説明

光後硬化性組成物、有機エレクトロルミネッセンス素子用封止剤、有機エレクトロルミネッセンス表示装置の製造方法、及び、有機エレクトロルミネッセンス表示装置

【課題】光照射により硬化反応が進行する一方、光照射後に充分な可使時間を確保することができ、有機エレクトロルミネッセンス素子の封止剤として用いることができる光後硬化性組成物を提供する。
【解決手段】光カチオン重合性化合物、光カチオン重合開始剤及び下記一般式(1)で表される構造を有する硬化遅延剤を含有する光後硬化性組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光照射により硬化反応が進行する一方、光照射後に充分な可使時間を確保することができ、表示素子、特に有機エレクトロルミネッセンス素子の封止剤として好適に用いることができる光後硬化性組成物、有機エレクトロルミネッセンス素子用封止剤、有機エレクトロルミネッセンス表示装置の製造方法、及び、有機エレクトロルミネッセンス表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光照射直後に硬化せず、可使時間が確保できる遅延硬化型の硬化性組成物が種々提案されている。
例えば、特許文献1には、ビスフェノール型エポキシ樹脂とヒドロキシル基含有有機化合物及び光重合開始剤を配合してなる光硬化性樹脂組成物が記載されており、ヒドロキシル基含有有機化合物をエポキシ樹脂100重量部に対して0.2〜200重量部含有することで優れた遅延硬化特性を示すことが記載されている。
また、例えば、特許文献2には、カチオン重合性化合物と、高分子ポリマーと、光カチオン重合開始剤を含む接着剤組成物において、アルキレングリコール、ポリヒドロキシルアルカン、ポリオキシアルキレンポリオール等のヒドロキシル基含有化合物を含むことにより、紫外線照射後の接着可能時間を調整しうることが記載されている。
このような遅延硬化型の硬化性組成物は、光の照射により損傷しやすい部品を貼り合わせたり封止したりする場合に有効であると考えられる。
【0003】
光照射による損傷を受ける部品の例として、例えば、有機エレクトロルミネッセンス(EL)素子が挙げられる。有機EL素子は、近年、従来のボトムエミッション方式の有機EL素子に代わって、有機EL素子から発せられた光を上面側から取り出すトップエミッション方式の有機EL素子が注目されている。この方式は、開口率が高く、低電圧駆動となることから、長寿命化に有利であるという利点がある。このようなトップエミッション方式の有機EL素子では、通常、積層体を2枚のガラス等の透明材料からなる防湿性基材により挟み込み、該防湿性基材間を充填剤で充填することにより封止している(例えば、特許文献3参照)。
【0004】
このようなトップエミッション方法の有機EL素子は、硬化遅延型でない充填剤を用いて封止しようとすると、防湿性基板間に充填した充填剤を硬化させる際に加えられる光に有機EL素子が直接さらされる可能性がボトムエミッションに比べて格段に高くなり、有機EL素子の性能の低下や劣化が生じるといった問題があった。そこで、上述の遅延硬化型の硬化性組成物を、有機EL素子を封止する充填剤として用いると、該硬化性組成物を防湿性基板間に充填する前に、光を照射して活性化させておき、その可使時間内に防湿性基板間に充填し、その後硬化させることで、有機EL素子が光に直接さらされることを防止することができる。
【0005】
しかしながら、従来の遅延硬化型の硬化性組成物は、充分な可使時間を確保するために硬化遅延剤の配合量を多くする必要があったため、封止剤の硬化時に発生するアウトガス量が多くなり、例えば、有機EL素子等の表示素子の封止に用いた場合、有機EL素子等の表示素子の性能の低下又は劣化を招く場合があった。
【特許文献1】特開平7−109333号公報
【特許文献2】特開2001−098242号公報
【特許文献3】特開2001−357973号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記現状に鑑み、光照射により硬化反応が進行する一方、光照射後に充分な可使時間を確保することができ、表示素子、特に有機エレクトロルミネッセンス素子の封止剤として好適に用いることができる光後硬化性組成物、有機エレクトロルミネッセンス素子用封止剤、有機エレクトロルミネッセンス表示装置の製造方法、及び、有機エレクトロルミネッセンス表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、光カチオン重合性化合物、光カチオン重合開始剤、及び、下記一般式(1)で表される構造を有する硬化遅延剤を含有する光後硬化性組成物である。
【化1】

一般式(1)中、R〜R12は、少なくとも1つが炭素水1〜20のアルキル基を表す。また、前記アルキル基は、直鎖状又は分枝鎖状の炭素数1〜20のアルコキシル基、ハロゲン原子、−OH基、−COOH基及び−COO−アルキルエステル基(ただし、アルキル部分は、直鎖状又は分枝鎖状の炭素数1〜20残基である)からなる群より選択される1以上の官能基で置換されていてもよく、更に、隣接するR及びRn+1(但し、nは、1〜11の奇数を表す)は、共同して環状アルキル骨格を形成していてもよい。
以下に本発明を詳述する。
【0008】
本発明者らは、鋭意検討した結果、特定の構造を有する硬化遅延剤を含有する光後硬化性組成物は、光照射により硬化反応が進行する一方、硬化遅延剤の含有量を少なくしても光照射後の可使時間を充分に確保することができ、更に、硬化時に生じるアウトガス量を少なくすることができ、表示素子、特に有機EL素子を、性能を低下又は劣化させることなく封止する封止剤として好適に用いることができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
本発明の光後硬化性組成物は、上記一般式(1)で表される構造を有する硬化遅延剤(以下、本発明に係る硬化遅延剤ともいう)を含有する。このような本発明に係る硬化遅延剤を含有することで、本発明の光後硬化性組成物は、光照射後の充分な可使時間を確保することが可能となる。
【0010】
上記本発明に係る硬化遅延剤において、一般式(1)中、R〜R12は、少なくとも1つが炭素数1〜20のアルキル基を表す。
上記一般式(1)中のR〜R12のうち、少なくとも1つが炭素数1〜20のアルキル基であることにより、上記本発明に係る硬化遅延剤の添加量が少量であっても、本発明の光後硬化性組成物に優れた硬化遅延性を付与できる。本発明の光後硬化性組成物では、本発明に係る硬化遅延剤の添加量を少量ですむことにより、光照射後の硬化時における本発明に係る硬化遅延剤の分解等によるガス発生の問題が軽減されると考えられる。
なお、上記本発明に係る硬化遅延剤が炭素数1〜20のアルキル基を有することにより優れた硬化遅延性が得られる理由としては、該アルキル基を有することで、18−クラウン−6−エーテルの骨格に歪み等を生じさせることが少なく、本発明の光後硬化性組成物中で充分に相溶するからであると考えられる。
【0011】
上記炭素数が1〜20のアルキル基を少なくも1つ有する本発明に係る硬化遅延剤としては、具体的には、例えば、2−メチル−18−クラウン−6−エーテル、2−エチル−18−クラウン−6−エーテル等の1つのアルキル基を有する化合物;2、3−ジメチル−18−クラウン−6−エーテル、2、3−ジエチル−18−クラウン−6−エーテル等の2つのアルキル基を有する化合物等が挙げられる。これらの本発明に係る硬化遅延剤は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0012】
上記本発明に係る硬化遅延剤は、上記炭素数1〜20のアルキル基が、直鎖状又は分枝鎖状の炭素数1〜20のアルコキシル基、ハロゲン原子、−OH基、−COOH基及び−COO−アルキルエステル基(ただし、アルキル部分は、直鎖状又は分枝鎖状の炭素数1〜20残基である)からなる群より選択される1以上の官能基(以下、他の官能基ともいう)で置換されていてもよい。
【0013】
上記炭素数1〜20のアルキル基が他の官能基で置換された本発明に係る硬化遅延剤としては、具体的には、例えば、2−アリロキシメチル−18−クラウン−6−エーテル、2−ヒドロキシメチル−18−クラウン−6−エーテル等が挙げられる。
【0014】
更に、本発明に係る硬化遅延剤は、上記一般式(1)中の隣接するR及びRn+1(但し、nは、1〜11の奇数を表す)が、共同して環状アルキル骨格を形成していてもよい。
上記環状アルキル骨格を有する本発明に係る硬化遅延剤としては、具体的には、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、アダマンチル基、ノルボルネン基等の環状アルキル基を有する化合物が挙げられる。なかでも、シクロヘキシル基は、クラウンエーテルの形状を固定化して、クラウンエーテルの構造の揺らぎを抑えることにより、物質を包摂しやすい形状に保つため、上記本発明に係る硬化遅延剤は、少なくとも1つのシクロヘキシル基を有することが好ましい。
【0015】
上記本発明に係る硬化遅延剤は、下記化学式(2)で表される構造を有する化合物を含有することが好ましい。
【0016】
【化2】

【0017】
上記化学式(2)で表される構造を有する化合物は、18−クラウン−6−エーテル分子の中央を通る線に対して線対称となる位置に2個のシクロヘキシル基を有するため、18−クラウン−6−エーテル分子の骨格に歪み等を生じさせることなく相溶性を向上させる効果が大きくなると考えられる。
【0018】
上記硬化遅延剤の含有量としては、後述する光カチオン重合性化合物100重量部に対して、好ましい下限は0.05重量部、好ましい上限は5.0重量部である。0.05重量部未満であると、本発明の光後硬化性組成物に遅延効果が充分得られない場合があり、5.0重量部を超えると、本発明の光後硬化性組成物を硬化させる際に発生するアウトガス等が多くなり、該アウトガス等が大きな影響を与える用途に本発明の光後硬化性組成物を使用しにくくなることがある。より好ましい下限は0.1重量部、より好ましい上限は3.0重量部である。
【0019】
本発明の光後硬化性組成物は、光カチオン重合性化合物を含有する。
上記光カチオン重合性化合物としては、分子内に少なくとも1個の光カチオン重合性官能基を有する化合物であれば特に限定されない。
上記光カチオン重合性官能基としては特に限定されず、例えば、エポキシ基、オキセタニル基、水酸基、ビニルエーテル基、エピスルフィド基、エチレンイミン基等が挙げられる。
【0020】
上記光カチオン重合性化合物の性状(分子量)としては特に限定されず、例えば、モノマー状、オリゴマー状、ポリマー状のいずれであってもよい。
【0021】
本発明の光後硬化性組成物において、上記光カチオン重合性化合物は、なかでも、光カチオン重合性が高く、少ない光量でも効率的に光硬化が進行することから、分子内に少なくとも1個のエポキシ基を有する化合物(以下、エポキシ系化合物ともいう)が好適に用いられる。
【0022】
上記エポキシ系化合物としては特に限定されず、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂;フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂;脂肪族エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、異節環状型エポキシ樹脂、多官能性エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂;水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂等のアルコール型エポキシ樹脂;臭素化エポキシ樹脂等のハロゲン化エポキシ樹脂;ゴム変性エポキシ樹脂、ウレタン変性エポキシ樹脂、エポキシ化ポリブタジエン、エポキシ化スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体、エポキシ基含有ポリエステル樹脂、エポキシ基含有ポリウレタン樹脂、エポキシ基含有アクリル樹脂等が挙げられる。これらのエポキシ系化合物は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0023】
上記エポキシ系化合物の市販品としては特に限定されず、例えば、ジャパンエポキシレジン社製の商品名「エピコート806」、「エピコート828」、「エピコート1001」、「エピコート1002」等の「エピコート」シリーズ、ダイセル化学工業社製の商品名「セロキサイド2021」等の「セロキサイド」シリーズ等が挙げられる。
【0024】
また、上記エポキシ系化合物以外の他の光カチオン重合性化合物としては、例えば、オキセタニル基、ビニルエーテル類、環状エーテル類、エポキシド類、ビニルアミン類、不飽和炭化水素類、ラクトン類及び他の環状エステル類、ラクタム類、環状カーボネート類、環状アセタール類、アルデヒド類、環状アミン類、環状スルフィド類、シクロシロキサン類、シクロトリホスファゼン類及び他の光カチオン重合可能な基やモノマー等の少なくとも1個の光カチオン重合可能基を有している光カチオン重合性化合物が挙げられる。なかでも、エポキシドモノマー等の環状エーテルモノマーやビニル有機モノマー等が好適に用いられる。これらの他の光カチオン重合性化合物は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0025】
このような他の光カチオン重合性化合物の市販品としては特に限定されず、例えば、2−ヒドロキシエチルビニルエーテル(HEVE)、ジエチレングリコールモノビニルエーテル(DEGV)、4−ヒドロキシブチルビニルエーテル(HBVE)(以上、丸善石油化学社製)、アロンオキセタン(東亞合成社製)、エタナコール(宇部興産社製)等が挙げられる。
【0026】
本発明の光後硬化性組成物は、光カチオン重合開始剤を含有する。
上記光カチオン重合開始剤としては特に限定されず、例えば、イオン性光酸発生型であってもよく、非イオン性光酸発生型であってもよい。
【0027】
上記イオン性光酸発生型の光カチオン重合開始剤としては特に限定されず、例えば、芳香族ジアゾニウム塩、芳香族ハロニウム塩、芳香族スルホニウム塩等のオニウム塩類、鉄−アレン錯体、チタノセン錯体、アリールシラノール−アルミニウム錯体等の有機金属錯体類等が挙げられる。これらのイオン性光酸発生型の光カチオン重合開始剤は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0028】
上記イオン性光酸発生型の光カチオン重合開始剤の市販品としては特に限定されず、例えば、旭電化工業社製の商品名「アデカオプトマーSP150」、「アデカオプトマーSP170」等の「アデカオプトマー」シリーズ、ゼネラルエレクトロニクス社製の商品名「UVE−1014」、サートマー社製の商品名「CD−1012」等が挙げられる。
【0029】
ただし、上記イオン性光酸発生型の光カチオン重合開始剤を用いた場合には、有機EL素子の電極と本発明の光後硬化性組成物との界面で電極の酸化が発生して、有機EL素子の耐久性に問題が生じることがある。そのため、上記光カチオン重合開始剤としては、下記化学式(3)で表される嵩高いボロン酸を対アニオンとする塩からなる光カチオン重合開始剤を用いることが好ましい。下記化学式(3)で表される対アニオンを有する光カチオン重合開始剤は、有機EL素子の電極と本発明の光後硬化性組成物との界面で電極の酸化が発生しにくく、耐久性に優れることから好ましい。
【0030】
【化3】

【0031】
このような対アニオンを有する光カチオン重合開始剤の市販品としては特に限定されず、例えば、「Photoinitiator 2074」(ローディア社製)、下記化学式(4)で表される商品名「PI−2074」(ローヌプラン社製)、下記化学式(5)で表される商品名「TAG−371R」(東洋インキ社製)、下記化学式(6)で表される商品名「TAG−372R」(東洋インキ社製)等が挙げられる。
【0032】
【化4】

【0033】
【化5】

【0034】
【化6】

【0035】
上記非イオン性光酸発生型の光カチオン重合開始剤としては特に限定されず、例えば、ニトロベンジルエステル、スルホン酸誘導体、リン酸エステル、フェノールスルホン酸エステル、ジアゾナフトキノン、N−ヒドロキシイミドホスホナート等が挙げられる。これらの非イオン性光酸発生型の光カチオン重合開始剤は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0036】
本発明の光後硬化性組成物において、上記光カチオン重合開始剤の含有量としては特に限定されないが、上記光カチオン重合性化合物100重量部に対して、好ましい下限が0.1重量部、好ましい上限が10重量部である。0.1重量部未満であると、光カチオン重合性化合物の光カチオン重合が充分に進行しなかったり、光後硬化性組成物の光硬化が極端に遅くなったりすることがある。10重量部を超えると、本発明の光後硬化性組成物の光硬化が早くなりすぎ、上記硬化遅延剤を含有させているにも関わらず、可使時間が短くなって作業性が低下したり、不均一な硬化物となったりすることがある。
【0037】
上記光カチオン重合性化合物、光カチオン重合開始剤及び硬化遅延剤を含有する本発明の光後硬化性組成物は、光を照射した後、硬化反応がゆっくりと進行し、充分な可使時間を確保することができるものである。具体的には、本発明の光後硬化性組成物に2000mJ/mmの紫外線を照射した後、E型粘度計(東機産業社製、TV−22型)を用いて測定した粘度が初期粘度の2倍に到達するまでの時間の好ましい下限が3分である。3分未満であると、基板等を貼り合わせる前に硬化進行してしまい、充分な接着強度を得られなくなることがある。このような本発明の光後硬化性組成物の可使時間は、上述した硬化遅延剤を添加することで好適に調整することができる。
【0038】
本発明の光後硬化性組成物は、硬化物の透明性を阻害しない範囲で、組成物に発生した酸と反応する化合物又はイオン交換樹脂を含有してもよい。本発明の光後硬化性組成物を封止剤として有機EL素子の封止を行った場合、素子電極の耐久性を向上させることが可能となるからである。
【0039】
上記発生した酸と反応する化合物としては、酸と中和する物質、例えば、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の炭酸塩又は炭酸水素塩等が挙げられる。具体的には、炭酸カルシウム、炭酸水素カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等が用いられる。
【0040】
上記イオン交換樹脂としては、陽イオン交換型、陰イオン交換型、両イオン交換型のいずれも使用することができるが、特に塩化物イオンを吸着することのできる陽イオン交換型又は両イオン交換型が好適である。
【0041】
本発明の光後硬化性組成物は、必要に応じて、例えば、硬化物の強度をより向上させるための充填剤、接着性をより向上させるための接着性付与剤、粘度を調整するための粘度調整剤、チキソトロープ性(揺変性)を付与するためのチキソトロープ剤(揺変性付与剤)、引張り特性等を改善するための物性調整剤、増量剤、補強剤、軟化剤(可塑剤)、タレ防止剤、酸化防止剤(老化防止剤)、熱安定剤、難燃剤、帯電防止剤、有機溶剤等の各種添加剤の1種又は2種以上が含有されていてもよい。
【0042】
上記充填剤としては特に限定されず、例えば、コロイダルシリカ、タルク、クレー、マイカ(雲母)、酸化チタン等の粉体、ガラスバルーン、アルミナバルーン、セラミックバルーン等の無機中空体、ナイロンビーズ、アクリルビーズ、シリコーンビーズ、テフロン(登録商標)ビーズ等の有機球状体、塩化ビニリデンバルーン、アクリルバルーン等の有機中空体、ガラス、ポリエステル、レーヨン、ナイロン、セルロース等の単繊維等が挙げられる。なかでも、水分の浸入を防止する邪魔板効果に優れることから、タルク、クレー、マイカが好適に用いられる。これらの充填剤は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0043】
上記接着性付与剤としては特に限定されず、例えば、グリシドキシトリメトキシシラン、グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、N−(アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のシランカップリング剤、チタンカップリング剤、アルミニウムカップリング剤等が挙げられる。これらの接着性付与剤は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0044】
本発明の光後硬化性組成物の製造方法としては特に限定されず、例えば、ホモディスパー、万能ミキサー、バンバリーミキサー、ニーダー、2本ロール、3本ロール、押出機等の公知の各種混練機を単独で用いるか又は併用して、上記光カチオン重合性化合物、光カチオン重合開始剤及び硬化遅延剤、並びに、必要に応じて添加する上記充填剤等の各種添加剤の各所定量を、常温下若しくは加熱下で、常圧下、減圧下、加圧下若しくは不活性ガス気流下等の条件下で均一に混練する方法が挙げられる。
【0045】
本発明の光後硬化性組成物の粘度としては特に限定されないが、例えば、本発明の光後硬化性組成物を、有機EL素子を封止するための封止剤として用いる場合、25℃、5rpmにおいて、好ましい下限が50mPa・s、好ましい上限が100万mPa・sである。50mPa・s未満であると、有機EL素子を封止できないことがあり、100万mPaを超えると、本発明の光後硬化性組成物を用いてなる封止剤による有機EL素子の封止をスクリーン印刷により行う場合に、均一かつ正確に有機EL素子の封止ができないことがある。また、本発明の光後硬化性組成物を用いてなる封止剤をディスペンサー等で基板に塗布し、もう一方の基板を貼り合わすことにより有機EL素子を封止する場合、上記封止剤の粘度の好ましい上限は50万mPa・sである。50万mPa・sを超えると、基板同士の貼り合わせ時に泡がかみ気泡が混入するおそれがあり、端部まで本発明の光後硬化性組成物を用いてなる封止剤が押し広げられない可能性がある。より好ましい上限は1000mPaである。
なお、本明細書において、上記粘度は、E型粘度計(東機産業社製、TV−22型)を用いて上記条件下で測定した場合に得られる値である。
【0046】
本発明の光後硬化性組成物の硬化物の波長380〜800nmにおける光の全光線透過率の好ましい下限は80%である。80%未満であると、本発明の光後硬化性組成物を、有機EL素子を封止するための封止剤としたときに、製造する有機EL表示装置に充分な光学特性を得られないことがある。より好ましい下限は85%である。
【0047】
上記全光線透過率を測定する方法としては特に限定はされず、例えば東京電色社製「AUTOMATIC HAZE MATER MODEL TC=III DPK」等の分光計を用いて測定することができる。
【0048】
また、本発明の光後硬化性組成物は、硬化物に紫外線を100時間照射した後の400nmにおける透過率の下限が20μmの光路長にて85%であることが好ましい。85%未満であると、耐光性が低く、発光の損失が大きくなり、かつ、色再現性が悪くなることがある。より好ましい下限は90%、更に好ましい下限は95%である。
【0049】
本発明の光後硬化性組成物は、光を照射することで上記光カチオン重合開始剤が活性化され、上記光カチオン重合性化合物の硬化反応が進行する。このとき照射する光の光源としては、例えば、波長340nm以上の近紫外線又は可視光線を含む光を照射し得るものであれば特に限定されず、例えば、低圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、エキシマレーザー、ケミカルランプ、ブラックライトランプ、マイクロウェーブ励起水銀灯、メタルハライドランプ、ナトリウムランプ、ハロゲンランプ、キセノンランプ、蛍光灯、太陽光、電子線照射装置等が挙げられる。
これらの光源の使用に際しては、例えば光カットフィルター等を用いて波長340nm未満の光を除去することが好ましい。また、上記各種光源は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。更に、上記各種光源の本発明の光後硬化性組成物への照射手順としては、例えば、各種光源の同時照射、時間差をおいての逐次照射、同時照射と逐次照射との組み合わせ照射等が挙げられ、いずれの照射手順を採ってもよい。
【0050】
本発明の光後硬化性組成物の用途としては特に限定されず、例えば、接着剤、封止剤、片面テープ、両面テープ、封止フィルム、シーリング剤、コーティング剤、ライニング剤、印刷インキ、エレクトロニクス材料等の種々の用途に好適に用いることができる。なかでも、接着剤や封止剤として用いることが好ましい。また、これら接着剤、封止剤、片面テープ、両面テープ、封止フィルム等を用いて、ディスプレイの基材貼り合わせやフレキシブル回路テープの接続、光学部品の接着、電子部品の実装等、特に不透明な構造体の接着に好適に用いることができる。なかでも、トップエミッション方式の有機EL素子の封止剤として極めて好適である。
本発明の光後硬化性組成物を用いてなる有機EL素子用封止剤もまた、本発明の1つである。
【0051】
本発明の有機EL素子用封止剤を用いて有機EL素子を封止することで有機EL表示装置を製造することができる。
本発明の有機EL素子用封止剤を用いて有機EL表示装置を製造する方法としては、例えば、本発明の有機EL素子用封止剤を基材の全面又は一部に塗布した後、光を照射し、前記有機EL素子用封止剤が硬化するまでの間に、前記基材と有機EL素子とを貼合して前記有機EL素子を封止する工程を有する方法が挙げられる。
このような有機EL表示装置の製造方法もまた、本発明の1つである。
【0052】
本発明の有機EL表示装置の製造方法は、常温常圧で行ってもよいが、水分の制御された空間内や減圧下で行うことが好ましい。
また、上記工程を経て有機EL素子を封止した後は、本発明の有機EL素子用封止剤の硬化反応をより促進し、硬化時間を短縮するために、有機EL素子を劣化させない範囲で、加熱等による他の硬化手段を併用してもよい。加熱により本発明の有機EL素子用封止剤の硬化を促進する場合、加熱温度としては特に限定されないが、好ましい下限は50℃、好ましい上限は100℃程度である。
【0053】
本発明の有機EL表示装置の製造方法によると、本発明の有機EL素子用封止剤に光を照射し、硬化するまでの間、すなわち、可使時間内に有機EL素子の封止を行うため、有機EL素子が光にさらされることがなく、有機EL素子の性能の低下や劣化を引き起こすことがない。そのため、製造する有機EL表示装置は、表示品質に優れたものとすることができる。
また、本発明の有機EL素子用封止剤は、上述した本発明の光後硬化性組成物を用いてなるため、上記硬化遅延剤の配合量を少なくしても充分な可使時間を確保することができる。また、本発明の有機EL素子用封止剤を光硬化させた際に、上記硬化遅延剤に起因するアウトガスの発生を抑制することができる。その結果、本発明の有機EL素子用封止剤を用いて製造した有機EL表示装置は、上記アウトガスによる有機EL素子の性能の低下や劣化を好適に防止することができ、表示品質に優れたものとすることができる。
【発明の効果】
【0054】
本発明によると、光照射により硬化反応が進行する一方、光照射後に充分な可使時間を確保することができ、表示素子、特に有機エレクトロルミネッセンス素子の封止剤として好適に用いることができる光後硬化性組成物、有機エレクトロルミネッセンス素子用封止剤、有機エレクトロルミネッセンス表示装置の製造方法、及び、有機エレクトロルミネッセンス表示装置を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0055】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0056】
(実施例1〜3、比較例1〜5)
下記表1に示す組成に従って、各材料をホモディスパー型撹拌混合機(ホモディスパーL型、特殊機化社製)を用い、撹拌速度3000rpmで均一に撹拌混合して、実施例1〜3及び比較例1〜5に係る有機EL素子用封止剤を製造した。
【0057】
実施例1〜3及び比較例1〜5で得られた有機EL素子用封止剤に、高圧水銀ランプを用いて2000mJ/cmの紫外線を照射し、粘度を経時測定した。初期粘度は10Pa・sで、20Pa・sに達する時間を増粘時間とした。結果を表1に示した。
【0058】
(アウトガスの測定)
実施例1〜3及び比較例1〜5で得られた有機EL素子用封止剤0.3gを専用ガラス管に採取し、高圧水銀ランプを用いて2000mJ/cmの紫外線を照射した。光照射によりガラス管内に発生したアウトガスを抜き取り、ヘッドスペースGC−MS(日本電子社製GC−MS装置 JMS K−9)にて定量測定した。発生したガスのトルエン換算値を表1に示した。
【0059】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明によれば、光照射により硬化反応が進行する一方、光照射後に充分な可使時間を確保することができ、表示素子、特に有機エレクトロルミネッセンス素子の封止剤として好適に用いることができる光後硬化性組成物、有機エレクトロルミネッセンス素子用封止剤、有機エレクトロルミネッセンス表示装置の製造方法、及び、有機エレクトロルミネッセンス表示装置を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光カチオン重合性化合物、光カチオン重合開始剤、及び、下記一般式(1)で表される構造を有する硬化遅延剤を含有することを特徴とする光後硬化性組成物。
【化1】

一般式(1)中、R〜R12は、少なくとも1つが炭素水1〜20のアルキル基を表す。また、前記アルキル基は、直鎖状又は分枝鎖状の炭素数1〜20のアルコキシル基、ハロゲン原子、−OH基、−COOH基及び−COO−アルキルエステル基(ただし、アルキル部分は、直鎖状又は分枝鎖状の炭素数1〜20残基である)からなる群より選択される1以上の官能基で置換されていてもよく、更に、隣接するR及びRn+1(但し、nは、1〜11の奇数を表す)は、共同して環状アルキル骨格を形成していてもよい。
【請求項2】
硬化遅延剤は、少なくとも1つのシクロヘキシル基を有することを特徴とする請求項1記載の光後硬化性組成物。
【請求項3】
硬化遅延剤は、下記化学式(2)で表される構造を有する化合物を含有することを特徴とする請求項1又は2記載の光後硬化性組成物。
【化2】

【請求項4】
光カチオン重合性化合物100重量部に対して、硬化遅延剤を0.1〜5.0重量部含有することを特徴とする請求項1、2又は3記載の光後硬化性組成物。
【請求項5】
請求項1、2、3又は4記載の光後硬化性組成物を用いてなることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子用封止剤。
【請求項6】
請求項5記載の有機エレクトロルミネッセンス素子用封止剤を基材の全面又は一部に塗布した後、光を照射し、前記有機エレクトロルミネッセンス素子用封止剤が硬化するまでの間に、前記基材と有機エレクトロルミネッセンス素子とを貼合して前記有機エレクトロルミネッセンス素子を封止する工程を有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス表示装置の製造方法。
【請求項7】
請求項1、2、3又は4記載の光後硬化性組成物、若しくは、請求項5記載の有機エレクトロルミネッセンス表示用封止剤を用いてなることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス表示装置。

【公開番号】特開2008−305580(P2008−305580A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−149567(P2007−149567)
【出願日】平成19年6月5日(2007.6.5)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】