説明

光学的薄膜を形成する方法及び装置

【課題】汚染がほとんどない真空チャンバを用いて、所定の機械的特性を備えた層を基板の前面に形成させる薄膜の形成方法及び薄膜の形成装置を提供すること。
【解決手段】本発明の装置によって実行される本発明の方法において、基板(10)の前面(20)に遷移層(12)を形成し、この遷移層(12)により、基板(10)の機械的特性と遷移層(12)上に付着される層システム(16)の機械的特性とを調和させた。真空チャンバ(18)内でのスパッタリングプロセス中に、反応生成物(14)は、少なくとも事実上独占的に遷移層(12)内に組み込まれる。これにより、真空チャンバ(10)の他の表面及び基板(10)の裏面側(34)が、反応生成物(14)及び/またはプリカーサで汚染されることが防止される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1で請求する薄膜を形成する方法及び請求項9で請求する薄膜を形成する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
真空式薄膜形成プロセスは、例えば、反射防止用薄膜及びミラーコーティング、光学フィルター及び基板表面の処理など、光学的薄膜を形成するために使用されている。真空式薄膜形成プロセスは、特に、真空蒸着法(VD)、化学的気相成長法(CVD)及びスパッタリング(物理的気相成長法:PVD)などを含む真空チャンバ内で行なわれる。
【0003】
真空蒸着中において、まず、加熱装置すなわち電子ビーム加熱蒸着装置によって薄膜形成用材料は溶融され、蒸発される。次に、気相状態の材料は、基板の冷面に凝着して、薄膜層が形成される。しかしながら、気相状態の材料は、この気相状態の材料が接近しやすい他の真空チャンバの表面にも付着される。
【0004】
物理的気相成長法とは異なるが、CVDプロセスでは、気相状態の材料の固体成分が基板の表面に付着され化学反応が行なわれる。この前の状態では、気相状態の材料内に存在する所定の特性を備えた化合物、例えば所定の反応体は、固体層として付着される。特定のCVDプロセスがプラズマ強化式CVDである。このプロセスでは、プラズマは薄膜が形成される基板の表面の上方に生成される。気相状態の材料内のある成分は、プラズマ内で化学反応状態となり、基板表面の近くで化学反応をして、固体層が形成される。
【0005】
スパッタリングという用語は、イオン衝突によって材料が引き剥がされることを説明するために使用されており、衝突する固体状態のターゲットの極小粒子が引き剥がされ(スパッタされ)、好適には、真空チャンバ内のスパッタリングガスと反応した後に、ターゲットに直接対向する基板の前面に凝着され、その結果、固体層が形成される。スパッタリングは、主として、イオン衝突による方向特性を備えた物理的な薄膜形成プロセスであり、薄膜は、ターゲットに直面する領域、特に、基板の前面の領域のみに形成される。
【0006】
上述した薄膜形成プロセスは、一般に、セラミック特性を備えた無機質材料の層を形成するために使用される。しかしながら、無機質層は非常に脆いという欠点を備えており、このことは、無機質層とは異なる機械的特性及び/または熱特性を備えた合成樹脂製基板、特に、伸縮率及び伸長率が無機質層とは異なる合成樹脂製基板への適用は制限されてしまうことを意味している。特に、無機質層は、合成樹脂製スペクタクルレンズまたは時計面用の、強度の機械的ストレス及び熱的ストレスに曝される反射防止薄膜層及び/または引っかき防止薄膜層の役割をして、高い光学的品質を満足させなければならない。基板と機能層の機械的特性及び/または熱的特性の大きな差により、付着性が低下して、薄層が剥がれ落ちる可能性さえある。薄層が剥落したスペクタクルレンズでは、装着中に視界が損なわれてしまうかもしれない。
【0007】
この問題を解決するために、合成樹脂材表面を硬くするように、湿式化学的プロセスによるハードラッカーにより合成樹脂材表面をシールすることが知られている。この方法により表面が硬化された後、さらに光学層または層システムが、上述した真空薄膜形成プロセスの一つを用いてハードラッカー層に付着される。しかしながら、このハードラッカー層処理は、技術的に非常に複雑で、光学的に完全なハードラッカー層の歩留まりが低いだけでなく、真空薄膜形成プロセスで形成される酸化物層や窒化物層のような無機質層に比べて摩損抵抗や耐候性が低い。さらに、この2ステップ式製造プロセスは、表面汚染の可能性があり、また、処理技術がより複雑となってしまうためにコスト増となってしまう。
【0008】
他の解決法として、付着されるハードラッカー層を単独に形成しないことが特許文献1に開示されている。この方法では、プラズマ強化式CVDプロセスにおいて、気相状態の有機金属モノマー(organometal monomers)が酸素や窒素の反応性ガスに加えて真空チャンバ内に導入され、薄膜層を形成するように薄膜層内に組み込まれる。有機金属モノマーであるヘキサメチルジシロキサン(HMDSO:hexamethylenedisiloxane)は、有機化された酸化物層、酸窒化物層または窒化物層を形成するために使用される。このプロセスの好適な適用領域は、フィルムコーティング、ウインドウ及びミラーコーティング、装飾部材の表面及び外装部材の表面のコーティングなどである。
【0009】
プラズマ強化式CVDプロセスの不利な点は、真空チャンバ内における基板の所定の表面だけでなく他の表面、特に、基板の裏面を含む他の表面が、制御されることなく薄膜が形成され、または、汚染されることである。この結果、少なくとも、処理状態は、反応性ガスが表面で化学的に反応してしまう方法に選択されてしまう。したがって、製造プロセス中に、時間がかかり、かつ、高コストとなる真空チャンバのクリーニング作業を実行しなければならない。裏面側に無制御に薄膜が形成されることにより最終製品の光学的品質に悪影響を与えてしまうため、この形式のCVDプロセスは、光学要素の製造には問題がある。
【0010】
特許文献1に開示されたプロセスでは、薄膜が形成される表面の直前に高密度プラズマゾーンが形成され、また、薄膜が形成される表面上への反応性ガスとモノマーの進行によって、表面上の一定の場所に薄膜が形成される。しかしながら、このプロセスは、技術的に複雑で、真空チャンバの汚染を十分に阻止することができないし、基板の裏面側に制御されない薄膜が形成されてしまう。
【特許文献1】欧州特許公開第0870070号明細書
【特許文献2】欧州特許公開第1275751号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、汚染がほとんどない真空チャンバを用いて、所定の機械的特性を備えた層を基板の前面に形成する薄膜の形成方法及び薄膜の形成装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この課題は、請求項1で請求する薄膜を形成する方法及び請求項9で請求する薄膜を形成する装置によってそれぞれ達成される。また、好適な実施の形態が従属する請求項に記載されている。
【0013】
本発明の方法及び本発明の装置は、基板の前面に光学的遷移層を形成するために使用される。遷移層は、基板の機械的特性を、遷移層の上面に形成される層または層システム(layer system)の機械的特性に調和させようとするものである。このことにより、基板の材料と基板の上面に形成される層との間に、弾性、硬さ及び熱特性の互換性が生まれる。スパッタリングは遷移層を形成する基本的なプロセスである。スパッタリングは、優れた方向特性と組み合わされて迅速に層を形成することができ、その結果、真空チャンバの汚染は実質的に阻止される。遷移層を形成するスパッタリング操作中に、プリカーサ(precursors)が真空チャンバ内に導入され、プリカーサの反応生成物が遷移層内に組み込まれて、遷移層の機械的特性を変化させる。真空チャンバ内において気相状態のプリカーサの濃度は、同時に起こるスパッタリング操作を伴なわない、すなわち、CVDプロセスの一部としての反応生成物及び/またはプリカーサの付着が、実質的に阻止されるか、あるいは、起こらないように設定される。このことは、反応生成物及びプリカーサに関して、スパッタリング操作が吸着及び脱着を起すことなく、平衡状態にあることを意味しており、スパッタリング操作中に、ターゲットと対向する領域、特に薄膜が形成される表面の領域において脱着が妨げられ、及び/または、吸着が促進される。このようにして、反応生成物及び/またはプリカーサは、ターゲット経路において、ターゲットと対向する領域に、特に、基板の前面の領域に事実上独占的に付着される。この領域は、真空チャンバの周囲の表面及び基板の裏面側より汚染が少ない領域である。
【0014】
好適には、さらに、真空チャンバ内で基板を移動することなく、スパッタリングにより薄膜を形成することができる。例示するだけであるが、遷移層を形成し、次に、スペクタクルレンズまたは時計面上に、同一ターゲット、例えばSiターゲットを使用して単独操作で反射防止薄膜用のSi酸化物/Si窒化物層システムを形成することができる。この保護層及び反射防止層を形成するプロセスは、例えば、特許文献2に開示されている。
【0015】
その結果、本発明の装置及び本発明の方法では、時間を節約し、かつ、コストを低減した製造プロセスを使用して、高品質薄膜、特に、光学素材用の高品質薄膜を製造する。また、従来技術とは異なり、純粋に化学的なプロセスではなく、むしろ、明確な方向特性を備えた物理的スパッタリングと化学的反応を組み合わせて、遷移層内に反応生成物を組み込むものである。
以下、詳細にかつ単に図示した図面を参照して、本発明の方法及び本発明の装置の最適な実施の形態について説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図1(A)は、本発明の方法または本発明の装置を利用して形成された薄膜を有する基板を示す。プリカーサから形成された反応生成物14が組み込まれた遷移層12(同様に、硬質層として参照される)が、基板10上に直接形成される。反応生成物14は、この反応生成物14上に形成される反射防止層システム(多層膜)16の機械的特性及び熱特性を、基板10の機械的特性及び熱特性に調和させるために使用される。これにより、基板10と層システム(多層膜)16との機械的互換性が確保される。弾性が増大して、遷移層12との調和性が改善されるため、非常に砕けやすい無機質層システム16の剥離が防止される。それゆえ、遷移層12は、基板10と層システム16との間のブリッジ機能の役割を演じる。
【0017】
図1(A)に示す遷移層12は、合成樹脂材から製造された基板10をサンドイッチ状に取り囲み、主にSiO2から構成されており、ほぼ500nmの厚さに形成されている。この遷移層12上に形成された反射防止層システム16は、図1(B)に詳細に図示されているが、ほぼ214nmの厚さで、ほぼ33nmの厚さのSiNY層16a、ほぼ22nmの厚さのSiOX層16b、ほぼ66nmの厚さのSiNY層16c及びほぼ94nmの厚さのSiOX層16aから構成されている。同一のターゲット材料のシリコンと、スパッタリングガスの酸化物及び窒化物が、遷移層12及び層システム16を形成する間中使用されるので、各層12、16a、16b、16c、16dは、基板10を移動させることなく単一操作で連続して付着させることができる。反射防止薄膜の形成方法は、例えば、特許文献2に開示されている。ここで図示した合成樹脂製基板10の薄膜形成の他に、他の基板材料、例えば、ガラス、金属またはセラミック製の材料に、同じように薄膜を形成することができる。さらに、基板10と層システム16との間の互換性を最適化するために、薄膜形成操作中にプリカーサの濃度を変えることによって、遷移層12内に、所定の濃度変化率の反応生成物14を生成することができる。
【0018】
図2は、本発明に係る装置を単に図示して示すものである。壁部によって形成された真空チャンバ18の内側に二つの基板10があり、該基板10の前面20は真空チャンバ18の内側に向けられ、ターゲット24のターゲット表面22に対向させて少なくとも実質的に平行に置かれている。基板10の前面20とターゲット24のターゲット表面22との間の距離は、基板にもよるが、50mmから150mmの間であり、好適には、90mmから120mmの間である。
【0019】
例示した実施の形態では、Siターゲットを使用する。当然にまた、スパッタリングに適した他の材料を使用することができる。ターゲットの表面側において、図示しない装置を使用してターゲット24にイオンを衝突させる。これにより、例えば、ターゲット24に位置決めしたDC電圧ガス放出手段(DC voltage gas discharge)またはマグネトロン手段をパルスモードで作動させることにより、公知の一般的なスパッタリングプロセスが起こる。
【0020】
ターゲットの表面22の近傍で、スパッタリングガスのイオンを含むプラズマが、スパッタリングガス、この実施の形態では、スパッタリングガス入口26から真空チャンバ18内に導入したアルゴンと酸化物のガス中に生成される。電磁場において、イオンはターゲットの表面22に向けて加速される。イオンがターゲットの表面22に衝突すると、Si原子がターゲット24から放出される。運動量保存により、放出された原子は、ターゲットの表面22から基板10の前面20上にほぼ垂直に移動して、スパッタリング中のプロセスにおいて、方向依存性が生成される。途中で、原子は酸化物によって酸化され、この場合、SiO2を形成して、続いて、基板10の前面20上または前面20上の近くに付着される。
【0021】
また、スパッタリングガスを導入するために、真空チャンバ18は、スパッタリングガス入口26の他に、少なくとも一つのプリカーサ入口28と出口30を備えている。
【0022】
気相状態の反応生成物14のプリカーサは、プリカーサ入口28を介して真空チャンバ18内に供給される。真空ポンプに連結された出口30が相互作用して、プリカーサの濃度及びその圧力の一部が、制御装置(図示省略)によって設定される。この実施の形態では、使用されるプリカーサは、ヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)である。また、気相状態の他の物質または物質混合物、好適には、有機金属化合物を使用することができる。この実施の形態では、10dm3サイズの真空チャンバを使用して、プリカーサHMDSOの流量が、0.3リットル/時(liters/h)[s.t.p.]に相当するほぼ5sccm(standard cubic centimeters/min:標準立方センチメータ/分)に設定され、この流量により、真空チャンバ18内のプリカーサの部分圧力は、1.5・10-2Paとなる。このようなプリカーサの低部分圧力または低濃度において、ターゲット表面22に直接対向するように置かれた基板10の前面20に、事実上独占的に反応生成物14が組み込まれて薄膜が形成される。また、低濃度のプリカーサは次のことを意味している。つまり、イオン衝突が存在しない場合、例えば、ガス放出が停止され、マグネトロン作動が停止し、及び/または、スパッタリングガスの欠乏のために、プラズマが存在しない場合には、真空チャンバ18全体で吸着及び脱着プロセスは平衡しており、プリカーサまたはその反応生成物14による汚染を感知して、組み込み、すなわち、有効な付着がされないことがある。
【0023】
スパッタリング中で遷移層12が形成されている間だけは、ターゲット24に対向する領域、特に、前面20上または前面20の前方を少なくとも事実上独占的に平衡状態にシフトさせて、脱着が妨げられるか、吸着が促進される結果、反応生成物14が遷移層12に組み込まれて、反応生成物14の正味付着が起こる。さらに、吸着プロセスと脱着プロセスとの間の平衡は、ターゲット24すなわちターゲット表面22に対向しない全ての領域において継続し、これらの表面では、付着の減少または汚染は存在しないか、わずかに存在するだけである。
【0024】
スパッタリング中の薄膜形成プロセスの方向依存性により、本発明に係る方法または本発明にかかる装置は、ターゲット表面22から前面20に向かう明確な方向特性を持ち、特に、基板10の裏面側34に、プリカーサまたは反応生成物14の好ましくない付着を防止することが可能となる。裏面側の制御されない薄膜形成により、裏面側34の結合力が部分的に不十分となるため、欠陥のある裏面側の薄膜へのさらなる層あるいは層システムの形成は、不適品質の薄膜形成となってしまう。
【0025】
また、上述した装置を作動させる本発明に係る方法は、最初に、公知の真空薄膜形成プロセスで必要とする準備作業、すなわち、主として真空チャンバ18の清掃、基板表面の調整/清掃、基板10とターゲット24の固定/方向決め、真空チャンバ18の閉鎖及び排気を必要とする。次に、本発明に係る薄膜形成は、基板10の前面20に、反応生成物14を含有する遷移層12を形成して、続いて形成される層システム16の機械的特性を基板10の機械的特性及び/または熱特性に調和させる。スパッタリング中は、反応生成物14を含有する遷移層12は、少なくとも実質的かつ独占的に前面20に付着される。このプロセスの段階では、真空チャンバ18内のプリカーサの部分圧力は、1・10-3Paから1・10-1Paの範囲、好適には、1.5・10-2Paに設定されるため、真空チャンバ18内の反応生成物14及びそのプリカーサの付着は、ターゲット表面22のイオン衝突を除いて阻止される。遷移層12が完成するとすぐに、基板10を複雑にかつ高コストで移動させることなく層システム16を形成することが可能となる。
【0026】
本発明に基づくプロセスを使用して遷移層12が付着され、続いて、反射防止層システム16が付着された基板10に、多数の負荷試験を実施した。これらの試験では、各ケースにおいて、以下のプロセスパラメータを使用して対象物Aに遷移層12を付着した。
・入力ガス流量:アルゴン25sccm、酸素15sccm、HMDSO5sccm、HMDSO部分圧力1.5・10-2Pa;
・1.5kw電源を備えたパルス式DCスパッタリング及びパルス周波数90kHz、パルス合計期間6msのプラズマ;
・Siターゲット24;
・遷移層12の形成時間300ms、遷移層12の厚さ430nm;
・Siターゲット24と基板10との距離105mm
【0027】
次に、同一の反射防止層システム16を対象物Aに付着すると共に、遷移層12を形成しない同一の基板10からなる比較対象物Bに反射防止層システム16を付着した。
次に、標準ツール手段を用いて規定の方法で薄膜に損傷を与え、薄膜を引っ掻いて、相互に1mm間隔で平行に延びる4つの楔形の溝を形成した。
次に、対象物A及び比較対象物Bに迅速エージング試験をした。この試験は、2年間の通常使用に相当する耐用試験を10日間で行なう模擬試験である。このため、対象物は、以下の1から2へと4時間間隔でテストチャンバ内に入れ換えられる。
1.温度55℃及び大気湿度95%
2.温度50℃及び大気湿度ではなく、強度0.83W/m2/nmのUVBライトの照射
【0028】
標準粘着テープ試験(ASTM D 3359:standard Test Methods for Measuring Adhesion by Tape Tests;テープの粘着性を測定する標準試験法)による視認検査により薄膜からの材料の離脱を決定することが可能となる。この試験では、粘着テープを損傷領域に貼り付け、その後、粘着テープを引き剥す。この試験の結果、本発明の遷移層12を形成した対象物Aは、いかなる損傷も、層組成物の離脱もなかった。これに対して、比較対象物Bの薄膜のほぼ30%が剥がれ落ち、また、残った薄膜にはさらにひび割れ構造が見られた。これにより、遷移層12を形成する本発明のプロセスの機能及び優位性を実証できた。
【0029】
本装置及び本プロセスを使用する領域は、合成樹脂材またはガラスから製造されるスペクタクルレンズ及び/または時計面の薄膜形成である。しかしながら、本装置及び本プロセスは、光学一般の分野や装置の製造分野に限定されるものではなく、例えば、包装技術、太陽電池に関連するエネルギー技術などの他の分野でも使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】反応生成物が組み込まれた遷移層を有し、薄膜が形成された基板の側断面図(A)と、遷移層とこの遷移層の上に形成した反射防止層システム(多層膜)を備えた基板の詳細図(B)である。
【図2】真空チャンバ内に二つの基板とターゲットを備えた本発明の装置の平面図である。
【符号の説明】
【0031】
10 基板
12 遷移層
14 反応生成物
16 層システム(反射防止層システム、多層膜)
16a SiNY
16b SiOX
16c SiNY
16d SiOX
18 真空チャンバ
20 基板の前面
22 ターゲットの表面
24 ターゲット
26 スパッタリングガス入口
28 プリカーサ入口
30 出口
34 基板の裏面側


【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン強化式ターゲット原子化手段(スパッタリング)によって、真空チャンバ(18)内に配置した基板(10)の前面(20)に特に光学的薄膜を形成する方法であって、特に基板(10)の機械的特性と基板に形成される層または層システム(16)の機械的特性とを調和させるように、前面側に遷移層(12)を形成するために、遷移層(12)に組み込まれた状態で反応生成物(14)となり、遷移層(12)の機械的特性を変えるプリカーサが、遷移層(12)の形成前及び/または形成中に、真空チャンバ(18)内に導入され、ここで、真空チャンバ(18)内において気相状態のプリカーサの濃度は、同時に起こるスパッタリング操作を伴なわない反応生成物(14)及び/またはプリカーサの付着が実質的に阻止されるように、かつ、スパッタリング中に、反応生成物(14)及び/またはプリカーサが、ターゲット(24)と対向する領域に、好適には、基板(10)の前面(20)に少なくとも事実上独占的に付着されるように、設定されることを特徴とする方法。
【請求項2】
プリカーサは、炭化水素重合体、有機金属化合物、有機シリコン化合物、有機フッ素化合物及び/またはこれらの混合体、好適には、ヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)が使用されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
プリカーサは、真空チャンバ(18)内の部分圧力が、1・10-3Pa〜1・10-1Paの範囲、好適には、1.5・10-2Paに設定されたヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)が使用されることを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
特に光学素材を製造するための遷移層(12)は、合成樹脂製またはガラス製の光学的に透明な基板(10)に形成されることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
さらに、層または層システム(16)、好適には、反射防止層または反射防止層システムが、スパッタリング及び/または他の薄膜形成プロセスにより、遷移層(12)に形成されることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
スパッタリングのために、スパッタリングガスが真空チャンバ(18)内に導入されることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
使用されるスパッタリングガスは、酸素及び窒素であることを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
ターゲット(24)の材料は、シリコンであることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の特に光学的薄膜を形成するプロセスを実行する装置であって、該装置は、プリカーサ入口(28)を備えた排気可能な真空チャンバ(18)を含んでおり、プリカーサ入口を介して制御装置によってプリカーサが所定濃度に設定されることを特徴とする装置。
【請求項10】
前面(20)とターゲット面(22)との間の距離が、50mm〜150mm、好適には、105mmであることを特徴とする請求項9に記載の装置。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−132002(P2006−132002A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−320834(P2005−320834)
【出願日】平成17年11月4日(2005.11.4)
【出願人】(505411435)サティスロウ アーゲー (1)
【氏名又は名称原語表記】Satisloh AG
【Fターム(参考)】