説明

光学部材、光回折素子、および位相板

【課題】紫外線照射による黄変が生じにくい光学部材の提供。
【解決手段】本発明の光学部材1は、光学多層膜3を形成した透明基板2aを少なくとも1枚を含む1対の透明基板2aと2bとに対して、液晶と接する側の面に配向膜4aおよび4bを形成し、次いで重合性液晶組成物を挟持させ、該液晶組成物に波長360〜410nmの光を照射して光重合させて形成した光学異方性材料層5とからなる。前記光学多層膜3は、光学異方性材料層を黄変させる波長320nm以下の紫外線をカットし、重合性液晶組成物や光重合性接着剤を重合あるいは硬化させるために必要な波長360〜410nmの紫外線を透過し、さらに波長405nm帯の光を反射防止する機能をもつ。かかる光学部材は青色レーザーを用いた光ヘッド装置に好適に用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学部材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光記録メディアの大容量化を図るため、情報の書き込み、読み取りに使用されるレーザー光の短波長化が進んでいる。現在、CDでは波長660nm、DVDでは波長780nmのレーザー光が使用されているが、次世代光記録メディアでは、波長390〜430nmのレーザー光(以下、青色レーザー光とも記す。)の使用が検討されている。これに伴い、これらの光記録メディアに用いられる回折素子、位相板等の光学異方性を有する部材(以下、「光学部材」という。)としても青色レーザー光に使用する光学部材が求められている。
【0003】
一方、重合性官能基を有する液晶(以下、「重合性液晶」という。)は、重合性モノマーとしての性質と液晶としての性質とを併有する。したがって、重合性液晶を配向させた後に重合反応を行うと、液晶の配向が固定された光学異方性材料が得られる。該光学異方性材料は、メソゲン骨格に由来する光学異方性を有し、該性質を利用して光学部材に応用することができる。通常、このような光学異方性材料には屈折率異方性の値が大きいことが求められるため、該材料は芳香環基を有することが多い(たとえば特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−195138号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、芳香環基を有する光学異方性材料は、屈折率異方性の値を大きくできる利点があるものの、紫外線に曝露されることにより分解が生じ黄変する場合がある。一般に、光学部材は、紫外線照射による光重合反応によって作製されたり、固定フレームやプリズム等の光学治具に紫外線硬化性樹脂によって固定して光ヘッド装置の一部として用いられたりすることが多いため、上記の黄変が生じる場合がある。
従来は、このような黄変が生じたとしても。使用する波長帯域が650〜780nmであるため、実用上問題とならなかったが、入射する光が青色レーザー光である場合は、青色が黄変した光学異方性材料の補色であるため、特に吸収が大きくなり、青色レーザー光の透過率が低下して利用効率が損なわれる問題が生じる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたものであり、以下の光学部材を提供する。すなわち、本発明は以下の発明を提供する。
<1>少なくとも1枚の透明基板と、芳香環含有重合性液晶を、該重合性液晶が液晶相を示し、かつ該重合性液晶が配向した状態で重合させてなる高分子液晶からなる層と、前記透明基板上に光学薄膜とを有し、長200〜320nmにおける分光透過率が5%以下であり、波長360〜450nmにおける分光透過率が80%以上であることを特徴とする光学部材。
<2>前記重合性液晶の重合が前記透明基板を通して照射された紫外線の作用による重合である、<1>に記載の光学部材。
【0007】
<3>前記光学薄膜が、Taの層およびSiOの層を含む<1>または<2>に記載の光学部材。
【0008】
<4>前記重合性液晶が、下式(1)で表される重合性液晶の少なくとも1種を含む、<1>〜<3>のいずれかに記載の光学部材。
CH=CR−COO−X−(E−Z−E−Z−E−(Z−E−R・・・(1)
ただし、式中の記号は以下の意味を示す。
:水素原子またはメチル基。
:置換基を有していてもよいアルキル基、水素原子、ハロゲン原子、またはシアノ基。
:単結合、−(CH−、−(CHO−、−(RO)−、または−(RO)−(ただし、Rは炭素数2〜4のアルキレン基、Rは炭素数2〜6のアルキレン基、m、nはそれぞれ独立に1〜8の整数、h、kはそれぞれ独立に1〜4の整数、を示す。)。
、Z、Z:それぞれ独立に、単結合、−OCO−、−COO−、−CONH−、−NHCO−、−C≡C−、−CH=CH−、−CHCH−、−N=CH−、−CH=N−、または−N=N−。
p、q:それぞれ独立に0または1。
、E、E、E:それぞれ独立に、1位と4位とが結合手である、置換基を有していてもよい6員環基。ただし、E、E、pが1である場合のE、およびqが1である場合のEの少なくとも1個は6員の芳香環基である。
【0009】
<5>芳香環基が置換基を有していてもよい1,4−フェニレン基である<4>に記載の光学部材。
<6>式(1)で表される化合物が、下式(1A)で表される化合物、下式(1B)で表される化合物、下式(1C)で表される化合物、下式(1D)で表される化合物、下式(1E)で表される化合物、または下式(1F)で表される化合物である<4>または<5>に記載の光学部材。
CH=CR−COO−Ph−OCO−Cy−A−R2A・・・(1A)
CH=CR−COO−A−A−R2A・・・(1B)
CH=CR−COO−(CH−O−Ph−A−R2A・・・(1C)
CH=CR−COO−Cy−Q−Cy−Ph−(A−R2A・・・(1D)
CH=CR−COO−Ph−Ph−Cy−R2A・・・(1E)
CH=CR−COO−Ph−Cy−Ph−R2A・・・(1F)
ただし、式中の記号は以下の意味を示す。
:水素原子またはメチル基。
2A:炭素数1〜8の直鎖アルキル基。
Cy:置換基を有していてもよいトランス−1,4−シクロヘキシレン基。
Ph:置換基を有していてもよい1,4−フェニレン基。
:−COO−または−OCO−。
、A、A、A、A:それぞれ独立に、置換基を有していてもよい1,4−フェニレン基、または、置換基を有していてもよいトランス−1,4−シクロヘキシレン基。ただし、A、Aの少なくとも一方は、置換基を有していてもよい1,4−フェニレン基である。
r:1〜8の整数。
s:0または1。
【0010】
<7><1>〜<6>のいずれかに記載の光学部材を備える光回折素子。
<8><1>〜<6>のいずれかに記載の光学部材を備える位相板。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、紫外線照射による重合反応、樹脂硬化等の工程を経ても光学部材を構成する光学異方性材料の劣化を防止できるので、材料劣化に伴う青色レーザー光の吸収を抑制できる。よって、青色レーザー光の利用効率に優れた光学部材を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の光学部材の断面図。
【図2】本発明の実施例の光学異方性素子に用いた基板の分光透過率曲線図。
【図3】本発明の、別の実施例の光学異方性素子に用いた基板の分光透過率曲線図。
【図4】本発明の比較例の光学異方性素子に用いた基板の分光透過率曲線図。
【図5】本発明の参考例の光学異方性素子に用いた基板の分光透過率曲線図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明者らは、種々の検討を行った結果、芳香環含有重合体からなる光学異方性材料に紫外線を照射する場合に、光学異方性材料の黄変を生じさせる紫外線の波長と、紫外線硬化性樹脂の硬化や重合反応を行うための紫外線の波長とが相違することを見出し、本発明に到った。
本発明者らの検討によると、芳香環に対して強い吸収強度を有する波長280nm以下の紫外線をカットするだけでは、分解による黄変を完全に抑制することができず、黄変による透過率の低下を完全に防止するためには波長300nm以下、好ましくは波長320nm以下の紫外線を5%以下にする必要がある。一方、光学部材作成時の重合反応、樹脂硬化を進行させるためには、また、青色レーザー光に使用する部材としては、波長360〜430nmの光線を透過させる必要がある。
【0014】
よって、基板材料としては、該重合反応、樹脂硬化を進行させるための重合光と、405nm帯、660nm帯、および785nm帯の各波長帯で光学吸収がないことが好ましい。かかる基板の透過特性を実現するためには、光学部材を構成する基板そのものが波長選択的に紫外線をカットできる基板であってもよく、基板の表面に光学薄膜を積層し、該光学薄膜による干渉効果と吸収とによって波長選択的に紫外線をカットする機能を持たせてもよい。
基板そのものが波長選択的に紫外線をカットできる基板の材料としては、アルカリガラス((ショット社製:商品番号:B270 superwite)等)が挙げられる。その他、本発明の光学部材に用いることのできる基板の例としては、(a)遷移金属イオンまたは希土類元素イオンを含むガラス製基板、(b)放射線等の照射により着色中心を生じせしめたガラス製基板、(c)有機染料、顔料よる着色コーティングを施したガラス製基板等が挙げられる。
【0015】
基板の表面に光学薄膜を積層する場合は、基板材料として石英ガラスを選び、波長300nm以下、好ましくは波長320nm以下の紫外線をカットし前記黄変を抑制するための光学薄膜を積層する例が挙げられる。基板に積層する光学薄膜は、紫外線カットフィルタとして機能するものが好ましい。該光学薄膜は、波長405nm近傍における光学吸収がない材料であることが好ましく、かかる材料からなる層を、材料の種類、厚さ、および層構成を適宜選択して積層し、紫外線透過率がカット波長で急峻に変化するエッジフィルタとすることが好ましい。該材料としては、SiO、SiO、ZrO、Ta、TiO、Al、MgF、Nb等の無機材料が挙げられる。光学薄膜の積層方法としては、真空蒸着法、スパッタリング法等が挙げられる。
【0016】
カット波長やカット波長域での透過率は、光学薄膜の層数、各層の材料および厚さを変えることにより調整することができる。本発明における光学薄膜においては、カット波長は300〜350nm、特に320〜350nmとなるように光学薄膜の層数、各層の材料および厚さを調整することが好ましい。また、CD/DVDとの互換使用に配慮して波長660nm近傍および/または785nm近傍のレーザー光に対する反射防止機能も持たせることも可能であり、好ましく行われる。
また、カット波長より短波長側に吸収をもつ材料、カット波長近傍において吸収を持つ材料を基板とし、該光学薄膜と組み合わせて用いると、光学薄膜のみで紫外線をカットする場合と比べて光学薄膜の設計自由度が増すので、層数を減らしたり膜厚を薄くできたりして好ましい。かかるカット波長より短波長側に吸収を持つ材料としては前記のアルカリガラス等が挙げられる。
【0017】
かかる紫外線カットフィルタの機能を有する光学薄膜は、紫外線による硬化や重合を起こす際に、光学異方性材料から紫外線を遮断するように配置される必要がある。たとえば、光学部材を紫外線硬化樹脂で接着して光学治具に組み込むときは、光学薄膜は光学部材の非接着面側に形成されていなければならない。
【0018】
本発明における光学異方性材料は、芳香環含有重合体からなる。該重合体としては、ポリカーボネート等の一軸延伸フィルム、高分子液晶等が挙げられ、用途に応じて屈折率異方性の大きさを調整することが容易であることから、高分子液晶が好ましい。
高分子液晶としては、アクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基、オキシラン環の水素原子の1個が結合手となった基等を有する芳香環含有重合性液晶を重合してなる高分子液晶が好ましい。芳香環含有重合性液晶としては、少なくとも1個の芳香環基を有することが好ましい。該芳香環基としては、置換基を有していてもよい1,4−フェニレン基、置換基を有していてもよいナフタレン−2,6−ジイル基等が挙げられ、置換基を有していてもよい1,4−フェニレン基が好ましい。また、該重合性液晶は、芳香環基以外の環基を有していてもよく、該環基としては、トランス−1,4−シクロヘキシレン基、1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン−2,6−ジイル基、デカヒドロナフタレン−2,6−ジイル基等が挙げられる。これらの環基は置換基を有していてもよい。
【0019】
本発明においては、青色レーザー光に対する耐久性が良好な点から、下式(1)で表される化合物(以下、化合物(1)とも記す。他の化合物についても同様に記す。)を少なくとも1種含む芳香族含有重合性液晶を重合してなる高分子液晶が好ましい。
CH=CR−COO−X−(E−Z−E−Z−E−(Z−E−R・・・(1)
は水素原子またはメチル基であり、水素原子が好ましい。
は置換基を有していてもよいアルキル基(なお、以下において置換基を有するアルキル基を置換アルキル基と記し、非置換のアルキル基は、単にアルキル基と記す。)、水素原子、ハロゲン原子、またはシアノ基である。Rがアルキル基である場合には、炭素数1〜8の直鎖構造または分岐構造のアルキル基が挙げられ、炭素数2〜6の直鎖アルキル基が好ましい。Rが置換アルキル基である場合には、前記アルキル基中の水素原子の1個以上が塩素原子またはフッ素原子で置換された基であり、炭素数1〜4の該基が好ましい。該基としては、トリフルオロメチル基、ジフルオロメチル基、および2,2,2−トリフルオロエチル等が挙げられる。Rがハロゲン原子である場合、塩素原子またはフッ素原子が好ましく、フッ素原子が特に好ましい。Rとしては、炭素数2〜6の直鎖アルキル基が好ましい。
【0020】
は単結合、−(CH−、−(CHO−、−(RO)−、または−(RO)−(ただし、Rは炭素数2〜4のアルキレン基、Rは炭素数2〜6のアルキレン基、m、nはそれぞれ独立に1〜8の整数、h、kはそれぞれ独立に1〜4の整数、を示す。)である。Xとしては、単結合、−(CH−、または−(CHO−が好ましい。
、Z、およびZは、それぞれ独立に、単結合、−OCO−、−COO−、−CONH−、−NHCO−、−C≡C−、−CH=CH−、−CHCH−、−N=CH−、−CH=N−、または−N=N−である。紫外線に対する耐久性の点からは、単結合または−CHCH−が好ましく、化合物(1)の屈折率異方性を大きくでき、液晶温度範囲を広くできる点からは、−OCO−、−COO−、−CONH−、−NHCO−、−C≡C−、または−CH=CH−が好ましい。
pおよびqはそれぞれ独立に0または1である。
【0021】
、E、E、Eは、それぞれ独立に、1位と4位とが結合手である、置換基を有していてもよい6員環基である。以下、置換基を有する6員環基を置換6員環基、非置換の6員環基を単に6員環基と記す。
6員環基としては、1,4−フェニレン基、トランス−1,4−シクロヘキシレン基が好ましい。置換6員環基としては、前記6員環基中の水素原子の1個以上がフッ素原子、塩素原子、またはメチル基に置換された基である。置換基としてフッ素原子または塩素原子を有する場合は、化合物(1)の液晶性を示す温度範囲を広くできる。また、置換基としてメチル基を有する場合は、化合物(1)が液晶性を示す温度範囲の下限を低くできる。なお、本発明においては、E、E、pが1である場合のE、およびqが1である場合のEの少なくとも1個は6員の芳香環基(1,4−フェニレン基または置換1,4−フェニレン基)である。
【0022】
本発明における光学異方性材料は、青色レーザー光に対する耐久性を有することが必要であり、化合物(1)におけるZ〜Z、E〜Eを適切に選択することが好ましい。青色レーザー光に対する耐久性を有するためには、化合物(1)が−Ph−CO−構造を含まないことが好ましい。また、該材料のTgが高いことが必要であるため、化合物(1)が有する環基の数が多く、かつ環基が直接結合していることが好ましい。さらに、直接結合する芳香環基の数は2個以下であることが好ましい。また、芳香環基と芳香環基とを連結する連結基(Z〜Z)は単結合または−CHCH−が好ましい。連結基が−OCO−、−COO−、−CONH−、−NHCO−、−C≡C−、または−CH=CH−である場合は、該連結基を介して結合する環基は脂環構造であることが望ましい。
【0023】
化合物(1)としては、下記化合物(1A)〜下記化合物(1F)が好ましい。
CH=CR−COO−Ph−OCO−Cy−A−R2A・・・(1A)
CH=CR−COO−A−A−R2A・・・(1B)
CH=CR−COO−(CH−O−Ph−A−R2A・・・(1C)
CH=CR−COO−Cy−Q−Cy−Ph−(A−R2A・・・(1D)
CH=CR−COO−Ph−Ph−Cy−R2A・・・(1E)
CH=CR−COO−Ph−Cy−Ph−R2A・・・(1F)。
【0024】
ただし、式中の記号は以下の意味を示す。
:水素原子またはメチル基。
2A:炭素数1〜8の直鎖アルキル基。
Cy:置換基を有していてもよいトランス−1,4−シクロヘキシレン基。
Ph:置換基を有していてもよい1,4−フェニレン基。
:−COO−または−OCO−。
、A、A、A、A:それぞれ独立に、置換基を有していてもよい1,4−フェニレン基、または、置換基を有していてもよいトランス−1,4−シクロヘキシレン基。ただし、A、Aの少なくとも一方は、置換基を有していてもよい1,4−フェニレン基である。
r:1〜8の整数。
s:0または1。
【0025】
化合物(1A)〜化合物(1F)の具体例としては、以下に示す化合物等が挙げられる(ただし、式中のPhおよびCyは前記と同じ意味を示す。r1およびr2はそれぞれ独立に1〜8の整数を示し、a〜iはそれぞれ独立に0〜7の整数を示す。)。
CH=CH−COO−Ph−OCO−Cy−Cy−(CHCH(1Ab)
CH=CH−COO−Ph−Cy−(CHCH(1Bc)
CH=CH−COO−Ph−Ph−(CHCH(1Bd)
CH=CH−COO−(CHr1−O−Ph−Cy−(CHCH(1Ce)
CH=CH−COO−(CHr2−O−Ph−Ph−(CHCH(1Cf)
CH=CR−COO−Cy−OCO−Cy−Ph−Ph−(CHCH(1Dg)
CH=CR−COO−Ph−Ph−Cy−(CHCH(1Eh)
CH=CR−COO−Ph−Cy−Ph−(CHCH(1Fi)。
【0026】
本発明においては、化合物(1)から選ばれる2種以上の化合物を混合して液晶組成物として、または、化合物(1)と化合物(1)以外の重合性液晶とを混合して液晶組成物として、用いることが好ましい。液晶組成物とすることによって、液晶相を示す温度範囲をより広くできる。また、融点(T)降下が生じるため、その取り扱いが容易になる。
液晶組成物が、化合物(1)から選ばれる2種以上の化合物を含む場合、相溶性を良好とするため、R部分以外は同一構造であり、R部分の炭素数が異なる化合物の2種以上を含むことが好ましい。具体的には、Rが炭素数2〜4の直鎖アルキル基である化合物から選ばれる少なくとも1種と、Rが炭素数5〜8の直鎖アルキル基である化合物から選ばれる少なくとも1種とを含有することが好ましい。
【0027】
液晶組成物が、化合物(1)と化合物(1)以外の重合性液晶とを含む場合、化合物(1)以外の重合性液晶としては、アクリロイル基またはメタクリロイル基を有する化合物が好ましく、アクリロイル基を有する化合物が特に好ましい。また、この重合性液晶としては、青色レーザー光に対する耐久性が高いことが好ましいことより、そのメソゲン構造中に、−Ph−CO−構造を含まないことが好ましい。
化合物(1)以外の重合性液晶としては、下記化合物(2A)が挙げられる。化合物(2A)としては、下記化合物(2Aj)が好ましい。ただし、式中のCyは前記と同じ意味を示し、Rは炭素数1〜8のアルキル基を示し、jは0〜7の整数を示す。
CH=CR−COO−Cy−Cy−R(2A)
CH=CH−COO−Cy−Cy−(CHCH(2Aj)。
【0028】
高分子液晶を製造するための液晶組成物としては、重合性液晶を75質量%以上含む液晶組成物であり、90質量%以上含む液晶組成物が好ましい。この液晶組成物は、非液晶性の重合性化合物や非重合性の液晶化合物を含んでもよい。液晶組成物としては、非液晶性重合性化合物や非重合性液晶化合物を実質的に含まず、重合性液晶を90質量%以上、特に95質量%以上、含む液晶組成物が好ましい。本発明において、高分子液晶を製造するための液晶組成物としては、液晶組成物中の全重合性液晶に対して化合物(1)を少なくとも5質量%含む液晶組成物が好ましい。
本発明における液晶組成物としては、前記のように化合物(1)の2種以上を含有する液晶組成物、および、化合物(1)の1種以上と化合物(2)の1種以上とを含有する液晶組成物である。これらの液晶組成物における化合物(1)と化合物(2)の合計量は、液晶組成物中の全重合性液晶に対して50〜100質量%であることが好ましく、80〜100質量%であることが特に好ましい。
【0029】
さらに、液晶組成物中の重合性液晶が実質的に化合物(1)のみからなるか、または化合物(1)と化合物(2)のみからなる液晶組成物がとりわけ好ましい。化合物(1)と化合物(2)とが併用される場合は、両者の合計量に対する化合物(1)の割合は20モル%以上であることが好ましい。特に液晶相を示す温度範囲を拡げること等を目的として化合物(2)を併用する場合、その効果をより発揮させるためには両者の合計に対する化合物(1)の割合は20〜70モル%が好ましい。
本発明における液晶組成物は、化合物(1)および化合物(2)等の重合性液晶以外の他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、重合開始剤、重合禁止剤、カイラル剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定剤等が挙げられる。他の成分は、液晶組成物全体に対して5質量%以下であることが好ましく、2質量%以下であることが特に好ましい。
【0030】
つぎに本発明の光学部材の作製方法について説明する。光学異方性材料としてポリカーボネート等の一軸延伸フィルムを用いる場合は、紫外線硬化性樹脂を用いて基板に接着する方法が挙げられる。光学異方性材料として高分子液晶を用いる場合は、下記に示すいずれかの方法によることができ、面内の光学特性(リタデーション値等)が均一な光学部材を得ることができる点から、方法1が好ましい。
(方法1):配向処理が施された一対の基板間に、芳香環含有重合性液晶を挟持し、熱重合反応または光重合反応を行って光学異方性材料の層を形成し、光学部材を製造する方法。
(方法2):芳香環含有重合性液晶を重合させてなる高分子液晶を溶媒に溶解した溶液を、配向処理が施された基板上に塗布した後にキャスト成膜して光学異方性材料の層を形成し、光学部材を製造する方法。
【0031】
以下、高分子液晶を用いる場合の方法1について説明するが、本発明における光学部材の作製方法は下記に限定されない。
たとえば、前記一対の基板の間に前記芳香族含有重合性液晶を挟持し、該液晶が液晶相を示し、かつ該液晶が配向した状態で、紫外線照射により重合させて光学異方性材料の層を形成し、光学部材を作製することが好ましい。
液晶が液晶相を示す状態に保つためには、雰囲気温度をネマチック相−等方相相転移温度(T)以下にすればよいが、Tに近い温度では液晶の屈折率異方性がきわめて小さいので、雰囲気温度の上限は(T−10)℃以下とすることが好ましい。
前記基板の液晶層と接する側の表面には、常法により配向処理を施すことが好ましい。ついで、前記一対の基板を、そのうちの少なくとも一方の配向処理を施した側の表面の周縁部にシール剤を環状に塗布したうえで、配向処理が施された面を対向した状態で、かつ、ガラスビーズ等のスペーサにより所望の間隔で配設してセルとし、セルの内部に前記液晶組成物を封入する。つぎに、高圧水銀灯、露光機等を用いて光重合反応を行い、光学異方性材料の層を形成して本発明の光学部材とする。
【0032】
かかる光学異方性材料は、作成時に用いた基板に挟持されたまま用いてもよいし、作成時に用いた基板から剥離して、必要に応じて他の基板に担持させて用いてもよい。前者の場合は、作成時に用いる基板の少なくとも一方が、本発明の光学部材に用いる基板の紫外線透過特性を備えなければならず、後者の場合は、光学異方性材料を剥離後に担持される基板が、本発明の光学部材に用いる基板の紫外線透過特性を備えなければならない。
【0033】
図1は、本発明における光学部材1の構造の一例を示す断面図である。一対の基板2a、2bに配向膜4aおよび4bを介して光学異方性材料層5を挟持している。一方の基板2aの配向膜4aが形成されている側と反対側の表面には光学多層膜3が形成されている。
【0034】
本発明の光学部材は、作製時の紫外線照射による材料分解に由来する黄変がないことから、該素子に入射する光(特に青色レーザー光)の透過性が良好であり、耐久性にも優れる。よって、青色レーザー光を用いる光学系用途に有用である。すなわち偏光ホログラム等の回折素子、位相板、開口制御素子、偏向制御素子、波面収差補正素子等の光学素子として光ヘッド装置に用いるのに適している。偏光ホログラムとしては、レーザー光源からの出射光が光ディスクの情報記録面によって反射された戻り光から信号光を分離し、受光素子へ導光する例が挙げられる。位相板としては、1/2波長板として使用し、レーザー光源からの出射光の位相差を制御する例、1/4波長板として光路中に設置し、レーザー光源の出力を安定化する(レーザー光源からの光を有効利用するために1/4波長板として光路中に設置する)例が挙げられる。また、1/2波長板と1/4波長板とを積層して、青色レーザー光を含む2波長あるいは3波長(CD/DVD)互換使用可能な広帯域波長板への適用も可能である。
【実施例】
【0035】
[例1]および[例3]は実施例、[例2]および[例4]は比較例である。なお、以下の例において、光重合開始剤は、チバスペシャリティーケミカルズ社製のイルガキュアー907を用いた。
【0036】
[例1]
[例1−1]セルの作成例
5cm×5cm×0.3mmの合成石英ガラス基板を2枚用意し、各々の合成石英基板表面に、イオンアシスト真空蒸着法によりTa、SiOの層を交互に積層し、11層からなる光学多層膜を形成した。該光学多層膜は波長200〜320nmの紫外線をカットするとともに、波長360〜420nmの光の反射を防止し、透過させる機能を有する。該光学多層膜の各層の厚さを表1に示す。なお、表中の「層数」は、基板表面からの積層順を示し、基板表面に最も近い層を1層とする。
基板の裏面反射込みの光の透過率は、波長200〜310nmの範囲においては約2%以下、波長365nmにおいては約94%、波長405nmにおいては96.3%であった(図2参照)。この基板の多層膜が積層された面と反対側の表面にポリイミド膜を積層し、一定方向にラビング処理した。該一対の基板を、配向膜が積層された面が向かい合うようにかつ、配向方向が同一方向になるように、基板の周囲を接着剤を用いて貼り合わせてセルC1を作製した。その際、接着剤にガラスビーズを混入させ、基板間隔が4μmになるように調整した。
【0037】
【表1】

[例1−2]液晶組成物の調製例
下記化合物(1Aa−3)と下記化合物(1Aa−5)とを1:1(モル比)で混合して液晶組成物Aを得た。つぎに、液晶組成物Aに光重合開始剤を液晶組成物Aに対して0.5質量%添加し、液晶組成物A1を得た。
【0038】
【化1】

[例1−3]光学部材Aの作製例
例1−1で作製したセルC1に、例1−2で得た液晶組成物A1を100℃で注入した。つぎに、露光機(オーク製作所製、商品番号:EXM14)を用い、80℃において、強度80mW/cmの光を積算光量が5300mJ/cmとなるよう照射して光重合反応を行って光学異方性材料の層を形成し、光学部材Aを得た。光学異方性材料は基板のラビング方向に沿って水平配向していた。また、光学部材Aの波長589nmのレーザー光に対する屈折率異方性の大きさは0.055であった。
【0039】
[例1−4]光学部材Aの評価例
均一紫外線露光機(東芝ライテック社製、商品名:トスキュア露光機)を用いて紫外線曝露試験を行った。試験条件は、温度25℃、積算曝露エネルギー40000mW/cm(主波長310〜380nmの積算量)とした。試験前の波長405nmでのレーザー光の透過率は98.5%、試験後の波長405nmでのレーザー光の透過率は98.5%であり、試験前の透過率と変化なく良好であった。
【0040】
[例2]
基板に積層する多層膜を、紫外線カット機能のない4層構成の反射防止膜とした以外は、例1と同様に光学部材Bを作成した。光学部材Bに対し、例1と同条件で紫外線曝露試験を行った。試験前の波長405nmでのレーザー光の透過率は98.4%、試験後の波長405nmでのレーザー光の透過率は96.5%であり、試験後は試験前の透過率と比較して約2%の透過率低下が認められた。
【0041】
[例3]
[例3−1]セルの作製例
5cm×5cm×0.3mmのショット社製B270ガラス基板(波長280nm以下の紫外線吸収能を有する。)を2枚用意し、各々のガラス基板表面に、イオンアシスト真空蒸着法によりTa、SiOの層を交互に積層し、12層からなる光学多層膜を形成した。
該光学多層膜は波長200〜320nmの紫外線をカットするとともに波長360〜420nmの光線は透過し、波長405nm、660nm、および785nmの各波長の入射光の反射を防止する機能を有する。該光学多層膜の各層の厚さを表2に示す。
この基板の裏面反射込みの透過率は、波長200〜310nmの範囲においては約1%以下、波長365nmにおいては約90.7%、波長405nmにおいては95.4%であり、660nmにおいては96%、785nmにおいては96%であった(図3参照)。つぎに、前記一対の基板間隔を4.7μmとする以外は、例1−1と同様にしてセルC2を作製した。
【0042】
【表2】

[例3−2]液晶組成物の調製例
下記化合物(1Eh−3)、下記化合物(1Eh−5)、下記化合物(2Aj−3)、および下記化合物(2Aj−5)を7:7:18:18(モル比)で混合し、液晶組成物Cを得た。つぎに液晶組成物Dに光重合開始剤を液晶組成物Dに対して0.5質量%添加し、液晶組成物D1を得た。
【0043】
【化2】

[例3−3]光学部材Dの作製例
例3−1で作製したセルC2に、例3−2で得た液晶組成物D1を95℃で注入した。つぎに、露光機(オーク製作所製、商品番号:EXM14)を用い、80℃において、強度80mW/cmの光を積算光量が6000mJ/cmとなるよう照射して光重合反応を行って光学異方性材料の層を形成し、光学部材Dを得た。光学異方性材料は基板のラビング方向に沿って水平配向していた。また、光学素子Dの波長405nmのレーザー光に対する屈折率異方性の大きさは0.04であった。
【0044】
[例3−4]光学部材Dの評価例
均一紫外線露光機(浜松ホトニクス社製、商品名:CL6model露光機)を用いて紫外線曝露試験を行った。試験条件は、温度25℃で、積算曝露エネルギー42000mW/cm(主波長310〜380nmの積算量)とした。試験前の波長405nmでのレーザー光の透過率は98.2%、試験後の波長405nmでのレーザー光の透過率は98%であり、試験前後の透過率は変化なく良好であった。
【0045】
[例4]
基板に積層する膜を、紫外線カット機能のない4層構成の青色反射防止膜とした以外は、例3と同様にして光学部材を作製した(図4参照)。光学部材Eに対し、積算暴露エネルギーを40000mW/cm(主波長310〜380nmの積算量)とする以外は、例3−4と同一の条件で紫外線曝露試験を行った。試験前の波長405nmでのレーザー光の透過率は98%、試験後の波長405nmのレーザー光の透過率は96%であり、試験前の透過率と比較して約2%の透過率低下が認められた。
【0046】
[参考例]
基板として例1と同様の合成石英ガラス基板を用い、基板に積層する多層膜を紫外線カット機能のない4層構成の反射防止膜とし、セルに封入する液晶組成物を例3−2で得た液晶組成物D1とし、例3と同様に光学異方性素子Fを作製した。光学異方性素子Fに対し、積算暴露エネルギーを40000mW/cm(主波長310〜380nmの積算量)とする以外は、例3−4と同様の条件で紫外線曝露試験を行った。試験前の波長405nmでのレーザー光の透過率は98.3%、試験後の波長405nmでのレーザー光の透過率は91%であり、試験後は試験前の透過率と比較して約7%の低下が認められた。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の光学異方性素子は、該素子に入射する青色レーザー光の透過率が高いことから、青色レーザーを変調する用途に有効に用いうる。
【符号の説明】
【0048】
1:光学部材
2a、2b:基板
3:光学多層膜
4a、4b:配向膜
5:光学異方性材料層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1枚の透明基板と、
芳香環含有重合性液晶を、該重合性液晶が液晶相を示し、かつ該重合性液晶が配向した状態で重合させてなる高分子液晶からなる層と、
前記透明基板上に光学薄膜とを有し、
長200〜320nmにおける分光透過率が5%以下であり、
波長360〜450nmにおける分光透過率が80%以上であることを特徴とする光学部材。
【請求項2】
前記重合性液晶の重合が前記透明基板を通して照射された紫外線の作用による重合である、請求項1に記載の光学部材。
【請求項3】
前記光学薄膜が、Taの層およびSiOの層を含む請求項1または2に記載の光学部材。
【請求項4】
前記重合性液晶が、下式(1)で表される重合性液晶の少なくとも1種を含む、請求項1〜3のいずれかに記載の光学部材。
CH=CR−COO−X−(E−Z−E−Z−E−(Z−E−R・・・(1)
ただし、式中の記号は以下の意味を示す。
:水素原子またはメチル基。
:置換基を有していてもよいアルキル基、水素原子、ハロゲン原子、またはシアノ基。
:単結合、−(CH−、−(CHO−、−(RO)−、または−(RO)−(ただし、Rは炭素数2〜4のアルキレン基、Rは炭素数2〜6のアルキレン基、m、nはそれぞれ独立に1〜8の整数、h、kはそれぞれ独立に1〜4の整数、を示す。)。
、Z、Z:それぞれ独立に、単結合、−OCO−、−COO−、−CONH−、−NHCO−、−C≡C−、−CH=CH−、−CHCH−、−N=CH−、−CH=N−、または−N=N−。
p、q:それぞれ独立に0または1。
、E、E、E:それぞれ独立に、1位と4位とが結合手である、置換基を有していてもよい6員環基。ただし、E、E、pが1である場合のE、およびqが1である場合のEの少なくとも1個は6員の芳香環基である。
【請求項5】
芳香環基が置換基を有していてもよい1,4−フェニレン基である請求項4に記載の光学部材。
【請求項6】
式(1)で表される化合物が、下式(1A)で表される化合物、下式(1B)で表される化合物、下式(1C)で表される化合物、下式(1D)で表される化合物、下式(1E)で表される化合物、または下式(1F)で表される化合物である請求項4または5に記載の光学部材。
CH=CR−COO−Ph−OCO−Cy−A−R2A・・・(1A)
CH=CR−COO−A−A−R2A・・・(1B)
CH=CR−COO−(CH−O−Ph−A−R2A・・・(1C)
CH=CR−COO−Cy−Q−Cy−Ph−(A−R2A・・・(1D)
CH=CR−COO−Ph−Ph−Cy−R2A・・・(1E)
CH=CR−COO−Ph−Cy−Ph−R2A・・・(1F)
ただし、式中の記号は以下の意味を示す。
:水素原子またはメチル基。
2A:炭素数1〜8の直鎖アルキル基。
Cy:置換基を有していてもよいトランス−1,4−シクロヘキシレン基。
Ph:置換基を有していてもよい1,4−フェニレン基。
:−COO−または−OCO−。
、A、A、A、A:それぞれ独立に、置換基を有していてもよい1,4−フェニレン基、または、置換基を有していてもよいトランス−1,4−シクロヘキシレン基。ただし、A、Aの少なくとも一方は、置換基を有していてもよい1,4−フェニレン基である。
r:1〜8の整数。
s:0または1。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の光学部材を備える光回折素子。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれかに記載の光学部材を備える位相板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−181902(P2010−181902A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−62986(P2010−62986)
【出願日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【分割の表示】特願2004−204705(P2004−204705)の分割
【原出願日】平成16年7月12日(2004.7.12)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】