説明

光触媒膜及びその製造方法

【課題】 SOxによる光触媒粒子の被毒を回避し、長期間に渡り光触媒性能を維持可能な膜を、容易な手法によってコーティングできる材料を開発すること。
【解決手段】 光触媒粒子と、結着剤と、硫黄化合物を捕捉する物質と、溶剤とを含むコーティング材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長期間光触媒能を維持可能な膜を成膜する用途に用いられる、コーティング材及びコーティング材を用いて製造された膜並びにその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
光触媒は、光の存在下で有機化合物を中心に多種の有害物質を分解・無害化することが可能であり、防汚、消臭、抗菌などその他日常生活の要求を満たすことが知られていて、適用された製品が消費者に普及し始めている段階である。
【0003】
この中で、光触媒コーティング材は、コーティング材中に半導体光触媒、特に酸化チタンを含み、すでに存在する物品の表面に光触媒を付与することによって、その物品に上記の光触媒機能を持たせることが可能になる。
【0004】
光触媒として良く用いられる酸化チタンは、常温常圧の使用条件下では酸、アルカリ、水、有機溶剤いずれにも溶解せず、塩素、硫化水素などの反応性の高いガスにも侵されない化学的に安定な物質であり、酸化チタンそのものは対象物質の分解に伴っては消耗せず半永久的である。この長寿命が光触媒の利点であり、メンテナンスを軽減するため用いられることが多い。
【0005】
しかしながら、実際には光触媒は有機化合物による汚染に対しては強い耐久性を示すものの、冷蔵庫内などの含窒素、含硫黄化合物等による汚染が著しい環境においては、硫黄酸化物による性能低下が起こり、これに対して重金属を配合する特許文献1も検討されてきた。しかしながら、汎用コーティング材として塗布することを前提としておらず、その光触媒性能も十分なものではなかった。
【0006】
このような被毒成分としての硫黄に着目して、特に光触媒を空気清浄用途に用いる際には、光触媒部位に対象ガスが到達する前に特許文献2、特許文献3のように、被毒成分をフィルターを通すことによって除去する検討がなされている。しかしながら、このように大がかりな設備とすることは、空気清浄設備に対しては可能であっても、一般的な物品に併設して具備させることは難しい。
【0007】
多層構造として、50μm以上の硝酸の吸収剤の層を設けたり、又は流体として、窒素酸化物を該層に吸着させる手法が特許文献4、特許文献5によって検討されているが、光触媒として有効に機能しない部材が光触媒に対して大過剰であり、システムとしても大がかりになるため、幅広い範囲に適用することは難しい。
【0008】
上記のように、光触媒に対して、汚染負荷が大きい場合には、被毒が起こることは知られているが、幅広い範囲に容易に適用可能な光触媒コーティング材は今のところ得られていない。
【特許文献1】特許公報3488496号公報
【特許文献2】公開特許公報2001−9241号公報
【特許文献3】公開特許公報2002−238982号公報
【特許文献4】公開特許公報2002―78783号公報
【特許文献5】公開特許公報2002―102712号公報
【特許文献6】WO01/16027号パンフレット
【特許文献7】特開平11―43327号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明では、SOxによる光触媒粒子の被毒を回避し、長期間に渡り光触媒性能を維持可能な膜を、容易な手法によってコーティングできる材料を開発することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題の解決のために鋭意検討を重ねた結果、特定の合成法に由来する光触媒粒子と、物理吸着的な吸着挙動を示す物質または、化学的な吸着挙動を示す物質の配合検討を行うことにより、塗工性に優れ、初期の光触媒性能も高く、必要に応じて長期間の光触媒性能の発揮のために任意な付着量を容易に得ることが可能で、かつ、実用に耐えうる強度を持つ膜を形成することが可能なコーティング材が得られることを見いだし、本発明を完成した。
【0011】
こうして、本発明は、以下の発明を提供する。
(1)
光触媒粒子と、結着剤と、硫黄化合物を捕捉する物質と、溶剤とを含むコーティング材。
【0012】
(2)
沈降成分量が全固形分の20質量%を超えない、上記(1)に記載のコーティング材。
(3)
硫黄化合物を捕捉する物質が、活性アルミナ、A型ゼオライト、Y型ゼオライトのうち1つ以上である、上記(1)または(2)に記載のコーティング材。
【0013】
(4)
硫黄化合物を捕捉する物質が、アルカリ土類金属化合物、酸化銅、酸化鉄、酸化マンガン、酸化スズ、酸化亜鉛のうち1つ以上である、上記(1)または(2)に記載のコーティング材。
【0014】
(5)
光触媒粒子がブルッカイト型酸化チタンを含む、上記(1)〜(4)のいずれか1項に記載のコーティング材。
【0015】
(6)
200℃以下の加熱乾燥で鉛筆強度試験でH以上強度を持つ膜を成膜する事が可能な、上記(1)〜(5)のいずれか1項に記載のコーティング材。
【0016】
(7)
固形分の50質量%以上が酸化チタンである、上記(1)〜(5)のいずれか1項に記載のコーティング材。
【0017】
(8)
固形分の60質量%以上が酸化チタンである、上記(1)〜(5)のいずれか1項に記載のコーティング材。
【0018】
(9)
56.25cmの面積に塗布し、20℃、相対湿度50%、5L、50ppmの空気希釈SO2ガス中で10000ルクスで12時間照射環境下で汚染を行い、20℃、相対湿度50%、500ml、500ppmのアセトアルデヒドガス除去試験を行い、汚染前の除去率をa%、汚染後の除去率をb%としたときに、b/aが0.5以上になる光触媒膜を作成可能な、上記(1)〜(8)のいずれか1項に記載のコーティング材。
【0019】
(10)
m個の粒子が連なってネッキング構造を持つ粒子群Aと、0.2m個以下の粒子しか連なっていない粒子群Bと、溶剤とを含む、上記(1)〜(9)のいずれか1項に記載のコーティング材。
【0020】
(11)
粒子群Aが、四塩化チタンを酸化性ガスで高温酸化して製造する気相法によって合成された酸化チタンを含む、上記(10)に記載のコーティング材。
【0021】
(12)
粒子群Aが、四塩化チタンを含有するガス及び酸化性ガスをそれぞれ500℃以上に予熱してから反応させて、BET比表面積換算値による平均一次粒子径が7nm以上200nm以下である超微粒子酸化チタンを含む、上記(10)または(11)に記載のコーティング材。
【0022】
(13)
粒子群BのBET換算値による平均一次粒子径が4nm以上100nm以下である、上記(10)〜(12)のいずれか1項に記載のコーティング材。
【0023】
(14)
粒子群Bのレーザー回折式粒度分布測定器による平均粒子径が4nm以上2000nm以下である、上記(13)に記載のコーティング材。
【0024】
(15)
粒子群Bのレーザードップラー式粒度分布測定による平均粒子径が8nm以上100nm以下である、上記(14)に記載のコーティング材。
【0025】
(16)
粒子群Bが、チタン化合物水溶液を水中で加水分解することによって合成された酸化チタンを含む、上記(10)〜(15)のいずれか1項に記載のコーティング材。
【0026】
(17)
粒子群Bが、四塩化チタン水溶液を水中に滴下する製法によって合成された酸化チタンを含む、上記(10)〜(16)のいずれか1項に記載のコーティング材。
【0027】
(18)
粒子群Bの酸化チタンが、50℃から沸点までに昇温した水中に四塩化チタン水溶液を滴下する製法によって合成された、上記(17)に記載のコーティング材。
【0028】
(19)
粒子群Aの質量Xと粒子群Bの乾燥質量Yの比X/Yが0.01以上0.2以下である、上記(10)〜(18)のいずれか1項に記載のコーティング材。
【0029】
(20)
粒子群Aの質量Xと粒子群Bの乾燥質量Y、コーティング材全体の質量Zであるときに、固形分濃度(X+Y)/Zが0.005以上0.1以下である、上記(10)〜(19)のいずれか1項に記載のコーティング材。
【0030】
(21)
金属酸化物を含むコーティング材であって、レーザードップラー法の質量粒度分布において、8nm以上400nm以下にピークを有する粒子群Ba、800nm以上5500nm以下にピークを有する粒子群Aaを含む、上記(10)〜(20)のいずれか1項に記載のコーティング材。
【0031】
(22)
レーザードップラー法の質量粒度分布において、20nm以上300nm以下にピークを有する粒子群Ba、1200nm以上4000nm以下にピークを有する粒子群Aaを含む、上記(21)に記載のコーティング材。
【0032】
(23)
レーザードップラー法の質量粒度分布において、粒子群Baの積分面積をBaS、粒子群AaSの積分面積をAaSとしたときに、AaS/BaSの比が0.05以上1以下である、上記(21)または(22)に記載のコーティング材。
【0033】
(24)
金属酸化物を含むコーティング材であって、レーザー回折法の質量粒度分布において、少なくとも1μ以上4μ以下にピークAbを有し、コーティング材の乾燥粉体のBET測定値より換算された一次粒子径が7nm以上50nm以下である、上記(10)〜(20)のいずれか1項に記載のコーティング材。
【0034】
(25)
四塩化チタンを酸化性ガスで高温酸化して製造する気相法によって合成された酸化チタンと、チタン化合物水溶液を水中で加水分解することによって合成された酸化チタンと、溶剤とを含む、上記(10)〜(24)のいずれか1項に記載のコーティング材。
【0035】
(26)
四塩化チタンを酸化性ガスで高温酸化して製造する気相法によって合成された酸化チタンと、チタン化合物水溶液を水中で加水分解することによって合成された酸化チタンの乾燥質量の比が0.01以上0.2以下である、上記(25)に記載のコーティング材。
【0036】
(27)
有機系結着剤を含む、上記(1)〜(26)のいずれか1項に記載のコーティング材。
(28)
アニオン系界面活性剤を10ppm以上2000ppm未満含む、上記(1)〜(27)のいずれか1項に記載のコーティング材。
【0037】
(29)
カチオン系界面活性剤を10ppm以上2000ppm未満含む、上記(1)〜(27)のいずれか1項に記載のコーティング材。
【0038】
(30)
ノニオン系界面活性剤を2ppm以上2000ppm未満含む、上記(1)〜(27)のいずれか1項に記載のコーティング材。
【0039】
(31)
ノニオン系界面活性剤を2ppm以上50ppm未満含む、上記(1)〜(27)のいずれか1項に記載のコーティング材。
【0040】
(32)
光触媒粒子と、結着剤と、d50が5μ以下である硫黄化合物を捕捉する物質と、溶剤とを混合する工程を含む、コーティング材の製造方法。
【0041】
(33)
上記(1)〜(31)いずれか1項に記載されたコーティング材より作られた膜。
【0042】
(34)
膜が50nm以上30000nm以下の平均膜厚を有する、上記(33)に記載の膜。
(35)
膜が50nm以上2000nm以下の平均膜厚を有する、上記(33)に記載の膜。
(36)
膜が粒子群Aの凝集粒子径の1/10倍以上5倍以下の平均膜厚である、上記(33)に記載の膜。
【0043】
(37)
上記(33)〜(36)のいずれか1項に記載の膜を表面または内部に備えた物品。
(38)
物品が、消臭、防汚、抗菌などの光触媒機能のうち、少なくとも1つの機能を有する上記(37)に記載の物品。
【0044】
(39)
物品が、建材、照明器具、意匠性窓ガラス、機械、車両、ガラス製品、家電製品、農業資材、電子機器、携帯電話、工具、食器、風呂用品、純水製造装置、トイレ用品、家具、衣類、布製品、繊維、革製品、紙製品、樹脂製品、スポーツ用品、布団、容器、眼鏡、看板、配管、配線、金具、衛生資材、自動車用品、文房具、ワッペン、帽子、鞄、靴、傘、ブラインド、バルーン、配管、配線、金具、照明、蛍光灯、LED、信号機、街灯、玩具、道路標識、装飾品、テント、クーラーボックスなどのアウトドア用品、造花、オブジェ、フィルタ、消臭用フィルタからなる群より選ばれた少なくとも1種である、上記(37)または(38)に記載の物品。
【発明を実施するための最良の形態】
【0045】
(光触媒の性能低下)
光触媒は、有機物を水と二酸化炭素に分解可能であるため、一般に光が当たる環境下においては従来型の触媒よりも有機物への耐性がある。しかしながら無機系の汚染、すなわち金属や窒素酸化物、硫黄酸化物による汚染は、光触媒の表面で酸化されても除去されることなく残留し、光触媒性能に悪影響を与えることがある。特に窒素酸化物および硫黄酸化物は、空気中に存在する無機分として多く、さらにNO3-またはSO42-が安定的に酸化チタンに吸着され、さらに硫黄酸化物は全く揮発しないため、酸化チタン表面に経時的に蓄積する。以降「汚染」と記した場合、特に断りがなければ、この光触媒表面に残留する無機系物質の事を示す。
【0046】
被毒された酸化チタン等の光触媒は、本来目的とする分解対象物を吸着することが困難となる。有機化合物の分解はほとんどが酸化チタンに基質が吸着されてから起こり、吸着サイトが、被毒物質でふさがれると、性能低下が著しい。一例として、市販の酸化チタンゾル(平均粒子径5nm)をアルコール80質量%の水溶液で酸化チタン濃度が1質量%となるように希釈し、塗布液とした。この塗布液を、7.5cm四方(56.25cm2)のガラス板に塗布、乾燥を行い、20℃、湿度50%に調節した5Lの50ppmの汚染源ガス中に該ガラス板を入れ、外部より東芝ライテック(株)製蛍光灯「メロウホワイト」をもちいて、サンプル位置で10000ルクスになるように位置を調節し、12時間汚染試験を行った。汚染を行わなかったサンプル、NOで汚染を行ったサンプル、SO2で汚染を行ったサンプルをそれぞれ、20℃、湿度50%、アセトアルデヒド500ppmに調整した500mlのガス中に入れ、外部より、「メロウホワイト」を用いて、ガラスサンプル位置で10000ルクスとなるように照射を行い、アセトアルデヒドガス濃度の経時変化をガスクロクロマトグラフィーを用いて観察した。
【0047】
【表1】

表1に示すように、SO2で汚染したサンプルでのみ、著しい性能低下が見られた。また、これらのサンプルを水洗したところ、汚染を行わなかったサンプルと同等なアセトアルデヒド減少曲線を描くことがわかった。このサンプル洗浄に用いた水をイオンクロマトグラフィーで測定したところ、SO42-溶出量がサンプル酸化チタンに対して、1.2質量%に達し、少なく見積もってもこの濃度で汚染が起こっていることがわかった。これらの結果により、薄膜においては、硫黄酸化物で汚染されることにより、性能低下が起こることが確認された。また、空気中に含まれているSO2においても、経時によって酸化チタン表面にSO42-の形で硫黄酸化物被毒の蓄積が起こるということが推測される。実環境下においても光触媒をサンプルに塗布し、15000ルクス程度の強い光の照射下におき、2ヶ月程度大気開放下に放置すると、その後にアセトアルデヒド分解を確認した場合消臭性能について低下が見られる。このサンプルについてXPSで深さ方向分析を行うと、膜全体に均一な濃度での硫黄化合物での汚染が確認され、溶出試験を行うと酸化チタンに対して1質量%前後のSO42-で汚染されていることが確認された。
【0048】
その他にも、硫黄化合物と比較すると、影響は不明瞭であるが、基材中に比較的軽金属のイオンが含まれていたり、硫黄化合物等の汚染源が存在している場合、大気からだけではなく、基材側からも汚染が起こる。
【0049】
この、汚染対策として、本発明においては、光触媒コーティング材中に汚染物質を捕捉可能な物質、または汚染濃度を低下させることが可能な物質を配合することにより、光触媒粒子そのものへの被毒を防ぎ、課題の解決を行った。
【0050】
(本発明に用いる光触媒粒子)
本発明に用いることが可能である光触媒粒子は、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化ジルコニウム、硫化カドミウム、タンタル酸カリウム、チタン酸ストロンチウム、セレン化カドミウム、酸化ニオブ、酸化鉄、酸化タングステン、酸化スズ等、特に制限は無いが、触媒能が高く毒性の低い酸化チタンであることが望ましい。中でも、後に詳述するが、気相法によって合成される粒子群A、液相法によって合成される粒子群Bがとくに光触媒性能が高いことが従来の検討からわかっており、本検討ではこれらの内の片方、又は混合して両方を用いることが好ましい。
【0051】
(コーティング材)
本発明におけるコーティング材は、すくなくとも、光触媒粒子と、汚染の影響を軽減可能な物質と、さらに結着剤と、溶剤からなり、スプレー塗布、ディップ塗布、フロー塗布のできるような低粘度のものでもよく、スキージ法、ドクターブレーディング法で塗布できるような高粘度のものでもよい。
【0052】
本発明において使用する硫黄化合物を捕捉する物質は、d50が5μm以下であることが望ましい。d50が5μmを超えると、製膜性が低下し、好ましくない。
【0053】
(物理捕捉剤)
本発明では、光触媒粒子とともに、硫黄化合物を物理的に捕捉する物質を含むことができる。この物理捕捉剤は光触媒機能を持たない微粒子であることができる。
【0054】
具体的には、親水性が高く、微粒子で、且つ重量当たりの比表面積の大きいシリカ、アルミナなどを用いて、酸化チタンの硫黄酸化物等による汚染濃度を該添加物に分配、分散するという手法をとってもかまわない。
【0055】
添加する物理捕捉剤粒子は、中心粒子径が5nm以上3μm以下であることが望ましく、成膜性、コストの面を考慮に入れると、8nm以上1μmであることが好ましい。特にシリカ微粒子には1g当たりの比表面積が1000m2を越えるものが入手可能であり、汚染物質の濃度を分散するためには好ましい。この中でもコスト、吸着、分散まで考慮すると、300m/g以上1000m/g以下であることが好ましい。
【0056】
たとえば、100m/gの酸化チタンを光触媒粒子とし、1000m/gのシリカを添加剤として1:1で配合したとする。酸化チタン、シリカへの単位面積あたりの汚染物質の吸着量が同等であったと仮定すると、酸化チタン表面に蓄積していく汚染物質は、シリカを混ぜなかった際と比較すると計算上1/5以下となる。このような気候が起こった場合、マクロな視点では、酸化チタン表面の汚染物質濃度が下がって、知りか成分のなかに凝縮されたことになる。すなわち、汚染物質が物理吸着添加剤に吸着されたことになる。
【0057】
また、コロイダルシリカ、アルミナゾルは、酸化チタン微粒子と比較して成膜性に優れるものがあるため、これらによって単位面積当たりの膜の付着量を増やし、膜中の汚染物質濃度を下げることが可能である。
【0058】
物理捕捉剤として、活性アルミナやA型ゼオライト,Y型ゼオライト、活性炭等、吸着能力が高いものを用いることもできる。この中でも、色調、微粒品の入手のしやすさ、硫黄酸化物の吸着容量などの観点から、特に活性アルミナを用いることが好ましい。
【0059】
これらの物理吸着剤は光触媒粒子に対して、添加する場合には、10質量%以上200%以下配合することが好ましい。初期の光触媒性能を重視する場合には、光触媒粒子に物理吸着剤の濃度を5質量%以上150質量%以上とすることが好ましい。さらに好ましくは20質量%以上50質量%以下であることが好ましい。
【0060】
また、これらの物理吸着剤は必要に応じてボールミル、ビーズミル、ロッキングミル、ペイントシェーカー等を用いて破砕し、5nm以上5μm以下の粒径にすると、成膜性が向上して好ましい。
【0061】
(化学捕捉剤)
汚染物質を固定化する方法としては、上記の物理的捕捉剤のほか、化学物質として非イオン化する方法があり、この目的に使用される捕捉剤を本発明では化学捕捉剤と呼ぶ。例えば、遷移金属の酸化物、酸化銅、酸化鉄、酸化マンガン、酸化亜鉛の微粒子には硫黄酸化物を捕捉する強い作用がある。また、アルカリ土類金属の化合物、特に塩化物、例を挙げると、塩化マグネシウム無水物、塩化マグネシウム六水和物、塩化カルシウム無水物、塩化カルシウム二水和物、塩化ストロンチウム、塩化ストロンチウム六水和物、塩化バリウム無水和物、塩化バリウム二水和物は硫酸イオンの存在下で難溶性の硫酸塩となり、光触媒粒子表面に硫酸イオンが吸着されることを防ぐことが可能になる。また、コーティング材がアルカリ性の場合は添加するアルカリ土類金属塩が、例示された金属の炭酸塩、炭酸水素塩でもかまわない。
【0062】
これらの化学捕捉剤は、塩化物の状態においては水溶性であり、アルコール等の一部の有機溶剤にもある程度の量が溶解するため、光触媒コーティング材に添加し、光触媒粒子と混合した状態で一度に塗布、成膜する事が可能になる。または、添加剤を含まない光触媒コーティング材を塗布、成膜したのち、アルカリ土類金属の化合物を溶解または分散させた水、又は有機溶剤を上塗り塗布し、成膜する手法によっても、光触媒粒子表面に添加剤を付与することが可能である。
【0063】
光触媒塗膜を100℃以上という高い温度で焼成硬化しなくてはいけない場合、アルカリ土類金属を含む状態で高温にしてしまうと、反応性の高いナノサイズ粒子である光触媒粒子とアルカリ土類金属イオンが反応し、性能が低下してしまうことがある。このため、膜の硬化時に高温が必要な場合には、化学捕捉剤を含まない光触媒コーティング材を塗布した後に、上塗りとして化学捕捉剤を塗布する手法が有効である。
【0064】
酸化銅、酸化鉄、酸化マンガン、酸化亜鉛の微粒又はアルカリ土類金属化合物は、金属換算で光触媒粒子に対して、添加する場合には、0.01質量%以上であると、添加効果が認められ、200%を超える量配合すると光触媒性能を損なってしまうことがあるため、200質量%以下であることが好ましい。初期性能を十分に発揮させるためには、光触媒粒子に対して1質量%以上50質量%以下であることが好ましい。
【0065】
要求される光触媒性能の寿命、及び使用環境によって上記の値は左右されるが、波長310nm以上390nm以下の紫外線量を積分して定量する紫外線光量計で0.1mW/cm以上の光が12時間/日照射、SOx濃度が50ppb、1年以上の光触媒寿命、というモデル仕様であれば、5質量%以上20質量%以下であることが好ましい。アルカリ土類金属は、光触媒コーティング材に配合する際に、単体で用いてもかまわないし、2種類以上の化合物を混合して溶解、又は分散して用いてもかまわない。
【0066】
物理吸着剤及び化学捕捉剤を用いて、汚染物質を除去する際には、膜の組成に対して、成分濃度が均一である必要はない。膜厚方向に対して、汚染物質を捕捉する成分濃度について勾配を付けることも可能であるし。上塗りをしたり、アンダーコートとして用いて局在化してもかまわない。例えば、汚染が外部由来であることが判明している場合には、先述のように先に光触媒塗膜を作成し、物理吸着剤、あるいは化学捕捉剤を上塗りしてもかまわない。逆に汚染物質が基材由来のものであることが判明している際には、物理吸着剤、化学捕捉材をアンダーコート材として加工し、塗布成膜してから、光触媒膜を作成しても良い。物理吸着剤や化学捕捉材も光触媒性能に対して若干の悪影響がある際には、膜中で光触媒成分とこれらの捕捉材が偏在しているほうが、初期の光触媒性能が高くなり、好ましいことがある。
【0067】
(沈降成分量、固形分量の説明)
以下に沈降成分量、固形分量について説明する。
コーティング材中の固形分とは、コーティング材100gをパイレックス(登録商標)製ビーカーに秤取り、120℃の恒温乾燥器に24時間以上入れておき、残った固形分の質量を秤量することで測定される。固形分質量より、コーティング材の固形分濃度の算出も行うことができる。
【0068】
本発明における沈降成分量Z[g]は以下のように定義される。まず固形分濃度X[%]のコーティング材100gを密閉容器に入れて、室温にて24時間静置後、液面から90体積%相当分をデカンテーションで分離し、残りを120℃の恒温乾燥器に24時間以上入れておき、水分を蒸発させる。得られた固形分には沈降している分だけでなく、当然デカンテーションによって除かれなかった下層の液中に分散していた分も含まれるので、得られた固形分Y[g]から、分散している分と予想される0.1X[g]を減じたものが沈降成分量Z[g]として定義される。すなわち、沈降成分量Z[g]は下記式によって表すことができる。
Z=Y−0.1X
この沈降成分量Z[g]が、全固形分X[g]の20質量%を越えないような良好な分散状態にあるコーティング材が、本発明のコーティング材の特徴である。このように分散性が優れたコーティング材であることは、後ほど詳細については記すが塗布、混練等の用途のために必要不可欠である。
【0069】
コーティング材は、スプレー塗布、ディップ塗布、フロー塗布のできるような低粘度のものでもよく、スキージ法、ドクターブレーディング法で塗布できるような高粘度のものでもよい。
【0070】
(無機系結着剤)
本発明のコーティング材において、無機系結着剤を用いれば、膜そのものの耐溶剤性、耐高温特性が良好な硬度の高いものを作成することが可能である。
【0071】
無機結着剤としては、Zr化合物、Si化合物、Ti化合物、Al化合物が例示される。具体的にはオキシ塩化ジルコニウム、ヒドロキシ塩化ジルコニウム、硝酸ジルコニウム、硫酸ジルコニウム、酢酸ジルコニウム、炭酸ジルコニウムアンモニウム、プロピオン酸ジルコニウム等のジルコニウム化合物、アルコキシシラン、アルコキシシランの鉱酸による部分加水分解生成物、珪酸塩等の珪素化合物、或いはアルミニウムやチタンやジルコニウムの金属アルコキシドやそれらの鉱酸による部分加水分解生成物等が挙げられる。また、アルミニウム、シリコン、チタンやジルコニウムのアルコキシドから、複数金属種のアルコキシドを選択し複合化したり加水分解させたものも挙げられる。
【0072】
また、厚膜時の膜強度は、人工ガラス繊維、ロックウール、スラグウールなどを配合することによって改善することが可能である。これらのセラミックス繊維の平均直径は、0.5μm以上10μm以下であることが望ましく、より好ましくは2μm以上6μm以下であることが好ましい。また、成膜後の膜厚に対して繊維の直径が1/11以上1/1以下であることが好ましく、より好ましくは1/4以上1/2以下であることが好ましい。これらの繊維は膜に機能を持たせる主成分である金属酸化物粒子に対して、添加する場合には、5質量%以上であると膜強度の向上につながり、100質量%を超える量を配合すると、膜機能の低下につながったり、金属酸化物粒子に対してサイズが著しく大きいために、膜が疎になり強度の低下につながることがあるため、100質量%以下であることが好ましい。より好ましくは15質量%以上50質量%以下であることが好ましい。
【0073】
さらに、分散シリカ(コロイダルシリカ)、分散アルミナ(アルミナゾル)を液中に含んでも良い。これらの粒子は特に8nm以上50nm以下の超微粒子であることが望ましく、より好ましくは9nm以上30nm以下であることが好ましい。また、これらのゾルは、pHが5以下であると、光触媒機能を持つ金属酸化物微粒子が酸化チタンであったときにその凝集を防ぐことが可能であり、好ましい。コロイダルシリカ、アルミナゾルなど補助的に添加される金属酸化物微粒子は膜に機能を持たせる主成分である金属酸化物粒子に対して、添加する場合には、5質量%以上であると膜強度の向上につながり、200質量%を超える量を配合すると、膜機能の低下につながったりするため、200質量%以下であることが好ましい。より好ましくは、10質量%以上90質量%以下であることが好ましい。
【0074】
テトラメチルオルソシリケートやテトラエチルオルソシリケートに例示されるアルキルシリケート類を、単体又はセラミックス繊維または金属アルコキシドの共存下で溶剤中で加熱したものを結着剤として添加してもよい。また、別途ラダーシリコーンを入手し、添加することによって上記効果を果たしてもかまわない。この際のラダーシリコーンは1000程度の分子量を持つオリゴマーに近いものでも良く、数万の分子量を持つものを用いてもかまわない。この珪素化合物の重合を進める際には、鉱酸でpHを酸性に維持しつつ行うことが好ましい。この際のpHは1以上3以下であると反応が安定するが、あまり酸性が強いと、配合されたコーティング材を使って塗布をする際に腐食が問題となるため、2以上3以下であることが好ましい。またアルキルシリケートをシリカ換算で濃度を1質量%以上10質量%以下で重合を行うことが好ましい。1質量%未満の濃度で重合を行うと、バインダーとして配合する際に、主成分である金属酸化物を希釈しすぎてしまい、10質量%以上で反応を行うと重合の制御を行うのが困難である。より好ましくは2質量%以上6質量%以下である。重合温度については、生産の効率から考えると高いことが好ましいが、分子量を小さいままにとどめて、結着剤液粘度を低いままに保ちたい場合は、30℃以上50℃未満という比較的低温で進めることが好ましい。この際、ゲル浸透クロマトグラフ(GPC)を移動相テトラヒドロフランを用いて測定した際にPEG換算で1000以上2000以下のものを用いることが望ましい。
【0075】
反応温度と反応時間はトレードオフの関係にあるが、例えば40℃で反応させた場合、反応時間を1時間以上2時間以下で止め、冷却して反応を停止させることが好ましい。この際、該液の動粘度は1.0cSt以上2.0cSt以下となる。
【0076】
セラミックス繊維、または、コロイダルシリカや、アルミナゾルのように補助的に添加される金属酸化物粒子に対して、アルキルシリケートやマグネシウムアルコキシドやアルミニウムアルコキシド、チタンアルコキシド、リン酸アルミニウム、リン酸マグネシウムを加温して部分的に重合し、架橋構造を持つ金属酸化物を作成して、この重合を降温や試薬の投入などで中断し、セラミックス繊維、あるいはコロイダルシリカ、アルミナゾルのような成膜性が高い微粒子と複合化された結着剤を作成し、コーティング材に配合することができる。
【0077】
この際、水には溶解しない有機化合物を用いることもあるので、溶剤にはメタノール、エタノール、イソプロピルアルコールに代表されるアルコールなどの有機溶剤を用いる。さらに縮合を止めて液を保存するために、酢酸やアセチルアセトン、イソシアネート構造を持つ化合物を配合しても良い。
【0078】
さらに厚膜化を必要とする場合には、先述のように、人工ガラス繊維、ロックウール、スラグウールなどをコンクリートに対する鉄筋のように配備し、厚膜となっても強度を維持可能なようにしてもよい。また、強度を維持するためにアルキルシリケート類単体や、セラミックス繊維又は金属アルコキシドと複合化し、先述のような手法で部分重合したサンプルを結着剤として用いてもかまわない。この際、粘度の上昇が確認できるサンプルの方が、より厚膜の作成には適する。
【0079】
(有機系結着剤)
本発明において、有機系結着剤を用いれば、膜そのものの可橈性が比較的良好なものを作成することが可能である。ポリビニールアルコール、メラミン樹脂、セルロイド、キチン、澱粉シート、ポリアクリルアミド、アクリルアミド、ポリN−ビニルアセトアミド、N−ビニルアセトアミド−アクリル酸ナトリウム共重合体、N−ビニルアセトアミド−アクリルアミド共重合体、ポリアクリルアミド、アクリルアミド−アクリル酸ナトリウム共重合体、ポリN−ビニルホルムアミド、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−ポリフッ化プロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−ポリフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、スチレン−ブタジエン共重合体、ポリビニルピリジン、ビニルピリジン−メタクリル酸メチル共重合体、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキサイド、ウレタン樹脂、アクリルシリコン樹脂から選ばれる高分子化合物の一つもしくはそれらの混合物が挙げられる。これらの中でも、ポリN−ビニルアセトアミド、ポリアクリルアミド、N−ビニルアセトアミド−アクリル酸ナトリウム共重合体、アクリルアミド−アクリル酸ナトリウム共重合体およびポリテトラフルオロエチレン、ウレタン樹脂、アクリルシリコン樹脂が対候性の面から好ましい。これらの結着剤を、有機無機を問わず、混合物として使用することにより相互の特性を向上させることも可能である。
【0080】
(有機物と無機物の結着剤の組み合わせ)
この、有機物と無機物の結着剤の組み合わせとして、優れたものの一つに、フッ素系樹脂と先述の無機系結着剤(上記強化材、珪素化合物を含む)との組み合わせが挙げられる。この組み合わせは、無機系結着剤、有機系結着剤の相互の欠点を補完しあい、相乗的な特性を持つことから、光触媒のコーティング材と用いることがきわめて有効である。
【0081】
フッ素系樹脂は、有機溶剤に対して可溶化されて用いられることも多く、過去に光触媒コーティング液として各種の検討事例が存在する。この、可溶化された状態の樹脂を用いると、成膜性は比較的良いが、トルエンや、疎水性基を高めたケトン類など有害性の高い溶剤を揮発させて成膜させる必要があり、有害な蒸気が発生する。また、光触媒粒子が膜中に埋没して、単位面積あたりにたくさんの光触媒を付着させたとしても、それらが有効に働かない状況となる。このため、本発明では、コーティング材に用いる溶剤に対して溶解していないフッ素系樹脂を粒子として分散させて用いてもよい。
【0082】
本発明においては結着剤の選定によって、200℃という比較的低温においても、充分な膜強度を得ることが可能である。200℃以下の硬化温度であると、強化ガラスの特性を損なうことなく成膜が可能であったり、ポリエチレンテレフタラート、ポリエチレンナフタレート等の中程度の耐熱性を持つ汎用樹脂上への適用が可能となるため、基盤の選択範囲が著しく増大する。
【0083】
(粒子群Aと粒子群B)
本発明は、光触媒粒子として、粒子群Aか粒子群Bのどちらかが含まれれば良いことは先述したが、より好ましくは、ネッキング構造を多く持つ粒子からなる粒子群Aと、粒子群Aと比較してネッキング構造が少ない、または全く持たない粒子群Bと、これらの粒子を含んでいる溶剤を含んでなる。すなわち粒子群Aと粒子群Bと溶剤を含み、粒子群Aのネッキング粒子の個数が、粒子群Bのネッキング粒子の個数より多いことを特徴とする。また、本発明の好ましい実施態様のコーティング材においては、四塩化チタンを酸化性ガスで高温酸化して製造する気相法によって合成された酸化チタンと、チタン化合物水溶液を水中で加水分解することによって合成された酸化チタンと、溶剤を含んでなる。本発明の好ましい実施態様における特徴は、粒子同士がネッキングした構造を持つ粒子群Aをコーティング材中に最適量配合したことにある。粒子群Aがネッキングしていることを判断する指標のひとつとして、図1に示すようにTEMで粒子群を観察した場合に、「イ」においては単に粒子同士が点で接触しているだけであるが、それだけでなく、「ア」のように粒子が面で接触し、酸化チタンが連続している粒子として観察される部分が見られるということがある。
【0084】
粒子群A、及びBを組み合わせて配合することによって、本発明におけるコーティング材は以下に記すような特性をさらに強くし、光触媒膜を形成するために望ましい特徴を持つコーティング材を製造することが可能である。
【0085】
(a)強度が高い膜を形成可能
(b)結着成分量の低減が可能
(c)光触媒能の高い膜を形成可能
(d)塗工性の向上
(e)タック性の低減
粒子群Aおよび粒子群Bは適切なネッキングの程度であることが好ましい。粒子群A,粒子群B及びバインダー成分が存在する系においては、レーザードップラー型の粒度分布測定器を用いると、少なくとも二つの粒度分布のピークを持つことが確認できる。本発明においては、この粒度の分布を、ELS−800(大塚電子(株))を用いて定義することが好ましい。以下に測定法を示す。測定サンプルは粉体濃度が0.07質量%になるように特級エタノール(関東化学(株))で希釈し、この液を200mlPYLEX製ガラス容器に150mlとり、超音波洗浄機iuchi ultrasonic cleaner VS−70U(出力65W、水槽容量800ml)を用いて1分間照射を行いサンプルを得る。液体サンプルを内寸10mm四方のポリスチレン製角形セルUltra−Vu Disposable Cuvettes(Elkay社製)にセルに示された規定量まで入れ、測定を行う。測定の際に設定した各変数は以下の通りである。
【0086】
測定系は25℃恒温とし、分布解析にはマルカット法を用いる。積算回数は100とする。測定モードはタイムインターバル法を用いる。サンプリングタイムは20μsec、取り込みチャンネル数は512とする。ホモダイン法を用い、最適光量を10000、最低光量を5000,最高光量を20000に設定する。エタノールの粘度は1.10cP、屈折率1.3595、比誘電率24.5、として解析を行う。装置の初期設定においては、ダストカット機能によって、粗粒側の結果が小さくなってしまうが、本測定においては粒子群Aが数μmの部分に現れることがあるため、このダストカット機能はオフにする。散乱強度モニターを用いて強度のばらつきが100カウントで20%以内になったところで測定を開始する。粒子群AとBの比率は、粒子の質量分布を、面積積分する事によって判断する。
【0087】
上記の手法によって定義される、比較的大きな粒径を持つ粒子群A(Aa)は、構造を保持し、これまで述べてきたような特性を示すために、コーティング材中での粒度分布として800nm以上であることが望ましい。また、あまり大きいと膜中から突出し、膜はがれの要因となってしまうため、5500nm以下にピークを持つような粒度分布をコーティング材中で示すことが望ましい。ただし、これらの粒度分布を示した粒子群は、塗工時に剪断、邂逅されるため、塗膜中にはこれ以下の粒子としてしか存在しない可能性がある。また、比較的小さな粒径を持つ粒子群B(Ba)は、8nm以上400nm以下でコーティング材中に存在することが望ましい。この粒子群は、粒子群Aの空隙に入る役目を果たすため、一次粒子に近いことが望ましいが、本コーティング材にはバインダー成分が存在するため、実際には完全に一次粒子の状態で存在させることが困難であり、凝集を伴って一次粒子の数十倍の粒径となって測定されることもあり得る。粒子群Aの粒度分布のピーク位置はより望ましくは、1200nm以上4000nm以下であることが望ましく、粒子群Bの粒度分布のピーク位置はより望ましくは20nm以上300nm以下にあることが望ましい。
【0088】
コーティング材中に含まれる粒子群A(Aa)に関しては、レーザー回折型粒度分布計SALD−2000J(島津製作所製)を用いて、粒度分布を定義することも可能である。レーザードップラー式粒度分布計を用いた際に観察された粒子群Bによるピークは、レーザー回折型分布計を用いた際には粒径の測定下限に近いためか、明確には観察されないこともあるが少なくともコーティング材中に含まれる粒子群A(Aa)の規定は可能である。回折型粒度分布計の測定方法は以下の通りである。
【0089】
サンプルを0.05質量%となるように特級エタノールで希釈し、SALD−2000Jで回折光強度が測定領域に達するまで該希釈サンプルを測定系に投入する。この際、あらかじめ測定系もエタノールで充分に置換し、満たしておく。粉体の屈折率としては、2.50−0.1i(iは虚数)で解析を行った。
【0090】
本発明における粒子群を上記手法によって測定すると、体積粒度分布において少なくとも1μ以上4μ以下にピークを持つ。1μ以上にピークを持つとコーティング材が本発明における(a)〜(f)までの特性を発揮しやすい。ただし、4μmを越えると、コーティング材から作成された膜から粒子が突出し、はがれの原因となることがある。(a)〜(f)までの特性を十分に発揮するためには、1.2μm以上3μm以下であることがより望ましい。
【0091】
コーティング材の乾燥粉体、すなわち粒子群Aと粒子群Bの混合物のBET比表面積より換算された平均一次粒子が、7nm以上50nm以下であることが好ましい。算出方法は以下の式(2)によって示す。7nm未満の粒子を作ろうとすると、生産上の困難が伴う場合がある。50nmを越えるとコーティング材より作成された膜のヘイズが高まり、膜の特性が損なわれる場合がある。
【0092】
これらのコーティング材を製造する手法としては、粒子群Aの原料と粒子群Bの原料を配合することによって行うことが可能である。
【0093】
粒子群Aがm個連なってネッキング構造を持っている場合には、粒子群Bはその1/2以下の個数の粒子(0.5m個以下の個数の粒子)でしか連なっていないものであることが好ましく、より好ましくは1/5以下の個数の粒子(0.2m個以下の個数の粒子)でしか連なっていないものが良い。粒子群Bに関しては、まったくネッキングせず、一次粒子がそのまま存在していている場合においても本発明における目的は達成される。つまり、粒子群Bのネッキング粒子の個数は平均0.000000001〜0.2m個が好ましく、平均0.0000001m〜0.1m個がさらに好ましい。粒子群Aのネッキングしている個数は、TEMやSEMなどの顕微鏡で観察し判断してもよいが、個数が極めて多く、かつ、顕微鏡の視野も限られる。このため、レーザー回折式粒度分布計による粒子径DL(いわゆるD50値)、タップ密度Ρ(JIS K−5101−20.2による測定値)、BET法による一次粒子径D1、チタニアの真密度をρとしたとき、ネッキングしている個数mを以下の手法で決定する。
【0094】
【数1】

【0095】
原料粉体のDLの値の測定においては、コーティング材の粒度分布を測定した際と機器としては同様にレーザー回折式粒度分布計を用いるが、対象が粉体であるため手法としては以下に示すような異なるものを用いる。
【0096】
酸化チタンが粉体換算で0.05g含まれる水スラリー50mlに10%ヘキサメタリン酸ソーダ水溶液100μlを加え、3分間超音波照射(46KHz、65W)する。このスラリーについてレーザー回折式粒度分布測定装置((株)島津製作所 SALD−2000J)を用いて、粒度分布を測定する。
【0097】
また、粒子群Aまたは粒子群Bの一次粒子の粒径D1は、BET法で求めた比表面積を、粒子を球形に換算して(2)式より求めた平均の一次粒径をいう。
【0098】
D1=6/ρS(式中、ρは粒子の真密度、Sは粒子の比表面積) …(2)
粒子群Bのネッキングしている個数は、粒度分布、TEMなどによって分析可能であるが、粒度分布を測定することが好ましい。粒子群Bの粒子の粒径はレーザー回折式での測定範囲の下限値に近いことがあり、正確な分析を行うためには、先述のレーザードップラー式の粒度分布測定装置を用いる。試料準備方法も先述のELS−800を用いたときと同様にして行う。ただしゾルは乾燥粒子とせず、ゾル状態のまま希釈して規定濃度としたものを測定試料として使用する。散乱光強度が最強となる粒子径をDL、乾燥粉のタップ密度をΡとし、式(1)よりネッキングしている個数mを求める。
【0099】
本発明における粒子群A及びBは、粒子群Aとして単独で粒度分布を測定した際と、粒子群A,B,及び必要であればバインダーを混合して粒度分布を測定した際には、凝集状態が異なる場合が多い。
【0100】
式(2)より算出された粒子群Aの平均一次粒子径は7nm以上200nm以下であることが望ましい。7nm未満であっても使用は可能であるが、粒子群Aの生産性が悪くなり高コストなものとなってしまう場合がある。また200nm超の粒子径であっても使用は可能であるが光の散乱の度合いが強くなり、これを含むコーティング材から透明な膜を得ることが難しくなってしまう場合がある。
【0101】
粒子群Aと粒子群Bの粒度は異なる分布を持っていることが多く、充填や、膜の均一性などを考慮した際に特に粒子群Aの原料についてはある程度の均一性を持つことが望ましい。
【0102】
(粒子群A)
ハロゲン化金属等を高温で酸素等の酸化性ガスと反応させる、いわゆる気相法によって得られる金属酸化物粒子群は、合成時の熱履歴が高いため結晶性が高く、かつネッキング結合を持つ。また、気相法は他の製造方法に比べ、比較的一次粒子の粒度分布の狭い粉末が得られるため、粒子群Aまたは粒子群Bとして用いたとき、本発明の金属酸化物構造体として好ましい一次粒子の粒度分布を得やすい。本発明で用いられる粒子群Aの一次粒径は、特に制限はないが、7〜200nm、好ましくは7〜150nm、さらに好ましくは10〜100nmである。粒子群Aは光触媒能を示す金属化合物粒子であれば酸化亜鉛、酸化チタン、酸化ジルコニウム、硫化カドミウム、タンタル酸カリウム、チタン酸ストロンチウム、セレン化カドミウム、酸化ニオブ、酸化鉄、酸化タングステン、酸化スズ等、特に制限は無いが、触媒能が高く毒性の低い酸化チタンであることが望ましい。
【0103】
本発明で好ましく用いられる気相法酸化チタンは、特に制限はないが、アナターゼ型結晶やブルッカイト型結晶を含有するものが好ましい。アナターゼ型結晶を含有する場合には、アナターゼ型の酸化チタン単独のほか、ルチル型の酸化チタンも含んでいてもよい。アナターゼ型の酸化チタンのほかにルチル型の酸化チタンを任意に含む場合、酸化チタン中のアナターゼ型の割合は、特に制限はないが、通常1〜100質量%であり、好ましくは20〜100質量%、より好ましくは50〜100質量%である。これは、アナターゼ型の酸化チタンの方が、液中への分散が容易であり、コーティング材の原料として用いやすいからである。
【0104】
気相法による一般的な酸化チタンの製造方法は公知であり、特に制限されるものではないが、四塩化チタンを酸素又は水蒸気のような酸化性ガスを用いて、約1,000℃の反応条件下で酸化させると微粒子酸化チタンが得られる。好ましい反応形態として、特許文献6による製法などを例示することができる。以下、本発明における原料となる酸化チタンの製造方法について、さらに具体的に説明する。
【0105】
気相法における粒子の成長機構には大別して2種類あり、一つは、CVD(化学的気相成長)であり、もう一つは粒子の衝突(合体)や焼結による成長である。本発明の目的とするような超微粒子状の酸化チタンを得るためには、いずれの粒子成長時間も短くすることが好ましい。すなわち、前者の成長においては、予熱温度を高めておいて化学的反応性(反応速度)を高めること等により成長を抑えることができる。後者の成長においては、CVDが完結した後速やかに冷却、希釈等を行い、高温滞留時間を極力小さくすることにより、焼結等による成長を抑えることができる。
【0106】
四塩化チタンを含有するガスを酸化性ガスで高温酸化することによって酸化チタンを製造する気相法において、四塩化チタンを含有するガスおよび酸化性ガスをそれぞれ500℃以上に予熱しておくと、CVDの成長を抑えることができるので好ましい。BET比表面積が3〜200m2/g、より好ましくは50〜150m2/gの微粒子酸化チタンを得、それを原料とすることができる。
【0107】
原料となる四塩化チタンを含有するガスは、該ガス中の四塩化チタン濃度が10〜100%であることが好ましく、さらに好ましくは20〜100%である。四塩化チタン濃度が10%以上のガスを原料として用いると、均一核の発生が多くなり、または反応性が高くなるので、CVD支配による成長した粒子が形成されにくくなり、粒度分布の狭い粒子が得られる。
【0108】
また、四塩化チタンを含有するガス中の四塩化チタンを希釈するガスは四塩化チタンと反応せず、かつ酸化されないものを選択することが好ましい。具体的には、好ましい希釈ガスとして、窒素、アルゴン等が挙げられる。
【0109】
四塩化チタンを含有するガスと酸化性ガスの予熱温度は500℃以上であることが好ましく、より好ましくは800℃以上である。予熱温度が500℃より低いと、均一核の発生が少なく、かつ反応性が低いため粒度分布のブロードな粒子となってしまう。
【0110】
四塩化チタンを含有するガスと酸化性ガスを反応管に導入する際の流速は10m/秒以上であることが好ましい。流速を大きくすることによって、両者のガスの混合が促進されるからである。より好ましくは20m/秒以上200m/秒以下であり、さらに好ましくは50m/秒以上150m/秒以下である。反応管へのガスの導入温度が500℃以上であれば、混合と同時に反応は完結するので均一核の発生が増進され、かつ、CVD支配による成長した粒子が形成されるゾーンを短くすることができる。
【0111】
反応管に導入されたガスが十分に混合されるように、原料ガスが反応管へ導入されることが好ましい。ガスが十分に混合されれば、反応管内におけるガスの流体状態については特に制限はないが、好ましくは、例えば、乱流が生じる流体状態である。また、渦巻き流が存在していてもよい。
【0112】
なお、原料ガスを反応管に導入する導入ノズルとしては、同軸平行流、斜交流、十字流等を与えるノズルが採用されるが、これらに限定されない。一般に同軸平行流ノズルは、斜交流や十字流を与えるノズルに比べて混合の程度は劣るが、構造が簡単なので設計上好ましく用いられる。
【0113】
例えば、同軸平行流ノズルの場合は、内管に四塩化チタンを含有するガスを導入することが好ましい。ただし、内管径は50mm以下、より好ましくは30mm以下であることが、ガスの混合の観点から好ましい。
【0114】
反応管内に導入されたガスの反応管内における流速はガスの混合を完全に行うためには大きいことが好ましく、特に、平均流速で5m/秒以上、より好ましくは8m/秒以上であることが好ましい。反応管内のガスの流速が5m/秒以上であれば、反応管内における混合を十分に行うことができ、CVD支配による成長した粒子の発生が少なく、粒度分布のブロードな粒子が生成されることがない。
【0115】
反応管内におけるこの反応は発熱反応であり、反応温度は製造された微粒子酸化チタンの焼結温度より高温である。反応装置からの放熱はあるものの、反応後、急冷しないかぎり製造された微粒子は焼結が進行し、成長した粒子になってしまう。10m2/g未満の超微粒子酸化チタンを得る場合には、反応管内の600℃を越える高温滞留時間は1秒以下、より好ましくは0.5秒以下とし、その後急冷することが好ましい。反応後の粒子を急冷させる手段としては、反応後の混合物に多量の冷却空気や窒素等のガスを導入したり、水を噴霧したりすること等が採用される。
【0116】
合成された酸化チタンの先述の測定法による粒度分布の90%累積質量粒度分布径D90の値が小さければ、親水性溶媒に対して良好な分散性を示していると判断される。さらに、このような方法で製造された微粒子酸化チタンは粒度の均一性に優れている。また、本発明に用いる原料となる微粒子酸化チタンは、アナターゼ型結晶やブルッカイト型結晶を主相することが好ましい。
【0117】
本発明の好ましい実施態様における粒子群Aの原料は、その酸化チタン合成過程において、連続的に生産されることが望ましい。一つの理由は生産コスト上の都合である。また、1000℃前後で酸化チタン結晶が発生する際に連続的にネッキングを行うと、隣接した粒子がほぼ同一の条件で合成され、そのままネッキングされることによって、より結晶が連続した状態の粒子群Aが好ましく形成されると予測される。粒子を連続工程でなく、容器に入れて焼成を行う場合には、溶着して塊となってしまいやすいので、多孔体という目的が達成されにくい。
【0118】
本発明に用いる粒子群Aは、90%累積質量粒度分布径D90が4μm以下であることが好ましく、より好ましくは3μm以下であり、ロジン・ラミュラー式による分布定数nが1.5以上であることが好ましく、より好ましくは1.8以上20以下である。ロジン・ラミュラーの分布定数については以下に示す。
【0119】
(ロジン・ラミュラー式)
粒度の均一性については、ロジン・ラミュラー(Rosin−Rammler)式を用い、その分布定数(n)で規定することができる。以下に、ロジン・ラミュラー式について簡単に説明する。
【0120】
ロジン・ラミュラー式は下記式(3)で表される。
R=100exp(−bDn) …(3)
ただし式中、Dは粒径を表し、RはD(粒径)より大きな粒子の数の全粒子数に対する百分率であり、nは分布定数である。
ここで、b=1/Denとおくと、式(3)式は
R=100exp{−(D/De)n } …(4)
のように書き換えられる。ただし、Deは粒度特性数、nは分布定数と呼ばれる定数である。
式(3)または式(4)から下記式(5)が得られる。
log{log(100/R)}=nlogD+C …(5)
ただし、式中、Cは定数を表す。上記式(5)から、x軸にlogD、y軸にlog{log(100/R)}の目盛をつけたロジン・ラミュラー(RR)線図にそれらの関係をプロットするとほぼ直線となる。その直線の勾配(n)は粒度の均一性の度合いを表し、nの数値が大きいほど粒度の均一性に優れていると判断される。
【0121】
(粒子群B)
粒子群Bの原料として好ましく用いられる酸化チタンは、特に制限はないが、以下に記載した合成方法を例示することができる。
粒子群Bの原料は、特許文献7に記載の方法により製造することができる。この中でも分散性が良好なブルッカイト結晶を含むゾルの合成は、非特許文献3にも記載されているように中間体が塩化物を経由することが推定されていて、塩素濃度と合成時の温度制御が重要である。このため、加水分解によって塩化水素が発生する四塩化チタンを原料としたものを用いることが好ましく、より好ましくは四塩化チタン水溶液を用いることが好ましい。合成時の塩素濃度を最適値に保つため、加圧などの手法によって系外への塩化水素の飛散を防止してもよいが、最も効果的な方法は加水分解の反応槽に還流冷却器を用いて加水分解を行う手法である。有機溶媒中においても塩酸分濃度、水分濃度を調節することによって、金属アルコキシド原料などからブルッカイト結晶型酸化チタンを得ることはできるが、反応制御の容易性、また、原料の価格などから考えて、反応媒は水であることが好ましい。
【0122】
加水分解における温度は50℃以上、四塩化チタン水溶液の沸点までの温度であることが好ましい。50℃未満では加水分解反応に長時間を要する。加水分解は上記の温度に昇温し、10分から12時間程度保持して行われる。この保持時間は加水分解の温度が高温側にある程短くてよい。四塩化チタン水溶液の加水分解は四塩化チタンと水との混合溶液を反応槽中で所定の温度に加熱してもよく、また水を反応相中であらかじめ加熱しておき、これに四塩化チタンを添加し、所定の温度にしてもよい。この加水分解によりブルッカイト結晶含有酸化チタンを得ることができる。その中でブルッカイト型の酸化チタンの含有率を高めるためには、水を反応槽であらかじめ75℃から沸点に加熱しておき、これに四塩化チタンを添加し、75℃から沸点の温度範囲で加水分解する方法が適する。ブルッカイト結晶含有酸化チタンゾルの酸化チタン粒子は細かい方が酸化チタン薄膜の透明性はよくなる。また親溶剤作用の点から結晶質であることが好ましい。
【0123】
しかし、あまり細かい酸化チタン粒子を得ることは製造上の困難を伴う場合があるので、ゾル中の酸化チタン粒子のBET比表面積は20〜400m2/gであることが好ましい。より好ましくは50〜350m2/gであり、さらにより好ましくは120m2/g〜300m2/gである。また、BET比表面積より算出される平均一次粒子径は4nm〜100nmが好ましく、5nm〜70nmがより好ましい。さらに好ましくは5nm〜40nmである。粒子群Bはコーティング材に配合される際にゾルのまま配合しても、いったん乾燥したものを配合してもかまわないが、コーティング材全体の分散性の観点からはゾルのままコーティング材に配合されることが望ましい。
【0124】
合成直後のブルッカイト結晶含有酸化チタンゾルは液中に残留しているイオン強度が大きい場合、凝集沈降する場合があるが、合成されたブルッカイト結晶含有酸化チタンを、電気透析脱塩装置、あるいは限外濾過膜を使用した濾過などの洗浄工程を経由させることによって、分散性をより完全なものとすることが可能である。粒子群Bは図2のように成膜時に粒子群Aの空隙に入り込み、膜を形成すると考えられるため、凝集粒子径がある程度小さいことが好ましい。ただし、一次粒子が数nm〜数10nmとなってくると、凝集しやすくなり、これを必要以上に分散することが困難になるので、凝集粒子径には好ましい範囲が存在する。すなわち、好ましい凝集粒子径の範囲については、先述の測定法を用いたレーザードップラー式粒径分布測定器による光散乱強度のピークが、4nm以上2000nm以下が好ましく、7nm以上1000nm以下がさらに好ましく、10nm以上500nm以下がさらに好ましい。
【0125】
粒子群Aがネッキングのために、一次粒子と比較して凝集粒子が大きくなり1μm以上となってしまうことがある。このような場合に粒子群Aが多すぎると、コーティング材が水系、あるいは粘性の低い有機溶剤であるときに、粒子群Aの沈降が起こりやすい。粒子群が沈降しても、コーティング材を振とうすると容易に分散状態となるため、塗工には問題ないが、あまりにも沈降速度が速すぎると取り扱いが面倒である。また構造の支持を担っている粒子群Aのみによっては十分な膜強度を得ることが困難であり、膜中に分布している粒子群Aの空隙に粒子群Bが充填されるためにはある程度の量の粒子群Bが必要である。このため粒子群Aは、コーティング材中の粒子群Aの質量をX、粒子群Bの乾燥質量をYとしたときにX/Yが0.2以下であることが望ましい。この際乾燥質量とは粒子群Bを含むゾルを120℃で24時間乾燥した際に残留した固体の質量として定義される。また、粒子群Aによる塗工性向上、膜強度向上、高い光触媒能をもつ膜の作成という特性を発揮するためには、コーティング材中の粒子群Bに対する粒子群Aの割合X/Yが0.01以上であることが望ましい。より好ましくはX/Yは0.1以上0.18以下である。
【0126】
粒子群Aの質量Xと粒子群Bの乾燥質量Y、コーティング材全体の質量Zであるときに、固形分濃度(X+Y)/Zは0.005以上0.35以下が好ましい、この比(X+Y)/Zが0.005未満である場合には、成膜後、充分な量の光触媒粒子を基材上に残すことができず、充分な光触媒性能を発揮することが難しい場合がある。また、本発明のコーティング材は在来品と比較して高濃度においても塗工性に優れるが、固形分濃度が0.10を超える値である場合には、成膜時に厚くなり、膜の最表面と、基材側接触面との乾燥速度の差などにより応力が生じ膜にクラックが入りやすく、充分な膜強度を維持することが難しい。より好ましくは(X+Y)/Zは0.01以上0.20以下である。
【0127】
(粒子群A、粒子群B、粒子群C)
また、本発明の好ましい実施態様におけるコーティング材において、X/Yが0.01以上0.2以下、(X+Y)/Zが0.005以上0.1以下を満たすように粒子群A及び粒子群Bが存在すれば、m個と0.2m個の中間の個数の粒子が連なったネッキング構造をもつ金属酸化物粒子群Cが追加的に存在しても、本発明の効果は奏される。ただし、粒子群Cは存在することが好ましい場合もあるが、必要ではなく、粒子群Cの質量Pであるとき、P/Xは1.5以下、さらに1以下であることが望ましい。粒子群Cの量があまり多いと、配合される粒子群A、B、Cを総じた凝集粒子径が大きくなり、均一な膜を得難くなる場合がある。また、粒子群Aが多く配合されすぎたときと同様の弊害が生じる場合がある。
【0128】
(界面活性剤)
さらにコーティング材に塗工性の観点から界面活性剤を適宜添加することもできる。界面活性剤としては縮合リン酸塩、リグニンスルホン酸塩、カルボキシメチルセルローズ、ナフタレンスルホン酸塩ホルマリン縮合物、ポリアクリル酸塩、アクリル酸−マレイン酸塩コポリマー、オレフィン−マレイン酸塩コポリマー、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩、ドデシルベンゼンスルホン酸及びその塩、非イオン性界面活性剤などが用いられる。好ましくはポリアクリル酸の界面活性剤がよい。
【0129】
コーティング材に用いる界面活性剤の量は、コーティング材が粒子群A、粒子群B、無機結着剤、および溶剤からなる場合、コーティング材の全質量に対して界面活性剤質量が5ppm以上2000ppm以下であることが望ましい。界面活性剤の量が少なすぎると、基材上に微量の汚れの残留があったり、基材の表面エネルギーが非常に小さい場合に、液はじきや、塗工ムラの原因となる場合がある。逆に界面活性剤の量が多すぎると粒子同士の結着を阻害し、膜強度の低下につながるばかりでなく、光触媒粒子表面に吸着し、触媒性能の発現を阻害することがある。このためさらに望ましくは、10ppm以上500ppm以下である。
【0130】
(溶剤)
コーティング材に用いる溶剤は、光触媒粒子及び添加剤を分散させるとともに、結着剤を溶解あるいは膨潤あるいは分散させることにより、金属酸化物微粒子と結着剤との混合を促進することができる揮発性液体であれば、制限なく使用できる。具体的には、その骨格中に水酸基、カルボキシル基、ケトン基、アルデヒド基、アミノ基、アミド基を有する揮発性液体が好ましい。例えば、水、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、メチルセロソルブ、エチレングリコール、酢酸、アセチルアセトン、テレピン油、メチルピロリドンの単体あるいはそれらの混合物が使用できる。この中でもエタノールを40質量%以上含む水溶液を溶剤として用いると、各種基材との濡れ性がよく、さらに50質量%以上含むと塗布後の乾燥速度を早くすることが可能であり、生産性が高い。また、ブタノールと相溶性のあるアルコール類やアセトニトリル等を含む揮発性溶剤中にブタノールを50質量%以上含む液を光触媒コーティング材の溶剤として用いると、常温で高粘度、且つ、各種基材との親和性が高く、且つ、100℃付近で溶剤を気化して成膜する事が可能となることがあり、目的とする基板上にスキージ法やスクリーン印刷法等の手法を用いて成膜するコーティング材として用いることが可能であり望ましい。コストの面から最善であるものは、水をベースとした溶剤である。
【0131】
(コーティング材の分散の方法)
本発明においては、溶剤に対する分散性のよい光触媒粒子と添加剤を用いるため、コーティング材の調製、配合に関して困難は伴わない。ただし必要であれば、ボールミル、ビーズミル、ペイントシェイカーなどを用いて混合する事を妨げない。しかしながら、ネッキング粒子による効果を期待する場合には、粒子群Aのネッキング構造が極端に破壊されないような混合方法を採ることが望ましい。具体的には、粒子に衝撃を与えてネッキング構造を壊したり結晶表面を非晶質にしたりする事の少ない、自転公転混練機などを用いることが望ましい。また、超音波分散機のうち、発振子近傍を分散対象液が流れることによって分散が促進される対流式、分散対象液の入った容器の中に発振子を投入して分散を行う投げ込みタイプの分散機を用いてもよい。この際、28kHz、40kHz、100kHzいずれの周波数で分散を行ってもよく、これらの波が混合、あるいは交互に発振される分散機を用いて分散を行ってもよい。
【0132】
(コーティング材の成膜)
コーティング材を用いて成膜する際には、スプレーコート、スピンコート、ドクターブレード、フローコート、ロールコートなどで塗工し、乾燥により溶剤を除去、バインダーが熱硬化型の場合にはさらに加熱するという手法でもよい。スピンコート、フローコートによって得られた光触媒膜は、緻密であり、透視性に優れ、クリアコートとして基材の意匠性を損なわない。これに対して、スプレーコート、ドクターブレード、ロールコートは工業的に用いることが可能であり、中でもスプレーコートはコートしながら連続的に乾燥させることが可能であり膜厚のコントロールも、塗布時間や時間あたり噴霧量で調節可能であるため、好ましい。
【0133】
乾燥、硬化は75℃以上500℃以下で行うことが望ましい。乾燥温度を上げていくことによってより確実に膜中に残留した有機溶剤成分を揮発させることができるが、500℃以上に加熱をしていくと、金属酸化物粒子同士の溶着が始まり、十分な多孔体としての膜の特性を維持することができないことがある。加熱はホットプレート、電気炉、ドライヤー、乾燥器等を用いて行うことができるが、一定の温度で、十分な熱量を成膜時に与えることができるドライヤーまたは熱風対流型乾燥器を用いて硬化を行うことが望ましい。熱風乾燥を行った場合、溶剤の沸点以下の温度で十分に溶剤を揮発させ、成膜する事が可能であり、基材の耐熱性が低い場合にきわめて有用な手法である。乾燥時間は、基材の温度が溶剤の揮発する温度まで上昇し、溶剤が確実に揮発するまで、さらに結着剤を含む場合には、結着剤の硬化する温度まで上昇し、硬化反応が終了するまで必要である。一般的に無機、有機バインダーともに、硬化反応は温度が上昇した後、15分程度硬化温度を維持すれば十分である。必要以上の加熱は、基材の劣化、またエネルギーコストの増大につながる場合がある。
【0134】
乾燥、硬化後の膜厚が50nm未満であると、防汚、消臭、抗菌等の性能が十分発揮されないため成膜後厚さは50nm以上行うことが望ましい。また、30000nmまで、強度を維持しつつ塗布可能なことがあり、特性の発揮のために厚く塗布することが好ましい。
【0135】
(発明の用途)
本発明の好ましい実施態様におけるコーティング材から成形された光触媒膜は、消臭、防汚、抗菌などの機能を持つ。このコーティング材によって得られる光触媒膜は、初期性能が高く、且つ、大気中、あるいは基材由来の汚染に対する耐久性が強いことが最大の特徴である。一般的に防汚、抗菌と比較して消臭に関しては分解しなくてはいけない物質の量が多く大きな反応速度、触媒量を必要とし、在来品と比較して高強度を維持したまま厚膜化が可能な本コーティング材は消臭機能を付与するコーティング材として非常に望ましい。本発明の好ましい実施態様におけるコーティング材を各種の材料、成形体等の基材に塗布し、基材の表面に光触媒膜を形成することができる。基材としてはセラミックス、ガラス、金属、プラスチック、木材、紙等殆ど制限無く対象とすることができる。また、この基材がフィルターの形状になっていると、本コーティング材を塗布した際に効率的に空気浄化に用いることができ、好ましい。さらに、フィルターが光源と組み合わされていてデバイスとなり、フィルター位置における紫外線光量について310nm以上390nm以下での積分値が0.05mW/cm以上であると、光照射時間当たりの光触媒膜中への汚染物質の蓄積が著しく、本発明のように光触媒膜に対汚染性能を持たせることが特に有効である。フィルターを設置当初の揮発性有機化合物の分解性能は、自明であるが光量が大きいほど高いため、通常フィルター位置における上記紫外線光量は0.1mW/cm以上に設計される。すなわち、本発明のコーティング剤は、光触媒付フィルターの耐汚染性、耐久寿命を延ばすためにきわめて有効である。基材をアルミナ、ジルコニア等からなる触媒担体とし、これに酸化チタン薄膜の触媒を担持して触媒として使用することもできる。また蛍光ランプ等の照明器具のガラスやそのプラスチックカバー等を基材としてこれに酸化チタン薄膜を形成すれば薄膜は透明性を維持でき、かつ光触媒作用を有するので光を遮断することなく油煙等の有機物を分解することができ、ガラスやカバーの汚れを防止するのに有効である。また建築用ガラスや壁材に酸化チタン薄膜を形成すれば同様に汚れを防止することが可能になるので、高層ビルなどの窓材や壁材に用いることができ、清掃作業を必要としなくなるためビル管理コスト削減に約立つ。
【0136】
(物品)
このような光触媒機能を有した物品の例としては、例えば、建材、照明器具、意匠性窓ガラス、機械、車両、ガラス製品、家電製品、農業資材、電子機器、携帯電話、工具、食器、風呂用品、純水製造装置、トイレ用品、家具、衣類、布製品、繊維、革製品、紙製品、樹脂製品、スポーツ用品、布団、容器、眼鏡、看板、配管、配線、金具、衛生資材、自動車用品、文房具、ワッペン、帽子、鞄、靴、傘、ブラインド、バルーン、配管、配線、金具、照明、蛍光灯、LED、信号機、街灯、玩具、道路標識、装飾品、テント、クーラーボックスなどのアウトドア用品、造花、オブジェ、フィルタ、その中でも消臭を目的としたフィルタからなる群を挙げることができる。
【0137】
また、シックハウス対策や、水・大気・土壌中のPCBやダイオキシン類のような有機塩素化合物の分解、水・土壌中の残留農薬や環境ホルモンの分解などに有効な環境浄化機器・装置にも応用できる。その際には、物品上に成膜して使用することが可能である。上記の中でも特に蛍光灯に対して本発明を適用した場合、光源近傍に光触媒粒子が存在することになり、非常に大きい光量のエネルギーを得ることができる。さらに、ほぼすべての家庭、オフィス、店舗その他に蛍光灯は普及しているため、室内環境に悪影響を与える有機及び無機物質の濃度の低減に多大な貢献をすることができる。また、純水製造器に用いた場合、本発明のコーティング材によって成膜される光触媒膜は、非常に強い酸化力を持つため、水中に微量に含まれる有機不純物を分解するのに最適である。
【0138】
また、物品が効果的にその光触媒性や親水性を発現することができる光源として、太陽、蛍光灯、白熱電球、水銀ランプ、キセノンランプ、ハロゲンランプ、水銀キセノンランプ、メタルハライドランプ、発光ダイオード、レーザー、有機物の燃焼炎などを例示することができる。また蛍光灯としては、紫外線吸収膜付き蛍光灯、白色蛍光灯、昼白色蛍光灯、昼光色蛍光灯、温白色蛍光灯、電球色蛍光灯、ブラックライト、などを例示することができるが、特にこれらに限定されない。
【実施例】
【0139】
以下、金属酸化物分散物について実施例及び比較例にて具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
(膜強度試験法A)
コーティング材を塗工したガラスサンプル(20cm×20cm)について、膜強度の試験方法を以下に示す。
光触媒がコーティングされたガラスサンプルを、移動しないようにゴム板の上に固定し、乾燥した手で約5kgの加重をかけ、擦った。
【0140】
(膜強度試験法B)
JIS―K5400に準拠した鉛筆引掻き試験を行った。
【0141】
(液相法粒子合成)
蒸留水9.1Lを還流冷却器付きの反応槽に装入し、95℃に加温してそれを維持した。攪拌速度を約200rpmに保ちながら、ここに四塩化チタン水溶液(Ti含有量16.5質量%、比重1.52、住友チタニウム(株)製)水溶液0.9Lを約10mL/minの速度で反応槽に滴下した。このとき、反応液の温度が下がらないように注意した。この結果、反応相中の四塩化チタン濃度が0.5moL/L(酸化チタン換算4質量%)であった。反応槽中では反応液が滴下直後から、白濁し始めたがそのままの温度で保持を続け、滴下終了後さらに昇温し沸点付近の温度(101℃)で60分間維持した。得られたゾルについて限外濾過膜(旭化成(株)製マイクローザACP−1050孔径約6nm)を用いて洗浄液の伝導度が100μS/cmになるまで純水で洗浄を行い、120℃乾燥時における固形分濃度が15質量%になるように濃縮を行った。前述の方法を採用し、レーザードップラー式の粒度分布計で測定したところ、図3に示されるように22nmにピークを持つ分布となることがわかった。得られた固形分のBET比表面積をBET比表面積計(Simadzu製FlowSorb2300)を用いて測定したところ150m2/gであり、この値から(2)式に基づいて算出される平均一次粒子径は約10nmであることがわかった。またこの固形分をめのう乳鉢で粉砕し、粉末X線回折の測定を行った。測定装置としてRigaku−Rint Ultima+を使用した。X線源はCuKα1を使用し、出力は40kV−40mA、発散スリットは1/2°、発散縦制限スリットは10mm、散乱スリットは1/2°、受光スリットは0.15mmで測定を行った。スキャンのステップは0.04°、計数時間は25秒とし、FT条件でのX線回折パターンの測定を行った。得られたX線パターンについて、前記したリートベルト解析法を用いて解析すると、ブルッカイト結晶75質量%、アナターゼ結晶20質量%、ルチル結晶5質量%を含むブルッカイト結晶含有酸化チタン粉末であった。めのう乳鉢で粉砕した乾燥粉体のタップ密度を粉体特性総合装置PT−D(細川ミクロン製)を使用し、JIS K−5101−20.2に示される方法に基づき測定した結果、タップ密度Ρは、1.2g/cm3であった。チタニアの真密度ρは4.0g/cm2とし(1)式に基づいて算出すると、この液相法によって得られた粒子のネッキング個数mは3.2個となった。また透過型電子顕微鏡(JEOL製JEM−200CX)で観察したところ、一次粒子径は約10nmであった。
【0142】
(汚染による性能低下確認)
調製したコーティング材を、7.5cm四方のガラス板に塗布、乾燥を行い、20℃、湿度50%に調節した5Lの50ppmのSO2ガス中に該ガラス板を入れ、外部より東芝ライテック(株)製蛍光灯「メロウホワイト」をもちいて、サンプル位置で10000ルクスになるように位置を調節し、12時間汚染試験を行った。
【0143】
汚染を行わなかったサンプル、上記の汚染を行ったサンプルをそれぞれ、20℃、湿度50%、アセトアルデヒド500ppmに調整した500mlのガス中に入れ、外部より、「メロウホワイト」を用いて、ガラスサンプル位置で10000ルクスとなるように照射を行い、アセトアルデヒドガス濃度の4時間後の減少率をガスクロクロマトグラフィーを用いて測定した。
【0144】
実施例1: 物理捕捉剤を含むコーティング材1
(1.1):分散
活性アルミナを2g(住友化学工業(株)製、KC−501)をロッキングミル用100ml容器にとり、エタノールを18g、0.2mm径のジルコニアボールを20g入れ、ロッキングミルを用い600rpmで3時間分散を行った。
【0145】
(1.2):コーティング材の調製
パイレックス(登録商標)製容器に、粒子として(液相法粒子合成)で得られたゾルを、18g入れた。続いて、水を7.8g、塩化ヒドロキシジルコニウム水溶液(酸化ジルコニウム換算で10質量%)を4.5g、アルコールを66g、(1.1)で作成した活性アルミナ10質量%液を4g、容器を水冷しながら、容器ごと卓上型超音波洗浄機に30分間かけ、コーティング材を得た。
【0146】
(1.3)コーティング材の成膜:
7.5cm四方の清浄なガラス板にこのコーティング材(1.2)を片面が十分濡れるまで垂らし、垂直に1時間ほど液が切れるまで保持し、150℃に維持された恒温乾燥機中で15分間硬化を行った。
【0147】
(1.4)光触媒膜の評価:
(1.3)で得られたガラス板サンプルについて、(汚染による性能低下確認)(強度試験A)(強度試験B)を行い、結果を表2に示した。
【0148】
実施例2:物理捕捉剤を含むコーティング材2
(2.1):A型ゼオライトの検討
活性アルミナに替えてA型ゼオライト(UC社製、4A)を用いた以外は(1.1)〜(1.4)と同様な操作を行った。結果を表2に示した。
【0149】
実施例3:物理捕捉剤を含むコーティング材3
(3.1):X型ゼオライトの検討
活性アルミナに替えてX型ゼオライト(UC社製、13X)を用いた以外は(1.1)〜(1.4)と同様な操作を行った。結果を表2に示した。
【0150】
実施例4:物理捕捉剤含むコーティング材3
(4.1):高シリカゼオライトの検討
活性アルミナに替えて高シリカゼオライト(UC社製、Hisiv−3000)を用いた以外は(1.1)〜(1.4)と同様な操作を行った。結果を表2に示した。
【0151】
実施例5:化学捕捉剤を含むコーティング材
(5.1):酸化マンガンの検討
活性アルミナに替えて酸化マンガン(関東化学、鹿1級)を用いた以外は(1.1)〜(1.4)と同様な操作を行った。結果を表2に示した。
【0152】
実施例6:化学捕捉材を含むコーティング材2
(6.1):コーティング材の調製
パイレックス(登録商標)製容器に、粒子として(液相法粒子合成)で得られたゾルを、18g入れた。続いて、水を7.8g、塩化ヒドロキシジルコニウム水溶液(酸化ジルコニウム換算で10質量%)を4.5g、アルコールを70g、塩化カルシウム2水和物を0.4g(関東化学(株)製、特級)、容器を水冷しながら、容器ごと卓上型超音波洗浄機に30分間かけ、コーティング材を得た。
【0153】
(6.2)コーティング材の成膜:
7.5cm四方の清浄なガラス板にこのコーティング材(6.1)を片面が十分濡れるまで垂らし、垂直に1時間ほど液が切れるまで保持し、150℃に維持された恒温乾燥機中で15分間硬化を行った。
【0154】
(6.3)光触媒膜の評価:
(6.2)で得られたガラス板サンプルについて、(汚染による性能低下確認)(強度試験A)(強度試験B)を行い、結果を表2に示した。
【0155】
実施例7:化学捕捉材を含むコーティング材3
(7.1):コーティング材の調製
塩化カルシウム二水和物に変えて、塩化バリウム二水和物を用いた以外は、(6.1)〜(6.3)と同様な操作を行った。結果を表2に示した。
【0156】
実施例8
(8.1)粒子群A−1の合成:
ガス状四塩化チタン4.7Nm3/時間(Nは標準状態を意味する。以下同じ)と窒素16Nm3/時間とを混合してなる四塩化チタンを含有するガスを1,100℃に、空気20Nm3/時間と水蒸気25Nm3/時間をと混合してなる酸化性ガスを1,000℃にそれぞれ予熱し、同軸平行流ノズルを用いて、それぞれ流速92m/秒、97m/秒で反応管に導入した。同軸平行流ノズルの内管径は20mmとし、内管に四塩化チタンを含有するガスを導入した。
【0157】
反応管の内径は100mmであり、反応温度1,250℃における管内流速は計算値で13m/秒であった。反応管内における高温滞留時間が0.2秒となるように、反応後冷却空気を反応管に導入し、その後、テフロン(登録商標)製バグフィルターを用いて超微粒子粉末を捕集した。
【0158】
得られた微粒子酸化チタンについて先述の手法によりRIETAN―2000によって解析を行うと、アナターゼ型結晶を92%、ルチル型結晶を8%含有していた。また、得られた微粒子酸化チタンについて、レーザー回折式粒度分布測定法により測定した粒度分布における90%累積質量粒度分布径D90は2μmであり、D50は1.3μmであった。ロジン・ラミュラー式におけるn値は1.9であった。なお、n値はレーザー回折において得られた3点データ、D10,D50、D90をそれぞれRR線図においてR=90%、50%、10%としてプロットし、それら3点の近似直線から求めた。
【0159】
得られた気相法酸化チタンの比表面積をBET法により測定し、98m2/gという値を得た。この比表面積値より、(2)式で求めた一次粒径は、15nmであった。タップ密度は、0.12g/cm3であった。(1)式に基づき、mを算出すると19500個であった。
【0160】
(8.2)コーティング材の調製:
パイレックス(登録商標)製容器に、粒子群Bとして(液相法粒子合成)で得られたゾルを、18g入れた。続いて、塩化ヒドロキシジルコニウム水溶液(酸化ジルコニウム換算で20質量%)を2.3g、(8.1)で合成した粒子群A−1を0.3g入れ、水を10g入れ、エタノールを70g入れ、フッ素系ノニオン界面活性剤(3M社製、FC−4430)1質量%水溶液0.2gを加えて、塩化カルシウム二水和物を0.4g入れ、よく混合し、容器を水冷しながら、容器ごと卓上型超音波洗浄機に30分間かけ、コーティング材を得た。このようにして得られたコーティング材をレーザードップラー式粒度分布計を用いて測定した結果,60nm、1160nmにそれぞれ質量粒度分布のピークを持ち、60nmのピークの面積は67%、1160nmのピークの面積は33%であった。レーザー回折法を用いて測定した際には、2.2μmに一山のピークを持つ質量粒度分布となった。また、得られたコーティング材を乾燥し、得られた粉体のBET比表面積から求められた平均一次粒子径は11nmであった。
【0161】
7.5cm四方の清浄なガラス板にこのコーティング液を片面が十分濡れるまで垂らし、垂直に1時間ほど液が切れるまで保持し、150℃に維持された恒温乾燥機中で15分間硬化を行ったところ、強度の高い膜が得られた。
【0162】
(8.4)光触媒膜の評価:
(8.2)(8.3)で得られたガラス板サンプルについて、(消臭試験)(強度試験A)(強度試験B)を行い、結果を表2に示した。
【0163】
比較例1
(9.1)粒子群Bのみによる成膜:
パイレックス(登録商標)製容器に(液相法粒子合成)で得られた粒子群を6.7g入れ、塩化ヒドロキシジルコニウム水溶液(酸化ジルコニウム換算で10質量%)を1.5g入れ、水を90.8g入れ、ドデシルベンゼンスルホン酸1質量%水溶液を1g入れ、よく混合しコーティング材を得た。
【0164】
(9.2)コーティング材の成膜:
7.5cm四方の清浄なガラス板にこのコーティング材(9.1)を片面が十分濡れるまで垂らし、垂直に1時間ほど液が切れるまで保持し、150℃に維持された恒温乾燥機中で15分間硬化を行った。
【0165】
(9.3)光触媒膜の評価:
(9.2)で得られたガラス板サンプルについて、(汚染による性能低下確認)(強度試験A)(強度試験B)を行い、結果を表2に示した。
【0166】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0167】
【図1】ネッキング粒子のSEM写真である。
【図2】本発明の膜の概念図である。
【図3】液相法粒子の質量粒度分布である。
【符号の説明】
【0168】
イ 接触点
ア ネッキング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光触媒粒子と、結着剤と、硫黄化合物を捕捉する物質と、溶剤とを含むコーティング材。
【請求項2】
沈降成分量が、全固形分の20質量%を超えない請求項1に記載のコーティング材。
【請求項3】
硫黄化合物を捕捉する物質が、活性アルミナ、A型ゼオライト、Y型ゼオライトのうち1つ以上である請求項1または2に記載のコーティング材。
【請求項4】
硫黄化合物を捕捉する物質が、アルカリ土類金属化合物、酸化銅、酸化鉄、酸化マンガン、酸化スズ、酸化亜鉛のうち1つ以上である請求項1または2に記載のコーティング材。
【請求項5】
光触媒粒子がブルッカイト型酸化チタンを含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載のコーティング材。
【請求項6】
200℃以下の加熱乾燥で鉛筆強度試験でH以上強度を持つ膜を成膜する事が可能な、請求項1〜5のいずれか1項に記載のコーティング材。
【請求項7】
固形分の50質量%以上が酸化チタンである、請求項1〜5のいずれか1項に記載のコーティング材。
【請求項8】
固形分の60質量%以上が酸化チタンである、請求項1〜5のいずれか1項に記載のコーティング材。
【請求項9】
56.25cmの面積に塗布し、20℃、相対湿度50%、5L、50ppmの空気希釈SO2ガス中で10000ルクスで12時間照射環境下で汚染を行い、20℃、相対湿度50%、500ml、500ppmのアセトアルデヒドガス除去試験を行い、汚染前の除去率をa%、汚染後の除去率をb%としたときに、b/aが0.5以上になる光触媒膜を作成可能な、請求項1〜8のいずれか1項に記載のコーティング材。
【請求項10】
m個の粒子が連なってネッキング構造を持つ粒子群Aと、0.2m個以下の粒子しか連なっていない粒子群Bと、溶剤とを含む、請求項1〜9のいずれか1項に記載のコーティング材。
【請求項11】
粒子群Aが、四塩化チタンを酸化性ガスで高温酸化して製造する気相法によって合成された酸化チタンを含む、請求項10に記載のコーティング材。
【請求項12】
粒子群Aが、四塩化チタンを含有するガス及び酸化性ガスをそれぞれ500℃以上に予熱してから反応させて、BET比表面積換算値による平均一次粒子径が7nm以上200nm以下である超微粒子酸化チタンを含む、請求項10または11に記載のコーティング材。
【請求項13】
粒子群BのBET換算値による平均一次粒子径が4nm以上100nm以下である、請求項10〜12のいずれか1項に記載のコーティング材。
【請求項14】
粒子群Bのレーザー回折式粒度分布測定器による平均粒子径が4nm以上2000nm以下である、請求項13に記載のコーティング材。
【請求項15】
粒子群Bのレーザードップラー式粒度分布測定による平均粒子径が8nm以上100nm以下である、請求項14に記載のコーティング材。
【請求項16】
粒子群Bが、チタン化合物水溶液を水中で加水分解することによって合成された酸化チタンを含む、請求項10〜15のいずれか1項に記載のコーティング材。
【請求項17】
粒子群Bが、四塩化チタン水溶液を水中に滴下する製法によって合成された酸化チタンを含む、上記10〜16のいずれか1項に記載のコーティング材。
【請求項18】
粒子群Bの酸化チタンが、50℃から沸点までに昇温した水中に四塩化チタン水溶液を滴下する製法によって合成された、請求項17に記載のコーティング材。
【請求項19】
粒子群Aの質量Xと粒子群Bの乾燥質量Yの比X/Yが0.01以上0.2以下である、請求項10〜18のいずれか1項に記載のコーティング材。
【請求項20】
粒子群Aの質量Xと粒子群Bの乾燥質量Y、コーティング材全体の質量Zであるときに、固形分濃度(X+Y)/Zが0.005以上0.1以下である、請求項10〜19のいずれか1項に記載のコーティング材。
【請求項21】
金属酸化物を含むコーティング材であって、レーザードップラー法の質量粒度分布において、8nm以上400nm以下にピークを有する粒子群Ba、800nm以上5500nm以下にピークを有する粒子群Aaを含む、請求項10〜20のいずれか1項に記載のコーティング材。
【請求項22】
レーザードップラー法の質量粒度分布において、20nm以上300nm以下にピークを有する粒子群Ba、1200nm以上4000nm以下にピークを有する粒子群Aaを含む、請求項21に記載のコーティング材。
【請求項23】
レーザードップラー法の質量粒度分布において、粒子群Baの積分面積をBaS、粒子群AaSの積分面積をAaSとしたときに、AaS/BaSの比が0.05以上1以下である、請求項21または22に記載のコーティング材。
【請求項24】
金属酸化物を含むコーティング材であって、レーザー回折法の質量粒度分布において、少なくとも1μ以上4μ以下にピークAbを有し、コーティング材の乾燥粉体のBET測定値より換算された一次粒子径が7nm以上50nm以下である、請求項10〜20のいずれか1項に記載のコーティング材。
【請求項25】
四塩化チタンを酸化性ガスで高温酸化して製造する気相法によって合成された酸化チタンと、チタン化合物水溶液を水中で加水分解することによって合成された酸化チタンと、溶剤とを含む、請求項10〜24のいずれか1項に記載のコーティング材。
【請求項26】
四塩化チタンを酸化性ガスで高温酸化して製造する気相法によって合成された酸化チタンと、チタン化合物水溶液を水中で加水分解することによって合成された酸化チタンの乾燥質量の比が0.01以上0.2以下である、請求項25に記載のコーティング材。
【請求項27】
有機系結着剤を含む、請求項1〜26のいずれか1項に記載のコーティング材。
【請求項28】
アニオン系界面活性剤を10ppm以上2000ppm未満含む、請求項1〜27のいずれか1項に記載のコーティング材。
【請求項29】
カチオン系界面活性剤を10ppm以上2000ppm未満含む、請求項1〜27のいずれか1項に記載のコーティング材。
【請求項30】
ノニオン系界面活性剤を2ppm以上2000ppm未満含む、請求項1〜27のいずれか1項に記載のコーティング材。
【請求項31】
ノニオン系界面活性剤を2ppm以上50ppm未満含む、請求項1〜27のいずれか1項に記載のコーティング材。
【請求項32】
光触媒粒子と、結着剤と、d50が5μ以下である硫黄化合物を捕捉する物質と、溶剤とを混合する工程を含むコーティング材の製造方法。
【請求項33】
請求項1〜31いずれか1項に記載されたコーティング材より作られた膜。
【請求項34】
膜が、50nm以上30000nm以下の平均膜厚を有する請求項33に記載の膜。
【請求項35】
膜が、50nm以上2000nm以下の平均膜厚を有する請求項33に記載の膜。
【請求項36】
膜が、粒子群Aの凝集粒子径の1/10倍以上5倍以下の平均膜厚である請求項33に記載の膜。
【請求項37】
請求項33〜36のいずれか1項に記載の膜を表面または内部に備えた物品。
【請求項38】
物品が、消臭、防汚、抗菌などの光触媒機能のうち、少なくとも1つの機能を有する請求項37に記載の物品。
【請求項39】
物品が、建材、照明器具、意匠性窓ガラス、機械、車両、ガラス製品、家電製品、農業資材、電子機器、携帯電話、工具、食器、風呂用品、純水製造装置、トイレ用品、家具、衣類、布製品、繊維、革製品、紙製品、樹脂製品、スポーツ用品、布団、容器、眼鏡、看板、配管、配線、金具、衛生資材、自動車用品、文房具、ワッペン、帽子、鞄、靴、傘、ブラインド、バルーン、配管、配線、金具、照明、蛍光灯、LED、信号機、街灯、玩具、道路標識、装飾品、テント、クーラーボックスなどのアウトドア用品、造花、オブジェ、フィルタ、消臭用フィルタからなる群より選ばれた少なくとも1種である、請求項37または38に記載の物品。

【図2】
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【図3】
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【図1】
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【公開番号】特開2006−297351(P2006−297351A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−127119(P2005−127119)
【出願日】平成17年4月25日(2005.4.25)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】