説明

光操作装置

【課題】より小型の光操作装置を提供すること。
【解決手段】外部から光が入力される、または外部に光を出力する光入出力ポートと、光入出力ポートから入射した光を光入出力ポートに向けて出射する、偏波依存特性を有する空間光変調器と、光入出力ポートと空間光変調器との間に配置され、光入出力ポートと空間光変調器と光学的に結合させる集光素子と、集光素子と空間光変調器との間に配置され、入力された光の偏波状態を、単一の偏波方向のみからなるように操作して出力する偏波操作素子と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光の強度、波長、位相、偏波状態または経路などを操作する光操作装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の光通信システムは、その形態がpoint−to−point型から、リング型またはメッシュ型のネットワークへと発展しつつある。このような形態のネットワークのノードには、任意の信号光を任意のポートに入出力させて、信号光の経路を任意に変更するための光操作装置である光スイッチ装置が必要とされる。特に、互いに異なる波長の信号光が波長分割多重(Wavelength Division Multiplexing)された波長多重信号光を用いる場合は、任意の波長の信号光に対して任意に経路を変更できる波長選択光スイッチ装置が必要とされる。
【0003】
このような光スイッチ装置には、信号光の経路を切り替えるために、LCOS(Liquid Crystal On Silicon)を用いたものがある(特許文献1、2参照)。LCOSは、入射された光の位相を液晶によって変調し、回折させることができる空間光変調器である。したがって、LCOSを用いた光スイッチ装置では、或る経路から入力された信号光を、LCOSによって回折させて、特定の経路に出力することにより、光スイッチ動作を実現している。
【0004】
ここで、LCOSは液晶の複屈折を利用するため、偏波依存特性を有している。この問題を解決するために、LCOSを用いた光スイッチ装置は、偏波分離素子および偏波回転素子を備えている。このような光スイッチ装置は、偏波分離素子が、光スイッチ装置に入力された信号光を互いに直交する2つの直線偏波の信号光に分離し、偏波回転素子が一方の信号光の偏波方向を回転させてもう一方の信号光の偏波方向に合わせることによって、偏波方向が一致した2つの信号光がLCOSに入射されるように構成されている。これによって、単一の偏波方向のみからなる信号光がLCOSに入射されるので、偏波依存特性の問題が解決される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許出願公開第2006/0067611号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2005/0276537号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、光通信システムの高機能化に伴い、システムを構成する光通信装置で使用される光部品の数も増加している。このため、装置の設置スペースの制約等の関係上、光スイッチ装置をはじめとする、光の強度、波長、位相、偏波状態または経路などを操作する光操作装置にも小型化が強く求められている。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、より小型の光操作装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る光操作装置は、外部から光が入力される、または外部に光を出力する光入出力ポートと、前記光入出力ポートから入射した光を前記光入出力ポートに向けて出射する、偏波依存特性を有する空間光変調器と、前記光入出力ポートと前記空間光変調器との間に配置され、前記光入出力ポートと前記空間光変調器と光学的に結合させる集光素子と、前記集光素子と前記空間光変調器との間に配置され、入力された光の偏波状態を、単一の偏波方向のみからなるように操作して出力する偏波操作素子と、を備えたことを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る光操作装置は、上記の発明において、前記偏波操作素子は、前記光入出力ポートから入射した光を互いに直交する2つの直線偏波の光に分離する偏波分離素子と、前記偏波分離素子の前記空間光変調器側に配置された、前記2つの光の偏波方向を同一にして出力するための偏波回転素子とを有することを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る光操作装置は、上記の発明において、前記空間光変調器は液晶によって光を空間変調するものであることを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る光操作装置は、上記の発明において、前記空間光変調器はLCOSであることを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る光操作装置は、上記の発明において、前記偏波分離素子は複屈折性材料からなることを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係る光操作装置は、上記の発明において、前記偏波分離素子は方解石またはルチルからなることを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係る光操作装置は、上記の発明において、前記偏波分離素子はウォラストンプリズムであることを特徴とする。
【0015】
また、本発明に係る光操作装置は、上記の発明において、前記光入出力ポートと前記集光素子との間に配置され、入力された光の波長成分を分離する光分散素子を備え、前記空間光変調器を用いて前記光分散素子により分離された複数の波長成分を操作することを特徴とする。
【0016】
また、本発明に係る光操作装置は、上記の発明において、前記光分散素子は回折格子であることを特徴とする。
【0017】
また、本発明に係る光操作装置は、上記の発明において、前記光入出力ポートと前記光分散素子との間に配置されたアナモルフィック光学系を備えることを特徴とする。
【0018】
また、本発明に係る光操作装置は、上記の発明において、前記空間光変調器は光スイッチであることを特徴とする。
【0019】
また、本発明に係る光操作装置は、上記の発明において、前記空間光変調器は強度変調器であることを特徴とする。
【0020】
また、本発明に係る光操作装置は、上記の発明において、前記空間光変調器は位相変調器であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、偏波分離素子を集光素子と空間光変調器との間に配置することによって、使用する光学素子の小型化を実現できるので、光操作装置をより小型にできるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は、実施の形態1に係る波長選択光スイッチ装置の概略構成を示すブロック図である。
【図2】図2は、図1に示す波長選択光スイッチ装置を別の方向から見た図である。
【図3】図3は、図1に示す波長選択光スイッチ装置における各素子の配置を示す図である。
【図4】図4は、図1に示すコリメータアレイの構成を示す図である。
【図5】図5は、図1に示す偏波操作素子の構成を示す図である。
【図6】図6は、図1に示す空間光変調器アレイを構成する空間光変調器の構成を示す分解図である。
【図7】図7は、従来の波長選択光スイッチ装置の回折格子における信号光の光路を示す図である。
【図8】図8は、図1に示す波長選択光スイッチ装置の回折格子における信号光の光路を示す図である。
【図9】図9は、従来の波長選択光スイッチ装置の偏波操作素子における信号光の光路を示す図である。
【図10】図10は、図1に示す波長選択光スイッチ装置の偏波操作素子における信号光の光路を示す図である。
【図11】図11は、図7とは別の従来の波長選択光スイッチ装置の光路をy軸方向正の向きから見た図である。
【図12】図12は、本実施の形態1の波長選択光スイッチ装置10の光路をy軸方向正の向きから見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、図面を参照して本発明に係る光操作装置の実施の形態を詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。また、各図面において、同一または対応する要素には適宜同一の符号を付している。さらに、図面は模式的なものであり、各層の厚みと幅との関係、各層の比率などは、現実のものとは異なる場合があることに留意する必要がある。図面の相互間においても、互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている場合がある。また、図中、適宜xyz座標系を用いて方向を説明しているが、各図においてxyz軸の方向は同一であるものとする。
【0024】
(実施の形態1)
はじめに、本発明の実施の形態1に係る光操作装置である波長選択光スイッチ装置について説明する。図1、図2は、本実施の形態1に係る波長選択光スイッチ装置10の概略構成を示すブロック図である。なお、図1は、xyz座標系のx軸方向正の向きから見たものであり、図2は、y軸方向正の向きから見たものである。図1に示すように、この波長選択光スイッチ装置10は、コリメータアレイ1と、光スイッチである空間光変調器アレイ2と、集光素子である集光レンズ3と、偏波操作素子4と、光分散素子である回折格子5と、アナモルフィック光学系6とを備えている。なお、この波長選択光スイッチ装置10に入力または出力される光は特に限定されないが、たとえば波長1520〜1620nmの光通信用の信号光である。なお、空間光変調器アレイ2はアレイ状に配列された4つの空間変調器からなっていてもよいし、一つの空間変調器を4つの領域に分割してそれぞれの領域を独立に制御するものもよい。
【0025】
集光レンズ3は、コリメータアレイ1と空間光変調器アレイ2との間に配置され、これらを光学的に結合させるものである。ここで、集光レンズ3は1枚のレンズから構成されていてもよいし、複数のレンズから構成されていてもよい。偏波操作素子4は、集光レンズ3と空間光変調器アレイ2との間に配置され、入力された光の偏波状態を操作するものであり、具体的には後述するように入力された光の偏波分離と偏波回転とを行うものである。回折格子5は、透過型回折格子であって、コリメータアレイ1と集光レンズ3との間に配置され、入力された光を分光するものである。アナモルフィック光学系6は、コリメータアレイ1と回折格子5との間に配置され、入力された光のビーム形状の縦横比を変更するものである。
【0026】
図3は、図1に示す波長選択光スイッチ装置10における各素子の配置を示す図である。このように、実際には回折格子5において光路が大きく曲げられるので、アナモルフィック光学系6から空間光変調器アレイ2までの各素子は回折格子5の前後で角度を持って配置される。ただし、図1、2においては、簡略化のために各素子を光路に沿って直線的に配置して示している。また、図3に示すように、アナモルフィック光学系6としてはアナモルフィックプリズムペアを使用することができるが、たとえばシリンドリカルレンズを組み合わせたものでもよい。また、図3では、コリメータアレイ1から入力した光L1が、回折格子5によって波長の異なる光L2、L3、L4に分光される状態を示している。このように、回折格子5は、yz平面内で光を分光するように配置されている。
【0027】
つぎに、コリメータアレイ1、偏波操作素子4および空間光変調器アレイ2について、順次具体的に説明する。
【0028】
図4は、図1に示すコリメータアレイ1の構成を示す図である。図1に示すように、コリメータアレイ1は、外部から光が入力される、または外部に光を出力する光入出力ポート1aと、複数のコリメータレンズ1bと、光入出力ポート1aの各光ファイバポートを挿通固定する光ファイバ固定基材1cと、光ファイバ固定基材1cに取り付けられるとともに、コリメータレンズ1bを保持する透明なスペーサ部1dとを備えている。
【0029】
光入出力ポート1aは、光ファイバポート1aa〜1aeが所定の配列方向(図中x軸方向)にアレイ状に配列したものである。各光ファイバポートは、その光出射端面が、スペーサ部1dが取り付けられた光ファイバ固定基材1cの面と同一平面上になるように固定されている。また、コリメータレンズ1bは、各光ファイバポート1aa〜1aeに対応させて設けられている。また、スペーサ部1dの厚さは、コリメータレンズ1bの焦点距離に略相当する厚さになっている。その結果、このコリメータアレイ1では、コリメータレンズ1bが、各光ファイバポートから出力した光を平行光にし、または、入力された平行光を光ファイバポートに集光して結合させることができる。
【0030】
この波長選択光スイッチ装置10では、光入出力ポート1aのうち、集光レンズ3の光軸上に配置された光ファイバポート1aaが、外部から光が入力される共通の光ファイバポート(Comポート)として設定されており、その他の4つの光ファイバポート1ab〜1aeが、外部に光を出力する光ファイバポートとして設定されている。すなわち、この波長選択光スイッチ装置10は1×4の光スイッチとして機能する。
【0031】
つぎに、偏波操作素子4について説明する。図5は、図1に示す偏波操作素子4の構成を示す図である。図5に示すように、この偏波操作素子4は、偏波分離素子4aと、偏波分離素子4aの空間光変調器アレイ2側(紙面右側)の側面下部に配置された偏波回転素子4bと、偏波分離素子4aの空間光変調器アレイ2側の側面上部に配置された光路調整素子4cとを有する。
【0032】
偏波分離素子4aは、たとえばルチル(TiO)単結晶や方解石などの複屈折性材料からなり、互いに直交する2つの直線偏波成分P1(x軸偏波)、P2(y軸偏波)を含む光L5を直線偏波成分P1を有する光L6と直線偏波成分P2を有する光L7に偏波分離する。ここで、偏波分離素子4aから出射された光L6と光L7は光入出力ポート1aの配列方向に分離される。
【0033】
偏波回転素子4bは、λ/2波長板であり、入力された光L6の偏波方向を90度回転させて光L7の偏波方向と一致させて出力する。
【0034】
光路調整素子4cは、光学板(たとえばガラス板)からなり、入力された光L7の光路長を調整する機能を有する。すなわち、図5に示すように、光L7は偏波分離素子4a中では偏波回転される光L6よりも光路長が短い。そこで、光路調整素子4cは、光L7を通過させることによって、光L7の光路長を調整して、光L6の光路長と光L7の光路長とが一致するようにしている。光L7の光路長の調整は、光路調整素子4cの厚さおよび屈折率の設定によって行うことができる。
【0035】
なお、偏波分離素子4aは複屈折性材料からなるプリズムで構成したウォラストンプリズムでもよい。また、この偏波操作素子4では、光路調整素子を光L7の光路にのみ配置しているが、光L6、L7の光路のそれぞれに配置するようにしてもよい。
【0036】
つぎに、空間光変調器アレイ2について説明する。空間光変調器アレイ2は、図1のy方向にアレイ状に配列された4つの空間光変調器から構成される。図6は、図1に示す空間光変調器アレイ2を構成する空間光変調器2Aの構成を示す分解図である。図6に示すように、この空間光変調器2Aは、LCOSであって、液晶駆動回路が形成されたシリコン基板2a上に、反射率がほぼ100%の反射層である画素電極群2bと、空間光変調層である液晶層2cと、配向膜2dと、ITO(Indium Tin Oxide)電極2eと、カバーガラス2fとが順次積層した構成を有している。
【0037】
この空間光変調器2Aは、画素電極群2bとITO電極2eとの間に電圧を印加することによって、液晶層2cが図中x軸の方向に屈折率のグラデーションを有するように制御できる。そして、この屈折率のグラデーションを調整することによって、カバーガラス2f側から入射した光が、画素電極群2bにより反射して液晶層2cを伝搬する際に、光を所定の回折角で回折させて出射するように調整することができる。
【0038】
また、空間光変調器2Aは、光入出力ポート1aの光ファイバポート1aa〜1aeの配列方向と、液晶層2cの屈折率のグラデーションの方向とがx軸方向で一致するように配置されている。その結果、この空間光変調器2Aは、液晶層2cへの印加電圧を制御することによって、光ファイバポート1aaから入射した光L8を、光L9として他の光ファイバポート1ab〜1aeのいずれかに向けて出射できるように、光の出射角度θを制御することができる。
【0039】
なお、空間光変調器アレイ2を構成する他の3つの空間光変調器も空間光変調器2Aと同様の構成を有する。
【0040】
つぎに、図1、2を参照して、この波長選択光スイッチ装置10の動作について説明する。はじめに、この波長選択光スイッチ装置10のコリメータアレイ1のComポート(図4の光ファイバポート1aa)に、互いに波長が異なる4つの信号光からなる波長多重信号光OSが入力される。コリメータアレイ1は、波長多重信号光OSを平行光にしてアナモルフィック光学系6に出力する。アナモルフィック光学系6は、波長多重信号光OSのビーム径を、回折格子5の格子の配列方向に広げて出力する。その結果、波長多重信号光OSが多くの格子に当たるようになり、波長選択の分解能が高められる。回折格子5は、波長多重信号光OSを、波長が互いに異なる信号光OS1、OS2、OS3、OS4に分光して、所定の角度に出力する。集光レンズ3は、各信号光OS1〜OS4の光路を屈折させて、偏波操作素子4を介して空間光変調器アレイ2に集光する。
【0041】
ここで、上述したように、偏波操作素子4は、各信号光OS1〜OS4を偏波分離し、分離した2つの光の偏波方向を一致させるとともにその光路長も一致させる操作を行なって出力する。したがって、各信号光OS1〜OS4は、上記操作がされた信号光OS1a〜OS4aとして空間光変調器アレイ2に集光される。なお、信号光OS1a〜OS4aは、それぞれ空間光変調器アレイ2を構成する4つの空間光変調器のそれぞれに集光される。
【0042】
なお、各信号光OS1〜OS4の偏波操作素子4への入射角度は0度ではなく、且つ互いに異なるが、その角度は通常小さい角度になるように設計される。したがって、各信号光OS1〜OS4に対する偏波操作素子4の偏波操作特性は、その入射角度の相違に依らず殆ど同じである。
【0043】
つぎに、空間光変調器アレイ2は、不図示の制御器によって印加電圧が制御され、各信号光OS1a〜OS4aを光ファイバポート1ab〜1aeのうちの対応するポートに向けて所定の角度で回折させる。ここで、空間光変調器アレイ2は偏波依存特性を有するが、信号光OS1a〜OS4aは偏波操作素子4の操作を受けて単一の偏波方向からなるものにされているので、空間光変調器アレイ2の偏波依存特性の影響なく回折される。
【0044】
つぎに、各信号光OS1a〜OS4aは、再度偏波操作素子4に入力する。偏波操作素子4は、各信号光OS1a〜OS4aに往路とは逆の操作を与え、すなわち、2つの一致した偏波方向の光を直交させて合成し、各信号光OS1〜OS4として出力する。
【0045】
各信号光OS1〜OS4は、集光レンズ3、回折格子5、アナモルフィック光学系6を順次経由して、コリメータアレイ1の対応する光ファイバポート1ab〜1aeに入力され、光波長選択光スイッチ装置10から出力される。このようにして、この波長選択光スイッチ装置10は、Comポートから入力された波長多重信号光OSを各波長の信号光OS1〜OS4ごとに所望のポートに出力する波長選択光スイッチング動作を行うことができる。
【0046】
ここで、この波長選択光スイッチ装置10は、偏波操作素子4が集光レンズ3と空間光変調器アレイ2との間に配置されているため、従来よりも小型化されたものとなる。
【0047】
以下、従来の波長選択光スイッチ装置と比較して説明する。従来の波長選択光スイッチ装置は、偏波分離を行なう偏波操作素子が光入出力ポートの直後に配置されていた。したがって、偏波波操作素子に続いて配置された光素子は、2つの偏波状態の光の光路を確保するための大きさが必要であった。
【0048】
たとえば、図7は、従来の波長選択光スイッチ装置の回折格子5Bにおける波長多重信号光OSの光路を示す図である。なお、アナモルフィック光学系6は必要に応じてたとえばコリメータアレイ1の後ろに配置してもよい。図7に示すように、コリメータアレイ1、偏波操作素子4B、回折格子5B、集光レンズ3B、および空間光変調器アレイ2Bがこの順番で配列した従来の波長選択光スイッチ装置では、波長多重信号光OSは偏波操作素子4Bによってそれぞれ直線偏波を有する2つの信号光OS10と信号光OS20とに分離された状態で回折格子5Bに入力する。したがって、信号光OS10と信号光OS20との2つの光路を確保するための幅W1を有する回折格子5Bを使用する必要がある。具体的には、信号光OS10と信号光OS20のビーム径の2倍以上の幅が必要である。
【0049】
これに対して、図8は、図1に示す本実施の形態1に係る波長選択光スイッチ装置10の回折格子5における波長多重信号光OSの光路を示す図である。なお、アナモルフィック光学系6は記載を省略している。図8に示すように、この波長選択光スイッチ装置10では波長多重信号光OSは偏波分離されない状態で回折格子5に入力する。したがって、回折格子5の幅W2は、波長多重信号光OSの1つだけの光路を確保すればよいので、従来の回折格子5aの幅W1より狭い、たとえば幅W1の1/2以下の幅であればよい。したがって、この波長選択光スイッチ装置10では、回折格子5として従来の回折格子5Bよりも小型のものを使用できる。
【0050】
つぎに、図9は、従来の波長選択光スイッチ装置の偏波操作素子4Bにおける信号光の光路を示す図である。図9に示すように、従来の波長選択光スイッチ装置では、偏波操作素子4aはコリメータアレイ1の直後に配置されているため、コリメータアレイ1に入出力される破線で示す信号光を全て通過させるための高さH1を有する必要がある。
【0051】
これに対して、図10は、図1に示す本実施の形態1に係る波長選択光スイッチ装置10の偏波操作素子4における信号光の光路を示す図である。図10に示すように、波長選択光スイッチ装置10では、集光レンズ3によって屈折されて光路が密集した状態で信号光OS1〜OS4が偏波操作素子4を通過する。したがって、偏波操作素子4の高さH2は、従来の偏波操作素子4aの高さH1よりも低い。したがって、偏波操作素子4として、従来の偏波操作素子4aよりも小型のものを使用できる。
【0052】
同様に、本実施の形態1に係る波長選択光スイッチ装置10では、アナモルフィック光学系6および集光レンズ3についても従来よりも小型のものを使用できる。したがって、この波長選択光スイッチ装置10は、使用する光学素子を小型化できるため、従来よりもいっそう小型にできる。
【0053】
なお、集光レンズ3の手前で偏波分離を行うと、集光レンズ3内における光軸から離れた部分を利用して集光を行うことになり、集光レンズ3の収差の影響が大きくなるという問題がある。したがって、空間光変調器アレイ2でビームがきれいに集光しなくなり、波長選択光スイッチ装置の特性が劣化する。
【0054】
さらに、従来の波長選択光スイッチ装置では、偏波分離された2つの偏波状態の信号光は、空間光変調器アレイに到達するまでに長い距離を伝搬するとともに、複数の光学素子を通過することとなる。ここで、2つの偏波状態の信号光の光路は、空間的に分離しているため、光学素子を通過する度に光路長に差異が生じる可能性がある。その結果、従来の波長選択光スイッチ装置では、2つの偏波状態の信号光の光路長を一致させるための光路調整と光学素子の配置設計とが複雑なものであった。
【0055】
また、特に、図3に示すように回折格子の前後で光路が大きく曲がっている場合には、偏波操作素子から回折格子までの光路長と、回折格子から空間光変調器アレイまでの光路長とを、別々に調整することが好ましい。しかしこの場合、少なくとも2箇所に光路調整素子を配置する必要があるため、光路調整素子の配置設計が煩雑となり、かつ部品点数の増加のため高コストとなる。
【0056】
これに対して、本実施の形態1に係る波長選択光スイッチ装置10では、偏波操作素子4によって偏波分離された2つの信号光は、空間光変調器アレイ2に到達するまでの距離が短く、かつ他の光学素子を通過することはない。また、回折格子5よりも前で光路長を調整する必要もない。したがって、この波長選択光スイッチ装置10は、従来よりも光路調整と光学素子の配置設計とが容易であり、かつ低コストとなる。
【0057】
また、アナモルフィック光学系を用いてビーム径を所定方向に広げる構成を採用する場合は、アナモルフィック光学系の前で偏波分離すると、アナモルフィック光学系に続いて配置された光学素子は、光路の確保のために必要なサイズが特に大きくなる。これに対して、本実施の形態1に係る波長選択光スイッチ装置10は、アナモルフィック光学系6を採用しながらも、各光学素子を小型化できるため、よりいっそうの小型化が可能であり、特に好ましい。
【0058】
たとえば、図11は、図7とは別の従来の波長選択光スイッチ装置の光路をy軸方向正の向きから見た図である。なお、アナモルフィック光学系6は必要に応じてたとえばコリメータアレイ1の後ろに配置してもよい。また、図12は、本実施の形態1の波長選択光スイッチ装置10の光路をy軸方向正の向きから見た図である。なお、アナモルフィック光学系6は記載を省略している。図11に示すように、従来の波長選択光スイッチ装置では、波長多重信号光OSは偏波操作素子4Cによりそれぞれ直線偏波を有する2つの信号光OS10と信号光OS20とがx軸方向に分離された状態で回折格子5Bや集光レンズ3Cに入力し、その後空間光変調器アレイ2Cに入力する。したがって、信号光OS10と信号光OS20との2つの光路を確保するために、従来の波長選択スイッチ装置の高さは、図12に示すような本実施の形態1の波長選択スイッチ装置10の2倍以上の高さが必要である。このように、本実施の形態1の波長選択スイッチ装置10は、高さを抑えることができるので小型化につながるという特徴と、使用する光学部品が小さな光学部品で済むため低コスト化につながるという特徴とを有する。また、本実施の形態1の波長選択スイッチ装置10では、空間光変調器アレイ4の手前までは信号光が2つの直線偏波の信号光に分離されていないため、光路長の調整が容易である。
【0059】
なお、上記実施の形態では、光スイッチ装置が1×4型のものであるが、本発明では光が入出力するポートの数は特に限定されず、N×M光スイッチ装置であればよい(ただしN、Mは1以上の整数である)。
【0060】
また、上記実施の形態では、空間光変調器がLCOSであるが、空間光変調層として液晶または光をスイッチできる他の部材を用いており、偏波依存特性を有する空間光変調器または光スイッチであれば特に限定されない。
【0061】
また、上記実施の形態では、回折格子は透過型であるが、反射型でもよい。また回折格子の代わりに、プリズムなどの光分散素子を用いてもよい。また、光分散素子としては偏波依存特性が小さいものが好ましい。
【0062】
また、上記実施の形態は波長選択光スイッチ装置であるが、本発明はこれに限らず、光分散素子を備えず、特定波長の信号光の経路を任意に変更するための光スイッチ装置に適用することができる。また、本発明は、アナモルフィック光学系を備えない光スイッチ装置に対しても適用することができる。
【0063】
また、上記実施の形態では、光スイッチを用いた波長選択スイッチ装置について説明したが、本発明は、偏波依存性を有する空間光変調器を用いる光操作装置であれば特に限定されない。例えば、上記実施の形態において、空間光変調器として、光スイッチの替わりに強度変調器を用いれば、強度変調装置として利用できる。更に、回折格子による分散方向である図1のy軸方向に沿って、強度変調器を並べることにより、各強度変調器に入射された波長の光ごとに光の強度を操作できるので、折り返された光の強度スペクトル形状を制御することができる。また、例えば、空間光変調器として、光スイッチの替わりに位相変調器を用いれば、位相変調装置として利用できる。更に、回折格子による分散方向である図1のy軸方向に沿って、位相変調器を並べることで、各位相変調器に入射された波長の光ごとに光の位相を操作できるので、折り返された光の群速度分散の波長依存性を制御することができる。郡速度分散の波長依存性を制御することにより、例えば、光信号の分散補償の機能を位相変調装置に持たせることができる。これらの空間光変調を行う際は、操作した光を、必ずしも光が入力されたポートとは異なるポートに出力する必要は無く、光が入力されたポートと同じポートに折り返してもよい。その場合は、サーキュレータなどを用いて、入力光と出力光を分離することができる。
【0064】
また、上記実施の形態により本発明が限定されるものではない。上述した各構成要素を適宜組み合わせて構成したものも本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0065】
1 コリメータアレイ
1a 光入出力ポート
1aa〜1ae 光ファイバポート
1b コリメータレンズ
1c 光ファイバ固定基材
1d スペーサ部
2 空間光変調器アレイ
2A 空間光変調器
2a シリコン基板
2b 画素電極群
2c 液晶層
2d 配向膜
2e ITO電極
2f カバーガラス
3 集光レンズ
4 偏波操作素子
4a 偏波分離素子
4b 偏波回転素子
4c 光路調整素子
5 回折格子
6 アナモルフィック光学系
10 波長選択光スイッチ装置
H1、H2 高さ
L1〜L9 光
OS 波長多重信号光
OS1〜OS4、OS1a〜OS4a、OSp、OSs 信号光
P1、P2 直線偏波成分
W1、W2 幅
θ 出射角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部から光が入力される、または外部に光を出力する光入出力ポートと、
前記光入出力ポートから入射した光を前記光入出力ポートに向けて出射する、偏波依存特性を有する空間光変調器と、
前記光入出力ポートと前記空間光変調器との間に配置され、前記光入出力ポートと前記空間光変調器と光学的に結合させる集光素子と、
前記集光素子と前記空間光変調器との間に配置され、入力された光の偏波状態を、単一の偏波方向のみからなるように操作して出力する偏波操作素子と、
を備えたことを特徴とする光操作装置。
【請求項2】
前記偏波操作素子は、前記光入出力ポートから入射した光を互いに直交する2つの直線偏波の光に分離する偏波分離素子と、前記偏波分離素子の前記空間光変調器側に配置された、前記2つの光の偏波方向を同一にして出力するための偏波回転素子とを有することを特徴とする請求項1に記載の光操作装置。
【請求項3】
前記空間光変調器は液晶によって光を空間変調するものであることを特徴とする請求項1または2に記載の光操作装置。
【請求項4】
前記空間光変調器はLCOSであることを特徴とする請求項3に記載の光操作装置。
【請求項5】
前記偏波分離素子は複屈折性材料からなることを特徴とする請求項2〜4のいずれか一つに記載の光操作装置。
【請求項6】
前記偏波分離素子は方解石またはルチルからなることを特徴とする請求項5に記載の光操作装置。
【請求項7】
前記偏波分離素子はウォラストンプリズムであることを特徴とする請求項5に記載の光操作装置。
【請求項8】
前記光入出力ポートと前記集光素子との間に配置され、入力された光の波長成分を分離する光分散素子を備え、前記空間光変調器を用いて前記光分散素子により分離された複数の波長成分を操作することを特徴とする請求項1〜7のいずれか一つに記載の光操作装置。
【請求項9】
前記光分散素子は回折格子であることを特徴とする請求項8に記載の光操作装置。
【請求項10】
前記光入出力ポートと前記光分散素子との間に配置されたアナモルフィック光学系を備えることを特徴とする請求項8または9に記載の光操作装置。
【請求項11】
前記空間光変調器は光スイッチであることを特徴とする請求項1〜10のいずれか一つに記載の光操作装置。
【請求項12】
前記空間光変調器は強度変調器であることを特徴とする請求項1〜10のいずれか一つに記載の光操作装置。
【請求項13】
前記空間光変調器は位相変調器であることを特徴とする請求項1〜10のいずれか一つに記載の光操作装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−93523(P2012−93523A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−240172(P2010−240172)
【出願日】平成22年10月26日(2010.10.26)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】