説明

光学装置及びその製造方法

【課題】基板と、基板上に搭載されるコア部と、基板上にコア部を取り囲むように形成されるクラッド部と、クラッド部に設けられ、コア部を加熱する加熱部とを有する光学装置及びその製造方法に関し、加熱部からコア部に伝達される熱の伝達効率を向上させることができる光学装置及びその製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】基板と、基板上に搭載されるコア部と、基板上にコア部を取り囲むように形成されるクラッド部と、クラッド部に設けられ、コア部を加熱する加熱部とを有する光学装置に関し、 本発明は、基板(11)と、基板(11)上に搭載されるコア部(12)と、基板(11)上にコア部(12)を取り囲むように形成されるクラッド部(13)と、クラッド部(13)に設けられ、コア部(12)を加熱する加熱部(14)とを有する光学装置において、基板(11)とクラッド部(13)との間に加熱部(14)からの熱を断熱する断熱部(111)を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光学装置及びその製造方法に係り、特に、基板と、基板上に搭載されるコア部と、基板上にコア部を取り囲むように形成されるクラッド部と、クラッド部に設けられ、コア部を加熱する加熱部とを有する光学装置及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光通信は急速に進歩しており、その通信速度の高速化及び伝送容量の大容量が図られている。これに対応しうる光通信方法として、多くの波長の光を用いて多重化を行なう波長多重通信(WDM)が多用されるようになってきている。この波長多重通信では、波長間隔が1nm以下の光を合分波する必要があり、よって、WDMに用いられる光部品においても、これに対応すべく高精度化する必要がある。
【0003】
周知のように、光通信においては光ファイバからなる伝送路内に各種光学素子が挿入されている。この光学素子としては、大量生産が可能で高集積化を図り得る導波路部品が注目されており、その中でも平面光波回路(PLC)は光伝送損失が低く光ファイバとの低損失な接続が可能であること、また、多くの光機能を集積できることから期待されている。
【0004】
これらの光学素子として、熱光学式スイッチと呼ばれる素子がある。熱光学式スイッチは、導波路に近接して加熱装置を設け、導波路を加熱することにより、熱光学効果によって導波路の屈折率を変化させることにより、光路などを切り換える素子である(特許文献1参照)。
【0005】
図3は熱光学式スイッチの一例の斜視図、図4は熱光学式スイッチの一例の断面図を示す。
【0006】
熱光学式光スイッチ1は、基板11、コア部12、クラッド部13、加熱部14から構成されている。基板11は、例えば、シリコン基板から構成されている。
【0007】
コア部12は、入力導波路12a、第1の出力導波路12b、第2の出力導波路12cから構成されている。コア部12は、例えば、フッ素化ポリイミドなどの透明樹脂から構成されており、例えば、ポリアミド酸などの層をスピンコート法などにより形成した後、加熱処理することでイミド化させることにより形成される。
【0008】
クラッド部13は、コア部12と同様に、フッ素化ポリイミドなどの透明樹脂から構成されており、下部クラッド層13a及び上部クラッド層13bから構成されており、コア部12を囲むように形成されている。
【0009】
このとき、コア部12、及び、クラッド部13は、クラッド部13の屈折率をn1、コア部12の屈折率をn2としたとき、
n1<n2
となるように構成樹脂の成分調整が行われている。屈折率n1、n2は、例えば、n1=1.525、n2=1.531に設定される。
【0010】
加熱部14は、第1の出力導光路12bを過熱する第1の加熱部14a及び第2の出力導光路12cを加熱する第2の加熱部14bから構成される。第1の加熱部14a及び第2の加熱部14bは、薄膜ヒータから構成されており、各々駆動回路15に接続されている。
【0011】
第1の加熱部14a及び第2の加熱部14bは、駆動回路15から供給される駆動信号により駆動されて、発熱し、第1の出力導波路12b及び第2の出力導波路12cを過熱する。駆動回路15は、外部からの制御信号に応じて第1の加熱部14a、又は、第2の加熱部14bを加熱するための駆動信号を供給する。
【0012】
次に、熱光学式スイッチ1の製造方法について説明する。
【0013】
まず、基板11上に下部クラッド層13aを形成する。下部クラッド層13aは、基板11上にスピンコート法などによりポリアミド酸の層を一様に形成した後、加熱処理することによりイミド化させ、一様な透明樹脂層として形成される。このとき、下部クラッド層13aは、用いられるコア材料及びクラッド材料の屈折率差により厚さが、5〜10μm程度に形成される。
【0014】
次にコア部12が形成される。コア部12は、まず、下部クラッド層13a上にスピンコート法などによりポリアミド酸の層を一様に形成した後、加熱処理することによりイミド化させ、透明樹脂層を形成する。次に、レジストをパターニングして、例えば、RIE(reactive ion etching)装置などにより、ドライエッチング処理を行い、下部グラッド層32が露出する程度までエッチングする。このとき、フォトレジスト形成部分はエッチングされず、その下部の透明樹脂層が残ることになる。次に、残留したフォトレジストを除去する。以上により、所望のパターンのコア部12が形成される。なお、このとき、コア部12は、用いられるコア材料及びクラッド材料の屈折率差により厚さが、5〜10μm程度に形成される。
【0015】
次に、コア部12の側面及び上面を覆うように上部クラッド層13bを形成する。上部クラッド層13bは、下部クラッド層13aと同じフッ素化ポリイミドなどから構成されており、下部クラッド層13aと同じ屈折率n1となるように成分が調整されている。上部クラッド層13bは、スピンコートなどによりポリアミド酸の層を形成した後、加熱処理され、ポリアミド酸がイミド化されて形成される。なお、このとき、上部クラッド層13bは、用いられるコア材料及びクラッド材料の屈折率差により厚さが、5〜10μm程度に形成される。
【0016】
次に、上部クラッド層13b上に第1の加熱部14a及び第2の加熱部14bが形成される。
【0017】
以上により、熱光学式光スイッチ1が形成される。
【0018】
図5は下部クラッド層13aの膜厚に対する加熱部14の温度及び消費電力の特性図を示す。図5において、横軸は下部クラッド層13aの膜厚を示しており、実線は下部クラッド層13aの膜厚に対する加熱部14の温度、破線は下部クラッド層13aの膜厚に対する加熱部14における消費電力の特性を示している。
【0019】
基板11は、シリコンから構成されている。シリコンの熱伝導率は約148〔W/m・K〕と大きく、下部クラッド層13aから熱が拡散されている。このため、下部クラッド層13aの膜厚が厚くなり、基板11の影響が小さくなる程、図5に実線で示すように加熱部14の温度が高くでき、また、図5に破線で示すように消費電力を小さくできる。
【0020】
しかしながら、この種の光学素子は、コア部12が小径化、及びクラッド部13の厚さが薄くなるほど、光の損失などの光学的特性が良好となる。このため、この種の光学素子には、小型化、薄型化が望まれている。
【特許文献1】特開2003−215647号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
しかるに、従来の熱光学式光スイッチでは、グラッド部13の厚みが十分でない場合には、加熱部からの熱が基板11に伝達される。このとき、基板11は、シリコンから構成されている。シリコンの熱伝導率は約148〔W/m・K〕と大きく、クラッド部13から熱が拡散されるため、熱効率が悪いなどの問題点があった。
【0022】
本発明は上記の点に鑑みてなされたもので、加熱部からコア部に伝達される熱の伝達効率を向上させることができる光学装置及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明は、基板(11)と、基板(11)上に搭載されるコア部(12)と、基板(11)上にコア部(12)を取り囲むように形成されるクラッド部(13)と、コア部(12)を加熱する加熱部(14)とを有する光学装置において、基板(11)とクラッド部(13)との間に加熱部(14)からの熱を断熱する断熱部(111)を有することを特徴とする。
【0024】
断熱部(111)は、二酸化珪素から構成されたことを特徴とする。
【0025】
断熱部(111)は、クラッド部(13)の厚さに比べて薄く形成されたことを特徴とする。
【0026】
断熱部(111)は、クラッド部(13)の厚さの略十〜数十分の一程度の厚さであることを特徴とする。
【0027】
基板(11)は、シリコン基板であることを特徴とする。
【0028】
基板(11)と、基板(11)上に搭載されるコア部(12)と、基板(11)上にコア部(12)を取り囲むように形成されるクラッド部(13)と、クラッド部(13)に設けられ、コア部(12)を加熱する加熱部(14)とを有する光学装置の製造方法において、基板(11)上に加熱部(14)からの熱を断熱する断熱部(111)を形成する第1の工程と、断熱部(111)上にコア部(12)及びクラッド部(13)並びに加熱部(14)を形成する第2の工程とを有することを特徴とする。
【0029】
なお、上記参照符号は、あくまでも特許請求の範囲の理解を容易にするためのものであり、これによって、特許請求の範囲が限定されるものではない。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、加熱部からコア部への熱伝導効率が良くなるため、加熱部の消費電力を低減できる。
【0031】
また、コア部が早く加熱されるため、光制御の応答速度を向上させることができる。
【0032】
さらに、断熱部を光学的クラッド層として作用させることにより、コア部からの光の漏洩を低減できる。
【0033】
また、断熱部を設けることにより、基板への放熱を低減できるため、コア部を小径化、クラッド部を薄型化できるため、光学的特性を向上させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
図1は本発明の一実施例のシステム構成図、図2は本発明の一実施例の斜視図を示す。同図中、図3、図4と同一構成部分には同一符号を付し、その説明は省略する。
【0035】
本実施例の光学装置100は、基板11とクラッド部13との間に断熱部111を設けた構成とされている。
【0036】
断熱部111は、例えば、二酸化珪素などの酸化物から構成されている。例えば、断熱部111は、シリコンから構成される基板11を酸化させたり、あるいは、基板11上に二酸化珪素からなる薄膜を積層したりすることにより形成されている。二酸化珪素の熱伝導率は、シリコンの略100分の1の約1.35〔W/m・K〕であり、シリコン基板から構成される基板11の約148〔W/m・K〕に比べて十分に小さい導電率であり、したがって、下部クラッド層13aから基板11への熱の伝導を低減することができる。これによって、加熱部14で発生した熱が基板11に放熱されることを防止でき、よって、コア部12を高速に加熱できる。
【0037】
なお、断熱部111は、基板11とクラッド部13とを断熱できる材質であれば、二酸化珪素に限られるものではない。
【0038】
このとき、断熱部111の厚さは、クラッド部13の厚さに比べて十分に薄く形成されている。断熱部111の厚さは、クラッド部13の厚さの略十〜数十分の一程度の厚さであり、例えば、コア部12の幅及び厚さを10μm、下部クラッド層13aの厚さ及び上部クラッド層13bのコア部12の上部における厚さを各々10μmとすると、1〜2μm程度に設定される。これによって、最適な断熱及び放熱特性が得られることが実験的に確かめられた。
【0039】
断熱部111の厚さを最適な厚さとすることにより、加熱部14が発熱したときには、熱が下部グラッド層13aから基板11に拡散することを低減でき、よって、コア部12を高速に加熱でき、また、加熱部14による加熱が停止されたときには、コア部12の熱が基板11に放熱され、コア部12を高速に冷却することができ、これによって、スイッチング速度を高速化することができる。
【0040】
また、加熱部14の加熱時間を低下させることができるため、加熱部14の消費電力を低減することができる。
【0041】
さらに、断熱部111の材料として二酸化珪素を用いることにより、下部クラッド層13aの光学的性能が向上し、コア部12への光の閉じ込め効果が良好となり、伝送される光の損失を低減できる。
【0042】
また、本実施例によれば、断熱部111を設けることにより、加熱部15で発生した熱が基板11に放熱されることを低減できるため、コア部12を小径化及びクラッド部13を薄型化することができ、光学的特性を向上させることができる。
【0043】
なお、本実施例では、光学装置として2分岐の光スイッチを例に説明を行なったが、これに限定されるものではなく、熱光学効果を用いた光学装置一般に適用できることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の一実施例の全体構成図である。
【図2】本発明の一実施例の断面図である。
【図3】従来の一例の構成図である。
【図4】従来の一例の断面図である。
【図5】下部クラッド層13aの膜厚に対する加熱部14の温度及び消費電力の特性図である。
【符号の説明】
【0045】
100 光学装置
111 断熱部
11 基板、
12 コア部
12a 入力導波路、12b 第1の出力導波路、12c 第2の出力導波路
13 クラッド部
13a 下部クラッド層、13b 上部クラッド層
14 加熱部
14a 第1の加熱部、14b 第2の過熱部
15 駆動回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、該基板上に搭載されるコア部と、該基板上に該コア部を取り囲むように形成されるクラッド部と、前記コア部を加熱する加熱部とを有する光学装置において、
前記基板と前記クラッド部との間に前記加熱部からの熱を断熱する断熱部を有することを特徴とする光学装置。
【請求項2】
前記断熱部は、二酸化珪素から構成されたことを特徴とする請求項1記載の光学装置。
【請求項3】
前記断熱部は、前記クラッド部の厚さに比べて薄く形成されたことを特徴とする請求項1又は2記載の光学装置。
【請求項4】
前記断熱部は、前記クラッド部の厚さの略十〜数十分の一程度の厚さであることを特徴とする請求項3記載の光学装置。
【請求項5】
前記基板は、シリコン基板であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項記載の光学装置。
【請求項6】
基板と、該基板上に搭載されるコア部と、該基板上に該コア部を取り囲むように形成されたクラッド部と、前記コア部を加熱する加熱部とを有する光学装置の製造方法において、
前記基板上に前記加熱部からの熱を断熱する断熱層を形成する第1の工程と、
前記断熱層上に前記コア部及び前記クラッド部並びに前記加熱部を形成する第2の工程とを有することを特徴とする光学装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−133393(P2006−133393A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−320808(P2004−320808)
【出願日】平成16年11月4日(2004.11.4)
【出願人】(000006220)ミツミ電機株式会社 (1,651)
【Fターム(参考)】