説明

光触媒膜用接着層の形成用組成物、光触媒膜用接着層、光触媒膜用接着層の形成方法及び光触媒構造体

【解決課題】光触媒膜と接着層との密着性及び接着層と基材との密着性が良く、必要とされている硬度を有しており、且つ透明性が良い接着層を形成させるための光触媒膜用接着層の形成用組成物を提供すること。
【解決手段】下記一般式(1):RSi(OCH4−n(1)で表されるメトキシシラン化合物を主成分とし、アルミニウム化合物、チタン化合物及びシリコン変性アクリル樹脂を含有し、該アルミニウム化合物の含有量が3〜25質量%であり、該チタン化合物の含有量が3〜25質量%であること、を特徴とする光触媒膜用接着層の形成用組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板と光触媒膜を接着するための光触媒膜用接着層、該光触媒膜用接着層上に形成されている光触媒膜と該光触媒膜用接着層とからなる光触媒構造体、該光触媒膜用接着層の形成に用いられる光触媒膜用接着層の形成用組成物、該光触媒膜用接着層の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化チタン粉末は、白色顔料として古くから利用されており、近年は化粧品などの紫外線遮蔽材料、光触媒、コンデンサ、サーミスタの構成材料あるいはチタン酸バリウムの原料等電子材料に用いられる焼結材料に広く利用されている。特にここ数年、光触媒としての利用が盛んに試みられており、光触媒反応の用途開発が盛んに行われている。
【0003】
この酸化チタン光触媒の用途は非常に多岐に亘っており、水の分解による水素の発生、酸化還元反応を利用した有機化合物の合成、排ガス処理、空気清浄、防臭、殺菌、抗菌、水処理、照明機器等の汚れ防止等、数多くの用途開発が行われている。
【0004】
しかしながら、酸化チタンは可視光付近の波長領域において大きな屈折率を示すため、可視光領域では殆ど光吸収は起こらない。屋内での蛍光灯などの下での利用を考えると、蛍光灯のスペクトルは殆どが400nm以上であるため、光触媒として十分な特性を発現することはできない。そこで、可視光領域での触媒活性を発現させより利用性の高い高活性の光触媒の開発が行なわれている。
【0005】
近年、従前の金属イオンを酸化チタンにドープした光触媒の不十分な触媒活性を改善するものとして、硫黄含有酸化チタン粉末、分散剤及び溶媒からなる酸化チタン分散体が開示されている(特開2006−1774号公報)。この酸化チタン分散体によれば、紫外線領域だけではなく可視光領域の光触媒活性が高いことから、太陽光の当たらない蛍光灯等の室内においても十分に光触媒作用を発揮することができるものである。
【0006】
このような光触媒の特性を十分発揮させるためには、光触媒を含有する光触媒膜形成用組成物を何らかの基材上に塗布して、光触媒膜を形成させ、光触媒を該基材上に固定することが求められる。
【0007】
該基材には、その表面の全部又は一部が合成樹脂製のものがあり、該基材の合成樹脂材部分に、該光触媒膜を形成させる場合、光触媒の作用による該合成樹脂材の分解防止し、該合成樹脂材と該光触媒膜との接着性を高め、該光触媒膜のひび割れなどの外観劣化を防ぐために、該合成樹脂材と該光触媒膜との間に接着層を設けることが一般的である。
【0008】
例えば、該接着層としては、以下のものがあげられる。特開2000−6303号公報(特許文献1)には、有機基材上に形成される、シリコーン樹脂又はポリテトラフルオロエチレンの有機薄膜の中間層が開示されている。また、国際公開WO97/00134号公報(特許文献2)には、シリコン含有量2〜60質量%のシリコン変性樹脂、コロイダルシリカを5〜40質量%含有する樹脂、又は式(1)SiCln1(OH)n2n3(ORn4・・・式(1)〔式中、Rは(アミノ基、カルボキシル基、または塩素原子で置換されてもよい)炭素数1〜8のアルキル基、Rは、炭素数1〜8のアルキル基もしくはアルコキシ基で置換された炭素数1〜8のアルキル基を表し、n1は0から2の整数を表し、n4は2から4の整数であり、かつn1+n2+n3+n4=4を示す。〕で表される化合物の重縮合反応生成物であるポリシロキサンを3〜60質量%含有する樹脂からなる接着層が開示されている。明細書本文中では、この接着層は150℃以下で乾燥でき、短時間で乾燥硬化させる場合は、シリコン系の硬化剤を添加することが好ましいとされている。また、特開2001−286766号公報(特許文献3)には、(A)アクリルシリコン樹脂およびまたはエポキシシリコン樹脂を固形分として0.5〜20質量%、(B)金属酸化物ゾル及び/または金属水酸化物のゾルを固形分として0.25〜4質量%、(C)テトラアルコキシシランの1種または2種以上の部分加水分解物生成物であって、その平均重合度は3〜10であり、テトラアルコキシシランモノマーの含有量が5質量%以下であるシリコン化合物を二酸化ケイ素に換算した固形分として0.25〜20質量%、(D)二酸化ケイ素に換算した前記シリコン化合物の0.5〜3倍当量の水からなる組成物からなる塗膜が開示されている。この組成物は、10〜35℃、0.5〜72時間で乾燥される。
【0009】
【特許文献1】特開2000−6303号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】国際公開WO97/00134号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】特開2001−286766号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
該光触媒膜用接着層には、(i)光触媒膜と接着層との密着性が良く、且つ接着層と基材との密着性が良いこと、(ii)一定の硬度があること、(iii)外観上問題とならないこと、(iv)光触媒の光触媒作用に対して安定であること、(v)一層であること等が要求される。また、このような光触媒膜用接着層を形成するための組成物には、(i)保管安定性が良いこと、(ii)塗工性が良いこと、(iii)外観上問題とならないこと(透明であること)等が要求される。
【0011】
しかし、従来の接着層には、光触媒膜と接着層との密着性及び接着層と基材との密着性が高いこと、必要とされている硬度を有すること、及び透明性が良いことという、全ての要求性能を満足することは困難であるという問題があった。
【0012】
また、塗工性の一つの尺度として、低温かつ短時間で固化すること、例えば、110℃以下、1時間以内で固化することが挙げられる。該接着層を、110℃以下、1時間以内で固化させる方法としては、該接着層の形成用組成物として、高分子モノマーを含む組成物を用い、開始剤または光照射により低温で固化を行う方法があるが、この方法により得られる接着層は有機物が多いため、光触媒の光触媒作用により有機物が分解されるため、光触媒の光触媒作用に対して不安定であるという問題が生じる可能性がある。
【0013】
従って、本発明の課題は、光触媒膜と接着層との密着性及び接着層と基材との密着性が良く、必要とされている硬度を有しており、且つ透明性が良い接着層を形成させるための光触媒膜用接着層の形成用組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
すなわち、本発明(1)は、下記一般式(1):
Si(OCH4−n (1)
(式中、Rは炭素数が2〜5であり且つ二重結合を有する有機基を示し、nは1又は2である。n=2の場合、Rは同一でも異なっていてもよい。)
で表されるメトキシシラン化合物を主成分とし、
アルミニウム化合物、チタン化合物及びシリコン変性アクリル樹脂を含有し、該アルミニウム化合物の含有量が3〜25質量%であり、
該チタン化合物の含有量が3〜25質量%であること、
を特徴とする光触媒膜用接着層の形成用組成物を提供するものである。
【0015】
また、本発明(2)は、前記本発明(1)の光触媒膜用接着層の形成用組成物を用いて形成されることを特徴とする光触媒膜用接着層を提供するものである。
【0016】
また、本発明(3)は、前記本発明(1)の光触媒膜用接着層の形成用組成物を基材上に塗布して塗膜を形成させ、次いで、該塗膜を110℃以下1時間以内の条件で加熱処理して形成されることを特徴とする光触媒膜用接着層を提供するものである。
【0017】
また、本発明(4)は、前記本発明(1)の光触媒膜用接着層の形成用組成物を基材上に塗布して塗膜を形成させ、次いで、該塗膜を110℃以下1時間以内の条件で加熱処理して、光触媒膜用接着層を形成させることを特徴とする光触媒膜用接着層の形成方法を提供するものである。
【0018】
また、本発明(5)は、前記本発明(1)の光触媒膜用接着層の形成用組成物を用いて、基材上に形成される光触媒膜用接着層と、該光触媒膜用接着層上に形成される光触媒膜と、有することを特徴とする光触媒構造体を提供するものであり、さらに、該光触媒膜が、光触媒と、炭素数が2〜5であり且つ二重結合を有する有機基を1又は2有するシラン化合物を含有する光触媒膜形成用組成物を用いて形成される光触媒膜である光触媒構造体を提供するものであり、さらに、光触媒と、下記一般式(2):
Si(OCH4−m (2)
(式中、Rは炭素数が2〜5であり且つ二重結合を有する有機基を示し、mは1又は2である。m=2の場合、Rは同一でも異なっていてもよい。)
で表されるメトキシシラン化合物と、コロイダルシリカと、アルミニウム化合物と、チタン化合物と、を含有し、且つ該コロイダルシリカの固形分の含有量が0〜7質量%である光触媒膜形成用組成物を用いて形成される光触媒膜である光触媒構造体を提供するものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、光触媒膜と接着層との密着性及び接着層と基材との密着性が良く、必要とされている硬度を有しており、且つ透明性が良い接着層を形成させるための光触媒膜用接着層の形成用組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明の光触媒構造体について、図1を参照して説明する。図1は、本発明の光触媒構造体を示す模式的な断面図である。図1中、基材3上に、光触媒膜用接着層2が形成されており、該光触媒膜用接着層2上に、光触媒膜1が形成されている。そして、該光触媒膜1及び該光触媒膜用接着層2が、該基材3の表面を被覆する光触媒構造体4である。言い換えると、該光触媒膜1は、該光触媒膜用接着層2を介して、該基材3の表面に被覆されている。
【0021】
図1中、該光触媒膜用接着層2は、該光触媒膜1と、該基材3との間に形成され、該光触媒膜1と該基材3とを接着するための中間層であり、本発明の光触媒膜用接着層の形成用組成物を用いて形成される。
【0022】
本発明の光触媒膜用接着層の形成用組成物は、下記一般式(1):
Si(OCH4−n (1)
(式中、Rは炭素数が2〜5であり且つ二重結合を有する有機基を示し、nは1又は2である。n=2の場合、Rは同一でも異なっていてもよい。)
で表されるメトキシシラン化合物を主成分とし、
アルミニウム化合物、チタン化合物及びシリコン変性アクリル樹脂を含有し、該アルミニウム化合物の含有量が3〜25質量%であり、
該チタン化合物の含有量が3〜25質量%である、
光触媒膜用接着層の形成用組成物である。
【0023】
前記一般式(1)で表されるメトキシシラン化合物は、ケイ素原子に、有機基Rとメトキシ基とが結合している化合物である。前記一般式(1)中、Rは、炭素数が2〜5であり且つ二重結合を有する有機基であり、例えば、CH=CH−基、CH=CHCH−基、CHCH=CH−基、CH=CCH−基、CHCHCH=CH−基、CHCH=CHCH−基、CH=CHCHCH−基、CHCH=CHCHCH−基、CHCH=CHCHCH−基などが挙げられる。ケイ素原子に結合しているRの数、すなわち、前記一般式(1)中のnの値は、1又は2である。nが2の場合、Rは同じ基であっても異なる基であってもよい。
【0024】
前記一般式(1)で表されるメトキシシラン化合物において、ケイ素原子に結合している有機基R以外の基は、メトキシ基(−OCH)に限定される。ケイ素原子に結合している基が、メトキシ基より炭素数が多いアルコキシ基であると、該アクリル変性シリコン樹脂との相溶性が悪くなる。
【0025】
そして、前記一般式(1)で表されるメトキシシラン化合物としては、入手容易性から、(CH=CH−)Si(OCH4−nが好ましく、特に硬い膜が得られることから(CH=CH−)Si(OCH3が好ましい。
【0026】
本発明の光触媒膜用接着層の形成用組成物中、前記一般式(1)で表されるメトキシシラン化合物の含有量は、十分な強度の接着層が得られる点で、60質量%以上が好ましく、60〜85質量%が特に好ましい。
【0027】
本発明の光触媒膜用接着層の形成用組成物に係る該アルミニウム化合物及び該チタン化合物は、前記一般式(1)で表されるメトキシシラン化合物の重合用触媒として作用するので、該アルミニウム化合物及び該チタン化合物は、本発明の光触媒膜用接着層の形成用組成物の硬化剤である。本発明の光触媒膜用接着層の形成用組成物は、該アルミニウム化合物及び該チタン化合物を含有することにより、光触媒膜用接着層の形成用組成物の硬化速度が速くなる。一方、光触媒膜用接着層の形成用組成物が、該アルミニウム化合物又は該チタン化合物の一方しか含有していない場合、十分な硬化速度が得られない。
【0028】
該アルミニウム化合物としては、具体的には、アルミニウムのアルコキシド類が挙げられる。該アルミニウムのアルコキシド化合物としては、炭素数1〜8程度のアルコキシ基がアルミニウム原子に結合している化合物が挙げられ、例えば、Al(O−i−Pr)、Al(O−s-Bu)、Al(O−t−Bu)などが挙げられる。該アルミニウムのアルコキシド化合物の市販品としては、アルミニウムアルコキシド系硬化剤である「信越化学工業(株)製 DX9740」が挙げられる。
【0029】
該チタン化合物としては、具体的には、チタンのアルコキシド類が挙げられる。該チタンのアルコキシド化合物としては、炭素数1〜8程度のアルコキシ基がチタン原子に結合している化合物が挙げられ、例えば、Ti(OEt)、Ti(O−n-Pr)、Ti(O−i−Pr)、Ti(O−n−Bu)などが挙げられる。該チタンのアルコキシドの市販品としては、チタンアルコキシド系硬化剤である「信越化学工業(株)製 D25」が挙げられる。
【0030】
本発明の光触媒膜用接着層の形成用組成物中、該アルミニウム化合物の含有量は、3〜25質量%である。本発明の光触媒膜用接着層の形成用組成物中の該アルミニウム化合物の含有量が、上記範囲より多いと、固形分が多くなり過ぎるために、接着層の硬度が低くなり、また、上記範囲より少ないと、組成物の硬化が不十分となる。
【0031】
本発明の光触媒膜用接着層の形成用組成物中、該チタン化合物の含有量は、3〜25質量%である。本発明の光触媒膜用接着層の形成用組成物中の該チタン化合物の含有量が、上記範囲より多いと、組成物の保管安定性が悪くなり、また、上記範囲より少ないと、組成物の硬化が不十分となる。
【0032】
本発明の光触媒膜用接着層の形成用組成物に係る該シリコン変性アクリル樹脂は、前記一般式(1)で表されるメトキシシラン化合物に含有させることにより、接着層の膜強度が高くなり、基材と接着層との密着性及び光触媒膜と接着層との密着性が高くなる。
【0033】
該シリコン変性アクリル樹脂とは、
(i)側鎖としてシリル基を有し、
(ii)且つ該側鎖のシリル基が、アルコキシル基又はハロゲン原子のいずれか、あるいは、アルコキシル基及びハロゲン原子の両方を、置換基として有するシリル基である、
アクリル樹脂を指す。
【0034】
該シリコン変性アクリル樹脂中のSi量は、該シリコン変性アクリル樹脂の固形分質量に対して、1〜4質量%が好ましい。
【0035】
該シリコン変性アクリル樹脂としては、上記した条件を満足するものであれば、特に制限されず、例えば、市販のシリコン変性アクリル樹脂でも良く、あるいは、市販のアクリル樹脂をシリコン変性したものでも良く、あるいは、共重合反応によって合成したシリコン変性アクリル樹脂であっても良い。アクリル樹脂へのシリル基の導入方法としては、エステル交換反応による方法、シリコンマクロマーや反応性シリコンモノマーを用いたクラフト反応による方法、ヒドロシル化反応による方法、ブロック共重合を用いた方法などがある。
【0036】
本発明の光触媒膜用接着層の形成用組成物中、該シリコン変性アクリル樹脂の含有量は、1〜30質量%である。本発明の光触媒膜用接着層の形成用組成物中の該シリコン変性アクリル樹脂の含有量が、上記範囲内にあることにより、光触媒の作用に対して安定になり、得られる接着層が透明性を維持し、基材との接着性が高くなる。一方、本発明の光触媒膜用接着層の形成用組成物中の該シリコン変性アクリル樹脂の含有量が、上記範囲より多いと、光触媒の光触媒作用に対して不安定になり易く、得られる接着層の硬度は低く、また黄色くなり易く、また、上記範囲より少ないと、基材との接着性が低くなり易い。
【0037】
本発明の光触媒膜用接着層の形成用組成物を用いて、該基材1上に該光触媒膜用接着層2を形成させる方法、すなわち、光触媒膜用接着層の形成方法としては、該基材1上に、本発明の光触媒膜用接着層の形成用組成物を塗布して塗膜を形成させ、次いで、該塗膜を加熱処理して、該光触媒膜用接着層2を形成させる方法が挙げられる。
【0038】
該光触媒膜用接着層の形成方法において、本発明の光触媒膜用接着層の形成用組成物を、該基材に塗布して該塗膜を形成させる方法としては、特に制限されず、従来の方法を用いることができ、例えば、刷毛刷り、ローラー刷り、スプレーコーティング、ディップコーティング、ロールコーティング、フローコーティング、スピンコーティングなどがある。
【0039】
該塗膜の加熱処理は、オーブンなどの加熱設備にて行なわれる。該塗膜の加熱処理の条件は、加熱処理温度が110℃以下、好ましくは25〜110℃であり、加熱処理時間が1時間以内、好ましくは5分以内、より好ましくは0.5分〜1分である。該塗膜の加熱処理の際の加熱雰囲気は、特に制限されないが、大気雰囲気が経済的である。
【0040】
本発明の光触媒膜用接着層の形成用組成物が塗布される基材としては、すなわち、図1中、本発明の光触媒膜用接着層の形成用組成物を用いて接着層が形成される該基材3の材質としては、合成樹脂材、金属材(鉄、アルミニウム、SUSなど)、ガラス等が挙げられる。これらのうち、該合成樹脂材が好ましい。なお、該光触媒構造体4を被覆する部材には、単一の材質で構成されているものや、ある材質の表面の一部が他の材質で構成されているものがあるが、本発明において、該基材3とは、該光触媒構造体4で被覆される部分、つまり、本発明の光触媒膜用接着層の形成用組成物を塗布して、該光触媒膜用接着層2を形成させる部分を指す。
【0041】
該基材3の形態としては、該合成樹脂材製のフィルム、シート、板などが挙げられる。該合成樹脂としては、ポリカーボネート、ABS樹脂、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、アクリル系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ポリオレフィン、フッ素樹脂、ポリアミド、ポリイミド等が挙げられる。
【0042】
そして、本発明の光触媒膜用接着層は、本発明の光触媒膜用接着層の形成用組成物を用いて、上記光触媒膜用接着層の形成方法により形成される光触媒膜用接着層である。
【0043】
図1中、該光触媒膜1は、該光触媒膜用接着層2上に形成されており、光触媒膜形成用組成物を用いて形成されるので、該光触媒構造体4は、該光触媒接着層2、すなわち、本発明の光触媒膜用接着層と、本発明の光触媒膜用接着層上に、該光触媒膜形成用組成物を用いて形成される光触媒膜と、を有する。
【0044】
つまり、本発明の光触媒構造体は、
本発明の光触媒膜用接着層の形成用組成物を用いて、基材上に形成される光触媒膜用接着層と、
該光触媒膜用接着層上に形成される光触媒膜と、
を有する光触媒構造体である。
【0045】
光触媒膜用接着層2上に光触媒膜を形成させるために用いられる、該光触媒膜形成用組成物(以下、光触媒膜用接着層2上に光触媒膜を形成させるために用いられる該光触媒膜形成用組成物を総称して、光触媒膜形成用組成物(A)と記載する。)は、光触媒を含有し、該光触媒が溶媒に分散されているものであれば、特に制限されないが、光触媒膜用接着層2との密着性が高くなる点で、
該光触媒膜形成用組成物(A)のうち、光触媒と、シラン化合物と、を含有する光触媒膜形成用組成物(以下、光触媒膜形成用組成物(B)と記載する。)が好ましく、
特に、光触媒膜形成用組成物(B)のうち、光触媒と、下記一般式(2)で表されるメトキシシラン化合物のように、炭素数が2〜5であり且つ二重結合を有する有機基を1又は2有するアルコキシシラン化合物と、を含有する光触媒膜形成用組成物(以下、光触媒膜形成用組成物(C)と記載する。)が好ましく、
さらに、該光触媒膜形成用組成物(C)のうち、本発明の光触媒膜用接着層上に、光触媒膜を形成させるために用いられる光触媒膜形成用組成物であって、
光触媒と、下記一般式(2):
Si(OCH4−m (2)
(式中、Rは炭素数が2〜5であり且つ二重結合を有する有機基を示し、mは1又は2である。m=2の場合、R2は同一でも異なっていてもよい。)
で表されるメトキシシラン化合物と、コロイダルシリカと、アルミニウム化合物と、チタン化合物と、を含有し、且つ該コロイダルシリカの固形分の含有量が0〜7質量%である光触媒膜形成用組成物(以下、光触媒膜形成用組成物(D)と記載する。)が好ましい。
【0046】
該光触媒膜形成用組成物(A)、(B)、(C)及び(D)に係る該光触媒としては、酸化チタン、窒素や硫黄を内部に含む酸化チタン、硫黄をTiサイトにドープした酸化チタン、酸素が欠損した酸化チタン、貴金属を担持した酸化チタン、遷移金属が担持された酸化チタン、遷移金属を内部に含む酸化チタン、酸化亜鉛、酸化錫、酸化ジルコニウム、酸化タングステンなどが挙げられる。これらのうち、可視光で高活性を示す点で、硫黄をTiサイトにドープした酸化チタンが好ましい。また、該光触媒は、上記酸化チタンに、遷移金属や貴金属が添加又は担持されたものでもよい。
【0047】
該光触媒膜形成用組成物(A)、(B)、(C)及び(D)に係る該溶媒、すなわち、該光触媒が分散される溶媒としては、低温、短時間での固化に有利な低沸点のものが好ましく、水;メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、ノルマルプロパノール、ブタノール、エチレングリコール、ジエチレングリコールなどのアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類;酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチルなどのエステル類;トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素、が挙げられる。また、ミネラルスプリット、シリコン油なども用いることができる。なお、後述するA液及びB液の溶媒も同様である。
【0048】
該光触媒膜形成用組成物(D)中、該コロイダルシリカの固形分の含有量は、0〜7質量%なので、該光触媒膜形成用組成物(D)は、コロイダルシリカを含有していなくてもよく、あるいは、コロイダルシリカを固形分に換算して7質量%以下の割合で含有していてもよい。
【0049】
そして、該光触媒膜形成用組成物(D)は、該溶媒に、該光触媒と、前記一般式(2)で表されるメトキシシラン化合物と、該コロイダルシリカと、該アルミニウム化合物と、該チタン化合物と、が分散されている。
【0050】
前記一般式(2)で表されるメトキシシラン化合物は、ケイ素原子に、有機基Rとメトキシ基とが結合している化合物である。前記一般式(2)中、Rは、炭素数が2〜5であり且つ二重結合を有する有機基であり、例えば、CH=CH−基、CH=CHCH−基、CHCH=CH−基、CH=CCH−基、CHCHCH=CH−基、CHCH=CHCH−基、CH=CHCHCH−基、CHCH=CHCHCH−基、CHCH=CHCHCH−基などが挙げられる。ケイ素原子に結合しているRの数、すなわち、前記一般式(2)中のmの値は、1又は2である。mが2の場合、Rは同じ基であっても異なる基であってもよい。
【0051】
前記一般式(2)で表されるメトキシシラン化合物において、ケイ素原子に結合している有機基R以外の基は、メトキシ基(−OCH)が好ましい。ケイ素原子に結合している基が、メトキシ基であることにより、組成物の硬化性が良好となり、強度の高い光触媒膜が得られる。
【0052】
そして、前記一般式(2)で表されるメトキシシラン化合物としては、入手容易性から、(CH=CH−)Si(OCH4−mが好ましい。
【0053】
該光触媒膜形成用組成物(D)に係る該アルミニウム化合物及び該チタン化合物は、いずれも、前記一般式(2)で表されるメトキシシラン化合物の重合用触媒として作用するので、該アルミニウム化合物及び該チタン化合物は、いずれも、本発明の光触媒膜形成用組成物の硬化剤である。本発明の光触媒膜形成用組成物は、該アルミニウム化合物及び該チタン化合物を含有することにより、光触媒膜形成用組成物の硬化速度が速くなり、保管安定性が良くなる。一方、光触媒膜形成用組成物が、該アルミニウム化合物又は該チタン化合物の一方しか含有していない場合、十分な硬化速度が得られない。
【0054】
該アルミニウム化合物としては、具体的には、アルミニウムのアルコキシド類が挙げられる。該アルミニウムのアルコキシド化合物としては、炭素数1〜8程度のアルコキシ基がアルミニウム原子に結合している化合物が挙げられ、例えば、Al(O−i−Pr)、Al(O−s-Bu)、Al(O−t−Bu)などが挙げられる。該アルミニウムのアルコキシド化合物の市販品としては、アルミニウムアルコキシド系硬化剤である「信越化学工業(株)製 DX9740」が挙げられる。
【0055】
該チタン化合物としては、具体的には、チタンのアルコキシド類が挙げられる。該チタンのアルコキシド化合物としては、炭素数1〜8程度のアルコキシ基がチタン原子に結合している化合物が挙げられ、例えば、Ti(OEt)、Ti(O−n-Pr)、Ti(O−i−Pr)、Ti(O−n−Bu)などが挙げられる。該チタンのアルコキシドの市販品としては、チタンアルコキシド系硬化剤である「信越化学工業(株)製 D25」が挙げられる。
【0056】
該光触媒膜形成用組成物(D)は、通常、該光触媒及び該コロイダルシリカが溶媒に分散されているA液と、前記一般式(2)で表されるメトキシシラン化合物、該アルミニウム化合物、該チタン化合物が溶媒に分散されているB液とを、使用前に混合することにより調製される。
【0057】
該光触媒膜形成用組成物(D)中(該A液と該B液とを混合して調製する場合は、該A液と該B液との混合液中)、前記一般式(2)で表されるメトキシシラン化合物の含有量は、5〜40質量%である。本発明の光触媒膜形成用組成物中の前記一般式(2)で表されるメトキシシラン化合物の含有量が、上記範囲内であることにより、光触媒膜の光触媒活性が高くなり、光触媒膜の強度も高くなる。一方、該光触媒膜形成用組成物(D)中の前記一般式(2)で表されるメトキシシラン化合物の含有量が、上記範囲より多いと、光触媒活性が低くなり易く、また、上記範囲より少ないと、光触媒膜の強度が低くなり易い。
【0058】
該光触媒膜形成用組成物(D)中(該A液と該B液とを混合して調製する場合は、該A液と該B液との混合液中)、該アルミニウム化合物の含有量は、0.2〜10質量%である。該光触媒膜形成用組成物(D)中の該アルミニウム化合物の含有量が、上記範囲より多いと、光触媒膜の硬度が低くなり、また、上記範囲より少ないと、組成物の硬化が不十分となる。
【0059】
該光触媒膜形成用組成物(D)中(該A液と該B液とを混合して調製する場合は、該A液と該B液との混合液中)、該チタン化合物の含有量は、0.2〜10質量%である。該光触媒膜形成用組成物(D)中の該チタン化合物の含有量が、上記範囲より多いと、光触媒膜の硬度が低くなり、組成物の保管安定性が悪くなり、また、上記範囲より少ないと、組成物の硬化が不十分となる。
【0060】
該光触媒膜形成用組成物(D)中(該A液と該B液とを混合して調製する場合は、該A液と該B液との混合液中)、該コロイダルシリカの固形分の含有量は、0〜7質量%である。該光触媒膜形成用組成物(D)中の該コロイダルシリカの固形分の含有量が、上記範囲より多いと、接着層と光触媒膜との密着性が低くなり易い。該光触媒膜形成用組成物(D)の調製に用いられる該コロイダルシリカとしては、固形分が5〜30質量%であり、溶媒に分散させたシリカゾルが好適に用いられる。
【0061】
該光触媒膜形成用組成物(D)中(該A液と該B液とを混合して調製する場合は、該A液と該B液との混合液中)、該光触媒の含有量は、1〜20質量%である。該光触媒膜形成用組成物(D)中の該光触媒の含有量が、上記範囲より多いと、光触媒粉末の分散が困難となり、また、上記範囲より少ないと、光触媒膜の光触媒活性が得られない。
【0062】
該光触媒膜形成用組成物(A)を用いて、該光触媒膜用接着層2上に該光触媒膜1を形成させる方法、すなわち、光触媒膜の形成方法としては、特に制限されない。光触媒膜の形成方法としては、例えば、該光触媒膜用接着層2上に、該光触媒膜形成用組成物(A)を塗布して塗膜を形成させ、次いで、該塗膜を加熱処理して、該光触媒膜を形成させる方法が挙げられる。
【0063】
該光触媒膜の形成方法において、該光触媒膜形成用組成物(A)を、該光触媒膜用接着層2上に塗布して該塗膜を形成させる方法としては、特に制限されず、従来の方法を用いることができ、例えば、刷毛刷り、ローラー刷り、スプレーコーティング、ディップコーティング、ロールコーティング、フローコーティング、スピンコーティングなどがある。
【0064】
該光触媒膜の形成方法において、該塗膜の加熱処理は、オーブンなどの加熱設備にて行なわれる。該塗膜の加熱処理の条件は、加熱処理温度が110℃以下、好ましくは25〜110℃であり、加熱処理時間が1時間以内、好ましくは5分以内、より好ましくは0.5分〜1分である。該塗膜の加熱処理の際の加熱雰囲気は、特に制限されないが、大気雰囲気が経済的である。
【0065】
本発明の光触媒構造体のうち、光触媒膜と接着層との密着性が高くなる点で、該光触媒膜が、該光触媒膜形成用組成物(B)を用いて形成される光触媒膜であることが好ましく、該光触媒膜形成用組成物(C)を用いて形成される光触媒膜であることが特に好ましく、該光触媒膜形成用組成物(D)を用いて形成される光触媒膜であることがさらに好ましい。
【実施例】
【0066】
次に、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、これは単に例示であって、本発明を制限するものではない。
【0067】
[実施例1]
ビニルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)KBM1003)100質量部(80質量%)、アルミニウムテトライソプロキシド10質量部(8質量%)、チタンテトライソブトキシド10質量部(8質量%)、シリコン変性アクリル樹脂(GE東芝シリコーン(株)YP9341)5質量部(4質量%)を撹拌し、光触媒膜用接着層の形成用組成物を得た。
【0068】
[比較例1]
単量体のビニルトリエトキシシラン(信越化学工業(株)KBE1003)100質量部(80質量%)、アルミニウムテトライソプロキシド10質量部(8質量%)、チタンテトライソブトキシド10質量部(8質量%)、シリコン変性アクリル樹脂(GE東芝シリコーン(株)YP9341)5質量部(4質量%)を撹拌し、光触媒膜用接着層の形成用組成物を得た。撹拌後、10分間静置したところ、白濁が生じているのが観察された。
【0069】
[比較例2]
単量体のメチルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)KR400)100質量部(80質量%)、アルミニウムテトライソプロキシド10質量部(8質量%)、チタンテトライソブトキシド10質量部(8質量%)、シリコン変性アクリル樹脂(GE東芝シリコーン(株)YP9341)5質量部(4質量%)を撹拌し、光触媒膜用接着層の形成用組成物を得た。撹拌後、1分間静置したところ、白濁が生じているのが観察された。
【0070】
[比較例3]
単量体のビニルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)KBM1003)100質量部(87.0質量%)、アルミニウムテトライソプロキシド10質量部(8.7質量%)、シリコン変性アクリル樹脂(GE東芝シリコーン(株)YP9341)5質量部(4.3質量%)を撹拌し、光触媒膜用接着層の形成用組成物を得た。
【0071】
[比較例4]
単量体のビニルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)KBM1003)100質量部(87.0質量%)、チタンテトライソブトキシド10質量部(8.7質量%)、シリコン変性アクリル樹脂(GE東芝シリコーン(株)YP9341)5質量部(4.3質量%)を撹拌し、光触媒膜用接着層の形成用組成物を得た。
【0072】
[比較例5]
単量体のビニルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)KBM1003)100質量部(83.33質量%)、アルミニウムテトライソプロキシド10質量部(8.33質量%)、チタンテトライソブトキシド10質量部(8.33質量%)を撹拌し、光触媒膜用接着層の形成用組成物を得た。
【0073】
[実施例2]
単量体のビニルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)KBM1003)100質量部(82質量%)、アルミニウムテトライソプロキシド10質量部(8.2質量%)、チタンテトライソブトキシド10質量部(8.2質量%)、シリコン変性アクリル樹脂(GE東芝シリコーン(株)YP9341)2量部(1.6質量%)を撹拌し、光触媒膜用接着層の形成用組成物を得た。
【0074】
[実施例3]
単量体のビニルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)KBM1003)100質量部(66.7質量%)、アルミニウムテトライソプロキシド10質量部(6.7質量%)、チタンテトライソブトキシド10質量部(6.7質量%)、シリコン変性アクリル樹脂(GE東芝シリコーン(株)YP9341)30質量部(20.0質量%)を撹拌し、光触媒膜用接着層の形成用組成物を得た。
【0075】
[比較例6]
単量体のビニルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)KBM1003)100質量部(55.6質量%)、アルミニウムテトライソプロキシド10質量部(5.6質量%)、チタンテトライソブトキシド10質量部(5.6質量%)、シリコン変性アクリル樹脂(GE東芝シリコーン(株)YP9341)60質量部(33.3質量%)を撹拌し、光触媒膜用接着層の形成用組成物を得た。
【0076】
[比較例7]
単量体のビニルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)KBM1003)100質量部(45.5質量%)、アルミニウムテトライソプロキシド10質量部(4.5質量%)、チタンテトライソブトキシド10質量部(4.5質量%)、シリコン変性アクリル樹脂(GE東芝シリコーン(株)YP9341)100質量部(45.5質量%)を撹拌し、光触媒膜用接着層の形成用組成物を得た。
【0077】
[実施例4]
単量体のビニルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)KBM1003)100質量部(84.0質量%)、アルミニウムテトライソプロキシド4質量部(3.4質量%)、チタンテトライソブトキシド10質量部(8.4質量%)、シリコン変性アクリル樹脂(GE東芝シリコーン(株)YP9341)5質量部(4.2質量%)を撹拌し、光触媒膜用接着層の形成用組成物を得た。
【0078】
[実施例5]
単量体のビニルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)KBM1003)100質量部(69質量%)、アルミニウムテトライソプロキシド30質量部(20.7質量%)、チタンテトライソブトキシド10質量部(6.9質量%)、シリコン変性アクリル樹脂(GE東芝シリコーン(株)YP9341)5質量部(3.4質量%)を撹拌し、光触媒膜用接着層の形成用組成物を得た。
【0079】
[比較例8]
単量体のビニルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)KBM1003)100質量部(57.1質量%)、アルミニウムテトライソプロキシド60質量部(34.3質量%)、チタンテトライソブトキシド10質量部(5.7質量%)、シリコン変性アクリル樹脂(GE東芝シリコーン(株)YP9341)5質量部(2.9質量%)を撹拌し、光触媒膜用接着層の形成用組成物を得た。
【0080】
[比較例9]
単量体のビニルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)KBM1003)100質量部(46.5質量%)、アルミニウムテトライソプロキシド100質量部(46.5質量%)、チタンテトライソブトキシド10質量部(4.7質量%)、シリコン変性アクリル樹脂(GE東芝シリコーン(株)YP9341)5質量部(2.3質量%)を撹拌し、光触媒膜用接着層の形成用組成物を得た。
【0081】
[実施例6]
単量体のビニルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)KBM1003)100質量部(84.0質量%)、アルミニウムテトライソプロキシド10質量部(8.4質量%)、チタンテトライソブトキシド4質量部(3.4質量%)、シリコン変性アクリル樹脂(GE東芝シリコーン(株)YP9341)5質量部(4.2質量%)を撹拌し、光触媒膜用接着層の形成用組成物を得た。
【0082】
[実施例7]
単量体のビニルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)KBM1003)100質量部(69.0質量%)、アルミニウムテトライソプロキシド10質量部(6.9質量%)、チタンテトライソブトキシド30質量部(20.7質量%)、シリコン変性アクリル樹脂(GE東芝シリコーン(株)YP9341)5質量部(3.4質量%)を撹拌し、光触媒膜用接着層の形成用組成物を得た。
【0083】
[比較例10]
単量体のビニルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)KBM1003)100質量部(60.6質量%)、アルミニウムテトライソプロキシド10質量部(6.1質量%)、チタンテトライソブトキシド50質量部(30.3質量%)、シリコン変性アクリル樹脂(GE東芝シリコーン(株)YP9341)5質量部(3.0質量%)を撹拌し、光触媒膜用接着層の形成用組成物を得た。撹拌後、10分間静置したところ、白濁が生じているのが確認された。
【0084】
[比較例11]
単量体のビニルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)KBM1003)100質量部(46.5質量%)、アルミニウムテトライソプロキシド10質量部(4.7質量%)、チタンテトライソブトキシド100質量部(46.5質量%)、シリコン変性アクリル樹脂(GE東芝シリコーン(株)YP9341)5質量部(2.3質量%)を撹拌し、光触媒膜用接着層の形成用組成物を得た。撹拌後、10分間静置したところ、白濁が生じているのが確認された。
【0085】
【表1】

【0086】
【表2】

【0087】
【表3】

【0088】
[光触媒膜用接着層の作製]
基材として、アクリル板及び軟質塩化ビニールシートを用い、各基材に、各実施例及び比較例で調製した光触媒膜用接着層の形成用組成物を、スキージ法により塗布し、塗膜を形成させ、次いで、該塗膜を、110℃で1分間、オーブン中で加熱し、光触媒膜用接着層を作製した。
【0089】
[光触媒用接着層の評価方法]
1.硬度試験
光触媒用接着層を爪で擦り、該接着層の破れを目視で観察し、「○:傷なし、△:若干の傷、×:明らかな傷」の三段階で評価を行った。
【0090】
2.密着強度試験
下記A液及びB液を80:20(A液:B液)の割合で混合して、光触媒膜形成用組成物を得た後、速やかに、得られた光触媒膜形成用組成物を、上記のようにして作製した光触媒用接着層上に、スキージ法により塗布し、乾燥して、塗膜を形成させた。次いで、該塗膜を、110℃で1分間、オーブン中で加熱し、光触媒膜を形成させた。
次いで、作製した光触媒膜に、セロハンテープを付着させてから、該セロハンテープを光触媒膜面に対して直角に保ち瞬間的に引き剥がした。次いで、膜の状態を観察し、「○:剥離なし、△:若干の剥離、×:明らかな剥離」の三段階で評価を行った。
(A液)
可視光応答型光触媒粉末(硫黄0.01%含有酸化チタン) 60質量部
分散剤(楠本化成(株)製ED214)(アニオン系分散剤) 15質量部
イソプロパノール 325質量部
コロイダルシリカゾル分散液(日産化学工業(株)IPA-ST-UP)400質量部
(コロイダルシリカの固形分含量:15質量%、分散媒:イソプロパノール)
(B液)
ビニルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)KBM1003)
166質量部
チタンアルコキシド系硬化剤(信越化学工業(株)D25) 17質量部
アルミニウムアルコキシド系硬化剤(信越化学工業(株)DX9740)
17質量部
なお、上記A液とB液の合計質量に対する、コロイダルシリカの固形分の含有量は45質量%であった。
【0091】
3.活性評価試験
上記のようにして光触媒膜を形成させたサンプルを、1質量%硝酸銀水溶液に2分間を浸漬した。取り出したサンプルを紫外線ランプで還元反応させ、色の変化を目視で確認した。着色が多いほど酸化チタンが表面に出ている事になり、活性が高いと言える。評価結果を、「○:活性良好、△:ほどほどの活性、×:活性が悪い」の三段階で示した。
【0092】
4.透明性評価
作製した光触媒膜用構造体の吸光度を分光光度計V−550(日本分光製)で測定し透明性を評価した。評価結果を、「○:透明性良好、△:ほどほどの透明性、×:透明性が悪い」の三段階で示した。
【0093】
上記の評価結果を表4に示す。なお、白濁が生じた比較例1、比較例2、比較例10、比較例11の評価は行っていない。
【0094】
【表4】

【0095】
ビニルトリエトキシシランを用いた比較例1、メチルトリメトキシシランを用いた比較例2では、光触媒用接着層の形成用組成物に白濁が生じていたことから、保管安定性が悪いことがわかった。また、比較例3〜5より、硬度及び密着性が良好な接着層を得るためには、アルミニウムテトライソプロポキシド、チタンテトライソブトキシド及びシリコン変性アクリル樹脂の全てが必要であることがわかった。
また、実施例2及び3並びに比較例6及び7より、シリコン変性アクリル樹脂の含有量が1〜30質量%の範囲内にある実施例2及び3は、硬度、密着性及び透明性の全てが良好な接着層が得られたのに対し、シリコン変性アクリル樹脂の含有量が1〜30質量%の範囲からはずれている比較例6及び7では、硬度、密着性及び透明性の全てが良好な接着層は得られなかった。
実施例4及び5並びに比較例8及び9より、アルミニウムテトライソプロポキシドの含有量が3〜25質量%の範囲内にある実施例4及び5は、硬度、密着性及び透明性の全てが良好な接着層が得られたのに対し、アルミニウムテトライソプロポキシドの含有量が3〜25質量%の範囲より多い比較例8及び9は、硬度が低かった。
実施例6及び7並びに比較例10及び11より、チタンテトライソブトキシドの含有量が3〜25質量%の範囲内にある実施例6及び7は、硬度、密着性及び透明性の全てが良好な接着層が得られたのに対し、チタンテトライソブトキシドの含有量が3〜25質量%の範囲より多い比較例10及び11は、硬度が低くなるとともに、液中の微量の水分とでも架橋反応を起こし易くなるため組成物液の保管安定性も悪かった。
また、実施例1〜7の光触媒膜用接着層上に形成した光触媒膜は、触媒活性を有することが確認された。
これらのことから、本発明の光触媒膜用接着層は、硬度、密着性及び透明性に優れていることがわかった。
【0096】
[実施例8]
下記A液及びB液を80:20(A液:B液)の割合で混合して、光触媒膜形成用組成物を得た後、速やかに、得られた光触媒膜形成用組成物を、実施例1で作製した光触媒用接着層上に、スキージ法により塗布し、乾燥して、塗膜を形成させた。次いで、該塗膜を、110℃で1分間、オーブン中で加熱し、光触媒膜を形成させた。
(A液)
可視光応答型光触媒粉末(硫黄0.01%含有酸化チタン) 60質量部
分散剤(楠本化成(株)製ED214)(アニオン系分散剤) 15質量部
エチルアルコール 325質量部
コロイダルシリカゾル分散液(日産化学工業(株)IPA−ST−UP)
400質量部
(コロイダルシリカの固形分含量:15質量%、分散媒:イソプロパノール)
(B液)
ビニルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)KBM1003)
166質量部
チタンアルコキシド系硬化剤(信越化学工業(株)D25) 17質量部
アルミニウムアルコキシド系硬化剤(信越化学工業(株)DX9740)
17質量部
なお、上記A液とB液の合計質量に対する、コロイダルシリカの固形分の含有量は6質量%であった。
【0097】
[実施例9]
A液のコロイダルシリカゾル分散液400質量部に代えて、コロイダルシリカゾル分散液100質量部とする以外は、実施例8と同様に行い、光触媒膜を形成させた。
なお、A液とB液の合計質量に対する、コロイダルシリカの固形分の含有量は2質量%であった。
【0098】
[実施例10]
A液のコロイダルシリカゾル分散液400質量部に代えて、コロイダルシリカゾル分散液0質量部とする以外は、実施例8と同様に行い、光触媒膜を形成させた。
なお、A液とB液の合計質量に対する、コロイダルシリカの固形分の含有量は0質量%であった。
【0099】
[光触媒膜の評価結果]
実施例8〜10について、実施例1と同様の方法で、硬度、密着性及び活性の評価を行なった。その結果を表5に示す。

【表5】

【0100】
光触媒膜形成用組成物中のコロイダルシリカの固形分の含有量が、0〜7質量%の範囲内にある実施例8〜10は、硬度、密着性及び活性の全てが良好な光触媒膜が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】本発明の光触媒構造体を示す模式的な断面図である。
【符号の説明】
【0102】
1 光触媒膜
2 光触媒膜用接着層
3 基材
4 光触媒構造体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1):
Si(OCH4−n (1)
(式中、Rは炭素数が2〜5であり且つ二重結合を有する有機基を示し、nは1又は2である。n=2の場合、Rは同一でも異なっていてもよい。)
で表されるメトキシシラン化合物を主成分とし、
アルミニウム化合物、チタン化合物及びシリコン変性アクリル樹脂を含有し、該アルミニウム化合物の含有量が3〜25質量%であり、
該チタン化合物の含有量が3〜25質量%であること、
を特徴とする光触媒膜用接着層の形成用組成物。
【請求項2】
前記アルミニウム化合物及び前記チタン化合物のいずれもが、金属アルコキシド化合物であることを特徴とする請求項1記載の光触媒膜用接着層の形成用組成物。
【請求項3】
前記シリコン変性アクリル樹脂の含有量が、1〜30質量%であることを特徴とする請求項1又は2いずれか1項記載の光触媒膜用接着層の形成用組成物。
【請求項4】
合成樹脂材上に形成される接着層の形成用であることを特徴とする請求項1〜3いずれか1項記載の光触媒膜用接着層の形成用組成物。
【請求項5】
請求項1〜3いずれか1項記載の光触媒膜用接着層の形成用組成物を用いて形成されることを特徴とする光触媒膜用接着層。
【請求項6】
請求項1〜3いずれか1項記載の光触媒膜用接着層の形成用組成物を基材上に塗布して塗膜を形成させ、次いで、該塗膜を110℃以下1時間以内の条件で加熱処理して形成されることを特徴とする光触媒膜用接着層。
【請求項7】
請求項1〜3いずれか1項記載の光触媒膜用接着層の形成用組成物を基材上に塗布して塗膜を形成させ、次いで、該塗膜を110℃以下1時間以内の条件で加熱処理して、光触媒膜用接着層を形成させることを特徴とする光触媒膜用接着層の形成方法。
【請求項8】
請求項1〜4いずれか1項記載の光触媒膜用接着層の形成用組成物を用いて、基材上に形成される光触媒膜用接着層と、該光触媒膜用接着層上に形成される光触媒膜と、を有することを特徴とする光触媒構造体。
【請求項9】
前記光触媒膜が、光触媒と、炭素数が2〜5であり且つ二重結合を有する有機基を1又は2有するシラン化合物と、を含有する光触媒膜形成用組成物を用いて形成される光触媒膜であることを特徴とする請求項8記載の光触媒構造体。
【請求項10】
前記光触媒膜が、
光触媒と、
下記一般式(2):
Si(OCH4−m (2)
(式中、Rは炭素数が2〜5であり且つ二重結合を有する有機基を示し、mは1又は2である。m=2の場合、Rは同一でも異なっていてもよい。)
で表されるメトキシシラン化合物と、コロイダルシリカと、アルミニウム化合物と、チタン化合物と、を含有し、且つ該コロイダルシリカの固形分の含有量が0〜7質量%である光触媒膜形成用組成物を用いて形成される光触媒膜であることを特徴とする請求項8記載の光触媒構造体。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2008−308511(P2008−308511A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−154786(P2007−154786)
【出願日】平成19年6月12日(2007.6.12)
【出願人】(390007227)東邦チタニウム株式会社 (191)
【Fターム(参考)】