説明

光学素子の製造方法

【課題】画像表示装置等の光学機器を製造する際の加熱に対しても種々の光学的特性が安定している重合性液晶材料が硬化されてなる光学素子を製造する方法の提供。
【解決手段】支持体上に重合性液晶材料を塗布し、重合性液晶材料が所定の液晶規則性を有するように重合性液晶材料を硬化させて光学機能層を形成し、前記光学機能層の形成後に、熱処理後の前記光学機能層の膜厚をA、前記光学素子の熱処理の後に再度同じ温度で60分間加熱した後の前記光学機能層の膜厚をB、とした場合に、(A−B)/Aで定義される前記光学機能層の膜厚減少率が、5%以下となるように、前記光学機能層を熱処理する、ことを含んでなり、前記重合性液晶材料が、特定の重合性液晶モノマーと、特定の重合性カイラル剤と、重合開始剤として2−メチル−1[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モリフォリノプロパン−1−オンとを、質量比で100:5:5の割合で含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱が加えられた際の諸特性が安定している耐熱性の光学素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、画像表示装置等に用いられる位相差フィルムや円偏光制御光学素子等の光学素子においては、例えば液晶表示装置等の画像表示装置に組み込まれて用いられる場合がある。このような画像表示装置の製造に際しては、例えば配向膜に用いられるポリイミド膜の製膜のためや透明電極であるITO膜の製膜のために200℃以上で加熱される場合があり、また車内で使用されるディスプレイに用いられる場合は、太陽光による温度上昇により100℃以上に加熱される場合がある。したがって、この液晶表示装置等の画像表示装置に用いられる上述した位相差フィルム等の光学素子も、組み込まれる順序や用いられる場所によっては、100℃以上、場合によっては200℃以上の温度で加熱される可能性があった。
【0003】
一方、近年においては、例えば特開2001−100045号公報や特表平10−508882号公報等に記載されているように、重合性液晶材料を重合させることにより得られる光学素子が提案されている(特許文献1、特許文献2)。
このような光学素子は、液晶が有する特性を重合により固定化してフィルムとして用いることができるといった利点を有するものであるので、種々の用途への展開が期待されている。
【0004】
これらの位相差フィルム等の光学素子について、特開平5−2109号公報には、耐熱性に優れた延伸位相差フィルムが開示されており(特許文献3)、また特開平5−142510号公報には、耐熱性に優れた熱重合する液晶性高分子からなる光学素子が開示されている(特許文献4)。さらに、特開2001−133628号公報には、耐熱性に優れた高分子液晶及び架橋性物質を含む液晶材料からなる偏光回折性フィルムが開示されている(特許文献5)。
【0005】
しかしながら、このような重合性液晶材料を重合させて得られる光学素子は、加熱された場合に、例えばコレステリック規則性を有するコレステリック層の場合は、中心反射波長のシフトが生じてしまうといった問題があった。したがって、上述したように、液晶表示装置等の画像表示装置に組み込んで用いる場合は、製造時に加熱されない部位にのみしか用いることができないといった問題があった。
【0006】
また、延伸位相差フィルムは、80℃以上、特に100℃以上になると、位相差量が変化し、したがって、車載用LCD等で表示ムラ等の問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−100045号公報
【特許文献2】特表平10−508882号公報
【特許文献3】特開平5−2109号公報
【特許文献4】特開平5−142510号公報
【特許文献5】特開2001−133628号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、画像表示装置等の光学機器を製造する際の加熱に対しても、種々の光学的特性が安定している重合性液晶材料が硬化されてなる光学素子を製造する方法を提供することを主目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明は、支持材と、前記支持材上に設けられた光学機能層とを備えた光学素子を製造する方法であって、
前記支持体上に重合性液晶材料を塗布し、重合性液晶材料が所定の液晶規則性を有するように重合性液晶材料を硬化させて光学機能層を形成し、
前記光学機能層の形成後に、熱処理後の前記光学機能層の膜厚をA、前記光学素子の熱処理の後に再度同じ温度で60分間加熱した後の前記光学機能層の膜厚をB、とした場合に、(A−B)/Aで定義される前記光学機能層の膜厚減少率が、5%以下となるように、前記光学機能層を熱処理する、ことを含んでなり、
前記支持体が高分子延伸フィルムである場合は、前記熱処理を80〜120℃で10分間〜60分間の時間で行い、前記支持体がガラス基板である場合は、前記熱処理を180〜240℃で10分間〜60分間の時間で行い、
前記重合性液晶材料が、下記式(1)で表される重合性液晶モノマーと、下記式(2)で表される重合性カイラル剤と、重合開始剤として2−メチル−1[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モリフォリノプロパン−1−オンとを、質量比で100:5:5の割合で含む、ことを特徴とする光学素子の製造方法を提供する。
【化1】

【0010】
このように、熱処理温度と同じ温度で60分加熱した際の膜厚の減少率が上述した範囲内であれば、例えば光学素子を位相差板として用いた場合であればリタデーション値、光学素子が円偏光制御光学素子であれば中心反射波長の変化を最小限とすることができることから、種々の画像表示装置に組み込まれて用いられた場合でも、光学素子の機能の変化を最小限とすることが可能である。
【0011】
また、本発明の別の実施態様においては、支持材と、前記支持材上に設けられた位相差層とを備えた位相差層積層体を製造する方法であって、
前記支持体上に重合性液晶材料を塗布し、前記重合性液晶材料がネマチック規則性、スメクチック規則性またはコレステリック規則性を有するように重合性液晶材料を硬化させて位相差層を形成し、
前記位相差層の形成後に、熱処理後の前記位相差層のリタデーション値をRa、前記位相差層積層体の熱処理後に再度同じ温度で60分間加熱した後の前記位相差層のリタデーション値をRb、とした場合に、(Ra−Rb)/Raで定義される前記位相差層のリタデーション減少率が、5%以下となるように、前記位相差層を熱処理する、ことを含んでなり、
前記支持体が高分子延伸フィルムである場合は、前記熱処理を80〜120℃で10分間〜60分間の時間で行い、前記支持体がガラス基板である場合は、前記熱処理を180〜240℃で10分間〜60分間の時間で行い、
前記重合性液晶材料が、下記式(1)で表される重合性液晶モノマーと、下記式(2)で表される重合性カイラル剤と、重合開始剤として2−メチル−1[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モリフォリノプロパン−1−オンとを、質量比で100:15:5の割合で含むことを特徴とする、位相差層積層体の製造方法も提供される。
【化2】

【0012】
上記のような製造方法により得られた位相差層積層体は、種々の画像表示装置内に組み込まれて用いる場合、加熱によるリタデーション値の変動がこの程度であれば、問題無く用いることができる。
【0013】
さらに、本発明の別の実施態様においては、支持材と、前記支持材上に設けられた位相差層とを備えた位相差層積層体を製造する方法であって、
前記支持体上に重合性液晶材料を塗布し、前記重合性液晶材料がネマチック規則性、スメクチック規則性またはコレステリック規則性を有するように重合性液晶材料を硬化させて位相差層を形成し、
前記位相差層の形成後に、熱処理後の前記位相差層のリタデーション値をRa、前記位相差層積層体の熱処理後に再度同じ温度で60分間加熱した後の前記位相差層のリタデーション値をRb、とした場合に、(Ra−Rb)/Raで定義される前記位相差層のリタデーション減少率が、5%以下となるように、前記位相差層を熱処理する、ことを含んでなり、
前記支持体が高分子延伸フィルムである場合は、前記熱処理を80〜120℃で10分間〜60分間の時間で行い、前記支持体がガラス基板である場合は、前記熱処理を180〜240℃で10分間〜60分間の時間で行い、
前記重合性液晶材料が、下記式(1)で表される重合性液晶モノマーと、重合開始剤として2−メチル−1[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モリフォリノプロパン−1−オンとを、質量比で100:5の割合で含むことを特徴とする、位相差層積層体の製造方法も提供される。
【化3】

【0014】
上記のような製造方法により得られた位相差層積層体は、種々の画像表示装置内に組み込まれて用いる場合、加熱によるリタデーション値の変動がこの程度であれば、問題無く用いることができる。また、リタデーション値は、位相差層の膜厚に関連する値であり、加熱による位相差層の膜厚の変化は、光重合開始剤の残渣の量に依存するものと推察される。したがって、重合性液晶材料中に光重合開始剤が含まれている場合に、特に本発明の利点を活かすことができると考えられる。
【0015】
本発明は、支持材と、上記支持材上に重合性液晶材料が所定の液晶規則性を有して硬化されてなる光学機能層とを有する光学素子に対して、所定温度で熱処理を行うことにより、光学素子に耐熱性を付与することを特徴とする光学素子の熱処理方法を提供する。上述した範囲内での熱処理を行うことにより、光学機能層内の加熱に際して除去される成分を予め除去することができる。また、重合性液晶材料の重合度(3次元)を高めることも可能である。したがって、その後の加熱、すなわち画像表示装置等の製造に際して加熱が行われたとしても、膜厚の変化や、それに伴う特性の変化を防止することが可能であり、光学機能層に熱安定性を付与することができるのである。
【0016】
また、本発明は、基材と、前記基材上に重合性液晶材料が所定の液晶規則性を有して硬化されてなる光学機能層とを有する光学素子に対して、該重合性液晶材料の重合前の等方相以上の温度で熱処理を行うことにより、光学素子に耐熱性を付与することを特徴とする光学素子の熱処理方法を提供する。このように、重合性液晶材料の重合前の等方相以上の温度で熱処理を行うことにより、当該光学素子中の完全には重合していない(架橋していない)分子をより安定な状態に移行させることができるので、画像表示装置等の製造に際して加熱が行われたとしても、膜厚の変化や、それに伴う特性の変化を防止することが可能であり、光学機能層に熱安定性を付与することができる。
【0017】
上記発明においては、前記熱処理が、10分間〜60分間の時間で行われることが好ましい。この範囲内の時間で熱処理を行うことにより、より熱安定に優れる光学機能層とすることができるからである。
【0018】
上記発明においては、上記重合性液晶材料が、光重合開始剤を含有していることが好ましい。上記加熱に際しての膜厚の変化は、上述したように膜内に存在する光重合開始剤の残渣の存在が関係していると考えられるからである。
【0019】
上記発明においては、上記光重合開始剤の含有量が1質量%以上であることが好ましい。この程度の量の光重合開始剤が含有されている場合に、特に本発明の利点を活かすことができるからである。
【0020】
上記発明においては、上記熱処理の温度が、上記光学機能層がその後用いられる光学機器の製造工程で加えられる温度からその温度より10℃高い温度までの範囲内の温度であることが好ましい。例えば、光学素子が液晶表示装置に用いられる場合、液晶表示装置の製造に際してこの光学素子に加えられる温度からその温度より10℃高い温度で予め加熱しておくことにより、加熱により除去される成分が除去されてしまっていることから、その後の製造に際しての加熱において、膜厚が減少する等の問題が生じることがないからである。
【0021】
上記発明においては、上記光学機能層が位相差層であり、上記重合性液晶材料が、重合性液晶モノマーを含むものであり、さらに上記液晶規則性がネマチック規則性、スメクチック規則性、またはコレステリック規則性であることが好ましい。このように光学素子が位相差層積層体であった場合は、予め熱処理を施すことにより、リタデーション値の変化を最小限とすることができるからである。なお、上記液晶規則性が、コレステリック規則性である場合は、上記の重合性液晶材料はカイラル剤を含んでいる必要がある。
【0022】
一方、上記発明においては、上記光学機能層がコレステリック層であり、上記重合性液晶材料が、重合性液晶モノマーと重合性カイラル剤とを含むものであり、さらに上記液晶規則性がコレステリック規則性であるものであってもよい。このように光学素子が円偏光制御光学素子であった場合は、予め熱処理を施すことにより、反射中心波長の加熱による変化を最小限とすることができる。
【0023】
また、上記発明においては、前記重合性液晶材料が、重合性液晶モノマーを含むものであり、該重合性液晶モノマー分子が両末端に重合性官能基を有するものであってもよい。
【0024】
さらに、上記発明においては、前記重合性液晶材料が、重合性液晶モノマーと重合性カイラル剤を含むものであり、該重合性カイラル剤分子が両末端に重合性官能基を有するものであってもよい。このように、重合性液晶モノマー分子の両末端に重合性官能基を有していれば、隣接する当該モノマー分子の両末端が3次元ネットワーク的に重合して(架橋して)、より耐熱性の高い光学素子を得ることができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、100℃で60分加熱した際の膜厚の減少率が極めて小さい光学素子が得られるので、例えば光学素子を位相差板として用いた場合であればリタデーション値、光学素子が円偏光制御光学素子であれば中心反射波長の変化を最小限とすることができる。したがって、種々の画像表示装置に組み込まれて用いられた場合でも、光学素子の機能の変化を最小限とすることが可能であることから、種々の用途展開を図ることができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の光学素子について説明した後、このような光学素子を得るための熱処理方法について説明する。
【0027】
<光学素子>
本発明の光学素子は、支持材と、上記支持材上に重合性液晶材料が所定の液晶規則性を有して硬化されてなる光学機能層とを有する光学素子であって、前記光学素子が、所定温度で熱処理されてなるものであり、前記熱処理後の前記光学機能層の膜厚をA、前記光学素子を、再度前記の熱処理温度で60分間加熱した後の前記光学機能層の膜厚をB、とした場合に、(A−B)/Aで定義される前記光学機能層の膜厚減少率が、5%以下であることを特徴とするものである。
【0028】
本発明では、このように、再度熱処理温度と同じ温度で60分加熱した際に、光学機能層の膜厚の加熱による減少率が、上述した範囲内であれば、膜厚の変動により生じる種々の光学的な特性の変化を防止することができ、熱が加えられる可能性の高い製造工程においても用いることが可能であるので、種々の用途に展開することが可能となる。ここで、所定の熱処理温度とは、下記に説明するように基材として高分子延伸フィルム等を用いた場合には、当該熱処理温度は、基材が軟化(変形)する温度よりも低くする必要があるため、一般的に80〜120℃程度である。一方、基材としてガラス基板等を用いた場合には、基材が変形する温度よりも低い温度で、基材上に形成した光学機能層の熱分解が起こるため、一般に、熱処理温度は180℃〜240℃程度である。
【0029】
本発明の光学素子における光学機能層の膜厚の加熱による減少率が少ないのは、以下の理由によるものと推測される。
【0030】
すなわち、従来の重合性液晶材料を用いた光学素子は、重合性液晶材料が所定の液晶構造を有する状態で重合されて固定化されて用いられている。この重合性液晶材料が重合されて高分子とされただけの状態においては、この液晶構造を有する高分子の他に、例えば光重合開始剤の残渣および光重合開始剤起因の生成物といった重合反応の際に生成された不純物や光重合開始剤の残渣が存在する可能性がある。このような不純物は、上記重合された高分子主鎖に対して、化学的に結合されたものではないので、重合後に加熱された場合は光学機能層内から抜けていく可能性が高い。このように、加熱に際して光学機能層内の物質が除去されてしまうと、当然のことではあるがこの光学機能層の膜厚が減少することになる。
【0031】
本発明においては、後述するように予めこの光学機能層を所定の温度で加熱しておくことにより、光学機能層内に存在する不純物を予め除去したものであり、このように予め不純物が除去された光学機能層であることから、その後に熱が加わった場合でも、膜厚の減少を問題無い範囲とすることができるのである。
【0032】
本発明の光学素子は、このように加熱による膜厚の減少が少ないことから、以下のような作用・効果を奏するものである。
【0033】
すなわち、光学機能層の膜厚は、例えば光学機能層が位相差層であった場合はリタデーション値に関係する値であり、また光学素子が円偏光制御光学素子であり、光学機能層がコレステリック層(本発明においては、内部にコレステリック規則性を有する液晶材料が固定化された層をコレステリック層とすることとする。)である場合は、このコレステリック層の中心反射波長は膜厚(螺旋ピッチ)に依存するものであるが、膜厚変化に伴い螺旋ピッチも変化する。
【0034】
したがって、加熱により光学機能層の膜厚が大きく減少する場合は、このような重要な光学的特性が大幅に変動してしまうことになる。これでは、画像表示装置に用いた場合に、期待される光学的特性を得ることができず、使用することが困難となる。本発明の光学素子は、加熱による膜厚の減少率が上述した範囲内であることから、上述した光学素子の光学的特性の加熱による変動を大幅に低減することが可能であるので、製造工程において熱が加わる可能性の高い画像表示装置等においても、十分に用いることが可能な光学素子とすることができるといった効果を奏するものである。
【0035】
以下、このような光学素子について、各要素毎に説明する。
【0036】
1.支持材
本発明でいう支持材とは、配向能を有する基材、もしくは転写工程により光学機能層が転写された場合は被転写材を示すものである。
【0037】
(配向能を有する基材)
本発明の光学素子は、配向能を有する基材上に重合性液晶材料が所定の液晶規則性を有して硬化されてなる光学機能層が形成されてなるものである。
【0038】
このような配向能を有する基材としては、基材そのものが配向能を有するものである場合と、透明基板上に配向膜が形成されて配向能を有する基材として機能するものとを挙げることができる。以下、それぞれを第1実施態様および第2実施態様として説明する。
【0039】
a.第1実施態様
本実施態様は、基材そのものが配向能を有する態様であり、具体的には基材が延伸フィルムである場合を挙げることができる。このように延伸フィルムを用いることにより、その延伸方向に沿って液晶材料を配向させることが可能である。
したがって、基材の調製は、単に延伸フィルムを準備することにより行うことができるため、工程上極めて簡便であるという利点を有する。このような延伸フィルムとしては、市販の延伸フィルムを用いることも可能であり、また必要に応じて種々の材料の延伸フィルムを形成することも可能である。
【0040】
具体的には、ポリカーボネート系高分子、ポリアリレートやポリエチレンテレフタレートの如きポリエステル系高分子、ポリイミド系高分子、ポリスルホン系高分子、ポリエーテルスルホン系高分子、ポリスチレン系高分子、ポリエチレンやポリプロピレンの如きポリオレフィン系高分子、ポリビニルアルコール系高分子、酢酸セルロース系高分子、ポリ塩化ビニル系高分子、ポリメチルメタクリレート系高分子等の熱可塑性ポリマーなどからなるフィルムや、液晶ポリマーからなるフィルムなどを挙げることができる。
【0041】
本発明においては、中でもポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムが、延伸倍率のレンジ幅が広い点、さらには入手のしやすさ等の観点から好ましく用いられる。
【0042】
本発明に用いられる延伸フィルムの延伸率としては、配向能が発揮し得る程度の延伸率であれば特に限定されるものはない。したがって、2軸延伸フィルムであっても2軸間で延伸率が異なるものであれば用いることが可能である。
【0043】
この延伸率は、用いる材料により大きく異なるものであり、特に限定されるものではないが、一般的には150%〜300%程度のものを用いることが可能であり、好ましくは200%〜250%のものが用いられる。
【0044】
b.第2実施態様
第2実施態様は、上記配向能を有する基材が、透明基板と透明基板上に形成された配向膜とからなる態様である。
【0045】
本実施態様においては、配向膜を選択することにより、比較的広範囲の配向方向を選択することが可能であるという利点を有する。透明基板上に塗布する配向膜形成用塗工液の種類を選択することにより、種々の配向方向を実現することが可能であり、かつより効果的な配向を行うことができる。
【0046】
本実施態様に用いられる配向膜は、通常液晶表示装置等において用いられる配向膜を好適に用いることが可能であり、一般的にはポリイミド系やポリビニルアルコール系の配向膜をラビング処理したものが好適に用いられる。また、光配向膜を用いることも可能である。
【0047】
また、本実施態様に用いられる透明基板としては、透明材料により形成されたものであれば特に限定されるものではなく、例えば石英ガラス、パイレックス(登録商標)ガラス、合成石英板等の可撓性のない透明なリジット材、あるいは透明樹脂フィルム、光学用樹脂板等の可撓性を有する透明なフレキシブル材を用いることができる。
【0048】
(被転写材)
本発明において用いられる被転写材としては、光学素子の用途に応じて適宜選択されるものではあるが、一般的には光学素子であることから透明な材料、すなわち透明基板が好適に用いられる。
【0049】
この透明基板に関しては、上記「配向能を有する基材」の欄で説明したものと同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0050】
2.光学機能層
本発明の光学素子は、上記基材上に、重合性液晶材料が所定の液晶規則性を有して硬化されてなる光学機能層が形成されてなるものである。このような光学機能層には、液晶規則性を有する高分子を構成する重合性液晶材料からなるものである。その他、後述する液晶層形成用塗工液に含まれる、光重合開始剤等の添加剤の残渣も含有されている場合がある。以下、これらについて説明する。
【0051】
(重合性液晶材料)
本発明で用いられる重合性液晶材料としては、重合性液晶モノマー、重合性液晶オリゴマーおよび重合性液晶高分子を挙げることができる。このような重合性液晶材料は、通常、それ自体がネマチック規則性やスメマチック規則性を有するものが用いられるが、特にこれに限定されるものではなく、重合性液晶材料がコレステリック規則性を有するものであってもよい。また、光学素子によってコレステリック規則性が必要であり、かつ上記重合性液晶材料自体がネマチック規則性もしくはスメクチック規則性を呈する場合は、コレステリック規則性付与するためにさらに、重合性カイラル剤を用いてもよい。以下、それぞれについて説明する。
【0052】
(1)重合性液晶材料
本発明に用いられる重合性液晶材料としては、上述したように重合性液晶モノマー、重合性液晶オリゴマーや重合性液晶高分子等を挙げることができる。このような重合性液晶材料としては、これらのみで液晶相を形成した場合に、ネマチック規則性、スメクチック規則性、またはコレステリック規則性を有する液晶相を形成し得る重合性液晶材料であれば特に限定されるものではないが、分子の両末端に重合性官能基があることが、耐熱性のよい光学素子を得る上で好ましい。
【0053】
このような重合性液晶材料の一例としては、例えば下記の一般式(1)で表わされる化合物(I)や下記に示す化合物を挙げることができる。化合物(I)としては、一般式(1)に包含される化合物の2種を混合して使用することも可能である。
【0054】
重合性液晶材料としては、一般式(1)に包含される化合物や下記の化合物の2種以上を混合して使用することもできる。
【化4】

【0055】
【化5】

【0056】
化合物(I)を表わす一般式(1)において、R1及びR2はそれぞれ水素又はメチル基を示し、Xは、塩素又はメチル基であることが好ましい。また、化合物(I)のスペーサーであるアルキレン基の鎖長を示すa及びbは、2〜9の範囲であることが液晶性を発現させる上で好ましい。
【0057】
上述した例では、重合性液晶モノマーの例を挙げたが、本発明においては、重合性液晶オリゴマーや重合性液晶高分子等を用いることも可能である。このような重合性液晶オリゴマーや重合性液晶高分子としては、従来提案されているものを適宜選択して用いることが可能である。
【0058】
(2)カイラル剤
本発明においては、上記光学素子が円偏光制御光学素子、すなわち光学機能層がコレステリック層であり、かつ重合性液晶材料がネマチック規則性もしくはスメクチック規則性を呈する場合は、上記重合性液晶材料に加えてカイラル剤を加えることが必要となる。
【0059】
本発明に用いられる重合性カイラル剤とは、光学活性な部位を有する低分子化合物であり、分子量1500以下の化合物を意味する。カイラル剤は主として化合物(I)が発現する正の一軸ネマチック規則性に螺旋ピッチを誘起させる目的で用いられる。この目的が達成される限り、化合物(I)や上記の化合物と、溶液状態あるいは溶融状態において相溶し、上記ネマチック規則性をとりうる重合性液晶材料の液晶性を損なうことなく、これに所望の螺旋ピッチを誘起できるものであれば、下記に示すカイラル剤としての低分子化合物の種類は特に限定されないが、分子の両末端に重合性官能基があることが耐熱性のよい光学素子を得る上で好ましい。液晶に螺旋ピッチを誘起させるために使用するカイラル剤は、少なくとも分子中に何らかのキラリティーを有していることが必須である。本発明の液晶性組成物に含有させる光学活性な部位を有するカイラル剤には、螺旋ピッチを誘発する効果の大きなカイラル剤を選択することが好ましく、具体的には一般式(2)、(3)または(4)で表されるような分子内に軸不斉を有する低分子化合物(II)の使用が好ましい。
【0060】
【化6】

【0061】
【化7】

【化8】

【0062】
カイラル剤(II)を表わす一般式(2)、(3)又は(4)において、R4は水素又はメチル基を示す。Yは上記に示す式(i)〜(xxiv)の任意の一つであるが、なかでも、式(i),(ii),(iii),(v)及び(vii)の何れか一つであることが好ましい。また、アルキレン基の鎖長を示すc及びdは、2〜9の範囲であることが好ましい。c及びdが、2未満または10以上であると、液晶性が発現しにくくなる。
【0063】
本発明の重合性液晶材料に配合されるカイラル剤の量は、螺旋ピッチ誘起能力や最終的に得られる円偏光制御光学素子のコレステリック性を考慮して最適値が決められる。具体的には、用いる重合性液晶材料により大きく異なるものではあるが、重合性液晶材料の合計量100質量部当り、1〜20質量部の範囲で選ばれる。この配合量が上記範囲よりも少ない場合は、重合性液晶材料に充分なコレステリック性を付与できない場合があり、上記範囲を越える場合は、分子の配向が阻害され、活性放射線によって硬化させる際に悪影響を及ぼす危惧がある。
【0064】
本発明においては、このようなカイラル剤としては、特に重合性を有することが必須ではない。しかしながら、得られる光学機能層の熱安定性等を考慮すると、上述した重合性液晶材料と重合し、コレステリック規則性を固定化することが可能な重合性のカイラル剤を用いることが好ましい。特に、分子の両末端に重合性官能基があることが、耐熱性のよい光学素子を得る上で好ましい。
【0065】
(光重合開始剤)
本発明においては、上述した重合性液晶材料に、光重合開始剤が添加されていることが好ましい。例えば、電子線照射により重合性液晶材料を重合させる際には、光重合開始剤が不要な場合はあるが、一般的に用いられている例えば紫外線(UV)照射による硬化の場合においては、通常光重合開始剤が重合促進のために用いられるからである。
【0066】
なお、光重合開始剤の他に増感剤を、本発明の目的が損なわれない範囲で添加することも可能である。
【0067】
このような光重合開始剤の添加量としては、一般的には0.5〜10質量%の範囲で本発明の重合性液晶材料に添加することができる。
【0068】
3.液晶規則性
本発明においては、上記重合性液晶材料が所定の液晶規則性を有して硬化されてなる光学機能層が用いられる。
【0069】
ここで、この液晶規則性とは、ネマチック規則性、スメクチック規則性およびコレステリック規則性がある。光学素子が位相差層積層体である場合は、上記光学機能層は、ネマチック規則性もしくはスメクチック規則性を有するものである。一方、光学素子が円偏光制御光学素子である場合は、コレステリック規則性を有するものである。
【0070】
上記規則性は、基本的には用いる重合性液晶材料が自ら呈する液晶規則性およびカイラル剤を用いるか否かにより決定されるものである。
【0071】
このような液晶規則性は、配向能を有する基材上に、上述した重合性液晶材料および必要に応じて添加される重合性カイラル剤とからなる液晶層を形成し、基材の配向能に沿って配向させて得られるものである。そして液晶規則性を有した状態で活性放射線を照射することにより硬化させて、液晶規則性を有した状態で硬化された光機能性層とすることができるのである。
【0072】
4.光学機能層の膜厚の加熱による減少率
本発明の特徴は、上述したような光学機能層が、光学素子を熱処理した温度と同じ温度で60分加熱した場合に、その膜厚の減少率が、5%以下、好ましくは3%以下、特に1%以下であることが好ましい。この範囲内の減少率であれば、例えば光学素子が位相差板であった場合や、円偏光制御光学素子である場合等において、その重要な光学的特性であるリタデーション値もしくは中心反射波長が、これらの光学素子を用いた画像表示装置等の製造工程において加熱された場合でも、大幅に変化することが無い。したがって、光学素子を取り付けた後の工程において加熱を受けるような場合であっても、本発明の光学素子を用いることが可能となる。
【0073】
5.光学素子の具体例
本発明の光学素子の具体例としては、光学機能層が位相差層である場合の位相差層積層体および光学機能層がコレステリック層である円偏光制御光学素子を挙げることができる。以下、それぞれについて説明する。
【0074】
(位相差層積層体)
光学素子が位相差層積層体である場合としては、本発明においては、支持材と、上記支持材上に重合性液晶材料がネマチック規則性、スメクチック規則性、又はコレステリック規則性を有して硬化された位相差層とを有する位相差層積層体であって、上記位相差層のリタデーション値の加熱による変化が、所定の熱処理温度と同じ温度で60分加熱した際に、5%以下、好ましくは3%以下、特に1%以下である位相差層積層体を挙げることができる。
【0075】
このように、本発明の光学素子においては、熱が加えられた場合の膜厚の変動が極めて小さいことから、光学素子を位相差層積層体とした場合に、熱が加わった際のリタデーション値の変動を極めて小さいものとすることができるのである。
【0076】
本発明においては、このように熱が加わった際のリタデーション値の変動が極めて小さいことから、位相差層積層体を組み込んだ後に例えばITO膜の製膜等のために加熱処理を行わなければならないような場合であっても、用いることが可能となる。したがって、本発明の位相差層積層体の利用範囲を極めて広げることができるといった利点を有するものである。
【0077】
このような、位相差層に用いられる液晶材料としては、上述した重合性液晶モノマーと、光重合開始剤とを溶媒に溶解した状態で塗布し、これを硬化させたものが好適に用いられる。この際用いることができる重合性液晶モノマーおよび光重合開始剤としては、上述したものを用いることができる。
【0078】
なお、その他の構成に関しては、上述したものと同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0079】
(円偏光制御光学素子)
光学素子が円偏光制御光学素子である場合としては、本発明においては、支持材と、上記支持材上に重合性液晶材料がコレステリック規則性を有して硬化されたコレステリック層とを有する円偏光制御光学素子であって、上記コレステリック層の中心反射波長の加熱による変化が、所定の熱処理温度と同じ温度で60分加熱した際に、5%以下、好ましくは3%以下、特に1%以下である円偏光制御光学素子を挙げることができる。
【0080】
この場合も同様に、膜厚の変化がコレステリック層の中心反射波長の変化に関連するものであるので、光学素子を円偏光制御光学素子とした場合に、画像表示装置を製造する際に熱が加わっても、中心反射波長の変動を極めて小さいものとすることができる。
【0081】
このような円偏光制御光学素子においては、上述したように加熱時の中心反射波長の変動が極めて小さいことから、円偏光制御光学素子、具体的にはカラーフィルタとして画像処理装置に組み込んだ後に、例えばITO膜の製膜等のために加熱処理を行わなければならないような場合であっても、用いることが可能となる。したがって、円偏光制御光学素子の利用範囲を極めて広げることができるといった利点を有するものである。
【0082】
このような、円偏光制御光学素子のコレステリック層に用いられる液晶材料としては、上述した重合性液晶モノマーと、重合性カイラル剤と、光重合開始剤とを溶媒に溶解した状態で塗布し、これを硬化させたものが好適に用いられる。この際用いることができる重合性液晶モノマー、重合性カイラル剤および光重合開始剤としては、上述したものを用いることができる。
【0083】
なお、その他の構成に関しては、上述したものと同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0084】
<熱処理方法>
本発明の光学素子の熱処理方法は、基材と、上記基材上に重合性液晶材料が所定の液晶規則性を有して硬化されてなる光学機能層とを有する光学素子に対して、所定の範囲内の温度で熱処理を行うことにより、又は重合性液晶材料の重合前の等方相以上の温度で熱処理を行うことにより、光学素子に耐熱性を付与することを特徴とするものである。この際、熱処理時間としては、10分間〜60分間とすることが好ましい。このような熱処理を行うことにより、未硬化又は十分な3次元ネットワーク構造を形成していない、液晶成分やカイラル成分を当該層内で安定な状態(位置)へ動かすことができる。
【0085】
本発明の光学素子の熱処理方法によれば、予め所定の温度で熱処理されるので、この際に光学機能層内の不純物が除去される。したがって、その後に加熱が行われた場合、すなわち例えば画像処理装置内において、上記本発明の熱処理が行われた光学素子を取り付けた後に透明電極を形成するために加熱が行われるような場合でも、予め熱処理がなされているため、光学素子の膜厚が変化することがなく、結果として膜厚に関係する種々の光学的機能に変化が生じることがない。
したがって、このような熱処理がなされた光学素子は、画像処理装置等に取り付ける際に、その取り付け位置や取り付け時期に制約が無くなることから、画像処理装置の製造に際しての自由度や、製品設計の自由度を大幅に向上させることができるといった利点を有するものである。
【0086】
以下、このような熱処理方法を含む、本発明の光学素子の製造方法を説明する。
【0087】
図1は、本発明の光学素子の製造方法の一例を示すものである。
【0088】
この例では、まず透明基板1上に配向膜2が形成された配向能を有する基材3が形成される(基材調製工程、図1(a)参照)。
【0089】
次に、この配向能を有する基材3上に、重合性液晶材料と光重合開始剤とを溶剤中に溶解させた液晶層形成用塗工液を塗布し、溶剤を乾燥・除去し、液晶相を呈する温度の保持することにより液晶層4を形成する(液晶層形成工程、図1(b)参照)。この液晶層は、配向膜2の作用により液晶規則性を有するものとなる。
【0090】
そして、上記液晶規則性を有する液晶層4に対して紫外光5を照射することにより、光重合開始剤から発生させたラジカルで液晶層内の重合性液晶材料を重合させ、液晶層4を光学機能層6とする(光学機能層形成工程、図1(c)および(d)参照)。
【0091】
次に、このように基材3上に光学機能層6が形成された光学素子8を、例えばオーブン中で所定の温度に保持することにより、熱7を加え、熱処理を行う(熱処理工程、図1(e)参照)。
【0092】
これにより、熱処理が加えられ、加熱による寸法安定性およびこれに伴う種々の光学機能が安定している光学素子8を得ることができるのである(図1(f)参照)。
【0093】
以下、このような本発明の光学素子を製造するための製造方法について説明し、その中で、本発明の熱処理方法を詳細に説明する。
【0094】
1.基材調製工程
本発明の光学素子を製造するに際しては、まず配向能を有する基材が準備される。このような配向能を有する基材としては、基材そのものが配向能を有するものである場合と、図1に示すように透明基板1上に配向膜2が形成されて配向能を有する基材3として機能するものとを挙げることができる。これらについては、上記の<光学素子>の欄で説明したものと同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0095】
2.液晶層形成工程
本発明においては、次に図1(b)に示すように、上記配向能を有する基材3上に液晶層4を形成する。
【0096】
本発明におけるこの液晶層とは、重合性液晶材料で形成されたものであり、種々の液晶規則性を有する液晶相を採り得る層であれば特に限定されない。
【0097】
このような液晶層の形成方法としては、例えば以下の方法を挙げることができる。すなわち、通常溶媒中に重合性モノマー等の重合性液晶材料、さらに必要に応じてカイラル剤、さらには光重合開始剤等が溶解された液晶層形成用塗工液を塗布することにより液晶層形成用層を形成する。
【0098】
この際、塗布する方法としては、スピンコート法、ロールコート法、スライドコート法、プリント法、浸漬引き上げ法、カーテンコート法(ダイコート法)等が挙げられる。
【0099】
このように液晶形成用層を形成した後、溶媒を除去することにより、種々の液晶規則性を有する液晶層が形成されるのである。この際の溶媒の除去方法としては、例えば、減圧除去もしくは加熱除去、さらにはこれらを組み合わせる方法等により行われる。
【0100】
本発明において、液晶層を形成する方法は、上述した液晶層形成用塗工液を用いる方法に限定されるものではなく、配向能を有する基材上に液晶材料からなるドライフィルムをラミネートし、これを加熱することにより液晶規則性を付与する方法等であってもよい。
しかしながら、本発明においては工程上の容易性等の観点から、上述した液晶層形成用塗工液を用いる方法が好ましい方法であるといえる。
【0101】
この液晶層形成用塗工液に用いられる重合性液晶材料、カイラル剤および光重合開始剤に関しては、上記「光学素子」における説明と同様であるのでここでの説明は省略する。
以下、この液晶層形成用塗工液に用いられる溶媒、およびその他の添加剤について説明する。
【0102】
(溶媒)
上記液晶層形成用塗工液に用いられる溶媒としては、上述した重合性液晶材料等を溶解することが可能な溶媒であり、かつ配向能を有する基材上の配向能を阻害しない溶媒であれば特に限定されるものではない。
【0103】
単一種の溶媒を使用しただけでは、重合性液晶材料等の溶解性が不充分であったり、上述したように配向能を有する基板が侵食される場合がある。しかし2種以上の溶媒を混合使用することにより、この不都合を回避することができる。溶液の濃度は、液晶性組成物の溶解性や製造せんとする円偏光制御光学素子の膜厚に依存するため一概には規定できないが、通常は5〜60質量%の範囲で調整される。
【0104】
また、上記液晶層形成用塗工液には、塗布を容易にするために界面活性剤等を加えることができる。
【0105】
界面活性剤の添加量は、界面活性剤の種類、重合性液晶材料の種類、溶媒の種類、さらには溶液を塗布する配向能を有する基板の種類にもよるが、通常は溶液に含まれる液晶性組成物の0.01〜1質量%の範囲にある。
【0106】
3.光学機能層形成工程
本発明においては、上述した液晶層形成工程において形成された重合性液晶材料を主成分とする液晶層に活性照射線を照射することにより、液晶層がその液晶規則性を有した状態で硬化させることにより、種々の光学的機能を有する光学機能層を形成することができる。
【0107】
この際照射する活性放射線とは、重合性液晶材料や重合性カイラル剤等を重合せさることが可能な放射線であれば特に限定されるものではないが、通常は、波長が250〜450nmの照射光が用いられる。
【0108】
照射強度は、液晶層を形成している重合性液晶材料の組成や光重合開始剤の多寡によって適宜調整されて照射される。
【0109】
4.転写工程
本発明においては、必要に応じて、上記光学機能層形成工程の後、上記配向能を有する基材上に形成された光学機能層を被転写材上に転写する工程を有するものであってもよい。
【0110】
これは、光学機能層を他の層と組み合わせて用いる場合や、光学機能層は可撓性の無い基材上で形成することが好ましいが、使用に際しては可撓性のあるフィルム表面において用いたい場合等の必要に応じて行われる。
【0111】
転写は、上述した光学機能層形成工程で形成された光学機能層の表面に被転写材表面を接触させることにより行われる(図1(b)および(c)参照)。
【0112】
この際の転写方法としては、例えば、被転写材表面もしくは上記光学機能層表面に接着層を予め形成しておき、この接着力により転写する方法、基材上の配向膜等を易剥離性としておく方法等が挙げられる。
【0113】
さらに有効な方法としては、光学機能層の被転写材が接触する側の表面の表面硬度を基材側の表面硬度よりも低くなるように形成し、この状態で転写を行う方法や、光学機能層の上記被転写材側表面の残存二重結合率が、上記基材側のものよりも高くするように形成し、この状態で転写を行う方法等を挙げることができる。このように、光学機能層における表面側の重合度を基材側の重合度より低く形成する方法としては、酸素の存在下において重合速度が低下する酸素依存性を有する光重合開始剤を上記重合性液晶材料に用い、表面側にのみ酸素が接触するような条件下で重合させる方法等を挙げることができる。
【0114】
この工程において用いられる被転写材としては、用いられる光学素子の用途に応じて適宜選択されるものではあるが、一般的には光学素子であることから透明な材料、すなわち透明基板が好適に用いられる。
【0115】
この透明基板に関しては、上記「配向能を有する基材」の欄で説明したものと同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0116】
5.熱処理工程
本発明においては、上記光学機能層形成工程の後、熱処理工程を行うところに特徴を有するものであり、本発明の光学素子の熱処理方法は、この工程における熱処理方法を含むものである。
【0117】
すなわち、本発明の光学素子の熱処理方法は、上述した支持材と、この支持材上に上述した光学機能層形成工程により形成された光学機能層とを有する光学素子に対して、所定の温度で熱処理を行うことを特徴とするものであり、上記に説明したように、基材として高分子延伸フィルム等を用いた場合には、当該熱処理温度は、80〜120℃程度である。より好ましい温度としては、90℃〜120℃の範囲内、さらに好ましくは、90℃〜110℃の範囲内とすることができる。一方、基材としてガラス基板等を用いた場合には、熱処理温度は180℃〜240℃程度である。より好ましくは、190℃〜230℃の範囲内、さらに好ましくは200℃〜220℃の範囲内である。
【0118】
上記温度は、通常画像処理装置を製造する際に、例えばITO電極を形成する際や、配向膜としてのポリイミド膜を形成する場合に加えられる加熱温度を考慮して決定されるものである。すなわち、熱処理される光学素子は、上述した画像処理装置の製造工程に加えられる温度において、膜厚の安定性、ひいては膜厚に関係する光学素子の諸機能が安定していることが求められる。したがって、少なくとも光学素子が用いられる画像処理装置の製造工程に加えられる温度からそれより少なくとも10℃高い温度までの間で熱処理が加えられることが好ましいのである。
【0119】
本発明においては、上述したような温度で、10分〜60分、好ましくは15分〜45分、特に20分〜40分の範囲内の時間で熱処理を行うことが好ましい。
【0120】
熱処理の時間は、上述したように内部の不純物が除去される程度の時間であればよく、このような観点から上述したような範囲内の時間で行われる。
【0121】
このような熱処理は、一般的なオーブン等の熱処理用機器を用いて行うことが可能である。
【0122】
本発明においては、上記重合性液晶材料が、光重合開始剤を含有していることが好ましい。本発明においては、上述したように、加熱に際して光学機能層内に存在する、主鎖と化学結合を有さない不純物が除去されることによる膜厚の低下を防止することにより、加熱時における光学機能層の膜厚の変化を最小限とするものである。したがって、予め光重合開始剤等の残渣が光学機能層内に存在する光学機能層であることが、本発明の熱処理方法の利点を最大限に活かすことができるものだからである。
【0123】
このような熱処理方法は、光学機能層が位相差層である位相差積層体において特に有効である。位相差層の膜厚が、画像表示装置の製造工程において加熱により変動すると、位相差層のリタデーション値が大幅に変動することになる。このように位相差層のリタデーション値が変動してしまっては、光学的設計上大きな問題となり、このようなリタデーション値の変動する位相差層積層体は通常用いることができない。
【0124】
本発明の熱処理方法によれば、予め上述したような熱処理を行うことにより、例えば画像装置の製造工程において位相差層に熱が加わった場合でも、予め熱処理がなされていることから、リタデーション値の変動が最小限である。したがって、製造工程において、熱が加わるような場合であっても用いることが可能となり、位相差層積層体としての用途が大幅に広がるといった利点を有する。
【0125】
また、上記熱処理方法は、光学機能層がコレステリック層である円偏光制御光学素子においても、特に有効である。このようなコレステリック層は、その中心反射波長が膜厚に依存するものである。したがって上述した位相差層と同様に、重要な光学的特性である中心反射波長が、製造時に加熱された場合でも変動しないものであるので、円偏光制御光学素子としての用途が大幅に拡大するといった利点を有するからである。
【0126】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0127】
以下に実施例を示し、本発明をさらに説明する。
【0128】
A.コレステリック層
(液晶層形成用塗工液の調製)
重合性液晶材料、カイラル剤、および光重合開始剤を100:5:5(質量%)の割合で混合した粉体を、トルエンに30質量%になるように溶解して液晶層形成用塗工液を調製した。重合性液晶材料、カイラル剤、および光重合開始剤としては、下記のものを用いた。
・重合性液晶材料:末端に重合可能な官能基を有し、50℃〜100℃でネマチック液晶性を示す下記化学式(5)に示す重合性液晶モノマー
【0129】
【化9】

【0130】
・カイラル剤:下記化学式(6)に示す化合物のメソゲン両端にスペーサーを介して、アクリレートを設け、重合可能にした重合性カイラル剤
【化10】

【0131】
・光重合開始剤:チバスぺシャリティケミカルズ社製のIRG907(商品名) (配向膜の調製)
【0132】
次に、厚さ0.7mmのガラス基板に、ポリイミドを主成分とする配向膜溶液をスピンコーティングし、溶媒を蒸発させた後に、200℃でポストベイクし、既知の方法でラビングして配向膜を作製した。
【0133】
また、厚さ75μmのTACフィルムにポリビニルアルコールを主成分とする配向膜溶液をバーコーティングし、溶媒を蒸発させた後に、100℃でポストベイクし、既知の方法でラビングして配向膜を作成した。
【0134】
(コレステリック層の形成)
上記液晶層形成用塗工液を、上記のポリイミド配向膜上にスピンコーティングした。次に、溶媒を蒸発させた後、80℃×3分で液晶分子を配向させ、コレステリック構造特有の選択反射を示すことを確認した上で、UVを照射して重合させることによりコレステリック層を形成し、試料1を作成した。
【0135】
また、上記液晶形成用塗工液を、上記のポリビニルアルコール配向膜上にバーコーティングした。次に、溶媒を蒸発させた後、80℃×3分で液晶分子を配向させ、コレステリック構造特有の選択反射を示すことを確認した上で、UVを照射して重合させることによりコレステリック層を形成し、試料2を作成した。
【0136】
このようにして得た試料1を、200℃×60分で熱処理を施した後、室温まで自然冷却して1日放置した試料(実施例1)と、熱処理を施さなかった試料(比較例1)を調整した。
【0137】
また、試料2を、100℃×60分で熱処理を施した後、室温まで自然冷却して1日放置した試料(実施例2)と、熱処理を施さなかった試料(比較例2)を調整した。
【0138】
(評価)
これらの実施例1および比較例1の試料を200℃×60分で加熱し、加熱前と加熱後との各試料の選択反射中心波長を測定し、中心波長の変化率を算出したところ、以下の様な結果が得られた。
・実施例1 1%の短波長側への変動
・比較例1 6%の短波長側への変動
【0139】
また、実施例2および比較例2の試料を100℃×60分で加熱し、上記と同様に各試料の中心波長の変化率を算出したところ、以下の様な結果が得られた。
・実施例2 1%の短波長側への変動
・比較例2 6%の短波長側への変動
【0140】
B.位相差層1
(液晶相形成用塗工液および配向膜の調製)
カイラル剤を用いず、重合性液晶材料および光重合開始剤を100:5(質量%)とした以外は、上記Aと同様にして液晶層形成用塗工液を調製した。また、配向膜も上記Aと同様にして調整した。
【0141】
(位相差層の形成)
上記液晶層形成用塗工液を、上記配向膜上にスピンコーティングまたはバーコーティングした。次に、溶媒を蒸発させた後、80℃×3分で液晶分子をネマチック配向させた上で、UVを照射して重合させることにより位相差層を形成し、試料3および4を作成した。
【0142】
このようにして得たネマチチック構造を有する試料3を、200℃×60分で熱処理を施した後、室温まで自然冷却して1日放置した試料(実施例3)と、熱処理を施さなかった試料(比較例3)を調整し、また、試料4についても、100℃×60分で熱処理を施した後、室温まで自然冷却して1日放置した試料(実施例4)と、熱処理を施さなかった試料(比較例4)を調整した。
【0143】
(評価)
これらの実施例3および比較例3の試料を200℃×60分で加熱し、加熱前と加熱後との各試料のリタデーション値を測定し、加熱前後でのリタデーション値の変化率を算出したところ、以下の様な結果が得られた。
・実施例3 1%のリタデーション値の変動
・比較例3 6%のリタデーション値の変動
【0144】
また、実施例4および比較例4の試料を100℃×60分で加熱し、上記と同様に各試料のリタデーション値の変化率を算出したところ、以下の様な結果が得られた。
・実施例4 1%のリタデーション値の変動
・比較例4 6%のリタデーション値の変動
【0145】
C.位相差層2
(液晶相形成用塗工液および配向膜の調製)
重合性液晶材料、カイラル剤、および光重合開始剤を100:15:5(質量%)の割合とした以外は、上記Aと同様にして液晶層形成用塗工液を調製した。
また、配向膜も上記Aと同様にして調整した。
【0146】
(位相差層の形成)
上記液晶層形成用塗工液を、上記のポリイミド配向膜上にスピンコーティングした。次に、溶媒を蒸発させた後、80℃×3分で液晶分子を配向させ、UVを照射して重合させることによりコレステリック層を形成し、試料5を作成した。
上記液晶層用塗工液は、実施例1で用いた液晶形成用塗工液よりもカイラル剤成分を多く含むため、作成された試料5の選択反射中心波長は、紫外光領域であった。なお、このようにして作成された位相差層は、負の位相差補償板として機能するものであった。
【0147】
また、上記液晶形成用塗工液を、上記のポリビニルアルコール配向膜上にバーコーティングした。次に、溶媒を蒸発させた後、80℃×3分で液晶分子を配向させ、UVを照射して重合させることによりコレステリック層を形成し、試料6を作成した。試料6においても、選択反射中心波長は、紫外光領域であった。
【0148】
このようにして得たネマチチック構造を有する試料3を、200℃×60分で熱処理を施した後、室温まで自然冷却して1日放置した試料(実施例5)と、熱処理を施さなかった試料(比較例5)を調整し、また、試料6についても、100℃×60分で熱処理を施した後、室温まで自然冷却して1日放置した試料(実施例6)と、熱処理を施さなかった試料(比較例6)を調整した。
【0149】
(評価)
これらの実施例5および比較例5の試料を200℃×60分で加熱し、加熱前と加熱後との各試料のリタデーション値を測定し、加熱前後でのリタデーション値の変化率を算出したところ、以下の様な結果が得られた。
・実施例5 1%のリタデーション値の変動
・比較例5 6%のリタデーション値の変動
【0150】
また、実施例6および比較例6の試料を100℃×60分で加熱し、上記と同様に各試料のリタデーション値の変化率を算出したところ、以下の様な結果が得られた。
・実施例6 1%のリタデーション値の変動
・比較例6 6%のリタデーション値の変動
【0151】
<本発明の別の実施形態の説明>
本発明の別の実施形態は、支持材と、上記支持材上に重合性液晶材料が所定の液晶規則性を有して硬化されてなる光学機能層とを有する光学素子であって、前記光学素子が、所定温度で熱処理されてなるものであり、前記熱処理後の前記光学機能層の膜厚をA、前記光学素子を、再度前記の熱処理温度で60分間加熱した後の前記光学機能層の膜厚をB、とした場合に、(A−B)/Aで定義される前記光学機能層の膜厚減少率が、5%以下であることを特徴とする光学素子を提供する。このように、熱処理温度と同じ温度で60分加熱した際の膜厚の減少率が上述した範囲内であれば、例えば光学素子を位相差板として用いた場合であればリタデーション値、光学素子が円偏光制御光学素子であれば中心反射波長の変化を最小限とすることができることから、種々の画像表示装置に組み込まれて用いられた場合でも、光学素子の機能の変化を最小限とすることが可能である。
【0152】
上記の発明にいては、上記重合性液晶材料が、光重合開始剤を有するものであることが好ましい。重合性液晶材料を例えば紫外線等により硬化させるためには、重合促進のために光重合開始剤が含まれることが好ましいからである。また、光重合開始剤が含まれた重合性液晶材料を硬化させてなる光学機能層が、本発明の利点を効果的に発揮するも
のだからである。
【0153】
上記の発明においては、上記支持材が、配向能を有する基材であってもよい。配向能を有する基材上に光学機能層を形成し、そのまま用いることができるのであれば、特に転写工程等を行う必要がなく、工程上有利であるからである。
【0154】
また、本発明の別の態様においては、支持材と、上記支持材上に重合性液晶材料がネマチック規則性もしくはスメクチック規則性もしくはコレステリック規則性を有して硬化された位相差層とを有する位相差層積層体であって、前記位相差層積層体が、所定温度で熱処理されてなるものであり、前記熱処理後の前記位相差層のリタデーション値をRa、前記位相差層積層体を、再度前記の熱処理温度で60分間加熱した後の前記位相差層のリタデーション値をRb、とした場合に、(Ra−Rb)/Raで定義される前記位相差層のリタデーション減少率が、5%以下であることを特徴とする位相差層積層体を提供する。種々の画像表示装置内に組み込まれて用いる場合、加熱によるリタデーション値の変動がこの程度であれば、問題無く用いることができるからである。
【0155】
上記の発明においては、上記重合性液晶材料が、光重合開始剤と重合性液晶モノマーとを有することが好ましく、また、請求項6に記載するように、前記のコレステリック規則性を有する重合性液晶材料が、光重合開始剤と、重合性液晶モノマーと、重合性カイラル剤とを有することがより好ましい。リタデーション値は、位相差層の膜厚に関連する値であり、加熱による位相差層の膜厚の変化は、光重合開始剤の残渣の量に依存するものと推察される。したがって、重合性液晶材料中に光重合開始剤が含まれている場合に、特に本発明の利点を活かすことができると考えられるからである。
【0156】
上記発明においては、上記支持材が、配向能を有する基材であってもよい。配向能を有する基材上に位相差層を形成し、そのまま位相差層積層体として用いることができるのであれば、特に転写工程等を行う必要がなく、工程上有利であるからである。
【0157】
また、本発明の別の態様においては、支持材と、上記支持材上に重合性液晶材料がコレステリック規則性を有して硬化されたコレステリック層とを有する円偏光制御光学素子であって、前記円偏光制御光学素子が、所定温度で熱処理されてなるものであり、前記熱処理後の前記コレステリック層の中心反射波長をλa、前記円偏光制御光学素子を、再度前記の熱処理温度で60分間加熱した後の前記コレステリック層の中心反射波長をλb、とした場合に、|λa−λb|/λaで定義される前記中心波長の変化率が、5%以下であることを特徴とする円偏光制御光学素子を提供する。例えばカラーフィルタ等として画像表示装置内に組み込まれて用いる場合、加熱による中心反射波長の変動がこの程度であれば、問題無く用いることができるからである。
【0158】
上記の発明においては、上記重合性液晶材料が、光重合開始剤と、重合性液晶モノマーと、重合性カイラル剤とを有するものであることが好ましい。コレステリック層の中心反射波長は螺旋ピッチに依存するものであるが、膜厚変化に伴い螺旋ピッチも変化する。したがって、上述した場合と同様の理由から光重合開始剤が含まれていることが好ましいのである。
【0159】
この場合も、上記の発明においては、上記支持材が、配向能を有する基材であってもよい。配向能を有する基材上にコレステリック層を形成し、そのまま円偏光制御光学素子として用いることができるのであれば、特に転写工程等を行う必要がなく、工程上有利であるからである。
【0160】
また、本発明の別の態様においては、支持材と、上記支持材上に重合性液晶材料が所定の液晶規則性を有して硬化されてなる光学機能層とを有する光学素子に対して、所定温度で熱処理を行うことにより、光学素子に耐熱性を付与することを特徴とする光学素子の熱処理方法も提供する。上述した範囲内での熱処理を行うことにより、光学機能層内の加熱に際して除去される成分を予め除去することができる。また、重合性液晶材料の重合度(3次元)を高めることも可能である。したがって、その後の加熱、すなわち画像表示装置等の製造に際して加熱が行われたとしても、膜厚の変化や、それに伴う特性の変化を防止することが可能であり、光学機能層に熱安定性を付与することができるのである。
【0161】
また、本発明の別の態様においては、基材と、前記基材上に重合性液晶材料が所定の液晶規則性を有して硬化されてなる光学機能層とを有する光学素子に対して、該重合性液晶材料の重合前の等方層以上の温度で熱処理を行うことにより、光学素子に耐熱性を付与することを特徴とする光学素子の熱処理方法を提供する。このように、重合性液晶材料の重合前の等方層以上の温度で熱処理を行うことにより、当該光学素子中の完全には重合していない(架橋していない)分子をより安定な状態に移行させることができるので、画像表示装置等の製造に際して加熱が行われたとしても、膜厚の変化や、それに伴う特性の変化を防止することが可能であり、光学機能層に熱安定性を付与することができる。
【0162】
上記の発明においては、前記熱処理が、10分間〜60分間の時間で行われることが好ましい。この範囲内の時間で熱処理を行うことにより、より熱安定に優れる光学機能層とすることができるからである。
【0163】
上記の発明においては、上記重合性液晶材料が、光重合開始剤を含有していることが好ましい。上記加熱に際しての膜厚の変化は、上述したように膜内に存在する光重合開始剤の残渣の存在が関係していると考えられるからである。
【0164】
上記発明においては、上記光重合開始剤の含有量が1質量%以上であることが好ましい。この程度の量の光重合開始剤が含有されている場合に、特に本発明の利点を活かすことができるからである。
【0165】
上記の発明においては、上記熱処理の温度が、上記光学機能層がその後用いられる光学機器の製造工程で加えられる温度からその温度より10℃高い温度までの範囲内の温度であることが好ましい。例えば、光学素子が液晶表示装置に用いられる場合、液晶表示装置の製造に際してこの光学素子に加えられる温度からその温度より10℃高い温度で予め加熱しておくことにより、加熱により除去される成分が除去されてしまっていることから、その後の製造に際しての加熱において、膜厚が減少する等の問題が生じることがないからである。
【0166】
上記の発明においては、上記光学機能層が位相差層であり、上記重合性液晶材料が、重合性液晶モノマーを含むものであり、さらに上記液晶規則性がネマチック規則性、スメクチック規則性、またはコレステリック規則性であることが好ましい。このように光学素子が位相差層積層体であった場合は、予め熱処理を施すことにより、リタデーション値の変化を最小限とすることができるからである。なお、上記液晶規則性が、コレステリック規則性である場合は、上記の重合性液晶材料はカイラル剤を含んでいる必要がある。
【0167】
一方、上記の発明においては、上記光学機能層がコレステリック層であり、上記重合性液晶材料が、重合性液晶モノマーと重合性カイラル剤とを含むものであり、さらに上記液晶規則性がコレステリック規則性であるものであってもよい。このように光学素子が円偏光制御光学素子であった場合は、予め熱処理を施すことにより、反射中心波長の加熱による変化を最小限とすることができる。
【0168】
また、上記の発明においては、前記重合性液晶材料が、重合性液晶モノマーを含むものであり、該重合性液晶モノマー分子が両末端に重合性官能基を有するものであってもよい。
【0169】
さらに、上記の発明においては、前記重合性液晶材料が、重合性液晶モノマーと重合性カイラル剤を含むものであり、該重合性カイラル剤分子が両末端に重合性官能基を有するものであってもよい。このように、重合性液晶モノマー分子の両末端に重合性官能基を有していれば、隣接する当該モノマー分子の両末端が3次元ネットワーク的に重合して(架橋して)、より耐熱性の高い光学素子を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0170】
【図1】本発明の光学素子の製造方法の一例を示す工程図である。
【符号の説明】
【0171】
3 基材
4 液晶層
6 光学機能層
8 光学素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持材と、前記支持材上に設けられた光学機能層とを備えた光学素子を製造する方法であって、
前記支持体上に重合性液晶材料を塗布し、重合性液晶材料が所定の液晶規則性を有するように重合性液晶材料を硬化させて光学機能層を形成し、
前記光学機能層の形成後に、熱処理後の前記光学機能層の膜厚をA、前記光学素子の熱処理の後に再度同じ温度で60分間加熱した後の前記光学機能層の膜厚をB、とした場合に、(A−B)/Aで定義される前記光学機能層の膜厚減少率が、5%以下となるように、前記光学機能層を熱処理する、ことを含んでなり、
前記支持体が高分子延伸フィルムである場合は、前記熱処理を80〜120℃で10分間〜60分間の時間で行い、前記支持体がガラス基板である場合は、前記熱処理を180〜240℃で10分間〜60分間の時間で行い、
前記重合性液晶材料が、下記式(1)で表される重合性液晶モノマーと、下記式(2)で表される重合性カイラル剤と、重合開始剤として2−メチル−1[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モリフォリノプロパン−1−オンとを、質量比で100:5:5の割合で含む、ことを特徴とする、光学素子の製造方法。
【化1】

【請求項2】
支持材と、前記支持材上に設けられた位相差層とを備えた位相差層積層体を製造する方法であって、
前記支持体上に重合性液晶材料を塗布し、前記重合性液晶材料がネマチック規則性、スメクチック規則性またはコレステリック規則性を有するように重合性液晶材料を硬化させて位相差層を形成し、
前記位相差層の形成後に、熱処理後の前記位相差層のリタデーション値をRa、前記位相差層積層体の熱処理後に再度同じ温度で60分間加熱した後の前記位相差層のリタデーション値をRb、とした場合に、(Ra−Rb)/Raで定義される前記位相差層のリタデーション減少率が、5%以下となるように、前記位相差層を熱処理する、ことを含んでなり、
前記支持体が高分子延伸フィルムである場合は、前記熱処理を80〜120℃で10分間〜60分間の時間で行い、前記支持体がガラス基板である場合は、前記熱処理を180〜240℃で10分間〜60分間の時間で行い、
前記重合性液晶材料が、下記式(1)で表される重合性液晶モノマーと、下記式(2)で表される重合性カイラル剤と、重合開始剤として2−メチル−1[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モリフォリノプロパン−1−オンとを、質量比で100:15:5の割合で含むことを特徴とする、位相差層積層体の製造方法。
【化2】

【請求項3】
支持材と、前記支持材上に設けられた位相差層とを備えた位相差層積層体を製造する方法であって、
前記支持体上に重合性液晶材料を塗布し、前記重合性液晶材料がネマチック規則性、スメクチック規則性またはコレステリック規則性を有するように重合性液晶材料を硬化させて位相差層を形成し、
前記位相差層の形成後に、熱処理後の前記位相差層のリタデーション値をRa、前記位相差層積層体の熱処理後に再度同じ温度で60分間加熱した後の前記位相差層のリタデーション値をRb、とした場合に、(Ra−Rb)/Raで定義される前記位相差層のリタデーション減少率が、5%以下となるように、前記位相差層を熱処理する、ことを含んでなり、
前記支持体が高分子延伸フィルムである場合は、前記熱処理を80〜120℃で10分間〜60分間の時間で行い、前記支持体がガラス基板である場合は、前記熱処理を180〜240℃で10分間〜60分間の時間で行い、
前記重合性液晶材料が、下記式(1)で表される重合性液晶モノマーと、重合開始剤として2−メチル−1[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モリフォリノプロパン−1−オンとを、質量比で100:5の割合で含むことを特徴とする、位相差層積層体の製造方法。
【化3】


【図1】
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【公開番号】特開2012−8576(P2012−8576A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−152276(P2011−152276)
【出願日】平成23年7月8日(2011.7.8)
【分割の表示】特願2007−302016(P2007−302016)の分割
【原出願日】平成14年10月3日(2002.10.3)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2001年10月16日〜19日 映像情報メディア学会およびインフォメーション・ディスプレイ協会発行の「第21回国際ディスプレイ研究会議合同第8回国際ディスプレイ研究集会 アジアディスプレイ/IDW ’01」に発表
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】