説明

光学物品の製造方法

【課題】光学特性に影響を与えず、高精度な光学特性を有する光学物品が得られる光学物
品の製造方法を提供すること
【解決手段】第一光学基板11または第二光学基板の少なくとも一方に多層膜12が形成
されて前記多層膜12を介して互いに接合する光学物品の製造方法であって、第一光学基
板11または第二光学基板の少なくとも一方に形成された前記多層膜12の表面に沿って
衝撃付与部材20を滑走させて前記多層膜12の表面の凸部121を脱離し、前記多層膜
12の表面、前記第一光学基板11または前記第二光学基板の少なくともいずれか一方に
プラズマ重合膜を形成し、これらを接合することを特徴とする光学物品の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学物品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、偏光変換素子を製造する際、光反射効率を高めるために光学薄膜を複数層形成す
ることが知られている。この光学薄膜を形成する方法としてPVDやプラズマCVD等の
蒸着方法が用いられている(特許文献1参照)。
また、この光学薄膜上の異物による凹凸欠陥をブラシにより除去する方法(特許文献2
参照)やイオンスパッタにより除去する方法(特許文献3参照)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−90520号公報
【特許文献2】特開平11−337970号公報
【特許文献3】特開2006−59835号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
光学基板に光学薄膜を蒸着により形成する際、例えば、電子ビーム加熱蒸着では電子ビ
ームのエミッション電流を増やすと蒸発源に過度のエネルギーが加わり、蒸発源の蒸発が
盛んになり、局所的に突沸を起こすことがある。この突沸(いわゆるスプラッシュ)が起
こると、突沸物が光学基板表面に飛来し、その突沸物の上にも薄膜が逐次成膜される為、
突出した形状に形成され、凸部として多層膜に点在しまう。
【0005】
そして、複数の光学基板を表面活性化されたプラズマ重合膜により分子接合して光学物
品を製造する際、光学基板に形成された多層膜に前述の突出した凸部が存在すると、接合
不良が生じる。凸部によって、接合面同士を十分に近づけることが阻害されるので、分子
接合を強固なものにできない。
文献1のように光学接着剤で接合する場合は接合面の間隔、すなわち光学接着剤の膜厚
は数μmである為、この凸部を原因とする接合不良にならない。しかし、分子接合の場合
、プラズマ重合膜の膜厚は数nmから数百nmまでの間であるので、この凸部があると、
接合面の間隔が十分に近づくことができず、安定した分子接合がおこなわれない。
【0006】
また、この凸部を研磨、ブラシ、イオンスパッタ等の物理的加工により除去する場合、
薄膜全体にキズ、クラック等の障害を与える恐れがある。これらのキズ、クラックは光学
部品の光学特性対して、悪い影響を与える。
【0007】
本発明の目的は、光学特性に影響を与えず、高精度な光学特性を有する光学物品が得ら
れる光学物品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
[適用例1]
本適用例に係わる光学物品の製造方法は、複数の光学基板の少なくとも一方の面に光学
機能膜となる多層膜を形成し、前記多層膜を挟んで分子接合する光学物品の製造方法であ
って、前記多層膜の表面に沿って衝撃付与部材を滑走させて前記多層膜の凸部を脱離し、
接合面の少なくとも一方の面にプラズマ重合膜を形成し、前記接合面の表面を活性化し、
前記接合面の表面が活性化された光学基板同士を貼り合わせて分子接合とすることを特徴
とする。
【0009】
上記適用例に係わる光学物品の製造方法では、衝撃付与部材を多層膜表面に沿って滑走
させるので、多層膜の表面から突出する凸部に衝撃付与部材が衝突し、この衝撃により凸
部が多層膜から脱離する。
凸部が数μm程度の大きさで、衝撃付与部材が概ね数十mm長さの部材であるとき、凸
部と衝撃付与部材とが衝突する際、小さい凸部には著しく大きな応力が局所集中すること
になる。この大きな応力によって、凸部は多層膜から容易に離開して、脱離できる。
この条件において、衝撃付与部材の質量に比べて凸部の質量が無視小(数千分の1程度
)である場合は、運動量保存法則から衝撃付与部材の数千倍のエネルギーで凸部に衝撃を
与えることができる。
しかしながら、凸部に比して数千倍もの質量を有する衝撃付与部材の過大なる運動エネ
ルギーが衝突エネルギーとして凸部に局所集中して伝達される。
したがって、本適用例では、衝撃付与部材が凸部に衝突する際、凸部を容易に離開し、
脱離させることができる。
【0010】
これにより、多層膜の表面が突出物のない表面となる。よって、プラズマ重合膜を用い
て、複数の光学基板を貼り合せる際、突出物による接合阻害がなく密着させることができ
、強固な分子接合を形成できる。
したがって、本適用例では、強固な接合が実現でき、高精度な光学特性を有する光学物
品を得ることができる。
【0011】
[適用例2]
本適用例に係わる光学物品の製造方法は、前記衝撃付与部材を前記多層膜の表面形状に
沿って湾曲させることが好ましい。
【0012】
上記適用例に係わる光学物品の製造方法では、衝撃付与部材を多層膜の表面形状に沿っ
て湾曲させるので、光学基板に多層膜を形成することで生じる面内応力によって光学基板
が反り、多層膜が平面ではなく湾曲した曲面となる場合でも、衝撃付与部材を面全体に均
等に滑走させることができる。
よって、多層膜が曲面でも衝撃付与部材がすべての凸部に衝突して除去することができ
る。
【0013】
[適用例3]
本適用例に係わる光学物品の製造方法は、前記衝撃付与部材は、その先端が鋭利なくさ
び状の断面を有する部材であることが好ましい。
【0014】
上記適用例に係わる光学物品の製造方法では、衝撃付与部材の先端が鋭利なくさび状の
断面を有する部材であるので、衝撃付与部材が凸部に衝突する際、先端が鋭利であるため
に、衝撃付与部材と凸部との衝突面積が極めて小さくなる。
このため、凸部が受ける面方向への圧力を極めて高いものとすることができる。
したがって、本適用例では、衝撃付与部材に凸部が衝突する際、衝撃付与部材に強い力
を加えることなく凸部を容易に離開し、脱離させることができる。
【0015】
[適用例4]
本適用例に係わる光学物品の製造方法は、前記衝撃付与部材として、ワイヤーを用いる
ことが好ましい。
【0016】
上記適用例に係わる光学物品の製造方法では、衝撃付与部材として、ワイヤーを用いる
ので、多層膜の表面形状に沿って容易に湾曲させることができる。
さらに、線状のワイヤーを凸部に衝突させることとなるので、強い力を加えることなく
凸部を容易に離開し、脱離させることができる。
【0017】
[適用例5]
本適用例に係わる光学物品の製造方法は、前記多層膜の表面の凸部を脱離した後、前記
多層膜の表面に粘着テープを貼付し、さらに、前記粘着テープを剥離することが好ましい

【0018】
上記適用例に係わる光学物品の製造方法では、凸部の脱離後、多層膜の表面に粘着テー
プを貼付し、さらに、その粘着テープを剥離する。
このため、衝撃付与部材を滑走させた後、多層膜表面に脱離した凸部が静電気等により
多層膜表面に残留する場合、多層膜表面に粘着テープを貼付けることで、脱離した凸部を
粘着テープに転着させ、さらに、ここから粘着テープを剥離することで多層膜表面の凸部
を除去することができる。
したがって、脱離した凸部が多層膜表面に残留しない表面とすることができる。
【0019】
[適用例6]
本適用例に係わる光学物品の製造方法は、前記衝撃付与部材が、前記多層膜の表面に沿
って滑走する方向を自在に変更可能とする回動可能な冶具によって保持されることが好ま
しい。
【0020】
上記適用例に係わる光学物品の製造方法では、衝撃付与部材が、多層膜の表面に沿って
滑走する方向を自在に変更可能とする回動可能な冶具によって保持されるので、例えば、
一度滑走させた方向から90°ずらした方向からもう一度滑走させることができる。
このため、凸部の突出形状によっては、一方向から衝撃付与部材を滑走させても十分に
脱離させられない場合(例えば、衝撃付与部材が近接してくる側が鋭角な面を有する凸部
であれば、衝撃付与部材との衝突による衝撃力が厚み方向へと逃げてしまうため、面方向
に十分に加わらないような場合)でも、冶具を回動させて異なる方向から衝撃付与部材を
滑走させられるので、より確実に凸部を脱離させることができる。
また、冶具を回動させるだけでよいため、凸部を形成した光学基板を所定位置から取り
外し、向きを変えて再度、配置し直す必要性がなく、作業性についても良好なものとする
ことができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第1実施形態におけるガラス基板に形成された多層膜において凸部が形成された箇所を拡大断面図。
【図2】本発明の第1実施形態におけるブレードを多層膜上で滑走させる状態を表す概略図。
【図3】本発明の第1実施形態におけるブレードを多層膜上で滑走させる状態を表す拡大断面図。
【図4】本発明の第1実施形態におけるブレードが多層膜上の凸部を脱離する様子を表す拡大断面図。
【図5】本発明の第1実施形態における多層膜に粘着テープを貼り合せて剥離する状態を表す拡大断面図。
【図6】本発明の第1実施形態における凸部の脱離後、多層膜にプラズマ重合膜を形成した状態を表す拡大断面図。
【図7】本発明の第1実施形態におけるガラス基板と水晶板とを接合した状態を示す模式図。
【図8】本発明の第1実施形態におけるブレードを滑走させる凸部除去装置の概略斜視図。
【図9】本発明の第1実施形態における凸部除去装置の側断面図。
【図10】本発明の第2実施形態におけるワイヤーを多層膜上で滑走させる状態を表す概略図。
【図11】本発明の第2実施形態におけるワイヤーを多層膜上で滑走させる状態を表す拡大断面図。
【図12】本発明の第2実施形態におけるブレードが多層膜上の凸部を脱離する様子を表す拡大断面図。
【図13】本発明の変形例における凸部除去装置の側断面図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1から図8に基づいて第1実施形態を説明する。
なお、図7に示す、第一光学基板としてのガラス基板11と第二光学基板としての水晶
板13とを接合したものは、偏光変換素子の一部構成であるが、簡単にするため、これを
光学物品としての偏光変換素子1として説明する。
【0023】
[多層膜形成工程]
電子ビーム加熱を備えた蒸着装置で光学基板上に多層膜12を成膜する。この多層膜12
は一例として偏光分離作用を有する誘導体多層膜からなる偏光分離膜であり、異なる材質
の層、例えば、高屈折材料層である酸化チタン(TiO)の層と、低屈折材料層である
酸化ケイ素(SiO)の層とが交互に積層される。これらの層は25層から構成される
設計例がある.
図1は、本実施形態のガラス基板に形成された多層膜において凸部が形成された箇所を拡
大断面図である。
図1に基づいて、凸部121が形成された多層膜12について説明する。
図1に示すように、平板状の光学基板としてのガラス基板11に薄膜を蒸着させて多層
膜12を形成する場合において、電子ビーム加熱蒸着する際、電子ビームのエミッション
電流を増やすと蒸発源に過度のエネルギーが加わり、蒸発源の蒸発が盛んになり、局所的
に突沸を起こすことがある。
この突沸により突出物の飛来によって突出したスプラッシュを核にして多層膜12の表
面に凸部121が形成される。
【0024】
また、図1に示すように、このスプラッシュがガラス基板11に近い薄膜を蒸着する際
に生じると、その上にさらに薄膜を蒸着させていくため、その凸形状がより大きなものと
なっていく。
また、図1では説明を簡単なものとするため、多層膜12を3層構造としているが実際
はこれよりも多い層数の多層膜12(例えば50層)から形成されている。
【0025】
図2から図5に基づいて、凸部が除去される方法を説明する。
図2は、本発明の第1実施形態におけるブレードを多層膜上で滑走させる状態を表す概
略図である。図3は、本発明の第1実施形態におけるブレードを多層膜上で滑走させる状
態を表す拡大断面図である。図4は、本発明の第1実施形態におけるブレードが多層膜上
の凸部を脱離する様子を表す拡大断面図である。図5は、本発明の第1実施形態における
多層膜に粘着テープを貼り合せて剥離する状態を表す拡大断面図である。
【0026】
図2に示すように、ガラス基板11は、多層膜12を蒸着形成することで、蒸着面の張
力による面内応力がかかり、僅かに湾曲することがある。これにより、多層膜12の平面
形状も同様に湾曲していることがある。
一方、ブレード20は、鋭利なくさび形の断面を有する長尺の板状部材であって、適度
な弾性を有している。このブレード20は、その長さ寸法がガラス基板11の一辺の長さ
寸法より長く形成されている。
具体的には、ブレード20には長さ50mm、厚さ0.2mm〜0.6mm、ヤング率
200GPaのステンレス素材(SUS304)のものを用いて、多層膜12に対してブ
レード20の先端部の角度が20°の状態で滑走させる構成が例示できる。
なお、ブレード20は、ヤング率が30GPa〜300GPaであることが好ましく、
多層膜12に対する先端部の角度が15°〜75°であることが好ましい。
そして、ブレード20を多層膜12に当接させる際、その長尺方向とガラス基板11の
一辺とが平行となるようにガラス基板11の端部に当接させる。
【0027】
この状態において、図3に示すように、多層膜12に沿ってブレード20をガラス基板
11の端部から対向する端部へと滑走させる。
これにより、ブレード20が多層膜12に点在する凸部121と衝突することになる。
この衝突により、凸部121は多層膜12の平面方向に応力を受ける。しかも、ブレード
20は、その先端が鋭利であるため、凸部121との衝突面積はきわめて小さい。このた
め、凸部121が衝突箇所から受ける圧力が極めて大きなものとなる。
また、ブレード20の質量に比べて凸部121の質量は無視小であり、滑走するブレー
ド20の運動量が凸部121へと伝達される瞬間の衝突エネルギーは甚大なものとなる。
【0028】
そして、図4に示すように、凸部121は瞬間的に多層膜12から脱離されるので、凸
部121周辺の多層膜12は慣性力により、その衝撃が伝達されずガラス基板11から剥
離することがない。
しかし、凸部121は、多層膜12内部の突沸した異形箇所A(図3)を起点として形
成される。そして、このような異形箇所Aは、ブレード20の衝突による応力が集中する

このため、ブレード20により凸部121が除去される際、この異形箇所Aを起点とし
て脱離される頻度が高い。そして、これにより、凸部121が脱離した箇所には窪みBが
形成されることとなる。
【0029】
また、図5に示すように、ブレード20が滑走した後、この多層膜12に図示しない粘
着テープ50を貼付け、剥離する。これにより、ブレード20が滑走して多層膜12に静
電気が発生する場合でも、脱離した凸部121が静電引力により多層膜12上に残留して
も、粘着テープ50に帯同して多層膜12から取り除かれることとなる。
その後、さらに、多層膜表面を水、アルコール、アルカリ溶液等を用いて超音波洗浄す
るのが好ましい。
【0030】
次に、図6および図7に基づいてプラズマ重合膜による接合工程を説明する。
図6は、本発明の第1実施形態における凸部の脱離後、多層膜にプラズマ重合膜を形成
した状態を表す拡大断面図である。図7は、本実施形態のガラス基板と水晶板とを接合し
た状態を示す模式図である。
【0031】
[接合膜形成工程]
図6に示すように、凸部121が除去された多層膜12の上にプラズマ重合膜30を形
成する。なお、多層膜を有しない光学基板の接合面への接合膜の形成も同様に実施してよ
い。
接合膜形成工程では、プラズマ重合装置(図示しない)のチャンバーの第1電極に、光
学基板を保持する。そして、チャンバーの内部に酸素を所定量導入するとともに第1電極
と第2電極との間に高周波電圧を印加して光学基板自体の活性化(基板活性化)を実施す
る。
その後、チャンバーの内部に原料ガスとキャリアガスとの混合ガスが供給される。
混合ガスにおける原料ガスの割合(混合比)は、例えば、混合ガス中の原料ガスの割合
は20%以上70%以下程度に設定することが好ましく、30%以上60%以下程度に設
定することがより好ましい。
第1電極と第2電極との間に印加する周波数は、特に限定されないが、1〜100MH
z程度であるのが好ましく、10〜60MHz程度がより好ましい。高周波の出力密度は
特に限定されないが、0.01〜10W/cm程度であることが好ましく、0.1〜1
W/cm程度であるのがより好ましい。
成膜時のチャンバーの圧力は、133.3×10−5〜1333Pa(1×10−5
10Torr)程度であるのが好ましく、133.3×10−4〜133.3Pa(1×
10−4〜1Torr)程度であるのがより好ましい。
原料ガス流量は、0.5〜200sccm程度が好ましく、1〜100sccm程度が
より好ましい。
キャリアガス流量は、5〜750sccm程度が好ましく、10〜500sccm程度
がより好ましい。
処理時間は1〜10分程度であることが好ましく、4〜7分程度がより好ましい。
光学基板の温度は、25℃以上が好ましく、25〜100℃がより好ましい。
第1電極と第2電極との間に高周波電圧を印加することにより、これらの電極の間に存
在するガスの分子が電離し、プラズマが発生する。このプラズマのエネルギーにより原料
ガス中の分子が重合し、重合物が光学基板または多層膜の表面に付着、堆積する。これに
より、接合面にプラズマ重合膜が形成される。
この接合層の平均厚さが10〜1000nmであり、50〜500nmが好ましい。接
合層の平均厚さが10nmを下回ると、十分な接合強度を得ることができず、1000n
mを超えると、接合体の寸法精度が著しく低下する。
【0032】
[表面活性化工程]
表面活性化工程は、例えば、プラズマを照射する方法、オゾンガスに接触させる方法、
オゾン水で処理する方法、あるいは、アルカリ処理する方法等を用いることができる。
この表面活性化工程では、プラズマ重合膜の表面を効率よく活性化させるためにプラズ
マを照射する方法が好ましい。
本実施形態で使用されるプラズマとしては、例えば、酸素、アルゴン、チッソ、空気、
水等を1種又は2種以上混合して用いることができる。これらの中で、酸素を使用するこ
とが好ましい。
プラズマを照射する時間は、プラズマ重合膜の表面付近の分子結合を切断し得る程度の
時間であれば特に限定されるものではないが、5sec〜30min程度であるのが好ま
しく、10〜60secがより好ましい。
【0033】
[貼合工程]
図7は、本実施形態のガラス基板11と水晶板13とを接合した状態を示す模式図であ
る。プラズマ重合膜の表面が活性化されたガラス基板11と、表面が活性化された水晶板
13とを貼り合わせて一体化する。つまり、図7に示すように、ガラス基板11と水晶板
13とをそれぞれ対向させた状態で互いに押し付ける。なお、水晶板13の接合面に活性
化されたプラズマ重合膜を形成して貼合してもよいし、更にガラス基板11と水晶板13
の両方の接合面にそれぞれ活性化されたプラズマ重合膜を形成して貼合してもよい。
表面が活性化されたプラズマ重合膜は、その活性状態が経時的に緩和するので、表面活
性化工程の後速やかに貼合工程に移行する。具体的には、表面活性化工程の後、60分以
内に貼合工程に移行するのが好ましく、5分以内に移行するのがより好ましい。この時間
内であれば、プラズマ重合膜の表面が十分な活性状態を維持しているので、貼り合わせに
際して十分な結合強度を得ることができる。
貼合工程の後に、接合強度を大きくするために、ガラス基板11と水晶板13を加圧す
るのが好ましい。具体的には、加圧するための圧力は、ガラス基板11と水晶板13の厚
さ寸法や装置等の条件によって異なるものの、1〜10MPa程度であるのが好ましく、
1〜5MPaがより好ましい。加圧時間は特に限定されないが、10sec〜30min
程度であるのが好ましい。
さらに、ガラス基板11と水晶板13を加圧した後に、これらを加熱することで、接合
強度を高めることができる。
この加熱は必要に応じて設けられるものであり、その加熱温度は、25〜100℃であ
り、好ましくは、50〜100℃である。100℃を超えると、光学物品が変質・劣化す
るおそれがある。加熱時間は1〜30min程度であることが好ましい。
なお、この加熱工程は加圧工程の後で単独に行ってもよいが、加圧工程と同時に行うこ
とが接合強度を強める上で好ましい。
【0034】
図7に示すように、プラズマ重合膜30の上から水晶板13を載置してガラス基板11
と水晶板13とを接合する。このとき、プラズマ重合膜30の表面に突出した凸部が無い
概ね平滑な面であるので、水晶板13とプラズマ重合膜30とが隙間なく密着する。
よって、ガラス基板11と水晶板13との間には強固に分子接合され、偏光変換素子1
が得られる。
なお、窪みBがクレーター状となるが、微小な空隙であるため、偏光変換素子1の光学
特性への影響は無視できる。
【0035】
図8および図9に基づいてブレード20を多層膜12表面に沿って滑走させる凸部除去
装置を説明する。
図8は、本発明の第1実施形態におけるブレードを滑走させる凸部除去装置の概略斜視
図である。図9は、本発明の第1実施形態における凸部除去装置の側断面図である。
【0036】
図8および図9に示すように、凸部除去装置40は、ブレード滑走機構41と、基板支
持機構42とを備えている。
ブレード滑走機構41は、本体部411と、この本体部411に滑走自在に取り付けら
れた滑走部412と、この滑走部412から鉛直方向に立設された3本の支柱413と、
これら支柱413の滑走部412と反対側の先端にそれぞれ設けられる伸縮自在な弾性部
材414と、これら弾性部材414の先端に設けられるブレード20を支持固定するブレ
ード支持部415とを備えている。
基板支持機構42は、基台421と、この基台421の上に回動自在に設けられる回動
盤422とを備えている。
【0037】
この凸部除去装置40の動作は以下の通りである。
まず、ブレード20の先端部を多層膜12の上に当接させる。このとき、弾性部材41
4の弾性力により、ブレード20の先端部は多層膜12に押付けられる。さらに、ブレー
ド20は、この弾性力が3箇所から作用されるので、ガラス基板11の湾曲に沿って同様
に湾曲することとなる。
そして、ブレード20は、滑走部412が水平方向に滑走することで、多層膜12の表
面に沿って滑走する。
【0038】
次に、ブレード20が多層膜12の表面全体を滑走した後、一旦、多層膜12から離隔
され、この状態において、回動盤422を回動(例えば、90°回動)させる。そして、
再びブレード20を多層膜12表面に当接させて、同様に表面に沿って滑走させる。
これにより、ガラス基板11に対して、少なくとも2方向からブレード20を滑走させ
ることとなる。
【0039】
以上の構成の第1実施形態では次の作用効果を奏することができる。
(1)第1実施形態では、ブレード20を多層膜12表面に沿って滑走させるので、ブレ
ード20が多層膜12の表面全体を均等に滑走する。
このため、多層膜12の表面から突出する凸部121にブレード20が衝突し、この衝
撃により凸部121が多層膜12から離開して、脱離する。
これにより、多層膜12の表面が突出物のない面となるので、その後、この多層膜12
の表面を接合面としたプラズマ重合膜30による分子接合を強固にすることができる。
よって、このガラス基板11と水晶板13とを貼り合せる際、凸部による接合阻害がな
く、密着させることができるので、良好な分子接合を形成でき、高精度な光学物品を提供
できる。
【0040】
(2)第1実施形態では、ブレード20を多層膜12の表面形状に沿って湾曲させるので
、ガラス基板11に多層膜12を形成することで生じる面内応力によってガラス基板11
が反り、多層膜12が平面ではなく湾曲した曲面となる場合でも、ブレード20を多層膜
12の表面全体に均等に滑走させることができる。
よって、多層膜12が曲面でも凸部のない面とすることができるので、強固な分子接合
を備え、高精度な光学特性を有する偏光変換素子1を得ることができる。
【0041】
(3)第1実施形態では、ブレード20の先端が鋭利なくさび状の断面を有する部材であ
るので、ブレード20が凸部121に衝突する際、その先端が鋭利であるために、ブレー
ド20と凸部121との衝突面積が極めて小さくなる。
このため、凸部121が受ける面方向への衝撃を極めて高いものとすることができる。
したがって、ブレード20に凸部121が衝突する際、ブレード20に強い力を加える
ことなく凸部121を容易に離開し、脱離させることができる。
【0042】
(4)第1実施形態では、ブレード20が滑走した後、この多層膜12に粘着テープ50
を貼付け、その後剥離する。
このため、ブレード20が滑走した後、脱離した凸部121が多層膜12上に静電気等
により残留していても、粘着テープ50によって転着されて多層膜12から取り除くこと
ができる。
したがって、第1実施形態では、多層膜12上に凸部121を残留させることなく、よ
り確実に多層膜12の表面を平滑にすることができる。
【0043】
(5)第1実施形態では、ブレード20が伸縮自在な弾性部材に軸支された3つのブレー
ド支持部415によって支持されているので、ブレード20は弾性部材414の弾性力に
より多層膜12に押付けられることとなる。
さらに、ブレード20が3つのブレード支持部415に支持されるので、ブレード20
を多層膜12に押付ける圧力が均一になる。
このため、ブレード20が確実に多層膜12の表面上を滑走することができ、多層膜1
2上の全ての凸部121に衝突することができる。
よって、ブレード20を多層膜12に沿って一度滑走させるだけで、多層膜12の全て
の凸部121を脱離除去することができる。
【0044】
(6)第1実施形態では、回動可能な回動盤422にガラス基板11が載置されるので、
ブレード20が多層膜12の表面に沿って滑走する方向を自在に変更することができる。
例えば、一度滑走させた方向から90°回動させた方向からもう一度滑走させることがで
きる。
このため、凸部121の突出形状によっては、一方向からブレード20を滑走させても
十分に離開させられない場合(例えば、ブレード20が近接してくる側が鋭角な面を有す
る凸部121であれば、ブレード20との衝突による衝撃力が厚み方向へと逃げてしまう
ため、面方向に十分に加わらないような場合)でも、回動盤422を回動させて異なる方
向からブレード20を滑走させられるので、より確実に凸部121を離開させることがで
きる。
また、回動盤422を回動させるだけでよいため、多層膜12を形成したガラス基板1
1を所定位置から取り外し、向きを変えて再度、配置し直す必要性がなく、作業性につい
ても良好なものとすることができる。
【0045】
次に、本発明の第2実施形態を図10から図12に基づいて説明する。
図10は、本発明の第2実施形態におけるワイヤーを多層膜上で滑走させる状態を表す
概略図である。図11は、本発明の第2実施形態におけるワイヤーを多層膜上で滑走させ
る状態を表す拡大断面図である。図12は、本発明の第2実施形態におけるブレードが多
層膜上の凸部を脱離する様子を表す拡大断面図である。
第2実施形態は、第1実施形態とは鋭利なくさび形の断面を有する長尺のブレード20
を用いる替わりにワイヤー60を用いている点が異なるものであり、その他の構成は第1
実施形態と同様である。
【0046】
図10に示すように、湾曲した多層膜12Aの表面にワイヤー60を沿わせて滑走させ
る。そして、ワイヤー60が多層膜12Aに点在する凸部121Aと衝突することになる
。この衝突により、凸部121Aは多層膜12Aの平面方向に応力を受ける。
このとき、図11に示すように、ブレード20と同様、ワイヤー60と凸部121Aと
の衝突面積はきわめて小さいので、凸部121Aが衝突箇所から受ける圧力が極めて大き
なものとなる。
【0047】
このため、図12に示すように、凸部121は瞬間的に多層膜12から脱離される。
そして、第1実施形態同様、異形箇所Aは、ワイヤー60の衝突による応力が集中するた
め、ワイヤー60により凸部121が除去される際、この異形箇所Aを起点として脱離さ
れる頻度が高い。これにより、凸部121が脱離した箇所には窪みBが形成されることと
なる。
【0048】
従って、第2実施形態では、第1実施形態の効果(1)〜(6)と同様な作用効果を奏
することができる。さらに、以下のような作用効果を奏することができる。
(7)第2実施形態では、ワイヤー60を用いるので、多層膜12の表面形状に沿って容
易に湾曲させることができる。さらに、線状のワイヤーを凸部121に衝突させることと
なるので、強い力を加えることなく凸部121を容易に脱離させることができる。
【0049】
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる
範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
第1実施形態および第2実施形態では、ブレード20並びにワイヤー60を1つずつ用
いて多層膜12上を滑走させたが、これに限らない。
例えば、図13に示すように、それぞれ3つずつ用いる構成としてもよいし、図示しな
いが、ブレード20とワイヤー60とを組み合わせて滑走させる構成としてもよい。
このような構成においては、1回の滑走で、1つのブレード20やワイヤー60を用い
る場合の複数回の滑走に相当する除去効果が得られるので、作業効率を向上させることが
できる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、プリズム、偏光変換素子、その他の光学物品の製造方法に利用できる。
【符号の説明】
【0051】
1…偏光変換素子(光学物品)、11…ガラス基板(第一光学基板)、12…多層膜
13…水晶板(第二光学基板)、20…ブレード(衝撃付与部材)、30…プラズマ重合
膜、40…凸部除去装置(冶具)、121…凸部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の光学基板の少なくとも一方の面に光学機能膜となる多層膜を形成し、前記多層膜
を挟んで分子接合する光学物品の製造方法であって、
前記多層膜の表面に沿って衝撃付与部材を滑走させて前記多層膜の凸部を脱離し、
接合面の少なくとも一方の面にプラズマ重合膜を形成し、
前記接合面の表面を活性化し、
前記接合面の表面が活性化された光学基板同士を貼り合わせて分子接合とすることを特
徴とする光学物品の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の光学物品の製造方法において、
前記衝撃付与部材を前記多層膜の表面形状に沿って湾曲させることを特徴とする光学物
品の製造方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の光学物品の製造方法において、
前記衝撃付与部材は、その先端が鋭利なくさび状の断面を有する部材であることを特徴
とする光学物品の製造方法。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載の光学物品の製造方法において、
前記衝撃付与部材として、ワイヤーを用いることを特徴とする光学物品の製造方法。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかに記載の光学物品の製造方法において、
前記多層膜の表面の凸部を脱離した後、前記多層膜の表面に粘着テープを貼付し、さら
に、前記粘着テープを剥離することを特徴とする光学物品の製造方法。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれかに記載の光学物品の製造方法において、
前記衝撃付与部材が、前記多層膜の表面に沿って滑走する方向を自在に変更可能とする
回動可能な冶具によって保持されることを特徴とする光学物品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−230974(P2010−230974A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−78377(P2009−78377)
【出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】