説明

光学部品及びその製造方法

【課題】 透明樹脂成形体表面に形成された無機化合物膜の密着性に優れ、且つ高温下にさらしてもクラックが入らない光学部品を提供すること。
【解決手段】 脂環構造含有重合体からなる成形体の表面にに、基材と第一層との界面に形成される混合層の厚さが15nm以下になるように、五酸化タンタルなどの無機化合物層(第一層)を蒸着速度0.1〜3.0Å/秒でイオンビームアシスト蒸着し、さらにその上に別の無機化合物、例えば、酸化ケイ素層(第二層)、五酸化タンタル層(第三層)、酸化ケイ素層(第四層)などを蒸着して、複数層からなる蒸着膜が形成された光学部品を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学レンズ、光記憶媒体、プリズムなどに用いられる光学部品及びその製造方法に関する。さらに詳しくは、成形体表面に形成された無機化合物膜の密着性及び耐熱性に優れた光学部品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レンズやミラーなどの光学部品として、透明な成形体の表面に誘電体膜や金属膜などの無機化合物膜を形成し、様々な光学機能が付与されたものが知られている。
特許文献1には、ビニル脂環式炭化水素重合体からなる成形体の表面に、金属酸化物の無機誘電体層を形成した樹脂積層体が開示されている。また、特許文献2には、脂環構造含有重合体からなる成形体の表面に、無機化合物の層からなる反射防止層を有している導光体が開示されている。また、特許文献3には、多層薄膜の密着強度、耐久性、及び光学特性に優れた積層体を形成するために、脂環構造含有重合体からなる被着体の表面に酸化タンタルを主成分とする蒸着用組成物を真空蒸着法により積層する方法が開示されている。一方、特許文献4には、密着性を向上するためにプラスチック基材と反射防止膜との間にニッケル、銀、白金、ニオブ及びチタニウムから選ばれる少なくとも1種の金属からなる膜厚1〜5nmの下地層を施した、基材と反射防止膜との密着性を向上させた光学部材が開示されている。
【0003】
【特許文献1】特開2002−370304号公報
【特許文献2】特開2001−311829号公報
【特許文献3】特開2003−13202号公報
【特許文献4】特開2004−206024号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、本発明者が検討したところ、前記特許文献1〜3の方法を採用しても必ずしも密着性に優れたものが得られるとは限らず、85℃の高温条件下にさらした後にクラックの生じることがあった。また、特許文献4記載のように下地層を形成しても、反射防止膜を構成する金属の種類によっては、未だ密着性が十分でなく、やはり85℃の高温条件下にさらした後にクラックの生じることがあった。
本発明の課題は、透明樹脂成形体表面に形成された無機化合物膜の密着性に優れ、且つ高温下にさらしてもクラックが入らない光学部品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
基板にイオンビームアシスト蒸着を行うと蒸着膜の密着性が高くなることが知られている。このイオンビームアシスト蒸着の機構は次のように考えられている。先ず加速したイオンが蒸着原子に衝撃を与える。この際に蒸着原子の一部はスパッタにより真空中に放出され、一部はイオンとの弾性衝突によりエネルギーを得て基板中にノックオンされる。これにより基板と蒸着膜との界面に基板原子と蒸着原子との混合層が形成される。基板中に侵入した蒸着原子をアンカーとして蒸着膜が形成されると、基板にくさびを打つような構造となり、これにより形成薄膜は強い密着力を得ることができると考えられている。ところが、本発明者の検討によると、樹脂成形体にイオンビームアシスト蒸着を行っただけでは、密着力が不十分で、とくに高温にさらしたときにクラックが発生するということがわかった。
【0006】
本発明者は、前記課題を解決すべく、鋭意検討をおこなったところ、透明樹脂からなる成形体に無機化合物のイオンビームアシスト蒸着膜を形成する際に、該成形体と該蒸着膜との界面にできる混合層の平均厚さを15nm以下にすることによって、膜の密着性、及び耐熱性が大幅に向上した光学部品が得られることを見出した。本発明はこの知見に基づいて完成したものである。
かくして、本発明によれば、透明樹脂からなる成形体と、その表面に形成された無機化合物の蒸着膜とを含んでなり、該成形体と該蒸着膜との界面にできる混合層の平均厚さが15nm以下である光学部品が提供される。好適な態様として、透明樹脂が脂環構造含有重合体である前記の光学部品;脂環構造含有重合体がビニル脂環式炭化水素重合体である前記の光学部品;蒸着膜が複数の層からなる前記の光学部品;成形体と接する蒸着膜の層が、酸化タンタル、酸化ニオブ又は酸化セリウムを主成分として含有する前記の光学部品;が提供される。
また、本発明によれば、透明樹脂からなる成形体の表面に、無機化合物を0.1〜3.0Å/秒の蒸着速度でイオンビームアシスト蒸着することを含む前記の光学部品の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明の光学部品は、密着性に優れ、高温下でもクラックが発生しないので光学レンズに好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の光学部品は、透明樹脂からなる成形体と、その表面に形成された無機化合物の蒸着膜とを含んでなり、該成形体と該蒸着膜との界面にできる混合層の平均厚さが15nm以下のものである。
【0009】
本発明において、透明樹脂は光透過性を有する樹脂であれば特に限定はない。例えば、ノルボルネン系重合体やビニル脂環式炭化水素重合体などの脂環構造含有重合体;ポリメチルメタクリレート(PMMA)などのアクリル樹脂;ポリカーボネート(PC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)などのポリエステル系透明樹脂;ポリスチレン、ポリメチルペンテン(TPX)などのポリオレフィン系透明樹脂;アクリロニトリルスチレン系樹脂などが挙げられる。
中でも、透明性、密着性に優れるものとして、脂環構造含有重合体が好ましい。
【0010】
上記脂環構造含有重合体は、重合体の繰り返し単位中に脂環式構造を含有するものであり、脂環式構造は、主鎖及び/または側鎖のいずれに有していてもよい。脂環式構造としては、シクロアルカン構造、シクロアルケン構造などが挙げられるが、透明性の観点からシクロアルカン構造が好ましい。脂環式構造を構成する炭素原子数は、格別な制限はないが、通常4〜30個、好ましくは5〜20個、より好ましくは5〜15個の範囲であると、透明性に優れる。脂環構造含有重合体中の脂環式構造を有する繰り返し単位の割合は、使用目的に応じて適宜選択されればよいが、通常50重量%以上、好ましくは70重量%以上、より好ましくは90重量%以上である。脂環構造含有重合体中の脂環式構造を有する繰り返し単位の割合が過度に少ないと透明性が低下し、好ましくない。なお、脂環構造含有重合体中の脂環式構造を有する繰り返し単位以外の残部は、格別な限定はなく、使用目的に応じて適宜選択される。
【0011】
こうした脂環構造含有重合体の具体例としては、例えば、(1)ビニル脂環式炭化水素重合体、(2)ノルボルネン系重合体、(3)単環の環状オレフィン系重合体、(4)環状共役ジエン系重合体、及びこれらの水素添加物などが挙げられる。これらの中でも、透明性、無機化合物膜の密着性の観点から、ビニル脂環式炭化水素重合体が最も好ましい。
【0012】
(1)ビニル脂環式炭化水素重合体
ビニル脂環式炭化水素重合体としては、例えば、特開昭51−59989号公報に開示されているビニルシクロヘキセン、ビニルシクロヘキサンなどのビニル脂環式炭化水素系単量体の重合体及びその水素添加物、特開昭63−43910号公報、特開昭64−1706号公報などに開示されているスチレン、α−メチルスチレンなどのようなビニル芳香族系単量体の重合体の芳香環部分を水素添加したものを用いることができる。この場合、ビニル脂環式炭化水素系単量体やビニル芳香族系単量体と、これらの単量体と共重合可能な他の単量体とのランダム共重合体、ブロック共重合体などの共重合体及びその水素添加物であってもよい。ブロック共重合体は、そのブロック構造に制限はなく、ジブロック、トリブロック、またはそれ以上のマルチブロックや傾斜ブロックなどのブロック構造が挙げられる。
【0013】
(2)ノルボルネン系重合体
ノルボルネン系重合体としては、例えば、特開平3−14882号公報や、特開平3−122137号公報などに開示されている公知の重合体であり、例えば、ノルボルネン系単量体と必要に応じてこれと共重合可能な単量体との開環重合体;ノルボルネン系単量体と必要に応じてこれと共重合可能な単量体との付加重合体;及びこれらの水素化物などが挙げられる。
【0014】
(3)単環の環状オレフィン系重合体
単環の環状オレフィン系重合体としては、例えば、特開昭64−66216号公報に開示されているシクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテンなどの単環の環状オレフィン系単量体の付加重合体を挙げることができる。
【0015】
(4)環状共役ジエン系重合体
環状共役ジエン系重合体としては、例えば、特開平6−136057号公報や特開平7−258318号公報に開示されているシクロペンタジエン、シクロヘキサジエンなどの環状共役ジエン系単量体を1,2−または1,4−付加重合した重合体及びその水素添加物などを挙げることができる。
【0016】
脂環構造含有重合体を得るために用いる単量体として、ノルボルネン系単量体、単環シクロアルケン、脂環式共役ジエン、ビニルシクロアルカン、ビニルシクロアルケン(ここまでを「脂環式構造含有単量体」ということがある。)、芳香族ビニル単量体が挙げられる。
【0017】
ノルボルネン系単量体としては、ビシクロ〔2.2.1〕ヘプト−2−エン(慣用名:ノルボルネン)及びその誘導体、トリシクロ〔4.3.0.12,5〕デカ−3,7−ジエン(慣用名:ジシクロペンタジエン)、トリシクロ〔4.3.0.12,5〕デカ−3−エン、トリシクロ〔4.4.0.12,5〕ウンデカ−3,7−ジエン、トリシクロ〔4.4.0.12,5〕ウンデカ−3,8−ジエン、トリシクロ〔4.4.0.12,5〕ウンデカ−3−エン、テトラシクロ〔7.4.0.110,13.02,7〕トリデカ−2,4,6,11−テトラエン(別名:1,4−メタノ−1,4,4a,9a−テトラヒドロフルオレン)、テトラシクロ〔8.4.0.111,14.02,8〕テトラデカ−3,5,7,12,11−テトラエン(別名:1,4−メタノ−1,4,4a,5,10,10a−ヘキサヒドロアントラセン)、テトラシクロ〔4.4.0.12,5.17,10〕ドデカ−3−エン(慣用名:テトラシクロドデセン)及びその誘導体などが挙げられる。
【0018】
単環シクロアルケンとしては、シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセン、3,4−ジメチルシクロペンテンなどが挙げられる。
脂環式共役ジエンとしては、シクロペンタジエン、シクロヘキサジエンなどが挙げられる。
ビニルシクロアルケンとしては、ビニルシクロペンテン、2−メチル−4−ビニルシクロペンテン、ビニルシクロヘキセンなどが挙げられる。
ビニルシクロアルカンとしては、ビニルシクロペンタン、2−メチル−4−ビニルシクロペンタン、ビニルシクロヘキサン、ビニルシクロオクタンなどが挙げられる。
芳香族ビニル単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、ジビニルベンゼン、ビニルナフタレン、ビニルトルエンなどが挙げられる。
これらの単量体は、それぞれ単独で、又は2種以上を組み合わせても用いることができる。
【0019】
脂環式構造含有単量体または芳香族ビニル単量体と付加共重合可能な単量体としては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、3−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ペンテンなどの鎖状オレフィン;1,4−ヘキサジエン、4−メチル−1,4−ヘキサジエン、5−メチル−1,4−ヘキサジエン、1,7−オクタジエンなどの非共役ジエン;1,3−ブタジエン、2−メチル1,3−ブタジエン、1,3−ヘキサジエンなどの共役ジエンなどが挙げられる。これらの単量体は、それぞれ単独で、あるいは2種以上組み合わせて使用できる。
【0020】
脂環構造含有重合体は、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アルコキシル基、エポキシ基、グリシジル基、オキシカルボニル基、カルボニル基、アミド基、エステル基、酸無水物基などの極性基を含有していてもよい。
【0021】
脂環式構造含有単量体や芳香族ビニル単量体の重合方法、及び得られた脂環構造含有重合体への必要に応じて行われる水素化方法に格別な制限はなく、特開昭63−43910号公報、特開昭64−1706号公報、特開平3−14882号公報、特開平3−122137号公報などに開示される公知の方法に従って行なうことができる。
【0022】
前記ノルボルネン系単量体の開環重合反応は、開環重合触媒を用い、通常、溶媒中で温度−50〜100℃、圧力0〜5MPaで行ことができる。
開環重合触媒としては、ルテニウム、パラジウム、オスミウム、白金などの金属のハロゲン化物、硝酸塩又はアセチルアセトン化合物と、還元剤とからなる触媒、あるいは、チタン、バナジウム、ジルコニウム、タングステン、モリブデンなどの金属のハロゲン化物又はアセチルアセトン化合物と、助触媒の有機アルミニウム化合物とからなる触媒等が挙げられる。
【0023】
ノルボルネン系単量体及び単環シクロアルケン、又はこれらと共重合可能な単量体との付加重合反応は、付加重合触媒を用いて通常、温度−50℃〜100℃、圧力0〜5MPaで行なうことができる。
付加重合触媒としては、チタン、ジルコニウム、又はバナジウム化合物と助触媒の有機アルミニウム化合物とからなる触媒等が挙げられる。
【0024】
芳香族ビニル単量体、ビニルシクロアルケン又はビニルシクロアルカンの重合反応は、ラジカル重合、アニオン重合、カチオン重合など公知の方法の、いずれでもよいが、カチオン重合では重合体の分子量が小さくなり、ラジカル重合では分子量分布が広くなって成形体の機械的強度が低下する傾向があるので、アニオン重合が好ましい。また、懸濁重合、溶液重合、塊状重合等のいずれでもよい。
【0025】
芳香族ビニル単量体、ビニルシクロアルケン又はビニルシクロアルカンのアニオン重合反応は、有機溶媒中で重合触媒を用いて通常−70〜150℃、好ましくは−50〜120℃の反応温度で、通常0.01〜20時間、好ましくは0.1〜10時間の反応時間で行なうことができる。
重合触媒としては、n−ブチルリチウム、1,4−ジリチオブタンなどの有機アルカリ金属等が挙げられ、ジブチルエーテル、トリエチルアミンなどのルイス塩基を添加すると、分子量分布の狭い重合体が得られるので、機械的強度や耐熱性の確保などの点で好ましい。
前記有機溶媒としては、n−ペンタン、n−ヘキサン、イソオクタンなどの脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサンなどの脂環式炭化水素;ベンゼン、トルエンなどの芳香族炭化水素;テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル類等が挙げられる。
有機溶媒の使用量は、単量体濃度が、1〜40重量%になる量であると好ましく、10〜30重量%になる量であるとより好ましい。
重合体は、ランダム又はブロック共重合体のいずれでも良いが、ランダム共重合体であると好ましい。
又、重合体は、アイソタクチック、シンジオタクチック及びアタクチックのいずれでも良い。
【0026】
脂環構造含有重合体は、重合反応後に、環や主鎖及び側鎖の炭素−炭素不飽和結合を水素化することができる。
脂環構造含有重合体は、該重合体中の全炭素−炭素結合数に対する炭素−炭素二重結合数の割合が、0.15%以下であると好ましく、0.07%以下であるとより好ましく、0.02%以下であると特に好ましい。炭素−炭素二重結合数の割合が少ないと、放出有機物量の少ない成形体が得られるので好ましい。
【0027】
水素化反応は、水素化する重合体の種類により、水素化触媒の使用量、反応温度、水素分圧、反応時間及び反応溶液濃度を適宜に最適な範囲に設定することができる。
水素化触媒としては、特に限定されないが、ニッケル、コバルトなどの金属化合物と有機アルミニウムや有機リチウムと組み合わせてなる均一系触媒が好ましい。
また、前記水素化触媒には、必要に応じて活性炭、ケイソウ土、マグネシアなどの担体を用いることができる。
水素化触媒の使用量としては重合体100重量部当たり0.01〜50重量部、反応温度としては25〜300℃、水素分圧としては0.5〜10MPa、反応時間としては0.5〜20時間であることが好ましい。
【0028】
水素化された重合体は、水素化反応溶液を濾過して水素添加触媒を濾別した溶液から溶媒などを除去することによって得ることができる。
【0029】
溶媒などを除去する方法としては、凝固法や直接乾燥法などが挙げられる。
凝固法は、重合体溶液を重合体の貧溶媒と混合することにより、重合体を析出させる方法である。析出した小塊状の重合体(クラム)を固液分離し、該重合体を加熱乾燥して溶媒を除去する。
貧溶媒としては、たとえばエチルアルコール、n−プロピルアルコールもしくはイソプロピルアルコールなどのアルコール類;アセトンもしくはメチルエチルケトンなどのケトン類;酢酸エチルもしくは酢酸ブチルなどのエステル類などの極性溶媒を挙げることができる。
直接乾燥法は、重合体溶液を減圧下で加熱して溶媒を除去する方法であり、遠心薄膜連続蒸発乾燥機、掻面熱交換型連続反応器型乾燥機、高粘度リアクタ装置などの公知の装置を用いて行なうことができる。真空度や温度はその装置によって適宜選択することができる。
【0030】
本発明に用いる透明樹脂は、揮発成分含有量が0.5重量%以下であるものが好ましい。揮発成分含有量がこの範囲であると、放出水分量や放出有機物量の少ない成形体が得られるので好ましい。
本発明において、揮発成分含有量とは、示差熱重量測定装置を用いて、30℃から350℃まで10℃/分で加熱したときに揮発する成分の量である。
揮発成分の低減方法は、特に限定されないが、前述した凝固法や直接乾燥法によって重合体溶液から溶媒と同時に他の放出水分や放出有機物を除去する方法の他、スチームストリッピング法、減圧ストリッピング法、窒素ストリッピング法などによる方法等が挙げられる。中でも、凝固法と直接乾燥法は生産性に優れているので好ましい。
【0031】
透明樹脂は、成形前に、減圧下で加熱して乾燥すると、放出水分量及び放出有機物量のより少ない成形体が得られるので好ましい。
乾燥の際の圧力としては、10kPa以下であると好ましく、3kPa以下であるとより好ましい。
加熱温度としては、260℃以上であると好ましく、280℃以上であるとより好ましい。
【0032】
透明樹脂は、そのガラス転移温度(以下、Tgということがある。ブロック共重合体でTgが2個以上あるものは高い値の方を指す。)が、60〜200℃の範囲であると好ましく、70〜180℃の範囲であるとより好ましく、90〜160℃の範囲であると特に好ましい。Tgがこの範囲にあると、耐熱性、加工性の点で好ましい。本発明においてTgは示差走査熱量計を用いて測定した値である。
【0033】
透明樹脂は、その重量平均分子量(Mw)によって特に制限されないが、重合体がブロック共重合体である場合には、重量平均分子量(Mw)が50,000〜300,000の範囲であると好ましく、55,000〜200,000の範囲であるとより好ましく、60,000〜150,000の範囲であると特に好ましい。また、重合体がランダム共重合体あるいは単独重合体である場合には、重量平均分子量(Mw)が5,000〜500,000の範囲であると好ましく、10,000〜200,000の範囲であるとより好ましい。Mwがこの範囲にあると、機械的強度が高く、成形時間を短くすることができるので重合体の熱分解が起こりづらく有機物放出量が少なくなるので好ましい。
【0034】
透明樹脂は、その分子量分布(Mw/Mn)(重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比)が、1〜2の範囲であると好ましく、1〜1.5の範囲であるとより好ましく、1〜1.2の範囲であると特に好ましい。Mw/Mnがこの範囲にあると、機械強度と耐熱性が高度にバランスされるので好ましい。
【0035】
透明樹脂には、必要に応じて公知の添加剤を発明の効果が損なわれない範囲で含有させることができる。
公知の添加剤としては、その他の重合体、充填材、酸化防止剤、離型材、難燃剤、抗菌剤、木粉、カップリング剤、可塑剤、着色剤、滑剤、シリコンオイル、発泡剤、界面活性剤、光安定剤、滑剤や分散助剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、分散剤、塩素捕捉剤、結晶化核剤、防曇剤、有機物充填材、中和剤、分解剤、金属不活性化剤、汚染防止材、熱可塑性エラストマー等が挙げられる。
これらの添加剤は、単独であるいは2種以上を混合して用いることができる。
【0036】
その他の重合体としては、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体の主鎖水素化物(=スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体〔SEBS〕)や、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体の主鎖水素化物(=スチレン−エチレン−プロピレン−スチレンブロック共重合体〔SEPS〕)などが挙げられる。
このようなその他の重合体成分を添加すると高温高湿下において白濁しにくくなるので好ましい。このようなその他の重合体成分の金属含量は、50ppm以下であることが好ましく、30ppm以下であることが特に好ましい。その他の重合体成分の量は、透明樹脂100重量部に対して0.05〜70重量部の範囲であると好ましく、0.1〜50重量部の範囲であるとより好ましい。
【0037】
充填材としては、機械的性質を向上させる目的で、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維、金属フレーク、ガラスビーズ、ワラストナイト、ロックフィラー、炭酸カルシウム、タルク、シリカ、マイカ、ガラスフレーク、ミルドファイバー、カオリン、硫酸バリウム、黒鉛、二硫化モリブデン、酸化マグネシウム、酸化亜鉛ウィスカー、チタン酸カリウムウィスカーなどが挙げられる。
【0038】
添加剤を透明樹脂に含有させる方法としては、透明樹脂及び添加剤を混練りする方法;適当な溶媒中で透明樹脂及び添加剤を混合し、溶解又は分散させ、次いで溶媒を除去する方法などが挙げられる。
【0039】
混練は、単軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ニーダー、フィーダールーダーなどの溶融混練機等を用いることができる。混練り温度は、200〜400℃の範囲であると好ましく、240〜350℃の範囲であるとより好ましい。また、混練りするに際しては、各成分を一括添加して混練りしても、数回に分けて添加しながら混練りしてもよい。
【0040】
本発明に用いる成形体は、公知の成形手段、例えば射出成形法、圧縮成形法、押出成形法、ブロー成形法、インフレーション成形法などを用いて、前記透明樹脂を成形することによって得られる。これらのうち、透明性に優れた光学部品を得ることができるので射出成形法が好ましい。
【0041】
成形体の形状は板状、レンズ形状、ディスク形状、フィルム形状、シート状、プリズム状などの各種用途に応じて適宜選択できる。
【0042】
成形条件は、特に制限されないが、たとえば、射出成形を行う場合、樹脂温度は通常200℃〜400℃、好ましくは210℃〜350℃で行われる。また金型を使用する場合の金型温度t℃は、使用する透明樹脂のガラス転移温度をt℃とすると、通常、室温<t<(t+15)℃、好ましくは(t−30)<t<(t+10)℃、より好ましくは(t−20)<t<(t+5)℃で行われる。(ただし、(t−30)<室温、あるいは(t−20)℃<室温である場合は、室温<t℃とする。)成形時の樹脂温度、金型温度がこの範囲であると、離型性の点で好ましい。
【0043】
本発明の光学部品は、成形体表面に無機化合物の蒸着膜が形成されてなるものである。
無機化合物としては、酸化物、硫化物、弗化物などが挙げられるが、成形体との密着性に優れ、大気中及び水中で安定な物質であることが好ましい。
酸化物としては、酸化アルミニウム、酸化ビスマス、酸化セリウム、酸化クロム、酸化ユーロビウム、酸化鉄、酸化ハフニウム、酸化インジウム、酸化ランタン、酸化モリブデン、酸化マグネシウム、酸化ネオジウム、酸化鉛、酸化ブラセオジウム、酸化サマリウム、酸化アンチモン、酸化スカンジウム、酸化スズ、二酸化チタン、一酸化チタン、三酸化二チタン、五酸化タンタル、酸化タングステン、酸化イットリウム、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、二酸化ケイ素、一酸化ケイ素などが挙げられる。硫化物としては、硫化亜鉛などが挙げられる。弗化物としては、弗化アルミニウム、弗化バリウム、弗化セリウム、弗化カルシウム、弗化ランタン、弗化リチウム、弗化マグネシウム、クリオライト、チオライト、弗化ネオジウム、弗化ナトリウム、弗化鉛、弗化サマリウム、弗化ストロンチウムなどが挙げられる。
【0044】
蒸着膜は、複数の層からなっていてもよい。成形体に接する蒸着膜の層(第一層)は、密着性及び耐熱性を良好とする観点から、酸化タンタル、酸化ニオブ又は酸化セリウムを主成分として含有するものが好ましい。酸化タンタル、酸化ニオブ及び酸化セリウムはそれぞれ五酸化タンタル(Ta)、五酸化ニオブ(Nb)及び二酸化セリウム(CeO)であることがより好ましい。酸化タンタル、酸化ニオブ及び酸化セリウムの純度はいずれも光学特性や密着性の点から、90%以上であることが好ましく、95%以上であることが特に好ましい。
【0045】
本発明の光学部品では、成形体表面に接する第一層の蒸着膜はイオンビームアシスト法で形成する。第二層以降はイオンビームアシスト法で行ってもよいし、他の蒸着法で行ってもよい。また、第二層以降は、無機化合物の種類及び膜厚は密着性、耐熱性を損なわない限りは特に制限されない。本発明の光学部品では、好ましくない光反射を防止するために、蒸着膜を高屈折率の層と低屈折率の層とが交互に複数、例えば2〜8層、積層させたものにすることが好ましい。
【0046】
前記、蒸着膜を複数層設ける場合、第一層の厚さは、5〜500nmの範囲であることが好ましく、5〜300nmの範囲であることがより好ましい。また、蒸着膜全体の厚さは、10〜2000nmの範囲であることが好ましく、10〜1500nmの範囲であることがより好ましく、10〜1000nmの範囲であることが特に好ましい。蒸着膜の厚さがこの範囲にあると密着力と耐熱性の点で好ましい。
【0047】
該成形体と蒸着膜との界面には混合層が形成されている。本発明の光学部品は、この混合層の平均厚さが15nm以下である。
混合層の厚さは、EDX(エネルギー分散型X線分析装置)のライン分析によって、成形体側から蒸着膜側に走査したときに、蒸着膜を構成する金属元素のエネルギー値が立ち上がる点Aと、立ち上がりの傾斜が緩みある一定の値になり始める点Bとの距離から求めることができる。なお、点Bは、炭素元素のエネルギー値が激減する点とほぼ同時に現れる。
混合層の厚さは、耐熱性の観点から通常15nm以下であり、好ましくは0.5〜12nm、より好ましくは1〜10nmである。混合層の厚さが厚すぎると、密着性、耐熱性が低下する。
【0048】
本発明の光学部品の製造方法は特に制限されないが、透明樹脂からなる成形体の表面に、無機化合物を0.1〜3Å/秒、好ましくは0.5〜2Å/秒、より好ましくは1.0〜2Å/秒の蒸着速度(成膜速度)でイオンビームアシスト蒸着することを含む方法が、混合層の厚さを薄くコントロールできるので好適である。
【0049】
イオンビームアシスト蒸着は、イオンビームと真空蒸着とを組み合わせた方法である。
イオンビームの条件は、密着性及び耐熱性の観点から適宜選択できるが、通常、加速電圧100V〜900V、加速電流50〜400mA、より好ましくは、加速電圧350〜850V、加速電流100〜300mA、最も好ましくは、加速電圧500〜800V、加速電流150〜250mAである。イオンビームに使用されるイオン種としては、酸素、アルゴン、酸素とアルゴンの混合ガスなどが挙げられる。
【0050】
成膜速度の調整方法は、格別制限されないが、水晶発振式の成膜コントローラを蒸着装置に装備し調整する方法や、モニタ基板に形成した蒸着膜の厚さを反射率の変化から膜厚測定を行う光学式膜厚計で測定し、モニタ基板への蒸着時間と測定膜厚との関係から計算して成膜速度をコントロールする方法などが挙げられる。これらのうち、蒸着中に成膜速度の調整が可能な点で水晶発振式の成膜コントローラを用いる方法が好ましい。
【0051】
真空蒸着の条件は、特に制限されないが、油回転ポンプ、油拡散ポンプ、クライオポンプなどを用いて真空チャンバー内を、10−4〜10−2Paまで真空排気する。そして、必要に応じて酸素を2.0×10−3〜1.0×10−1Pa程度真空チャンバーに導入して酸素雰囲気下で蒸着することができる。
蒸着物質(無機化合物)の蒸発方法には格別の制限はないが通常、電子ビーム加熱法、抵抗加熱法などの方法が用いられる。これらのうち、成膜速度を調整しやすい電子ビーム加熱法が好ましい。
【0052】
本発明の光学部品は、無機化合物の蒸着膜の構成によって特定波長の反射防止膜、波長選択性をもつ半透過膜、全反射膜などの機能を有するように設計することができる。
【0053】
本発明の光学部品の適用範囲は、特に制限されない。例えば、回折格子;ピックアップ対物レンズ、コリメータレンズ、カメラ用撮像レンズ、望遠鏡レンズ、レーザービーム用fθレンズ、セルフォックレンズなどのレンズ類;fθミラー、ポリゴンミラーなどの反射デバイス類;ファインダープリズム、レンズ機能付きプリズムなどのプリズム類;光学式ビデオディスク、オーディオディスク、文書ファイルディスク、メモリディスクなどの光ディスク類;OHPフィルム等の光学フィルムなどの光学材料;液晶表示装置用の位相差板、タッチパネル、光拡散板、導光板、偏光板保護膜、集光シート、プリズムシート、レンティキュラーレンズなどフラットパネルディスプレイ用の光学部品;光ファイバー;光コネクター;表面装飾などの光学成形体;などに使用できる。特に、ピックアップレンズやレーザービーム用fθレンズ、撮像レンズなどの光学レンズに好適である。
【実施例】
【0054】
以下に、製造例、実施例及び比較例を挙げて、本発明についてより具体的に説明する。また本発明がこれらによって限定されるものではない。なお、部及び%は特に断りのない限り重量基準である。また、圧力は特に断りのない限りゲージ圧である。
【0055】
各種の物性の測定は、下記の方法に従って行った。
(1)膜の密着性試験
光学部品の成膜面に幅20mm、長さ60mmの粘着テープ(ニチバン社製、製品名「CT―24」)を幅20mm、長さ25mm分貼り付け、粘着テープを消しゴム(トンボ鉛筆社製、製品名「PE−01A」)で擦り圧し付けた。それから2分間経過後に、粘着テープの一方の端を摘み、蒸着面の45°方向に一気に引き、粘着テープを瞬間的に剥がした。粘着テープの貼付面の蒸着膜が剥離しなかったものを○、粘着テープ貼付面積の半分未満が剥離したものを△、粘着テープ貼付面積の半分以上剥離したものを×、すべて剥離したものを××とした。
【0056】
(2)膜の耐熱性試験
光学部品を85℃のオーブン中に24時間放置した。膜を光学顕微鏡(オリンパス社製;製品名「BX60」)を用いて倍率100倍で観察し、クラックの無いものを良好(○)、クラックが網目状に膜全体に生じたものを不良(×)と評価した。
【0057】
(3)混合層の厚さ測定
光学部品の成膜部分を集束イオンビーム加工観察装置(FIB)により、幅10μm、長さ1μm、高さ3μmの膜付樹脂片を切り出した。この膜付樹脂片を、さらに厚さ80nmまで薄くして透過型電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ社製;製品名「HD−2000」)で蒸着膜の断面を観察した。
膜付樹脂片をエネルギー分散型X線分析装置(EDX)「Genesis4000」(EDAX社製、製品名)によって、加速電圧200kVの電子線を照射して、基材から蒸着膜までを走査して検出される、特性X線のエネルギー値を線分析した。蒸着膜を構成する金属元素のエネルギー値が立ち上がる点Aと、立ち上がりの傾斜が緩みある一定の値になり始める点Bとの距離から求めた。
【0058】
(4)脂環構造含有重合体の水素化率
H−NMRスペクトルにより測定した。
(5)脂環構造含有重合体のガラス転移温度(Tg)
JIS K 7121に基づいて示差走査型熱量計により昇温速度10℃/分の条件で測定した。
(6)脂環構造含有重合体の分子量
テトラヒドロフランを溶媒にして、40℃でゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により測定し、標準ポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)および重量平均分子量(Mw)を求めた。
【0059】
[脂環構造含有重合体(COP)の製造例]
窒素置換したステンレス製耐圧容器に、スチレン76.8部とイソプレン3.2部を添加して混合攪拌し混合モノマーを調製した。
次に、窒素置換した電磁撹拌装置を備えたステンレス鋼製オートクレーブに、脱水シクロヘキサン320部、混合モノマー4部及びジブチルエーテル0.1部を仕込み、50℃で撹拌しながらn−ブチルリチウムのヘキサン溶液(濃度15%)0.454部を添加して重合を開始し、重合させた。重合開始から0.5時間経過(この時点での重合転化率は96%であった)後、混合モノマー76部を1時間かけて連続的に添加した。混合モノマーの添加終了(この時点での重合転化率は95%であった)から0.5時間経過後、イソプロピルアルコール0.1部を添加して反応を停止させ、スチレン−イソプレンランダム共重合体が溶解した重合反応溶液を得た。
【0060】
次いで、上記重合反応溶液400部に、安定化ニッケル水素化触媒(日揮化学工業社製、製品名「E22U」60%ニッケル担持シリカ−アルミナ担体)3部を添加混合し混合液を得、それを電熱加熱装置と電磁撹拌装置とを備えたステンレス鋼製オートクレーブに仕込んだ。該オートクレーブに水素ガスを供給し、撹拌しながら、オートクレーブ内を160℃、4.5MPaを保つようにして6時間反応させ、主鎖及び芳香環を水素化した。水素化反応終了後、珪藻土(昭和化学工業社製、製品名「ラヂオライト#800」)を濾過床として備える加圧濾過器(石川島播磨重工社製、製品名「フンダフィルター」)を使用して、圧力0.25MPaで加圧濾過して、脂環構造含有重合体を含む無色透明な溶液を得た。得られた重合体のMwは85,000、Mw/Mnは1.18、主鎖及び芳香環の水素化率は99.9%、Tgは125℃であった。
【0061】
重合体固形分100部を含有する無色透明溶液に、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体の主鎖水素化物(SEPS、スチレン/イソプレン重量比=30/70、メルトフローレート70g/分(230℃、2.16kgf))0.2部、及び酸化防止剤としてテトラキス−〔メチレン−3−(3’,5’−ジ−ターシャリー−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタン(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製 製品名「イルガノックス1010」)0.1部、離型剤として12‐ヒドロキシステアリン酸トリグリセリド1.0部をそれぞれ添加、溶解させ、薄膜乾燥機(Buss社製、フィルムトルーダー)を使用して、260℃、9.33×10−4MPa(絶対圧力)、滞留時間1.2時間の条件で溶媒及び揮発成分の除去を行い、溶融状態の重合体をダイからストランド状に押出し、水冷後、ペレタイザーでカッティングしてCOPペレットを得た。
【0062】
[実施例1]
COPペレットを100℃、4時間で加熱乾燥した。次いで射出成形装置(ファナック社製:製品名「α−100B」)を用いて、厚さ5mm、縦横27mmの基材を射出成形した。成形条件は、金型温度110℃、シリンダー温度250℃とした。
真空薄膜装置(シンクロン社製、製品名「BMC−1100」)の蒸発源(1)に高屈折率蒸着膜用材料として五酸化タンタル(Ta)を、蒸発源(2)に低屈折率蒸着膜用材料として酸化ケイ素(SiO)をセットした。その上方の基材固定用治具に、前記の方法により作製した基材をセットした。また、蒸着速度、膜厚の監視には、水晶発振式成膜コントローラ(INFICON社製、XTC蒸着制御器)を使用した。真空槽を排気し、真空度を10−3Pa以下にした。RF励起型イオン銃(シンクロン社製、製品名「RIS−120D」)を加速電圧800V、加速電流150mAの条件で、イオン化した酸素を成形体に照射しながら、電子ビームを蒸発源(1)の高屈折率蒸着膜用材料に照射して、蒸着膜用材料を蒸発させ、基材と第一層との界面に形成される混合層の厚さが9nmになるように、五酸化タンタル層(第一層)を、蒸着速度1.0Å/秒で、厚さ20nm形成した。
次いで上記同様にして低屈折率蒸着膜用材料を蒸発させ、第一層上に酸化ケイ素層(第二層)を蒸着速度26Å/秒で、厚さ25nmに形成した。続いて五酸化タンタル層(第三層)を蒸着速度1.0Å/秒で、厚さ120nmに形成し、最後に酸化ケイ素層(第四層)を蒸着速度26Å/秒で、厚さ125nmに形成し、合計4層の蒸着膜を形成した光反射防止機能を有する光学部品1を得た。得られた光学部品の蒸着膜の膜厚は五酸化タンタル層20nm、酸化ケイ素層25nm、五酸化タンタル層120nm、酸化ケイ素層125nmの4層であった。また、基材と第一層との界面には厚さ9nmの混合層が形成されていた。得られた光学部品1の膜の密着性、耐熱性について評価を行った。結果を表1に記載する。
【0063】
[実施例2]
実施例1と同様にして得た基材に、実施例1と同様にして、基材と第一層との界面に形成される混合層の厚さが7.5nmになるように、酸化セリウム(CeO)層(第一層)を蒸着速度1.0Å/秒で厚さ38nm形成し、酸化ケイ素(SiO)層(第二層)を26Å/秒で厚さ137nm形成し、合計2層の蒸着膜を形成した光反射防止機能を有する光学部品2を得た。得られた光学部品2の蒸着膜の膜厚は酸化セリウム層38nm、酸化ケイ素層137nmの2層であった。また、基材と第一層との界面には厚さ7.5nmの混合層が形成されていた。得られた光学部品2の膜の密着性、耐熱性について評価を行った。結果を表1に記載する。
【0064】
[実施例3]
実施例1と同様にして得た基材に、実施例1と同様にして、基材と第一層との界面に形成される混合層の厚さが10nmになるように、酸化ニオブ(Nb)層(第一層)を蒸着速度1.5Å/秒で厚さ110nm形成し、酸化ケイ素(SiO)層(第二層)を10Å/秒で厚さ40nm形成し、酸化ニオブ層(第三層)を蒸着速度1.5Å/秒で厚さ120nm形成し、酸化ケイ素層(第四層)を10Å/秒で厚さ85nm形成し、合計4層の蒸着膜を形成した光反射防止機能を有する光学部品3を得た。得られた光学部品3の蒸着膜の膜厚は酸化ニオブ層110nm、酸化ケイ素層40nm、酸化ニオブ層120nm、酸化ケイ素層85nmの4層であった。また、基材と第一層との界面には厚さ10nmの混合層が形成されていた。得られた光学部品3の膜の密着性、耐熱性について評価を行った。結果を表1に記載する。
【0065】
[比較例1]
実施例1と同様にして得た基材に、イオン銃を使用せずに、五酸化タンタル層(第1層)を蒸着速度6.0Å/秒で、厚さ20nm形成した以外は実施例1と同様にして合計4層の蒸着膜を形成した光反射防止機能を有する光学部品4を得た。得られた光学部品4の蒸着膜の膜厚は五酸化タンタル20nm、酸化ケイ素25nm、五酸化タンタル120nm、酸化ケイ素125nmの4層であった。また、基材と第一層との界面には厚さ17nmの混合層が形成されていた。得られた光学部品4の膜の密着性、耐熱性について評価を行った。結果を表1に記載する。
【0066】
【表1】

【0067】
表1の結果から、脂環構造含有重合体などの透明樹脂からなる成形体とイオンビームアシスト蒸着膜との界面にできる混合層の平均厚さが15nm以下の光学部品(実施例1〜3)は、密着性及び耐熱性が非常に良好であることがわかる。それに対し、混合層の平均厚さが15nmを超える光学部品(比較例1)は密着性及び耐熱性が劣っていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の光学部品は、透明樹脂からなる成形体上に密着性、耐熱性に優れた無機化合物膜を有しているので、ピックアップレンズやレーザービーム用fθレンズ、撮像レンズなどのレンズ類、ミラーなどの反射デバイスに好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明樹脂からなる成形体と、その表面に形成された無機化合物の蒸着膜とを含んでなり、該成形体と該蒸着膜との界面にできる混合層の平均厚さが15nm以下である光学部品。
【請求項2】
透明樹脂が脂環構造含有重合体である請求項1に記載の光学部品。
【請求項3】
脂環構造含有重合体がビニル脂環式炭化水素重合体である請求項2に記載の光学部品。
【請求項4】
成形体の表面に形成された無機化合物の蒸着膜が、複数の蒸着膜層からなる請求項1〜3のいずれかに記載の光学部品。
【請求項5】
成形体と接する蒸着膜の層が、酸化タンタル、酸化ニオブ又は酸化セリウムを主成分として含有する請求項4に記載の光学部品
【請求項6】
透明樹脂からなる成形体の表面に、無機化合物を0.1〜3.0Å/秒の蒸着速度でイオンビームアシスト蒸着することを含む請求項1〜5のいずれかに記載の光学部品の製造方法。

【公開番号】特開2007−204780(P2007−204780A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−22291(P2006−22291)
【出願日】平成18年1月31日(2006.1.31)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.セルフォック
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】