説明

光電変換素子

【課題】高い変換効率を有する光電変換素子を提供する。
【解決手段】陽極10と陰極20と、前記陽極10と陰極20の間に光電変換層30と、を含み、前記光電変換層30が、少なくとも、電子供与性材料(P)と電子受容性材料(N)を含有する混合層34を有し、前記混合層34の最も陽極側部分の電子供与性材料(P)と電子受容性材料(N)の重量混合比(P/N)が、1<P/N<3であり、前記混合層34のP/Nが、陽極側から陰極側に向かって小さくなっている、光電変換素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光を受けて電気を発生する光電変換層を備えた光電変換素子に関し、特に、P層とN層の間にI層(P材料とN材料の混合層)を挿入した有機薄膜太陽電池に関する。
【背景技術】
【0002】
光電変換素子は、光信号を電気信号に変換するフォトダイオードや撮像素子、光エネルギーを電気エネルギーに変換する太陽電池に代表されるように、光入力に対して電気出力を示す装置であり、電気入力に対して光出力を示すエレクトロルミネッセンス(EL)素子とは逆の応答を示す装置である。中でも太陽電池は、化石燃料の枯渇問題や地球温暖化問題を背景に、クリーンエネルギー源として近年大変注目されてきており、研究開発が盛んに行なわれるようになってきた。
【0003】
太陽電池として、従来、実用化されてきたのは、単結晶Si、多結晶Si、アモルファスSi等に代表されるシリコン系太陽電池である。しかしながら、高価であることや原料Siの不足問題等が表面化してきた。このような背景の中で、有機太陽電池は、安価で毒性が低く、原材料不足の懸念もないことから、シリコン系太陽電池に次ぐ次世代の太陽電池として大変注目を集めている。
【0004】
有機太陽電池は、基本的には電子を輸送する電子受容性材料から成るN層と、正孔を輸送する電子供与性材料から成るP層からなっており、各層を構成する材料によって大きく2種類に分類される。
具体的に、N層としてチタニア等の無機半導体表面にルテニウム色素等の増感色素を単分子吸着させ、P層として電解質溶液を用いたものは、色素増感太陽電池(所謂グレッツエルセル)と呼ばれ、変換効率の高さから、1991年以降精力的に研究されてきた。しかしながら、溶液を用いるため、長時間の使用に際して液漏れする等の欠点を有していた。
そこで、上記の欠点を克服するため、電解質溶液を固体化して全固体型の色素増感太陽電池を模索する研究も最近なされている。しかしながら、多孔質チタニアの細孔に有機物をしみ込ませる技術は難易度が高く、再現性よく高変換効率が発現できるセルは完成していないのが現状である。
【0005】
一方、N層とP層がともに有機薄膜からなる有機薄膜太陽電池は、全固体型のため液漏れ等の欠点がなく、作製が容易であり、稀少金属であるルテニウム等を用いないこと等から最近注目を集め、精力的に研究がなされている。
有機薄膜太陽電池は、最初メロシアニン色素等を用いた単層膜で研究が進められてきたが、P層/N層の多層膜にすることで変換効率が向上することが見出されている。
例えば、非特許文献1では、フタロシアニン類やペリレンイミド類の2種の有機物を用いて光吸収を行い、正孔と電子の各キャリア輸送を電子供与層と電子受容層に担わせることで、変換効率がそれまでの単層のものに比べ高効率化することが報告されている。
【0006】
その後、P層とN層の間にI層(P材料とN材料の混合層)を挿入して積層を増やすことにより、変換効率が向上することが見出されている。その後、P/I/N層を直列に積層するタンデムセル構成により、さらに変換効率が向上することが見出されている。
例えば、非特許文献2では、P層とN層の間にI層(P材料とN材料の混合層)を挿入したP/I/N層構成とすることにより、変換効率が向上したことが報告されている。
また、非特許文献3では、P/I/N層構成のうち、I層(P材料とN材料の混合層)を3層に積層した構成(重量混合比P/N値、3/1/0.33)で変換効率を向上できることが報告されている。
【0007】
一方、高分子化合物を用いた有機薄膜太陽電池では、P材料として導電性高分子を用い、N材料としてC60誘導体を用いてそれらを混合し、熱処理することによりミクロ層分離を誘起してヘテロ界面を増やし、変換効率を向上させるという、所謂バルクヘテロ構造の研究が主に行なわれてきた。
このように、有機薄膜太陽電池ではセル構成及びモルフォロジーの検討により変換効率が向上されてきたが、シリコン等に代表される無機太陽電池に比べて光電変換効率が低いことが最大の課題となっている。
【0008】
また、非特許文献1〜3のように、有機薄膜太陽電池において重要なI層の構成に関する詳細な知見は少なく、また最大の課題である変換効率向上にとって効果的なI層構成は見出されていないのが現状である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】C.W.Tang,Appl.Phys.Lett.48,183(1986).
【非特許文献2】M.Hiramoto,H.Fujiwara,andM.Yokoyama,Appl.Phys.Lett.58,1062(1991).
【非特許文献3】P.Sullivan,S.Heutz,S.M.Schultes,andT.S.Jones,Appl.Phys.Lett.84,1210(2004).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、高い変換効率を有する光電変換素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、このような問題を素子設計から鋭意検討した結果、光電変換層が電子供与性材料(P)と電子受容性材料(N)の重量混合比P/Nが1<P/N<3を満たす層を有し、混合層の重量比P/Nを陰極側に向けて小さくすることにより、重量比P/Nが1又は3の従来の素子に比べて、変換効率が大幅に向上することを見出し本発明に至った。
本発明によれば以下の光電変換素子等が提供される。
1.陽極と陰極と、
前記陽極と陰極の間に光電変換層と、を含み、
前記光電変換層が、少なくとも、電子供与性材料(P)と電子受容性材料(N)を含有する混合層を有し、
前記混合層の最も陽極側部分の電子供与性材料(P)と電子受容性材料(N)の重量混合比(P/N)が、1<P/N<3であり、
前記混合層のP/Nが、陽極側から陰極側に向かって小さくなっている、光電変換素子。
2.前記光電変換層は、
前記陽極と前記混合層の間に、電子供与性材料のみからなる層を有し、前記陰極と前記混合層の間に、電子受容性材料のみからなる層を有する1記載の光電変換素子。
3.前記混合層の最も陰極側部分が、P/Nが1よりも小さい1又は2記載の光電変換素子。
4.有機太陽電池である1〜3のいずれかに記載の光電変換素子。
5.1〜4のいずれかに記載の光電変換素子を有する装置。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、変換効率の高い光電変換素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の光電変換素子の一例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の光電変換素子は、陽極と陰極(一対の電極)と、この電極の間に光電変換層とを有する。
図1は、本発明の光電変換素子の一実施形態を示す概略断面図である。
本実施形態の光電変換素子は、陽極10と陰極20の間に、陽極側10から、電子供与性材料からなるP層32、混合層34、及び電子受容性材料からなるN層36を積層した構成を有する。混合層34は、電子供与性材料(P)と電子受容性材料(N)を含有する層である。
これらのP層32、混合層34、N層36が光電変換層30を構成する。
尚、混合層34は、以下の要件を満たしていれば、その構成は限定されない。例えば、単一層で構成してもよいし、複数の層を積層して構成してもよい。
【0015】
本発明においては、混合層は、その最も陽極側部分の電子供与性材料(P)と電子受容性材料(N)の重量混合比(P/N)が、1<P/N<3である。例えば、図1に示す光電変換素子の場合、混合層34のP層32と接する部分のP/Nが1<P/N<3である。混合層が積層体である場合、最も陽極側の層が1<P/N<3となる。混合層が単一層である場合、少なくとも1<P/N<3であるP層と接している部分があればよい。例えば、P層と接している面から少なくとも3nmまでの領域を1<P/N<3としてもよい。混合層の最も陽極側部分が1<P/N<3であることにより、高い変換効率を実現することができる。混合層34の最も陽極側部分は、1.5<P/N<2.5であることが好ましい。
【0016】
また、本発明では混合層34のP/Nが、陽極10側から陰極20側に向かって小さくなっている。これにより、混合層34において正孔輸送を担う電子供与性材料と電子輸送を担う電子受容性材料の重量比が、陽極側から陰極側に向けて段階的に変化するので、電荷輸送に伴う障壁が小さくなる。
【0017】
なお、上述した通り、本発明で混合層34は、上記の要件を満たしていれば、その構成は限定されない。例えば、混合層34を2層以上の積層体とし、P/Nを段階的に変化させてもよく、また、P/Nが、陽極側から陰極側に向かって連続的に変化している1つの層からなっていてもよい。
【0018】
ただし、形成が容易であることから、混合層は2層以上の積層体からなることが好ましい。
また、混合層の積層数を増やすことにより、電子供与性材料と電子受容性材料のP/Nを陽極側から陰極側に向けて滑らかに変化させることができ、電荷輸送に伴う障壁が小さくなるため好ましい。積層数は2〜10が好ましく、特に、2〜5が好ましい。
【0019】
混合層のP/Nは、混合層製膜時において、電子供与性材料と電子受容性材料の比率を調整することにより制御できる。例えば、共蒸着により混合層を製膜する場合は、電子供与性材料と電子受容性材料の蒸着速度を制御することにより、所望のP/Nに設定できる。
混合層のP/Nは、各々の標品を準備し、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて溶出保持時間の異なる成分のピーク比を求めることによりモル成分比、重量混合比として算出できる。
【0020】
尚、図1に示す実施形態のように、P層32及びN層36を形成し、混合層34が、電子供与性材料のみからなる層と電子受容性材料のみからなる層の間に配置された構成とすることが好ましい。混合層34が、陽極10又は陰極20に接していると、混合層34で光吸収により形成される励起子や、電子供与性材料と電子受容性材料の界面で電荷分離により形成される電荷が電極界面との接触し、電極に取り込まれて失活(クエンチ)するため、変換効率が低下する場合がある。混合層が電子供与性材料のみからなる層と、電子受容性材料のみからなる層の間に配置された構成とすることで、変換効率の向上がより顕著に現れる。
【0021】
また、本発明では混合層に、P/Nが1よりも小さい部分があることが好ましい。例えば、混合層が積層体である場合、最も陽極側の層よりも陰極側に積層されるいずれかの混合層のP/Nが1未満であることが好ましい。特に、0.5以下であることが好ましい。これにより、混合層34において電子輸送を担う電子受容性材料の重量比が、陰極側に向けて大きくなるため、電子輸送に伴う障壁が小さくなる。尚、混合層の重量混合比P/Nが、限りなく0に近づくと電子受容性材料(N)のみの層と同様となり、本発明の効果は期待できない。しかしながら、P/Nが少なくとも0.001以上であれば、本発明の効果が得られることを確認している。
【0022】
本発明の光電変換素子は、一対の電極の間に上記要件を満たす混合層を含有する構造であればよく、その他の構造は特に限定されない。例えば、必要に応じて、電極と有機層の間にバッファー層を設けてもよい。具体的には、安定な絶縁性基板上に下記の構成を有する構造が挙げられる。
【0023】
(1)下部電極/混合層/上部電極
(2)下部電極/P層/混合層/上部電極
(3)下部電極/バッファー層/混合層/上部電極
(4)下部電極/バッファー層/P層/混合層/上部電極
(5)下部電極/混合層/N層/上部電極
(6)下部電極/混合層/バッファー層/上部電極
(7)下部電極/混合層/N層/バッファー層/上部電極
(8)下部電極/P層/混合層/N層/上部電極(図1)
(9)下部電極/バッファー層/P層/混合層/N層/上部電極
(10)下部電極/P層/混合層/N層/バッファー層/上部電極
(11)下部電極/バッファー層/P層/混合層/N層/バッファー層/上部電極
尚、上記の構成例では下部電極が陽極に、上部電極が陰極に相当する。
【0024】
本発明の光電変換素子の部材や材料については、例えば、有機薄膜太陽電池で使用される公知のものを使用することができる。以下、各構成部材について簡単に説明する。
【0025】
1.電極(陽極及び陰極)
電極の材料は特に制限はなく、公知の導電性材料を使用できる。例えば、陽極としては、錫ドープ酸化インジウム(ITO)、フッ素ドープ酸化錫(FTO)、金(Au)、オスミウム(Os),パラジウム(Pd)等の金属が使用できる。
一方、陰極としては、銀(Ag)、アルミニウム(Al)、インジウム(IN),カルシウム(Ca),白金(Pt)リチウム(Li)等の金属やMg:Ag、Mg:INやAl:Li等の二成分金属系,さらには、上述した陽極の例示材料が使用できる。
【0026】
尚、高効率の光電変換特性を得るためには、光電変換素子の少なくとも一方の面は太陽光スペクトルにおいて充分透明にすることが望ましい。透明電極は、公知の導電性材料を使用して、蒸着やスパッタリング等の方法で所定の透光性が確保するように形成する。受光面の電極の光透過率は10%以上とすることが望ましい。一対の電極構成の好ましい構成では、電極部の一方が仕事関数の大きな金属を含み、他方は仕事関数の小さな金属を含む。
【0027】
2.電子供与性材料(P)
電子供与性材料は、P層及び混合層で使用される。正孔受容体としての機能を有する化合物であり、正孔移動度が高い材料、具体的には、10−6(cm/V・s)以上(測定条件:陽極/電子供与性材料/陰極のサンドイッチ型構造によるTime−of−Flight(TOF)法)が好ましい。
【0028】
電子供与性材料としては、例えば、N,N’−ビス(3−トリル)−N,N’−ジフェニルベンジジン(mTPD)、N,N’−ジナフチル−N,N’−ジフェニルベンジジン(NPD)、4,4’,4’’−トリス(フェニル−3−トリルアミノ)トリフェニルアミン(MTDATA)等に代表されるアミン化合物、フタロシアニン(Pc)、銅フタロシアニン(CuPc)、亜鉛フタロシアニン(ZnPc)、チタニルフタロシアニン(TiOPc)等のフタロシアニン類、オクタエチルポルフィリン(OEP)、白金オクタエチルポルフィリン(PtOEP)、亜鉛テトラフェニルポルフィリン(ZNTPP)等に代表されるポルフィリン類が挙げられる。
また、溶液による塗布プロセスを用いる高分子化合物であれば、メトキシエチルヘキシロキシフェニレンビニレン(MEHPPV)、ポリヘキシルチオフェン(P3HT)、シクロペンタジチオフェン−ベンゾチアジアゾール(PCPDTBT)等の主鎖型共役高分子類、ポリビニルカルバゾール等に代表される側鎖型高分子類等が挙げられる。
【0029】
3.電子受容性材料(N)
電子受容性材料は、N層及び混合層で使用される。正孔供与体としての機能を有する化合物であり、電子移動度が高い材料、具体的には、10−6(cm/V・s)以上(測定条件:陽極/電子受容性材料/陰極のサンドイッチ型構造によるTime−of−Flight(TOF)法)が好ましい。
【0030】
電子受容性材料として、例えば、有機化合物であれば、C60、C70等のフラーレン誘導体、カーボンナノチューブ、ペリレン誘導体、多環キノン、キナクリドン等、高分子系ではCN−ポリ(フェニレン−ビニレン)、MEH−CN−PPV、−CN基又はCF基含有ポリマー、ポリ(フルオレン)誘導体等を挙げることができる。尚、電子親和力が小さい材料が好ましい。電子親和力の小さい材料をN層として組み合わせることで充分な開放端電圧を実現することができる。
【0031】
また、無機化合物であれば、N型特性の無機半導体化合物を挙げることができる。具体的には、N−Si、GaAs、CdS、PbS、CdSe、INP、Nb,WO,Fe等のドーピング半導体及び化合物半導体、又、二酸化チタン(TiO)、一酸化チタン(TiO)、三酸化二チタン(Ti)等の酸化チタン、酸化亜鉛(ZNO)、酸化スズ(SNO)等の導電性酸化物が挙げられ、これらのうちの1種又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。好ましくは、酸化チタン、特に好ましくは、二酸化チタンを用いる。
【0032】
本発明の混合層は、上記電子供与性材料(P)と電子受容性材料(N)の組み合わせによって構成される。材料は特に限定されず、上記例示化合物のいずれも用いることができる。
尚、P層で使用する電子供与性材料と、混合層で使用する電子供与性材料は、同じであっても、また、異なっていてもよい。同様に、N層で使用する電子受容性材料と、混合層で使用する電子受容性材料は、同じであっても、また、異なっていてもよい。
【0033】
4.バッファー層
一般に、光電変換素子は総膜厚が薄いことが多く、そのため上部電極と下部電極が短絡し、素子の歩留まりが低下することが多い。このような場合には、バッファー層を積層することが好ましい。また、発生した電流を効率よく外部に取り出すためにもバッファー層を設けた方が好ましい。
【0034】
バッファー層に好ましい化合物としては、膜厚を厚くしても短絡電流が低下しないようにキャリア移動度が充分に高い化合物が好ましい。例えば、低分子化合物であれば下記に示すNTCDAに代表される芳香族環状酸無水物等が挙げられ、高分子化合物であればポリ(3,4−エチレンジオキシ)チオフェン:ポリスチレンスルホネート(PEDOT:PSS)、ポリアニリン:カンファースルホン酸(PANI:CSA)等に代表される公知の導電性高分子等が挙げられる。
【化1】

(式中、n、mは繰り返し数である。)
【0035】
バッファー層には、励起子が電極まで拡散して失活してしまうのを防止する役割を持たせることも可能である。このように励起子阻止層としてバッファー層を挿入することは、高効率化のために有効である。励起子阻止層は陽極側、陰極側のいずれにも挿入することができ、両方同時に挿入することも可能である。
励起子阻止層として好ましい材料としては、例えば、有機EL素子用途で公知な正孔障壁層用材料又は電子障壁層用材料等が挙げられる。正孔障壁層として好ましい材料は、イオン化ポテンシャルが充分に大きい化合物であり、電子障壁層として好ましい材料は、電子親和力が充分に小さい化合物である。具体的には有機EL用途で公知な材料であるバソクプロイン(BCP)、バソフェナントロリン(BPheN)等が陰極側の正孔障壁層材料として挙げられる。
【化2】

【0036】
さらに、バッファー層には、上記N層材料として例示した無機半導体化合物を用いてもよい。又、P型無機半導体化合物としてはCdTe、P−Si、SiC、GaAs、WO等を用いることができる。
【0037】
5.基板
基板は、機械的、熱的強度を有し、透明性を有するものが好ましい。例えば、ガラス基板及び透明性樹脂フィルムがある。透明性樹脂フィルムとしては、ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリメチルメタアクリレート、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ナイロン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリサルホン、ポリエーテルサルフォン、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、ポリビニルフルオライド、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリビニリデンフルオライド、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリイミド、ポリエーテルイミド等が挙げられる。
【0038】
本発明の光電変換素子の各層の形成は、真空蒸着、スパッタリング、プラズマ、イオンプレーティング等の乾式成膜法や、スピンコーティング、ディップコート、キャスティング、ロールコート、フローコーティング、インクジェット等の湿式成膜法を適用することができる。上記いずれの成膜プロセス、あるいは組み合わせを適用することができるが、有機薄膜は水分・酸素の影響を受けるため、より好ましくは、成膜プロセスが統一されていることが望ましい。
【0039】
各層の膜厚は特に限定されず、適切な膜厚に設定する。一般に有機薄膜の励起子拡散長は短いことが知られているため、膜厚が厚すぎると励起子がヘテロ界面に到達する前に失活してしまうため光電変換効率が低くなる。膜厚が薄すぎるとピンホール等が発生してしまうため、充分なダイオード特性が得られないため、変換効率が低下する。通常の膜厚は1nmから10μmの範囲が適しているが、5nmから0.2μmの範囲が好ましい。
【0040】
乾式成膜法の場合、公知の抵抗加熱法が好ましく、混合層の形成には、例えば、複数の蒸発源からの同時蒸着による成膜方法が好ましい。さらに好ましくは、成膜時に基板温度を制御する。
【0041】
湿式成膜法の場合、各層を形成する材料を、適切な溶媒に溶解又は分散させて有機溶液を調製し、薄膜を形成するが、任意の溶媒を使用できる。例えば、ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム、四塩化炭素、テトラクロロエタン、トリクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、クロロトルエン等のハロゲン系炭化水素系溶媒や、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、アニソール等のエーテル系溶媒、メタノールやエタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、エチレングリコール等のアルコール系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、ヘキサン、オクタン、デカン、テトラリン等の炭化水素系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸アミル等のエステル系溶媒等が挙げられる。なかでも、炭化水素系溶媒又はエーテル系溶媒が好ましい。また、これらの溶媒は単独で使用しても複数混合して用いてもよい。尚、使用可能な溶媒は、これらに限定されるものではない。
また、湿式成膜により形成した薄膜中の溶媒除去のために、適切な温度で加熱してもよい。
【0042】
本発明においては、光電変換素子のいずれの有機薄膜層においても、成膜性向上、膜のピンホール防止等のため適切な樹脂や添加剤を使用してもよい。使用の可能な樹脂としては、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタン、ポリスルフォン、ポリメチルメタクリレート、ポリメチルアクリレート、セルロース等の絶縁性樹脂及びそれらの共重合体、ポリ−N−ビニルカルバゾール、ポリシラン等の光導電性樹脂、ポリチオフェン、ポリピロール等の導電性樹脂を挙げられる。
【0043】
また、有機薄膜層は必要により、酸化防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤等の添加剤を含有してもよい。
【実施例】
【0044】
実施例1
25mm×75mm×0.7mm厚のITO透明電極(陽極)付きガラス基板をイソプロピルアルコール中で超音波洗浄を5分間行なった後、UVオゾン洗浄を30分間実施した。洗浄後の透明電極ライン付きガラス基板を真空蒸着装置の基板ホルダーに装着し、まず下部電極である透明電極ラインが形成されている側の面上に、前記透明電極を覆うようにして電子供与性であるP型材料ZnPcを1Å/s、電子受容性であるN型材料C60を0.5Å/sで共蒸着し、25nmのI層(重量混合比P/N=2)を形成した。続いて、このI層上にZnPcを0.01Å/s、C60を10Å/sで共蒸着し25nmのI層(重量混合比P/N=0.001)を形成して、総膜厚50nmのI層を形成した。I層の上にバソクプロイン(BCP)を抵抗加熱蒸着により1Å/sで成膜し、10nmのバッファー層を形成した。バッファー層の上に金属Alを連続して蒸着し、膜厚80nmの対向電極(陰極)を形成して有機薄膜太陽電池を形成した。素子面積は0.5cmであった。
【0045】
【化3】

【0046】
上記のように作製した有機薄膜太陽電池をAM(エアマス)1.5(入射強度(Pin)100mW/cm)でI−V特性を測定した。得られた開放端電圧(Voc)、短絡電流密度(Jsc)、曲線因子(FF)から、変換効率(η)を下記式によって導出した。結果を表1に示す。
【数1】

同じPinに対して、Voc、Jsc及びFFがいずれも大きな素子ほど優れた変換効率を示す。
【0047】
実施例2
25mm×75mm×0.7mm厚のITO透明電極付きガラス基板をイソプロピルアルコール中で超音波洗浄を5分間行なった後、UVオゾン洗浄を30分間実施した。洗浄後の透明電極ライン付きガラス基板を真空蒸着装置の基板ホルダーに装着し、まず下部電極である透明電極ラインが形成されている側の面上に、前記透明電極を覆うようにしてZnPcを1Å/sで抵抗加熱蒸着により成膜し、膜厚15nmのP層を形成した。続いて、このP層上に、ZnPcを1Å/s、C60を0.5Å/sで共蒸着し、7.5nmのI層(重量混合比P/N=2)を形成した。続いて、このI膜上にZnPcを0.01Å/s、C60を10Å/sで共蒸着し7.5nmのI層(重量混合比P/N=0.001)を形成して総膜厚15nmのI層を形成した。I層の上にC60を抵抗加熱蒸着により1Å/sで成膜し膜厚45nmのN層を形成した後、BCPを抵抗加熱蒸着により1Å/sで成膜し10nmのバッファー層とした。バッファー層の上に金属Alを連続して蒸着し、膜厚80nmの対向電極を形成して有機薄膜太陽電池を形成した。素子面積は0.5cmであった。実施例1と同様に有機薄膜太陽電池を評価した。結果を表1に示す。
【0048】
実施例3
層を、ZnPcを0.5Å/s、C60を1Å/sで共蒸着し、重量比P/N=0.5の混合層とした他は実施例2と同様に有機薄膜太陽電池を形成し、評価した。素子面積は0.5cmであった。結果を表1に示す。
【0049】
実施例4
I層の形成方法を以下のように変更した他は実施例2と同様に有機薄膜太陽電池を形成し、評価した。結果を表1に示す。
ZnPcを1Å/s、C60を0.5Å/sで共蒸着し5nmのI層(重量混合比P/N=2)を形成した。I層の上にZnPcを1Å/s、C60を1Å/sで共蒸着し5nmのI層(重量混合比P/N=1)を形成した。続いて、このI層の上にZnPcを0.5Å/s、C60を1Å/sで共蒸着し5nmのI層(重量混合比P/N=0.5)を形成して、総膜厚15nmのI層を形成した。
【0050】
実施例5
I層の形成方法を以下のように変更した他は実施例2と同様に有機薄膜太陽電池を形成し、評価した。結果を表1に示す。
ZnPcを1Å/s、C60を0.5Å/sで共蒸着し3.75nmのI層(重量混合比P/N=2)を形成した。I層の上にZnPcを1Å/s、C60を1Å/sで共蒸着し3.75nmのI層(重量混合比P/N=1)を形成した。このI層の上にZnPcを0.5Å/s、C60を1Å/sで共蒸着し3.75nmのI層(重量混合比P/N=0.5)を形成した。続いて、このI層の上にZnPcを0.25Å/s、C60を1Å/sで共蒸着し3.75nmのI層(重量混合比P/N=0.25)を形成して、総膜厚15nmのI層を形成した。
【0051】
比較例1
層を以下のように形成し、I層を形成しなかった他は実施例1と同様に有機薄膜太陽電池を形成し、評価した。結果を表1に示す。
ZnPcを1Å/s、C60を1Å/sで共蒸着し50nmのI層(重量混合比P/N=1)を形成した。
【0052】
比較例2
層を、ZnPcを1Å/s、C60を1Å/sで共蒸着して重量比P/N=1となるように形成した他は実施例2と同様に有機薄膜太陽電池を形成し、評価した。結果を表1に示す。
【0053】
比較例3
層を、ZnPcを1.5Å/s、C60を0.5Å/sで共蒸着して重量比P/N=3となるように形成した他は比較例2と同様に有機薄膜太陽電池を形成し、評価した。結果を表1に示す。
【0054】
比較例4
I層を以下のように形成した他は比較例2と同様に有機薄膜太陽電池を形成し、評価した。結果を表1に示す。
ZnPcを1.5Å/s、C60を0.5Å/sで共蒸着し7.5nmのI層(重量混合比P/N=3)を形成した。このI膜の上にZnPcを1Å/s、C60を1Å/sで共蒸着し7.5nmのI層(重量混合比P/N=1)を形成し、総膜厚15nmのI層を形成した。
【0055】
比較例5
I層を以下のように形成した他は比較例2と同様に有機薄膜太陽電池を形成し、評価した。結果を表1に示す。
ZnPcを1Å/s、C60を0.5Å/sで共蒸着し5nmのI層(重量混合比P/N=2)を形成した。I膜の上にZnPcを1.25Å/s、C60を0.5Å/sで共蒸着し5nmのI層(重量混合比P/N=2.5)を形成した。I膜の上にZnPcを1.5Å/s、C60を0.5Å/sで共蒸着し5nmのI層(重量混合比P/N=3)を形成して総膜厚15nmのI層を形成した。
【0056】
【表1】

【0057】
表1より、最も陽極側の部分(層)の電子供与性材料(P)と電子受容性材料(N)の重量比P/Nを1<P/N<3とし、混合層のP/Nが陰極に近いほど小さくなる構成にすることにより、変換効率が大幅に向上し、優れた太陽電池特性を示すことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の光電変換素子は、有機薄膜太陽電池に限らず、例えば、フォトダイオード、撮像素子として使用できる。また、有機薄膜太陽電池は、時計、携帯電話及びモバイルパソコン等の各種装置、電化製品の電源として使用できる。
【符号の説明】
【0059】
10 陽極
20 陰極
30 光電変換層
32 P層
34 混合層
36 N層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極と陰極と、
前記陽極と陰極の間に光電変換層と、を含み、
前記光電変換層が、少なくとも、電子供与性材料(P)と電子受容性材料(N)を含有する混合層を有し、
前記混合層の最も陽極側部分の電子供与性材料(P)と電子受容性材料(N)の重量混合比(P/N)が、1<P/N<3であり、
前記混合層のP/Nが、陽極側から陰極側に向かって小さくなっている、光電変換素子。
【請求項2】
前記光電変換層は、
前記陽極と前記混合層の間に、電子供与性材料のみからなる層を有し、前記陰極と前記混合層の間に、電子受容性材料のみからなる層を有する請求項1記載の光電変換素子。
【請求項3】
前記混合層の最も陰極側部分が、P/Nが1よりも小さい請求項1又は2記載の光電変換素子。
【請求項4】
有機太陽電池である請求項1〜3のいずれかに記載の光電変換素子。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の光電変換素子を有する装置。

【図1】
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【公開番号】特開2011−23580(P2011−23580A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−167838(P2009−167838)
【出願日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】