説明

光学素子、光学機器及びそれらの製造方法

【課題】クラック発生が抑制された反射防止膜付き光学素子を提供する。
【解決手段】樹脂レンズ上に、無機中間層と、反射防止膜とを形成する反射防止膜付き光学素子の製造方法であって、前記光学素子はリフロー処理が可能な光学素子であり、前記無機中間層は前記樹脂レンズと前記反射防止膜との間に形成され、前記無機中間層の被覆面積Xと、前記反射防止膜の被覆面積Yとの比が0.7≦X/Y<1であり、不連続な膜により構成されている反射防止膜付き光学素子の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反射防止膜を有する光学素子及びその製造方法、並びに該光学素子を用いた光学機器並びにその製造方法に関する。特に、高温下でのクラックの発生を抑制できる反射防止膜付き光学素子、光学素子を用いた光学機器及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えばレンズ、プリズム、フィルターなど、基材上に反射防止層を設けた反射防止膜付きの光学素子が知られている。反射防止層は、一般的に、異なる屈折率を有する無機又は有機層を複数層積層した構造を有する。またこのような、反射防止膜を有する光学素子は、加工がし易く軽量であるため、プラスチック材料が基材として用いられることが多い。
特許文献1及び2には、反射防止膜と基板との密着性を改善するために、反射防止膜と基板の間に中間層又は隣接層を設けることが記載されている。
【0003】
一方、光学素子を用いた電子機器の製造に際し、電子機器の基板に、半田等の導電性物質を塗布しておき、その上に電子部品を載せた状態で基板を加熱して電子部品を実装する、所謂リフロー処理が行われている。
しかしながら、プラスチック材料が基材として用いられ反射防止層を設けた光学素子を加熱すると、反射防止層の剥がれやクラックが発生することが問題となる。
この問題に対して、例えば特許文献3には、反射防止膜と基板の間にヤング率及び熱膨張係数を制御した中間層を設けることが記載されている。
【0004】
また、表面に凹凸を設けることで防眩性を持たせた反射防止フィルムも知られている(例えば特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−85643号公報
【特許文献2】特開2010−243888号公報
【特許文献3】特開2010−072451号公報
【特許文献4】特許第4225100号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
反射防止層の剥がれやクラック発生の原因の一つとしては、温度変化時のレンズと反射防止層との伸縮率の違いが挙げられる。これを解決するために特許文献3では中間層を設けたが、更なる改良が求められていた。
【0007】
以上のような状況に鑑み、本発明の目的は、耐熱性に優れ、クラック発生が抑制された光学素子の製造方法を提供することである。また、本発明の他の目的は、耐熱性に優れ、クラック発生が抑制された光学素子、該光学素子を有する光学機器及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らが検討したところ、レンズと、反射防止膜との間に無機中間層を設け、該無機中間層の被覆率を反射防止膜の被覆率より低くし、不連続な膜にすることで、高温でもクラックの発生が抑制された光学素子を得られることを見出した。
【0009】
即ち、前記課題は、以下の手段により解決することができる。
【0010】
1.
樹脂基材上に、無機中間層と、反射防止膜とをこの順で有する光学素子の製造方法であって、
前記光学素子はリフロー処理が可能な光学素子であり、
前記無機中間層は前記樹脂レンズと前記反射防止膜との間に形成され、空隙部を有する不連続な膜により構成されており、
前記無機中間層の被覆面積Xと、前記反射防止膜の被覆面積Yとの比が0.7≦X/Y<1であることを特徴とする、反射防止膜付き光学素子。
2.
樹脂基材上に、無機中間層と、反射防止膜とをこの順で有する、上記1に記載の光学素子の製造方法であって、
前記光学素子はリフロー処理が可能な光学素子であり、
前記無機中間層は前記樹脂基材と前記反射防止膜との間に形成され、不連続な膜により構成されており、
前記無機中間層の被覆面積Xと、前記反射防止膜の被覆面積Yとの比が0.7≦X/Y<1であることを特徴とする、反射防止膜付き光学素子の製造方法。
3.
前記無機中間層が島状構造部と空隙部とからなる不連続な膜である、上記2に記載の反射防止膜付き光学素子の製造方法。
4.
前記無機中間層が、気相成膜により形成された島状構造である、上記2又は3に記載の反射防止膜付き光学素子の製造方法。
5.
前記気相成膜が、真空蒸着法法によるものである、上記4に記載の反射防止膜付き光学素子。
6.
前記無機中間層が、金属酸化物及び金属ハロゲン化物から選ばれる少なくとも一種を含む、上記2〜5のいずれか一項に記載の反射防止膜付き光学素子の製造方法。
7.
前記反射防止膜が、無機膜である、上記2〜6のいずれか一項に記載の反射防止膜付き光学素子の製造方法。
8.
前記反射防止膜が、低屈折率層と高屈折率層とがそれぞれ複数層積層された、上記2〜7のいずれか一項に記載の反射防止膜付き光学素子の製造方法。
9.
前記樹脂基材が、熱硬化性樹脂を含む、上記2〜8のいずれか一項に記載の反射防止膜付き光学素子の製造方法。
10.
前記樹脂基材が、プラスチックレンズである、上記2〜9のいずれか一項に記載の反射防止膜付き光学素子の製造方法。
11.
上記1に記載の反射防止膜付き光学素子又は上記2〜10の何れか一項に記載の方法により得られた反射防止膜付き光学素子と、導電部材を有する基板とを有する光学機器の製造方法であって、リフロー処理により形成されることを特徴とする光学機器の製造方法。
12.
前記リフロー処理が、前記反射防止膜付き光学素子を220〜280℃に加熱する処理を含む、上記11に記載の光学機器の製造方法。
13.
上記11又は12に記載の方法により製造された光学機器。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、高温でのクラック発生が抑制された光学素子の製造方法及び光学素子、それを用いた光学機器及びその製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】従来の中間層を有する光学素子を模式的に示す図である。
【図2】従来の中間層を有する光学素子の熱膨張した状態を模式的に示す図である。
【図3】本発明の中間層を有する光学素子を模式的に示す図である。
【図4】本発明の中間層を有する光学素子の熱膨張した状態を模式的に示す図である。
【図5】実施例で作製した無機中間層を模式的に示す図である。
【図6】実施例におけるリフロー処理温度の温度変化パターンを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0014】
本発明の反射防止膜付き光学素子は、
樹脂基材上に、無機中間層と、反射防止膜とをこの順で有する光学素子の製造方法であって、
前記光学素子はリフロー処理が可能な光学素子であり、
前記無機中間層は前記樹脂レンズと前記反射防止膜との間に形成され、空隙部を有する不連続な膜により構成されており、
前記無機中間層の被覆面積Xと、前記反射防止膜の被覆面積Yとの比が0.7≦X/Y<1であることを特徴とする。
【0015】
[無機中間層]
本発明の光学素子の製造方法においては、無機中間層が樹脂基材と反射防止膜との間に形成される。無機中間層の被覆面積Xと、前記反射防止膜の被覆面積Yとの比が0.7≦X/Y<1であり、層中に空隙部を有する不連続な膜により構成されていることを特徴とする。
ここで、被覆面積とは、樹脂基材に対する被覆面積である。被覆面積は、例えば電子顕微鏡で観察することで測定することができる。ここで面積は水平投影面積である。
また、無機中間層及び反射防止膜が複数の層を有する場合、被覆率が最大の層の被覆率をもって無機中間層又は反射防止膜の被覆率X、Yとする。
【0016】
無機中間層は基材上の平面内に形成されるが、無機中間層は均一の連続した膜ではなく、不連続な膜からなるものであり、島状構造を形成していることが好ましい。
島状構造は、詳しくは該無機中間層を構成する材料が基材上の平面内に複数の島部を形成し、隣接する層(基材又は反射防止膜、好ましくはその両方)に対して複数の接点で接し、中間層が不連続な部分において基材と反射防止膜との間に空隙が存在する構造である。
前記島部と島部の間の空隙部は、他の材料(例えば中間層よりも熱膨張係数が小さな材料)で充填されていてもよいが、何も充填されていない空間であることが好ましい。
ここで、島状構造は、複数の島部が互いに完全に離間していてもよいし、隣接する一方の層面は連続的な膜となり、もう一方の面に対して島状構造の先端部だけで接する構造であってもよい。
【0017】
一般的に、反射防止膜は基材上に直接設けられるか、下地層又は中間層と呼ばれる層を介して設けられる。この下地層又は中間層は通常均質で連続的な膜として形成されていた。しかし、無機材料を含む反射防止膜と樹脂基材とでは熱膨張率が異なる。樹脂基材の膨張率が反射防止膜の膨張率より大きい場合、中間層は樹脂基材側が広がる方向に引っ張り応力が発生し、クラック等が発生しやすくなる。図1は、基材100と反射防止膜12との間に、連続的な膜である中間層11を有する従来例の模式図である。反射防止膜12の熱膨張率が基材100の熱膨張率より小さい場合、高温時は図2のように基材100が大きく膨張する。中間層11が存在することで反射防止膜のクラックはある程度防がれるが、中間層11内には大きな引っ張り応力が生じ、クラックの原因になる。
本発明においては反射防止膜を不連続な無機中間層を介して基材上に成膜する。ここで中間層は不連続な膜であり、空隙を有する。引っ張りによる変形は空隙部で大きく生じるため、応力は空隙部に逃がされることとなり、中間層内の応力は連続的な膜の場合と比較して小さくすることができる。図3は、基材100と反射防止膜12との間に、空隙部23と、島状構造部22とからなるの不連続な膜である中間層21を有する本発明の態様の模式図である。高温時は図4のように基材100が大きく膨張し、中間層21には引っ張り応力が発生するものの、空隙部23が大きく変形するため、不連続な膜22内に発生する応力は、連続的な膜である中間層11の場合と比較して小さいので、クラックは生じにくくなる。
【0018】
これにより、本発明の方法で得られた光学素子は、リフロー処理に供されて高温となっても、クラック等の発生を低減することができる。
無機中間層内の厚さは、5〜20nmであることが好ましく、10〜18nmであることがより好ましく、12〜15nmであることが更に好ましい。
【0019】
無機中間層の被覆率は、無機中間層の被覆面積Xと、前記反射防止膜の被覆面積Yとの比が0.7≦X/Y<1であり、好ましくは0.7≦X/Y<0.95であり、より好ましくは0.8≦X/Y<0.95である。この範囲とすることで、リフロー処理時のクラック発生を高い確率で防止でき、かつ、隣接層(反射防止膜等)を形成する際に中間層内の空隙が埋まらない。
ここで、反射防止膜の被覆面積Yと無機中間層の被覆面積Xとの差は、空隙部の面積であることが好ましい。
また、反射防止膜の基材に対する被覆率Yは特に限定されないが、基材の面積に対して60%〜100%であることが好ましく、80%〜100%であることがより好ましく、100%であることが更に好ましい。
反射防止膜は、(多層からなる膜である場合は少なくともその一層が)連続した膜であることが好ましい。
【0020】
無機中間層の材料としては、一般的に光学素子に使用される成膜材料であれば特に限定されず、例えば後述する反射防止膜の各層を構成する材料も好適に使用できる。具体的には、金属酸化物又は金属ハロゲン化物が好ましく、例えば、チタン酸ランタン(LaTiO)、酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化チタン(TiO)、酸化タンタル(Ta)、酸化ニオブ(Nb)、酸化ハフニウム(HfO)、酸化セリウム(CeO)、酸化イットリウム(Y)、フッ化マグネシウム(MgF)、一酸化ケイ素(SiO)、二酸化ケイ素(SiO)、フッ化アルミニウム(AlF)、酸化タングステン(WO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化アルミニウム(Al)、酸化スズ(SnO)、酸化ベリリウム(BeO)、酸化アンチモン(Sb)等、及びそれらの混合物を用いることができる。好ましくは、酸化ジルコニウム(ZrO)が挙げられる。
【0021】
[無機中間層の成膜方法]
無機中間層は、隣接する層、好ましくは樹脂基材上又は反射防止膜上に無機中間層の形成材料を積層することで形成される。
【0022】
無機中間層の成膜方法は、特に制限されないが、上記のとおり不連続な膜構造としつつ、均質な構造とするために、気相成膜により成膜することが好ましい。
【0023】
蒸着、スパッタリングなどの気相成膜においては、初期段階で材料が成膜対象上に互いに離間した島状に付着する。成膜が進行するとこの島状の構造の間にも蒸発した材料が付着することで空隙が埋められ、密に連続した膜となる。
具体的には、蒸着の場合、蒸着源を出発した蒸着物資は成膜する基材に衝突し、その大部分は基材の表面近傍にとどまる。当該蒸着物資は、その場所に付着するのではなく、基材表面を移動し、基材表面の微小な凹凸など、集積しやすい場所に到達し基材表面に捕捉される。捕捉された部位が微小な凸部を形成していると、それを核として他の蒸着物資が集積する。このようにして、5〜10nm程度の島状構造が形成される。島状構造は、蒸着法では島が大きく密度が疎になり、スパッタ法では島が小さく密度は密になる。
【0024】
本発明では、この蒸着の初期段階に生じる島状構造を中間層とすることが好ましい。即ち、中間層の形成材料を蒸着させ、それが連続膜を形成する前の段階で蒸着を終了することが好ましい。このようにして中間層を形成することで、適度な被覆率で、空隙が均質に分布した中間層を経済的に形成することができる。
【0025】
蒸着は物理蒸着でも化学蒸着でもよく、真空蒸着でもスパッタリングでもよい。例えばイオンビームアシスト蒸着やマグネトロンスパッタリングを用いてもよい。
本発明では通常の(イオンビームアシスト等のない)真空蒸着によって成膜を行うことが経済性に優れ好ましい。
蒸着速度は、2Å/sec以上15Å/sec以下が好ましく、5Å/sec以上12Å/sec以下がより好ましい。
【0026】
蒸着成膜時の到達圧力は、2×10−3Pa以下であることが好ましく、1×10−3Pa以下であることがより好ましい。蒸着成膜は、通常、蒸着設備を備えた真空装置内で行われるので、そのような場合には、上記到達圧力は該真空装置内の真空度を意味する。
【0027】
蒸着は酸素、窒素等のガスを導入した雰囲気下で行うことも好ましい。ガス導入時の雰囲気の圧力は2×10−3以上1×10−2以下が好ましい。上記圧力範囲とするためは、脱ガスにより減らすことが好ましく、特にHOを減らすことが好ましい。
【0028】
[樹脂基材]
本発明に係る光学素子において、樹脂基材の材質は特に限定されないが、熱硬化性樹脂が好ましい。樹脂基材の材質としては、例えば、シクロオレフィン共重合体、メチルメタクリレート単独重合体、メチルメタクリレートと1種以上の他のモノマーとの共重合体、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート単独重合体、ジエチレングリコールビスアリルカーボネートと1種以上の他のモノマーとの共重合体、イオウ含有共重合体、ハロゲン含有共重合体、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、不飽和ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、ポリウレタン等が挙げられる。
基材としては、市販のものを用いることもでき、例えば、エスドリマー(ESDRIMER、新日鐵化学(株)製)などを挙げることができる。
樹脂基材の屈折率は、1.5以上1.8以下であることが好ましく、1.50以上1.64以下であることがより好ましい。
基材は平板であっても曲面を有していてもよく、プラスチックレンズであることも好ましい。
【0029】
[反射防止膜]
本発明の光学素子において、反射防止膜は無機材料からなる無機膜であることが好ましい。反射防止膜は単層であってもよいが、低屈折率層と、高屈折率層とを有することが好ましい。
低屈折率層と高屈折率層は、それぞれ1層でも複数層でもよい。低屈折率層と高屈折率層の積層順序も特に限定されないが、基材から最も遠い層(空気側の層)は低屈折率層であることが好ましい。
反射防止性能向上の観点から、低屈折率層と高屈折率層とがそれぞれ複数層積層されていることが好ましく、低屈折率層と高屈折率層とが交互に複数層積層されていることがより好ましい。
なお、低屈折率層及び高屈折率層が各々複数存在する場合、互いに同一でも異なっていてもよい。
【0030】
(高屈折率層)
本発明の光学素子に係る反射防止膜において、高屈折率層の材料としては、例えば、チタン酸ランタン(LaTiO)、酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化チタン(TiO)、酸化タンタル(Ta)、酸化ニオブ(Nb)、酸化ハフニウム(HfO)、酸化セリウム(CeO)、酸化イットリウム(Y)、及びそれらの混合物を用いることができる。
クラックや膜剥離を抑制するためには適度な圧縮応力を持たせることが好ましく、また膜耐久性を有することも好ましい。これらの観点から、光屈折率層の材料としては、チタン酸ランタン(LaTiO)、酸化チタン(TiO)、又は酸化タンタル(Ta)が好ましく、酸化チタン(TiO)又は酸化タンタル(Ta)が好ましい。
【0031】
高屈折率層の屈折率は、1.7以上2.5以下であることが好ましく、1.8以上2.2以下であることがより好ましい。また、高屈折率層の光学膜厚は、設計波長λを500nmとしたときに、0.015λ以上0.54λ以下であることが好ましく、0.02λ以上0.43λ以下であることがより好ましい。但し、光学設計等の観点から0.015λ以下とすることもでき、上記範囲に限定されない。
【0032】
(低屈折率層)
本発明の光学素子に係る反射防止膜においては、低屈折率層の材料としては、例えば、フッ化マグネシウム(MgF)、二酸化ケイ素(SiO)、フッ化アルミニウム(AlF)、及びそれらの混合物を用いることができる。少なくとも一層の低屈折率層が二酸化ケイ素(SiO)を含有する層を含むことが好ましい。
【0033】
低屈折率層の屈折率は、1.35以上1.5以下であることが好ましく、1.38以上1.47以下であることがより好ましい。
低屈折率層の光学膜厚は、設計波長λを500nmとしたときに、0.03λ以上0.44λ以下であることが好ましく、0.05λ以上0.35λ以下であることがより好ましい。但し、光学設計等の観点から0.03λ以下とすることもでき、上記範囲に限定されない。
【0034】
[反射防止膜の成膜方法]
反射防止膜は、樹脂基材上に低屈折率層及び高屈折率層を積層することで形成される。
低屈折率層及び高屈折率層の成膜方法は、特に制限されないが、成膜工程の一貫性及び簡素化の観点から各層を同様に蒸着により成膜することが好ましく、無機中間層と同様の方法で成膜することがより好ましく、無機中間層に引き続いて反射防止膜も成膜することが更に好ましい。
成膜は蒸着により行われることが好ましい。蒸着は物理蒸着でも化学蒸着でもよく、真空蒸着でもスパッタリングでもよい。例えば基材となる隣接層にプラズマ照射しながら蒸着するイオンビームアシスト蒸着や、マグネトロンスパッタリングを用いてもよい。
蒸着速度は、2Å/sec以上15Å/sec以下が好ましく、5Å/sec以上12Å/sec以下がより好ましい。
【0035】
[光学素子、光学機器]
上記の光学素子は、反射防止膜を有する各種光学素子、例えば、プラスチックレンズ、プリズム、光学フィルターなどの光学素子を作成することができる。また、更に光電変換部材や発光部材などを設けて、撮像素子や発光素子を形成してもよい。また、シート状にして本発明の光学素子自体を反射防止膜とし、他の光学素子に貼り付けて使用することもできる。
本発明の光学素子は、高温高湿環境下でもクラックの発生が起こらないため、レンズ、プリズム、フィルターなどの種々の光学材料及び、カメラやディスプレイなどの光学機器、特にリフロー処理を行って形成するに光学材料及び光学機器に好適に用いることができる。
上記光学素子は、光学機器にリフロー処理を用いて組み込まれることが好ましい。具体的には、導電部材を有する基板に対して、半田等の導電性材料を溶融させるリフロー処理によって光学素子と基板上の導電部材とを接続固定して光学機器を形成することが好ましい。
リフロー処理は、導電性材料を溶融するために好ましくは220℃以上290℃以下であることが好ましく、より好ましくは230℃以上280℃以下という高温環境で行われ、一般的には、リフロー処理品に要求される耐熱温度は250℃以上といわれる。なお、本発明において、リフロー処理の温度とは、リフロー処理中の最高温度をいう。
例えば、樹脂基材として、レンズ機能を有するプラスチックを用いた場合には、優れた反射防止効果を有しながら、かつ、リフロー処理を行ってもクラックの発生がない、透明な反射防止膜付きのプラスチックレンズが得られる。このようなレンズは、リフロー工程を経てデジタルカメラ等の光学機器に実装することができるので、効率よく光学機器に搭載することができる。
【実施例】
【0036】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0037】
図5に示す層構成の反射防止膜を作製した。即ち、基材100上に、第1層として無機中間層1(ZrOの不連続(島状構造)膜)を積層し、更にその上に第2層として高屈折率層2(TiO膜)、第3層として低屈折率層3(SiO膜)、第4層として高屈折率層4(ZrO膜)、第5層として低屈折率層5(SiO膜)を積層し反射防止膜10を作製した。
基材100は、エスドリマー(ESDRIMER)LT−102(新日鐵化学株式会社製)を用いて外形(直径)4mmの片側が凸面、もう片側が凹面のレンズを成型したものを用いた。該基材100の両面に直径3mmの範囲に無機中間層、高屈折率層及び低屈折率層を下記条件の真空蒸着法にて成膜した。なお、図1〜図5ではレンズを平板として表し、片面のみを表している。
基板温度:85℃
成膜圧力:8.8×10−3Pa(Oを導入)
成膜レート:5Å/s
なお、各層の形成は、表に記載した膜厚となった時点で成膜を終了した。
蒸着物質としては、ZrO、TiO、SiOを使用した。
第1層を形成した表面、及び第1層と第2層とを形成した表面を電子顕微鏡で観察し、単位面積あたりの基材に対する被覆率を測定し、無機中間層の被覆面積Xと、前記反射防止膜の被覆面積Yとの比X÷Y×100を被覆率(%)として表に記載した。
実施例1〜6及び比較例1、2の第1層は蒸着が初期段階で終了したため、島状構造が見られ、被覆率は低くなった。比較例3の第1層、及び実施例1〜6、比較例1〜3の第5層は蒸着が進行し、島状構造のない連続した膜となっていた。
【0038】
得られた反射防止膜を設けた基材を、図6に示したようなパターンで温度を変動させ、リフロー処理時の温度環境を仮想的に再現した。その後、反射防止膜を設けた基材を光学顕微鏡で観察し、クラックの有無を調べ、以下の基準で評価した。
○:反射防止膜にクラックが見られない。
△:反射防止膜に1本のクラックが見られる。
×:反射防止膜に2本以上のクラックが見られる。
【0039】
各構成例における膜の材質、膜厚、及び評価結果を下記表に示す。
【0040】
【表1】

【0041】
表1に示す結果より、無機中間層である第1層の被覆率が、反射防止膜である第5層の面積に対して70〜95%である実施例1〜6ではクラックを抑制できることがわかる。
【符号の説明】
【0042】
1 無機中間層
2 高屈折率層
3 低屈折率層
4 高屈折率層
5 低屈折率層
10 反射防止膜
100 基材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂基材上に、無機中間層と、反射防止膜とをこの順で有する光学素子の製造方法であって、
前記光学素子はリフロー処理が可能な光学素子であり、
前記無機中間層は前記樹脂レンズと前記反射防止膜との間に形成され、空隙部を有する不連続な膜により構成されており、
前記無機中間層の被覆面積Xと、前記反射防止膜の被覆面積Yとの比が0.7≦X/Y<1であることを特徴とする、反射防止膜付き光学素子。
【請求項2】
樹脂基材上に、無機中間層と、反射防止膜とをこの順で有する、請求項1に記載の光学素子の製造方法であって、
前記光学素子はリフロー処理が可能な光学素子であり、
前記無機中間層は前記樹脂基材と前記反射防止膜との間に形成され、不連続な膜により構成されており、
前記無機中間層の被覆面積Xと、前記反射防止膜の被覆面積Yとの比が0.7≦X/Y<1であることを特徴とする、反射防止膜付き光学素子の製造方法。
【請求項3】
前記無機中間層が島状構造部と空隙部とからなる不連続な膜である、請求項2に記載の反射防止膜付き光学素子の製造方法。
【請求項4】
前記無機中間層が、気相成膜により形成された島状構造である、請求項2又は3に記載の反射防止膜付き光学素子の製造方法。
【請求項5】
前記気相成膜が、真空蒸着法によるものである、請求項4に記載の反射防止膜付き光学素子。
【請求項6】
前記無機中間層が、金属酸化物及び金属ハロゲン化物から選ばれる少なくとも一種を含む、請求項2〜5のいずれか一項に記載の反射防止膜付き光学素子の製造方法。
【請求項7】
前記反射防止膜が、無機膜である、請求項2〜6のいずれか一項に記載の反射防止膜付き光学素子の製造方法。
【請求項8】
前記反射防止膜が、低屈折率層と高屈折率層とがそれぞれ複数層積層された、請求項2〜7のいずれか一項に記載の反射防止膜付き光学素子の製造方法。
【請求項9】
前記樹脂基材が、熱硬化性樹脂を含む、請求項2〜8のいずれか一項に記載の反射防止膜付き光学素子の製造方法。
【請求項10】
前記樹脂基材が、プラスチックレンズである、請求項2〜9のいずれか一項に記載の反射防止膜付き光学素子の製造方法。
【請求項11】
請求項1に記載の反射防止膜付き光学素子又は請求項2〜10の何れか一項に記載の方法により得られた反射防止膜付き光学素子と、導電部材を有する基板とを有する光学機器の製造方法であって、リフロー処理により形成されることを特徴とする光学機器の製造方法。
【請求項12】
前記リフロー処理が、前記反射防止膜付き光学素子を220〜280℃に加熱する処理を含む、請求項11に記載の光学機器の製造方法。
【請求項13】
請求項11又は12に記載の方法により製造された光学機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−203215(P2012−203215A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−67888(P2011−67888)
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】