説明

光触媒塗膜及びその製造方法

【課題】本発明は、従来の技術における、光触媒の密着性確保が難しく、光触媒特性を長期間維持することができないという課題を解決するため、表面の偏在構造にて光触媒の高い特性を確保し、この特性が長期間持続可能な耐久性をもつ、すなわち光触媒の特性が向上でき、耐久性に優れる光触媒塗膜を提供することを目的とする。
【解決手段】基材4上に塗布された膜状の樹脂3と、樹脂3に保持され、フッ素樹脂をコーティングしたアパタイト被覆酸化チタン2とを備え、フッ素樹脂をコーティングしたアパタイト被覆酸化チタン2は、樹脂3の基材4とは離れた側の表面に偏在していることを特徴とする光触媒塗膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒を含む塗膜に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、酸化チタンに代表される光触媒は、光照射にて種々の有機物を酸化分解する特性をもつことがよく知られている。この光触媒の特性を活かし、環境浄化や汚れ防止の目的で光触媒を含む塗膜が盛んに用いられている。
【0003】
近年、光触媒の特性である酸化分解作用を更に向上させる提案もなされている。この特性向上としては、特に光触媒を塗膜中の表面近傍に偏在させる取り組みが盛んに行われている。すなわち、塗膜表面の汚れに対し、有効に作用できるのは表面近傍の光触媒であり、塗膜中に埋没している光触媒は何ら影響を及ぼさない。したがって、光触媒を塗膜表面に偏在させることにより、最も効率よく光触媒の作用を発現させることができ、この表面の偏在構造にて光触媒の特性向上が図れる。
【0004】
例えば、(特許文献1)には、有機シラン化合物にて変性した光触媒を含む光触媒組成物が記載されている。この従来の技術によれば低表面エネルギーを有する有機シラン化合物で光触媒を変性し、それよりも高い表面エネルギーを有する樹脂中に含有させ硬化反応を起こすと、低表面エネルギーに変性された光触媒が、熱力学的に安定化しようと、表面近傍に自発的に移動する。すなわち、硬化して得られた皮膜表面は、光触媒の偏在構造となり、光触媒の作用を効率よく発現でき、光触媒の特性向上が可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−131640号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の技術では、光触媒特性の耐久性に問題が生じていた。
【0007】
すなわち、(特許文献1)の公知技術では、表面の偏在構造を得るため、低表面エネルギーを有する化合物で光触媒を変性しているが、一般的に低表面エネルギーを有する化合物は濡れ性が悪く、密着力を得るのが難しい。したがって、表面に偏在している光触媒の密着力も弱く、少しの環境負荷においても光触媒が皮膜表面から脱落し、光触媒の特性劣化をまねく恐れがある。つまり、従来の技術においては、光触媒の密着性確保が難しく、光触媒特性を長期間維持することができない。
【0008】
そこで本発明は、このような従来の課題を解決するものであり、表面の偏在構造にて光触媒の高い特性を確保し、この特性が長期間持続可能な耐久性をもつ、すなわち光触媒の特性が向上でき、耐久性に優れる光触媒塗膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明の光触媒塗膜は、塗膜中の表面近傍に偏在する光触媒が、フッ素樹脂をコーティングしたアパタイト被覆酸化チタンであることを特徴とするものである。これにより、まず、光触媒が低表面エネルギーを有するフッ素樹脂でコーティングされていることから、硬化反応時、光触媒の表面移動を誘発し、塗膜表面は光触媒の偏在構造となる。したがって、塗膜表面は、光触媒の作用を効率よく発現でき、光触媒の特性向上が得られる。更に、一般的には密着力が得られない低表面エネルギーを有した光触媒の密着力を確保すべく、我々は鋭意研究を重ね、光触媒としてアパタイト被覆酸化チタンを用いることで密着性が確保できることを見出している。すなわち、アパタイト被覆酸化チタンが、酸化チタン表面に三角錘状のアパタイトを形成した特異な構造を有しているため、フッ素樹脂コーティングにて低表面エネルギーの状態にしても、三角錘状のアパタイトが接している塗膜に突き刺さり、アンカー効果を発揮し、これにより密着性が確保できる。したがって、光触媒としてアパタイト被覆酸化チタンを用いることで、密着性が確保でき、光触媒の特性が長時間持続可能な優れた耐久性が得られる。
【0010】
以上のことから光触媒の特性向上と、耐久性に優れる光触媒塗膜が得られる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の請求項1に記載の光触媒塗膜によれば、塗膜中の表面近傍に偏在する光触媒が、低表面エネルギーを有するフッ素樹脂にてコーティングされているため、塗膜表面の偏在構造が可能となり、光触媒の酸化分解作用を効率よく発現でき、光触媒の特性向上が得られる。更に光触媒として用いたアパタイト被覆酸化チタンのアパタイトが接している塗膜に突き刺さり、アンカー効果が発現できるため、密着性が確保でき、優れた耐久性も得られる。したがって、光触媒の特性向上と、耐久性に優れる光触媒塗膜が得られるという効果がある。
【0012】
本発明の請求項2に記載の光触媒塗膜によれば、前記塗膜の主成分として、柔軟性に優れる有機系樹脂を用いるため、酸化チタン表面の三角錐状のアパタイトを接している塗膜に隙間無く、完全に埋没させることができ、高いアンカー効果が発現され、更に光触媒の密着性に優れる光触媒塗膜が得られるという効果がある。
【0013】
本発明の請求項3に記載の光触媒塗膜によれば、前記塗膜が、水溶性塗料の硬化物であり、溶媒の中でも高い表面エネルギーを有する水を用いるため、低表面エネルギーを有する光触媒表面とのエネルギー差を大きくすることができ、このエネルギー差を駆動力とする光触媒の表面移動が活発となる。したがって、より表面に近づいた光触媒の偏在構造が得られ、更に光触媒の特性が向上された光触媒塗膜が得られるという効果がある。
【0014】
本発明の請求項4に記載の光触媒塗膜によれば、前記アパタイト被覆酸化チタンにコーティングされたフッ素樹脂の厚みが、前記酸化チタンの粒径の0.1倍から0.5倍の間であることにより、基材の有する高反射率を損なうことなく、更に光触媒にコーティングされたフッ素樹脂が光触媒の作用を阻害せず、光触媒を塗膜表面に偏在させることができる。
【0015】
本発明の請求項5に記載の光触媒塗膜によれば、前記酸化チタンに被覆されたアパタイトの高さが、前記酸化チタンの粒径の0.1倍から1.0倍の間であることにより、アパタイト被覆酸化チタンにフッ素樹脂がコーティングされた場合であっても、基材の有する高反射率を損なうこと無く、アパタイトが十分にアンカー効果を発現でき、光触媒の密着性が確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】(a)本発明の一実施の形態における硬化前の光触媒塗膜の要部断面図、(b)本発明の一実施の形態における硬化後の光触媒塗膜の要部断面図
【図2】(a)本発明の一実施の形態におけるアパタイト被覆酸化チタンをフッ素樹脂にてコーティングする工程の要部断面図、(b)本発明の一実施の形態におけるフィルタリング乾燥しフッ素コートアパタイト被覆酸化チタンを回収する工程の要部断面図、(c)本発明の一実施の形態におけるフッ素コートアパタイト被覆酸化チタンを樹脂に混合させる工程の要部断面図、(d)本発明の一実施の形態における光触媒塗料を塗布硬化させ得られる光触媒塗膜の要部断面図
【図3】(a)本発明の一実施の形態における高級外観外装用の光触媒塗膜の要部断面図、(b)図3(a)におけるフッ素コートアパタイト被覆酸化チタンの拡大図
【図4】(a)本発明の一実施の形態における光触媒を含まない塗膜の厚みと塗膜内部の反射率との結果を示す図、(b)本発明の一実施の形態における塗膜中の光触媒粒径と塗膜内部の反射率との結果を示す図、(c)本発明の一実施の形態における塗膜中の光触媒に施したフッ素コート厚みと指紋汚れ分解性との結果を示す図、(d)本発明の一実施の形態における塗膜表面の光触媒占有面積と塗膜内部の反射率との結果を示す図、(e)本発明の一実施の形態における塗膜表面の光触媒占有面積と指紋汚れ分解性との結果を示す図
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下本発明の一実施の形態について図1から図4を用いて説明する。なお、これらの図面において同一の部材には同一の符号を付しており、重複した説明は省略させている。また、実施の形態において示されている数値は種々選択し得る中の一例であり、これに限定されるものではない。
【0018】
(実施の形態)
以下に本発明の一実施の形態の光触媒塗膜について説明する。
【0019】
まず、本発明の光触媒塗膜について図1で説明する。図1(a)は本発明の一実施の形態における硬化前の光触媒塗膜の要部断面図、図1(b)は本発明の一実施の形態における硬化後の光触媒塗膜の要部断面図である。
【0020】
図1(a)において、1はフッ素コートアパタイト被覆酸化チタン2を塗膜の主成分である膜状樹脂3中に含み、基材4表面に形成した光触媒塗膜である。
【0021】
図1(a)に示すように、硬化前のフッ素コートアパタイト被覆酸化チタン2は光触媒塗膜1中の厚み方向においてもランダムに位置している。
【0022】
更に、硬化反応を起こし光触媒塗膜1を硬化させると、図1(b)示すように、フッ素コートアパタイト被覆酸化チタン2は、光触媒塗膜1の表面に偏在した構造をとる。これは、光触媒が低表面エネルギーを有するフッ素樹脂でコーティングされていることから、硬化反応時、光触媒の表面移動を誘発し、塗膜表面は光触媒の偏在構造となる。したがって、塗膜表面は、光触媒の作用を効率よく発現でき、光触媒の特性向上が得られる。更に、一般的には密着力が得られない低表面エネルギーを有した光触媒の密着力を確保すべく、我々は、光触媒としてアパタイト被覆酸化チタンを用いることで密着性が確保できることを見出している。すなわち、フッ素コートアパタイト被覆酸化チタン2が、酸化チタン表面に三角錘状のアパタイトを形成した特異な構造を有しているため、フッ素樹脂コーティングにて低表面エネルギーの状態にしても、三角錘状のアパタイトが接している樹脂3に突き刺さり、アンカー効果を発揮し、密着性が確保できる。ここで、フッ素コートアパタイト被覆酸化チタン2表面のアパタイトの形状は、通常製造される0.1μmから1.0μm程度の高さを有する三角錐状であれば、十分にアンカー効果を発現でき、光触媒の密着性が確保できる。
【0023】
したがって、光触媒としてアパタイト被覆酸化チタンを用いることで、密着性が確保でき、光触媒の特性が長時間持続可能な優れた耐久性が得られる。すなわち、本構造により、光触媒の特性向上と、耐久性に優れる光触媒塗膜が得られる。
【0024】
なお、樹脂3の主成分として、有機系樹脂を用いてもよい。これによって、柔軟性に優れる有機系樹脂を樹脂3として用いるため、フッ素コートアパタイト被覆酸化チタン2表面の三角錐状のアパタイトを接している樹脂3に隙間無く、完全に埋没させることができ、高いアンカー効果が発現され、更に光触媒の密着性に優れる光触媒塗膜1が得られる。ここで用いる有機系樹脂としては、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂のどれを用いても良く、適宜好適に応じてどちらを用いても良く、これに限定されるものではない。
【0025】
更に、樹脂3としては水溶性塗料を用いてもよい。これは、溶媒の中でも高い表面エネルギーを有する水を用いるため、低表面エネルギーを有する光触媒表面とのエネルギー差を大きくすることができ、このエネルギー差を駆動力とする光触媒の表面移動が活発となる。したがって、より表面に近づいた光触媒の偏在構造が得られ、更に光触媒の特性が向上された光触媒塗膜1が得られる。ここで用いる塗料の配合としては、溶媒中の樹脂濃度が20%から70%の範囲で用いることができる。この樹脂濃度が20%より低い場合は、塗料中の溶媒成分が多すぎ、コーティング後の乾燥工程のタクトが増大する。更に樹脂濃度が70%より高い場合は、塗料の粘度が増大し、コーティングむら等の不良が発生し易い。したがって、製造面での適合性から上記配合の塗料にて、最適な光触媒塗膜1が得られる。
【0026】
また、フッ素コートアパタイト被覆酸化チタン2の酸化チタンが、可視光反応型であってもよい。これによって、屋内においても光触媒の酸化分解作用が働き、更に適用範囲の広い光触媒塗膜1が得られる。
【0027】
最後に、フッ素コートアパタイト被覆酸化チタン2の粒形としては、0.01μmから5μmの範囲、好ましくは0.1μmから1μmの範囲であるものを用いることができる。
【0028】
これは、0.01μm未満の小さい粒形を有するものは、粒子同士の凝集を起こしやすく、また5μmより大きい粒形を有するものは、塗膜中に占有する体積が大きくなり過ぎ、塗膜の透明性や柔軟性を劣化させる恐れがある。したがって、上記範囲の粒形を有する光触媒を用いることで、更に光触媒の特性向上と、耐久性に好適な光触媒塗膜が得られる。これら光触媒塗膜1の各種パラメータに関しては、適宜好適に応じてどちらを用いても良く、これに限定されるものではない。
【0029】
次に、本発明の一実施の形態における光触媒塗膜の製造方法について図2を用いて説明する。図2(a)は本発明の一実施の形態におけるアパタイト被覆酸化チタンをフッ素樹脂にてコーティングする工程の要部断面図、図2(b)は本発明の一実施の形態におけるフィルタリング乾燥しフッ素コートアパタイト被覆酸化チタンを回収する工程の要部断面図、図2(c)は本発明の一実施の形態におけるフッ素コートアパタイト被覆酸化チタンを樹脂に混合させる工程の要部断面図、図2(d)は本発明の一実施の形態における光触媒塗料を塗布硬化させ得られる光触媒塗膜の要部断面図である。
【0030】
図2において、6はアパタイト被覆酸化チタン5をフッ素樹脂にてコーティングするためのフッ素コート樹脂液であり、7はフッ素コートアパタイト被覆酸化チタン2を樹脂3に混合して得られる光触媒塗料である。
【0031】
まず、図2(a)に示すように、アパタイト被覆酸化チタン5をフッ素コート樹脂液6中に添加する。その後、この混合液をフィルタリングし、乾燥させることにより、図2(b)に示すように、フッ素コートアパタイト被覆酸化チタン2を得る。
【0032】
更に、図2(c)に示すように、得られたフッ素コートアパタイト被覆酸化チタン2を樹脂3に混合させ、十分撹拌を行い、光触媒塗料7を調合する。
【0033】
なお、この撹拌の方法としては、ボールミル、超音波振動等の従来の撹拌方法が挙げられ、適宜好適に応じてどちらを用いても良く、これに限定されるものではない。
【0034】
更に樹脂3としては水溶性塗料を用いてもよい。これは、有機溶剤を用いることなく環境負荷の少ない製造プロセスが得られる。
【0035】
最後に、図2(d)に示すように、得られた光触媒塗料7を基材4表面に塗布硬化させ、光触媒の特性向上と耐久性に優れる光触媒塗膜1が、非常にシンプルな工程にて生産性良く製造することができる。以上の様にして得られた本発明の一実施の形態における光触媒塗膜の製造方法は、光触媒の特性向上と耐久性に優れる光触媒塗膜1が、非常にシンプルな工程にて生産性良く製造することができる。
【0036】
更に、本発明の一実施の形態における高級外観を有する電化製品の外装に用いる光触媒塗膜について図3及び図4を用いて説明する。図3(a)は本発明の一実施の形態における高級外観外装用の光触媒塗膜の要部断面図、図3(b)は図3(a)におけるフッ素コートアパタイト被覆酸化チタンの拡大図である。図4(a)は本発明の一実施の形態における光触媒を含まない塗膜の厚みと塗膜内部の反射率との結果を示す図、図4(b)は本発明の一実施の形態における塗膜中の光触媒粒径と塗膜内部の反射率との結果を示す図、図4(c)は本発明の一実施の形態における塗膜中の光触媒に施したフッ素コート厚みと指紋汚れ分解性との結果を示す図、図4(d)は本発明の一実施の形態における塗膜表面の光触媒占有面積と塗膜内部の反射率との結果を示す図、図4(e)は本発明の一実施の形態における塗膜表面の光触媒占有面積と指紋汚れ分解性との結果を示す図である。
【0037】
図3(a)において、8は高級外観の一種であるピアノブラックに代表される鏡面基材であり、表面に形成された光触媒塗膜1を介し反射光9が得られる。更に、10は光触媒塗膜1表面に付着した指紋汚れであり、光触媒である酸化チタンの酸化分解反応により分解、消失していくものである。
【0038】
まず、図3(a)に示すように、鏡面基材8は、表面が鏡面であり、光の反射性が高く、強い反射光9が得られるため、我々は高い光沢性を視認し、ピアノブラック等の高級な外観性を感じ取っている。ところが本発明においては、鏡面基材8表面に光触媒塗膜1を形成しているために、反射光9が減衰し、光沢性を劣化させる可能性がある。なお、光沢性を確保するためには、反射率85%以上、好ましくは90%以上であると良い。
【0039】
そこで高級外観に好適な塗膜の厚みaを得る目的で、まずフッ素コートアパタイト被覆酸化チタン2を含まない塗膜の厚みと塗膜内部の反射率との関係について実験を行った。結果は、図4(a)に示すように、塗膜厚みが30μm以上にて反射率の低下が起こり、また5μm未満では、塗膜の密着性が悪く、塗膜剥離の可能性があった。したがって、本実施の形態においては塗膜の厚みaは5μmから20μmにて最も反射率の低下が無く、高い光沢性が得られ、ピアノブラック等の高級外観に好適な光触媒塗膜1が得られる。以上の実験結果より、塗膜の厚みaを10μmに固定し、以下実験を行った。
【0040】
高級外観に好適な光触媒塗膜1の各種パラメータを得る目的で、光触媒塗膜1中に含むフッ素コートアパタイト被覆酸化チタン2の粒径bと光触媒塗膜1内部の反射率との関係について実験を行った。結果は、図4(b)に示すように、3μm以上のフッ素コートアパタイト被覆酸化チタン2の酸化チタンの粒径bにおいては、光触媒塗膜1に対しフッ素コートアパタイト被覆酸化チタン2の粒径bの占有する体積が大きいため、反射率の低下が発生していると考えられる。更に0.1μm未満では、フッ素コートアパタイト被覆酸化チタン2の凝集にて反射率の低下が発生していると考えられる。したがって、0.1μmから1μmの粒径範囲にて最も反射率の低下が無く、高い光沢性が得られ、ピアノブラック等の高級外観に好適な光触媒塗膜1が得られる。また、塗膜の厚みaが10μmの場合だけに限らず、塗膜厚みaに対する酸化チタンの粒径bが1/10から1/100の範囲にてもピアノブラック等の高級外観に好適な光触媒塗膜1が得られる。これも同様に1/10以上の酸化チタン粒径b比においては、光触媒塗膜1に対しフッ素コートアパタイト被覆酸化チタン2の占有する体積が大きいため、反射率の低下が発生し、更に1/100以下では、フッ素コートアパタイト被覆酸化チタン2の凝集にて反射率の低下が発生すると考えられる。したがって、1/10から1/100の粒径比範囲にてもピアノブラック等の高級外観に好適な光触媒塗膜1が得られる。
【0041】
また、前述したように、酸化チタンに被覆されたアパタイトの高さcは、0.1μmから1μmの範囲にて、アパタイトが十分にアンカー効果を発現でき、光触媒の密着性が確保できる。更に、アパタイトの高さcは塗膜厚みaが10μmの場合だけに限らず、塗膜a厚みに対するアパタイトの高さcが1/10から1/100の範囲にても光触媒の密着性が確保できる。
【0042】
更に、光触媒である酸化チタンに施したフッ素樹脂コート厚みdをパラメータとして、指紋汚れ分解性の実験も行った。結果は、図4(c)に示すように、光触媒粒径bの範囲が0.1μmから1μmについて、フッ素コート厚みdが0.01μmから0.05μmの範囲で指紋汚れの分解性が最も高く、0.05μm、特に0.1μm以上だとフッ素コートの厚みdが大きすぎるため、光触媒の作用を阻害すると考えられる。また、0.01μm以下であると、フッ素コートによる光触媒塗膜1表面をフッ素コートアパタイト被覆酸化チタン2に偏在させる力が十分でなくなる。したがって、0.01μmから0.05μmのフッ素コート厚みdにて最も光触媒の分解性が高い、ピアノブラック等の高級外観に好適な光触媒塗膜1が得られる。すなわち、フッ素コートアパタイト被覆酸化チタン2にコーティングされたフッ素樹脂の厚みが、酸化チタンの粒径の0.1倍から0.5倍の間であることにより、基材の有する高反射率を損なうことなく、更に光触媒にコーティングされたフッ素樹脂が光触媒の作用を阻害せず、光触媒を塗膜表面に偏在させることができる。
【0043】
以上の結果から、反射率、汚れの分解性、酸化チタンの表面移動性とその固定力を好適にするためには、塗膜の厚みa、酸化チタンの粒径b、酸化チタンに被覆されたアパタイトの高さc、フッ素コートの厚みdは、以下の条件であることが好ましいことが分かる。
【0044】
5μm<a<20μm
0.1a<b<1.0a
0.1a<c<1.0a
0.01a<d<0.05a
最後に塗膜表面の光触媒占有面積をパラメータとして、塗膜内部の反射率及び指紋汚れ分解性の実験を行った。結果は、図4(d)及び図4(e)に示すように、塗膜表面の光触媒占有面積が50%以上にて反射率の低下が起こり、また10%以下では、指紋汚れの分解性が低下する。したがって、20%から40%の塗膜表面の光触媒占有面積にて高い光沢性と指紋汚れの分解性が得られ、ピアノブラック等の高級外観に好適な光触媒塗膜1が得られる。
【0045】
以上、各パラメータの最適範囲にてピアノブラック等の高級外観に好適な光触媒塗膜1が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の光触媒塗膜は、光触媒の特性向上と耐久性に優れるため、電化製品の外装用途や建材の外壁用途などの高耐久性を要求される光触媒塗膜に好適である。
【符号の説明】
【0047】
1 光触媒塗膜
2 フッ素コートアパタイト被覆酸化チタン
3 樹脂
4 基材
5 アパタイト被覆酸化チタン
6 フッ素コート樹脂液
7 光触媒塗料
8 鏡面基材
9 反射光
10 指紋汚れ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に塗布された樹脂膜と、
前記樹脂膜に保持され、フッ素樹脂をコーティングしたアパタイト被覆酸化チタンとを備え、
フッ素樹脂をコーティングした前記アパタイト被覆酸化チタンは、前記樹脂膜の前記基材とは離れた側の表面に偏在していることを特徴とする光触媒塗膜。
【請求項2】
前記樹脂膜の主成分が、有機系樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の光触媒塗膜。
【請求項3】
前記樹脂膜が、水溶性塗料の硬化物であることを特徴とする請求項1に記載の光触媒塗膜。
【請求項4】
前記アパタイト被覆酸化チタンにコーティングされたフッ素樹脂の厚みが、前記酸化チタンの粒径の0.1倍から0.5倍の間であることを特徴とする請求項1に記載の光触媒塗膜。
【請求項5】
前記酸化チタンに被覆されたアパタイトの高さが、前記酸化チタンの粒径の0.1倍から1.0倍の間であることを特徴とする請求項1に記載の光触媒塗膜。
【請求項6】
アパタイト被覆酸化チタンをフッ素樹脂液中に添加し、前記アパタイト被覆酸化チタンにコーティングされたフッ素樹脂液を乾燥させ、
次いで前記フッ素樹脂をコーティングしたアパタイト被覆酸化チタンを樹脂に混合し、前記樹脂を基材に膜状に塗布することで、前記フッ素樹脂をコーティングしたアパタイト被覆酸化チタンが、前記樹脂膜の前記基材とは離れた側の表面に偏在することを特徴とする光触媒塗膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−200745(P2011−200745A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−67619(P2010−67619)
【出願日】平成22年3月24日(2010.3.24)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】