説明

光学素子保持方法

【課題】光学素子同士の貼り付きを防止して着脱を容易にし、かつ光学面の損傷のおそれのない光学素子保持方法を提供する。
【解決手段】光学面31Aと外周面31Bとを有する光学素子31の外周面31Bに薄膜を成膜するときの光学素子保持方法は、光軸方向にそって配列された複数の光学素子31の互いの光学面31Aの間に、各々の光学面31Aに対向する接触面32Aが鏡面とならないように微小凹凸を有するダミー部材32を介在させる工程を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学素子の周壁に薄膜を形成する際の光学素子保持方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光学素子の周壁に均一な薄膜を形成する装置として、装置内に設けた回転駆動機構により、光学素子を重ね合わせて保持した保持装置が連動して回転されて、保持された光学素子の周壁が、蒸着源に対向された状態で回転されながら周壁に薄膜が形成される装置が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
特許文献1に記載の装置では、第1及び第2のレンズ支持部材の間に薄膜が形成される複数のレンズが重ねて保持されている。このとき、各光学素子は、その光学面同士が接触した状態で第1及び第2のレンズ支持部材によって押圧保持されている。
【特許文献1】特開2006−200015号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のような方法で光学素子を保持して、真空法によって薄膜を成膜する場合、互いに接触した光学素子の光学面上の隙間も真空状態となる。そのため、成膜後に大気解放すると、光学面においてオプチカルコンタクトが発生し、光学素子同士が強固に貼り付いて着脱が非常に困難になる場合があるという問題がある。
また、光学素子を回転駆動する際に、光学面においてすべりが生じ、光学面が損傷されるおそれがあるという問題もある。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みて成されたものであり、光学素子同士の貼り付きを防止して着脱を容易にし、かつ光学面の損傷のおそれのない光学素子保持方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、光学面と外周面とを有する光学素子の前記外周面に薄膜を成膜するときの光学素子保持方法であって、光軸方向にそって配列された複数の前記光学素子の互いの前記光学面の間に、各々の前記光学面に対向する接触面が鏡面とならないように微小凹凸を有するダミー部材を介在させる工程を有することを特徴とする。
【0007】
本発明の光学素子保持方法によれば、光学素子の光学面とダミー部材の接触面との間に常に微小間隙が確保され、真空環境下における成膜後、光学面と接触面との間に空気が進入してオプチカルコンタクトによる貼り付きが防止される。
【0008】
前記ダミー部材の接触面は、微小凹凸を有する砂目に加工されてもよい。この場合、すべりによって光学面を損傷せずに貼り付きを好適に防ぐことができる。
【0009】
前記砂目が、800番以上3000番以下であってもよい。この場合、光学面の損傷の発生をより低く抑えることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の光学素子保持方法によれば、光学素子同士の貼り付きを防止して着脱を容易にし、かつ光学面の損傷のおそれのない光学素子保持方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の第1実施形態について、図1から図3を参照して説明する。図1は、本実施形態の光学素子保持方法が適用される薄膜形成装置の一例の構成を示す図である。
図1に示す薄膜形成装置1は、薄膜形成槽2と、薄膜形成槽2の内部に配置されて光学素子が取付けられるドーム部3と、ドーム部3に取付けられる光学素子保持部4と、ドーム部3の下方に設置された蒸着源5とを備えて構成されている。
【0012】
薄膜形成槽2は公知の構成からなり、薄膜の成膜時には、内部が真空状態にされて蒸着法によって成膜が行われる。
【0013】
ドーム部3は、略球面状の天井部6と、略円筒状の側壁部7とを有している。
天井部6の内面には、複数の凹部6Aが形成されている。各凹部6Aには、光学素子保持部4が、その軸線(具体的には、後述する挟持軸部材13B)が側壁部7の中心軸を通る天井部6の断面に対する接線と略平行となるように取付けられる。
【0014】
側壁部7は、中心軸が薄膜形成槽2の中心軸と一致するように配置されている。側壁部7の下端7Aには、リング状の歯車8が周方向に沿って設けられており、歯車8は駆動歯車9を介してモータ等の駆動機構10の回転軸10Aと噛み合わされている。これによって、ドーム部3は、駆動機構10によって側壁部7の中心軸回りに回転可能に構成されている。
なお、側壁部7を略円筒形に形成するのに代えて、天井部6を複数の支柱で支え、各支柱間にカバーを設けて側壁部7が形成されてもよい。
【0015】
図2は、光学素子保持部4の拡大図である。光学素子保持部4は、凹部6Aに着脱自在に固定される支持部材11と、支持部材11に取付けられて光学素子を挟持して保持する第1挟持部12及び第2挟持部13と、挟持された光学素子を回転させる従動歯車14とを備えて構成されている。
【0016】
支持部材11は棒状の部材であり、一端に突起部11Aが設けられている。光学素子保持部4は、天井部6の凹部6Aの内面に設けられた穴に支持部材の一端を嵌合することによって、自重で突起部11Aと凹部6Aの内面とが係合し、凹部6A内に位置決めされた状態で着脱自在に固定される。
【0017】
第1挟持部12及び第2挟持部13は、それぞれ支持部材11に取付けられる固定部12A、13Aと、固定部12A、13Aに取付けられる挟持軸部材12B,13Bとを備えて構成されている。固定部12A、13Aには、孔が設けられている。挟持軸部材12B,13Bは当該孔に挿入され、それぞれベアリング15によって回転自在に固定されて対向配置されている。突起部11A側の第1挟持部12は、突起部11Aと固定部12Aとの間に配置されたバネ等の付勢手段16によって、第2挟持部13に向かって付勢されている。
【0018】
従動歯車14は、挟持軸部材13Bの第1挟持部12と反対側の端部に、挟持軸部材13Bと同軸に取付けられている。従動歯車14は、天井部6の上方に設けられたリング状の固定歯車17と噛み合い、側壁部7の回転に伴って回転して挟持軸部材13Bを回転させる。
固定歯車17は、複数の支柱18によって吊り下げられ、支柱18は、連結部材19で連結された状態で、薄膜形成槽2の内面上部に取付けられている。
【0019】
蒸着源5は、側壁部7の軸線上の位置に、天井部6の凹部6Aと対向するように配置されている。そして、天井部6の曲面上のどの位置においても蒸着源5との距離が等しいように天井部6の形状が設定されている。蒸着源5の材料は、成膜する薄膜によって適宜選択される。
蒸着源5の付近には公知の電子銃20が配置されており、電子銃20から放出された電子ビームが蒸着源5の成膜材料を加熱して蒸発させるようになっている。
【0020】
蒸着源5と凹部6Aとの間には、シャッター21が設けられている。シャッター21は回転軸21Aに固定されており、回転軸21Aを回転させることによって、蒸着源5と凹部6Aとの間から退避可能に構成されている。
【0021】
上記のように構成された薄膜形成装置1を用いて成膜を行う際に、本発明の光学素子保持方法を行う手順を説明する。
まず、図3に示すように、光学素子31と、光学素子31とほぼ同じ径のダミー部材32を、それぞれ複数用意する。
【0022】
本実施形態の光学素子31は、ガラス材質、例えばサファイアからなる径4ミリメートル(mm)、厚さ1.5mmの円盤状の素子であり、軸線方向の光学面31A、外周面31B共に研磨されて全面が鏡面状態になっている。なお、これは一例であり、本発明で使用する光学素子については、材質、形状共に制限はない。
【0023】
ダミー部材32は、白板からなる円盤状の部材で、径及び厚さは光学素子と同一に設定されている。そして、後述するように光学素子31の光学面31Aと接触する軸線方向両端の接触面32Aは、表面に微小凹凸を有する2000番(#2000)の砂目に加工されている。
【0024】
接触面32Aの加工は、#800以上#3000以下が好ましい。接触面32Aが#800より粗いと光学面31Aにキズが生じる恐れがあり、#3000より細かいと、オプチカルコンタクトに準じた状態となり、ダミー部材32が光学素子31に貼り付く可能性がある。
【0025】
上記の光学素子31とダミー部材32とを、軸線(光学素子31においては光軸)方向に交互にかつ同軸に並べ、密着させる。これによって、隣り合う光学素子31の間にダミー部材32が介装され、光学素子31の光学面31Aとダミー部材32の接触面32Aとが接触する(ダミー部材介在工程)。このとき、並べた光学素子31及びダミー部材32の両端は、第1挟持部12及び第2挟持部13の挟持軸部材12B,13Bと接触するため、ダミー部材32としておくのが好ましい。
【0026】
次に、図2に示すように、光学素子31及びダミー部材32を第1挟持部12及び第2挟持部13の挟持軸部材12Bと13Bとの間に挟む。このとき、挟持された光学素子31及びダミー部材32が、挟持軸部材12B及び13Bと同軸になるように設置する。第1挟持部12は付勢手段16によって、第2挟持部13に向かって付勢され、第1挟持部12と第2挟持部13との間に光学素子31及びダミー部材32が挟持される。付勢手段16の付勢力は、挟持された光学素子31及びダミー部材32と挟持軸部材12B、13Bとが相対回転しないように保持できる程度の強さに設定される。
【0027】
光学素子31及びダミー部材32が挟持された光学素子保持部4は、支持部材11を天井部6の凹部6Aに固定することによって、凹部6A内に取付けられる。このとき、光学素子31及びダミー部材32の回転軸、すなわち、挟持軸部材12B、13Bが、天井部6の曲面の接線と一致するように光学素子保持部4が配置され、光学素子31の外周面31Bが下方の蒸着源5に対向する。
【0028】
駆動機構10を駆動して駆動歯車9を回転させると、歯車8が回転し、ドーム部3が側壁部7の中心軸回りに回転する。ドーム部3の天井部6に取付けられた光学素子保持部4は、ドーム部3と共に回転する。このとき、従動歯車14が固定歯車17と噛み合って回転し、従動歯車14が取付けられた第2挟持部13の挟持軸部材13Bが回転する。それにともなって、同軸に支持された光学素子31、ダミー部材32、及び第1挟持部12の挟持軸部材12Bが軸線回りに回転する。すなわち、光学素子31及びダミー部材32は、軸線回りに回転しつつ蒸着源5に対して公転する。
【0029】
ついで、電子銃20から蒸着源5に向けて電子ビームを放出させると、蒸着源5の成膜材料が加熱されて蒸発する。シャッター21の回転軸21Aを回転させてシャッターを蒸着源5と凹部6Aとの間から退避させると、蒸発した成膜材料が天井部6に向かって直進し、光学素子31およびダミー部材32の外周面に到達する。このようにして、光学素子31の外周面31Bに均一な厚さの薄膜が形成される。
【0030】
上記の手順で、薄膜形成槽2内の温度を300℃、到達真空度2×10−4Paの条件下で蒸着源5として金を用い、厚さ100ナノメートル(nm)の薄膜を成膜したところ、光学素子31とダミー部材32との間にオプチカルコンタクトによる貼り付きは発生しなかった。そして、光学素子保持部から光学素子31及びダミー部材32を取り外す際に、光学素子31の光学面31Aを損傷することなく容易に着脱することができた。
【0031】
本発明の光学素子保持方法によれば、光軸方向に配列された複数の光学素子31の隣り合う光学面31Aの間に接触面32Aが鏡面でなく微小凹凸を有するダミー部材32が介装されるので、接触面32Aと光学面31Aとの間に常に微小間隙が確保される。したがって、真空環境下で成膜を行った場合でも、成膜後、接触面32Aと光学面31Aとの間に空気が進入してオプチカルコンタクトによる貼り付きが防止され、容易に着脱することができる。
【0032】
また、接触面が#2000の砂目に加工されているので、すべりによって光学面31Aを損傷せずに貼り付きを好適に防ぐことができる。
【0033】
次に本発明の第2実施形態の光学素子保持方法について、図4及び図5を参照して説明する。本実施形態の光学素子保持方法と、上記第1実施形態の光学素子保持方法との異なる点は、光学素子及びダミー部材の形状である。
なお、上記第1実施形態に既出の各構成については、同一の符号を付して重複する説明を省略する。
【0034】
図4は、本実施形態において使用される光学素子41及びダミー部材42を示す図である。光学素子41は、ガラス材質(商品名S−LAH58:株式会社オハラ製)からなる径10mm、厚さ1.0mmの素子であり、光学面41Aが凹状の球面(R10凹、R20凹)となっている。
【0035】
ダミー部材42は、ダミー部材32と同様白板から形成されており、接触面42Aは、球面創成機によって光学面41Aに対応する凸状の球面(R10凸、R20凸)に加工されている。ダミー部材42の径及び厚さは光学素子41と同一であり、接触面42Aの表面は#2000程度の砂目状となっている。
【0036】
上述の光学素子41及びダミー部材42を、光軸方向に並べて、図5に示すように第1実施形態と同様の手順で光学素子保持部4に挟持して保持する。このとき、図5に示すように、挟持軸部材12B、13Bに接触するダミー部材として、片面が平面に加工されたものを用いてもよい。このようにすると、光学素子41及びダミー部材42をより安定した状態で保持することができる。
【0037】
上記の手順で、薄膜形成槽2内の温度を270℃、到達真空度2×10−4Paの条件下で蒸着源5としてフッ化マグネシウム(MgF)を用い、厚さ130ナノメートル(nm)の薄膜を成膜したところ、光学素子41とダミー部材42との間にオプチカルコンタクトによる貼り付きは発生しなかった。そして、光学素子保持部から光学素子41及びダミー部材42を取り外す際に、光学素子41の光学面41Aを損傷することなく容易に着脱することができた。
【0038】
本実施形態の光学素子保持方法においても上述の第1実施形態の光学素子保持方法と同様の効果を得ることができる。
そして、ダミー部材42の接触面42Aが、光学素子41の光学面41Aの形状に対応する球面に加工されているので、球面状の光学面を有する光学素子であっても、好適に保持することができる。
【0039】
本実施形態においては、光学素子の光学面が凹状でダミー部材の接触面が凸状である例を説明したが、光学素子の光学面が凸状である場合も、ダミー部材の接触面を対応する凹状に形成することによって、同様に好適な保持を行うことができる。
【0040】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、上述の実施例においては、ダミー部材が白板で形成されている例を説明したが、これに代えて、他のガラス素材や金属等を用いてダミー部材が形成されてもよい。ただし、光学素子の光学面を損傷しにくくする観点からは、光学素子の硬度より低い硬度を有する材料を用いてダミー部材が形成されることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の第1実施形態の光学素子保持方法が適用される薄膜形成装置の一例の構成を示す図である。
【図2】同薄膜形成装置の光学素子保持部の構成を示す図である。
【図3】同光学素子保持部に挟持される光学素子及びダミー部材を示す図である。
【図4】本発明の第2実施形態の光学素子保持方法において使用される光学素子及びダミー部材を示す側面図である。
【図5】同光学素子及び同ダミー部材が光学素子保持部に挟持された状態を示す図である。
【符号の説明】
【0042】
31、41 光学素子
31A、41A 光学面
31B 外周面
32、42 ダミー部材
32A、42A 接触面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学面と外周面とを有する光学素子の前記外周面に薄膜を成膜するときの光学素子保持方法であって、
光軸方向にそって配列された複数の前記光学素子の互いの前記光学面の間に、各々の前記光学面に対向する接触面が鏡面とならないように微小凹凸を有するダミー部材を介在させる工程を有することを特徴とする光学素子保持方法。
【請求項2】
前記ダミー部材の接触面は、微小凹凸を有する砂目に加工されていることを特徴とする請求項1に記載の光学素子保持方法。
【請求項3】
前記砂目が、800番以上3000番以下であることを特徴とする請求項2に記載の光学素子保持方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−7136(P2010−7136A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−168545(P2008−168545)
【出願日】平成20年6月27日(2008.6.27)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】