光機能性複合材、光蓄電池及び光機能性複合材の製造方法
【課題】光触媒の光吸収面積の拡大及び光触媒と機能性材料との接触面積の拡大を両立させることができる光機能性複合材、光蓄電池及び光機能性複合材の製造方法を提供する。
【解決手段】光触媒粒子12を高分子13中に分散させたものを透明基板11の表面に塗布する。次いで、透明基板11を介して光触媒粒子12及び高分子13に紫外光を照射する。この結果、光触媒粒子12の光触媒機能が発揮され、紫外光エイジングにより紫外光が到達する深さの範囲内でその強度に応じて高分子13が分解される。このような高分子13の分解が行われると、透明基板11と接する部分から高分子13がほとんど消失し、透明基板11の表面から離間するほど、多くの高分子13が分解されずに残存する。
【解決手段】光触媒粒子12を高分子13中に分散させたものを透明基板11の表面に塗布する。次いで、透明基板11を介して光触媒粒子12及び高分子13に紫外光を照射する。この結果、光触媒粒子12の光触媒機能が発揮され、紫外光エイジングにより紫外光が到達する深さの範囲内でその強度に応じて高分子13が分解される。このような高分子13の分解が行われると、透明基板11と接する部分から高分子13がほとんど消失し、透明基板11の表面から離間するほど、多くの高分子13が分解されずに残存する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光エネルギの有効利用に好適な光機能性複合材、光蓄電池及び光機能性複合材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、酸化チタン及び酸化亜鉛等の光触媒の光触媒機能を利用した光機能性デバイスについて多数の提案がされている。このような光機能性デバイスとしては、光蓄電池、光キャパシタ、光2次電池、色素増感太陽電池、光センサ等が挙げられる。光触媒を光機能性デバイスに用いる場合には、光触媒機能を維持したまま、光機能性デバイスの主たる機能を発揮する機能性材料に光触媒を固定することが好ましい。また、光機能性デバイスの高性能化のためには、光触媒の光活性による生成物(光励起電子・正孔及び活性イオン等)を高い効率で機能性材料に伝達することが好ましい。これらの事項から、「光触媒の光吸収面積」及び「光触媒と機能性材料との接触面積」の両方を大きくすることが好ましいといえる。「光触媒と機能性材料との接触面積」を大きくするためには、ナノレベルで光触媒と機能性材料とを複合化することが考えられる。
【0003】
しかしながら、多くの機能性材料は光学的に不透明であるため、単に複合化しただけでは、「光触媒の光吸収面積」が低下してしまい、十分な特性を得ることができない。
【0004】
【特許文献1】特開2000−336281号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、光触媒の光吸収面積の拡大及び光触媒と機能性材料との接触面積の拡大を両立させることができる光機能性複合材、光蓄電池及び光機能性複合材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願発明者は、前記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、以下に示す発明の諸態様に想到した。
【0007】
本発明に係る光機能性複合材は、光触媒材と、前記光触媒材に複合化された機能性材料と、を有し、前記光触媒材の一面から所定の深さ範囲内において、前記機能性材料の体積密度が前記一面から離間するほど高くなっていることを特徴とする。
【0008】
本発明に係る光蓄電池は、光蓄電電極と、対極と、前記光蓄電電極と前記対極との間に設けられた電解質と、を有し、前記光蓄電電極は、光触媒材と、前記光触媒材に複合化された導電性高分子と、を有し、前記光触媒材の一面から所定の深さ範囲内において、前記導電性高分子の体積密度が前記一面から離間するほど高くなっていることを特徴とする。
【0009】
本発明に係る光機能性複合材の製造方法は、光触媒材と機能性材料とを混合する工程と、前記光触媒材の一面に紫外光を照射することにより、前記機能性材料の一部を分解する工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、光触媒材の一面から所定の深さ範囲内において、機能性材料の体積密度が光触媒材の一面から離間するほど高くなっているので、当該一面近傍において光触媒材に多くの光が吸収され、そこから深さ方向に離間した機能性材料が多く存在する領域において光触媒材の光活性による生成物が高い効率で機能性材料に伝達される。従って、光触媒の光吸収面積の拡大及び光触媒と機能性材料との接触面積の拡大を両立させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について、添付の図面を参照して具体的に説明する。図1A乃至図1Cは、本発明の実施形態に係る光機能性複合材の製造方法を工程順に示す模式図である。
【0012】
本実施形態では、先ず、図1Aに示すように、光触媒粒子12からなる多孔質体と機能性材料である導電性高分子等の高分子13との複合体を透明基板11上に形成する。複合体は、塗布法、スキージ法又はスピンコート法等によって作製した多孔質体の間隙に、電着法又は酸化法等により高分子13を重合することにより形成する。電着法を採用する場合、透明基板11として透明導電基板を用い、高分子モノマーを含む電解質中で電解重合を行えばよい。また、酸化法を採用する場合、多孔質体に予め酸化剤を含浸させておき、このような多孔質体を、高分子モノマーを含む液体又は気体に触れさせて酸化重合を行えばよい。光触媒粒子12としては、例えばTiO2粒子、CdS粒子、ZnO粒子、ZrSe粒子、WO3粒子等の酸化物及びカルコゲン化合物が挙げられる。高分子13としては、例えば、ポリアニリン、ポリピロール及びポリチオフェン等の機能性材料が挙げられる。また、透明基板11としては、例えば、可撓性のある樹脂基板及びガラス基板が挙げられる。
【0013】
次いで、図1Bに示すように、透明基板11を介して光触媒粒子12及び高分子13に紫外光を照射する。この結果、光触媒粒子12の光触媒機能が発揮され、紫外光エイジングにより紫外光が到達する深さの範囲内でその強度に応じて高分子13が分解される。
【0014】
このような高分子13の分解が行われると、図1Cに示すように、透明基板11と接する部分から高分子13がほとんど消失し、透明基板11の表面から離間するほど、多くの高分子13が分解されずに残存する。つまり、図2に示すように、高分子13の分解の程度は、透明基板11の表面からの距離に応じて変化し、この傾向に伴って高分子13の残存量も変化する。
【0015】
このようにして光機能性複合材が得られる。この光機能性複合材では、光触媒粒子12と高分子13とが複合化されているため、これらの間の接触面積が大きい。また、透明基板11側には高分子13がほとんど存在しないため、光触媒粒子12の光吸収面積も大きい。従って、高い性能(効率、感度等)が得られる。光機能性複合材の構造としては、光触媒多孔質膜と機能性高分子膜とを積層したもの(積層構造)も考えられるが、この積層構造と比較すると、本実施形態の傾斜構造の光機能性複合材は高い可撓性を示すと共に、光触媒として機能する材料と機能性材料とが剥離しにくい。これは、本実施形態の光機能性複合材では、光触媒粒子12と可撓性を示す高分子13とが混在する領域が存在するため、複合材全体の曲げ等の応力が作用しても、高分子13がこの応力を緩和するからである。
【0016】
ここで、光触媒粒子12として酸化チタン粒子を用い、高分子13としてポリアニリンを用いて製造された光機能性複合材を備えた光蓄電池について説明する。図3Aは、光蓄電池の構成を示す模式図である。
【0017】
この光蓄電池では、電解液3が充填されたパッケージ7内に光蓄電電極1及び対極2が挿入されている。光蓄電電極1は、上記のように、酸化チタン粒子及びポリアニリンを用いて製造されたものである。また、光蓄電電極1にスイッチ5が接続されている。そして、スイッチ5と対極2との間に、電球等の負荷4が接続される。対極2としては、例えば炭素繊維が挙げられる。電解液3としては、例えば希硫酸が挙げられる。
【0018】
このように構成された光蓄電池において蓄電を行う場合には、スイッチ5を非導通の状態にしながら、光蓄電電極1に太陽光、紫外光又はキセノンアークランプ光等を照射する。光蓄電電極1に光が照射されると、図3Bに示すように、光触媒粒子12において電子及び正孔が励起され、これらが電解液3と高分子13との間に酸化還元反応を誘発する。この結果、導電性高分子として機能するポリアニリンの主鎖に、電解液3中の水素イオン(H+:プロトン)が取り込まれる。また、重合時に高分子の主鎖中に取り込まれた硫酸イオン等のアニオン(An-)が脱離する。このようにして、導電性高分子として機能するポリアニリン中に蓄電が行われる。
【0019】
一方、放電を行う場合には、スイッチ5を導通の状態とする。この結果、導電性高分子膜に取り込まれていた水素イオン(H+:プロトン)が電解液3中に放出されたり、硫酸イオン等のアニオン(An-)が高分子の主鎖中に取り込まれたりする。これらに伴い電流が発生し、この電流をポリアニリン(導電性高分子)自体が集電電極となって放電する。また、放電の効率を向上するために、予め導電性基板を用いてもよい。
【0020】
次に、本願発明者らが実際に行った実験について説明する。
【0021】
(第1の実験)
第1の実験では、上述の実施形態に倣って光蓄電池を作製し、光蓄電電極の形成の際の紫外光エイジングの有無による光起電力Vph及び光充電後の蓄電電荷量Qphの変化を調査した。光起電力Vph及び蓄電電荷量Qphの測定については、光蓄電電極を開放のまま光充電として15分間、キセノンアークランプ光を照射した後の電位変化を光起電力Vphとし、その後、暗下にて1kΩの定抵抗を介して対極と接続し、放電を行った。そして、この際の放電電荷量を蓄電電荷量Qphとした。このような光による充電及び定負荷放電の手順を1サイクルとし、蓄電電荷量Qph及び光起電力Vphの測定を5サイクル繰り返した。7時間の紫外光エイジングを施して傾斜構造とした光蓄電電極、及びこのような紫外光エイジングを施さずに均一構造のままとした光蓄電電極の光起電力Vph及び蓄電電荷量Qphを、夫々図4A及び図4Bに示す。図4A及び図4B中の●が均一構造の光蓄電電極を用いた場合の結果を示し、○が傾斜構造の光蓄電電極を用いた場合の結果を示す。但し、ここでは、電極作製の直後である1サイクル目の蓄電電荷量Qph及び光起電力Vphは、光充電による放電以外の放電電流も観測されるため、除外してある。
【0022】
図4Aに示すように、傾斜構造を採用した場合には、均一構造を採用した場合よりも、高い起電力が得られた。光吸収面積が増大したからである。また、図4Bに示すように、傾斜構造を採用した場合には、均一構造を採用した場合よりも、蓄電電荷量Qphが10倍程度高くなった。光による蓄電反応の領域が拡大したからである。
【0023】
(第2の実験)
第2の実験では、紫外光エイジングの前後での光触媒粒子12と高分子13との複合体の変化を光学的に観察した。紫外光エイジング前の複合体の状態を図5Aに示し、24時間の紫外光エイジング後の複合体の状態を図5Bに示す。
【0024】
図5Aに示すように、紫外光エイジング前には、黒いポリアニリンの存在が確認されたが、紫外光エイジングの後では、図5Bに示すように、ポリアニリンが消失し、白い酸化チタンが確認された。
【0025】
なお、紫外光エイジングを用いた無機粒子と有機材料との複合化は、光機能性複合材以外の複合材の製造にも用いることができる。
【0026】
例えば、先ず、図6Aに示すように、光触媒粒子22及び無機粒子24からなる多孔質体と機能性材料である導電性高分子等の高分子23との複合体を透明基板21上に形成する。複合体は、上述の実施形態と同様に、多孔質体の間隙に電着法又は酸化法等により高分子23を重合することにより形成する。多孔質体の形成に当たっては、無機粒子24中に光触媒粒子22を混入させたものを原料として予め準備しておく。無機粒子22としては、例えば、シリカ及びアルミナ等の金属酸化物粉末粒子並びにこれらの複合酸化物である粘土鉱物等の粒子が挙げられる。高分子23としては、例えば、電着又は触媒重合により合成可能なポリピロール及びポリチオフェン並びにこれらの誘導体が挙げられる。また、透明基板21及び光触媒粒子22としては、透明基板11及び光触媒粒子12と同様のものが用いられる。
【0027】
次いで、透明基板11を介して無機粒子24、光触媒粒子22及び高分子23に紫外光を照射する。この結果、光触媒粒子22の光触媒機能が発揮され、紫外光エイジングにより紫外光が到達する深さの範囲内でその強度に応じて高分子23が分解される。このような高分子23の分解が行われると、図6Bに示すように、透明基板21と接する部分から高分子23がほとんど消失し、透明基板21の表面から離間するほど、多くの高分子23が分解されずに残存する。このような複合材の構造としては、無機多孔質膜と高分子膜とを積層したもの(積層構造)も考えられるが、この積層構造と比較すると、傾斜構造の複合材は高い可撓性を示すと共に、無機材料と有機材料とが剥離しにくい。これは、傾斜構造の複合材では、無機粒子24と可撓性を示す高分子23とが混在する領域が存在するため、複合材全体の曲げ等の応力が作用しても、高分子23がこの応力を緩和するからである。
【0028】
なお、光機能性複合材の用途は光蓄電電極のみならず、図7Aに示すように、高分子13が消失した面に色素吸着層15を設ければ、色素増感太陽電池のフレキシブル酸化チタン層として用いることもできる。色素吸着層15は、増感色素を光触媒粒子12である酸化チタン粒子に吸着させることにより形成することができる。また、色素吸着層15を形成した後には、図7Bに示すように、色素吸着層15の上方に透明窓材を設置し、周囲を封止する。その後、ヨウ素イオン対を含む電解質を導入し、セルを形成する。この際、高分子13(導電性高分子)に端子を取り付けて光発電電極とする。更に、色素吸着層15に影とならない位置に対極を挿入する。このようにして色素増感太陽電池を作製することができる。
【0029】
このような色素増感太陽電池では、増感色素からなる色素吸着層15が励起電子を生成し、高分子13が酸化チタンからなる光触媒粒子12を介してこの励起電子を集電する。従来の色素増感太陽電池では光発電電極側に集電電極として透明導電膜が不可欠とされているが、本発明を適用した色素増感太陽電池では、高分子13の密度が高い部分が集電電極として機能するため、透明導電膜は不要である。従って、必要とされる材料が少なくて済み、コストを低減することができる。また、発電が行われる部分(主として色素吸着層15)と集電電極として機能する部分とが近接しているため、集電面積が大きくなる。また、上述の光蓄電池と同様に、均一構造のものと比較すると、高い可撓性が得られ、フレキシブル太陽電池として用いることもできる。
【0030】
また、光機能性複合材以外の複合材に関しては、図8に示すように、配線26を設ければ、電子ペーパ又はフレキシブル電子回路の基板として用いることができる。更に、高分子23として導電性高分子を用いれば、図9に示すように、導電性高分子のp型半導体的な性質を利用して、電極27を設けて電界効果トランジスタを作製することもできる。
【0031】
図9に示す構造を得るためには、例えば、図10Aに示すように、高分子23を消失させようとする領域に開口部32が形成されたマスク31を用いた紫外光の照射を行えばよく、この結果、図10Bに示すように、選択的に高分子23が除去された複合材が得られる。
【0032】
また、高分子23として機能性蛋白質を含む高分子を用いれば、光触媒粒子22が生成するプロトンをエネルギ源とする生体機能センサを構築することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1A】本発明の実施形態に係る光機能性複合材の製造方法を示す模式図である。
【図1B】図1Aに引き続き、光機能性複合材の製造方法を示す模式図である。
【図1C】図1Bに引き続き、光機能性複合材の製造方法を示す模式図である。
【図2】高分子13の分解の程度の変化を示すグラフである。
【図3A】光蓄電池の構成を示す模式図である。
【図3B】蓄電の機構を示す模式図である。
【図4A】第1の実験の結果(光起電力Vph)を示すグラフである。
【図4B】第1の実験の結果(蓄電電荷量Qph)を示すグラフである。
【図5A】紫外光エイジング前の複合体の状態を示す図である。
【図5B】24時間の紫外光エイジング後の複合体の状態を示す図である。
【図6A】光機能性複合材以外の複合材の製造方法を示す模式図である。
【図6B】図6Aに引き続き、複合材の製造方法を示す模式図である。
【図7A】色素増感太陽電池のフレキシブル酸化チタン層としての光機能性複合材の構成を示す模式図である。
【図7B】色素増感太陽電池のセル構造を示す模式図である。
【図8】光機能性複合材以外の複合材の用途の例を示す模式図である。
【図9】光機能性複合材以外の複合材の用途の他の例を示す模式図である。
【図10A】図9に示す複合材の製造方法を示す模式図である。
【図10B】図10Aに引き続き、複合材の製造方法を示す模式図である。
【符号の説明】
【0034】
1:光蓄電電極
2:対極
3:電解液
4:負荷
5:スイッチ
7:パッケージ
11:透明基板
12:光触媒粒子
13:高分子
15:色素吸着層
【技術分野】
【0001】
本発明は、光エネルギの有効利用に好適な光機能性複合材、光蓄電池及び光機能性複合材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、酸化チタン及び酸化亜鉛等の光触媒の光触媒機能を利用した光機能性デバイスについて多数の提案がされている。このような光機能性デバイスとしては、光蓄電池、光キャパシタ、光2次電池、色素増感太陽電池、光センサ等が挙げられる。光触媒を光機能性デバイスに用いる場合には、光触媒機能を維持したまま、光機能性デバイスの主たる機能を発揮する機能性材料に光触媒を固定することが好ましい。また、光機能性デバイスの高性能化のためには、光触媒の光活性による生成物(光励起電子・正孔及び活性イオン等)を高い効率で機能性材料に伝達することが好ましい。これらの事項から、「光触媒の光吸収面積」及び「光触媒と機能性材料との接触面積」の両方を大きくすることが好ましいといえる。「光触媒と機能性材料との接触面積」を大きくするためには、ナノレベルで光触媒と機能性材料とを複合化することが考えられる。
【0003】
しかしながら、多くの機能性材料は光学的に不透明であるため、単に複合化しただけでは、「光触媒の光吸収面積」が低下してしまい、十分な特性を得ることができない。
【0004】
【特許文献1】特開2000−336281号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、光触媒の光吸収面積の拡大及び光触媒と機能性材料との接触面積の拡大を両立させることができる光機能性複合材、光蓄電池及び光機能性複合材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願発明者は、前記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、以下に示す発明の諸態様に想到した。
【0007】
本発明に係る光機能性複合材は、光触媒材と、前記光触媒材に複合化された機能性材料と、を有し、前記光触媒材の一面から所定の深さ範囲内において、前記機能性材料の体積密度が前記一面から離間するほど高くなっていることを特徴とする。
【0008】
本発明に係る光蓄電池は、光蓄電電極と、対極と、前記光蓄電電極と前記対極との間に設けられた電解質と、を有し、前記光蓄電電極は、光触媒材と、前記光触媒材に複合化された導電性高分子と、を有し、前記光触媒材の一面から所定の深さ範囲内において、前記導電性高分子の体積密度が前記一面から離間するほど高くなっていることを特徴とする。
【0009】
本発明に係る光機能性複合材の製造方法は、光触媒材と機能性材料とを混合する工程と、前記光触媒材の一面に紫外光を照射することにより、前記機能性材料の一部を分解する工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、光触媒材の一面から所定の深さ範囲内において、機能性材料の体積密度が光触媒材の一面から離間するほど高くなっているので、当該一面近傍において光触媒材に多くの光が吸収され、そこから深さ方向に離間した機能性材料が多く存在する領域において光触媒材の光活性による生成物が高い効率で機能性材料に伝達される。従って、光触媒の光吸収面積の拡大及び光触媒と機能性材料との接触面積の拡大を両立させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について、添付の図面を参照して具体的に説明する。図1A乃至図1Cは、本発明の実施形態に係る光機能性複合材の製造方法を工程順に示す模式図である。
【0012】
本実施形態では、先ず、図1Aに示すように、光触媒粒子12からなる多孔質体と機能性材料である導電性高分子等の高分子13との複合体を透明基板11上に形成する。複合体は、塗布法、スキージ法又はスピンコート法等によって作製した多孔質体の間隙に、電着法又は酸化法等により高分子13を重合することにより形成する。電着法を採用する場合、透明基板11として透明導電基板を用い、高分子モノマーを含む電解質中で電解重合を行えばよい。また、酸化法を採用する場合、多孔質体に予め酸化剤を含浸させておき、このような多孔質体を、高分子モノマーを含む液体又は気体に触れさせて酸化重合を行えばよい。光触媒粒子12としては、例えばTiO2粒子、CdS粒子、ZnO粒子、ZrSe粒子、WO3粒子等の酸化物及びカルコゲン化合物が挙げられる。高分子13としては、例えば、ポリアニリン、ポリピロール及びポリチオフェン等の機能性材料が挙げられる。また、透明基板11としては、例えば、可撓性のある樹脂基板及びガラス基板が挙げられる。
【0013】
次いで、図1Bに示すように、透明基板11を介して光触媒粒子12及び高分子13に紫外光を照射する。この結果、光触媒粒子12の光触媒機能が発揮され、紫外光エイジングにより紫外光が到達する深さの範囲内でその強度に応じて高分子13が分解される。
【0014】
このような高分子13の分解が行われると、図1Cに示すように、透明基板11と接する部分から高分子13がほとんど消失し、透明基板11の表面から離間するほど、多くの高分子13が分解されずに残存する。つまり、図2に示すように、高分子13の分解の程度は、透明基板11の表面からの距離に応じて変化し、この傾向に伴って高分子13の残存量も変化する。
【0015】
このようにして光機能性複合材が得られる。この光機能性複合材では、光触媒粒子12と高分子13とが複合化されているため、これらの間の接触面積が大きい。また、透明基板11側には高分子13がほとんど存在しないため、光触媒粒子12の光吸収面積も大きい。従って、高い性能(効率、感度等)が得られる。光機能性複合材の構造としては、光触媒多孔質膜と機能性高分子膜とを積層したもの(積層構造)も考えられるが、この積層構造と比較すると、本実施形態の傾斜構造の光機能性複合材は高い可撓性を示すと共に、光触媒として機能する材料と機能性材料とが剥離しにくい。これは、本実施形態の光機能性複合材では、光触媒粒子12と可撓性を示す高分子13とが混在する領域が存在するため、複合材全体の曲げ等の応力が作用しても、高分子13がこの応力を緩和するからである。
【0016】
ここで、光触媒粒子12として酸化チタン粒子を用い、高分子13としてポリアニリンを用いて製造された光機能性複合材を備えた光蓄電池について説明する。図3Aは、光蓄電池の構成を示す模式図である。
【0017】
この光蓄電池では、電解液3が充填されたパッケージ7内に光蓄電電極1及び対極2が挿入されている。光蓄電電極1は、上記のように、酸化チタン粒子及びポリアニリンを用いて製造されたものである。また、光蓄電電極1にスイッチ5が接続されている。そして、スイッチ5と対極2との間に、電球等の負荷4が接続される。対極2としては、例えば炭素繊維が挙げられる。電解液3としては、例えば希硫酸が挙げられる。
【0018】
このように構成された光蓄電池において蓄電を行う場合には、スイッチ5を非導通の状態にしながら、光蓄電電極1に太陽光、紫外光又はキセノンアークランプ光等を照射する。光蓄電電極1に光が照射されると、図3Bに示すように、光触媒粒子12において電子及び正孔が励起され、これらが電解液3と高分子13との間に酸化還元反応を誘発する。この結果、導電性高分子として機能するポリアニリンの主鎖に、電解液3中の水素イオン(H+:プロトン)が取り込まれる。また、重合時に高分子の主鎖中に取り込まれた硫酸イオン等のアニオン(An-)が脱離する。このようにして、導電性高分子として機能するポリアニリン中に蓄電が行われる。
【0019】
一方、放電を行う場合には、スイッチ5を導通の状態とする。この結果、導電性高分子膜に取り込まれていた水素イオン(H+:プロトン)が電解液3中に放出されたり、硫酸イオン等のアニオン(An-)が高分子の主鎖中に取り込まれたりする。これらに伴い電流が発生し、この電流をポリアニリン(導電性高分子)自体が集電電極となって放電する。また、放電の効率を向上するために、予め導電性基板を用いてもよい。
【0020】
次に、本願発明者らが実際に行った実験について説明する。
【0021】
(第1の実験)
第1の実験では、上述の実施形態に倣って光蓄電池を作製し、光蓄電電極の形成の際の紫外光エイジングの有無による光起電力Vph及び光充電後の蓄電電荷量Qphの変化を調査した。光起電力Vph及び蓄電電荷量Qphの測定については、光蓄電電極を開放のまま光充電として15分間、キセノンアークランプ光を照射した後の電位変化を光起電力Vphとし、その後、暗下にて1kΩの定抵抗を介して対極と接続し、放電を行った。そして、この際の放電電荷量を蓄電電荷量Qphとした。このような光による充電及び定負荷放電の手順を1サイクルとし、蓄電電荷量Qph及び光起電力Vphの測定を5サイクル繰り返した。7時間の紫外光エイジングを施して傾斜構造とした光蓄電電極、及びこのような紫外光エイジングを施さずに均一構造のままとした光蓄電電極の光起電力Vph及び蓄電電荷量Qphを、夫々図4A及び図4Bに示す。図4A及び図4B中の●が均一構造の光蓄電電極を用いた場合の結果を示し、○が傾斜構造の光蓄電電極を用いた場合の結果を示す。但し、ここでは、電極作製の直後である1サイクル目の蓄電電荷量Qph及び光起電力Vphは、光充電による放電以外の放電電流も観測されるため、除外してある。
【0022】
図4Aに示すように、傾斜構造を採用した場合には、均一構造を採用した場合よりも、高い起電力が得られた。光吸収面積が増大したからである。また、図4Bに示すように、傾斜構造を採用した場合には、均一構造を採用した場合よりも、蓄電電荷量Qphが10倍程度高くなった。光による蓄電反応の領域が拡大したからである。
【0023】
(第2の実験)
第2の実験では、紫外光エイジングの前後での光触媒粒子12と高分子13との複合体の変化を光学的に観察した。紫外光エイジング前の複合体の状態を図5Aに示し、24時間の紫外光エイジング後の複合体の状態を図5Bに示す。
【0024】
図5Aに示すように、紫外光エイジング前には、黒いポリアニリンの存在が確認されたが、紫外光エイジングの後では、図5Bに示すように、ポリアニリンが消失し、白い酸化チタンが確認された。
【0025】
なお、紫外光エイジングを用いた無機粒子と有機材料との複合化は、光機能性複合材以外の複合材の製造にも用いることができる。
【0026】
例えば、先ず、図6Aに示すように、光触媒粒子22及び無機粒子24からなる多孔質体と機能性材料である導電性高分子等の高分子23との複合体を透明基板21上に形成する。複合体は、上述の実施形態と同様に、多孔質体の間隙に電着法又は酸化法等により高分子23を重合することにより形成する。多孔質体の形成に当たっては、無機粒子24中に光触媒粒子22を混入させたものを原料として予め準備しておく。無機粒子22としては、例えば、シリカ及びアルミナ等の金属酸化物粉末粒子並びにこれらの複合酸化物である粘土鉱物等の粒子が挙げられる。高分子23としては、例えば、電着又は触媒重合により合成可能なポリピロール及びポリチオフェン並びにこれらの誘導体が挙げられる。また、透明基板21及び光触媒粒子22としては、透明基板11及び光触媒粒子12と同様のものが用いられる。
【0027】
次いで、透明基板11を介して無機粒子24、光触媒粒子22及び高分子23に紫外光を照射する。この結果、光触媒粒子22の光触媒機能が発揮され、紫外光エイジングにより紫外光が到達する深さの範囲内でその強度に応じて高分子23が分解される。このような高分子23の分解が行われると、図6Bに示すように、透明基板21と接する部分から高分子23がほとんど消失し、透明基板21の表面から離間するほど、多くの高分子23が分解されずに残存する。このような複合材の構造としては、無機多孔質膜と高分子膜とを積層したもの(積層構造)も考えられるが、この積層構造と比較すると、傾斜構造の複合材は高い可撓性を示すと共に、無機材料と有機材料とが剥離しにくい。これは、傾斜構造の複合材では、無機粒子24と可撓性を示す高分子23とが混在する領域が存在するため、複合材全体の曲げ等の応力が作用しても、高分子23がこの応力を緩和するからである。
【0028】
なお、光機能性複合材の用途は光蓄電電極のみならず、図7Aに示すように、高分子13が消失した面に色素吸着層15を設ければ、色素増感太陽電池のフレキシブル酸化チタン層として用いることもできる。色素吸着層15は、増感色素を光触媒粒子12である酸化チタン粒子に吸着させることにより形成することができる。また、色素吸着層15を形成した後には、図7Bに示すように、色素吸着層15の上方に透明窓材を設置し、周囲を封止する。その後、ヨウ素イオン対を含む電解質を導入し、セルを形成する。この際、高分子13(導電性高分子)に端子を取り付けて光発電電極とする。更に、色素吸着層15に影とならない位置に対極を挿入する。このようにして色素増感太陽電池を作製することができる。
【0029】
このような色素増感太陽電池では、増感色素からなる色素吸着層15が励起電子を生成し、高分子13が酸化チタンからなる光触媒粒子12を介してこの励起電子を集電する。従来の色素増感太陽電池では光発電電極側に集電電極として透明導電膜が不可欠とされているが、本発明を適用した色素増感太陽電池では、高分子13の密度が高い部分が集電電極として機能するため、透明導電膜は不要である。従って、必要とされる材料が少なくて済み、コストを低減することができる。また、発電が行われる部分(主として色素吸着層15)と集電電極として機能する部分とが近接しているため、集電面積が大きくなる。また、上述の光蓄電池と同様に、均一構造のものと比較すると、高い可撓性が得られ、フレキシブル太陽電池として用いることもできる。
【0030】
また、光機能性複合材以外の複合材に関しては、図8に示すように、配線26を設ければ、電子ペーパ又はフレキシブル電子回路の基板として用いることができる。更に、高分子23として導電性高分子を用いれば、図9に示すように、導電性高分子のp型半導体的な性質を利用して、電極27を設けて電界効果トランジスタを作製することもできる。
【0031】
図9に示す構造を得るためには、例えば、図10Aに示すように、高分子23を消失させようとする領域に開口部32が形成されたマスク31を用いた紫外光の照射を行えばよく、この結果、図10Bに示すように、選択的に高分子23が除去された複合材が得られる。
【0032】
また、高分子23として機能性蛋白質を含む高分子を用いれば、光触媒粒子22が生成するプロトンをエネルギ源とする生体機能センサを構築することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1A】本発明の実施形態に係る光機能性複合材の製造方法を示す模式図である。
【図1B】図1Aに引き続き、光機能性複合材の製造方法を示す模式図である。
【図1C】図1Bに引き続き、光機能性複合材の製造方法を示す模式図である。
【図2】高分子13の分解の程度の変化を示すグラフである。
【図3A】光蓄電池の構成を示す模式図である。
【図3B】蓄電の機構を示す模式図である。
【図4A】第1の実験の結果(光起電力Vph)を示すグラフである。
【図4B】第1の実験の結果(蓄電電荷量Qph)を示すグラフである。
【図5A】紫外光エイジング前の複合体の状態を示す図である。
【図5B】24時間の紫外光エイジング後の複合体の状態を示す図である。
【図6A】光機能性複合材以外の複合材の製造方法を示す模式図である。
【図6B】図6Aに引き続き、複合材の製造方法を示す模式図である。
【図7A】色素増感太陽電池のフレキシブル酸化チタン層としての光機能性複合材の構成を示す模式図である。
【図7B】色素増感太陽電池のセル構造を示す模式図である。
【図8】光機能性複合材以外の複合材の用途の例を示す模式図である。
【図9】光機能性複合材以外の複合材の用途の他の例を示す模式図である。
【図10A】図9に示す複合材の製造方法を示す模式図である。
【図10B】図10Aに引き続き、複合材の製造方法を示す模式図である。
【符号の説明】
【0034】
1:光蓄電電極
2:対極
3:電解液
4:負荷
5:スイッチ
7:パッケージ
11:透明基板
12:光触媒粒子
13:高分子
15:色素吸着層
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光触媒材と、
前記光触媒材に複合化された機能性材料と、
を有し、
前記光触媒材の一面から所定の深さ範囲内において、前記機能性材料の体積密度が前記一面から離間するほど高くなっていることを特徴とする光機能性複合材。
【請求項2】
前記機能性材料が導電性高分子であることを特徴とする請求項1に記載の光機能性複合材。
【請求項3】
光蓄電電極と、
対極と、
前記光蓄電電極と前記対極との間に設けられた電解質と、
を有し、
前記光蓄電電極は、
光触媒材と、
前記光触媒材に複合化された導電性高分子と、
を有し、
前記光触媒材の一面から所定の深さ範囲内において、前記導電性高分子の体積密度が前記一面から離間するほど高くなっていることを特徴とする光蓄電池。
【請求項4】
光触媒材と機能性材料とを混合する工程と、
前記光触媒材の一面に紫外光を照射することにより、前記機能性材料の一部を分解する工程と、
を有することを特徴とする光機能性複合材の製造方法。
【請求項1】
光触媒材と、
前記光触媒材に複合化された機能性材料と、
を有し、
前記光触媒材の一面から所定の深さ範囲内において、前記機能性材料の体積密度が前記一面から離間するほど高くなっていることを特徴とする光機能性複合材。
【請求項2】
前記機能性材料が導電性高分子であることを特徴とする請求項1に記載の光機能性複合材。
【請求項3】
光蓄電電極と、
対極と、
前記光蓄電電極と前記対極との間に設けられた電解質と、
を有し、
前記光蓄電電極は、
光触媒材と、
前記光触媒材に複合化された導電性高分子と、
を有し、
前記光触媒材の一面から所定の深さ範囲内において、前記導電性高分子の体積密度が前記一面から離間するほど高くなっていることを特徴とする光蓄電池。
【請求項4】
光触媒材と機能性材料とを混合する工程と、
前記光触媒材の一面に紫外光を照射することにより、前記機能性材料の一部を分解する工程と、
を有することを特徴とする光機能性複合材の製造方法。
【図1A】
【図1B】
【図1C】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図4A】
【図4B】
【図6A】
【図6B】
【図7A】
【図7B】
【図8】
【図9】
【図10A】
【図10B】
【図5A】
【図5B】
【図1B】
【図1C】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図4A】
【図4B】
【図6A】
【図6B】
【図7A】
【図7B】
【図8】
【図9】
【図10A】
【図10B】
【図5A】
【図5B】
【公開番号】特開2009−187760(P2009−187760A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−25673(P2008−25673)
【出願日】平成20年2月5日(2008.2.5)
【出願人】(504258527)国立大学法人 鹿児島大学 (284)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年2月5日(2008.2.5)
【出願人】(504258527)国立大学法人 鹿児島大学 (284)
【Fターム(参考)】
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