説明

光硬化型接着剤、光硬化型接着シート、接合体の製造方法及び光硬化型接着剤の硬化方法

【課題】接合部材の接着に用いられた場合に、接合部材と光硬化型接着剤の硬化物との接着界面に隙間が生じるのを抑制することができる光硬化型接着剤、及びそれを用いた光硬化型接着シートを提供する。
【解決手段】、光重合性化合物と、光が照射されると活性化され、前記光重合性化合物を重合させる光重合開始剤と、光重合開始剤を活性化させる光が照射されると分解し、気体を発生する化合物とを含む光硬化型接着剤2、及び該光硬化型接着剤2が基材3の少なくとも片面2aに積層されている光硬化型接着シート1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光が照射されると硬化される光硬化型接着剤に関し、より詳細には、接合部材の接着に用いられた場合に、接合部材と光硬化型接着剤の硬化物との接着界面に隙間が生じるのを抑制することができる光硬化型接着剤、並びにそれを用いた光硬化型接着シート、接合体の製造方法、及び光硬化型接着剤の硬化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光重合性化合物と、光重合開始剤とを含む光硬化型接着剤が、種々提案されている。光硬化型接着剤としては、光ラジカル重合を利用する光ラジカル重合型接着剤や、光カチオン重合を利用する光カチオン重合型接着剤が広く用いられている。
【0003】
上記光硬化型接着剤の一例として、下記の特許文献1には、光カチオン重合性化合物と、光カチオン重合開始剤と、熱や光などの刺激が与えられるとガスを発生するガス発生剤とを含む光カチオン重合型接着剤が開示されている。さらに、特許文献1には、光ラジカル重合性化合物と、光ラジカル重合開始剤と、上記ガス発生剤とを含む光ラジカル重合型接着剤も開示されている。
【0004】
また、上記光カチオン重合と光ラジカル重合との双方を利用する光硬化型接着剤も知られている。
【0005】
例えば、下記の特許文献2には、光カチオン重合性化合物としてのエポキシ樹脂と、光カチオン重合開始剤と、光ラジカル重合性化合物としてのアクリル系ポリマーと、光ラジカル重合開始剤とを含む光硬化型接着剤が開示されている。
【特許文献1】特開2006−188586号公報
【特許文献2】特開平9−279103号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1,2に記載の光硬化型接着剤では、光が照射されて、硬化された際に、硬化収縮することがあった。そのため、接合部材の接着に用いられた場合に、接合部材と光硬化型接着剤の硬化物との接着界面において、隙間が形成され易かった。特に、表面に凹凸を有する接合部材の接着に用いられた場合に、光硬化型接着剤が、表面の凹凸に対して充分に追従しないことがあった。そのため、凹凸部分において隙間が極めて生じ易かった。
【0007】
また、従来、表面に凹凸を有する接合部材の接着に際しては、上記隙間に、例えばホットメルト粘着剤を塗布していた。そして、加熱により、ホットメルト粘着剤を溶融させ、それによって上記隙間を埋めていた。この場合、ホットメルト粘着剤を塗布したり、加熱したりする余計な作業を行わなければならなかった。
【0008】
さらに、ホットメルト粘着剤を溶融させるために加熱した場合には、接合部材が熱劣化することがあった。従って、特許文献1,2に記載の光硬化型接着剤は、熱劣化し易い接合部材の接着に用いることができなかった。
【0009】
なお、上記特許文献1の光硬化型接着剤には、熱や光などの刺激が与えられるとガスを発生するガス発生剤が含有されている。しかしながら、このガス発生剤は、光重合開始剤を活性化させる光が照射されたときに、分解してガスを発生するものではなかった。従って、この光硬化型接着剤では、硬化に際し、ガス発生剤は分解せず、ガスは発生しない。ここでは、ガス発生剤は、接着後に剥離力を低めるための剥離成分として添加されているにすぎなかった。
【0010】
本発明の目的は、上述した従来技術の現状に鑑み、接合部材の接着に用いられた場合に、接合部材と光硬化型接着剤の硬化物との接着界面に隙間が生じるのを抑制することができる光硬化型接着剤、並びにそれを用いた光硬化型接着シート、接合体の製造方法、及び光硬化型接着剤の硬化方法を提供することにある。
【0011】
本発明のより限定的な目的は、表面に凹凸を有する接合部材の接着に用いられた場合に、表面の凹凸に対する追従性が高められており、従って凹凸部分に隙間が生じるのを抑制することができる光硬化型接着剤、並びにそれを用いた光硬化型接着シート、接合体の製造方法、及び光硬化型接着剤の硬化方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によれば、光重合性化合物と、光が照射されると活性化され、前記光重合性化合物を重合させる光重合開始剤と、前記光重合開始剤を活性化させる光が照射されると分解し、気体を発生する化合物とを含むことを特徴とする、光硬化型接着剤が提供される。
【0013】
本発明に係る光硬化型接着剤のある特定の局面では、前記光重合性化合物が光ラジカル重合性化合物であって、前記光重合開始剤が光ラジカル重合開始剤である。
【0014】
本発明に係る光硬化型接着剤の他の特定の局面では、前記光重合性化合物が光カチオン重合性化合物であって、前記光重合開始剤が光カチオン重合開始剤である。
【0015】
本発明に係る光硬化型接着剤のさらに他の特定の局面では、前記光重合性化合物は、光ラジカル重合性化合物と光カチオン重合性化合物とを含み、前記光重合開始剤は、光ラジカル重合開始剤と光カチオン重合開始剤とを含む。
【0016】
本発明に係る光硬化型接着シートは、本発明に従って構成された光硬化型接着剤が、基材の少なくとも片面に積層されていることを特徴とする。
【0017】
本発明に係る光硬化型接着シートのある特定の局面では、前記基材は発泡体とされている。
【0018】
また、本発明によれば、本発明に従って構成された光硬化型接着剤を接合部材に積層する工程と、前記光硬化型接着剤を前記接合部材に積層する前または後に、前記光硬化型接着剤に光を照射し、前記気体を発生する化合物の分解により気体を発生させ、かつ前記光重合性化合物を重合させて、前記光硬化型接着剤を硬化させることにより、前記光硬化型接着剤の硬化物と前記接合部材とを接合し、接合体を得る工程とを備えることを特徴とする、接合体の製造方法が提供される。
【0019】
さらに、本発明によれば、光を照射することにより、前記気体を発生する化合物の分解により気体を発生させるとともに、前記光重合性化合物を重合させることを特徴とする、光硬化型接着剤の硬化方法が提供される。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る光硬化型接着剤は、光重合性化合物と、光が照射されると活性化され、光重合性化合物を重合させる光重合開始剤と、光重合開始剤を活性化させる光が照射されると分解し、気体を発生する化合物とを含むため、光を照射することにより、次第に硬化させることができるとともに、気体を発生する化合物の分解により気体を発生させることができる。気体が発生すると、光硬化型接着剤は硬化収縮し難くなり、あるいは流動したり又は膨張したりする。従って、接合部材の接着に用いられた場合に、接合部材と光硬化型接着剤の硬化物との接着界面に隙間が形成されるのを抑制することができる。
【0021】
特に、表面に凹凸を有する接合部材の接着に用いた場合には、該表面の凹凸に対する追従性が高められ、従って凹凸部分に隙間が生じるのを抑制することができる。
【0022】
本発明に係る光硬化型接着シートでは、上記光硬化型接着剤が、基材の少なくとも片面に積層されているので、接合部材の接着に際し、取扱性及び作業性を高めることができる。
【0023】
本発明に係る接合部材の製造方法では、本発明に従って構成された光硬化型接着剤を接合部材に積層する前または後に、光硬化型接着剤に光を照射し、気体を発生する化合物の分解により気体を発生させ、光重合性化合物を硬化させ、硬化させることにより、光硬化型接着剤の硬化物と接合部材とを接合するので、光硬化型接着剤の硬化物と接合部材との接着界面に隙間が形成されるのを抑制することができる。
【0024】
また、本発明に係る光硬化型接着剤の硬化方法では、光を照射することにより、気体を発生する化合物の分解により気体を発生させるとともに、光重合性化合物を重合させるので、接合部材の接着に用いられた場合に、接合部材と光硬化型接着剤の硬化物との接着界面において隙間が形成されるのを抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の詳細を説明する。
【0026】
本発明に係る光硬化型接着剤は、光重合性化合物と、光が照射されると活性化され、光重合性化合物を重合させる光重合開始剤と、光重合開始剤を活性化させる光が照射されると分解し、気体を発生する化合物とを含有する。
【0027】
(光重合性化合物)
本発明に係る光硬化型接着剤に含まれている光重合性化合物は、光が照射されて活性化された光重合開始剤によって重合が誘発されれば、特に限定されない。
【0028】
上記光重合性化合物としては、例えば、光ラジカル重合性化合物、光カチオン重合性化合物が挙げられる。光ラジカル重合性化合物と光カチオン重合性化合物とは、いずれか一方のみが用いられてもよいし、併用されてもよい。
【0029】
上記光ラジカル重合性化合物としては、具体的には、例えば、分子内にラジカル重合性の不飽和結合を有するアクリル酸アルキルエステル系及び/又はメタクリル酸アルキルエステル系の重合性ポリマー、ラジカル重合性の多官能オリゴマー又はモノマーを主成分とするものが挙げられる。光ラジカル重合性化合物は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0030】
上記重合性ポリマーは、例えば、分子内に官能基を有する(メタ)アクリル系ポリマー(以下、官能基含有(メタ)アクリル系ポリマーともいう)を合成し、この官能基含有(メタ)アクリル系ポリマーと、分子内に上記官能基含有(メタ)アクリル系ポリマー中の官能基と反応する官能基とラジカル重合性の不飽和結合とを有する化合物(以下、官能基含有不飽和化合物ともいう)とを反応させることにより得ることができる。なお、本明細書において、(メタ)アクリルとは、アクリル又はメタクリルを意味する。
【0031】
上記官能基含有(メタ)アクリル系ポリマーとしては特に限定されないが、従来公知のものが挙げられ、例えば、アルキル基の炭素数が2〜18であるアクリル酸アルキルエステル及び/又はメタクリル酸アルキルエステルを主モノマーとし、この主モノマーと官能基含有モノマーと、更に必要に応じてこれらと共重合可能な他の改質用モノマーとを常法により共重合させることにより得られたもの等が挙げられる。
【0032】
上記官能基含有(メタ)アクリル系ポリマーの重量平均分子量の好ましい下限は20万、好ましい上限は200万である。
【0033】
上記官能基含有モノマーとしては特に限定されないが、例えば、アクリル酸、メタクリル酸等のカルボキシル基含有モノマー;アクリル酸ヒドロキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシエチル等のヒドロキシル基含有モノマー;アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル等のエポキシ基含有モノマー;アクリル酸イソシアネートエチル、メタクリル酸イソシアネートエチル等のイソシアネート基含有モノマー;アクリル酸アミノエチル、メタクリル酸アミノエチル等のアミノ基含有モノマー等が挙げられる。
【0034】
上記改質用モノマーとしては特に限定されないが、例えば、酢酸ビニル、アクリロニトリル、スチレン等の一般の(メタ)アクリル系ポリマーに用いられている各種のモノマーが挙げられる。
【0035】
上記官能基含有不飽和化合物としては、例えば、上記官能基含有(メタ)アクリルポリマーの官能基に応じて上述した官能基含有モノマーと同様のモノマーが用いられる。具体的には、例えば、官能基含有(メタ)アクリル系ポリマーの官能基がカルボキシル基の場合、エポキシ基含有モノマーやイソシアネート基含有モノマーが用いられ、上記官能基含有(メタ)アクリルポリマーの官能基がヒドロキシル基の場合、イソシアネート基含有モノマーが用いられ、上記官能基含有(メタ)アクリルポリマーの官能基がエポキシ基の場合、カルボキシル基含有モノマーやアクリルアミド等のアミド基含有モノマーが用いられ、上記官能基含有(メタ)アクリルポリマーの官能基がアミノ基の場合、エポキシ基含有モノマーが用いられる。
【0036】
上記ラジカル重合性の多官能オリゴマー又はモノマーの重量平均分子量は、1万以下が好ましい。光の照射による光硬化型接着剤の三次元網状化が効率よく進行するので、重量平均分子量は5000以下がより好ましい。また、分子内のラジカル重合性の不飽和結合の数の好ましい下限は2個であり、好ましい上限は20個である。
【0037】
このようなラジカル重合性の多官能オリゴマー又はモノマーとしては特に限定されないが、例えば、トリメチロールプロパントリアクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、1,4−ブチレングリコールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、市販のオリゴエステルアクリレート、又は、上述した官能基含有モノマー等が挙げられる。
【0038】
上記光カチオン重合性化合物としては、分子内に少なくとも1個の光カチオン重合性の官能基を有する化合物であればよく、特に限定されるものではない。光カチオン重合性化合物としては、分子内に少なくとも1個の水酸基、ビニルエーテル基、エピスルフィド基、エチレンイミン基、又はエポキシ基等の光カチオン重合性の官能基を有するカチオン重合性化合物が好ましい。なかでも、高い接着強度が得られるので、エポキシ基を有する光カチオン重合性化合物がより好ましい。
【0039】
上記光カチオン重合性化合物は、モノマー状化合物、オリゴマー状化合物、ポリマー状化合物及びこれらの混合物のいずれであってもよい。光カチオン重合性化合物は単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0040】
エポキシ基を有する光カチオン重合性化合物は、光カチオン重合性(開環重合性)に優れ、反応性も高い。そのため、硬化時間を短くすることができ、従って接合工程の短縮を図ることができる。
【0041】
上記エポキシ基を有する光カチオン重合性化合物としては特に限定されないが、例えば、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニルノボラック型エポキシ樹脂、トリスフェノールノボラック型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエンノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂;ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、2,2’−ジアリルビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ポリオキシプロピレンビスフェノールA型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂;グリシジルエーテル型エポキシ樹脂;グリシジルアミン型エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0042】
上記エポキシ基を有する光カチオン重合性化合物の他の例としては、エポキシ基含有モノマーやエポキシ基含有オリゴマーの付加重合体、例えば、エポキシ基含有ポリエステル樹脂、エポキシ基含有ポリウレタン樹脂、またはエポキシ基含有アクリル樹脂等が挙げられる。なお、硬化後に適度な柔軟性を付与するために、可撓性のエポキシ樹脂を用いてもよい。
【0043】
エポキシ基以外のカチオン重合性の官能基を有する光カチオン重合性化合物としては、特に限定されないが、例えば、1,4−ビス[(3−エチル−3−オキセタニルメトキシ)メチル]ベンゼン、1,4−ビス[(3−メチル−3−オキセタニルメトキシ)メチル]ベンゼン、3−メチル−3−グリシジルオキセタン、3−エチル−3−グリシジルオキセタン、3−メチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン、3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン、ジ{1−エチル(3−オキセタニル)}メチルエーテル等のオキセタン化合物が挙げられる。
【0044】
上記光ラジカル重合性化合物と、光カチオン重合性化合物とを併用する場合には、光ラジカル重合性化合物と光カチオン重合性化合物との割合は特に限定されない。好ましくは、光ラジカル重合性化合物と光カチオン重合性化合物との割合は99:1〜1:99である。より好ましくは、95:5〜5:95である。光ラジカル重合性化合物と光カチオン重合性化合物の割合を変えることにより、硬化後の接着剤を所望の硬さに調整することができる。
【0045】
(光重合開始剤)
上記光重合性化合物として光ラジカル重合性化合物を用いた場合には、光重合開始剤として光ラジカル重合開始剤が用いられる。
【0046】
上記光重合性化合物が光ラジカル重合性化合物であって、上記光重合開始剤が光ラジカル重合開始剤である場合には、短時間のうちに接着剤を硬化させることができる。
【0047】
上記光ラジカル重合開始剤とは、光が照射されると活性化され、ラジカル種を発生し、光ラジカル重合性化合物を重合させる光重合開始剤である。光ラジカル重合開始剤は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0048】
上記ラジカル重合開始剤としては、波長250〜800nmの光を照射することにより活性化される光ラジカル重合開始剤が挙げられる。具体的には、例えば、メトキシアセトフェノン等のアセトフェノン誘導体化合物;ベンゾインプロピルエーテル、べンゾインイソブチルエーテル等のベンゾインエーテル系化合物;ベンジルジメチルケタール、アセトフェノンジエチルケタール等のケタール誘導体化合物;フォスフィンオキシド誘導体化合物;ビス(η5−シクロペンタジエニル)チタノセン誘導体化合物、ベンゾフェノン、ミヒラーケトン、クロロチオキサントン、トデシルチオキサントン、ジメチルチオキサントン、ジエチルチオキサントン、α−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、又は2−ヒドロキシメチルフェニルプロパン等が挙げられる。
【0049】
また、上記光ラジカル重合開始剤としては、360nm以上の波長領域の光が照射されると活性化される光ラジカル重合開始剤が好ましく、また光カチオン重合開始剤へエネルギー移動を起こさない開裂型の光ラジカル重合開始剤が好ましい。このような光ラジカル重合開始剤としては、例えば4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ケトン、α−ヒドロキシ−α,α’−ジメチル−アセトフェノン、メトキシアセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン等のアセトフェノン系化合物;ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル等のベンゾイン系化合物;ベンジルメチルケタール等のケタール系化合物;ハロゲン化ケトン;アシルホスフィノキシド;アシルホスフォナート;ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフォナート;ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフォンオキサイド等が挙げられる。なかでも、360nm以上の波長領域の光に対する吸光係数が高いので、アシルホスフォノキシド、アシルホスフォナート、又はビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフォンオキサイドが特に好ましい。
【0050】
上記光ラジカル重合開始剤の配合割合は、光ラジカル重合性化合物100重量部に対して、0.001〜50重量部の範囲が好ましい。より好ましくは、0.01〜30重量部の範囲である。光ラジカル重合開始剤が少なすぎると、充分な硬化反応が起こらないことがあり、多すぎると、硬化速度は向上するが、光が照射されてから接着可能な時間すなわち可使時間が短くなりすぎることがある。
【0051】
上記光重合性化合物として光カチオン重合性化合物を用いた場合には、光重合開始剤として光カチオン重合開始剤が用いられる。
【0052】
上記光重合性化合物が光カチオン重合性化合物であって、光重合開始剤が光カチオン重合開始剤である場合、光を照射した後に、重合反応が暗反応で進行するので、光硬化型接着剤に予め光を照射してから、接合部材に貼り合わせることができる。従って、光が照射されると劣化する接合部材の接着に好適に用いることができる。また、光カチオン重合を利用した光硬化型接着剤は、凝集力や弾性率が高く、優れた接着強度、耐溶剤性、耐熱性、耐水性等の諸性能を発現する。
【0053】
上記光カチオン重合開始剤とは、光が照射されると活性化され、カチオン種を発生し、光カチオン重合性化合物を重合させる重合開始剤である。光カチオン重合開始剤は、イオン性光酸発生タイプの光カチオン重合開始剤、または非イオン性光酸発生タイプの光カチオン重合開始剤等が挙げられる。光カチオン重合開始剤は単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0054】
上記イオン性光酸発生タイプの光カチオン重合開始剤としては特に限定されず、例えば、芳香族ジアゾニウム塩、芳香族ハロニウム塩、芳香族スルホニウム塩等のオニウム塩類;鉄−アレン錯体、チタノセン錯体、アリールシラノール−アルミニウム錯体等の有機金属錯体類等が挙げられる。
【0055】
上記オニウム塩類の具体例としては、ルイス酸のジアゾニウム塩、ルイス酸のヨードニウム塩、またはルイス酸のスルホニウム塩などが用いられる。これらの化合物の具体例としては、例えば、四フッ化ホウ素のフェニルジアゾニウム塩、六フッ化リンのジフェニルヨードニウム塩、六フッ化アンチモンのジフェニルヨードニウム塩、六フッ化ヒ素のトリ−4−メチルフェニルスルホニウム塩、又は四フッ化アンチモンのトリ−4−メチルフェニルスルホニウム塩等が挙げられる。
【0056】
上記イオン性光酸発生タイプの光カチオン重合開始剤の市販品としては、例えば、商品名「アデカオプトマーSP150」、「アデカオプトマーSP170」(以上、ADEKA社製);商品名「UVE−1014」(ゼネラルエレクトロニクス社製);商品名「CD−1012」(サートマー社製)等が挙げられる。
【0057】
上記非イオン性光酸発生タイプの光カチオン重合開始剤としては、特に限定されないが、例えばニトロベンジルエステル、スルホン酸誘導体、リン酸エステル、スルホン酸誘導体、フェノールスルホン酸エステル、ジアゾナフトキノン、又はN−ヒドロキシイミドスルホナート等が挙げられる。
【0058】
上記光カチオン重合開始剤の配合割合は、光カチオン重合性化合物100重量部に対して、0.001〜50重量部の範囲が好ましい。より好ましくは、0.01〜30重量部の範囲である。光カチオン重合開始剤が少なすぎると、硬化反応が充分に進行せず、硬化速度が遅くなることがあり、多すぎると、硬化速度は向上するが、光が照射されてから接着可能な時間すなわち可使時間が短くなりすぎることがある。
【0059】
なお、本発明に係る光硬化型接着剤において、上記光重合性化合物が光ラジカル重合性化合物と光カチオン重合性化合物とを含む場合には、光重合開始剤には光ラジカル重合開始剤と光カチオン重合開始剤とが含まれる。
【0060】
光重合開始剤は光硬化型接着剤中に溶解されていてもよく、あるいは微粒子として光硬化型接着剤中に分散されていれもよい。また、貯蔵安定性に優れるとともに速やかに反応を開始できることからマイクロカプセルに光開始剤を内包させて、加熱や光照射によりマイクロカプセルが発泡するようにしてもよい。
【0061】
(気体を発生する化合物)
本発明に係る光硬化型接着剤には、上記光重合開始剤を活性化させる光が照射される分解し、気体を発生する化合物が含まれている。この気体を発生する化合物は、光硬化型接着剤の硬化に際し、分解されて、気体を発生する。
【0062】
上記気体を発生する化合物としては、例えば、2,2’−アゾビス−(N−ブチル−2−メチルプロピオンアミド)、2,2’−アゾビス{2−メチル−N−[1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル]プロピオンアミド}、2,2’−アゾビス{2−メチル−N−[2−(1−ヒドロキシブチル)]プロピオンアミド}、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、2,2’−アゾビス[N−(2−プロペニル)−2−メチルプロピオンアミド]、2,2’−アゾビス(N−ブチル−2−メチルプロピオンアミド)、2,2’−アゾビス(N−シクロヘキシル−2−メチルプロピオンアミド)、2,2’−アゾビス[2−(5−メチル−2−イミダゾイリン−2−イル)プロパン]ジハイドロクロライド、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾイリン−2−イル)プロパン]ジハイドロクロライド、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾイリン−2−イル)プロパン]ジサルフェイトジハイドロレート、2,2’−アゾビス[2−(3,4,5,6−テトラハイドロピリミジン−2−イル)プロパン]ジハイドロクロライド、2,2’−アゾビス{2−[1−(2−ヒドロキシエチル)−2−イミダゾイリン−2−イル]プロパン}ジハイドロクロライド、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾイリン−2−イル)プロパン]、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミダイン)ハイドロクロライド、2,2’−アゾビス(2−アミノプロパン)ジハイドロクロライド、2,2’−アゾビス[N−(2−カルボキシアシル)−2−メチル−プロピオンアミダイン]、2,2’−アゾビス{2−[N−(2−カルボキシエチル)アミダイン]プロパン}、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミドオキシム)、ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、ジメチル2,2’−アゾビスイソブチレート、4,4’−アゾビス(4−シアンカルボニックアシッド)、4,4’−アゾビス(4−シアノペンタノイックアシッド)、2,2’−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)等が挙げられる。なかでも、感光性がよく分解速度も速いことから、2,2’−アゾビス−(N−ブチル−2−メチルプロピオンアミド)、2,2’−アゾビス{2−メチル−N−[1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル]プロピオンアミド}、2,2’−アゾビス{2−メチル−N−[2−(1−ヒドロキシブチル)]プロピオンアミド}、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、2,2’−アゾビス[N−(2−プロペニル)−2−メチルプロピオンアミド]、2,2’−アゾビス(N−ブチル−2−メチルプロピオンアミド)、2,2’−アゾビス(N−シクロヘキシル−2−メチルプロピオンアミド)等のアゾアミド化合物が好ましい。
【0063】
上記気体を発生する化合物の配合割合は、光重合性化合物100重量部に対し、10〜100重量部の範囲が好ましい。より好ましくは、30〜90重量部の範囲である。気体を発生する化合物が少なすぎると、光硬化型接着剤が接合部材の接着に用いられた場合に、光硬化型接着剤の硬化物と接合部材との接着界面において隙間が形成され易くなり、特に表面に凹凸を有する接合部材の接着に用いられた場合に、該表面の凹凸に充分に追従せず、凹凸部分に隙間が生じ易くなる。気体を発生する化合物が多すぎると、照射された光が接着剤の深部まで到達せず硬化反応が極めて遅くなることがある。
【0064】
(他の成分)
本発明に係る光硬化性組成物には、上記光重合性化合物、上記光重合開始剤及び上記気体を発生する化合物に加えて、本発明の課題を阻害しない範囲で、他の添加剤を添加してもよい。
【0065】
このような添加剤としては、常温における表面粘着性(タック)や初期粘着力を向上させるための粘着付与樹脂や、充填剤、増量剤、揺変剤、軟化剤、可塑剤、安定剤、酸化防止剤、難燃剤、着色剤、磁性粉、熱伝導率の高い粒子、絶縁微粒子、熱膨張性マイクロカプセル又は有機溶剤等が挙げられる。
【0066】
上記粘着付与樹脂としては、特に限定されるものではないが、例えば、ロジン系樹脂、変性ロジン系樹脂、テルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂、芳香族変性テルペン樹脂、C5系又はC9系の石油樹脂、又はクマロンインデン樹脂等が挙げられる。これらの粘着付与樹脂は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0067】
上記磁性粉としては、フェライト磁性粉、ネオジム合金磁性粉などが挙げられる。磁性粉を含有させれば金属面に磁力により付着させることもできる。
【0068】
(光硬化型接着剤)
本発明に係る光硬化型接着剤は、特に限定されないが、例えば、ホモディスパー、ホモミキサー、万能ミキサー、プラネタリウムミキサー、ニーダー、又は三本ロール等の混合機を用いて、常温もしくは加温下で、必須成分である上記光重合性化合物と、上記光重合開始剤と、上記気体を発生する化合物と、必要に応じて添加される上記添加剤とを均一に混合することにより得ることができる。光硬化型接着剤は、光が遮断された環境で製造されることが好ましい。
【0069】
本発明に係る光硬化型接着剤は、液状接着剤であっても固形接着剤であってもよい。初期接着力を発現するまでの時間が短く接着面に流動し被着面への接触面積も大きくできることからホットメルト接着剤であってもよい。
【0070】
また、シート状に成形されていてもよい。光硬化型接着剤をシート状に成形する場合、光硬化型接着剤をホットメルト塗工やキャスト塗工などの公知の塗工方法により塗工し、シート状に成形すればよい。なお、シートには、フィルムやテープも含まれることとする。
【0071】
(光硬化型接着シート)
また、本発明の光硬化型接着剤は、基材の片面に積層され、光硬化型接着シートとして用いられてもよい。
【0072】
図1に、本発明の一実施形態に係る光硬化型接着シートを部分切欠正面断面図で示す。
【0073】
図1に示す光硬化型接着シート1では、本発明に従って構成された光硬化型接着剤2が、基材3の一方面3aに積層されている。ここでは、光硬化型接着剤は基材3の一方面3aにのみ積層されているが、光硬化型接着剤は基材3の一方面3aとは反対側の他方面3bにも積層されていてもよい。
【0074】
基材3に光硬化型接着剤2を積層する方法としては、特に限定されないが、例えば、基材3上に、光硬化型接着剤2をロールコート法、グラビアコート法、又は押出コート法等により塗工する方法が挙げられる。
【0075】
光硬化型接着剤2が固形状もしくは半固形状であったり、液状でも粘度が高く塗工が困難な場合には、粘度を低めるために、塗工に際し、熱溶融されてもよい。
【0076】
光硬化型接着シート1では、光硬化型接着剤2の基材3が積層されている面2aとは反対側の面2bに、離型シート4が積層されている。このように、光硬化型接着剤2の面2bには、離型シート4が積層されていることが好ましい。それによって、光硬化型接着剤2の面2bを露出させずに、保護することができる。
【0077】
基材3としては、特に限定されないが、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ナイロン、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイド、ポリスチレン、ポリアクリル、ポリ酢酸ビニル、トリアセチルセルロース、ジアセチルセルロース、又はセロハン等からなる基材が挙げられる。基材3の光硬化型接着剤2が積層される面3aは、離型処理されていることが好ましい。
【0078】
また、基材3として発泡体を用いてもよい。この場合、光硬化型接着シート1が接合部材の接着に用いられた場合に、接着後に振動が与えられたときに、剥離が生じるのを抑制することができる。
【0079】
また、基材3は着色されていてもよい。例えば基材の両面に光硬化型接着剤2が積層されており、かつ該基材が着色されている場合は、片面の光硬化型接着剤に光が照射されても、反対面に形成された光硬化型接着剤の硬化反応が開始されることがない。したがって、貼り合わせ作業に合せて片面の光硬化型接着剤ごとに硬化反応を開始させることができる。
【0080】
上記発泡体としては特に限定されないが、ポリエチレン発泡体、ポリプロピレン発泡体、ポリエステル発泡体又はポリウレタン発泡体等が挙げられる。
【0081】
離型シート4としては、前述の基材3と同様のものを用いることができる。
【0082】
基材3及び離型シート4の厚みは、0.1〜5mmの範囲が好ましい。より好ましくは0.5〜3mmである。厚みが薄すぎると、強度が低いため、断裂することがあり、厚すぎると、光硬化型接着シートを被着体の曲面部分に貼りつけにくくなることがある。
【0083】
光硬化型接着剤2の厚みは、0.1〜5mmの範囲が好ましい。より好ましくは、0.3〜3mmの範囲である。厚みが薄すぎると、充分な接着力が得られないことがあり、特に接合部材の表面に凹凸を有する接合部材の接着に用いられた場合などに、隙間が充分に埋められないことがある。厚みが厚すぎると、硬化時間が過度に長くなることがある。
【0084】
光硬化型接着剤2の常温(23℃)における表面接着性(タック)は、ボールタックで5以上であることが好ましく、より好ましくは10以上である。上記表面粘着性(タック)がボールタックで5未満であると、接合部材を接合する際の作業性が低下することがある。
【0085】
離型シート4は着色されていてもよい。着色されていることにより光硬化型接着剤が外部から遮光され貯蔵安定性を高めることができる。また、光硬化型接着シートがロール状に巻かれている場合は、ロール側面にもリング状の着色離型シートを被せてロール全体を遮光しておくことがより好ましい。
【0086】
また、光硬化型接着剤2の表面には、脱気性や離型シート4に対する離型性を高めることができるため、エンボス模様が形成されていてもよい。
【0087】
なお、本発明の光硬化型接着シートには、気体発生剤を含まない非発泡型の接着剤層が中間層あるいは表面層に形成されていてもよい。発泡型の接着剤層が中間層に形成されている場合は、中間層が接着面に加わる振動を効率よく吸収できる。
【0088】
(光硬化型接着剤の硬化方法)
本発明に係る光硬化型接着剤に光を照射することにより、気体を発生する化合物の分解により気体を発生させるとともに、光重合性化合物を重合させることができる。
【0089】
本発明に係る光硬化性接着剤の硬化方法は、光を照射することにより、気体を発生する化合物の分解により気体を発生させるとともに、光重合性化合物を重合させる、光硬化性接着剤の硬化方法である。
【0090】
(接合体の製造方法)
次に、図2(a)及び(b)を用いて、本発明の一実施形態に係る光硬化型接着シートを用いた場合の接合体の製造方法を説明する。
【0091】
先ず、光硬化型接着シート1の光硬化型接着剤2に離型シート4が積層されている場合には、光硬化型接着剤2から離型シート4を剥離し、光硬化型接着剤2を露出させる。
【0092】
次に、図2(a)に示すように、露出された面2b側から、光硬化型接着剤2を接合部材11に積層する。ここでは、光硬化型接着剤2が積層される表面に複数の凹部11aを有する接合部材11が用いられている。もっとも、表面が平坦な接合部材を用いてもよい。
【0093】
上記接合部材11としては特に限定されないが、例えばガラス、合成樹脂板、金属板、化粧合板、被覆塗装鋼板、又は各種銘板等が挙げられる。また、光を透過する部材であってもよい。光を透過する部材としては、例えば、グラスファイバーなどの透明な補強材を含有する透明樹脂板が挙げられる。
【0094】
光硬化型接着剤2が接合部材11に積層された後には、凹部11aに光硬化型接着剤2が埋められていない。従って、凹部11aにおいて隙間Xが形成されている。
【0095】
次に、光硬化型接着剤2に光を照射する。ここでは、光硬化型接着剤2を接合部材11に積層した後に、光が照射されているが、積層する前に光を照射してもよい。光硬化型接着剤2を接合部材11に積層した後に光を照射する場合には、基材3または接合部材11として光透過性の基材または光透過性の接合部材が用いられる。また、光硬化型接着剤2を接合部材11に積層する前に光を照射する場合には、光重合性化合物の重合が完了するまでに、また光硬化型接着剤の硬化が完了するまでに、光硬化型接着剤2が接合部材11に積層される。
【0096】
上記光としては、光硬化型接着剤に含まれる成分にもよるが、例えばマイクロ波、赤外線、可視光線、紫外線、X線、又はγ線などが挙げられる。なかでも、紫外線が好ましく、より好ましくは200〜400nmの紫外線である。
【0097】
上記紫外線を照射するための光源としては、例えば高圧水銀灯、超高圧水銀灯、ケミカルランプ、又はキセノンランプ等が挙げられる。
【0098】
光硬化型接着剤2に光が照射されると、上記気体を発生する化合物の分解により気体が発生するとともに、上記光重合性化合物が重合し、光硬化型接着剤2が次第に硬化される。このとき、光硬化型接着剤2中に気体が発生するが、それによって光硬化型接着剤2が硬化収縮し難くなり、あるいは流動したり又は膨張したりする。それによって、凹部11aにおいて形成されていた隙間Xが、光硬化型接着剤2により埋められていく。そして、図2(b)に示すように、光硬化型接着剤2の硬化が完了した後には、光硬化型接着剤が硬化された硬化物2Aと接合部材11とが接合される。そして、上記隙間Xが光硬化型接着剤の硬化物2Aにより埋められた接合体15が得られる。なお、光硬化型接着剤が硬化された硬化物2A中には、上記気体の発生により複数の気泡Yが含有される。
【0099】
このように、光硬化型接着剤2を表面に凹凸を有する接合部材11の接着に用いることにより、凹凸部分に隙間が生じるのを抑制することができる。また、光硬化型接着剤2が、表面が平坦な接合部材の接着に用いられた場合にも、硬化収縮が生じ難いので、光硬化型接着剤の硬化物と接合部材の界面に隙間が形成されるのを抑制することができる。
【0100】
さらに、接着に際し、加熱する必要がないので、光硬化型接着剤2は、熱が与えられると劣化する接合部材の接着にも用いることもできる。本発明に係る接合体の製造方法では、作業効率が高められ、かつ熱劣化する接合部材を用いることができるので、接合に際し、加熱しないことが好ましい。
【0101】
本発明に係る接合体の製造方法は特に限定されないが、例えば、接合部材としての板の端部を、別の接合部材としての部品に形成された凹部に嵌め込んで接合する:接合部材としての板の端部に、別の接合部材としての部品をかぶせるように嵌め込んで接合する:または接合部材としての継ぎ手に、接合部材としての部品を嵌め込んで接合するのに好適である。
【0102】
図3は、本発明の他の実施形態に係る接合体の製造方法により得られた接合体を示す正面断面図である。
【0103】
図3に示す接合体31では、第1の接合部材としての部品32に形成された凹部32aに、第2の接合部材としての板33の端部33aが嵌め込まれて、光硬化型接着剤の硬化物34により互いに接合されている。
【0104】
接合体31を得るに際しては、凹部32aに板33の端部33aを差し込む必要がある。そのため、板33の厚さよりも、凹部32aの幅は広くされている。接合に際して用いられる光硬化型接着剤は、光を照射されたときに硬化反応が開始するとともに気体を発生する化合物の分解により発泡するので、凹部32aと端部33aとの隙間が埋められる。従って、部品32と板33とを強固に接合させることができる。
【0105】
図3に示すように、部品32及び板33には突起は形成されていない。しかし、図4に示すように、部品32Aの凹部の内側面には、突起35が形成されており、かつ板33Aの端部の側面には、突起35とかみあって板33Aの離脱を防止する突起36が形成されていてもよい。部品32Aでは、突起35と突起36とが互いにかみあう部分の断面が、楔形状とされている。
【0106】
また、突起の形状は特に限定されず、図5に示すように、部品32Bの凹部の内側面には、断面がこぎり刃形状の突起37が形成されていてもよい。また、板33Bの端部の側面には、断面が円弧形状の突起38が形成されていてもよい。なお、突起37は、凹部の開口側にいくにつれて突出度合いが大きくされており、従って突起37の先端部分における凹部の幅は開口側にいくにつれて狭くされている。
【0107】
このように、第1の接合部材としての部品及び第2の接合部材としての板の少なくとも一方に、突起がかみあう部分の断面が楔形状あるいはのこぎり刃形状とされている「かえし」が形成されていることが好ましく、離脱防止構造が設けられていることが好ましい。離脱防止構造が設けられていることにより、板の脱落を防止することができるだけでなく、光硬化型接着剤が気体を発生する化合物の分解により発泡した際の圧力で、板が部品の凹部から浮き上がることを防止することができる。
【0108】
図6(a)は、本発明の別の実施形態に係る接合体の製造方法により得られた接合体を示す横断面図であり、図6(b)は、その接合体を得るに際して用いられる第1,第2の接合部材の斜視図である。
【0109】
接合体51では、第1の接合部材としての板53の端部53aに、横断面形状がU字状の第2の接合部材としての部品52がからかぶせられて、嵌め込まれている。そして板53と部品52とが光硬化型接着剤の硬化物54により互いに接合されている。接合に際して用いられる光硬化型接着剤は、光を照射されたときに硬化反応が開始するとともに気体を発生する化合物の分解により発泡するので、板53の端部53aと部品52の凹部52aとの隙間が埋められる。従って、板52と部品53とを強固に接合させることができる。
【0110】
なお、図6(b)に示すように、板53の端部53aの側面には、部品52の離脱や滑りを防止するための突起53bが形成されている。また、部品52の凹部52aの内面には、部品52の離脱や滑りを防止するための突起52bが形成されている。このように、板53及び部品52の少なくとも一方に離脱防止構造が設けられていることが好ましい。離脱防止構造が設けられていることにより、部品の脱落を防止することができるだけでなく、光硬化型接着剤が気体を発生する化合物の分解により発泡した際の圧力で、部品が板の端部から浮き上がることを防止することができる。
【0111】
第1の接合部材としての部品と、第2の接合部材としての板の接着面が平面である場合には、シート状の光硬化型接着剤あるいは光硬化接着シートを用いた方が、作業性が高められる場合がある。
【0112】
部品や板などの接合部材は、一体構造であっても複合体であってもよい。例えば、横断面形状がU字状の一体構造の部品を板の端部に嵌め込む場合は、部品の凹部の内面に、光反応型接着剤を塗布あるいは光反応型接着シートを貼り付けることにより積層する。しかる後、部品の凹部に板の端部を差し込み、部品で板の端部を挟んだ状態で光硬化型接着剤の硬化物により接合させればよい。
【0113】
なお、図7に示すように、横断面がL字状の接合部材61,62を用いることにより、横断面がU字状の一体構造の部品52と同様の構造を有する複合体を構成することができる。接合に際しては、接合部材61の端面に形成されている溝61aと、接合部材62の端面に形成されている突部62aとを接続させて、接合部材61,62を板の端部に向かい合わせになるようにかぶせて、取り付ければよい。接合部材を複合体とすれば、場合によっては効率よく接合部材を取り付けられることがある。
【0114】
また、横断面がU字状の一体構造の接合部材としての部品を得るに際しては、図8に示すように、横断面がL字状の接合部材65と、板状の接合部材66とを用いてもよい。接合に際しては、接合部材65の端面に形成されている溝65aと接合部材66の端部の側面に形成されている突部66aとを接続させて、接合部材65,66を板の端部に向かい合わせになるようにかぶせて、取り付ければよい。
【0115】
U字状の部品に限れば、図9(a)に示すように、他にもL字状の部材71,72がヒンジ73を軸として回転可能に接続されている接合部材を用いることもできる。部材71,72をヒンジ73を軸として回転させることにより、図9(b)に示すように、U字状の部品を得ることができる。
【0116】
継ぎ手に部品を嵌め込む作業では、継ぎ手を部品に嵌め込んだ後に、光硬化型接着剤が硬化される必要がある。本発明の光硬化型接着剤に光カチオン開始剤を含有させることにより、光照射後の暗反応でも反応を進行させることができるので、継ぎ手を部品に嵌め込んだ状態で光硬化型接着剤を硬化させ、強固な接着力を得ることができる。また、暗反応で硬化が進行するので接合した後しばらくは、接着面を動かしたり剥がしたりして再度貼り合わせ位置を決め直すこともできる。
【0117】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0118】
(実施例1)
窒素ガスでパージしたセパラブルフラスコ中で下記の配合表1に記載された材料を混合攪拌し、光重合性組成物を得た。
【0119】
配合表1
2−エチルヘキシルアクリレート 70g
ビニルピロリドン 30g
エポキシアクリレート 2g
エポキシ化合物(エピコート828、ジャパンエポキシレジン社製) 50g
ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキサイド(光ラジカル開始剤) 0.05g
光カチオン重合開始剤(オプトマ−SP−170、ADEKA社製)0.5g
得られた光重合性組成物100gに対して、酢酸エチル50g、2,2’−アゾビス−(N−ブチル−2−メチルプロピオンアミド)50gを加えて光重合性組成物の酢酸エチル溶液を調製した。
【0120】
不透明な離型PETフィルム上に光重合性組成物の酢酸エチル溶液を厚み300μmとなるように塗工し、溶剤を揮発させて光硬化型接着剤からなる感圧接着層を形成し、光硬化型接着シートを得た。次に、感圧接着層上に透明な離型PETフィルムを貼り付けた。しかる後、360nm未満の波長領域の光をカットする波長カットフィルタを取り付けた蛍光ランプを用いて、照射強度6mW/cmの紫外線を5分間、透明な離型PETフィルムの上から感圧接着層に照射した。
【0121】
透明な離型PETフィルムを剥がした後、365nmに最大発光波長を有する超高圧水銀灯を用いて、360nm未満の波長領域の照射強度が25mW/cmである紫外線を60秒間感圧接着層に照射した。
【0122】
感圧接着層は照射直後から膨張を始め直ちに発泡した接着層となった。ついで、光硬化型接着シートを20mm×20mmの大きさにカットし、発泡した接着層をステンレス板に貼り付けた。
【0123】
不透明な離型PETフィルムを剥がした後、該不透明な離型PETフィルムが剥がされた面から、360nm未満の波長領域の照射強度が25mW/cmである紫外線を60秒間接着層に照射した。ついで、20mm×20mmの大きさにカットされた厚さ3mmのガラス板を接着層に貼り付けた。24時間後にガラスとステンレス板をせん断方向に引っ張ったところ強固に接着していた。
【図面の簡単な説明】
【0124】
【図1】本発明の一実施形態に係る光硬化型接着シートを示す部分切欠正面断面図。
【図2】(a)及び(b)は、本発明の一実施形態に係る光硬化型接着シートを用いた場合の接合体の製造方法を説明するための各工程を示す部分切欠正面断面図。
【図3】本発明の他の実施形態に係る接合体の製造方法により得られた接合体を示す正面断面図。
【図4】接合体の変形例を示す正面断面図。
【図5】接合体の変形例を示す正面断面図。
【図6】(a)は、本発明の別の実施形態に係る接合体の製造方法により得られた接合体を示す横断面図であり、(b)は、(a)に示す接合体を得る際に用いられる第1,第2の接合部材を示す斜視図。
【図7】接合部材の変形例を示す斜視図。
【図8】接合部材の変形例を示す斜視図。
【図9】(a)及び(b)は、接合部材の変形例を示す斜視図。
【符号の説明】
【0125】
1…光硬化型接着シート
2…光硬化型接着剤
2A…光硬化型接着剤の硬化物
2a,2b…面
3…基材
3a…一方面
3b…他方面
4…離型シート
11…接合部材
11a…凹部
15…接合体
X…隙間
Y…気泡
31…接合部材
32,32A,32B…部品
32a…凹部
33,33A,33B…板
33a…端部
34…光硬化型接着剤の硬化物
35〜38…突起
51…接合体
52…部品
52a…凹部
52b…突起
53…板
53a…端部
53b…突起
61,62…接合部材
61a…溝
62a…突部
65,66…接合部材
65a…溝
66a…突部
71,72…接合部材
73…ヒンジ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光重合性化合物と、
光が照射されると活性化され、前記光重合性化合物を重合させる光重合開始剤と、
前記光重合開始剤を活性化させる光が照射されると分解し、気体を発生する化合物とを含むことを特徴とする、光硬化型接着剤。
【請求項2】
前記光重合性化合物が光ラジカル重合性化合物であって、前記光重合開始剤が光ラジカル重合開始剤である、請求項1に記載の光硬化型接着剤。
【請求項3】
前記光重合性化合物が光カチオン重合性化合物であって、前記光重合開始剤が光カチオン重合開始剤である、請求項1に記載の光硬化型接着剤。
【請求項4】
前記光重合性化合物が、光ラジカル重合性化合物と光カチオン重合性化合物とを含み、
前記光重合開始剤が、光ラジカル重合開始剤と光カチオン重合開始剤とを含む、請求項1に記載の光硬化型接着剤。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の光硬化型接着剤が、基材の少なくとも片面に積層されている、光硬化型接着シート。
【請求項6】
前記基材が発泡体である、請求項5に記載の光硬化型接着シート。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の光硬化型接着剤を接合部材に積層する工程と、
前記光硬化型接着剤を前記接合部材に積層する前または後に、前記光硬化型接着剤に光を照射し、前記気体を発生する化合物の分解により気体を発生させ、かつ前記光重合性化合物を重合させて、前記光硬化型接着剤を硬化させることにより、前記光硬化型接着剤の硬化物と前記接合部材とを接合し、接合体を得る工程とを備えることを特徴とする、接合体の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の光硬化型接着剤の硬化方法であって、
光を照射することにより、前記気体を発生する化合物の分解により気体を発生させるとともに、前記光重合性化合物を重合させることを特徴とする、光硬化型接着剤の硬化方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2009−185177(P2009−185177A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−26785(P2008−26785)
【出願日】平成20年2月6日(2008.2.6)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】