説明

光記録媒体

【課題】各記録層の反射率と透過率とを制御することができると共に、各記録層において良好な記録特性を得ることが可能な光記録媒体を提供する。
【解決手段】基板11と、Pd,O,M(MはZn,Al,In,Snの中の1つ或いは複数の元素)が含まれ、且つ、OはMを完全酸化させたとき(ZnO,Al,In,SnO)の化学量論組成よりも多く含まれる、2層以上の記録層121,122,123とを有し、2層以上の記録層121,122,123のうち、記録層が記録用の光の入射側とは反対側から数えてn番目の記録層である場合、そのPdの含有量が、n−1番目の記録層におけるPdの含有量より小さい、光記録媒体10を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ディスク等の光記録媒体に係わり、特に2層以上の記録層を有する、高い記録密度で記録が可能な光記録媒体に係わる。
【背景技術】
【0002】
近年、ブルーレイディスク(Blu-ray Disc(登録商標);BD)と呼ばれる、大容量光ディスクが製品化されている。
この大容量光ディスクでは、記録再生用光波長を405nm程度、記録再生用光学系の集光レンズの開口数NAを0.85程度として、約25GBの記録容量を実現している。
【0003】
この大容量光ディスクにおいて追記型光ディスクを実現するために、追記可能な記録層材料が種々検討されている。
従来の追記型光ディスクの記録層材料としては、有機色素材料が知られている。
しかしながら、有機色素材料を用いると、充分な生産性が得られないことや、記録信号の長期安定保存性の問題がある。
また、波長405nm程度の記録再生用光に対して使用できる、適切な有機色素が見当たらない、という問題もある。
【0004】
そこで、無機材料を追記型記録層材料に用いることが検討されている。
例えば、昇温により高速で結晶化して光学変化を生じさせるTe−O等を含む記録層を有する光記録媒体が提案されている(特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−112556号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述した大容量光ディスクの追記型光記録媒体において、更に大容量化を図るために、記録層を2層以上とする多層化が進められている。
【0007】
このように多層化する場合には、それぞれの記録層の反射率と透過率を適切に設定することが重要になる。
そして、例えば、記録層に隣接して誘電体層を設けて、この誘電体層の厚さを選定することによって、反射率を制御することができる。
【0008】
しかしながら、各記録層を同じ構成としたままで、各記録層の反射率と透過率を設定すると、各記録層の記録特性に差が出てしまうことがある。そのため、一部の記録層において、良好な記録特性が得られないことが懸念される。
【0009】
上述した問題の解決のために、本発明においては、各記録層の反射率と透過率とを制御することができると共に、各記録層において良好な記録特性を得ることが可能な光記録媒体を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の光記録媒体は、基板と、2層以上の記録層とを有する。そして、この2層以上の記録層は、Pd,O,M(MはZn,Al,In,Snの中の1つ或いは複数の元素)が含まれ、且つ、OはMを完全酸化させたとき(ZnO,Al,In,SnO)の化学量論組成よりも多く含まれている。
さらに、記録層が記録用の光の入射側とは反対側から数えてn番目(nは2以上の自然数)の記録層である場合、そのPdの含有量が、n−1番目の記録層におけるPdの含有量より小さい。
【0011】
上述の本発明の光記録媒体の構成によれば、記録用の光の入射側とは反対側から数えてn番目の記録層のPdの含有量が、n−1番目の記録層におけるPdの含有量より小さい。このように、n番目の記録層はn−1番目の記録層よりもPdの含有量が小さい(少ない)ことにより、光の吸収が減少するので、透過率が高くなる。これにより、Pdの含有量が小さい(少ない)層の記録感度は減少するが、その分、入射側と反対側の記録層の記録感度が増大する。
従って、反射率を揃えることによって一部の記録層(特に光の入射側とは反対側に近い記録層)の記録感度が低下する分を補償することが可能になる。
また、記録層のPdの含有量を変えることにより、記録層の透過率を変えることができる。
【発明の効果】
【0012】
上述の本発明によれば、各記録層のPdの含有量を変えて、各記録層の透過率や記録感度を変えることができる。
これにより、各記録層の透過率、記録感度を制御すると共に、良好な記録特性を実現することが可能になる。
従って、本発明により、記録特性が良好な、多層の記録層から成る光記録媒体を実現することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の光記録媒体の第1の実施の形態の概略構成図(断面図)である。
【図2】図1の光記録媒体の要部の拡大断面図である。
【図3】本発明の光記録媒体の第2の実施の形態の概略構成図(断面図)である。
【図4】本発明の光記録媒体の第3の実施の形態の概略構成図(断面図)である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、発明を実施するための最良の形態(以下、実施の形態とする)について説明する。
なお、説明は以下の順序で行う。
1.第1の実施の形態
2.第2の実施の形態
3.第3の実施の形態
4.実験例
【0015】
<1.第1の実施の形態>
本発明の光記録媒体の第1の実施の形態の概略構成図(断面図)を、図1に示す。
この光記録媒体10は、基板11上に、3層の記録層121(L0),122(L1),123(L2)が形成されている。なお、多層記録媒体においては通常、基板に最も近い記録層をL0、次いでL1、L2、・・・とするので、便宜上併記して示す。
また、各記録層121,122,123の間には、光透過性材料より成る中間層141,142が形成されている。
さらに、最上層の記録層123の上には、光透過性材料より成る保護層13が形成されている。
【0016】
本実施の形態の光記録媒体10を、上述した大容量光ディスク(BD、登録商標)の構成とする場合は、厚みが約1.1mmで、外径が約120mmの円盤状の基板11が用いられる。そしてその一面側、例えばウォブリンググルーブとしての凹凸が形成された面の上に、記録層121,122,123が、光透過性材料より成る中間層141,142を介して形成される。さらに、記録層123の上には、光透過性材料より成る保護層13が形成され、全体として厚さ1.2mmとなるように構成される。
上述した大容量光ディスクの構成とする場合には、記録用光の入射側は、保護層13の側とされる。
なお、本発明は、上述した大容量光ディスクの構成に限定されるものではなく、光記録媒体の形状や寸法(大きさ、厚さ等)、基板や保護層の厚さ等は、用途に応じて適宜選定することが可能である。
【0017】
基板11の材料としては、例えばポリカーボネート樹脂等を用いることができる。
基板11は、例えば、射出成形等により、マスタリング原盤からトラッキング用のウォブリンググルーブの凹凸形状を転写することによって、形成することができる。
なお、本発明の光記録媒体において、グルーブ形状は必須ではなく、トラッキングが可能であり、且つ記録トラック間のクロストークが適切に抑制される構造であればよい。
また、記録トラックは光入射側から見てグルーブ上又はランド上とすることができ、記録方式を問わない。
【0018】
記録層121,122,123は、Pd,O,M(MはZn,Al,In,Snの中の1つ或いは複数の元素)が含まれ、且つ、OはMを完全酸化させたとき(ZnO,Al,In,SnO)の化学量論組成よりも多く含まれている構成とする。
即ち、これら記録層121,122,123には、ZnOやAlといった安定した酸化物に加えて、PdO又はPdOが含まれる。
そして、例えば中心波長405nm近傍のレーザ等の光を照射したときに、PdOはPdとOに、PdOはPdOとOに分解し、Oの発生によって構造的に膨れを生じる。これにより、周囲と反射率の異なる記録マークが形成される。
【0019】
中間層141,142の材料としては、例えば、紫外線硬化樹脂等の、光硬化性、又は熱硬化性の樹脂等を用いることができる。この場合、スピンコート等により塗布した後、加熱又は光照射を行うことにより、中間層を形成することができる。
中間層141,142は、記録特性に影響を及ぼさない十分な光透過性があればよく、その厚さは層間クロストークを所定値以下に抑えられる範囲であればよい。
【0020】
保護層13には、熱硬化性又は光硬化性の樹脂材料が利用可能である。これらの材料をスピンコート法等により塗布して成膜した後、加熱や光照射、例えば紫外線照射により硬化して、保護層13を形成することができる。或いは、紫外線硬化樹脂等とポリカーボネート等の樹脂シートや、接着層とポリカーボネート等の樹脂シート用いて、保護層13を形成することもできる。
【0021】
なお、図示しないが、保護層13の表面(レーザ照射面)に、例えば機械的な衝撃、傷に対する保護、また利用者の取り扱い時の塵埃や指紋の付着等から、情報信号の記録再生品質を保護するためのハードコートを設けてもよい。
このハードコートには、機械的強度を向上させるためにシリカゲルの微粉末を混入したものや、溶剤タイプ、無溶剤タイプ等の紫外線硬化樹脂を用いることができる。
機械的強度を有し、撥水性や撥油性を持たせるには、ハードコートの厚さを1μmから数μm程度とすることが好ましい。
【0022】
さらにまた、図1の光記録媒体10の要部の拡大断面図を、図2に示す。
本実施の形態では、記録層121,122,123の下層及び上層にそれぞれ、保護膜としての機能を有する材料より成る、厚さ数nm〜数十nm程度の光透過性の誘電体層151,161,152,162,153,163を形成している。
この誘電体層151,161,152,162,153,163の材料としては、In−O、Zn−O、Al−O、Sn−O、Ga−O、Si−O、Ti−O、V−O、Cr−O、Nb−O、Zr−O、Hf−O、Ta−O、Bi−O等の酸化物が挙げられる。また、SiN、AlN等の窒化物、SiC等の炭化物も利用可能である。これらの材料を用いることにより、記録層121,122,123の耐久性を高めることができる。
誘電体層151,161,152,162,153,163は、上述した酸化物や窒化物、炭化物をターゲット材料に用いて、スパッタ法等により成膜することができる。
それぞれの誘電体層151,161,152,162,153,163の材料や厚さは、必要とされる特性に応じて、適宜選定する。なお、3層の記録層121,122,123のそれぞれについて、下層及び上層の誘電体層の材料や厚さが他の記録層と異なっていても構わない。
【0023】
なお、このように誘電体層を設ける場合、誘電体層の材料や組成、又は成膜条件の少なくともいずれかを変えることにより、誘電体層を含む記録層の透過率を変化させることができる。成膜条件としては、例えば成膜時の成膜パワー(スパッタ法による場合はスパッタ電力)や成膜雰囲気である酸素分圧が挙げられる。ここで酸素分圧とは、例えば不活性ガスとしてArガスを使う場合、Arガスと酸素ガスとを含む全ガス中の酸素のガス圧分を示す。
【0024】
例えば材料の選定により透過率を変化させる例としては、In−Sn−OとIn−Si−Zr−Oが挙げられ、この場合In−Sn−OよりもIn−Si−Zr−Oの方が透過率は高い。また、組成を変えて透過率を変化させる例としては、In−Ga−Zn−Oが挙げられ、組成比をIn:Ga:Zn=88:6:6とするよりも、In:Ga:Zn=34:33:33とする方が、透過率が高くなる。また、成膜条件として例えば酸素分圧により変化させる場合、酸素分圧大とするほうが酸素分圧小とする場合よりも透過率が高くなる。更に、成膜時のパワーにより透過率を変える場合は、パワー大とするほうがパワー小とする場合より透過率が高くなる。
【0025】
また、特に、記録層121,122,123の下層(基板11側)の誘電体層151,152,153は、主に記録パワーのマージン等に寄与する。そのため、下層の誘電体層151,152,153の材料や厚さによって、記録パワーのマージン等の特性を制御することができる。
また、特に、記録層121,122,123の上層(記録光の入射側、保護層13側)の誘電体層161,162,163は、主に記録層の反射率に寄与する。そのため、上層の誘電体層161,162,163の材料や厚さによって、各記録層の反射率を制御することができる。例えば、上層の誘電体層161,162,163の材料にIn−Oを用いて、上層の誘電体層161,162,163の膜厚を変えることにより、各記録層の反射率を変えることができ、上層の誘電体層の膜厚が厚いほど記録層の反射率が低くなる。
【0026】
光入射側から見たそれぞれの記録層121,122,123の反射率は、以下のようになる。
L0層121:L0層の反射率×(L1層の透過率)×(L2層の透過率)
L1層122:L1層の反射率×(L2層の透過率)
L2層123:L2層の反射率
従って、これらの反射率がそれぞれ同じ値になるように、それぞれの層の反射率と透過率を設計すれば、光入射側から見た3層の記録層の反射率を揃えることができる。
【0027】
本実施の形態においては、特に、記録層121,122,123が、基板11側から記録用光の入射側に向かうにつれて、Pdの含有量が小さくなるようにする。
即ち、L1の記録層122のPdの含有量はL0の記録層121のPdの含有量より小さく、L2の記録層123のPdの含有量はL1の記録層122のPdの含有量より小さい、構成とする。
このようにPdの含有量を変えることにより、透過率を大きく変えることができる。このとき、反射率はそれほど大きくは変わらず、吸収が大きく変わる。
つまり、Pdの含有量を増やせば、透過率が下がり、吸収は増大する。Pdの含有量を減らせば透過率が上がり、吸収は減少する。一般的に、記録感度はこの吸収と関係があり、吸収が高い方が記録感度は良くなる。
【0028】
前述したように、各記録層の上層の誘電体層の膜厚を選定して、光入射側から見た3層の記録層121,122,123の反射率を揃えた場合、3層の記録層の構成(組成及び膜厚)が同一では、各記録層の最適記録パワーに差が生じる。例えば、記録層の上層の誘電体層161,162,163の膜厚を、基板11側から光入射側へ厚くしていき、161<162<163とすると、光入射側から見た3層の記録層121,122,123の反射率を揃えることが可能になる。このとき、基板11側のL0の記録層121の記録感度が低くなる。
これに対して、このL0の記録層121のPd含有量を増やせば、吸収が上がり、記録感度も改善される。また、L2の記録層123の透過率を上げれば、この記録層123の記録感度は落ちるが、下層の記録層121,122にはより多くの光が入るため、これら下層の記録層121,122の記録感度改善にも効果があると考えられる。
これにより、各記録層121,122,123の最適記録パワーの差を埋めて、各記録層121,122,123の最適記録パワーを近い値とすることが可能になる。
【0029】
上述の本実施の形態の光記録媒体10の構成によれば、記録層121,122,123が、基板11側から記録用光の入射側に向かうにつれて、Pdの含有量が小さくなるように構成されている。
これにより、基板11側から記録用光の入射側に向かうにつれて、Pdの含有量が小さくなるので、光の吸収が減少し、透過率が高くなる。これにより、Pdの含有量が小さい(少ない)層の記録感度は減少するが、その分、入射側と反対側の記録層の記録感度が増大する。
従って、反射率を揃えることによって一部の記録層(特に、光の入射側とは反対側に近いL0の記録層121)の記録感度が低下する分を補償することが可能になる。
また、記録層のPdの含有量を変えることにより、記録層の透過率を変えることができる。
【0030】
本実施の形態の光記録媒体10の構成によれば、このように各記録層121,122,123のPdの含有量を変えて、各記録層121,122,123の透過率や記録感度を変えることができる。これにより、各記録層121,122,123の透過率、記録感度を制御すると共に、良好な記録特性を実現することが可能になる。
従って、記録特性が良好な、3層の記録層から成る光記録媒体10を実現することが可能になる。
【0031】
<2.第2の実施の形態>
本発明の光記録媒体の第2の実施の形態の概略構成図(断面図)を、図3に示す。
この光記録媒体20は、基板21上に、3層の記録層221(L0),222(L1),223(L2),224(L3)が形成されている。
また、各記録層221,222,223,224の間には、光透過性材料より成る中間層241,242,243が形成されている。
さらに、最上層の記録層224の上には、光透過性材料より成る保護層23が形成されている。
【0032】
本実施の形態の光記録媒体20を、上述した大容量光ディスク(BD、登録商標)の構成とする場合は、厚みが約1.1mmで、外径が約120mmの円盤状の基板21が用いられる。そしてその一面側、例えばウォブリンググルーブとしての凹凸が形成された面の上に、記録層221,222,223,224が、光透過性材料より成る中間層241,242,243を介して形成される。さらに、記録層224の上には、光透過性材料より成る保護層23が形成され、全体として厚さ1.2mmとなるように構成される。
上述した大容量光ディスクの構成とする場合には、記録用光の入射側は、保護層23の側とされる。
【0033】
光記録媒体20の各層の材料や形成方法は、第1の実施の形態の光記録媒体10と同様とすることができる。
即ち、基板21の材料としては、例えばポリカーボネート樹脂等を用いることができる。
記録層221,222,223,224は、Pd,O,M(MはZn,Al,In,Snの中の1つ或いは複数の元素)が含まれ、且つ、OはMを完全酸化させたときの化学量論組成よりも多く含まれている構成とする。
中間層241,242,243の材料としては、例えば、紫外線硬化樹脂等の、光硬化性、又は熱硬化性の樹脂等を用いることができる。
保護層23には、熱硬化性又は光硬化性の樹脂材料が利用可能である。
また、図示しないが、保護層23の表面にハードコートを設けてもよい。このハードコートには、機械的強度を向上させるためにシリカゲルの微粉末を混入したものや、溶剤タイプ、無溶剤タイプ等の紫外線硬化樹脂を用いることができる。
【0034】
また、図示しないが、第1の実施の形態の図2に示したと同様に、各記録層221,222,223,224の下層及び上層に、誘電体層を設けることができる。
この誘電体層の材料としては、In−O、Zn−O、Al−O、Sn−O、Ga−O、Si−O、Ti−O、V−O、Cr−O、Nb−O、Zr−O、Hf−O、Ta−O、Bi−O等の酸化物が挙げられる。また、SiN、AlN等の窒化物、SiC等の炭化物も利用可能である。
そして、記録層221,222,223,224の下層の誘電体層の材料や厚さによって、記録パワーのマージン等の特性を制御することができる。
また、記録層221,222,223,224の上層の誘電体層の材料や厚さによって、各記録層の反射率を制御することができる。例えば、上層の誘電体層の材料にIn−Oを用いて、上層の誘電体層の膜厚を変えることにより、各記録層の反射率を変えることができ、上層の誘電体層の膜厚が厚いほど記録層の反射率が低くなる。
【0035】
本実施の形態においては、特に、記録層221,222,223,224が、基板21側から記録用光の入射側に向かうにつれて、Pdの含有量が小さくなるようにする。
即ち、記録層222のPdの含有量は記録層221のPdの含有量より小さく、記録層223のPdの含有量は記録層222のPdの含有量より小さく、記録層224のPdの含有量は記録層223のPdの含有量より小さい、構成とする。
このようにPdの含有量を変えることにより、第1の実施の形態の光記録媒体10と同様に、透過率を大きく変えることができ、反射率はそれほど大きくは変わらず、吸収が大きく変わる。
【0036】
前述したように、各記録層の上層の誘電体層の膜厚を選定して、光入射側から見た4層の記録層221,222,223,224の反射率を揃えた場合、4層の記録層の構成(組成及び膜厚)が同一では、各記録層の最適記録パワーに差が生じる。例えば、記録層の上層の誘電体層の膜厚を、基板21側から光入射側へ厚くしていくと、光入射側から見た4層の記録層221,222,223,224の反射率を揃えることが可能になる。このとき、基板21側のL0の記録層221の記録感度が低くなる。
これに対して、このL0の記録層221のPd含有量を増やせば、吸収が上がり、記録感度も改善される。また、L3の記録層224の透過率を上げれば、この記録層224の記録感度は落ちるが、下層の記録層221,222,223にはより多くの光が入るため、これら下層の記録層221,222,223の記録感度改善にも効果があると考えられる。
これにより、各記録層221,222,223,224の最適記録パワーの差を埋めて、各記録層221,222,223,224の最適記録パワーを近い値とすることが可能になる。
【0037】
上述の本実施の形態の光記録媒体20の構成によれば、記録層221,222,223,224が、基板21側から記録用光の入射側に向かうにつれて、Pdの含有量が小さくなるように構成されている。
これにより、基板21側から記録用光の入射側に向かうにつれて、Pdの含有量が小さくなるので、光の吸収が減少し、透過率が高くなる。これにより、Pdの含有量が小さい(少ない)層の記録感度は減少するが、その分、入射側と反対側の記録層の記録感度が増大する。
従って、反射率を揃えることによって一部の記録層(特に、光の入射側とは反対側に近いL0の記録層221)の記録感度が低下する分を補償することが可能になる。
また、記録層のPdの含有量を変えることにより、記録層の透過率を変えることができる。
【0038】
本実施の形態の光記録媒体20の構成によれば、このように各記録層221,222,223,224のPdの含有量を変えて、各記録層221,222,223,224の透過率や記録感度を変えることができる。これにより、各記録層221,222,223,224の透過率、記録感度を制御すると共に、良好な記録特性を実現することが可能になる。
従って、記録特性が良好な、4層の記録層から成る光記録媒体20を実現することが可能になる。
【0039】
<3.第3の実施の形態>
本発明の光記録媒体の第3の実施の形態の概略構成図(断面図)を、図4に示す。
この光記録媒体30は、記録層をn層(nは5以上の任意の自然数)とする場合の光記録媒体30の構成を示す。
本実施の形態の光記録媒体30では、基板31上に、第1の実施の形態及び第2の実施の形態と同様に、ウォブリンググルーブとしての凹凸が形成されている。そして、この凹凸形成面の上に、基板31側から順に記録層321(L0),322(L1),323(L2),324(L3),・・・,32n(Ln)が、中間層341,342,343,・・・,34nを介して形成されている。最上層の記録層32n(Ln)の上には、保護層33が形成されている。
【0040】
この場合も、前述した大容量光ディスクの構成とする場合は、基板31の厚さや外径、保護層33の厚さを、図1に示した第1の実施の形態と同様の構成とする。
【0041】
本実施の形態において、光記録媒体30を構成する各層の材料等は、前述した第1の実施の形態及び第2の実施の形態の光記録媒体10,20と同様とすることができる。
【0042】
本実施の形態においては、特に、記録層321,322,323,324,・・・,32nが、基板31側から記録用光の入射側に向かうにつれて、Pdの含有量が大きくなるようにする。つまり、記録用の光の入射側とは反対側から数えて、k番目(kは2以上でn以下の自然数)の記録層のPdの含有量が、k−1番目の記録層におけるPdの含有量より小さい構成とする。
このようにPdの含有量を変えることにより、第1の実施の形態の光記録媒体10と同様に、透過率を大きく変えることができ、反射率はそれほど大きくは変わらず、吸収が大きく変わる。
【0043】
前述したように、各記録層の上層の誘電体層の膜厚を選定して、光入射側から見たn層の記録層(321〜32n)の反射率を揃えた場合、n層の記録層の構成(組成及び膜厚)が同一では、各記録層の最適記録パワーに差が生じる。
例えば、k番目(kは2以上の自然数)の記録層に設けられた上層の誘電体層の厚さが、k−1番目の記録層に設けられた上層の誘電体層の厚さよりも厚くして、記録層の上層の誘電体層の膜厚を基板31側から光入射側へ厚くしていく。このように構成すると、光入射側から見たn層の記録層(321〜32n)の反射率を揃えることが可能になる。このとき、基板31側に近い記録層(L0の記録層321等)の記録感度が低くなる。
これに対して、この基板31側に近い記録層のPd含有量を増やせば、吸収が上がり、記録感度も改善される。また、光入射側の記録層(Lnの記録層32n等)の透過率を上げれば、この記録層の記録感度は落ちるが、下層の記録層にはより多くの光が入るため、これら下層の記録層の記録感度改善にも効果があると考えられる。
これにより、各記録層(321〜32n)の最適記録パワーの差を埋めて、各記録層(321〜32n)の最適記録パワーを近い値とすることが可能になる。
【0044】
上述の本実施の形態の光記録媒体30の構成によれば、記録層321〜32nが、基板31側から記録用光の入射側に向かうにつれて、Pdの含有量が小さくなるように構成されている。つまり、記録用の光の入射側とは反対側の基板31側から数えて、k番目(kは2以上でn以下の自然数)の記録層のPdの含有量が、k−1番目の記録層におけるPdの含有量より小さい構成としている。
これにより、基板31側から記録用光の入射側に向かうにつれて、Pdの含有量が小さくなるので、光の吸収が減少し、透過率が高くなる。これにより、Pdの含有量が小さい(少ない)層の記録感度は減少するが、その分、入射側と反対側の記録層の記録感度が増大する。
従って、反射率を揃えることによって一部の記録層(特に、光の入射側とは反対側に近いL0の記録層321等)の記録感度が低下する分を補償することが可能になる。
また、記録層のPdの含有量を変えることにより、記録層の透過率を変えることができる。
【0045】
本実施の形態の光記録媒体30の構成によれば、このように各記録層321〜32nのPdの含有量を変えて、各記録層321〜32nの透過率や記録感度を変えることができる。これにより、各記録層321〜32nの透過率、記録感度を制御すると共に、良好な記録特性を実現することが可能になる。
従って、記録特性が良好な、n層の記録層から成る光記録媒体30を実現することが可能になる。
【0046】
上述の各実施の形態では、記録層を3層(n=3)、4層(n=4)、n層(n≧5)とした場合をそれぞれ示したが、本発明は、記録層を2層(n=2)とした場合にも同様に適用することができる。
また、上述の各実施の形態では、前述した大容量光ディスクの構成と同様に、基板とは反対の側から記録用の光を入射させる構成としていた。本発明は、基板側から記録用の光を入射させる構成も含むものである。この構成とする場合、基板を記録用の光が充分に透過する構成として、各記録層のPdの含有量の大小は、上述した実施の形態とは逆に、基板側の記録層のPdの含有量を小さくする。
【0047】
また、記録層に対して下層や上層に設ける誘電体層は、記録層の下層及び上層に設けることが望ましいが、本発明では、記録層の下層或いは上層のいずれか一方に誘電体層を設けた構成や、記録層に対して誘電体層を設けない構成としてもよい。
【0048】
また、上述の各実施の形態では、全ての記録層を、Pd,O,Mを含有する記録層である構成としていた。
本発明では、他の構成の記録層をさらに有する光記録媒体も含む。
例えば、Pdを含まない他の材料による記録層や、凹凸と反射膜のみによる再生専用の記録層等を、さらに設けても構わない。他の構成の記録層を設ける場所は、特に限定されないが、Pdを含む複数層の記録層よりも基板側に配置すると、光記録媒体の各記録層の透過率や反射率を設計しやすい。
【0049】
<4.実験例>
ここで、第1の実施の形態の光記録媒体10と、記録層の構成が異なる比較例の光記録媒体とを、実際に作製して、記録層の透過率や反射率、記録パワー感度を測定した。
【0050】
(比較例)
比較例として、第1の実施の形態の光記録媒体10とは記録層の構成が異なり、各記録層121,122,123が同じ構成である光記録媒体を作製した。
基板11として、外径120mm、厚さ1.1mmの円盤形状のポリカーボネート樹脂を使用した。
3層の記録層121,122,123を、膜厚40nmのZn−In−O−Pd膜(Zn:In=5:5,(Zn+In):Pd=8:2)とした。
また、記録層の下層の誘電体層151,152,153を、膜厚10nmのIn膜により形成した。
また、記録層の上層の誘電体層161,162,163を、In膜により形成し、それぞれの膜厚x(nm)を異ならせた。具体的には、L0の記録層121の上層の誘電体層161の膜厚を5nmとし、L1の記録層122の上層の誘電体層162の膜厚を20nmとし、L2の記録層123の上層の誘電体層163の膜厚を35nmとした。
中間層141,142として、アクリル系の紫外線硬化性樹脂を使用した。
最上層の記録層123の上に、アクリル系の紫外線硬化性樹脂によって、保護層13を形成した。
各記録層及びその上下の誘電体層は、スパッタ法で形成した。また、中間層及び保護層は、スピンコート法で形成した。
その他は第1の実施の形態の光記録媒体10と同様にして、比較例の光記録媒体を作製した。
【0051】
次に、この比較例の光記録媒体の各記録層121,122,123の透過率及び反射率を測定した。
各記録層121,122,123の透過率は、上層の誘電体層161,162,163の厚さによらず、ほぼ55%で一定であった。
また、反射率は、L0の記録層121が10%、L1の記録層122が5.5%、L2の記録層123が3%であり、光入射側から見たトータルの反射率は3層の記録層121,122,123でほぼ3%に揃えることができた。
【0052】
続いて、比較例の光記録媒体の各記録層の記録パワー感度を測定したところ、下記のように、大きな差を生じてしまった。
L0の記録層121:最適記録パワー 20.1mW
L1の記録層122:最適記録パワー 10.9mW
L2の記録層123:最適記録パワー 6.0mW
【0053】
このように、各記録層で反射率のバランスの獲得には成功したが、記録パワー感度のバランスが悪くなってしまっていた。
【0054】
(実施例)
実施例として、図1及び図2に示した、第1の実施の形態の光記録媒体10を作製した。
基板11として、厚さ1.1mmの円盤形状のポリカーボネート樹脂を使用した。
3層の記録層121,122,123を、膜厚40nmのZn−In−O−Pd膜として、3層の記録層121,122,123の組成、特にPdの含有量を異ならせた。具体的には、以下の組成とした。
L0の記録層121 Zn:In=5:5,(Zn+In):Pd=5:5
L1の記録層122 Zn:In=5:5,(Zn+In):Pd=8:2
L2の記録層123 Zn:In=5:5,(Zn+In):Pd=9:1
【0055】
また、記録層の下層の誘電体層151,152,153を、膜厚10nmのIn膜により形成した。
また、記録層の上層の誘電体層161,162,163を、In膜により形成し、それぞれの膜厚x(nm)を異ならせた。具体的には、L0の記録層121の上層の誘電体層161の膜厚を5nmとし、L1の記録層122の上層の誘電体層162の膜厚を20nmとし、L2の記録層123の上層の誘電体層163の膜厚を35nmとした。
中間層141,142として、アクリル系の紫外線硬化性樹脂を使用した。
最上層の記録層123の上に、アクリル系の紫外線硬化性樹脂によって、保護層13を形成した。
各記録層及びその上下の誘電体層は、スパッタ法で形成した。また、中間層及び保護層は、スピンコート法で形成した。
このようにして、実施例の光記録媒体10を作製した。
【0056】
次に、この実施例の光記録媒体10の各記録層121,122,123の透過率及び反射率と、最適記録パワーを測定した。測定結果は、下記のようになった。
L0の記録層121:透過率32%、反射率3%、最適記録パワー10.9mW
L1の記録層122:透過率55%、反射率3%、最適記録パワー8.0mW
L2の記録層123:透過率75%、反射率3%、最適記録パワー9.0mW
【0057】
このように、各記録層の反射率のバランスと記録感度のバランスとが、共に良好な結果を得た。
【0058】
従って、本発明の光記録媒体の構成として、多層の光記録媒体の各記録層のPd含有量を制御することにより、反射率及び記録感度の双方を制御して、各記録層のバランスを最適化することができることが分かった。
【0059】
本発明の光記録媒体は、通常光記録媒体として採用されているディスク形状とすることができるが、カード形状等、その他の形状とすることも可能である。
【0060】
本発明は、上述の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲でその他様々な構成が取り得る。
【符号の説明】
【0061】
10,20,30 光記録媒体、11,21,31 基板、121,122,123,221,222,223,224,321,322,323,324,32n 記録層、13,23,33 保護層、141,142,241,242,243,341,342,343 中間層、151,152,153 (下層の)誘電体層、161,162,163 (上層の)誘電体層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
Pd,O,M(MはZn,Al,In,Snの中の1つ或いは複数の元素)が含まれ、且つ、OはMを完全酸化させたとき(ZnO,Al,In,SnO)の化学量論組成よりも多く含まれた、2層以上の記録層とを有し、
2層以上の前記記録層のうち、記録用の光の入射側とは反対側から数えて、n番目(nは2以上の自然数)の記録層のPdの含有量が、n−1番目の記録層におけるPdの含有量より小さい
光記録媒体。
【請求項2】
前記記録層に隣接して、In,Zn,Al,Sn,Ga,Si,Ti,V,Cr,Nb,Zr,Hf,Ta,Biの少なくともいずれかの酸化物、又は、SiN,AlN,SiCのいずれかの材料より成る誘電体層が設けられている請求項1に記載の光記録媒体。
【請求項3】
前記誘電体層が前記記録層の少なくとも前記記録用の光の入射側に設けられ、前記記録層の前記記録用の光の入射側に設けられた誘電体層は、前記n番目の記録層に設けられた誘電体層の厚さが、前記n−1番目の記録層に設けられた誘電体層の厚さより厚い、請求項2に記載の光記録媒体。
【請求項4】
前記記録用の光の入射側は、前記基板とは反対側である、請求項1に記載の光記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−64275(P2012−64275A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−208148(P2010−208148)
【出願日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】