説明

光学素子成形方法

【課題】光学機能転写面の転写性および外観性を向上することができる光学素子成形方法を提供する。
【解決手段】一対の成形型10、40と胴型50とにより光学素子90を成形するための光学素子成形方法であって、光学機能転写面を含む転写面12を備えた第1の成形型10に、光学機能転写面の曲率半径R1より小さな曲率半径R0を伴う第1の成形素材80を載置する第1の載置工程と、第1の成形素材を加熱軟化した状態で転写面42を備えた第2の成形型40により加圧し、第1の成形素材に光学機能転写面の一部を転写する第1の加圧工程と、第2の成形型により第1の成形素材に転写された成形面に第2の成形素材85を載置する第2の載置工程と、第1および第2の成形素材を加熱軟化した状態で第2の成形型により加圧し、第1および第2の成形素材に光学機能転写面の全てを転写する第2の加圧工程と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学素子成形方法に係り、より詳しくは一対の型と胴型とにより光学素子を成形するための光学素子成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の光学機器の小型軽量化および多機能化に伴い、光学系に用いられる様々な光学レンズが開発されている。特に、DVD(Digital Versatile Disk)等、光学機器に用いられるピックアップレンズを始めとする光ディスク用レンズを使用する製品では、光学レンズの高NA化が要求されている。さらに、「次世代DVD」規格とされるブルーレイディスク(大容量相変化光ディスク)では、高密度なデータ記録を実現するために短波長の青紫色レーザとともに高NAレンズが用いられており、光学レンズに対する高NA化の要求は今後とも一層高まるものと予想されている。
【0003】
光学レンズ(以下では、「光学素子」とも称する。)の成形方法としては、光学機能転写面を含む転写面を備えた一対の成形型と、成形型が内挿される胴型とにより、成形素材から光学素子を成形するプレス成形法が多用されている。プレス成形法では、第1の成形型に成形素材を載置し、成形素材を加熱軟化した状態で第1および第2の成形型で加圧して転写面を転写し、転写を維持した状態で成形素材を冷却することにより所望の光学素子が成形される。
【0004】
ここで、光学素子の光学機能面は、光学素子の有効径(光軸上の無限遠点から出て光学素子を通過すべき平行光線束の、光軸に垂直な断面の直径)の範囲を含む外側までの範囲を示しており、有効径の範囲のみを対象とする成形では、光学素子としての機能を実現するための設計形状に従って加工することが困難であるため、有効径の範囲とともに光学素子としての機能を実現するための所定の設計形状に従って成形される範囲を意味する。
【0005】
一方、単一レンズで高NA化の要求を満たすためには、光学機能面の曲率半径を小さくし、レンズ構成面の傾斜を大きくすることが必要となるので、一般的に素子の成形厚が大きくなる。このため、成形素材の曲率半径が機能転写面の曲率半径を上回る場合には、第1の成形型に成形素材を載置した状態で成形素材と機能転写面との間に密閉された空間が形成されることになり、成形後の光学素子の光学機能面にガス溜りが形成され易くなる。また、成形素材と光学素子との体積が略同一であるので、成形素材の形状に応じては、そもそも成形素材を胴型に内挿された第1の成形型に載置することができなくなる場合もある。
【0006】
この種の問題の解消策として、下記特許文献1は、複数に分割された成形素材から光学素子を成形するプレス成形法を開示している。本プレス成形法では、まず、第1の成形型に第1の成形素材を載置(第1の載置工程)し、第1の成形素材を加熱軟化した状態で第1および第2の成形型で加圧(第1の加圧工程)することにより、第1の成形型に備えられた転写面を転写する。次に、第1の成形素材に第2の成形素材を載置(第2の載置工程)し、第1および第2の成形素材を加熱軟化した状態で再び加圧(第2の加圧工程)することにより、第1の成形型と第2もしくは第3の成形型とに備えられた転写面を転写する。そして、転写を維持した状態で第1および第2の成形素材を冷却することにより光学素子が成形される。
【0007】
【特許文献1】特開2004−10456公報
【0008】
上記のプレス成形法では、第1の載置工程に際して、第1の成形型に備えられた転写面と第1の成形素材との間に密閉された空間を形成しないように、第1の成形素材が載置されるので、ガス溜りの問題が解消される。また、成形素材が分割されるので、成形素材の形状に起因する載置上の問題も解消される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、上記プレス成形法では、第1の加圧工程に際して、第1の成形型に備えられた転写面が第1の成形素材に(ほぼ完全に)転写される。ここで、第2の加圧工程の前に第1の成形素材が移動すると、第1の成形型と第1の成形素材との間に密閉された空間が形成され、光学素子に大きなガス溜りが形成されて転写不良の原因となり易い。また、第2の加圧工程に際しては、第1の成形素材が転写面に密着した状態で第1および第2の成形素材が加熱軟化され再び加圧される。ここで、加熱軟化および/または加圧により、例えば、成形素材中に含まれるガス成分等が溶出して転写面に付着する場合がある。この場合には、第1の成形素材が転写面に密着した状態にあるので、ガス成分等が成形素材と転写面との間に残留し、光学素子の光学機能面に微細なガス溜りが形成されて表面クモリ等の外観不良の原因となり易い。
【0010】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、光学機能転写面の転写性および外観性を向上することができる、新規かつ改良された光学素子成形方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、一対の成形型と胴型とにより光学素子を成形するための光学素子成形方法が提供される。本方法は、光学機能転写面を含む転写面を備えた第1の成形型に、光学機能転写面の曲率半径より小さな曲率半径を伴う第1の成形素材を載置する第1の載置工程と、第1の成形素材を加熱軟化した状態で転写面を備えた第2の成形型により加圧し、第1の成形素材に光学機能転写面の一部を転写する第1の加圧工程と、第2の成形型により第1の成形素材に転写された成形面に第2の成形素材を載置する第2の載置工程と、第1および第2の成形素材を加熱軟化した状態で第2の成形型により加圧し、第1および第2の成形素材に光学機能転写面の全てを転写する第2の加圧工程と、を含む。
【0012】
かかる構成によれば、第1の加圧工程に際して、光学機能転写面の一部が第1の成形素材に転写されるので、第1の成形素材と光学機能転写面との間に所定の適度な間隙が維持される。これにより、第2の加圧工程に際しては、成形素材中から溶出したガス成分等が当該間隙を通じて第1の成形素材と光学機能転写面との間から排出可能な状態で、光学機能転写面の全てが転写される。よって、ガス成分等が成形素材と光学機能転写面との間に残留し難くなるので、大きなガス溜りによる転写不良や微細なガス溜りによる外観不良(表面クモリ等)の原因となり難い。
【0013】
また、上記第1の加圧工程では、光学機能転写面を光軸上の断面積で1/4以上および1/3以下に相当する転写面に亘って転写するようにしてもよい。かかる構成によれば、光学機能転写面が光軸上の断面積で1/4以上および1/3以下に相当する転写面に亘って第1の成形素材に転写されるので、第1の成形素材と光学機能転写面との間に所定の適度な間隙が維持される。
【0014】
また、上記第2の成形型の転写面が略凸状であるようにしてもよい。かかる構成によれば、第1の成形素材に略凹状の成形面が転写されるので、第2の載置工程に際して、略凸状の第2の成形素材が第1の成形素材に安定的に載置される。
【0015】
また、上記第2の載置工程では、第2の成形型により第1の成形素材に転写された成形面に、成形面の曲率半径より小さな曲率半径を伴う第2の成形素材を載置するようにしてもよい。かかる構成によれば、第2の成形素材が成形面の曲率半径より小さな曲率半径を伴うので、第2の加圧工程に際しては、第1の成形素材と第2の成形素材との間にガス成分等が残留し難くなり、転写不良や外観不良の原因となり難くなる。
【0016】
また、上記第1の成形素材と第2の成形素材とが実質的に同一であるようにしてもよい。かかる構成によれば、第1および第2の成形素材が実質的に同一であるので、成形素材の調達および成形工程自体が効率化される。
【0017】
また、上記第1の加圧工程と第2の加圧工程とで用いられる第2の成形型が異なる形状の転写面を備えるようにしてもよい。かかる構成によれば、第1の成形素材に転写される成形面の形状と、第2の成形素材に転写される成形面の形状とが任意に選択される。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように、本発明によれば、光学機能転写面の転写性および外観性を向上することができる、新規かつ改良された光学素子成形方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に、添付した図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0020】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る光学素子成形方法を示す説明図である。なお、図1には、本実施形態に係るプレス成形法の各工程が部分拡大図とともに示される。
【0021】
本実施形態に係るプレス成形法では、図1に示すように、一対の成形型を構成する第1および第2もしくは第3の成形型10、20、30と胴型50とが用いられる。第1の成形型10は、光学機能面を含む凸状の成形面を第1および第2の成形素材60、65に転写するための第1の転写面12(ここでは、曲率半径R1)と、凸状の成形面の外縁にコバやフランジ等の形状を転写するための第2の転写面14とを備える。第2の成形型20は、凹状の成形面を第1の成形素材60に転写するための第3の転写面22(ここでは、曲率半径R2)を備える。第3の成形型30は、凸状の成形面を第1および第2の成形素材60、65に転写するための第4の転写面32(ここでは、曲率半径R3)と、凸状の成形面の外縁にコバやフランジ等の形状を転写するための第5の転写面34とを備える。胴型50には、内面沿いに摺動可能なように、一対の成形型10、20、30が内挿される。また、胴型50の端部と成形型10、20、30との間には、所望の形状の光学素子70を得るために、成形型10、20、30による加圧量を制御するためのストッパー55が設置されるようにしてもよい。
【0022】
なお、以下では、球形(曲率半径R0)の第1および第2の成形素材60、65を使用する場合について説明するが、第1および第2の成形素材60、65の形状は、係る場合に限定されず、例えば、楕円やフランジを有する断面形状等、非球形であるようにしてもよい。
【0023】
プレス成形に際して、まず、図1(a)に示すように、第1の成形型10が胴型50に内挿された状態で、第1の成形型10に第1の成形素材60が載置される(第1の載置工程)。ここで、光学機能転写面と第1の成形素材60との間に密閉された空間を形成しないように、第1の成形素材60が載置される(R0<R1)。
【0024】
次に、第2の成形型20が胴型50に内挿され、第1の成形素材60がガラス屈伏点以上で加熱軟化された状態で、図1(b)に示すように、第1および第2の成形型10、20により光学機能転写面の一部が転写されるように、第1の成形素材60が加圧される(第1の加圧工程)。この場合、成形型10、20による加圧量は、成形型10、20を加圧するプレス装置(不図示)および/またはストッパー55等により精密に制御される。ここで、第1の載置工程に際して、光学機能転写面との間に密閉された空間を形成しないように、第1の成形素材60が載置されている(R0<R1)。これにより、この状態で加圧されると、第1の成形素材60および光学機能転写面が、中央部で互いに密着し、周辺部で所定の適度な間隙を維持する。ここで、第1の成形素材60には、第2の成形型20に備えられた略凸状の転写面に対応するように、略凹状の成形面(ここで、曲率半径R2)が転写される。また、第1の成形素材60には、第1の成形素材60に載置される第2の成形素材65との間に密閉された空間を形成しないような形状の成形面(R0≦R2)が形成される。
【0025】
次に、第1の成形素材60が転写を維持された状態でガラス転移点以下まで冷却された状態で、第2の成形型20が胴型50から取外され、図1(c)に示すように、第1の成形素材60の成形面に第2の成形素材65が載置される(第2の載置工程)。ここで、第1の加圧工程によって、第1の成形素材60には、第2の成形素材65の曲率半径R0よりも大きな曲率R2(R0≦R2)を伴う略凹状の成形面が転写されている。これにより、略凸状(ここでは、曲率半径R0の球状)の第2の成形素材65が第1の成形素材60に安定的に載置される。また、第2の成形素材65として、第1の成形素材60と実質的に同一である成形素材を用いることにより、成形素材の調達や成形工程自体が効率化される。
【0026】
次に、第3の成形型30が胴型50に内挿され、第1および第2の成形素材60、65をガラス屈伏点以上で加熱軟化した状態で、図1(d)に示すように、第1および第3の成形型10、30により光学機能転写面の全てが転写されるように、第1および第2の成形素材60、65が加圧される(第2の加圧工程)。ここで、第1の加圧工程に際して、第1の成形素材60と光学機能転写面とが周辺部で所定の適度な間隙を維持するように加圧されている。これにより、成形素材60、65中から溶出したガス成分等が当該間隙を通じて第1および第2の成形素材60、65と光学機能転写面との間から排出可能な状態で、光学機能転写面の全てが第1の成形素材60に転写される(例えば、加圧後の曲率半径をR0’とすれば、R0’=R1)。よって、ガス成分等が成形素材60、65と光学機能転写面との間に残留し難くなる。また、第1の成形素材60の成形面が第2の成形素材65との間に密閉された空間を形成しないような形状に形成されている(R0≦R2)。これにより、第1の成形素材60と第2の成形素材65との間にガス成分等が残留し難くなり、大きなガス溜りによる転写不良や微細なガス溜りによる外観不良(表面クモリ等)の原因となり難くなる。
【0027】
最後に、第1および第2の成形素材60、65が転写を維持された状態でガラス転移点以下まで冷却された状態で、第1および/または第3の成形型10、30が胴型50から取外され、光学素子70が取出される。
【0028】
なお、出願者等は、以下のような試験条件に基づいて実証試験を実施した。ここで、成形素材としては、第1および第2の成形素材60、65ともに、直径2.9mmの球形、ガラス転移点516℃、ガラス屈伏点558℃のホウ珪酸ガラスを使用した。
【0029】
まず、第1の加圧工程に際して、第1の成形素材60を567℃で1分間に亘って加熱軟化した状態で、約30MPaで約10秒間に亘って加圧した。これにより、第1の成形素材60には、直径2.0〜2.5mm、最大深さ0.3〜0.5mmの凹状の成形面を転写した。なお、微小な加圧量を制御するために、胴型50の端部と第2の成形型20との間にストッパー55を挿入した。また、第2の成形型20としては、曲率半径(R2)2.0mmの転写面を備えた成形型を使用した。
【0030】
なお、出願者等の実証試験では、第1の成形型10の光学機能転写面が光軸上の断面積で1/4〜1/3に相当する転写面に亘って転写されるように加圧を調整することにより、光学機能転写面が良好に転写されることが確認された。
【0031】
次に、第2の載置工程に先立ち、第1の成形素材60を窒素ガスで300℃まで冷却し、更に水冷盤上で常温まで冷却した。冷却された第1の成形素材60の凹状の成形面に第2の成形素材65を載置した。
【0032】
次に、第2の加圧工程に際して、第1および第2の成形素材60、65を567℃で2分間に亘って加熱軟化した状態で、約50MPaで約50秒間に亘って加圧し、更に窒素ガスで500℃まで冷却しながら約30MPaで加圧した。
【0033】
最後に、第1および第2の成形素材60、65を窒素ガスで300℃まで冷却し、更に水冷盤上で常温まで冷却した。以上の工程により、最大外形5.0mm、中心厚約2.6mm、図1(d)に示すような片面凸状、片面略平面の光学素子70であって、転写不良や外観不良の見られない光学素子70を成形することができた。
【0034】
以上のような本実施形態に係るプレス成形方法によれば、第1の加圧工程に際して、光学機能転写面の一部が第1の成形素材60に転写されるので、第1の成形素材60と光学機能転写面との間に所定の適度な間隙が維持される。これにより、第2の加圧工程に際しては、成形素材60、65中から溶出したガス成分等が当該間隙を通じて成形素材60、65と光学機能転写面との間から排出可能な状態で、光学機能転写面の全てが転写される。よって、ガス成分等が成形素材60、65と光学機能転写面との間に残留し難くなる。この結果、成形素材60、65と転写面との間に残留したガス成分等に起因して、光学素子70の光学機能面に大きなガス溜りによる転写不良や微細なガス溜りによる外観不良(表面クモリ等)が生じ難くなるので、光学機能転写面の転写性および外観性を向上することができる。
【0035】
図2は、本発明の第2の実施形態に係る光学素子成形方法を示す説明図である。なお、図2には、本実施形態に係るプレス成形法の各工程が部分拡大図とともに示される。以下では、本実施形態に係るプレス成形法について説明するが、第1の実施形態との重複部分についての説明は省略する。
【0036】
本実施形態に係るプレス成形法では、図2に示すような、一対の成形型を構成する第1および第2の成形型10、40と胴型50とが用いられる。第1の成形型10は、光学機能面を含む凸状の成形面を第1および第2の成形素材60、65に転写するための第1の転写面12(ここでは、曲率半径R1)と、凸状の成形面の外縁にコバやフランジ等の形状を転写するための第2の転写面14とを備える。第2の成形型40は、平面状の成形面を第1および第2の成形素材60、65に転写するための第3の転写面42を備える。
【0037】
なお、以下では、球形(曲率半径R0)の第1の成形素材80を使用する場合について説明するが、第1の成形素材80の形状は、係る場合に限定されず、例えば、楕円やフランジを有する断面形状等、非球形であるようにしてもよい。また、第2の成形素材85として、ここでは、平板状の成形素材を使用する。
【0038】
プレス成形に際して、まず、図2(a)に示すように、第1の成形型10が胴型50に内挿された状態で、第1の成形型10に第1の成形素材80が載置される(第1の載置工程)。ここで、第1の載置工程については、第1の実施形態と同様であるので説明を省略する。
【0039】
次に、第2の成形型40が胴型50に内挿され、第1の成形素材80がガラス屈伏点以上で加熱軟化された状態で、図2(b)に示すように、第1および第2の成形型10、40により光学機能転写面の一部が転写されるように、第1の成形素材80が加圧される(第1の加圧工程)。この場合、成形型10、40による加圧量は、成形型10、40を加圧するプレス装置(不図示)および/またはストッパー55等により精密に制御される。ここで、第1の載置工程に際して、光学機能転写面との間に密閉された空間を形成しないように、第1の成形素材80が載置されている(R0<R1)。これにより、この状態で加圧されると、第1の成形素材80および光学機能転写面が、中央部で互いに密着し、周辺部で所定の適度な間隙を維持する(例えば、加圧後の転写された成形面部の曲率半径をR0aとすれば、R0<R0a<R1)。ここで、第1の成形素材80には、第2の成形型40に備えられた転写面に対応するように、平面状の成形面が転写される。
【0040】
次に、第1の成形素材80が転写を維持された状態でガラス転移点以下まで冷却された状態で、第2の成形型40が胴型50から取外され、図2(c)に示すように、第1の成形素材80の成形面に第2の成形素材85が載置される(第2の載置工程)。ここで、第1の加圧工程に際して、第1の成形素材80には平面状の成形面が転写されている。これにより、平面状の第2の成形素材85が第1の成形素材80に安定的に載置される。
【0041】
次に、第2の成形型40が胴型に内挿され、第1および第2の成形素材80、85をガラス屈伏点以上で加熱軟化した状態で、図2(d)に示すように、第1および第2の成形型10、40により光学機能転写面の全てが転写されるように、第1および第2の成形素材80、85が加圧される(第2の加圧工程)。なお、ここでは、第1の加圧工程と同一の第2の成形型40を用いるために、胴型50の端部と第2の成形型40との間には、加圧量を制御するためのストッパー55’(ストッパー55よりも厚い)が設置されている。ここで、第1の加圧工程に際して、第1の成形素材80と光学機能転写面とが周辺部で所定の適度な間隙を維持するように加圧されている。これにより、成形素材80、85中から溶出したガス成分等が当該間隙を通じて第1および第2の成形素材80、85と光学機能転写面との間から排出可能な状態で、光学機能転写面の全てが第1の成形素材80に転写される(例えば、加圧後の曲率半径をR0’とすれば、R0’=R1)。よって、ガス成分等が成形素材80、85と光学機能転写面との間に残留し難くなり、転写不良や外観不良の原因となり難くなる。
【0042】
最後に、第1および第2の成形素材80、85が転写を維持された状態でガラス転移点以下まで冷却された状態で、第1および/または第2の成形型10、40が胴型50から取外され、光学素子90が取出される。
【0043】
以上のような本実施形態に係るプレス成形方法によれば、第1の加圧工程に際して、光学機能転写面の一部が第1の成形素材80に転写されるので、第1の成形素材80と光学機能転写面との間に所定の適度な間隙が維持される。これにより、第2の加圧工程に際しては、成形素材80、85中から溶出したガス成分等が当該間隙を通じて成形素材80、85と光学機能転写面との間から排出可能な状態で、光学機能転写面の全てが転写される。よって、ガス成分等が成形素材80、85と光学機能転写面との間に残留し難くなる。この結果、成形素材80、85と転写面との間に残留したガス成分等に起因して、光学素子90の光学機能面に大きなガス溜りによる転写不良や微細なガス溜りによる外観不良(表面クモリ等)が生じ難くなるので、光学機能転写面の転写性および外観性を向上することができる。また、第1の加圧工程と第2の加圧工程とで、同一の第2の成形型40が用いられるので、成形工程が効率化される。
【0044】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0045】
上記の実施形態では、成形素材が2つに分割される場合について説明したが、本発明の適用は係る場合に限定されるものではない。すなわち、光学素子および成形素材の形状に応じて、成形素材が3つ以上に分割される場合についても同様に適用可能である。この場合、成形素材の分割数に応じて加圧工程が追加される。
【0046】
また、上記の実施形態では、第3の成形型30により略凸状(第1の実施形態)、第2の成形型40により平面状(第2の実施形態)の成形面が成形素材に転写される場合について説明したが、本発明の適用は係る場合に限定されるものではない。すなわち、第2または第3の成形型により略凹状の成形面が成形素材に転写される場合についても同様に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る光学素子成形方法を示す説明図である。
【図2】本発明の第2の実施形態に係る光学素子成形方法を示す説明図である。
【符号の説明】
【0048】
10 第1の成形型
20、40 第2の成形型
30 第3の成形型
50 胴型
55、55’ ストッパー
60、80 第1の成形素材
65、85 第2の成形素材
70、90 光学素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の成形型と胴型とにより光学素子を成形するための光学素子成形方法であって、
光学機能転写面を含む転写面を備えた第1の成形型に、前記光学機能転写面の曲率半径より小さな曲率半径を伴う第1の成形素材を載置する第1の載置工程と、
前記第1の成形素材を加熱軟化した状態で転写面を備えた第2の成形型により加圧し、前記第1の成形素材に前記光学機能転写面の一部を転写する第1の加圧工程と、
前記第2の成形型により前記第1の成形素材に転写された成形面に第2の成形素材を載置する第2の載置工程と、
前記第1および第2の成形素材を加熱軟化した状態で前記第2の成形型により加圧し、前記第1および第2の成形素材に前記光学機能転写面の全てを転写する第2の加圧工程と、
を含むことを特徴とする光学素子成形方法。
【請求項2】
前記第1の加圧工程では、前記光学機能転写面を光軸上の断面積で1/4以上および1/3以下に相当する転写面に亘って転写することを特徴とする、請求項1に記載の光学素子成形方法。
【請求項3】
前記第2の成形型の転写面が略凸状であることを特徴とする、請求項1または2に記載の光学素子成形方法。
【請求項4】
前記第2の載置工程では、前記第2の成形型により前記第1の成形素材に転写された前記成形面に、前記成形面の曲率半径より小さな曲率半径を伴う前記第2の成形素材を載置することを特徴とする、請求項3に記載の光学素子成形方法。
【請求項5】
前記第1の成形素材と前記第2の成形素材とが実質的に同一であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の光学素子成形方法。
【請求項6】
前記第1の加圧工程と前記第2の加圧工程とで用いられる前記第2の成形型が異なる形状の転写面を備えることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の光学素子成形方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−174417(P2008−174417A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−9604(P2007−9604)
【出願日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【出願人】(000005430)フジノン株式会社 (2,231)
【Fターム(参考)】