説明

光記録媒体用の対物レンズの検査方法

【課題】光記録媒体用の対物レンズの検査方法において、設計温度と検査温度が異なる場合に、対物レンズの良否をより正当に判別する。
【解決手段】第1の温度を設計温度として設計されたプラスチック製の光記録媒体用の対物レンズを検査する検査方法であって、第1の温度と異なる第2の温度での対物レンズの形状および屈折率を求める第1工程と、第2の温度での形状および屈折率を有する対物レンズと、検査用平行平板と同材質で第2の温度での屈折率を有する計算用平行平板とからなる光学系の収差が最小となるように、計算用平行平板の厚みを決定する第2工程と、第2工程で決定された計算用平行平板の厚みと同じ厚みの検査用平行平板を用いて、設計に基づき作製された対物レンズを第2の温度で検査する第3工程とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光記録媒体用の対物レンズの検査方法に関し、より詳しくは、光源から出射された光を光記録媒体に収束させて情報の記録および再生の少なくとも一方を行う光ピックアップ装置に使用される光記録媒体用の対物レンズの検査方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、音声情報や映像情報、あるいはコンピュータ用のデータ情報等を記録するためにDVD(ディジタル・バーサタイル・ディスク)やCD(コンパクトディスク)等の光記録媒体が利用されている。この光記録媒体へのデータの記録・再生は、光ピックアップ装置に搭載された対物レンズにより光源からの光を光記録媒体へ集光することにより行われる。近年ではBD(ブルーレイディスク)に見られるように光記録媒体の高密度化が進んでいることから、サブミクロンレベルの精度で光記録媒体に光を集光させることが要求される。そのため、光ピックアップ装置、および光ピックアップ装置に用いられる対物レンズには高度な性能が要求される。
【0003】
特許文献1には、光ピックアップ用光集積装置の検査方法に関する技術が記載されている。特許文献1に記載のものは、高温測定する環境と等価な状態を作り、半導体レーザが高温環境で動作した場合と同じ信号レベルの変動を、室温環境下で検出できるようにしたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−54012号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
光ピックアップ装置においては、光源となる半導体レーザだけでなく、光源からの光を光記録媒体へ集光させる対物レンズについても、温度による影響を考慮する必要がある。温度変化に伴い、レンズ形状の変化だけでなく屈折率の変化が起こり、レンズの焦点距離や収差が変化してしまう。このような温度変化による影響は、ガラスレンズよりもプラスチックレンズの方が大きく発現する。軽量化や低コスト化の点では、ガラスレンズよりもプラスチックレンズの方が好ましいが、光ピックアップ用の対物レンズのような高性能が要求されるレンズにプラスチックレンズを用いる場合は注意が必要である。
【0006】
屈折率は温度により変化するため、通常、レンズ設計の際には、レンズが使用されるときの一般的なレンズの周囲の温度に基づいた温度を設計温度として設定し、レンズの形状等を最適化する。しかしながら、作製されたレンズを検査するときの検査温度は、必ずしも設計温度と一致するとは限らず、例えば、設計温度35℃で設計されたレンズを検査温度25℃で検査することもある。
【0007】
したがって、設計温度と異なる検査温度でレンズを検査した場合、製造誤差がほぼゼロと言えるレベルに作製できていた良品のレンズであっても、設計温度と検査温度の差による影響のために、製造誤差が大きい不良品のレンズと区別できなくなり、作製されたレンズの良否判定が困難になるという問題があった。
【0008】
上記特許文献1に記載の技術は、温度変化による影響の問題を解決しようとしたものであるが、その対象はレーザ光源であり、レンズではないため、上述した問題を解決するものではない。
【0009】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、設計温度と検査温度が異なる場合に、作製された対物レンズの良否をより正当に判別することが可能な光記録媒体用の対物レンズの検査方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の光記録媒体用の対物レンズの検査方法は、光源から出射された光を光記録媒体の透光性の保護層を介して光記録媒体の所定の位置に集光させるように第1の温度を設計温度として設計されたプラスチック製の光記録媒体用の対物レンズを検査するにあたり、該対物レンズにより集光された光の光路に保護層の代わりとなる検査用平行平板を挿入して検査する光記録媒体用の対物レンズの検査方法であって、第1の温度と異なる第2の温度での対物レンズの形状および屈折率を求める第1工程と、第2の温度での形状および屈折率を有する対物レンズと、検査用平行平板と同材質で第2の温度での屈折率を有する計算用平行平板とからなる光学系の収差が最小となるように、計算用平行平板の厚みを決定する第2工程と、第2工程で決定された計算用平行平板の厚みと同じ厚みの検査用平行平板を用いて、設計に基づき作製された対物レンズを第2の温度で検査する第3工程とを含むことを特徴とするものである。
【0011】
本発明の第2の光記録媒体用の対物レンズの検査方法は、光源から出射された光を光記録媒体の透光性の保護層を介して光記録媒体の所定の位置に集光させるように第1の温度を設計温度として設計されたプラスチック製の光記録媒体用の対物レンズを検査するにあたり、該対物レンズにより集光された光の光路に保護層の代わりとなる検査用平行平板を挿入して検査する光記録媒体用の対物レンズの検査方法であって、対物レンズと、検査用平行平板と同材質で保護層と屈折率が異なる計算用平行平板とからなる光学系の第1の温度における収差が最小となるときの計算用平行平板の厚みを求める第1工程と、第1の温度と異なる第2の温度での対物レンズの形状および屈折率と、第2の温度での計算用平行平板の屈折率を求める第2工程と、第2の温度での形状および屈折率を有する対物レンズと、第2の温度での屈折率と第1工程で求めた厚みを有する計算用平行平板とからなる光学系の収差を算出する第3工程と、第2の温度での形状および屈折率を有する対物レンズと、第2の温度での屈折率を有する計算用平行平板とからなる光学系の収差が、第3工程で算出された収差よりも小さくなるように、計算用平行平板の厚みを決定する第4工程と、第4工程で決定された計算用平行平板の厚みと同じ厚みの検査用平行平板を用いて、設計に基づき作製された対物レンズを第2の温度で検査する第5工程とを含むことを特徴とするものである。
【0012】
なお、本発明のレンズの「設計温度」とは、設計時に想定した温度という意味であり、具体的には、ある温度での屈折率の値を用いてレンズの設計を行ったときに、その温度のことを設計温度という。本発明の「設計温度」は、一般的な動作保証温度範囲とは意味が異なるものである。本発明の「設計温度」は、光ピックアップ装置において対物レンズが使用されるときの一般的な対物レンズの周囲での温度に基づいて決めることが好ましい。
【0013】
本発明の第2の対物レンズの検査方法の第4工程において、「第2の温度での形状および屈折率を有する対物レンズと、第2の温度での屈折率を有する計算用平行平板とからなる光学系の収差」と「第3工程で算出された収差」とは同種の収差を用いるものとする。本発明の「収差」としては、軸上収差を用いることが好ましく、例えば軸上波面収差のRMS(Root Mean Square)や、球面収差を用いることが好ましいが、対物レンズの仕様に応じて適宜好適な収差を選択してもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の第1の光記録媒体用の対物レンズの検査方法においては、第1の温度を設計温度、第2の温度を検査温度として考えれば、検査温度での対物レンズの形状および屈折率を予め求め、検査温度での形状および屈折率を有する対物レンズと検査用平行平板と同材質で第2の温度での屈折率を有する計算用平行平板とからなる光学系の収差を算出し、この収差が最小となるように計算用平行平板の厚みを決め、この厚みを検査用平行平板の厚みとしている。すなわち、設計温度と検査温度との差による検査結果への影響を低減するように厚みが最適化された検査用平行平板を用いて検査するため、作製された対物レンズの良否判別を正当に行うことができる。
【0015】
本発明の第2の光記録媒体用の対物レンズの検査方法においては、第1の温度を設計温度、第2の温度を検査温度として考えれば、対物レンズと、検査用平行平板と同材質の計算用平行平板とからなる光学系の設計温度における収差が最小となるときの計算用平行平板の厚みを求め、検査温度での対物レンズの形状および屈折率と検査温度での計算用平行平板の屈折率を予め求め、検査温度での形状および屈折率を有する対物レンズと、検査温度での屈折率と上記で求めた厚みの計算用平行平板とからなる光学系の収差を算出している。そして、検査温度での形状および屈折率を有する対物レンズと、検査温度での屈折率を有する計算用平行平板とからなる光学系の収差が、前工程で算出された収差よりも小さくなるように、計算用平行平板の厚みを決め、この厚みを検査用平行平板の厚みとしている。すなわち、設計温度と検査温度との差による検査結果への影響を低減するように厚みが調整された検査用平行平板を用いて検査するため、厚みが調整されていない検査用平行平板を用いて検査する場合よりも、作製された対物レンズの良否判別を正当に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1の実施形態にかかる検査方法の手順を示すフローチャート
【図2】本発明の実施形態にかかる検査装置の概略構成図
【図3】本発明の第2の実施形態にかかる検査方法の手順を示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。以下に説明する実施形態は、光記録媒体に光を収束させて情報の記録および再生の少なくとも一方を行う光ピックアップ装置に使用される光記録媒体用の対物レンズを検査する検査方法に関するものである。図1は、本発明の第1の実施形態にかかる対物レンズの検査方法の手順を説明するためのフローチャートであり、図2は、本発明の実施形態にかかる対物レンズの検査装置の概略構成図である。
【0018】
まず、図2を参照しながら、検査装置について説明する。図2に示す検査装置100は、フィゾー型の干渉計を用いて被検体であるレンズ1を検査するものである。なお、図2では各部材を保持する保持具の図示は省略している。
【0019】
図2に示すように、検査装置100においては、レンズ1と、検査用平行平板2と、反射ミラー3とが順に配置されており、また、レンズ1の検査用平行平板2と反対側の光路にはレンズ1に近い方から順に、参照面を有する基準板4と、ビームスプリッタ5と、コリメータレンズ6と、検査用光源7とが配置されている。ビームスプリッタ5により形成される折れ曲がり光路には撮像素子9が配置されており、撮像素子9は演算部10に接続され、演算部10は表示部11に接続されている。
【0020】
例えば、光記録媒体としてブルーレイディスクを用いる場合は、検査用光源7は、波長405nmの光を出射する半導体レーザを用いることができる。検査用光源7を出射した光は、コリメータレンズ6により平行光に変換される。この平行光のうち、ビームスプリッタ5を透過し、基準板4を透過した光は、レンズ1に入射して集光される。
【0021】
レンズ1は、光ピックアップ装置に搭載される光記録媒体用の対物レンズであり、所定の温度を設計温度として設計されたプラスチック製のレンズである。近年の光記録媒体用の対物レンズは、非球面レンズが主流であり、光ピックアップ装置においてフォーカシングのために駆動されることから軽量化が望まれており、また低コスト化の要望も強く、これらの点では、ガラスレンズよりもプラスチックレンズの方が好適である。
【0022】
レンズ1は、光ピックアップ装置において、光源から出射された光を光記録媒体の情報が記録される記録層に集光するように作用する。光記録媒体の記録層は所定の厚みを有する透光性の保護層により被覆されているため、レンズ1は、光源から出射された光を保護層を介して光記録媒体の所定の位置に集光させるように所定の設計温度で設計されている。したがって、検査の際も保護層を考慮する必要があり、対物レンズにより集光された光の光路に保護層の代わりとなる検査用平行平板2を挿入して検査を行う。
【0023】
検査用平行平板2の材質は、ガラス、プラスチックのいずれを用いることもできるが、材質選択の自由度や信頼性の点ではガラスの方が有利であり、割れにくさや扱いやすさの点ではプラスチックの方が有利である。
【0024】
検査用平行平板2をプラスチック製とする場合は、検査の信頼性を確保するために、複屈折が小さい材質、吸水率が低い材質を用いることが好ましい。より詳しくは、検査用平行平板2の複屈折は、厚み1mmにおいて40nm以下であることが好ましく、さらに厚み1mmにおいて25nm以下であることがより好ましい。また、検査用平行平板2の吸水率は0.1%以下であることが好ましく、さらに0.01%未満であることがより好ましい。検査用平行平板2のプラスチック材質の具体例としては、現時点では、ゼオネックス(登録商標、日本ゼオン株式会社製)、アペル(登録商標、三井化学株式会社社製)等を挙げることができる。
【0025】
反射ミラー3は、凹面ミラーであり、レンズ1および検査用平行平板2を透過した光を反射して同じ光路を逆向きに進行させるためのものである。よって、基準板4を透過してレンズ1で集光されて検査用平行平板2を透過した光は、最もビーム径が小さくなる集光点を形成した後、発散光となって反射ミラー3に入射するが、反射ミラー3により反射されて逆向きに進行し、同じ集光点を通った後、検査用平行平板2を透過し、レンズ1を出射して平行光となる。レンズ1を出射した平行光は基準板4を透過し、ビームスプリッタ5に入射し、ビームスプリッタ5で反射された光は撮像素子9に入射する。
【0026】
一方、検査用光源7から出射し、コリメータレンズ6とビームスプリッタ5を経由して基準板4に入射した光の一部は、基準板4の参照面で反射されて、レンズ1を経由することなくビームスプリッタ5に再入射し、ビームスプリッタ5で反射された光は撮像素子9に入射する。
【0027】
レンズ1を経由した光と、基準板4の参照面で反射された光とは干渉して干渉縞を形成し、形成された干渉縞は撮像素子9により観測することができる。撮像素子9は例えばCCD(Charge Coupled Device)等からなり、干渉縞を電気信号に変換して演算部10に出力する。演算部10では、干渉縞の解析を行い、解析結果を表示部11に出力する。演算部10では、レンズ1と検査用平行平板2からなる光学系の収差、例えば軸上波面収差のRMS等を算出する。表示部11は例えばモニタ等からなり、干渉縞の画像や、演算部10で算出された収差の値等を表示する。
【0028】
なお、図2に示す検査装置100では、集光点とレンズ1の間に検査用平行平板2を配置するようにしているが、この代わりに、レンズ1により集光された光が集光点を通った後の光路、例えば、集光点と反射ミラー3の間に検査用平行平板2を配置するようにしてもよい。
【0029】
また、上記実施形態では、フィゾー型の干渉計を用いた検査装置を例にとり説明したが、本発明の検査においては、別のタイプの干渉計を用いてもよく、あるいは、干渉計以外の手段を用いて検査してもよい。
【0030】
次に、図1を参照しながら、本発明の第1の実施形態にかかる光記録媒体用の対物レンズの検査方法について説明する。まず始めに、上記レンズ1のレンズデータを準備する。つまり、光ピックアップ装置の光源から出射された光を光記録媒体の保護層を介して光記録媒体の所定の位置に集光するように、所定の温度を設計温度として設計された光記録媒体用の対物レンズのレンズデータを準備する(ステップST1)。なお、以下の説明では、この対物レンズを単にレンズともいう。
【0031】
ここで、「レンズデータを準備する」とは、レンズ設計を行ってレンズデータを取得すること、あるいはすでに設計済みのレンズのレンズデータを入手することのいずれでもよい。「レンズデータ」とは、レンズの形状、屈折率等に関するデータであり、例えば汎用レンズ設計ソフトを用いてレンズ設計をしたときに得られるレンズ面の曲率半径、中心肉厚、屈折率、非球面係数等のデータである。なお、本実施形態では後の工程でレンズの検査温度での形状や屈折率を求めるため、これらの算出に必要な情報、例えば、レンズの材質名、またはレンズの材質の線膨張係数や屈折率の温度係数も準備する。
【0032】
ステップST1において準備されるレンズデータは、設計温度の屈折率を用いて設計されたものである。この設計では通常、レンズと、光記録媒体の保護層とを組み合わせた光学系を光学シミュレーションソフトを用いて構成し、設計温度で所望の性能が得られるようにレンズを最適化設計する。
【0033】
ここで、「設計温度」とは、光ピックアップ装置が使用されるときに光ピックアップ装置に搭載された対物レンズの周囲での一般的な温度を想定したものである。設計温度は、例えば35℃とすることができる。
【0034】
ところで、実際の検査では、図2の検査装置に示すように、光記録媒体の保護層の代わりに検査用平行平板を光路に挿入して検査するが、検査用平行平板として、必ずしも光記録媒体の保護層と同材質のものを用いるとは限らない。検査用平行平板と光記録媒体の保護層とで材質が異なり、屈折率が異なる場合もある。検査用平行平板と光記録媒体の保護層とで屈折率が異なる場合は、単純に光記録媒体の保護層と同じ厚みの検査用平行平板を光記録媒体の保護層の代わりに用いたのでは、両者の屈折率差により収差が発生する。
【0035】
そこで、検査用平行平板と光記録媒体の保護層とで屈折率が異なる場合は、両者の屈折率差による影響を最小にするように補正する。具体的には、設計されたレンズと、検査用平行平板と同材質の模擬計算用平行平板(以下、単に計算用平行平板という)とを組み合わせた光学系を光学シミュレーションソフトを用いて構成し、設計温度での屈折率を用いて、この光学系の設計温度における収差が最小となるように計算用平行平板の厚みを最適化し、このときの計算用平行平板の厚みtを求める(ステップST2)。なお、この計算用平行平板の材質には、実際の検査で用いられる検査用平行平板と同じものを選択するため、計算用平行平板と検査用平行平板とでは、その屈折率、屈折率の温度係数が同一となる。
【0036】
ステップST2においては、レンズの屈折率や形状は変化させず、計算用平行平板の厚みのみを変数として、設計温度で収差が最小となるときの計算用平行平板の厚みtを決める。このときのレンズと計算用平行平板とからなる光学系の収差をABとし、このとき用いた設計温度での計算用平行平板の屈折率をNとする。このような計算は公知の光学シミュレーションソフトを用いることにより可能である。収差としては例えば軸上波面収差のRMSを用いることができる。
【0037】
ステップST2で用いた屈折率およびステップST2で求めた厚みの計算用平行平板と同じ屈折率、厚みを有する検査用平行平板を用いて、設計温度と同じ温度で検査をすることが理想的である。しかし、課題の項において述べたように、検査温度と設計温度は必ずしも一致するとは限らず、検査温度と設計温度が異なる場合には、作製されたレンズの良否判定が困難になる。
【0038】
そのため次のステップとして、ステップST1で準備したレンズデータに基づき、検査温度でのレンズの形状および屈折率を求め、検査温度での計算用平行平板の屈折率Nを求める(ステップST3)。検査温度は例えば25℃とすることができる。温度変化したときのレンズの形状は、例えば公知のシミュレーション手法により求めることができる。また、異なる温度での屈折率も、各材質の屈折率の温度係数を用いて容易に求めることができる。
【0039】
次に、ステップST3で求めたデータを用いて、検査温度での形状および屈折率を有するレンズと、検査温度での屈折率を有しステップST2で決めた厚みtを有する計算用平行平板とからなる光学系を光学シミュレーションソフトを用いて構成し、検査温度でのこの光学系の収差ABを算出する(ステップST4)。収差としては例えば軸上波面収差のRMSを用いることができる。
【0040】
すなわち、ステップST4では、ステップST2において設計温度で最適化された光学系を、検査温度にした場合の収差を算出していることになる。本発明と異なり、設計温度と検査温度の差による影響を考慮しない検査方法では、ステップST2において設計温度で最適化された計算用平行平板と同じものを作製し、これを検査用平行平板として用いて設計温度と異なる検査温度で検査するものであり、ステップST4は、このような検査方法による検査結果をシミュレーションしていることになる。設計温度と検査温度の差による影響が大きい光学系では、ステップST2における収差ABが小さくても、ステップST4で算出される収差ABは大きいものとなる。
【0041】
そこで、本実施形態では、次のステップとして、設計温度と検査温度の差による影響を軽減するように、計算用平行平板の厚みを調整する。つまり、検査温度での形状および屈折率を有するレンズと、検査温度での屈折率を有する計算用平行平板とを組み合わせた光学系を光学シミュレーションソフトを用いて構成し、この光学系の収差が、ステップST4で算出された収差ABよりも小さくなるように計算用平行平板の厚みを決定する(ステップST5)。ステップST5で決定される計算用平行平板の厚みをtとする。ステップST5で計算用平行平板の厚みtが決定したときの光学系の検査温度での収差をABとすると、AB<ABとなる。
【0042】
具体的には例えば、ステップST5においては、レンズの屈折率や形状は変化させず、計算用平行平板の厚みのみを変数として、AB<ABとなるように計算用平行平板の厚みを決める。このような計算は公知の光学シミュレーションソフトを用いることにより可能である。収差としては例えば軸上波面収差のRMSを用いることができる。
【0043】
最後に、ステップST5で決定された計算用平行平板の厚みと同じ厚みの検査用平行平板を用いて、図2に示す検査装置100において、ステップST1の説明で言及した設計に基づいて作製されたレンズを、検査温度で検査する(ステップST6)。なお、ステップST1の説明で言及した設計とは、光ピックアップ装置の光源から出射された光を光記録媒体の保護層を介して光記録媒体の所定の位置に集光するように、設計温度の屈折率を用いてレンズと光記録媒体の保護層とを組み合わせた光学系を光学シミュレーションソフトを用いて構成し、設計温度で所望の性能が得られるようにレンズを最適化した設計である。
【0044】
以上説明した第1の実施形態の検査方法では、予め検査温度におけるレンズ形状を求め、AB<ABとなるように計算用平行平板の厚みを決定し、この厚みを有する検査用平行平板を用いて検査している。よって、第1の実施形態の検査方法によれば、設計温度と検査温度が異なる場合、前述したような設計温度と検査温度の差による影響を考慮しない検査方法よりも、設計温度と検査温度の差による検査結果への影響を軽減することができ、作製されたレンズの良否をより正当に判別することができる。
【0045】
次に、図3を参照しながら、本発明の第2の実施形態にかかる光記録媒体用の対物レンズの検査方法について説明する。図3は、本発明の第2の実施形態にかかる光記録媒体用の対物レンズの検査方法の手順を説明するためのフローチャートである。図3に示す第2の実施形態にかかる検査方法は、第1の実施形態と同様に、検査の際に、光記録媒体の保護層の代わりとなる検査用平行平板を挿入して検査する方法であり、検査温度と設計温度が異なり、検査用平行平板と光記録媒体の保護層とで屈折率が異なる場合の方法であるが、第2の実施形態は、計算用平行平板の厚みを最適化して、図1に示す検査方法より少ない手順で検査するものである。
【0046】
まず始めに、光ピックアップ装置の光源から出射された光を光記録媒体の保護層を介して光記録媒体の所定の位置に集光するように、所定の温度を設計温度として設計された光記録媒体用の対物レンズのレンズデータを準備する(ステップST11)。このステップST11は、第1の実施形態におけるステップST1と全く同様に考えることができる。
【0047】
次に、ステップST11で準備したレンズデータに基づき、検査温度でのレンズの形状および屈折率を求める(ステップST12)。
【0048】
第2の実施形態においても、レンズと、検査用平行平板と同材質の計算用平行平板とからなる光学系を光学シミュレーションソフトを用いて構成して最適化を図ることになる。そこで次のステップとして、検査温度での形状および屈折率を有するレンズと、検査温度での屈折率を有する計算用平行平板とを組み合わせた光学系を光学シミュレーションソフトを用いて構成し、この光学系の収差が、最小となるように計算用平行平板の厚みを決定する(ステップST13)。
【0049】
具体的には例えば、ステップST13においては、レンズの屈折率や形状は変化させず、計算用平行平板の厚みのみを変数として、光学系の収差が最小となるように計算用平行平板の厚みを決める。このような計算は公知の光学シミュレーションソフトを用いることにより可能である。このときの計算用平行平板の厚みをtとする。ステップST13で計算用平行平板の厚みtを決定したときの光学系の検査温度での収差をABとすると、AB≦AB<ABとなる。
【0050】
最後に、ステップST13で決定された計算用平行平板の厚みと同じ厚みの検査用平行平板を用いて、図2に示す検査装置100において、ステップST11の説明で言及した設計に基づいて作製されたレンズを、検査温度でレンズを検査する(ステップST14)。なお、ステップST11の説明で言及した設計とは、第1の実施形態と同様に、光ピックアップ装置の光源から出射された光を光記録媒体の保護層を介して光記録媒体の所定の位置に集光するように、設計温度の屈折率を用いてレンズと光記録媒体の保護層とを組み合わせた光学系を光学シミュレーションソフトを用いて構成し、設計温度で所望の性能が得られるようにレンズを最適化した設計である。
【0051】
以上説明した第2の実施形態の検査方法によれば、収差が最小となるように厚みが最適化された計算用平行平板を用いて検査するため、検査時に見られる設計温度と検査温度の差による検査結果への影響を軽減することができ、場合によっては設計温度と検査温度の差による検査結果への影響をほぼゼロにすることも可能になる。第2の実施形態の検査方法を用いて、レンズと検査用平行平板とからなる光学系の収差を検査時に観測すれば、良品レンズの場合には小さな収差が観測され、製造誤差が大きな不良品レンズの場合には大きな収差が観測されるため、レンズの良否を正当に判別することが可能になる。
【0052】
以下に、本発明の光記録媒体用の対物レンズの検査方法を適用した具体的な数値実施例のデータを示す。以下の実施例1〜3にかかるレンズは全て、ブルーレイディスク用のレンズであり、これらの仕様は等しく、波長405nm、NA(Numerical Aperture)0.85である。また、以下の実施例1〜3では全て、設計温度を35℃、検査温度を25℃としている。
【0053】
〔実施例1〕
表1に、上記のステップST1、ST11で準備される設計温度35℃で設計された実施例1のレンズのレンズデータを示す。なお、表1のレンズデータには、レンズだけでなく、光記録媒体の保護層に相当するもののデータも合わせて示している。表1の面番号は光源側の面を1として、光源側から光記録媒体側に向かうに従い順次増加するように付しており、表1の第1面および第2面がレンズに相当し、第3面および第4面が保護層に相当する。この実施例は、光記録媒体として記録層が2層ある2層式のブルーレイディスクを想定したものであるため、表1のレンズデータの保護層の厚みは、2層式のブルーレイディスクに対して好適な性能を発揮するために設定した厚みを用いている。表1の屈折率は使用光波長405nmにおける値を記載している。
【0054】
【表1】

【0055】
表1に示すレンズの両面はともに非球面であり、表1の第1面および第2面の曲率半径の欄には非球面と記載している。表1の非球面係数という見出しの下に、各面の非球面係数C、K、Ai(i=3〜20)を示す。表1中のCの符号は、レンズ面が光源側に凸形状の場合を正、光記録媒体側に凸形状の場合を負としている。表1の各非球面係数の数値において、「E−n」(n:整数)は「×10−n」を意味し、「E+00」は「×10」を意味する。各非球面係数は下記の非球面式で定義されるものである。
Zd=C・H/{1+(1−K・C・H1/2}+ΣAiH
ただし、
Zd:非球面深さ(高さHの非球面上の点から、非球面頂点が接する光軸に垂直な平面に
下ろした垂線の長さ)
H:高さ(光軸からのレンズ面までの距離)
C:光軸近傍での曲率
K、Ai(i=3〜20):非球面係数
【0056】
表2に各種データとして、レンズの材質の線膨張係数、レンズの材質の屈折率の温度係数と、波長405nm、NA0.85における焦点距離、バックフォーカス、第1面と第2面の有効径、有効半径を示す。
【0057】
【表2】

【0058】
表3に、上記のステップST3、ST12で求められた検査温度25℃でのレンズの屈折率および形状を表すレンズデータを示す。表3の第1面および第2面がレンズに相当する。表3では光記録媒体の保護層や計算用平行平板に相当するものは記載していないが、その他の記載方法や各項目の意味は、表1におけるものと基本的に同様である。
【0059】
【表3】

【0060】
表4の最も左の欄に、実施例1で使用される計算用平行平板の材質を示す。計算用平行平板の材質と検査用平行平板の材質は同じであるため、表4では「平行平板の材質」と表記している。実施例1では、計算用平行平板の材質として、N−BK7(SCHOTT社製)、N−SK11(SCHOTT社製)、N−SK14(SCHOTT社製)、N−LAK7(SCHOTT社製)の4種類を用いており、これらはいずれもガラス材である。
【0061】
【表4】

【0062】
表4には、図3に示す第2の実施形態の検査方法を適用した場合の、検査温度25℃における計算用平行平板の屈折率Nと、上記のステップST13で決定された厚みtと、厚みtが決定されたときのレンズと計算用平行平板とからなる光学系の最小の収差ABを材質ごとに示す。
【0063】
表5には、第1の実施形態の検査方法の説明で述べた各値を示す。表5には、実施例1で使用される計算用平行平板の材質と、設計温度35℃における計算用平行平板の屈折率Nと、上記のステップST2において求められた計算用平行平板の厚みtと、上記のステップST2において設計温度35℃で最適化されたときのレンズと計算用平行平板とからなる光学系の収差ABと、上記のステップST4で算出される収差ABを材質ごとに示す。表4および表5において、厚みの単位はmmであり、収差は全て軸上波面収差のRMSであり、軸上波面収差の単位は波長(λ)である。
【0064】
【表5】

【0065】
第1の実施形態のステップST4の説明で言及したような設計温度と検査温度の差を考慮しない検査方法では、仮に設計通りに作製された製造誤差がゼロの良品レンズであっても、検査結果として得られる収差の値は、表5の収差ABとなっていた。例えば、表5の計算用平行平板の材質がN−BK7の例を見ると、収差ABは0.047λと大きく、これでは、製造誤差が大きいために大きな収差を発生する不良品レンズと判別することが困難であった。これに対して、上記した第2の実施形態の検査方法を適用すると、製造誤差がゼロの良品レンズであれば、検査結果として得られる収差の値は、表4の収差ABとなる。例えば、計算用平行平板の材質がN−BK7の例では、表4を見ると、収差ABは0.012λであり、収差ABの約1/4の小さな値である。表4のABと表5のABを比較してわかるように、本発明の第2の実施形態の検査方法によれば、実施例1において設計温度と検査温度の差による検査結果への影響を大幅に低減することができ、良品レンズと不良品レンズを正当に判別することが容易になる。
【0066】
また、実施例1において、図1に示す第1の実施形態の検査方法を適用する場合は、収差ABが、AB≦AB<ABとなるように計算用平行平板の厚みを決めればよいため、このときの計算用平行平板の厚みtは、t<t≦tを満たすものとなる。例えば、計算用平行平板の材質がN−BK7の例では、表4および表5から、厚みtは、0.08605より大きく、0.09030以下の値となる。厚みtとしては、t=tとなるものを選択することが好ましいが、検査用平行平板の誤差を考慮すると、厳密にt=tとなる検査用平行平板を入手することは容易ではないため、t<t≦tを満たすものの中でtに近いものを選択することが好ましい。このような厚みtを有する検査用平行平板を用いて検査すれば、設計温度と検査温度の差を考慮しない検査方法で検査する場合よりも、作製された対物レンズの良否判別を正当に行うことができる。
【0067】
次に、実施例2、3のデータについて説明する。実施例2、3では、計算用平行平板の材質として、実施例1で用いた4種のガラス材質に加え、ZEONEX330R(日本ゼオン株式会社製)、APL5514ML(三井化学株式会社社製)の2種のプラスチック材質を用いた点が実施例1と大きく異なる。その他、以下に示す実施例2、3における各表の意味や記載方法は、上記の実施例1のものと基本的に同様であるため、以下の説明では重複説明を一部省略する。
【0068】
〔実施例2〕
表6に、上記のステップST1、ST11で準備される設計温度35℃で設計された実施例2のレンズのレンズデータを示す。なお、表6のレンズデータには、レンズだけでなく、光記録媒体の保護層に相当するもののデータも合わせて示しており、第1面および第2面がレンズに相当し、第3面および第4面が保護層に相当する。この実施例も2層式のブルーレイディスクを想定しており、レンズデータの保護層の厚みは2層式のブルーレイディスクに対して好適な性能を発揮するために設定された厚みである。表6の屈折率は使用光波長405nmにおける値を記載している。
【0069】
【表6】

【0070】
表7に各種データとして、レンズの材質の線膨張係数、レンズの材質の屈折率の温度係数と、波長405nm、NA0.85における焦点距離、バックフォーカス、第1面と第2面の有効径、有効半径を示す。
【0071】
【表7】

【0072】
表8に、上記のステップST3、ST12で求められた検査温度25℃でのレンズの屈折率および形状を表すレンズデータを示す。表8の第1面および第2面がレンズに相当する。表8では光記録媒体の保護層や計算用平行平板に相当するものは記載していない。
【0073】
【表8】

【0074】
表9の最も左の欄に、実施例2で使用される計算用平行平板の材質を示す。計算用平行平板の材質と検査用平行平板の材質は同じであるため、表9では「平行平板の材質」と表記している。表9には、図3に示す第2の実施形態の検査方法を適用した場合の、検査温度25℃における計算用平行平板の屈折率Nと、上記のステップST13で決定された厚みtと、厚みtが決定されたときのレンズと計算用平行平板とからなる光学系の最小の収差ABを材質ごとに示す。
【0075】
【表9】

【0076】
表10には、第1の実施形態の検査方法の説明で述べた各値を示す。表10には、実施例2で使用される計算用平行平板の材質と、設計温度35℃における計算用平行平板の屈折率Nと、上記のステップST2において求められた計算用平行平板の厚みtと、上記のステップST2において設計温度35℃で最適化されたときのレンズと計算用平行平板とからなる光学系の収差ABと、上記のステップST4で算出される収差ABを材質ごとに示す。
【0077】
【表10】

【0078】
実施例1の説明で述べたように、仮に設計通りに作製された製造誤差がゼロの良品レンズを検査した場合、第1の実施形態のステップST4の説明で言及したような設計温度と検査温度の差を考慮しない検査方法では、検査結果として得られる収差の値は収差ABとなるのに対し、本発明の第2の実施形態の検査方法では、検査結果として得られる収差の値は収差ABとなる。例えば実施例2における平行平板の材質がN−BK7の例を見ると、表10の収差ABは0.035λと大きいが、表9の収差ABは0.010λであり、収差ABに比べ非常に小さな値となっている。表9のABと表10のABを比較してわかるように、本発明の第2の実施形態の検査方法によれば、実施例2においても設計温度と検査温度の差による検査結果への影響を大幅に低減することができ、良品レンズと不良品レンズを正当に判別することが容易になる。
【0079】
また、実施例1と同様に、実施例2において、図1に示す第1の実施形態の検査方法を適用する場合は、収差ABが、AB≦AB<ABとなるように計算用平行平板の厚みを決めればよいため、このときの計算用平行平板の厚みtは、t<t≦tを満たすものとなる。例えば、計算用平行平板の材質がN−BK7の例では、表9および表10から、厚みtは、0.08629より大きく、0.08940以下の値となる。厚みtとしては、t=tとなるものを選択することが好ましいが、検査用平行平板の誤差を考慮すると、厳密にt=tとなる検査用平行平板を入手することは容易ではないため、t<t≦tを満たすものの中でtに近いものを選択することが好ましい。このような厚みtを有する検査用平行平板を用いて検査すれば、設計温度と検査温度の差を考慮しない検査方法で検査する場合よりも、作製された対物レンズの良否判別を正当に行うことができる。
【0080】
〔実施例3〕
表11に、上記のステップST1、ST11で準備される設計温度35℃で設計された実施例3のレンズのレンズデータを示す。なお、表11のレンズデータには、レンズだけでなく、光記録媒体の保護層に相当するもののデータも合わせて示しており、第1面および第2面がレンズに相当し、第3面および第4面が保護層に相当する。この実施例も2層式のブルーレイディスクを想定しており、レンズデータの保護層の厚みは2層式のブルーレイディスクに対して好適な性能を発揮するために設定された厚みである。表11の屈折率は使用光波長405nmにおける値を記載している。
【0081】
【表11】

【0082】
表12に各種データとして、レンズの材質の線膨張係数、レンズの材質の屈折率の温度係数と、波長405nm、NA0.85における焦点距離、バックフォーカス、第1面と第2面の有効径、有効半径を示す。
【0083】
【表12】

【0084】
表13に、上記のステップST3、ST12で求められた検査温度25℃でのレンズの屈折率および形状を表すレンズデータを示す。表13の第1面および第2面がレンズに相当する。表13では光記録媒体の保護層や計算用平行平板に相当するものは記載していない。
【0085】
【表13】

【0086】
表14の最も左の欄に、実施例3で使用される計算用平行平板の材質を示す。計算用平行平板の材質と検査用平行平板の材質は同じであるため、表14では「平行平板の材質」と表記している。表14には、図3に示す第2の実施形態の検査方法を適用した場合の、検査温度25℃における計算用平行平板の屈折率Nと、上記のステップST13で決定された厚みtと、厚みtが決定されたときのレンズと計算用平行平板とからなる光学系の最小の収差ABを材質ごとに示す。
【0087】
【表14】

【0088】
表15には、第1の実施形態の検査方法の説明で述べた各値を示す。表15には、実施例3で使用される計算用平行平板の材質と、設計温度35℃における計算用平行平板の屈折率Nと、上記のステップST2において求められた計算用平行平板の厚みtと、上記のステップST2において設計温度35℃で最適化されたときのレンズと計算用平行平板とからなる光学系の収差ABと、上記のステップST4で算出される収差ABを材質ごとに示す。
【0089】
【表15】

【0090】
実施例1の説明で述べたように、仮に設計通りに作製された製造誤差がゼロの良品レンズを検査した場合、第1の実施形態のステップST4の説明で言及したような設計温度と検査温度の差を考慮しない検査方法では、検査結果として得られる収差の値は収差ABとなるのに対し、本発明の第2の実施形態の検査方法では、検査結果として得られる収差の値は収差ABとなる。例えば実施例3における平行平板の材質がN−BK7の例を見ると、表15の収差ABは0.044λと大きいが、表14の収差ABは0.009λであり、収差ABの約1/5の小さな値である。さらに実施例3においては、表14と表15を見ると、材質がN−BK7とAPL5514MLの例では、収差ABと収差ABが同じ値である。すなわち、これらの例では、軸上波面収差のRMSについては、設計温度と検査温度の差による検査結果への影響がほぼ無いと言える。表14と表15を比較してわかるように、本発明の第2の実施形態の検査方法によれば、実施例3においても設計温度と検査温度の差による検査結果への影響を大幅に低減するか、ほぼゼロにすることができ、良品レンズと不良品レンズを正当に判別することが容易になる。
【0091】
また、実施例1と同様に、実施例3において、図1に示す第1の実施形態の検査方法を適用する場合は、収差ABが、AB≦AB<ABとなるように計算用平行平板の厚みを決めればよいため、このときの計算用平行平板の厚みtは、t<t≦tを満たすものとなる。例えば、計算用平行平板の材質がN−BK7の例では、表14および表15から、厚みtは、0.08635より大きく、0.09070以下の値となる。厚みtとしては、t=tとなるものを選択することが好ましいが、検査用平行平板の誤差を考慮すると、厳密にt=tとなる検査用平行平板を入手することは容易ではないため、t<t≦tを満たすものの中でtに近いものを選択することが好ましい。このような厚みtを有する検査用平行平板を用いて検査すれば、設計温度と検査温度の差を考慮しない検査方法で検査する場合よりも、作製された対物レンズの良否判別を正当に行うことができる。
【0092】
なお、上記実施例1〜3の条件下では、AB≦AB<ABとなるような計算用平行平板の厚みtはt<t≦tを満たすものであるが、上記実施例とは設計温度、検査温度、平行平板の材質等が異なる条件下では、AB≦AB<ABとなるような計算用平行平板の厚みtはt>t≧tの範囲となることがある。この場合も厚みtとしては、t>t≧tの範囲内でtに近いものを選択することが好ましい。
【0093】
以上、実施の形態および実施例を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態および実施例に限定されず、種々の変形が可能である。例えば、上記実施例は、光記録媒体としてブルーレイディスクを想定したものであるが、光記録媒体として、CD、DVD、LDや他の短波長光用光記録媒体、例えば、いわゆるAOD(HD−DVD)ディスク等を用いる場合も本発明を適用することが可能である。
【0094】
また、上記説明では、設計温度を35℃とし、検査温度を25℃としたが、必ずしもこれらの温度に限定されるものではなく、設計温度と検査温度が異なれば、本発明の検査方法を適用することは可能である。
【0095】
また、上記検査装置では、光源の波長の例として405nmを挙げたが、必ずしもこの波長に限定されない。設計仕様波長と異なる波長の光源を用いて検査を行う場合も、本発明の検査方法の思想と同様に、厚みを調整した検査用平行平板を用いることで波長差による検査結果への影響を軽減することができる。
【符号の説明】
【0096】
1 レンズ
2 検査用平行平板
3 反射ミラー
4 基準板
5 ビームスプリッタ
6 コリメータレンズ
7 検査用光源
9 撮像素子
10 演算部
11 表示部
100 検査装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源から出射された光を光記録媒体の透光性の保護層を介して前記光記録媒体の所定の位置に集光させるように第1の温度を設計温度として設計されたプラスチック製の光記録媒体用の対物レンズを検査するにあたり、該対物レンズにより集光された光の光路に前記保護層の代わりとなる検査用平行平板を挿入して検査する光記録媒体用の対物レンズの検査方法であって、
前記第1の温度と異なる第2の温度での前記対物レンズの形状および屈折率を求める第1工程と、
前記第2の温度での形状および屈折率を有する前記対物レンズと、前記検査用平行平板と同材質で前記第2の温度での屈折率を有する計算用平行平板とからなる光学系の収差が最小となるように、前記計算用平行平板の厚みを決定する第2工程と、
前記第2工程で決定された前記計算用平行平板の厚みと同じ厚みの前記検査用平行平板を用いて、前記設計に基づき作製された前記対物レンズを前記第2の温度で検査する第3工程とを含むことを特徴とする光記録媒体用の対物レンズの検査方法。
【請求項2】
光源から出射された光を光記録媒体の透光性の保護層を介して前記光記録媒体の所定の位置に集光させるように第1の温度を設計温度として設計されたプラスチック製の光記録媒体用の対物レンズを検査するにあたり、該対物レンズにより集光された光の光路に前記保護層の代わりとなる検査用平行平板を挿入して検査する光記録媒体用の対物レンズの検査方法であって、
前記対物レンズと、前記検査用平行平板と同材質で前記保護層と屈折率が異なる計算用平行平板とからなる光学系の前記第1の温度における収差が最小となるときの前記計算用平行平板の厚みを求める第1工程と、
前記第1の温度と異なる第2の温度での前記対物レンズの形状および屈折率と、前記第2の温度での前記計算用平行平板の屈折率を求める第2工程と、
前記第2の温度での形状および屈折率を有する前記対物レンズと、前記第2の温度での屈折率と前記第1工程で求めた厚みを有する前記計算用平行平板とからなる光学系の収差を算出する第3工程と、
前記第2の温度での形状および屈折率を有する前記対物レンズと、前記第2の温度での屈折率を有する前記計算用平行平板とからなる光学系の収差が、前記第3工程で算出された収差よりも小さくなるように、前記計算用平行平板の厚みを決定する第4工程と、
前記第4工程で決定された前記計算用平行平板の厚みと同じ厚みの前記検査用平行平板を用いて、前記設計に基づき作製された前記対物レンズを前記第2の温度で検査する第5工程とを含むことを特徴とする光記録媒体用の対物レンズの検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−218624(P2010−218624A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−63938(P2009−63938)
【出願日】平成21年3月17日(2009.3.17)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】