー単位は、R2が水素原子又はベンジル基、かつ、R3がメチル基であることが好ましく、R2が水素原子、かつ、R3がメチル基であることが好ましく、R2が水素原子、R3がメチル基、かつ、nが0であることがさらに好ましい。
本発明の重合体は、式(3)で表されるモノマー単位を1種のみ有していても、2種以上を有していてもよい。
また、本発明の重合体は、光学活性であるため、比旋光度が0でないポリマーであり、重合体中の式(3)で表されるモノマー単位の少なくとも1種の鏡像体過剰率が90%以上であることがより好ましく、95%以上であることがさらに好ましく、99%以上であることが特に好ましい。
また、本発明の重合体は、単独重合体であることが好ましい。
【0042】
本発明の共重合体は、式(3)で表されるモノマー単位を50重量%以上有するポリマーであればよく、式(3)で表されるモノマー単位以外に他のモノマー単位を有する。
本発明の共重合体は、ランダム共重合体であっても、ブロック共重合体であってもよいが、ランダム共重合体であることが好ましい。
本発明の重合体は、式(3)で表されるモノマー単位を80重量%以上有するポリマーであることが好ましく、式(3)で表されるモノマー単位を90重量%以上有するポリマーであることが好ましく、重合体中のモノマー単位としては式(3)で表されるモノマー単位のみの単独重合体であることが特に好ましい。
他のモノマー単位としては、特に制限はないが、共重合可能なエチレン性不飽和結合を有する化合物由来のモノマー単位であることが好ましく、(メタ)アクリルアミド化合物又は(メタ)アクリレート化合物由来のモノマー単位であることがより好ましく、(メタ)アクリルアミド化合物由来のモノマー単位であることがさらに好ましい。なお、本発明において、「(メタ)アクリレート」は、アクリレート及び/又はメタクリレートを表す。
【0043】
また、本発明の重合体は、1種以上の式(3)で表されるモノマー単位、及び、必要に応じて、1種以上の他のモノマー単位からなり、その主鎖末端は、使用したモノマーや、重合条件、クエンチ条件等によって変わるが、水素原子、ヒドロキシ基、又は、エチレン性不飽和結合であることが好ましい。
本発明の重合体は、平均重合度が5以上のものであり、平均重合度が10〜1,000のものであることが好ましい。
本発明の共重合体は、他のモノマー単位において、架橋されていてもよい。
【0044】
本発明の重合体は、光学異性体分離剤として好適に用いることができ、クロマトグラフィー用光学異性体分離剤として特に好適に用いることができる。さらには、HPLC用キラルカラムの充填剤および、紫外線吸収がないことから薄層クロマトグラフ用の担体としても好適に用いることができる。
また、本発明の重合体は、光学活性体であり、かつ嵩高いアダマンチル骨格を有することから、高い立体規則性を持ち主鎖が一方巻きの螺旋構造を有する重合体を得ることができると考えられる。また、アダマンタン骨格は、遠紫外光に対する透明性やエッチング耐性、耐水性、耐熱性等様々な点で優れる。これらの点から、本発明の重合体は、フォトレジスト材料、化粧料、並びに、光学ディスク、光学レンズ、液晶パネル、光ガード、シート、フィルム、光ファイバー、コネクター及び蒸着プラスチック反射鏡ディスプレー等の光学部品の構造材料又は機能材料の原料として好適に用いることができる。
【0045】
本発明のクロマトグラフィー用光学異性体分離剤は、本発明の重合体を含む。
本発明のクロマトグラフィー用光学異性体分離剤は、例えば、本発明の重合体を乳鉢ですりつぶしたものであっても、担体表面に本発明の重合体をコーティングしたものであってもよく、担体表面に本発明の重合体をコーティングしたものであることが好ましい。
担体表面に、本発明の重合体をコーティングする方法としては、特に制限はなく、公知の方法を用いることができ、例えば、本発明の重合体を溶媒に溶かして担体と接触させた後、溶媒を留去させることで、担体に物理的に保持させる方法が挙げられる。その場合に、必要に応じて、本発明の重合体との親和性を付与するために、担体表面を事前に処理しておいてもよい。担体表面の処理方法として、シリカゲルを用いたときはシラン処理剤を用いることが好ましく、シラン処理剤としては、特に制限はなく、公知のものを用いることができる。
担体としては、有機物質又は無機物質系の充填剤が挙げられる。これら充填剤は、粒子状のものが好ましく、その粒径は、0.1〜1,000μmであることがより好ましい。
また、これらの担体は、多孔質のものが好ましく、その細孔径は1〜1,000nmであることがより好ましい。上記範囲であれば、クロマトグラフィーにおける理論段数が多くなり、光学異性体の分割能に優れる。
【0046】
本発明のクロマトグラフィー用光学異性体分離剤を用いてラセミ体の光学分割を行う手段としては、様々なクロマトグラフィー法が挙げられる。例えば、オープンカラムに本発明のクロマトグラフィー用光学異性体分離剤を充填し、そこにラセミ体の溶液をチャージし、溶離液を流すことによりラセミ体を光学分割することができる。
チャージに使用する溶媒や溶離液は、光学分割を行うラセミ体の種類や、極性、分離能等を考慮し、適宜選択することができる。
【0047】
本発明の重合体の製造方法は、特に制限はなく、公知の重合方法を用いて製造すればよいが、式(1)で表される光学活性(メタ)アクリルアミドを準備する工程、及び、前記式(1)で表される光学活性(メタ)アクリルアミドを単独重合又は共重合する工程を含むことが好ましい。
式(1)で表される光学活性(メタ)アクリルアミドは、前述の本発明の光学活性(メタ)アクリルアミドであり、好ましい範囲も前述と同様である。
式(1)で表される光学活性(メタ)アクリルアミドの重合においては、1種のみを単独重合しても、2種以上を共重合しても、1種以上の式(1)で表される光学活性(メタ)アクリルアミドと1種以上他のモノマーとを共重合してもよい。
【0048】
共重合の際に用いることができる他のモノマーとしては、式(1)で表される光学活性(メタ)アクリルアミドと共重合可能であれば、特に制限はないが、その中でも、エチレン性不飽和結合を有する化合物であることが好ましく、(メタ)アクリルアミド化合物又は(メタ)アクリレート化合物であることがより好ましい。また、他のモノマーとして、架橋剤を用いてもよい。
重合の際に用いる他のモノマーの使用量としては、式(1)で表される光学活性(メタ)アクリルアミドの総重量よりも少ないことが好ましく、式(1)で表される光学活性(メタ)アクリルアミドの総重量の1/5以下であることがより好ましく、式(1)で表される光学活性(メタ)アクリルアミドの総重量の1/10以下であることがさらに好ましく、使用しないことが特に好ましい。
【0049】
単独重合又は共重合方法としては、公知の重合方法を適用することができるが、ラジカル重合法、カチオン重合法又はアニオン重合法により重合を行うことが好ましい。
また、単独重合又は共重合には、溶媒を用いることが好ましい。溶媒としては、反応試薬に対して不活性であるならばどのような溶媒でも使用可能である。具体的には、ヘキサンなどの炭化水素類、ジクロロメタンなどのハロゲン化アルキル類、t−ブチルメチルエーテルなどのエーテル類を好適に使用することができる。溶媒は、1種単独で使用しても、2種以上を任意の割合で混合して使用してもよい。
また、単独重合又は共重合には、重合開始剤を用いることが好ましい。
重合開始剤としては、特に制限はなく、公知の重合開始剤を用いることができ、重合形式に応じ、ラジカル重合開始剤、カチオン重合開始剤、アニオン重合開始剤、遷移金属触媒等の公知のものを好適に使用することができる。
単独重合又は共重合における反応温度や反応時間は、特に制限はなく、使用する化合物や、重合方法、反応の進行状況、所望の重合体の物性値等を考慮し、適宜選択すればよい。
【実施例】
【0050】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明がこれらの実施例に限定されるものではないことは言うまでもない。
【0051】
(実施例1:(S)−N−[1−(1−アダマンチル)エチル]メタクリルアミド(以下、単に「(S)−メタクリルアミド」とも略す。)の合成)
200mLの4つ口フラスコに撹拌羽、滴下ロート、平栓、三方コックを取り付け、フラスコ内を窒素置換した。このフラスコの中に、(S)−1−(1−アダマンチル)エチルアミン(16.5g,0.092mol)、トリエチルアミン(9.3g,0.092mol)を入れ、80mLのジクロロメタンを加え撹拌した。
反応溶液を氷冷しながら、メタクリル酸クロリド(0.092mol,9.01g)をゆっくり滴下、1時間撹拌した。水を加え反応を終了させ、水−ジクロロメタンで抽出し、有機層に硫酸ナトリウムを加え、乾燥、濃縮を行った。得られた反応混合物は、ヘキサン−ジクロロメタン系から再結晶を行い、(S)−N−[1−(1−アダマンチル)エチル]メタクリルアミド((S)−メタクリルアミド)(収量5.00g,収率90.0%)を得た。
【0052】
(S)−N−[1−(1−アダマンチル)エチル]メタクリルアミド:
融点:147.3℃(1℃/min)
比旋光度:[α]D = -3.12°(C = 1.0, CHCl3, 26℃)
IR:3315, 2901, 2844, 1651, 1608, 1504, 1445, 1208, 647
1H-NMR(CDCl3):δH = 1.05(d,3H), 1.67(q, 6H), 1.53(q, 6H), 1.97(d, 3H), 1.99(m, 3H), 3.77(m, 1H), 5.34(m, 1H), 5.58-5.64(brd, 1H, NH), 5.65(m, 1H).
【0053】
(実施例2〜6、及び、比較例1〜3)
(S)−1−(1−アダマンチル)エチルアミン及びメタクリル酸クロリドを表1に記載の化合物にそれぞれ代えた以外は、実施例1と同様にアミド合成反応を実施し、下記表1に示される結果で各種の光学活性(メタ)アクリルアミドを得ることができた。
【0054】
【表1】

【0055】
なお、表1における1)、2)、及び、略記は、以下に示す通りである。
1)C = 1.0, CHCl3
2)融解と同時に重合を開始した。
メタクリルアミド:N−[1−(1−アダマンチル)エチル]メタクリルアミド
アクリルアミド:N−[1−(1−アダマンチル)エチル]アクリルアミド
N−ベンジルメタクリルアミド:N−ベンジル−N−[1−(1−アダマンチル)エチル]メタクリルアミド
【0056】
(実施例7)
実施例2で得られた(R)−N−[1−(1−アダマンチル)エチル]メタクリルアミドが、目的とするキラル構造であること、また得られる結晶がキラル結晶であることを明らかにするために構造解析を行った。まず、溶媒としてメタノール及びクロロホルムの混合溶液を用い、この混合溶液に試料を溶解させ、自然蒸発法により、サイズ0.4mm×0.4mm×0.2mmの良質の柱状結晶を得ることができた。
得られた結晶の結晶学的データ及び結晶構造を表2及び図1に示す。X線結晶構造解析には、以下の方法を用いた。また、絶対構造は、原料の(R)−1−(1−アダマンチル)エチルアミンの絶対配置を元に決定を行った。
【0057】
[X線単結晶構造解析法]
<実験条件>
四軸型自動回折計ENRAF-NONIUS社製CAD4-TURBOを使用し、結晶データと回折データを収集した。線源にはCuをターゲットとした封入管を用い、40KV−35mAで作動させ、グラファイト結晶によって単色化を行った。収集した回折データを用いて、各単結晶の構造を明らかにした。
【0058】
(R)−N−[1−(1−アダマンチル)エチル]メタクリルアミドの結晶を構造解析した結果、図1及び表2に示すように、非対称単位中には、同種の対掌体のR体が2分子含まれていたが、結晶学的に独立な2分子の間には点対称、鏡面対称性はみられない。また、結晶の帰属する空間群がP2111であることから、本結晶には点対称、鏡面対象を含んでおらず、キラル結晶であることがわかる。
【0059】
【表2】

【0060】
(比較例4)
比較例1で得られた(RS)−N−[1−(1−アダマンチル)エチル]メタクリルアミドがラセミ分晶しないことを明らかにするために構造解析を行った。まず、メタノール及びクロロホルム混合溶液に試料を溶解させ、自然蒸発法により、サイズ0.4mm×0.4mm×0.3mmの良質の柱状結晶を得ることができた。
得られた結晶の結晶学的データ及び結晶構造を表3及び図2に示す。構造解析の結果、非対称単位中に、一分子含まれていた。結晶の帰属する空間群はPbcaであることから、本結晶中には点対称が含まれており、ラセミ結晶となっていることが明確となった。
【0061】
【表3】

【0062】
(実施例8:(S)−メタクリルアミドのラジカル重合)
重合反応は、乾燥窒素雰囲気下フラスコにて、(S)−メタクリルアミド(7.64g)を入れ、38mLのテトラヒドロフランを加え撹拌溶解した。これにAIBN(2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオニトリル)(230mg,1.4mmol)を添加した。反応液を60℃まで加温した後、24時間撹拌した。
反応終了後、反応液をn−ヘキサンに滴下し、沈殿物をろ過、乾燥することでポリ{(S)−N−[1−(1−アダマンチル)エチル]メタクリルアミド}(以下、「(S)−PMAAD」とも略す。)(収量6.0g,収率78.0%)を得た。
【0063】
ポリ{(S)−N−[1−(1−アダマンチル)エチル]メタクリルアミド}:
比旋光度:[α]D = +26.5°(c=1.0, CHCl3, 26℃)
IR:3315, 2901, 2845, 1633, 1504, 1446, 1183, 517
1H-NMR(400MHz, CDCl3):δ = 0.8-2.0(br), 2.0(brs), 3.2-3.6(br), 5.4-6.0(br).
分子量(GPC、ポリスチレン換算):Mn = 9640、Mw/Mn = 1.65
【0064】
(実施例9〜11、比較例5及び6)
(S)−メタクリルアミドを表4に記載の単量体に代えた以外は、実施例8と同様にアクリル酸アミドの重合を実施して、下記に示す結果で各種の重合体を得ることができた。
【0065】
【表4】

【0066】
なお、表4における3)、4)、及び、略記は、以下に示す通りである。
3)重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)を用い、ポリスチレン標準試料を使用して測定した。
4)c=1.0, CHCl3
メタクリルアミド:N−[1−(1−アダマンチル)エチル]メタクリルアミド
アクリルアミド:N−[1−(1−アダマンチル)エチル]アクリルアミド
【0067】
(実施例12:クロマトグラフィー用光学異性体分離剤製造例)
ODSシリカ(富士シリシア化学(株)製Chromatorex−ODS、粒子径100μm、細孔径10nm)10重量部に、実施例7で得られた重合体1.0重量部のテトラヒドロフラン(THF)溶液を加え、溶媒を留去する。その後、減圧乾燥しクロマトグラフィー用光学異性体分離剤1を得た。
【0068】
(実施例13〜15、比較例7及び8)
実施例8で得られた各種の重合体を表4に記載の実施例9〜11、比較例5及び6で得られた重合体にそれぞれ代えた以外は、実施例12と同様に、分離剤製造例を実施して、表5に示すように、実施例12〜15、並びに、比較例7及び8に対応するクロマトグラフィー用光学異性体分離剤2〜6をそれぞれ得た。
【0069】
【表5】

【0070】
(実施例16:重合体を含む分離剤を用いたラセミ体の光学分割)
実施例12で得られた分離剤1を、オープンカラムに充填し、トランススチルベンオキシドのラセミ体の光学分割を行った。
カラムは、内径1.0mm、長さ30cmのガラス製オープンカラムを使用した。メタノールを用いて湿式充填法で分離剤1 10gを充填した。これにトランススチルベンオキシドのラセミ体のメタノール溶液50mg/2mLをチャージした。展開溶媒はメタノールを使用しフランクションを1.0mLずつ分取した。
各フラクションを旋光計(日本分光(株)製DIP1000型旋光計)を用い、溶媒としてクロロホルムを用いて比旋光度の測定した。トランススチルベンオキシドの比旋光度は、239.2°(c=0.45, in CHCl3)であり、次式にて光学純度を決定した。
光学純度(optical purity, %) = [α]D(sample)/[α]D(reference)×100
sample:各フラクションの比旋光度(in CHCl3)
reference:トランススチルベンオキシドの比旋光度=239.2°(c=0.45, in CHCl3)
その結果、(+)−体が優先的に吸着し、トランススチルベンオキシドが溶出し始めた最初のフラクションから得られたトランススチルベンオキシドの光学純度は5.0%であった。一方、トランススチルベンオキシドが溶出し始めてから8番目のフラクションから得られたトランススチルベンオキシドの光学純度((−)−体の光学純度)は、5.3%であった。
【0071】
(実施例17)
また、上記方法にて分離剤1に対してキラリティが反転した分離剤2で、実施例16と同様に光学分割を行ったところ、得られるトランススチルベンオキシドのキラリティは逆転し、(−)−体が優先的に吸着し、トランススチルベンオキシドが溶出し始めた最初のフラクションから得られたトランススチルベンオキシドの光学純度は5.5%であった。一方、トランススチルベンオキシドが溶出し始めてから8番目のフラクションから得られたトランススチルベンオキシドの光学純度((+)−体の光学純度)は、6.6%であった。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】実施例2にて得られた(R)−N−[1−(1−アダマンチル)エチル]メタクリルアミドの結晶構造を示す図である。
【図2】比較例1にて得られた(RS)−N−[1−(1−アダマンチル)エチル]メタクリルアミドの結晶構造を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で表される光学活性(メタ)アクリルアミド。
【化1】

(式(1)中、R1は水素原子又はメチル基を表し、R2は水素原子又は炭化水素基を表し、R3は一価の置換基を表し、R4はハロゲン原子、アルキル基又はアルコキシ基を表し、nは0〜15の整数を表し、*は不斉炭素原子であることを表す。)
【請求項2】
2が水素原子又はベンジル基であり、R3がメチル基である請求項1記載の光学活性(メタ)アクリルアミド。
【請求項3】
式(2)で表される光学活性アミン化合物と(メタ)アクリル酸ハライド化合物又は無水(メタ)アクリル酸化合物とを準備する工程、及び、式(2)で表される光学活性アミン化合物と(メタ)アクリル酸ハライド化合物又は無水(メタ)アクリル酸化合物と反応させる工程を含む請求項1又は2記載の光学活性(メタ)アクリルアミドの製造方法。
【化2】

(式(2)中、R2は水素原子又は炭化水素基を表し、R3は一価の置換基を表し、R4はハロゲン原子、アルキル基又はアルコキシ基を表し、nは0〜15の整数を表し、*は不斉炭素原子であることを表す。)
【請求項4】
式(3)で表されるモノマー単位を50重量%以上有することを特徴とする重合体。
【化3】

(式(3)中、R1は水素原子又はメチル基を表し、R2は水素原子又は炭化水素基を表し、R3は一価の置換基を表し、R4はハロゲン原子、アルキル基又はアルコキシ基を表し、nは0〜15の整数を表し、*は不斉炭素原子であることを表す。)
【請求項5】
2が水素原子又はベンジル基であり、R3がメチル基である請求項4記載の重合体。
【請求項6】
請求項4又は5記載の重合体を含むクロマトグラフィー用光学異性体分離剤。
【請求項7】
式(1)で表される光学活性(メタ)アクリルアミドを準備する工程、及び、前記式(1)で表される光学活性(メタ)アクリルアミドを単独重合又は共重合する工程を含む請求項4又は5記載の重合体の製造方法。
【化4】

(式(1)中、R1は水素原子又はメチル基を表し、R2は水素原子又は炭化水素基を表し、R3は一価の置換基を表し、R4はハロゲン原子、アルキル基又はアルコキシ基を表し、nは0〜15の整数を表し、*は不斉炭素原子であることを表す。)

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−179765(P2009−179765A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−22209(P2008−22209)
【出願日】平成20年2月1日(2008.2.1)
【出願人】(591169386)大東化学株式会社 (11)
【出願人】(000125369)学校法人東海大学 (352)
【Fターム(参考)】