説明

光情報記録再生方法

【課題】記録条件の再設定と共に、超解像再生条件の再設定を行なうことにより、光学分解能よりも小さな記録マークを良好な品質で再生することのできる光情報記録再生方法を提供する。
【解決手段】記録条件の最適値からのずれを検知し、最適記録パワーを求めるテスト記録の過程において、記録パワーを変更すると同時に超解像再生パワーを変更させる。その際、先に長マークについて記録パワーと再生パワーを調整し、その後、短マークを含む全マークについて試し書きと試し読みを行ってパワー調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は大容量光ディスク技術に係り、特に光の回折限界を超えた記録密度を有する超解像光ディスクにおいて、ディスクに情報を記録する際の最適条件を決定するために必要な光情報記録再生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
これまで、大容量情報記録技術として、単位面積内により多くの情報を格納することのできる高密度光記録技術の研究開発が進められてきた。現在製品化されている光ディスク技術では、レーザ光をディスク上にレンズで集光し、ディスク上に記録されたデータの再生及び/又は記録が行われている。データを高密度化するために、これまでは、集光したレーザスポットのサイズを小さくする技術が開発されてきた。スポットサイズは、光源の波長をλ、対物レンズの開口数をNAとすると、λ/NAに比例することが知られている。即ち、光源の波長を小さく、レンズのNAを大きくすることによって、ディスク1枚に格納される情報量の大容量化が進められてきた。ここで光源の波長、対物レンズのNA、直径12cmのディスクに格納されるデータの容量の組を、(波長, NA, 容量)と書くとすると、CDでは(780nm, 0.5, 650MB)、DVDでは(650nm, 0.6, 4.7GB)である。また、青色レーザ光源を用いた技術では2通りの組が提案されており、それらは(405nm, 0.85, 25GB)、(405nm, 0.65, 20GB)である。この記録容量で、高精細TV画像のデータを約2時間記録することができる。
【0003】
しかしながら、例えば放送局などの業務用システムやセキュリティシステムへの用途としては、上述の記録容量では不足であり、例えばディスク1枚で100GB以上の容量が要求されている。また、数10年から100年程度の長期保存が望まれる画像データなどは、その大量のデータを格納する媒体の保管場所の関係上、なるべく多くのデータを1枚のディスクに記録することが望まれる。その要求される容量は数100GBから1TB以上である。
【0004】
このような記録容量を実現する方法として、ディスクに何らかの機構を設けることによって、実効的に光学分解能を向上させる方法が提案されている。これをここでは、超解像技術と呼ぶことにする。
【0005】
非特許文献1および特許文献1には、相変化記録膜を用いた超解像技術が報告されている。通常、相変化記録膜はCD-RW、DVD-RAM、DVD±RW、Blu-ray Discなどの書換え型ディスクの記録膜に用いられるが、ここではこの記録材料を記録膜として用いるのではなく、従来の光磁気ディスクにおける再生層と同様、光学分解能を実効的に向上させる層として用いる。このような層(膜)をここでは超解像層(膜)と呼ぶ。この際、ディスクに記録されたデータは、ここで言う超解像層ではなく、他の場所に記録されている。例えば再生専用(ROM)ディスクであれば、基板上に凹凸形状として記録されており、記録型ディスクであれば、ここで言う超解像層以外に記録膜が設けられており、その記録膜にデータを記録することになる。典型的な例として、データが記録されている層と超解像層とは、照射されるビームの焦点深度内に同様に設けられているが、その層間距離は数10〜数100nmである。この手法では、再生専用(ROM)ディスクに相変化記録膜をスパッタによって製膜し、再生時に相変化記録膜の一部を融解する。ディスクの反射率が、融解した部分の方が十分に高ければ、再生信号のうち、融解した部分から得られる信号が支配的になる。即ち、相変化膜が融解した部分が実効的な再生光スポットとなる。融解部分の面積は光スポットよりも小さいので、再生光スポットが縮小したことになり、光学分解能が向上する。
【0006】
特許文献1では、非特許文献1に開示された考え方を更に進めて、相変化材料のピットを作製し、再生時に単一ピットを融解することによって超解像効果を得る方法が提案されている。この提案では、相変化エッチング法を用いて相変化材料のピットを作製している。相変化エッチング法とは、相変化膜の結晶部分とアモルファス部分とのアルカリ溶液に対する溶解度が異なることを利用して、相変化マークのパターンを凹凸に変えることによって加工を行う技術である。この方法では、マーク部のみに超解像効果を示す物質が存在し、スペース部は光を吸収する必要がないため、1層の光学透過率を高めることができ、多層技術と超解像技術との組合せが可能となる。この方法で2層超解像ディスクを実現した例が、非特許文献2に報告されている。この方法をピット型超解像方式と呼び、前述のように超解像薄膜が2次元で連続的に製膜されている場合を薄膜型超解像方式と呼ぶことにする。
【0007】
また、光ディスクにおける他の記録密度向上の方法として、Solid Immersion Lens(以下SIL)が提案されている。この方法では、レンズのNAを1以上とし、λ/NAを小さくすることにより、記録マークのサイズを小さくして記録密度を向上させる。例えば、非特許文献3には、NAを1.8に高めたSILの技術が報告されている。通常のレンズでは、光がレンズの外に出射される際に、レンズよりも屈折率の小さな空気との界面で屈折するためNAが1以上にできない。非特許文献3のシステムでは、この理由に注目し、レンズと媒体を近接させることによってNA>1を実現している。レンズと媒体を近接させると、通常ならばレンズから伝搬しないNA>1の成分が媒体表面と結合して伝搬光に変換されるため、実質上NA>1のシステムが実現される。この場合、レンズと媒体の間の距離を、典型的には20nm程度かそれ以下に保ちながらレンズを走査することによって、高密度記録が可能となる。
【0008】
更に、非特許文献5には、上記のSILを用いた多層記録の可能性が、非特許文献6には超解像記録とSILを組み合わせた構成が報告されている。非特許文献6の技術では、SILによって作られた微小スポット内の熱分布を利用し、更に微小な超解像スポットを形成することによって更なる高密度化を実現する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006-107588号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Japanese Journal of Applied Physics第32巻5210頁〜5213頁
【非特許文献2】Japanese Journal of Applied Physics第46巻3917頁〜3921頁
【非特許文献3】Japanese Journal of Applied Physics第45巻1321頁〜1324頁
【非特許文献4】Japanese Journal of Applied Physics第44巻3554頁〜3558頁
【非特許文献5】Proceedings of International Symposium on Optical Memory 2007, Tu-G-05 (2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記のように、超解像では光の回折限界を超えた実効分解能を実現することによって、記録密度を向上させる。その場合、記録マークのサイズは従来の光ディスクよりも小さいため、記録条件の制御が重要になる。即ち、光ディスクでは一般に光照射によって媒体内に発生する熱を利用して記録膜に化学的或いは物理的変化を誘発することによってマークを記録するが、微小マーク列を記録する際には、例えばマーク間の熱干渉などの影響により、高品質なマークを記録することが困難となる。この問題を解決するには、記録条件の緻密な調整が必要となる。
【0012】
記録条件は、ディスクの熱特性、記録環境温度、光源であるレーザの特性バラツキや発光状態などに大きく依存する。実際に製造されるディスクは、膜厚や膜の状態の面内バラツキを有しており、よって、最適な記録条件はディスク半径や一周回転の間にも変化することがある。更に、ある一連のデータを記録する際、レーザは記録開始時点から記録パワーを出射し始めるが、出射によりレーザの温度が上昇し、記録している最中にレーザ出射パワーや出射波形が変化することがある。よって、記録の最中に記録の最適条件が変化することがある。
【0013】
この課題を解決するためには、一連のデータを記録する際、既に記録したマークの品質を記録途中で確認しながら、記録条件を調節することが必要となる。ここでは、このことをOWC(Optimum Write Control;記録条件最適調節)と呼ぶことにする。常解像再生を行う従来の光ディスクにおけるOWCでは、例えば一連のデータを記録している最中に、一度記録を停止し、レーザ出射パワーを再生光パワーにし、既に記録したマークを再生することにより、記録マークの品質をチェックする。このチェックにより、記録マークの品質の低下が認められた場合には、例えば、ディスクの記録テストエリアへ光スポットを移動し、最適な記録条件を見つける。
【0014】
超解像再生では、記録媒体に照射する光スポットの熱分布を用いて、光スポットの照射径よりも実効的に小さな反射スポットを生成することが特徴である。このことは、記録の際に熱を利用することと同義であり、記録条件が最適条件からずれた場合には、超解像再生条件も最適条件からずれることを意味する。従って、再生条件を常に一定に固定すると、OWCを行って得られた最適な記録条件が真に最適かどうかの検証ができないことになる。つまり、OWC実行後の現在の記録条件が最適であるとドライブが認識したとしても、実は最適でない再生条件で検証された最適記録条件に過ぎず、実際には高品質なマークが記録されていない場合がある。例えば、マークサイズが目的とするサイズよりも大きくなっている場合などである。このような場合には、超解像再生でも十分な分解能が得られなくなり、ビットエラー率が劣化する。
【0015】
図2(a)〜(c)に、記録及び超解像再生条件のずれが生じた場合の、記録マークサイズと超解像スポットサイズの模式図を示す。ここでは簡単のために、媒体は、記録マークサイズがレーザ照射のエネルギーに近似的に比例する追記型光ディスクであると仮定する。また、超解像再生パワーPsrは実効的にDCパワーであるとする。図2(a)は、記録パワーPw及びPsrが最適である場合、即ち、ターゲットとする記録密度を実現するために必要なサイズのマーク203を記録する最適記録パワーと、そのサイズのマークを再生した際に、高品質な再生信号が得られる超解像スポット202を得るために必要な再生パワーを採用した場合の光スポット201、マーク202及び超解像スポット203のサイズの関係を示している。図2の(b)はPw及びPsrが最適値よりも小さい場合、(c)はPw及びPsrが最適値よりも大きい場合である。(b)では、記録マーク203も超解像スポット202も小さくなり、(c)では両者とも大きくなる。
【0016】
例えば(b)では、超解像スポットと記録マークのサイズ比は、(a)の場合とほぼ同じになるので、最短マークの再生は可能である。しかし、超解像スポットサイズが小さくなっていることにより、超解像信号振幅が小さくなり、再生信号のS/N比が低減する。この状態で、Psrは常に一定でPwのみを調整する場合を考える。今、何らかの方法で、Pwが不足していることをドライブが検知したとして、Pwを増大させると、記録マークが超解像スポットサイズに比べて大きくなり、再生信号の形状が所望の形状からずれる。再生信号の復号方式としてビタビ復号を採用した場合には、再生信号の形状ずれは特に問題となる。その結果、再生信号の形状によっては、ビタビ復号時の最尤演算において、実際の再生信号から得られる二値符号列と正しい復号目標である二値符号列(記録媒体に記録した二値符号列)との間のユークリッド距離が最小にならない場合が生じ、復号誤りの原因となる。更にPsrが一定であるため、再生時に形成される超解像スポットは最適な再生状態での超解像スポットサイズよりも小さいままであり、再生信号のS/Nは依然として低いままである。OWC実行時にPwの最適化のために用いる物理指標は再生信号を元に取得するので、再生信号のS/Nが低ければOWCの精度自体も低下することもある。
【0017】
次に(c)の場合を考える。この場合は、超解像スポットが大きいため、再生信号のS/Nは大きいが、記録マークサイズが大きいため、再生信号にエッジシフトが生じる。ここで、何らかの方法でPwが所望の値よりも大きいことをドライブが検知したとして、Psrが一定のまま、Pwを低下させてOWCを行うと、超解像スポットサイズに比べて記録マークサイズが小さくなるため、特に最短マークの分解能が不足する。その結果、高品質な再生信号が得られなくなるため、Pwの最適値を決定することができなくなる。
【0018】
以上のように、超解像光ディスクでは、OWC時に超解像再生パワーPsrを一定にしたのでは、記録条件を最適化することができなくなる。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記の課題は、記録条件を最適化する際に超解像再生条件も一緒に調節することによって解決される。より具体的には、一連のOWCプロセスの中で、決定した記録条件が最適かどうかのベリファイ作業を実行する際に、最適化した記録条件に合わせて再生条件を変更することにより、上記の課題を解決する。何故ならば、記録も超解像再生も、媒体内に所望の温度分布を生成することによって行われるものであり、記録を行うために使用した温度分布の形状が変化すれば、超解像再生を行うために媒体に生成すべき温度分布形状も、当然、変化すべきものであるからである。なお、記録条件と再生条件の調節は、記録条件にあわせて再生条件を一緒に調節するだけではなく、再生条件にあわせて記録条件を調節しても構わない。すなわち、記録条件の調整と再生条件の調節を対にして実行することが重要である。上記のOWCプロセスの詳細については、実施例で説明する。
【発明の効果】
【0020】
光学分解能を超えた微小マークの再生を可能とすることによって記録データの高密度化・大容量化を実現する超解像再生技術に対して、ドライブ環境温度やディスク内の熱感度のムラに起因する記録パワー及び再生パワーの最適値からのずれを、エラーなく補正することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明のドライブの動作の全体フローチャート。
【図2】記録パワー及び超解像再生パワーが最適値からずれた場合の、記録マークサイズと超解像スポットサイズの模式図。(a)記録・再生パワーが最適値の場合、(b)記録・再生パワーが最適値よりも小さい場合、(c)記録・再生パワーが最適値よりも大きい場合。
【図3(A)】本発明の効果の検証に用いた光ディスクドライブの構造を示す図。
【図3(B)】実施例1の記録パワーおよび再生パワー決定フローを示す図。
【図3(C)】試し書きの詳細ステップを示す図。
【図3(D)】試し読みの詳細ステップを示す図。
【図4】本発明の効果の検証に用いた光ディスクテスタの構造を示す図。
【図5】本発明の実施形態の第3形態において使用した記録波形。
【図6】超解像技術と多層SIL記録を組み合わせた場合の、超解像再生パワーをディスク一周内で調整しなかった場合に得られた、再生信号のジッタ値の分布。
【図7】本発明をSIL記録に応用した場合の、ディスク一周内での最適超解像再生パワー。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について説明するが、最初に、各実施例に共通する解決課題と課題解決手段の原理構成について説明する。
【0023】
図2(b)のように、何らかの理由により、レーザ照射によって媒体内に発生する温度が低下した場合を考える。この場合、マーク幅は長マークも短マークも同様に小さくなるが、超解像スポットサイズも同様に縮小しているので、再生信号におけるアシンメトリは、最適条件の場合に得られる再生信号のアシンメトリとほぼ同じである。しかし、超解像スポットサイズが縮小しているため再生信号振幅は低下する。また、マーク長が意図する長さよりも短くなるので、再生信号におけるエッジシフトが生じる。マーク長の縮小はマークの両端で起きるため、エッジシフトは、前エッジが遅れ、後エッジが進む方向に生じる。また、図2(c)の場合は、(b)の場合とは逆に、再生信号振幅が増大し、かつ前エッジは進み、後エッジは遅れる方向にエッジシフトが生じる。よって、例えば長マークの再生信号振幅ILや信号のエッジシフトを検知することにより、記録パワー及び超解像パワーが不足しているか、或いは過剰であるかを知ることができる。
【0024】
上記の場合、ILやエッジ位置などの指標関数の最適値を予め知っておく必要がある。このために、記録及び再生を開始する前に記録・再生の試験を行い、ディスクとドライブの組合せにおける指標関数の最適値を検出する。その試験では、記録パワーPw及び記録波形の調整と同時に、超解像再生パワーPsrの調整も必要となる。
【0025】
次に、PwとPsrの調整方法について述べる。本実施例のOWCプロセスにおいては、基本的には、PsrはPwに比例して変化させる。例えば、図2(b)のようにパワーが不足した状況が検知されたとする。この場合、PsrをPwに比例して上げると、図2(a)の状態に近づけることができる。逆に、図2(c)の場合には、PsrをPwに比例させて下げる。何故ならば、再生時に記録マークに照射されるレーザは、通常DC(照射強度が時間に対してほぼ一定)であり、レーザ照射がDC的である場合、媒体に発生する温度はレーザパワー、すなわち媒体に照射される光スポットの単位面積当たりのエネルギーに比例するからである。よって、PwとPsrを比例して変化させて、IL或いはエッジシフトを検知することにより、PwとPsrの両方の最適値を簡便に探索することができる。
【0026】
以上の流れを大まかに纏めたフローチャートが図1である。基本的には、所定条件でテスト記録を行って記録パワーを再設定し、再設定した記録パワーPw2と再設定前の記録パワーPw1の比を用いて再設定後の記録パワーPw2に対応する再生パワーPr2を再設定し、再設定後の再生パワーPr2でテストパターンを再生して得られるモニタ指標を使って記録パワーの妥当性を検証するというフローの繰り返しである。
【0027】
さて、本実施例のOWCプロセスにおいては、再生信号から得られる指標関数を用いてPwを最適化する際、Pwのパワーの評価指標として何を用いるかという課題がある。一般的には、記録動作時に記録媒体に照射するレーザの記録波形は、Pwのパワーの評価指標としては、複数のレーザパルスにより構成される(ライトストラテジと呼ばれる)ため、複数パルスを含む波形の平均パワーを使用することになる。記録ないし超解像再生時に媒体に形成される熱分布は平均パワーに比例するためである。しかしながら、この記録波形、即ちパルス波形を決定するパラメータは、大まかには、上下の2つのパワー値、パルスのデューティ比、先頭パルスと最終パルスの長さという5つものパラメータを含んでいる。従って、このような多数のパラメータを含む記録パルス波形からPwの評価指標をどのように決定するかが課題である。最も有効な方法は、パルス波形から先頭パルス、最終パルスを除いた部分(連続パルス部分と呼ぶ)の平均パワーをPwのパワー指標とすることである。何故ならば、先頭パルスと最終パルスの主な役割は、マーク長の調節であり、マーク幅を主に決定するのは連続パルス部分であるからである。連続パルス部分のパワーは、連続パルス部分に含まれるパルス列の高パワーをPu、低パワーをPb、高パワーPuでのパルス照射時間(個々のパルスの継続時間の総和)と連続パルス部分に含まれる全パルス照射時間に対する割合をαとすると、αPu +(1-α)Pbと表現されるため、従って、PsrとPwの比例関係は、以下の式1のように表現される。
【0028】
【数1】

ここで、PwとPsrを比例に変化させるということは、PwとPsrの比例定数を予め定めておく必要がある。このためには、記録及び再生の前に、PwとPsrの最適値を決める過程が必要である。これを行う過程は幾つか考えられる。その一つは、ディスク上にテスト記録エリアを設け、まず再生を超解像ではなく、低パワーで再生する常解像再生とし、光の回折限界よりも大きなマーク長のみでPu、Pb、α及び先頭パルス、最終パルスの長さを定める。その後、超解像再生を行い、再生信号の分解能が最大になる再生パワーを探索する。これを最適Psrとし、その後、光の回折限界よりも小さなマーク長を含めたマーク列を記録し、それをPsrで再生し、再生信号のアシンメトリ、分解能、ジッタ、ビットエラー率のいずれかが最適となる記録条件を見つける。或いは、ディスク上の所定の場所に、所望のマーク長を有するエンボスデータ列を作製しておき、そのマーク列を超解像再生し、その再生信号が所望の性質を持つように超解像再生パワーPsrを定めることもできる。
【実施例1】
【0029】
実施例の第1形態として、環境温度の変化あるいはレーザの温度変化というイベントを検出して記録パワーおよび超解像再生パワーの調整を実行する機能を備えた光ディスクドライブの構成例について述べる。
【0030】
図3(A)にドライブの構成図を示す。半導体レーザ301からレーザ光が出射され、レンズ302で平行光にする。この平行光は偏光ビームスプリッタ303を通過する。この時、半導体レーザ301から出射したレーザ光は直線偏光であるが、その偏光方向は、偏光ビームスプリッタ303を完全に通過するように偏光ビームスプリッタ303の方向を調整しておく。レーザ光はλ/4板304で円偏光に変換され、ミラー305、対物レンズ306を通過してディスク307上に焦点を結ぶ。ディスクからの反射光は対物レンズ306、ミラー305を通過し、λ/4板304で直線偏光になるが、それはレーザ301から出射した時の偏光方向とは90°異なる方向である。よってこの光が偏光ビームスプリッタ303に入射すると、光路は90°曲げられ、フォーカス信号検出器310及び再生信号・トラッキング信号検出器311に入射する。両者の検出器からの信号は信号処理・制御システム系312に入力される。同時にヘッドの半径位置をレーザ干渉計314で検出し、その信号をシステム312に入力する。このシステムでオートフォーカスサーボ、トラッキング信号、レーザパルス発生信号、ディスク回転速度などを制御する。ここで、半導体レーザ301の波長は405nm、対物レンズ306の開口数を0.85とした。制御システム312は、ドライブ全体の動作を統括制御する一方、記録再生動作の際に必要となる演算処理を全て司る。なお、図示されてはいないが、本実施例のドライブは、半導体レーザに抵抗検出素子を備えており、抵抗検出素子の抵抗変化を検知してレーザの温度変化を感知することができる。
【0031】
次に、図3(B)〜(D)を用いて図3(A)に示した光ディスクドライブのOWCの動作について説明する。図3(A)に示すドライブに、追記型超解像ディスクを挿入した。本実施例の超解像ディスクでは、ウィンドウ幅Twを25ns、変調コードを1-7変調、トラックピッチ320nmとした。即ち、最短マーク長は2Tマークである50nm、最長マーク長は8Tマークである200nmである。ドライブは、まずディスク半径25mm近辺に形成されたディスクのコントロールデータ領域へヘッドを移動し、溝のウォブルデータで記述されているディスクタイプを検知する。そこで、このディスクが追記型超解像ディスクであることを認識する。次にドライブは、ディスクの上記領域に記録されている推奨記録パワーPw1、超解像再生パワーPr1及びライトストラテジに関する情報(記録パルス波形を決定するためのパラメータ推奨値)を検知し(ステップ301)、半導体レーザドライバの駆動条件を上記の値に設定する。本実施例では、Pw1=6.0mW 、Pr1=0.3mWであったものとする。
【0032】
次に半径25.3〜25.5mm近傍に設けられている記録再生テストエリアにヘッドを移動させ、第1の試し書きを実行する(ステップ302)。本実施例において、「試し書き」とは、記録媒体に対して所定のテストパターンを記録パワーを変えたレーザを用いて記録し、当該テストパターンを再生して得られる再生信号から適当な評価指標値を計算し、最も再生特性のよい記録パワーを選択する処理をいう。試し書きで実行されるステップの詳細は、図3(C)に示した通りである。なお、図3(C)は、第2の試し書きステップ307で実行されるステップの説明も兼ねているため、第1の試し書きと第2の試し書きで実行されるステップの詳細は図3(C)とは若干異なる部分がある。異なる部分については文章で説明する。
【0033】
まず、上記の記録再生テストエリアに上記で認識した推奨記録条件で、4T以上の長さのマークからなるマーク列を記録する(ステップ321)。本実施例の場合、光学分解能の限界よりも長い4T以上のマークを長マークとする。その後、モニタ指標の測定ステップを実行した。モニタ指標の測定ステップは、記録したマーク列を推奨再生パワーPsr1である0. 3mWで再生するステップ(ステップ322)と、再生信号からモニタ指標を算出するステップ(ステップ323)により構成される。本実施例では、モニタ指標としてアシンメトリを測定した。ここで、アシンメトリAsymは、最長マークの再生信号の上レベル、下レベルをILH、ILL、最短マークの繰り返しパターンの部分の再生信号の上レベル、下レベルをISH、ISLと書くと、
【0034】
【数2】

と表される。
【0035】
モニタ指標の算出処理は、制御システム312により実行された。
【0036】
次に、モニタ指標に従って記録パワーと記録パルス波形とを決定した(ステップ324)。本実施例においては、モニタ指標であるアシンメトリは、記録パルス波形に含まれるパラメータ(記録パワーPu、Pb、及びパルスデューティα)を変数とする関数(以降、モニタ指標関数と称する)で記述される。本実施例では、アシンメトリが略ゼロになるようにモニタ評価関数のパラメータを調整し、記録パワーPu、Pb、及びパルスデューティαを決定した。
【0037】
記録パワーPu、Pb、パルスデューティαを決定した後、各マークの長さが所望の長さになるように先頭パルス及び最終パルスの長さを決定した(ステップ325)。以上のパラメータ算出演算は、制御システム312により実行された。これで、4Tマーク以上の記録条件が決定された(ステップ304)。
【0038】
次いで、第1の試し読みステップを実行した(ステップ305)。試し読みで実行されるステップの詳細は、図3(D)に示した。本実施例において、「試し読み」とは、パワーを変えた再生光を記録媒体に複数回照射し、得られた再生信号から適当な評価指標値を計算して、最も再生特性のよい再生パワーを選択する処理をいう。図3(C)と同様、図3(D)は、第2の試し読みステップ309で実行されるステップの説明も兼ねている。従って、第1の試し読みと第2の試し読みで実行されるステップのうち、図3(C)と異なる部分については文章で説明する。
【0039】
ステップ305の試し読みでは、第1の試し書きで記録したマーク列を、上記で認識した推奨再生パワーPsr1の±20%の範囲で、0.1mWの刻みで再生した(ステップ331)。次に、得られた再生信号からモニタ指標を算出し(ステップ332)、モニタ指標が最良の値を示す再生パワーを暫定超解像再生パワーPsr’とした(ステップ333)。Psr’を算出するための演算処理は、制御システム312により実行された。本実施例では、試し読みを行って超解像再生パワーを調整する際に使用するモニタ指標は、試し書きで使用するモニタ指標とは異なる指標である分解能を使用した。同じモニタ指標を用いた場合、1つのモニタ指標で2つのパラメータを調整することは困難であるからである。
【0040】
次に、マーク長3T以下の短マークに対する記録パルス波形を決定するための第2の試し書きを実行した(ステップ307)。以下、図3(C)を用いて説明する。まず、短マークを含む2Tから8Tのマーク(テストパターン)を記録した(ステップ321)。テストパターンを記録する際の記録条件としては、4T以上のマークについては第1の試し書きにより得られた記録条件とし、短マークである2T及び3Tについては推奨記録条件とした。
【0041】
次に、記録したマーク列をPsr’で再生し(ステップ322)、モニタ指標を算出した(ステップ323)。本実施例では、試し書きの際に用いるモニタ指標はアシンメトリであり、ステップ324では、第1の試し書きの際と同様なモニタ指標関数を用い、アシンメトリが略ゼロとなるような記録パワーPu、Pb、及びパルスデューティαを求めた(ステップ324)。その後、第1の試し書きと同じ要領で先頭パルス及び最終パルスの長さを決定した(ステップ325)。以上で、2T−8Tマークを含む最終的な記録条件(最適記録パワーPw2および記録パルス波形)が決定された(ステップ308)。記録波形のパラメータを決定するための演算処理は、制御システム312により実行された。
【0042】
次いで、最終的な超解像再生パワーを決定するための第2の試し読みが実行された(ステップ309)。以下では、図3(D)を用いて説明する。第2の試し読みでは、ステップ307で記録した2Tから8Tのマーク列を、Psr’の±20%の範囲かつ0.1mWの刻みで再生し(ステップ331)、再生信号から分解能を算出し(ステップ332)、最大の分解能が得られるパワーを求め、これを最適超解像再生パワーPsrとした(ステップ333および310)。Psrを算出するための演算処理は、制御システム312により実行された。これらの最適記録条件及び超解像再生パワーPsrと再生信号を、制御システム312内に設けたフラッシュメモリまたはディスク内の管理領域に記録・保持した(ステップ311)。
【0043】
この条件でディスクの記録再生条件の設定が完了し、記録再生を開始した。一連の記録を行う際に、ドライブ内温度及びレーザ温度を検知した。このドライブ内温度及びレーザ温度のどちらかが、最適記録再生条件を決定した時の温度から10℃以上変動したら、そこで記録を停止し、それまで記録したデータをPsrのパワーで再生した。ここで、この再生信号振幅が、上記の最適条件で記録・再生した信号の振幅と5%以上異なっていたら、記録再生条件を再設定した。この再設定は、記録再生テストエリアにヘッドを移動させて行った。
【0044】
まず、現在設定されている条件でマーク列を記録・再生し、その振幅を測定した。そこでその信号振幅が、最適条件を設定した際に得られた信号振幅よりも小さかった場合には、Psrを0.05mWずつ大きくし、振幅が大きかった場合にはPsrを0.05mWずつ小さくした。その場合の記録パワーは、Pb及びαは一定とし、Puは式(1)で定められる値とした。信号振幅を調節した後、ジッタが最小となるように先頭パルス、最終パルスの長さを決定した。その後、ヘッドは先ほどまで記録していたトラックへ戻り、続きのデータの記録を開始した。このことにより、条件の再設定を行わない場合は、20分以上の連続記録を行うとビットエラー率が10-4まで劣化するのに比べ、このドライブでは1時間の連続記録でもビットエラー率は10-6以下であった。
【0045】
上記では、パワーを決定するためのモニタ指標として、信号振幅、分解能、ジッタを用いたが、他のパラメータを指標とすることもできる。ここでは、記録再生条件が最適条件からずれているか否かの判断をアシンメトリ、ジッタ、ビットエラー率としても、上記と同じ効果を得ることができた。
【0046】
また、本実施例では、OWCを再実行するイベントがドライブの環境温度変化あるいはレーザの温度変化であるとして説明を行ったが、他のイベント、例えばディスクの位置変化を検出して最適パワー調整を実行しても良い。ディスク上の薄膜の膜厚や組成がディスク位置によって僅かに変化していることがあり、最適な記録・再生パワーがディスクの位置によって僅かに異なることがあるからである。この場合、ディスク上の所定の位置、たとえば内周・中周・外周にOWC用領域を設け、それぞれの位置でOWCを行うことが望ましい。
【0047】
以上、本実施例の光ディスクドライブは、OWCフローを実行する際、記録パルス波形の調整動作と超解像再生パワーの調整動作を組にして実行するため、記録パルス波形の調整を正しく実行することが可能となる。また、長マークに対する記録・再生条件調整と短マークに対する記録・再生条件調整を別なステップで実行するため、光学分解能以上のマーク長において記録条件の調整、光学分解能以下のマーク長において、超解像再生に必要な再生条件の調整が可能となる。なお、以上の説明では、記録条件の変化にあわせて再生条件を調整するフロー(試し書きの実行後に試し読みを実行)を用いて説明を行ったが、再生条件の変化にあわせて記録条件を調整するフローであっても本発明の範疇に含まれることはいうまでもない。
【実施例2】
【0048】
ここでは、ドライブの構成は第1形態とほぼ同じだが、ディスクにエンボスデータを設けた場合について記す。
【0049】
このドライブに、追記型超解像ディスクを挿入した。ここで、推奨記録再生条件を検知する部分までは、第1形態と同じである。
【0050】
次に、このディスクに2Tから8Tの長さのエンボスで構成されているデータ列が作製されている半径25.1〜25.2mmのエリアにヘッドを移動させる。再生パワーを推奨再生パワーの±20%の間で0.1mWの刻みで変化させ、このエンボスデータのジッタが最小になる再生パワーを暫定超解像再生パワーPsr’とした。この時のPsr’の値とその再生信号を、制御システム312内に設けたフラッシュメモリに記録した。
【0051】
次に記録再生テストエリアへ光スポットを移動する。制御システム312は、移動先が記録可能な領域であることは、光スポットの移動先アドレスから判断できる。推奨記録パワーでテストパターンを記録し、Psr’のパワーで再生した。次にPuを変えてテストパターンを記録し、記録したテストパターンを再生パワーは変化させずにPsr’で再生した。得られた再生信号から最小のジッタが得られるPuを算出し、これを最適記録条件とした。
【0052】
次に、最適記録条件で記録したデータ列を、Psr’の±20%の範囲で再生し、最小のジッタが得られる再生パワーを最適超解像再生パワーPsrとした。この最後の、再生パワーを再び調整する過程が必要な理由は、エンボスデータ部分と記録マーク部分の最適再生パワーが同じとは限らないからである。何故ならば、エンボスデータは凹凸で作製されており、凹部分と凸部分での熱拡散速度が異なるため、超解像スポットサイズが、連続溝で作製されている記録可能部分とは一般的に異なるからである。
【0053】
ここで、最適記録再生条件、その時に得られる再生信号を制御システム312内に設けたフラッシュメモリに記録した。
【0054】
このディスクでの記録再生を開始し、ディスク内温度かレーザ温度が10℃以上変動したら、ヘッドをエンボスエリアに移動させ、まず超解像再生パワーの再調整を行った。ここで、パワーは現在の再生パワーの±20%を変動させ、最小のジッタが得られるパワーを求めた。ここで得られた暫定超解像再生パワーをPsr"と書く。そこで、新しく設定する最適超解像再生パワーPsr,newを
【0055】
【数3】

とし、式(1)を満たすようにPuを定めた。ここで、Pb、αは常に一定とした。次に記録再生テストエリアにヘッドを移動し、ジッタが最小になるように先頭パルス、最終パルスの長さを決定した。
【0056】
本形態では、エンボス形成されたプリピットを使用して第1の試し書きおよびイベント発生後の記録パルス波形再調整を実行するため、テストパターンを記録するステップが省略される。よって、Psr,new及びPuを定める過程の作業が少ないため、短時間で記録再生条件の再設定を行うことができる。なお、検出すべきイベントが温度変化のみに限られないことは言うまでもない。また、実施例1同様、再生条件設定後に記録条件を調整するフローであってもよいことは言うまでもない。
【実施例3】
【0057】
本実施例の効果を光ディスクテスタで確認する方法について述べる。
【0058】
図4に、光ディスクテスタの構成図を示す。機能と動作の殆どは第1形態に示した光ディスクドライブのそれと同じである。異なる点は、再生信号とサーボ信号をオシロスコープ416にて観察可能とした点と、テスタの動作、サーボ信号のオフセット調整、ヘッド位置、レーザ照射のタイミングやレーザ照射の波形やパワーなどの条件を制御用コンピュータ417で制御することを可能とした点である。
【0059】
このテスタに追記型超解像ディスク407を搭載し、スピンドル415を回転し、光スポットをディスク上の所定の位置にてサーボによって固定した。
【0060】
用いたディスクは、まだ製品出荷前のディスクであり、第1・第2形態で記したような、推奨記録再生条件はディスク上に記されていない。よって、まず記録波形を決定する作業から始めた。ここでは、上記の形態と同様、Twを25nmとし、変調コードを1-7とした。
【0061】
想定した記録波形を図5に示す。全てのマーク記録に用いる記録パワー値は、上レベルPuと下レベルPbである。nTマークは、n-1個のパルスで記録した。2Tマークは記録のパラメータは、パルス幅tfpと、クロック信号に対するパルスの開始タイミングの遅れtfpd2である。3Tマークの記録のパラメータは、先頭パルスの開始タイミングのtfpd3、第2パルス(最終パルス)の開始タイミングの遅れのtlpd3、及び第2パルス(最終パルス)の長さtlp3である。4T以上の長さのマークは、上記の先頭パルス長さtfpと最終パルスの開始タイミングの遅れtlpdを共通とし、先頭パルスの開始タイミングtfpd、連続パルス部分の上レベルと下レベルの長さtpu、tpbをパラメータとした。ここで、先頭パルスの開始タイミングtfpdと最終パルスの長さtlpは、そのマークの前後のスペース長に依存するパラメータとした。ただし、そのスペース長が5T以上の場合には、全て共通のパラメータ値とした。4T以上の長さnのマークは、先頭パルス及び最終パルスを除いた連続パルス部分の個数をn-3として記録した。このn-3個のパルスのtpuとtpbは全て同じとした。
【0062】
まず、ディスク半径40mmにヘッドを移動させ、24Tマーク−24Tスペースの連続パターン(24Tピュアトーンパターン)を記録し、そのマーク列を再生パワー0.3mWで再生した。ここでマーク長さを24Tとした理由は、24Tは600nmに相当し、光スポットサイズ(λ/NA≒480nm)よりも十分に大きいため、符号間干渉を避けてマークの前エッジ及び後エッジの位置を検知できるからである。このことを用いて、再生信号の振幅と前後エッジの位置が所望の位置になるように、Pu、Pb、先頭パルスの長さとタイミング、及び最終パルスの長さとタイミングを調節した。ここで得られた暫定的な記録パワーをPu‘、Pb’と書くとする。
【0063】
次に、そのPu‘とパルス長で2Tピュアトーンパターンを記録し、再生パワーを1mWから4mWまで0.1mW刻みで変えて、再生信号の振幅を測定した。ここで、最大の振幅が得られる再生パワーを暫定的超解像再生パワーPsr’とした。
【0064】
次に、2Tから8Tまでのマーク長及びスペース長を有するランダムパターンを記録し、Psr’のパワーで再生し、再生信号のアシンメトリが略ゼロになるように、Pu、Pb、先頭パルスの長さとタイミング、最終パルスの長さとタイミングを再調整した。次に、アシンメトリがゼロに最も近くなる記録条件で記録したマーク列をPsrを変化させて再生し、そのジッタを測定した。ここで、Psrの変化幅は、Psr’の±40%とした。ここで、ジッタが最小になるPsrを最適超解像再生パワーとした。ここで得られた結果は、Psr=2.0mW、Pu=7.0mW、Pb=0.3mW、tfpd=6nm、tfp=15nm、tpu=tpb=12.5nm、tlp=5nm、tlpd=14nmであり、そこで得られたジッタは7.2%であった。
【0065】
次に、ディスク半径25mmで同じ記録条件でランダムパターンを記録し、上記のPsrで再生し、ジッタを測定した。その結果得られたジッタは、10.2%であった。ここで、記録波形を変えず、またPb=0.3mW、及び、(Pu+0.3)/Psr=7.3/2.0を固定しながら、Puを0.1mW刻みで変化させ、記録及び再生を行い、8Tマークの信号振幅を観察した。その結果、信号振幅は、Pu=7.2mW、Psr=2.05mWの時に最大となった。そこでPuを7.2mWに固定し、各マーク長のマークエッジ位置を検出し、マークエッジが所望の位置に最も近くなるように、先頭パルスと最終パルスの長さとタイミングを調節した。その結果、ジッタは7.5%になった。
【実施例4】
【0066】
本実施例では、多層SIL記録と超解像を組み合わせた場合のOWCの方法について述べる。多層SIL記録に超解像を適用した場合には、フォーカスずれが問題となる。多層SIL記録用の光ピックアップ光学系では、光をフォーカスするための対物レンズをSIL上に配置した光学系が使用されるが、SILと対物レンズの2つのレンズの位置調整のマージンが狭いため、両者を固定する。このシステムで多層記録を実現するためには、媒体の奥の層に光をフォーカスする必要があるが、2枚のレンズを固定した系では、光スポットのフォーカス位置はSILのレンズ面で決定される。SILのレンズ面は、媒体表面から約20nmの高さに浮上している。ところが、媒体は表面に数μmのカバー層を、記録層間に数μmのスペーサ層を有しており、これらの層が0.5μm程度の厚さムラを有する。よって、SILのレンズ面と媒体の記録層との距離は、例えばディスクが一回転する間に揺らぐ。しかしながら、上記のように2枚のレンズが固定された系では、このような高周波数で揺らぐフォーカスエラーに追従することはでず、結果的にフォーカスがずれた状態で再生パワー補償を行わざるを得ない。従って、多層SIL記録に超解像を適用した系においては、フォーカスずれに起因する再生信号の劣化が問題となる。
【0067】
この課題は、超解像スポットのサイズにあわせて再生パワーを調整することにより解決が可能となる。超解像では、高分解能信号成分は超解像スポットによって得られる。超解像スポットのサイズは超解像再生パワーに依存するので、例えば常に超解像スポットのサイズがディスクの一周内で一定になるように再生パワーを変化させることによって、超解像再生信号を一定に保つことができる。ここで、この解決手段は、超解像再生特有の解決手段であって、常解像再生の場合、上の課題は再生パワー補償では解決できない。しかし、超解像再生の場合、実効スポットサイズは熱分布(つまり再生パワー)で決まるので、再生パワー調整によってある程度はデフォーカスを補償することができる。しかしながら、再生パワーを変化させる場合、記録パワーも一緒に一周内で変える必要がある。
【0068】
従って、本実施例のドライブは、ディスクに厚みムラに対する超解像再生パワーの補償量に合わせて記録パワーを補償する機能を備える。以下、図を用いて具体構成を説明する。
【0069】
ドライブの構成は図3(A)のそれとほぼ同様である。ただし、SILと媒体との距離制御は、SILのレンズ面に誘発された近接場光が媒体表面と結合し、伝搬光となって光検出器311に入射される光量を一定にすることによって行った。この場合、光量は記録マークや媒体ノイズによって揺らぐので、高域遮断フィルタによって信号帯域を10kHz以下とした。この信号帯域であれば、SILと媒体の距離が一定ならば信号はほぼ一定であり、かつ、レンズ系の質量により、これ以上の周波数帯域でレンズを移動させることは不可能なので、SILと媒体の距離がほぼ一定に保たれる。
【0070】
ドライブの光源波長を405nm、SILのNAを1.8とした。λ/NAは225nmなので、回折限界のサイズλ/4NAは約56nmとなる。ディスクのTwを12.5nmとし、変調コードは1-7変調とした。また、トラックピッチは150nmとした。
【0071】
第2形態と同様、ディスクにウォブルデータとして記録しておいた推奨記録再生条件を読み出した。その結果、Pu=5.2mW、Pb=0.3mW、Psr=1.4mW、連続パルス部分のtpuとtpbの比tpu/tpb=0.6/0.4であった。次にディスク半径25.0〜25.3mmに設けたエンボスデータ部分にヘッドを移動させた。このエンボスデータ部分には、上記のマークサイズのランダムデータが記録されている。このエンボスデータは、基板のパターニングのための原盤を作製する際に、電子線描画によって作製した。
【0072】
2層の媒体を作製し、媒体のカバー層厚を2μm、2層の層間のスペーサ層厚を3μmとした。記録膜はデータの書き換えのできない追記型とした。
【0073】
2層の記録層のうち、光スポットを、光入射側から見て奥の層に光スポットの焦点を当て、エンボスデータ部分を推奨再生パワーPsr’で再生した。この再生信号を、ディスク一周を16分割し、その分割エリアにディスクの基準回転角で数えて0〜15まで番号を付け、それぞれの分割エリアでのジッタを算出した。その結果を図6に示す。ジッタの最大許容値を7.5%とすると、分割エリア#6〜9において、許容値を超えている。このことは、このエリアにおいて、媒体のカバー層とスペーサ層の厚さの和が揺らぎ、光スポットがデフォーカスしていることに起因すると考えられる。
【0074】
そこで、Psrを変化させ、それぞれの分割エリアで最小のジッタを得るPsrを測定した。その結果を図7に示す。ここで得られたPsrは、分割エリアの関数になるので、Nを分割エリア番号とし、Psr(N)と記す。
【0075】
次に、半径25.3〜25.5mmに設けた、記録再生テストエリアにヘッドを移動させた。ここでマークを記録する際、Puを分割エリア番号Nの関数Pu(N)と記し、Pbは0.3mWで一定とした。上記のように、PuとPbのパルス長のデューティtpu/tpbは0.6/0.4としたので、式(1)において、α=0.6とすることができ、よって、
【0076】
【数4】

としてPu(N)を算出した。即ち、ディスクの回転角で記録パワーを変化させた。このPu(N)でテスト記録を行い、各マーク長のマークエッジ位置を検出し、エッジ位置が所望の位置に近くなるように、先頭パルスと最終パルスの長さとタイミングを調節した。
【0077】
本実施例では、ディスクの記録層1層につき1つのトラックでOWCを行った。この理由は、ディスクのスペーサ層及びカバー層は、樹脂をスピンコートすることによって作製したが、スピンコートを用いた場合、ディスク一周内の層厚ムラのプロファイルは、ほぼディスクの回転角に依存し、半径方向への依存性は低いからである。ただし、膜厚ムラは半径依存性をほぼ有しないが、膜厚の絶対値は、例えば外周の方が厚くなることがある。半径方向への依存性が低い理由は、スピンコートでは、樹脂は内周から外周へ、ほぼ回転の法線方向に沿って流れるからである。本実施例では、分割エリア#0で超解像再生条件の調整を行った。分割エリア#0内でトラック1周分のテストデータを再生し、再生信号からジッタを最小にするPsrを見出し、新たなPsrを図7のデータに比例させて算出した。更に、記録パワーは式(3)を用いて算出した。2層媒体のもう一方の層も同様にOWCを行い、ディスク全体でジッタを7.5%以下にすることができた。
【符号の説明】
【0078】
201:光スポット、202:超解像スポット、203:記録マーク、301:半導体レーザ、302:レンズ、303:偏光ビームスプリッタ、304:λ/4板、305:ミラー、306:対物レンズ、307:ディスク、308:ハーフミラー、309:ミラー、310:フォーカスサーボ信号検出器、311:再生信号・トラッキング信号検出器、312:信号処理・制御システム、313:アクチュエータ、314:レーザ干渉計、315:スピンドル、401:半導体レーザ、402:レンズ、403:偏光ビームスプリッタ、404:λ/4板、405:ミラー、406:対物レンズ、407:ディスク、408:ハーフミラー、409:ミラー、410:フォーカスサーボ信号検出器、411:再生信号・トラッキング信号検出器、412:信号処理・制御システム、413:アクチュエータ、414:レーザ干渉計、415:スピンドル、416:オシロスコープ、417:制御用コンピュータ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光情報記録媒体にレーザを照射して前記レーザの照射スポット径よりも小さな記録マークを形成し、かつ前記照射スポット径のレーザを照射して前記記録マークを超解像再生する記録再生方法であって、
前記記録再生におけるそれぞれのパワーを決定する過程において、
長マークに対する前記レーザの記録パワーを調整し、第1の記録パワーを決定するステップと、
前記第1の記録パワーで記録された前記長マークについて、第1の試し読みを実行することにより、前記長マークに対する超解像再生パワーを決定するステップと、
短マーク及び前記長マークについて、第2の試し書きを実行することにより、前記短マーク及び前記長マークに対する前記レーザの第2の記録パワーを決定するステップと、
前記第2の記録パワーで記録された前記光情報記録媒体について、第2の試し読みを実行することにより、前記短マーク及び前記長マークに対する超解像再生パワーを決定するステップとを有することを特徴とする光情報記録再生方法。
【請求項2】
前記第1の記録パワーを決定するステップは、前記光情報記録媒体にエンボス形成された前記記録マークを用いて行われることを特徴とする請求項1記載の光情報記録再生方法。
【請求項3】
前記第2の試し書きは、前記長マークについては前記第1の記録パワーを用い、前記短マークについては前記光情報記録媒体に予め記録された推奨記録条件のパワー値を用いることを特徴とする請求項1記載の光情報記録再生方法。

【図1】
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【図2】
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【図3(A)】
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【図3(B)】
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【図3(C)】
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【図3(D)】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−30266(P2013−30266A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−196763(P2012−196763)
【出願日】平成24年9月7日(2012.9.7)
【分割の表示】特願2009−62237(P2009−62237)の分割
【原出願日】平成21年3月16日(2009.3.16)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.BLU−RAY DISC
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】