説明

光波長変換器

【課題】利得回復時間に起因した波長変換速度の制約を抑制して、装置の小型化や簡素化、消費電力の低減化が図られる光波長変換器を提供する。
【解決手段】光波長変換器11は、少なくとも0次基本モードおよび1次モードが同時に導波可能であって、0次基本モードの利得が1次モードより高くなるように設定された利得領域を有するマルチモード干渉導波路(MMI)11と、MMIの0次基本モードと結合した入射導波路2と、MMIの1次モードと結合した入射導波路3と、MMIの0次基本モードと結合した出射導波路5と、MMIの1次モードと結合した出射導波路6などで構成され、波長λsの信号光Isが入射導波路2に入射し、波長λpのプローブ光Ipが入射導波路3に入射すると、信号光Isによって強度変調を受けた波長λpの波長変換光Opが出射導波路6から出射される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば波長多重光通信などに適用可能であって、ある波長を有する信号光を別の波長を有する信号光へ変換するための光波長変換器に関する。
【背景技術】
【0002】
図8は、従来の光波長変換器の一例を示す構成図である。この光波長変換器は、下記の非特許文献1に記載されており、半導体光増幅器(SOA:Semiconductor Optical Amplifier)20と、波長フィルタ21を備える。併進型(co-propagation)配置では、信号光(波長λs)および、CW(Continuous Wave)光などのプローブ光(波長λc)の2つの光信号が半導体光増幅器20の一方から入力され、半導体光増幅器20を通過する際に増幅される。2つの光信号にとって半導体光増幅器20の利得は縮退しているため、相互利得変調作用によって信号光の強度変調信号がプローブ光に転写され、波長λcの波長変換光として出力される。こうした動作原理から相互利得変調型の光波長変換器と称される。
【0003】
しかしながら、この光波長変換器においては、入力された信号光およびプローブ光も波長変換光と共に同一の出力ポートより出射されるため、波長の違いを利用して波長変換光のみを分離するための波長フィルタ21が必要になり、構成が複雑になる。また、信号光の波長とプローブ光の波長は、波長フィルタ21の分離特性より離す必要があるため、高密度な波長多重光通信システムを構築する上で大きな弊害となる。特に、信号光の波長λsとプローブ光の波長λcが等しい特殊な使用態様の場合は、波長フィルタ21では分離不可能になる。
【0004】
図9は、従来の光波長変換器の他の例を示す構成図である。この光波長変換器も下記の非特許文献1に記載されている。逆進型配置では、信号光(波長λs)が半導体光増幅器20の一方から入力され、プローブ光(波長λc)が半導体光増幅器20の他方から入力される。信号光の強度変調信号が転写されたプローブ光は、波長λcの波長変換光として半導体光増幅器20の一方から出力される。波長変換光は、例えば光サーキュレータ22や光カプラを用いて入力信号光から容易に分離することができる.
【0005】
しかしながら、逆進型配置では、信号光とプローブ光とが対向して進行するため、図8に示す併進型配置と比べて、信号光とプローブ光との相互作用に必要な光路長が充分に確保できず、消光比が低下する。
【0006】
また、図8および図9に示した光波長変換器は、半導体光増幅器20の内部利得の縮退を利用した相互利得変調型である。半導体光増幅器20の内部利得は、外部から電流注入によって維持されることから、光波長変換器の動作速度が半導体の利得回復時間によって制限される。
【0007】
図10は、利得回復時間の電流密度依存性の一例を示すグラフである。縦軸は利得回復時間(ps)で、横軸は利得領域での電流密度(mA/μm)である。また、各グラフは、半導体光増幅器20の利得領域長l=600μm,1200μmについて実測値と計算値を示す。
【0008】
全体の傾向として、注入する電流密度が増加するほど、利得回復時間は短くなる。例えば、40Gbit/sの信号を扱うのに必要十分な10psの利得回復時間を得るためには、電流密度を上げると共に、1200μmという長い利得領域長lを確保しなければならない。その結果、消費電力の増加という問題点が出てくる。
【0009】
図11は、従来の光波長変換器のさらに他の例を示す構成図である。この光波長変換器も下記の非特許文献1に記載されており、上述の相互利得変調とは異なる相互位相変調を利用している。この光波長変換器は、半導体光増幅器22(SOA1)と、半導体光増幅器23(SOA2)と、分岐導波路24〜27とを含み、マッハツェンダ型の干渉計を構成している。
【0010】
CW光などのプローブ光(波長λc)は、分岐導波路24を経由して各半導体光増幅器22,23に入力され、さらに各分岐導波路25,26を経由した後、分岐導波路27において合波される。入力信号光(波長λs)は、分岐導波路25を経由して、プローブ光と対向するように半導体光増幅器22に入力される。波長λcの波長変換光は、半導体光増幅器22から分岐導波路25,27を経由して出力される。
【0011】
半導体光増幅器22では、位相を180度変化させて相互位相変調を行うのに必要なキャリア密度の変化は、上述の相互利得変調で必要なキャリア密度の変化よりも格段に小さい。そのため、利得回復時間の遅延や消費電力の増加などの問題点は解決できる。
【0012】
しかしながら、分岐導波路24の存在によって、プローブ光に対して3dBの損失が発生するという新たな問題点が浮上する。また、2つの半導体光増幅器22,23およびマッハツェンダ干渉計を構成する導波路を高精度で対称配置する必要があり、製造プロセスの複雑化、半導体チップの大型化、製造コストの増加、消費電力の増加をもたらす。
【0013】
【特許文献1】特開平11−72810号公報(7頁〜9頁、図5)
【特許文献2】米国特許第5933554号公報
【非特許文献1】Terji Durhuus、 et al.、 “All-Optical Wavelength Conversion by Semiconductor Optical Amplifiers”、 IEEE Journal of Lightwave Technology、 Vol.14、 No.6、 June 1996
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
従来の光波長変換器は、上述のように、半導体光増幅器の利得回復時間に起因して波長変換速度の制約を受ける。
【0015】
また、併進型の光波長変換器では、信号光と波長変換光が同一ポートから出力されるため、波長変換光を分離するための波長フィルタが必要になり、構造が複雑化する。高密度な波長多重光通信システムを構築する場合、波長フィルタの分離特性が波長間隔を制約する要因となる。特に、信号光とプローブ光が同一波長の場合には、波長フィルタによる分離が不可能になる。
【0016】
また、2つの半導体光増幅器を用いた相互位相変調型の光波長変換器では、製造プロセスの複雑化、半導体チップの大型化、製造コストの増加、消費電力の増加といった問題点がある。
【0017】
本発明の目的は、利得回復時間に起因した波長変換速度の制約を抑制して、装置の小型化や簡素化、消費電力の低減化が図られる光波長変換器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記目的を達成するために、本発明に係る光波長変換器は、少なくとも0次基本モードおよび1次モードが同時に導波可能であって、0次基本モードの利得が1次モードより高くなるように設定された利得領域を有するマルチモード干渉導波路と、
マルチモード干渉導波路における0次基本モードと結合した第1入射導波路と、
マルチモード干渉導波路における1次モードと結合した第2入射導波路と、
マルチモード干渉導波路における0次基本モードと結合した第1出射導波路と、
マルチモード干渉導波路における1次モードと結合した第2出射導波路とを備え、
波長λsの信号光が第1入射導波路に入射し、波長λpのプローブ光が第2入射導波路に入射すると、信号光によって強度変調を受けた波長λpの波長変換光が第2出射導波路から出射されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、マルチモード干渉導波路は、複数のモードが同時に導波可能であるため、各モード間の相互利得変調を利用することによって波長変換を行うことができる。例えば、0次基本モードおよび1次モードが同時に導波される場合、両モード間で物質利得が縮退している。そのため、いずれか一方のモードを用いて信号光を伝搬させ、他方のモードを用いてプローブ光を伝搬させた場合、信号光とプローブ光の間での相互利得変調を実現することができる。
【0020】
さらに、0次基本モードの利得が1次モードの利得より高くなるように設定して、信号光を0次基本モードで伝搬させ、プローブ光を1次モードで伝搬させた場合、微弱な信号光に対してプローブ光が強く消光するようになるため、信号光の強度変調信号がプローブ光に転写される効率が高くなる。
【0021】
また、こうしたモード間の利得差を利用した波長変換では、必ずしも物質利得の変調を伴わないため、利得回復時間による速度制約を原理的に受けにくくなり、高速の光信号であっても波形劣化なく波長変換することが可能となる。
【0022】
また、各モードの伝搬軸は互いに交差しているため、モード間の分離が容易になり、クロストークを抑制できる。
【0023】
また、マルチモード干渉導波路を用いることにより、装置の小型化や簡素化、消費電力の低減化が図られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
実施の形態1.
図1は、本発明の第1実施形態を示す平面図である。光波長変換器11は、マルチモード干渉導波路(MMI: Multi-Mode Interference Waveguide)1と、複数の入射導波路2,3,4と、複数の出射導波路5,6,7などで構成される。
【0025】
マルチモード干渉導波路1は、信号光の波長帯域において物質利得を有する半導体、例えばInGaAsPなどの化合物半導体で形成され、少なくとも0次基本モードおよび1次モードが同時に導波可能であるように構成されている。マルチモード干渉導波路1は、複数の電極12,13,14からのキャリア注入によって形成されるストライプ状の利得領域を有し、この利得領域において0次基本モードの利得が1次モードの利得より高くなるように設定されている。
【0026】
入射導波路2は、マルチモード干渉導波路1の長手方向に沿って形成され、マルチモード干渉導波路1で導波される0次基本モードと結合可能なように構成されている。入射導波路3,4は、マルチモード干渉導波路1の長手方向に対して所定の角度でそれぞれ交差するように形成され、マルチモード干渉導波路1で導波される1次モードと結合可能なように構成されている。
【0027】
出射導波路5は、マルチモード干渉導波路1の長手方向に沿って形成され、マルチモード干渉導波路1で導波される0次基本モードと結合可能なように構成されている。出射導波路6,7は、マルチモード干渉導波路1の長手方向に対して所定の角度でそれぞれ交差するように形成され、マルチモード干渉導波路1で導波される1次モードと結合可能なように構成されている。
【0028】
入射導波路2,3,4と出射導波路5,6,7は、マルチモード干渉導波路1に関して点対称となるように配置される。
【0029】
光波長変換器11は、3つのエピタキシャル成長部8,9,10を有し、これらがモノリシックに集積した1つの半導体チップとして構成される。
【0030】
エピタキシャル成長部8は、マルチモード干渉導波路1と、入射導波路2,3,4と結合した部分と、出射導波路5,6,7と結合した部分とが埋め込まれており、信号光の波長帯域において物質利得を有する半導体をエピタキシャル成長させることによって形成されている。
【0031】
エピタキシャル成長部9は、入射導波路2,3,4の平行部分が埋め込まれており、信号波長帯域において物質利得を有さない透明な材料をエピタキシャル成長させることによって形成されている。エピタキシャル成長部10は、出射導波路5,6,7の平行部分が埋め込まれており、信号波長帯域において物質利得を有さない透明な材料をエピタキシャル成長させることによって形成されている。
【0032】
エピタキシャル成長部8とエピタキシャル成長部9,10とは、バットジョイント(突合せ)によって接合されている。また、入射導波路2,3,4は、エピタキシャル成長部9の端面およびバットジョイント接合面に対して角度θで傾斜しており、出射導波路5,6,7も同様にエピタキシャル成長部10の端面およびバットジョイント接合面に対して角度θで傾斜しており、各端面または各接合面による反射戻り光を低減している。
【0033】
図2は、マルチモード干渉導波路1における光の電界分布を示すグラフである。縦軸は電界強度(任意単位)で、横軸は導波路の光軸に垂直な方向に沿った位置(μm)である。太い実線は0次基本モードの電界分布を示し、細い実線は1次モードの電界分布を示している。
【0034】
0次基本モードは、導波路の中心に関して左右対称な電界分布を有しており、導波路の中心において電界強度がピークに達し、中心から遠くなるにつれて電界強度が減少する。一方、1次モードは、導波路の中心を境に符号が反転する反対称な電界分布を有しており、導波路の中心において電界強度はゼロになり、中心から+2μm付近で正のピークに達し、−2μm付近で負のピークに達し、さらに遠くなるにつれて電界強度が減少する。
【0035】
これらの電界分布に対して電極12,13,14の配置をどのように決定すべきかを説明する。電極12,13,14は、導波路の中心に関して左右対称なストライプ形状を有し、グラフ中の点線で示すように、電極12,13,14の幅L1とほぼ一致するように利得領域が形成される。利得領域(点線の範囲内)では、各電極から注入されるキャリアの密度が高く、光利得特性を示す。一方、利得領域の外側は、キャリア密度が低いため、光吸収特性を示す。
【0036】
こうした部分的な利得領域を有するマルチモード干渉導波路1において、モード利得は、光の電界分布と物質利得(キャリアが流れない領域では物質吸収)の積をモード伝搬領域全域にわたって積分することにより求められる。このとき注目すべき点は、電界分布の広がりが0次基本モードよりも1次モードの方が大きいために、利得領域とのオーバーラップは、逆に0次基本モードよりも1次モードの方が小さくなることである。その結果、上述の積分によって得られるモード利得は、0次基本モードよりも1次モードの方が小さくなる。
【0037】
図3は、0次基本モードおよび1次モードのモード利得の波長依存性を示すグラフである。縦軸はモード利得(cm−1)で、横軸は光の波長(μm)である。太い実線は0次基本モードのモード利得を示し、細い実線は1次モードのモード利得を示している。ここでは、利得領域での注入キャリア密度を同じに設定して、各モード利得の積分計算を実施している。
【0038】
このグラフを見ると、0次基本モードは、約1.44μm〜約1.61μmの波長範囲で正のモード利得を示して光増幅が生じ、約1.44μm以下および約1.61μm以上の波長範囲で負のモード利得を示し、光吸収が生ずることが判る。一方、1次モードは、図3の波長範囲に渡って負のモード利得を示し、光吸収が生ずることが判る。
【0039】
各モード利得カーブは、注入キャリア密度の変化に応じて上下にシフトし得ることから、注入キャリア密度および波長を適切に選択することによって、0次基本モードと1次モードとの間のモード利得差を付与できる。
【0040】
図4は、光波長変換器11の動作を示す説明図である。波長λsの信号光Isが入射導波路2に入射すると、マルチモード干渉導波路1において0次基本モードとして導波され、図3に示した0次基本モードの利得特性に従って増幅された後、出射導波路5を通過して外部へ出射する。
【0041】
波長λpのプローブ光Ipが入射導波路3に入射すると、マルチモード干渉導波路1において1次モードとして導波され、図3に示した1次モードの利得特性に従って増幅(または吸収)された後、出射導波路6を通過して外部へ出射する。
【0042】
信号光Isとして、例えば10Gbit/sの強度変調信号を用いた場合、プローブ光Ipとして、例えば10GHzのクロック周波数に同期して変調がかけられたクロック光、あるいは無変調のCW光が使用できる。
【0043】
マルチモード干渉導波路1において信号光Isおよびプローブ光Ipが同時に導波している場合、信号光Isの変調信号がハイレベルのとき、プローブ光Ipは吸収を受け、一方、信号光Isの変調信号がローレベルのとき、プローブ光Ipは増幅される。こうした相互利得変調によって、プローブ光Ipは、信号光Isの変調信号の反転を転写した強度変調信号に変換され、出射導波路6から波長λpの波長変換光Opとして出力される。
【0044】
電極12,13,14は、図4に示すように、マルチモード干渉導波路1に沿ってストライプ状に配置され、各電極の直下のみにキャリアが注入される。各電極の幅L1は、マルチモード干渉導波路1での0次基本モードと1次モードの間のモード利得差が最大となるように設計することが望ましく、さらにマルチモード干渉導波路1の導波路幅L2よりも小さいことが好ましい。導波路幅L2は、屈折率導波構造のコアに相当する高屈折率部分とクラッドに相当する低屈折率部分との境界で定義され、一般に、1次モードの電界分布の2つのピークの間隔に対応するように設計される。従って、電極幅L1を導波路幅L2より小さく形成することによって、モード間の利得差がより拡大して、信号光Isの変調信号からプローブ光Ipへの転写効率を向上させることができる。
【0045】
本方式では、0次基本モードと1次モードの間のモード利得差を利用して波長変換を行っているため、両モード間の物質利得の縮退による相互利得変調が実現できる。加えて、0次基本モードのモード利得が1次モードのモード利得よりも高いことにより、0次基本モードと1次モードが光の進行方向に沿って異なる利得を受けるため、0次基本モードの信号光が微弱であっても、1次モードのプローブ光を強く消光させることが可能になる。そのため、必ずしも物質利得の強い変調を伴わなくても十分な消光比を得ることができ、利得回復時間による速度制約を原理的に受けにくくなり高速の光信号に対しても波形劣化なく波長変換することが可能となる。
【0046】
また、マルチモード干渉導波路1において、図4に示すように、0次基本モードの伝搬軸は直線状であるが、1次モードの伝搬軸は正弦波状に蛇行している。そのため導波路長L3は、0次基本モードと1次モードとのビート長の略整数倍に設定することが好ましい。ここでビート長は、0次基本モードと1次モードの位相差が丁度2πとなる導波路長で定義される。
【0047】
導波路長L3をビート長の略整数倍に設定した場合、マルチモード干渉導波路1と入射導波路2,3,4とが結合した部分、およびマルチモード干渉導波路1と出射導波路5,6,7とが結合した部分において、0次基本モードの伝搬軸と1次モードの伝搬軸とのなす角が最大となる。従って、各結合部分での入射導波路2,3,4の交差角度および出射導波路5,6,7の交差角度を大きく設定できるため、製造プロセスが容易になり、導波路の寸法精度を緩和できる。さらに、0次基本モードの信号光Isと1次モードのプローブ光Ipとの分離度が向上するため、波長変換光の消光比を高く維持できる。
【0048】
また、マルチモード干渉導波路1は、0次基本モードおよび1次モードだけでなく、2次以上の高次モードも導波可能なように設計可能であり、信号光Isおよびプローブ光Ipを任意の導波モードでそれぞれ伝搬させて、相互利得変調を実施することができる。しかしながら、マルチモード干渉導波路1の導波路幅L2は、0次基本モードおよび1次モードのみが導波可能で、2次以上の高次モードは導波しないように設計することが好ましい。2つの導波モードに限定することによって、物質利得の縮退度が強くなり、波長変換効率をより向上させることができる。
【0049】
本実施形態では、マルチモード干渉導波路1の長手方向に沿って複数の電極12,13,14を分割して配置しているため、各電極12,13,14へのキャリア注入量は互いに独立に制御可能である。従って、ストライプ状の利得領域において、光進行方向に沿った物質利得分布を変化させることができ、特定の導波モードに関する利得の増加または減少を選択的に制御できる。その結果、波長変換光の消光比を高めたり、波形整形機能を最適動作させることができる。
【0050】
また本実施形態では、エピタキシャル成長部8とエピタキシャル成長部9,10とは、別個の成膜プロセスを実施して、バットジョイント(突合せ)によって物理的に接合している。そのため、端面または接合面での内部反射による寄生発振が懸念される。特に、バットジョイント接合面においては、界面での不純物の拡散等による光学特性の不連続が発生しやすくなり、無視できない量の光学的反射が発生する可能性がある。
【0051】
その対策として、入射導波路2,3,4は、エピタキシャル成長部9の端面およびバットジョイント接合面に対して角度θで傾斜しており、出射導波路5,6,7も同様にエピタキシャル成長部10の端面およびバットジョイント接合面に対して角度θで傾斜しており、各端面または各接合面による反射戻り光を可能な限り低減している。
【0052】
図5は、バットジョイント接合面での反射戻り光の割合を示すグラフである。縦軸はエピタキシャル成長部8での導波モードに対する反射戻り光の割合(dB)で、横軸はバットジョイント接合面と光の進行方向との傾斜角度θ(度)である。
【0053】
このグラフを見ると、バットジョイント接合面に対して光の進行方向が垂直となる角度θ=0度のときの反射戻り光を基準値(0dB)として、角度θが増加すると、反射戻り光の割合は徐々に減少している。一般に、反射戻り光の割合が−20dB以下になると、マルチモード干渉導波路1での内部寄生発振が発生する可能性が少なくなる。そこで、傾斜角度θは、反射戻り光の割合が−20dBとなる24度以上に設定することが好ましく、これによりノイズ光を低減でき、波長変換光のS/N比を向上できる。
【0054】
実施の形態2.
図6は、本発明の第2実施形態を示す構成図である。上述した光波長変換器11の出射導波路5からは、入力された信号光Isの増幅光が出力されるため、別の用途への再利用が可能になる。本実施形態では、光波長変換器11とクロックパルス発生回路16とを組合せた例を示すが、クロックパルス発生回路16の代わりに各種の光回路を使用することができる。
【0055】
クロックパルス発生回路16は、あるクロック周波数で強度変調された信号光パルスからクロック光パルスを再生する機能を有する。光ファイバ15は、光波長変換器11の出射導波路5とクロックパルス発生回路16の入力とを光学的に結合して、信号光Isの増幅光を伝送する。光ファイバ17は、クロックパルス発生回路16の出力と光波長変換器11の出射導波路3とを光学的に結合して、再生されたクロック光パルスを伝送する。
【0056】
こうした構成により、光波長変換器11のプローブ光Ipとして、信号光Isのクロックに同期したクロック光パルスを使用することができる。そのため、プローブ光Ipを発生するための光源や光回路を別途設ける必要がなく、構成全体の簡素化を図ることができる。
【0057】
実施の形態3.
図7は、本発明の第3実施形態を示す構成図である。上述した光波長変換器11は、モノリシック集積された半導体チップで構成されており、チップ全体が温度制御素子18の上に搭載されている。
【0058】
温度制御素子18は、ペルチェ効果を利用した電子冷却素子や、加熱用のヒータ、冷却用の熱交換器などで構成され、光波長変換器11の温度制御を行う。温度センサ19aは、光波長変換器11と共に温度制御素子18の作用面に配置される。温度制御回路19は、温度センサ19aから出力される温度信号と基準値とを比較して、温度信号が安定になるように温度制御素子18を駆動する。
【0059】
光波長変換器11のマルチモード干渉導波路1における0次基本モードと1次モードの利得差は、0次基本モードで伝搬する信号光Isの波長λsが利得領域での物質利得のピーク波長と一致するときに最大となる。物質利得のピーク波長は、光波長変換器11の温度により変化させることができる。従って、入射する信号光Isの波長λsが変化した場合、波長λsに応じて上記の基準値を調整し、物質利得のピーク波長と入射する信号光Isの波長λsが一致するように光波長変換器11の少なくとも利得領域の温度を制御することによって、高い波長変換効率を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の第1実施形態を示す平面図である。
【図2】マルチモード干渉導波路1における光の電界分布を示すグラフである。
【図3】0次基本モードおよび1次モードのモード利得の波長依存性を示すグラフである。
【図4】光波長変換器11の動作を示す説明図である。
【図5】バットジョイント接合面での反射戻り光の割合を示すグラフである。
【図6】本発明の第2実施形態を示す構成図である。
【図7】本発明の第3実施形態を示す構成図である。
【図8】従来の光波長変換器の一例を示す構成図である。
【図9】従来の光波長変換器の他の例を示す構成図である。
【図10】利得回復時間の電流密度依存性の一例を示すグラフである。
【図11】従来の光波長変換器のさらに他の例を示す構成図である。
【符号の説明】
【0061】
1 マルチモード干渉導波路、 2,3,4 入射導波路、 5,6,7 出射導波路、 8,9,10 エピタキシャル成長部、 11 光波長変換器、 12,13,14 電極、 15,17 光ファイバ、 16 クロックパルス発生回路、 18 温度制御素子、 19 温度制御回路、 19a 温度センサ、 Is 信号光、 Ip プローブ光、 Op 波長変換光。




【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも0次基本モードおよび1次モードが同時に導波可能であって、0次基本モードの利得が1次モードより高くなるように設定された利得領域を有するマルチモード干渉導波路と、
マルチモード干渉導波路における0次基本モードと結合した第1入射導波路と、
マルチモード干渉導波路における1次モードと結合した第2入射導波路と、
マルチモード干渉導波路における0次基本モードと結合した第1出射導波路と、
マルチモード干渉導波路における1次モードと結合した第2出射導波路とを備え、
波長λsの信号光が第1入射導波路に入射し、波長λpのプローブ光が第2入射導波路に入射すると、信号光によって強度変調を受けた波長λpの波長変換光が第2出射導波路から出射されることを特徴とする光波長変換器。
【請求項2】
マルチモード干渉導波路の長さは、0次基本モードと1次モードとのビート長の略整数倍に設定されていることを特徴とする請求項1記載の光波長変換器。
【請求項3】
第1入射導波路と第2入射導波路との交差角度および第1出射導波路と第2出射導波路との交差角度は、0次基本モードの伝搬軸と1次モードの伝搬軸との最大交差角度と略一致していることを特徴とする請求項2記載の光波長変換器。
【請求項4】
マルチモード干渉導波路は、高屈折率部分および低屈折率部分を含む屈折率導波構造で構成され、高屈折率部分の幅より狭いストライプ状の利得領域を有することを特徴とする請求項1記載の光波長変換器。
【請求項5】
マルチモード干渉導波路は、0次基本モードおよび1次モードのみが導波可能であって、2次以上の高次モードは導波しないことを特徴とする請求項1記載の光波長変換器。
【請求項6】
マルチモード干渉導波路は、導波路の長手方向に沿って分割された複数の電極を有し、各電極からのキャリア注入によってストライプ状の利得領域が形成されることを特徴とする請求項1記載の光波長変換器。
【請求項7】
マルチモード干渉導波路ならびに各入射導波路および各出射導波路の一部が光増幅可能な材料によって形成される第1成膜部分と、
各入射導波路および各出射導波路の残部が透明な材料によって形成される第2成膜部分とを含み、
第1成膜部分と第2成膜部分とがバットジョイントによって接合されており、
各入射導波路および各出射導波路の光進行方向が、バットジョイント接合面に対して傾斜していることを特徴とする請求項1記載の光波長変換器。
【請求項8】
光進行方向とバットジョイント接合面とのなす角度θは、バットジョイント接合面による反射戻り光が第1成膜部分での導波モードに対して−20dBの割合となる角度θr以上に設定されていることを特徴とする請求項8記載の光波長変換器。
【請求項9】
第1の出射導波路から出射する波長λsの信号光は、外部の光回路へ伝送されて再利用されることを特徴とする請求項1記載の光波長変換器。
【請求項10】
少なくとも利得領域の温度を制御するための温度制御機構が設けられ、利得領域の利得ピーク波長が、信号光の波長λsと略一致していることを特徴とする請求項1記載の光波長変換器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2006−23467(P2006−23467A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−200629(P2004−200629)
【出願日】平成16年7月7日(2004.7.7)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成15年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「フォトニックネットワーク技術の開発事業」委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】