説明

光触媒基材

【課題】接着性が良好であり、かつ、基材の劣化を防ぐことができ、さらには表面にエンボス加工を施すことが可能な光触媒樹脂基材を提供する。
【解決手段】オレフィン系樹脂を含む樹脂基材上に接着層、プライマー層、光触媒層がこの順に積層されるとともに、接着層にウレタン系樹脂が含まれる光触媒樹脂基材とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対汚染性に優れ且つ表面にエンボス加工を施すことが可能な、光触媒層を有する樹脂基材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、二酸化チタン光触媒を用いた有機物の分解及び抗菌防臭材が注目を集めている。二酸化チタンは光触媒としての機能を有しており、有機物や窒素酸化物などの分解及び抗菌防臭作用を持つ。その機能は半導体である二酸化チタンが光、特に紫外線を照射すると生じる電子とホールに起因するものである。すなわち、半導体である二酸化チタンはバンドギャップ以上のエネルギを持つ光を照射すると、電子とホールを生成する。生成した電子とホールは二酸化チタン表面に吸着した水を分解してHラジカルとOHラジカルを生成する。このOHラジカルが有機物と反応することにより、有機物を分解することができる。このため、光触媒を用いれば、抗菌、防臭材として有機物を分解して環境浄化に有効な材料を得ることができ、このような光触媒は、金属やセラミックスやガラス等の無機系基材上に塗布・積層され、窓や壁等の建築資材や、道路用資材をはじめとして、電子機器のハウジング等の産業用資材に至るまで、幅広い分野において供給されてきた。
【0003】
しかしながら、基材を合成樹脂等の有機系のものとしたときは、光触媒層を基材に接着させる際、焼結等の高温処理を施すことが不可能なため、加熱により基材を溶融させることなく光触媒層を接着する必要があった。また合成樹脂基材上にプライマー層を積層しようとしても、プライマーが基材表面ではじかれ、均一に塗布できず、光触媒層と基材とを接着できない問題があった。さらに、光触媒層に含まれる酸化チタンの影響によって、基材が分解され、劣化することのないように保護する必要があった。これらのことから、無機系基材とは異なり、樹脂基材上に光触媒を積層することは困難であった。かかる問題を解決するため、特許文献1には、光触媒層と基材との間に、有機系接着剤層と無機系保護層(プライマー層)とを備えることで、表面の光触媒層中の二酸化チタン等による劣化が殆どなく、接着性が良好で光触媒層の剥離が皆無に等しい合成樹脂性複合成形体が開示されている。また特許文献2では、光触媒層と有機系接着剤層と無機系保護層(プライマー層)とを一体化し、これを転写フィルムとして基材上に重ねて加熱加圧することで、接着性を向上させている。
【0004】
【特許文献1】特開2001−239607号公報
【特許文献2】特開2001−260597号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように特許文献1、2では、合成樹脂基材上に有機系接着剤層と無機系保護層(プライマー層)と光触媒層とが、この順に積層された構造を有することで、基材の劣化を防ぐことができ、接着性が良好な合成樹脂性複合成形体(光触媒基材)としている。しかしながら、このように、基材と光触媒層と無機系保護層(プライマー層)との間に接着剤層を設けると、接着剤層が硬すぎて、合成樹脂基材の特徴の一つである柔軟性が失われ、エンボス加工を施す際、基材表面にうまく凹凸をつけることが困難であり、また、接着剤層が割れてしまうという問題があった。かかる問題から、プライマー層及び光触媒層と樹脂基材層との相性が良く、乾燥しても硬くなりすぎない、柔軟性に富む接着剤層が求められていた。さらに、エンボス加工が必要な壁紙や金属化粧鋼板等の用途に対しては、合成樹脂のうち、特に耐薬品性、柔軟性、耐汚染性、コストに優れたオレフィン系樹脂を含む樹脂基材への光触媒コートが望まれている現状があった。
【0006】
そこで、本発明は、オレフィン系樹脂を含む樹脂基材の上に光触媒層が積層された光触媒樹脂基材であって、接着性が良好であり、かつ、基材の劣化を防ぐことができ、さらにはエンボス加工を施すことが可能な光触媒樹脂基材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以下、本発明について説明する。なお、本発明の理解を容易にするために添付図面の参照符号を括弧書きにて付記するが、これにより本発明が図示の形態に限定されるものではない。
【0008】
本発明は、オレフィン系樹脂を含む樹脂基材(10)の上に接着層(20)、プライマー層(30)、光触媒層(40)がこの順に積層されるとともに、接着層がウレタン系樹脂を含み、表面にエンボス加工が施されることを特徴とする光触媒樹脂基材(100)である。
【0009】
本発明のプライマー層(30)はシリカとアクリル樹脂とを含むことが好ましい。プライマー層にかかる物質が含まれることで、光触媒層(40)の光触媒機能を基材(10)に影響させない、良好なブロック性を有し、さらに、エンボス加工に適した柔軟性を有する光触媒樹脂基材(100)とすることができる。
【0010】
本発明のプライマー層(30)はアクリル変性シリコンを含むことが好ましい。プライマー層にかかる物質が含まれることで、接着層(20)と光触媒層(40)とをさらに強固に接着することができ、エンボス加工を施しても、剥離しない光触媒樹脂基材(100)とすることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の光触媒樹脂基材100は、基材10がオレフィン系樹脂を含み、エンボス加工が必要な壁紙や金属化粧鋼板等の用途に適した光触媒樹脂基材100である。また、基材10上に接着層20、プライマー層30、光触媒層40がこの順に積層された構造を有するため、光触媒効果による基材10の劣化を防ぐことができ、かつ、接着性が良好な光触媒基材100とすることができる。さらに接着層20がウレタン系樹脂を含むため、接着が困難な樹脂基材10上であっても、光触媒層40及びプライマー層30と基材10とを、良好に接着することができる。また、接着層20がシリコン変性ウレタンを含むことによって、また、プライマー層30がシリカとアクリル樹脂とを含むことによって、さらにプライマー層30が、アクリル変性シリコンを含むことによって、エンボス加工を施しても剥離することのない接着性、エンボス加工を施すことができる柔軟性、及び基材に対する光触媒作用を与えない十分なブロック性、全てを備えた、光触媒樹脂基材100とすることができる。従って、本発明の光触媒樹脂基材100は、表面にエンボス加工を施すのに適した光触媒樹脂基材である。
【0012】
このような作用及び利得は、次に説明する発明を実施するための最良の形態から明らかにされる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下本発明を図面に示す実施形態に基づき説明する。以下の説明では、オレフィン系樹脂を含む樹脂基材10上に、接着層20とプライマー層30と光触媒層40とが、この順に積層された平面形態を例示するが、本発明は当該形態に限定されるものではなく、曲面、凹凸面等であってもよい。
【0014】
<光触媒樹脂基材100>
図1に本発明の光触媒樹脂基材100の層構成を模式的に示す。本発明の光触媒樹脂基材100は、オレフィン系樹脂を含む基材10上に接着層20、プライマー層30、及び光触媒層40がこの順に積層されて構成され、エンボス加工付与に適した接着剤、プライマーを含む。
【0015】
(基材10)
基材10はオレフィン系樹脂を含む樹脂基材である。オレフィン系樹脂としては、ポリエチレン、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ボリブテンなどのポリオレフィン、オレフィンと該オレフィンとを共重合し得るコモノマー(ビニルエステル、不飽和カルボン酸エステルなど)との共重合体等が挙げられる。また、基材において、前記オレフィン系樹脂を基材層の全質量に対して、50%以上、好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上含有していれば、他の熱可塑性樹脂等を含んでも良い。樹脂基材にオレフィン系樹脂が含まれることで、表面に凹凸形状パターンを施すエンボス加工が必要な壁紙や金属化粧鋼板等の用途に適した基材10とすることができる。
【0016】
樹脂基材10の厚みとしては、エンボス加工付与に適した厚みであれば、特に限定はされないが、7μm〜50μmであることが好ましい。7μmよりも薄いと、光触媒を塗布後、フィルムがカールしたり、加工中に破れたりする場合がある。50μmよりも厚いと、壁紙として硬くなる為に施工性が悪くなる場合がある。また、エンボス加工の際、微細な意匠が表現できない場合があり、さらには、材料費もかかるため、品質性、経済性に劣る場合もある。
【0017】
(接着層20)
接着層20はオレフィン系樹脂を含む樹脂基材10とプライマー層30との間に積層され、オレフィン系樹脂を含む樹脂基材10とプライマー層30とを接着する機能を有する。また、接着層20は乾燥後であっても柔軟性を維持するという特性を有する。このことにより光触媒樹脂基材100はエンボス加工を施しても、接着層20が割れることなく、良好な仕上がりとなる。
【0018】
接着層20には、ウレタン系樹脂が含まれる。ウレタン系樹脂は、樹脂基材10、プライマー層30、双方に対して接着性が良好である。このことにより従来オレフィン系樹脂を含む樹脂基材10上に、積層困難であったプライマー層30及び光触媒層40を積層することができる。また、ウレタン系樹脂を含む接着層20は、乾燥後であっても、柔軟性を維持することができ、エンボス加工付与に適した接着層20とすることができる。また接着層20にはシリコン変性ウレタンが含まれることが好ましい。シリコン変性ウレタンが含まれることで、接着層20とプライマー層30とをより強固に接着することができる。
【0019】
接着層20に含まれるウレタン系樹脂は、接着層20全体を100質量%として、20質量%〜80質量%、より好ましくは、25質量%〜75質量%である。接着層20に含まれるウレタン樹脂が少なすぎると、樹脂基材10とプライマー層30とを十分に接着することができなくなる場合があり、また、多すぎるとプライマー層との相性が悪くなる場合がある。
【0020】
接着層20に含まれるシリコン変性ウレタンは、接着層20全体を100質量%として、20質量%〜80質量%、より好ましくは、25質量%〜75質量%である。接着層20に含まれるシリコン変性ウレタンの量が上記範囲内であれば、基材10とプライマー層30とを、より良好に接着することができる。シリコン変性ウレタンの含有量が多すぎると基材との接着性が損なわれる場合がある。
【0021】
接着層20に含まれるウレタンは、前記ウレタン樹脂とシリコン変性ウレタン樹脂を混合してもよい。前記ウレタン樹脂とシリコン変性ウレタン樹脂を混合する場合には、ウレタン樹脂とシリコン変性ウレタンの割合は、質量比で、20:80〜80:20 、このましくは30:70〜70:30、さらに好ましくは40:60〜60:40である。
【0022】
接着層20の厚みとしては、1μm〜10μmであることが好ましく、2μm〜7μmであることがさらに好ましい。1μmより薄いと、十分な接着性が得られない場合がある。また、10μmよりも厚いと、柔軟性を阻害し、エンボス加工を施しにくくなる場合があり、さらには、接着性の向上もほとんどみられず、材料費が無駄となるため、経済性にも劣る場合がある。
【0023】
(プライマー層30)
プライマー層30は接着層20と光触媒層40との間に積層される。プライマー層30により光触媒効果が遮断されるため、光触媒層40が樹脂基材10自体を酸化分解するといった悪影響を及ぼすことはない。また、プライマー層30は、接着層20と光触媒層40とを安定的に接着させる機能も備えている。
【0024】
プライマー層30には、シリカとアクリル樹脂とが含まれることが好ましい。プライマー層30にかかる物質が含まれることで、接着層20と光触媒層40とをより強固に接着することができる。シリカとアクリル樹脂との比は、プライマー層30中に、層全体を100質量%として、質量比換算にてシリカが5〜25質量%、アクリル樹脂が75〜95質量%含まれることが好ましい。このような含有量とすることで、接着層20及び光触媒層40、双方に相性が良いプライマー層30とすることができ、エンボス加工を付与しても、剥離等の劣化がない、十分な強度をもった光触媒樹脂基材100とすることができる。
【0025】
プライマー層30にはシリカ及びアクリル樹脂以外にも、プライマーとして、光触媒作用を基材10側に影響させず、また、接着層20と光触媒層40とを安定的に接着させる機能を備えるものを含ませることが好ましい。具体的にはアクリル変性シリコン、アルコキシシラン、シリコン変性アクリル、アクリルチタネート等を含有する組成物から形成されるものがよく、特にアクリル変性シリコンを含有するものが好ましい。かかる物質を含むプライマー層30は、接着層20、光触媒層40、双方に対して、より良好な接着性を示す。
【0026】
プライマー層30の厚さは、0.01μm〜5μmであることが好ましく、0.05μm〜2μmであることがさらに好ましい。0.01μmより薄いと、十分な接着性能を得ることが出来無い事と、光触媒による酸化分解反応から基材層を保護するブロック性がない。また、5μmより厚くしても、ブロック性の向上が殆どみられず、材料の無駄となり、経済性の観点から好ましくない。
【0027】
(光触媒層40)
光触媒層40には光触媒粒子と好ましくはバインダーとが含まれており、プライマー層30に積層され、光触媒層40表面は外気にさらされる。光触媒層40に含まれる光触媒としては、たとえば二酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化鉛、酸化第二鉄、三酸化二ビスマス、三酸化タングステン、チタン酸ストロンチウム等の金属酸化物を挙げることができ、中でも二酸化チタンが、無害で化学的に安定しておりかつ安価であるため好ましい。二酸化チタンとしては、アナターゼ型二酸化チタン、ルチル型二酸化チタン、ブルッカイト型二酸化チタンのいずれも使用できる。この中でも、光触媒反応の高活性なアナターゼ型二酸化チタンを主成分とするものが好ましいが、これらのうちの2種類以上を含んでいても良い。
【0028】
光触媒粒子の粒径は、特に限定はされないが、動的散乱測定法による平均粒径が好ましくは、1nm〜500nm、さらに好ましくは3nm〜300nmの範囲内である。粒径は必ずしも単一である必要はなく、粒径分布のピークが2以上あってもよい。
【0029】
光触媒層40には、上述の通り、バインダーが含まれていることが好ましい。バインダーは光触媒層40中の光触媒を安定的に存在させる効果を有する。また光触媒層40をプライマー層30と強固に接着させる機能も有する。本発明に用いられるバインダーとしては、光触媒粒子を安定させ、光触媒層40とプライマー層30とを良好に接着できるものであれば特に限定はされないが、ジルコニア、アモルファス型酸化チタン、過酸化チタン、アルコキシシラン、アクリル変性シリコン、アルキルチタネートのうちの少なくとも一種類を含むものが好ましい。この中でも特に、アルコキシシラン、中でもテトラアルコキシシラン、その中でもテトラメトキシシラン、テトラエトキシシランのうちの少なくとも一種類を含むものが好ましい。バインダーをかかる物質とすることで、接着性が良好である光触媒層40とすることができる。
【0030】
光触媒層40中における、光触媒粒子とバインダーとの含有比率は、光触媒粒子に対してバインダーが10質量%以上、60質量%未満となるように含有されることが好ましい。バインダーが多すぎると、光触媒活性が十分でなくなり、また、バインダーが少なすぎると、光触媒粒子同士の接着性および、光触媒層40とプライマー層30との接着性が悪くなるため好ましくない。
【0031】
光触媒層40の厚さは、0.05μm〜5μmであることが好ましく、0.1μm〜2μmであることがさらに好ましい。0.05μmより薄いと、十分な光触媒活性を得ることができない場合がある。また、5μmより厚くすると、塗工スピードが落ちる場合があり、さらには、光触媒活性の向上もほとんどなく、触媒コストが悪化する場合がある。
【0032】
プライマー層30に含まれる、アクリル変性シリコン、シリコン変性アクリル、シリカ等のSiと光触媒層40に含まれるバインダーとは、プライマー層30と光触媒層40との界面において、互いに引きつけ合い、シロキサン結合(Si−O−Si)を形成して架橋するものが好ましい。当該結合を形成することで、光触媒層40とプライマー層30とは強固に結合することとなり、剥離等の層の劣化を抑えることができる。
【0033】
<光触媒樹脂基材の製造方法>
上記の接着層20、プライマー層30、光触媒層40の積層方法は、所定の厚みで積層できる方法であれば、特に限定はされない。具体的には、接着層20、プライマー層30、光触媒層40を塗布するためのコート液をそれぞれ作製し、グラビアコート、スプレーコート、ディップコート等の方法を用いて、基材10上に、接着層20、プライマー層30、光触媒層40を順に積層していく方法が挙げられる。また、剥離フィルム上に、光触媒層40、プライマー層30、接着層20をこの順に積層し、一体化したのち、基材10上に転写し、加熱加圧処理して、基材10上に一体化された各層を積層する方法でもよい。
【0034】
上記コート液の組成及び濃度は、特に限定はされず、目的に応じて、適宜調整すればよい。また、コート液の溶剤としては、水、有機溶媒等が挙げられるが、特に限定はされない。乾燥時間等を考慮し、適宜決定すればよい。具体的には、水、有機溶媒としてメチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール等の一価低級アルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール等の多価アルコール類及びそれらのエステルであるセルソルブ、酢酸エチル、メチルイソブチルケトン、イソブタノール、メチルエチルケトン、トルエン、キシレン等を使用できる。
【0035】
また光触媒コート液を作製する際は、粒子の凝集による粒子径の変化および沈降を防ぐために分散安定剤を共存させることが好ましい。分散安定剤は、粒子の調整時から共存させることもできるし、光触媒コート液を調整する際に添加しても良い。分散安定剤としては、各種の薬剤が使用できるが、二酸化チタンは中性付近で凝集しやすいので、酸性又はアルカリ性の分散安定剤が好ましい。酸性の分散安定剤としては、硝酸、塩酸等の鉱酸、カルボン酸、オキシカルボン酸、ポリカルボン酸などの有機酸などが挙げられる。アルカリ性の分散安定剤としては、カルボン酸、ポリカルボン酸類のアルカリ金属塩やアンモニア、1〜4級のアミン類及びそれらにヒドロキシル基を付加したアルカノールアミン類から選ばれた一種類以上の化合物が好例として挙げられる。特に、有機酸を利用すると、後述する有機溶媒との混和性が良好である上、pHが極端に低くならず、かつ製造時に使用する設備を腐食しにくいので好ましい。有機酸としては、酢酸、シュウ酸、グリコール酸、乳酸、酒石酸、リンゴ酸、クエン酸などが好ましく利用でき、これらの中から選ばれた一種類以上の酸で分散安定化させることができる。
【0036】
また、光触媒コート液を調整する際、光触媒は、粉末状態で混合することも可能であるが、沈降性の少ないスラリーやゾルの状態に調整して添加・混合することもできる。また、必要な物性が満たされていれば市販の二酸化チタンスラリーやゾルを利用しても良い。
【0037】
光触媒粒子を含むコート液の組成は、特に限定するものではないが、光触媒粒子を固形分濃度で2〜30質量%、特に5〜20質量%含有するものが好ましい。2%未満では塗布後の光触媒の効果が小さく、汚れ防止といった効果が十分ではなくなる場合があり、30%を超えるとコート液の安定性が低下しポットライフが低くなる場合がある。また、Si−O結合を備えた成分は、コート液中に0.04〜40質量%、特に1〜2質量%含まれることが好ましく、光触媒に対して10質量%以上25質量%未満となるように含まれることが好ましい。
【0038】
また、各層を積層し乾燥が完了した後、所要時間エージングするようにしてもよい。これにより、コーティングされた被膜の剥離強度を向上させることができる。エージングは40℃〜60℃で24時間以上行うことが好ましい。
【実施例】
【0039】
(実施例1)
無延伸PP樹脂基材(厚さ50μm)上にウレタン系樹脂含有接着剤「PDVメジュウム(インクテック株式会社製):ウレタン樹脂含有率約50%」をグラビアロールコーターにより塗布して乾燥し、その上にプライマー「タイノックプライマーA(多木化学社製):シリカ2質量%、アクリル樹脂8質量%」をグラビアロールコーターにより塗布して乾燥した後、更にその上に多木化学社製光触媒コート「CZK−MP3」をグラビアロールコーターにより塗布して乾燥した。接着層の塗布厚は5g/mで乾燥温度は120℃、乾燥時間は30秒とした。乾燥後の層厚は5μmであった。プライマー層及び光触媒層の塗布厚は2g/m、乾燥温度は135℃、乾燥時間は60秒とした。乾燥後の層厚はそれぞれ2μmであった。
【0040】
(比較例1)
比較例1は、実施例1から接着層を除いたものである。すなわち、無延伸PP樹脂基材(厚さ50μm)上にプライマー「タイノックプライマーA(多木化学社製)」をグラビアロールコーターにより塗布して乾燥後、その上に実施例1と同様にして、光触媒層を塗布して乾燥した。乾燥温度、乾燥時間、塗布厚、乾燥後の層厚はともに実施例1と同様とした。
【0041】
(比較例2)
無延伸PP樹脂基材上にアクリル系樹脂含有接着剤「LR−1065(三菱レーヨン株式会社製)」をグラビアロールコーターにより塗布して乾燥し、その上にプライマー「タイノックプライマーA(多木化学社製)」をグラビアロールコーターにより塗布して乾燥した後、更にその上に光触媒コート「CZK−MP3(多木化学社製)」をグラビアロールコーターにより塗布して乾燥した。乾燥温度、乾燥時間、塗布厚、乾燥後の層厚はともに実施例1と同様とした。
【0042】
(比較例3)
無延伸PP樹脂基材上に酢酸ビニル系樹脂含有接着剤「コニシCX−50(コニシ株式会社製)」をグラビアロールコーターにより塗布して乾燥し、その上にプライマー「タイノックプライマーA」をグラビアロールコーターにより塗布して乾燥した後、更にその上に光触媒コート「CZK−MP3(多木化学社製)」をグラビアロールコーターにより塗布して乾燥した。乾燥温度、乾燥時間、塗布厚、乾燥後の層厚はともに実施例1と同様とした。
【0043】
(比較例4)
無延伸PP樹脂基材上にエポキシ系樹脂含有接着剤「アクメックスER−6662FA/B(日本合成化工株式会社製)」をグラビアロールコーターにより塗布して乾燥し、その上にプライマー「タイノックプライマーA(多木化学社製)」をグラビアロールコーターにより塗布して乾燥した後、更にその上に光触媒コート「CZK−MP3(多木化学社製)」をグラビアロールコーターにより塗布して乾燥した。乾燥温度、乾燥時間、塗布厚、乾燥後の層厚はともに実施例1と同様とした。
【0044】
(評価1)
JIS K5600に基づき、クロスカット法にて剥離試験を行った。その結果を表1に示す。
【0045】
(評価2:膜強度試験)
上記実施例、比較例で作成した積層体の光触媒層側表面に対して、プラスチック消しゴムに9.8×10Paの圧力を加えながら反復スクラッチを実施した。200回のスクラッチで膜が消失していないものをAA、100〜200回のスクラッチで膜が消失したものをA、50回〜99回のスクラッチで膜が消失したものをB、50回未満のスクラッチで膜が消失したものをCとした。その結果を表1に示す。
【0046】
(評価3:エンボス転写性)
上記実施例、比較例で作成した積層体を、エンボス加工した。加熱ドラム温度が140℃のダブリング装置と冷却ドラムの中間に、温度40℃の金属製彫刻ロールと半硬質ゴムで被覆した圧ロールからなるエンボス機を設置し、算術平均粗さRaが10μmの梨地柄の砂目模様のエンボス加工を行い、そのエンボス加工によって得られたシートのエンボス転写性を調べた。具体的には、シートの算術平均粗さRaの、彫刻ロールのRaに対しての割合を%で計算し、80%以下を×、80〜90%以上を△、90〜100%を○とした。
【0047】
【表1】

【0048】
(評価結果)
実施例1については、評価1、評価2の結果から良好な膜強度を示すことがわかる。また、評価3の結果から良好なエンボス転写性を有することがわかる。一方で、比較例1〜4は評価1の結果より、各層界面において剥離が見られ、また評価2の結果より、膜強度がいずれも劣り、さらにはエンボス転写性にも劣ることがわかる。このことから本発明にかかる実施例1は膜強度、エンボス転写性ともに優れた光触媒樹脂基材であることが確認された。
【0049】
以上、現時点において、もっとも、実践的であり、かつ、好ましいと思われる実施形態に関連して本発明を説明したが、本発明は、本願明細書中に開示された実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲および明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う光触媒樹脂基材もまた本発明の技術的範囲に包含されるものとして理解されなければならない。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の光触媒樹脂基材の層構成を示す模式図である。
【符号の説明】
【0051】
10 オレフィン系樹脂を含む樹脂基材
20 接着層
30 プライマー層
40 光触媒層
100 光触媒樹脂基材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オレフィン系樹脂を含む樹脂基材上に接着層、プライマー層、光触媒層がこの順に積層されるとともに、前記接着層がウレタン系樹脂を含み、
表面にエンボス加工が施されることを特徴とする光触媒樹脂基材。
【請求項2】
前記プライマー層がシリカとアクリル樹脂とを含む事を特徴とする請求項1に記載の光触媒樹脂基材。
【請求項3】
前記プライマー層がアクリル変性シリコンを含む事を特徴とする請求項1又は2に記載の光触媒樹脂基材。

【図1】
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【公開番号】特開2009−279813(P2009−279813A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−133387(P2008−133387)
【出願日】平成20年5月21日(2008.5.21)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】