説明

光学物品

【課題】染料により着色されたハードコート層を有し、該ハードコート層の耐久性、耐傷性に優れたプラスチックレンズを提供すること。
【解決手段】プラスチックレンズは、基材と、前記基材上にハードコート層とを有し、このハードコート層が、少なくとも下記「A成分」および「B成分」を含有するコーティング組成物から形成されているとともに、前記ハードコート層が、染料により着色されている。
「A成分」;加水分解可能な有機ケイ素化合物
「B成分」;ビアリールスルフィド

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、染料により着色されたハードコート層を有する光学物品に関する。
【背景技術】
【0002】
光学物品としてのプラスチックレンズ、特に眼鏡用プラスチックレンズは、ファッション性の付与および目の保護のために着色して用いられることが少なくない。着色の方法としては、染料を溶媒に分散させた染色液にプラスチックレンズを浸漬して染色する方法が、簡便性、色の選択幅の広さ、ハーフおよびグラデーション染色を行なうことができる等の理由で広く使用されている。
一方、近年では眼鏡レンズの薄型化、軽量化のさらなる要求に応えるべく、チオウレタン系樹脂やエピスルフィド系樹脂等の高屈折率素材が開発されている。
しかし、このような高屈折率のレンズ素材は染色性に劣るため、レンズ素材自身を染色することが困難である。
そこで、プラスチックレンズの基材に設けられたハードコート層に対して染色を行う方法が提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。これらの技術によれば、ハードコート層中に、多官能エポキシ化合物のような分子鎖が長く反応性基が少ない化合物を含有させることにより、分子間の隙間を広げて染料を浸透しやすくして染色性を向上させることができる。
【0003】
【特許文献1】特開昭59−231501号公報
【特許文献2】特開2000−284235号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1、2に開示されたようなプラスチックレンズでは、反応性基が少ない化合物をハードコート層に含有させるため、層中で有機ケイ素化合物や金属酸化物と相互に結合を作りにくくなり、その結果、ハードコート層の耐久性や耐擦傷性が低下する。また、ハードコート層に十分な染色性を付与するには、ハードコート層を形成するためのコーティング剤中に、固形分として前記した多官能エポキシ化合物のような有機成分をかなり大量に含有させる必要があり、ハードコート層の耐久性や耐擦傷性を阻害してしまうおそれもあった。
そこで本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、染料により着色されたハードコート層を有する光学物品であって、ハードコート層の耐久性、耐傷性にも優れた光学物品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明の光学物品は、基材と、前記基材上にハードコート層とを有する光学物品であって、前記ハードコート層が、少なくとも下記「A成分」および「B成分」を含有するコーティング組成物から形成されているとともに、前記ハードコート層が、染料により着色されていることを特徴とする。
「A成分」;加水分解可能な有機ケイ素化合物
「B成分」;ビアリールスルフィド
【0006】
本発明の光学物品によれば、ハードコート層がビアリールスルフィドを含有するコーティング組成物から形成されているので、ハードコート層の硬さや耐久性を阻害しないで極めて高い染色効果を発揮できる。例えば、従来、染色効果の向上のために用いられてきた多官能性エポキシ化合物に比べ、はるかに少量の配合量で所望の着色が施された光学物品を提供できる。光学物品としては、レンズやCDあるいは各種のディスプレイ等に適用可能である。
B成分であるビアリールスルフィドの作用機構については必ずしも明確ではないが、この化合物(分子)は、ハードコート層自体の架橋反応にはほとんど寄与しないため、水素結合やファンデルワールス力などの弱い結合でハードコート層中に分散していると考えられる。そのためこの分子の周りは強い1次結合や網目構造がなく比較的結合が疎な構造である為に染色剤がこの分子に吸着され高い染色性を示すと推定される。染色剤としては分散染料が好適に用いられる。
【0007】
本発明では、前記「A成分」が、一般式:RSiXで示される化合物であることが好ましい。
ここで、式中、Rは重合可能な反応基を有する炭素数が2以上の有機基、Xは加水分解性基を示す。
この発明によれば、A成分である加水分解可能な有機ケイ素化合物が前記した構造からなるため、強固なハードコート層を形成できる。さらに、このA成分は、B成分であるビアリールスルフィドとほとんど反応しないためにB成分による染色性発現を阻害することもない。
【0008】
本発明では、前記「B成分」が下記式(1)で示されるビフェニルスルフィドであることが好ましい。
【0009】
【化1】

【0010】
ここで、式(1)において、RおよびR’は炭化水素基もしくはヒドロキシル基を示す。nおよびn’は0〜5の整数である。同一環に複数のRやR’が結合している場合は、各々同じでも異なっていてもよい。
この発明によれば、B成分が前記した構造のビフェニルスルフィドであるので、染色効果が一層優れる。
【0011】
本発明では、前記「B成分」の含有量が、前記コーティング組成物中の固形分全量に対して0.01〜5質量%であることが好ましい
ここで、コーティング組成物中の固形分とは、コーティング組成物を乾燥硬化して得られる塗膜中に含まれる成分を示し、本発明において具体的には有ケイ素化合物、触媒、ビアリールスルフィドである。また、後述する金属酸化物や、多官能エポキシ化合物も含まれる。
この発明によれば、B成分であるビアリールスルフィドの含有量がコーティング組成物中の固形分に対して、0.01〜5質量%の範囲にあるので、ハードコート層の染色性だけではなく、耐久性や耐擦傷性により優れる。ここで、B成分の含有量が、0.01質量%未満であると、フレキシビリティーを発現する効果が不足してしまい、ハードコート層の耐久性や耐衝撃性が低下するおそれがある。一方、B成分の含有量が5質量%を超えると、ハードコート層自体の架橋反応に悪影響を与え、耐擦傷性が低下するおそれがある。
【0012】
本発明では、前記ハードコート層がさらにC成分として金属酸化物微粒子を含有することが好ましい。
この発明によれば、ハードコート層がさらに金属酸化物微粒子を含有するので、屈折率の調整が容易となる。例えば、光学物品がプラスチックレンズの場合、干渉縞を防ぐためにハードコート層の屈折率を基材の屈折率に合わせる必要があるが、そのような場合に好適である。
なお、基材とハードコート層の間にプライマー層がある場合には、干渉縞を防ぐためにハードコート層とプライマー層の屈折率を合わせることが好ましい。
【0013】
本発明では、前記ハードコート層がさらにD成分として多官能エポキシ化合物を含有することが好ましい。
この発明によれば、ハードコート層を形成するコーティング組成物中に、さらに多官能エポキシ化合物を含むことで、ハードコート層の耐水性をより向上させるとともに、下層にプライマー層が存在する場合には、この層との密着性を更に安定化することができる。
なお、プライマー層を形成する場合には、プライマー層中にポリエステル樹脂を含有することが好ましい。ポリエステル樹脂を用いることにより、耐久性、耐衝撃性、コーティング液のポットライフ、吸湿安定性、染色安定性、低温硬化性などを発現することができる。
【0014】
本発明では、前記基材表面上で且つ前記ハードコート層の直下にプライマー層が設けられることが好ましい。
この発明によれば、ビアリールスルフィドは、プライマー層とハードコート層との間で密着成分として作用することによって、耐久性を向上させることができる。さらに、ビアリールスルフィドは、剛直な芳香環が硫黄原子に結合しているので柔軟性を有し、プライマー層およびハードコート層の双方に接着しつつフレキシビリティーをも発現すると考えられ、耐衝撃性を向上させることにも寄与する。
本発明の光学物品は、プラスチックレンズに適用することができる。特にファッション性の付与および目の保護のために着色して用いられることが多い眼鏡用として好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の光学物品について実施形態を詳細に説明する。本実施形態の光学物品は、眼鏡用のプラスチックレンズであって、プラスチックレンズ基材と、プラスチックレンズ基材表面に形成されたプライマー層と、このプライマー層の上面に形成され、着色されたハードコート層と、このハードコート層の上面に形成された反射防止層とを有する。
以下、プラスチックレンズ基材、プライマー層、ハードコート層、および反射防止層について説明する。
【0016】
(1.プラスチックレンズ基材)
プラスチックレンズ基材(以下、「レンズ基材」ともいう)の材質としては、プラスチック樹脂であれば特に限定されないが、レンズ基材表面の上層に有機薄層からなる反射防止層を設ける場合は、屈折率差を得るために、屈折率が1.6以上のレンズ素材が好ましい。
屈折率が1.6以上のレンズ素材としては、イソシアナート基またはイソチオシアナート基を持つ化合物と、メルカプト基を持つ化合物を反応させることによって製造されるチオウレタン系プラスチック、あるいはエピスルフィド基を有する化合物を含む原料モノマーを重合硬化して製造されるエピスルフィド系プラスチック等が挙げられる。
【0017】
チオウレタン系プラスチックの主成分となるイソシアナート基またはイソチオシアナート基を持つ化合物としては、公知の化合物を用いることができる。
イソシアナート基を持つ化合物の具体例としては、エチレンジイソシアナート、トリメチレンジイソシアナート、2,4,4−トリメチルヘキサンジイソシアナート、ヘキサメチレンジイソシアナート、m−キシリレンジイソシアナート等が挙げられる。
【0018】
また、メルカプト基を持つ化合物としては、公知の化合物を用いることができる。
例えば、1,2−エタンジチオール、1,6−ヘキサンジチオール、1,1−シクロヘキサンジチオール等の脂肪族ポリチオール、1,2−ジメルカプトベンゼン、1,2,3−トリス(メルカプトメチル)ベンゼン等の芳香族ポリチオールが挙げられる。
【0019】
また、プラスチックレンズの高屈折率化のためには、メルカプト基以外に、硫黄原子を含むポリチオールをより好ましく用いることができる。具体例としては、1,2−ビス(メルカプトメチルチオ)ベンゼン、1,2,3−トリス(メルカプトエチルチオ)ベンゼン、1,2−ビス((2−メルカプトエチル)チオ)−3−メルカプトプロパン等が挙げられる。
【0020】
エピスルフィド系プラスチックの原料モノマーとして用いられる、エピスルフィド基を持つ化合物の具体例としては、公知のエピスルフィド基を持つ化合物が何ら制限なく使用できる。例えば、既存のエポキシ化合物のエポキシ基の一部あるいは全部の酸素を硫黄で置き換えることによって得られるエピスルフィド化合物が挙げられる。
【0021】
また、プラスチックレンズの高屈折率化のためには、エピスルフィド基以外にも、硫黄原子を含有する化合物がより好ましく用いることができる。具体例としては、1,2−ビス(β−エピチオプロピルチオ)エタン、ビス−(β−エピチオプロピル)スルフィド、1,4−ビス(β−エピチオプロピルチオメチル)ベンゼン、2,5−ビス(β−エピチオプロピルチオメチル)−1,4−ジチアン、ビス−(β−エピチオプロピル)ジスルフィド等が挙げられる。
【0022】
本発明におけるレンズ基材の重合方法としては、特に限定されることなく、一般にレンズ基材の製造に用いられている重合方法を用いることができる。
例えば、素材としてビニル系モノマーを用いる場合には、有機過酸化物等の熱重合開始剤を用いて熱硬化を行い、レンズ基材を製造することができる。また、ベンゾフェノン等の光重合開始剤を用いて、紫外線を照射することによってモノマーを硬化させ、レンズ基材を製造することもできる。
【0023】
また、イソシアナート基またはイソチオシアナート基を持つ化合物と、メルカプト基を持つ化合物を反応させることによって製造されるチオウレタン系プラスチックを用いる場合には、イソシアナート基またはイソチオシアナート基を持つ化合物と、メルカプト基を持つ化合物を混合した後、ウレタン樹脂用の硬化触媒を添加、混合し、加熱により重合硬化を行うことによって製造できる。硬化触媒の具体例としては、エチルアミン、エチレンジアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン等のアミン化合物、ジブチル錫ジクロライド、ジメチル錫ジクロライド等が挙げられる。
【0024】
(2.プライマー層)
プライマー層は、レンズ基材表面に形成される。プライマー層は、レンズ基材と後述するハードコート層の双方の界面に存在して、レンズ基材上に形成される表面処理層の耐久性を向上させる役割を担う。加えて外部からの衝撃吸収層としての性質も併せ持ち、耐衝撃性を向上させる性質も有する。また、プライマー層は、バインダー成分としての樹脂と、フィラー成分としての金属酸化物微粒子を含有したコーティング組成物を用いて形成される。
【0025】
バインダー成分としての樹脂は、レンズ基材とハードコート層の双方に密着性を発現する。フィラー成分としての金属酸化物微粒子は、プライマーの屈折率を発現すると共に、プライマー層の架橋密度向上に作用して、耐水性、耐候性、耐光性の向上を図ることができる。
【0026】
樹脂としては、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ポリオレフィン樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、エポキシアクリレート樹脂等を用いることができる。これらの樹脂の内、耐久性、耐衝撃性、液ポットライフ、吸湿安定性、染色安定性、低温硬化性などの観点から、ポリエステル樹脂を好ましく用いることができる。ポリエステル樹脂は、樹脂中に密着性に作用する官能基が多数存在しており、レンズ基材およびハードコート層に対して、優れた密着性が得られるため、耐久性が向上する。
【0027】
ポリエステル樹脂としては、「特開2000−144048号公報」に記載されているポリエステル系熱可塑性エラストマーを例示することができる。ポリエステル系熱可塑性エラストマーは、ハードセグメント(H)構成成分にポリエステル、ソフトセグメント(S)構成成分にポリエーテルまたはポリエステルを用いたマルチブロック共重合体である。ハードセグメントとソフトセグメントとの質量比率[H/S]は、[30/70]〜[90/10]の範囲、望ましくは[40/60]〜[80/20]の範囲である。
【0028】
フィラー成分としての金属酸化物微粒子としては、Si、Al、Ti、Sn、Sb、Ta、Ce、La、Fe、Zn、W、Zr、In等金属酸化物を用いることができる。このうち、屈折率、透明性、耐光性、安定性などの観点から酸化チタンを主成分とする金属酸化物微粒子を用いることが好ましい。また、酸化チタンと他の無機酸化物との複合粒子であってもよく、Si、Al、Sn、Sb、Ta、Ce、La、Fe、Zn、W、Zr、In等の金属の酸化物と、酸化チタンとが複合したものを使用することができる。この複合酸化物微粒子の平均粒径は1〜200nmで好ましく、5〜30nmがより好ましい。
【0029】
このようなプライマー層形成用の各成分は、溶剤に希釈してコーティング組成物として用いることができる。溶剤としては、アルコール類、エステル類、ケトン類、エーテル類、芳香族類等の溶剤が用いられる。
また、コーティング組成物は、必要に応じて、少量の金属キレート化合物、界面活性剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、分散染料、油溶染料、顔料、フォトクロミック化合物、ヒンダードアミン、ヒンダードフェノール系等の耐光耐熱安定剤等を添加し、コーティング液の塗布性、硬化速度および硬化後の被膜性能を改良することもできる。
【0030】
また、コーティング組成物の塗布/硬化方法としては、ディッピング法、スピンコート法、スプレーコート法、ロールコート法、フローコート法等を用いてコ−ティング用組成物を塗布した後、40〜200℃の温度で数時間加熱/乾燥することにより、プライマー層を形成できる。プライマー層の膜厚は、0.01〜30μm、特に0.05〜30μmの範囲が好ましい。プライマー層が薄すぎると耐久性や耐衝撃性の性能が発現できず、逆に厚すぎると表面の平滑性が損なわれたり、光学的歪や白濁、曇りなどの外観欠点を発生する場合がある。
【0031】
(3.ハードコート層)
本実施形態では、ハードコート層は、レンズ基材表面に形成されたプライマー層上に形成される。また、ハードコート層は、干渉縞を抑制する目的で、高屈折率のプラスチックレンズ基材と同程度の、高い屈折率が要求される。
【0032】
本実施形態のプラスチックレンズにおけるハードコート層は、少なくとも下記に示す「A成分」、「B成分」を含有するコ−ティング組成物から形成される。
「A成分」;一般式、「R1SiX13」で表される有機ケイ素化合物(式中、R1は重合可能な反応基を有する炭素数が2以上の有機基、X1は加水分解性基を表す)。
「B成分」;下記一般式(1)で表されるビフェニルスルフィド(式中、RおよびR’は炭化水素基もしくはヒドロキシル基を示す。nおよびn’は0〜5の整数である。同一環に複数のRやR’が結合している場合は、各々同じでも異なっていてもよい。)
【0033】
【化2】

【0034】
まず、「A成分」(一般式:「R1SiX13」で表される有機ケイ素化合物)について説明する。
A成分は、ハードコート層のバインダー剤としての役割を果たす。一般式:「R1SiX13」中、R1は、重合可能な反応基を有する有機基であり、炭素数は2以上である。R1はビニル基、アリル基、アクリル基、メタクリル基、1−メチルビニル基、エポキシ基、メルカプト基、シアノ基、イソシアノ基、アミノ基等の重合可能な反応基を有する。
また、X1は、加水分解可能な官能基であり、例えば、メトキシ基、エトキシ基、メトキシエトキシ基等のアルコキシ基、クロロ基、ブロモ基等のハロゲン基、アシルオキシ基等が挙げられる。
【0035】
A成分の有機ケイ素化合物としては、例えば、ビニルトリアルコキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリ(β−メトキシ−エトキシ)シラン、アリルトリアルコキシシラン、アクリルオキシプロピルトリアルコキシシラン、メタクリルオキシプロピルトリアルコキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリアルコキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)−エチルトリアルコキシシラン、メルカプトプロピルトリアルコキシシラン、γ−アミノプロピルトリアルコキシシラン等があげられる。
このA成分の有機ケイ素化合物は、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0036】
そして、A成分を用いてハードコート層を形成するためのハードコート液を製造する。なお、後述するC成分を配合する場合は、製造の際には、C成分が分散したゾルと、A成分とを混合することが好ましい。C成分を配合する場合の配合量は、ハードコート層の硬度や、屈折率等により決定されるものであるが、ハードコート液中の固形分の5〜80質量%、特に10〜50質量%であることが好ましい。配合量が少なすぎると、ハードコート層の耐磨耗性が不十分となり、配合量が多すぎると、ハードコート層にクラックが生じることがある。また、ハードコート層を染色する際に、染色性が低下する場合もある。
【0037】
次に、本実施形態のB成分であるビフェニルスルフィドについて説明する。ビフェニルスルフィドは、ハードコート層の染色性を大幅に向上させるだけでなく、プライマー層とハードコート層双方の層間で密着成分として作用することにより、耐久性を向上させることにも寄与する。また、ビフェニルスルフィドは、剛直なベンゼン環が硫黄原子に結合した柔軟性を有する性質があり、プライマー層およびハードコート層の双方に接着しつつフレキシビリティーを発現すると考えられ、耐衝撃性を向上させることができる。さらに、ビフェニルスルフィドは、ハードコート層自体の架橋反応にはほとんど寄与しないため、耐擦傷性を低下させない。
【0038】
ここで、ビフェニルスルフィドとしては、2,2’−チオビス−(6−tブチル−4−メチルフェノール)、2,2’−チオビス−(4−オクチルフェノール)、
4,4’−チオビス−(6−tブチル−3−メチルフェノール)、4,4’−チオビス−(6−tブチル−2−メチルフェノール)、4,4’−チオビス−(3,6−ジ第二アミルフェノール)、4,4’−ビス−(2,6−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)−ジスルフィドなどが挙げられる。
【0039】
ビフェニルスルフィドの含有量としては、コーティング組成物の固形分質量に対して、0.01〜5質量%が好ましく、0.1〜2質量%であることがさらに好ましい。ここで、コーティング組成物の固形分とは、コーティング組成物を乾燥硬化して得られる塗膜中に含まれる主要成分のことである。また、固形分質量とは、コーティング組成物における金属酸化物ゾル、有機ケイ素化合物、多官能エポキシ化合物、触媒など主要成分を総じた質量である。ビフェニルスルフィドの含有量が0.1質量%より少ないと上記の効果が不足して耐久性および耐衝撃性が低下し、逆に2質量%より多すぎるとハードコート層自体の架橋反応に悪影響を与え、耐擦傷性が低下する。
【0040】
次に、好ましい配合成分として「C成分」;金属酸化物微粒子について説明する。
ハードコート層の高屈折率化への対応は、高屈折率を有する金属酸化物微粒子を用いる方法が一般的であり、具体的には、Al、Sn、Sb、Ta、Ce、La、Fe、Zn、W、Zr、In、Tiから選ばれる1種又は2種以上の金属の酸化物(これらの混合物を含む)、及び/又は2種以上の金属を含む複合酸化物からなる無色透明の金属酸化物微粒子が用いられる。
このうち、屈折率、透明性、分散安定性、耐光性等の点から、C成分としては、酸化チタン及び酸化スズ、又は酸化チタン、酸化スズ及び酸化珪素からなるルチル型の結晶構造を有する複合酸化物の核粒子の表面を、酸化珪素と酸化ジルコニウム及び/又は酸化アルミニウムからなる複合酸化物の被覆層で被覆したものを含む平均粒径1〜200nmの金属酸化物微粒子を用いることが好ましい。
【0041】
金属酸化物微粒子の具体的な例としては、金属酸化物微粒子が、例えば水、アルコ−ル系もしくはその他の有機溶媒にコロイド状に分散した分散媒である。市販品の分散媒としては、酸化チタン及び酸化スズ、又は酸化チタン、酸化スズ及び酸化珪素からなるルチル型の結晶構造を有する複合酸化物の核粒子の表面を、酸化珪素と酸化ジルコニウム及び/又は酸化アルミニウムからなる複合酸化物の被覆層で被覆した平均粒径8〜10nmの金属酸化物微粒子を含むコーティング用の分散ゾル(触媒化成工業(株)製、オプトレイク)等を挙げることができる。
【0042】
金属酸化物微粒子の種類や配合量は、目的とする硬度や屈折率等により決定されるものであるが、配合量はハードコート用組成物中の固形分の5〜80質量%、特に10〜50質量%の範囲であることが望ましい。配合量が少なすぎると、塗膜の耐摩耗性が不十分となる場合がある。一方、配合量が多すぎると、塗膜にクラックが生じ、染色性も不十分となる場合がある。
【0043】
また、ハードコート層用組成物には、「D成分」として多官能性エポキシ化合物を配合することが有用である。前記したビフェニルスルフィドによりハードコート層の染色性を向上できるが、多官能性エポキシ化合物を併用することで、耐水性を向上させ、かつ下地のプライマー層との密着性を更に安定化することができる。特に多官能エポキシ化合物の分子中にヒドロキシル基が存在すると、プライマー層との密着性が向上することが認められる。従って、一分子中に一個以上のヒドロキシル基を含む多官能エポキシ化合物を用いることによって、この多官能エポキシ化合物全体の配合量を減らすことが可能であるため、耐擦傷性の低下を招くことなく、耐久性を向上させることが可能である。加えて、ハードコート層の上面に後述する反射防止層を有機薄層で形成した場合には、反射防止層の膜厚が非常に薄くなることが多く、特に、反射防止層に内部空洞を有するシリカ系粒子を使用する場合には、水分を通すために、ハードコート層に耐水性が必要となる。よって多官能エポキシ化合物は非常に有用である。
【0044】
多官能性エポキシ化合物としては、例えば、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、トリエチレングリコールジグリシジルエーテル、テトラエチレングリコールジグリシジルエーテル、ノナエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ジプロピレングリコールジグリシジルエーテル、トリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、テトラプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ノナプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールヒドロキシヒバリン酸エステルのジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、グリセロールジグリシジルエーテル、グリセロールトリグリシジルエーテル、ジグリセロールジグリシジルエーテル、ジグリセロールトリグリシジルエーテル、ジグリセロールテトラグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールジグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールトリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル、ジペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル、ソルビトールテトラグリシジルエーテル、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアナートのジグリシジルエーテル、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアナートのトリグリシジルエーテル、等の脂肪族エポキシ化合物、イソホロンジオールジグリシジルエーテル、ビス−2,2−ヒドロキシシクロヘキシルプロパンジグリシジルエーテル等の脂環族エポキシ化合物、レゾルシンジグリシジルエーテル、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールFジグリシジルエーテル、ビスフェノールSジグリシジルエーテル、オルトフタル酸ジグリシジルエーテル、フェノールノボラックポリグリシジルエーテル、クレゾールノボラックポリグリシジルエーテル等の芳香族エポキシ化合物等が挙げられる。
【0045】
このうち、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、トリエチレングリコールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、グリセロールジグリシジルエーテル、グリセロールトリグリシジルエーテル、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアナートのトリグリシジルエーテル等の脂肪族エポキシ化合物を好ましく用いることができる。
なお、上述したエポキシ化合物は、ハードコート層の染色性にも寄与するが、その目的のためにはかなり大量に配合する必要がある。前記したビフェニルスルフィドは、エポキシ化合物のおよそ1/10の含有量で同等の染色性をハードコート層に付与することができる。従って、染色性の向上が目的であれば、ハードコート層にビフェニルスルフィドを含有させることでエポキシ化合物の含有量を大幅に減らすことができる。
【0046】
さらに、ハードコート層用のコーティング組成物には、硬化触媒を添加してもよい。硬化触媒としては、例えば、過塩素酸、過塩素酸アンモニウム、過塩素酸マグネシウム等の過塩素酸類、Cu(II)、Zn(II)、Co(II)、Ni(II)、Be(II)、Ce(III)、Ta(III)、Ti(III)、Mn(III)、La(III)、Cr(III)、V(III)、Co(III)、Fe(III)、Al(III)、Ce(IV)、Zr(IV)、V(IV)等を中心金属原子とするアセチルアセトナート、アミン、グリシン等のアミノ酸、ルイス酸、有機酸金属塩等が挙げられる。
このうち好ましい硬化触媒としては、過塩素酸マグネシウム、Al(III),Fe(III)を中心金属原子とするアセチルアセトナートが挙げられる。特に、Fe(III)を中心金属原子とするアセチルアセナートを使用することが最も好ましい。
硬化触媒の添加量は、ハードコート液の固形分の0.01〜5質量%の範囲内が望ましい。
【0047】
このようにして得られるハードコート層用のコーティング組成物は、必要に応じ、溶剤に希釈して用いることができる。溶剤としては、アルコール類、エステル類、ケトン類、エーテル類、芳香族類等の溶剤が用いられる。また、ハードコート層形成用のコーティング用組成物は、必要に応じて、少量の金属キレート化合物、界面活性剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、分散染料、油溶染料、顔料、フォトクロミック化合物、ヒンダードアミン、ヒンダードフェノール系等の耐光耐熱安定剤等を添加し、コーティング液の塗布性、硬化速度および硬化後の被膜性能を改良することもできる。
【0048】
また、コーティング用組成物の塗布、および硬化方法としては、ディッピング法、スピンコート法、スプレーコート法、ロールコート法、あるいは、フローコート法によりコーティング用組成物を塗布した後、40〜200℃の温度で数時間加熱乾燥することにより、ハードコート被膜を形成することができる。
なお、ハードコート層の膜厚は、0.05〜30μmであることが好ましい。膜厚が0.05μm未満では、基本性能が実現できない。また、膜厚が30μmを越えると表面の平滑性が損われたり、光学歪みが発生してしまう場合がある。
【0049】
次に、前記したハードコート層への染色(着色)について説明する。
染色法としては、ハードコート層を形成したレンズ基材を、染料を分散・溶解した浴槽に浸漬するいわゆる浸漬法が好ましい。染料としては、例えば、ニトロソ染料、ニトロ染料、アゾ染料、スチルベンアゾ染料、ケトイミン染料、トリフェニルメタン染料、キサンテン染料、アクリジン染料、キノリン染料、メチン染料、ポリメチン染料、チアゾール染料、インダミン染料、インドフェノール染料、アジン染料、オキサジン染料、チアジン染料、硫化染料、アミノケトン染料、オキシケトン染料、アントラキノン染料、インジゴイド染料、フタロシアニン染料などが挙げられる。
そして、これらの染料の中から適宜選択して染色液を調製すればよい。また、染料に要求される特性として、分散性、可溶性および染料安定性(使用溶剤に対して化学反応が起こらないこと)などがあり、このような特性を考慮して具体的な染料を選択する。
【0050】
これらの染料の配合量も、目的とするレンズの色調に応じて適宜決定すればよい。なお、染料を多量に使用すると、分散および溶解せずに染色液に残留するおそれがあるので、分散および溶解する程度の配合量が好ましい。
溶媒としては、通常水が用いられるが、メタノール、エタノール、ベンジルアルコールなどの有機溶媒を用いてもよく、水と併用してもよい。
また、染色液には、溶媒に染料を分散させ、染料の含浸を促進させるキャリア剤を配合してもよい。キャリア剤としては、水溶性の有機溶剤が多く用いられ、例えば、特許第1647074号公報、特公平06−72366公報、特開昭62−255901公報、特開平02−47044号公報、特開平02−83501号公報、特開平04−41785公報等に多種提示されている。例えば、ベンジルアルコールを挙げることができる。キャリア剤は、染色液に0.1〜20質量部加えるのが好ましい。
【0051】
染色液には、染料に対する分散剤としてさらに界面活性剤を添加することが好ましい。界面活性剤としては、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物、ラウリル硫酸塩などの陰イオン界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、アルキルアミンエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等の非イオン界面活性剤などが挙げられる。これらの界面活性剤は、レンズの目標とする着色濃度に応じて、使用する染料の量(100質量部)に対して5〜200質量部の範囲で使用するのが好ましい。
【0052】
ハードコート層を染色する際は、溶媒に染料を分散させ、所定の添加剤を加えて、70〜95℃に加熱した染色液中にレンズを浸漬することによって行なう。染色濃度は、染色時間に比例する。予め定められた色調の染色の場合は標準カラーとして調色、染色時間が決められており、見本色のある場合にはその見本色を分光光度計で解析して調色を行なう。この調色に関しては、分光光度計で測定して得られた目的色のデータをコンピュータ処理し、適切な染色浴と染色時間とを求めることで行なうことができる。
前述の染色液に適切な染色時間、浸漬することで染色ムラ等のないハードコート層を備えたレンズが得られる。
【0053】
(4.反射防止層)
反射防止層は、ハードコート層上に形成される。形成される反射防止層は、ハードコート層の屈折率よりも0.10以上低い屈折率を有し、かつ50nm〜150nmの層厚の、無機薄層、有機薄層の単層または多層で構成される。無機薄層の材質としては、SiO、SiO、ZrO、TiO、TiO、Ti、Ti、Al、Ta、CeO、MgO、Y、SnO、MgF、WO等の無機物が挙げられ、これらを単独でまたは2種以上を併用して用いることができる。プラスチックレンズの場合は、低温で真空蒸着が可能なSiO、ZrO、TiO、Taが好ましい。また、多層膜構成とした場合は、最外層はSiOとすることが好ましい。
【0054】
無機薄層の成層方法は、例えば真空蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法、CVD法、飽和溶液中での化学反応により析出させる方法等を採用することができる。
真空蒸着法においては、蒸着中にイオンビームを同時に照射するイオンビームアシスト法を用いてもよい。
有機薄層の材質は、プラスチックレンズやハードコート層の屈折率を考慮して選定され、真空蒸着法の他、スピンコート法、ディップコート法などの量産性に優れた塗装方法で成層することができる。
【0055】
また、反射防止層を形成する際には、ハードコート層の表面処理を行なうことが望ましい。この表面処理の具体的例としては、酸処理,アルカリ処理,紫外線照射処理,アルゴンもしくは酸素雰囲気中での高周波放電によるプラズマ処理,アルゴンや酸素もしくは窒素などのイオンビーム照射処理などが挙げられる。
【0056】
このようにして、レンズ基材上にプライマー層、着色されたハードコート層および反射防止層が形成されたプラスチックレンズを得ることができる。さらに、反射防止層の上面に撥水・撥油性能を向上させる目的で、フッ素を含有する有機ケイ素化合物からなる防汚層を成層してもよい。
【実施例】
【0057】
次に、本発明の実施形態に基づく実施例、および比較例を説明する。具体的には、眼鏡用プラスチックレンズの基材にプライマー層およびハードコート層を形成した後、分散染料により着色を行い、次いで無機反射防止層を形成した。そしてこの眼鏡レンズを用いて、染色性、耐擦傷性および層密着性について評価を行った。
【0058】
〔実施例1〕
(1)プライマー層用コーティング組成物の調製および塗布硬化
ステンレス製容器内に、メチルアルコール420質量部、水66質量部、プロピレングリコールモノメチルエーテル100質量部を投入し、十分に攪拌したのち、酸化チタン、酸化スズ、酸化珪素を主体とする複合微粒子ゾル(ルチル型結晶構造、メタノール分散、触媒化成工業(株)製、商品名オプトレイク1120Z 8RU−7・G)200質量部を加え撹拌混合した。さらに市販のポリエステル樹脂(商品名ペスレジンA−160P、高松油脂株式会社製、水分散エマルション、固形分濃度27質量%)214質量部を加えて攪拌混合した後、さらにシリコーン系界面活性剤(東レ・ダウコーニング(株)製、商品名L−7604)0.2質量部を加えて一昼夜撹拌を続けた後、孔径2μmのフィルターでろ過を行い、コーティング組成物を得た。
この組成物を、チオウレタン樹脂のプラスチックレンズ基材(屈折率1.67のセイコースーパーソブリン(セイコーエプソン株式会社製))上に浸漬法(引き上げ速度20cm/min)にて塗布した。塗布後のレンズ基材を80℃で20分間加熱硬化処理して、レンズ基材上に0.7μmのプライマー層を形成した。
【0059】
(2)ハードコート層用コーティング組成物の調製および塗布硬化
ステンレス製容器内にブチルセロソルブ88質量部を投入し、A成分としてγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン117質量部を加えて十分攪拌した後、0.1モル/リットル塩酸53質量部を添加して一昼夜攪拌を続け、シラン加水分解物を得た。このシラン加水分解物中にシリコーン系界面活性剤(東レ・ダウコーニング(株)製、商品名FZ−2164)0.3質量部を加えて1時間撹拌した後、C成分として酸化チタン、酸化スズ、酸化珪素を主体とする複合微粒子ゾル(ルチル型結晶構造、メタノール分散、触媒化成工業(株)製、商品名オプトレイク1120Z 8RU―25・A17)713質量部を加え2時間撹拌混合した。次いで、鉄(III)アセチルアセトナート2.5質量部、およびB成分として4,4'-チオビス-(6-t-ブチル-3-メチルフェノール)1.25質量部(コーティング組成物の固形分に対して0.5質量%)を加えて3時間攪拌し、2μmのフィルターでろ過を行い、ハードコート層用コーティング組成物を得た。
この組成物を、(1)で得られたプライマー層付プラスチックレンズ基材上に浸漬法(引き上げ速度40cm/min)にて塗布した。塗布したプラスチックレンズ基材は80℃で30分間加熱硬化処理して基材上に2.0μmのハードコート層を形成させた。
【0060】
(3)ハードコート層の染色
前記の工程で得られたレンズ基材を、分散染料としてFSP Blue AUL-S(双葉産業(株)製)を2.00g、FSP Red BL(双葉産業(株)製)を0.10g、FSP Yellow(双葉産業(株)製)を0.12g、FSP BrownS-N(双葉産業(株)製)を0.05g分散させ、分散助剤としてNES203-27を0.50g含有させた分散染料浴中に94℃で20分間浸漬させて、グレー色にハードコート層の着色を行った。
【0061】
(4)反射防止層の形成
ハードコート層を染色(着色)したレンズ基材上に、多層からなる無機反射防止層を形成した。具体的には、SiO層の成層は、真空蒸着法(真空度2.0×10−4Pa)で行った。TiO層の成層は、イオンアシスト蒸着法(真空度4.0×10−3Pa)で行った。TiO層をイオンアシスト蒸着で成膜するときのイオンアシスト条件は加速電圧520V、加速電流値270mAで、真空度は酸素を導入して4.0×10−3Paで保持するようにした。基材側から数えて、第1層は0.083λ0の光学膜厚を持つSiO層(屈折率1.45)、第2層は0.070λ0の光学膜厚を持つTiO層(屈折率2.36)、第3層は0.10λ0の光学膜厚を持つSiO層、第4層は0.18λ0の光学膜厚を持つTiO層、第5層は0.065λ0の光学膜厚を持つSiO層、第6層は0.14λ0の光学膜厚を持つTiO層、第7層は0.26λ0の光学膜厚を持つSiO層を順次積層してなる反射防止層を構築した。
【0062】
〔実施例2〕
実施例1において、ハードコート用の組成物調製時に、B成分として2,2'-チオビス-(6-t-ブチル-4-メチルフェノール)を用い、さらにD成分(多官能エポキシ化合物)を加えた点が実施例1と異なる。具体的には、A成分とC成分を混合調製した後、D成分としてエポキシ樹脂(ナガセ化成(株)製、商品名デナコールEX−313)25質量部(コーティング組成物の固形分に対して10質量%)を加えて2時間攪拌し、鉄(III)アセチルアセトナート2.5質量部、および「B成分」として2,2'-チオビス-(6-t-ブチル-4-メチルフェノール)0.13質量部(コーティング組成物の固形分に対して0.1質量%)を加えて3時間攪拌し、2μmのフィルターでろ過を行い、ハードコート組成物を得た。その他は、実施例1と同じである。
【0063】
〔実施例3〕
実施例1において、D成分を加えた点が異なる。具体的には、A成分とC成分を混合調製した後、D成分を25質量部(コーティング組成物の固形分に対して10質量%)を加えた。その他は、実施例1と同じである。
〔実施例4〕
実施例3において、B成分の配合量を2.50質量部(コーティング組成物の固形分に対して1.0質量%)とした点が異なる。その他は、実施例3と同じである。
〔実施例5〕
実施例3において、B成分の配合量を5.00質量部(コーティング組成物の固形分に対して2.0質量%)とした点が異なる。その他は、実施例3と同じである。
【0064】
〔比較例1〕
B成分を配合しなかった点以外は、実施例2と同じである。
〔比較例2〕
B成分とD成分をともに配合しなかった点以外は、実施例1と同じである。
〔比較例3〕
B成分を配合せず、D成分を50質量部(コーティング組成物の固形分に対して20質量%)配合した点以外は、比較例1と同じである。
【0065】
〔評価方法〕
実施例1〜5、比較例1〜3で得られたプラスチックレンズについて、以下のような評価を行なった。評価結果を表1に示す。
(a)染色性:
着色されたレンズを分光光度計により視感透過率を測定し、30%以下のものを◎、50%以下のものを○、70%以下のものを△、70%を越えるものを×とした。
(b)耐擦傷性:
ボンスター#0000スチールウール(日本スチール(株)製)により、レンズに9.8N(1kgf)の荷重をかけ、10往復表面を摩擦し、傷ついた程度を目視で観察した。傷のほとんど見られないものを◎、少し見られるものを○、傷が若干多く見られるものを△、全面に傷が多く見られるものを×とした。
(c)膜密着性(耐温水性):
レンズを、80℃の温水中に60分間浸漬させ、クラック、白化等の発生を目視で観察した。まったく異常のないものを◎、若干のむくみ等の見られるものを○、少しクラック等の発生があるものを△、全面にクラック等の発生があるものを×とした。
【0066】
【表1】

【0067】
〔評価結果〕
表1の実施例1および比較例1より、固形分中のB成分(ビフェニルスルフィド)の割合が0.5質量%と少量であるにもかかわらず、D成分(多官能エポキシ化合物)の割合が10%のものと同等以上にレンズ基材が濃く染色されている。さらに実施例1は、耐擦傷性にも優れている。また比較例2のレンズは、耐擦傷性には優れるものの、ハードコート層にB成分もD成分も含まないので、染色性が悪く、実用上好ましくない。
実施例2〜5は、B成分とD成分とを併用した例であるが、B成分の添加量が少ない為に、本来のハードコート層としての硬さが維持され、充分な染色性と耐擦傷性を維持している。それに比較して比較例3のように、D成分を固形分中に20質量%含有するものでは、染色性は優れているものの、ハードコート層としての硬さが不充分であり、耐擦傷性に劣っている。また、D成分をまったく含まない比較例2では、層密着性が悪い。
なお、レンズの実用性を考慮すると、層密着性を向上させる為には、B成分とD成分を併用することが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の光学物品は、眼鏡用カラーレンズとして利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材上にハードコート層とを有する光学物品であって、
前記ハードコート層が、少なくとも下記「A成分」および「B成分」を含有するコーティング組成物から形成されているとともに、
前記ハードコート層が、染料により着色されていることを特徴とする光学物品。
「A成分」;加水分解可能な有機ケイ素化合物
「B成分」;ビアリールスルフィド
【請求項2】
請求項1に記載の光学物品において
前記「A成分」が、一般式:RSiXで示される化合物であることを特徴とする光学物品。
(式中、Rは重合可能な反応基を有する炭素数が2以上の有機基、Xは加水分解性基を示す。)
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の光学物品において、
前記「B成分」が下記式(1)で示されるビフェニルスルフィドであることを特徴とする光学物品。
【化1】

(式中、RおよびR’は炭化水素基もしくはヒドロキシル基を示す。nおよびn’は0〜5の整数である。同一環に複数のRやR’が結合している場合は、各々同じでも異なっていてもよい。)
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれかに記載の光学物品において、
前記ハードコート層がさらに下記「C成分」を含有することを特徴とする光学物品。
「C成分」;金属酸化物微粒子
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれかに記載の光学物品において、
前記ハードコート層がさらに下記「D成分」を含有することを特徴とする光学物品。
「D成分」;多官能エポキシ化合物
【請求項6】
請求項1〜請求項5のいずれかに記載の光学物品において、
前記「B成分」の含有量が、前記コーティング組成物中の固形分全量に対して0.01〜5質量%であることを特徴とする光学物品。
【請求項7】
請求項1〜請求項6のいずれかに記載の光学物品において、
前記基材表面上で且つ前記ハードコート層の直下にプライマー層が設けられることを特徴とする光学物品。
【請求項8】
請求項1〜請求項7のいずれかに記載の光学物品がプラスチックレンズであることを特徴とする光学物品。

【公開番号】特開2008−233676(P2008−233676A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−75338(P2007−75338)
【出願日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】