説明

光線路異常診断装置及び診断方法

【課題】接続替え作業を省略でき、異常発生位置(異常発生区間)を簡単な操作で効率的に把握でき、光線路の異常を検査するための全体の設備費を節減する。
【解決手段】1台の光線路異常診断装置13で、「光通信信号光強度測定」、「可視光出力」、「心線対照測定用光出力」、「光線路特性測定」の合計4つの検査項目を実施可能としている。
さらに、一つのレーザ光源(LD)24を「心線対照測定用光出力」と「光線路特性測定」とで共通に使用し、受光器29の受光感度(ゲイン)を変更することにより、この受光器29を、「光通信信号光強度測定」と「光線路特性測定」とで共通に使用している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通信局の伝送装置と各ユーザ宅の光端末とを光分岐器を介して光線路で接続した光通信ネットワークにおける光線路の異常を診断する光線路異常診断装置、及び光線路異常診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
通信局と各ユーザ宅とを光分岐器(PON; Passive Optical Network)を介して光ファイバ等の光線路で接続するFTTH(Fiber to the Home)方式の光通信ネットワークは、図7に示すように構成されている。
【0003】
例えば、通信事業者の通信局1内に設置された伝送装置2から出力された1.55μmの波長を有する下り光信号aは、光ファイバからなる光線路3を介して、例えばユーザ宅近傍に設置された電柱に取付けられた光分岐器4へ入射される。光分岐器4へ入射された伝送装置2からの下り光信号aは、複数の下り光信号aに分岐され、それぞれ光ファイバ等からなる各光線路5を介してそれぞれユーザ宅6へ入射される。各ユーザ宅6へ入射された下り光信号aはそれぞれの光端末(ONU; Optical Network Unit)7へ入射される。光端末7は入射された下り光信号aを電気信号cに変換して例えばPC等の各情報端末8へ送出する。
【0004】
各ユーザ宅6の情報端末8から出力された通信局1宛の電気信号cは、光端末7において、1.31μmの波長を有する上り光信号bに変換される。光端末7から出力された上り光信号bは、光線路5を経由して光分岐器4へ入射される。光分岐器4は光線路5から入射した各上り光信号bを合波して光線路3を介して通信局1へ送出する。通信局1内へ入力された1.31μmの波長を有する各上り光信号bは伝送装置2へ入射される。
【0005】
このような構成の光通信ネットワークにおける光分岐器4と各ユーザ宅6とを接続する光ファイバからなる各光線路5の中途位置には、光線路5どうしを機械的に挟み込むように接続するたメカニカルスプライス9が設けられている場合が多い。
【0006】
また、図8はユーザ宅6内の詳細構成を示す図である。光端末7は、例えば、光送受信部7aと光電変換部からなるインタフェース回路7bとで構成されている。光分岐器4からの光線路5はユーザ宅6内の光ファイバからなる光線路11の一端に接続され、この光線路11の終端がコネクタ12を介して光端末7に接続されている。一般に、光端末7内の光線路11の長さは、光端末7の設置位置がユーザ宅6内において変更になることを想定して、必要長さより長く設定されるので、図示するように、一定半径(曲率)以上で巻かれた状態で収納されている。さらに、この光線路11の中途位置に前述したメカニカルスプライス9が設けられている場合もある。
【0007】
このような構成の光通信ネットワークにおいて、例えば、一人のユーザから、自己のユーザ宅6の情報端末8において、通信局1の伝送装置2との間の情報通信が正常に実施できないとの連絡が、通信局1の管理者に入力したとする。
【0008】
通信局1の管理者は、先ず、通信局1側で、この情報通信が正常に実施できない原因の調査を行う。
【0009】
先ず、通信局1の伝送装置2を駆動して、伝送装置2との情報通信が正常に実施できないユーザ宅6の光端末7に対して通常の光通信信号を用いて折り返し試験を実施する。この折り返し試験が正常な場合、ユーザ宅6の情報端末8の異常と推定する。
【0010】
折り返し試験が異常な場合、情報通信が正常に実施できないユーザ宅6の光端末7、又は、通信局1とユーザ宅6の光端末7とを接続する光線路3、5、11、光分岐器4又はメカニカルスプライス9に異常が発生したと見なして、通信局1内に設けられた光パルス試験器(OTDR)から光パルスdを光線路3、5、11へ送出する。この光パルスdの波長は、前記光通信に使用される下り光信号aの波長1.55μm、及び上り光信号bの波長1.31μmより長い1.65μmに設定されている。
【0011】
そして、光パルス試験器は、光パルスdの後方散乱光及び各フレネル反射光からなる光線路3、5、11からの戻り光を受光し、この戻り光の光強度の時間変化すなわち通信局1からの距離変化の特性を示す光線路特性を得る。そして、この光線路特性における不連続部分の距離位置に異常が発生していると推定する。
【0012】
なお、光パルス試験器の詳細構成及び詳細動作は特許文献1に開示されている。
【0013】
次に、通信局1の管理者(試験実施者)は、ユーザ宅6側で、下記に示す、伝送装置2との情報通信が正常に実施できない原因の調査を行う。
【0014】
ユーザ宅6の光端末7に設けられている受光ランプの点灯の有無を調べる。
【0015】
図8に示すユーザ宅6における光線路11の終端のコネクタ12を光端末7から外して、この光線路11の終端のコネクタ12に、光パワー測定装置を接続して、この光パワー測定装置で、通信局1の伝送装置2からの光通信信号の光強度を測定する。光強度が正常の場合、ユーザ宅6の光端末7又は情報端末8の異常と推定する。
【0016】
図8に示すユーザ宅6における光線路11の終端のコネクタ12を光端末7から外して、この光線路11の終端のコネクタ12に可視光源装置を接続する。可視光源装置は、光線路11の終端から、光線路11、5、3へ例えば赤色等の可視光を入射する。試験実施者は、ユーザ宅6における光線路11のメカニカルスプライス9位置を含む各位置に赤色等の可視光が届いているか否かの状態を目視で観察して、異常箇所(異常発生範囲)の検査を行う。
【0017】
図8に示すユーザ宅6における光線路11の終端のコネクタ12を光端末7から外して、この光線路11の終端のコネクタ12に心線対照測定用光源装置を接続する。心線対照測定用光源装置は、光線路11の終端から、光線路11、5、3へ心線対照測定用光を入射する。試験実施者は、携帯型の心線対照器(IDテスタ)を光線路11、5、3の各位置に装着して、該当位置に心線対照測定用光が届いているか否かを把握して、異常発生範囲の検証を行う。
【0018】
図8に示すユーザ宅6における光線路11の終端のコネクタ12を光端末7から外して、この光線路11の終端のコネクタ12に光パルス試験器を接続する。そして、この光パルス試験器(OTDR)から光パルスを光線路11、5、3へ送出する。そして、光パルス試験器は、光線路11、5、3からの戻り光を受光し、この戻り光の光強度の時間変化すなわちユーザ宅6における光線路11の終端からの距離変化の特性を示す光線路特性を得る。そして、この光線路特性における不連続部分の距離位置に異常が発生していると推定する。
【0019】
そして、以上説明した原因の調査の結果、光線路11、5、3における異常発生位置が特定されると、異常に対する対策を実施する。具体的には、切断箇所の接続、異常発生区間の光線路の張り替え、屈曲部を元に戻す等の対策を講じる。
【特許文献1】特開2001−74598号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
しかしながら、上述した各手法で光通信ネットワークにおける光線路3、5、11の異常発生位置(異常発生区間)を調べる異常発検索方法においても、まだ改良すべき次のような課題があった。
【0021】
すなわち、通信局1内に設けられた光パルス試験器(OTDR)から光パルスdを光線路3、5、11へ送出して、光線路特性を測定する手法においては、得られた光線路特性には、光分岐器4で分岐された複数の光線路5、11からの戻り光の成分が合成された状態で入るので、どの光線路5、11に異常が生じているのかの判断がつきにくい。
【0022】
また、通信局1の伝送装置2との情報通信が正常に実施できないユーザ宅6側から、光線路11、5、3の異常発生位置(異常発生区間)を調べる方法においては、ユーザ宅6における光線路11の終端のコネクタ12を光端末7から外して、この光線路11の終端のコネクタ12に、光パワー測定装置を接続して光通信信号の光強度を測定する。
【0023】
この光強度の測定が終了すると、この光パワー測定装置を取り外して、代わりに、可視光源装置を接続する。目視検査が終了すると、可視光源装置を取り外して、代わりに、心線対照測定用光源装置を接続する。心線対照器を用いた検査が終了すると、心線対照測定用光源装置を取り外して、代わりに、光パルス試験器を接続して、ユーザ宅6側からの光線路特性を測定する。
【0024】
このように、各測定、各検査を実施する毎に、光線路11の終端のコネクタ12に必要な各光源装置、各測定装置、及び各試験器を接続し直す必要があり、さらに接続後の調整も必要となるので、光線路3、5、11の異常発生位置(異常発生区間)を調べる作業が非常に煩雑となり、検査作業能率が大幅に低下する。
【0025】
また、ユーザ宅6に多数の光源装置、測定装置、試験器を搬入する必要があるので、これらの搬入、撤去に多大の手間と時間を必要とした。
【0026】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、一つの装置内に、ユーザ宅側から通信局側の光線路の異常を検査するための受光器、複数の光源、複数の機能を組込むことによって、接続替え作業を省略でき、診断実施者にとって、異常発生位置(異常発生区間)を簡単な操作で効率的に把握でき、光線路の異常を検査するための全体の設備費を節減でき、かつ簡単にユーザ宅に持ち運ぶことができ、小型軽量化を図ることができる光線路異常診断装置、及び光線路異常診断方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0027】
本発明は、通信局の伝送装置から光端末までを光線路で接続した光通信システムにおいて用いられ、レーザ駆動回路により駆動されるレーザ光源から光線路に光パルスを出力し、光線路からの戻り光強度を測定して光線路特性を算出する光線路特性算出部を備えた光線路異常診断装置である。
【0028】
そして、この光線路異常診断装置においては、通信局の伝送装置から光線路を介して光端末へ送信される光通信信号を受けて、当該光通信信号の光強度がしきい値以上か否かを判定する光通信信号光強度測定手段を備えるとともに、レーザ光源は、光線路特性の測定停止時に、心線対照測定用光を出カする。
【0029】
このように構成された光線路異常診断装置においては、1台の光線路異常診断装置内に、通信局の伝送装置からの光通信信号の光強度を評価する光通信信号光強度測定手段と、心線対照測定用光を出力する心線対照測定用光出力手段と、光パルスの光線路特性を得る光線路特性測定手段(光パルス試験器の機能)とを備えている。
【0030】
そして、光線路異常診断装置を、例えば、光線路の終端に光端末に代えて接続した状態で、すなわち接続替えしない状態で、これらの各手段を順次実施可能とするために、レーザ光源を心線対照測定用光出力手段と光線路特性測定手段とで共通に使用し、受光器を光通信信号光強度測定手段と光線路特性測定手段とで共通に使用している。
【0031】
したがって、各異なる検査(測定)を実施する毎の接続替え作業を省略でき、診断実施者にとって、異常発生位置(異常発生区間)を簡単な操作で効率的に把握でき、光線路の異常を検査するための全体の設備費を節減できる。
【0032】
また、別の発明は、上述した光線路異常診断装置において、光線路特性の目視検査用の光として、可視光を光線路に出力する可視光源と、可視光源からの光とレーザ光源からの光とを、切り換えて光線路に出力する光切換器とを備えている。
【0033】
このように構成された光線路異常診断装置においては、この1台の光線路異常診断装置内に、上述した光線路異常診断装置の光通信信号光強度測定手段と、心線対照測定用光出力手段と、光線路特性測定手段(光パルス試験器の機能)に加えて、光線路へ可視光を目視検査用の光として出力する可視光出力手段が組込まれている。この可視光出力手段を、接続替えしない状態で実施可能とするために、この光線路異常診断装置内に可視光源が設けられている。
【0034】
したがって、先の発明の光線路異常診断装置とほぼ同じ作用効果を奏することが可能である。
【0035】
また、別の発明は、上述した光線路異常診断装置において、測定条件を入力する操作部と、光線路特性算出部と光通信信号光強度測定手段とレーザ駆動回路と可視光源駆動回路とに測定条件を設定するとともに、表示に関する制御を行う制御部とを備えている。
このように、操作部と制御部とを組込むことにより、操作性が向上する。
【0036】
また、別の発明は、通信局の伝送装置から光端末までを光線路で接続した光通信システムにおける前記光線路の異常を診断する光線路異常診断方法である。
【0037】
そして、この光線路異常診断方法においては、光線路の終端に光端末に代えて、前述した発明の光線路異常診断装置を接続するステップと、通信局の伝送装置から光線路を介して前記光端末へ送信される光通信信号を受けて、光通信信号の光強度がしきい値以上か否かを判定する光通信信号光強度測定ステップと、光線路に可視光を目視検査用の光として出力する可視光出力ステップと、光線路へ心線対照測定用光を出力する心線対照測定用光出力ステップと、可視光および心線対照測定用光の出力停止時に、光線路へ光パルスを出力し、前記光線路からの前記光パルスの戻り光強度を測定して、光線路特性を得る光線路特性測定ステップとを有している。
【0038】
このように構成された光線路異常診断方法においては、最初に、通信局の伝送装置からの光通信信号の光強度を測定する。そして、規定値以上の光通信信号が届いていない場合は、次に、光線路へ可視光を目視検査用の光として出力し、例えば、診断実施者がユーザ宅内の光線路を目視検査する。
【0039】
目視検査で明確に異常が確認できない場合は、次に、心線対照測定用光を出力する。診断実施者がユーザ宅内及びユーザ宅外の光線路の各位置に心線対照器を装着して、該当位置に心線対照測定用光が届いているか否かのを把握して、異常発生範囲の検証を行う。最後に、光パルスの光線路特性を行い、光線路特性上における前記特定された異常発生範囲内における正確な異常発生位置を特定する。したがって、効率的に正確な異常発生位置を特定できる。
【発明の効果】
【0040】
本発明の光線路異常診断装置及び光線路異常診断方法においては、一つの装置内に、ユーザ宅側から通信局側の光線路の異常を検査するための受光器、複数の光源、複数の機能を組込んでいる。
【0041】
したがって、接続替え作業を省略でき、診断実施者にとって、異常発生位置(異常発生区間)を簡単な操作で効率的に把握でき、光線路の異常を検査するための人件費や設備費などのコストを節減できるとともに、早期の光線路の障害の特定により、通信品質の維持・向上に寄与できる。さらに、小型軽量化によりユーザ宅への持ち運びも簡単になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0042】
以下、本発明の一実施形態を図面を用いて説明する。
【0043】
図1は、本発明の一実施形態の光線路異常診断方法が採用される光線路異常診断装置が適用される光通信ネットワークの概略構成を示す模式図である。図7に示す光通信ネットワークと同一部分には同一符号を付して重複する部分の詳細説明を省略する。
【0044】
図1においては、情報端末8と通信局1の伝送装置2との間の情報通信が正常に実施できないユーザ宅6における光線路11の終端のコネクタ12を光端末7から外して、この光線路11の終端のコネクタ12に、実施形態の光線路異常診断装置13が接続されている。
【0045】
図2は光線路異常診断装置13の概略構成を示すブロック図である。コンピュータからなる制御部14は、操作部15からの診断実施者が指示した測定条件や下記4つの検査項目に基づき、データ処理部16、タイミング発生部17、光切換器18、バイアス設定回路19、増幅器20の各動作を制御する。さらに、制御部14は、各検査項目を連動させて実施し、その測定結果を一覧表示または部分表示させることも可能である。
【0046】
検査項目1…光通信信号光強度測定
検査項目2…可視光出力
検査項目3…心線対照測定用光出力
検査項目4…光線路特性測定
レーザ光源(LD)24は、LD駆動回路23の駆動電流に基づき、1.31μm又は1.55μm波長の光を出力する。可視光源(VLD)26は、VLD駆動回路25の駆動電流に基づき、0.635μm又は0.650μm波長の赤色の連続する可視光を出力する。
【0047】
バイアス設定回路19で受光感度(ゲイン)が調整可能なAPD(アバランシェ・フォト・ダイオード)からなる受光器29は、前記光通信ネットワークからの戻り光を、この光線路異常診断装置13へ入射し、光カプラ28で分離された光を受光して電気信号に変換して、増幅器20へ送出する。増幅器20は電気信号を増幅して、A/D変換器22へ送出する。A/D変換器22は、電気信号をデジタルの電気信号に変換して、データ処理部16へ送出する。
【0048】
データ処理部16内には、検査項目1の「光通信信号光強度測定」における光通信信号光強度検出部30が設けられている。光通信信号光強度検出部30は、A/D変換器22から入力されたデジタルの電気信号の信号レベルを用いて光通信信号光強度を求め、御部14を介して表示器21に表示出力する。
【0049】
また、データ処理部16内には、検査項目4の「光線路特性測定」における光線路特性算出部31が設けられている。光線路特性算出部31は、A/D変換器22から入力されたデジタルの電気信号の時系列的な信号レベルを用いて図3に示す光線路特性39を算出し、制御部14を介して表示器21に表示出力する。
【0050】
タイミング発生部17は、光線路特性39を測定するための光パルスの発生タイミングの決定、A/D変換器22へのクロック信号の供給、心線対照測定用光の変調周波数の設定等を行う。
【0051】
次に、制御部14が各検査項目1〜4を実際に実施する場合の具体的手順の一例を順番に説明する。
【0052】
検査項目1…光通信信号光強度測定
制御部14は、LD駆動回路23、VLD駆動回路25を停止させて、この光線路異常診断装置13から光をコネクタ12を介してユーザ宅6内の光線路11に出力させない。この状態において、通信局1の伝送装置2から光線路3、5、11を介してユーザ宅6の光端末7へ送信される光通信信号を、光切換器18、光カプラ28を介して受光器29へ入射させる。受光器29で受光された光通信信号は、この受光器29で電気信号に変換され、増幅器20で増幅され、A/D変換器22でA/D変換され、データ処理部16内の光通信信号光強度検出部30で光通信信号光強度が算出される。そして、この算出された光通信信号光強度が規定値を満たすか否かが判定され、算出された光通信信号光強度及び判定結果が表示器21に表示出力される。
【0053】
検査項目2…可視光出力
制御部14は、LD駆動回路23を停止させた状態で、タイミング発生部17及びVLD駆動回路25を起動して、可視光源(VLD)26に0.635μm又は0.650μm波長の赤色の連続する可視光を出力させる。
【0054】
可視光出力の前に、制御部14により、光切換器18の設定を可視光源(VLD)26側に切り換えておく。可視光源(VLD)26から出力された赤色の可視光は、光切換器18、光カプラ28、コネクタ12を介して、光線路11、5、3へ出力される。
【0055】
診断実施者は、ユーザ宅6内における光線路11及びユーザ宅6近傍の光線路5のメカニカルスプライス9位置を含む各位置に赤色の可視光が届いているか否かの状態を目視で観察して、異常箇所(異常発生範囲)の検査を行う。
【0056】
検査項目3…心線対照測定用光出力
制御部14は、VLD駆動回路25を停止させた状態で、タイミング発生部17及びLD駆動回路23を起動して、レーザ光源(LD)24に1.31μm又は1.55μm波長の光からなる測定用光を出力させる。測定用光には、図4(a)の矩形波形の心線対照測定用光32、又は図4(b)の連続波形の心線対照測定用光32などを用いる。図4(a)の矩形波形の心線対照測定用光32の変調周波数fは、270Hz、1kHz、2kHz等が採用され、デユーティ比は50%が採用される。
【0057】
心線対照測定用光出力の前に、制御部14により、光切換器18の設定をレーザ光源(LD)24側に切り換えておく。
【0058】
レーザ光源(LD)24から出力された心線対照測定用光32は、光切換器18、光カプラ28、コネクタ12を介して、光線路11、5、3へ出力される。
【0059】
診断実施者は、図5(a)に示す携帯型の心線対照器(IDテスタ)33を光線路11、5、3の各位置に装着して、該当位置に心線対照測定用光32が届いているか否かを把握して、異常発生範囲の検証を行う。
【0060】
なお、心線対照器(IDテスタ)33は、図5(a)に示すように、光線路11、5、3を所定の曲率Rで曲げる曲げ具34と、曲げられた光線路11、5、3から漏れる心線対照測定用光32を検出する光検出回路35と、検出された心線対照測定用光32の光強度が規定値以上であることを判定する判定回路36と、判定結果を表示する表示器37とで構成されている。
【0061】
一般に光線路11、5、3は被覆されているので、心線対照器(IDテスタ)33の光線路11、5、3に対する装着位置は、図5(b)に示すように、光線路5、3を支持する電柱38上の被覆されていない位置とする。より具体的には、図5(b)に示すように、ユーザ宅6から近い電柱38の位置から順番に心線対照器(IDテスタ)33を装着していき、心線対照測定用光32が届いていない位置の手前の区間を異常発生範囲(区間)とする。
【0062】
検査項目4…光線路特性測定
制御部14は、VLD駆動回路25を停止させた状態で、タイミング発生部17及びLD駆動回路23を起動して、レーザ光源(LD)24に1.31μm又は1.55μm波長の光からなる、図3の光パルスeを一定周期で出力させる。
【0063】
光線路特性測定の前に、制御部14により、光切換器18の設定をレーザ光源(LD)24側に切り換えておく。
【0064】
レーザ光源(LD)24から出力された光パルスeは、光切換器18、光カプラ28、コネクタ12を介して、光線路11、5、3へ出力される。光パルスeの後方散乱光及びフレネル反射光からなる光線路11、5、3からの戻り光は、光切換器18、光カプラ28を介して受光器29へ入射される。受光器29で受光された戻り光は、この受光器29で電気信号に変換され、増幅器20で増幅され、A/D変換器22でA/D変換され、データ処理部16内の光線路特性算出部31へ入力される。
【0065】
光線路特性算出部31は、A/D変換器22から入力されたデジタルの電気信号の時系列的な信号レベルを用いて図3に示す光線路特性39を算出し、制御部14を介して表示器21に表示出力する。この光線路特性39は、戻り光の光強度の時間変化すなわちユーザ宅6における光線路11の終端からの距離L変化の特性を示す。
【0066】
そして、診断実施者は、図5(c)に示すように、表示された光線路特性39における検査項目3の「心線対照測定用光出力」にて特定した異常発生範囲(区間)を拡大して、より詳細な異常発生位置を特定する。
【0067】
なお、この光線路特性39においては、光線路11における光線路異常診断装置13のごく近傍位置(デッドゾーン)に生じた異常を検出することは困難である。さらに、図8に示すように、光線路11が巻かれた状態で収納されていた場合においては、異常位置の正確な距離位置を把握することは困難である。このような場合、他の検査項目1、2、3の結果と組み合わせて、正確な異常発生位置を特定する。
【0068】
図6は、ユーザ宅6における光線路11の終端のコネクタ12に接続された状態の光線路異常診断装置13の全体動作を示す流れ図である。
【0069】
光線路異常診断装置13が起動されると、表示器21に検査項目1の「光通信信号光強度測定」の開始を表示する(ステップS1)。診断実施者が操作部15を介して測定指示を入力すると(S2)、受光器(APD)29の受光感度(ゲイン)を光通信信号の光強度に調整する(S3)。そして、通信局1の伝送装置2からの光通信信号の光強度を測定し、光強度が規定値を満たすか否かを判定(S4)し、測定結果及び判定家結果を表示器21に表示出力する(S5)。
【0070】
診断実施者が操作部15を介して継続測定を指示すると(S6)、表示器21に検査項目2の「可視光出力」の開始を表示する(S7)。そして、VLD駆動回路25、可視光源(VLD)26を起動して、赤色の可視光を光線路11、5、3へ出力する(S8)。診断実施者は、ユーザ宅6における光線路11及びユーザ宅6近傍の光線路5の状態を目視で観察して、異常箇所(異常発生範囲)の検査を行う(S9)。
【0071】
診断実施者が操作部15を介して継続測定を指示すると(S10)、表示器21に検査項目3の「心線対照測定用光出力」の開始を表示する(S11)。そして、LD駆動回路23及びレーザ光源(LD)24を起動して、心線対照測定用光32を光線路11、5、3へ出力する(S12)。診断実施者は、心線対照器(IDテスタ)33を光線路11、5、3の各位置に装着して、該当位置に心線対照測定用光32が届いているか否かを把握して、異常発生範囲の検証を行う(S13)。
【0072】
診断実施者が操作部15を介して継続測定を指示すると(S14)、表示器21に検査項目4の「光線路特性測定」の開始を表示する(S15)。そして、受光器(APD)29の受光感度(ゲイン)を戻り光の光強度に調整する(S16)。LD駆動回路23及びレーザ光源(LD)24を起動して、光パレスeを光線路11、5、3へ出力する(S17)。受光器29で戻り光を受光(測定)し(S18)、光線路特性算出部31が光線路特性39を算出して表示器21に表示出力する(S19)。
【0073】
このように構成された光線路異常診断装置13においては、1台の光線路異常診断装置13で、「光通信信号光強度測定」、「可視光出力」、「心線対照測定用光出力」、「光線路特性測定」の4つの検査項目を実施可能である。
【0074】
また、一つのレーザ光源(LD)24を「心線対照測定用光出力」と「光線路特性測定」とで共通に使用し、受光器29の受光感度(ゲイン)を制御部14からの指示で変更することにより、この受光器29を、「光通信信号光強度測定」と「光線路特性測定」とで共通に使用している。
【0075】
したがって、各異なる検査(測定)を実施する毎の接続替え作業を省略でき、診断実施者にとって、異常発生位置(異常発生区間)を簡単な操作で効率的に把握でき、光線路11,5、3の異常を検査するための全体のコストを節減できる。
【0076】
さらに、このように構成された光線路異常診断方法においては、図6の流れ図に記載したように、最初に、検査項目1における通信局1の伝送装置2からの光通信信号の光強度を測定する。そして、ユーザ宅6へ規定値以上の光通信信号が届いていない場合は、光線路11、5、3側に異常があると判断し、次に、検査項目2における光線路11、5、3へ可視光を目視検査用の光として出力し、診断実施者がユーザ宅6内及びユーザ宅6近傍の光線路11、5を目視検査する。
【0077】
目視検査で光線路11、5に明確に異常が確認できない場合は、次に、検査項目3における心線対照測定用光32を光線路11、5、3へ出力する。診断実施者がユーザ宅6内及びユーザ宅6外の光線路11、5、3の図5(b)に示す各位置に心線対照器33を装着して、該当位置に心線対照測定用光32が届いているか否かを把握して、異常発生範囲の検証を行う。
【0078】
最後に、検査項目4における光パルスの戻り光測定を行い、図5(c)で示すように、光線路特性39上における検査項目3で特定された異常発生範囲内における正確な異常発生位置を特定する。
【0079】
このように、「光通信信号光強度測定」、「可視光出力」、「心線対照測定用光出力」、「光線路特性測定」の4つの検査項目を、1〜4の項目順に実行することにより、効率的に正確な異常発生位置を特定できる。
【0080】
なお、途中で、正確な異常発生位置を特定できると、これ以降の検査項目の実行を中止することが可能である。
【0081】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではない。
本実施形態では、可視光と心線対照測定用光とを、光切換器18によりどちらかを選択して、光線路11、5に出力する場合を記載したが、光切換器18を光合波器に置き換えて、可視光と心線対照測定用光とを光線路11、5に同時に出カすることで、保守作業者が可視光の伝達状態を目視検査する。そして、障害を発見した時には、再度ユーザ宅6に戻り、心線対照測定用光につなぎかえることなく、心線対照器33を使って故障の様子をさらに詳細に調べることができる。
【0082】
また、本実施形態では、光端末(たとえば、光加入者装置(Optical Network Unit ;ONU))がユーザ宅6内に設置されているネットワーク、FTTH(Fiber To The Home)の場合について説明したが、FTTC(Fiber To The Curb)、FTTB(Fiber To The Building)の場合についても適用できる。
【0083】
さらに、本発明は、SS(Single Star)のように伝送装置とユーザ宅とをそれぞれ1対1に接続する通信方式についても応用できる。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】本発明の一実施形態の光線路異常診断方法が採用される光線路異常診断装置が適用される光通信ネットワークの概略構成を示す模式図
【図2】同実施形態の光線路異常診断装置の概略構成を示すブロック図
【図3】同実施形態の光線路異常診断装置が行う光線路特性測定を示す図
【図4】同実施形態の光線路異常診断装置から出力される心線対照測定用光を示す図
【図5】心線対照器の構造と使用法の説明図
【図6】同実施形態の光線路異常診断装置の全体動作を示す流れ図
【図7】一般的な光通信ネットワークの概略構成を示す模式図
【図8】同光通信ネットワークにおけるユーザ宅内の概略構成図
【符号の説明】
【0085】
1…通信局、2…伝送装置、3,5,11…光線路、4…光分岐器、6…ユーザ宅、7…光端末、8…情報端末、9…メカニカルスプライス、12…コネクタ、13…光線路異常診断装置、14…制御部、15…操作部、16…データ処理部、17…タイミング発生部、18…光切換器、19…バイアス設定回路、20…増幅器、21…表示器、22…A/D変換器、23…LD駆動回路、24…レーザ光源(LD)、25…VLD駆動回路、26…可視光源(VLD)、28…光カプラ、29…受光器、30…光通信信号光強度検出部、31…光線路特性算出部、32…心線対照測定用光、33…心線対照器(IDテスタ)、39…光線路特性

【特許請求の範囲】
【請求項1】
通信局の伝送装置から光端末までを光線路で接続した光通信システムにおいて用いられ、レーザ駆動回路(23)により駆動されるレーザ光源(24)から前記光線路に光パルスを出力し、前記光線路からの戻り光強度を測定して光線路特性を算出する光線路特性算出部(31)を備えた光線路異常診断装置であって、
前記通信局の伝送装置から前記光線路を介して光端末へ送信される光通信信号を受けて、当該光通信信号の光強度がしきい値以上か否かを判定する光通信信号光強度測定手段(29、20、22、30)を備えるとともに、
前記レーザ光源は、前記光線路特性の測定停止時に、心線対照測定用光を出カする
ことを特徴とする光線路異常診断装置。
【請求項2】
前記光線路特性の目視検査用の光として、可視光を前記光線路に出力する可視光源(26)と、
当該可視光源からの光と前記レーザ光源からの光とを、切り換えて前記光線路に出力する光切換器(18)と
を備えたことを特徴とする請求項1記載の光線路異常診断装置。
【請求項3】
測定条件を入力する操作部(15)と、
前記光線路特性算出部と前記光通信信号光強度測定手段と前記レーザ駆動回路と可視光源駆動回路(25)とに前記測定条件を設定するとともに、表示に関する制御を行う制御部(14)と
を備えたことを特徴とする請求項2記載の光線路異常診断装置。
【請求項4】
通信局の伝送装置から光端末までを光線路で接続した光通信システムにおける前記光線路の異常を診断する光線路異常診断方法であって、
前記光線路の終端に前記光端末に代えて、請求項1から3のいずれか1項記載の光線路異常診断装置を接続するステップと、
前記通信局の伝送装置から前記光線路を介して前記光端末へ送信される光通信信号を受けて、前記光通信信号の光強度がしきい値以上か否かを判定する光通信信号光強度測定ステップと、
前記光線路に可視光を目視検査用の光として出力する可視光出力ステップと、
前記光線路へ心線対照測定用光を出力する心線対照測定用光出力ステップと、
前記可視光および前記心線対照測定用光の出力停止時に、前記光線路へ光パルスを出力し、前記光線路からの前記光パルスの戻り光強度を測定して、光線路特性を得る光線路特性測定ステップと
を有することを特徴とする光線路異常診断方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−71602(P2006−71602A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−258688(P2004−258688)
【出願日】平成16年9月6日(2004.9.6)
【出願人】(000000572)アンリツ株式会社 (838)
【Fターム(参考)】