説明

光学素子加工用治具、光学素子加工装置、及び光学素子製造方法

【課題】同時に加工可能な光学素子の数を従来よりも増やすことができる光学素子加工用治具、光学素子加工装置、及び光学素子製造方法を提供する。
【解決手段】光学素子加工用治具10は、光学素子材料の表面を研磨又は研削する光学素子加工装置において用いられる光学素子加工用治具10であって、球面形状の表面に、光学素子材料の一部が配置される凹部11が複数設けられた形状をなす部材からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、球面形状を有するレンズ等の光学素子を研削又は研磨する際に用いる光学素子加工用治具、並びに、光学素子加工装置及び光学素子製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
球面形状の光学素子を複数同時に研削又は研磨する方法として、リセス皿を用いる方法がある(例えば、特許文献1を参照)。リセス皿とは、例えば図11に示すように、半球又は球欠形状(球体を1つの平面で切り取った形状)の部材の球面81に、加工対象である光学素子材料の径に対応するサイズの複数の凹部82を形成した治具であり、通常、回転軸83が設けられている。このようなリセス皿80の各凹部82に光学素子材料を接着剤等で固定し、凹部82から突出した光学素子材料の部分に研削又は研磨用の加工皿を当接させ、研削又は研磨液を供給しながら加工皿を揺動させると共にリセス皿80を回転させると、各光学素子材料の表面が、加工皿との相対運動により徐々に研削又は研磨される。それにより、各光学素子材料の表面が、加工皿に対応する形状に整形される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−264000号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、このようなリセス皿80においては、凹部82が球面81の端部84にかからないようにするため、端部84付近に凹部82を配置することができないデッドスペースが生じてしまう。このため、1つのリセス皿80に設けることができる凹部82の数をあまり増やすことができず、同時に加工することができる光学素子の数が少ないという問題があった。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、同時に加工可能な光学素子の数を従来よりも増やすことができる光学素子加工用治具、光学素子加工装置、及び光学素子製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る光学素子加工用治具は、光学素子材料の表面を研磨又は研削する光学素子加工装置において用いられる光学素子加工用治具であって、球面形状又は球面に内接する多面体形状の表面に、前記光学素子材料の一部が配置される凹部が複数設けられた形状をなす部材からなることを特徴とする。
【0007】
上記光学素子加工用治具において、前記球面形状の曲率は、前記光学素子材料の最終形状である球面の曲率よりも小さいことを特徴とする。
【0008】
上記光学素子加工用治具において、前記複数の凹部は、前記部材の中心に対して対称となるように配置されていることを特徴とする。
【0009】
上記光学素子加工用治具において、前記複数の凹部の各々は、円柱形状を有することを特徴とする。
【0010】
上記光学素子加工用治具において、前記複数の凹部は、前記円柱形状の径及び/又は長さが互いに異なる複数種類の凹部を含むことを特徴とする。
【0011】
上記光学素子加工用治具において、前記円柱形状の底面は、前記部材の外側又は内側に向かって凸の球面形状を有することを特徴とする。
【0012】
上記光学素子加工用治具において、前記部材は、互いに分割及び結合自在な複数の分割体からなることを特徴とする。
【0013】
上記光学素子加工用治具において、前記複数の分割体は、締結部材、磁石、及び接着剤の内の少なくとも一つにより互いに結合されることを特徴とする。
【0014】
上記光学素子加工用治具において、前記複数の凹部は、前記多面体形状が有する複数の面にそれぞれ設けられていることを特徴とする。
【0015】
上記光学素子加工用治具において、前記複数の凹部は、前記多面体形状が有する複数の頂点に対応する位置にそれぞれ設けられていることを特徴とする。
【0016】
本発明に係る光学素子加工装置は、上記光学素子加工用治具と、加工面が互いに対向するように配置され、中心軸に対して相対的に回転可能な第1の研磨盤及び第2の研磨盤と、前記第1の研磨盤の前記加工面に設けられ、前記複数の凹部に複数の光学素子材料がそれぞれ配置された前記光学素子加工用治具が載置される円環状の溝が形成された第1の研磨部材と、前記第2の研磨盤の前記加工面に設けられ、前記第1の研磨部材と共に、前記光学素子加工用治具を押圧する第2の研磨部材とを備えることを特徴とする。
【0017】
本発明に係る光学素子製造方法は、光学素子材料の表面を研削又は研磨加工する工程を有する光学素子製造方法において、球面形状又は球面に内接する多面体形状の表面に前記光学素子材料の一部が配置される凹部が複数設けられた形状をなす部材からなる光学素子加工用治具の複数の前記凹部に、複数の前記光学素子材料をそれぞれ貼り付ける貼り付け工程と、円環状の溝が形成された第1の研磨部材の前記溝に、前記光学素子加工用治具を載置する光学素子加工用治具載置工程と、前記第1の研磨部材と、前記第1の研磨部材に対向するように配置された第2の研磨部材とにより前記光学素子加工用治具を押圧した状態で、前記第1の研磨部材と前記第2の研磨部材との間に相対的な回転運動を与え、前記溝において前記光学素子加工用治具を回転移動させる研削又は研磨工程とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、球面形状又は球面に内接する多面体形状の表面に、光学素子材料の一部が配置される凹部が複数設けられた形状をなすように光学素子加工用治具を形成するので、光学素子加工用治具上のデッドスペースを低減し、同時に加工可能な光学素子の数を従来よりも増やすことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1A】図1Aは、本発明の実施の形態1に係る光学素子加工用治具の外観を示す斜視図である。
【図1B】図1Bは、図1AのA−A断面図である。
【図2】図2は、本発明の実施の形態1に係る光学素子製造方法の内、光学素子材料の表面を研削又は研磨加工する工程を示すフローチャートである。
【図3A】図3Aは、光学素子加工用治具に光学素子材料を配置する方法を説明する図である。
【図3B】図3Bは、光学素子加工用治具に光学素子材料を配置する方法を説明する図である。
【図3C】図3Cは、光学素子加工用治具に光学素子材料を配置する方法を説明する図である。
【図3D】図3Dは、光学素子加工用治具に光学素子材料を配置する方法を説明する図である。
【図4A】図4Aは、本発明の実施の形態1に係る光学素子加工装置の構造を示す断面図である。
【図4B】図4Bは、図4Aに示すB−B面における上面図である。
【図5】研削又は研磨加工後の光学素子及び光学素子加工用治具を示す断面図である。
【図6】図6は、変形例1に係る光学素子加工用治具の外観を示す斜視図である。
【図7】図7は、変形例2に係る光学素子加工用治具の一部を示す断面図である。
【図8A】図8Aは、本発明の実施の形態2に係る光学素子加工用治具の外観を示す斜視図である。
【図8B】図8Bは、図8Aに示す光学素子加工用治具を分割した状態を示す斜視図である。
【図9A】図9Aは、本発明の実施の形態3に係る光学素子加工用治具の外観を示す斜視図である。
【図9B】図9Bは、図9Aに示す光学素子加工用治具を分割した状態を示す斜視図である。
【図10A】図10Aは、本発明の実施の形態4に係る光学素子加工用治具の外観を示す斜視図である。
【図10B】図10Bは、図10Aに示す光学素子加工用治具の一部を拡大した断面図である。
【図11】図11は、従来の光学素子製造方法において用いられるリセス皿を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、これら実施の形態によって本発明が限定されるものではない。また、各図面の記載において、同一部分には同一の符号を付して示している。図面は模式的なものであり、各部の寸法の関係や比率は、現実と異なることに留意する必要がある。図面の相互間においても、互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれる。
【0021】
(実施の形態1)
図1Aは、本発明の実施の形態1に係る光学素子加工用治具(以下、単に加工用治具ともいう)を示す斜視図である。また、図1Bは、図1Aに示すA−A断面図である。本実施の形態1に係る加工用治具は、光学素子材料の表面を研磨又は研削する光学素子加工装置において、加工対象である光学素子材料を保持するために用いられる。
【0022】
図1A及び図1Bに示すように、加工用治具10は、金属若しくは合金(クローム鋼や真鍮等)又は樹脂等によって形成された部材からなり、球面形状の表面に加工対象である光学素子材料の一部が収容される凹部11が複数設けられた形状をなしている。
【0023】
凹部11の形状は、光学素子材料1の形状に応じて決定される。本実施の形態1においては、円柱形状の光学素子材料1を加工するため、凹部11の形状も円柱形状とされる。
凹部11の径Dは、凹部11に対して光学素子材料1をストレスなく出し入れできるように、光学素子材料1の径よりも若干大きくなっている。また、凹部11の深さdは、光学素子材料1の内、少なくとも研削又は研磨加工の対象部分が凹部11よりも突出するように、光学素子材料1の高さよりも浅くなっている。
【0024】
このような凹部11は、加工用治具10の表面全体に分散して配置されている。好ましくは、研削又は研磨加工の際に、光学素子材料1を凹部11に固定した状態の加工用治具10が転がり易くなるように、部材の中心に対して対称な位置に凹部11を配置すると良い。
【0025】
次に、実施の形態1に係る光学素子製造方法について説明する。図2は、実施の形態1に係る光学素子製造方法の内、光学素子材料の表面を研削又は研磨加工する工程を示すフローチャートである。
まず、工程S1において、複数の光学素子材料1を、加工用治具10の凹部11にそれぞれ貼り付ける。
【0026】
図3A〜図3Dは、光学素子材料1を凹部11に貼り付ける方法の一例を詳細に説明する図である。
まず、図3Aに示すように、加工用治具10の球面形状に対応する凹部が形成された台座12に加工用治具10を載置する。そして、台座12及び加工用治具10を加熱し、台座12よりも上側の凹部11に例えば熱可塑性の接着剤13を塗布又は注入して、光学素子材料1を挿入する。なお、接着剤13は、光学素子材料1側に塗布しても良いし、凹部11内及び光学素子材料1の両方に塗布しても良い。
【0027】
続いて、図3Bに示すように、凹部11に挿入された光学素子材料1を固定用治具14で覆った状態で保持し、接着剤13を冷却して固化させる。それにより、光学素子材料1が凹部11に固定される。
【0028】
続いて、図3Cに示すように、光学素子材料1を、固定用治具14で覆った状態で台座12から取り外し、上下反転させる。そして、固定用治具14及び加工用治具10を加熱し、固定用治具14よりも上側の凹部11に接着剤13を塗布又は注入して、光学素子材料1を挿入する。この際に用いる接着剤13は、図3Aに示す工程において使用した接着剤13よりも、融点が低いものを使用することが好ましい。固定済みの光学素子材料1を接着した接着剤が再度融解して光学素子材料1の位置がずれるのを防止するためである。なお、この場合も、接着剤13は、光学素子材料1側に塗布しても良いし、凹部11内及び光学素子材料1の両方に塗布しても良い。
【0029】
さらに、図3Dに示すように、凹部11に挿入された上側の光学素子材料1を固定用治具15で覆った状態で保持し、接着剤13を冷却させる。それにより、上側の光学素子材料1が凹部11に固定される。その後、光学素子材料1が固定された加工用治具10を固定用治具14、15から取り外しておく。このような加工用治具10を複数用意しておく。
【0030】
続く工程S2において、光学素子材料1が貼り付けられた加工用治具10をボール研磨装置にセットする。
図4Aは、実施の形態1に係る光学素子加工装置であるボール研磨装置の概略構成を示す断面図である。図4Aに示すように、ボール研磨装置20は、加工面が互いに対向するように配置され、軸Rに対して回転可能な下研磨盤21及び上研磨盤22と、下研磨盤21及び上研磨盤22の加工面にそれぞれ貼り付けられた研磨部材(ポリッシャー)23及び24とを備える。
【0031】
研磨部材23には、光学素子材料1が貼り付けられた加工用治具10が載置される円環状の溝25が形成されている。溝25の断面は、好ましくはV字形状である。この溝25の光学素子材料1との当接面は、好ましくは平面状であると良いが、光学素子材料1の目標形状である球面に対応する曲率のカーブが形成されていても良い。また、研磨部材24の光学素子材料1との当接面は、好ましくは平面状であるが、光学素子材料1の目標形状である球面に対応する曲率の溝が形成されていても良い。
【0032】
図4Bは、図4Aに示すB−B面を上方から見た平面図である。図4Bに示すように、光学素子材料1が固定された複数の加工用治具10は、溝25内に並べて載置される。この際、光学素子材料1同士が衝突するのを防止するため、隣り合う加工用治具10の間にダミーのボール26を配置すると良い。
【0033】
このように加工用治具10を溝25に載置した後、上研磨盤22を加工用治具10の上に乗せ、研磨部材23、24で加工用治具10を挟んだ状態で押圧する。なお、この際、上研磨盤22の自重で加工用治具10を押圧しても良いし、上研磨盤22に対して更に押圧力を印加しても良い。
【0034】
続く工程S3において、研磨部材23と研磨部材24との間の空間に研磨液27を供給しながら、加工用治具10を押圧した状態で、下研磨盤21と上研磨盤22との内の少なくとも一方を軸Rに対して回転させ、研磨部材23と研磨部材24との間に相対的な回転運動を与える。それにより、加工用治具10が回転移動し、凹部11から突出した光学素子材料1の部分が研磨部材23、24及び研磨液27により研削又は研磨を施される。
【0035】
ここで、研磨部材23、24及び研磨液27は、粗加工と仕上げ加工とで、適したものをそれぞれ選定すると良い。例えば、粗加工においては、研磨部材23、24に鋳鉄等を用い、研磨液27にGC砥粒等を使用する。一方、仕上げ加工においては、研磨部材23、24にピッチや軟質部材等を用い、研磨液27に酸化セリウム等を使用する。
【0036】
図5は、所定の回転速度で所定時間、研削又は研磨加工を行った後の加工用治具10を示す断面図である。図5に示すように、各光学素子材料1の表面1aは、加工用治具10の回転により、互いに等しい曲率の球面形状に整形される。
【0037】
工程S4において、ボール研磨装置20から加工用治具10を取り出し、加工用治具10を加熱して接着剤13を融解させ、凹部11から光学素子材料1を取り外す(図5参照)。この際、有機溶媒等を用いて光学素子材料1を洗浄しても良い。それにより、表面1aが所望の球面形状に整形された光学素子材料1が得られる。このようにして得られた光学素子材料1に対し、必要に応じて反射防止膜のコーティングなどを行って、レンズ等の光学素子(図示せず)を得ることができる。
【0038】
以上説明したように、実施の形態1によれば、球面形状の表面に凹部11を設けるので、例えば半球形状の端部のように凹部11を配置することができないデッドスペースを低減することができる。このため、凹部11の配置効率(単位面積当たりに配置することができる凹部の数)を向上させることができる。従って、1つの加工用治具10を用いて同時に加工することができる光学素子材料1の数を、実質的に従来よりも増やすことが可能となる。
【0039】
また、実施の形態1によれば、複数の光学素子材料1が貼り付けられた加工用治具10に対し、ボール研磨装置20を用いて複数同時に研削又は研磨加工を施すので、同時に加工することができる光学素子材料1の数をさらに増加させることができる。従って、光学素子材料1の1つあたりの加工時間を短縮することができ、製造コストを低減することが可能となる。
【0040】
さらに、実施の形態1によれば、従来のリセス皿を用いる研削又は研磨加工とは異なり、加工用治具10が溝25内を無軸で転がるので、加工後の光学素子材料1の表面1aの真球度が従来よりも向上すると共に、加工ムラがなくなるという利点もある。
【0041】
(変形例1)
次に、実施の形態1の変形例1について説明する。図6は、変形例1に係る光学素子加工用治具(以下、加工用治具)の外観を示す斜視図である。
図6に示す加工用治具30は、球面形状の表面に、光学素子材料1の一部が配置される互いに径や深さが異なる複数の凹部31〜33が設けられた形状をなす。このように複数種類の凹部31〜33を1つの加工用治具30に設けることにより、曲率半径が等しく、径及び/又は長さが互いに異なる複数の光学素子材料に対して、同時に研削又は研磨加工を施すことが可能となる。
【0042】
(変形例2)
次に、実施の形態1の変形例2について説明する。図7は、変形例2に係る光学素子加工用治具(以下、加工用治具)の一部を示す断面図である。
変形例2に係る加工用治具40は、球面形状の表面に、光学素子材料1の一部が配置される複数の凹部41が設けられた形状をなす。図7に示すように、この凹部41の底面42は、加工用治具40の外側に向かって凸の球面形状となっている。
【0043】
底面42の形状をこのような曲面とすることにより、一方の端面が加工済みである光学素子材料に対して研削又は研磨加工を行うことも可能となる。例えば、図7の場合、一方の端面が凹の球面形状に整形された光学素子材料を凹部41に配置し、他方の端面に対して研削又は研磨加工を行うことができる。
【0044】
また、別の変形例として、凹部41の底面42を、加工用治具40の内側に向かって凸の球面形状としても良い。この場合、一方の端面が凸の球面形状に整形された光学素子材料を凹部41に配置することができるので、両凸の光学素子(レンズ)を作成することが可能となる。
【0045】
(変形例3)
上記実施の形態1においては、凹部11を円柱形状としたが、凹部11の側面形状は必ずしも円柱形状に限定されない。即ち、光学素子材料1の形状に合わせて、例えば角柱形状や円錐台形状としても良い。
【0046】
(実施の形態2)
次に、本発明の実施の形態2について説明する。図8Aは、実施の形態2に係る光学素子加工用治具(以下、加工用治具)の外観を示す斜視図である。また、図8Bは、図8Aに示す加工用治具を分割した状態を示す斜視図である。
【0047】
図8Aに示すように、実施の形態2に係る加工用治具50は、互いに分割及び結合自在な2つの部材(分割体)51、52からなり、分割体51、52が互いに結合された状態で、球面形状の表面に、光学素子材料1の一部が配置される凹部が複数設けられた形状をなす。各分割体51、52は、金属若しくは合金(クローム鋼や真鍮等)又は樹脂等によって形成されている。図8Bに示すように、分割体51と分割体52とは、ボルト等の締結部材(雄ネジ54及び雌ネジ55)によって互いに結合される。
【0048】
このように加工用治具50を分割可能な構成とすることにより、加工用治具50の凹部53に光学素子材料1を貼り付ける工程S2(図2参照)を容易に行うことができる。具体的には、分割体51、52を、互いの分割面を下側に向けて作業台等に直接載置する。なお、雄ネジ54が設けられた分割体51については、雄ネジ54部分を貫通させる開口が設けられた台等を用いても良い。そして、各分割体51、52の凹部53を加熱し、例えば熱可塑性の接着剤を用いて光学素子材料1を貼り付け、接着剤が固化した後で分割体51、52を互いに結合させる。
なお、実施の形態2に係る光学素子製造方法における他の工程については、図2の工程S1、S3、S4と同様である。
【0049】
以上説明した実施の形態2によれば、固定用治具等を用いることなく、各分割体51、52に光学素子材料1を容易に貼り付けることができる。この際、接着剤を融解させるための加熱を、各分割体51、52に対して1回のみ行えば良くなり、融点が異なる2種類の接着剤を用いる必要はなくなる。また、分割体51、52に対する光学素子材料1の貼り付け作業を同時に行うこともできる。従って、加工用治具50に光学素子材料1を貼り付ける工程S2を簡素化させ、作業効率を向上させることが可能となる。
なお、実施の形態2に対して上述した変形例1〜3を適用しても良い。
【0050】
(実施の形態3)
次に、本発明の実施の形態3について説明する。図9Aは、実施の形態3に係る光学素子加工用治具(以下、加工用治具)の外観を示す斜視図である。また、図9Bは、図9Aに示す加工用治具を分割した状態を示す斜視図である。
【0051】
図9Aに示すように、実施の形態3に係る加工用治具60は、互いに分割及び結合自在な部材(分割体)61、62からなり、分割体61、62が互いに結合された状態で、球面形状の表面に、光学素子材料1の一部が配置される凹部63が複数設けられた形状をなす。各分割体61、62は、金属若しくは合金(クローム鋼や真鍮等)又は樹脂等によって形成されている。図9Bに示すように、各分割体61、62の端部は歯車形状を有し、分割体61と分割体62とは、各々の歯車部分64、65を互いに噛み合わせて結合される。各歯車部分64、65は、1つの凹部63を配置可能な大きさ(面積及び形状)を有している。これらの分割体61、62の内部には磁石が互いに引き合う向きで設けられており、分割体61、62は磁力により互いに結合される。
【0052】
ここで、加工用治具の凹部に光学素子材料を貼り付ける工程S2を簡素化するためには、加工用治具が分割可能であることが好ましい。しかしながら、加工用治具を1つの平面で分割すると、各分割体の端部に、凹部を配置することができないデッドスペースが生じてしまう。そこで、実施の形態3においては、各分割体61、62の端部を歯車形状とし、各歯車部分64、65にも凹部63を配置している。それにより、加工用治具60に設ける凹部63の数を低減させることなく、工程S2を簡素化することが可能となる。
なお、実施の形態3に係る光学素子製造方法における他の工程については、図2の工程S1、S3、S4と同様である。
【0053】
実施の形態3の変形例として、分割体61、62を磁力で結合する代わりに、光学素子材料の貼り付けで使用した接着剤よりも融点の低い接着剤を用いて両者を結合しても良い。融点の低い接着剤を用いるのは、光学素子材料1の貼り付けに使用した接着剤が再び融解し、分割体61、62上で光学素子材料1の位置がずれるのを防止するためである。なお、分割体61、62の両者の結合は、上述した締結部材、磁石、又は接着剤を適宜組み合わせることで行われても良い。
また、実施の形態3に対し、上述した変形例1〜3を適用しても良い。
【0054】
(実施の形態4)
次に、本発明の実施の形態4について説明する。図10Aは、実施の形態4に係る光学素子加工用治具(以下、加工用治具)の外観を示す斜視図である。また、図10Bは、図10Aに示す加工用治具の一部を拡大して示す断面図である。
【0055】
図10Aに示すように、実施の形態4に係る加工用治具70は、球面に内接する多面体(図10A及び図10Bにおいては正十二面体)の各面71に、光学素子材料の一部が配置される凹部72が設けられた形状をなす。このような加工用治具70は、金属若しくは合金(クローム鋼や真鍮等)又は樹脂等によって形成されている。
【0056】
多面体としては所望の形状を選択して良いが、正十二面体や正二十面体のように、なるべく面の数(頂点の数)が多い形状を選択すると、ボール研磨装置20の溝25において、光学素子材料を貼り付けた加工用治具70が転がり易くなって好ましい。また、図10Bに示すように、凹部72の深さは、多面体が内接する球面Cよりも光学素子材料1の加工面が突出するように規定すると良い。これは、頂点Pが研削されるのを防ぐためである。
【0057】
加工用治具70の形状をこのような多面体とする場合、光学素子材料1を凹部72に貼り付ける工程S2(図2参照)を、固定用治具等を用いることなく、より簡単に行うことができる。
【0058】
なお、実施の形態4においては、加工用治具70の形状を多面体の各面71に凹部72を設けた形状としたが、多面体の各頂点に対応する位置に凹部72を設けた形状としても良い。この場合、多面体として凹多面体を選択することもできる。
また、実施の形態4に対し、上述した変形例1〜3を適用しても良い。
【符号の説明】
【0059】
1 光学素子材料
1a 表面
10、30、40、50、60、70 光学素子加工用治具(加工用治具)
11、31、32、33、41、53、63、72、82 凹部
12 台座
13 接着剤
14、15 固定用治具
20 ボール研磨装置
21 下研磨盤
22 上研磨盤
23、24 研磨部材
25 溝
26 ボール
27 研磨液
42 底面
51、52、61、62 部材(分割体)
54 雄ネジ
55 雌ネジ
64、65 歯車部分
71 面
80 リセス皿
81 球面
83 回転軸
84 端部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学素子材料の表面を研磨又は研削する光学素子加工装置において用いられる光学素子加工用治具であって、
球面形状又は球面に内接する多面体形状の表面に、前記光学素子材料の一部が配置される凹部が複数設けられた形状をなす部材からなることを特徴とする光学素子加工用治具。
【請求項2】
前記球面形状の曲率は、前記光学素子材料の最終形状である球面の曲率よりも小さいことを特徴とする光学素子加工用治具。
【請求項3】
前記複数の凹部は、前記部材の中心に対して対称となるように配置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の光学素子加工用治具。
【請求項4】
前記複数の凹部の各々は、円柱形状を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の光学素子加工用治具。
【請求項5】
前記複数の凹部は、前記円柱形状の径及び/又は長さが互いに異なる複数種類の凹部を含むことを特徴とする請求項4に記載の光学素子加工用治具。
【請求項6】
前記円柱形状の底面は、前記部材の外側又は内側に向かって凸の球面形状を有することを特徴とする請求項4又は5に記載の光学素子加工用治具。
【請求項7】
前記部材は、互いに分割及び結合自在な複数の分割体からなることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の光学素子加工用治具。
【請求項8】
前記複数の分割体は、締結部材、磁石、及び接着剤の内の少なくとも一つにより互いに結合されることを特徴とする請求項7に記載の光学素子加工用治具。
【請求項9】
前記複数の凹部は、前記多面体形状が有する複数の面にそれぞれ設けられていることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の光学素子加工用治具。
【請求項10】
前記複数の凹部は、前記多面体形状が有する複数の頂点に対応する位置にそれぞれ設けられていることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の光学素子加工用治具。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の光学素子加工用治具と、
加工面が互いに対向するように配置され、中心軸に対して相対的に回転可能な第1の研磨盤及び第2の研磨盤と、
前記第1の研磨盤の前記加工面に設けられ、前記複数の凹部に複数の光学素子材料がそれぞれ配置された前記光学素子加工用治具が載置される円環状の溝が形成された第1の研磨部材と、
前記第2の研磨盤の前記加工面に設けられ、前記第1の研磨部材と共に、前記光学素子加工用治具を押圧する第2の研磨部材と、
を備えることを特徴とする光学素子加工装置。
【請求項12】
光学素子材料の表面を研削又は研磨加工する工程を有する光学素子製造方法において、
球面形状又は球面に内接する多面体形状の表面に前記光学素子材料の一部が配置される凹部が複数設けられた形状をなす部材からなる光学素子加工用治具の複数の前記凹部に、複数の前記光学素子材料をそれぞれ貼り付ける貼り付け工程と、
円環状の溝が形成された第1の研磨部材の前記溝に、前記光学素子加工用治具を載置する光学素子加工用治具載置工程と、
前記第1の研磨部材と、前記第1の研磨部材に対向するように配置された第2の研磨部材とにより前記光学素子加工用治具を押圧した状態で、前記第1の研磨部材と前記第2の研磨部材との間に相対的な回転運動を与え、前記溝において前記光学素子加工用治具を回転移動させる研削又は研磨工程と、
を含むことを特徴とする光学素子製造方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【図9A】
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【図9B】
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【図10A】
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【図10B】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−52447(P2013−52447A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−190022(P2011−190022)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】