説明

光記録媒体およびその製造方法

【課題】保存信頼性に優れ、かつ酸化インジウムおよび酸化スズを保護層の材料として用いた場合よりもさらに生産性に優れた追記型光記録媒体を提供する。
【解決手段】光記録媒体は、無機記録層と、無機記録層の少なくとも一方の面に設けられた酸化インジウムを含む複合酸化物を主成分とする保護層とを備える。複合酸化物を[(In231-X(A)X]としたときに、Aは酸化セリウムまたは酸化ガリウムであり、Xは0.15≦X≦0.75の範囲を満たす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光記録媒体およびその製造方法に関する。詳しくは、無機記録層を有する光記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
これまでCD(Compact Disc)やDVD(Digital Versatile Disc)などが光記録媒体の市場を牽引してきた。しかし、近年では、テレビのハイビジョン化やPC(Personal Computer)で取り扱うデータの急激な増大に伴い、光記録媒体の更なる大容量化が求められている。この要求に応えるべく、BD(Blu-ray Disc(登録商標))などの青色レーザに対応した大容量の光記録媒体が登場し、新たな大容量の光記録媒体の市場が立ち上がりつつある。
【0003】
記録可能な光記録媒体としては、DVD−R(Digital Versatile Disc-Recordable)、DVD±RW(Digital Versatile Disc±ReWritable)に代表される書換型の光記録媒体と、CD−R(Compact Disc-Recordable)やDVD−R(Digital Versatile Disc-Recordable)に代表される追記型の光記録媒体とがあるが、特に、後者は低価格メディアとして市場の拡大に大きく貢献してきた。したがって、青色レーザに対応した大容量の光記録媒体においても、市場を拡大させるためには、追記型光記録媒体の低価格化が必要になると考えられる。
【0004】
追記型光記録媒体では、記録材料として無機材料と有機色素材料との両方が規格上認められている。有機材料を用いた追記型光記録媒体は、スピンコート法により安価に製造可能であるという利点を有するのに対して、無機材料を用いた追記型光記録媒体は、再生耐久性やプッシュプル信号特性に優れるという利点を有するものの、大がかりなスパッタ装置が必要であるという欠点を有している。したがって、無機材料を用いた追記型光記録媒体が価格の点で有機材料を用いたものに対抗するためには、製造装置の初期投資を抑え、1枚当たりのタクトを上げて、記録媒体を効率よく生産することが不可欠となる。
【0005】
上記問題を解決するための最も有効な手段として、記録膜を構成する層数を減らし、成膜チャンバー数を減らしてスパッタ装置への初期投資を抑え、製造タクトを短くすることが挙げられる。しかし、層数を単に減らしても、膜厚が厚く、かつ成膜レートが遅い材料を使用すると、製造タクトが伸びてしまい逆にコストの上昇を招いてしまう虞もある。
【0006】
従来、無機材料を用いた追記型光記録媒体の保護層の材料としては、SiN、ZnS-SiO2などの透明誘電体材料が主に用いられている(例えば特許文献1参照)。しかし、SiNやZnS−SiO2は成膜レートが速く生産性に優れているという利点を有しているが、記録データの保存特性(保存信頼性)が悪いという問題がある。上記以外の誘電体材料には保存信頼性が高いものも存在するが、これらの材料は高周波(RF)スパッタリングが必要であるため成膜レートが非常に遅く生産性が悪いという問題がある。したがって、保存信頼性と生産性との両立は非常に困難である。
【0007】
この問題を解決すべく、保護層としてDCスパッタリング可能な酸化インジウムおよび酸化スズ(以下、ITOと称する。)を用いる技術が提案されている(例えば特許文献2参照)。この技術では、追記型光情報記録媒体において高い保存信頼性を実現できると同時に、成膜チャンバー数を削減し、高い生産性を得ることができる。すなわち、ITOを保護層に用いることで、高成膜レートが得られるので1つのチャンバーでも保護層を厚膜化することが可能となり、その結果設計の自由度を保ったままチャンバー数を減らすことが可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−59106号公報
【0009】
【特許文献2】特開2009−129526号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、保護層の材料としてITOを用いると、ITOターゲットの使用が進むにつれて、ターゲット表面にノジュールを生じやすい。ノジュールとは、スパッタ時間の経過に伴いターゲット表面に発生する微小な突起物であり、高抵抗物質を起点とした掘れ残りとされている。さらにそのノジュールの析出が進むと、そのまわりで絶縁破壊を生じ、それが粉状になってシールドやディスクに付着する。例えば、ディスクに粉が付着した場合には、粉が付着した箇所では、再生レーザのガイド溝が覆われてしまうため、トラッキングサーボ欠陥としてディスク不良とされる。このようなディスク不良が増加したときには、生産を停止してターゲット表面のノジュールを除去する必要があり、稼働率の低下、つまり生産性の悪化の原因となる。
【0011】
したがって、本発明の目的は、保存信頼性に優れ、かつ酸化インジウムおよび酸化スズを保護層の材料として用いた場合よりもさらに生産性に優れた追記型光記録媒体およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、保護層の材料として、酸化インジウムおよび酸化セリウム(Indium Cerium Oxide、以下ICOと称する。)、もしくは酸化インジウムおよび酸化ガリウム(Indium Gallium Oxide、以下IGOと称する。)を主成分とする材料を用いることにより、良好な記録特性、および高い保存信頼性を実現できるとともに、高い耐ノジュール性を得ることができることを見出し、実験的にもこれを実証し、この発明を案出するに至ったものである。
【0013】
上述の課題を解決するために、本願第1の発明は、
無機記録層と、
無機記録層の少なくとも一方の面に設けられた酸化インジウムを含む複合酸化物を主成分とする保護層と
を備え、
複合酸化物を[(In231-X(A)X]としたときに、Aは酸化セリウムまたは酸化ガリウムであり、Xは0.15≦X≦0.75の範囲を満たす光記録媒体である。
【0014】
本願第2の発明は、
無機記録層を形成する工程と、
無機記録層の少なくとも一方の面に、酸化インジウムを含む複合酸化物を主成分とする保護層を形成する工程と
を備え、
複合酸化物を[(In231-X(A)X]としたときに、Aは酸化セリウムまたは酸化ガリウムであり、Xは0.15≦X≦0.75の範囲を満たす光記録媒体の製造方法である。
【0015】
本願発明では、無機記録層の少なくとも一方の面に、酸化インジウムおよび酸化セリウム、または酸化インジウムおよび酸化ガリウムを主成分とする保護層を備えているので、優れた保存信頼性を得ることができる。また、酸化インジウムおよび酸化セリウム、もしくは酸化インジウムおよび酸化ガリウムを主成分とする材料は、導電性が高いことから直流(DC)スパッタリング法による成膜が可能であり、成膜レートが高いので、ITO材料同様に高い生産性を維持することができ、さらにノジュールが発生しないことによる稼働率の向上も図れる。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように、本発明によれば、保存信頼性と高い生産性を両立することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態に係る追記型光記録媒体の一構成例を示す概略断面図である。
【図2】実施例1〜実施例9および比較例1〜比較例2の追記型光記録媒体のジッター特性示すグラフである。
【図3】実施例1〜実施例9および比較例1〜比較例2の追記型光記録媒体の保存信頼性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
<追記型光記録媒体の構成>
図1は、本発明の一実施形態に係る追記型光記録媒体の一構成例を示す概略断面図である。この追記型光記録媒体10は、基板1上に、反射層2、第1の保護層3、蓄熱層7、無機記録層4、第2の保護層5、光透過層6が順次積層された構成を有する。
【0019】
この一実施形態に係る追記型光記録媒体10では、光透過層6の側からレーザ光を無機記録層4に照射することにより、情報信号の記録または再生が行われる。例えば、400nm以上410nm以下の範囲の波長を有するレーザ光を、0.84以上0.86以下の範囲の開口数を有する対物レンズにより集光し、光透過層6の側から無機記録層4に照射することにより、情報信号の記録または再生が行われる。このような追記型光記録媒体10としては、例えばBD−Rが挙げられる。
【0020】
追記型光記録媒体10のジッターは、好ましくは7.5%以下、より好ましくは7.0%以下である。ジッターを7.5%以下にすると、十分に良好なエラーレートを実現できるため、良好の情報信号特性を得ることができる。追記型光記録媒体10のシンボルエラーレート(SER)は、好ましくは2.0×10-3以下、より好ましくは1.0×10-3以下、さらに好ましくは3.0×10-4以下である。SERが2.0×10-3以下であると、一般的にエラー訂正可能であるため、良好の情報信号特性を得ることができる。
【0021】
以下、追記型光記録媒体10を構成する基板1、反射層2、第1の保護層3、蓄熱層7、無機記録層4、第2の保護層5、光透過層6について順次説明する。
【0022】
(基板)
基板1は、例えば、中央に開口(以下センターホールと称する)が形成された円環形状を有する。この基板1の一主面は、例えば、凹凸面11となっており、この凹凸面11上に無機記録層4が成膜される。以下では、凹凸面11のうち凹部をイングルーブGin、凸部をオングルーブGonと称する。
【0023】
このイングルーブGinおよびオングルーブGonの形状としては、例えば、スパイラル状、同心円状などの各種形状が挙げられる。また、イングルーブGinおよび/またはオングルーブGonが、例えば、アドレス情報を付加するためにウォブル(蛇行)されている。
【0024】
基板1の径(直径)は、例えば120mmに選ばれる。基板1の厚さは、剛性を考慮して選ばれ、好ましくは0.3mm〜1.3mm、より好ましくは0.6mm〜1.3mm、例えば1.1mmに選ばれる。また、センタホールの径(直径)は、例えば15mmに選ばれる。
【0025】
基板1の材料としては、例えばプラスチック材料またはガラスを用いることができ、コストの観点から、プラスチック材料を用いることが好ましい。プラスチック材料としては、例えばポリカーボネート系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂などを用いることができる。
【0026】
(反射層)
反射層2の材料としては、例えばAg合金やAl合金など、従来公知の光ディスクにおいて一般的に使用可能な金属や半金属などをこの反射層2に求められる特性に応じて任意に選択し使用することが可能である。また、反射層2の材料としては、光の反射能に加えてヒートシンク(放熱)能を有するものを用いることが望ましい。こうすることで反射層2に放熱層としての機能を持たせることもできる。
【0027】
(第1の保護層、第2の保護層)
第1の保護層3、および第2の保護層5は無機記録層4を保護し、記録/再生時の光学特性および熱特性を制御するためのものである。第1の保護層3、および第2の保護層5の少なくとも一方が、酸化インジウムを含む複合酸化物を主成分としている。この複合酸化物は、インジウムとセリウムの酸化物(ICO)、またはインジウムとガリウムの酸化物(IGO)からなる。このような構成にすることで、保存信頼性と高い生産性とを両立することができる。特に、第1の保護層3、および第2の保護層5の両方がICOまたはIGOを主成分としていることが好ましい。ICO、IGO以外の材料としては、SiN、ZnS−SiO2、Ta25など、酸化物、窒化物、炭化物の従来公知の光ディスクにおいて一般的に使用可能な誘電体を用いることができる。また、酸化インジウムおよび酸化スズ(ITO)などの透明酸化物を用いることもできる。第1の保護層3の厚さは、適切な反射率を得るために、好ましくは10nm〜40nm、より好ましくは20nm〜30nmである。第2の保護層5の厚さは、記録パワーマージン向上の観点から、11nm〜34nmであることが好ましく、より好ましくは16nm〜30nmである。
【0028】
第1の保護層3および第2の保護層5の少なくとも一方を設ける構成とすることも可能であるが、良好な情報信号特性および保存信頼性特性を得る観点からすると、図1に示すように、第1の保護層3、および第2の保護層5の両方を設けることが好ましい。
【0029】
複合酸化物は、以下の式(1)の組成を有する。
[(In231-X(A)X] ・・・・・(1)
ただし、Aは酸化セリウムまたは酸化ガリウムであり、Xは、好ましくは0.15≦X≦0.75、より好ましくは0.15≦X≦0.65、さらに好ましくは0.15≦X≦0.40である。
Xが0.15≦X≦0.75の範囲を満たすことで、良好な情報信号特性および保存信頼性特性を得ることができ、かつ、ノジュール耐性など生産性を向上することができる。
【0030】
(無機記録層)
無機記録層4は、追記型の無機記録層であり、例えば、ZnS、SiO2およびSbを主成分とし、必要に応じてZn、Ga、Te、V、Si、Ta、Ge、In、Cr、SnおよびTbからなる群から選択された少なくとも1つの元素をさらに含み、好適には、以下の式(2)の組成を有する。
【0031】
[(ZnS)x(SiO21-xy(Sbz1-z1-y ・・・・・(2)
ただし、0<x≦1.0、0.3≦y≦0.7、0.8<z≦1.0であり、XはGa、Te、V、Si、Zn、Ta、Ge、In、Cr、SnおよびTbからなる群から選ばれた少なくとも1つの元素である。
【0032】
また、無機記録層4の厚さは、良好な記録再生特性を得る観点から、3nm〜40nmであることが好ましい。ZnS、SiO2およびSbを主成分とする無機記録層4は、記録前にはZnS、SiO2、Sbがアモルファス状態となっている。このような状態にある無機記録層4に対してレーザ光を照射すると、無機記録層4の中央部分にSbの結晶が形成され、その他の原子は界面近傍に集中する。これにより、光学定数(n:屈折率、k:減衰係数)が変化し、情報信号が記録される。このように中央部分にSbの結晶が形成された状態にある無機記録層4を、記録前のアモルファス状態に戻すことは困難であるため、前記無機記録層は追記型の無機記録層として用いられる。
【0033】
このように、無機記録層4がZnS、SiO2およびSbを主成分とし、好適には、上記式(2)の組成を有することで、記録された情報が初期のまま長期にわたって安定して保存され、信号再生時に再生用レーザ光によって信号が損なわれることがない。したがって、通常の長期保存によって変質せず書き込み特性が保存され、記録および/または再生用レーザ光に対して十分な感度と反応速度とが得られ、これによって広い線速や記録パワーにわたり良好な記録再生特性を得ることができる。また、保存信頼性の更なる向上の観点からすると、ZnS、SiO2およびSbを主成分とする無機記録層4と、酸化インジウムを含む複合酸化物を主成分とする第1の保護層3および/または第2の保護層5とを組み合わせて用いることが好ましい。
【0034】
無機記録層4の材料は、上述の材料に限定されるものではなく、従来公知の追記型光記録媒体において一般的に使用可能な無機記録材料を用いることも可能である。
【0035】
例えば、無機記録層4としては、例えば、Te、PdおよびO(酸素)を主成分とする相変化タイプの無機記録層を用いることができ、この無機記録層は、例えば、以下の式(3)の組成を有する。
(TexPd1-xy1-y ・・・・・(3)
ただし、0.7≦x≦0.9、0.3≦y≦0.7
【0036】
また、無機記録層4としては、例えば、シリコン(Si)膜と銅(Cu)合金膜を積層してなる合金タイプの無機記録層、もしくは、Ge、BiおよびNを主成分とする無機記録層を用いることもできる。
【0037】
(蓄熱層)
蓄熱層7は、第1の保護層3に比して低い熱伝導率を有し、例えばZnS−SiO2などの誘電体材料を主成分としている。図1に示すように、第1の保護層3と無機記録層4との間に蓄熱層7を備えた場合には、記録および/または再生用のレーザ光は蓄熱層7とは反対の側から無機記録層4に照射されることになる。蓄熱層7は、記録の際に発生した熱を無機記録層4内に留める蓄熱層として機能する。したがって、第1の保護層3と無機記録層4との間に蓄熱層7を備えることで、熱を効率的に使うことができるようになり、追記型光記録媒体10を高記録感度化することができる。また、無機記録層4内に一旦熱を溜めてから、熱を無機記録層4内から、高熱伝導率を有する第1の保護層3、反射層2に逃がすことで、より正確なマークエッジを形成し、低ジッター、ワイドパワーマージンを得ることができる。但し、蓄熱層7が厚すぎ、dh/(d1+dh)>0.95(但し、d1:第1の保護層の厚さ、dh:蓄熱層の厚さ)となると、無機記録層4内に熱がこもりすぎるために、マークエッジが揃わなくなりパワーマージンが狭くなる傾向がある。よって、dh/(d1+dh)≦0.95とすることが好ましい。蓄熱層7の成膜方法としては、例えばスパッタリング法を用いることができる。
【0038】
なお、蓄熱層を設ける位置は、第1の保護層3と無機記録層4との間に限定されるものではなく、例えば、無機記録層4と第2の保護層5との間に蓄熱層7を設けるようにしてもよい。このような構成とした場合、記録および/または再生用のレーザ光は蓄熱層7の側から無機記録層4に照射されることになる。また、第1の保護層3と無機記録層4との間、および無機記録層4と第2の保護層5との間の両方に蓄熱層7を設けるようにしてもよい。
【0039】
(光透過層)
光透過層6は、例えば、円環形状を有する光透過性シートと、この光透過性シートを基板1に対して貼り合わせるための接着層とから構成される。光透過性シートは、記録および/または再生に用いられるレーザ光に対して、吸収能が低い材料からなることが好ましく、具体的には透過率90パーセント以上の材料からなることが好ましい。光透過性シートの材料としては、例えばポリカーボネート樹脂材料、ポリオレフィン系樹脂(例えばゼオネックス(登録商標))が挙げられる。光透過性シートの厚さは、好ましくは0.3mm以下に選ばれ、より好ましくは3μm〜177μmの範囲内から選ばれる。接着層は、例えば紫外線硬化樹脂または感圧性粘着剤(PSA:Pressure Sensitive Adhesive)からなる。また、光透過層6が、UVレジンなどの感光性樹脂を硬化してなるレジンカバーから構成するようにしてもよい。レジンカバーの材料としては、例えば紫外線硬化型のアクリル系樹脂が挙げられる。
【0040】
光透過層6の厚さは、好ましくは10μm〜177μmの範囲内から選ばれ、例えば100μmに選ばれる。このような薄い光透過層6と、例えば0.85程度の高NA(numerical aperture)化された対物レンズとを組み合わせることによって、高密度記録を実現することができる。
【0041】
<追記型光記録媒体の製造方法>
次に、本発明の一実施形態に係る追記型光記録媒体の製造方法の一例について説明する。
【0042】
(基板の成形工程)
まず、一主面に凹凸面11が形成された基板1を成形する。基板1の成形の方法としては、例えば射出成形(インジェクション)法、フォトポリマー法(2P法:Photo Polymerization)などを用いることができる。
【0043】
(反射層の成膜工程)
次に、基板1を、例えばAg合金やAl合金を主成分として含むターゲットが備えられた真空チャンバー内に搬送し、真空チャンバー内を所定の圧力になるまで真空引きする。その後、真空チャンバー内にArガスなどのプロセスガスを導入しながら、ターゲットをスパッタリングして、基板1上に反射層2を成膜する。
【0044】
(第1の保護層の成膜工程)
次に、基板1を、例えばICOまたはIGOを主成分として含むターゲットが備えられた真空チャンバー内に搬送し、真空チャンバー内を所定の圧力になるまで真空引きする。その後、真空チャンバー内にArガスやO2ガスなどのプロセスガスを導入しながら、ターゲットをスパッタリングして、反射層2上に第1の保護層3を成膜する。スパッタリング法として、例えば高周波(RF)スパッタリング法、直流(DC)スパッタリング法を用いることができるが、特に直流スパッタリング法が好ましい。直流スパッタ法は高周波スパッタ法に比して成膜レートが高いため、生産性を向上することができるからである。
【0045】
(蓄熱層の成膜工程)
次に、基板1を、例えばZnSおよびSiO2を主成分として含むターゲットが備えられた真空チャンバー内に搬送し、真空チャンバー内を所定の圧力になるまで真空引きする。その後、真空チャンバー内にArガスなどのプロセスガスを導入しながら、ターゲットをスパッタリングして、第1の保護層3上に蓄熱層7を成膜する。
【0046】
(無機記録層の成膜工程)
次に、基板1を、例えばZnS、SiO2およびSbを主成分として含むターゲットが備えられた真空チャンバー内に搬送し、真空チャンバー内を所定の圧力になるまで真空引きする。その後、真空チャンバー内にArガスなどのプロセスガスを導入しながら、ターゲットをスパッタリングして、第1の保護層3上に無機記録層4を成膜する。
【0047】
(第2の保護層の成膜工程)
次に、基板1を、例えばICOまたはIGOを主成分として含むターゲットが備えられた真空チャンバー内に搬送し、真空チャンバー内を所定の圧力になるまで真空引きする。その後、真空チャンバー内にArガスやO2ガスなどのプロセスガスを導入しながら、ターゲットをスパッタリングして、無機記録層4上に第2の保護層5を成膜する。スパッタリング法として、例えば高周波(RF)スパッタリング法、直流(DC)スパッタリング法を用いることができるが、特に直流スパッタリング法が好ましい。直流スパッタ法は高周波スパッタ法に比して成膜レートが高いため、生産性を向上することができるからである。
【0048】
(光透過層の形成工程)
次に、光透過層6を第2の保護層5上に形成する。光透過層6の形成方法としては、例えば、紫外線硬化樹脂(UVレジン)などの感光性樹脂を第2の保護層5上にスピンコートし、UV光などの光を感光性樹脂に照射することにより、光透過層6を形成するレジンコート法、光透過性シートを接着剤を用いて、基板1上の凹凸面11側に貼り合わせることにより、光透過層6を形成するシート接着法を用いることができる。また、このシート接着法としては、例えば、第2の保護層5上に塗布されたUVレジンなどの感光性樹脂を用いて、光透過性シートを基板1上の凹凸面11側に貼り合わせることにより、光透過層6を形成するシートレジン接着法、光透過性シートを、このシートの一主面に予め均一に塗布された感圧性粘着剤(PSA)を用いて、基板1上の凹凸面11側に貼り合わせることにより、光透過層
6を形成するシートPSA接着法を用いることができる。以上の工程により、図1に示す追記型光記録媒体10が得られる。
【0049】
上述したように、本発明の一実施形態によれば、無機記録層4の両方の面にはそれぞれ第1の保護層3、第2の保護層5が備えられ、第1の保護層3、および第2の保護層5の少なくとも一方がICOまたはIGOを主成分としているので、高い保存信頼性を得ることができる。また、ICOまたはIGOを保護層に用いることで、高成膜レートで保護層を成膜することができる。したがって、1つのチャンバーで成膜できる保護層を厚膜化することが可能となり、その結果熱設計の自由度を保ったままチャンバー数を減らすことが可能になる。これにより、製造装置の初期投資を大幅に抑えることができ、併せて製造時のタクト短縮効果により無機メディアでありながら低価格化を図ることができるようになる。また、BD−R6倍速などの高速記録に対しても十分な記録パワーマージンを確保できる。
【0050】
また、基板1上に、反射層2、第1の保護層3、蓄熱層7、無機記録層4、第2の保護層5を順次積層することにより追記型光記録媒体10を作製するので、高い生産性および保存信頼性を有する追記型光記録媒体10を5チャンバーの成膜機を用いて作製することができる。
【実施例】
【0051】
以下、実施例および試験例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例および試験例のみに限定されるものではない。
【0052】
(信号特性の評価)
本実施例および比較例では、追記型光記録媒体に対する情報信号評価の記録再生には、パルステック工業株式会社製のODU−1000を用いた。この評価機においてレーザ光の波長は405nm、開口数NAは0.85とし、Blu-ray Disc 25GB密度の規格に即した4倍速の線速度19.68m/sで追記型光記録媒体に記録を行い、1倍速の4.92m/sで再生した。そして、パルステック工業株式会社製のイコライザーボードを通し、横河電機株式会社製のタイムインターバルアナライザー、TA720を用いてジッターを測定し、信号評価とした。
【0053】
(保存信頼性の評価)
本実施例および比較例では、保存信頼性評価には、情報信号の記録再生評価にパイオニア社製Blu-ray Disc用ドライブ(BDR-101A)を用い、予め記録した信号の80℃85%600時間後のシンボルエラーレート(SER)を観察した。
【0054】
(層組成の分析方法)
本実施例、比較例および試験例では、各層の組成は、以下のようにして求めた。
まず、以下に示す各実施例、比較例および試験例と同一の成膜条件にて平坦な基板上に、組成を求める層(例えば第1または第2の保護層)を成膜し、サンプルを作製した。次に、誘導結合プラズマ(ICP:Inductively Coupled Plasma)質量分析装置を使用し、ICP質量分析法によって層組成を調べた。
【0055】
<ジッター特性および保存信頼性特性についての検討>
(実施例1)
まず、射出成形により、厚さ1.1mmのポリカーボネート基板を成形した。なお、このポリカーボネート基板上には、イングルーブGinおよびオングルーブGonを有する凹凸面を形成した。
【0056】
次に、ポリカーボネート基板上に、反射層、第1の保護層、蓄熱層、無機記録層、第2の保護層をスパッタリング法により順次積層した。具体的な各層の構成は以下のようにした。
【0057】
反射層:Ag合金、80nm
第1の保護層:(In2380(Ga2320、14nm
蓄熱層:ZnS−SiO2、7nm
無機記録層:[(ZnS)80(SiO22040Sb60、18nm
第2の保護層:(In2380(Ga2320、17nm
【0058】
次に、スピンコート法により、紫外線硬化樹脂を第2の保護層上に均一塗布し、これに紫外線を照射して硬化させることにより、厚さ0.1mmを有する光透過層を形成した。以上により、目的とする追記型光記録媒体を得た。
【0059】
この追記型光記録媒体の情報信号評価を行ったところ、Blu-ray Disc 25GB密度の規格に即した4倍速の線速度19.68m/s記録での1倍速再生ジッターは表1のとおり、5.4%と良好であった。なお、ジッターの良好な上限は7.5%とし、これ以下であると十分良いエラーレートと相間があることはよく知られている。また、保存信頼性評価では、80℃85%600時間後のシンボルエラーレート(SER)は表1のとおり、8.0×10-5と良好であった。ここで、SERの良好な上限は十分に訂正可能であるとされる2.0×10-3とした。つまり、この構成の追記型光記録媒体は、情報信号および保存信頼性ともに良好な結果であった。
【0060】
(実施例2)
第1の保護層および第2の保護層を(In2360(Ga2340により形成する以外のことは、実施例1と同様にして追記型記録媒体を得た。なお、第1の保護層および第2の保護層の材料は、In23およびGa23の2種類のターゲットを用いてコスパッタ法にて作製した。実施例1と同様に情報信号評価および保存信頼性評価を行ったところ、それぞれ、表1のとおり6.2%、2.2×10-4と良好な結果であった。
【0061】
(実施例3)
第1の保護層および第2の保護層を(In2335(Ga2365により形成する以外のことは、実施例1と同様にして追記型記録媒体を得た。なお、第1の保護層および第2の保護層の材料は、In23およびGa23の2種類のターゲットを用いてコスパッタ法にて作製した。実施例1と同様に情報信号評価および保存信頼性評価を行ったところ、それぞれ、表1のとおり6.9%、8.0×10-4と良好な結果であった。
【0062】
(実施例4)
第1の保護層および第2の保護層を(In2390(Ga2310により形成する以外のことは、実施例1と同様にして追記型記録媒体を得た。なお、第1の保護層および第2の保護層の材料は、In23およびGa23の2種類のターゲットを用いてコスパッタ法にて作製した。実施例1と同様に情報信号評価および保存信頼性評価を行ったところ、それぞれ、表1のとおり5.7%、1.5×10-4と良好な結果であった。
【0063】
(実施例5)
第1の保護層および第2の保護層を(In2385(CeO215により形成する以外のことは、実施例1と同様にして追記型記録媒体を得た。実施例1と同様に情報信号評価および保存信頼性評価を行ったところ、それぞれ、表1のとおり5.5%、8.2×10-5と良好な結果であった。
【0064】
(実施例6)
第1の保護層および第2の保護層を(In2360(CeO240により形成する以外のことは、実施例1と同様にして追記型記録媒体を得た。なお、第1の保護層および第2の保護層の材料は、In23およびCeO2の2種類のターゲットを用いてコスパッタ法にて作製した。実施例1と同様に情報信号評価および保存信頼性評価を行ったところ、それぞれ、表1のとおり5.9%、1.7×10-4と良好な結果であった。
【0065】
(実施例7)
第1の保護層および第2の保護層を(In2340(CeO260により形成する以外のことは、実施例1と同様にして追記型記録媒体を得た。なお、第1の保護層および第2の保護層の材料は、In23およびCeO2の2種類のターゲットを用いてコスパッタ法にて作製した。実施例1と同様に情報信号評価および保存信頼性評価を行ったところ、それぞれ、表1のとおり6.6%、5.7×10-4と良好な結果であった。
【0066】
(実施例8)
第1の保護層および第2の保護層を(In2320(CeO280により形成する以外のことは、実施例1と同様にして追記型記録媒体を得た。なお、第1の保護層および第2の保護層の材料は、In23およびCeO2の2種類のターゲットを用いてコスパッタ法にて作製した。実施例1と同様に情報信号評価および保存信頼性評価を行ったところ、それぞれ、表1のとおり7.4%、1.5×10-4と良好な結果であった。
【0067】
(実施例9)
第1の保護層および第2の保護層を(In2390(CeO210により形成する以外のことは、実施例1と同様にして追記型記録媒体を得た。なお、第1の保護層および第2の保護層の材料は、In23およびCeO2の2種類のターゲットを用いてコスパッタ法にて作製した。実施例1と同様に情報信号評価および保存信頼性評価を行ったところ、それぞれ、表1のとおり5.8%、2.4×10-4と良好な結果であった。
【0068】
(比較例1)
第1の保護層および第2の保護層をIn23により形成する以外のことは、実施例1と同様にして追記型記録媒体を得た。実施例1と同様に情報信号評価および保存信頼性評価を行ったところ、表1のとおり情報信号評価は6.3%と良好な結果であったが、保存信頼性評価が3.0×10-3と1.0×10-3を超える悪い結果であった。
【0069】
(比較例2)
第1の保護層および第2の保護層を(In2320(Ga2380により形成する以外のことは、実施例1と同様にして追記型記録媒体を得た。なお、第1の保護層および第2の保護層の材料は、In23およびGa23の2種類のターゲットを用いてコスパッタ法にて作製した。実施例1と同様に情報信号評価および保存信頼性評価を行ったところ、表1のとおり、それぞれ7.8%、3.0×10-3とともに悪い結果であった。
【0070】
表1は、実施例1〜9、比較例1、2の追記型光記録媒体のジッター特性および保存信頼性特性を示す。
【表1】

【0071】
図2は、実施例1〜9、比較例1、2の追記型光記録媒体のジッター特性を示すグラフである。図3は、実施例1〜9、比較例1、2の追記型光記録媒体の保存信頼性特性を示すグラフである。図2および図3では、(In231-X(Ga23X材料をIGO、(In231-X(CeO2X材料をICOと表記している。
【0072】
上記評価結果から以下のことがわかる。
Ga23またはCeO2の添加量により、情報信号および保存信頼性特性が変化することがわかる。
ジッター7.5%以下およびSER2.0×10-3以下の特性を満たすためには、Ga23またはCeO2の添加量を5mol%以上75mol%以下の範囲内とすることが好ましいことがわかる。なお、ジッター7.5%およびSER2.0×10-3は、上述したように光記録媒体の特性として求められる上限値である。
ジッター7.0%以下およびSER1.0×10-3以下の特性を満たすためには、Ga23またはCeO2の添加量を5mol%以上65mol%以下の範囲内とすることが好ましいことがわかる。
ジッター7.0%以下およびSER3.0×10-4以下の特性を満たすためには、Ga23またはCeO2の添加量を15mol%以上40mol%以下の範囲内とすることが好ましことがわかる。
Ga23またはCeO2の添加量が5mol%未満であると保存信頼性が悪化するのは、In23成分が多くなりすぎることで、In23膜の粒界から酸素や水分が記録膜に浸入したためと考えられる。一方、Ga23またはCeO2の添加量が75mol%を超えると良好な情報信号特性を得ることが困難になるのは、保護膜における添加材料の特性が強くなり、In23から得られる良好な情報信号特性が得られ難くなるためと考えられる。
【0073】
<第1の保護層および第2の保護層の生産性検討>
第1の保護層および第2の保護層の材料の生産性検討するにあたり、直流(DC)スパッタ対応とノジュールの発生度合いを観察した。DCスパッタできるか否かは保護層のターゲット材料の導電性により、導電性が良いとDCスパッタリングが出来るが、導電性がない材料の場合には交流(RF)スパッタを選択することとなる。つまり、RFスパッタは材料の導電性に関係なく成膜可能となるが、一般的にDCスパッタと比較するとスパッタレートが遅いので、保護層のような数十nmの膜厚を成膜する場合には、複数のカソードで分割して成膜することとなる。その場合、分割した分カソードが必要になるだけでなくRFスパッタは構造が複雑なために設備が高価になることから、非常にコストが増大するという生産性の悪化の問題であるので、生産性を考慮するとDCスパッタリングが好ましい。また、ノジュールとはターゲット表面微小な突起物であり、高抵抗物質を起点とした掘れ残りとされている。さらにそのノジュールが進むとそのまわりで絶縁破壊を生じ、それが粉状になってシールドやディスクに付着する。ディスクに粉が付着した箇所は、再生レーザのガイド溝を覆ってしまうことで、トラッキングサーボ欠陥としてディスク不良とされる。そのディスク不良が増加したときには、生産を停止してターゲット表面のノジュールを除去する必要があり、稼働率の低下、つまり生産性の悪化の原因となるので、ノジュールの少ないターゲット材料が好ましい。
【0074】
(試験例1)
酸化ガリウム20mol%添加した酸化インジウム((In2380(Ga2320、以下IGO20)ターゲットをOerlicon社製DVD-Sprinter成膜装置に取り付け、その真空チャンバー内を5×10-7Torrまで真空引きをし、その真空チャンバー内にArガス30sccmおよびO2ガス2sccmの混合ガス導入し成膜圧力を0.5mTorrとした。その後、直流(DC)スパッタ2kWでIGO20ターゲットをスパッタリングした。なお、DC電源にはAdvanced Energy社製のPinnacle plusを用い、ターゲットにはΦ200mm×厚さ6mmを用いた。このIGO20ターゲットはDCで成膜可能であり、ITO同様に約7nm/sの良好なスパッタレートが得られた。また、その30kWh使用後のノジュールの発生状況を確認した。30kWh使用後のターゲット上の非エロージョン部に発生したノジュールの1cm2あたりの面積占有率をノジュール発生度合いとし、0.2以下の場合を「○」印、0.2以上の場合を「×」印とした。ノジュール発生度合いが0.2以下であればターゲットライフ最後まで作業なしに安定的に生産可能であった。ノジュール発生度合いが0.7以上である場合には、ターゲットライフエンドの前に生産を止めて表面清掃が必要で生産性を悪くする。このIGO20ターゲットのノジュール発生度合いは0.1であり、表2のとおり「○」印と判定した。よって、DCスパッタ対応も可能であり、ノジュール判定も共に「○」印であることより、非常に生産性が良好であるターゲット材料であることが分かった。
【0075】
(試験例2)
ターゲット材料を酸化ガリウム50mol%添加した酸化インジウム((In2350(Ga2350、以下IGO50)とした以外は、試験例1と同様にテストを行った。表2のとおり、IGO50ターゲットではDCスパッタ可能であり、かつノジュール発生度合いは0.2であり、非常に良好な結果であった。
【0076】
(試験例3)
ターゲット材料を酸化セリウム15mol%添加した酸化インジウム((In2385(CeO215、以下ICO15)とした以外は、試験例1と同様にテストを行った。表2のとおり、ICO15ターゲットではDCスパッタ可能であり、かつノジュール発生度合いは0.0であり、非常に良好な結果であった。
【0077】
(試験例4)
ターゲット材料を酸化セリウム50mol%添加した酸化インジウム((In2350(CeO250、以下ICO50)とした他は、試験例1と同様にテストを行った。表2のとおり、ICO50ターゲットではDCスパッタ可能であり、かつノジュール発生度合いは0.1であり、非常に良好な結果であった。
【0078】
(試験例5)
ターゲット材料を酸化スズ10mol%添加した酸化インジウム(ITO)とした以外は、試験例1と同様にテストを行った。表2のとおり、ITOターゲットではDCスパッタ可能であったが、ノジュール発生度合いは0.5と悪く、ノジュール判定は×であった。このITOターゲットを生産に使用した場合には、ターゲットライフまでに数回のノジュール除去作業が必要になり、そのぶん稼働率の低下つまり生産性が悪かった。
【0079】
(試験例6)
ターゲット材料を酸化ガリウム10mol%添加した酸化インジウム((In2390(Ga2310、以下IGO10)とした以外は、試験例1と同様にテストを行った。表2のとおり、IGO10ターゲットではDCスパッタ可能であったが、ノジュール発生度合いが0.5と悪かった。
【0080】
(試験例7)
ターゲット材料を酸化セリウム5mol%添加した酸化インジウム((In2395(CeO25ICO5)とした以外は、試験例1と同様にテストを行った。表2のとおり、ICO5ターゲットではDCスパッタ可能であったが、ノジュール発生度合いが0.4と悪かった。
【0081】
(試験例8)
ターゲット材料を酸化インジウム(In23)とした以外は、試験例1と同様にテストを行った。表2のとおり、In23ターゲットではDCスパッタ不可能であり、ノジュール発生度合いも0.8と悪かった。
【0082】
(試験例9)
ターゲット材料を酸化ガリウム(Ga23)とした以外は、試験例1と同様にテストを行った。表2のとおり、Ga23ターゲットではDCスパッタ不可能であった。
【0083】
(試験例10)
ターゲット材料を酸化セリウム(CeO2)とした以外は、試験例1と同様にテストを行った。表2のとおり、CeO2ターゲットではDCスパッタ不可能であった。
【0084】
表2は、試験例1〜10のDCスパッタ対応およびノジュール判定の結果を示す。
【表2】

【0085】
以上の試験例1〜10から、ITOターゲットや酸化ガリウムや酸化セリウム添加量が少ないIGOターゲット、ICOターゲットではノジュールが発生しやすくなる傾向にある。一方、複合酸化物ではない単体の酸化インジウム、酸化ガリウムおよび酸化セリウムでは、DCスパッタリングが不可能でスパッタレートが遅く、生産性が劣る傾向にある。よって、第1の保護層や第2の保護層の材料には複合酸化物が好ましく、その酸化ガリウムや酸化セリウムの添加量は15mol%以上であることが好ましい。また、添加する酸化ガリウムや酸化セリウムの量が多すぎると、スパッタレートが低下するため、ノジュールが出来難い程度に添加量を少なくすることが好ましい。この点を考慮すると、酸化ガリウムや酸化セリウムの添加量は75mol%以下であることが好ましい。
【0086】
以上の評価結果を総合すると、情報信号特性や保存信頼性特性から、酸化ガリウムや酸化セリウムの含有量は、好ましくは5mol%以上75mol%以下、より好ましくは5mol%以上65mol%以下、さらに好ましくは15mol%以上40mol%以下である。これを組成式で表すと、[(In231-X(A)X](Aは酸化セリウムまたは酸化ガリウムであり、Xは、好ましくは0.05≦X≦0.75、より好ましくは0.05≦X≦0.65、さらに好ましくは0.15≦X≦0.40である。)
【0087】
ノジュール耐性など生産性の観点から、酸化ガリウムまたは酸化セリウムの含有量は、好ましくは15mol%以上75mol%以下である。これを組成式で表すと、[(In231-X(A)X](Aは酸化セリウムまたは酸化ガリウムであり、Xは、好ましくは0.15≦X≦0.75である。)
【0088】
情報信号特性、保存信頼性特性、およびノジュール耐性など生産性の観点から、好ましくは15mol%以上75mol%以下、より好ましくは15mol%以上65mol%以下、さらに好ましくは15mol%以上75mol%以下、さらに好ましくは15mol%以上40mol%以下である。これを組成式で表すと、[(In231-X(A)X](Aは酸化セリウムまたは酸化ガリウムであり、Xは、好ましくは0.15≦X≦0.75、より好ましくは0.15≦X≦0.65、さらに好ましくは0.15≦X≦0.40である。)
【0089】
以上、本発明の実施形態について具体的に説明したが、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。
【0090】
例えば、上述の実施形態において挙げた数値、材料、構造、形状などはあくまでも例に過ぎず、必要に応じてこれと異なる数値、材料、構造、形状を用いてもよい。
【0091】
また、上述の実施形態および実施例の各構成は、本発明の主旨を逸脱しない限り、互いに組み合わせることが可能である。
【0092】
また、上述の実施形態および実施例では、単層の無機記録膜を有する追記型光記録媒体に対して本発明を適用した例について説明したが、本発明は2層以上の無機記録膜を有する追記型光記録媒体に対しても適用可能である。
【0093】
また、上述の実施形態および実施例では、無機記録膜上に光透過層を有し、この光透過層側からレーザ光を無機記録膜に照射することにより情報信号の記録または再生が行われる追記型光記録媒体に対して本発明を適用した場合を例として説明したが、本発明はこの例に限定されるものではない。例えば、基板上に無機記録膜を有し、基板側からレーザ光を無機記録膜に照射することにより情報信号の記録または再生が行われる追記型光記録媒体、または2枚の基板を貼り合わせてなり、一方の基板の側からレーザ光を基板間の無機記録膜に照射することにより情報信号の記録または再生が行われる追記型光記録媒体に対しても本発明は適用可能である。
【0094】
また、上述の実施形態および実施例では、スパッタリング法により追記型光記録媒体の各層を形成する場合を例として説明したが、これに限定されるものではなく、他の成膜方法を用いてもよい。他の成膜方法としては、例えば、熱CVD、プラズマCVD、光CVDなどのCVD法(Chemical Vapor Deposition(化学蒸着法):化学反応を利用して気相から薄膜を析出させる技術)のほか、真空蒸着、プラズマ援用蒸着、スパッタリング、イオンプレーティングなどのPVD法(Physical Vapor Deposition(物理蒸着法):真空中で物理的に気化させた材料を基板上に凝集させ、薄膜を形成する技術)などを用いることができる。
【0095】
また、上述の実施形態および実施例では、追記型光記録媒体に対して本発明を適用した場合を例として説明したが、本発明は書換型光記録媒体に対しても適用可能である。但し、本発明を追記型光記録媒体に適用した場合の方が、信頼性向上の効果がより大きい。
【0096】
また、上述の実施形態および実施例では、無機記録層の両側に保護層を備える追記型光記録媒体に対して本発明を適用した例について説明したが、無機記録層の一方の側に保護層を備える追記型光記録媒体に対しても本発明は適用可能である。すなわち、無機記録層の一方の側に、酸化インジウムおよび酸化セリウム、または酸化インジウムおよび酸化ガリウムを主成分とする保護層を設けるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0097】
1 基板
2 反射層
3 第1の保護層
4 無機記録層
5 第2の保護層
6 光透過層
7 蓄熱層
8 中間層
10 追記型光記録媒体
11 凹凸面
Gin イングルーブ
Gon オングルーブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機記録層と、
上記無機記録層の少なくとも一方の面に設けられた酸化インジウムを含む複合酸化物を主成分とする保護層と
を備え、
上記複合酸化物を[(In231-X(A)X]としたときに、Aは酸化セリウムまたは酸化ガリウムであり、Xは0.15≦X≦0.75の範囲を満たす光記録媒体。
【請求項2】
上記無機記録層と上記保護層との間に蓄熱層をさらに備え、
記録および/または再生用のレーザ光が上記蓄熱層の側、または上記蓄熱層とは反対の側から上記無機記録層に照射される請求項1記載の光記録媒体。
【請求項3】
上記蓄熱層が、ZnSおよびSiO2を主成分とする請求項2記載の光記録媒体。
【請求項4】
上記保護層が、上記無機記録層の両側に設けられる請求項1記載の光記録媒体。
【請求項5】
上記無機記録層が、ZnS、SiO2およびSbを主成分とする請求項1記載の光記録媒体。
【請求項6】
無機記録層を形成する工程と、
上記無機記録層の少なくとも一方の面に、酸化インジウムを含む複合酸化物を主成分とする保護層を形成する工程と
を備え、
上記複合酸化物を[(In231-X(A)X]としたときに、Aは酸化セリウムまたは酸化ガリウムであり、Xは0.15≦X≦0.75の範囲を満たす光記録媒体の製造方法。
【請求項7】
上記保護層の形成工程では、直流スパッタリング法により上記保護層を形成する請求項6記載の光記録媒体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−253577(P2011−253577A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−124937(P2010−124937)
【出願日】平成22年5月31日(2010.5.31)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】