説明

光学部品用樹脂洗浄液組成物

【課題】 光学部品用樹脂が付着した調合釜及び配管などの付帯設備や母型や治具などを洗浄する洗浄液であって、付帯設備や母型や治具、洗浄機などに損傷を与えず、環境に与える影響が少なく、取り扱い上の制約も少なく、かつ、十分な洗浄性を有する洗浄液組成物を提供する。
【解決手段】 A:アミド類及びイミダゾリジノン類から選択された少なくとも1種と、B:スルホキシド類と、C:pHが9以下であり、かつ塩基の規定度が1.0×10-3N以下である水を含有することを特徴とする光学部品用樹脂洗浄液組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学部品用樹脂洗浄液組成物にかかり、特には、光学部品用樹脂製品の製造、加工時に調合釜および配管などの付帯設備、母型、治具等に付着した樹脂などを洗浄するために用いられる洗浄液組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
光学部品用の樹脂製品の製造、加工においては、樹脂調合時には調合釜、製品の製造、加工時には樹脂を成形するための母型(成形枠)や治具などが用いられている。樹脂成形後、母型や治具から製品を取り出し、次工程へとすすむが、調合釜および配管などの付帯設備には壁面等に付着したまま残留した樹脂が、製品取り出し後の母型、治具等には、はみ出した樹脂などが付着、残留している。調合釜及び配管などの付帯設備は樹脂調合の際に、母型や治具は樹脂の成形の際に繰り返し使用されるが、使用前に前調合時や前成形時の樹脂残留物を除去することが必要となる。特にこの母型や治具は成型の際に使用されるため、残留した樹脂は、ある程度硬化が進んだ状態であり、除去のためには高い洗浄力を有する洗浄剤が必要とされる。従来、このような除去工程では、塩化メチレンなどの塩素系溶剤が洗浄液として使用されてきた(特許文献1参照)。しかし、塩素系溶剤は毒性が強く、放出された場合に大気汚染・水質汚染を引き起こすため、その使用は厳しく規制されている。
【0003】
一方、溶剤や界面活性剤や無機アルカリや有機アルカリを添加した水系洗浄剤や溶剤系洗浄剤、リン酸塩類などの水溶液系洗浄剤も使用されてきたが、アリルジグリコールカーボネート樹脂やポリカーボネート樹脂、ウレタン樹脂などの従来光学部品の原料として用いられてきた樹脂に対しては洗浄性を有するが、近年高屈折率、低分散かつ耐衝撃性に優れた樹脂として開発され、使用が拡大しつつあるエピスルフィド樹脂、チオウレタン樹脂等に対しては不十分な洗浄性しか持たない。また、排水処理設備およびそのランニングにコストを必要するため経済性の面から好ましくない。さらにガラスはアルカリや酸、特にアルカリに接触すると、溶解、侵食、損傷を生じることが一般的に知られており、これらの水系洗浄剤や溶剤系洗浄剤や水溶液系洗浄剤の成分であるアルカリは、洗浄対象物である母型として一般的に使用されているガラス製母型に接触すると、ガラスを溶解、侵食し、損傷を生じる場合があり、このような損傷は致命的な欠陥となる。また、金属に対する腐食も起こすため、付帯設備や治具、洗浄機などに損傷を与える場合がある。その他、炭化水素系洗浄剤の利用も検討されているが、エピスルフィド樹脂、チオウレタン樹脂に対しては不十分な洗浄性しか持たない。(特許文献2参照)
【特許文献1】特開2002−18863号公報
【特許文献2】特許第3582568号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記のような課題を解決するもので、本発明の目的はエピスルフィド樹脂などの難洗浄性の樹脂までをも含めた光学部品用樹脂が付着した調合釜及び配管などの付帯設備や母型や治具などを洗浄する洗浄液であって、付帯設備や母型や治具、洗浄機などに損傷を与えず、環境に与える影響が少なく、取り扱い上の制約も少なく、かつ、十分な洗浄性を有する洗浄液組成物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは前記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、特定化合物を含有する特定組成の洗浄液組成物が、かかる目的を達成するものであることを見出し、本発明に想到した。
すなわち、本発明はA:アミド類及びイミダゾリジノン類から選択された少なくとも1種と、B:スルホキシド類と、C:pHが9以下でありかつ塩基の規定度が1.0×10-3N以下である水を含有することからなる光学部品用樹脂洗浄液組成物にかかるものである。
【0006】
特に、上記A:アミド類及びイミダゾリジノン類から選択された少なくとも1種と、B:スルホキシド類との含有量比(A/B)を重量基準で3/17〜17/3とし、C:水の含有量が0.01〜10重量%とした洗浄液組成物が好ましく、さらに、前記アミド類及びイミダゾリジノン類として、ジアルキルホルムアミド、ジアルキルアセトアミド、N−アルキルピロリドン、ジアルキルイミダゾリジノンのいずれかから選択される化合物を用いることが好ましく、又前記スルホキシド類として、ジアルキルスルホキシドを用いることが好ましい。
さらには上記光学部品用樹脂洗浄液組成物の被洗浄物としてエピスルフィド樹脂であることが最も好ましい。
【発明の効果】
【0007】
本発明の洗浄液は、従来の洗浄剤では洗浄不可能であったエピスルフィド樹脂などの難溶解性の樹脂までをも十分に洗浄することができ、かつ洗浄対象である付帯設備や母型や治具、洗浄機などへ損傷を与える事がない。さらに、この洗浄液は、環境規制上使用が制限されている化合物を用いず、毒性も低くしうるため、使用・取り扱いが容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
[化合物]
本発明の洗浄液組成物は、A:アミド類及びイミダゾリジノン類から選択された少なくとも1種と、B:スルホキシド類およびC:pHが9以下でありかつ塩基の規定度が1.0×10-3N以下である水を配合したものである。A成分のアミド類には、第一級アミド類、第二級アミド類、第三級アミド類、イミド類、ラクタム類などが包含され、このうちでも、ジアルキルホルムアミド、ジアルキルアセトアミド、N−アルキルピロリドンが好適である。より具体的には、アルキル基の炭素数が1〜5のジアルキルホルムアミド、アルキル基の炭素数が1〜5のジアルキルアセトアミド、アルキル基の炭素数が1〜10のN−アルキルピロリドンからなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることが特に好ましい。
【0009】
イミダゾリジノン類は、下記化1の一般式で表されるような構造を持つ化合物であるが、R1及びR2がアルキル基で、R3が水素からなるジアルキルイミダゾリジノンが好適で、特には、R1及びR2の炭素数が1〜10のジアルキルイミダゾリジノンを用いることが好ましい。
【0010】
【化1】

(式中、R1、R2、R3は水素又は炭素数が1〜10のアルキル基で、それぞれ同一でも、又異なっていても良い。)
【0011】
特に、アルキル基の炭素数が1〜10のN−アルキルピロリドンもしくは炭素数が1〜10のジアルキルイミダゾリジノンを用いた場合、有機溶剤中毒予防規則やPRTR(Pollutant Release and Transfer Register:環境汚染物質排出移動登録)に非該当となり、好ましく用いられる。
本発明においては、これらの化合物から1種を選択して用いることも、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0012】
上記B成分のスルホキシド類としては、ジアルキルスルホキシド、特にはアルキル基の炭素数が1〜5のジアルキルスルホキシドを用いることが好ましい。
【0013】
上記C成分の水は、pHが9以下でありかつ塩基の規定度が1.0×10-3N以下が好ましく、pHが4〜9でありかつ塩基の規定度が1.0×10-3N以下がより好ましい。このpHの範囲から外れる若しくは塩基の規定度が多い場合、ガラス製母型、及び金属製の付帯設備、治具、洗浄機などに損傷を生じる恐れがあるため好ましくない。
これらの条件を満たす物であれば特に限定するものではないが、蒸留水、イオン交換水などを用いる事が好ましい。また、A成分およびB成分は吸湿性化合物であり、吸湿により含有された水分も水とみなす。なお、ここで塩基と述べているのは、水酸化物や炭酸塩、アンモニア、アミンである。
【0014】
[配合量]
本発明の洗浄液中の上記A成分とB成分の含有量比は、重量基準で3/17〜17/3が好ましく、1/3〜3/1がより好ましい。これよりもA成分又はB成分が少ないと洗浄性が低下する傾向にある。また、本発明の洗浄液中のC成分の含有量は、洗浄液の0.01〜10重量%が好ましく、0.03〜5重量%がより好ましい。これよりもC成分が少ないもしくは多いと洗浄性が低下する傾向にある。
【0015】
本発明の洗浄液組成物の使用にあたっては、洗浄対象物である調合釜及び配管などの付帯設備や母型や治具等に接触させることで洗浄することができるが、洗浄対象物と洗浄液組成物とを接触させる方法自体は特に制限はなく、公知のいずれの方法も使用できる。例えば、洗浄液組成物を含浸したスポンジなどによる拭き取り、洗浄液組成物への浸漬及び/又はスプレーなどにより実施することが好ましい。浸漬による洗浄においては、洗浄効果を高めるために、同時に攪拌、揺動、超音波またはエアバブリングなどを組み合わせることが更に好ましい。
【0016】
また、洗浄対象物を洗浄した後の乾燥方法にも特に制限はなく、温風乾燥や減圧乾燥など公知のいずれの方法も使用できが、本発明による洗浄液よりも低沸点の炭化水素やアルコールなどによる置換リンスを行うことにより、洗浄対象物の乾燥性を高くすることが可能であり、好ましい。
【0017】
本発明の洗浄液組成物はA成分、B成分およびC成分のみで用いても良いが、本発明の効果を損なわない限り、他の洗浄液、各種の添加剤を配合することができる。他の洗浄液成分としては、炭化水素、各種のアルコール、ケトン、エステル、ポリエーテル、塩素を含有しないハイドロフルオロカーボン、シクロヘキサノンなどであり、添加剤としては、酸化防止剤、防腐剤、界面活性剤などが挙げられる。本発明のA成分、B成分およびC成分以外の成分は、洗浄液の重量に対して60重量%以下、特には50重量%以下とすることが好ましい。
また、洗浄液組成物であるA成分およびB成分として沸点が近接しているものを選定することにより、蒸留再生や蒸気洗浄を行うことが可能となり、好ましい。
【0018】
本発明の洗浄液組成物は、調合釜および配管などの付帯設備、母型や治具等に付着した光学部品用樹脂を洗浄するために用いられる。光学部品用樹脂とは、具体的には、エピスルフィド樹脂やチオウレタン樹脂、アリルジグリコールカーボネート樹脂、ウレタン系樹脂、メタクリル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリカーボネート樹脂、オレフィン系樹脂、スチレン系樹脂、ノルボルネン系樹脂、チオエーテル・エステル系樹脂などが挙げられ、本発明の洗浄液組成物は、これらのいずれの樹脂にも用いることができる。この中でも特には、他の洗浄液では洗浄が困難なエピスルフィド樹脂に対して好適である。なお、エピスルフィド樹脂とは、エポキシ環の一部もしくは全ての酸素原子か硫黄原子になっている、あるいは複数のエポキシ環同士を結ぶ炭化水素鎖中にイオウ原子を含むエポキシ樹脂であり、チオエポキシ樹脂もしくは含硫エポキシ樹脂などとも呼ばれている。
なお、光学部品としてはレンズ、プリズム、光学用窓材などがあげられる。
【実施例】
【0019】
以下、本発明を実施例、比較例により更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例により限定されるものではない。
【0020】
実施例1〜8、および比較例1〜9
A成分としてN−メチルピロリドン(NMP)、ジメチルイミダゾリジノン(DMI)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMA)、B成分としてジメチルスルホキシド(DMSO)、C成分として蒸留水、15wt%水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液(TMAaq)を使用した。また、比較例には芳香族炭化水素(ジャパンエナジー製EM2000)、3−メチル−3−エトキシブタノールを用いた例も示した。
実施例として調合した洗浄液の配合量を表1に、比較例として調合した洗浄液の配合量を表2に示す。
【0021】
次に、得られた洗浄液を用いて、以下の評価を行った。
[洗浄性テスト]
被検樹脂をガラス板もしくはSUS板にはさんで成形後、成形品を取り外し、被検樹脂が外縁部に残留している板をテストピースとした。これを被検液(洗浄液)に浸漬し、60℃で超音波照射下に10分間洗浄を行い、芳香族系洗浄剤(日鉱石油化学製EM2000)を用いて2度リンスを行った後、乾燥し、テストピース表面の被検樹脂の残留状態を顕微鏡にて観察した。
テストピースに被検樹脂が残留していないものを○、一部の被検樹脂が残留しているものを△、ほとんど全ての被検樹脂が残留しているものを×として評価し、表1、2の下欄に樹脂洗浄性として示した。
【0022】
[ガラス損傷テスト]
被検液(洗浄液)にガラスを70℃で8時間浸漬超音波照射した後、乾燥し、ガラス表面の状態を目視にて観察した。
ガラス表面に損傷が見られないものを○、損傷が少し見られるもの(多少潜傷があるもの)を△、損傷が見られるもの(潜傷や白色の曇りがあるもの)を×として評価し、表1,2の下欄にガラスへの損傷として示した。
【0023】
[銅板腐食テスト]
金属に対する影響を、反応性の高い銅を用いて評価した。
JIS K 2513に準拠し、被検液(洗浄液)に銅板を70℃、24hr浸漬した後、銅板表面の変色状態を銅板腐食標準と比較した。
変色の程度は、以下の基準で表1,2の下欄に銅板腐食性として示した。
1:わずかに変色
2:中程度に変色
3:濃く変色
4:腐食
【0024】
【表1】

【0025】
【表2】

【0026】
この結果から明らかなように、アミド類又はイミダゾリジノン類とスルホキシド類およびpHが9以下でありかつ塩基の規定度が1.0×10-3N以下である水を含有する洗浄液組成物が、どれかひとつからなる洗浄液組成物や芳香族系或いはグリコールエーテル系洗浄剤等に比較して洗浄性に優れていることおよびアルカリ系洗浄剤等に比較してガラスや金属への損傷が低いことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明の洗浄液組成物は、光学部品用樹脂、特にはエピスルフィド樹脂製品の製造、加工時に、調合釜および配管などの付帯設備、母型、治具等に付着した樹脂を洗浄、除去するために適用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
A:アミド類及びイミダゾリジノン類から選択された少なくとも1種と、B:スルホキシド類と、C:pHが9以下であり、かつ塩基の規定度が1.0×10-3N以下である水を含有することを特徴とする光学部品用樹脂洗浄液組成物。
【請求項2】
A:アミド類及びイミダゾリジノン類から選択された少なくとも1種と、B:スルホキシド類との含有量比(A/B)を重量基準で3/17〜17/3とし、C:水の含有量が0.01〜10重量%とすることを特徴とする請求項1に記載の光学部品用樹脂洗浄液組成物。
【請求項3】
アミド類及びイミダゾリジノン類が、ジアルキルホルムアミド、ジアルキルアセトアミド、N−アルキルピロリドン、ジアルキルイミダゾリジノンであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の光学部品用樹脂洗浄液組成物。
【請求項4】
上記スルホキシド類が、ジアルキルスルホキシドであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の光学部品用樹脂洗浄液組成物。
【請求項5】
上記光学部品用樹脂がエピスルフィド樹脂であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の光学部品用樹脂洗浄液組成物。

【公開番号】特開2006−342282(P2006−342282A)
【公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−170603(P2005−170603)
【出願日】平成17年6月10日(2005.6.10)
【出願人】(304003860)株式会社ジャパンエナジー (344)
【Fターム(参考)】