説明

光検出装置および光検出方法、並びに、顕微鏡および内視鏡

【課題】所望の被検出光を高感度かつ高SN比でヘテロダイン検出できる光検出装置および光検出方法、並びに、顕微鏡および内視鏡を提供する。
【解決手段】モード同期波長掃引レーザを含み、局発光を発生する局発光発生手段10と、局発光発生手段10から発生される局発光と被検出光とを合波する光合波手段20と、光合波手段20から出力される光を光電変換して局発光と被検出光とのビート信号を生成する光電変換手段30とを有し、光電変換手段30の出力に基づいて被検出光をヘテロダイン検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光検出装置および光検出方法、並びに、顕微鏡および内視鏡に関するものである。
【背景技術】
【0002】
生体観察、センサ、セキュリティ、レーザレーダ等の光を利用する様々なシステムにおいて、所望の信号光(被検出光)を検出する技術はその性能を大きく左右する基本的かつ重要な要素になっている。特に、高速かつ高感度な検出技術に対するニーズは高い。
【0003】
例えば、生体観察をみると、生体の状態や形状は時々刻々と変化するため、正確な観察を行うためには、高速に光検出を行う必要がある。また、光照射によって生体は損傷を受け易いため、生体試料に照射できる照明光や励起光の光量には上限がある。そのため、生体から得られる光信号は通常微弱になってしまう。これらの理由により、光を用いた生体観察においては、高速かつ高感度な光検出技術が強く求められている。
【0004】
現在用いられている代表的な光検出素子には、PMT(Photo Multiplier Tube)、APD(Avalanche Photo Diode)、PD(Photo Diode)がある。PMTおよびAPDは、検出素子内にて電子増倍を行うので、高感度な光検出を実現できる。一方、PDは、非常に高速な応答速度を実現できるものの、検出素子内に電子増倍機能を持たないため、通常は、電気増幅器を用いて信号の増幅を行っている。つまり、PMT,APD,PDは、いずれの素子も電気的に信号増幅を行い、感度の向上を図っている。
【0005】
また、代表的な二次元光検出器として、CCD(Charge Coupled Device)、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)、EM−CCD(Electron Multiplying-CCD)、EB−CCD(Electron Bombardment-CCD)、I−CCD(Intensified-CCD)がある。CCDもしくはCMOSを用いて微弱光を検出する場合は、感度向上のために、PDの場合と同様に、後段に電気増幅器を配置する必要がある。EM−CCDおよびEB−CCDは、APDの場合と同様に、検出素子内に電子増倍機能を持ち、高感度化を実現している。I−CCDは、CCDの前にI.I.(Image Intensifier)を配置した構成をとる。I.I.は、入射光信号を一旦電気信号に変換し、I.I.に内蔵されているMCP(Micro Channel Plate)内にて電子増倍を行った後、増倍された電子を蛍光板に衝突させることで、増倍電子信号を再度光に変換するものである。I.I.からの出力光は、CCDにて電気信号に変換される。つまり、I−CCDも、電気段にて信号増幅を行うことで高感度な光検出を実現している。
【0006】
上述の電気段での信号増幅を用いる従来の光検出技術は、増倍雑音、過剰雑音や熱雑音などが支配的な雑音であるため、高速性と高感度性とを両立させることは大変難しい状況にある。したがって、現状では、速度か感度かのどちらかを犠牲にして、光検出を行わざるをえない状況にある。
【0007】
高速高感度な光検出を可能にする技術の一つとして、光ヘテロダイン検出技術も広く用いられている。光ヘテロダイン検出技術は、被検出光と、被検出光の光周波数よりも若干光周波数が異なる局発光との干渉効果を利用する光検出方法で、局発光強度を十分高くして被検出光を高感度に検出するというものである。局発光強度が十分高い場合、ショット雑音限界の理想的な光検出が可能であるため、電気段での信号増幅を用いる手法と比較すると、高速かつ高感度な光検出が可能になる。ただし、この際、信号光と局発光には、時間的にも空間的にもお互いの干渉状態が安定するような光が通常用いられる。
【0008】
時間的な干渉性を高める方法として、次に述べる二つの方法が主に用いられる。一つ目の方法は、同一光源からの出力を分波してそれぞれを信号光および局発光として用いる方法である。この際、光源出力を分波しているので、信号光および局発光を合波するまでの相対遅延時間が、光源のコヒーレンス時間より短くなるように用いられる。こうすることで、信号光と局発光との干渉状態が時間的に安定する。なお、信号光と局発光との光周波数は、光周波数シフタやドップラシフトなどを利用して若干異なるように設定される。この方法は、比較的簡便に安定な干渉状態を実現できるので、古くから用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【0009】
二つ目の方法は、光スペクトル線幅が非常に狭く(光スペクトル純度が非常に高く)、かつ、発振光周波数が高精度に安定化された、互いに独立した二つの光源を用いる方法である。この二つの独立した光源をそれぞれ信号光もしくは局発光として用いる。この際、信号光と局発光との発振光周波数は若干異なるように設定される。この方法は、技術的制約により従来は実現が非常に困難だった。しかしながら、近年の技術進展により、光スペクトル線幅がkHz程度と非常に光スペクトル純度が高く、かつ、発振光周波数が高精度に安定化されたレーザが入手可能になったため、最近では二つ目の方法を用いても比較的安定した干渉状態が得られるようになってきている。
【0010】
一方、空間的な干渉性を高めるためには、信号光側に共焦点光学系などの空間モードフィルタが用いられる。こうすることで、局発光との干渉性の高い信号光成分のみが空間的に取り出され、光ヘテロダイン検出に用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許第2890309号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところが、生体観察、センサ、セキュリティ、レーザレーダ等で検出される信号光は、レーザ光のような時間的コヒーレンスの高いものではなく、ランプ光や蛍光などの時間的コヒーレンスが低い、つまり光スペクトル線幅が広いものである場合が非常に多い。また、分光計測などでレーザ光が用いられる場合でも、特に散乱媒質を計測する場合は、スペックルの影響を避けるために、意図的に光スペクトル線幅を広げる工夫がなされる。つまり、分光計測などでは、光周波数の確度をある程度確保すると同時に、スペックルの影響を避けることができる光スペクトル線幅のレーザ光が用いられる。
【0013】
このため、上述のような従来の方法にのっとると、このような時間的コヒーレンスの低い信号光をヘテロダイン検出するためには、信号光と局発光との発生源を同一とし、かつ信号光と局発光の相対遅延時間が、それらのコヒーレンス時間よりも短い状況で検出を行う必要がある。
【0014】
例えば、中心光周波数が600THz(波長500nm)で、光スペクトル線幅が120 THz(波長幅約100nm)の光の場合、コヒーレンス時間は、約1.0×10-14秒(真空中の空間距離で約3.0×10-6mに対応)となり、信号光と局発光との間の許容される遅延時間は非常に短い。
【0015】
また、例えば、中心光周波数600THz、光スペクトル線幅120GHz(波長幅約100pm)の意図的に線幅が広げられたレーザ光の場合を考えても、コヒーレンス時間は約1.0×10-11秒(真空中の空間距離で約3.0×10-3mに対応)となり、やはり許容される相対遅延時間は短い。
【0016】
このように、許容される相対遅延時間が短い状況では、時間的および距離的尤度が小さいため、ヘテロダイン検出の用途が非常に厳しく限定されてしまう。
【0017】
また、信号光(被検出光)が蛍光などのように試料中で新たに発生した時間的に低コヒーレンス光である場合は、高感度光ヘテロダイン検出に適した局発光を準備することができない。
【0018】
上述の理由から、従来は、時間的に低コヒーレンスな光信号をヘテロダイン検出した場合、安定的な干渉状態を保つことができず、高速かつ高感度な光検出の実現が困難な状況にある。
【0019】
したがって、かかる点に鑑みてなされた本発明の目的は、所望の被検出光を高感度かつ高SN(Signal to Noise)比でヘテロダイン検出できる光検出装置および光検出方法、並びに、顕微鏡および内視鏡を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記目的を達成する第1の観点に係る光検出装置の発明は、
モード同期波長掃引レーザを含み、局発光を発生する局発光発生手段と、
前記局発光発生手段から発生される前記局発光と前記被検出光とを合波する光合波手段と、
前記光合波手段から出力される光を光電変換して前記局発光と前記被検出光とのビート信号を生成する光電変換手段とを有し、
前記光電変換手段の出力に基づいて前記被検出光をヘテロダイン検出することを特徴とするものである。
【0021】
第2の観点に係る発明は、第1の観点に係る光検出装置において、
前記局発光発生手段から出力される前記局発光の波長帯域は、前記被検出光の波長帯域以下である、ことを特徴とするものである。
【0022】
第3の観点に係る発明は、第1の観点に係る光検出装置において、
前記光電変換手段が、バランスド検出を行なう、ことを特徴とするものである。
【0023】
第4の観点に係る発明は、第1の観点に係る光検出装置において、
前記局発光発生手段は、複数台の光発生源を有する、ことを特徴とするものである。
【0024】
第5の観点に係る発明は、第1の観点に係る光検出装置において、
前記局発光発生手段は、さらに、前記局発光発生手段の出力光から、所定の光周波数成分を局発光として選択する光フィルタ手段を有する、ことを特徴とするものである。
【0025】
第6の観点に係る発明は、第1の観点に係る光検出装置において、
前記局発光発生手段は、さらに、前記局発光発生手段の出力光のスペクトルを整形する光スペクトル整形手段を有する、ことを特徴とするものである。
【0026】
第7の観点に係る発明は、第1〜6の少なくともいずれか一つの観点に係る光検出装置において、
前記光電変換手段の出力の包絡線を検出する包絡線検波手段をさらに有する、ことを特徴とするものである。
【0027】
さらに、上記目的を達成する第8の観点に係る光検出方法の発明は、モード同期波長掃引レーザを含み、局発光を発生する局発光発生ステップと、前記被検出光と前記局発光とを合波する合波ステップと、前記合波された光を光電変換して前記局発光と前記被検出光とのビート信号を生成する光電変換ステップとを含み、前記ビート信号に基づいて前記被検出光をヘテロダイン検出することを特徴とするものである。
【0028】
さらに、上記目的を達成する第9の観点に係る顕微鏡の発明は、
観察試料からの被検出光を検出する顕微鏡であって、
第1〜7の観点のいずれか一つの観点に係る光検出装置を有し、
前記観察試料からの前記被検出光を前記光検出装置によりヘテロダイン検出するように構成したことを特徴とするものである。
【0029】
さらに、上記目的を達成する第10の観点に係る内視鏡の発明は、
体腔内からの被検出光を検出して、前記体腔内を観察する内視鏡であって、
第1〜7の観点のいずれか一つの観点に係る光検出装置を有し、
前記体腔内からの前記被検出光を前記光検出装置によりヘテロダイン検出するように構成したことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0030】
本発明に係る光検出装置や光検出方法によれば、被検出光と、モード同期波長掃引レーザを含む光源から出力される局発光とから複数のビート信号を生成し、それらを加算して、被検出光をヘテロダイン検出する。また、自然放出光(Amplified Spontaneous Emission: ASE)と比べると、モード同期波長掃引レーザは相対強度雑音(Relative Intensity Noise: RIN)を小さくすることができるため、モード同期波長掃引レーザからの出力光を局発光として用いることで、低雑音な光検出が可能になる。従って、例えば、生体等の散乱体で散乱することにより被検出光が減少するような被検体であっても、所望の被検出光を高感度かつ高SN比で検出することが可能となる。また、散乱体に限らず、検出対象の深部ないし遠方に存在する被検物質や、他の光吸収物質が介在するような環境下に存在する被検物質からの被検出光に対しても、高感度かつ高SN比で検出することが可能となる。
【0031】
光ヘテロダイン検出においては、信号光と局発光が時間的及び空間的に重なった部分に生じるビートを信号として検出するため、パルス発振するモード同期レーザからの出力光を局発光として用いた場合、そのパルス時間波形の包絡線の時間変化よりも十分に高速な光電変換以降の電子回路速度がないとビートを検出することができない。しかしながら、パルス発振するモード同期レーザとは異なり、モード同期波長掃引レーザの強度時間波形は連続的になるため、光電変換手段を含むそれより後段の電子回路に高価な高速素子を使用する必要がなくなるという産業的意義もある。
【0032】
また、本発明に係る顕微鏡によれば、観察試料からの被検出光を、上記の光検出装置により、モード同期波長掃引レーザを含む光源から出力される局発光と合波してヘテロダイン検出するので、観察試料を高感度かつ高SN比で観察することが可能となる。
【0033】
また、本発明に係る内視鏡によれば、体腔内からの被検出光を、上記の光検出装置により、モード同期波長掃引レーザを含む光源から出力される局発光と合波してヘテロダイン検出するので、体腔内を高感度かつ高SN比で観察することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の第1実施の形態に係る光検出装置の基本的構成を示すブロック図である。
【図2】図1に示した光検出装置の動作を説明する模式図である。
【図3】本発明の第2実施の形態に係るレーザ走査型蛍光顕微鏡の要部の構成を示すブロック図である。
【図4】本発明の第3実施の形態に係る光検出装置の要部の構成を示すブロック図と動作を説明する図である。
【図5】本発明の第4実施の形態に係る光検出装置の要部の構成を示すブロック図と動作を説明する図である。
【図6】本発明の第5実施の形態に係る走査型内視鏡の要部の構成を示すブロック図である。
【図7】本発明の第6実施の形態に係る内視鏡の要部の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下、本発明の実施の形態について、図を参照して説明する。
【0036】
(第1実施の形態)
図1は、本発明の第1実施の形態に係る光検出装置の基本的構成を示すブロック図である。この光検出装置は、モード同期波長掃引レーザを含み、局発光を発生する局発光発生手段10を用い、この局発光発生手段10からの局発光を光合波手段20にて入力信号光と合波し、この合波された光を光電変換手段30にて電気信号に変換すると同時に複数のビート信号が加算された信号を得て、入力信号光をヘテロダイン検出するものである。
【0037】
局発光発生手段10は、例えば、フーリエ領域モード同期レーザ(Fourier Domain Mode−locked laser: FDML)(米国特許7414779号参照)や光周波数コム発生器を利用した光源を用いる(IEEE Journal of Quantum Electronics,Vol.29,No.10,p.2693(1993)参照)。光合波手段20は、例えば、誘電体多層膜型ハーフミラー、ファイバ型光カプラや平面導波路型光カプラなどを用いて構成する。また、必要に応じて、光合波手段20の前段に、入力信号光や局発光の空間モードを調整する空間モードフィルタを配置しても良い。
【0038】
光電変換手段30は、例えば、PMT、APD、PD、CCD、CMOS、EM−CCDやEB−CCDなどを用いて構成する。また、光電変換手段30は、直流成分や信号光および局発光の強度揺らぎを除去する差動型(Dual Balanced Detection:DBD)のものを用いて構成することができる。
【0039】
被検出光である入力信号光は、光電変換手段30から出力される電気信号のうち、特に、振幅情報や強度情報を用いて検出する。これらの情報は、包絡線検波や二乗検波などにより取得する。光電変換手段30に差動型構成を用いない場合は、直流成分を除去するフィルタ手段を付加するのが有効である。
【0040】
図2は、図1に示した光検出装置の動作を説明する模式図である。すなわち、本実施の形態に係る光検出装置は、局発光発生手段10から出力される局発光の光周波数を、入力信号光の光スペクトル線と重なるように設定して、光合波手段20にて入力信号光と局発光とを合波し、この合波された光を光電変換手段30にて光電変換すると同時に複数のビート信号の加算された出力を得、その振幅情報を用いることで入力光信号をヘテロダイン検出する。つまり、局発光として、光スペクトル中に複数の光周波数成分を有するモード同期波長掃引レーザからの出力光を用いて、時間的コヒーレンスの低い、すなわち光スペクトル線幅の広い入力信号光を光ヘテロダイン検出する。この場合、ビート信号は、雑音的になるので、この雑音的なビート信号の振幅情報を検出信号とする。
【0041】
ある光周波数の局発光と入力信号光とのビート信号は、他の光周波数の局発光と入力信号光とのビート信号と相関を持たない。したがって、これらのビート信号は光電変換手段30にてインコヒーレントに加算される。つまり、複数の光周波数成分を有する局発光を用いることで、一種類の光周波数成分しか持たない局発光を用いる場合よりも、検出されるビート信号の振幅は大きくなる。また、モード同期波長掃引レーザはRINが小さいため、検出される雑音パワーは小さくなる。これにより、従来に無い高感度な光ヘテロダイン検出が実現される。また、十分強度の高い局発光を用いることで、高速かつ高感度な光検出が可能になる。
【0042】
なお、光電変換手段30から出力される電気信号は、搬送波周波数が確定しない信号になっている。また、様々な周波数成分を含むため、使用周波数帯域が広くなっている。このように、使用周波数帯域が広がると、多くの雑音の混入を許してしまい、光検出感度の低下を招くことになる。したがって、光電変換手段30の出力から被検出光の情報を取得するには、特に、包絡線検波を行うのが好ましい。
【0043】
このように、包絡線検波により被検出光の情報を取得するようにすれば、使用帯域を制限して雑音の混入を防ぐことができるとともに、周波数帯域の低減に応じて、装置を構成する部品の費用低減を図ることが可能となる。
【0044】
(第2実施の形態)
図3は、本発明の第2実施の形態に係るレーザ走査型蛍光顕微鏡の要部の構成を示すブロック図である。このレーザ走査型蛍光顕微鏡は、励起光源として波長488nmで連続発振するArレーザ41を有する。図3において、Arレーザ41から出射されたレーザ光は、例えば音響光学変調器(Acousto Optic Modulator:AOM)等の光強度調整器42により光強度を調整して、X−Yガルバノミラー43、瞳投影レンズ44、結像レンズ45、ダイクロイックミラー46および対物レンズ47を経て、検査対象である生細胞試料48に集光して照射する。したがって、このレーザ走査型蛍光顕微鏡では、光強度調整器42、X−Yガルバノミラー43、瞳投影レンズ44、結像レンズ45、ダイクロイックミラー46および対物レンズ47は、励起光源からの励起光を試料に照射する光照射手段を構成している。また、X−Yガルバノミラー43は、光走査手段を構成する。
【0045】
なお、生細胞試料48としては、蛍光色素で染色された検査対象物や、蛍光タンパクが発現している検査対象物を用いる。ここでは、蛍光タンパクeGFP(enhanced Green Fluorescence Protein)が発現している検査対象物質を用いるものとする。したがって、Arレーザ41からのレーザ光が、生細胞試料48に照射されると、eGFPが励起されて波長約500nm〜600nmの蛍光が発生する。
【0046】
生細胞試料48から発生した蛍光は、対物レンズ47を経てダイクロイックミラー46に導く。ダイクロイックミラー46は、波長488nmの光は透過させ、波長500nmより長波長の光は反射させるように構成する。これにより、生細胞試料48で発生した波長約500nm〜600nmの蛍光を、ダイクロイックミラー46で反射させる。
【0047】
ダイクロイックミラー46で反射された蛍光は、光合波手段であるハーフミラー49にて局発光と合波させる。局発光は、DPSS (Diode Pumped Solid State) レーザと光周波数コム発生器を組み合わせた光源51から出射されたレーザ光と、Pr添加フッ化物ファイバFDML52から出射されたレーザ光とをダイクロイックミラー53で合波したものを用いる。DPSSレーザと光周波数コム発生器を組み合わせた光源51は、例えば、波長532nmにて単一空間モードで連続発振するDPSSレーザからの出力を、電気光学変調器とファブリペロ光共振器で構成される光周波数コム発生器に入力し、平均光強度が10mW、光スペクトル帯域が525nm〜540nmとなる出力が光周波数コム発生器より得られるものを用いる。また、Pr添加フッ化物ファイバFDML52は、例えば、波長600nm〜620nmの光スペクトル帯域を持ち、単一空間モードで連続発振し、平均光強度10mWの出力が可能なものを用いる。
【0048】
すなわち、本実施の形態においては、局発光発生手段を、DPSSレーザと光周波数コム発生器を組み合わせた光源51およびPr添加フッ化物ファイバFDML52の2台の連続発振レーザを用いて構成している。
【0049】
ハーフミラー49から得られる二つの合波出力は、それぞれ反射ミラー54,55で反射させ、レンズ56,57を用いてSiPD(Silicon Photo Diode)で構成される光電変換手段である差動検出器(Dual Balanced Detector:DBD)61に入力して光電変換する。DBD61から出力される電気信号は、包絡線検波回路62で包絡線検波した後、電気増幅器63で増幅し、さらに、AD変換器64にてアナログ信号からディジタル信号へ変換して、コンピュータ65に供給する。
【0050】
コンピュータ65は、レーザ走査型蛍光顕微鏡の全体を制御する。これにより、Arレーザ41からのレーザ光を、X−Yガルバノミラー43により偏向して、生細胞試料48を対物レンズ47の光軸と直交する平面内で2次元走査し、その各走査点においてAD変換器64から得られる出力を処理して、モニタ66に蛍光画像を表示する。
【0051】
このように、本実施の形態に係るレーザ走査型蛍光顕微鏡は、Arレーザ41からのレーザ光の照射によって、生細胞試料48から発生する蛍光を、十分強度の高いDPSSレーザと光周波数コム発生器を組み合わせた光源51およびPr添加フッ化物ファイバFDML52から得られる局発光を用いてヘテロダイン検出する。したがって、生細胞試料48から得られる信号光である蛍光が微弱でも、生細胞試料48に照射するレーザ光の強度を高めたり、受光積算時間を長くしたりすることなく、SiPDで構成されるDBD61を用いて、蛍光を高速かつ高感度に光電変換することができ、生細胞試料48を高感度かつ高SN比で蛍光観察することができる。
【0052】
また、局発光として単一空間モードの光源を用いているため、DBD61の受光面において、局発光をほぼ回折限界まで集光することが可能である。生細胞試料48から発せられる蛍光と局発光とが、DBD61の受光面において空間的に重なった部分のみビート信号として検出されるため、本実施の形態に係るレーザ走査型蛍光顕微鏡は、共焦点ピンホールを有していないにも拘らず、共焦点効果を実現することが可能である。
【0053】
さらに、局発光発生手段として、ここではDPSSレーザと光周波数コム発生器を組み合わせた光源51とPr添加フッ化物ファイバFDML52との2台の連続発振レーザを用いるので、特に、個々の光源の強度や発振光周波数を選択することで、被検出光の光周波数帯域や光スペクトル形状に応じた自由度の高いレーザ走査型蛍光顕微鏡を実現できる。また、本実施の形態において、被検出光は、時間的に低コヒーレンスであるため、局発光の光周波数安定性に対する要求は高くない。また、検出されるビート信号は、搬送波周波数を規定できないような雑音的な信号になるため、従来法では必要不可欠だった局発光と被検出光との間の周波数間隔の固定が必要無い。しかも、局発光間の周波数間隔は、光検出システム全体の電気帯域よりも広く設定されている限り、局発光間のビート信号は検出されない。したがって、局発光発生手段に対する光周波数の安定性に対する制約は緩い。そのため、非常に低価格な連続発振レーザを局発光源として用いることができる。なお、局発光発生手段を構成する連続発振光源は、2台に限らず、検出する入力信号光の帯域に応じて、3台以上とすることもできる。
【0054】
(第3実施の形態)
図4(A)は、本発明の第3実施の形態に係る光検出装置の要部の構成を示すブロック図である。この光検出装置は、図1に示した構成の光検出装置において、局発光発生手段10と光合波手段20との間に、局発光発生手段10の出力光から、一部の光周波数を選択して局発光として光合波手段20に出力する光周波数選択手段40を設けたものである。
【0055】
光周波数選択手段40は、例えば、誘電体多層膜型フィルタ、光吸収型フィルタ、回折格子型フィルタ、プリズム型フィルタ、グリズム型フィルタ、VIPA(Virtually Imaged Phased Array)型フィルタ、AWG (Arrayed Wave Guide)型フィルタ、ファイバブラッググレーティング(Fiber Bragg Grating:FBG)型フィルタなどを用いて構成する。その他の構成は、図1と同様であるので、同一構成要素には同一参照符号を付して説明を省略する。
【0056】
図4(B)は局発光発生手段10からの出力光スペクトルを示す。図4(C)の実線は光周波数選択手段40からの出力光スペクトル、一点鎖線は光周波数選択手段10の透過特性を示す。
【0057】
このように、局発光発生手段10の後段に光周波数選択手段40を設ければ、局発光発生手段10から出力される光パルス列の光スペクトルが被検出光の光スペクトル帯域よりも広い場合に、光検出に寄与しない局発光を光周波数選択手段40により除去することができるので、第3実施の形態の効果に加えて、過剰雑音の混入を低減し、所望の被検出信号を高感度かつ高SN比で検出することができる。
【0058】
光ヘテロダイン検出における支配的雑音要因はショット雑音であり、この雑音は光電変換手段30で光電変換される局発光強度に比例する。このため、被検出光が存在しない光周波数領域の局発光が光電変換手段30に入力されると、ビート信号は増えない上、ショット雑音が増大してしまう。本実施の形態に係る光検出装置では、このような光検出に寄与しない局発光を、光周波数選択手段40で除去するので、局発光と近接する信号光成分のみがビート信号として検出され、光周波数軸上で近接する局発光の無い信号光成分は検出されない。つまり、光周波数選択手段40で選択された局発光の光スペクトルとほぼオーバーラップしている被検出光のみがビート信号として検出されるので、被検出光のある特定の光周波数を高感度かつ高SN比で検出することができる。
【0059】
(第4実施の形態)
図5(A)は、本発明の第4実施の形態に係る光検出装置の要部の構成を示すブロック図である。この光検出装置は、図1に示した構成の光検出装置において、局発光発生手段10と光合波手段20との間に、局発光発生手段10の出力光の光スペクトルを所望の形状に整形して光合波手段20に局発光として出力する光スペクトル整形手段50を設けたものである。
【0060】
光スペクトル整形手段50は、例えば、誘電体多層膜型フィルタ、長周期FBG、回折格子と液晶空間位相変調器との組み合わせや、VIPA型波形整形器などを用いて構成する。その他の構成は、図1と同様であるので、同一構成要素には同一参照符号を付して説明を省略する。
【0061】
図5(B)は局発光発生手段10からの出力光スペクトルを示す。図5(C)の実線は光スペクトル整形手段50からの出力光スペクトル、一点鎖線は光スペクトル整形手段10の透過特性を示す。
【0062】
このように、局発光発生手段10の後段に光スペクトル整形手段50を設けて、光合波手段20に出力する光パルス列の光スペクトルの強度等を所望の形状に整形すれば、第1実施の形態の効果に加えて、光検出感度の光周波数依存性を調整することが可能になる。すなわち、局発光の光スペクトル形状に応じて、検出感度の光周波数依存性が生じる。また、光電変換手段30も、通常は検出感度の光周波数依存性を有している。したがって、本実施の形態におけるように、局発光発生手段10の後段に光スペクトル整形手段50を配置して、光パルス列の光スペクトルを所望の形状に整形して、被検出光に合波すれば、光検出感度の光周波数依存性を調整することが可能になる。
【0063】
なお、このような光スペクトル整形手段50は、図3に示した構成において、光周波数選択手段40の前段または後段に配置して光検出装置を構成することもでき、これにより同様の効果を得ることができる。
【0064】
(第5実施の形態)
図6は、本発明の第5実施の形態に係る走査型内視鏡の要部の構成を示すブロック図である。この走査型内視鏡は、体腔内を走査して血管位置を観察するもので、照明光源として波長1050nmのSuper Luminescent Diode(SLD)151を有し、被検出光の検出系として図5に示した光検出装置の構成を有するものである。図6において、SLD151は、コンピュータ152に制御されたドライバ153によって駆動する。SLD151から発せられた光は、単一モードファイバ(Single−mode Fiber: SMF)154を経てコリメータ155から体腔内の生体試料156に照明光として照射する。
【0065】
照明光の照射により生体試料156で反射および散乱された光は、被検出光として集光用レンズ157にて集光する。ここで、コリメータ155および集光用レンズ157は、走査マウント158に保持されており、走査マウント158はドライバ159を介してコンピュータ152によって制御される。コリメータ155、集光用レンズ157および走査マウント158は、内視鏡ハウジング160に収められている。
【0066】
局発光は、Yb添加ファイバFDML161からの光パルスを用いる。このYb添加ファイバFDML161からの出力光は、光周波数選択手段である光フィルタ163を経て、合波手段である光ファイバカプラ164に、局発光として入射される。
【0067】
Yb添加ファイバFDML161からは、例えば、繰り返し周波数50kHz、発振波長帯域1048nm〜1052nm、平均光強度5mWの波長掃引連続光を発生させる。この光を、ローレンツ型の波長透過特性を持つ光フィルタ163に入力して、光スペクトル波形の形状をローレンツ型に近い形状に整えて局発光として取り出し、光ファイバカプラ164に供給する。
【0068】
集光用レンズ157からの出力光および光フィルタ163からの局発光は、光ファイバカプラ164にて合波して、該光ファイバカプラ164の二つの出力を、光電変換手段であるDBD165へ入力して光電変換する。DBD165から出力される電気信号は、電気増幅器166にて増幅し、さらに、AD変換器167にてアナログ信号からディジタル信号へ変換して、コンピュータ152に供給する。
【0069】
コンピュータ152は、走査マウント158の位置およびSLD151の光強度を制御しながら、AD変換器167から得られる情報に基づいて二次元画像を構築して、その構築した二次元画像をモニタ168に表示する。
【0070】
本実施の形態に係る走査型内視鏡によれば、Yb添加ファイバFDML161から出力される光の光スペクトルを、光フィルタ163に入射させるので、所望の光スペクトル形状を有する局発光を容易に得ることができる。したがって、生体試料156からの被検出光を高感度かつ高SN比で検出して、二次元画像としてモニタ168に表示することができ、正確な診断に供することができる。
【0071】
(第6実施の形態)
図7は、本発明の第6実施の形態に係る内視鏡の要部の構成を示すブロック図である。この内視鏡は、体腔内を観察するもので、照明光源としてXeランプ111を有し、被検出光の検出系として図4に示した光検出装置の構成を有するものである。図8において、Xeランプ111は、コンピュータ112に制御されたドライバ113によって駆動する。Xeランプ111から発せられた光は、波長600nm〜625nmを透過させる光フィルタ170及びライトガイドファイバ(Light Guide Fiber:LGF)114を経由して照明用レンズ115から体腔内の生体試料116に向けて照明光として照射する。
【0072】
照明光の照射により生体試料116で反射および散乱された光は、被検出光として集光用レンズ117にて集光して、合波ミラー118で局発光と合波させる。
【0073】
局発光は、波長600nm〜625nmで発振するPr添加フッ化物ファイバFDML121からの出力光を用いる。このPr添加フッ化物ファイバFDML121からの出力光は、波長600nm〜610nmを透過させる光フィルタ172、SMF171およびコリメートレンズ126を経て、合波ミラー118に局発光として入射させる。
【0074】
ここで、コンピュータ112は、所望のSN比の画像になるように、Pr添加フッ化物ファイバFDML121の光スペクトル帯域を調整する。
【0075】
合波ミラー118で合波された光は、フィルタ127で可視光以外の光を除去し、集光用レンズ128により光電変換手段である二次元CCD130に集光して光電変換する。二次元CCD130からの出力電気信号は、AD変換器131でディジタル信号に変換した後、ディジタルシグナルプロセッサ(Digital Signal Processor:DSP)132に供給し、該DSP132で包絡線検波処理してコンピュータ112に供給する。そして、コンピュータ112により、DSP132からの信号に基づいて二次元画像を構築して、モニタ133に画像を表示する。なお、照明用レンズ115、集光用レンズ117、合波ミラー118、コリメートレンズ126、フィルタ127、集光用レンズ128および二次元CCD130は、内視鏡ハウジング134内に収められている。
【0076】
本実施の形態に係る内視鏡によれば、Pr添加フッ化物ファイバFDML121から出力される光に光フィルタ172を組み合わせ局発光として用いるようにしている。したがって、生体試料116からの広帯域な被検出光を高い波長分解能にて高感度かつ高SN比で検出して、二次元画像としてモニタ133に表示することができ、正確な診断に供することができる。
【符号の説明】
【0077】
10 局発光発生手段
20 光合波手段
30 光電変換手段
40 光周波数選択手段
41 Arレーザ
42 強度変調器
43 X−Yガルバノミラー
46 ダイクロイックミラー
47 対物レンズ
48 生細胞試料
49 ハーフミラー
50 光スペクトル整形手段
51 DPSSレーザと光周波数コムを組み合わせた光源
52 Pr添加フッ化物ファイバFDML
53 ダイクロイックミラー
61 DBD(差動検出器)
62 包絡線検波回路
63 電気増幅器
64 AD変換器
65 コンピュータ
66 モニタ
111 Xeランプ
112 コンピュータ
115 照明用レンズ
116 生体試料
117 集光用レンズ
118 合波ミラー
121 Pr添加フッ化物ファイバFDML
126 コリメートレンズ
128 集光用レンズ
130 二次元CCD
131 AD変換器
132 DSP(ディジタルシグナルプロセッサ)
133 モニタ
134 ハウジング
151 SLD
152 コンピュータ
155 コリメータ
156 生体試料
157 集光用レンズ
158 走査マウント
160 ハウジング
161 Yb添加ファイバFDML
163 光フィルタ
164 光ファイバカプラ
165 DBD
166 電気増幅器
167 AD変換器
168 モニタ
169 SMF
170 光フィルタ
171 SMF
172 光フィルタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モード同期波長掃引レーザを含み、局発光を発生する局発光発生手段と、
前記局発光発生手段から発生される前記局発光と前記被検出光とを合波する光合波手段と、
前記光合波手段から出力される光を光電変換して前記局発光と前記被検出光とのビート信号を生成する光電変換手段とを有し、
前記光電変換手段の出力に基づいて前記被検出光をヘテロダイン検出することを特徴とする光検出装置。
【請求項2】
前記局発光発生手段から出力される前記局発光の波長帯域は、前記被検出光の波長帯域以下であることを特徴とする請求項1に記載の光検出装置。
【請求項3】
前記光電変換手段が、バランスド検出を行なうことを特徴とする請求項1に記載の光検出装置。
【請求項4】
前記局発光発生手段は、複数台の光発生源を有する、ことを特徴とする請求項1に記載の光検出装置。
【請求項5】
前記局発光発生手段は、さらに、前記局発光発生手段の出力光から、所定の光周波数成分を局発光として選択する光フィルタ手段を有する、ことを特徴とする請求項1に記載の光検出装置。
【請求項6】
前記局発光発生手段は、さらに、前記局発光発生手段の出力光のスペクトルを整形する光スペクトル整形手段を有する、ことを特徴とする請求項1に記載の光検出装置。
【請求項7】
前記光電変換手段の出力の包絡線を検出する包絡線検波手段をさらに有する、ことを特徴とする請求項1〜6の少なくともいずれか一項に記載の光検出装置。
【請求項8】
モード同期波長掃引レーザを含み、局発光を発生する局発光発生ステップと、
前記被検出光と前記局発光とを合波する合波ステップと、
前記合波された光を光電変換して前記局発光と前記被検出光とのビート信号を生成する光電変換ステップとを含み、
前記ビート信号に基づいて前記被検出光をヘテロダイン検出することを特徴とする光検出方法。
【請求項9】
観察試料からの被検出光を検出する顕微鏡であって、
請求項1乃至7の少なくともいずれか一項に記載の光検出装置を有し、
前記観察試料からの前記被検出光を前記光検出装置によりヘテロダイン検出するように構成したことを特徴とする顕微鏡。
【請求項10】
体腔内からの被検出光を検出して、前記体腔内を観察する内視鏡であって、
請求項1乃至7の少なくともいずれか一項に記載の光検出装置を有し、
前記体腔内からの前記被検出光を前記光検出装置によりヘテロダイン検出するように構成したことを特徴とする内視鏡。


【図1】
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【図3】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−58019(P2012−58019A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−199994(P2010−199994)
【出願日】平成22年9月7日(2010.9.7)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】