説明

光触媒担持マイクロリアクター

【課題】 光触媒反応を利用した反応において、反応液中の反応分子を効率よく反応させるとともに、その反応の進行を制御し、選択的に目的生成物を得ることが可能な光触媒担持マイクロリアクターを提供すること。
【解決手段】 光透過性材料より形成され、反応基質Aおよび反応分子Bを含んだ反応溶液を流通させる微細な反応流路を有する反応器と、前記反応流路に形成された光触媒担持膜と、該光触媒担持膜の表面に光を照射する光照射装置とを備え、反応基質Aと反応分子Bとは、光触媒反応により反応分子Bが中間生成物Cを生成し、次に、反応基質Aと中間生成物Cとが反応して目的生成物Dが生成する関係であり、反応基質Aの濃度と、光触媒担持膜の比表面積と、反応流路の光触媒担持領域は、目的生成物Dと中間生成物Cとが更に反応して副生成物を生成する前に、反応溶液が光触媒担持領域から脱出する関係に設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒反応を利用して液中の反応分子を反応させることが可能な光触媒担持マイクロリアクターに関する。
【背景技術】
【0002】
光化学反応を利用した反応には光分解反応、光合成反応、光酸化反応、光還元反応など多くの反応が知られている。光化学反応では、照射した光が反応場中で吸収・散乱するため、反応に用いる光の利用効率が上げられない問題がある。特に、光触媒を用いた反応では、例えばバッチ方式の場合には光触媒を反応容器中に懸濁させて反応を行うため、懸濁している光触媒によって光が散乱してしまい、反応容器全体に充分な光を照射することが困難であった。そして、反応後に触媒を分離する作業が必要であるため操作が煩雑であった。
【0003】
上記問題を解決するために、特許文献1では、微細な反応流路を有する光化学反応装置が提案されている。特許文献1の光化学反応装置では、微細な反応流路において液体中に含まれる反応分子を光化学反応させることができるので、反応分子を効率的に反応させることができるとともに、反応流路に光をくまなく照射して高い効率の下で光化学反応を進行させることができる。
【0004】
【特許文献1】特開2005−279595号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のバッチ方式や連続方式では、反応生成物が反応系内に滞留することによって、副反応が進行し、副生成物が生成する問題があった。また、特許文献1に記載の微細な反応流路を有する光化学反応装置においても、反応生成物が反応系内に滞留すれば、バッチ方式等の場合と同様に、副生成物の生成を伴う副反応の進行が問題となる。
【0006】
本発明の課題は、光触媒反応を利用した反応において、反応液中の反応分子を効率よく反応させるとともに、その反応の進行を制御し、選択的に目的生成物を得ることが可能な光触媒担持マイクロリアクターを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明の第1の態様に係る光触媒担持マイクロリアクターは、光透過性材料より形成され、反応基質Aおよび反応分子Bを含んだ反応溶液を流通させる微細な反応流路を有する反応器と、前記反応流路に形成された光触媒担持膜と、該光触媒担持膜の表面に光を照射する光照射装置と、を備えた光触媒担持マイクロリアクターであって、反応基質Aと反応分子Bとは、光触媒反応により反応分子Bが中間生成物Cを生成し、次に、反応基質Aと中間生成物Cとが反応して目的生成物Dが生成する関係であり、反応基質Aの濃度と、光触媒担持膜の比表面積と、反応流路の光触媒担持領域は、目的生成物Dと中間生成物Cとが更に反応して副生成物を生成する前に、反応溶液が光触媒担持領域から脱出する関係に設定されていることを特徴とする。
【0008】
反応基質Aと反応分子Bとは、光触媒反応により反応分子Bが中間生成物Cを生成し、次に、反応基質Aと中間生成物Cとが反応して目的生成物Dが生成する関係である。そして、目的生成物Dと中間生成物Cとは逐次的に反応し、副生成物が生成する。
【0009】
本発明によれば、反応基質Aの濃度と、光触媒担持膜の比表面積と、反応流路の光触媒担持領域とが、目的生成物Dと中間生成物Cとが更に反応して副生成物を生成する前に、反応溶液が光触媒担持領域から脱出する関係に設定されているので、反応基質Aと中間生成物Cとが反応して目的生成物Dが生成した後に、目的生成物Dと中間生成物Cとが逐次的に反応し、副生成物が生成するのを抑制し、目的生成物Dを選択的に生成させることができる。
【0010】
また、本発明の第2の態様に係る光触媒担持マイクロリアクターは、第1の態様において、前記光触媒は、二酸化チタンであることを特徴とする。本発明によれば、二酸化チタンによって高い光触媒活性が得られる。
【0011】
また、本発明の第3の態様に係る光触媒担持マイクロリアクターは、第2の態様において、前記光照射装置は、光源として200nm〜400nmの紫外線を主に放射する発光ダイオードを備えていることを特徴とする。本発明によれば、光照射装置の光源として発光ダイオードを用いているので、光触媒担持マイクロリアクターの省スペース化と低フォトンコストを実現することができる。
【0012】
また、本発明の第4に態様に係る光触媒担持マイクロリアクターは、第1の態様乃至第3の態様のいずれかにおいて、前記反応基質Aはベンジルアミンであり、前記反応分子Bはエタノールであり、目的生成物DはN−エチルベンジルアミンであることを特徴とする。本発明によれば、ベンジルアミンのモノアルキル化が選択的に行われ、高収率でN−エチルベンジルアミンを得ることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、反応基質Aと反応分子Bとは、光触媒反応により反応分子Bが中間生成物Cを生成し、次に、反応基質Aと中間生成物Cとが反応して目的生成物Dが生成する反応において、反応液中の反応分子を効率よく反応させ、更にその反応の進行を制御し、選択的に目的生成物Dを生成させることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明に係る光触媒担持マイクロリアクターについて説明する。
本発明に係る光触媒担持マイクロリアクターは、反応基質Aと反応分子Bとは、光触媒反応により反応分子Bが中間生成物Cを生成し、次に、反応基質Aと中間生成物Cとが反応して目的生成物Dが生成する反応に用いられる。
【0015】
本発明に係る光触媒担持マイクロリアクターは、光透過性材料より形成され、反応基質Aおよび反応分子Bを含んだ反応溶液を流通させる微細な反応流路を有する反応器と、反応流路に形成された光触媒担持膜と、光触媒担持膜の表面に光を照射する光照射装置とを備えたものである。
【0016】
<反応基質および反応分子>
反応基質Aと反応分子Bとは、光触媒反応により反応分子Bが中間生成物Cを生成し、次に、反応基質Aと中間生成物Cとが反応して目的生成物Dが生成する関係である。例としては、反応基質Aとしてベンジルアミン、反応分子Bとしてエタノールが挙げられる。ベンジルアミンとエタノールから得られる目的生成物Dとしては、例えばN−エチルベンジルアミンが挙げられる。
【0017】
<光触媒担持マイクロリアクターの構造>
光触媒担持マイクロリアクターの反応器は光を透過する材料から構成されており、光透過性材料としては、例えば石英ガラス、ソーダ石灰ガラス、ホウケイ酸ガラス、フッ化物ガラス等のガラスや、アクリル等のプラスティックなどを挙げることができ、このうち幅広い波長領域の光を透過させることができることから石英ガラスが好ましい。光透過性材料は、照射光を遮断することがないように、照射する光の波長に応じて適宜選択することができ、光が紫外光である場合には石英ガラスが好ましい。
【0018】
反応器は反応溶液を流通させる微細な反応流路を有し、反応器全体としてマイクロリアクターを構成している。反応流路は例えば反応器の一端面から対向する他端面に達する中空状の貫通孔として形成することができる。反応流路の断面形状は特に限定されるものではなく、例えば三角形、四角形、五角形その他の多角形、円形、楕円形などにすることができ、断面四角形や断面円形であると加工が容易であるため好ましい。
【0019】
また、反応流路の流路径は10〜2000μmに構成することができ、50〜1000μmであると好ましく、100〜500μmであるとより好ましい。ここで、「反応流路の流路径」とは、反応流路のサイズを規定する長さであり、例えば反応流路の断面が四角形における短辺の長さ、円形における直径、楕円形における短直径を意味するものである。なお、断面四角形における長辺の長さ、断面楕円形における長直径の長さは反応流路全体に光が照射でき、反応器の機械的強度が保たれる範囲であれば特に制限されるものではなく、例えば長辺の長さ/短辺の長さ、長直径/短直径の比が1〜20程度となるように構成することができる。
【0020】
このように、反応流路を微細に構成することにより、反応流路全体に光をくまなく照射することができ、高い効率で光化学反応を行うことができる。また、反応流路内では分子の拡散距離が極めて短く、また分子拡散による混合の速度は拡散距離の二乗に反比例するため、機械的な撹拌を行わなくとも反応分子の自発的挙動だけで拡散しながら反応を速やかに行うことができる。
【0021】
以下に、光触媒担持マイクロリアクターの具体的構造について説明する。
図1は本発明に係る光触媒担持マイクロリアクターの一実施例を示す斜視図である。図2は図1の側面図である。図3は図2のIII-III断面図である。図4は反応流路の拡大図である。
【0022】
反応器11に1本の反応流路21が設けられ、該反応流路21には光触媒が設けられている。光触媒は反応分子と接触するように膜状に反応流路21に設けられ、光触媒担持膜22として形成される。光触媒は光触媒反応を生じさせるものであり、自ら光を吸収して光励起し、触媒作用を発現するものである。
特に、化学的に安定で無害であり、高い光触媒活性を示すことが知られている二酸化チタンを用いることが望ましい。更に二酸化チタンに白金を担持させてもよい。光触媒として二酸化チタンを用いる場合、反応流路21の内壁に二酸化チタン薄膜を公知の方法で焼成させて設けることができる。また、公知の光電着法によって設けることもできる。
【0023】
反応流路21の上面から光を照射する場合には、該反応流路21の底面24および側面25に光触媒担持膜22を設けることが好ましい。反応流路21の全内面に光触媒担持膜22を設ける場合には、光触媒の膜厚は光を透過する程度が好ましい。
【0024】
また、光触媒としては、例えばTi、Zn、Mg、Al、Si、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Nb、Ru、Rh、Pd、Ag、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、Sr、Ba、Ca、K、Sn、Zr、In、Bi、Ga、As、Cd、Pb、Se等の金属、金属酸化物、リン化合物、硫黄化合物、複合金属もしくは複合金属酸化物、またはこれらを任意の担持体に担持させたものを挙げることができる。
【0025】
金属酸化物としては、酸化チタンのほか、例えば酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化シリコン、酸化バナジウム、酸化クロム、酸化マンガン、酸化鉄、酸化コバルト、酸化ニッケル、酸化銅、酸化ジルコニア、酸化ニオブ、酸化銀、酸化タリウム、酸化タングステン、酸化スズ、酸化鉛などを挙げることができ、リン化合物としては例えばリン化ガリウムなどを挙げることができ、硫黄化合物としては例えば硫化カドミウム、硫化亜鉛などを挙げることができ、複合金属としては例えばガリウム−ヒ素、カドミウム−セレンなどを挙げることができ、複合金属酸化物としては例えばチタンまたは亜鉛と、シリコン、アルミニウム、白金、ルテニウム、ニオブ、タンタル、ストロンチウム、カルシウム、バリウム、バリウム、ナトリウム、カリウム、タングステン、ビスマス、セリウム、アンチモン、インジウム、イットリウム、ガリウムなどとの多成分複合系などを挙げることができる。
【0026】
光触媒担持マイクロリアクターの構造は上記のものに限定されるものではなく、反応器11の反応流路21に光を照射することができるものであれば、反応流路21の積層状態や位置関係、断面形状、反応流路21の個数等を適宜変更することができ、複数の反応流路21を備えるものについては反応流路21ごとに流路径や断面形状を変えることができる。
【0027】
次に、前記反応基質Aの濃度と、光触媒担持膜22の比表面積と、反応流路21の光触媒担持領域26との関係について説明する。
反応流路21に流通させる、反応基質Aおよび反応分子Bを含んだ反応溶液31としては、反応流路21に流通させるための溶媒に反応基質Aと反応分子Bを溶解した溶液や、反応基質Aおよび反応分子Bが液体であり、それぞれを反応等量モル混合した溶液や、反応流路21に流通させるための溶媒であり且つ反応分子Bである液体に、反応基質Aを溶解した溶液などがある。
【0028】
まず、当該反応器11は、目的とする反応の反応基質Aの濃度と、反応基質Aを含む反応溶液31を反応流路21に流す一定の流速が設定され、該反応基質Aの該設定濃度に対する、光触媒担持膜22の比表面積と、反応流路21の光触媒担持領域26とが後述する関係になるように設定されて作られる。
ここで、前記「反応基質Aの濃度」と前記「流速」は、当該反応基質Aと反応分子Bとの組み合わせによる光触媒反応において、高効率で反応が行われるように設定される。また、反応溶液31を反応流路21に流す一定の「流速」とは、該反応溶液31が層流を保って反応流路21を流通する流速である。
【0029】
反応器11の反応流路21の入口に、反応基質Aを前記設定濃度で溶かした反応溶液31を送り込むことにより、先ず反応分子Bが光触媒反応によって中間生成物Cを生成し、次に、反応基質Aと中間生成物Cとが反応して目的生成物Dが生成される。上記関係は、層流状態で反応溶液31が前記反応流路21を通過中に目的生成物Dが生成されるが、その目的生成物Dが中間生成物Cと反応を開始する前に、前記反応流路21の光触媒担持領域26を通過してしまうように設定されている。
すなわち、A→Dの光触媒反応はほとんど終了させるが、D+C→E(Eは副生成物である)の反応が開始する前に光触媒担持領域26外に到達するように構成されている。
【0030】
前記光触媒マイクロリアクター1が層流の速度を変更調整できる速度調整手段を備えると、次のような光触媒反応に用いることができる。例えば、反応基質Aが少量しか入手できず、前記設定濃度の反応溶液31を作ることができない場合、その薄い反応溶液をそのまま反応流路21に流すと光触媒担持領域26外に到達する前に、D+C→Eの反応が起きてしまうが、当該速度調整手段によって層流の速度を調整(速める)することにより、光触媒担持領域26への滞留時間を調整し、前記副生成物Eが生成する前に反応溶液が光触媒担持領域26外に到達するようにすることが可能になる。
【0031】
また、反応基質Aと反応分子Bから目的生成物Dを生成する反応αを行うために、光触媒担持膜22の比表面積と、反応流路21の光触媒担持領域26とがすでに設定された光触媒担持マイクロリアクターを、他の反応基質aと反応分子bより目的生成物dを生成するような、他の反応βを行うために利用することもできる。
すなわち、他の反応基質aをある設定濃度で溶かした反応溶液を流すと、副生成物の生成開始前に光触媒担持領域26外に到達できない場合に、前記速度調整手段によって層流の速度を変更調整することで、同様に副生成物が生成する前に、反応溶液が光触媒担持領域26外に到達するようにすることができる。
【0032】
次に、光照射装置23について説明する。光照射装置23には、人工光源のほか、自然光を集光もしくは採光する装置が含まれる。光照射装置23により照射される光は、反応分子を化学反応させる波長を含むもの(例えば紫外光、可視光、赤外光)であり、具体的には反応分子または光触媒を光励起させる波長を含むものであれば良く、例えば自然光や人工光を利用できる。反応分子または光触媒を光励起させることにより、光化学反応を進行させることができる。
【0033】
光触媒を光化学反応(光励起)させる波長はバンドギャップがそれぞれ相違するため固有であり、反応分子や光触媒の種類に応じた波長の光を照射するための光源27を選択する。
人工光源としては、インコヒーレント光源(例えば、キセノンランプ、ハロゲンランプ、水銀ランプ、重水素ランプ、メタルハライドランプなど)と選択性の高いコヒーレント光源(例えば、エキシマレーザー、アルゴンイオンレーザー、YAGレーザー、半導体レーザーなど)、発光ダイオード等から適宜選択することができる。特に、発光ダイオードを光源27として用いれば、光触媒担持マイクロリアクターの省スペース化と低フォトンコストを実現することができる。例えば、光触媒が二酸化チタンの場合には、紫外光光源が有効であるため、200nm〜400nmの紫外線を主に放射する発光ダイオードを用いることが好ましい。
光の照射時間、光度などの条件は、反応分子、光触媒、反応時間、反応温度、反応器などの条件に応じて適宜設定される。
【0034】
なお、反応器11と光照射装置23(光源27)との配置関係は、反応器11の構造、反応器11の数量、光照射装置23の数量、光照射装置23の出力、光の波長などに応じて、反応流路21に光が照射されるように適宜調整される。
【0035】
更に、光触媒担持マイクロリアクター1には、温度制御手段(図示せず)を設けることができる。この温度調整手段によって、例えば、液体を加熱することにより反応場に熱エネルギーを供給して反応を進行させやすくすることができ、一方、液体を冷却することにより反応を終結させたり、緩やかな条件で反応を進行させたりすることができる。温度制御手段は反応流路を流通する液体を加熱・冷却することができれものであれば特に限定されるものではない。
【0036】
以下、実施例を挙げて本発明について更に詳細に説明する。
【0037】
[実施例]
具体的な反応例を挙げて本発明に係る光触媒担持マイクロリアクターについて説明する。本実施例では、一級アミンをアルコールによってN−アルキル化する反応において、モノアルキル化物を選択的に生成させる反応を例に挙げて説明する。一級アミンのN−アルキル化反応の一例を以下に示す。
【0038】
【化1】

本実施例において、反応基質Aはベンジルアミンであり、反応分子Bはエタノールであり、目的生成物DはN−エチルベンジルアミンである。エタノールは反応分子Bであるとともに、反応溶液31の溶媒でもある。
【0039】
次に、光化学反応における(1)式の反応のメカニズムについて説明する。
光触媒である二酸化チタンの表面に波長365nm前後の紫外線の光エネルギーhνが照射されると、該二酸化チタン上に電子(e)と正孔(h)が生じる[(2)式]。
【0040】
【化2】

次に、正孔(h)により反応分子Bであるエタノール(アルコール)が酸化され、中間生成物Cとしてアセトアルデヒド(ケトン)が生じる[(3)式]。
【0041】
【化3】

また、このとき生じたプロトンから水素が発生する[(4)式]。
【0042】
【化4】

(3)式で生成した中間生成物Cであるアセトアルデヒドが、反応基質Aであるベンジルアミン(一級アミン)に付加する。アセトアルデヒドの付加によって生じた反応中間体D’は脱水反応によって反応中間体D”を経て、(4)式で生じた水素により還元され、目的生成物DであるN−エチルベンジルアミン(二級アミン)が生成する[(5)式]。
【0043】
【化5】

次に、本反応において、逐次的に進行する副反応について説明する。
上述の二酸化チタンを用いた光触媒反応系中に、目的生成物DであるN−エチルベンジルアミン(二級アミン)が滞留し続けると、N−エチルベンジルアミンを基質として、更なるN−アルキル化が進行し、N,N−ジエチルベンジルアミンが生成される[(6)式]。反応分子Bであるエタノールが光触媒により酸化されてアセトアルデヒドを経て、N−エチルベンジルアミンのN位がエチル化されるメカニズムは、上述の(2)式〜(5)式の説明と同様であるためその説明は省略する。
【0044】
【化6】


このような一級アミンのN−アルキル化に用いられる光触媒担持マイクロリアクターは、石英により形成され、反応基質Aであるベンジルアミンと、反応分子Bであり且つ反応溶液の溶媒であるエタノールとを混合させた反応溶液31を流通させる微細な反応流路を有する反応器を備えている。そして、前記反応流路21の底面24および側面25には光触媒として二酸化チタン担持膜が形成され、前記反応流路21に光を照射する光照射装置23を備えている。前記二酸化チタンには、該二酸化チタンの触媒活性を向上させることが知られている白金微粒子が担持されていてもよい。該光照射装置23の光源27は、二酸化チタンを光励起させ得る波長365nm前後の光を照射する紫外発光ダイオードが用いられる。
【0045】
本実施例における光触媒担持マイクロリアクター1では、ベンジルアミン(反応基質A)の濃度と、光触媒担持膜22の比表面積と、反応流路21の光触媒担持領域26との関係が、ベンジルアミンと、エタノール(反応分子B)の光触媒反応によって生じるアセトアルデヒド(中間生成物C)とが反応し、N−エチルベンジルアミン(目的生成物D)が生成され、生成したN−エチルベンジルアミンが、反応系中でアセトアルデヒドと更に反応してN,N−ジエチルベンジルアミンが副生成物として生成する前に、反応溶液31が光触媒担持領域26から脱出するように設定されている。
【0046】
[光触媒担持マイクロリアクターを用いたベンジルアミンのN−アルキル化試験]
上記実施例に示す構成の光触媒担持マイクロリアクターを用いてベンジルアミンのN−アルキル化を行った。反応流路21は、幅500μm、深さ300μm〜1000μm、流路長(光触媒担持領域)40mmである断面四角形状に構成されている。この反応流路21の底面24および壁面25には光触媒担持膜22が設けられている。光触媒としては、アナターゼ型の二酸化チタンを焼成させたものを使用した(実施例1〜3)。また、アナターゼ型の二酸化チタンを焼成させたものに白金を担持させたものについても試験を行った(実施例4)。光源27には、紫外発光ダイオード(主波長:365nm、出力:1.4mW)を7個直列に並べて光励起するシステムを用いた。
【0047】
反応溶媒であり、且つ反応分子Bであるエタノールに対するベンジルアミンの濃度と、光触媒担持領域26である流路長を一定に設定し、反応流路21の深さを変えることによって、光触媒担持膜22の比表面積を調整した。各実施例の反応器の条件を表1に示す。
【0048】
【表1】

まず、実施例1〜3の光触媒担持マイクロリアクターに、反応溶液として1.0×10−3Mのベンジルアミン/エタノール溶液を一定流速で供給した。反応溶液の流速を調整することによって、光触媒担持領域を通過するのにかかる時間を変化させ、すなわち光照射時間を変化させ、目的化合物であるN−エチルベンジルアミンの収率を測定した。その結果を図5に示す。
【0049】
N−エチルベンジルアミンの収率は、反応流路21の深さ、すなわち比表面積に依存し、90秒の光照射を行った場合、深さ1000μmの実施例3では70%、500μmの実施例2では84%、300μmの実施例1では98%という高い収率が得られた。
【0050】
光触媒として二酸化チタンに白金を担持させたものを用いた実施例4では、150秒の光照射によってN−エチルベンジルアミンが83%の収率で得られた。
【0051】
表2に目的化合物であるN−エチルベンジルアミンの収率と副生成物であるN,N−ジエチルベンジルアミンの収率を示す。
尚、表2には、比較例として、大谷らによるアミンのN−アルキル化の研究[J. Am. Chem. Soc., 108, 308(1986)]における、バッチ式スラリーリアクターを用いたベンジルアミンのN−アルキル化試験の結果を引用した(比較例1〜3)。
【0052】
【表2】

白金を担持し酸化チタンの微粉末を分散させたバッチ式スラリーリアクターに、5時間水銀ランプを照射した比較例1では、N−エチルベンジルアミンが84%の収率で得られている。そして、副生成物であるN,N−ジエチルベンジルアミンが2.4%生成している。更に、比較例2では光照射時間が10時間に設定されている。比較例2では、N−エチルベンジルアミンの収率は6.8%であり、N,N−ジエチルベンジルアミンの収率は74.1%である。
【0053】
これは、長時間の光照射によって、生成したN−エチルベンジルアミンが中間生成物であるアセトアルデヒドと更に反応して、副反応が進行し、副生成物であるN,N−ジエチルベンジルアミンが主生成物となったと考えられる。
【0054】
実施例1〜4では、副生成物であるN,N−ジエチルベンジルアミンはまったく生成していない。実施例1〜4では、目的生成物DであるN−エチルベンジルアミンが、中間生成物Cであるアセトアルデヒドとが更に反応して、副生成物であるN,N−ジエチルベンジルアミンを生成する前に、反応溶液31が光触媒担持領域26から脱出するように構成されているため、目的生成物DであるN−エチルベンジルアミンが選択的に得られている。
【0055】
また、比較例3のように、白金を担持させない酸化チタンの微粉末を分散させたバッチ式スラリーリアクターでは、ベンジルアミンのN−アルキル化は進行しなかったと報告されている。
【0056】
白金は、(4)式における水素発生を助けると同時に、(2)式のプロセスの逆反応である電子(e)と正孔(h)との再結合を防ぎ、正孔(h)がN−アルキル化に寄与することなく消失することを抑制する。
光触媒担持マイクロリアクターを用いた反応では、比表面積が高いため、前記電子と正孔の再結合と競合的に起きるN−アルキル化が極めて効率よく進行し、二酸化チタンに白金を担持させなくても反応が進行すると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、反応基質Aと反応分子Bとは、光触媒反応により反応分子Bが中間生成物Cを生成し、次に、反応基質Aと中間生成物Cとが反応して目的生成物Dが生成する反応において、反応液中の反応分子を効率よく反応させ、更にその反応の進行を制御し、選択的に目的生成物Dを生成させることことができる光触媒担持マイクロリアクターとして有効である。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明に係る光触媒担持マイクロリアクターの一実施例を示す斜視図である。
【図2】図1の側面図である。
【図3】図2のIII-III断面図である。
【図4】反応流路の拡大図である。
【図5】光触媒担持マイクロリアクターを用いたベンジルアミンのN−アルキル化試験結果を示す図である。
【符号の説明】
【0059】
1 光触媒担持マイクロリアクター11 反応器、21 反応流路、 22、光触媒、 23 光照射装置、24 底面、 25 側面、 26 光触媒担持領域、 27 光源、31 反応溶液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光透過性材料より形成され、反応基質Aおよび反応分子Bを含んだ反応溶液を流通させる微細な反応流路を有する反応器と、前記反応流路に形成された光触媒担持膜と、該光触媒担持膜の表面に光を照射する光照射装置と、を備えた光触媒担持マイクロリアクターであって、
反応基質Aと反応分子Bとは、光触媒反応により反応分子Bが中間生成物Cを生成し、次に、反応基質Aと中間生成物Cとが反応して目的生成物Dが生成する関係であり、
反応基質Aの濃度と、光触媒担持膜の比表面積と、反応流路の光触媒担持領域は、目的生成物Dと中間生成物Cとが更に反応して副生成物を生成する前に、反応溶液が光触媒担持領域から脱出する関係に設定されていることを特徴とする、光触媒担持マイクロリアクター。
【請求項2】
請求項1において、前記光触媒は、二酸化チタンであることを特徴とする、光触媒担持マイクロリアクター。
【請求項3】
請求項2において、前記光照射装置は、光源として200nm〜400nmの紫外線を主に放射する発光ダイオードを備えていることを特徴とする、光触媒担持マイクロリアクター。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項において、前記反応基質Aはベンジルアミンであり、前記反応分子Bはエタノールであり、目的生成物DはN−エチルベンジルアミンであることを特徴とする、光触媒担持マイクロリアクター。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−313426(P2007−313426A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−145738(P2006−145738)
【出願日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成18年3月28日 日本化学会主催の「日本化学会第86春季年会」において文書をもって発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成18年4月3日 日本化学会・光化学協会主催の「XXIst IUPAC SYMPOSIUM ON PHOTOCHEMISTRY」において文書をもって発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成18年5月17日 化学とマイクロ・ナノシステム研究会主催の「第13回化学とマイクロ・ナノシステム研究会」において文書をもって発表
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【出願人】(500561931)三井造船プラントエンジニアリング株式会社 (41)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【Fターム(参考)】