説明

光検出素子及び光検出方法

【課題】故障し難く小型化することが可能な光検出素子及び該光検出素子を用いる光検出方法を提供する。
【解決手段】光吸収層及び該光吸収層に隣接する量子構造部と、光吸収層に接続された第1電極と、量子構造部に接続された第2電極とを有し、量子構造部は、量子井戸層及び該量子井戸層を挟む障壁層を有し、障壁層の伝導帯端は光吸収層の伝導帯端よりも高エネルギーであり、障壁層の伝導帯端と光吸収層の伝導帯端とのエネルギー差は、0.58eVよりも大きく、量子井戸層の伝導帯側に形成された量子準位は光吸収層の伝導帯端よりも高エネルギーであり、量子準位と光吸収層の伝導帯端とのエネルギー差は電子が受け取る熱エネルギーよりも大きい光検出素子とし、該光検出素子を用いて光検出素子へと入射した光により生じた電流電圧特性を得る工程と、得られた電流電圧特性を用いて入射した光の波長及び強度を同定する工程と、を有する光検出方法とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光の波長や強度を特定する際に用いられる光検出素子及び該光検出素子を用いる光検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エネルギーを吸収した物質が放出する特定波長の光を調べることにより物性を把握する方法として、フォトルミネッセンス(PL)法やエレクトロルミネッセンス(EL)法等が知られている。これらの方法では、光のスペクトルや強度を特定する際に、分光器及び受光装置(例えば光電子増倍管等)を備えた機器が用いられる。
【0003】
分光器を備えた機器に関する技術として、例えば特許文献1には、基準光源で基準光として波長が異なる2以上の基準光を発光させ、センサ上における2以上の基準光の検出位置と、2以上の基準光の既知の波長とに基づいて、分光器の実際の特性値を演算し、センサ上における基準光及び被検出光の検出位置と、演算された分光器の実際の特性値と、基準光の既知の波長とに基づいて、被検出光の波長を演算するようにした波長検出装置が開示されている。
【0004】
また、光を照射して電気エネルギーを得る光起電力素子に関する技術として、例えば特許文献2には、光吸収層の一方の面に隣接する電子移動層が、光吸収層における伝導帯のエネルギー幅より狭いエネルギー幅を有しており所定の第1のエネルギー準位の電子を選択的に通過させる伝導帯を有し、光吸収層の他方の面に隣接する正孔移動層が、光吸収層における価電子帯のエネルギー幅より狭いエネルギー幅を有しており所定の第2のエネルギー準位の正孔を選択的に通過させる価電子帯を有し、光吸収層がp型不純物又はn型不純物を含み、光吸収層におけるp型不純物又はn型不純物の濃度が1×1013cm−3以上である光起電力素子が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−162047号公報
【特許文献2】特許第4324214号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示されているような従来の波長検出装置では、大きな分光器(例えば100mm角程度の大きさの分光器)が用いられていた。そのため、空間的許容度や測定環境の観点から分光測定が困難な場合があった。また、特許文献1に開示されているような従来の波長検出装置に用いられている分光器及び受光装置は、精密な機械的構造を有するため、故障しやすいという問題もあった。一方、特許文献2には光起電力素子に関する技術が開示されており、特許文献2に開示されている技術を波長検出装置に応用することについて、特許文献1及び特許文献2では言及されていない。
【0007】
そこで本発明は、故障し難く小型化することが可能な光検出素子及び該光検出素子を用いる光検出方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段をとる。すなわち、
本発明の第1の態様は、光を吸収して電子及び正孔を生成する光吸収層と、該光吸収層に隣接する量子構造部と、光吸収層に接続された第1電極と、量子構造部に接続された第2電極とを有し、量子構造部は、量子井戸層、及び、該量子井戸層と第1電極及び第2電極との間に配設された障壁層を有し、障壁層の伝導帯端は、光吸収層の伝導帯端よりも高エネルギーであり、障壁層の伝導帯端と光吸収層の伝導帯端とのエネルギー差は、0.58eVよりも大きく、量子井戸層の伝導帯側に形成された量子準位は、光吸収層の伝導帯端よりも高エネルギーであり、量子準位と光吸収層の伝導帯端とのエネルギー差は、電子の熱エネルギーよりも大きいことを特徴とする、光検出素子である。
【0009】
ここに、本発明の第1の態様及び以下に示す本発明の他の態様(以下において、これらをまとめて単に「本発明」ということがある。)において、「光吸収層に接続された第1電極」とは、他の層を介さずに光吸収層と第1電極とが直接接触するように接続されている形態のほか、他の層を介して第1電極が光吸収層に接続されている形態も含む概念である。また、本発明において、「量子構造部に接続された第2電極」とは、他の層を介さずに量子構造部と第2電極とが直接接触するように接続されている形態のほか、他の層を介して第2電極が量子構造部に接続されている形態も含む概念である。また、本発明の第1の態様において「該量子井戸層と第1電極及び第2電極との間に配設された障壁層」とは、量子井戸層と第1電極との間、及び、量子井戸層と第2電極との間に、障壁層が配設されていることをいう。また、本発明において、「電子の熱エネルギー」は、室温(300K)では26meVである。
【0010】
本発明の第2の態様は、光を吸収して電子及び正孔を生成する光吸収層と、該光吸収層に隣接する量子構造部と、光吸収層に接続された第1電極と、量子構造部に接続された第2電極とを有し、量子構造部は、量子ドット、及び、該量子ドットと第1電極及び第2電極との間に配設された障壁層を有し、障壁層の伝導帯端は、光吸収層の伝導帯端よりも高エネルギーであり、障壁層の伝導帯端と光吸収層の伝導帯端とのエネルギー差は、0.58eVよりも大きく、量子ドットの伝導帯側に形成された量子準位は、光吸収層の伝導帯端よりも高エネルギーであり、量子準位と光吸収層の伝導帯端とのエネルギー差は、電子の熱エネルギーよりも大きいことを特徴とする、光検出素子である。
【0011】
ここに、本発明の第2の態様において、「該量子ドットと第1電極及び第2電極との間に配設された障壁層」とは、量子ドットと第1電極との間、及び、量子ドットと第2電極との間に(例えば、量子ドットを囲む、又は、量子ドットを挟むように)、障壁層が配設されていることをいう。
【0012】
本発明の第3の態様は、上記本発明の第1の態様及び/又は上記本発明の第2の態様にかかる光検出素子を用いて、光検出素子へと入射した光により生じた電流電圧特性を得る電流電圧特性取得工程と、該電流電圧特性取得工程で得られた電流電圧特性を用いて、入射した光の波長及び強度を同定する同定工程と、を有することを特徴とする、光検出方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の第1の態様では、量子井戸層を用いている量子構造部や光吸収層に、従来の波長検出装置における分光器や受光装置の機能を担わせることが可能になる。量子構造部や光吸収層に半導体薄膜を用いることにより、従来の波長検出装置よりも小型化することが可能になり、且つ、従来の波長検出装置よりも故障し難い形態(振動や衝撃に強い形態)にすることが可能になる。したがって、本発明の第1の態様によれば、故障し難く小型化することが可能な光検出素子を提供することができる。
【0014】
本発明の第2の態様では、量子ドットを用いている量子構造部や光吸収層に、従来の波長検出装置における分光器や受光装置の機能を担わせることが可能になる。量子構造部や光吸収層に半導体薄膜を用いることにより、従来の波長検出装置よりも小型化することが可能になり、且つ、従来の波長検出装置よりも故障し難い形態(振動や衝撃に強い形態)にすることが可能になる。したがって、本発明の第2の態様によれば、故障し難く小型化することが可能な光検出素子を提供することができる。
【0015】
本発明の第3の態様によれば、光の波長や強度を特定することが可能な光検出方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】光検出素子1を説明する断面図である。
【図2】光検出素子1を説明するバンド図である。
【図3】光検出装置10を説明する図である。
【図4】キャリアの移動モデルを説明する図である。
【図5】ホットエレクトロンの電流密度と印加電圧との関係を示す図である。
【図6】光検出素子8を説明する断面図である。
【図7】光検出素子8を説明するバンド図である。
【図8】ホットエレクトロンによる共鳴トンネルダイオード透過電流−電圧特性を説明する図である。
【図9】光検出装置20を説明する図である。
【図10】光検出装置30を説明する図である。
【図11】ホットエレクトロンの電流密度と印加電圧との関係を示す図である。
【図12】入射光の波長と電流電圧特性との関係を示す図である。
【図13】入射光の強度と電流電圧特性との関係を示す図である。
【図14】電流電圧特性の計算結果を示す図である。
【図15】入射光の波長及び強度と電流電圧特性との関係をフィッティングした結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しつつ、本発明について説明する。なお、以下に示す形態は本発明の例示であり、本発明は以下に示す形態に限定されるものではない。
【0018】
図1は、第1実施形態にかかる本発明の光検出素子1を拡大して示す断面図である。図1に示したように、光検出素子1は、第2電極1a(アノード)と、第2電極1aの上面に形成された基板1bと、基板1bの上面に形成されたバッファ層1cと、バッファ層1cの上面に形成されたスペーサ層1dと、スペーサ層1dの上面に形成された量子構造部1eと、量子構造部1eの上面に形成されたスペーサ層1fと、スペーサ層1fの上面に形成された光吸収層1gと、光吸収層1gの上面に形成されたコンタクト層1hと、コンタクト層1hの上面に形成された採光用の窓のあいた第1電極1i(カソード)と、を有している。基板1b、バッファ層1c、スペーサ層1d、量子構造部1e、スペーサ層1f、光吸収層1g、及び、コンタクト層1hは、半導体材料によって構成されている。量子構造部1eは、スペーサ層1d側から、障壁層1ex、量子井戸層1ey、及び、障壁層1ezの3層が積層された構造をしており、スペーサ層1dの上面に障壁層1exが、障壁層1exの上面に量子井戸層1eyが、量子井戸層1eyの上面に障壁層1ezが、障壁層1ezの上面にスペーサ層1fが、それぞれ形成されている。スペーサ層1f及び光吸収層1gは同一材料(例えば、GaAs)で構成され、前者は電子を存在させるための不純物元素が添加されておらず、後者は当該不純物元素が添加されている。スペーサ層1f及び光吸収層1gは同一材料で構成されているので、スペーサ層1fは光吸収層の一部とみなすことも可能である。また、バッファ層1c及びスペーサ層1dは同一材料(例えば、GaAs)で構成され、前者は電子を存在させるための不純物元素が添加されており、後者は当該不純物元素が添加されていない。バッファ層1c及びスペーサ層1dは同一材料で構成されているので、スペーサ層1dはバッファ層の一部とみなすことも可能である。
【0019】
光検出素子1には、第1電極1i側から光が入射し、光検出素子1の使用時には、第1電極1i及び第2電極1aに電圧が印加される。光検出素子1に光が入射すると、主に光吸収層1gで光が吸収され、電子及び正孔が生成される。生成された電子は、第2電極1aに向かって、図1の紙面上側から下側へと移動する。
【0020】
図2は、光検出素子1における電子の移動を説明するバンド図であり、図2では、光検出素子1の一部のみを示している。図2の紙面上側ほど電子のエネルギーが高い。図2では、伝導帯側のみを示しており、紙面左側から右側に向かって電子が移動する。図2に示したように、障壁層1ex及び障壁層1ezの伝導帯端は光吸収層1gの伝導帯端よりも高エネルギーであり、障壁層1ex及び障壁層1ezの伝導帯端と光吸収層1gの伝導帯端とのエネルギー差は、0.58eVよりも大きい。また、量子井戸層1eyの伝導帯側には、量子準位q1が形成されており、量子準位q1は光吸収層1gの伝導帯端よりも高エネルギーであり、量子準位q1と光吸収層1gの伝導帯端とのエネルギー差は、光検出素子1の使用時(光検出素子1へ光が照射されている時)に電子が受け取るエネルギーよりも大きい。光検出素子1の使用時における、光吸収層1gとバッファ層1cとの電位差は、Vである。
【0021】
光を吸収することにより光吸収層1gで生成された電子は、所定のエネルギー分布を形成する。量子準位q1と光吸収層1gの伝導帯端とのエネルギー差は、光検出素子1の使用時に電子が受け取るエネルギーよりも大きく、障壁層1ezの伝導帯端は量子準位q1よりも上方に位置している。それゆえ、光検出素子1に光が入射する前から光吸収層1gに存在していた電子は量子構造部1eを透過することができない。光を吸収した光吸収層1gで生成された電子のうち、量子準位q1と一致するエネルギーを有する電子は、共鳴トンネル効果によって障壁層1ezを通過して量子準位q1へと達した後、共鳴トンネル効果によって障壁層1exを通過することにより、スペーサ層1dへと達することが可能である。スペーサ層1dへと達した電子は、バッファ層1c及び基板1bを通って第2電極1aへと達する。光検出素子1では、例えば印加電圧Vを変化させることによって、量子準位q1の位置(図2の紙面上下方向の高さ)を変化させることができ、量子準位q1の位置を変化させることによって、電流値を変化させることができる。このように、光検出素子1では、光検出素子1へと入射した光の、印加電圧Vに対する電流値(電流電圧特性)を得ることができる。また、光検出素子1へと入射する光の波長や強度が変わると、光吸収層1gで生成される電子のエネルギーや量が変わり、生成された電子のエネルギーや量が変わると、量子準位q1を介して量子構造部1eを透過する電子の量が変わるので、光の波長や強度に応じた電流電圧特性を得ることができる。それゆえ、後述する方法を用いることにより、得られた電流電圧特性から、光検出素子1へと入射した光の波長及び強度を特定することができる。
【0022】
上述したように、量子構造部1e(障壁層1ex、量子井戸層1ey、及び、障壁層1ez)は、特定のエネルギーを有する電子のみを通過させる性質を有している。それゆえ、量子構造部1eは、従来の波長検出素子における分光器のような機能を発揮することができる。さらに、光検出素子1は、積層された半導体膜の一方の面に第1電極1iを、他方の面に第2電極1aを配置した構造であるため、従来の波長検出装置よりも小型化しやすく(例えば5mm角程度の大きさ)、従来の波長検出装置よりも故障し難い形態(振動や衝撃に強い形態)にすることが可能になる。したがって、本発明によれば、故障し難く小型化することが可能な光検出素子1を提供することができる。
【0023】
光検出素子1は、例えば以下の工程を経て作製することができる。光検出素子1を作製する際には、例えば半導体基板(不図示)の上に、蒸着法等の公知の方法により、Al、Ag、Au等によって構成される第2電極1aを形成する。第2電極1aを形成したら、当該第2電極1aの上面に、有機金属気相成長法(MOCVD)や分子線エピタキシ法(MBE)等に代表される気相成長法や真空蒸着法等の公知の方法により、GaAs、InGa1−yAs(0≦y≦1)、Si等によって構成される、不純物濃度が1×1018cm−3程度のn型の基板1b(例えば、GaAs(001)基板)を作製する。その後、基板1bと同様の方法により、基板1bの上面に、基板1bと同様の材料によって構成される、不純物濃度が1×1018cm−3程度のn型のバッファ層1cを作製する。次いで、基板1bと同様の方法により、バッファ層1cの上面に、不純物を添加していないほかは基板1bと同様の材料によって構成される、スペーサ層1dを作製する。次いで、基板1bと同様の方法により、スペーサ層1dの上面に、不純物を添加していないAlGa1−xAs(0≦x≦1。例えばx=0.6。)やSiO等によって構成される、障壁層1exを作製する。次いで、基板1bと同様の方法により、障壁層1exの上面に、不純物を添加していないほかは基板1bと同様の材料によって構成される、量子井戸層1eyを作製する。次いで、基板1bと同様の方法により、量子井戸層1eyの上面に、障壁層1exと同様の材料によって構成される、障壁層1ezを作製することにより、量子構造部1eを作製する。こうして量子構造部1eを作製したら、量子構造部1eの上面(障壁層1ezの上面)に、基板1bと同様の方法により、不純物を添加していないほかは基板1bと同様の材料によって構成される、スペーサ層1fを作製する。次いで、基板1bと同様の方法により、スペーサ層1fの上面に、基板1bと同様の材料によって構成される、不純物濃度が1×1017cm−3程度のn型の光吸収層1gを作製する。次いで、基板1bと同様の方法により、光吸収層1gの上面に、基板1bと同様の材料によって構成される、不純物濃度が1×1018cm−3程度のn型のコンタクト層1hを作製する。そして、コンタクト層1hの上面に、蒸着法等の公知の方法により、Al、Ag、Au、Ni/AuGe等によって構成される第1電極1iを形成する過程を経て、光検出素子1を作製することができる。
【0024】
光検出素子1において、第1電極1i及び第2電極1aの厚さは、例えば1μm以上10μm以下とすることができる。また、基板1bの厚さは、抵抗値削減と機械的強度向上の観点から、例えば50μm以上300μm以下とすることができ、バッファ層1cの厚さは、量子構造部1eの結晶性確保の観点から、例えば100nm以上1μm以下とすることができる。また、スペーサ層1d及びスペーサ層1fの厚さは、量子構造部1eの厚さの制御精度を向上しやすい形態にする等の観点から、例えば1nm以上3nm以下とすることができる。また、障壁層1ex及び障壁層1ezの厚さは、特定のエネルギーを有する電子のみが量子構造部1eを通過可能にする観点から、例えば2nm以上とし、共鳴トンネル効果によって電子が透過可能な厚さにする観点から、例えば6nm以下とする。また、量子井戸層1eyの厚さは、伝導帯側に量子準位が形成されるようにする等の観点から、例えば2nm以上10nm以下とすることができる。また、光吸収層1gの厚さは、光を吸収して電子を生成可能な厚さにする等の観点から、例えば50nm以上とし、生成された電子が高いエネルギーを保ったまま量子構造部1eへ到達可能な厚さにする等の観点から、例えば150nm以下とすることができる。また、コンタクト層1hの厚さは、格子欠陥の発生等を抑制する等の観点から、例えば5nm以上20nm以下とすることができる。
【0025】
光検出素子1において、障壁層1ex、1ezの伝導帯端と光吸収層1gの伝導帯端とのエネルギー差は、測定可能な波長域を広くするため、また、ノイズ(熱電流)を低減するため、可能な限り大きくすることが好ましい。当該エネルギー差の最小値は、光検出素子1が、光照射なしの条件下で量子井戸構造の共鳴トンネル効果を顕在化できる値である。例えば、光吸収層がGaAsであり、且つ、障壁層がAlGa1−xAs(0<x<1)である場合、一般的にポテンシャル障壁の最小値とされる0.58eVを、エネルギー差の最小値とすることができる。
【0026】
図3は、光検出素子1を搭載した光検出装置10を説明する図である。図3に示したように、光検出装置10では、ファンクションジェネレータ4で発生させた矩形交流電圧信号によってレーザ駆動装置5の動作を制御し、レーザ駆動装置5を用いて駆動するレーザ素子6で出力した矩形パルス光が、低温プローバ7に取り付けられた光検出素子1に照射される。光検出素子1には、電流電圧測定器2から電圧が印加され、矩形パルス光が光検出素子1へと照射されることにより得られた電流がロックインアンプ3に入力される。ロックインアンプ3はファンクションジェネレータ4の信号を参照信号として、光検出素子1に矩形パルス光が照射された時の電流値と、矩形パルス光が照射されていない時の電流値との差分を出力することができる。電流電圧測定器2の電圧と、ロックインアンプ3の出力(電流値)とから、光検出装置10によれば、矩形パルス光が照射された光検出素子1で生成され量子構造部1eを通過した電子の電流電圧特性を得ることができる。
【0027】
次に、得られた電流電圧特性を用いて、光検出素子へと入射した光の波長及び強度を求める方法について、以下に説明する。以下の説明において、電子及び正孔をまとめて「キャリア」ということがある。
【0028】
図4に、キャリアフローモデルを示す。図4において、x=0はコンタクト層1hと接する光吸収層1gの表面の位置であり、x=Iabはx=0の位置から量子井戸層1eyまでの距離である。また、Rはキャリア再結合速度であり、Gはキャリア生成速度であり、Gはキャリアのエネルギー生成速度である。また、nは光吸収層1gで熱平衡状態にある電子の密度であり、nhotはホットエレクトロン(光吸収により生成された電子。以下において同じ。)の濃度である。また、REthはキャリア熱緩和速度であり、pは光吸収層1gで熱平衡状態にある正孔の濃度であり、nはバッファ層1cで熱平衡状態にある電子の濃度であり、pはバッファ層1cで熱平衡状態にある正孔の濃度である。また、Vは印加電圧であり、Jehotはホットエレクトロンによる電流密度であり、Jは熱平衡状態にある電子による電流密度であり、Thotはホットエレクトロンの温度である。また、EFneは光吸収層1gで熱平衡状態にある電子の擬フェルミ準位であり、EFnehotは光吸収層1gのホットエレクトロンの擬フェルミ準位であり、EFnhは光吸収層1gで熱平衡状態にある正孔の擬フェルミ準位である。また、EFnpeはバッファ層1cで熱平衡状態にある電子の擬フェルミ準位であり、EFnphはバッファ層1cで熱平衡状態にある正孔の擬フェルミ準位である。以下、(i)入射光によりエネルギー的に高い電子(ホットエレクトロン)が励起され、(ii)バッファ層1cの少数キャリア再結合速度は十分に早く、正孔濃度は常に熱平衡状態に等しく、(iii)各層のキャリア分布はすべて古典分布で表され、(iv)光吸収層1gの電子分布は、熱平衡状態の電子分布とホットエレクトロン分布との和で表され、(v)入射光の余分なエネルギーのうち、電子に与えられる割合は正孔との有効質量比で決まり、(vi)正孔分布は常に格子と熱平衡に達しており、(vii)正孔は量子構造部1eを通過することができず、すべて障壁層1ezで反射されると仮定して、説明を続ける。
【0029】
【数1】

ここで、Jehotは受光による電流密度増加分[A/m]であり、Jehot/e=Iはフォトンフラックス(入射光の強度)であり、αは吸収係数であり、dは光吸収層1gの厚さである。
【0030】
【数2】

ここで、Δpは光照射による正孔の増分[個]であり、τは再結合時間である。式(2)では、定常状態を仮定しており、電流の流れは無視している。
【0031】
【数3】

【0032】
【数4】

ここで、Eextはホットエレクトロンの初期エネルギー(Eext=hν−E)であり、hはプランク定数であり、νは光の振動数であり、Eは光吸収層1gのバンドギャップである。
【0033】
【数5】

ここで、τreはキャリア熱緩和時間であり、kはボルツマン定数であり、Tは室温[K]である。
【0034】
【数6】

【0035】
量子構造部1eを流れる電流は、以下の式で決定することができる。なお、電流量はキャリア分布には影響しないと仮定する。
【0036】
【数7】

ここで、Jは量子構造部1eを透過する電流密度[A/m]であり、hはディラック定数であり、k||は電子の障壁層1ez、1exに平行な波数成分であり、kは電子の障壁層1ez、1exに垂直な波数成分であり、Eは電子の運動エネルギーの障壁層1ez、1exに垂直な成分であり、fは熱平衡状態にあるコレクタ側電子のボルツマン分布であり、TTは電子の透過確率である。
【0037】
【数8】

ここで、Eは光吸収層1gの伝導帯端を基準とした量子井戸層1eyの伝導帯側に形成された量子準位q1のエネルギーであり、mは電子の有効質量である。
【0038】
【数9】

ここで、Eはエネルギー(計算上のパラメータ)であり、eは素電荷である。
【0039】
【数10】

ここで、fL0(E)は熱平衡状態にある電子のエミッタ側ボルツマン分布であり、fLhot(E)はホットエレクトロンのボルツマン分布である。
【0040】
【数11】

【0041】
【数12】

【0042】
【数13】

ここで、Aはリチャードソン定数であり、ΔEは量子井戸層1eyがつくる準位幅(構造で決まる数十meV以下程度の値)であり、EFnehotはホットエレクトロンの擬フェルミ準位であり、Nは伝導帯の有効状態密度であり、Eは伝導帯のエネルギーである。
【0043】
【数14】

【0044】
上記式(14)で示されるように、ホットエレクトロンの電流密度の対数を縦軸とし、印加電圧を横軸とするグラフを描いた時の直線の傾きからThotを導くことができる。また、当該直線の、縦軸の切片及びThotから、nhotを導くことができる。ホットエレクトロンの電流密度の対数を縦軸とし、印加電圧を横軸とするグラフを、図5に示す。
【0045】
このようにしてThot及びnhotを求めたら、上記式(1)〜(6)から、光の振動数ν及び強度Iを求めることができる。ここで、光の速度をcとするとき、光の波長λ及び振動数νは、
【0046】
【数15】

を満たす。それゆえ、求めたνを上記式(15)へと代入することにより、光の波長λを求めることができる。
【0047】
本発明に関する上記説明では、量子井戸層が用いられる形態の光検出素子を例示したが、本発明は当該形態に限定されない。そこで、本発明の光検出素子が採り得る他の形態について、以下に説明する。
【0048】
図6は、第2実施形態にかかる本発明の光検出素子8を拡大して示す断面図である。図6において、光検出素子1と同様の構成には、図1で使用した符号と同一の符号を付し、その説明を適宜省略する。図6に示したように、光検出素子8は、第2電極1aと、基板1bと、バッファ層1cと、スペーサ層1dと、スペーサ層1dの上面に形成された量子構造部8aと、量子構造部8aの上面に形成されたスペーサ層1fと、光吸収層1gと、コンタクト層1hと、第1電極1iと、を有している。量子構造部8aは半導体材料によって構成されている。量子構造部8aは、スペーサ層1d側から、障壁層8ax、量子ドット層8ay、及び、障壁層8azの3層が積層された構造をしており、スペーサ層1dの上面に障壁層8axが、障壁層8axの上面に量子ドット層8ayが、量子ドット層8ayの上面に障壁層8azが、障壁層8azの上面にスペーサ層1fが、それぞれ形成されている。量子ドット層8ayは、複数の量子ドット8b、8b、…を有している。
【0049】
光検出素子8には、第1電極1i側から光が入射し、光検出素子1の使用時には、第1電極1i及び第2電極1aに電圧が印加される。光検出素子8に光が入射すると、主に光吸収層1gで光が吸収され、電子及び正孔が生成される。生成された電子は、第2電極1aに向かって、図6の紙面上側から下側へと移動する。
【0050】
図7は、光検出素子8における電子の移動を説明するバンド図であり、図7では、光検出素子8の一部のみを示している。図7の紙面上側ほど電子のエネルギーが高い。図7では、伝導帯側のみを示しており、紙面左側から右側に向かって電子が移動する。図7に示したように、障壁層8ax及び障壁層8azの伝導帯端は光吸収層1gの伝導帯端よりも高エネルギーであり、障壁層8ax及び障壁層8azの伝導帯端と光吸収層1gの伝導帯端とのエネルギー差は、0.58eVよりも大きい。また、量子ドット8bの伝導帯側には、量子準位Q1が形成されており、量子準位Q1は光吸収層1gの伝導帯端よりも高エネルギーであり、量子準位Q1と光吸収層1gの伝導帯端とのエネルギー差は、光検出素子8の使用時(光検出素子8へ光が照射されている時)に電子が受け取るエネルギーよりも大きい。光検出素子8の使用時における、光吸収層1gとバッファ層1cとの電位差は、Vである。
【0051】
光を吸収することにより光吸収層1gで生成された電子は、所定のエネルギー分布を形成する。量子準位Q1と光吸収層1gの伝導帯端とのエネルギー差は、光検出素子8の使用時に電子が受け取るエネルギーよりも大きく、障壁層8azの伝導帯端は量子準位Q1よりも上方に位置している。それゆえ、光検出素子8に光が入射する前から光吸収層1gに存在していた電子は量子構造部8aを透過することができない。光を吸収した光吸収層1gで生成された電子のうち、量子準位Q1と一致するエネルギーを有する電子は、共鳴トンネル効果によって障壁層8azを通過して量子準位Q1へと達した後、共鳴トンネル効果によって障壁層8axを通過することにより、スペーサ層1dへと達することが可能である。スペーサ層1dへと達した電子は、バッファ層1c及び基板1bを通って第2電極1aへと達する。光検出素子8では、例えば印加電圧Vを変化させることによって、量子準位Q1の位置(図7の紙面上下方向の高さ)を変化させることができ、量子準位Q1の位置を変化させることによって、電流値を変化させることができる。このように、光検出素子8では、光検出素子8へと入射した光の、印加電圧Vに対する電流値(電流電圧特性)を得ることができる。また、光検出素子8へと入射する光の波長や強度が変わると、光吸収層1gで生成される電子のエネルギーや量が変わり、生成された電子のエネルギーや量が変わると、量子準位Q1を介して量子構造部8aを透過する電子の量が変わるので、光の波長や強度に応じた電流電圧特性を得ることができる。それゆえ、上述した方法を用いることにより、得られた電流電圧特性から、光検出素子8へと入射した光の波長及び強度を特定することができる。
【0052】
上述したように、量子構造部8a(障壁層8ax、量子ドット層8ay、及び、障壁層8az)は、特定のエネルギーを有する電子のみを通過させる性質を有している。それゆえ、量子構造部8aは、従来の波長検出素子における分光器のような機能を発揮することができる。さらに、光検出素子8は、積層された半導体膜の一方の面に第1電極1iを、他方の面に第2電極1aを配置した構造であるため、従来の波長検出装置よりも小型化しやすく(例えば5mm角程度の大きさ)、従来の波長検出装置よりも故障し難い形態(振動や衝撃に強い形態)にすることが可能になる。したがって、本発明によれば、故障し難く小型化することが可能な光検出素子8を提供することができる。
【0053】
図8は、単一波長の光を吸収して生じたホットエレクトロンによる共鳴トンネルダイオード透過電流−電圧特性の概略図である。図8(a)は量子井戸構造の場合を示しており、図8(b)は量子ドット構造の場合を示している。図8(a)及び図8(b)の縦軸は電流密度であり、横軸は電圧である。量子井戸構造ではホットキャリアを1次元で閉じ込めるのに対し、量子ドット構造ではホットキャリアを3次元で閉じ込める。それゆえ、図8(a)及び図8(b)に示したように、量子井戸構造と量子ドット構造とでは、ホットエレクトロンによる共鳴トンネルダイオード透過電流−電圧特性が異なり、量子ドット構造の方が、光吸収により生じたホットエレクトロンによる電流密度を特定しやすい。したがって、量子ドット構造を用いた波長検出素子8によれば、量子井戸構造を用いた波長検出素子1よりも、入射光に対する検出分解能を高めることが可能になる。
【0054】
光検出素子8は、量子構造部8a以外は光検出素子1と同様の方法によって作製することができる。量子構造部8a以外の層の作製方法については上述したため、ここでは量子構造部8aの作製方法について説明する。量子構造部8aの障壁層8axは、スペーサ層1dの上面に、有機金属気相成長法(MOCVD)や分子線エピタキシ法(MBE)等に代表される気相成長法や真空蒸着法等の公知の方法により、不純物を添加していないAlGa1−xAs(0≦x≦1。例えばx=0.6。)やSiO等によって構成される、障壁層8axを形成する。障壁層8axを形成したら、当該障壁層8axの上面に、Stranski-Krastanov(SK)モード等の公知の方法により、InGa1−yAs(0≦y≦1)やSi等によって構成される、量子ドット層8ayを形成する。こうして量子ドット層8ayを形成したら、当該量子ドット層8ayの上面に、障壁層8axと同様の方法により、障壁層8axと同様の材料によって構成される、障壁層8azを作製することにより、量子構造部8aを作製することができる。
【0055】
光検出素子8において、障壁層8axの厚さ、及び、障壁層8azの厚さ(量子ドット8b、8b、…とスペーサ層1fとの間の厚さ)は、特定のエネルギーを有する電子のみが量子構造部8aを通過可能にする観点から、例えば2nm以上とし、共鳴トンネル効果によって電子が透過可能な厚さにする観点から、例えば6nm以下とする。また、量子ドット8bの高さ(図6の紙面上下方向の高さ)は、伝導帯側に量子準位が形成されるようにする等の観点から、例えば2nm以上10nm以下とすることができる。また、隣接する量子ドット8b、8bを繋ぐ薄膜の厚さは、量子ドット8b、8b間での電子移動を防ぐ観点から、0.6nm以上1.3nm以下とすることができる。
【0056】
光検出素子8において、障壁層8ax、8azの伝導帯端と光吸収層1gの伝導帯端とのエネルギー差は、測定可能な波長域を広くするため、また、ノイズ(熱電流)を低減するため、可能な限り大きくすることが好ましい。当該エネルギー差の最小値は、光検出素子8が、光照射なしの条件下で量子ドットの共鳴トンネル効果を顕在化できる値である。例えば、光吸収層がGaAsであり、且つ、障壁層がAlGa1−xAs(0<x<1)である場合、一般的にポテンシャル障壁の最小値とされる0.58eVを、エネルギー差の最小値とすることができる。
【0057】
本発明に関する上記説明では、受光面側に採光用の窓のあいた第1電極1iが用いられている形態を例示したが、本発明の光検出素子は当該形態に限定されない。受光面側に配置される第1電極は、公知の透明電極を用いることも可能である。第1電極を透明電極とする場合、その構成材料としては、酸化インジウムスズ(ITO)、アルミニウムドープ酸化亜鉛(AZO)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)等を例示することができる。
【0058】
また、本発明に関する上記説明では、基板1bとスペーサ層1dとの間にバッファ層1cが備えられている形態を例示したが、本発明の光検出素子は当該形態に限定されず、基板1bとスペーサ層1dとが直接接触した形態とすることも可能である。ただし、量子構造部の膜厚を制御しやすい形態にする等の観点からは、基板とスペーサ層との間にバッファ層が備えられる形態とすることが好ましい。
【0059】
また、本発明に関する上記説明では、光吸収層1gと第1電極1iとの間にコンタクト層1hが備えられている形態を例示したが、本発明の光検出素子は当該形態に限定されない。本発明の光検出素子は、コンタクト層1hに相当する層が備えられていない形態とすることも可能である。ただし、格子欠陥等を低減して、電流電圧特性の特定精度を高めやすい形態にする等の観点からは、光吸収層と第1電極との間にコンタクト層が備えられる形態とすることが好ましい。
【0060】
また、本発明に関する上記説明では、途中から幅(図1や図6の紙面左右方向の長さ)が細くなっているバッファ層1cが備えられている形態を例示したが、本発明の光検出素子は当該形態に限定されない。本発明の光検出素子は、幅が厚さ方向の全体に亘って一定のバッファ層が備えられる形態とすることも可能である。ただし、電圧を印加することによって発生させた電場が、量子構造部に無駄なく設計通りに付与されやすい形態にするという観点、また、光検出素子の製造を容易にする等の観点から、バッファ層が備えられる場合には、途中から幅が細くなっているバッファ層が備えられる形態とすることが好ましい。
【0061】
また、本発明に関する上記説明では、本発明の光検出素子を1つ備えた光検出装置(光検出素子1を備えた光検出装置10)を例示したが、本発明の光検出素子を備える光検出装置は当該形態に限定されない。光検出装置には、光検出素子8が備えられていても良く、本発明の光検出素子が複数備えられていても良い。そこで、本発明の光検出素子を複数備える光検出装置について、以下に説明する。
【0062】
図9は、光検出素子1、1を搭載した光検出装置20を説明する図である。図9に示したように、光検出装置20では、直列に接続された光検出素子1及び抵抗21と、直列に接続された光検出素子1及び抵抗22とが、並列に接続されており、光検出素子1、1には可変電圧源23から電圧が印加される。一方の光検出素子1には、連続光を出力する測定対象物25から光が照射されるのに対し、他方の光検出素子1は常時遮光されている。受光/遮光の差が、各直列接続に流れる電流差となり、その結果、光が照射される光検出素子1に印加される電圧と常時遮光されている光検出素子1に印加される電圧との間に差が生じる。図9に示したように、光検出装置20には、光が照射される光検出素子1に印加される電圧と常時遮光されている光検出素子1に印加される電圧との差を増幅可能なように接続された差動増幅回路24が備えられており、この差動増幅回路24によって増幅された電圧差が計算機26に出力される。光検出装置20では、可変電圧源23の電圧を掃引することにより、照射された光の電流電圧特性が計算機26において特定され、特定した電流電圧特性から、照射された光の波長や強度を特定することができる。光検出装置20によれば、従来の波長検出素子に用いられていた分光器や受光装置を用いることなく、光検出素子1に光を照射するだけで、照射した光の波長及び強度を同定することができる。また、光検出装置20によれば、未知の単一波長の光のみならず、未知の複数波長の光についても、その波長と強度を同定することができる。加えて、光検出装置20には、光検出素子1が用いられているので、従来の多波長検出装置よりも故障し難く小型化することが可能であるほか、装置の価格を低減することも可能になる。
【0063】
光検出装置20において、可変電圧源23としては、公知の可変電圧源を適宜用いることができ、差動増幅回路24としては、公知の差動増幅回路を適宜用いることができる。また、測定対象物25としては、例えば半導体レーザやハロゲン光源等を用いることができ、計算機26は公知の計算機を適宜用いることができる。
【0064】
図10は、光検出素子1、1を搭載した光検出装置30を説明する図である。図10において、光検出装置20と同様の構成には、図9で使用した符号と同一の符号を付し、その説明を適宜省略する。図10に示したように、光検出装置30では、直列に接続された光検出素子1及び抵抗21と、直列に接続された光検出素子1及び抵抗22とが、並列に接続されており、光検出素子1、1には可変電圧源23から電圧が印加される。一方の光検出素子1には、光パラメトリック増幅器を内蔵し且つ増幅したパルス光を出力する測定対象物31から光が照射されるのに対し、他方の光検出素子1は常時遮光されている。受光/遮光の差が、各直列接続に流れる電流差となり、その結果、光が照射される光検出素子1に印加される電圧と常時遮光されている光検出素子1に印加される電圧との間に差が生じる。図10に示したように、光検出装置30には、光が照射される光検出素子1に印加される電圧と常時遮光されている光検出素子1に印加される電圧との差を増幅可能なように接続された差動増幅回路24が備えられており、この差動増幅回路24によって増幅された電圧差がロックインアンプ32に出力される。ロックインアンプ32は測定対象物31及び計算機26にも接続されている。光検出装置30では、可変電圧源23の電圧を掃引することにより、光が照射されている間の電流電圧特性が計算機26において特定され、特定した電流電圧特性から、照射された光の波長や強度を特定することができる。このように構成される光検出装置30によれば、従来の波長検出素子に用いられていた分光器や受光装置を用いることなく、光検出素子1に光を照射するだけで、照射した光の波長及び強度を同定することができる。また、光検出装置30によれば、未知の単一波長の光のみならず、未知の複数波長の光についても、その波長と強度を同定することができる。加えて、光検出装置30には、光検出素子1が用いられているので、従来の多波長検出装置よりも故障し難く小型化することが可能であるほか、装置の価格を低減することも可能になる。
【0065】
光検出装置30において、測定対象物31としては、例えば半導体レーザやハロゲン光源等を用いることができ、ロックインアンプ32としては、例えば公知のロックインアンプを適宜用いることができる。
【0066】
本発明の光検出素子を複数備えた光検出装置に関する上記説明では、光検出素子1、1が搭載されている形態を例示したが、本発明の光検出素子を複数備えた光検出装置は、当該形態に限定されない。本発明の光検出素子を複数備えた光検出装置には、光検出素子8、8が搭載されていても良く、光検出素子1と光検出素子8とが搭載されていても良い。
【0067】
光検出装置20や光検出装置30を用いて、複数波長の光を含む入射光の波長及び強度を特定する方法について、以下に説明する。
【0068】
常時遮光されている光検出素子1を流れる電流をIdark、電圧をVdarkとし、光を照射される光検出素子1を流れる電流をIlight、電圧をVlightとし、可変電圧源23の電圧をV、電圧Vを印加した時の2つの光検出素子1、1の電圧差をΔV、抵抗21、22の抵抗をRとし、Idark及びVdarkが既知である時、Vlight及びIlightは、以下のように表すことができる。また、ホットエレクトロンの電流密度Jehotは、IlightとIdarkとの差から算出することができる。
light=Vdark−ΔV
light=(V−Vlight)/R
【0069】
ここで、複数の波長光からなる入射光がもたらすホットエレクトロン電流密度Jehotは、単一波長光がもたらすホットエレクトロン電流密度の和であると考える。そうすると、複数の波長光からなる入射光がもたらすホットエレクトロン電流密度Jehotの対数を縦軸とし、印加電圧Vを横軸とするグラフは、図11のように表すことができる。図11において、b〜bは光検出素子1にある波長nの照射により発生したホットエレクトロンが光検出素子1を流れ始める閾値電流である。また、aはbを通る直線の傾き(横軸Vの切片がbになる波長の光によるホットエレクトロンの電流密度の対数と印加電圧Vとの関係を示す直線の傾き)であり、aはbを通る直線の傾き(横軸Vの切片がbになる波長の光によるホットエレクトロンの電流密度の対数と印加電圧Vとの関係を示す直線の傾き)であり、aはbを通る直線の傾き(横軸Vの切片がbになる波長の光によるホットエレクトロンの電流密度の対数と印加電圧Vとの関係を示す直線の傾き)である。図11において、傾きaの直線と傾きa+aの直線とが交わるV=bの場合と、傾きa+aの直線と傾きa+a+aの直線とが交わるV=bの場合には、JehotのVによる2階微分が極大値をとる。図11は、傾きがaになる波長の光と、傾きがaになる波長の光と、傾きがaになる波長の光からなる入射光がもたらすホットエレクトロン電流密度の対数と印加電圧Vとの関係を示す直線の傾きは、a+a+aで表せることを示している。すなわち、nを正数とするとき、n個の波長光からなる入射光がもたらすホットエレクトロン電流密度の対数と印加電圧Vとの関係を示す直線の傾きは、aからaまでの総和で表すことができる。
【0070】
単一波長光によって励起されたホットエレクトロンの電流密度Jehotの対数と印加電圧Vとの間には、上記式(14)の関係が成り立つ。また、n個の波長光からなる入射光がもたらすホットエレクトロン電流密度と、n個の波長光それぞれの入射光がもたらすホットエレクトロン電流密度との間には、下記式(16)の関係が成り立つ。
【0071】
【数16】

【0072】
上記式(16)の右辺の値と左辺の値との差が大きい場合は、仮定したa、a、a、…aやb、b、b、…bの値が正確ではないと考えられる。そこで、光検出装置20や光検出装置30では、計算機26において、a、a、a、…aやb、b、b、…bの値を適宜変更することにより、上記式(16)の右辺の値と左辺の値との残差二乗和が最小になる、a、a、a、…a及びb、b、b、…bの値を特定する。こうして、上記式(16)の右辺の値と左辺の値との残差二乗和が最小になる、a、a、a、…a及びb、b、b、…bの値を特定したら、上記式(1)〜(6)から、複数波長の入射光それぞれの光の振動数ν及び強度Iを求めることができる。そして、求めた光の振動数νを上記式(15)へと代入することにより、n個の光の波長を求めることができる。光検出装置20や光検出装置30では、可変電圧源23によって印加する電圧Vを掃引することにより図11で示されるような電流電圧特性を得、上記式(16)の右辺の値と左辺の値との残差二乗和が最小になる、a、a、a、…a及びb、b、b、…bの値を特定する過程を経て、複数の波長光からなる入射光の波長及び強度を同定することができる。このようにして入射光の波長及び強度を同定可能な光検出装置20、30は、例えば、光ファイバーの引き回しが困難な箇所や、小型ロボット用の受光素子等として用いることも可能になる。
【実施例】
【0073】
光検出装置10の光検出素子1へ、レーザ素子6で出力した矩形パルス光(周波数ν=520Hz)を照射するとともに、電流電圧測定器2から印加する電圧を変更して、温度77Kの環境下でホットエレクトロン電流を測定することにより、入射光の波長や強度と電流電圧特性との関係を調べた。図12に、入射光の波長と電流電圧特性との関係を、図13に、入射光の強度と電流電圧特性との関係を、それぞれ示す。図12及び図13の縦軸は、光を照射した時と照射しない時との電流の差分ΔI[arb. units]であり、横軸は、電圧[V]である。なお、実験で用いた光検出素子1(又は、後述する計算で仮定した光検出素子1)は、不純物濃度が1×1018cm−3である厚さ300μmのGaAs(001)基板(n層)を基板1bとし、不純物濃度が1×1018cm−3である厚さ250nmのGaAs(n層)をバッファ層1cとし、不純物を添加しない厚さ2nmのGaAs(i層)をスペーサ層1dとした。また、不純物を添加しない厚さ6nmのAl0.6Ga0.4As(i層)を障壁層1exとし、不純物を添加しない厚さ3nmのGaAs(i層)を量子井戸層1eyとし、不純物を添加しない厚さ6nmのAl0.6Ga0.4As(i層)を障壁層1ezとした。また、不純物を添加しない厚さ2nmのGaAs(i層)をスペーサ層1fとし、不純物濃度が1×1017cm−3である厚さ130nmのGaAs(n層)を光吸収層1gとし、不純物濃度が1×1018cm−3である厚さ20nmのGaAs(n層)をコンタクト層1hとした。
【0074】
図12に示したように、すべての入射光のフォトンフラックスIが2.0×1019cm−2−1で一定の場合、長波長の光よりも短波長の光を照射する方がホットエレクトロン電流を増大させることが可能であった。また、図13に示したように、入射光のフォトンフラックスIを2.0×1019cm−2−1から3.2×1019cm−2−1へと高めることにより、ホットエレクトロン電流を増大させることが可能であった。
【0075】
一方、光検出素子1へ、フォトンフラックスが2.0×1019cm−2−1の光(波長は600nm、650nm、700nm、750nm、及び、800nmの5種類)が照射され、少数キャリア再結合時間が2.0nsであり、キャリア熱緩和時間が4.0psであると仮定し、その他の物性値はGaAsの値を使用して、入射光の波長と電流電圧特性との関係を、上記式(1)〜(15)を用いて求めた。結果を図14に示す。図14の縦軸は電流[arb. units]であり、横軸は電圧[V]である。図14において、実線は、ホットエレクトロン以外の電子も含む全体の電流電圧特性の計算結果を示しており、波線は、ホットエレクトロンの電流電圧特性の計算結果を示している。図14に示したように、計算によっても、フォトンフラックスが一定の場合、長波長の光よりも短波長の光を照射する方がホットエレクトロン電流を増大させることが可能、という結果が得られた。
【0076】
図13に示した入射光の強度(フォトンフラックスが2.0×1019cm−2−1と3.2×1019cm−2−1の2種類)と電流電圧特性との関係(波長は643nmと805nmの2種類)を、少数キャリア再結合時間が2.0nsであり、キャリア熱緩和時間が8.0nsであるとし、上記式(13)に、入射光の受光面積Sと、量子構造部1eの電子透過率TTの補正係数Bと、量子構造部1eへの実効的印加電圧を決める補正係数Dを導入した下記式(17)及び式(18)を用いて、SとBとの積が4×10−5であり、D=1/7という条件下で、フィッティングを行った。結果を図15に示す。図15の縦軸は光を照射した時と照射しない時との電流の差分ΔI[arb. units]であり、横軸は、電圧[V]である。
【0077】
【数17】

【0078】
【数18】

【0079】
図15に示したように、実験結果及び計算結果は、それぞれの入射光強度と波長において、低印加電圧側の電流電圧特性がよく一致した(高印加電圧側の電流電圧特性には、量子構造部1eを越えたリーク電流が現れている)。したがって、波長や強度が不明の光が光検出素子1へと照射された場合には、上記式(1)〜式(18)を用いることにより、入射光の波長や強度を同定することが可能になる。具体的には、入射光の波長が不明の場合には、波長が不明の光を照射して得られた図13と対応する結果と、補正係数S、B、Dを校正した上記式(17)及び式(18)の計算結果とを照合することにより、入射光の波長と強度を同定することができる。
【符号の説明】
【0080】
1、8…光検出素子
1a…第2電極
1b…基板
1c…バッファ層
1d、1f…スペーサ層
1e、8a…量子構造部
1ex、1ez、8ax、8az…障壁層
1ey…量子井戸層
1g…光吸収層
1h…コンタクト層
1i…第1電極
2…電流電圧特性測定器
3…ロックインアンプ(特定信号検出・増幅器)
4…ファンクションジェネレータ(交流電圧信号発生器)
5…レーザ駆動装置
6…レーザ素子
7…低温プローバ
8ay…量子ドット層
8b…量子ドット
10、20、30…光検出装置
21、22…抵抗
23…可変電圧源
24…差動増幅回路
25、31…光源
26…計算機
32…ロックインアンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光を吸収して電子及び正孔を生成する光吸収層と、該光吸収層に隣接する量子構造部と、前記光吸収層に接続された第1電極と、前記量子構造部に接続された第2電極と、を有し、
前記量子構造部は、量子井戸層、及び、該量子井戸層と前記第1電極及び前記第2電極との間に配設された障壁層を有し、
前記障壁層の伝導帯端は、前記光吸収層の伝導帯端よりも高エネルギーであり、
前記障壁層の伝導帯端と前記光吸収層の伝導帯端とのエネルギー差は、0.58eVよりも大きく、
前記量子井戸層の伝導帯側に形成された量子準位は、前記光吸収層の伝導帯端よりも高エネルギーであり、
前記量子準位と前記光吸収層の伝導帯端とのエネルギー差は、電子が受け取る熱エネルギーよりも大きいことを特徴とする、光検出素子。
【請求項2】
光を吸収して電子及び正孔を生成する光吸収層と、該光吸収層に隣接する量子構造部と、前記光吸収層に接続された第1電極と、前記量子構造部に接続された第2電極と、を有し、
前記量子構造部は、量子ドット、及び、該量子ドットと前記第1電極及び前記第2電極との間に配設された障壁層を有し、
前記障壁層の伝導帯端は、前記光吸収層の伝導帯端よりも高エネルギーであり、
前記障壁層の伝導帯端と前記光吸収層の伝導帯端とのエネルギー差は、0.58eVよりも大きく、
前記量子ドットの伝導帯側に形成された量子準位は、前記光吸収層の伝導帯端よりも高エネルギーであり、
前記量子準位と前記光吸収層の伝導帯端とのエネルギー差は、電子が受け取る熱エネルギーよりも大きいことを特徴とする、光検出素子。
【請求項3】
請求項1及び/又は請求項2に記載の光検出素子を用いて、前記光検出素子へと入射した光により生じた電流電圧特性を得る電流電圧特性取得工程と、
前記電流電圧特性取得工程で得られた前記電流電圧特性を用いて、前記入射した光の波長及び強度を同定する同定工程と、
を有することを特徴とする、光検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2013−115405(P2013−115405A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−263335(P2011−263335)
【出願日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】