説明

光学物品および光学物品の製造方法

【課題】プラスチック基材と、プライマー層、ハードコート層および反射防止層とを含んで構成され、干渉縞がほとんど生じないとともに耐光性や耐擦傷性にも優れた光学物品を提供する。
【解決手段】光学物品は、重合性組成物を重合硬化して得られるプラスチック基材からなり、このプラスチック基材の表面には、該基材側より、プライマー層、ハードコート層および反射防止層が形成されており、プライマー層は、下記(A)〜(C)成分を含むコーティング組成物から形成され、
(A)ポリウレタン樹脂
(B)金属酸化物微粒子
(C)有機ケイ素化合物
ハードコート層は、下記(D)成分を含むコーティング組成物から形成されている。
(D)酸化チタンを含まない金属酸化物微粒子

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼鏡やカメラ等のプラスチックレンズとして使用される光学物品および光学物品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチックレンズは、ガラスレンズに比べて軽量であり、成形性、加工性、染色性等に優れ、しかも割れにくく安全性も高いため、眼鏡レンズ分野において急速に普及し、その大部分を占めている。また、近年では薄型化、軽量化のさらなる要求に応えるべく、チオウレタン系樹脂やエピスルフィド系樹脂等の高屈折率素材が開発されている。例えば、エピチオ基を有する化合物(エピスルフィド化合物)を硫黄の存在下で重合させることにより非常に屈折率の高いエピスルフィド系樹脂を製造する方法が提案されている(特許文献1、2参照)。このようなエピスルフィド系樹脂は、屈折率が1.7以上の高屈折率を容易に発現でき、眼鏡レンズの薄型化に有効である。
【0003】
一方、レンズ基材の屈折率を高くした場合、干渉縞の発生を防ぐために、プライマー層やハードコート層についてもレンズ基材と同等の屈折率を持たせる必要がある。例えば、種々の金属酸化物をフィラーとしてハードコート層に含有させ、高屈折率化することが一般的に行われている。金属酸化物としては、屈折率が高く、可視光領域での透明性、安定性にも優れるため主に酸化チタンが使用されている。しかしながら、酸化チタンは、紫外線を受けて光触媒作用を発現する性質を有しており、ハードコート層にフィラーとして用いた場合に、酸化チタン周囲の有機樹脂から成るバインダー成分を分解して、コート層はがれを生じることが多い。このような課題に対し、酸化チタンとして光触媒作用を生じやすいアナターゼ型ではなく、光触媒作用が相対的に少ないルチル型を採用することも多い(例えば、特許文献3参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2004−002712号公報
【特許文献2】特開2005−281527号公報
【特許文献3】特開2007−102096号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ルチル型酸化チタンにおいても、完全に光触媒作用がないわけではなく、二酸化ケイ素などの絶縁体で表面を被覆して光触媒作用を低下させることも試みられているが十分ではない。従って、耐光性を考慮すると、ルチル型酸化チタンのコーティング層における含有率を向上させる手法により、ハードコート層やプライマー層の屈折率を単純に上げることはできず、レンズ基材が1.7以上の屈折率を有する場合には、干渉縞の発生を完全になくすことはできなかった。
そこで本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、プラスチック基材と、プライマー層およびハードコート層とを含んで構成され、干渉縞がほとんど生じないとともに耐光性にも優れた光学物品および光学物品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記の課題を解決すべく、本発明は、プラスチック基材からなる光学物品であって、前記プラスチック基材の表面には、プライマー層とハードコート層とが形成されており、前記プライマー層は、下記(A)〜(C)成分を含むコーティング組成物から形成され、
(A)ポリウレタン樹脂
(B)金属酸化物微粒子
(C)有機ケイ素化合物
前記ハードコート層は、下記(D)成分を含むコーティング組成物から形成されていることを特徴とする光学物品。
(D)酸化チタンを含まない金属酸化物微粒子
【0007】
ここで、前記(D)成分の酸化チタンを含まない金属酸化物微粒子とは、実質的に酸化チタンを含まない金属酸化物微粒子であって、例えば、酸化ケイ素(SiO)、酸化スズ(SnO)あるいは、酸化ジルコニウム(ZrO)等である。これらは単体で用いてもよく、あるいは複合微粒子として用いてもよい。なお、実質的に酸化チタンを含まないとは、例えば、触媒残渣のように微量の酸化チタンが混入していても、本発明の効果を損なわない限りは許容されるという意味である。
本発明の光学物品によれば、プライマー層を形成するコーティング組成物として、ポリウレタン樹脂と金属酸化物微粒子だけでなく、有機ケイ素化合物を併用している。それ故、プライマー層中の空隙部分が有機ケイ素化合物((C)成分)により充填されてプライマー層の内部が高密度化する。従って、高屈折率の基材を用いた場合でも、基材とプライマー層界面の屈折率差を小さく制御することが可能となり、干渉縞の発生を抑制することが可能となる。
その一方、プライマー層を形成するコーティング組成物として前記したような成分を用いているので、プライマー層の表面近傍は低密度を維持できる。すなわち、プライマー層における内部層(中間部分〜基材近傍)は高屈折率となるが、プライマー層における表面層は低屈折率となる。それ故、ハードコート層として酸化ケイ素(SiO)あるいは酸化スズ(SnO)のような、酸化チタンよりも比較的屈折率の低い金属酸化物微粒子を用いても干渉縞を抑制することが可能となる。そして、(D)成分としてハードコート層に含有される金属酸化物微粒子は、酸化チタンと異なり光活性ではないので、耐光性に優れるとともに耐擦傷性に優れた光学物品を提供できる。この(D)成分としては、耐光性や耐擦傷性の点で酸化ケイ素を含有する微粒子が好ましく、例えばコロイダルシリカが好適である。
また、プラスチック基材としては、エピスルフィド化合物を主成分とする重合性組成物を重合硬化して得られ、屈折率が1.7以上のものが好適である。屈折率が1.7以上と高屈折率であるので、レンズ等の光学物品用として基材の薄型化が容易であり、しかも干渉縞の少ない光学物品を容易に提供できる。
【0008】
本発明の光学物品では、前記コーティング組成物における(A)成分と(B)成分の平均粒子径がともに5〜50nmであり、前記(C)成分の平均粒子径が5nm以下であることが好ましい。
この発明によれば、(A)成分と(B)成分の平均粒子径、および(C)成分の平均粒子径がいずれも所定の範囲にあるので、プライマー層の屈折率をより向上させることが可能となる。その結果、1.7以上の高屈折率のプラスチック基材を用いた場合でも、干渉縞の発生を効果的に抑制することができる。この作用機構は必ずしも明らかではないが、(C)成分が存在しないと、(B)成分である金属酸化物微粒子の屈折率を上げたり、その割合を増やしてもプライマー層の屈折率はあまり向上しない。それ故、上述した効果を奏するための作用機構としては、上記各粒子の平均粒子径が所定の範囲にあるため、(A)成分からなる粒子と(B)成分からなる粒子とから形成される間隙に、(C)成分が入り込み、結果としてかかる部分が密な層となって屈折率の向上に寄与しているものと思われる。なお、上記した各粒子の平均粒子径は、光散乱法により求められる。
【0009】
本発明の光学物品では、前記プライマー層の屈折率が前記プラスチック基材側から前記ハードコート層側にかけて連続的または段階的に低下していることが好ましい。
この発明によれば、プライマー層の屈折率が前記プラスチック基材側から前記ハードコート層側にかけて連続的または段階的に低下しているので、ハードコート層の屈折率を下げることが可能となる。すなわち、ハードコート層の屈折率が低くてもプライマー層との屈折率差を小さくできるので干渉縞の発生を抑制することができる。
従来、光学レンズ等の光学物品の表面にハードコート層を形成する場合、基材の屈折率が高いと、それに応じてプライマー層およびハードコート層の屈折率を高くする必要があった。この発明によれば、ハードコート層の高屈折率化にこだわる必要がなく、それ故、ハードコート層設計の自由度が向上する。
【0010】
本発明の光学物品では、前記プライマー層の前記プラスチック基材近傍における屈折率と前記プラスチック基材の屈折率との差が0.01以下であることが好ましい。
この発明によれば、プライマー層の前記プラスチック基材近傍における屈折率と前記プラスチック基材の屈折率との差が所定値以下であるので、干渉縞の発生を効果的に抑制することができる。
【0011】
本発明の光学物品では、前記プライマー層の前記ハードコート層近傍における屈折率と前記ハードコート層の屈折率との差が0.01以下であることが好ましい。
この発明によれば、プライマー層のハードコート層近傍における屈折率とハードコート層の屈折率との差が所定値以下であるので、干渉縞の発生を効果的に抑制することができる。
【0012】
本発明では、前記(C)成分が、エポキシ基を有する有機ケイ素化合物であることが好ましい。
この発明によれば、有機ケイ素化合物がエポキシ基を有しているので、プライマー層として、プラスチック基材とハードコート層との密着性に優れている。また、プライマー層の架橋密度が適度に制御され、光学物品としての耐衝撃性に優れる。
【0013】
本発明では、前記(C)成分がオルガノアルコキシシラン化合物であり、加水分解を施さない単量体として用いられることが好ましい。
この発明によれば、オルガノアルコキシシラン化合物が加水分解を施さない単量体として用いられるので、加水分解を施して高分子量化させた場合に比べて、プライマー層中の空隙部分に充填され易い。従って、プライマー層の屈折率がより向上し、屈折率が1.7以上のエピスルフィド系プラスチック基材を用いているにもかかわらず、干渉縞の発生を抑えることができる。
【0014】
本発明では、前記(C)成分の前記(A)〜(C)成分全体における割合が0.1〜5質量%であることが好ましい。
この発明によれば、(C)成分である有機ケイ素化合物の割合が0.1質量%以上であるので、プラスチック基材とハードコート層との密着性により優れる。さらに、有機ケイ素化合物の割合が5質量%以下であるので、屈折率の低下および耐摩耗性の低下をきたすこともない。
【0015】
本発明では、前記(B)成分が、アルキル基を有する有機ケイ素化合物で表面処理された金属酸化物微粒子であることが好ましい。
この発明によれば、ポリウレタン樹脂と、メチル基等のアルキル基を有する有機ケイ素化合物で表面処理された金属酸化物微粒子を用いることにより、プライマー層中で樹脂成分と金属酸化物微粒子成分との相溶性が向上し、結果として均質性が向上することから、干渉縞の発生が抑制され、耐衝撃性も向上する。また、プライマー層の均質性が向上する際、(C)成分の有機ケイ素化合物により充填される空隙の均質性も同時に向上し、その結果、プライマー層の屈折率がより向上し、干渉縞の発生をより効果的に抑えることができる。
【0016】
本発明では、前記(B)成分が、ルチル型の結晶構造を有する酸化チタンを主成分とする金属酸化物微粒子であることが好ましい。
この発明によれば、(B)成分として、ルチル型の結晶構造を有する酸化チタンを主成分とする金属酸化物微粒子を用いるので、プライマー層の屈折率が向上するだけでなく、耐光性も向上する。特に、(A)成分として用いられるポリウレタン樹脂が耐光性の向上に大きく寄与する。
【0017】
本発明では、前記(B)成分の前記(A)〜(C)成分全体における割合が40〜80質量%であることが好ましい。
この発明によれば、(B)成分である金属酸化物微粒子の(A)〜(C)成分全体における割合が40〜80質量%と所定の範囲にあるので、プライマー層の屈折率を十分高くできるとともに、プライマー層の架橋密度を適度に保つことができ、硬さおよび耐衝撃性を損なうこともない。
【0018】
本発明の光学物品は、プラスチックレンズであることが好ましい。
この発明によれば、屈折率が1.7以上といわゆる高屈折率の基材を用いて、しかも上述した(A)〜(C)成分によりプライマー層を形成しているため、非常に薄型で、耐衝撃性に優れ、かつほとんど干渉縞が発生しないプラスチックレンズを提供することが可能である。それ故、本発明のプラスチックレンズは、眼鏡レンズをはじめ、カメラレンズ、望遠鏡用レンズ、顕微鏡用レンズ、ステッパー用集光レンズなど各種の薄型光学レンズとして幅広く使用することができる。
【0019】
本発明は、プラスチック基材からなる光学物品の製造方法であって、重合性組成物を重合硬化してプラスチック基材を製造する基材製造工程と、前記プラスチック基材の表面に、プライマー層とハードコート層とを形成する表面処理工程とを備え、前記表面処理工程におけるプライマー層形成工程では、下記(A)〜(C)成分を含むコーティング組成物を用い、
(A)ポリウレタン樹脂
(B)金属酸化物微粒子
(C)有機ケイ素化合物
ハードコート層形成工程では、下記(D)成分を含むコーティング組成物を用いることを特徴とする。
(D)酸化チタンを含まない金属酸化物微粒子
【0020】
本発明の光学物品の製造方法によれば、重合性組成物を重合硬化してプラスチック基材を製造するので、種々の屈折率も有する基材を容易に得ることができる。例えば、エピスルフィド化合物を主成分とする重合性組成物を用いれば、容易に1.7以上の高屈折率の基材を得ることも容易となる。また、所定のプライマー層およびハードコート層を形成する表面処理工程を備えているので、干渉縞が少なく耐光性や耐擦傷性にも優れた光学物品を容易に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の光学物品および光学物品の製造方法について実施形態を詳細に説明する。
本実施形態の光学物品は、眼鏡用のプラスチックレンズであって、プラスチックレンズ基材(以下、単に「レンズ基材」ともいう)と、レンズ基材表面に形成されたプライマー層と、このプライマー層の上面に形成されたハードコート層とを有する。また、本実施形態のプラスチックレンズでは、このハードコート層の上面にさらに反射防止層を形成している。以下、レンズ基材、プライマー層、ハードコート層、反射防止層について説明する。
以下、本発明の光学物品および光学物品の製造方法について実施形態を詳細に説明する。
【0022】
(1.レンズ基材)
レンズ基材としては、プラスチック樹脂であれば特に限定されないが、眼鏡レンズの薄型化の観点、あるいは、レンズ基材表面の上層に形成される反射防止層との屈折率差を得るために、好ましくは1.65以上、より好ましくは1.7以上、さらに好ましくは1.74以上、もっとも好ましくは1.76以上としたものが用いられる。
屈折率が1.65以上のレンズ素材としては、イソシアネート基またはイソチオシアネート基を持つ化合物と、メルカプト基を持つ化合物を反応させることによって製造されるポリチオウレタン系プラスチック、あるいはエピスルフィド基を持つ化合物を含む原料モノマーを重合硬化して製造される、エピスルフィド系プラスチック等が挙げられる。
【0023】
ポリチオウレタン系プラスチックの主成分となるイソシアネート基またはイソチオシアネート基を持つ化合物としては、公知の化合物を用いることができる。イソシアネート基を持つ化合物の具体例としては、エチレンジイソシアネート、トリメチレンジイソシアネート、2,4,4−トリメチルヘキサンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、m−キシリレンジイソシアナート等が挙げられる。
【0024】
また、メルカプト基を持つ化合物としても、公知の化合物を用いることができる。例えば、1,2−エタンジチオール、1,6−ヘキサンジチオール、1,1−シクロヘキサンジチオール等の脂肪族ポリチオール、1,2−ジメルカプトベンゼン、1,2,3−トリス(メルカプトメチル)ベンゼン等の芳香族ポリチオールが挙げられる。また、プラスチックレンズの高屈折率化のためには、メルカプト基以外にも、硫黄原子を含むポリチオールがより好ましく用いられ、その具体例としては、1,2−ビス(メルカプトメチルチオ)ベンゼン、1,2,3−トリス(メルカプトエチルチオ)ベンゼン、1,2−ビス((2−メルカプトエチル)チオ)−3−メルカプトプロパン等が挙げられる。
さらに、エピスルフィド化合物を主成分とする重合性組成物を重合硬化して、屈折率を1.7以上、好ましくは1.7を超えるようにしたものも好適に用いられる。
エピスルフィド化合物の具体例としては、公知のエピスルフィド基を持つ化合物が何ら制限なく使用できる。例えば、既存のエポキシ化合物のエポキシ基の一部あるいは全部の酸素を硫黄で置き換えることによって得られるエピスルフィド化合物が挙げられる。また、レンズ基材の高屈折率化のためには、エピスルフィド基以外にも硫黄原子を含有する化合物を用いることが好ましい。具体例としては、1,2−ビス(β−エピチオプロピルチオ)エタン、ビス−(β−エピチオプロピル)スルフィド、1,4−ビス(β−エピチオプロピルチオメチル)ベンゼン、2,5−ビス(β−エピチオプロピルチオメチル)−1,4−ジチアン、ビス−(β−エピチオプロピル)ジスルフィド等が挙げられる。これらのエピスルフィド化合物は単独で用いても混合して用いてもよい。
【0025】
レンズ基材は、モノマーとして前記したエピスルフィド化合物と所定の触媒を、あるいはさらに硫黄と混合した上で、ガラス製または金属製の鋳型に注入し、いわゆる注型重合を行うことで得られる。硫黄の存在下で重合を行うことにより、屈折率が1.74以上の高屈折率レンズ基材を得ることが容易となる。硫黄を混合する場合は、エピスルフィド化合物100質量部に対して0.1〜25質量部であることが好ましく、1〜20質量部であることがより好ましい。
【0026】
重合に用いられる触媒としては、アミン類、フォスフィン類、第4級アンモニウム塩類、第4級ホスホニウム塩類、第3級スルホニウム塩類、第2級ヨードニウム塩類、鉱酸類、ルイス酸類、有機酸類、ケイ酸類、四フッ化ホウ酸類等を挙げることができる。
これらの中でも好ましい触媒の例としては、アミノエタノール、1−アミノプロパノールのようなアミン類、テトラブチルアンモニウムブロマイドのような第4級アンモニウム塩、テトラメチルホスホニウムクロライド、テトラメチルホスホニウムブロマイドのような第4級ホスホニウム塩類などを挙げることができる。
また、用いられる触媒は、使用するモノマーの種類に応じて選択し、添加量も調整する必要があるが、一般的にはレンズ基材原料の全量を基準にして0.001〜0.1質量%が好ましい範囲である。
重合温度は、5〜120℃程度が好ましく、反応時間は、1〜72時間程度である。重合後は、レンズ基材の歪みを除去するために50〜150℃で10分間〜5時間程度アニール処理を行うことが好ましい。
【0027】
前記した重合性組成物を調製する際に、他のモノマーとして、ポリイソシアナート化合物および/またはポリチオール化合物をさらに混合しておくことも好ましい。
エピスルフィド化合物だけでなく、ポリイソシアナート化合物やポリチオール化合物も重合に関与することにより、染色性や耐熱性にさらに優れたレンズ基材を得ることが可能になる。
また、重合性組成物には、必要に応じて紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、光安定剤、内部離型剤、酸化防止剤、染料、フォトクロミック染料、顔料、帯電防止剤等の公知の各種添加剤を配合してもよい。
【0028】
(2.プライマー層)
プライマー層は、レンズ基材の最表面に形成され、レンズ基材と後述するハードコート層双方の界面に存在して、基本的にレンズ基材とハードコート層双方への密着性や耐衝撃性を発揮する性質を有する。
本発明におけるプライマー層は、下記(A)〜(C)成分を含むコーティング組成物から形成される。
(A)ポリウレタン樹脂
(B)金属酸化物微粒子
(C)有機ケイ素化合物
【0029】
(A)成分のポリウレタン樹脂は、レンズ基材とハードコート層の双方に密着性を発現する。また、他の樹脂、例えばポリエステル樹脂などを用いた場合にくらべて耐光性の向上効果に優れている。
ポリウレタン樹脂としては、特に制限はなく、ジイソシアネート化合物とジオール化合物とを反応して得られる水溶性または水分散性のポリウレタン樹脂を使用することができる。また、ポリウレタン樹脂は1種あるいは2種以上を用いることができる。ジイソシアネート化合物としては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、4,4−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート等の脂環式ジイソシアネート化合物、キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート等の芳香脂肪族ジイソシアネート化合物、トルイレンジイソシアネート、フェニルメタンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート化合物、これらジイソシアネートの変性物(カルボジイミド、ウレトジオン、ウレトイミン含有変性物など)等が挙げられる。
【0030】
ジオール化合物としては、例えば、エチレンオキシド、プロピレンオキシド等のアルキレンオキシドやテトラヒドロフラン等の複素環式エーテルを(共)重合させて得られるジオール化合物が挙げられる。かかるジオール化合物の具体例としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリヘキサメチレンエーテルグリコール等のポリエーテルジオール、ポリエチレンアジペート、ポリブチレンアジペート、ポリネオペンチルアジペート、ポリ−3−メチルペンチルアジペート、ポリエチレン/ブチレンアジペート、ポリネオペンチル/ヘキシルアジペート等のポリエステルジオール、ポリカプロラクトンジオール等のポリラクトンジオール、ポリカーボネートジオールが挙げられる。これらの中では、ポリエーテル系、ポリエステル系およびポリカーボネート系のうち1種以上が好ましい。
【0031】
ポリウレタン樹脂としては、望ましくは、ジオール化合物としてポリエーテル系、ポリエステル系、ポリカーボネート系のジオールを用いて得られるポリエーテル系ポリウレタン樹脂、ポリエステル系ポリウレタン樹脂、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂が挙げられる。ポリウレタン樹脂の形態も特に限定されない。代表的には、エマルジョンタイプ、例えば、自己乳化エマルジョンや、自己安定化タイプが挙げられる。特に、上記の化合物のうちカルボン酸基、スルホン酸基などの酸性基を有するジオールを用いたり、低分子量のポリヒドロキシ化合物を添加したり、酸性基を導入したウレタン樹脂、中でもカルボキシル基を有するものが望ましい。さらに、架橋処理により、これらカルボキシル基等の官能基を架橋させるのが、光沢向上、耐擦性向上等の点から望ましい。
【0032】
(A)成分のポリウレタン樹脂は、コーティング組成物中に微粒子として存在するが、この平均粒子径は5〜50nmであることが好ましく、より好ましくは20〜30nmである。ポリウレタン樹脂の平均粒子径が5nm未満、あるいは50nmを超えると、後述する(B)成分や(C)成分との相乗効果が発揮できず、プライマー層の屈折率を効果的に向上させることが困難となる。ポリウレタン樹脂の粒子径は、ポリウレタン樹脂の製造条件や分子量あるいは、コーティング組成物における攪拌速度などにより制御することができる。
なお、微粒子としてのポリウレタン樹脂の平均粒子径は光散乱法により測定される。例えば、動的光散乱式粒径分布測定装置((株)堀場製作所製、商品名LB−550)を使用して、粒径分布と平均粒子径を測定することができる。
ポリウレタン樹脂の配合量は、コーティング組成物における(A)〜(C)成分全体に対して20〜60質量%の範囲が好ましく、30〜50質量%であることがより好ましい。ポリウレタン樹脂の配合量が20質量%未満であると、最終的に眼鏡レンズを構成したときの耐衝撃性や耐光性が不十分となるおそれがある。また、ポリウレタン樹脂の配合量が60質量%を超えると、プライマー層の屈折率が低下して干渉縞が発生しやすくなり眼鏡レンズの外観が悪化するおそれがある。
【0033】
ポリウレタン樹脂の好ましい具体例としては、NeoRezR−960(ゼネカ製)、ハイドランAP−30(大日本インキ工業(株)製)、スーパーフレックス210(第一工業製薬(株)製)、アイゼラックスS−1020(保土ヶ谷化学(株)製)、ネオタンUE−5000(東亞合成(株)製)、RU−40シリーズ(スタール・ジャパン製)、WF−41シリーズ(スタール・ジャパン製)、WPC−101(日本ウレタン工業(株)製)等が挙げられる。
【0034】
(B)成分の金属酸化物微粒子は、プライマー層の屈折率向上を図るだけでなく、フィラーとしてプライマー層の架橋密度向上に作用して、耐水性、耐候性や耐光性の向上にも寄与する。
金属酸化物微粒子としては、酸化チタンを含有する微粒子が好ましく、特に耐光性の観点から、ルチル型の結晶構造を有する酸化チタンを含有する複合型を用いることがより好ましい。複合型の金属酸化物微粒子としては、例えば、酸化チタンおよび酸化スズ、または酸化チタン、酸化スズおよび酸化ケイ素からなるルチル型の結晶構造を有し、平均粒径1〜200nmの微粒子を挙げることができる。
ルチル型の結晶構造を有する酸化チタンを含有する金属酸化物微粒子を使用することで、耐候性や耐光性がより向上し、また屈折率はアナターゼ型の結晶よりもルチル型の結晶の方が高いので、比較的屈折率の高い金属酸化物微粒子(複合微粒子)が得られる。
【0035】
また、(B)成分の金属酸化物微粒子は、メチル基等のアルキル基を有する有機ケイ素化合物で表面処理されていることが好ましい。アルキル基を有する有機ケイ素化合物としては、後述する(C)成分として用いられる有機ケイ素化合物のうち、アルキル基を有するものが好適に用いられる。
アルキル基を有する有機ケイ素化合物で表面処理された金属酸化物微粒子を用いることにより、ポリウレタン樹脂との相溶性が向上し、結果として均質性が向上することから、干渉縞の発生が抑制されるとともに、最終的に眼鏡レンズの耐衝撃性も向上する。また、プライマー層の均質性が向上する際、(C)成分の有機ケイ素化合物により充填される空隙の均質性も同時に向上し、その結果、プライマー層の屈折率がより向上し、干渉縞の発生をより効果的に抑えることができる。
【0036】
(B)成分の種類や配合量は、目的とする屈折率や硬度等により決定される。
(B)成分の金属酸化物微粒子としては、平均粒子径が5〜50nmであることが好ましく、10〜20nmであることがより好ましい。この平均粒子径が5nm未満、あるいは50nmを超えると、(A)成分や、後述する(C)成分との相乗効果が発揮できず、プライマー層の屈折率を効果的に向上させることが困難となる。なお、金属酸化物微粒子の平均粒子径は(A)成分と同様の方法で測定できる。
(B)成分の配合量としては、コーティング組成物において、(B)成分の(A)〜(C)成分全体における割合が40〜70質量%であることが好ましく、50〜60質量%の範囲であることがより好ましい。配合量が少なすぎると、コーティング層の屈折率および耐摩耗性が不十分となる場合がある。一方、配合量が多すぎると、耐衝撃性が低下したり、コーティング層にクラックが生じるおそれもある。また、染色する際に、染色性が低下するおそれもある。
【0037】
(C)成分の有機ケイ素化合物は、プライマー層中の空隙部分を充填することによりプライマー層全体を高密度化し、屈折率の向上に寄与する。このような有機ケイ素化合物としては、下記式(1)で示される化合物を好適に使用することができる。
SiX3−n (1)
(式中、Rは、重合可能な反応基を有する有機基であり、Rは炭素数1〜6の炭化水素基であり、Xは加水分解基であり、nは0または1である。)
【0038】
式(1)の有機ケイ素化合物としては、例えば、ビニルトリアルコキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリ(β−メトキシ−エトキシ)シラン、アリルトリアルコキシシラン、アクリルオキシプロピルトリアルコキシシラン、メタクリルオキシプロピルトリアルコキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)−エチルトリアルコキシシラン、メルカプトプロピルトリアルコキシシラン、γ−アミノプロピルトリアルコキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリアルコキシシラン等があげられる。これらの有機ケイ素化合物は、2種類以上を混合して用いてもよい。また、テトラメトキシシランやテトラエトキシシランなど、一般式SiX(X=アルコキシル基)で示される4官能有機ケイ素化合物を用いても同様の効果を得ることができる。
【0039】
また、(C)成分としては、グリシドキシメチルトリメトキシシラン、グリシドキシメチルトリエトキシシラン、α−グリシドキシエチルトリメトキシシラン、α−グリシドキシエチルトリエトキシシラン、β−グリシドキシエチルトリエトキシシラン、β−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、α−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、α−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、(3,4−エポキシシクロヘキシル)メチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルビニルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルフェニルジエトキシシラン、δ−(3,4−エポキシシクロヘキシル)ブチルトリエトキシシラン等のエポキシ基を有する有機ケイ素化合物を用いることがプラスチック基材とハードコート層との密着性を向上させる点で好ましい。
【0040】
(C)成分は、平均粒子径が5nm以下であることが好ましく、1nm以下であることがより好ましい。この平均粒子径が10nm未満、あるいは50nmを超えると、(A)成分や(B)成分との相乗効果が発揮できず、プライマー層の屈折率を効果的に向上させることが困難となる。なお、(C)成分から形成される粒子の平均粒子径は(A)成分や(B)成分と同様の方法により測定できる。
【0041】
コーティング組成物における(C)成分の割合は、(A)〜(C)成分全体に対して0.1〜5質量%であることが好ましい。(C)成分である有機ケイ素化合物の割合が0.1質量%未満であると、レンズ基材とハードコート層との密着性が十分に発揮されないおそれがある。また、有機ケイ素化合物の割合が5質量%を超えると、耐摩耗性の低下をきたすおそれがある。
【0042】
上述したコーティング組成物(コーティング液)の塗布にあたっては、レンズ基材とプライマー層との密着性の向上を目的として、レンズ基材の表面を予めアルカリ処理、酸処理、界面活性剤処理、無機あるいは有機の微粒子による剥離/研磨処理、プラズマ処理を行うことが効果的である。また、コーティング用組成物の塗布/硬化方法としては、ディッピング法、スピンコート法、スプレーコート法、ロールコート法、あるいは、フローコート法等によりコーティング用組成物を塗布した後、40〜200℃の温度で数時間加熱/乾燥することにより、プライマー層を形成できる。
【0043】
また、プライマー層の層厚は、0.01〜50μm、特に0.1〜30μmの範囲が好ましい。プライマー層が薄すぎると耐水性や耐衝撃性などの基本性能が実現できず、逆に厚すぎると、表面の平滑性が損なわれたり、光学的歪や白濁、曇りなどの外観欠点を発生する場合がある。
プライマー層の層厚(膜厚)および屈折率分布は反射分光膜厚計(例えば、(株)大塚電子製、FE−3000)を使用し、プラスチックレンズ基材上のプライマー層およびハードコート層について、反射スペクトルを測定することにより求められる。例えば、得られた反射スペクトルデータに対し、最小二乗法によるカーブフィッティングを行うことで、プライマー層の厚さ方向の屈折率分布および層厚を求めることができる。
【0044】
上述したコーティング組成物を用いて、レンズ基材に塗布すると、プライマー層における表面層の屈折率を、プライマー層の内部の屈折率よりも低下させることができる。すなわち、プライマー層の屈折率をレンズ基材側から後述するハードコート層側にかけて連続的または段階的に低下させることができる。
干渉縞の抑制の観点より、プライマー層のレンズ基材近傍における屈折率とレンズ基材の屈折率との差は0.01以下であることが好ましく、また、プライマー層のハードコート層近傍における屈折率と前記ハードコート層の屈折率との差も0.01以下であることが好ましい。
【0045】
(3.ハードコート層)
ハードコート層は、下記(D)成分を含むコーティング組成物から形成される。
(D)酸化チタンを含まない金属酸化物微粒子
ここで、(D)成分としては、例えば、酸化ケイ素(SiO)、酸化スズ(SnO)あるいは、酸化ジルコニウム(ZrO)等である。これらは単体で用いてもよく、あるいは複合微粒子として用いてもよい。ただし、(D)成分には酸化チタンを実質的に含まない。もっとも、触媒残渣のように微量の酸化チタンが混入していても、本発明の効果を損なわない限りは許容される。
また、ハードコート層における(D)成分としての金属酸化物微粒子は、有機ケイ素化合物などを原料とする樹脂バインダー中に分散されることが好ましい。例えば、金属酸化物微粒子と有機ケイ素化合物とを含んだコーティング組成物を、前記したプライマー層の上に塗布することでハードコート層が形成される。有機ケイ素化合物は、前記したプライマー層に用いたものと同様のものを使用することができる。
ここで、有機ケイ素化合物は、ハードコート層におけるバインダー剤としての役割を果たすが、前記した式(1)におけるRとしては、良好な密着性を得る目的からは、エポキシ基が好ましく、前記した式(1)におけるRとしては、良好な耐擦傷性を得る目的からは、メチル基が好ましい。
【0046】
そして、金属酸化物微粒子と有機ケイ素化合物とを含んだコーティング組成物(ハードコート液)を調製する際には、金属酸化物微粒子が分散したゾルと、有機ケイ素化合物とを混合することが好ましい。金属酸化物微粒子の配合量は、ハードコート層の硬度や、屈折率等により決定されるものであるが、ハードコート液中の固形分の5〜80質量%、特に10〜60質量%であることが好ましい。配合量が少なすぎると、ハードコート層の耐磨耗性や屈折率が不十分となり、配合量が多すぎると、ハードコート層にクラックが生じることがある。また、ハードコート層を染色する場合には、染色性が低下する場合もある。
【0047】
なお、ハードコート層は、金属酸化物微粒子と有機ケイ素化合物だけでなく、多官能性エポキシ化合物を含有することが非常に有用である。多官能性エポキシ化合物は、プライマー層に対するハードコート層の密着性を向上させるとともに、ハードコート層の耐水性およびプラスチックレンズとしての耐衝撃性を向上させることができる。多官能性エポキシ化合物としては、例えば、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル等の脂肪族エポキシ化合物、イソホロンジオールジグリシジルエーテル、ビス−2,2−ヒドロキシシクロヘキシルプロパンジグリシジルエーテル等の脂環族エポキシ化合物、レゾルシンジグリシジルエーテル、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、クレゾールノボラックポリグリシジルエーテル等の芳香族エポキシ化合物等が挙げられる。
【0048】
さらに、ハードコート層に硬化触媒を添加してもよい。硬化触媒としては、例えば、過塩素酸、過塩素酸アンモニウム、過塩素酸マグネシウム等の過塩素酸類、Cu(II)、Zn(II)、Co(II)、Ni(II)、Be(II)、Ce(III)、Ta(III)、Ti(III)、Mn(III)、La(III)、Cr(III)、V(III)、Co(III)、Fe(III)、Al(III)、Ce(IV)、Zr(IV)、V(IV)等を中心金属原子とするアセチルアセトナート、アミン、グリシン等のアミノ酸、ルイス酸、有機酸金属塩等が挙げられる。
【0049】
このようにして得られるハードコート層形成用のコーティング組成物は、必要に応じ、溶剤に希釈して用いることができる。溶剤としては、アルコール類、エステル類、ケトン類、エーテル類、芳香族類等の溶剤が用いられる。また、ハードコート層形成用のコーティング用組成物は、必要に応じて、少量の金属キレート化合物、界面活性剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、分散染料、油溶染料、顔料、フォトクロミック化合物、ヒンダードアミン、ヒンダードフェノール系等の耐光耐熱安定剤等を添加し、コーティング液の塗布性、硬化速度および硬化後の被膜性能を改良することもできる。
【0050】
また、コーティング用組成物の塗布・硬化方法としては、ディッピング法、スピンコート法、スプレーコート法、ロールコート法、あるいは、フローコート法によりコーティング用組成物を塗布した後、40〜200℃の温度で数時間加熱乾燥することにより、ハードコート被膜を形成する。なお、ハードコート層の層厚は、0.05〜30μmであることが好ましい。層厚が0.05μm未満では、基本性能が実現できない。また、層厚が30μmを越えると表面の平滑性が損なわれたり、光学歪みが発生してしまう場合がある。
【0051】
(4.反射防止層)
反射防止層は、必要に応じてハードコート層上に形成される薄層である。反射防止層は、例えば、屈折率が1.3〜1.5である低屈折率層と、屈折率が1.8〜2.3である高屈折率層とを交互に積層して形成することができる。層数としては、5層あるいは7層程度が好ましい。
反射防止層を構成する各層に使用される無機物の例としては、SiO、SiO、ZrO、TiO、TiO、Ti、Ti、Al、TaO、Ta、NbO、Nb、NbO、Nb、CeO、MgO、Y、SnO、MgF、WOなどが挙げられる。これらの無機物は単独で用いるかもしくは2種以上を混合して用いる。例えば、低屈折率層をSiOの層とし、高屈折率層をZrOの層としてもよい。
このような反射防止層を形成する方法としては、真空蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法等が挙げられる。真空蒸着法においては、蒸着中にイオンビームを同時に照射するイオンビームアシスト法を用いてもよい。
【0052】
なお、反射防止層は、湿式法を用いて形成してもよい。例えば、内部空洞を有するシリカ系微粒子(以下、「中空シリカ系微粒子」ともいう)と、有機ケイ素化合物とを含んだコーティング組成物を、前記したプライマー層やハードコート層と同様の方法でコーティングして形成することもできる。ここで、中空シリカ系微粒子を用いるのは、内部空洞内にシリカよりも屈折率が低い気体または溶媒が包含されることによって、空洞のないシリカ系微粒子に比べてより屈折率が低減し、結果的に、優れた反射防止効果を付与できるからである。中空シリカ系微粒子は、特開2001−233611号公報に記載されている方法等で製造することができるが、平均粒径が1〜150nmの範囲にあり、かつ屈折率が1.16〜1.39の範囲にあるものを使用することが望ましい。また、有機ケイ素化合物としては、前記した式(1)の化合物を好適に用いることができる。反射防止層の層厚は50〜150nmの範囲が好ましい。この範囲より厚すぎたり薄すぎると十分な反射防止効果が得られないおそれがある。
【0053】
さらに、レンズ表面の撥水撥油性能を向上させる目的で、反射防止層の上にフッ素を含有する有機ケイ素化合物からなる防汚層を形成してもよい。フッ素を含有する有機ケイ素化合物としては、例えば、特開2005−301208号公報や特開2006−126782号公報に記載されている含フッ素シラン化合物を好適に使用することができる。
含フッ素シラン化合物は、有機溶剤に溶解し、所定濃度に調整した撥水処理液を用いて有機系反射防止層上に塗布する方法を採用することができる。塗布方法としては、ディッピング法、スピンコート法等を用いることができる。なお、撥水処理液を金属ペレットに充填した後、真空蒸着法などの乾式法を用いて防汚層を形成することも可能である。
防汚層の層厚は、特に限定されないが、0.001〜0.5μmが好ましい。より好ましくは0.001〜0.03μmである。防汚層の層厚が薄すぎると撥水撥油効果が乏しくなり、厚すぎると表面がべたつくので好ましくない。また、防汚層の厚さが0.03μmより厚くなると反射防止効果が低下するため好ましくない。
【0054】
本実施形態によれば、眼鏡レンズ基材に対する表面処理工程において、上述した(A)〜(C)成分によりプライマー層を形成し、(D)成分によりハードコート層を形成しているため、干渉縞が少なく、耐光性および耐擦傷性にも優れる眼鏡用プラスチックレンズを提供することが可能となる。特に、(D)成分としてハードコート層に含有される金属酸化物微粒子は、酸化チタンと異なり光活性ではないので、耐光性に悪影響を与えない。
また、(B)成分の金属酸化物微粒子がアルキル基を有する有機ケイ素化合物で表面処理されていると、ポリウレタン樹脂との相溶性が向上し、結果として均質性が向上することから、さらに干渉縞の発生が抑制されるとともに、眼鏡レンズの耐衝撃性も向上する。さらに、(C)成分の有機ケイ素化合物がエポキシ基を有すると、プラスチック基材とハードコート層との密着性がより向上し、耐擦傷性および耐衝撃性がさらに向上する。
【0055】
なお、一般にプライマー層の屈折率をレンズ基材の屈折率に合わせて高屈折率にした場合、プライマー層の屈折率とハードコート層との屈折率差が大きくなり、干渉縞が発生しやすくなる。ハードコート層の高屈折率化が困難なためである。しかし、本発明のプライマー層においては、屈折率を大きくして、ハードコート層との屈折率差が生じても干渉縞が生じにくい。これは、本発明におけるプライマー層の屈折率は、バルク層から表面層にかけて小さくなるように傾斜しており、プライマー層最表面の屈折率とハードコート層の屈折率差が小さくなっているためと推定される。特に、(A)成分と(B)成分の平均粒子径がともに10〜50nmであり、(C)成分から形成される粒子の平均粒子径が1〜10nmである場合に顕著である。それ故、ハードコート層の屈折率を無理に上げる必要がなく、(D)成分のように酸化チタンを含まない低屈折率の金属酸化物微粒子を用いることでハードコート層の設計自由度が向上する。
【実施例】
【0056】
次に、本発明の実施形態に基づく実施例および比較例を説明する。具体的には、以下に示す方法で眼鏡用のプラスチックレンズを製造して、干渉縞、耐擦傷性など各種の評価を行った。
【0057】
(実施例1)
(1)プラスチックレンズ基材
眼鏡用プラスチックレンズ基材としてセイコープレステージ(セイコーエプソン 製、屈折率1.74)を用いた。
(2)プライマー組成物の調製
ステンレス製容器内に、メチルアルコール2900質量部、0.1規定水酸化ナトリウム水溶液50質量部を投入し、十分に攪拌した後、酸化チタン、酸化スズ、酸化ケイ素を主体とする複合微粒子ゾル(ルチル型結晶構造、メタノール分散、表面処理剤γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、全固形分濃度20質量%、触媒化成工業(株)製、商品名オプトレイク)1500質量部を加え攪拌混合した。次いでポリウレタン樹脂(水分散、全固形分濃度35質量%、第一工業製薬(株)製、商品名スーパーフレックス210)580質量部、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン35質量部を加えて攪拌混合した後、更にシリコーン系界面活性剤(東レ・ダウコーニング(株)製、商品名L−7604)2質量部を加えて一昼夜攪拌を続けた後、2μmのフィルターで濾過を行い、プライマー組成物を得た。
【0058】
(3)ハードコート組成物の調製
ステンレス製容器に、ブチルセロソルブ1000質量部を投入し、γ―グリシドキシプロピルトリメトキシシラン1200質量部を加えて十分攪拌した後、0.1モル/リットル塩酸水溶液300質量部を添加して一昼夜攪拌を続け、シラン加水分解物を得た。このシラン加水分解物中にシリコーン系界面活性剤(東レ・ダウコーニング(株)製、商品名L−7001)30質量部を加えて1時間攪拌した後、酸化ケイ素を主体とする微粒子ゾル(イソプロパノール分散、全固形分濃度20質量%、触媒化成工業(株)製、商品名オスカル)7300質量部を加えて2時間攪拌混合した。次いでエポキシ樹脂(ナガセ化成(株)製、商品名EX−313)250質量部を加えて2時間攪拌した後、鉄(III)ア
セチルアセトナート20質量部を加えて1時間攪拌し、2μmのフィルターで濾過を行い、ハードコート組成物を得た。
【0059】
(4)プライマー層、ハードコート層の形成
前記(1)で得られたプラスチックレンズ基材に対してまず、アルカリ処理を行った。具体的には、50℃に保たれた2モル/リットルの水酸化カリウム水溶液に5分間浸漬した後、純水で洗浄し、次いで25℃に保たれた1.0モル/リットル硫酸に1分間浸漬して中和処理を行った。次いで、純水洗浄および乾燥、放冷を行った。
次に、前記(2)で調製したプライマー組成物中にレンズ基材を浸漬し、引き上げ速度400mm/分でディップコートして70℃で20分焼成し、基材表面に乾燥後の層厚が700nmとなる様にプライマー層を形成した。次いで、プライマー層が形成されたレンズ基材を(3)で調製したハードコート組成物中に浸漬し、引き上げ速度400mm/分でディップコートした後、80℃で30分乾燥・焼成を行い、層厚が2100nmとなる様にハードコート層を形成した。その後、125℃に保たれたオーブン内で3時間加熱して、プライマー層とハードコート層が形成されたプラスチックレンズを得た。
【0060】
(5)反射防止層の形成
プライマー層およびハードコート層が形成されたプラスチックレンズに対し、プラズマ処理(アルゴンプラズマ400W×60秒)を行い、基板から大気に向かって順に、SiO、ZrO、SiO、ZrO、SiOの5層で構成される多層反射防止層を真空蒸着機((株)シンクロン製)にて形成した。各層の光学的層厚は、最初のSiO層、次のZrOとSiOの等価膜層および次のZrO層、最上層のSiO層について、設計波長λを520nmとしてそれぞれλ/4となる様に形成した。
【0061】
(実施例2)
実施例1のハードコート組成物の調製において、以下のように変更した以外は、実施例1と同様にしてプライマー層、ハードコート層および反射防止層が形成されたプラスチックレンズを得た。
(ハードコート組成物の調製)
ステンレス製容器に、ブチルセロソルブ1000質量部、メタノール2500質量部を投入し、γ―グリシドキシプロピルトリメトキシシラン1200質量部を加えて十分攪拌した後、0.1モル/リットル塩酸水溶液300質量部を添加して一昼夜攪拌を続け、シラン加水分解物を得た。このシラン加水分解物中にシリコーン系界面活性剤(東レ・ダウコーニング(株)製、商品名L−7001)30質量部を加えて1時間攪拌した後、酸化スズ、酸化ジルコニウム、酸化ケイ素を主体とする微粒子ゾル(メタノール分散、全固形分濃度30質量%、日産化学工業(株)製、商品名サンコロイド)5000質量部を加えて2時間攪拌混合した。次いでエポキシ樹脂(ナガセ化成(株)製、商品名EX−313)250質量部を加えて2時間攪拌した後、鉄(III)アセチルアセトナート20質量部を加えて1時間攪拌し、2μmのフィルターで濾過を行い、ハードコート組成物を得た。
【0062】
(実施例3)
(1)プラスチックレンズ基材の作製
窒素雰囲気下、ビス(β−エピチオプロピル)ジスルフィド90質量部、硫黄10質量部を100℃で1時間、混合攪拌した。冷却後、触媒としてテトラブチルアンモニウムブロマイド0.05質量部を混合後均一液とした。ついでこれを0.5μmのPTFEフィルターで濾過し1.2mm厚のレンズ成型用ガラスモールドに注入し、オーブン中で10℃から22時間かけて120℃に昇温し重合硬化させ、レンズ基材を製造した。得られたレンズの屈折率は1.76、アッベ数は33であり、かつ透明で表面状態は良好であった。
【0063】
(2)プライマー組成物の調製
ステンレス製容器内に、メチルアルコール6268質量部、0.1規定水酸化ナトリウム水溶液100質量部を投入し、十分に攪拌した後、酸化チタン、酸化スズ、酸化ケイ素を主体とする複合微粒子ゾル(ルチル型結晶構造、メタノール分散、表面処理剤メチルトリメトキシシラン、全固形分濃度20質量%、触媒化成工業(株)製、商品名オプトレイク)2700質量部を加え攪拌混合した。次いでポリウレタン樹脂(水分散、全固形分濃度35質量%、第一工業製薬(株)製、商品名スーパーフレックス210 424質量部、水分散、全固形分濃度38質量%、第一工業製薬(株)製、商品名スーパーフレックス460 391質量部)815質量部、フェニルトリメトキシシラン(商品名KBM−103、信越化学工業(株)製)97質量部(プライマー層中での質量%:7%)97質量部を加えて攪拌混合した後、更にシリコーン系界面活性剤(東レ・ダウコーニング(株)製、商品名L−7604)2質量部を加えて一昼夜攪拌を続けた後、2μmのフィルターで濾過を行い、プライマー組成物を得た。
なお、本実施例および後述の実施例2〜9において、組成物中のポリウレタン樹脂((A)成分)の平均粒径は25nmであり、金属酸化物微粒子((B)成分)の平均粒径は20nmであり、有機ケイ素化合物から形成された微粒子((C)成分)の平均粒径は1nm以下であった。これらの平均粒径は、各成分を各々、実施例と同一条件で溶媒中に分散させた後、動的光散乱式粒径分布測定装置((株)堀場製作所製、商品名LB−550)により測定し、粒子径基準を個数として算出したものである。
【0064】
(3)ハードコート組成物の調製
ステンレス容器に、ブチルセロソルブ3380質量部を投入し、γ―グリシドシキプロピルトリメトキシシラン1343質量部を加えて十分攪拌した後、0.1モル/リットル塩酸水溶液615質量部を添加して一昼夜攪拌を続け、シラン加水分解物を得た。このシラン加水分解物中に、シリコーン系界面活性剤(東レ・ダウコーニング(株)製、商品名 L−7001)30質量部を加えて1時間攪拌した後、酸化ケイ素微粒子ゾル(イソプロパノール分散、固形分濃度30wt%、日揮触媒化成(株)製、商品名 オスカル1432)4333質量部を加えて3時間攪拌混合した。次いで、エポキシ樹脂(ナガセ化成(株)製、商品名 EX−313)250質量部を加えて2時間攪拌した後、鉄(III)アセチルアセトナート27質量部、マンガン(III)アセチルアセトナート9質量部を加えて2時間攪拌し、2μmのフィルターで濾過を行い、ハードコート組成物を得た。
【0065】
(4)プライマー層、ハードコート層の形成
前記(1)で得られたプラスチックレンズ基材に対してまず、アルカリ処理を行った。具体的には、50℃に保たれた2モル/リットルの水酸化カリウム水溶液に5分間浸漬した後、純水で洗浄し、次いで25℃に保たれた1.0モル/リットル硫酸に1分間浸漬して中和処理を行った。次いで、純水洗浄および乾燥、放冷を行った。
次に、前記(2)で調製したプライマー組成物中にレンズ基材を浸漬し、引き上げ速度400mm/分でディップコートして70℃で20分焼成し、基材表面に乾燥後の層厚が700nmとなる様にプライマー層を形成した。次いで、プライマー層が形成されたレンズ基材を(3)で調製したハードコート組成物中に浸漬し、引き上げ速度400mm/分でディップコートした後、80℃で30分乾燥・焼成を行い、層厚が2100nmとなる様にハードコート層を形成した。その後、125℃に保たれたオーブン内で3時間加熱して、プライマー層とハードコート層が形成されたプラスチックレンズを得た。このプライマー層の屈折率は、内部層が1.736、表面層が1.48であった。
【0066】
(5)反射防止層の形成
プライマー層およびハードコート層が形成されたプラスチックレンズにプラズマ処理(アルゴンプラズマ400W×60秒)を行い、基板から大気に向かって順に、SiO、ZrO、SiO、ZrO、SiOの5層で構成される多層反射防止層を真空蒸着機((株)シンクロン製)にて形成した。各層の光学的層厚は、最初のSiO層、次のZrOとSiOの等価膜層および次のZrO層、最上層のSiO層について、設計波長λを520nmとしてそれぞれλ/4となる様に形成した。
【0067】
(実施例4)
下記プライマー組成物の調製以外は、実施例3と同様にしてプラスチックレンズを作製した。このプライマー層の屈折率は、内部層が1.741、表面層が1.48であった。
ステンレス製容器内に、メチルアルコール6248質量部、0.1規定水酸化ナトリウム水溶液100質量部を投入し、十分に攪拌した後、酸化チタン、酸化スズ、酸化ケイ素を主体とする複合微粒子ゾル(ルチル型結晶構造、メタノール分散、表面処理剤メチルトリメトキシシラン、全固形分濃度20質量%、触媒化成工業(株)製、商品名オプトレイク)2700質量部を加え攪拌混合した。次いでポリウレタン樹脂を815質量部(水分散、全固形分濃度35質量%、第一工業製薬(株)製、商品名スーパーフレックス210 424質量部、水分散、全固形分濃度38質量%、第一工業製薬(株)製、商品名スーパーフレックス460 391質量部、)、フェニルトリエトキシシラン(商品名KBE-103、信越化学工業(株)製)117質量部(プライマー膜中での質量%:7%)を加えて攪拌混合した後、更にシリコーン系界面活性剤(東レ・ダウコーニング(株)製、商品名L-7604)2質量部を加えて一昼夜攪拌を続けた後、2μmのフィルターで濾過を行い、プライマー組成物を得た。
【0068】
(実施例5)
下記プライマー組成物の調製以外は、実施例3と同様にしてプラスチックレンズを作製した。このプライマー層の屈折率は、内部層が1.742、表面層が1.48であった。
ステンレス製容器内に、メチルアルコール6287質量部、0.1規定水酸化ナトリウム水溶液100質量部を投入し、十分に攪拌した後、酸化チタン、酸化スズ、酸化ケイ素を主体とする複合微粒子ゾル(ルチル型結晶構造、メタノール分散、表面処理剤メチルトリメトキシシラン、全固形分濃度20質量%、触媒化成工業(株)製、商品名オプトレイク)2700質量部を加え攪拌混合した。次いでポリウレタン樹脂を815質量部(水分散、全固形分濃度35質量%、第一工業製薬(株)製、商品名スーパーフレックス210 424質量部、水分散、全固形分濃度38質量%、第一工業製薬(株)製、商品名スーパーフレックス460 391質量部、)、ジフェニルジメトキシシラン(商品名KBM-202SS、信越化学工業(株)製)77質量部(プライマー膜中での質量%:7%)を加えて攪拌混合した後、更にシリコーン系界面活性剤(東レ・ダウコーニング(株)製、商品名L-7604)2質量部を加えて一昼夜攪拌を続けた後、2μmのフィルターで濾過を行い、プライマー組成物を得た。
【0069】
(実施例6)
下記プライマー組成物の調製以外は、実施例3と同様にしてプラスチックレンズを作製した。このプライマー層の屈折率は、内部層が1.760、表面層が1.48であった。
ステンレス製容器内に、メチルアルコール6242質量部、0.1規定水酸化ナトリウム水溶液100質量部を投入し、十分に攪拌した後、酸化チタン、酸化スズ、酸化ケイ素を主体とする複合微粒子ゾル(ルチル型結晶構造、メタノール分散、表面処理剤メチルトリメトキシシラン、全固形分濃度20質量%、触媒化成工業(株)製、商品名オプトレイク)2700質量部を加え攪拌混合した。次いでポリウレタン樹脂を716質量部(水分散、全固形分濃度35質量%、第一工業製薬(株)製、商品名スーパーフレックス210 372質量部、水分散、全固形分濃度38質量%、第一工業製薬(株)製、商品名スーパーフレックス460 343質量部、)、ジフェニルジメトキシシラン(商品名KBM-202SS、信越化学工業(株)製)77質量部(プライマー層中での質量%:11%)を加えて攪拌混合した後、更にシリコーン系界面活性剤(東レ・ダウコーニング(株)製、商品名L-7604)2質量部を加えて一昼夜攪拌を続けた後、2μmのフィルターで濾過を行い、プライマー組成物を得た。
【0070】
(実施例7)
下記プライマー組成物の調製以外は、実施例3と同様にしてプラスチックレンズを作製した。
ステンレス製容器内に、メチルアルコール2900質量部、0.1規定水酸化ナトリウム水溶液50質量部を投入し、十分に攪拌した後、酸化チタン、酸化スズ、酸化ケイ素を主体とする複合微粒子ゾル(ルチル型結晶構造、メタノール分散、表面処理剤γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、全固形分濃度20質量%、触媒化成工業(株)製、商品名オプトレイク)1500質量部を加え攪拌混合した。次いでポリウレタン樹脂(水分散、全固形分濃度35質量%、平均粒子径60nm)580質量部、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン35質量部を加えて攪拌混合した後、更にシリコーン系界面活性剤(東レ・ダウコーニング(株)製、商品名L−7604)2質量部を加えて一昼夜攪拌を続けた後、2μmのフィルターで濾過を行い、プライマー組成物を得た。
このプライマー組成物を用いたプライマー層を有するプラスチックレンズの干渉縞は良好なレベルであったが、目視評価において、白濁(クモリ)の発生がやや見られた。
【0071】
(実施例8)
下記プライマー組成物の調製以外は、実施例3と同様にしてプラスチックレンズを作製した。
ステンレス製容器内に、メチルアルコール2900質量部、0.1規定水酸化ナトリウム水溶液50質量部を投入し、十分に攪拌した後、酸化チタン、酸化スズ、酸化ケイ素を主体とする複合微粒子ゾル(ルチル型結晶構造、メタノール分散、表面処理剤γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、全固形分濃度20質量%、平均粒子径55nm)1500質量部を加え攪拌混合した。次いでポリウレタン樹脂(水分散、全固形分濃度35質量%、第一工業製薬(株)性、商品名スーパーフレックス210)580質量部、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン35質量部を加えて攪拌混合した後、更にシリコーン系界面活性剤(東レ・ダウコーニング(株)製、商品名L−7604)2質量部を加えて一昼夜攪拌を続けた後、2μmのフィルターで濾過を行い、プライマー組成物を得た。
このプライマー組成物を用いたプライマー層を有するプラスチックレンズの干渉縞は良好なレベルであったが、目視評価において、白濁(クモリ)の発生がやや見られた。
【0072】
(実施例9)
下記プライマー組成物の調製以外は、実施例3と同様にしてプラスチックレンズを作製した。
ステンレス製容器内に、メチルアルコール2900質量部、0.1規定水酸化ナトリウム水溶液50質量部を投入し、十分に攪拌した後、酸化チタン、酸化スズ、酸化ケイ素を主体とする複合微粒子ゾル(ルチル型結晶構造、メタノール分散、表面処理剤γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、全固形分濃度20質量%、触媒化成工業(株)製、商品名オプトレイク)1500質量部を加え攪拌混合した。次いでポリウレタン樹脂(水分散、全固形分濃度35質量%、第一工業製薬(株)性、商品名スーパーフレックス210)580質量部、予めアルカリ触媒により加水分解縮合を促進したγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(平均粒子径7nm)35質量部を加えて攪拌混合した後、更にシリコーン系界面活性剤(東レ・ダウコーニング(株)製、商品名L−7604)2質量部を加えて一昼夜攪拌を続けた後、2μmのフィルターで濾過を行い、プライマー組成物を得た。
このプライマー組成物を用いたプライマー層を有するプラスチックレンズの干渉縞はやや良好なレベルであり、目視評価において、白濁(クモリ)の発生がやや見られた。
【0073】
(比較例1)
実施例1におけるプライマー層およびハードコート層を、下記の条件で調製したプライマー組成物およびハードコート組成物を使用して形成した。それ以外は、実施例1と同様にしてプライマー層、ハードコート層、反射防止層が形成されたプラスチックレンズを得た。
(プライマー組成物の調製)
ステンレス製容器内に、メチルアルコール3700質量部、純水250質量部、プロピレングリコールモノメチルエーテル1000質量部を投入し、十分に攪拌した後、酸化チタン、酸化スズ、酸化ケイ素を主体とする複合微粒子ゾル(ルチル型結晶構造、メタノール分散、表面処理剤γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、全固形分濃度20質量%、触媒化成工業(株)製、商品名オプトレイク)2800質量部を加え攪拌混合した。次いで、ポリエステル樹脂2200質量部を加えて攪拌混合した後、シリコーン系界面活性剤(東レ・ダウコーニング(株)製、商品名L−7604)2質量部を加えて一昼夜攪拌を続けた。その後、2μmのフィルターで濾過を行うことにより、プライマー組成物を得た。
【0074】
(ハードコート組成物の調製)
ステンレス製容器に、ブチルセロソルブ1000質量部を投入し、γ―グリシドキシプロピルトリメトキシシラン1200質量部を加えて十分攪拌した後、0.1モル/リットル塩酸水溶液300質量部を添加して一昼夜攪拌を続け、シラン加水分解物を得た。このシラン加水分解物中にシリコーン系界面活性剤(東レ・ダウコーニング(株)製、商品名L−7001)30質量部を加えて1時間攪拌した後、酸化チタン、酸化スズ、酸化ケイ素を主体とする微粒子ゾル(メタノール分散、全固形分濃度20質量%、触媒化成工業(株)製、商品名オプトレイク1120Z(8RS−25・A17))7300質量部を加えて2時間攪拌混合した。次いでエポキシ樹脂(ナガセ化成(株)製、商品名EX−313)250質量部を加えて2時間攪拌した後、鉄(III)アセチルアセトナート20質量部を加えて1時間攪拌し、2μmのフィルターで濾過を行い、ハードコート組成物を得た。
【0075】
(比較例2)
比較例1におけるプライマー組成物を用いてプライマー層を形成し、実施例1におけるハードコート組成物を用いてハードコート層を形成した以外は、実施例1と同様にしてプライマー層、ハードコート層、反射防止層が形成されたプラスチックレンズを得た。
【0076】
(評価方法)
得られた各プラスチックレンズについて、下記の各方法により評価した。評価項目は、干渉縞、耐擦傷性、初期密着性、耐湿性、耐温水性、および耐光性の6項目である。実施例1〜6、比較例1〜2の結果を表1に示す。実施例7〜9については、干渉縞の結果を表2に示す。
(a)干渉縞:
暗箱内において、プラスチックレンズの干渉縞を観察し、次の3段階に分けて評価した。
○:三波長型蛍光灯下で干渉縞の発生が確認されず、優れた外観が得られている。
△:三波長型蛍光灯下で干渉縞の発生が確認されるが、非三波長型蛍光灯下では干渉縞の発生が確認されない。
×:三波長型蛍光灯および非三波長型蛍光灯双方の下で干渉縞の発生が確認でき、外観が不良である。
【0077】
(b)耐擦傷性:
ボンスター#0000スチールウール(日本スチールウール(株)製)で9.8N(1kgf)の荷重をかけた状態で10往復表面を摩擦し、1cm×3cmの範囲内に傷ついた程度を目視で次の5段階に分けて評価した。
a:傷が発生していない。
b:1〜5本の傷が発生している。
c:6〜20本の傷が発生している。
d:21本以上の傷が発生している。
e:レンズ表面全体に傷が発生している。
【0078】
(c)初期密着性:
レンズ基材とプライマー層、ハードコート層および反射防止層の各層界面の密着性は、JISK5400 8.5.1〜2碁盤目法・碁盤目テープ法に準じてクロスカットテープ試験によって行った。即ち、カッターナイフを用いプラスチックレンズ表面に1mm間隔で碁盤目状に切れ目を入れ、1平方mmのマス目を100個形成させる。次に、その上へセロファン粘着テープ(ニチバン(株)製商品名「セロテープ(登録商標)」)を強く押し付けた後、表面から90度方向へ急に引っ張り、剥離した後のコート被膜の残存マス目数を以下の5水準で評価した。
A:全く膜剥がれがない(膜剥がれ目数=0/100)
B:ほとんど膜剥がれがない(膜剥がれ目数=1〜5/100)
C:やや膜剥がれが発生(膜剥がれ目数=6〜20/100)
D:膜剥がれ発生(膜剥がれ目数=21〜50/100)
E:密着不良(膜剥がれ目数=51〜100/100)
【0079】
(d)耐湿性:
プラスチックレンズを温度40℃、相対湿度90%に保たれた恒温恒湿槽中に10日間放置した後、前記(c)記載のクロスカットテープ試験を行い、コート被膜の残存マス目数を耐久性指標とした。
【0080】
(e)耐温水性:
プラスチックレンズを温度90℃に保たれた温浴中に2時間放浸漬した後、前記(c)記載のクロスカットテープ試験を行い、コート被膜の残存マス目数を耐久性指標とした。
【0081】
(f)耐光性:
プラスチックレンズの凸面側(眼鏡レンズの非眼球側)に対して、カーボンアークサンシャインウェザーメーター(スガ試験機(株)製)にて200時間照射を行い、カーボンアークサンシャインウェザーメーターからレンズを取り出して水冷した後、前記(c)記載のクロスカットテープ試験を行い、コート被膜の残存マス目数を耐久性指標とした。
【0082】
【表1】

【0083】
【表2】

【0084】
(結果)
表1、2の結果によれば、実施例1〜9の眼鏡レンズでは、ハードコート層に酸化ケイ素を主体とする微粒子ゾルを使用しており、屈折率が低いにも関わらず、干渉縞の発生が認められない。これは、プライマー表面の屈折率が深さ方向に傾斜しており、プライマー層とハードコート層界面の屈折率差が小さくなっているためと思われる。また、実施例1〜6の眼鏡レンズは、耐擦傷性や耐光性等の諸物性も良好であることがわかる。これは、ハードコート層に酸化ケイ素を主体とする微粒子ゾルを使用しており、硬度および耐光性に優れるためである。
一方、比較例1の眼鏡レンズでは、干渉縞は比較的少ないものの、耐擦傷性および耐光性が不足している。これは、ハードコート層に酸化チタン、酸化スズ、酸化ジルコニウムを主体とする微粒子ゾルを含有するので、硬度が低下するとともに耐光性も悪化したものと思われる。また、比較例2の眼鏡レンズでは、干渉縞がかなり激しい。これは、ハードコート層に酸化ケイ素を主体とする微粒子ゾルを使用しているため、屈折率が低くなるとともに、プライマー層における屈折率傾斜現象が起こらないので、低屈折率のハードコート層と高屈折率のプライマー層とで界面の屈折率差が大きくなったせいであると思われる。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明の光学物品は、プラスチックレンズとして好適に使用することができる。例えば、眼鏡レンズ、カメラレンズ、望遠鏡用レンズ、顕微鏡用レンズ、ステッパー用集光レンズ等の光学レンズを挙げることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチック基材からなる光学物品であって、
前記プラスチック基材の表面には、プライマー層とハードコート層とが形成されており、
前記プライマー層は、下記(A)〜(C)成分を含むコーティング組成物から形成され、
(A)ポリウレタン樹脂
(B)金属酸化物微粒子
(C)有機ケイ素化合物
前記ハードコート層は、下記(D)成分を含むコーティング組成物から形成されていることを特徴とする光学物品。
(D)酸化チタンを含まない金属酸化物微粒子
【請求項2】
請求項1の光学物品において、
前記(D)成分が酸化ケイ素を含有することを特徴とする光学物品。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の光学物品において、
前記プラスチック基材は、エピスルフィド化合物を主成分とする重合性組成物を重合硬化して得られ、屈折率が1.7以上であることを特徴とする光学物品。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれかに記載の光学物品において、
前記コーティング組成物における(A)成分と(B)成分の平均粒子径がともに5〜50nmであり、
前記(C)成分の平均粒子径が5nm以下であることを特徴とする光学物品。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれかに記載の光学物品において、
前記プライマー層の屈折率が前記プラスチック基材側から前記ハードコート層側にかけて連続的または段階的に低下していることを特徴とする光学物品。
【請求項6】
請求項5に記載の光学物品において、
前記プライマー層の前記プラスチック基材近傍における屈折率と前記プラスチック基材の屈折率との差が0.01以下であることを特徴とする光学物品。
【請求項7】
請求項5または請求項6に記載の光学物品において、
前記プライマー層の前記ハードコート層近傍における屈折率と前記ハードコート層の屈折率との差が0.01以下であることを特徴とする光学物品。
【請求項8】
請求項1〜請求項7のいずれかに記載の光学物品において、
前記(C)成分が、エポキシ基を有する有機ケイ素化合物であることを特徴とする光学物品。
【請求項9】
請求項1〜請求項8のいずれかに記載の光学物品において、
前記(C)成分がオルガノアルコキシシラン化合物であり、加水分解を施さない単量体として用いられることを特徴とする光学物品。
【請求項10】
請求項1〜請求項9のいずれかに記載の光学物品において、
前記(C)成分の前記(A)〜(C)成分全体における割合が0.1〜5質量%であることを特徴とする光学物品。
【請求項11】
請求項1〜請求項10のいずれかに記載の光学物品において、
前記(B)成分が、アルキル基を有する有機ケイ素化合物で表面処理された金属酸化物微粒子であることを特徴とする光学物品。
【請求項12】
請求項1〜請求項11のいずれかに記載の光学物品において、
前記(B)成分が、ルチル型の結晶構造を有する酸化チタンを主成分とする金属酸化物微粒子であることを特徴とする光学物品。
【請求項13】
請求項1〜請求項12のいずれかに記載の光学物品において、
前記(B)成分の前記(A)〜(C)成分全体における割合が40〜80質量%であることを特徴とする光学物品。
【請求項14】
請求項1〜請求項13のいずれかに記載の光学物品がプラスチックレンズであることを特徴とする光学物品。
【請求項15】
プラスチック基材からなる光学物品の製造方法であって、
重合性組成物を重合硬化してプラスチック基材を製造する基材製造工程と、
前記プラスチック基材の表面に、プライマー層とハードコート層とを形成する表面処理工程とを備え、
前記表面処理工程におけるプライマー層形成工程では、下記(A)〜(C)成分を含むコーティング組成物を用い、
(A)ポリウレタン樹脂
(B)金属酸化物微粒子
(C)有機ケイ素化合物
ハードコート層形成工程では、下記(D)成分を含むコーティング組成物を用いることを特徴とする光学物品の製造方法。
(D)酸化チタンを含まない金属酸化物微粒子

【公開番号】特開2010−91995(P2010−91995A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−267854(P2008−267854)
【出願日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】