説明

光電変換装置、電子機器

【課題】リーク電流(暗電流)が低減された光電変換部を有する光電変換装置、これを適用した電子機器を提供すること。
【解決手段】本適用例の光電変換装置は、基板上に形成された回路部と、回路部に電気的に接続された第1電極21と、第1電極21に対向配置された透光性を有する第2電極22と、第1電極21と第2電極22との間に挟持された光電変換部26とを備え、光電変換部26は、カルコパイライト型のp型化合物半導体膜からなる光吸収層23と、非晶質の酸化物半導体層24と、n型半導体膜からなる窓層25とが順に積層されたものであることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光エネルギーを電気エネルギーに変換する光電変換装置、およびこれを備えた電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
上記光電変換装置の代表的な例として光吸収層を有する太陽電池が挙げられる。該光吸収層として例えばカルコパイライト構造のp型半導体膜であるCuInSe2、CuInGaSe、などのCIS系薄膜が用いられている。このCIS系薄膜は、可視光から近赤外光までの広い波長域に亘って高い光感度を有するので、光検出素子への適用が検討されている。その一方で、CIS系薄膜を光検出素子に適用する場合、CIS系薄膜の形成時のダメージや欠陥に起因するリーク電流が問題となっている。
【0003】
これに対して、特許文献1には、下部電極層上に形成された化合物半導体膜(CIS系薄膜)をフォトリソグラフィーによってパターニングして、下部電極層に合わせて画素ごとに分離する工程と、化合物半導体膜(CIS系薄膜)を覆ってバッファー層を形成する工程と、バッファー層上に透光性電極層を形成する工程とを備えた固体撮像素子の製造方法が開示されている。
この固体撮像素子の製造方法によれば、化合物半導体膜と透光性電極層との間にバッファー層が形成されているので、透光性電極層の形成時における化合物半導体膜へのダメージが軽減され、該ダメージに起因するリーク電流を低減できるとしている。
【0004】
この他にも、特許文献2には、化合物半導体膜の端部が透光性電極層の端部よりも外方に位置するように、透光性電極層が形成されている光電変換装置が開示されている。特許文献2によれば、化合物半導体膜のパターニング時に、化合物半導体膜の端部にダメージや結晶欠陥が生じても、当該端部が透光性電極層の端部よりも外方に位置しているので、リーク電流を低減できるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2008/093834号パンフレット
【特許文献2】特開2007−123720号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の製造方法で得られた固体撮像素子は、順方向バイアス印加時のリーク電流の低減には有効だが、逆方向バイアス印加時のリーク電流(暗電流)を低減することが困難であるという課題がある。
また、特許文献1および特許文献2では、いずれも化合物半導体膜と透光性電極層との間に被覆性が優れた溶液成長法を用いて結晶性のCdS膜からなるバッファー層を形成している。ところが、CdS膜自体に結晶欠陥があると、該結晶欠陥部分においてリーク電流が発生するという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0008】
[適用例1]本適用例の光電変換装置は、基板上に形成された回路部と、前記回路部に電気的に接続された第1電極と、前記第1電極に対向配置された透光性を有する第2電極と、前記第1電極と前記第2電極との間に挟持された光電変換部とを備え、前記光電変換部は、カルコパイライト型のp型化合物半導体膜からなる光吸収層と、非晶質の酸化物半導体層と、n型半導体膜からなる窓層とが順に積層されたものであることを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、光吸収層であるp型化合物半導体膜とn型半導体膜との間にバンドギャップが光吸収層よりも大きい非晶質の酸化物半導体層を挟むことで、p型とn型の半導体膜の界面に電位障壁が設けられる。また、非晶質の酸化物半導体層は、受光時に抵抗値が変動するCdS膜に比べて高抵抗なバッファー層となるので、順方向バイアス印加時には酸化物半導体層へ電界を集中することができ、逆方向バイアス印加時にはリーク電流(暗電流)の要因となるドリフト電流(電子)などを低減できる。
さらに、結晶質のCdS膜に対して、酸化物半導体層は非晶質であるため、結晶欠陥が生じないので、確実に暗電流を低減できる。
【0010】
[適用例2]上記適用例の光電変換装置において、前記非晶質の酸化物半導体層は、第12族元素、第13族元素を含むことが好ましい。
これによれば、第12族元素、第13族元素を含む非晶質の酸化物半導体層は、バンドギャップが3ev以上となり、従来のCdS膜(バンドギャップが2.4ev)に比べて光吸収層への照射光損失を少なくすることができる。
【0011】
[適用例3]上記適用例の光電変換装置において、前記非晶質の酸化物半導体層は、In、Ga、Znを含むことが好ましい。
これによれば、3ev以上のバンドギャップを確かに実現できる。
【0012】
[適用例4]上記適用例の光電変換装置において、前記光電変換部は前記第1電極上においてパターニング形成され、パターニング後の前記光電変換部の側壁と、前記第2電極に対向する側の表面の外縁とを覆う絶縁膜を有していることが好ましい。
これによれば、光電変換部のパターニングによる側壁とその近傍におけるダメージに起因するリーク電流が低減される。
【0013】
[適用例5]上記適用例の光電変換装置において、前記n型半導体膜からなる前記窓層が前記第2電極を兼ねており、複数の前記第1電極に対して前記窓層が対向配置されているとしてもよい。
これによれば、光電変換装置の構成を簡略化して、コストパフォーマンスに優れた光電変換装置を提供できる。
【0014】
[適用例6]本適用例の電子機器は、上記適用例の光電変換装置を備えたことを特徴とする。
これによれば、逆方向バイアス印加時にも安定した光電変換特性が得られる光電変換装置を備えているので、光電変換部をフォトセンサーとして利用すれば、例えば優れた電気光学特性を有する光電変換装置(イメージセンサー)を備えた電子機器を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】(a)はイメージセンサーの電気的な構成を示す概略配線図、(b)は光電変換素子としてのフォトセンサーを示す等価回路図。
【図2】フォトセンサーの配置を示す概略平面図。
【図3】図2のA−A’線で切ったフォトセンサーの構造を示す概略断面図。
【図4】フォトダイオードの構成を示す模式図。
【図5】実施例と比較例のフォトダイオードを構成する半導体膜のエネルギーバンドラインアップを示すグラフ。
【図6】(a)は実施例のフォトダイオードのエネルギーバンド構造を示す模式図、(b)は比較例のフォトダイオードのエネルギーバンド構造を示す模式図。
【図7】(a)は生体認証装置を示す概略斜視図、(b)は生体認証装置の概略断面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を具体化した実施形態について図面に従って説明する。なお、使用する図面は、説明する部分が認識可能な状態となるように、適宜拡大または縮小して表示している。
【0017】
なお、以下の形態において、例えば「基板上に」と記載された場合、基板の上に接するように配置される場合、または基板の上に他の構成物を介して配置される場合、または基板の上に一部が接するように配置され、一部が他の構成物を介して配置される場合を表すものとする。
【0018】
本実施形態では、光電変換装置の例としてイメージセンサーを挙げ、電子機器の例としてこのイメージセンサーを適用した生体認証装置を例に挙げて説明する。
【0019】
<光電変換装置>
まず、本実施形態の光電変換装置としてのイメージセンサーについて、図1〜図3を参照して説明する。
【0020】
図1(a)はイメージセンサーの電気的な構成を示す概略配線図、同図(b)は光電変換素子としてのフォトセンサーを示す等価回路図である。図2はフォトセンサーの配置を示す概略平面図、図3は図2のA−A’線で切ったフォトセンサーの構造を示す概略断面図である。
【0021】
図1(a)に示すように、本実施形態の光電変換装置としてのイメージセンサー100は、素子領域Fにおいて互いに交差して延在する複数の走査線3aと複数のデータ線6とを有している。また、複数の走査線3aが電気的に接続された走査線回路102と、複数のデータ線6が電気的に接続されたデータ線回路101とを有している。そして、走査線3aとデータ線6の交差点付近に対応して設けられ、素子領域Fにおいてマトリックス状に配置された複数のフォトセンサー50とを有している。
【0022】
図1(b)に示すように、フォトセンサー50は、薄膜トランジスター(TFT)10と、フォトダイオード20と、保持容量30とを含んで構成されている。TFT10のゲート電極は走査線3aに接続され、TFT10のソース電極はデータ線6に接続されている。フォトダイオード20の一方はTFT10のドレイン電極に接続され、他方はデータ線6と並行して設けられた定電位線12に接続されている。保持容量30の一方の電極はTFT10のドレイン電極に接続され、他方の電極は走査線3aと並行して設けられた定電位線3bに接続されている。
【0023】
図2に示すように、フォトセンサー50は、走査線3aとデータ線6とによって平面的に区切られた領域に設けられた、ほぼ正方形の第1電極21およびコンタクトホールCNT1を有している。第1電極21は、コンタクトホールCNT1を介して前述したTFT10に接続されている。平面的にコンタクトホールCNT1を除く第1電極21と重なる部分に受光領域50aが設けられている。
【0024】
図3に示すように、フォトセンサー50は、例えば透明なガラスや不透明なシリコンなどの基板1上に形成されている。
基板1上には、基板1の表面を覆うように絶縁膜1aが形成され、絶縁膜1a上に例えば多結晶シリコンの半導体層2が島状に形成されている。半導体層2を覆って例えばSiO2(酸化シリコン)などの絶縁材料によってゲート絶縁膜3が形成されている。
ゲート絶縁膜3上において、半導体層2のチャネル領域2cに対向する位置にゲート電極3gが形成されている。ゲート電極3gは、図1に示した走査線3aに電気的に接続されており、例えばAl(アルミニウム)などの金属材料を用いて形成されている。
【0025】
ゲート電極3gおよびゲート絶縁膜3を覆って層間絶縁膜4が形成されている。半導体層2のドレイン領域2dと、ソース領域2sとを覆うゲート絶縁膜3および層間絶縁膜4の部分に貫通孔が形成される。これらの貫通孔を埋めると共に層間絶縁膜4を覆うように例えばAlなどの金属材料からなる導電膜が成膜され、当該導電膜をパターニングすることにより、コンタクトホールCNT2,CNT3、ドレイン電極5d、ソース電極5s、データ線6が形成される。ソース電極5sはコンタクトホールCNT2を介して半導体層2のソース領域2sに接続され、さらにデータ線6とも接続されている。ドレイン電極5dはコンタクトホールCNT3を介して半導体層2のドレイン領域2dに接続されている。
【0026】
ドレイン電極5d、ソース電極5s、データ線6および層間絶縁膜4を覆って絶縁膜7が形成され、さらに絶縁膜7を覆う平坦化層8が形成されている。平坦化層8は例えばSiO2(酸化シリコン)を用いて形成され、絶縁膜7はSiO2よりも緻密なSiN(窒化シリコン)を用いて形成されている。
絶縁膜7および平坦化層8のドレイン電極5dと重なる部分に貫通孔が形成され、当該貫通孔を覆うと共に、平坦化層8を覆うように、例えばMo(モリブデン)などの金属材料からなる導電膜が成膜され、これをパターニングすることにより、コンタクトホールCNT1と、第1電極21とが形成される。第1電極21はコンタクトホールCNT1を介してドレイン電極5dと電気的に接続される。
【0027】
第1電極21上には、光電変換部26がコンタクトホールCNT1を避けるようにパターニング形成され、光電変換部26の側壁および外縁部を覆うと共に、第1電極21および平坦化層8を覆う絶縁膜9が形成される。絶縁膜9は絶縁膜7と同じくSiN(窒化シリコン)を用いて形成されている。
【0028】
絶縁膜9の表面と、絶縁膜9によって覆われていない光電変換部26の表面と、を覆う第2電極22が形成されている。第2電極22は、透光性を有する例えばITO(Indium Tin Oxide)やIZO(Indium Zinc Oxide)などの導電膜からなり、図1(b)の定電位線12を兼ねるものである。
【0029】
第1電極21および第2電極22と、これらの電極間に挟まれた光電変換部26とによりフォトダイオード20が構成されており、絶縁膜9によって覆われていない光電変換部26の領域が受光領域50aとなっている。
【0030】
本実施形態において、基板1上に設けられた回路部とは、図1(a)および(b)に示した、走査線3a、データ線6、定電位線3b,12およびこれらの配線に接続したTFT10、保持容量30、ならびにデータ線回路101、走査線回路102を含むものである。なお、データ線6が接続されるデータ線回路101と、走査線3aが接続される走査線回路102とは、それぞれ集積回路として別途基板1に外付けすることも可能である。
【0031】
このようなイメージセンサー100によれば、定電位線3b,12によってフォトダイオード20に逆方向バイアスを印加した状態で、フォトダイオード20に光が入射すると、フォトダイオード20に光電流が流れ、それに応じた電荷が保持容量30に蓄積される。
【0032】
また、複数の走査線3aのそれぞれによって複数のTFT10をON(選択)させることで、データ線6には、各フォトセンサー50が備える保持容量30に蓄積された電荷に対応する信号が順次出力される。したがって、素子領域Fにおいてそれぞれのフォトセンサー50が受光した光の強度をそれぞれ検出することができる。
【0033】
発明者らは、このようなイメージセンサー100を後述する電子機器としての生体認証装置に適用することを考慮して、近赤外光を高感度に検出可能であると共に、高い信頼性を有する光電変換素子としてのフォトダイオード20を開発した。
【0034】
次に、図4〜図6を参照してフォトダイオード20の実施例について、詳しく説明する。図4はフォトダイオードの構成を示す模式図、図5は実施例と比較例のフォトダイオードを構成する半導体膜のエネルギーバンドラインアップを示すグラフ、図6(a)は実施例のフォトダイオードのエネルギーバンド構造を示す模式図、同図(b)は比較例のフォトダイオードのエネルギーバンド構造を示す模式図である。
【0035】
図4に示すように、本実施形態におけるフォトダイオード20は、第1電極21と透光性を有する第2電極22との間に光電変換部26を有している。光電変換部26は、第1電極21上に順次積層形成されたp型化合物半導体膜からなる光吸収層23と、非晶質の酸化物半導体層24と、n型半導体膜からなる窓層25とを有している。
【0036】
(実施例)
第1電極21は、例えばMo(モリブデン)、Nb(ニオブ)、Ta(タンタル)、W(タングステン)などの金属材料を用いて、スパッタリング法で形成することができる。実施例では、Mo(モリブデン)を用い、厚みはおよそ400nmとした。
【0037】
光吸収層23として機能するp型化合物半導体膜としては、カルコパイライト構造のCIS系(CuInSe2、CuInGaSe、など)薄膜を用いることができる。同じくスパッタリング法を用いて形成することができ、実施例では、CuInSe2膜を用い、厚みはおよそ1.5μm(1500nm)とした。
光吸収層23として機能するCIS系薄膜の組成を、Cu(Inx,Ga1-x)Se2(0≦x≦1)とすると、Cu(InGa)Se2からCuInSe2まで変化させることにより、高感度で受光可能な光の波長域を近赤外光の波長であるおよそ1300nmまで拡張することができる。
【0038】
非晶質の酸化物半導体層24としては、国際純正応用化学連合(IUPAC;International Union of Pure and Applied Chemistry)により定められた第12族元素、第13族元素を含むものが好ましく、実施例では、a(アモルファス)−IGZO(InGaZnO)を用いた。同じくスパッタリング法を用いて形成することができ、後述する適正な電位障壁としての機能が得られる電気的な抵抗に対して、厚みを50nmよりも薄くすると抵抗が低下すると共に、成膜時のバラツキがフォトダイオード20の特性に大きく影響し、500nmよりも厚くすると抵抗が高くなり過ぎることが判明した。すなわち、厚みは50nm〜500nmとすることが望ましい。
【0039】
窓層25として機能するn型半導体膜としては、例えば、ノンドープのi−ZnO(酸化亜鉛)膜と、n型不純物がドープされたZnO(n+)膜とをスパッタリング法で連続的に成膜することで形成することができる。実施例では、i−ZnO(酸化亜鉛)膜の厚みをおよそ60nmとし、ZnO(n+)膜の厚みをおよそ1000nmとした。
【0040】
第2電極22は、前述したように例えばITOやIZOなどの透明導電膜からなり、真空蒸着法やスパッタリング法を用いて形成することができる。実施例では、ITOを用い、厚みをおよそ100nmとした。
【0041】
なお、n型不純物がドープされたZnO(n+)膜の厚みをおよそ500nmとして低抵抗化することや、Al(アルミニウム)をドープしたAZO膜を用いることで、第2電極22の機能を兼ねることができる。つまり、第2電極22を削除することが可能である。
【0042】
(比較例)
比較例のフォトダイオードは、実施例のフォトダイオード20に対して、非晶質の酸化物半導体層24の代わりに、特許文献1の固体撮像素子におけるバッファー層に用いられたCdS膜を用いた。膜厚は、およそ50nmである。他の第1電極21、光吸収層23、窓層25、第2電極22の構成は、実施例と同じである。
【0043】
図5には、上記実施例と上記比較例とに用いられた各種の半導体膜のエネルギーバンドラインアップが示されている。電子親和力を示す伝導帯下端(CBM;Conduction Band Minimum)のエネルギー準位と価電子帯上端(VBM;Valence Band Maximum)との間のバンドギャップEg(禁制帯の幅)は、ZnO膜が3.3ev、a−IGZO膜が3.0ev、CdS膜が2.4ev、CuInSe2膜が1.0evとなっている。
【0044】
つまり、上記実施例および上記比較例において、第1電極21と第2電極22との間に順方向バイアスが印加された状態では、ZnO膜側から注入された電子は、より電子親和力が高い(伝導帯下端(CBM)のエネルギー準位が低い)CIS膜に移って(流れて)ゆくことになる。
【0045】
図6(a)に示すように、実施例のフォトダイオード20は、光吸収層23を構成するp型化合物半導体膜としてのCIS膜と、非晶質の酸化物半導体層24としてのa−IGZO膜との間に電位障壁(伝導帯オフセット(CBO;Conduction Band Offset))を有している。その大きさΔEcは、a−IGZO膜の伝導帯下端(CBM)のエネルギー準位(−4.3ev)と、CIS膜の伝導帯下端(CBM)のエネルギー準位(−4.7ev)との差、0.4evである。
これに対して、比較例のフォトダイオードにおけるCIS膜と、CdS膜との間の電位障壁の大きさΔEcは、CdS膜の伝導帯下端(CBM)のエネルギー準位(−4.5ev)と、CIS膜の伝導帯下端(CBM)のエネルギー準位(−4.7ev)との差、0.2evである。
したがって、実施例のフォトダイオード20における電位障壁の方が比較例よりも高い。それゆえに、実施例のほうが比較例に比べて、第1電極21と第2電極22との間に逆方向バイアスを印加して、光吸収層23であるp型化合物半導体膜(CIS膜)側から電子を注入しようとしても、電子は窓層25であるn型半導体膜(ZnO膜)に流れ難い。すなわち、逆方向バイアス印加時のリーク電流(暗電流)の要因となるドリフト電流(電子)を低減できる。
【0046】
以上に述べた前記実施形態によれば、以下の効果が得られる。
【0047】
(1)光電変換装置としてのイメージセンサー100は、光吸収層23であるp型化合物半導体膜とn型半導体膜との間にバンドギャップが光吸収層23よりも大きい非晶質の酸化物半導体層24を挟むことで、p型とn型の半導体膜の界面に電位障壁が設けられる。また、受光時に抵抗値が変動するCdS膜に比べて、高抵抗な酸化物半導体層24に電界が集中することで、その他の層(光吸収層23の表面層やPN接合部)での電界が緩和されることになり、当該他の層中の欠陥等を介した再結合が緩和される。それゆえに、近赤外光に対して高感度であると共に、第1電極21と第2電極22とに間における逆方向バイアス印加時においてリーク電流(暗電流)が低減されたフォトダイオード20を有するフォトセンサー50が実現されている。よって、近赤外光に対して安定した光検出状態が得られるイメージセンサー100を提供できる。
(2)光吸収層23と窓層25との間に設けられた酸化物半導体層24は非晶質であり、比較例のように結晶性のCdS膜を採用する場合に比べて、結晶欠陥が生じないので、結晶欠陥に起因するリーク電流を防止することができる。
(3)非晶質の酸化物半導体層24がa−IGZO膜を用いて形成され、第12族元素であるZnと、第13族元素であるGa、Inを含んでおり、3.0ev以上のバンドギャップEgが実現されている。比較例のCdS膜(バンドギャップEgが2.4ev)に比べて、ワイドバンドギャップとなっているので、光吸収層23への照射光損失を少なくすることができる。
(4)平面的にコンタクトホールCNT1を避けてパターニングされた光電変換部26は、その側壁と外縁部とを絶縁膜9によって被覆されているので、上記パターニングにおける上記側壁とその近傍のダメージに起因するリーク電流が低減される。
【0048】
<生体認証装置>
次に、本実施形態の電子機器としての生体認証装置について図7を参照して説明する。図7(a)は生体認証装置を示す概略斜視図、同図(b)は概略断面図である。
【0049】
図7(a)および(b)に示すように、本実施形態の電子機器としての生体認証装置500は、指の静脈パターンを光検出(撮像)して、予め登録された個人ごとの静脈パターンと比較することで、生体認証装置500にかざされた指を持つ個人を特定して認証する装置である。
具体的には、かざされた指を所定の場所に配置する溝を有した被写体受け部502と、上記実施形態の光電変換装置としてのイメージセンサー100が取り付けられた撮像部504と、被写体受け部502と撮像部504との間に配置されたマイクロレンズアレイ503と、を備えている。
被写体受け部502には、溝に沿って両側に複数配置された光源501が内蔵されている。光源501は、外光に影響されずに静脈パターンを撮像するため、可視光以外の近赤外光を射出する例えば発光ダイオード(LED)やEL素子などが用いられている。
【0050】
光源501によって指の中の静脈パターンが照明され、その映像光がマイクロレンズアレイ503に設けられたマイクロレンズ503aによってイメージセンサー100に向けて集光される。マイクロレンズ503aは、イメージセンサー100のフォトセンサー50ごとに対応して設けてもよいし、複数のフォトセンサー50と対となるように設けてもよい。
【0051】
なお、光源501を内蔵した被写体受け部502とマイクロレンズアレイ503との間に、複数の光源501による照明光の輝度ムラを補正する光学補償板を設けてもよい。
【0052】
このような生体認証装置500によれば、近赤外光を高感度に受光して、照明された静脈パターンを映像パターンとして高感度に出力可能なイメージセンサー100を備えているので、確実に生体(人体)を認証することができる。
【0053】
上記実施形態以外にも様々な変形例が考えられる。以下、変形例を挙げて説明する。
【0054】
(変形例1)上記実施形態のイメージセンサー100において、フォトセンサー50の電気的な構成とその接続は、これに限定されない。例えば、フォトダイオード20からの電気的な出力をTFT10のゲート電極3gに接続して、ソース電極5sとドレイン電極5dとの間の電圧や電流の変化として受光を検出するとしてもよい。
【0055】
(変形例2)上記実施形態のフォトセンサー50における受光領域50aの平面的な形状は、これに限定されない。例えば、円形や楕円形、三角形、四角形、五角形などの多角形でもよい。
【0056】
(変形例3)上記実施形態のイメージセンサー100が搭載される電子機器は、生体認証装置500に限定されない。例えば、指紋や眼球の虹彩を撮像する固体撮像装置にも適用することができる。また、光電変換部26の構成は、太陽電池にも適用可能である。
【符号の説明】
【0057】
1…基板、9…絶縁膜、20…光電変換素子としてのフォトダイオード、21…第1電極、22…第2電極、23…光吸収層、24…非晶質の酸化物半導体層、25…窓層、26…光電変換部、50…フォトセンサー、100…光電変換装置としてのイメージセンサー、500…電子機器としての生体認証装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に形成された回路部と、
前記回路部に電気的に接続された第1電極と、
前記第1電極に対向配置された透光性を有する第2電極と、
前記第1電極と前記第2電極との間に挟持された光電変換部とを備え、
前記光電変換部は、カルコパイライト型のp型化合物半導体膜からなる光吸収層と、非晶質の酸化物半導体層と、n型半導体膜からなる窓層とが順に積層されたものであることを特徴とする光電変換装置。
【請求項2】
前記非晶質の酸化物半導体層は、第12族元素、第13族元素を含むことを特徴とする請求項1に記載の光電変換装置。
【請求項3】
前記非晶質の酸化物半導体層は、In、Ga、Znを含むことを特徴とする請求項2に記載の光電変換装置。
【請求項4】
前記光電変換部は前記第1電極上においてパターニング形成され、該パターニング後の前記光電変換部の側壁と、前記第2電極に対向する側の表面の外縁とを覆う絶縁膜を有していることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の光電変換装置。
【請求項5】
前記n型半導体膜からなる前記窓層が前記第2電極を兼ねており、
複数の前記第1電極に前記窓層が対向配置されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の光電変換装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の光電変換装置を備えたことを特徴とする電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−169517(P2012−169517A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−30535(P2011−30535)
【出願日】平成23年2月16日(2011.2.16)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】