説明

光学部材のマーキング読み出し方法、マーキング形成方法及びマーキング付光学ガラス部材

【課題】光学性能への影響が小さいマーキングを形成した場合であっても読み出しが容易なマーキング読み出し方法を提供する。
【解決手段】光学ガラス部材上に、前記光学ガラス部材との屈折率差の絶対値が0.1以下である紫外光カットガラス層からなるマーキングが形成された光学部材に、紫外光を照射して、前記紫外光カットガラス層が形成されている部分とそれ以外の部分における、紫外光の透過の差又は紫外光による発光の差により前記マーキングを読み出す、光学部材のマーキング読み出し方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学部材のマーキング読み出し方法、マーキング形成方法及びマーキング付光学ガラス部材に関する。
【背景技術】
【0002】
製品管理や意匠の目的で、部材上へマーキングを施すことがある。マーキングを形成する方法としては、スキャニングレーザによるダイレクトマーキングなどが広く用いられる。なお、ダイレクトマーキングとは、マーキング対象の部材の表面にレーザビームを走査して、レーザアブレーションさせることで当該部材にマーキングを施す方法を意味する。
【0003】
上記以外のマーキング形成方法としては、例えば、金属粉体及び/又は無機顔料を着色源としてペースト中に混練した着色ペーストを塗布被覆したガラス面にレーザ走査することで、レーザ走査部にペーストを硬化させてなる着色ペーストパターンを形成した後、レーザ走査部を除く未硬化の着色ペーストを有機溶剤に溶解させて除去した後で焼成することで、前記着色ペーストパターンを焼成してなる描画パターンをガラス表面上に形成する方法(特許文献1参照)などが開示されている。
【特許文献1】特開2004−351746号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、光学部材にマーキングを施す場合、形成されたマーキングによる散乱や反射を小さく抑える必要がある。散乱や反射が大きいと、たとえ当該マーキングが光学有効径外に形成されていたとしても、フレアやゴーストなどが発生することがある。しかしながら、光学性能(フレア、ゴースト等)に影響を与えないマーキングは、当然ながら読み出しが難しい。
【0005】
そこで、本発明は、光学性能への影響が小さいマーキングを形成した場合であっても読み出しが容易なマーキング読み出し方法並びにマーキング形成方法及びこれによりマーキングが形成されたマーキング付光学ガラス部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、光学ガラス部材上に、当該光学ガラス部材との屈折率差の絶対値が波長587.56nmにおいて0.1以下である紫外光カットガラス層からなるマーキングが形成された光学部材に、紫外光を照射して、上記紫外光カットガラス層が形成されている部分とそれ以外の部分における、紫外光の透過の差又は紫外光による発光の差により上記マーキングを読み出す、光学部材のマーキング読み出し方法を提供する。
【0007】
本発明のマーキング読み出し方法においては、上記紫外光カットガラス層の吸収端波長が、365nm〜436nmであることが好ましい。
【0008】
また、上記紫外光カットガラス層は、以下の(1)〜(3)の少なくとも一つの要件を満たす紫外光カットガラスから形成されることが好ましい。
(1)TeOを重量比で40%以上含有する、
(2)TiOを重量比で5%以上含有する、
(3)CeOを重量比で0.5%以上含有する。
【0009】
上記紫外光カットガラス層を形成する紫外光カットガラスの吸収は、530nmの光に対して0.1〜10%/cmであることが好ましい。
【0010】
さらに、紫外光カットガラス層からなるマーキングは、以下の方法により得られるものであることが好ましい。すなわち、光学ガラス部材上に、当該光学ガラス部材の内部透過率が99.9%/cm以上となる波長において0.1%/cm以上の吸収を有する紫外光カットガラス(光の波長を変化させ光学ガラス部材の内部透過率を測定して、99.9%/cm以上の内部透過率を示す波長を選択し、選択された波長において0.1%/cm以上の吸収を有する紫外光カットガラス)からなる微粒子を媒体に分散させた分散物の皮膜を形成させ、上記皮膜が形成された面のマーキング形成領域に、上記波長のレーザ光を照射して上記微粒子を上記光学ガラス部材に融着させて、マーキングを形成させることが好ましい。
【0011】
本発明はまた、紫外線を透過する材料又は紫外線により発光する材料から形成された光学ガラス部材上に、光学ガラス部材の内部透過率が99.9%/cm以上となる波長において0.1%/cm以上の吸収を有する紫外光カットガラス(上記と同義)からなり、光学ガラス部材との屈折率差の絶対値が波長587.56nmにおいて0.1以下である微粒子を媒体に分散させた分散物の皮膜を形成させ、皮膜が形成された面のマーキング形成領域に、上記波長のレーザ光を照射して微粒子を光学ガラス部材に融着させる、光学ガラス部材のマーキング形成方法を提供する。なお、上記微粒子は、上述の(1)〜(3)の少なくとも一つの要件を満たすことが好ましい。
【0012】
本発明はさらに、上述のマーキング形成方法によってマーキングが形成された、マーキング付光学ガラス部材を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、光学性能への影響が小さいマーキングを形成した場合であっても読み出しが容易なマーキング読み出し方法が提供される。また、当該方法に使用することのできるマーキング付光学ガラス部材及びその製造方法(マーキング形成方法)が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、場合により図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。なお、図面の説明において、同一又は同等の要素には同一符号を用い、重複する説明を省略する。
【0015】
図1は、実施形態に係るマーキング読み出し方法を説明するための断面図である。本実施形態のマーキング読み出し方法に用いられる光学部材100は、レンズ形状の光学ガラス部材1及び光学ガラス部材1上に形成されたマーキング10を備える。マーキング10は、紫外光カットガラス層からなるものであり、マーキング10の形状としては、例えば、バーコードや文字がある。以後、光学部材100においてマーキング10が形成された面を上面、上面に対向する方向を下面と呼ぶ。
【0016】
ここで、マーキング10を形成する紫外光カットガラス層と、光学ガラス部材1との屈折率差の絶対値は波長587.56nm(d線)において0.1以下である。紫外光カットガラス層と、光学ガラス部材1との屈折率差をこのような範囲とすることで、可視波長域全体にわたって界面の反射率が十分小さくなるので、可視光下においてマーキングを目立たないものとすることができる。すなわち、光学部材の光学性能へのマーキングの影響を小さくできる。なお、マーキングを更に目立たないものとするためには、紫外光カットガラス層と光学ガラス部材1との屈折率差の絶対値を0.05以下(更には0.02以下)とすることが好ましい。屈折率差の絶対値は0.1以下にした場合、可視光の界面での反射が非常に小さくなるため、肉眼によりマーキングの存在をほとんど認識できなくなるが、後述する方法によりマーキングの読み出しが可能になるため、製品設計上好ましいものとなる。
【0017】
光学ガラス部材1としては、紫外線を透過する材料又は紫外線により発光する材料から形成されたもの用いることができる。
【0018】
紫外線を透過する材料としては、波長が365nmである紫外線の吸収が0〜10%/cmである材料が好ましい。このような材料としては、例えば、ホウ珪酸系ガラス、ホウ酸ランタン系ガラス及びフッ化物リン酸系ガラスなど、光学ガラスとして市販されている材料を使用することができる。具体的には、ショット社製BK7、HOYA社製LAC8、FCD1及びFC5などが挙げられる。
【0019】
紫外線により発光する材料としては、波長が254nmである紫外線を照射した場合に、肉眼やイメージセンサで検出可能な程度発光する材料が好ましい。このような材料としては、例えば、ホウ珪酸系ガラス及びホウ酸ランタン系ガラスを使用することができる。具体的には、ショット社製BK7及びHOYA社製LAC8などが挙げられる。
【0020】
また、本実施形態においては光学ガラス部材1として、レンズ形状の部材(光学レンズ)を用いた例を示したが、本実施形態の効果を発揮する限りにおいて如何なる光学ガラス部材も使用できる。このような光学ガラス部材としては、プリズム、ミラー、光学フィルター、ビームスプリッター、偏光素子などが挙げられる。
【0021】
光学ガラス部材1に紫外線を透過する材料を用いた場合には、光学部材100の上面側からマーキング10に向けて紫外線5を照射し、照射した紫外線の進行方向とは反対方向(光学部材100の下面側)からマーキング10を見るか、又は光学部材100の下面側からマーキング1に向けて紫外線4を照射し、照射した紫外線の進行方向とは反対方向(光学部材100の上面側)からマーキング10を見ることにより、マーキングを読み出すことができる。マーキング10は紫外光カットガラス層からなり、照射した紫外線を吸収するため、マーキング10は紫外線を透過しないが、光学ガラス部材1は紫外線を透過するため、マーキング部分のみが暗く認識される。したがって、マーキングを影文字のようにして読み出すことができる。
【0022】
光学ガラス部材1に紫外線を透過する材料を用いた場合において、マーキングを読み出す際に照射する紫外線の波長は、マーキング10によって十分にカットされる波長であることが好ましい。具体的には、254〜405nmが好ましく、365〜405nmがより好ましい。紫外線の波長が365nmの付近にあると、マーキングの読み出しが特に容易になる。
【0023】
光学ガラス部材1に紫外線により発光する材料を用いた場合には、光学部材100の上面側からマーキング10に向けて紫外線5を照射し、紫外線の進行方向と同一方向(光学部材100の上面側)からマーキング10を見ることにより、マーキングを読み出すことができる。このように光学部材100に紫外線を照射すると、光学ガラス部材1は紫外線により発光する。しかし、マーキング10は紫外光カットガラス層からなるものであるため、光学ガラス部材1からの発光を吸収する。以上により、マーキング部分のみが暗く認識され、マーキングを影文字のように読み出すことができる。
【0024】
光学ガラス部材に紫外線により発光する材料を用いた場合において、マーキングを読み出す際に照射する紫外線の波長は、マーキング10によって十分にカットされる波長であることが好ましい。具体的には、254〜405nmが好ましく、254〜365nmがより好ましい。紫外線の波長が254nmの付近にあると、マーキングの読み出しが特に容易になる。
【0025】
紫外光カットガラス層の形成に用いられる紫外光カットガラスは、紫外光を吸収するものであれば特に制限なく用いることができるが、その吸収端波長が、365nm(i線)〜436nm(g線)であることが好ましい。このような吸収端波長を有する紫外光カットガラスを用いることでマーキングの読み出しが容易になる。また、吸収端波長が436nm以上であると、可視光を吸収するようになるため、光学部材の使用領域においてもマーキングが目立つようになる傾向にある。
【0026】
紫外光カットガラス層は、TeOを重量比で40%以上含有する紫外光カットガラスから形成されることが好ましい。紫外光カットガラス層をこのような紫外光カットガラスから形成させることで、厚さ1〜10μm程度のごく薄い層でも十分な紫外線カット効果が得られ、かつ可視光での不可視性に優れたものとなる。TeOの含有量は60〜90%であるとより好ましく、70〜80%であると更に好ましい。なお、本明細書において、ガラスとは、非晶質固体のことをいう。
【0027】
紫外光カットガラス層はまた、TiOを重量比で5%以上含有する紫外光カットガラスから形成されることが好ましい。紫外光カットガラス層をこのような紫外光カットガラスで形成することで、厚さ1〜10μm程度のごく薄い層でも十分な紫外線カット効果が得られ、かつ可視光での不可視性に優れたものとなる。TiOの含有量は7〜10%であるとより好ましい。
【0028】
紫外光カットガラス層はさらに、CeOを重量比で0.5%以上含有した紫外光カットガラスから形成されることが好ましい。紫外光カットガラス層をこのような紫外光カットガラスで形成することで、厚さ1〜10μm程度のごく薄い層でも十分な紫外線カット効果が得られ、かつ可視光での不可視性に優れたものとなる。CeOの含有量は1〜3%であるとより好ましい。
【0029】
紫外光カットガラスとして用いるのに好適なガラスとしては、例えば、光学ガラスとして市販されているガラスであって吸収端波長が365nm〜436nmである、HOYA社製FF8、M−FD60などが挙げられる。
【0030】
なお、紫外光カットガラス層を形成する紫外光カットガラスの吸収は、530nmの光に対して0.1〜10%/cmであることが好ましい。このような紫外光カットガラスを用いると、光学ガラス部材上にマーキングを形成した際の、光学ガラス部材の性能の低下を抑制することができる。
【0031】
次に、光学ガラス部材上へのマーキングの形成について説明する。
【0032】
図2は、光学ガラス部材上へのマーキングの形成方法の好適な一例を説明するための断面図である。マーキングの形成にはまず、紫外線を透過する材料又は紫外線により発光する材料からなる光学ガラス部材1を準備する。次に、準備した光学ガラス部材1上に、紫外光カットガラスからなる微粒子を水溶性高分子及び水からなる媒体に分散させて得られる分散物(塗布材料)を塗布し、揮発成分を除去して、皮膜15を形成させる。そして、形成された皮膜15に対して、レーザ装置8から生じるレーザ光9を照射し、皮膜15が形成された面のマーキング形成領域(マーキングを形成しようとする領域)の皮膜15を加熱して、皮膜15に含まれる紫外光カットガラスからなる微粒子を光学ガラス部材1に融着(溶融及び固着)させる。
【0033】
以上によりマーキングが形成されるが、レーザ光9の照射により、紫外光カットガラスからなる微粒子1つずつが光学ガラス部材1に融着してもよいし、微粒子同士が融着した状態で光学ガラス部材1に融着してもよい。なお、レーザ光9の波長は、光学ガラス部材1の内部透過率が99.9%/cm以上となる波長であり、この波長において、紫外光カットガラスからなる微粒子は0.1%/cm以上の吸収を有している。
【0034】
融着後、光学ガラス部材1を洗浄(水洗)することが好ましい。洗浄により、皮膜15のうち融着した部分(すなわち、マーキング形成領域)のみが光学ガラス部材1上に残留する。本実施形態では媒体として水溶性高分子が溶解された水を用いているため、レーザ光9が照射されていない部分の皮膜は、洗浄(水洗)により容易に除去することができる。一方、レーザ光9が照射された部分は発生する熱により水溶性高分子が燃焼し除去されており、完全除去されていない場合でも、洗浄(水洗)時に除去される。
【0035】
以上により、光学ガラス部材1上にマーキング10(紫外光カットガラスからなる微粒子の融着物)が形成された光学部材100(マーキング付光学ガラス部材)が得られる。なお、レーザ光9の走査を、バーコード形状、文字形状にすることにより、マーキング10の形状をそれぞれバーコード形状、文字形状とすることができる。
【0036】
図3は、このようなマーキング形成方法により得られるマーキング付ガラス部材の断面図である。図3に示すマーキング付光学ガラス部材100は、光学ガラス部材1とこの上に形成されたマーキング10(紫外光カットガラスからなる微粒子の融着物)とを備えている。なお、マーキング10の形状としては、上述のように、バーコード形状や文字形状が挙げられる。
【0037】
紫外光カットガラスからなる微粒子は、例えば、上述したような紫外光カットガラスを粉砕して作製することができる。紫外光カットガラス微粒子の平均粒径は、通常1〜10μmであるが、表面散乱を抑制し不可視性を高める観点からは、1μm程度であることが好ましい。
【0038】
媒体としては、洗浄により洗い流せるものが好ましい。洗浄方法には特に制限はなく、光学部材の機械的強度などにより適宜選択すればよい。洗浄方法としては、例えば、超音波洗浄、浸漬洗浄、噴射洗浄などが挙げられる。
【0039】
媒体としては、例えば、水;メタノールやエタノール等のアルコール類が挙げられる。塗布層の塗布厚みの制御などの成形性の観点からは、媒体は、バインダポリマーと、バインダポリマーを溶解、膨潤又は分散できる溶媒とを含有することが好ましい。バインダポリマーとしてはポリビニルアルコール(PVA)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)が挙げられ、上記溶媒としては、それぞれ、水;メタノールやエタノール等のアルコール類などが挙げられる。
【0040】
なお、工程の簡略化の観点からは、媒体は水で洗浄できることが好ましい。このような観点からは、バインダポリマーが水溶性高分子であり、溶媒が水であることが好ましい。水溶性高分子としては、デンプン、ゼラチン、セルロース誘導体(カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース等)、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、ポリエチレンオキシド等が挙げられ、水溶性や分子量の調整が容易で種々の分散物が得られることから、ポリビニルアルコール(PVA)が好ましい。なお、PVAは、通常700℃以上で分解し揮発するため、レーザ走査した後に残渣として残らない。このことからもバインダポリマーとして用いるのに好適である。
【0041】
紫外光カットガラスからなる微粒子を媒体に分散させた分散物の合計重量に対する、バインダポリマーの含有量は、1〜10重量%であることが好ましく、1〜5重量%であることがより好ましい。
【0042】
ポリビニルアルコールを水に溶解させた水溶液を媒体として用いる場合には、ポリビニルアルコール水溶液全量に対するポリビニルアルコールの含有量は、5〜20重量%であることが好ましい。ポリビニルアルコールをこのような含有量とすることで、光学ガラス1上への皮膜15の形成がしやすくなる。また、洗浄時の洗浄残りを少なくできる。
【0043】
塗布材料の光学ガラス部材1上への塗布方法に特に制限は無いが、例えば、エアブラシによる噴霧、筆及びスタンプなどを用いた塗布、ディップコーティング、スピンコーティングが挙げられる。また、塗布は、乾燥後の厚み、すなわち、皮膜15の厚みが、5〜50μmとなるようにすることが好ましい。皮膜15の厚みは、5〜20μmであれば特に好ましい。皮膜15の厚みが50μmより大きいと、レーザ光による焼付けが困難になる傾向にあり、5μmより小さいと、マーキングが読み出し難くなる傾向にある。
【0044】
皮膜15の溶融及び固着に用いられるレーザ光9としては、例えば、YAGレーザ、YVOレーザ、COレーザが挙げられる。レーザを照射する波長は、YAGレーザ及びYVOレーザの基本波長(1060nm)、第二高調波(530nm)、第三高調波(353nm)が好ましい。
【0045】
また、塗布材料に用いられる紫外光カットガラスは、光学ガラス部材1の内部透過率が99.9%/cm以上となる波長において、0.1%/cm以上(好ましくは0.5%/cm以上)の吸収を有するガラスを用いることが好ましく、皮膜15へ照射するレーザ光9の波長は、光学ガラス部材1の内部透過率が99.9%/cm以上(好ましくは、99.95%以上、更には99.99%以上)となる波長であることが好ましい。
【0046】
このようなガラスを用いた塗布材料より形成された皮膜15は、上述のレーザ波長でわずかながら吸収が有るため、上述の波長のレーザを照射するとレーザ光を吸収し発熱する。そして皮膜15は発熱することにより溶融し、光学ガラス部材1表面に固着する。一方、上記レーザ光は、光学ガラス部材1にはほとんど吸収されないため、光学ガラス部材へのクラックの発生などを防止しつつ、光学ガラス部材1上に所望の形状のマーキングを形成できる。
【0047】
なお、塗布材料に用いられるガラス及び光学ガラス部材1に用いられるガラスは、その組成やガラス転移温度が近いことが好ましい。その組成やガラス転移温度が近いガラスは、互いに固着しやすい。
【0048】
このような方法により、光学ガラス部材上へマーキングを形成した場合、ダイレクトマーキングによりマーキングを形成する場合と比較し、光学ガラス部材へのクラックの発生を低減できる上、微細なマーキングを形成することも可能となる。
【0049】
ダイレクトマーキングは、通常、有色のプラスチック部材や金属の表面にレーザビームを走査して、レーザアブレーションさせて描画する手法である。しかし、光学ガラスなどの脆性材料にマーキングを行う場合、レーザの波長での吸収を高めると、クラックが発生するという問題がある。一方、レーザの波長での吸収を小さくするとアブレーション自体が困難になる。
【0050】
YAGレーザやYVOレーザの基本波長(1060nm)及びその第二高調波(530nm)を用いて光学ガラスにダイレクトマーキングを施した場合、光学ガラスのアブレーション自体が困難である。第三高調波(353nm)では、アブレーションは可能だがクラックが避けられない。ガラスの吸収波長域である赤外域の炭酸ガスレーザを用いれば、アブレーションは可能であるが、波長が10.6μm程度と長いためにmmサイズ以下の微細なマーキングが難しい。
【0051】
また、上述の方法以外のマーキング形成方法としては、例えば、(I)対象物の内部にレーザビームを収束させてレーザ走査して、表面に損傷を与えることなく内部にマークするレーザ描画方法、(II)透明基板内部に焦点を結ぶようにレーザ走査して透明基板内部を選択的に不透明化することにより描画する方法、(III)描画対象物を透過する波長域のレーザビームを、fθガラス部材を用いて対象物の内部に集光させてレーザ走査する描画する方法、及び、(IV)銀ペーストなどの金属ペーストをガラス表面に塗布して、レーザを走査することによってペーストを硬化させて描画パターンを形成する方法などが挙げられる。しかし、これらの方法を光学ガラス部材に用いる場合には、後述のような問題がある。
【0052】
(I)の方法によれば、対象物がガラスの場合、レーザビームを内部に集光させるとクラックが発生し表面まで到達することがあり、対象物が脆くなるという問題がある。
【0053】
(II)の方法によれば、ガラス内部に描画することが可能であるものの、レーザビームの集光位置を材料の深さ方向に厳密に制御できないため、薄い透明材料の描画に適さないという問題や、描画方法がレーザ走査したことによるガラス内部のクラックの生成によるものなので、散乱が大きすぎるという問題がある。
【0054】
(III)の方法によれば、ガラス内部に描画することが可能であるが、描画方法がレーザビームを走査したことによるガラス内部のクラックの生成によるものなので、(II)の方法と同様に散乱が大きすぎるという問題がある。
【0055】
(IV)の方法によれば、ガラスにクラックを発生させることなく自由な描画が可能であるが、金属材料のマークは反射及び散乱が大きく、光学部品へ適用した場合、光学性能に悪影響を及ぼす。さらに金属ペーストをガラスと固着させるために焼成が必要である。したがって、精密な形状を求められる光学部品への適用は困難であった。
【0056】
しかしながら、本発明によれば、上記(I)〜(IV)の方法が有する問題点を解消することができ、光学性能への影響が小さいマーキングを形成した場合であっても読み出しが容易なマーキング付光学ガラス部材とその製造方法(マーキング形成方法)が提供可能になる。また、このようなマーキング付光学ガラス部材により、上述した特徴を有するマーキング読み出し方法が提供可能になる。
【0057】
以上、本実施形態における好適なマーキング読み出し方法及びマーキングの形成方法の好適な一例を説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例】
【0058】
(実施例1)
(塗布材料の作製)
紫外線カットガラスとして、特公平4−27180号公報の実施例17に記載されたガラスを準備した。当該紫外線カットガラスの組成及び作製方法を下記に示す。
【0059】
[ガラス組成]
TeO :50mol%;
:5mol%;
ZnO :10mol%;
PbO :10mol%;
:25mol%;
【0060】
[ガラス作製方法]
所定量の原料を混合し、850℃で20分溶融させた後、300℃程度に加熱した定盤の上にキャストして紫外線カットガラスを得た。
【0061】
特公平4−27180号公報に開示されているTeを多く含んだガラスは、その吸収端が400〜420nm程度であり、さらにガラス転移点が低いため(400℃程度)溶融・固着しやすい。
【0062】
準備した紫外線カットガラスを平均粒径1μm程度まで細かく粉砕して、ガラス粉(紫外線カットガラス微粒子)とした。さらに、ガラス粉1gに対して、純水1g、ポリビニルアルコール10重量%水溶液(和光純薬製)1gを混合して、塗布材料(ガラスペースト)を作製した。
【0063】
(光学ガラス部材上へのマーキングの形成)
光学ガラス部材として、紫外光を透過する光学レンズ(Schott社製BK7)を準備した。そして上述のように作製した塗布材料を、エアブラシを用いて光学レンズに噴霧して、厚みが約50μm程度の塗布材料層を形成した。
【0064】
その後、塗布材料層を乾燥させ、塗布層を形成した後、図2に示すようにスキャニングレーザを用いて、光学部材表面にガラスを溶融・固着させた。使用したレーザはYVOレーザの第二高調波(ミヤチテクノス社製、ML−9001A、波長530nm)を光源とするレーザマーカーであった。このようなレーザは、1mm以下の小さな文字やバーコードを印字することが可能である。
【0065】
光学レンズの外周から1mmの位置に、高さ0.5mmの文字になるようにレーザを発振・走査した。条件は、電流23A、周波数20kHz、走査速度100mm/sであった。以上により、塗布層の一部が溶融し光学レンズ表面と固着した。界面での反射も小さく目立たないマーキングが形成できた。なお、この波長において、光学ガラス部材の内部透過率は99.9%/cm以上であり、紫外線カットガラス層に用いられるガラスの吸収は2.5%/cmであり、吸収端は382nmであった。
【0066】
レーザ走査後、光学レンズ表面に付着した未走査部の塗布層を水で洗浄した。洗浄は、塗布層の一部が固着した光学レンズを水槽に入れ、超音波洗浄機で洗浄した後、純水で水洗する方法により行った。洗浄後、光学部材を乾燥させ乾燥させた。以上のように、光学レンズ上にレーザ走査部のみに、紫外線カットガラス層からなるマーキングを形成した。
【0067】
作製した光学部材において、紫外線カットガラス層及び光学レンズの波長587.56nmにおける屈折率は、それぞれ、1.76及び1.74であった。すなわち、紫外線カットガラス層と光学レンズとの屈折率差は、波長587.56nmにおいて0.02であった。なお、紫外線カットガラス層は、可視光下ではほとんど目立たないものであった。さらに、反射、散乱ともに光学部材の光学性能に悪影響を与えない水準のものであった。
【0068】
(マーキングの読み出し)
【0069】
作製した光学部材の下面から波長365nmのいわゆるブラックライトを設置して、ガラス文字をその透過光で観察した。ガラス文字部分だけ光が透過せず、影文字のように明瞭に文字を視認できた。
【0070】
(実施例2)
(塗布材料の作製)
原料ガラスとしてSchott社製BK7を準備した。準備した原料ガラス(BK7)を平均粒径1〜5μm程度に粉砕した。粉砕した粉末体を95g秤量した。そして、当該粉末体に、TiO粉末を添加し、充分に撹拌した。TiO粉末の添加量は、粉末体とTiO粉末の合計量に対して、5重量%とした。さらにTiO粉末を添加した粉末体を白金坩堝に入れ、1400℃で30分間溶解し、撹拌、清澄を行った後、400℃に加熱した金属製型上にキャストし、固化させた。そしてその後徐冷して、紫外線カットガラスを得た。前記光学ガラス部材との屈折率差が0.1以下である。
【0071】
この紫外線カットガラスを平均粒径1μm程度まで細かく粉砕して、ガラス粉とした。さらに、ガラス粉1gに対して、純水1g、ポリビニルアルコール10重量%水溶液(和光純薬製)1gを混合して、塗布材料(ガラスペースト)を作製した。
【0072】
(光学ガラス部材上へのマーキングの形成)
光学ガラス部材として、Schott社製BK7からなる光学レンズを準備した。そして上述のように作製した塗布材料を、エアブラシを用いて光学レンズに噴霧して、厚みが約50μm程度の塗布材料層を形成した。
【0073】
さらに実施例1と同様の方法で、マーキングの形成された光学部材を作製した。作製した光学部材において、紫外線カットガラス層及び光学レンズの波長587.56nmにおける屈折率は、それぞれ、1.76及び1.74であった。すなわち、紫外線カットガラス層と光学レンズとの屈折率差は、波長587.56nmにおいて0.02であった。なお、紫外線カットガラス層は、可視光下ではほとんど目立たないものであった。さらに、反射、散乱ともに光学部材の光学性能に悪影響を与えない水準のものであった。
【0074】
なお、塗布層に照射したレーザ波長において、光学ガラス部材の内部透過率は99.9%/cm以上であり、紫外線カットガラス層に用いられるガラスの吸収は0.6%/cmであり、吸収端は368nmであった。
【0075】
(マーキングの読み出し)
作製した光学部材の下面から波長365nmのいわゆるブラックライトを設置して、ガラス文字をその透過光で観察した。ガラス文字部分だけ光が透過せず、影文字のように明瞭に文字を視認できた。
【0076】
(実施例3)
(塗布材料の作製)
「ガラス工学ハンドブック(朝倉書店)」に開示されている下記の組成で金属酸化物あるいは金属炭酸塩のガラス原料粉末を調合した。
【0077】
SiO :4.0重量%;
:32.7重量%;
CaO :11.0重量%;
PbO :15.8重量%;
La :29.0重量%;
ZrO :7.5重量%;
As :0.2重量%;
【0078】
そして、調合した当該原料粉末体に、CeO粉末を添加し、充分に撹拌した。CeO粉末の添加量は、粉末体とCeO粉末の合計量に対して、0.5重量%とした。さらにCeO粉末を添加した粉末体を白金坩堝に入れ、1350℃で30分間溶解し、撹拌、清澄を行った後、400℃に加熱した金属製型上にキャストし、固化させた。そしてその後徐冷して、紫外線カットガラスを得た。得られた紫外線カットガラスの吸収端は、i線(波長365nm)以上g線(波長436nm)以下の、372nmであった。
【0079】
このように作製した紫外線カットガラスを、平均粒径1μm程度まで細かく粉砕して、ガラス粉とした。さらに、ガラス粉1gに対して、純水1g、ポリビニルアルコール10重量%水溶液(和光純薬製)1gを混合して、塗布材料(ガラスペースト)を作製した。
【0080】
(光学ガラス部材上へのマーキングの形成)
光学ガラス部材として、Schott社製LAF2(屈折率1.744)からなる光学レンズを準備した。そして上述のように作製した塗布材料を、エアブラシを用いて光学レンズに噴霧して、厚みが約50μm程度の塗布材料層を形成した。
【0081】
さらに実施例1と同様の方法で、マーキングの形成された光学部材を作製した。作製した光学部材において、紫外線カットガラス層及び光学レンズの波長587.56nmにおける屈折率は、それぞれ、1.76及び1.744であった。すなわち、紫外線カットガラス層と光学レンズとの屈折率差は、波長587.56nmにおいて0.016であった。なお、紫外線カットガラス層は、可視光下ではほとんど目立たないものであった。さらに、反射、散乱ともに光学部材の光学性能に悪影響を与えない水準のものであった。
【0082】
なお、塗布層に照射したレーザ波長において、光学ガラス部材の内部透過率は99.9%/cm以上であり、紫外線カットガラス層に用いられるガラスの吸収は0.5%/cmであり、吸収端は372nmであった。
【0083】
(マーキングの読み出し)
作製した光学部材の下面から波長365nmのいわゆるブラックライトを設置して、ガラス文字をその透過光で観察した。ガラス文字部分だけ光が透過せず、影文字のように明瞭に文字を視認できた。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】実施形態に係るマーキング読み出し方法を説明するための断面図である。
【図2】光学レンズ上へのマーキングの形成方法の好適な一例を説明するための図である。
【図3】実施形態に係るマーキング付光学ガラス部材の断面図である。
【符号の説明】
【0085】
1…光学ガラス部材、8…レーザ装置、9…レーザ光、10…マーキング、15…皮膜、100…光学部材。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学ガラス部材上に、前記光学ガラス部材との屈折率差の絶対値が波長587.56nmにおいて0.1以下である紫外光カットガラス層からなるマーキングが形成された光学部材に、
紫外光を照射して、
前記紫外光カットガラス層が形成されている部分とそれ以外の部分における、紫外光の透過の差又は紫外光による発光の差により前記マーキングを読み出す、光学部材のマーキング読み出し方法。
【請求項2】
前記紫外光カットガラス層の吸収端波長が、365nm〜436nmである、請求項1に記載のマーキング読み出し方法。
【請求項3】
前記紫外光カットガラス層が、TeOを重量比で40%以上含有する紫外光カットガラスから形成される、請求項1又は2に記載のマーキング読み出し方法。
【請求項4】
前記紫外光カットガラス層が、TiOを重量比で5%以上含有する紫外光カットガラスから形成される、請求項1〜3のいずれか一項に記載のマーキング読み出し方法。
【請求項5】
前記紫外光カットガラス層が、CeOを重量比で0.5%以上含有する紫外光カットガラスから形成される、請求項1〜4のいずれか一項に記載のマーキング読み出し方法。
【請求項6】
前記紫外光カットガラス層を形成する紫外光カットガラスの吸収が、530nmの光に対して0.1〜10%/cmである、請求項1〜5のいずれか一項に記載のマーキング読み出し方法。
【請求項7】
光学ガラス部材上に、
前記光学ガラス部材の内部透過率が99.9%/cm以上となる波長において0.1%/cm以上の吸収を有する紫外光カットガラスからなる微粒子を媒体に分散させた分散物の皮膜を形成させ、
前記皮膜が形成された面のマーキング形成領域に、前記波長のレーザ光を照射して前記微粒子を前記光学ガラス部材に融着させて、前記マーキングを形成させる、請求項1〜6のいずれか一項に記載のマーキング読み出し方法。
【請求項8】
紫外線を透過する材料又は紫外線により発光する材料から形成された光学ガラス部材上に、
前記光学ガラス部材の内部透過率が99.9%/cm以上となる波長において0.1%/cm以上の吸収を有する紫外光カットガラスからなり、前記光学ガラス部材との屈折率差の絶対値が波長587.56nmにおいて0.1以下である微粒子を媒体に分散させた分散物の皮膜を形成させ、
前記皮膜が形成された面のマーキング形成領域に、前記波長のレーザ光を照射して前記微粒子を前記光学ガラス部材に融着させる、光学ガラス部材のマーキング形成方法。
【請求項9】
前記微粒子の吸収端波長が、365nm〜436nmである、請求項8に記載のマーキング形成方法。
【請求項10】
前記微粒子が、TeOを重量比で40%以上含有する紫外光カットガラスから形成される、請求項8又は9に記載のマーキング形成方法。
【請求項11】
前記微粒子が、TiOを重量比で5%以上含有する紫外光カットガラスから形成される、請求項8〜10のいずれか一項に記載のマーキング形成方法。
【請求項12】
前記微粒子が、CeOを重量比で0.5%以上含有する紫外光カットガラスから形成される、請求項8〜11のいずれか一項に記載のマーキング形成方法。
【請求項13】
前記微粒子の吸収が、530nmの光に対して0.1〜10%/cmである、請求項8〜12のいずれか一項に記載のマーキング形成方法。
【請求項14】
請求項8〜13のいずれか一項に記載のマーキング形成方法によってマーキングが形成された、マーキング付光学ガラス部材。

【図1】
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【図3】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−92299(P2010−92299A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−262142(P2008−262142)
【出願日】平成20年10月8日(2008.10.8)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】