説明

光源推定装置および光源推定方法

【課題】マルチバンド撮影画像から、撮影時の光源の種類を簡易かつ高精度に推定する。
【解決手段】S501でマルチバンド撮影画像の全画素値を色温度空間へ射影し、S502で該射影結果に基づく色温度を推定する。次にS503で、S502で推定された色温度に基づいて、マルチバンド撮影画像の全画素値を波形空間へ射影する。そしてS504で、該射影結果に基づく波形を推定する。このように推定された色温度と波形により、マルチバンド撮影時の光源が推定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マルチバンド撮影画像から、撮影時の光源を推定する光源推定装置および光源推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年のデジタルイメージング技術の発達により、劣化や損傷が進む歴史的文化財や美術品等の映像をデジタル化して保存し、後世に継承することを目的とした、いわゆるデジタルアーカイブの気運が高まりつつある。デジタルアーカイブにおいてデジタル化される文化財の情報とは、主に色情報である。この場合の色情報としては、RGBやCMYKのような一般的な画像信号値から、可視波長の各波長での分光反射率のような高精度な色情報まで様々であるが、ここでは、高精度な色情報である分光反射率を取得する場合について説明する。
【0003】
現在では、被写体の分光反射率を取得するために、分光特性が異なる4種類以上のカラーフィルタを用いたマルチバンド撮影を行うマルチバンドカメラの開発が進んでいる。例えば、6種類以上のカラーフィルタを有するマルチバンドカメラを用いることによって、被写体である文化財の分光反射率を取得する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
上記のようなマルチバンドカメラ(例えば6バンドカメラ)によってマルチバンド撮影を行った場合、被写体の分光反射率が直接得られるわけではなく、実際に得られるデータは光源の情報を含んだ6次元データVである。そこで通常では、得られた6次元データVから、例えば可視波長380nm〜730nmを10nm間隔でサンプリングした36次元の分光反射率Rを推定している(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
ここで、分光反射率Rの推定方法について簡単に説明する。まず、6次元データVから、以下の式(1)に基づいて被写体の36次元の分光放射輝度Oを推定する。但し、式(1)においてLは光源の分光放射輝度を上記の波長域でサンプリングした36×36の行列である。式(1)から分かるように、分光放射輝度Oは光源の分光放射輝度Lを含むデータである。
【0006】
O=RL ・・・(1)
従って式(2)に示すように、式(1)で推定された分光放射輝度Oに対し、光源の分光放射輝度Lの逆行列を乗算することによって、分光反射率Rを算出することができる。
【0007】
R=OL-1 ・・・(2)
尚、この手法においては、撮影時の光源の分光放射輝度Lを分光測定器を用いて直接取得すれば良い。
【0008】
また、分光反射率Rを推定する他の手法として、撮影で得られる6次元データVに対し、光源の影響を除去するための変換行列Gを乗算することによって、分光反射率Rを推定する技術もある。式(3)に示すように、この変換行列Gは光源の種類に応じてi種類が用意されており、撮影シーンの光源に応じて選択される。
【0009】
R=VGi ・・・(3)
なお、この変換行列Giは、上記特許文献1に記載されたように、分光反射率Rが既知である被写体(色票など)を撮影シーンに置いてマルチバンド撮影し、得られた6次元データから光源の影響を除去するように作成する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2007−278950号公報
【特許文献2】特開2001−099710号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述したように、分光反射率Rを推定する際に利用される光源特性は、分光放射輝度(L)、または、変換行列を特定するための光源の種類(i)、である。しかしながら、これらの光源特性を取得するためには、それぞれ以下のような課題がある。
【0012】
まず、光源特性として分光放射輝度を取得する場合には、ワークフローの課題がある。例えば美術品等の文化財を撮影する際には、照明を当てることにより文化財が劣化してしまうおそれがあるため、長時間の撮影ができない場合がある。このような場合には、被写体に照射されるシーンの光源を測定器により測定する、あるいは、色票を用いて予備の撮影を行うことは避けるべきである。
【0013】
また、光源特性として光源の種類を取得する場合には、撮影画像から光源の種類を推定する必要があるが、この場合には推定精度の課題がある。例えば光源の色温度を推定する場合には、R(レッド)とB(ブルー)のバランスを調べるために、マルチバンド撮影によって得られた画像の全画素情報をRB空間や色差空間にプロットすることで、色温度を精度良く分類(推定)することができる。しかしながらこの場合、例えば光源として、太陽光、電球光、蛍光灯の分類ができたとしても、蛍光灯の種類(高演色・普通型・三波長等)までも分類することは困難であった。一方、蛍光灯の種類を分類するために、光源の波形を推定する方法が考えられる。しかしながら波形を分類する場合、太陽光と高演色蛍光灯のように分光形状が似ている光源を分類することは、マルチバンド撮影によっても困難であり、やはり波形を高精度に推定すること困難であった。
【0014】
光源の推定が正しく行われなかった場合、上記式(3)における最適な変換行列Giを取得することはできず、したがって、分光反射率Rも正しく推定されないという問題があった。
【0015】
本発明は上述した問題を解決するためになされたものであり、マルチバンド撮影画像から、撮影時の光源の種類を簡易かつ高精度に推定可能な光源推定装置および光源推定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するための一手段として、本発明の光源推定装置は以下の構成を備える。
【0017】
すなわち、互いに異なる分光特性を有する複数のフィルタを用いてマルチバンド撮影を行う撮像手段と、前記マルチバンド撮影によって得られた撮影画像を、その色温度の特徴を表す色温度空間に射影する色温度空間射影手段と、予め用意された複数の色温度情報のうち、前記色温度空間への前記撮影画像の射影結果に対する相関が最も高いものを、前記マルチバンド撮影時における光源の色温度情報として推定する色温度推定手段と、前記色温度推定手段で推定された色温度情報に応じた射影方法によって、前記撮影画像を、その波形の特徴を表す波形空間に射影する波形空間射影手段と、予め用意された複数の波形情報のうち、前記波形空間への前記撮影画像の射影結果に対する相関が最も高いものを、前記マルチバンド撮影時における光源の波形情報として推定する波形推定手段と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
上記構成からなる本発明によれば、マルチバンド撮影画像から、撮影時の光源の種類を簡易かつ高精度に推定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】第1実施形態におけるマルチバンドカメラの機能構成を示すブロック図、
【図2】カラーフィルタの特性例を示す図、
【図3】信号処理部の構成を示す機能ブロック図、
【図4】光源推定部の構成を示す機能ブロック図、
【図5】光源推定の全体処理を示すフローチャート、
【図6】色温度空間への射影処理を示すフローチャート、
【図7】色温度推定処理を示すフローチャート、
【図8】波形空間への射影処理を示すフローチャート、
【図9】波形推定処理を示すフローチャート、
【図10】分光反射率推定部の構成を示す機能ブロック図、である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。なお、以下の実施の形態は特許請求の範囲に関る本発明を限定するものではなく、また、本実施の形態で説明されている特徴の組み合わせの全てが本発明の解決手段に必須のものとは限らない。
【0021】
<第1実施形態>
●装置構成
図1は、本実施形態にかかる撮像装置としてのマルチバンドカメラの機能構成を示すブロック図である。同図において、100はレンズやシャッターなどにより構成される入光部、101は4種類以上のカラーフィルタ、102はセンサである。以下、本実施形態では計6種類の、それぞれが異なる分光透過率を持つカラーフィルタ101が配置されているものとして説明する。また、103はゲイン調整部(AGC)、104はA/D変換部、105は信号処理部、106はメディアI/F、107はD/A変換部、108は表示部、である。また、109はテレビであり、ケーブル等で接続された装置外部のディスプレイ装置である。110はPC・その他のメディアである。また、111はCPUであり、各構成の処理全てに関わる。112はROM、113はRAMであり、CPU111の処理に必要なプログラム、データ、作業領域等を格納する。114は操作部であり、ボタンやモードダイヤル等が該当し、これらを介して入力されたユーザ指示を受け取る。
【0022】
次に、図1に示す構成における撮像動作を説明する。まず、被写体からの光は入光部100及びカラーフィルタ101を介してセンサ102へ到達し、光電変換によって電気信号に変換される。センサ102で変換された電気信号は、ゲイン調整部103で予め設定されたゲイン値によりゲイン調整が行われる。ゲイン調整された電気信号が、A/D変換部104でデジタル信号に変換される。その後、変換されたデジタル信号は信号処理部105でデモザイキング、ノイズリダクション等の画像処理が行われ、画像データが生成される。なお、信号処理部105の詳細については図3を用いて後述する。
【0023】
信号処理部105によって生成された画像データは、D/A変換部107によって電流に変換され、表示部108、もしくはディスプレイ109に表示される。また、信号処理部105によって生成された画像データは、メディアI/F106を介してPC・その他メディア110に情報を格納する。
【0024】
ここで図2に、本実施形態のセンサ102に配置されている6種類のカラーフィルタ101の分光特性例を示す。同図において、ピーク波長の短い順に、第1のフィルタ201、第2のフィルタ202、第3のフィルタ203、第4のフィルタ204、第5のフィルタ205、第6のフィルタ206、である。
【0025】
図3に、信号処理部105の詳細構成を示す。同図において、301はデモザイキング部、302はノイズリダクション部、303は光源推定部、304は分光反射率推定部、305は色変換マトリクス部、306はガンマ処理部、である。
【0026】
以下、図3を用いて信号処理部105の構成および動作について詳細に説明する。尚、信号処理部105における動作は、実際にはRAM113に展開されたプログラムをCPU111が実行することによって実現される。
【0027】
信号処理部105へ入力された画像は、まずデモザイキング部301において、値を持たないプレーンに対して画素の補間を行うことでデモザイキング画像へ変換される。該生成されたデモザイキング画像は、ノイズリダクション部302でノイズの低減処理(ノイズリダクション処理)が行われた後、本実施形態の特徴的な構成である光源推定部303へ入力される。光源推定部303では、ノイズリダクション処理が施されたデモザイキング画像に基づいて撮影時の光源の特性を推定するが、その詳細については図4を用いて後述する。
【0028】
次に分光反射率推定部304において、ノイズリダクション処理が施されたデモザイキング画像と、光源推定部303で推定された撮影時の光源特性とに基づいて、被写体の分光反射率を推定し、分光画像を生成する。この分光反射率推定処理の詳細については図10を用いて後述する。
【0029】
分光反射率推定部304で生成された分光画像は、色変換マトリクス部305にてマトリクス演算による色変換が施され、その後、ガンマ処理部306にて階調変換が施されることによって、画像データとして出力される。
【0030】
●光源推定処理
図4に、光源推定部303の詳細構成を示す。同図において、401は色温度空間射影部、402は色温度推定部、403は波形空間射影部、404は波形推定部、である。
【0031】
以下、図4に示す構成による光源推定処理を、図5〜図9のフローチャートを用いて説明する。尚、これらのフローチャートに示す光源推定処理は、CPU111がプログラムを実行することによって実施される。
【0032】
図5は、光源推定処理の全体を示すフローチャートである。まずS501で色温度空間射影部401において、入力画像(デモザイキング画像)の全画素値を、色温度の特徴を表す色温度空間へ射影し、プロットする。この色温度空間への射影処理の詳細については、図6を用いて後述する。
【0033】
次にS502で色温度推定部402において、S501でプロットされた色温度空間の色温度を、予め用意された複数の色温度のいずれかとして推定する。この色温度推定処理の詳細については、図7を用いて説明する。
【0034】
次にS503で波形空間射影部403において、S502で推定された色温度に基づき、全画素値を波形の特徴を表す波形空間へ射影し、プロットする。この波形空間への射影処理の詳細については、図8を用いて説明する。
【0035】
そしてS504で波形推定部404において、S503でプロットされた波形空間の波形を、予め用意された複数の波形のいずれかとして推定する。この波形推定処理の詳細については、図9を用いて説明する。以上のように、S502で推定された色温度とS504で推定された波形が、マルチバンド撮影時の光源特性として取得され、すなわち光源が推定される。
【0036】
以下、図5のS501〜S504の各処理について詳細に説明する。
【0037】
まず、上記S501における色温度空間への射影処理について、図6のフローチャートを用いて説明する。まずS601において、ノイズリダクション部302で生成されるデモザイキング画像をRAM113に格納する。次にS602では、ROM112から、色温度の特徴を表すように作られた重み係数Waと、色温度空間へ射影するための変換マトリクスMaを取得する。ここで重み係数Waは式(4)に示す6×6の対角行列であり、センサ102に配置されたフィルタ特性に応じて、色温度の推定精度を向上させるように設定されている。
【0038】

【0039】
式(4)において、wa1〜wa6は重み係数であり、例えば、第1,第2,第4,第5のフィルタ201,202,204,205のみを用いる場合には以下のように設定される。すなわちこの場合、wa1=wa2=wa4=wa5=1とし、wa3=wa6=0とする。もしくは、RGB空間やCIEL*u*v*空間に変換するように重み係数を設定しても良い。
【0040】
また、色温度空間へ射影するための変換マトリクスMaを式(5)に示す。なお、式(5)においてa11〜a66はマトリクスの係数である。
【0041】

【0042】
次にS603では、以下の式(6)に示すマトリクス演算を行うことで、入力画像(デモザイキング画像)を色温度空間へ射影、すなわちプロットする。
【0043】
Sa=MaWaV ・・・(6)
式(6)において、Vは以下の式(7)に示すようなデモザイキング画像データであり、Saは色温度空間でのデモザイキング画像データ、である。
【0044】

【0045】
式(7)において、V1は1から画素数nまでの値を持つベクトルであり、V2〜V6に関しても同様である。
【0046】
以上の処理により、撮影画像(デモザイキング画像)の色温度空間への射影が行われる。
【0047】
次に、上記S502における色温度推定処理について、図7のフローチャートを用いて説明する。本実施形態では、色温度を3000K、4000K、5000K、6500Kのいずれかに分類するために、上記4種類の色温度についての情報(色温度情報)を、色温度データベースとして予めROM112に格納している場合を例として説明する。すなわち色温度データベース(以下、色温度DB)には、それぞれが4つの色温度に対応する4光源の色温度情報が保持されている。
【0048】
まずS701において、S501で色温度空間にプロットされた点の最外郭を選び、色域を作成する。そしてS702において、色温度空間における上記色域の内外判定を行い、内部であれば1、外部であれば0とするマトリクス(以下、内外マトリクスと称する)を作成する。尚、この内外判定は色温度空間の全ての座標に対して行っても良いし、空間を矩形に区切り、対象となる座標を削減した後に内外判定を行っても良い。次にS703において、S702で作成した内外マトリクスの係数の総和を取ることによって、色域の面積を算出する。
【0049】
次にS704において、光源数カウンタi、後の処理に必要となる変数maxに0を設定する等、各種パラメータの初期化を行う。そしてS705では、ROM112に格納されている色温度DBのi番目の光源と撮影画像の光源との相関係数Coriを、以下の式(8)により算出する。なお式(8)において、Siは色温度DBのi番目の光源の色域面積、STestは撮影画像の色域面積、ScoiはSiとSTestの重なった面積、である。
【0050】

【0051】
すなわち式(8)によれば、相関係数Coriとして、色温度DBに格納されたi番目の色温度情報についての、色温度空間で撮影画像が占める領域との重なり度合いが算出される。
【0052】
次にS706では、S705で算出した相関係数Coriの値が変数maxよりも大きいか否かを判定し、変数maxよりも大きければS707へ進むが、そうでなければS709へスキップする。
【0053】
S707では、相関係数Coriの値を変数maxに代入し、次にS708で、この時点での変数maxおよび光源数カウンタiの値をRAM113で保持する。
【0054】
そしてS709では、色温度DBの全ての光源について、相関係数Coriの算出を行ったか否かを判定し、全ての算出が終了していなければiに1を加算してS705に戻るが、終了していればS710へ進む。
【0055】
S710では、色温度DBの全ての光源のうち、相関係数Coriが最大となるものが特定され、その光源数カウンタiがRAM113に保持されている。したがって、RAM113から光源数カウンタiを読み込み、該カウンタiに対応する色温度を、光源の色温度としてRAM113に格納する。
【0056】
以上のように、色温度DBに予め用意された複数の色温度情報のうち、色温度空間への撮影画像の射影結果に対する相関(色温度空間において互いの占める領域の重なり度合い)が最も高いものが、撮影時光源の色温度情報として選択・推定される。
【0057】
次に、上記S503における波形空間への射影処理について、図8のフローチャートを用いて説明する。まずS801において、S502で推定された色温度をRAM113から読み取る。そしてS802では、S801で読み込んだ色温度kによって処理を分岐し、色温度k=3000KであればS803へ、k=4000KであればS805へ、k=5000KであればS807へ、色温度k=6500KであればS809へ、それぞれ進む。
【0058】
S803では、色温度ごとに作成された重み係数Wkと、波形空間へ射影するための変換マトリクスMkをROM112から読み取る。ここで重み係数Wkは、色温度が同じである異なる種類の光源について、分光放射輝度の差が大きい波長域を包含するフィルタほど大きい重みを付与するように、予め作成された6×6の対角行列である。重み係数Wkおよび変換マトリクスMkは、以下の式(9)で示される。ただし、添え字のkは色温度(この場合k=3000K)に対応する。
【0059】

【0060】
次にS804では、以下の式(10)に示すマトリクス演算を行うことによって、デモザイキング画像を3000Kの波形空間へ射影、すなわちプロットする。ただし、式(10)においてVはデモザイキング画像データ、Skは色温度空間でのデモザイキング画像データであり、kは3000K,4000K,5000K,6500Kのいずれかである。
【0061】
Sk=MkWkV ・・・(10)
以上、S803,S804により、k=3000Kである場合の波形空間への射影処理が行われる。同様に、S805,S806でk=4000K、S807,S808でk=5000K、S809,S810でk=6500Kである場合の波形空間への射影処理がそれぞれ行われる。
【0062】
以上の処理により、撮影画像(デモザイキング画像)の波形空間への射影が、推定された色温度に応じたパラメータに基づいて行われる。
【0063】
次に、上記S504における波形推定処理について、図9のフローチャートを用いて説明する。本実施形態における波形は、太陽光、電球光、蛍光灯(高演色・普通型・三波長)のような、特徴的な光源の波形の種類に分類されるものとする。そのために、太陽光、電球光、蛍光灯の波形についての情報(波形情報)を、波形データベースとして予めROM112に格納している場合を例として説明する。すなわち波形データベース(以下、波形DB)には、それぞれが異なる波形に対応する、複数光源の波形情報が保持されている。
【0064】
まずS901において、S503で波形空間にプロットされた点の最外郭を選び、色域を作成する。そしてS902において、波形空間における上記色域の内外判定を行い、内部であれば1、外部であれば0とする内外マトリクスを作成する。尚、この内外判定は波形空間の全ての座標に対して行っても良いし、空間を矩形に区切り、対象となる座標を削減した後に内外判定を行っても良い。次にS903において、S902で作成した内外マトリクスの係数の総和を取ることによって、色域の面積を算出する。
【0065】
次にS904において、光源数カウンタi、後の処理に必要となる変数maxに0を設定する等、各種パラメータの初期化を行う。そしてS905では、ROM112に格納されている波形DBのi番目の光源と撮影画像の光源との相関係数Coriを、上記式(8)により算出する。
【0066】
次にS906では、S905で算出したCoriの値が変数maxよりも大きいか否かを判定し、変数maxよりも大きければS907へ進むが、そうでなければS909へスキップする。
【0067】
S907では、Coriの値を変数maxに代入し、次にS908で変数maxおよび光源数カウンタiの値をRAM113に格納する。
【0068】
そしてS909では、波形DBの全ての光源について、相関係数Coriの算出を行ったか否かを判定し、全ての算出が終了していなければiに1を加算してS905に戻るが、終了していればS910へ進む。
【0069】
S910では、波形DBの全ての光源のうち、相関係数Coriが最大となるものが特定され、その光源数カウンタiがRAM113に保持されている。したがって、RAM113から光源数カウンタiを読み込み、該カウンタiに対応する波形を、光源の波形としてRAM113に格納する。
【0070】
以上のように、波形DBに予め用意された複数の波形情報のうち、波形空間への撮影画像の射影結果に対する相関(波形空間において互いの占める領域の重なり度合い)が最も高いものが、撮影時光源の波形情報として選択・推定される。
【0071】
以上のように光源推定部303によれば、マルチバンド撮影された画像(デモザイキング画像)から、撮影時の光源の色温度および波形タイプを推定し、その結果がRAM113に格納される。これによりすなわち、該推定された色温度および波形タイプに基づき、マルチバンド撮影時の光源が推定される。
【0072】
●分光反射率推定処理
図10に、分光反射率推定部304の詳細構成を示す。同図において、1001はデータ取得部、1002はマトリクス演算部である。以下、図10に示す構成による分光反射率推定処理について説明するが、この光源推定処理はCPU111がプログラムを実行することによって実施される。
【0073】
まずデータ取得部1001では、光源推定部303によりRAM113に格納された色温度と波形を読み取る。また、色温度および波形ごとに用意された分光反射率推定行列Gj(jは光源の種類)をROM112から読み取る。
【0074】
次にマトリクス演算部1002では、以下の式(11)によるマトリクス演算を行うことで、デモザイキング画像Vから被写体の分光反射率Refを算出する。なお、式(11)において、Vは上記式(7)によって示され、V1は1から画素数nまでの値を持つベクトルであり、V2〜V6に関しても同様である。また式(11)において、分光反射率Refは380nm〜730nmを10nm間隔でサンプリングした36次元のデータであるものとし、分光反射率推定行列Gjは36×6の要素を有する行列である。
【0075】

【0076】
以上のように分光反射率推定部304によれば、撮影画像の光源として推定された色温度および波形に基づいて最適な分光反射率推定行列Gjを選択することで、被写体の分光反射率を適切に推定することができる。
【0077】
以上説明したように本実施形態によれば、測定器等の機材を用いることなく、マルチバンド撮影画像からまず光源の色温度を推定し、該推定した色温度に基づいて光源の波形を推定することによって、高精度な光源推定が容易に可能となる。その結果、被写体の分光反射率を高精度に推定することができる。
【0078】
<変形例>
上記実施形態においては6種類のフィルタを用いる例を示したが、4種類以上のフィルタ数からなるシステムであれば、本発明は適用可能である。これは、主成分分析を用いた検討により、光源推定に適したフィルタを4種類以上用いれば、光源の推定を行うことが可能であることが確認されたためである。
【0079】
また上記実施形態においては、色温度DBとして、3000K、4000K、5000K、6500Kの4種類の色温度情報を格納する例を示した。しかしながら、予め格納される色温度情報はこの数に限らず、例えば7000Kや3800Kの光源が格納されていても良いし、例えば4000Kの光源が格納されていなくても良い。いずれの場合においても、色温度DBに格納されている色温度情報の種類が、色温度推定処理の際の分類候補となる。
【0080】
また上記実施形態においては、波形DBに太陽光・電球光・蛍光灯の波形情報を格納する場合を例として説明を行ったが、格納される波形情報についてはもちろんこの例に限らない。上記以外(例えばLED等)の波形情報をデータベースとして格納しても良いし、例えば電球光の波形情報を格納しなくても良い。いずれの場合においても、波形DBに格納されている波形情報の種類が、波形推定処理の際の分類候補となる。
【0081】
また上記実施形態においては、データベースに単一光源のデータを格納する例を示したが、単一光源に限らず、複数の光源による混合光源のデータを格納しても良い。
【0082】
また上記実施形態においては、カラーフィルタが1枚のセンサ上に配置される例を示したが、複数のセンサを備えたマルチバンドカメラにおいて、それぞれのセンサにカラーフィルタが配置されていても良い。その場合、撮影回数はフィルタの枚数と等しく行うことになるが、上記実施形態と同等の効果を得ることが可能である。
【0083】
<その他の実施形態>
また、本発明は、以下の処理を実行することによっても実現される。即ち、上述した実施形態の機能を実現するソフトウェア(プログラム)を、ネットワーク又は各種記憶媒体を介してシステム或いは装置に供給し、そのシステム或いは装置のコンピュータ(またはCPUやMPU等)がプログラムを読み出して実行する処理である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに異なる分光特性を有する複数のフィルタを用いてマルチバンド撮影を行う撮像手段と、
前記マルチバンド撮影によって得られた撮影画像を、その色温度の特徴を表す色温度空間に射影する色温度空間射影手段と、
予め用意された複数の色温度情報のうち、前記色温度空間への前記撮影画像の射影結果に対する相関が最も高いものを、前記マルチバンド撮影時における光源の色温度情報として推定する色温度推定手段と、
前記色温度推定手段で推定された色温度情報に応じた射影方法によって、前記撮影画像を、その波形の特徴を表す波形空間に射影する波形空間射影手段と、
予め用意された複数の波形情報のうち、前記波形空間への前記撮影画像の射影結果に対する相関が最も高いものを、前記マルチバンド撮影時における光源の波形情報として推定する波形推定手段と、
を有することを特徴とする光源推定装置。
【請求項2】
前記色温度推定手段は、前記予め用意された複数の色温度情報のうち、前記色温度空間において前記撮影画像の占める領域との重なり度合いが最も大きい色温度情報を、前記マルチバンド撮影時における光源の色温度として推定することを特徴とする請求項1に記載の光源推定装置。
【請求項3】
前記波形推定手段は、前記予め用意された複数の波形情報のうち、前記波形空間において前記撮影画像の占める領域との重なり度合いが最も大きい波形情報を、前記マルチバンド撮影時における光源の波形として推定することを特徴とする請求項1または2に記載の光源推定装置。
【請求項4】
前記波形空間射影手段は、前記撮影画像における各バンドごとに重みを付与して前記波形空間への射影を行い、
前記各バンドのうち、色温度が同じであり、かつ異なる種類の光源について分光放射輝度の差が大きいバンドほど、前記重みが大きいことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の光源推定装置。
【請求項5】
前記色温度空間射影手段および前記波形空間射影手段はそれぞれ、前記複数のフィルタの特性に応じて生成された変換マトリクスを用いた射影を行うことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の光源推定装置。
【請求項6】
前記波形空間射影手段は、前記色温度推定手段で推定された色温度情報に応じて前記変換マトリクスを選択することを特徴とする請求項5に記載の光源推定装置。
【請求項7】
さらに、前記色温度推定手段で推定された色温度及び前記波形推定手段で推定された波形に応じた推定行列を用いて、前記マルチバンド撮影された被写体の分光反射率を推定する分光反射率推定手段、を有することを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の光源推定装置。
【請求項8】
前記撮像手段は、互いに異なる分光特性を有する少なくとも4種類のフィルタを用いてマルチバンド撮影を行うことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の光源推定装置。
【請求項9】
互いに異なる分光特性を有する複数のフィルタを用いたマルチバンド撮影によって得られた撮影画像を、その色温度の特徴を表す色温度空間に射影する色温度空間射影ステップと、
予め用意された複数の色温度情報のうち、前記色温度空間への前記撮影画像の射影結果に対する相関が最も高いものを、前記マルチバンド撮影時における光源の色温度情報として推定する色温度推定ステップと、
前記色温度推定ステップにおいて推定された色温度情報に応じた射影方法によって、前記撮影画像を、その波形の特徴を表す波形空間に射影する波形空間射影ステップと、
予め用意された複数の波形情報のうち、前記波形空間への前記撮影画像の射影結果に対する相関が最も高いものを、前記マルチバンド撮影時における光源の波形情報として推定する波形推定ステップと、
を有することを特徴とする光源推定方法。
【請求項10】
コンピュータに、請求項9に記載の光源推定方法における各ステップを実行させるためのプログラム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2011−95110(P2011−95110A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−249477(P2009−249477)
【出願日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】