説明

光学素子の製造方法、光学素子及び光ピックアップ装置。

【課題】耐環境性を向上させることのできる光学素子の製造方法、光学素子及び光ピックアップ装置を提供すること。
【解決手段】ブルー用光ピックアップ装置に用いられる対物レンズの製造方法は、酸化防止剤を1〜5wt%含有する熱可塑性樹脂製の成形部50を成形する成形工程と、成形部50の表面に対してフッ素化処理を行うフッ素化工程とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学素子の製造方法、光学素子及び光ピックアップ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光学素子の材料としては、成形性やコストの観点から樹脂材料を用いることが多く、このような樹脂材料製の光学素子においては、ガラス製のものに比して熱や光による性能劣化が生じ易いことから、耐熱性や耐光性といった耐環境性を高くしたいという要望が強い。
【0003】
この耐環境性を向上させる方法としては、光学素子に酸化防止材や紫外線吸収剤を添加する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。この二つを同時に添加すれば一層の耐環境性の向上が期待できるものの、例えばBD(Blu-ray Disk)用途のような短波長光用の光学素子に対しては、紫外線吸収剤を添加すると光が吸収されて透過しにくくなるため、酸化防止剤だけが添加されている。
【0004】
そして、この酸化防止剤は、基本的には多量に添加するほど耐環境性を向上させることができる。
【特許文献1】特開2007−172830号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、酸化防止剤はそもそも樹脂材料に混ざりにくく、多くても1wt%程度しか添加できない。これを超える量を添加した場合には、凝集固化した未混合分が樹脂材料の表面に粉吹きするブリードアウトが生じ易くなるため、添加量を増やして耐環境性を向上させることができなかった。
【0006】
本発明の課題は、耐環境性を向上させることのできる光学素子の製造方法、光学素子及び光ピックアップ装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様によれば、樹脂製の成形部を有する光学素子の製造方法であって、
酸化防止剤を1〜5wt%含有する熱可塑性樹脂製の前記成形部を成形する成形工程と、
前記成形部の表面に対してフッ素化処理を行うフッ素化工程と、
を備えることを特徴とする。
【0008】
本発明の光学素子の製造方法においては、
前記フッ素化処理された前記成形部の表面に対して、無機材料製の反射防止膜を形成する膜形成工程を備えることが好ましい。
【0009】
また、本発明の光学素子の製造方法においては、
前記熱可塑性樹脂は、脂環式ポリオレフィンであることが好ましい。
【0010】
また、本発明の光学素子の製造方法においては、
前記酸化防止剤は、ヒンダートアミン系耐光安定剤であることが好ましい。
【0011】
また、本発明の光学素子の製造方法においては、
前記光学素子としてブルー用光ピックアップ装置に用いられる対物レンズを製造することが好ましい。
【0012】
本発明の他の態様によれば、光学素子であって、
本発明の光学素子の製造方法によって製造されたことを特徴とする。
【0013】
また、本発明の他の態様によれば、光ピックアップ装置であって、
ブルー光を出射する光源と、
本発明の光学素子とを備え、
前記光学素子が対物レンズとして使用されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、酸化防止剤を1〜5wt%含有する熱可塑性樹脂製の成形部の表面に対しフッ素化処理を行うので、成形部の表面を改質しつつ酸化防止剤をシールして、ブリードアウトを防止することができる。従って、従来よりも多量の酸化防止剤を添加して、耐環境性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら本発明の好ましい実施形態について説明する。
【0016】
図1に示す通り、光ピックアップ装置30には、光源としての半導体レーザー発振器32が具備されている。半導体レーザー発振器32は、BD(Blu-ray Disc)用として波長380〜420nmの特定波長(例えば405nm)のブルー光(青紫色光)を出射するようになっている。半導体レーザー発振器32から出射される青紫色光の光軸上には、半導体レーザー発振器32から離間する方向に向かって、コリメータ33、ビームスプリッタ34、1/4波長板35、絞り36、対物レンズ37が順次配設されている。
【0017】
ビームスプリッタ34と近接した位置であって、上述した青紫色光の光軸と直交する方向には、2組のレンズからなるセンサーレンズ群38、センサー39が順次配設されている。
【0018】
対物レンズ37は、高密度な光ディスクD(BD用光ディスク)に対向した位置に配置されており、半導体レーザー発振器32から出射された青紫色光を光ディスクDの一面上に集光するようになっている。対物レンズ37は像側開口数NAが0.7以上となっている。対物レンズ37には、2次元アクチュエータ40が具備されており、2次元アクチュエータ40の動作により、対物レンズ37は光軸上を移動自在となっている。
【0019】
図1中の拡大図に示す通り、対物レンズ37は主には成形部50で構成されており、その表面37a上にフッ素層55と反射防止膜60とが形成されている。
【0020】
このうち、成形部50はレンズ形状に成形されており、集光機能などの本質的な光学機能を発揮するようになっている。この成形部50は熱可塑性樹脂で構成されており、そのような熱可塑性樹脂としては、アクリル樹脂、環状オレフィン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリアミド樹脂又はポリイミド樹脂であることが好ましく、環状オレフィンであることが特に好ましい。具体例として、特開2003−73559号公報に記載の化合物を挙げることができ、その好ましい化合物を下記表1に示す。
【0021】
【表1】

【0022】
なお、上述した熱可塑性樹脂は、光学材料としての寸法安定性の観点から、吸湿率が0.2%以下であることが望ましいため、ポリオレフィン樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン)、フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン、テフロン(登録商標)AF:デュポン社製)、脂環式ポリオレフィン樹脂(環状オレフィン樹脂)(日本ゼオン製:ZEONEX、三井化学製:APEL、JSR製:アートン、チコナ製:TOPAS)、インデン/スチレン系樹脂、ポリカーボネート樹脂等が好適に用いられる。
【0023】
また、成形部50とは、熱可塑性樹脂の構成元素が炭素と水素から成る重合体で、上記の例のほかにも、炭素と水素からなる重合体であるならば、特に、限定されるものではない。
【0024】
また、成形部50を製造する際に使用される触媒や反応停止剤のような重合副資材が残留している場合でも、残留量が1wt%未満であれば、その構成元素が炭素と水素に限定されるものではない。
【0025】
また、成形部50に添加される耐候安定剤や可塑剤のような、添加量が5wt%以下である添加剤の構成元素は、炭素と水素以外でも構わない。
【0026】
ここで、本発明に用いられる耐候安定剤について説明する。
酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤のほか、耐光安定剤として後述するヒンダートアミン系耐光安定剤(以下、HALSと記す)などが挙げられ、これらの中でもフェノール系酸化防止剤、特にアルキル置換フェノール系酸化防止剤、或いはHALSが好ましい。これらの酸化防止剤を配合することにより、透明性、耐熱性等を低下させることなく、成型時の酸化劣化等によるレンズの着色や強度低下を防止できる。これらの酸化防止剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができ、その配合量は、本発明の目的を損なわない範囲で適宜選択されるが、本発明に係る重合体100質量部に対して好ましくは0.001〜5質量部、より好ましくは0.01〜1質量部である。
【0027】
フェノール系酸化防止剤としては、従来公知のものが使用でき、例えば、2−t−ブチル−6−(3−t−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート、2,4−ジ−t−アミル−6−(1−(3,5−ジ−t−アミル−2−ヒドロキシフェニル)エチル)フェニルアクリレートなどの特開昭63−179953号公報や特開平1−168643号公報に記載されるアクリレート系化合物;オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2,2’−メチレン−ビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、テトラキス(メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニルプロピオネート)メタン[ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]]、トリエチレングリコールビス(3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート)などのアルキル置換フェノール系化合物;6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルアニリノ)−2,4−ビスオクチルチオ−1,3,5−トリアジン、4−ビスオクチルチオ−1,3,5−トリアジン、2−オクチルチオ−4,6−ビス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−オキシアニリノ)−1,3,5−トリアジンなどのトリアジン基含有フェノール系化合物;などが挙げられる。
【0028】
リン系酸化防止剤としては、一般の樹脂工業で通常使用される物であれば格別な限定はなく、例えば、トリフェニルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、フェニルジイソデシルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(ジノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、10−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイドなどのモノホスファイト系化合物;4,4’−ブチリデン−ビス(3−メチル−6−t−ブチルフェニル−ジ−トリデシルホスファイト)、4,4’イソプロピリデン−ビス(フェニル−ジ−アルキル(C12〜C15)ホスファイト)などのジホスファイト系化合物などが挙げられる。これらの中でも、モノホスファイト系化合物が好ましく、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(ジノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイトなどが特に好ましい。
【0029】
イオウ系酸化防止剤としては、例えば、ジラウリル3,3−チオジプロピオネート、ジミリスチル3,3’−チオジプロピピオネート、ジステアリル3,3−チオジプロピオネート、ラウリルステアリル3,3−チオジプロピオネート、ペンタエリスリトール−テトラキス−(β−ラウリル−チオ−プロピオネート、3,9−ビス(2−ドデシルチオエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカンなどが挙げられる。
【0030】
耐光安定剤としては、ベンゾフェノン系耐光安定剤、ベンゾトリアゾール系耐光安定剤、HALSなどが挙げられるが、本発明においては、レンズの透明性、耐着色性等の観点から、HALSを用いるのが好ましい。HALSを用いるのであれば特に限定されるわけではないが、テトラヒドロフラン(THF)を溶媒として用いたゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)により測定したポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)が400〜5000であるものが好ましい。
【0031】
このようなHALSの具体例としては、N,N’,N’’,N’’’−テトラキス−〔4,6−ビス−{ブチル−(N−メチル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)アミノ}−トリアジン−2−イル〕−4,7−ジアザデカン−1,10−ジアミン、ジブチルアミンと1,3,5−トリアジンとN,N’−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)ブチルアミンとの重縮合物、ポリ〔{(1,1,3,3−テトラメチルブチル)アミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル}{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}ヘキサメチレン{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}〕、1,6−ヘキサンジアミン−N,N’−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)とモルフォリン−2,4,6−トリクロロ−1,3,5−トリアジンとの重縮合物、ポリ〔(6−モルフォリノ−s−トリアジン−2,4−ジイル)(2,2,6,6,−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ〕−ヘキサメチレン〔(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ〕〕などの、ピペリジン環がトリアジン骨格を介して複数結合した高分子量HALS;コハク酸ジメチルと4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジンエタノールとの重合物、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸と1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジノールと3,9−ビス(2−ヒドロキシ−1,1−ジメチルエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカンとの混合エステル化物などの、ピペリジン環がエステル結合を介して結合した高分子量HALS等が挙げられる。
【0032】
また、デカン二酸ビス(2,2,6,6−テトラメチル−1(オクチルオキシ)−4−ピペリジル)エステル、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)((3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドリキシフェニル)メチル)ブチルマロネート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケートなどの低分子量HALS等が挙げられる。
【0033】
なお、本実施形態において、成形部50としては、特に上記条件が満たされていれば限定されないが、高透明性、高耐熱性、低吸水性、高純度、低複屈折性を加味すると、環状オレフィン重合体であることがより好ましい。
【0034】
フッ素層55は成形部50に対しフッ素化処理が実行されることで形成された層であり、対物レンズ37の表面反射率を低下させる機能を有している。フッ素層55はd線に対する屈折率が1.35〜1.45となっており、当該屈折率の値は表面反射率により測定することができる。フッ素層55の層厚は好ましくは10〜5000nmである。層厚が5000nmを超えると、干渉縞の影響が光の波長に大きく依存し、その上に反射防止膜60を形成してもその機能を発揮させるのが難しくなり、逆に層厚が10nm未満であると、フッ素層55の機能を十分に発揮させるのが難しくなるからである。
【0035】
反射防止膜60は基本的には2層構造を有している。フッ素層55に対し直に第1層61が形成されており、その上に第2層62が形成されている。
【0036】
第1層61は屈折率1.7以上の高屈折率材料から構成された層であり、好ましくはTa,TaとTiOとの混合物,ZrO,ZrOとTiOとの混合物のいずれかで構成されている。第1層61はTiO,Nb,HfOで構成されてもよい。第2層62は屈折率1.7未満の低屈折率材料から構成された層であり、好ましくはSiO,MgFから構成されている。
【0037】
対物レンズ37では、第1層61,第2層62の上にさらに第1層61,第2層62を交互に積層し、反射防止膜60を全体で2〜7層構造としてもよい。この場合、フッ素層55に直に接触する層は成形部50の種類に応じて、高屈折率材料の層(第1の層61)としてもよいし、低屈折率材料の層(第2の層62)としてもよい。本実施形態ではフッ素層55に直に接触する層が高屈折率材料の層となっている。
【0038】
なお、対物レンズ37では、表面37aにフッ素層55と反射防止膜60とが形成されているのと同様に、裏面37bにもフッ素層55と反射防止膜60とが形成されており、表面37aと裏面37bとの両面において成形部50の表面に対しフッ素層55と反射防止膜60とが形成されている。
【0039】
続いて、対物レンズ37の製造方法について説明する。
【0040】
始めに、上記熱可塑性樹脂を一定条件下で金型に対し射出成形し、所定形状を有する成形部50を形成する(成形工程)。この際、酸化防止剤を1〜5wt%の範囲で添加する。
【0041】
次に、成形部50に対してフッ素化処理を実行し、成形部50上にフッ素層55を形成する(フッ素化工程)。
【0042】
このフッ素化工程では、成形部50をフッ素ガス雰囲気中に晒し、その表面にフッ素化層を形成する。これにより、高分子材料(熱可塑性樹脂)の屈折率を低下させ、対物レンズ37の表面反射率を低下させることができる。
【0043】
フッ素ガス雰囲気中のフッ素ガス濃度、フッ素ガス雰囲気中に曝露する温度や時間を適宜選択することにより、フッ素化層厚およびフッ素化率を任意に制御でき、所望の波長の表面反射率を低下させることが出来る。
【0044】
ここで、フッ素ガス雰囲気とは、フッ素ガスを含む気体に覆われていることを意味し、フッ素ガスと窒素,アルゴン等の不活性ガスとの混合ガスに覆われていることも含まれる。
【0045】
また、フッ素ガス雰囲気中のフッ素ガスの濃度は、所望の屈折率およびフッ素化層厚の材料に応じて適宜選択することができる。
【0046】
成形部50を例えば窒素ガス等で希釈した種々の濃度のフッ素ガス中に、所定温度、所定時間曝すことにより、高分子材料の表面から内部に向かって徐々に分子内でのフッ素の導入が起こり、材料のフッ素含有率が増加してゆくことになる。
【0047】
材料表面からのフッ素の浸透深さ、フッ素処理後の材料中のフッ素含有率は、フッ素処理中のフッ素ガスの濃度、フッ素処理温度、フッ素処理時間に依存して変化する。
【0048】
これらの条件については特に制限はないが、フッ素濃度が高い場合、処理時間が長い場合、処理温度が高い場合に、フッ素の浸透深さが深くなり、またフッ素処理後の高分子材料のフッ素含有率が高くなる。
【0049】
フッ素含有率の増加に伴ってフッ素化された部分の屈折率が低減するので、フッ素濃度、処理温度、処理時間を適宜選択すれば、所望の厚さの低屈折フッ素化層を形成することが可能である。
【0050】
ただし、極端にフッ素濃度を高くしたり、極端な高温長時間でのフッ素処理を行うと分子が劣化するため、通常のフッ素処理条件としてはフッ素濃度が1ppm〜25%、処理温度が0〜100℃、処理時間が0.1秒〜120分が好適である。
【0051】
次に、フッ素層55上に反射防止膜60を形成する(膜形成工程)。詳しくは、第1層61を構成する蒸着源を用いて第1層61を形成する。例えば、第1層61として(Ta+5%TiO)膜を形成する場合には、蒸発源としてオプトラン社製OA600を用い、電子銃加熱により当該蒸着源を蒸発させればよい。蒸着中は、真空蒸着装置内部の圧力が1.0×10−2PaまでOガスを導入し、蒸着速度を5Å/secの条件にコントロールしながら成膜するのがよい。そして成膜温度(蒸着装置内の温度)を適切な温度範囲内で保持する。
【0052】
次に、成形部50の反対面にも第1層61を形成するため、蒸着装置内部の反転機構により成形部50を反転させ、上記と同様にしてその反対面にも第1層61を形成する(第2層62の裏面への成膜についても同様である。)。
【0053】
そして、第1層61の上に続けて、第2層62を構成する蒸着源を用いて第2層62を形成する。例えば、第2層62としてSiO膜を形成する場合には、真空蒸着装置内部の圧力が1.0×10−2PaまでOガスを導入し、蒸着速度を5Å/secの条件にコントロールしながら成膜するのがよい。そして成膜温度(蒸着装置内の温度)を適切な温度範囲内で保持する。
【0054】
以上の工程により、対物レンズ37が製造される。
【0055】
続いて、光ピックアップ装置30の動作について説明する。
【0056】
光ディスクDへの情報の記録動作時や光ディスクDに記録された情報の再生動作時に、半導体レーザー発振器32から青紫色光が出射される。出射された青紫色光は、コリメータ33を透過して無限平行光にコリメートされた後、ビームスプリッタ34を透過して、1/4波長板35を透過する。さらに、当該青紫色光は絞り36及び対物レンズ37を透過した後、光ディスクDの保護基板Dを介して情報記録面Dに集光スポットを形成する。
【0057】
集光スポットを形成した青紫色光は、光ディスクDの情報記録面Dで情報ビットによって変調され、情報記録面Dによって反射される。そして、この反射光は、対物レンズ37及び絞り36を順次透過した後、1/4波長板35によって偏光方向が変更され、ビームスプリッタ34で反射する。その後、当該反射光は、センサーレンズ群38を透過して非点収差が与えられ、センサー39で受光されて、最終的には、センサー39によって光電変換されることによって電気的な信号となる。
【0058】
以後、このような動作が繰り返し行われ、光ディスクDに対する情報の記録動作や、光ディスクDに記録された情報の再生動作が完了する。
【0059】
以上の本実施形態によれば、酸化防止剤を1〜5wt%含有する熱可塑性樹脂製の成形部50の表面に対しフッ素化処理を行うので、成形部50の表面を改質しつつ酸化防止剤をシールして、ブリードアウトを防止することができる。従って、従来よりも多量の酸化防止剤を添加して、耐環境性を向上させることができる。
【0060】
なお、上記の実施形態においては、本発明に係る光学素子を対物レンズ37として説明したが、他の種類・用途の光学素子としても良い。
【実施例】
【0061】
以下、実施例および比較例を挙げることにより、本発明に係る光学素子をさらに具体的に説明する。但し、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0062】
(1)サンプルの作製
本発明の実施例,比較例として、以下の表2に示すようなサンプルを作製した。以下、各サンプルについて具体的に説明する。
【0063】
【表2】

【0064】
(1.1)実施例1
エチレン及びビシクロ[2,2,1]ヘプタ−2−エンのランダム共重合体100質量部と、界面活性剤としてのペンタエリスリトールジステアレート0.5質量部とからなる「樹脂材料1」に対し、酸化防止剤としてHALSのビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート1質量部を添加して、二軸混練機にて混練した。
【0065】
混練した樹脂を射出成形により3mm厚のプレートに成形し、1.1気圧,常温,Fガス濃度5%の条件下で3分間フッ素化処理を行ったものを「実施例1」のサンプルとした。
【0066】
(1.2)実施例2
実施例1の「樹脂材料1」に、酸化防止剤としてHALSのビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケートを5質量部添加して、二軸混練した。混練した樹脂を実施例1と同様に処理したものを「実施例2」のサンプルとした。
【0067】
(1.3)実施例3
実施例1の「樹脂材料1」に、酸化防止剤としてフェノール系酸化防止剤のペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]を1質量部添加して、二軸混練した。混練した樹脂を実施例1と同様に処理したものを「実施例3」のサンプルとした。
【0068】
(1.4)実施例4
攪拌装置を備えたステンレス製反応器内を十分に乾燥、窒素置換した。その後、この反応器に対し脱水シクロヘキサン300質量部、スチレン60質量部及びジブチルエーテル0.38質量部を仕込み、これらを60℃で攪拌しながら、n−ブチルリチウム溶液(15%含有ヘキサン溶液)0.36質量部を添加して重合反応を開始させた。
【0069】
1時間重合反応を行い、その後、反応溶液中に、スチレン8質量部、イソプレン12質量部及び1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジリメタクリレート0.8質量部からなる混合モノマーを添加し、さらに1時間重合反応を行い、その後、反応溶液にイソプロピルアルコール0.2質量部を添加して反応を停止させた。
【0070】
次に、上記重合反応溶液300質量部を、攪拌装置を備えた耐圧反応器に移送し、水素化触媒として、シリカ−アルミナ担持型ニッケル触媒(日揮科学工業社製:E22U,ニッケル担持型量60%)10質量部を添加して混合した。反応器内部を水素ガスで置換して、さらに溶液を攪拌しながら水素を供給し、温度を160℃に設定し、その後圧力4.5MPaにて8時間水素化反応を行った。
【0071】
反応終了後、反応溶液をろ過して水素化触媒を除去し、シクロヘキサン800質量部を加えて希釈し、その後当該反応溶液を3500質量部のイソプロパノール中に注いで共重合体を析出させた。その後、この共重合体をろ過し取り出し、80℃にて48時間減圧乾燥させて「樹脂材料2」を得た。
【0072】
この「樹脂材料2」100質量部に、酸化防止剤としてHALSのビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケートを3質量部添加して、二軸混練した。混練した樹脂を実施例1と同様に処理したものを「実施例4」のサンプルとした。
【0073】
(1.5)実施例5
実施例4の「樹脂材料2」に、酸化防止剤としてフェノール系酸化防止剤のペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]を1質量部添加して、二軸混練した。混練した樹脂を実施例1と同様に処理したものを「実施例5」のサンプルとした。
【0074】
(1.6)比較例1
実施例1の「樹脂材料1」に、酸化防止剤としてHALSのビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケートを0.5質量部添加して、二軸混練した。混練した樹脂を実施例1と同様に処理したものを「比較例1」のサンプルとした。
【0075】
(1.7)比較例2
実施例1の「樹脂材料1」に、酸化防止剤としてHALSのビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケートを7質量部添加して、二軸混練した。混練した樹脂を実施例1と同様に処理したものを「比較例2」のサンプルとした。
【0076】
(1.8)比較例3
実施例1の「樹脂材料1」に、酸化防止剤を添加せずに、実施例1と同様に成形・処理したものを「比較例3」のサンプルとした。
【0077】
(1.9)比較例4
実施例4の「樹脂材料2」に、酸化防止剤としてHALSのビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケートを6質量部添加して、二軸混練した。混練した樹脂を実施例1と同様に処理したものを「比較例4」のサンプルとした。
【0078】
(1.10)比較例5
実施例1と同様に成形まで行い、フッ素化処理を行わなかったものを「比較例5」のサンプルとした。
【0079】
(1.11)比較例6
実施例1の「樹脂材料1」に、酸化防止剤としてHALSのビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケートを3質量部添加して、二軸混練した。混練した樹脂を実施例1と同様に成形し、フッ素化処理を行わなかったものを「比較例6」のサンプルとした。
【0080】
(1.12)比較例7
比較例1と同様に成形まで行い、フッ素化処理を行わなかったものを「比較例7」のサンプルとした。
【0081】
(1.13)比較例8
実施例3と同様に成形まで行い、フッ素化処理を行わなかったものを「比較例8」のサンプルとした。
【0082】
(2)サンプルの評価
作製した各サンプルを90℃の温度下で500h保存し、以下の基準に従って耐熱性を評価したところ、上述の表2に示す通りとなった。
【0083】
○:透過率に変化なく、ブリードアウトも発生していない。
△:着色により透過率が低下したが、ブリードアウトは発生していない。
×:ブリードアウトが発生した。
【0084】
また、作製した各サンプルに対し70℃で20mWレーザーを1000h照射し、以下の基準に従って耐光性を評価したところ、上述の表2に示す通りとなった。
【0085】
○:レーザー照射前後で全く変化がない。
△:レーザー照射後、白濁は観られないがブリードアウトによる透過率の低下あり。
×:レーザー照射により白濁が発生した。
【0086】
(3)まとめ
表2の結果から、実施例1〜5のサンプルは、耐熱性や耐光性といった耐環境性に優れていることが分かる。つまり、1〜5wt%の酸化防止剤を添加してフッ素化処理を行うことで、ブリードアウトを防止して耐環境性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】本発明の好ましい実施形態で使用される光ピックアップ装置の概略構成を示す図面である。
【符号の説明】
【0088】
30 光ピックアップ装置
32 半導体レーザー発振器
33 コリメータ
34 ビームスプリッタ
35 1/4波長板
36 絞り
37 対物レンズ
37a 表面
37b 裏面
38 センサーレンズ群
39 センサー
40 2次元アクチュエータ
50 成形部
55 フッ素層
60 反射防止膜
61 第1層
62 第2層
D 光ディスク
保護基板
情報記録面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂製の成形部を有する光学素子の製造方法であって、
酸化防止剤を1〜5wt%含有する熱可塑性樹脂製の前記成形部を成形する成形工程と、
前記成形部の表面に対してフッ素化処理を行うフッ素化工程と、
を備えることを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の光学素子の製造方法において、
前記フッ素化処理された前記成形部の表面に対して、無機材料製の反射防止膜を形成する膜形成工程を備えることを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2記載の光学素子の製造方法において、
前記熱可塑性樹脂は、脂環式ポリオレフィンであることを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか一項に記載の光学素子の製造方法において、
前記酸化防止剤は、ヒンダートアミン系耐光安定剤であることを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか一項に記載の光学素子の製造方法において、
前記光学素子としてブルー用光ピックアップ装置に用いられる対物レンズを製造することを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか一項に記載の光学素子の製造方法によって製造されたことを特徴とする光学素子。
【請求項7】
ブルー光を出射する光源と、
請求項6に記載の光学素子とを備え、
前記光学素子が対物レンズとして使用されていることを特徴とする光ピックアップ装置。

【図1】
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【公開番号】特開2010−44097(P2010−44097A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−205943(P2008−205943)
【出願日】平成20年8月8日(2008.8.8)
【出願人】(303000408)コニカミノルタオプト株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】