説明

光送受信器および光送受信方法

【課題】オーバーサンプリング比を上げることなく、低消費電力化および小規模回路化を実現できるハードウェア的に優れた光送受信器を得る。
【解決手段】送信端では、デジタル信号処理(103)およびDA変換処理(104)を1倍のオーバーサンプリング比で行い、受信端では、アンチエイリアシングフィルタにより電気領域での厳しい帯域制限を行う代わりに、遅延干渉計(130)の自由スペクトル間隔(FSR)を概略2/Tに設定し、バランス型光子検出器(131)を0.5/Tで帯域制限することで、送信端の電気領域での帯域狭窄化ペナルティを低減する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバによるデジタル通信で用いられる光送受信器および光送受信方法に関する。
【背景技術】
【0002】
40Gb/sDBPSK(Differential Binary Phase−Shift Keying:差動2位相偏移変調)信号は、占有帯域が広く、ROADM(Reconfigurable Optical Add−drop Multiplexer)におけるスペクトル狭窄に弱い。従って、波長多重時の周波数間隔50GHzを実現することが困難であった。また、シンボルレートが高く、波長分散や偏波モード分散のようなファイバの分散特性に弱かった。
【0003】
これらの課題を解決する技術として、いわゆるPartial DPSK(Partial Differential Phase−Shift Keying:部分差動位相偏移変調)方式が挙げられる(例えば、特許文献1参照)。Partial DPSK方式は、DPSK方式受信器に備えられる1シンボル遅延干渉計の自由スペクトル間隔(FSR:Free Spectral Range)をシンボルレート1/T(Tはシンボル期間)に対して十分広くとる方式である。
【0004】
そして、このPartial DPSK方式は、光領域で半値全幅(FWHM)(Full Width Half Maximum)が1/Tを下回るほどの帯域狭窄が行われた場合、あるいは電気領域で半値全幅(FWHM)が0.5/Tを下回るほどの帯域狭窄が行われた場合においても、良好な受信特性を得ることが可能な方式である。
【0005】
このPartial DPSK方式は、複素電界平面においてI軸(In−phase軸)上のみに信号点を取るDBPSK方式に対して、特に有効である。複素電界平面において、I軸とQ軸(Quadrature−phase軸)の両方に信号点を取るDQPSK方式では、DBPSK方式ほど光領域での帯域制限への耐力がないが、電気領域での帯域制限に対しては、DBPSK方式と同等の耐力がある。
【0006】
光ファイバ通信の送信端デジタル信号処理(DSP:Digital Signal Processing)に適用可能なDA変換器(DAC:Digital−to−Analog Converter)として、サンプリングレートが20Gsample/sを上回るものが開発されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0007】
サンプリングレートの増大は、回路規模、消費電力、波形歪み等とのトレードオフにより、非常に厳しく制限される。DA変換器を用いて波形生成を行う場合には、基本的には2倍のオーバーサンプリング比(=サンプリングレート対シンボルレート比)が必要である。これは、無線通信分野で広く知られているエイリアシングによる波形歪みを防止するためである。
【0008】
図4は、従来技術に係る光送信系統の形態例(1)を示すブロック図である。具体的には、従来の光送信器において、2倍のオーバーサンプリングでデジタル演算処理およびDA変換を行う場合の、離散時間−連続時間変換に着目したブロック図と、各ブロック処理を受けた信号の周波数スペクトルの変化を示している。
【0009】
まず、予等化処理により表現したいアナログ信号(連続時間表現)S1があるとする。デジタル演算処理(DSP)のため、2倍オーバーサンプリング部12aで離散時間化すると、I−ch信号とQ−ch信号を合成して得られる複素ベースバンド信号S3aの周波数スペクトルは、2/T間隔で繰り返すことになる。このため、I−ch、Q−chの実時間電気信号は、1/Tの帯域を有するローパスフィルタ(LPF: Low−pass Filter)11aで信号S1の主成分をあらかじめ抜き出した信号S2aとして、2倍オーバーサンプリング部12aへ与える必要がある。
【0010】
そして、信号S3aを同じ2倍オーバーサンプリングのDA変換器13aで連続時間信号S4aに変換する際には、やはり周波数スペクトルが2/T間隔で繰り返すことになる。このため、DA変換器13aの後で、1/T程度の帯域を有するローパスフィルタ14aにより帯域制限して、信号S5aとする必要がある。これにより、信号S1、S2a、S3a、S4a、S5aの各第1Null点まで、ほぼ所望のスペクトルの信号を実現できることがわかる。
【0011】
図5は、従来技術に係る光送信系統の形態例(2)を示すブロック図である。具体的には、従来の光送信器において、1倍オーバーサンプリングでデジタル演算処理およびDA変換を行う場合の、離散時間−連続時間変換に着目したブロック図と、各ブロックの処理を受けた信号の周波数スペクトルの変化を示している。ただし、ローパスフィルタ11a、14aの帯域は、先の図4の場合と同じである。
【0012】
この図5の構成の場合も、予等化処理により表現したいアナログ信号(連続時間表現)S1があるとすると、信号S1が図1と同じローパスフィルタ11aを通過した後、1倍オーバーサンプリング部12bにより離散時間化される。離散時間化された後のI−ch信号とQ−ch信号を合成して得られる複素ベースバンド信号の周波数スペクトルは、1/T間隔で繰り返す。このため、信号S3bで示すようにデジタル領域でスペクトルに重なりが生じてしまうことがわかる。
【0013】
I−ch、 Q−chの実時間電気信号を1/Tの帯域を有するローパスフィルタで抜き出した場合、デジタル領域でスペクトルに重なりが生じてしまうことがわかる。1倍オーバーサンプリング部12bの後段のDA変換器13bで連続時間信号に変換する際には、やはり周波数スペクトルが1/T間隔で繰り返すことになる。このため、DA変換器13bの後段において、1/Tの制限帯域を有するローパスフィルタ14aを含めて、いかなるローパスフィルタを用いても、もはやエイリアシングを除去できず、所望のスペクトルを実現できないことがわかる。
【0014】
図6は、従来技術に係る光送信系統の形態例(3)を示すブロック図である。具体的には、従来の光送信器において、1倍オーバーサンプリングでデジタル演算処理およびDA変換を行う場合の、離散時間−連続時間変換に着目したブロック図と、各ブロックの処理を受けた信号の周波数スペクトルの変化を示している。ただし、この図6の構成の場合には、ローパスフィルタ11bおよび14bの制限帯域を、先の図5の場合の半分(0.5/T)とした。
【0015】
この図6の構成の場合も、予等化処理により表現したいアナログ信号(連続時間表現)S1があるとすると、信号S1がローパスフィルタ11bを通過した後、1倍オーバーサンプリング部12bにより離散時間化される。離散時間化された後のI−ch信号とQ−ch信号を合成して得られる複素ベースバンド信号S3cの周波数スペクトルは、図6に示すように、1/T間隔で繰り返すことになる。したがって、I−ch、Q−chの実時間電気信号は、0.5/Tの帯域を有するローパスフィルタ11bであらかじめ主成分を抜き出しておく必要がある。
【0016】
1倍オーバーサンプリング部12bの後続のDA変換器13bで連続時間信号に変換する際には、やはり周波数スペクトルが1/T間隔で繰り返すことになる。このため、DA変換器12bの後段において、0.5/T程度の帯域を有するローパスフィルタ14bにより帯域制限する必要がある。これにより、シンボルレートの半分程度に厳しく帯域狭窄された信号が生成されることがわかる。この場合、エイリアシングは生じない。
【0017】
近年、光ファイバ通信における1波長当たりのビットレートは、40Gb/sや100Gb/sに及ぶ。従って、20Gsample/sのDA変換器を用いて、2倍オーバーサンプリングを行うことは、DA変換器の動作速度限界により困難である。
【0018】
これに対し、オーバーサンプリング比を1倍としてDA変換器により波形生成を行い、送信端および受信端でアンチエイリアシングフィルタによりエイリアシングを防止する方法が検討されている(例えば、非特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】米国特許出願公開第2007/0196110号明細書(特表2009−534993号公報)
【非特許文献】
【0020】
【非特許文献1】P.Schvan et al.、“A 22GS/s 6b DAC with integrated digital ramp generator”ISSCC2005、6.7(2005)
【非特許文献2】L.Dou et al.、“Electronic pre−distortion operating at (1) sample/symbol with accurate bias control for CD compensation”OFC/NFOEC2010、OThT4(2010)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
しかしながら、上記の従来技術には、以下のような課題がある。
従来の光送受信機では、波長分散や周波数スペクトル狭窄化を、送信端デジタル信号処理により予等化し、アナログ的な光波形を生成し、受信端で非同期検波を行う方式を行っている。しかしながら、40Gb/s以上のビットレートで、入手可能なDA変換器を用いて、低消費電力かつ小さな回路規模で、上記方法を実現することは困難であった。
【0022】
また、非特許文献2に示される方式では、受信端でコヒーレント検波を行い、受信端でデジタル信号処理による等化を組み合わせなければ、波形歪みが残留し、受信特性が劣化する問題があった。
【0023】
このような受信特性劣化を避けるために、2倍オーバーサンプリングを前提とすると、40Gb/s以上のビットレートでは、DA変換器に非常に高速なサンプリングレートが要求される。この結果、消費電力、回路規模、波形品質、実現可能性、コスト、入手性等のハードウェアの点で、それぞれ課題があった。
【0024】
本発明は、前記のような課題を解決するためになされたものであり、40Gb/s以上のビットレートにおいても、オーバーサンプリング比を上げることなく、低消費電力化および小規模回路化を実現できるハードウェア的に優れた光送受信器および光送受信方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明に係る光送受信器は、20Gsample/s以上のサンプリングレートを有するデジタル信号に対して、デジタル信号処理およびDA変換処理を1倍のオーバーサンプリング比で行うことでアナログ信号を生成し、アナログ信号に基づいて光源出力を変調し、変調後の光信号を光伝送路を介して送出する光送信器と、光伝送路を介して受信した変調後の光信号に対して、自由スペクトル間隔を概略2/T(ただし、Tは1シンボル時間)に設定して遅延量を与え、遅延光と非遅延光との加算成分および減算成分を生成し、加算成分および減算成分に基づいて、0.5/Tで帯域制限された電気信号を生成する光受信器とを備えたものである。
【0026】
また、本発明に係る光送受信方法は、光送信器および光受信器による光送受信方法であって、20Gsample/s以上のサンプリングレートを有するデジタル信号に対して、デジタル信号処理およびDA変換処理を1倍のオーバーサンプリング比で行うことでアナログ信号を生成し、アナログ信号に基づいて光源出力を変調し、変調後の光信号を光伝送路を介して送出する光送信ステップと、光伝送路を介して受信した変調後の光信号に対して、自由スペクトル間隔を概略2/T(ただし、Tは1シンボル時間)に設定して遅延量を与え、遅延光と非遅延光との加算成分および減算成分を生成し、加算成分および減算成分に基づいて、0.5/Tで帯域制限された電気信号を生成する光受信ステップとを備えたものである。
【発明の効果】
【0027】
本発明に係る光送受信器および光送受信方法によれば、送信端では、デジタル信号処理およびDA変換処理を1倍のオーバーサンプリング比で行い、受信端では、遅延干渉計の自由スペクトル間隔を概略2/Tに設定し、バランス型光子検出器を0.5/Tで帯域制限することで、送信端の電気領域での帯域狭窄化ペナルティを低減することで、40Gb/s以上のビットレートにおいても、オーバーサンプリング比を上げることなく、低消費電力化および小規模回路化を実現できるハードウェア的に優れた光送受信器および光送受信方法を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施の形態1に係る光送受信器を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施の形態1に係る光送受信器のシミュレーション結果(1)を示す説明図である。
【図3】本発明の実施の形態1に係る光送受信器のシミュレーション結果(2)を示す説明図である。
【図4】従来技術に係る光送信系統の形態例(1)を示すブロック図である。
【図5】従来技術に係る光送信系統の形態例(2)を示すブロック図である。
【図6】従来技術に係る光送信系統の形態例(3)を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明に係る光送受信器および光送受信方法の好適な実施の形態につき図面を用いて説明する。
【0030】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1に係る光送受信器を示すブロック図であり、同図(a)は、光送信器を示し、同図(b)は、光受信器を示している。
【0031】
光送信器は、多重部(MUX)101、符号化部(ENC)102、デジタル信号処理部(DSP)103、DA変換器(DAC)104−1、104−2、ドライバ105−1、105−2、ローパスフィルタ(LPF)106−1、106−2、光源(TLD)107、および変調器108を備えて構成されており、光伝送路120−1を介して変調後の光信号が出力される。
【0032】
一方、光受信器は、遅延干渉計(DLI:Delay Interferometer)130、バランス型光子検出器(Balanced Receiver)131−1、131−2、およびクロック再生・多重分離部132を備えて構成されており、光伝送路120−2を介して光送信器からの出力信号を受信し、信号処理を行い、後述する並列展開・データ識別後の電気信号を出力する。
【0033】
次に、各構成要素の接続関係について、説明する。
光送信器においては、入力信号に対して、多重部101と符号化部102とデジタル信号処理部103とが直列接続されている。また、デジタル信号処理部103は、I−chとQ−chにおいて、DA変換器104−1と104−2が接続され、それぞれさらにドライバ105−1と105−2を介してローパスフィルタ106−1と106−2に接続されている。
【0034】
ローパスフィルタ106−1と106−2は、変調器108に接続されている。また、変調器108は、光源107の光信号を変調して、光伝送路120−1に出力するように構成されている。
【0035】
一方、光受信器においては、光伝送路120−2に遅延干渉計130が接続されている。そして、この遅延干渉計130は、I−chとQ−chにおいてバランス型光子検出器131−1と131−2にそれぞれ接続されている。さらに、バランス型光子検出器131−1と131−2の出力は、クロック再生・多重分離部132に送られて、データ識別が行われるように構成されている。
【0036】
次に、図1(a)に示す光送信器の動作について説明する。なお、ここでは、ビットレート40Gb/sの入力信号を想定するが、これに制限されるものではない。また、変調器108の変調方式は、DQPSK方式を使用するものとするが、DP(Dual−polarized:偏波多重)−DBPSK方式やDP−DQPSK方式であってもよい。
【0037】
まず、多重部101は、図示しない外部から入力した2.5Gb/sで16並列のSFI−5(Serdes Framer Interface Level 5)信号を多重化して、40Gb/s信号を生成し、符号化部102に出力する。
【0038】
符号化部102は、多重部101から入力した40Gb/s信号を、変調器108でのDQPSK変調方式用に差動符号化し、差動符号化後の40Gb/s信号をデジタル信号処理部103に出力する。
【0039】
デジタル信号処理部103は、例えば、伝送路光ファイバの波長分散や非線形性を予等化し、0.5/T相当の帯域を有するローパスフィルタ106−1、106−2によりアンチエイリアシングフィルタリングを行う。そして、フィルタリング後のデジタル信号の内、I−ch成分をDA変換器104−1に出力し、Q−ch成分をDA変換器104−2に出力する。
【0040】
DA変換器104−1は、デジタル信号処理部103から入力したI−chデジタル信号をアナログ信号に変換してドライバ105−1に出力する。一方、DA変換器104−2は、デジタル信号処理部103から入力したQ−chデジタル信号をアナログ信号に変換してドライバ105−2に出力する。
【0041】
ドライバ105−1は、DA変換器104−1から入力したI−chアナログ信号を、変調器108の駆動に必要な振幅まで増幅し、ローパスフィルタ106−1に出力する。一方、ドライバ105−2は、DA変換器104−2から入力したQ−chアナログ信号を、変調器108の駆動に必要な振幅まで増幅し、ローパスフィルタ106−2に出力する。
【0042】
ローパスフィルタ106−1は、ドライバ105−1から入力したI−ch増幅後信号を、エイリアシングを防ぐために、概略半値全幅(FWHM)=1/Tの低域帯域制限を行い、I−ch帯域制限信号として変調器108に出力する。一方、ローパスフィルタ106−2は、ドライバ105−2から入力したQ−ch増幅後信号を、エイリアシングを防ぐために、概略半値全幅(FWHM)=1/Tの低域帯域制限を行い、Q−ch帯域制限信号として変調器108に出力する。
【0043】
光源107は、無変調光を生成して変調器108に出力するものである。光源としては、例えば、波長可変を用いて、C帯1550.2nm、+16dBmの光を生成すればよい。
【0044】
変調器108は、ローパスフィルタ106−1から入力したI−ch帯域制限信号と、ローパスフィルタ106−2から入力したQ−ch帯域制限信号とを用いて、光源107から入力した光信号を変調して、光伝送路120−1に送出する。変調器としては、例えば、2並列Mach−Zehnder変調器を用いればよい。
【0045】
光伝送路120−1は、光増幅器、合分波装置、伝送路光ファイバ、中継装置等からなり、変調器108から出力された光信号を、光受信器へ伝送する。
【0046】
次に、図1(b)に示す光受信器の動作を説明する。
光伝送路120−2は、光増幅器、合分波装置、伝送路光ファイバ、中継装置等からなり、例えば、上述した光送信器から出力された光信号を伝送して遅延干渉計130に与える。
【0047】
遅延干渉計130は、光伝送路120−2から入力した光信号を、I−ch用遅延干渉前光信号とQ−ch用遅延干渉前光信号とに分岐する。
【0048】
I−ch用遅延干渉前光信号は、遅延量T1が与えられた光(遅延光)と、遅延量T2が与えられた光(非遅延光)とに分けられる。そして、遅延干渉計130は、遅延光の光位相をπ/4ずらした「π/4位相ずれ遅延光」を生成するとともに、このπ/4位相ずれ遅延光と、非遅延光との加算成分(I−ch用遅延干渉後信号加算成分)および同減算成分(I−ch用遅延干渉後信号減算成分)を生成する。ただし、T1>T2とする。ここで、T3=T1−T2の逆数1/T3が、遅延干渉計130の自由スペクトル間隔(FSR)に相当する。
【0049】
同様に、Q−ch用遅延干渉前光信号は、遅延量T1が与えられた光(遅延光)と、遅延量T2が与えられた光(非遅延光)とに分けられる。そして、遅延干渉計130は、遅延光の光位相を−π/4ずらした「−π/4位相ずれ遅延光」を生成するとともに、この−π/4位相ずれ遅延光と非遅延光との加算成分(Q−ch遅延干渉後信号加算成分)および同減算成分(Q−ch遅延干渉後信号減算成分)を生成する。Q−chについても、自由スペクトル間隔(FSR)は1/T3である。
【0050】
なお、遅延光と非遅延光との加算成分および減算成分を生成する際には、I−chとQ−chの内、一方のch(ここでは、I−chに相当)の位相差をπ/4ずらし、他方のch(ここでは、Q−chに相当)の位相差を一方のchの位相差とは逆符号となる−π/4ずらすことが重要であり、上述したように、遅延光の位相をπ/4ずらすことには限定されない。
【0051】
遅延干渉計130は、I−ch用遅延干渉前光信号から生成される加算成分(I−ch用遅延干渉後信号加算成分)および同減算成分(I−ch用遅延干渉後信号減算成分)をバランス型光子検出器131−1に出力し、Q−ch用遅延干渉前光信号から生成される加算成分(Q−ch遅延干渉後信号加算成分)および同減算成分(Q−ch遅延干渉後信号減算成分)をバランス型光子検出器131−2に与える。
【0052】
バランス型光子検出器131−1は、遅延干渉計130から入力したI−ch遅延干渉後信号加算成分およびI−ch遅延干渉後信号減算成分をそれぞれ二乗検波し、電気信号に変換した上で差分をとる。さらに、バランス型光子検出器131−1は、差分結果に対して電流−電圧変換および増幅した電気信号(I−ch検波後信号)を生成し、クロック再生・多重分離部132に出力する。
【0053】
バランス型光子検出器131−2は、遅延干渉計130から入力したQ−ch遅延干渉後信号加算成分およびI−ch遅延干渉後信号減算成分をそれぞれ二乗検波し、電気信号に変換した上で差分をとる。さらに、バランス型光子検出器131−2は、差分結果に対して電流−電圧変換および増幅した電気信号(Q−ch検波後信号)を生成し、クロック再生・多重分離部132に出力する。
【0054】
クロック再生・多重分離部132は、バランス型光子検出器131−1から出力されたI−ch検波後信号と、バランス型光子検出器131−2から出力されたQ−ch検波後信号を元に、クロック成分を再生する。さらに、クロック再生・多重分離部132は、この再生クロックに基づいて、I−ch検波後信号とQ−ch検波後信号のデータ識別を行う。
【0055】
クロック再生・多重分離部132において、データ識別は、並列展開されて行われ(あるいはデータ識別後に並列展開され)、並列展開・データ識別後の電気信号が、図示しない外部へ出力される。
【0056】
なお、本実施の形態1における図1の構成では、ローパスフィルタ106−1、106−2を、ドライバ105−1、105−2の直後に配置して示したが、ドライバ105−1、105−2の直前に配置してもよい。また、ドライバ105−1、105−2の帯域制限がアンチエイリアシングフィルタの役割を果たせば(すなわち、不要成分を除去できれば)、ローパスフィルタ106−1、106−2は除去してもよい。
【0057】
次に、この図1の構成を備えた本実施の形態1の光送受信器において、各素子の最適な諸元を求めるために行ったシミュレーション結果について、図2、図3を用いて説明する。図2は、本発明の実施の形態1に係る光送受信器のシミュレーション結果(1)を示す説明図である。また、図3は、本発明の実施の形態1に係る光送受信器のシミュレーション結果(2)を示す説明図である。
【0058】
まず、図2の計算条件を以下に示す。
・光送信器の入力信号のビットレート:40 Gb/s
・変調器108の変調方式:DQPSK
・デジタル信号処理部103に含まれる波長分散予等化のためのFIR(Finite Impulse Response)フィルタのタップ長:17シンボル
・デジタル信号処理部103およびDA変換器104−1、104−2のオーバーサンプリング比:1倍
・DA変換器104−1、104−2の分解能:6ビット
・光フィルタの半値全幅(FWHM):20 GHz
・DA変換後の電気帯域制限:12GHz
・光受信器の電気帯域制限:12GHz(バランス型光子検出器131−1、131−2を概略0.5/Tで帯域制限することに相当)
・光受信器の遅延干渉計130の自由スペクトル間隔(FSR):1/T
【0059】
図2のシミュレーションにおいては、伝送路120−2の波長分散に関しては、0ps/nm、若しくは400ps/nmの2通りとした。また、予等化に関しては、デジタル信号処理により波長分散予等化を完全等化するもの(図2中では、「予等化あり」と記載)、若しくは全く等化しないもの(図2中では、「予等化なし」と記載)の2通りとした。また、光帯域制限に対する予等化は、行っていない。
【0060】
図2(a1)、(a2)に示す波長分散ゼロ(0ps/nm)の場合には、予等化の有無に関わらずアイが半分以上閉じていることがわかる。また、図2(b1)、(b2)に示す波長分散400ps/nmの場合には、予等化の有無に関わらずアイが完全に閉じていることがわかる。
【0061】
一方、図3の計算条件は、光受信器の遅延干渉計130の自由スペクトル間隔(FSR)を、1/Tではなく1.8/Tとした以外は、先の図2の計算条件と同じである。また、伝送路120−2の波長分散、および予等化に関しても、先の図2と同様に、それぞれ2通りとして、シミュレーションを行った。また、光帯域制限に対する予等化も、先の図2と同様に、行っていない。
【0062】
図3(a1)、(a2)に示す波長分散ゼロ(0ps/nm)の場合には、良好なアイ開口が得られていることがわかる。また、波長分散400ps/nmの場合には、図2(b2)のように予等化がないと、ペナルティはあるものの、図2(b1)に示すように、波長分散予等化を行うとアイが開くことがわかる。
【0063】
なお、本シミュレーション結果は、FIRフィルタのタップ係数を最適化したものではないため、無線通信で知られているMMSE(Minimum Mean Square Error)等のアルゴリズムを用いたタップ係数最適化により、良好なアイ開口が得られることとなる。
【0064】
従って、FSR=1/Tでのシミュレーション結果を示した図2と、FSR=1.8/Tでのシミュレーション結果を示した図3との比較からわかるように、遅延干渉計の自由スペクトル間隔を概略2/Tに設定することで、送信端の電気領域での帯域狭窄化ペナルティを低減することができる。
【0065】
以上のように、実施の形態1によれば、送信端では、デジタル信号処理およびDA変換処理を1倍のオーバーサンプリング比で行っている。さらに、受信端では、アンチエイリアシングフィルタにより電気領域での厳しい帯域制限を行う代わりに、遅延干渉計の自由スペクトル間隔を概略2/Tに設定し、バランス型光子検出器を概略0.5/Tで帯域制限している。
【0066】
この結果、送信端の電気領域での帯域狭窄化ペナルティを低減することができ、40Gb/s以上のビットレートにおいても、オーバーサンプリング比を上げることなく、低消費電力化および小規模回路化を実現できるハードウェア的に優れた光送受信器および光送受信方法を得ることができる。
【0067】
さらに、DQPSK方式の電気領域での帯域制限は、自由スペクトル間隔をシンボルレートよりも十分大きく設定することで解決可能である。このため、変調方式としては、DBPSK方式やDP−DBPSK方式のほかに、DQPSK方式も採用可能である。
【0068】
さらに、DP−DBPSK方式やDQPSK方式により多値度を向上させることにより、シンボルレートを低減可能である。このため、DA変換器に求められるサンプリングレートの低減にも寄与する。
【符号の説明】
【0069】
101 多重部(MUX)、102 符号化部(ENC)、103 デジタル信号処理部(DSP)、104−1、104−2 DA変換器(DAC)、105−1、105−2 ドライバ、106−1、106−2 ローパスフィルタ(LPF)、107 光源(TLD)、108 光変調器、120−1、120−2 光伝送路、130 遅延干渉計(DLI)、131−1、131−2 バランス型光子検出器、132 クロック再生・多重分離部(DEMUX)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
20Gsample/s以上のサンプリングレートを有するデジタル信号に対して、デジタル信号処理およびDA変換処理を1倍のオーバーサンプリング比で行うことでアナログ信号を生成し、前記アナログ信号に基づいて光源出力を変調し、変調後の光信号を光伝送路を介して送出する光送信器と、
前記光伝送路を介して受信した前記変調後の光信号に対して、自由スペクトル間隔を概略2/T(ただし、Tは1シンボル時間)に設定して遅延量を与え、遅延光と非遅延光との加算成分および減算成分を生成し、前記加算成分および前記減算成分に基づいて、概略0.5/Tで帯域制限された電気信号を生成する光受信器と
を備えたことを特徴とする光送受信器。
【請求項2】
請求項1に記載の光送受信器において、
前記光送信器は、
送信信号の符号間干渉抑圧のための予等化処理を行うとともに、制限帯域が概略0.5/Tのローパスフィルタによりエイリアシングを防止し、20Gsample/s以上のサンプリングレートを有し、サンプリングレート対シンボルレート比に相当する前記オーバーサンプリング比を1Sample/Symbolとして離散化処理するデジタル信号処理部と、
前記サンプリングレートおよび前記オーバーサンプリング比を有し、前記デジタル信号処理部で離散化処理されたデジタル信号をアナログ信号に変換するデジタル−アナログ変換器と、
前記デジタル−アナログ変換器による変換後の前記アナログ信号に対して、エイリアシングを防ぐための低域帯域制限を行うアナログローパスフィルタと、
前記アナログローパスフィルタの出力に基づいて光源出力を変調し、変調後の光信号を光伝送路を介して送出する変調器と
を含み、
前記光受信器は、
前記光伝送路を介して受信した前記変調後の光信号に対して、自由スペクトル間隔が概略2/Tの遅延量を与え、遅延光と非遅延光との加算成分および減算成分を生成する遅延干渉計と、
概略0.5/Tの電気帯域を有し、前記遅延干渉計により生成された前記加算成分および前記減算成分に基づいて、電気信号を生成するバランス型光子検出器と、
前記バランス型光子検出器で生成された前記電気信号をもとに再生されたクロックに基づいて、前記電気信号の並列展開・データ識別を行い、並列展開・データ識別後の電気信号を出力するデータ識別部と
を含む
ことを特徴とする光送受信器。
【請求項3】
請求項1または2に記載の光送受信器において、
前記光送信器内の前記変調器は、変調方式が偏波多重差動4位相偏移変調(DP−DQPSK)であることを特徴とする光送受信器。
【請求項4】
請求項1または2に記載の光送受信器において、
前記光送信器内の前記変調器は、変調方式が偏波多重差動2位相偏移変調(DP−DBPSK)であることを特徴とする光送受信器。
【請求項5】
光送信器および光受信器による光送受信方法であって、
20Gsample/s以上のサンプリングレートを有するデジタル信号に対して、デジタル信号処理およびDA変換処理を1倍のオーバーサンプリング比で行うことでアナログ信号を生成し、前記アナログ信号に基づいて光源出力を変調し、変調後の光信号を光伝送路を介して送出する光送信ステップと、
前記光伝送路を介して受信した前記変調後の光信号に対して、自由スペクトル間隔を概略2/T(ただし、Tは1シンボル時間)に設定して遅延量を与え、遅延光と非遅延光との加算成分および減算成分を生成し、前記加算成分および前記減算成分に基づいて、概略0.5/Tで帯域制限された電気信号を生成する光受信ステップと
を備えたことを特徴とする光送受信方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−129688(P2012−129688A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−277815(P2010−277815)
【出願日】平成22年12月14日(2010.12.14)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度、独立行政法人情報通信研究機構「高度通信・放送研究開発委託研究/ユニバーサルリンク技術の研究開発」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】