説明

光電子分光分析法

【課題】スペース部の底面からの脱出電子を遮断してライン部の分析が可能な光電子分光分析法を提供する。
【解決手段】 L/Sパターンのライン部12の延在方向に直交する方向に沿った断面において、特定のライン部12の側面2の基板10表面での位置から特定のライン部12に隣接する他のライン部の側面2に対向する側面の上面6の位置を結ぶ線が底面4となす第1角度を算出し、断面において、底面4から第1角度より小さく、0度より大きい第1検出角を設定し、断面に投影した角度の余角が第1検出角度となり、検出領域の側面2側の一端から他端までの通過距離が、基板10中での光電子の非弾性平均自由行程で規定される脱出深度より小さくなる第2角度を算出し、第2角度を底面4に投影した角度の余角を第2検出角と決定する。L/Sパターンはスペース部14を挟んで、脱出深度より小さい幅のライン部12を一定の間隔で配列している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光電子分光分析法に関し、特にラインアンドスペースパターンのライン部側面の光電子分光分析法に関する。
【背景技術】
【0002】
光電子分光は表面近傍の元素濃度、元素結合状態等を非破壊で検出可能な分析方法であり、代表的な表面分析法として広く用いられている。局所的な表面分析方法はあらゆる分野で重要である。特に、素子サイズがナノ領域に達しようとしているシリコン(Si)半導体装置の開発ではナノレベルの元素濃度、元素結合状態を分析する方法が望まれている。Si半導体装置の開発では、さらに新構造が導入されており、特定パターンの特定部位の分析方法が必要とされている。
【0003】
例えば、通常の平面型の電界効果トランジスタ(FET)では基板表面にゲート絶縁膜が形成される。そのため、素子と同等のゲート絶縁膜を大面積に形成することで実際の素子のゲート絶縁膜の評価に代えることができる。しかし、フィン型電界効果トランジスタ(Fin−FET)では、チャネルとなるフィン状の半導体膜の側面にゲート絶縁膜が形成される。例えば、反応性イオンエッチング(RIE)、ダウンフローガスエッチング等により、半導体層を選択的に除去してラインアンドスペース(L/S)パターンが形成される。L/Sパターンのライン部がフィン状の半導体膜となる。L/Sパターン形成後のライン部の側面の状態、あるいは、ライン部側面に形成されたゲート絶縁膜の状態は、Fin−FETの性能に影響を与える。特に、加工された半導体膜の側面は、平面型FETにおける表面とは異なる状態であるので、加工した半導体膜そのものの側面を分析する必要がある。
【0004】
通常の光電子分光法では、1μm以下の微小領域を測定することは空間分解能、信号量の点で困難である。Fin−FETのチャネルの側面の分析に光電子分光を適用する場合、ライン部の高さは典型的に約100nmである。したがって、通常の光電子分光法では測定がほとんど不可能である。
【0005】
しかし、単一のライン部では測定はほとんど不可能であるが、複数のライン部を配列した構造を用いて測定を行うことで、特定部位の集合に対する選択的な分析が可能となる場合がある。例えば、複数のライン部を等間隔に配置したL/Sパターンの構造を利用した幾何学的なシャドーイングにより、特定の角度方位の光電子を検出する角度分解型光電子分光法が提案されている(例えば、非特許文献1参照。)。角度分解型光電子分光においては、スペース部の表面からの光電子を遮断し、ライン部の側面及び上面からの光電子を選択的に測定することが可能である。この場合でも、ライン幅が脱出深度を下回ると、スペース部表面から脱出した光電子は完全には遮断することができない。そのため、ライン部を透過したスペース部の表面からの脱出電子が検出されてしまうため、ライン部の選択的な検出がもはやできない。
【0006】
また、Fin−FETのゲート絶縁膜はライン部の側面に形成されるため、側面のみを選択的に分析することが望ましい。そのためには、ライン幅をできるだけ狭くして、ライン部の上面の側面に対する割合を減らす必要がある。しかしながら、ライン幅が約10nm以下に加工されたライン部では、スペース部表面からの脱出電子を遮断することは困難である。更に、ライン部の側面に形成されたゲート絶縁膜等の薄膜を分析する場合、スペース部表面からライン部を透過してくる脱出電子だけでなく、ライン部の半導体膜からの脱出電子も検出されるという新たな問題が生じる。
【0007】
このように、光電子の脱出深度以下のL/Sパターンのライン部側面、またはライン部側面に形成された薄膜の選択的な光電子分光を測定するために、光電子の検出角度方位をシャドーイング条件にしても、分析対象部分を光電子が透過して遮断効果がなくなる問題がある。
【非特許文献1】ジャーナル・オブ・バキューム・サイエンス・テクノロジ(J. Vac. Sci. Technol.)、1994年、第B13巻、第2号、p.214
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、ラインアンドスペースパターンのスペース部の底面からの脱出電子を遮断してライン部の分析が可能な光電子分光分析法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の態様によれば、(イ)基板表面に配置されたラインアンドスペースパターンの特定のライン部の一側面を含む検出領域を測定対象とする光電子分光分析法であって、(ロ)ライン部の延在方向に直交する方向に沿った断面において、特定のライン部の一側面の基板表面での位置から特定のライン部に隣接する他のライン部の一側面に対向する側面の上面の位置を結ぶ線が基板表面となす第1角度を算出するステップと、(ハ)断面において、基板表面から第1角度より小さく、0度より大きい第1検出角度を設定するステップと、(ニ)断面に投影した角度の余角が第1検出角度となり、検出領域の一側面側の一端から他端までの通過距離が、脱出深度より小さくなる第2角度を算出するステップと、(ホ)第2角度を基板表面に投影した角度の余角を第2検出角度と決定するステップとを含み、(ヘ)ラインアンドスペースパターンはスペース部を挟んで、基板中での光電子の非弾性平均自由行程で規定される脱出深度より小さい幅のライン部を一定の間隔で配列した光電子分光分析法が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ラインアンドスペースパターンのスペース部の底面からの脱出電子を遮断してライン部の分析が可能な光電子分光分析法を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下図面を参照して、本発明の形態について説明する。以下の図面の記載において、同一または類似の部分には同一または類似の符号が付してある。但し、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各層の厚みの比率等は現実のものとは異なることに留意すべきである。したがって、具体的な厚みや寸法は以下の説明を参酌して判断すべきものである。また図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。
【0012】
本発明の実施の形態に係る光電子分析装置は、図1に示すように、試料台50、ビームソース52、及び検出器54を備える。試料台50は、測定対象物である基板10を保持する。例えば、試料台50は、試料台50の表面に平行な面にX軸及びY軸、垂直な方向にZ軸をとる直交座標系において、X軸及びZ軸のまわりの回転Rx、Rzが可能である。
【0013】
ビームソース52は、基板10の表面近傍に入射して光電子を生成するビーム(光)を供給する。ビームとして、アルミニウム(Al)やマグネシウム(Mg)等のKα線等のエックス(X)線が用いられる。検出器54は、ビームの入射により試料台50上の基板10から放出された光電子を検出する。検出器54には、基板10から放出された光電子の検出方向を調整可能な回転機構(図示省略)を備える。
【0014】
図2は、光電効果を説明するエネルギー図である。光電子分光法では、光を測定対象物に照射して構成元素固有の結合エネルギーを反映した光電子の運動エネルギー分布を測定する。図2に示すように、照射する光子のエネルギーをhν、測定対象物のフェルミ準位から電子の準位までの結合エネルギーEB、運動エネルギーEK、測定対象物の真空準位から真空準位までの表面の仕事関数をφsとして、

hν = EB + EK + Φs (1)

の関係がある。測定対象物内の電子が、光子のエネルギーhνから結合エネルギーEBと仕事関数Φsを失って、運動エネルギーEKで真空準位より高い準位にたたき上げられ、測定対象物表面から放出される。測定対象物内の電子状態密度を反映した光電子の運動エネルギー分布が得られるため、構成元素および構成元素の結合の情報を得ることができる。
【0015】
運動エネルギーEKを有する光電子が物質中を距離zだけ進むとき、非弾性散乱により電子数N0が電子数Nに指数関数的に減少する。
【0016】

N = N0・exp[-z / λ (EK)] (2)

λ(EK)は、電子の非弾性平均自由行程(IMFP)であり、物質中で電子が非弾性散乱される距離の目安として電子強度が1/eになる距離で定義される。
【0017】
光電子の非弾性平均自由行程λ(EK)は、典型的な光電子分光分析の測定エネルギーで約1nmである。例えば、z=5・λ(EK)ではN0/Nは約0.7%となる。ここで、非弾性平均自由行程λ(EK)の約5倍の距離を、脱出深度Y(EK)と定義する。即ち、測定対象物内で、脱出深度Y(EK)より深い位置からの光電子は、ほとんど検出されない。
【0018】
本発明の実施の形態に係る測定対象物は、図3及び図4に示すように、シリコン(Si)半導体基板等の基板10の表面に配置されたラインアンドスペース(L/S)パターンである。L/Sパターンは、幅(スペース幅)Wsのスペース部14を挟んで、基板10中での光電子の非弾性平均自由行程で規定される脱出深度より小さい幅(ライン幅)Wlのライン部12を一定の間隔で配列したパターンである。ライン部12の高さ(ライン高さ)はHである。ライン幅Wl、スペース幅Ws、及びライン高さHは、走査電子顕微鏡(SEM)、透過電子顕微鏡(TEM)、走査透過電子顕微鏡(STEM)等により約1nm以下の精度で測定することができる。
【0019】
なお、L/Sパターンの断面形状を矩形としているが、実際は加工精度などによりテーパー状や逆テーパー状となる場合もある。この場合、ライン幅Wl、及びライン高さHは、ライン部の形状を矩形で近似した寸法を用いればよい。
【0020】
L/Sパターンの幾何学的な構造を利用して、特定の部位からの光電子のみを検出することができる。ライン部12の延在方向に直交する方向に沿った断面において、特定のライン部12の一側面2の基板10の表面(底面)4での位置から特定のライン部12に隣接する他のライン部12の一側面2に対向する側面の上面6の位置を結ぶ線が、底面4となす角度を第1角度θ0とする。第1角度θ0は、

θ0 = tan-1(H/Ws) (3)

と表せる。
【0021】
例えば、図1に示したY軸の方向にライン部12の延在方向をとる。X軸の回転Rxにより、L/SパターンをX軸に沿った断面内で光電子の検出方向の第1検出角度(チルト角)θを変化させる。チルト角θを、

θ ≦ θ0 (4)

とすれば、検出器54から底面4がライン部12の陰になり遮断される。ここで式(4)の条件をシャドーイング条件と定義する。
【0022】
図5に示すように、非弾性平均自由行程λ(EK)は、運動エネルギーEKが約10eV〜約104eVの範囲で約10nm以下である。ライン部12の幅Wlが50nm以上の場合、シャドーイング条件では上面6と側面2からの光電子のみを検出可能になる。底面4と脱出光電子のなす角を脱出角(第2角度)と定義する。なお、底面4からみた脱出角はθであり、ライン部12の側面2からみた脱出角は(π/2−θ)になる。
【0023】
チルト角θを小さくすれば、側面2の上面側と上面6の検出領域からの光電子が検出される。このように、チルト角θを変化させた検出領域間のスペクトルの差を利用して側面2の上側及び下側からの光電子寄与を分離して算出することができる。上面6からの光電子を減らしライン部12の側面2からの光電子を選択的に検出するためにはシャドーイングの条件を保ちつつ上面6に比して側面2の見込み検出領域をより大きくすればよい。見込みの検出領域はライン幅Wlとスペース幅Wsの比に比例する。したがって、側面2を選択的に分析するためには、上面6の幅、つまりライン幅Wlを狭くすればよい。特に、側面全面を分析する場合には、

θ = tan-1(H/Ws) (5)

のシャドーイング条件でライン幅Wlを狭くすればよい。
【0024】
シャドーイング条件において、測定対象物の検出領域を通過する光電子の脱出角は(π/2−θ)である。検出領域がライン部12の半導体膜の場合、検出方向からの見込みの通過距離dは、

0=Wl/sin(π/2-θ)=Wl/cos(θ), (0<θ<π/2) (6)

となる。
【0025】
通過距離d0に比べ脱出深度Y(EK)が大きい場合には、底面4からの脱出光電子がライン部12を透過して検出されてしまう。特に、ライン幅Wlが約50nm以下になると、図5に示したように、底面4からの脱出光電子はライン部12を透過できるようになる。
【0026】
底面4からの脱出光電子がライン部12を透過して検出される問題を回避するためには、シャドーイング条件を保ちつつ、脱出深度Y(EK)と通過距離dとの関係が

Y(EK)<d (7)

の条件を満たすように側面2からの脱出角αを小さくすればよい。脱出角αでの通過距離dは

d=Wl/sinα (8)

となる。
【0027】
シャドーイングする条件を保つために、チルト角θは一定に保つ必要がある。よって、側面2からの脱出角αを変化させるには、図6に示すように、第2検出角度(アジマス角)φをチルト角θと独立に変化させることが必要となる。ここで、アジマス角φは、脱出角を基板10の表面に投影した角度の余角である。脱出角α、チルト角θ、及びアジマス角φの関係は、

sinα=cosφ・cosθ, (0<θ<π/2, 0<φ<π/2) (9)

α=sin-1(cosφ・cosθ) (10)

となる。したがって、脱出角αの変化可能な範囲は、

0 < α < π/2 − θ (11)

となる。
【0028】
図7は、チルト角θが45°の場合のアジマス角φと脱出角αの関係を示している。図7に示すように、アジマス角φを0°から90°の範囲で変化させることで、脱出角αを0°から45°の間で変化可能である。
【0029】
例えば、図1に示したように、試料台50の回転機構を用いて、回転Rxでチルト角θを、回転Rzでアジマス角φをそれぞれ独立に制御する。このように、式(4)及び式(7)を満たすようにチルト角θ及びアジマス角φを決定することで、底面4からライン部12を透過する光電子を遮断することが可能である。なお、試料台50を固定し検出器54を回転させることによりチルト角θ及びアジマス角φを独立に制御してもよい。また、チルト角θ及びアジマス角φのうちの一方を試料台50側で制御し、他方を検出器54で制御してもよい。
【0030】
測定対象物の検出領域が、図8に示すように、ライン部12aのライン状の半導体膜11の側面に形成された絶縁膜16である場合は、式(6)の代わりに、

0=Wt/sin(π/2-θ)=Wt/cos(θ), (0<θ<π/2) (12)

とすればよい。ここで、Wtは絶縁膜16の厚さである。この場合、底面4と半導体膜11からの脱出光電子が、透過成分となる。
【0031】
なお、ライン幅Wlは、約50nm以上でもよい。しかし、側面2を含む絶縁膜16の脱出光電子の信号のみを選択的に得たい場合には、ライン幅Wlはより小さいほうが望ましい。
【0032】
光電子分光分析測定では、信号量の確保のため光電子の取り込み角度は約5°の大きさが必要である。さらに、角度制御性、角度分解の精度を1°とすると、チルト角θは、

θ ≧ 5°±1° (13)

が望ましい。ライン高さHに対するライン幅Wlの比は、L/Sパターン形成の加工精度と安定性を考慮すると、

1000・Wl > H (14)

が望ましい。
【0033】
また、ライン高さHに対するスペース幅Wsの比は、式(13)から、

H/Ws ≧ tan(5°) 〜 0.087 〜 1/10 (15)

である。上述したように、上面6からの光電子を減らしライン部12の側面2からの光電子を選択的に検出するためには、ライン幅Wlをスペース幅Wsに比べて狭くすればよい。
【0034】

Wl < Ws (16)

式(14)〜(16)より、スペース幅Wsに対するライン幅Wlの比、及びライン高さHに対するライン幅Wlの比は、それぞれ

0.0001 < Wl/Ws < 1 (17)

0.001 < Wl/H < 10 (18)

が望ましい。例えば、ライン幅Wlが約10nmの場合、ライン高さHは約1nm〜10μmの範囲で、スペース幅Wsは約10nm〜100μmの範囲が望ましい。
【0035】
また、チルト角θと同様にアジマス角φも角度が90°近傍で取り込み角度の確保と角度精度を考慮して、

φ ≦ 85°±1° (19)

が望ましい。
【0036】
本発明の実施の形態に係る光電子分光分析では、見込みの脱出深度を変化させている。したがって、脱出深度を変化させて分析を行うことにより、深さ方向の分析を行うことができる。つまり、透過距離d以下の脱出深度内でアジマス角φを変化させることでライン部12内の元素分布について深さ分析を行うことができる。
【0037】
また、本発明の実施の形態に係る光電子分光分析により、ライン部12に対して底面4からの透過電子が判定できる場合、検出条件を変化させて測定することによりライン幅Wl、ライン部12内部の元素及び結合状態の分布を分析することが可能である。更に、図8に示したライン部12aの場合、半導体膜11と半導体膜11側壁に形成された絶縁膜16からの透過光電子を測定することで絶縁膜16の厚さWt、絶縁膜16内部の元素及び結合状態の分布を分析することが可能である。
【0038】
このように、本発明の実施の形態に係る光電子分光分析によれば、L/Sパターンのスペース部14の底面4からの脱出電子を遮断してライン部12の分析が可能となる。
【0039】
次に、本発明の実施の形態に係る光電子分光分析法を、図8に示すフローチャートを用いて説明する。測定対象物は、図3及び図4に示したL/Sパターンである。第1検出角度θ及び第2検出角度φは、図10に示すように、第1検出角度θを分光器の回転Raで、第2検出角度φを試料台50の回転Rzでそれぞれ独立に設定する。
【0040】
(イ)ステップS100で、スペース部14を挟んで、ライン部12を一定の間隔で基板表面に配列したL/Sパターンを準備する。
【0041】
(ロ)ステップS101で、L/Sパターンのライン部12の幅Wl及び高さH、並びにスペース部14の幅Ws等の形状測定データがあるか判定する。形状測定データが未測定の場合は、ステップS102で、SEM、TEM、STEM等により、形状の計測を実施する。
【0042】
(ハ)ステップS103で、ライン部12の延在方向に直交する方向に沿った断面において、シャドーイング条件を算出する。シャドーイング条件として、特定のライン部12の側面2の底面4での位置から特定のライン部12に隣接する他のライン部12の側面2に対向する側面の上面6の位置を結ぶ線が基板表面となす第1角度が算出される。
【0043】
(ニ)ステップS104で、検出器54の回転Raにより、第1検出角θに設定する。、第1検出角θは、ライン部12の延在方向に直交する方向に沿った断面において、基板10表面から第1角度より小さく、0度より大きい。
【0044】
(ホ)ステップS105で、脱出深度が既知であるか判定する。脱出深度は、基板10中での光電子の非弾性平均自由行程で規定される。
【0045】
(ヘ)脱出深度が既知であれば、ステップS106で、第2角度を算出する。第2角度は、ライン部12の延在方向に直交する方向に沿った断面に投影した角度の余角が第1検出角θとなり、検出領域の側面2側の一端から他端までの通過距離が、脱出深度より小さくなる角度である。
【0046】
(ト)ステップS107で、第2角度を基板10表面に投影した角度の余角を第2検出角φと決定する。ステップS110で、試料台50の回転Rzにより、第2検出角φに設定して、光電子分光分析を実施する。
【0047】
(チ)脱出深度が既知でない場合、ステップS108で、第1検出角θを保持して
試料台50の回転Rzにより、第2検出角φを設定する。ステップS109で、検出器54にて、底面4からの透過電子が検出されるか判定する。検出された場合は第2検出角φを再設定する。検出されなければ、ステップS107で、第2検出角φを決定する。
【0048】
本発明の実施の形態に係る光電子分光分析法によれば、L/Sパターンのスペース部14の底面4からの脱出電子を遮断してライン部12の分析が可能となる。
【0049】
(その他の実施の形態)
上記のように、本発明の実施の形態を記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者にはさまざまな代替実施の形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。
【0050】
本発明の実施の形態においては、ビームソース52のビームとして、X線を用いている。しかし、ビームは、X線に限定されず、紫外線(UV)、シンクロトロン放射光等を用いてもよい。特に、シンクロトロン放射光では、光子のエネルギーhνを約1eVから約100keVの範囲で変化させることができる。低エネルギー、例えば光電子の運動エネルギーが約100eVとなる光子を用いれば、脱出深度を浅くすることが可能である。
【0051】
通常、光電子分光の測定では複数の結合エネルギー領域で測定を行う。シンクロトロン放射光では、入射光のエネルギーを変化させることができる。したがって、複数の結合エネルギー領域の測定に対応できる。このように、本発明の実施の形態に係る光電子分光の測定にシンクロトロン放射光を用いれば、L/Sパターンのスペース部14の底面4からの脱出電子をより効果的に遮断してライン部12の分析が可能となる。
【0052】
このように、本発明はここでは記載していないさまざまな実施の形態等を含むことは勿論である。したがって、本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係わる発明特定事項によってのみ定められるものである。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の実施の形態に係る光電子分光分析装置の一例を示す図である。
【図2】光電効果の説明に用いる図である。
【図3】本発明の実施の形態に係るラインアンドスペースパターンの一例を示す平面概略図である。
【図4】図3に示したラインアンドスペースパターンのA−A断面を示す概略図である。
【図5】本発明の実施の形態の説明に用いる非弾性平均自由行程と運動エネルギーの関係の一例を示す図である。
【図6】本発明の実施の形態に係る角度を説明する図である。
【図7】本発明の実施の形態の説明に用いる脱出角とアジマス角の関係の一例を示す図である。
【図8】本発明の実施の形態に係るラインアンドスペースパターンの他の例を示す平面概略図である。
【図9】本発明の実施の形態に係る光電子分光分析法の一例を示すフローチャートである。
【図10】本発明の実施の形態に係る光電子分光分析法の説明に用いる光電子分光分析装置の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0054】
2…側面
4…底面
6…上面
10…基板
11…半導体膜
12…ライン部
14…スペース部
16…絶縁膜
50…試料台
52…ビームソース
54…検出器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板表面に配置されたラインアンドスペースパターンの特定のライン部の一側面を含む検出領域を測定対象とする光電子分光分析法であって、
前記ライン部の延在方向に直交する方向に沿った断面において、前記特定のライン部の前記一側面の前記基板表面での位置から前記特定のライン部に隣接する他のライン部の前記一側面に対向する側面の上面の位置を結ぶ線が前記基板表面となす第1角度を算出するステップと、
前記断面において、前記基板表面から前記第1角度より小さく、0度より大きい第1検出角を設定するステップと、
前記断面に投影した角度の余角が前記第1検出角度となり、前記検出領域の前記一側面側の一端から他端までの通過距離が、前記基板中での光電子の非弾性平均自由行程で規定される脱出深度より小さくなる第2角度を算出するステップと、
前記第2角度を前記基板表面に投影した角度の余角を第2検出角と決定するステップ
とを含み、前記ラインアンドスペースパターンはスペース部を挟んで、前記脱出深度より小さい幅の前記ライン部を一定の間隔で配列したことを特徴とする光電子分光分析法。
【請求項2】
前記検出領域が、前記ライン部を形成する半導体膜であることを特徴とする請求項1に記載の光電子分光分析法。
【請求項3】
前記ライン部がライン状の半導体膜及び前記半導体膜の側面に形成された絶縁膜を有し、前記検出領域が前記絶縁膜であることを特徴とする請求項1に記載の光電子分光分析法。
【請求項4】
前記直交する方向において、前記スペース部の幅に対する前記ライン部の幅の比が0.0001より大きく、1より小さいことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の光電子分光分析法。
【請求項5】
前記直交する方向において、前記ライン部の高さに対する前記ライン部の幅の比が0.001より大きく、10より小さいことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の光電子分光分析法。
【請求項6】
前記光電子が、エックス線により発生させられることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の光電子分光分析法。
【請求項7】
前記光電子が、シンクロトロン放射光により発生させられることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の光電子分光分析法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2008−241458(P2008−241458A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−82344(P2007−82344)
【出願日】平成19年3月27日(2007.3.27)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】