説明

光記録再生装置、光記録再生方法

【課題】光記録媒体において記録再生層を多層化しても、記録再生の信号品質の悪化を抑制する。更に、転送レートを高めることを可能にする。
【解決手段】予め積層され又は事後的に形成される記録再生層14を複数有する光記録媒体10に対して光照射によって情報を記録再生する際に、光記録再生装置90が、第1対象となる記録再生層14A〜14Eに対して第1ビーム770Aを照射して情報を記録再生する第1光学系と、第2対象となる前記記録再生層14F〜14Jに対して第2ビーム770Bを照射して情報を記録再生する第2光学系を備えるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録再生層を複数有する光記録媒体に対して、光照射によって情報を記録再生する光記録再生装置及び光記録再生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光記録媒体の分野では、レーザー光源の短波長化や光学系の高NA化によって、記録密度を高めてきている。例えばBlu−ray Disc(BD)規格の光記録媒体では、レーザーの波長を405nm、開口数を0.85とし、1層当たり25GBの容量の記録再生を可能にしている。しかし、これらの光源や光学系による努力は限界に達してきており、記録容量を更に増大させる為には、光軸方向へ多重に情報を記録していく体積記録が求められている。例えばBD規格の光記録媒体では、記録再生層を8層(非特許文献1参照)、または6層(非特許文献2参照)を備える多層光記録媒体が提案されている。
【0003】
更に最近では、20層のROM型の光記録媒体(非特許文献3参照)、10層や16層の追記型の光記録媒体(非特許文献4、5、6参照)等の技術提案によって、BD規格と同様の光学系(波長及び開口数)を用いて、500GB程度の記録容量を達成できる可能性が高まってきている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】I. Ichimura et. al., Appl. Opt., 45, 1794-1803 (2006)
【非特許文献2】K. Mishima et. al., Proc. of SPIE, 6282, 62820I (2006)
【非特許文献3】A. Mitsumori et. al., Jpn. J. Appl. Phys., 48, 03A055 (2009)
【非特許文献4】T. Kikukawa et. al., Jpn. J. Appl. Phys., 49, 08KF01 (2010)
【非特許文献5】M. Inoue et. al., Proc. SPIE, 7730, 77300D (2010)
【非特許文献6】M. Ogasawara et. al., Tech. Dig. of International Symposium on Optical Memory 2010, 224 (2010)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記技術のように、記録再生層の層数を増大させると、光記録媒体内には、厚さ方向の広範囲に亘って記録再生層が配置される。この結果、記録再生用の光ピックアップは、厚さ方向の広い範囲にビームをフォーカスさせる必要が出てくるため、球面収差の補正範囲を広く設定しなければならない。従って、光ピックアップの構成が複雑化・大型化すると共に、光ピックアップによる記録再生層のシーク時間が長くなるという問題があった。
【0006】
また、記録再生層の層数を増大させれば、光記録媒体の容量は増大するが、これだけでは記録再生速度の向上には繋がらない。例えば、光記録媒体の記録容量が増大する一方で、記録速度の向上が伴わないと、記録作業における利用者の待機時間が長くなり、感覚的な利便性が低下するという問題があった。
【0007】
更に、各記録再生層の光学特性が異なってくる場合、各記録再生層に対応して、光ピックアップの記録再生パワーを細かく制御する必要がある。とりわけ、記録再生層の層数が多いほど、光学特性のバリエーションが増えるので、光ピックアップ側では、広帯域の記録再生パワーを出力できる状態にする必要がある。結果、光ピックアップ側のコスト増大を招くという問題があった。
【0008】
また更に、光記録媒体の記録再生層を多層化する際、層間クロストークを避ける為に記録再生層の層間距離を広げようとすると、上記光ピックアップ側の問題は益々顕著になる。特に、共焦点クロストークを避ける為に、全ての層間距離を異ならせながら、記録再生層の積層数を増大させると、様々な膜厚の中間層を用意する必要があるため、結局、層間距離が大きくなってしまうという問題があった。
【0009】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、光記録媒体において記録再生層を多層化しても、レーザーないしは光学系に対する負荷を低減でき、更には、転送レートを高めることも可能になる光記録再生手法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らの鋭意研究により、上記目的は以下の手段によって達成される。
【0011】
即ち、上記目的を達成する本発明は、予め積層され又は事後的に形成される記録再生層を複数有する光記録媒体に対して、光照射によって情報を記録再生する光記録再生装置であって、第1対象となる前記記録再生層に対して第1ビームを照射して情報を記録再生する第1光学系と、第2対象となる前記記録再生層に対して第2ビームを照射して情報を記録再生する第2光学系と、を備えることを特徴とする光記録再生装置である。
【0012】
上記目的を達成する上記光記録再生装置では、記録又は再生時における前記第1光学系による前記第1ビームの平均出射パワーと、記録又は再生時における前記第2光学系による前記第2ビームの平均出射パワーが、互いに異なることを特徴とする。
【0013】
上記目的を達成する上記光記録再生装置では、前記第1光学系の第1光源の定格出力と、前記第2光学系の第2光源の定格出力が、互いに異なることを特徴とする。
【0014】
上記目的を達成する上記光記録再生装置において、前記第1光学系と前記第2光学系は、前記光記録媒体の一方の光入射面側に配置されることを特徴とする。
【0015】
上記目的を達成する上記光記録再生装置では、前記光記録媒体における前記一方の光入射面側を基準として、前記第2対象となる前記記録再生層よりも、前記第1対象となる前記記録再生層が奥側に配置されており、記録又は再生時における前記第1光学系による前記第1ビームの平均出射パワーが、記録又は再生時における前記第2光学系による前記第2ビームの平均出射パワーよりも大きいことを特徴とする。
【0016】
上記目的を達成する上記光記録再生装置において、前記光記録媒体は、前記第1対象の前記記録再生層及び前記第2対象の前記記録再生層を、それぞれ複数有することを特徴とする。
【0017】
上記目的を達成する上記光記録再生装置では、前記第1及び前記第2光学系を同時に制御して、前記第1対象の前記記録再生層及び前記第2対象の前記記録再生層に対して情報を同時に記録又は再生する記録再生制御装置を備えることを特徴とする。
【0018】
上記目的を達成する上記光記録再生装置では、前記光記録媒体における、前記第1対象の前記記録再生層及び前記第2対象の前記記録再生層の光学定数が、互いに実質的に同一であることを特徴とする。
【0019】
上記目的を達成する上記光記録再生装置では、前記光記録媒体における、前記第1対象の前記記録再生層及び前記第2対象の前記記録再生層の材料組成及び膜厚が、実質的に同一であることを特徴とする。
【0020】
上記目的を達成する上記光記録再生装置では、前記光記録媒体は、積層順に連続する複数の前記記録再生層から構成される記録再生層群を、少なくとも2群以上有してなり、前記記録再生層群内では、光入射面に近い手前側から該光入射面に遠い奥側に向かって、前記記録再生層の積層状態の反射率が同等又は減少するように設定されており、前記第1対象の前記記録再生層及び前記第2対象の前記記録再生層は、前記2群以上の前記記録再生層群のいずれかに属することを特徴とする。
【0021】
上記目的を達成する上記光記録再生装置において、前記記録再生層群内の前記記録再生層は、前記光学定数が互いに実質的に同一であり、且つ前記複数の前記記録再生層群は、前記光学定数が互いに異なることを特徴とする。
【0022】
上記目的を達成する上記光記録再生装置において、前記第1対象の前記記録再生層は、第1の前記記録再生層群に属しており、前記第2対象の前記記録再生層は、第2の前記記録再生層群に属していることを特徴とする。
【0023】
上記目的を達成する上記光記録再生装置において、前記第1対象の前記記録再生層は、複数の前記記録再生層群に属しており、前記第2対象の前記記録再生層は、複数の前記記録再生層群に属していることを特徴とする。
【0024】
上記目的を達成する本発明は、予め積層され又は事後的に形成される記録再生層を複数有する光記録媒体に対して、光照射によって情報を記録再生する光記録再生方法であって、第1対象となる前記記録再生層に対して第1ビームを照射して情報を記録再生する第1ステップと、第2対象となる前記記録再生層に対して第2ビームを照射して情報を記録再生する第2ステップと、を備えることを特徴とする光記録再生方法である。
【0025】
上記目的を達成する上記光記録再生方法では、前記光記録媒体における前記一方の光入射面側を基準として、前記第2対象となる前記記録再生層よりも、前記第1対象となる前記記録再生層が奥側に配置されており、記録又は再生時における前記第1ビームの平均出射パワーが、記録又は再生時における前記第2ビームの平均出射パワーよりも大きいことを特徴とする。
【0026】
上記目的を達成する上記光記録再生方法では、前記第1ステップ及び前記第2ステップを同時に行うことで、前記第1対象の前記記録再生層及び前記第2対象の前記記録再生層に対して情報を同時に記録又は再生することを特徴とする。
【0027】
上記目的を達成する上記光記録再生方法では、前記光記録媒体における、前記第1対象の前記記録再生層及び前記第2対象の前記記録再生層の光学定数が、互いに実質的に同一であることを特徴とする。
【0028】
上記目的を達成する上記光記録再生方法において、前記光記録媒体は、積層順に連続する複数の前記記録再生層から構成される記録再生層群を、少なくとも2群以上有してなり、前記記録再生層群内では、光入射面に近い手前側から該光入射面に遠い奥側に向かって、前記記録再生層の積層状態の反射率が同等又は減少するように設定されており、前記第1ステップで記録再生される前記第1対象の前記記録再生層、及び前記第2ステップで記録再生される前記第2対象の前記記録再生層は、前記2群以上の前記記録再生層群のいずれかに属することを特徴とする。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、光記録媒体において記録再生層を多層化しても、記録再生の信号品質の悪化を抑制することができ、更には、転送レートを高めることも可能になるという優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の第1実施形態に係る光記録再生装置及び多層光記録媒体の全体構成を示す側面図である。
【図2】同光記録再生装置の第1光ピックアップの内部構成を示したブロック図である。
【図3】同光記録再生装置の第2光ピックアップの内部構成を示したブロック図である。
【図4】同多層光記録媒体の積層構造を示す断面図である。
【図5】同多層光記録媒体の反射率と吸収率を示す図表及びグラフである。
【図6】同多層光記録媒体の膜厚構成を示す図である。
【図7】同多層光記録媒体の設計思想を説明するための再生光の状態を示す図である。
【図8】同多層光記録媒体の設計思想を説明するための迷光の状態を示す図である。
【図9】同多層光記録媒体の設計思想を説明するための積層反射率の変化を示す図である。
【図10】同多層光記録媒体の設計思想を説明するための積層反射率の変化を示す図である。
【図11】同光記録再生装置による多層光記録媒体の光記録再生手法を説明するための断面図である。
【図12】レーザーの高周波重畳によるパワー制御の例を示す出力波形である。
【図13】第2実施形態の光記録再生装置で記録再生される多層光記録媒体の設計思想を説明するための積層反射率の変化を示す図である。
【図14】同多層光記録媒体の設計思想を説明するための積層反射率の変化を示す図である。
【図15】同多層光記録媒体の積層構造を示す断面図である。
【図16】同多層光記録媒体の反射率と吸収率を示す図表及びグラフである。
【図17】同多層光記録媒体の膜厚構成を示す図である。
【図18】同光記録再生装置による多層光記録媒体の光記録再生手法を説明するための断面図である。
【図19】同光記録再生装置による多層光記録媒体の光記録再生手法の他の例を説明するための断面図である。
【図20】同光記録再生装置による多層光記録媒体の光記録再生手法の他の例を説明するための断面図である。
【図21】同光記録再生装置による多層光記録媒体の光記録再生手法の他の例を説明するための断面図である。
【図22】同光記録再生装置による多層光記録媒体の光記録再生手法の他の例を説明するための断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
【0032】
図1には、第1実施形態に係る光記録再生装置90と、この光記録再生装置90で記録再生される多層光記録媒体10の構成が示されている。
【0033】
この光記録再生装置90は、記録再生制御装置95と、第1光ピックアップ700Aと、第2光ピックアップ700Bを備えている。この第1、第2光ピックアップ700A、700Bは、多層光記録媒体10の一方の光入射面10A側に配置されている。この2つの光ピックアップ700A、700Bは、この光入射面10Aから第1、第2ビーム770A、770Bを多層光記録媒体10の内部に照射して、多層光記録媒体10の記録再生層群14に対して情報を同時に記録したり、情報を同時に再生したりすることが可能となっている。
【0034】
図2及び図3には、第1、第2光ピックアップ700A、700Bの内部構成が示されている。なお、第1、第2光ピックアップ700A、700Bの内部構成は、一部は略同じであり、一部は異なっている。従って、互いに共通する部品・部材については、第1光ピックアップ700Aでは図中又は文章中の各符号の末尾にAを付し、第2光ピックアップ700Bで図中又は文章中の符号の末尾にBを付し、末尾以外は同じ番号にする。ここでは第1光ピックアップ700Aの内部構成を詳細に説明することで、第2光ピックアップ700Bの説明を省略する。
【0035】
第1光ピックアップ700Aは第1光学系710Aを備える。この第1光学系710Aは、多層光記録媒体10の記録再生層群14に対して記録・再生を行う光学系となる。第1光源701Aから出射された比較的短い青色波長380〜450nm(ここでは405nm)となる発散性の第1ビーム770Aは、球面収差補正手段793Aを備えたコリメートレンズ753Aを透過し、偏光ビームスプリッタ752Aに入射する。偏光ビームスプリッタ752Aに入射した第1ビーム770Aは、偏光ビームスプリッタ752Aを透過して、更に4分の1波長板754Aの透過によって円偏光に変換された後、対物レンズ756Aで収束ビームに変換される。この第1ビーム770Aは、多層光記録媒体10の内部に形成された複数の記録再生層群14のいずれかの記録再生層の上に集光される。
【0036】
偏光ビームスプリッタ752Aで反射された第1ビーム770Aは、集光レンズ759Aを透過して収束光に変換され、シリンドリカルレンズ757Aを経て、光検出器732Aに入射する。第1ビーム770Aには、シリンドリカルレンズ757Aを透過する際、非点収差が付与される。光検出器732Aは、図示しない4つの受光部を有し、それぞれ受光した光量に応じた電流信号を出力する。これら電流信号から、非点収差法によるフォーカス誤差(以下FEとする)信号、プッシュプル法によるトラッキング誤差(以下TEとする)信号、多層光記録媒体10に記録された情報の再生信号等が生成される。FE信号およびTE信号は、所望のレベルに増幅および位相補償が行われた後、アクチュエータ791Aおよび792Aにフィードバック供給されて、フォーカス制御およびトラッキング制御がなされる。
【0037】
第1光ピックアップ700Aの第1光学系710Aの第1ビーム770Aと、第2光ピックアップ700Bの第2光学系710Bの第2ビーム770Bでは、記録時の平均出射パワーが互いに異なるようになっている。再生時の平均出射パワーも同様に、互いに異なるようになっている。具体的には、第1ビーム770Aの記録時及び再生時の平均出射パワーが、第2ビーム770Bの記録時及び再生時の平均出射パワーよりも大きく設定されている。
【0038】
記録再生制御装置95は、第1、第2光ピックアップ700A、700Bを同時に制御して、記録再生層に対して情報を記録したり、記録再生層から情報を再生したりする。例えば、光検出器732A、732Bから得られるフォーカス誤差(以下FEとする)信号とトラッキング誤差(以下TEとする)信号を利用して、第1、第2光ピックアップ700A、700Bのアクチュエータ791A、791Bおよび792A、792Bをフィードバック制御することで、フォーカス制御およびトラッキング制御を行う。情報の記録時は、記録予定となる情報を、第1、第2光ピックアップ700A、700Bに振り分けながら、第1、第2光源701A、701Bから、2つの記録再生層に対して記録用のビームを同時に照射して、記録マークを同時に形成していく。情報の再生時は、第1、第2光源701A、701Bから、2つの記録再生層に対して再生用のビームを同時に照射して、光検出器732A、732Bから同時に得られる再生波形に基づいて再生信号を生成する。
【0039】
なお、第1、第2光ピックアップ700A、700Bによって、情報を同時記録又は同時再生する場合、第1、第2光ピックアップ700A、700Bは、多層光記録媒体10の半径方向に同一位置に存在することが好ましい。多層光記録媒体10を回転させる際に、同じ線速度によって記録・再生が可能となるからである。従って、第1、第2光ピックアップ700A、700Bは、多層光記録媒体10の周方向に対してずれた位置(異なる位相)に配置することで、第1、第2光ピックアップ700A、700Bの干渉を回避することが好ましい。
【0040】
図4には、この多層光記録媒体10の断面構造が拡大して示されている。
【0041】
この多層光記録媒体10は、外径が約120mm、厚みが約1.2mmの円盤形状となっており、記録再生層を3層以上備える構成となっている。この多層光記録媒体10は、光入射面10A側から、カバー層11、10層構成となるL0〜L9記録再生層14A〜14J、このL0〜L9記録再生層14A〜14Jの間に介在する中間層16A〜16I、支持基板12を備えて構成される。
【0042】
支持基板12には、種々の材料を採用することが可能である。例えば、ガラス、セラミックス、樹脂を利用できる。これらのうち、成型の容易性の観点からは樹脂が好ましい。樹脂としてはポリカーボネイト樹脂、オレフィン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、シリコーン樹脂、フッ素系樹脂、ABS樹脂、ウレタン樹脂等が挙げられる。これらの中でも、加工性などの点からポリカーボネイト樹脂やオレフィン樹脂が特に好ましい。なお、支持基板12は、ビーム770の光路とならないことから、高い光透過性を有している必要はない。
【0043】
L0〜L9記録再生層14A〜14Jには、トラックピッチ0.32umのグルーブが設けられている。L0〜L9記録再生層14A〜14Jの積層状態(多層光記録媒体10の完成した状態)の反射率(以下、積層反射率という)は、光入射面から奥側に向かって減少している。即ち光入射面に最も近いL9記録再生層14Jの積層反射率が最も高く、L0記録再生層13Aの積層反射率が最も低くなる。
【0044】
上述のような積層反射率を実現するための膜設計として、L0〜L9記録再生層14A〜14Jは、光学系100における青色波長領域のビーム770に対応させて、単層状態の光反射率・吸収率等が最適化されている。本実施形態では、全てのL0〜L9記録再生層14A〜14Jの間において光学定数が実質的に同一に設定され、そのためにも、L0〜L9記録再生層14A〜14Jの間において材料組成及び膜厚が実質的に同一に設定されている。
【0045】
具体的には図5に示されるように、L0〜L9記録再生層14A〜14Jは、単層状態での反射率(以下、単層反射率という)が1.5%に設定され、単層状態での吸収率(以下、単層吸収率という)が4.5%に設定される。
【0046】
このように本実施形態では、L0〜L9記録再生層14A〜14Jにおいて、互いに略同じ単層反射率・単層吸収率に設定される。この結果、L0〜L9記録再生層14A〜14Jにおいて、光入射面側から順番に積層反射率が単調減少していくことになる。
【0047】
この膜設計を採用する結果、L0〜L9記録再生層14A〜14Jは、互いに殆ど同じ記録材料及び膜厚で形成することが可能となり、製造コストの大幅な削減が実現される。
【0048】
なお。L0〜L9記録再生層14A〜14Jは、それぞれ、追記型記録膜の両外側に誘電体膜等を積層した3〜5層構造となっている(図示省略)。各記録再生層の誘電体膜は、追記型記録膜を保護するという基本機能に加えて、記録マークの形成前後における光学特性の差を拡大させたり、記録感度を向上させたりする役割を果たす。
【0049】
なお、第1、第2ビーム770A、770Bを照射した場合に、誘電体膜に吸収されるエネルギーが大きいと記録感度が低下しやすい。従って、これを防止するためには、これらの誘電体膜の材料として、380nm〜450nm(特に405nm)の波長領域において低い吸収係数(k)を有する材料を選択することが好ましい。なお、本実施の形態においては、誘電体膜の材料としてTiO2を用いている。
【0050】
誘電体膜に挟まれる追記型記録膜は不可逆的な記録マークが形成される膜であり、記録マークが形成された部分とそれ以外の部分(ブランク領域)は、第1、第2ビーム770A、770Bに対する反射率が大きく異なる。この結果、データの記録・再生を行うことができる。
【0051】
追記型記録膜は、Bi及びOを含む材料を主成分として形成される。この追記型記録膜は、無機反応膜として機能し、レーザー光の熱による化学的又は物理的な変化で反射率が大きく異なるようになっている。具体的な材料としては、Bi−Oを主成分とするか、又は、Bi−M−O(ただしMは、Mg、Ca、Y、Dy、Ce、Tb、Ti、Zr、V、Nb、Ta、Mo、W、Mn、Fe、Zn、Al、In、Si、Ge、Sn、Sb、Li、Na、K、Sr、Ba、Sc、La、Nd、Sm、Gd、Ho、Cr、Co、Ni、Cu、Ga、Pbの中から選択される少なくとも1種の元素)を主成分とすることが好ましい。なお、本実施形態では、追記型記録膜の材料として、Bi−Ge−Oを用いている。
【0052】
なお、ここではL0〜L9記録再生層14A〜14Jにおいて追記型記録膜を採用する場合を示したが、繰り返し記録が可能な相変化記録膜を採用することも可能である。この場合の相変化記録膜は、SbTeGeとすることが好ましい。
【0053】
図6に示されるように、本多層光記録媒体10は、光入射面10Aの遠い側から順番に第1〜第9中間層16A〜16Iを有している。これらの第1〜第9中間層16A〜16Iは、L0〜L9記録再生層14A〜14Jの間に積層される。各中間層16A〜16Iは、アクリル系またはエポキシ系の紫外線硬化型樹脂によって構成される。この中間層16A〜16Iの膜厚は、10μm以上となる第1距離T1と、この第1距離よりも3μm以上大きい第2距離T2が交互に設定されている。具体的に第1距離T1と第2距離T2は、3μm〜5μmの差を有していることが好ましく、更に好ましくは、4μm以上の差を有するようにする。
【0054】
この多層光記録媒体10では、第1距離T1として12μm、第2距離T2として16μmを採用しており、奥側から順に第1中間層16Aが12μm、第2中間層16Bが16μm、第3中間層16Cが12μm、第4中間層16Dが16μm、第5中間層16Eが12μm、第6中間層16Fが16μm、第7中間層16Gが12μm、第8中間層16Hが16μm、第9中間層16Iが12μmとなっている。つまり、2種類の膜厚(16μm、12μm)の中間層が交互に積層されている。このようにすると層間クロストーク及び共焦点クロストークの双方を低減させることができる。
【0055】
カバー層11は、中間層16A〜16Iと同様に光透過性のアクリル系の紫外線硬化型樹脂により構成されており、50μmの膜厚に設定されている。
【0056】
次に、この多層光記録媒体10の設計思想について、記録再生層の層数を一般化して説明する。
【0057】
多層光記録媒体において、記録再生層の間に配置される中間層の厚さが2種類(T1、T2)となり、これらが交互に積層される場合を考える。図7には、第a番目の記録再生層を再生した場合に、この記録再生層で直接反射した再生光(本光)の経路が示されている。また図8には、この本光と光路長が一致する迷光の経路の一例が示されている。なお、ここでは、第k番目の記録再生層を構成している材料に関して、その単層状態の反射率と透過率を各々rk、tkと定義する。
【0058】
第a番目の記録再生層に「1」の強度の再生光を入射させたときの本光の強度をIa、迷光の強度をIa'とすると、Ia及びIa'は以下の[式1]、[式2]で示される。
[式1] Ia=(ta+1×ta+2×ta+3×…×ta+n)2×ra
[式2] Ia'=(ta+2×ta+3×…×ta+n)×ra+1×ta+2×ra+3×ra+2×(ta+3×…×ta+n)
=(ta+2×ta+3×…×ta+n)2×ra+1×ra+2×ra+3
【0059】
従って,本光に対する迷光の強度比Ia'/Iaは式3で表現できる。
[式3]Ia'/Ia= (ta+2×ta+3×…×ta+n)2×ra+1×ra+2×ra+3/(ta+1×ta+2×ta+3×…×ta+n)2×ra
=(ra+1×ra+2×ra+3)/(ta+12×ra)
【0060】
以上の通り、中間層の厚さが交互に2種類となるような多層記録媒体では、第a番目の記録再生層における共焦点クロストークの影響を減らすため、即ち[式3]の迷光の強度比を小さくするために、以下の3つの考えが有効であることが分かる。
(1)第a層の反射率raを高くすること。
(2)第a+1層、第a+2層、第a+3層(第a層の光入射面(手前)側に隣接する3層)の反射率ra+1、ra+2、ra+3を低くすること。
(3)第a+1層(第a番目の記録再生層の手前に隣接する1層)の透過率ta+1を高くすること。
【0061】
更に、この考え方が全ての記録再生層で成り立つためには、他の記録再生層に対して手前の層になり得ない記録再生層、即ち、光入射面から最も遠い(奥)側の記録再生層を除いた残りの全ての記録再生層の反射率を低くし、透過率を高くすればよい。これを実現するためには、最奥の記録再生層を除いた残りの全記録再生層の単層状態の反射率rと透過率tを同一にすることが、媒体設計上では極めて簡便である。この際、各記録再生層の反射率rは低く、透過率tは高くする。勿論、最奥の記録再生層も含めた、全ての記録再生層の反射率rと透過率tを同一にすれば、最奥の記録再生層における迷光低減効果は減ずるものの、媒体設計上では最も簡略化できる。
【0062】
上述の通り、異なる記録再生層の間で光学定数を一致させる、即ち反射率rと透過率tを同一にすると、多層光記録媒では、奥側の記録再生層であるほど、積層状態の反射率Rが低く観測される。従って、仮に全ての記録再生層の反射率rと透過率tを同一にする場合を考えると、積層反射率Rは、手前側の記録再生層から奥側の記録再生層にかけて、単調に減少することになる。なお、積層状態の反射率とは、完成後の多層光記録媒体の特定の記録再生層に光を照射した際に、入射光と反射光の比率から求められる反射率のことを意味している。
【0063】
複数の記録再生層の光学定数を一致させるためには、記録再生層を構成する記録材料の組成と、その膜厚を一致させることが便利である。このようにすると、媒体設計上においても、製造上においても負担が合理的に軽減される。結果、本発明に係る多層光記録媒体の概念思想を実現するためには、複数の記録再生層を構成している記録材料の組成と、その膜厚を同一にすることが望ましい。より好ましくは、光入射面から最も奥側の記録再生層を含めた全ての記録再生層において、材料組成と膜厚を実質的に同一にし、結果、光学定数も互いに一致させる。
【0064】
なお、多層光記録媒体において、各記録再生層の組成と膜厚が実質的に同一であるという意味は、例えばミクロトームでディスクを断面方向に切断した試料を、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope:TEM)、あるいは走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)にて膜厚を測長し、更に、これらの顕微鏡に付属するエネルギー分散型分光法(Energy Dispersive Spectroscopy)などによって組成を分析した結果が、各記録再生層間で実質的に殆ど同一であることと同義である。このような状態であれば、各記録再生層の間で材料組成と膜厚が同一と考えてよい。勿論その結果として、各記録再生層の間では、光学定数が互いに一致する。
【0065】
ところで透過率tkは0より大きく1よりも小さな値を取るので、記録再生層の層数n+1が増えるほど、反射光強度Iaが減少する。反射光強度Iaがあまりに低いと、SNR(signal-noise ratio)が小さくなってしまい、光ピックアップのフォトディテクタの感度限界に達する。記録再生層の層数は、原則、この感度限界が上限となる。
【0066】
具体的に設計段階では、光入射面側から奥側に向かって、同一の光学定数となる記録再生層を順番に積層させていき、その積層反射率Rが、光ピックアップで扱うことができる感度限界に達するまでを、最大の積層数とする。
【0067】
上記概念思想に基づいて、多層光記録媒体を構成した状態を図9に示す。最も光入射面側に位置する記録再生層(Ln-1層)から、途中の記録再生層(Lk+1層、Lk層、Lk-1層)を経て、最も奥側に位置する記録再生層(L0)に向かって、積層反射率Rは単調に減少する。
【0068】
最も光入射面側に位置する記録再生層(Ln-1層)と、最も奥側に位置する記録再生層(L0層)の各々の積層反射率(Rn-1、R0)の比率は、第1、第2光ピックアップ700A、700Bが扱うことのできる同反射率のダイナミックレンジの制限から決定される。特に本実施形態では、第1、第2光ピックアップ700A、700Bが、異なる記録再生層に対して記録再生を行うので、第1ピックアップ700Aのダイナミックレンジと、第2ピックアップ700Bのダイナミックレンジを組み合わせた総合的なダイナミックレンジを広げることが可能となる。結果、記録再生層の層数を増やすことが可能となる。
【0069】
なお、図9では、全ての記録再生層の光学定数を一致させる概念を例示したが、図10に示されるように、最も奥側に位置する記録再生層(L0層)に関しては、残りの記録再生層と異なる材料組成や膜厚を採用することによって、光学定数を一致させなくても良い。なぜなら、このL0層は、更に奥側に記録再生層が存在しないため、光透過率を配慮する必要が無いからである。
【0070】
図4で示した多層光記録媒体10についても、光入射面10Aに最も近い側となるL9記録再生層14Jについて特定の成膜条件を設計し、このL9記録再生層14Jを基準に光入射面10Aから奥側に向かって記録再生層を順番に積層している。記録再生層の積層数の上限は下記の(1)又は(2)のいずれかで決定されることが好ましい。(1)再生劣化が起きない程度の再生パワーを記録再生層に照射した際に、各記録再生層からの反射によって光検出器732に戻ってくる反射光量が、評価装置で取り扱うことができる限界値に近くなること。(2)記録再生層における記録マークの形成(記録層の変性)に必要なレーザーパワーの限界値(即ち記録感度の限界値)に近くなること。即ち、最も奥側の記録再生層が、これらの反射光量や記録感度の限界値に達したら、これが積層数の上限となる。なお、同じ構成の記録再生層を積層した場合、当然、積層された状態で各記録再生層から光検出器732へ戻る反射光量は、光入射面から奥側になる程、記録再生層の透過の2乗に比例して単調減少し、更に、各記録再生層に到達するレーザーパワーも透過に比例して減少する。
【0071】
次に、この多層光記録媒体10の製造方法について説明する。まず、金属スタンパを用いることによる、ポリカーボネート樹脂の射出成型法により、グルーブおよびランドが形成された支持基板12を作製する。なお、支持基板12の作製は射出成型法に限られず、2P法や他の方法によって作製しても構わない。
【0072】
その後、支持基板12におけるグルーブ及びランドが設けられた側の表面にL0記録再生層14Aを形成する。
【0073】
具体的には、誘電体膜、追記型記録膜、誘電体膜の順に気相成長法を用いて形成する。中でもスパッタリング法を用いることが好ましい。その後、L0記録再生層14Aの上に第1中間層16Aを形成する。第1中間層16Aは、例えば、粘度調整された紫外線硬化型樹脂をスピンコート法等により皮膜し、その後、スタンパによってグルーブ及びランドを成型してから、この紫外線硬化性樹脂に紫外線を照射して硬化することにより形成する。この手順を繰り返すことで、L1記録再生層14B、第2中間層16B、L2記録再生層14C、第3中間層16C・・・と順番に積層していく。
【0074】
L9記録再生層14Jまで完成したら、その上にカバー層11を形成することで多層光記録媒体10が完成する。なおカバー層11は、例えば、粘度調整されたアクリル系またはエポキシ系の紫外線硬化型樹脂をスピンコート法等により皮膜し、これに対して紫外線を照射して硬化することにより形成する。なお、本実施形態では上記製造方法を説明したが、本発明は上記製造方法に特に限定されるものではなく、他の製造技術を採用することもできる。
【0075】
この多層光記録媒体10は、L0〜L9記録再生層14A〜14Jの積層反射率が手前から奥側に向かって減少するので、特定の記録再生層の再生中に、その奥側に隣接する記録再生層の反射光が再生光に漏れ込むことを抑制できる。この結果、中間層の厚さを小さくしても、クロストークを抑制することが可能となるので、結果として、L0〜L9記録再生層14A〜14Jの積層数を10層にまで増大させることができる。
【0076】
また、本実施形態では、L0〜L9記録再生層14A〜14Jの間で、同じ膜材料及び膜厚を採用しているので、記録再生層毎にばらばらの成膜条件が不要となり、設計負担、製造負担を大幅に軽減できる。結果として、L0〜L9記録再生層14A〜14Jの間では光学定数が実質的に同一に設定される。このようにすると、光記録再生装置90側における記録再生条件のばらつきが小さくなり、記録再生制御(記録ストラテジ)を簡潔化することが可能になる。ちなみに、単層反射率・単層吸収率が異なるような様々な記録再生層が複雑に重なり合うと、最適な記録再生制御を経験的に見つけ出さなければならないので、相当の困難が伴う。
【0077】
次に、第1実施形態の光記録再生装置90による光記録再生方法について説明する。
【0078】
図11に示されるように、光記録再生装置90における第1光ピックアップ700Aの第1ビーム770Aは、記録再生層群14におけるL0〜L4記録再生層14A〜14Eに対して記録又は再生を行う。また、第2光ピックアップ700Bの第2ビーム770Bは、L5〜L9記録再生層14F〜14Jに対して記録又は再生を行う。なお、第1ビーム770Aによって記録再生を行う記録再生層のことを、以下、第1対象となる記録再生層と呼ぶ場合がある。また、第2ビーム770Bによって記録再生を行う記録再生層のことを、以下、第2対象となる記録再生層と呼ぶことがある。
【0079】
即ち、本光記録再生方法では、第1対象となるL0〜L4記録再生層14A〜14Eと、第2対象となるL5〜L9記録再生層14F〜14Jが、別々の記録再生層となっている。特に本実施形態では、多層光記録媒体10の光入射面10A側を基準として、第1対象となるL0〜L4記録再生層14A〜14Eが、第2対象となるL5〜L9記録再生層14F〜14Jよりも奥側に配置されている。また、第1対象のL0〜L4記録再生層14A〜14Eに照射される第1ビーム770Aの記録時及び再生時の平均出射パワーが、第2対象のL5〜L9記録再生層14F〜14Jに照射される第2ビーム770Bの記録時及び再生時の平均出射パワーよりも大きくなっている。
【0080】
既に述べたように、第1対象となるL0〜L4記録再生層14A〜14Eの材料組成及び膜厚は、第2対象となるL5〜L9記録再生層14F〜14Jの材料組成及び膜厚と実質的に同一となっている。結果として、第1対象となるL0〜L4記録再生層14A〜14Eの光学定数は、第2対象となるL5〜L9記録再生層14F〜14Jと実質的に同一となっている。
【0081】
以上、本実施形態における光記録再生装置90では、第1光ピックアップ700Aと第2光ピックアップ700Bを別々に備えているので、第1ビーム770AをL0記録再生層14Aに照射すると同時に、第2ビーム770BをL5記録再生層14Fに照射して、情報を同時に記録したり、再生したりする事が可能となっている。これにより、記録・再生時の情報の転送レートを飛躍的に高めることが出来、多層光記録媒体10の積層数を増加させても、記録時における利用者の待機時間が短くなり、感覚的な利便性が向上する。
【0082】
また、この光記録再生装置90では、第1光ピックアップ700Aが、多層光記録媒体10における光入射面10Aから奥側のL0〜L4記録再生層14A〜14Eに対して記録再生を行い、第2光ピックアップ700Bが、手前側のL5〜L9記録再生層14F〜14Jに対して記録再生を行う。即ち、第1光ピックアップ700Aの記録再生対象となるL0〜L4記録再生層14A〜14Eは、多層光記録媒体10の厚さ方向の奥側の領域Xに集中しており、第2光ピックアップ700Bの記録再生対象となるL5〜L9記録再生層14F〜14Jは、多層光記録媒体10の厚さ方向の手前側の領域Yに集中している。結果、第1、第2光ピックアップ700A、700Bのそれぞれは、フォーカスの移動範囲を小さくすることが可能になるので、球面収差の補正範囲を狭くできる。結果、第1、第2光学系710A、710Bの構成が複雑化・巨大化しないで済むことにつながる。更に、第1、第2光ピックアップ700A、700Bの各々のダイナミックレンジの制約を超えて記録再生層の層数を増大させることを可能にする。記録再生層の層数が増大しても、第1、第2ビーム770A、770Bの移動距離が小さくて済むので、記録再生層の選択スピードが向上する。
【0083】
なお、本実施形態の多層光記録媒体10は、L0〜L9記録再生層14A〜14Jにおいて、互いに略同じ単層反射率・単層吸収率に設定されている。この結果、L0〜L9記録再生層14A〜14Jでは、光入射面10A側から順番に積層反射率を単調減少させている。このようにすると、所定の積層反射率を閾値にして記録再生層をグループ化すれば、自ずと、厚さ方向の別々の奥側領域X、手前側領域Yに記録再生層をグループ化することに繋がる。即ち、多層光記録媒体10の積層反射率を単調増減させる技術と、この積層反射率を閾値として、この閾値以下となる記録再生層を第1対象に所属させ、この閾値以上の記録再生層を第2対象に所属させる記録再生技術によって、極めて合理的な光記録再生手法が実現されることになる。
【0084】
また、積層反射率の大小を基準に第1、第2対象を記録再生層をグループ化すれば、第1、第2光ピックアップ700A、700Bのそれぞれが対応しなければならない記録再生パワーの要求範囲を小さくでき、第1、第2光ピックアップ700A、700Bの製造コストを大幅に抑制できる。具体的には、第1光ピックアップ700Aの第1光源701Aは定格において高パワー出力専用レーザーとし、第2光ピックアップ700Bの第2光源701Bは定格において低パワー出力専用レーザーとすることができる。そして、第1対象のL0〜L4記録再生層14A〜14Eに照射される第1ビーム770Aの記録時の平均出射パワーを高パワーとし、第2対象のL5〜L9記録再生層14F〜14Jに照射される第2ビーム770Bの記録時の平均出射パワーを低パワーにできる。
【0085】
従来のように、一つの光源で、高パワーから低パワーまで対応しようとすると、高帯域パワーを出力できる高価なレーザーを採用しなければならない。また、高帯域パワーに対応したレーザーで、低パワーのビームを照射する際は、ノイズ対策として図12に示されるような高周波重畳を行う必要がある。この高周波重畳とは、最低パワーPLOWによるビーム照射をベースとして、数百ピコ秒の高パワーPHIGHの高周波パルスを重ね合わせて、その積分平均によって、必要な低パワーPのビームを生成する技術である。この技術を採用すると、レーザーの駆動回路が複雑化することに加えて、高パワーPHIGHの高周波パルスによって多層光記録媒体10が劣化しやすい。一方、本実施形態では、第1光源701Aと第2光源701Bを、定格出力の異なる別々の専用レーザーにすることで、高周波重畳の制御を不要とすることが可能となる。
【0086】
次に、第2実施形態に係る光記録再生手法について説明する。なお、この第2実施形態で用いられる光記録再生装置90は、第1実施形態と同じであるため、内部構成の詳細な説明及び図示を省略する。一方、第2実施形態で用いられる多層光記録媒体の設計思想は、第1実施形態と異なるため、まず、第2実施形態における多層光記録媒体の設計思想について説明する。
【0087】
上記第1実施形態の設計理論で説明したとおり、多層光記録媒体10の透過率tkは0より大きく1よりも小さな値を取ることから、記録再生層の層数n+1が増えるほど、反射光強度Iaが減少する。反射光強度Iaがあまりに低いと、SNR(signal-noise ratio)が小さくなってしまい、光ピックアップのフォトディテクタの感度限界に達する。従って、記録再生層の組成や膜厚を、全ての記録再生層間で1種類に構成する限り、記録再生層の層数の増大に限界を生じる。
【0088】
そこで第2実施形態の設計思想では、まず、第1の記録材料と膜厚を採用することで、同一の光学定数となる記録再生層を光入射面側から奥側に向かって順番に積層させていき、その積層反射率Rが、光ピックアップで扱うことができる下限に達した場合、次の奥側の記録再生層からは、記録材料と膜厚を異ならせる(新たな第2の記録材料と膜厚を採用する)。具体的には、単層の反射率rを、手前側の記録再生層よりも所定値以上に高くする。このようにすると、記録再生層における積層反射率Rが高くなる(増加に転じる)ので、再び光ピックアップが扱うことができるようになる。従って、この第2の記録材料と膜厚を用いて、再び、光ピックアップが扱うことができる感度限界の下限まで、記録再生層を更に奥側に順番に積層していく。この設計プロセスを繰り返していくことにより、全ての記録再生層の間における積層状態の反射率Rの変動(最大値と最小値の差)を低減させることができ、かつ、記録再生層の種類(材料組成と膜厚種類)を低減させることもできる。即ち、第2実施形態に係る光記録再生方法では、多層光記録媒体として、略同一の材料組成と膜厚を採用して、光学定数を互いに一致させている記録再生層をグループ化して記録再生層群とし、この記録再生層群を複数用意していく。
【0089】
この考え方に基づいて、2つの記録再生層群A、Bによって多層光記録媒体を構成する概念を図13に示す。最も光入射面側の記録再生層群Bの中では、最も光入射面側に位置する記録再生層(Ln-1層)から、最も奥側に位置する記録再生層(Lk)に向かって、積層反射率Rは単調に減少する。同様にこの記録再生層群Bの奥側に隣接する記録再生層群Aの中では、最も光入射面側に位置する記録再生層(Lk-1層)から、最も奥側に位置する記録再生層(L0)に向かって、積層反射率Rは単調に減少する。
【0090】
更に、記録再生層群Aにおける光入射面側に位置する記録再生層(Lk-1層)の積層状態の反射率Rk-1は、記録再生層群Bの最も奥側に位置する2つの記録再生層(Lk層、Lk+1層)の反射率Rk、Rk+1の最大値よりも大きく設定される。この反射率の逆転現象によって、記録再生層群A、Bが区別されることになる。換言すると、記録再生層群A、Bのぞれぞれにおいては、特定の記録再生層の積層状態の反射率が、これより光入射面側に隣接する2つの記録再生層の積層状態の反射率の最大値よりも小さくなるように設定されていれば良い。例えば図14に示されるように、記録再生層群B内では、記録再生層(Lk+1)の積層状態の反射率Rk+1が、光入射面側に隣接する1つの記録再生層(Lk+2)の積層状態の反射率Rk+2よりも大きく、かつ、2番目に隣接する記録再生層(Lk+3)の積層状態の反射率Rk+3よりも小さくなる場合も許容できる。このような状態であれば、記録再生層群Bの中では、多少の増減はあるとしても、全体として積層反射率を減少傾向にすることができるからである。
【0091】
また、Lk層とLk-1層の反射率Rk、Rk-1の差があまりに大きすぎると、反射率が低いLk層へのフォーカスサーボの際に、Lk-1層の反射の影響を受けてしまい制御が困難になりやすい。具体的に、Rk-1とRkの比率は、Lk層へのフォーカスサーボの観点から3:1以内、即ち、Rk/Rk-1≧(1/3)が好ましく、2:1以内がさらに望ましい。これを実現する為には、記録再生層群Aにおける光入射面側に位置する記録再生層(Lk-1層)の反射率Rk-1を、記録再生層群Bの最も光入射面側に位置する記録再生層(Ln-1層)の率Rn-1と同程度またそれよりも小さく設定することが望ましい。
【0092】
また、Lk層の積層状態の反射率Rkについては、光記録再生装置が許容する限り、低い値とすることが望ましい。これにより、最も手前の記録再生層群Bに多数の記録再生層を含めることが可能になる。また、第1実施形態で示した[式1]の本光の反射光量Iaから分かるとおり、手前側の記録再生層群Bの方が、積層反射率の単調減少量(グラフにおける傾斜)を小さくすることができるので、その中に所属させる記録再生層の数を増やすことが出来る。同様に、L0層の反射率R0については、Rk-1より小さい任意の値を取ることができるが、Rk同様、光記録再生装置が許容する限り低い値とすることが望ましい。この結果、記録再生層群Aにおいても、記録再生層の数を増やすことができる。
【0093】
この結果、記録再生層群A、Bに含まれる記録再生層の数は、光入射面に近い側の記録再生層群Bに含まれる数の方が大きいことが望ましいことが分かる。入射光に遠い側の記録再生層群Aに属する記録再生層の単層反射率rは、記録再生層群Bに属する記録再生層の単層反射率rよりも高く設定される。繰り返しになるが、[式1]の本光の反射光量Iaから分かるとおり、奥側の記録再生層群Aに含まれる記録再生層の反射光量の減少量、即ち積層反射率の単調減少量(図13、図14におけるグラフの傾斜)は、手前の記録再生層群Bに含まれる記録再生層の積層反射率の単調減少量よりも大きくなる。つまり、奥の記録再生層群Aに含まれる記録再生層は、手前の記録再生層群Bに含まれる記録再生層よりも積層反射率変動が大きい。このような状況の中で、全ての記録再生層の間で積層反射率の変動を少なくするためには、反射率変動の少ない手前側の記録再生層群Bに対して、可能な限り多くの層数を含ませることが望ましいことになる。
【0094】
以上の考え方によれば、記録再生層群A、Bの間では、手前側の記録再生層群Bに含まれる全ての記録再生層の積層反射率の最大値と最小値の差と比較して、奥側の記録再生層群Aに含まれる全ての記録再生層の積層反射率の最大値と最小値の差を小さくすることが重要である。
【0095】
上記第2実施形態に係る設計思想に基づいて、複数の記録再生層群を有する多層光記録媒体110を具体的に構成する例を、図15、図16及び図17に示す。なお、以下の説明で用いる部材の符号については、既に第1実施形態で示した多層光記録媒体10の説明で用いた符号と下二桁を一致させることで、詳細な説明を省略する。
【0096】
この多層光記録媒体110は、光入射面の奥側から順番に、16層となるL0〜L15記録再生層114A〜114Pが積層されている。また、これらのL0〜L15記録再生層114A〜114Pの間に、第1〜第15中間層116A〜116Oが積層されている。
【0097】
更に、この多層光記録媒体110は、第1、第2記録再生層群113A、113Bを備えている。第1、第2記録再生層群113A、113Bは、それぞれ、積層順に連続する複数の記録再生層を備えて構成され、光入射面に近い手前側から、光入射面に遠い奥側に向かって、各記録再生層の積層反射率が同等又は減少するようになっている。
【0098】
具体的に第1記録再生層群113Aは、L0〜L4記録再生層114A〜114Eを備えた5層構成となっており、第2記録再生層群113Bは、L5〜L15記録再生層114F〜114Pを備えた11層構成となっている。奥側の第1記録再生層群113Aの記録再生層の層数は、手前側の第2記録再生層群113Bの記録再生層の層数よりも小さく設定される。
【0099】
各記録再生層群113A、113B内において、これに属する記録再生層の積層反射率は、その記録再生層の光入射面側に隣接する2つの記録再生層の積層反射率の最大値よりも小さくなるように設定されている。例えば、第1記録再生層群113A内において、L1記録再生層114Bの積層反射率は、光入射面側に隣接する2つのL2、L3記録再生層114C、114Dの積層反射率の大きい方よりも小さく設定されている。なお、第1記録再生層群113A内に限定すると、L3記録再生層114Dにとって、光入射面側には1つのL4記録再生層114Eしか隣接しない。従って、L3記録再生層114Dの積層反射率は、L4記録再生層114Eの積層反射率よりも小さく設定される。各記録再生層群113A、113Bがこのような条件を満たせば、その中では、積層反射率が光入射面から奥側に向かって多少の増減を許容しながら、減少させることが可能になる。
【0100】
このようにすることで、各記録再生層群113A、113Bでは、各記録再生層の積層反射率が奥側に向かって減少傾向にできるので、特定の記録再生層の再生中に、その奥側に隣接する記録再生層の反射光が再生光に漏れ込むことを抑制できる。この結果、中間層の厚さを小さくしても、クロストークを抑制することが可能となるので、記録再生層群113A、113B内における記録再生層の積層数を増大させることができる。
【0101】
この第1記録再生層群113Aと第2記録再生層群113Bは、中間層を挟んで隣り合うことになる。この隣り合う記録再生層群113A、113Bに関して、光入射面の手前側となる第2記録再生層群113Bにおける最も奥側の2層(即ちL5記録再生層114FとL6記録再生層14G)の積層反射率の最大値(ここではL6記録再生層14Gの積層反射率)と比較して、奥側の記録再生層群113Aにおける最も手前側のL4記録再生層114Eの積層反射率が高い。即ち、光入射面側から順番に考えると、L15記録再生層114PからL5記録再生層114Fまでは、積層順に、積層反射率が低下していくが、L4記録再生層114Eで積層反射率が、少なくとも手前に隣接する2層よりも増加に転じ、その後再び、L0記録再生層114Aまで積層順に積層反射率が低下するようになっている。
【0102】
また、これらの記録再生層群113A、113Bの間では、手前側の第2記録再生層群113Bに含まれる全てのL5〜L15記録再生層114F〜114Pの積層反射率の最大値と比較して、奥側の第1記録再生層群113Aに含まれる全てのL0〜L4記録再生層114A〜114Eの積層反射率の最大値が同一または小さく設定されている。具体的には、第2記録再生層群113Bにおける最も手前側のL15記録再生層14Pの積層反射率と比較して、第1記録再生層群113Aにおける最も手前側のL4記録再生層14Eの積層反射率が同一または小さく設定されている。
【0103】
このような積層反射率を実現するための膜設計として、図16に示されるように、第1記録再生層群113Aに属するL0〜L4記録再生層114A〜114Eは、単層状態での反射率(以下、単層反射率という)として第1単層反射率が設定され、単層状態での吸収率(以下、単層吸収率)として第1単層吸収率が設定されている。具体的に第1単層反射率は1.5%に設定され、第1単層吸収率は6.9%に設定される。
【0104】
また、光入射面側に近い側に位置する第2記録再生層群113Bに関して、これに属するL5〜L15記録再生層114F〜114Pは、第1単層反射率・第1単層吸収率よりも小さい第2単層反射率・第2単層吸収率が設定されている。具体的に第2単層反射率は0.7%に設定され、第2単層吸収率は4.5%に設定されている。
【0105】
この多層光記録媒体110では、第1記録再生層群113AのL0〜L4記録再生層114A〜114Eが、互いに略同じ単層反射率・単層吸収率に設定され、また、第2記録再生層群113BのL5〜L15記録再生層114F〜114Pが、互いに略同じ単層反射率・単層吸収率に設定される。この結果、第1記録再生層群113A、第2記録再生層群113B共に、光入射面側から順番に積層反射率が単調減少していくことになる。一方で、第1記録再生層群113Aと第2記録再生層群113Bでは、単層反射率・単層吸収率等の光学定数が互いに異なるように設定される。具体的には、第2記録再生層群113Bと比較して、第1記録再生層群113Aの単層反射率が高い。結果、L5記録再生層114Fの積層反射率と比較してL4記録再生層114Eの積層反射率が高くなる。
【0106】
また、この多層光記録媒体110では、記録再生層群113A、113Bの間において、手前側の第2記録再生層群113Bに含まれる全てのL5〜L15記録再生層114F〜114Pの積層反射率の最大値と最小値の差と比較して、奥側の第1記録再生層群113Aに含まれる全てのL0〜L4記録再生層114A〜114Eの積層反射率の最大値と最小値の差が小さい。
【0107】
図17に示されるように、中間層116A〜116Iの膜厚は、10μm以上となる第1距離T1(12μm)と、この第1距離よりも3μm以上大きい第2距離T2(16μm)が交互に設定されている。この多層光記録媒体110では、奥側から順に第1中間層116Aが16μm、第2中間層116Bが12μm、第3中間層116Cが16μm、第4中間層116Dが12μm、第5中間層116Eが16μm、第6中間層116Fが12μm、・・・と続くようにして、2種類の膜厚(16μm、12μm)の中間層が交互に積層されている。
【0108】
更に、多層光記録媒体110では、第1記録再生層群113Aと第2記録再生層群113Bの間に介在する第5中間層116Eが、膜厚の大きい側の第2距離T2(16μm)に設定される。従って、この第5中間層116Eに関しては、L4記録再生層114E又はL5記録再生層114Fを挟んで両側に隣り合う第4中間層16D、第6中間層16Fの膜厚よりも大きく設定される。既に述べたように、L4記録再生層114EとL5記録再生層114Fの間では、奥側のL4記録再生層114Eの積層反射率が高くなる(逆転する)ので層間クロストークが生じやすい。そこで、この間に介在する第5中間層116Eの膜厚を大きくすることで、層間クロストークを低減させている。
【0109】
この多層光記録媒体110では、第1及び第2記録再生層群13A、13Bのように、2つ以上の群に分けて積層反射率を設計しているので、結果として、光入射面に最も近いL15記録再生層114Pと、光入射面から最も遠いL0記録再生層114Aの積層反射率の差が小さくなる。具体的にL0〜L15記録再生層114A〜114Pの全てに関して、その中の最も大きい積層反射率が、最も小さい積層反射率の5倍以内に収まるようになっている。好ましくは4倍以内、望ましくは3倍以内に収まるようにする。実際には、16層構成にも拘わらず4倍未満に収まっている。これは、各記録再生層群113A、113B内に限っても同様である。
【0110】
また、この積層構造を採用することで、各記録再生層群113A、113B内では、同じ膜材料及び膜厚となる記録再生層を積層できるので、設計負担、製造負担を大幅に軽減することができる。また、光記録再生装置90側においても、各記録再生層群113A、113B内では、ほとんど同じ特性の記録再生層が積層されているので、記録再生条件のばらつきが小さくなり、記録再生制御を簡潔化することが可能になる。即ち、設計を簡素化すると製造も簡素化され、その結果、多層光記録媒体の品質が安定し、記録再生制御も簡略化できるという、好循環を生み出すことが可能となる。
【0111】
次に、本第2実施形態の光記録再生装置90によって、この多層光記録媒体110に対して記録再生を行う方法について説明する。
【0112】
図18(B)に示されるように、本光記録再生装置90における第1光ピックアップ700Aの第1ビーム770Aは、第1記録再生層群113A(L0〜L4記録再生層114A〜114E)に対して記録又は再生を行う。また、第2光ピックアップ700Bの第2ビーム770Bは、第2記録再生層群113B(L5〜L15記録再生層114F〜114P)に対して記録又は再生を行う。即ち、本実施形態では、第1記録再生層群113Aが、第1ビーム770Aによって記録再生を行う第1対象の記録再生層に相当し、第2記録再生層群113Bが、第2ビーム770Bによって記録再生を行う第2対象の記録再生層に相当する。
【0113】
この結果、第1対象となる第1記録再生層群113Aと、第2対象となる第2記録再生層群113Bは、別々の記録再生層となり、かつ、光入射面110A側を基準として、第1対象となる第1記録再生層群113Aが、第2対象となる第2記録再生層群113Bよりも奥側に配置される。
【0114】
既に述べたように、第1ビーム770Aの記録時の平均出射パワーは、第2ビーム770Bの記録時の平均出射パワーよりも大きくなっている。
【0115】
従って、本実施形態における光記録再生装置90による記録再生方法では、第1ビーム770Aを第1記録再生層群113Aに照射すると同時に、第2ビーム770Bを第2記録再生層群113Bに照射して、情報を同時に記録したり、再生したりする事が可能となっている。これにより、記録・再生時の情報の転送レートを飛躍的に高めることが出来る。
【0116】
更に、第1光ピックアップ700Aは、多層光記録媒体110の厚さ方向の奥側の領域Xに配置される第1記録再生層群113Aに第1ビーム770Aをフォーカスさせれば良く、第2光ピックアップ700Bは、多層光記録媒体110の厚さ方向の手前側の領域Yに配置される第2記録再生層群113Bに対して第2ビーム770Bをフォーカスさせれば良い。結果、第1、第2光ピックアップ700A、700Bのそれぞれは、フォーカスの移動範囲を小さくすることが可能になるので、球面収差の補正範囲を狭くできる。
【0117】
また、本実施形態の多層光記録媒体110では、第1光ピックアップ700Aが記録再生を行う第1記録再生層群113Aに属するL0〜L4記録再生層114A〜114Eの全てが、互いに略同じ単層反射率・単層吸収率に設定されている。また、第2光ピックアップ700Bが記録再生を行う第2記録再生層群113Bに属するL5〜L15記録再生層114F〜114Pの全てが、互いに略同じ単層反射率・単層吸収率に設定されている。
【0118】
この結果、図18(A)に示されるように、第1光ピックアップ700Aの記録再生対象(第1対象)となる第1記録再生層群113A内では、光入射面110A側から順番に積層反射率が単調減少する。同様に、第2光ピックアップ700Bの記録再生対象(第2対象)となる第2記録再生層群113B内も、光入射面110A側から順番に積層反射率が単調減少する。このように、第1、第2光ピックアップ700A、700Bのそれぞれは、積層順に単調変動する積層反射率に対応するように、記録再生パワーを制御すれば済むため、記録再生時のパワー制御を簡潔にすることが可能となる。
【0119】
なお、図16で示したように、第1記録再生層群113Aにおける積層反射率の変化幅域と、第2記録再生層群113Bにおける積層反射率の変化幅は、比較的近くなる。従って、第1記録再生層群113Aが第1対象の記録再生層となり、第2記録再生層群113Bが第2対象の記録再生層となる場合は、第1光源701Aと第2光源701Bで同じレーザーを用いることが好ましい。
【0120】
一方、例えば図19(B)に例示されるように、第1記録再生層群113Aと第2記録再生層群113Bの区分とは無関係に、全てのL0〜L15記録再生層114A〜114Pについての積層反射率の順番によって、第1対象S1となる記録再生層と、第2対象S2となる記録再生層をグループ分けしても良い。具体的にここでは、図19(A)に示されるように、積層反射率が0.35%未満となる記録再生層を第1対象S1とし、積層反射率が0.35%以上となる記録再生層を第2対象S2としてグループ化している。具体的には、第1記録再生層群113Aに属するL0、L1、L2記録再生層114A、114B、114Cと、第2記録再生層群113Bに属するL5、L7、L8記録再生層114F、114G、114Hが第1対象S1となり、第1記録再生層群113Aに属するL3、L4記録再生層114D、114Eと、第2記録再生層群113Bに属するL9〜L15記録再生層114I〜114Pが第2対象S2となる。即ち、第1対象S1となる記録再生層は、複数の記録再生層群113A、113Bに属しており、第2対象S2となる記録再生層も、複数の記録再生層群113A、113Bに属している。積層順で考えると、第1対象S1の記録再生層と第2対象S2の記録再生層が交互に並んだ状態となる。
【0121】
この図19で示されるように、積層反射率の順番で第1対象S1、第2対象S2をグループ化すれば、第1実施形態と同様に、第1光ピックアップ700Aでは、積層反射率が平均的に低い記録再生層に対して記録再生を行うことになるので、第1光源701Aを高パワー専用レーザーとすることができる。また、第2光ピックアップ700Bは、積層反射率が平均的に高い記録再生層に対して記録再生を行うことになるので、第2光源701Bを低パワー専用レーザーとすることができる。
【0122】
即ち、第1、第2光ピックアップ700A、700Bに要求されるダイナミックレンジが分担されるので、結果として、最も光入射面側に位置するL15記録再生層114Pの積層反射率(R15)と、最も奥側に位置するL0記録再生層114Aの積層反射率(R0)の比率を大きくすることができる。
【0123】
なお、この第2実施形態では、多層光記録媒体110として、光入射面側から積層順に積層反射率が低下していく記録再生層群を2群有している構造を例示しているが、3群以上有していることも好ましい。また、各記録再生層群において成膜条件を一致させることで積層反射率を単調減少させる場合を例示しているが、必ずしも、記録再生層群内において記録再生層の成膜条件を互いに一致させなくても良い。仮に一致させない場合は、各記録再生層群内における積層反射率の多少の増減は許容され、全体として、積層反射率が減少傾向にあれば良い。具体的には、特定の記録再生層の積層反射率が、この特定の記録再生層の光入射面側に隣接する2つの記録再生層の積層反射率の最大値よりも小さくなるように設定する。例えば、L5記録再生層114Fの積層反射率は、光入射面側に隣接するL6及びL7記録再生層114G、114Hの積層反射率の大きい方(ここではL7記録再生層114H)よりも、小さくなるように設計すればよい。
【0124】
更に、上記第1、第2実施形態では、多層光記録媒体の各記録再生層にグループ及びランドが形成される場合を例示したが、本発明はこれに限定されない。例えば図20に拡大して示される多層光記録媒体210のように、トラッキング制御用の凹凸を有しない記録再生層群214と、トラッキング制御用の凹凸又は溝を有するサーボ層219を備えることも可能である。この場合、第1、第2光ピックアップ700A、700Bのそれぞれに、トラッキング用の光学系を搭載し、トラッキング専用ビーム270A、270Bをサーボ層219に照射してトラッキングを行いながら、第1、第2ビーム770A、770Bを照射して記録再生層群213に対して記録再生を行うことができる。勿論、第1、第2光ピックアップ700A、700Bにトラッキング用の光学系を搭載せずに、例えば、第1光ピックアップ700Aで記録再生を行う際は、第2光ピックアップ700Bをサーボ層219に照射してトラッキング制御を行うことも可能である。同様に、第2光ピックアップ700Bで記録再生を行う際は、第1光ピックアップ700Aをサーボ層219に照射してトラッキング制御を行うことも可能である。
【0125】
また、この図20では、予め記録再生層群が成膜されている場合に限って示したが、本発明はこれに限定されない。例えば図21に示される多層光記録媒体310のように、将来の記録再生層群となり得る場所の全体を、所定の厚みを有するバルク層313とすることができる。このバルク層313に記録用のビーム770A、770Bが照射されると、ビームスポットの焦点部分のみが状態変化をおこして記録マークが形成される。即ち、多層光記録媒体の記録再生層は、バルク層313の平面領域に記録マークが随時形成され、この記録マークの集合体として、記録再生層314A〜314Jが事後的に多層構成される場合も含んでいる。
【0126】
また、本実施形態の光記録再生装置90では、多層光記録媒体10、110の一方の表面側に、第1、第2光ピックアップ700A、700Bが配置される場合を示したが、本発明はこれに限定されない。例えば図22に示されるように、第1光ピックアップ700Aが、多層光記録媒体410の一方の表面410A側に配置され、第2光ピックアップ700Bが、多層光記録媒体410の他方の表面410B側に配置されていても良い。この際、第1対象S1となる複数の記録再生層414A〜414Eは、多層光記録媒体410の一方の表面410A側に配置されるようにし、第2対象S2となる複数の記録再生層414F〜414Jは、多層光記録媒体410の他方の表面410B側に配置されることが好ましい。
【0127】
また、本実施形態の光記録再生装置90では、記録再生制御装置95によって第1、第2光ピックアップ700A、700Bを同時に制御して、複数の記録再生層に対して情報を同時に記録したり、複数の記録再生層から情報を同時に再生したりする場合を例示したが、本発明はこれに限定されず、第1、第2光ピックアップ700A、700Bを別々に動作させて、別々に記録再生するようにしても良い。
【0128】
なお、本発明の光記録再生装置、光記録再生方法は、上記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0129】
本発明の光記録再生装置、光記録再生方法は、記録再生層を複数備えるような各種光記録媒体に対して、幅広く適用することが可能である。
【符号の説明】
【0130】
10、110、210、310、410 多層光記録媒体
90 光記録再生装置
700A 第1光ピックアップ
700B 第2光ピックアップ
710A 第1光学系
710B 第2光学系
770A 第1ビーム
770B 第2ビーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め積層され又は事後的に形成される記録再生層を複数有する光記録媒体に対して、光照射によって情報を記録再生する光記録再生装置であって、
第1対象となる前記記録再生層に対して第1ビームを照射して情報を記録再生する第1光学系と、
第2対象となる前記記録再生層に対して第2ビームを照射して情報を記録再生する第2光学系と、
を備えることを特徴とする光記録再生装置。
【請求項2】
記録又は再生時における前記第1光学系による前記第1ビームの平均出射パワーと、記録又は再生時における前記第2光学系による前記第2ビームの平均出射パワーが、互いに異なることを特徴とする、
請求項1に記載の光記録再生装置。
【請求項3】
前記第1光学系の第1光源の定格出力と、前記第2光学系の第2光源の定格出力が、互いに異なることを特徴とする、
請求項1又は2に記載の光記録再生装置。
【請求項4】
前記第1光学系と前記第2光学系は、前記光記録媒体の一方の光入射面側に配置されることを特徴とする、
請求項1乃至3のいずれかに記載の光記録再生装置。
【請求項5】
前記光記録媒体における前記一方の光入射面側を基準として、前記第2対象となる前記記録再生層よりも、前記第1対象となる前記記録再生層が奥側に配置されており、
記録又は再生時における前記第1光学系による前記第1ビームの平均出射パワーが、記録又は再生時における前記第2光学系による前記第2ビームの平均出射パワーよりも大きいことを特徴とする、
請求項1乃至4のいずれかに記載の光記録再生装置。
【請求項6】
前記光記録媒体は、前記第1対象の前記記録再生層及び前記第2対象の前記記録再生層を、それぞれ複数有することを特徴とする、
請求項1乃至5のいずれかに記載の光記録再生装置。
【請求項7】
前記第1及び前記第2光学系を同時に制御して、前記第1対象の前記記録再生層及び前記第2対象の前記記録再生層に対して情報を同時に記録又は再生する記録再生制御装置を備えることを特徴とする、
請求項1乃至6のいずれかに記載の光記録再生装置。
【請求項8】
前記光記録媒体における、前記第1対象の前記記録再生層及び前記第2対象の前記記録再生層の光学定数が、互いに実質的に同一であることを特徴とする、
請求項1乃至7のいずれかに記載の光記録再生装置。
【請求項9】
前記光記録媒体における、前記第1対象の前記記録再生層及び前記第2対象の前記記録再生層の材料組成及び膜厚が、実質的に同一であることを特徴とする、
請求項1乃至7のいずれかに記載の光記録再生装置。
【請求項10】
前記光記録媒体は、積層順に連続する複数の前記記録再生層から構成される記録再生層群を、少なくとも2群以上有してなり、
前記記録再生層群内では、光入射面に近い手前側から該光入射面に遠い奥側に向かって、前記記録再生層の積層状態の反射率が同等又は減少するように設定されており、
前記第1対象の前記記録再生層及び前記第2対象の前記記録再生層は、前記2群以上の前記記録再生層群のいずれかに属することを特徴とする、
請求項1乃至7のいずれかに記載の光記録再生装置。
【請求項11】
前記記録再生層群内の前記記録再生層は、前記光学定数が互いに実質的に同一であり、且つ前記複数の前記記録再生層群は、前記光学定数が互いに異なることを特徴とする、
請求項10に記載の光記録再生装置。
【請求項12】
前記第1対象の前記記録再生層は、第1の前記記録再生層群に属しており、前記第2対象の前記記録再生層は、第2の前記記録再生層群に属していることを特徴とする、
請求項10又は11に記載の光記録再生装置。
【請求項13】
前記第1対象の前記記録再生層は、複数の前記記録再生層群に属しており、前記第2対象の前記記録再生層は、複数の前記記録再生層群に属していることを特徴とする、
請求項10又は11に記載の光記録再生装置。
【請求項14】
予め積層され又は事後的に形成される記録再生層を複数有する光記録媒体に対して、光照射によって情報を記録再生する光記録再生方法であって、
第1対象となる前記記録再生層に対して第1ビームを照射して情報を記録再生する第1ステップと、
第2対象となる前記記録再生層に対して第2ビームを照射して情報を記録再生する第2ステップと、
を備えることを特徴とする光記録再生方法。
【請求項15】
前記光記録媒体における前記一方の光入射面側を基準として、前記第2対象となる前記記録再生層よりも、前記第1対象となる前記記録再生層が奥側に配置されており、
記録又は再生時における前記第1ビームの平均出射パワーが、記録又は再生時における前記第2ビームの平均出射パワーよりも大きいことを特徴とする、
請求項14に記載の光記録再生方法。
【請求項16】
前記第1ステップ及び前記第2ステップを同時に行うことで、前記第1対象の前記記録再生層及び前記第2対象の前記記録再生層に対して情報を同時に記録又は再生することを特徴とする、
請求項14又は15に記載の光記録再生方法。
【請求項17】
前記光記録媒体における、前記第1対象の前記記録再生層及び前記第2対象の前記記録再生層の光学定数が、互いに実質的に同一であることを特徴とする、
請求項14乃至16のいずれかに記載の光記録再生方法。
【請求項18】
前記光記録媒体は、積層順に連続する複数の前記記録再生層から構成される記録再生層群を、少なくとも2群以上有してなり、
前記記録再生層群内では、光入射面に近い手前側から該光入射面に遠い奥側に向かって、前記記録再生層の積層状態の反射率が同等又は減少するように設定されており、
前記第1ステップで記録再生される前記第1対象の前記記録再生層、及び前記第2ステップで記録再生される前記第2対象の前記記録再生層は、前記2群以上の前記記録再生層群のいずれかに属することを特徴とする、
請求項14乃至17のいずれかに記載の光記録再生方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2012−190500(P2012−190500A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−50920(P2011−50920)
【出願日】平成23年3月9日(2011.3.9)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】